説明

カプラ脱着機構

【課題】スリーブの解除操作を簡便なものとし、ガスボンベの交換作業を速やかに、かつ容易に行い得るようにすること。
【解決手段】スリーブ4をハウジング3に対してスライドさせて、ロック及び解除を行うソケット1を用いたカプラ脱着機構であって、このスリーブ4の段差部8に当接部材9の押し部10を当接させる。この当接部材9にはガスボンベBの把持部H近傍に至る延長部材11が設けられ、この延長部材11の操作によって、スリーブ4のスライド操作を行うことができる。当接部材9には、抜け止め部材14が設けられ、この当接部材9がソケット1から脱落するのを防止するとともに、ガス供給口の固定部材18と当接部材9との間には補助ばね19が設けられ、当接部材9や延長部材11の自重や使用機器の振動等によって、スリーブ4が不用意に解除位置にスライドし、ソケット1からプラグ2が外れてしまうトラブルを未然に防止している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス消費機器とガスボンベを接続する際に用いるカプラの脱着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示す電動車椅子等の小型移動体として、燃料に水素を用いた燃料電池方式のものが開発されている。この水素は、ガスボンベに充填されて小型移動体に搭載される。燃料電池のガス供給口とガスボンベは、例えば特許文献2の図1に示すカプラを介して接続される。このカプラは、受け側のソケットと、挿し側のプラグとから構成される。
【0003】
前記ソケットとして、ガス流路を形成したハウジングと、このハウジングに対して、ガス流路の方向に所定範囲内(「ロック位置」と「解除位置」の範囲内)でスライド自在に設けられたスリーブと、ガス流路の内外壁を貫通する貫通孔内に収納され、スリーブを前記ロック位置にスライドさせた際に、このスリーブによってガス流路の外壁側から内壁側に向けて付勢されるロックボールと、スリーブを前記ロック位置側に付勢するスリーブばねとを備えたものがよく用いられる(例えば、特許文献2の図2を参照)。
【0004】
ソケットにガスボンベのプラグを挿し込むと、プラグの先端部に形成したロック溝にロックボールが嵌まり込むとともに、このロックボールがスリーブによって前記ロック溝側に付勢されて、ロック状態が発揮される。
【0005】
このスリーブをスリーブばねの付勢力に抗して解除位置にスライドすると、スリーブによるロックボールの付勢が解除されて、このロックボールがロック溝から退去し得る。これにより、ソケットに挿し込んだプラグを引き抜いて、ガスボンベの交換作業を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−125918号公報
【特許文献2】特開2004−211818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スリーブをスライドさせて、プラグのロック状態を解除するタイプのソケットにおいては、特許文献1のようにガスボンベのプラグを下向きに機器内に収納する場合、前記スリーブに手が届きにくく、ガスボンベの交換作業に手間取ることが多い。例えば、機器のカバーに、手を差し入れることができる程度の大きさの孔を形成し、この孔を通してスリーブの解除操作を行うことも考えられる。しかしながら、この種のガスボンベは、プラグと把持部がこのガスボンベの両端部に離間して設けられているものが多く(例えば、特許文献1の図1を参照)、この場合、一方の手でスリーブの解除操作を行いつつ、他方の手で把持部を持ってガスボンベを取り外す(持ち上げる)という不安定な体勢で作業を行う必要がある。
【0008】
また、水素ガス用のガスボンベの中には、気体の水素を直接充填するのではなく、ガスボンベ中に水素吸蔵合金を収納しておき、この水素吸蔵合金に水素を吸蔵させたものがある。水素吸蔵合金を封入したガスボンベは、中空のガスボンベと比較して水素吸蔵合金の分だけ重いため、片手のみでガスボンベの交換作業を行うことは、作業者にとって大きな負担となる。
【0009】
そこで、この発明は、スリーブの解除操作を簡便なものとし、ガスボンベの交換作業を速やかに、かつ容易に行い得るようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、この発明は、ガス消費機器のガス供給口に、ガス流路を形成したハウジングと、このハウジングに対してスライド自在に設けられたスリーブと、前記ガス流路の内外壁を貫通する貫通孔内に収納され、前記スリーブをロック位置にスライドさせた際に、前記スリーブによって前記ガス流路の外壁側から内壁側に向けて付勢されるロック部材と、このスリーブを前記ロック位置側に付勢するスリーブばねとを設けたソケットを備え、前記ソケットに、先端部にロック溝を形成したガスボンベのプラグを挿し込み、前記スリーブを前記スリーブばねの付勢力で前記ロック位置にスライドさせて、前記ロック部材が前記ロック溝に嵌まり込んだ状態として、前記プラグの抜け止めがなされる一方で、前記スリーブを前記付勢力に抗して解除位置にスライドさせて、前記ロック部材の前記外壁側から内壁側への付勢を解除して、前記プラグの抜き挿しを行い得るようにしたカプラ脱着機構において、前記スリーブをスライドする延長部材を前記ガスボンベに沿うように設け、このガスボンベを交換する際に、前記延長部材を操作して前記スリーブを解除位置にスライドして、前記ソケットと前記プラグのロック状態を解除するカプラ脱着機構を構成した。
【0011】
このスリーブに延長部材を設けることにより、スリーブの解除操作を機器内の奥まったところではなく、十分な作業スペースを確保できる場所で行い得る。このため、この作業をスムーズに行うことができる。また、前記延長部材を前記ガスボンベに沿うように設けたので、片方の手でスリーブのロック解除操作をした後に、速やかにその手でガスボンベの把持部を持つことができる。すなわち、両方の手でガスボンベを支えて取り外すことができるため、交換作業における作業者の負担が大幅に軽減される。
【0012】
前記延長部材の長さは、解除操作をスムーズに行い得るのであれば特に限定されないが、その操作端部(先端)がガスボンベの把持部の近傍に位置するようにするのが好ましい。把持部が操作端部の近傍にあれば、前記解除操作後に、手を速やかに把持部に添えることができるためである。
【0013】
前記ロック部材の形状は特に限定されないが、ボール形状のもの(ロックボール)を採用するのが好ましい。ロックボールには方向性がないため、プラグに多少の傾き等があったとしても、その抜け止めを確実に行う一方で、プラグのロック溝に形成したテーパとの当接によって、その解除をスムーズに行うことができるためである。
【0014】
前記構成においては、前記延長部材に当接部材を設け、この当接部材を前記スリーブの段差部に当接させるとともに、前記ハウジングに抜け止め部材を設け、この抜け止め部材の係止爪を、前記当接部材に形成した係止部に係止することができる。
【0015】
この抜け止め部材を設けることにより、ソケットに設けた当接部材が不用意に外れるのを防止することができる。このため、前記延長部材の動きが当接部材を介してスリーブに確実に伝わり、ロックの解除操作をスムーズに行うことができる。
【0016】
さらに前記構成においては、前記ソケットの固定部材と前記当接部材に介在する補助ばねを設け、この補助ばねで前記当接部材を前記スリーブのロック位置方向に付勢するようにすることができる。
【0017】
この補助ばねを設けることで、前記延長部材(及び当接部材)の自重や機器の振動によって、スリーブが不用意に解除位置にスライドしてしまう誤動作を極力防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、ソケットのスリーブに延長部材を設け、この延長部材を操作することで、前記スリーブのスライドを行うようにした。このため、スリーブの周囲に隙間がない等、このスリーブの解除操作を手で直接行うことが困難な場合でも、簡便にこの解除操作を行うことができ、ガスボンベの交換作業を速やかに、かつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明に係るカプラ脱着機構の一実施形態を示す側面図
【図2】一実施形態の要部を示す部分断面図
【図3】一実施形態の要部を示す部分断面斜視図
【図4】一実施形態のソケット側の構成を示す分解斜視図
【図5a】ソケットとプラグを接近させつつある状態を示す断面図
【図5b】プラグをソケットに挿し込んでスリーブをロック位置とした状態を示す断面図
【図5c】スリーブを解除位置にスライドした状態を示す断面図
【図5d】スリーブを解除位置にスライドした状態で、ソケットからプラグを引き抜いた状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に係るカプラ脱着機構の一実施形態を図1から4に示す。このカプラは、燃料電池等のガス消費機器のガス供給口に設けたソケット1に、ガスボンベBのプラグ2を挿し込むことで構成され、例えば、特許文献1で示した電動車椅子に採用される。なお、図2中の軸心(一点鎖線C)に対して右半分は、この軸心と後述する係止爪16とを通る断面図を示し、軸心に対して左半分は、この軸心と係止爪16がない位置とを通る断面図を示している。
【0021】
ソケット1には、軸心にガス流路を形成した円筒状のハウジング3と、円筒状のスリーブ4が設けられている。ハウジング3には、ガス流路の内外壁を貫通する貫通孔が複数個形成され、各貫通孔内には、鋼製のロックボール5が内壁側に脱落しないように一つずつ収納されている。スリーブ4は、ハウジング3の円筒面に沿って所定範囲内(「ロック位置」と「解除位置」の範囲内)で軸方向にスライド自在となっている。
【0022】
スリーブ4がロック位置にあるときは、スリーブ4がロックボール5に当接して、このロックボール5が外壁側から内壁側(軸心方向)に付勢されて、貫通孔の内壁端から、このロックボール5が突出した状態(ロック状態)となっている。スリーブ4とハウジング3の間にはスリーブばね6が介在しており、このスリーブばね6によって、スリーブ4が前記ロック位置に向けて付勢されている。ハウジング3にはストッパ7が設けられ、前記付勢によってスリーブ4がロック位置を超えてスライドするのを、このストッパ7が規制している。
【0023】
スリーブ4をスリーブばね6の付勢力に抗して解除位置にスライドすると、スリーブ4によるロックボール5の付勢が解除されて、このロックボール5が前記内壁端から外壁側に退去し得る。
【0024】
スリーブ4には段差部8が形成されていて、この段差部8に当接部材9の押し部10が当接している。また、この当接部材9には、ガスボンベBの全長と同程度の長さの棒状の延長部材11が、このガスボンベBに沿うように設けられていて、その先端はガスボンベBの把持部Hの近くに位置している。延長部材11をその軸方向下向きに動かすと(図2中の白抜き矢印を参照)、それと一体に当接部材9が下向きに動き、スリーブ4を解除位置向きにスライドさせることができる。
【0025】
この当接部材9のプラグ挿し込み側の先端には、先細のテーパ12が形成されている。また、ソケット1に挿し込むガスボンベBのプラグ2には、このプラグ2と同軸に、円筒状の保護部材13が設けられている。この保護部材13によってプラグ2の先端が周辺部材等と接触して破損するのを防止している。
【0026】
ソケット1のハウジング3には抜け止め部材14が設けられている。この抜け止め部材14は略半円状の円弧部15と、この円弧部15の両端から一方の軸方向に起立する係止爪16とから構成される。円弧部15はスリーブ4の下端に係止されるとともに、係止爪16は当接部材9の係止部17に係止されている。このように抜け止め部材14を設けることで、ソケット1からこの当接部材9(延長部材11)が外れるのを防止している。
【0027】
ソケット1の固定部材18(18a、18b)と当接部材9の間には補助ばね19が設けられ、この補助ばね19によって、当接部材9がスリーブ4のロック位置に向けて付勢されている。このように当接部材9を付勢することで、当接部材9及び延長部材11の自重や、電動車椅子等の使用機器の振動によって、スリーブ4が不用意に解除位置にスライドし、ソケット1からプラグ2が外れてしまうトラブルを未然に防止している。なお、この補助ばね19は、ソケット1内に設けられたスリーブばね6の付勢力を補助して、スリーブ4の不用意なスライドを防止するためのものであるから、スリーブばね6の付勢力のみで、この不用意なスライドを防止できるのであれば、補助ばね19は必ずしも設けなくても良い。
【0028】
図5a〜図5dにカプラ脱着機構の着脱手順について示す。各図において、軸心Cに対して右半分は、この軸心と係止爪16とを通る断面図を示し、軸心Cに対して左半分は、この軸心Cと係止爪16がない位置(係止爪16を形成した位置から軸心C周りに90度回転した位置)とを通る断面図を示している。
【0029】
まず、図5aに示すように、ガスボンベBのプラグ2をソケット1に対して同軸に接近させる。このとき、両者の間に若干の軸ずれdがあったとしても、当接部材9のテーパ12と保護部材13が当接して、この軸ずれdが修正されるので、プラグ2の挿し込みをスムーズに行うことができる。本実施形態では、当接部材9側にテーパ12を形成したが、このテーパ12を、保護部材13側あるいは保護部材13と当接部材9の双方に形成しても良い。
【0030】
プラグ2を完全にソケット1に挿し込むと、図5bに示すように、プラグ2先端部に形成したロック溝20にロックボール5が嵌まり込んで、このプラグ2の抜け止めがなされる。
【0031】
プラグ2をソケット1から引き抜く際は、図5c中に下向きの白抜き矢印で示すように、延長部材11を下向きに押し込むように操作する。すると、この延長部材11の先端の当接部材9が、スリーブ4をロック位置から解除位置に向けてスライドさせる。このスライドによって、プラグ2のロック溝20に嵌まり込んでいたロックボール5のスリーブ4による付勢が解除される。この付勢の解除によって、プラグ2の引き抜き力によってロックボール5が貫通孔内に退去して、図5dに示すように、このプラグ2の引き抜きをスムーズに行うことができる。
【0032】
このカプラ脱着機構を採用する電動車椅子等においては、背景技術において説明したように、ソケット1とガスボンベBのプラグ2の接続を解除するスリーブ4が装置の奥まったところに位置し、そのスライドをしづらいことがある。この場合であっても、延長部材11の操作によりスリーブ4のスライドを行い得るようにしたことにより、その解除作業を容易にすることができる。さらに、延長部材11の先端が、ガスボンベBの把持部H近傍に位置するように構成することにより、延長部材11を操作してロック状態を解除した後に、直ちに両手でこの把持部Hを持ってガスボンベBを支えることができる。このため、ガスボンベBの交換作業において、使用者の負担を大幅に軽減することができる。
【0033】
このカプラ脱着機構は、水素吸蔵合金を収納したガスボンベBに特に有効である。このタイプのガスボンベBは、一般的な中空のガスボンベBと比較して水素吸蔵合金の分だけ重い。この場合であっても、ロック解除操作後に、直ちに両手で把持部Hを持つことができ、スムーズに交換作業を行い得るからである。
【0034】
本願発明には、市販のソケット1及びプラグ2を応用することが容易にでき、このソケット1に延長部材11等を設けるだけでカプラ脱着機構を構成できるので、製造コストを極力低く抑制することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ソケット
2 プラグ
3 ハウジング
4 スリーブ
5 ロックボール(ロック部材)
6 スリーブばね
7 ストッパ
8 段差部
9 当接部材
10 押し部
11 延長部材
12 テーパ
13 保護部材
14 抜け止め部材
15 円弧部
16 係止爪
17 係止部
18(18a、18b) 固定部材
19 補助ばね
20 ロック溝
B ボンベ
H 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス消費機器のガス供給口に、ガス流路を形成したハウジング(3)と、このハウジング(3)に対してスライド自在に設けられたスリーブ(4)と、前記ガス流路の内外壁を貫通する貫通孔内に収納され、前記スリーブ(4)をロック位置にスライドさせた際に、前記スリーブ(4)によって前記ガス流路の外壁側から内壁側に向けて付勢されるロック部材(5)と、このスリーブ(4)を前記ロック位置側に付勢するスリーブばね(6)とを設けたソケット(1)を備え、
前記ソケット(1)に、先端部にロック溝(20)を形成したガスボンベ(B)のプラグ(2)を挿し込み、前記スリーブ(4)を前記スリーブばね(6)の付勢力で前記ロック位置にスライドさせて、前記ロック部材(5)が前記ロック溝(20)に嵌まり込んだ状態として、前記プラグ(2)の抜け止めがなされる一方で、前記スリーブ(4)を前記付勢力に抗して解除位置にスライドさせて、前記ロック部材(5)の前記外壁側から内壁側への付勢を解除して、前記プラグ(2)の抜き挿しを行い得るようにしたカプラ脱着機構において、
前記スリーブ(4)をスライドする延長部材(11)を前記ガスボンベ(B)に沿うように設け、このガスボンベ(B)を交換する際に、前記延長部材(11)を操作して前記スリーブ(4)を解除位置にスライドして、前記ソケット(1)と前記プラグ(2)のロック状態を解除するようにしたことを特徴とするカプラ脱着機構。
【請求項2】
前記延長部材(11)に当接部材(9)を設け、この当接部材(9)を前記スリーブ(4)の段差部(8)に当接させるとともに、前記ハウジング(3)に抜け止め部材(14)を設け、この抜け止め部材(14)の係止爪(16)を、前記当接部材(9)に形成した係止部(17)に係止したことを特徴とする請求項1に記載のカプラ脱着機構。
【請求項3】
前記ソケット(1)の固定部材(18)と前記当接部材(9)に介在する補助ばね(19)を設け、この補助ばね(19)で前記当接部材(9)を前記スリーブ(4)のロック位置方向に付勢したことを特徴とする請求項2に記載のカプラ脱着機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【公開番号】特開2012−193795(P2012−193795A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57971(P2011−57971)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】