説明

カメラシステム

【課題】マスキング機能を有するカメラシステムにおいて、マスクすべき対象に対して精度良くマスク領域を設定する。
【解決手段】カメラシステムは、カメラと、撮影範囲変動部と、撮影範囲の変動量を取得する変動量取得部と、撮影画像に写る所定の対象を撮影画像上でマスクするためのマスク処理部と、を含む。マスク処理部は、露光時間中の第1の時間における変動量に基づいて、第1の時間における所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第1の相対位置を算出する第1の位置算出部と、露光時間中の第2の時間における変動量に基づいて、第2の時間における所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第2の相対位置を算出する第2の位置算出部と、第1の相対位置と第2の相対位置とに基づいて、撮影画像上においてマスクするマスク領域を設定するマスク領域設定部と、含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラシステムに関し、特に、撮影画像上の領域にマスクする機能を有するカメラシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラなどのカメラシステムにおいて、プライバシー保護などのために表示したくない対象にマスキングを行う技術が知られている。例えば、第1のフレーム画像におけるマスク位置を考慮して、第1のフレーム画像の次のフレーム画像におけるマスク位置を補正する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−146890号公報
【特許文献2】特開2004−15362号公報
【特許文献3】特開2001−69494号公報
【特許文献4】特開平8−51611号公報
【特許文献5】特開2001−61137号公報
【特許文献6】特開2006−86714号公報
【特許文献7】特開2006−109507号公報
【特許文献8】特開2004−304847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、マスク位置を設定するに際して、1つのフレーム画像の露出時間については考慮されていない。このため、例えば、フレーム画像のうち、必要のない領域にマスクを設定するなど、マスクすべき対象に対して精度良くマスク領域を設定できないおそれがあった。
【0005】
この発明は、マスキング機能を有するカメラシステムにおいて、マスクすべき対象に対して精度良くマスク領域を設定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]カメラシステムであって、
所定の露光時間で1フレームの撮影画像を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影範囲を変動させる撮影範囲変動部と、
前記撮影範囲の変動量を取得する変動量取得部と、
前記撮影画像に写る所定の対象を前記撮影画像上でマスクするためのマスク処理部と、
を備え、
前記マスク処理部は、
前記露光時間中の第1の時間における前記変動量に基づいて、第1の時間における前記所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第1の相対位置を算出する第1の位置算出部と、
前記露光時間中の第2の時間における前記変動量に基づいて、第2の時間における前記所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第2の相対位置を算出する第2の位置算出部と、
前記第1の相対位置と前記第2の相対位置とに基づいて、前記撮影画像上においてマスクするマスク領域を設定するマスク領域設定部と、
を備える、カメラシステム。
こうすれば、露光時間中の第1の時間におけるマスク対象の相対位置と、その露光時間中の第2の時間におけるマスク対象の相対位置とに基づいて、撮影画像上のマスク領域を設定する。この結果、撮影画像上のマスク対象に対して、精度良くマスク領域を設定することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のカメラシステムにおいて、
前記第1の時間は、前記露光時間の開始時であり、
前記第2の時間は、前記露光時間の終了時である、カメラシステム。
こうすれば、露光時間の開始時におけるマスク対象の相対位置と、その露光時間の終了時におけるマスク対象の相対位置とに基づいて、撮影画像上のマスク領域を設定する。この結果、撮影画像上のマスク対象に対して、さらに精度良くマスク領域を設定することができる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のカメラシステムにおいて、
撮影範囲変動部は、前記撮影範囲を左右方向に移動させるパン回転機構を含み、
前記変動量取得部が取得する変動量は、前記パン回転機構の回転量を特定するための値である、カメラシステム。
こうすれば、露光時間中にパン回転動作をした場合において、撮影画像上のマスク対象に対して、精度良くマスク領域を設定することができる。
【0010】
[適用例4]
適用例1ないし3のいずれかに記載のカメラシステムにおいて、
撮影範囲変動部は、前記撮影範囲を上下方向に移動させるチルト回転機構を含み、
前記変動量取得部が取得する変動量は、前記チルト回転機構の回転量を特定するための値である、カメラシステム。
こうすれば、露光時間中にチルト回転動作をした場合において、撮影画像上のマスク対象に対して、精度良くマスク領域を設定することができる。
【0011】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれかに記載のカメラシステムにおいて、
撮影範囲変動部は、前記撮影範囲を拡大または縮小させるズーム機構を含み、
前記変動量取得部が取得する変動量は、前記ズーム機構の動作量を特定するための値である、カメラシステム。
こうすれば、露光時間中にズーム動作をした場合において、撮影画像上のマスク対象に対して、精度良くマスク領域を設定することができる。
【0012】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれかに記載のカメラシステムであって、
前記カメラは、複数のフレームの撮影画像を連続的に出力し、
前記マスク処理部は、前記複数のフレームの撮影画像の連続的な出力に同期して、各フレームの撮影画像に適した位置で前記マスク領域を設定する、カメラシステム。
こうすれば、1つのフレーム画像と、そのフレーム画像に対して合成するマスク領域の設定との間に遅延がないので、撮影画像上のマスク対象に対して、より精度良くマスク領域を設定することができる。
【0013】
この発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、カメラシステムの制御装置などの装置発明や、カメラシステムの制御方法、マスキング機能を有するカメラシステムにおけるマスク領域の設定方法などの方法発明として実現することができる。また、この発明はこれらの方法をコンピュータに実現させるコンピュータプログラム、該コンピュータプログラムを記録した記録媒体などの形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
A.実施例:
図1は、本発明の一実施例としてのカメラシステムの概略構成を示す説明図である。カメラシステム1000は、カメラ100と、カメラ100を制御するコントローラ200と、カメラ100が撮影した画像を表示するためのモニタ300と、を備えている。カメラ100とコントローラ200とは、ケーブルCA1により通信可能に接続されている。コントローラ200とモニタ300とは、ケーブルCA2により通信可能に接続されている。
【0015】
図2は、カメラ100のカバーを外した外観構成を示す図である。カメラ100は、固定台101と、スリップリング102と、パン回転台103と、パンモータ104と、チルトモータ105と、チルト軸体106と、カメラ本体110と、を備えている。固定台101は、天井などの平面部に固定される。パン回転台103は、スリップリング102を介して、固定台101に接続されている。パン回転台103は、スリップリング102のリング中心を通るパン軸PAXを軸として、固定台101に対して回転(パン回転)可能である。パンモータ104は、パン回転台103が固定台101に対してパン回転するための動力を供給する。カメラ本体110は、チルト軸体106を介して、パン回転台103に接続されている。カメラ本体110は、チルト軸体106の軸方向と垂直な断面の中心を通るチルト軸TAXを軸として、パン回転台103に対して回転(チルト回転)可能である。チルトモータ105は、カメラ本体110がパン回転台103に対してチルト回転するための動力を供給する。
【0016】
図3は、カメラシステム1000の内部構成を示すブロック図である。カメラ本体110は、カメラヘッド1と、撮像素子2と、アナログフロントエンド回路(AFE回路)3と、タイミングジェネレータ(TG)4を含んでいる。カメラヘッド1は、図示しないズームレンズ、フォーカスレンズ、絞り機構、および、これらを動作させる動力を供給するズームモータ、フォーカスモータ、絞りモータ、を含む。撮像素子2は、カメラヘッド1のレンズを介して、撮像素子2の表面に結像された画像を、光電変換により、電気信号に変換する。撮像素子は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサが用いられる。AFE回路3は、撮像素子2から出力された信号をディジタル信号に変換する回路であり、例えば、CDS回路(相関2重サンプリング回路)、AGC回路(ゲインコントロール・アンプ回路)、ADC回路(アナログ/デジタルコンバータ)を含む回路である。タイミングジェネレータ4は、撮像素子2やAFE回路3を駆動するためのパルス信号を生成する。例えば、タイミングジェネレータ4は、後述するシャッターパルスを生成して、撮像素子2、および、後述するカメラCPU6、パンチルトCPU9に供給する。また、タイミングジェネレータ4は、撮像素子2からの信号の読み出しを指示する読み出しパルスを生成して、撮像素子2に供給する。タイミングジェネレータ4は、後述するDSPが生成する垂直同期信号VDに同期して、パルス信号を生成する。
【0017】
コントローラ200は、DSP(Digital Signal Processor)5と、カメラCPU6と、レンズモータドライバ7と、不揮発性メモリ8と、パンチルトCPU9と、パンドライバ10と、チルトドライバ11と、操作部12を備えている。
【0018】
DSP5は、信号処理部5aと、マスク生成部5bと、加算器5cとを含んでいる。信号処理部5aは、AFE回路3から受け取ったディジタル画像信号に、ホワイトバランス補正、コントラスト補正などの所定の画像処理を行って、画像処理後の画像信号を出力する。マスク生成部5bは、画像のうち、カメラCPU6から指示されたマスク領域の範囲をマスクするためのマスク画像信号を生成する。加算器5cにおいて、信号処理部5aから出力された画像信号と、マスク画像信号とが合成され、最終的にモニタ300に供給される画像信号が生成される。
【0019】
カメラCPU6は、カメラ本体110の制御と共にカメラシステム1000全体を制御するメイン制御装置である。カメラCPU6は、レンズモータドライバ7、不揮発性メモリ8と、DSP5、パンチルトCPU9と、バスを介して、通信可能に接続されている。カメラCPU6は、マスク処理部6aと、レンズ制御部6bと、マスキングデータメモリ6cと、第1ズーム位置メモリ6dと、第2ズーム位置メモリ6eを含んでいる。マスク処理部6aは、サブモジュールとして、第1のマスク位置算出部M1と、第2のマスク位置算出部M2と、マスク領域設定部M3とを含んでいる。マスク処理部6aが行う処理については、後述する。レンズ制御部6bは、カメラヘッド1のズーム位置、フォーカス位置、絞り位置を、所望の位置に制御するために、制御信号を生成してレンズモータドライバ7に送信する。マスキングデータメモリ6cは、後述するマスキング設定データを記憶するためのメモリである。第1および第2ズーム位置メモリ6d、6eは、任意のタイミングのズーム位置を格納しておくためのメモリである。
【0020】
レンズモータドライバ7は、レンズ制御部6bからの制御信号に従って、カメラヘッド1が備えるズームモータ、フォーカスモータ、絞りモータを動作させる。
【0021】
不揮発性メモリ8は、カメラシステム1000に対するユーザの設定情報など、電源オフ時に保持されるべき情報を記憶するためのメモリである。マスキング設定データは、マスキングデータメモリ6cに記憶されると共に、不揮発性メモリ8にも記憶される。一度マスキング設定データが利用者により設定されると、その後の電源投入時に、そのマスキング設定データが不揮発性メモリ8からマスキングデータメモリ6cに読み出される。
【0022】
パンチルトCPU9は、パンチルト制御部9aと、第1パン位置メモリ9bと、第2パン位置メモリ9cと、第1チルト位置メモリ9dと、第2チルト位置メモリ9eとを含んでいる。パンチルト制御部9aは、カメラCPU6からの位置指定に従ってパン位置を所望の位置に制御するために、制御信号を生成してパンドライバ10に送信する。パンチルト制御部9aは、カメラCPU6からの位置指定に従ってチルト位置を所望の位置に制御するために、制御信号を生成してチルトドライバ11に送信する。第1および第2のパン位置メモリ9b、9cは、パンチルト制御部9aが任意のタイミングのパン位置を格納しておくためのメモリである。第1および第2のチルト位置メモリ9d、9eは、パンチルト制御部9aが任意のタイミングのチルト位置を格納しておくためのメモリである。
【0023】
パンドライバ10は、パンチルト制御部9aからの制御信号に従って、パンモータ104を動作させる。チルトドライバ11は、パンチルト制御部9aからの制御信号に従って、チルトモータ105を動作させる。これにより、カメラ本体110は、所望の方向を向く。
【0024】
操作部12は、利用者からの操作を受け付ける。操作部12は、例えば、パン動作およびチルト動作の指示を受け付ける方向受付部(例えば、ジョイスティック、カーソルキー、マウス)、および、後述するマスキング設定を含む各種の設定、ズーム動作などの指示を受け付けるための操作キーを含む。
【0025】
モニタ300は、表示部301を備えている。表示部301は、液晶ディスプレイ、ブラウン管ディスプレイその他のディスプレイのいずれであっても良い。
【0026】
図4は、マスキング機能について説明する図である。カメラシステム1000は、マスキング機能を備えている。図4(a)では、利用者がマスク領域を設定する様子を示している。図4(a)では、パン位置、チルト位置、ズーム位置を固定した状態の撮影画面上において、2点p1と、p2を利用者が指定することによりマスク領域を設定している。設定されるマスク領域MAは、指定された点p1と点p2を対角とする矩形領域である。設定されるマスク領域MAは、矩形領域に限らず、円形であっても良いし、5角形、6角形などの他の多角形であっても良い。マスク領域MAは、設定時の撮影画像上の被写体のうちの所定の対象を覆うように設定される。例えば、図4(a)では、家SUを含む矩形の対象をマスクするようにマスク領域MAが設定されている。マスク領域MAが設定されると、マスク対象は、たとえば、表示部301に表示される画像において、一定の色の画素に置換される。たとえば、白色の画素や黒色の画素がマスク対象のマスクに使用される。
【0027】
マスク領域MAの設定後に撮影範囲を変動させると、マスク対象の撮影範囲に対する相対的な位置も変動する。この変動に合わせてマスク領域MAも変動する。マスク対象は、撮影範囲の変動後も、表示部301上においてマスクされる。例えば、マスク領域MAの設定後にパン動作をすると、図4(b)に示すように、マスク対象の撮影範囲に対する相対的な位置は、左右方向に移動する。それに合わせてマスク領域MAも左右方向に移動する。その結果、マスク対象は、パン動作後も、表示部301上においてマスクされる。図4(c)、図4(d)に示すように、チルト動作およびズーム動作を行った場合も同様である。
【0028】
図5は、カメラシステム1000の動作を説明するためのタイミングチャートである。図5には、垂直同期信号VDと、シャッターパルスSHと、露光量EXと、パン角度θと、チルト角度φと、ズーム位置Kとが示されている。パン角度θは、チルト角度φ、ズーム位置Kは、それぞれ、パン位置、チルト位置、ズーム位置を表す値である。これらの位置は、基準位置からの撮影範囲の変動量を表す値である。
【0029】
垂直同期信号VDは、1つのフィールドFLDの区切りを表すパルス信号である。本実施例では、1つのフィールドFLDごとに1フレームの撮影画像を出力する。1つのフィールドFLDの期間は、例えば、60分の1秒である。以下、説明の基準とするn番目のフィールドをフィールドFLD(n)と呼ぶ。例えば、フィールドFLD(n)の1つ後のフィールドをフィールドFLD(n+1)と呼び、フィールドFLD(n)の1つ前のフィールドをフィールドFLD(n−1)と呼ぶ。
【0030】
シャッターパルスSHは、1つのフィールドFLD期間のうち、撮像素子2の表面に露光する露光時間を定める信号である。シャッターパルスSHがハイレベルである期間が露光期間であり、ローレベルである期間が露光されない期間である。例えば、フィールドFLD(n)では、時間Tから時間Tまでが露光時間である。ここで示すシャッターパルスSHの形態は一例であり、他の形態であっても良い。例えば、ローレベルであるときが露光期間を表すシャッターパルスであっても良いし、露光時間の開始時間と終了時間とに、短いパルス信号を含むシャッターパルスであっても良い。
【0031】
フィールドFLD(n)における動作を説明すると、時間Tから時間Tまでの間は、撮像素子2はリセットされ、撮像素子2のフォトダイオードには、電荷は蓄積されない。時間Tにおいて、シャッターパルスSHがハイレベルになると、撮像素子2のフォトダイオードは、露光量に応じた電荷の蓄積を開始する。また、時間Tにおいて、レンズ制御部6bは、時間Tにおけるズーム位置Kを第1ズーム位置メモリ6dに格納する。パンチルト制御部9aは、時間Tにおけるパン角度θを第1パン位置メモリ9bに、チルト角度φを第1チルト位置メモリ9dに、それぞれ格納する。
【0032】
時間Tの直前に撮像素子2にはタイミングジェネレータ4からの読み出しパルスが供給され、撮像素子2は、フォトダイオードに蓄積された電荷のAFE回路3への転送を開始する。時間Tにおいて、シャッターパルスSHがローレベルになると、撮像素子2はリセットされる。また、時間Tにおいて、レンズ制御部6bは、時間Tにおけるズーム位置Kを第2ズーム位置メモリ6eに格納する。パンチルト制御部9aは、時間Tにおけるパン角度θを第2パン位置メモリ9cに、チルト角度φを第2チルト位置メモリ9eに、それぞれ格納する。
【0033】
フィールドFLD(n)において撮像素子2のフォトダイオードに蓄積された電荷は、フィールドFLD(n+1)においてAFE回路3に転送される。また、フィールドFLD(n+1)においてAFE回路3に転送されたアナログ信号は、同じフィールドFLD(n+1)においてAFE回路3でディジタル信号に変換されてDSP5の信号処理部5aに供給される。
【0034】
カメラCPU6のマスク処理部6aは、フィールドFLD(n+1)において、フィールドFLD(n)で露光されたフレーム画像信号と重畳するためのマスク領域の位置を算出するマスク位置算出処理を実行する。
【0035】
図6は、マスク位置算出処理の処理ステップを示すフローチャートである。ステップS10では、マスク処理部6aは、時間Tにおけるパン角度θとチルト角度φとズーム位置Kとを、それぞれ、第1パン位置メモリ9b、第1チルト位置メモリ9d、第1ズーム位置メモリ6dから取得する。ステップS20では、マスク処理部6aは、時間T2におけるパン角度θと、チルト角度φと、ズーム位置Kとを、それぞれ、第2パン位置メモリ9c、第2チルト位置メモリ9e、第2ズーム位置メモリ6eから取得する。
【0036】
ステップ30では、マスク処理部6aの第1のマスク位置算出部M1は、時間Tにおけるマスク対象位置M(T)を算出する。マスク対象位置M(T)は、所定の時間Tにおけるマスク対象の撮影範囲に対する相対的な位置である。
【0037】
図7は、パンチルト座標を説明する図である。パンチルト座標は、(パン角度θ、チルト角度φ)で表される。パンチルト座標は、座標系の中心点Oを通る直線と、中心点Oを中心とする半径rの球BAとの交点を表す座標である。点Pは、光軸OAXと球BAとの交点であり、パンチルト座標は(θ、φ)である。図7からわかるように、パン回転軸は、Z軸である。光軸OAXおよびチルト軸TAXは、パン回転によって回転する。チルト軸TAXは、X−Y平面(パン平面)上に存在する。線FAXは、チルト軸TAXを軸にチルト動作をした場合に、光軸が移動する平面とX−Y平面との交線である。すなわち、線FAXとZ軸とを含む平面上に光軸OAXは存在する。ここで、マスク対象位置M(T)の頂点をQとし、Qのパンチルト座標を(θ、φ)とする。
【0038】
図8は、カメラ座標を説明する図である。カメラ座標は、原点Oを視点として、被写体を投影面PSに透視投影した場合におけるPS上の点の位置を表す座標である。カメラ座標は(α、β)で表される。αは、光軸OPとの水平角度であり、βは光軸OPとの垂直角度である。図8は、カメラ座標を説明する図である。図8において、Aはカメラの水平半画角を表し、Bはカメラの垂直半画角を表す。水平半画角Aは、ズーム位置Kに対応している。具体的には、ズーム位置Kが定まると、焦点距離が定まり、撮像素子2の結像面の大きさから水平半画角Aおよび垂直半画角Bが一意に決定される。図7における点Qの投影面PS上の点qのカメラ座標を(α、β)とする。
【0039】
図9は、モニタ座標を説明する図である。モニタ座標の座標系は、表示部301の画素数により異なり、例えば、XGA(eXtended Graphics Array:水平1024×垂直768)のモニタであれば、(X、Y)(−516≦X≦+516、−384≦Y≦+384)の平面座標系が用いられる。ここで水平方向の画素数を2W、垂直方向の画素数を2Hとする。
【0040】
以上の説明からわかるように、モニタ座標と、カメラ座標と、パンチルト座標とを、周知の式を用いて適切に変換することにより、マスク対象位置M(T)を算出することができる。
【0041】
図10は、パンチルト座標からカメラ座標への変換例を示す図である。例えば、パンチルト座標における点Q(θ、φ)に対応するカメラ座標の点をq(α、β)とする。すると、α=角SOQ、β=角POSである。ここで、点Sは、Qをチルト平面に垂直投影した点である。チルト平面は、チルト軸FAXとZ軸とを含む平面である。これらの角度は、点Qをパン平面に垂直投影した点R、点Sをパン平面に垂直投影した点Tの座標を用いた式により計算できる。
【0042】
図6に戻って説明を続ける。マスキングデータメモリ6cに記憶されるマスキング設定データは、マスク対象を特定する点を設定時の撮影範囲におけるパンチルト座標で表した情報を含む。マスク対象を特定する点は、マスク対象が矩形である本実施例では、例えば、図4(a)における点p1およびp2である。時間Tにおけるパン角度θ、チルト角度φを光軸OAXとし、時間Tにおけるズーム位置Kに対応する水平半画角Aとして、点p1、p2のモニタ座標を算出すれば、時間Tにおけるマスク対象位置M(T)を算出することができる。
【0043】
ステップS40では、マスク処理部6aの第2のマスク位置算出部M2は、時間Tにおけるマスク対象位置M(T)を算出する。算出手法は、ステップS30におけるマスク対象位置M(T)の算出手法と同様である。ステップS50では、マスク対象位置M(T)と、マスク処理部6aのマスク領域設定部M3は、マスク対象位置M(T)とに基づき、マスク領域MAの範囲が設定する。
【0044】
図11は、マスク領域MAの範囲の設定について示す図である。マスク領域MAは、マスク対象位置M(T)の4つの頂点とマスク対象位置M(T)の4つの頂点のうち、外側の6つを用いた6角形形に設定される。マスク領域MAの範囲が設定されると、マスク位置算出処理は終了される。
【0045】
フィールドFLD(n+1)において、マスク位置算出処理が行われると、設定されたマスク領域MAの位置は、マスク生成部5bに通知される。
【0046】
フィールドFLD(n+2)では、フィールドFLD(n)で露光されたフレーム画像のディジタル信号が信号処理部5aによって所定の画像処理が施されて出力される。また、フィールドFLD(n+2)では、マスク生成部5bは、マスク処理部6aから通知されたマスク領域MAの位置を覆うように、マスク画像を現すマスク画像信号を生成して、出力する。
【0047】
フィールドFLD(n+3)では、信号処理部5aから出力されたフレーム画像信号と、マスク生成部5bから出力されたマスク画像信号とが、加算器5cにより重畳された画像信号がモニタ300に供給される。このように、フィールドFLD(n)において露光されたフレーム画像の信号と、フィールドFLD(n)における露光時間を考慮して定められたマスク領域MAの画像信号が、互いに遅延することなく、同一のタイミングでフィールドFLD(n+3)において出力される。
【0048】
なお、当然であるが、フィールドFLD(n+1)で露光されたフレーム画像の信号はフィールドFLD(n+4)で、フィールドFLD(n+2)で露光されたフレーム画像の信号はフィールドFLD(n+5)で、それぞれ対応するマスク領域MAと重畳されて出力される。
【0049】
以上説明した本実施例によれば、露出時間の開始時間Tにおけるマスク対象位置M(T)とマスク対象位置M(T)とに基づいてマスク領域MAの位置を設定する。この結果、マスク対象がモニタ300に映し出されることを避けつつ、マスク対象以外の部分はなるべくモニタ300に写しださせるように、精度良く、マスク領域MAの位置を設定できる。特に、パン動作、チルト動作、ズーム動作により、1フレーム画像における撮影範囲の変動が大きいときに効果が大きい。
【0050】
図12は、比較例におけるマスク領域MA1およびマスク領域MA2を示す図である。比較例では、露出時間の開始時間T時のパン角度θ、チルト角度φ、ズーム位置Kのみに基づいて、マスク領域を設定している。マスク領域MA1のように、小さなマスク領域を設定すれば、露出時間の終了時間T付近で露光されたマスク対象SU(T)が見えてしまう。また、マスク領域MA2のように、大きなマスク領域を設定すれば、マスク対象は見えないものの、マスク対象以外の部分も見えなくなってしまう。本実施例では、そのような不都合を避け、精度良く、マスク領域MAを設定できる。
【0051】
また、シャッター速度が速いとき(露光時間が短いとき)であっても、シャッター速度が速いとき(露光時間が短いとき)であっても、シャッター速度に応じて、適切な大きさのマスク領域MAをフレーム画像ごとに設定することができる。さらに、シャッター速度(露出時間)を検出するための特別な回路を設ける必要もない。
【0052】
B.変形例:
・第1変形例:
上記実施例では、露出時間の開始時間Tと、終了時間Tにおいて、マスク対象位置Mを算出しているが、これに代えて、露出時間中の他の2つの時刻において、マスク対象位置Mを算出しても良い。実施例のように露出時間の開始時間Tと終了時間Tにおけるマスク対象位置Mを考慮すると、他の中間の2つの時刻を考慮するより、マスク領域MAの設定精度が向上する。
【0053】
・弟2変形例:
上記実施例では、露出時間の開始時間Tと、終了時間Tにおいて、マスク対象位置Mを算出しているが、2つの時刻だけでなく、3つの時刻においてマスク対象位置Mを算出しても良い。例えば、さらに、開始時間Tと終了時間Tとの中間の時間Tのマスク対象位置M(T)を算出して、3つのマスク対象位置M(T)、M(T)、M(T)に基づいて、マスク領域MAの位置を設定しても良い。
【0054】
・弟3変形例:
上記実施例では、露光時間の開始時間Tと、終了時間Tのタイミング検出として、シャッターパルスSHを用いたが、これ以外の方法でも実現できる。例えば、シャッターパルスSHは、垂直同期信号VDに同期し、カメラCPU6が設定するシャッター速度に基づいて生成される。このため、カメラCPU6は、シャッター速度があらかじめ解っている。このため、カメラCPU6は、シャッターパルスSHに頼ることなく、垂直同期信号VDに同期して露光時間の開始時間Tと、終了時間Tのタイミングを認識しても良い。
【0055】
・弟4変形例:
上記実施例では、マスク生成部5bが生成するマスク画像は、白色または黒色の画素で形成された単色画像であるが、これに変えて、マスク画像は所定の模様、例えば、市松模様の画像であっても良い。また、マスク画像は、マスク対象の画像にモザイク処理を施した画像であっても良い。本明細書において、領域をマスクするとは、画像における所定領域を単色画像にすること、所定の模様の画像にすること、モザイク処理した画像にすることを少なくとも含む。換言すれば、マスク処理とは、元の画像を難視化する処理(視認しにくくする処理)を意味している。
【0056】
・弟5変形例:
上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしても良い。
【0057】
以上、本発明の実施例および変形例について説明したが、本発明はこれらの実施例および変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例としてのカメラシステムの概略構成を示す説明図。
【図2】カメラのカバーを外した外観構成を示す図。
【図3】カメラシステムの内部構成を示すブロック図。
【図4】マスキング機能について説明する図。
【図5】カメラシステムの動作を説明するためのタイミングチャート。
【図6】マスク位置算出処理の処理ステップを示すフローチャートである。
【図7】パンチルト座標を説明する図。
【図8】カメラ座標を説明する図。
【図9】モニタ座標を説明する図。
【図10】パンチルト座標からカメラ座標への変換例を示す図。
【図11】マスク領域の範囲の設定について示す図。
【図12】比較例におけるマスク領域を示す図。
【符号の説明】
【0059】
1...カメラヘッド
2...撮像素子
3...AFE回路
4...タイミングジェネレータ
5...DSP
5a...信号処理部
5b...マスク生成部
5c...加算器
6...カメラCPU
6a...マスク処理部
6b...レンズ制御部
6c...マスキングデータメモリ
6d...第1ズーム位置メモリ
6e...第2ズーム位置メモリ
7...レンズモータドライバ
8...不揮発性メモリ
9...パンチルトCPU
9a...パンチルト制御部
9b...第1パン位置メモリ
9c...第2パン位置メモリ
9d...第1チルト位置メモリ
9e...第2チルト位置メモリ
10...パンドライバ
11...チルトドライバ
12...操作部
100...カメラ
101...固定台
102...スリップリング
103...パン回転台
104...パンモータ
105...チルトモータ
106...チルト軸体
110...カメラ本体
200...コントローラ
300...モニタ
301...表示部
1000...カメラシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラシステムであって、
所定の露光時間で1フレームの撮影画像を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影範囲を変動させる撮影範囲変動部と、
前記撮影範囲の変動量を取得する変動量取得部と、
前記撮影画像に写る所定の対象を前記撮影画像上でマスクするためのマスク処理部と、
を備え、
前記マスク処理部は、
前記露光時間中の第1の時間における前記変動量に基づいて、前記第1の時間における前記所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第1の相対位置を算出する第1の位置算出部と、
前記露光時間中の第2の時間における前記変動量に基づいて、前記第2の時間における前記所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第2の相対位置を算出する第2の位置算出部と、
前記第1の相対位置と前記第2の相対位置とに基づいて、前記撮影画像上においてマスクするマスク領域を設定するマスク領域設定部と、
を備える、カメラシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のカメラシステムにおいて、
前記第1の時間は、前記露光時間の開始時であり、
前記第2の時間は、前記露光時間の終了時である、カメラシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のカメラシステムにおいて、
撮影範囲変動部は、前記撮影範囲を左右方向に移動させるパン回転機構を含み、
前記変動量取得部が取得する変動量は、前記パン回転機構の回転量を特定するための値である、カメラシステム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のカメラシステムにおいて、
撮影範囲変動部は、前記撮影範囲を上下方向に移動させるチルト回転機構を含み、
前記変動量取得部が取得する変動量は、前記チルト回転機構の回転量を特定するための値である、カメラシステム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のカメラシステムにおいて、
撮影範囲変動部は、前記撮影範囲を拡大または縮小させるズーム機構を含み、
前記変動量取得部が取得する変動量は、前記ズーム機構の動作量を特定するための値である、カメラシステム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のカメラシステムであって、
前記カメラは、複数のフレームの撮影画像を連続的に出力し、
前記マスク処理部は、前記複数のフレームの撮影画像の連続的な出力に同期して、各フレームの撮影画像に適した位置で前記マスク領域を設定する、カメラシステム。
【請求項7】
カメラシステムの制御方法であって、
前記カメラシステムは、
所定の露光時間で1フレームの撮影画像を撮影するカメラと、
前記カメラの撮影範囲を変動させる撮影範囲変動部と、
を有し、
前記制御方法は、
(a)前記露光時間中の第1の時間における前記撮影範囲の第1の変動量を取得する工程と、
(b)前記露光時間中の第2の時間における前記撮影範囲の第2の変動量を取得する工程と、
(c)前記第1の変動量に基づいて、前記第1の時間における所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第1の相対位置を算出する工程と、
(d)前記第2の変動量に基づいて、前記第2の時間における前記所定の対象の撮影範囲に対する相対的な位置である第2の相対位置を算出する工程と、
(e)前記第1の相対位置と前記第2の相対位置とに基づいて、前記撮影画像上においてマスクするマスク領域を設定する工程と、
を備える、制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−239499(P2009−239499A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81353(P2008−81353)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000000424)株式会社エルモ社 (104)
【Fターム(参考)】