説明

カラオケ装置

【課題】
演奏を録音した生音データを再生するカラオケ装置において、音程変更時における再生音を聴感上、自然なものとすることを課題とする。
【解決手段】
本発明のカラオケ装置は、生音データを解析し、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性を生成するフィルタ生成処理と、フィルタ生成処理で生成したフィルタ特性と、入力部で入力された音程と、楽曲データに基づいて、楽曲データのうち再生すべき発音情報を決定する決定処理と、入力部で入力された音程に基づいて、生音データの音程を変更して生音再生部に再生させるとともに、フィルタ生成処理で生成したフィルタ特性を適用する生音再生処理と、入力部で入力された音程に基づいて、決定処理にて決定した発音情報を楽曲再生部に再生させる楽曲再生処理を実行することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種音源による伴奏を実行するとともにマイクロホンを介して歌唱を行うカラオケ装置に関するものであり、特に、圧縮音声信号などの生音を音源に用いるとともに、音程変更を可能とするカラオケ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カラオケ装置において楽曲演奏を行う際には、電子楽器に用いられるMIDI音源が利用されることが多かった。容量の小さいMIDI規格のデータ(楽曲データ)を用いることで、通信回線を通じて大量の楽曲データを容易に配信することで、最新の楽曲データをカラオケ装置に供給することが可能となっている。近年、光ファイバーなどを利用した通信網が整備され、通信容量が大きくなるに伴い、楽曲データのみならず、1楽曲あたりの容量が大きい生音データを配信することも可能となっている。この生音データは、ADPCM、MPEGオーディオなど、アーティストの演奏をそのまま録音し、圧縮したデータであって、従来の楽曲データでは再現できない肉声を表現することが可能である。
【0003】
特許文献1には、このようなカラオケ装置として、実際に演奏されて録音されたカラオケ伴奏音楽をディジタル圧縮符号化したカラオケAVデータを含んだ再生音楽タイプのコンテンツ、シンセサイザーを制御してカラオケ伴奏音楽の合成音を生成するMIDIデータを含んだ合成音楽タイプのコンテンツを、ボリューム管理情報にしたがって一元的に取り扱うことのできるものが開示されている。
【0004】
このように特許文献1に開示されるカラオケ装置によれば、高品質な再生音楽タイプと、短時間かつ低コストで製作できる合成音楽タイプを1つのカラオケ装置において一元的に取り扱うことができ、システム構成を簡単にすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3194884号
【特許文献2】特許第2967661号
【特許文献3】特許第3404756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カラオケ装置においては、歌唱者の歌唱を容易にするため音程変更(キーチェンジ)機能が設けられている。MIDI音源を用いた従来のカラオケ装置においては、各音色毎に音程変更を行うことが可能である。
また、MIDI音源の各種音色は、人声のように声道特性が支配的であって、音程を変更した場合に一定のスペクトル形状を有する、すなわち、固定フォルマント特性を有する音色と、音程の変更に伴ってそのスペクトル形状が伸縮される、すなわち、移動フォルマント特性を有する音色がある。
【0007】
特に固定フォルマント特性を有する音色を自然なものとするため、特許文献2には、音高情報に応じたパラメータをフィルタリング手段に与えることで、移動フォルマント特性を有する楽音信号を固定フォルマント特性に変換する楽音合成装置が開示されている。また、特許文献3には、波形データ読み出しタイミングに配慮することで、不連続点のない波形による固定フォルマント音を合成可能とする楽音合成装置について開示されている。
【0008】
ところで、生音データを使用するカラオケ装置においても、音程変更機能は必須の機能である。しかしながら、実際の演奏を録音した生音データには、ギター、ピアノなどの楽器音の他、バックコーラスなどの人声が混在した音となっている。通常の楽器音であれば、スペクトル形状が線形に伸張されるピッチシフトを行うことで、自然な音程変更が実現できるが、人声など固定フォルマント特性を有する音については、単純にピッチシフトを行うだけでは可聴上、不自然な音に聞こえてしまう。
【0009】
特許文献2、特許文献3には、固定フォルマント特性を有する音色に対して音程を変更する技術について開示はされているものの、これらの技術は楽音合成装置、すなわち、MIDI音源のような音色毎に制御可能な場合に適用できるものであって、固定フォルマント特性の音と移動フォルマント特性の音が分離不可能な状態で混在する生音データに対して適用できるものではない。
【0010】
本発明は、各種楽器音に加え、固定フォルマント特性を有する人声を含む生音データの再生を行うカラオケ装置において、自然な音程変更を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のカラオケ装置は、生音データと、前記生音データに同期するとともに発音情報を含んで構成された楽曲データを含むカラオケデータの再生を行うカラオケ装置であって、前記生音データに基づいて再生を実行する生音再生部と、発音情報に基づいて再生を実行する楽曲再生部と、音程を入力する入力部と、前記生音データを解析し、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性を生成するフィルタ生成処理と、前記フィルタ生成処理で生成したフィルタ特性と、前記入力部で入力された音程と、前記楽曲データに基づいて、前記楽曲データのうち再生すべき発音情報を決定する決定処理と、前記入力部で入力された音程に基づいて、前記生音データの音程を変更して前記生音再生部に再生させるとともに、前記フィルタ生成処理で生成した前記フィルタ特性を適用する生音再生処理と、前記入力部で入力された音程に基づいて、前記決定処理にて決定した発音情報を前記楽曲再生部に再生させる楽曲再生処理と、を実行する制御部と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
さらに、本発明のカラオケ装置において、前記決定処理は、前記フィルタ生成処理で生成したフィルタ特性と、前記入力部で入力された音程と、前記楽曲データに基づいて、再生すべき発音情報の音量を決定し、前記楽曲再生処理は、決定した音量で発音情報を再生させることを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明のカラオケ装置において、前記フィルタ生成処理と、前記決定処理のうち、少なくとも前記フィルタ生成処理は、楽曲データの再生開始前に実行されることを特徴とすることとしている。
【0014】
また、本発明のカラオケ装置は、生音データと、前記生音データに適用するフィルタ特性と、前記生音データに同期するとともに音程毎に再生すべき発音情報が対応付けられた楽曲データと、を含むカラオケデータの再生を行うカラオケ装置であって、前記生音データに基づいて再生を実行する生音再生部と、発音情報に基づいて再生を実行する楽曲再生部と、音程を入力する入力部と、前記入力部で入力された音程に基づいて、前記生音データの音程を変更して前記生音再生部に再生させるとともに、前記カラオケデータに含まれるフィルタ特性を適用する生音再生処理と、前記入力部で入力された音程に基づいて、再生すべき発音情報を前記楽曲再生部に再生させる楽曲再生処理と、を実行する制御部と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生音データを再生するカラオケ装置において音程変更機能を動作させた際、フィルタ特性を付与することで、生音データ内の固定フォルマント特性を有する人声などを違和感なく音程変化させることが可能となる。さらに、フィルタ特性を付与したことで抑制された楽器音について、MIDI情報のような発音情報で構成された楽曲データを用いて補うことで、自然な音程変更を行うことが可能となる。
【0016】
フィルタ特性は、カラオケデータの再生中に解析・生成してもよいが、再生前に予め行っておくことで、処理能力の低いカラオケ装置においても自然な音程変更を行うことが可能となる。さらに、楽曲データのうち再生すべき発音情報を決定する決定処理についても再生前の適宜タイミングで予め行うことでカラオケ装置の処理負担を抑えることが可能となる。
【0017】
また、楽曲データのうち再生すべき発音情報について、再生すべき発音情報の音量を決定することで、不足する音色をより正確に補うことが可能となり、さらに自然な音程変更を行うことが可能となる。
【0018】
さらに、カラオケデータ内に予め生音データに対して適用するフィルタ特性と、音程毎に再生すべき発音情報が対応付けられた楽曲データを用意しておくことで、カラオケ装置における処理量を削減し、処理能力の低いカラオケ装置においても生音データ再生時における音程変更を自然なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る音程変更前のスペクトル特性を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係る音程変更後のスペクトル特性を示す図。
【図3】本発明の実施形態に係るカラオケ装置のブロック図。
【図4】本発明の実施形態に係るカラオケデータのデータ構成を示す図。
【図5】本発明の実施形態に係るカラオケ装置の信号処理経路を示す経路図。
【図6】本発明の実施形態に係る発音情報決定処理を示すフロー図。
【図7】本発明の他の実施形態に係るカラオケデータのデータ構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1、図2を用いて、本発明の原理について説明を行う。本実施形態では、例えば、人声と楽器音が混合された生音データにおいて音程変更を行うことを前提としている。生音データの種類としては、実際の歌唱、演奏を録音したPCMデータ、MPEGオーディオデータなどが用いられる。このような生音データは、MIDIデータに基づく電子楽器音と比較して高音質な再生音を確保することが可能である。
【0021】
カラオケ装置では、歌唱者の発声音域に合わせて音程変更を行う機能が備えられている。楽曲の再生音の音程を自分の発声音域に合わせることで歌唱を容易にすることが可能である。MIDIデータのような楽曲データを利用した場合には、音質を劣化することなく音程変更を行うことが可能である。しかしながら、生音データの音程変更を行った場合、特に、固定フォルマント特性を有する人声などの音色は、単純に音程変更しただけでは、その音色らしさが失われることとなり、聴感上の違和感を生じることとなる。
【0022】
そのため、本実施形態では、音程変更後の生音データに対し、音程変更前のフォルマント特性を維持するためのフィルタ処理を施すことで、音程変更後においても違和感のない再生音とすることを特徴としている。図1は、本発明の実施形態に係る音程変更前のスペクトル特性であって、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性を生成する様子を示した図である。本実施形態では、分かり易くするため、人声と楽器音の2つの音色で構
成された生音データについて検討してみる。
【0023】
図1(a)は、音程変更前の生音データには、人声のスペクトルとバイオリンのスペクトルが混在した状態となっている。本実施形態は、この人声とバイオリンのスペクトルが混在したスペクトルの包絡を、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性としている。フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性としては、このようにスペクトルの包絡をとることだけに限らず、各種周知の形態を採用することができる。図1(b)は、フィルタ特性取得の様子を示した図であり、人声のみならずバイオリンのスペクトルも含む形で包絡がフィルタ特性として取得されている様子が見てとれる。
【0024】
図2は、本発明の実施形態に係る音程変更後のスペクトル特性を示す図である。図2(c)は、図1で説明した生音データに対して音程変更を行ったスペクトル特性を示した図である。この例では、生音データの周波数を約1.5倍にしたものとなっており、各スペクトルの値は、それぞれ線形的に1.5倍となっていることがみてとれる。図2(c)のままでは、固定フォルマント特性を有する人声が聴感上、不自然なものとなってしまう。そのため、本実施形態では図1(b)にて抽出したフィルタ特性を適用することで、固定フォルマント特性を有する音色を自然なものとしている。
【0025】
図2(d)は、フィルタ特性を適用した音程変更後のスペクトル特性が示されている。このように、固定フォルマントの音色を考慮したフィルタ特性を適用することで、当該音色に対しては自然な可聴音とすることが可能となる。一方、バイオリンのスペクトル特性に着目してみると、このフィルタ特性を利用したことで、バイオリンのスペクトルが大きく削られていることがみてとれる。このように生音データは、複数の音色を分離不可能に含んだデータであるが故、一方の音色に便宜を図ると、他方の音色に不都合が生じてしまう。本実施形態では、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性にて固定フォルマントの音色を自然なものとしつつ、当該フィルタ特性を適用することで不足する音色に対しては、MIDIデータのような楽曲データにて補うことを基本としている。
【0026】
図2(e)は、フィルタ特性を適用した音程変更後の生音データに対し、MIDI音源にて再生したバイオリンの音色にて補った場合のスペクトル特性が示されている。MIDI音源によるバイオリン音色のスペクトルは、生音に含まれるバイオリンのスペクトルとは別の個体であるので、図中Aで示される本来の生音にはないスペクトルが生じる場合もある。このように、本実施形態では、音程変更後の生音データに対し、フィルタ特性を適用することで、固定フォルマント的な音色を自然なものとしつつ、当該フィルタ特性を適用したことで消失、あるいは、不足する音色を楽曲データの再生音で補い、全体として違和感のない再生音を生成することが可能となる。
【0027】
図3は、本発明の実施形態に係るコマンダ(カラオケ装置)300、及び、その周辺の構成を示すブロック図である。
【0028】
コマンダ300は、CPU302、ROM305、RAM306等で構成された制御部を中心として、カラオケデータ等、各種情報を記憶する記憶部としてのハードディスク304、外部通信網と通信を行う通信部301、各種入力を行うための入力部307、映像表示装置としてのディスプレイ装置404に映像信号を出力する表示制御部303、MIDIデータのような発音情報に基づいて再生を行うMIDI音源308(楽曲再生部)、DAコンバータなどを用いてPCM音声、MPEG音声のような生音データを再生する生音再生部309、MIDI音源308の再生音と、生音再生部309の再生音をミキシングするミキシング部310を含んで構成されている。
【0029】
また、コマンダ300の外部構成としては、表示制御部303からの映像信号を表示す
るためのディスプレイ装置404、歌唱のためのマイクロホン403、403'、コマン
ダ300から出力された再生信号とマイクロホン403、403'からの音声をミキシン
グしてスピーカー402に出力するミキシングアンプ401が設けられている。
CPU302を含んで構成された制御部は、コマンダ300におけるシステム全体の制御を行う。ハードディスク304には、カラオケデータの他、背景映像表示のための映像情報、各種プログラムなどが記憶されている。
【0030】
通信部301は、周知の有線LANなどが用いられ、店舗内のネットワークや、インターネットなど各種通信網に接続された各種機器との間で情報の授受を行うことが可能である。この通信部301にて、例えば、ホスト装置から受信したカラオケデータをハードディスク304に格納する配信機能や、コマンダ300の利用履歴(ログ情報)などをホスト装置に送信する履歴送信機能を実現することが可能となる。また、通信部301を介してコマンダ300の遠隔制御を行うこととしてもよい。例えば、無線LANを利用したリモコン装置を利用し、無線ルータを介してこの通信部301と接続することで、従来の赤外線を利用したリモコン装置と比較し、遮蔽物を気にすることのない制御が可能になるとともに、通信部の集約を図ることが可能となる。
【0031】
入力部307は、フロントパネルなどに設けられた各種スイッチ群、あるいは、図示しないリモコン装置からの制御信号を受信するための受信部であり、予約選曲、音程コントロールなど各種機能を設定可能としている。
【0032】
表示制御部303は、制御部と連携し、ハードディスク304に記憶されているカラオケデータ中の歌詞情報に基づいて歌詞映像を作成する。そして、映像情報に基づいて背景映像を作成し、背景映像に歌詞映像を重畳した出力映像信号をディスプレイ装置404に出力する表示制御を行う。その他、表示制御部303は、各種コンテンツ、広告情報などをディスプレイ404にて表示するための表示制御を行うこととしてもよい。
【0033】
MIDI音源部308は、MIDIなど、各種規格に基づく発音情報に基づいて音声信号を形成する再生手段として機能する。周知の電子楽器と同様、音程変更が指示された場合には、音階の指定をシフトさせることで音質を損なうことなく音程変更することが可能である。
生音再生部309は、PCM、MPEG音声などの生音データを再生可能な再生手段である。また、音程変更が指示された場合には、各種周知の手法に基づいて生音データの音程を変更して再生を行う。
【0034】
ミキシングアンプ401は、コマンダ300から出力される再生信号と、マイクロホン403から入力される歌唱者の歌唱音声信号を適宜なバランスで混合・増幅する。混合された信号は、スピーカー402から放音される。
【0035】
本実施形態では、このようなコマンダ300(カラオケ装置)を利用し、カラオケデータを再生して歌唱を楽しむことが可能となっている。特に、本実施形態では、生音再生部309を備えたことで、実際の演奏、歌唱を録音した生音を再生することが可能となっており、高音質な再生音を楽しむことができる。
【0036】
図4は、各種カラオケデータのデータ構成を模式的に示した図である。図4(a)は、楽音データが楽曲データ(MIDIデータ)のみで構成された、従来のカラオケデータのデータ構成を、図4(b)は、本発明の実施形態で使用する、楽音データに生音データと楽曲データ(MIDIデータ)とを含むカラオケデータのデータ構成を示した図である。
【0037】
図4(a)に示されるカラオケデータは、従来、MIDI音源308のみで音声信号を
再生するカラオケデータのデータ構成を示したものであって、楽曲の名称を表示、あるいは、楽曲の検索に用いるためのタイトルデータ、歌唱のガイドとして歌詞を表示するためのテロップデータ、ディスプレイ装置に背景画像を表示するための背景画情報、音声信号を発声するための楽音データを含んで構成されている。特に、楽音データは、各種設定を記録可能とするヘッダと、複数の音色トラックからなるMIDIデータ(楽曲データ)にて構成されている。MIDIデータは、複数の発音情報(音符に相当)の並びにて構成され、この発音情報をシーケンスして発音することで音声信号の再生を行うことが可能となっている。
【0038】
図3で説明したコマンダ300(カラオケ装置)において、入力部307などを介して選曲が実行されると、選曲された曲に対応するカラオケデータがハードディスク304などから読み出される。読み出されたカラオケデータ(この場合図4(a)に示すもの)のうち、楽曲データは、MIDI音源308に供給されて再生される。また、背景画指定情報に基づいて、ハードディスク304などに記憶されている背景映像データが読み出され、表示制御部303に供給される。そして、テロップデータは、表示制御部303に供給され、ディスプレイ装置404に背景映像に重畳された状態で歌詞が表示される。歌詞の表示は楽曲データに同期して表示されることとなり、歌唱者はディスプレイ装置404に表示された歌詞を見ながら歌唱を楽しむことができる。
【0039】
以上、従来のMIDIデータにて構成されたカラオケデータについて説明したが、次に、本発明の実施形態にて使用するカラオケデータ、並びに、その再生について説明する。図4(b)は、図4(a)と同様、MIDIデータも含んで構成されているが、このMIDIデータは、音程変更の際に用いられる補助的データである。タイトルデータなど楽音データ以外のデータ、並びに、その再生は、略図4(a)のものと同様である。
【0040】
まず、音程変更が指定されない場合の再生について説明する。音程変更がない場合には生音データを音程変更することなく生音再生部309にて再生を行う。生音データには、基本的に全てのパートの演奏が含まれているため、この生音データのみを再生することで演奏が成立する。なお、ドラムパートのような無音程楽器の音色については、MIDIデータ、あるいは、別トラックの生音データで再生することとしてもよい。音程変更を行う場合、無音程楽器の音色については、音程変更しない制御が可能となり、音程変更時における無音程楽器の発音を自然なものとすることが可能となる。
【0041】
このように、音程変更が指定されない場合には、基本的に生音データのみを再生することで、生音データの高品質な再生音を楽しむことが可能となる。テロップデータ、背景画指定データについては、図4(a)と同様、音声信号の再生に伴って表示される。
【0042】
次に、この図4(b)に示すカラオケデータを用いて音程変更を行う場合について説明する。音程変更が指示されると、当該指示された音程にて生音データの再生を実行する。音程の変更については、各種周知の方法にて実行可能である。このとき、無音程楽器の音色を別トラックで再生する場合は、当該トラックを音程変換することなしに合わせて再生する。
【0043】
本実施形態では、生音データを音程変換して再生する際、固定フォルマント特性を有する音色を自然なものとするため、音程変更前の生音データを解析し、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性を付与することとしている。さらに、フィルタ特性を付与することで不足する音色をMIDI音源308にてMIDIデータを再生することで補うこととしている。図4(b)に記載する楽音データに含まれるMIDIデータは、この不足する音色を補うために設けられたデータである。
【0044】
このようなカラオケデータの再生時において、音程変更が指定されると、生音データの音程を変更して再生するとともに、再生された生音データに対してフィルタ特性が付与される。一方、フィルタ特性と、音程変更後の楽曲データとに基づいて、楽曲データのうち聴感上、不足している発音情報の決定を行い、当該発音情報をMIDI音源308に再生させる。ここで、不足している発音情報は、その発音の有無を決定するだけでもよいし、発音の有無のみならず、どの程度の音量で発音させるかを決定することとしてもよい。発音の音量を制御することで、聴感上より自然な再生音とすることが可能となる。
【0045】
図5は、この図4(b)のカラオケデータを使用し、音程変更を行った場合の楽曲再生に至るまでの信号処理の経路を示す経路図である。まず、シーケンス部101では、選曲指定された楽曲に対応するカラオケデータが読み出される。生音解析102では、読み出されたカラオケデータのうち、生音データに基づく再生音に基づいて解析を行う。ここでは、固定フォルマント特性を検出するための解析が行われ、続く、フィルタ生成103では、解析結果に基づいてフィルタ情報(フィルタ特性)が生成される。
【0046】
また、音程変更104では、再生された生音データに対して音程変更が実行される。フィルタ適用105では、フィルタ生成103にて生成したフィルタ情報を、音程変更後の生音データの再生音に対して適用し、固定フォルマント特性が維持された再生音が出力される。本実施形態では、生音解析102以降、再生されて音声信号となった生音データに基づいて処理を実行しているが、再生前の生音データについて処理を行い、音程変更され、フィルタが適用された生音データを最終的に再生することとしてもよい。
【0047】
一方、シーケンス部101にて読み出されたカラオケデータに含まれる楽曲データは、発音情報決定106において、フィルタ情報と比較され、不足する発音情報の決定処理が実行される。具体的には、楽曲データに含まれる発音情報とフィルタ特性を、当該発音情報の周波数成分を考慮に入れて比較することで、生音データ中、どの音色がフィルタ特性を適用したことで削られるかを判定することができる。決定された発音情報は、楽曲再生107においてMIDI音源308を用いることで、不足する生音データの音色も含んだMIDIデータが楽曲再生され、フィルタ適用によって生音データが含まれたカラオケデータが楽曲再生されたときに不足する音色を補うこととなる。なお、発音情報106における発音情報の決定は、その有無のみならず、どの程度の音量で発音するかを含めて決定することとしてもよい。
【0048】
フィルタ適用105にて再生された生音データに基づく音声信号と、楽曲再生107にて再生された楽曲データ中の発音情報は、ミキシング部310にてミキシングされ、コマンダ300の再生音として出力されることで、音程変更時でも自然な再生音とすることが可能となる。なお、音程変更された生音データの再生、楽曲データ中、発音することが決定された発音情報の再生については、リアルタイムに同期して行う必要があるが、生音解析102、フィルタ生成103、音程変更104、発音情報決定106については、必ずしも音声信号の再生中に行う必要はなく、再生前に事前に行うこととしてもよい。
【0049】
図6は、発音情報の決定処理を示すフロー図であって、図5で説明した106の処理に相当する処理である。処理が開始(S101)され、フィルタ情報が取得される(S102)と、楽曲進行上、そのフィルタ情報に対応する発音情報が取得される(S103)。S104では、取得された発音情報から音程変更、並びに、発音音色の周波数特性を考慮し、発音周波数が算出される。S105では、算出された発音周波数とフィルタ情報を比較し、フィルタ情報を適用した結果、生音データの再生上不足する発音情報を決定する。
【0050】
本実施形態では、どの程度の音量で発音するかについても決定している。S106では、発音量が0でなければ、S107に進み当該発音情報を決定された音量にて、MIDI
音源308に再生させる。一方、発音量が0、すなわち、当該発音情報については発音の必要が無いと決定された場合には、発音させることなく処理を終了する。このような処理を楽曲データ中の発音情報毎に行うことで、不足する音色を判定し、生音データの再生に対してMIDI音源308による再生で補うことが可能となる。
【0051】
図7は、他の実施形態に係るカラオケデータの楽音データ構成を示す模式図である。本実施形態では、図5にて説明した生音解析102、フィルタ生成103、発音情報決定106をコマンダ300にて実行することなく、予め楽音データ内に必要なデータを記録しておく方式を採用している。本実施形態によればコマンダ300に対する処理負担を抑えることができるとともに、人が実際に聴取してデータを作成することもできるため、より聴感上、自然な再生音とすることが可能となる。
【0052】
本実施形態において、楽音データ内には、生音データ、MIDIデータに加え、フィルタ特性が含まれている。生音データの音程変更時には、このフィルタ特性を適用するだけで、固定フォルマント特性を維持した生音の再生を実行することができる。ヘッダには、音程変更後において、MIDIデータのどの部分を再生するかが各パート毎に記述されている。図では、この様子を模式的に示しており、変更後の音程毎に各パート毎にMIDIデータ中どの部分(発音情報)を再生するべきかが斜線で示されている。
【0053】
音程変更が指定された場合には、このヘッダに記述される再生箇所を参照して、該当する部分のMIDIデータを音程変更してMIDI音源308に再生させることで、音程変更後、そして、フィルタ特性適用後の生音データで不足する音色を補うことが可能となる。なお、再生箇所のみならず、再生すべき箇所(発音情報)について、どの程度の音量で発音するかを含めてもよい。本実施形態では、音程毎にMIDIデータの再生箇所を記述することとしたが、この形態に限らず、音程毎にMIDIデータ自身を記憶することとしてもよい。MIDIデータは生音データなどと比較して極めて小さいデータであるため、音程毎のMIDIデータを含めたとしても、カラオケデータのデータ量が飛躍的に大きくなる心配はない。
【0054】
以上、本実施形態では、フィルタ特性の生成や、楽曲データ中、発音すべき発音情報の決定を行う必要がないため、コマンダ300(カラオケ装置)の処理負担を削減することが可能となる。また、フィルタ特性、発音すべき発音情報の決定、そして、その音量の決定についても、事前に人が聴取して作成、あるいは、調整することができるため、再生音をより自然な者とすることが可能となる。
【0055】
なお、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0056】
300…コマンダ(カラオケ装置)、301…通信部、302…CPU、303…表示制御部、304…ハードディスク、305…ROM、306…RAM、307…入力部、308…MIDI音源、309…生音再生部、310…ミキシング部、401…ミキシングアンプ、402…スピーカー、403…マイクロホン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生音データと、前記生音データに同期する発音情報を含んで構成された楽曲データを含むカラオケデータの再生を行うカラオケ装置であって、
前記生音データに基づいて再生を実行する生音再生部と、
発音情報に基づいて再生を実行する楽曲再生部と、
音程を入力する入力部と、
前記生音データを解析し、フォルマント特性を維持するためのフィルタ特性を生成するフィルタ生成処理と、
前記フィルタ生成処理で生成したフィルタ特性と、前記入力部で入力された音程と、前記楽曲データに基づいて、前記楽曲データのうち再生すべき発音情報を決定する決定処理と、
前記入力部で入力された音程に基づいて、前記生音データの音程を変更して前記生音再生部に再生させるとともに、前記フィルタ生成処理で生成した前記フィルタ特性を適用する生音再生処理と、
前記入力部で入力された音程に基づいて、前記決定処理にて決定した発音情報を前記楽曲再生部に再生させる楽曲再生処理と、を実行する制御部と、を備えたことを特徴とする
カラオケ装置。
【請求項2】
前記決定処理は、前記フィルタ生成処理で生成したフィルタ特性と、前記入力部で入力された音程と、前記楽曲データに基づいて、再生すべき発音情報の音量を決定し、
前記楽曲再生処理は、決定した音量で発音情報を再生させることを特徴とする
請求項1に記載のカラオケ装置。
【請求項3】
前記フィルタ生成処理と、前記決定処理のうち、少なくとも前記フィルタ生成処理は、楽曲データの再生開始前に実行されることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のカラオケ装置。
【請求項4】
生音データと、前記生音データに適用するフィルタ特性と、前記生音データに同期するとともに音程毎に再生すべき発音情報が対応付けられた楽曲データと、を含むカラオケデータの再生を行うカラオケ装置であって、
前記生音データに基づいて再生を実行する生音再生部と、
発音情報に基づいて再生を実行する楽曲再生部と、
音程を入力する入力部と、
前記入力部で入力された音程に基づいて、前記生音データの音程を変更して前記生音再生部に再生させるとともに、前記カラオケデータに含まれるフィルタ特性を適用する生音再生処理と、
前記入力部で入力された音程に基づいて、再生すべき発音情報を前記楽曲再生部に再生させる楽曲再生処理と、を実行する制御部と、を備えたことを特徴とする
カラオケ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−237599(P2011−237599A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108933(P2010−108933)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】