説明

カラムを洗浄する方法、及び膜結合標的分子を抽出する方法

【課題】本発明は、有機洗浄液の残留及び/又は不純物を排除するよう、特には自動化に対する真空プロトコルの適用に対してコラムを洗浄する方法を与えること、及び、該洗浄方法を有する膜結合標的分子を抽出する方法を与えることを目的とする。
【解決手段】カラムを洗浄する方法は、従来の洗浄段階と溶出段階との間において溶出バッファ、水、又は他の予期されるバッファ等である洗浄液を使用することによって特徴付けられ、前の洗浄段階よりカラムにおける残留洗浄液及び/又は不純物を効率的に除去する。追加的な洗浄方法を有する膜結合標的分子を抽出する方法はまた、案出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラムを洗浄する方法、及び、シリカ膜結合核酸、DNA、又はRNA等である膜結合標的分子を抽出する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
市販されている多種の製品は、核酸(DNA/RNA)を単離及び精製するよう、シリカカオトロピック技術に基づく膜カラム(silica chaotropic technology−based membrane columns)(又は、一般的に称されるにはスピンカラム)を採用する。カラムの下方には1つ又は複数の膜が配置され、カラム内の空間は、液体で充填され得る。液体が膜カラムへと装填される際、下方の膜から液体を引き出すよう適切な力が加えられ、引き出された液体は続いて、廃棄されるか、あるいは回収される。一般的には、膜を介して液体を引き出すよう使用される所謂適切な力は、工程が遠心分離機上で操作される際には遠心力であり得、真空マニフォールドが採用される際には大気圧であり得る。
【0003】
一般的に、シリカ膜カオトロピック技術を使用する精製工程は、結合、洗浄、及び溶出という3つの段階を有する。かかる市販の製品に対するハンドブックは、通常、操作者の選択による2つの工程を与える。一方は遠心分離プロトコルであり、他方は真空プロトコルである。遠心分離プロトコルは、真空プロトコルと比較して、より多くの段階を有し且つより長い時間がかかるため、より少ない数のサンプルの処理に対して適切である。しかしながら、遠心分離プロトコルは、カラムにおける液体が各遠心分離工程後により完全に膜を通過し、液体がカラムにおいて殆ど残留しないため、より安定性がある。他方では、真空プロトコルは、操作がより容易であり、遠心分離プロトコルと比較してかかる時間がより短いため、より多くの数のサンプルの処理に対して適切である。しかしながら、真空プロトコルは、通常はカラムにおける液体が各真空工程後に完全には膜を通過せず、カラムにおいてより多くの液体が残り得るため、安定性がない。特には、洗浄段階の終了時において、残留洗浄液が次の溶出段階を汚染し得、溶出される核酸溶液が残留洗浄液を有することになる可能性は、非常に高い。その結果、かかる汚染は、核酸のその後の適用に影響を及し得る。したがって、残留洗浄液を排除するよう洗浄段階後に追加的な遠心分離段階を適用することは、望ましい。しかしながら、真空プロトコルが自動ワークステーションにおいて容易に操作され得るため、追加的な遠心分離段階は、工程全体をより不適当なものにし得る。
【0004】
更には、シリカカオトロピック技術において使用される洗浄液は通常、アルコール等である有機溶媒を有する。洗浄液を使用する主な目的は、核酸と膜との結合状態に影響を及すことなく好ましくない不純物を除去することである一方、通常は水又は低塩溶液である溶出バッファを使用する目的は、膜上で結合される核酸を溶出してその後の適用に対して回収及び使用され得るようにすることである。核酸の適用の中には、少量の有機溶媒に反応し易いものがある。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において使用される試薬が微量のアルコールを有する場合、PCRに対する顕著な抑制作用が有される。あるいは、膜カラムにおける残留有機洗浄液を排除するよう、膜カラムはまた、遠心分離の代わりに加熱され得る。しかし、加熱状態は、最善の状態に調整されなければならない。シリカ膜は、過熱される場合、乾燥しすぎることがあり得、結合核酸が溶出バッファにおいて溶解され得ないことをもたらす。したがって、核酸の収量(yield)が結果的に低減され得る。膜が十分に加熱されない場合、有機溶媒の残留物は排除され得ない。
【0005】
したがって、有機洗浄液の残留を排除するよう、特には自動化に対する真空プロトコルの適用に対して、追加的な遠心分離段階又は加熱段階が必要ではない、カラムを洗浄する方法、及び、シリカ膜結合核酸、DNA、又はRNA等である膜結合標的分子を抽出する方法を案出することは、有益である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、有機洗浄液の残留及び/又は不純物を排除するよう、特には自動化に対する真空プロトコルの適用に対してコラムを洗浄する方法を与える、ことを目的とする。
【0007】
本発明はまた、上述された洗浄方法を有する膜結合標的分子を抽出する方法を与えること、を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、カラムを洗浄する方法は、シリカ膜コラムが核酸、DNA、又はRNA等である膜結合標的分子、及び不純物を有すること、その結果、膜結合標的分子を膜から液体を有さない形状(liquid−free form)まで解放する(release)能力を有する溶出バッファ又は水等である洗浄液でカラムが充填されること、並びに、最終的には、膜を通過しないカラムにおいて残される洗浄液の少なくとも一部分がその後に、次の溶出段階に対して汚れのない膜カラムを残すようカラムから除去されること、を特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様によれば、上述された洗浄方法を有する膜結合標的分子を抽出する方法は、
a) 下方端部において少なくとも1つの膜を有するカラムを用意する段階、
b) 膜結合標的分子及び不純物を有する溶液でカラムを充填する段階、
c) 膜結合標的分子が膜に対して結合され、溶液がカラムから流れ出るよう、膜を介して溶液を引き出す段階、
d) 不純物を除去するよう第1の洗浄液でカラムを充填する一方で、膜結合標的分子を膜上で結合されたまま残す段階、
e) 第1の洗浄液を膜を介し且つカラムを出るよう引き出す段階、
f) 膜結合標的分子を膜から液体を有さない形状まで解放する能力を有する第2の洗浄液でカラムを充填する段階、
g) カラムの上方から第2の洗浄液を除去する段階、
h) 膜結合標的分子を膜から液体を有さない形状まで解放するよう、溶出液でカラムを充填する段階、及び、
i) 膜を介して溶出液を引き出し、膜結合標的分子の採取(recovery)に対して溶出液を回収する段階、
を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の他の目的、利点、及び新しい特徴は、添付の図面を有する本発明の望ましい実施例の詳細な説明から明らかにされる。
【0011】
カラム(又はスピンカラム)における膜は一般的に、液体に対して半透性であり、カラムは、その下方端部において少なくとも1つの膜を有する。カラムが液体で充填される際、該液体は、ブロックされ得、通常は約1分又は数分の間保持され得る。しかしながら、浸透作用の影響により、液体は、依然として降下し得、膜をゆっくりと通過し得る。この現象のために、膜結合標的分子を膜から液体を有さない形状まで解放する能力を有する液体がカラムへと装填される際、結合標的分子は、液体が結合標的分子を自由形状(a free form)に溶解し次第、浸透作用によって下方に引かれる液体を有して膜へと更にもたらされる(brought into the membrane with the liquid)。これにより、自由標的分子が依然としてカラムにおいて保持される液体に戻るよう上方に動く可能性は、殆ど残されない。結果として、標的分子及びカラムにおいて保持される液体は、膜によって分離され、カラムにおける液体が標的分子を殆ど有さないことは、推測され得る。
【0012】
したがって、シリカ又はガラス膜スピンカラム等である膜カラムが、核酸、DNA、又はRNA等である標的分子と結合され、例えば洗浄段階後のカオトロピック塩又は有機洗浄バッファの残留物である非標的分子等の不純物を有する後に、標的分子のその後の適用に適合し得る溶出バッファ又は水等である、膜結合標的分子を膜から液体を有さない形状まで解放する能力を有する洗浄液は、カラムに装填され、標的分子は、洗浄液が結合標的分子を自由形状に溶解し次第、浸透作用によって下方に引かれる洗浄液を有して膜へと更にもたらされる。結果として、標的分子及びカラムにおいて残される液体は、膜によって分離される。したがって、略全ての標的分子は、膜にあるか、あるいは膜を通過している一方、不純物の大半は、依然として洗浄液において有され、カラムにおいて残される。膜を通過しないカラムにおける洗浄液の少なくとも一部が除去されると同時に、不純物も共に除去され、損失される標的分子は、殆どないか少量であり、その後の溶出段階に対して(該段階がある場合は)前の洗浄段階からの汚染を効率的に低減し得る。
【0013】
したがって、上述された洗浄方法を有する膜結合標的分子を抽出する方法は、
a) 下方端部において少なくとも1つの膜11を有するカラム10を用意する段階、
b) 膜結合標的分子及び不純物を有する溶液12でカラム10を充填する段階(図1A参照)、
c) 膜結合標的分子が膜11に対して結合され、溶液12がカラム10から流れ出るよう、膜を11介して溶液12を引き出す段階(図1B参照)、
d) 不純物を除去するよう第1の洗浄液13でカラム10を充填する一方で、膜結合標的分子を膜上で結合されたまま残す段階(図1C参照)、
e) 第1の洗浄液13を膜11を介し且つカラム10を出るよう引き出す段階(図1D参照)、
f) 膜結合標的分子を膜11から液体を有さない形状まで解放する能力を有する第2の洗浄液14でカラム10を充填する段階(図1E参照)、
g) カラム10の上方から第2の洗浄液14を除去する段階(図1F参照)、
h) 膜結合標的分子を膜11から液体を有さない形状まで解放するよう、溶出液15でカラム10を充填する段階(図1G参照)、及び、
i) 膜11を介して溶出液15を引き出し、膜結合標的分子の採取(recovery)に対して溶出液を回収する段階(図1H参照)、
を有する。
【0014】
ゲノムDNAは、QIAGEN社によるQIAGEN QIAamp DNA Blood Miniキットを使用して精製される。簡潔には、5ml管における1.7mlの血液サンプルは、170μlのQIAGENプロテアーゼ及び1.7mlのバッファALと混合され、56℃で16分間放置され、1.7mlのエタノールがサンプルに対して加えられ、20秒間振動撹拌する(振動ボルテックスをする(pulse−vortexing))ことによって再度混合され、続いて、630μlを8 QIAampスピンカラムへと等分し(aliquot 640 μl into 8 QIAamp spin columns)、洗浄段階が継続される。洗浄段階の終了時において、各スピンコラムは、カラムにおける残留洗浄液の量を近似的に判断するよう重量を測られる。スピンコラムの平均重量は、元の重量と比較して25mg+/−に増大される。続いて、サンプルの8つのカラムは、以下の4つの群へと分割される。
【0015】
1. I群においては、200μlの溶出バッファ(AE)は、カラムにおける残留洗浄バッファを更に除去することなくスピンカラムに対して適用され、その後にゲノムDNAを溶出するよう遠心分離段階が続く。
【0016】
2. II群においては、追加的な遠心分離段階は、カラムにおける残留洗浄液を除去するよう有され、スピンカラムが再度重量を測られ、約20mgのカラムにおける残留洗浄液が遠心分離によって除去された。続いて、200μlの溶出バッファ(AE)が加えられ、ゲノムDNAは、他の遠心分離段階によって溶出される。
【0017】
3. III群においては、850μlの水は、スピンカラムへと加えられ、すぐに除去される。最終的に、200μlの溶出バッファ(AE)が加えられ、遠心分離によってゲノムDNAが溶出される。
【0018】
4. IV群においては、850μlのバッファ(AE)は、スピンカラムへと加えられ、すぐに除去される。最終的に、200μlの溶出バッファ(AE)が加えられ、遠心分離によってゲノムDNAが溶出される。
【0019】
各サンプルのDNA量(O.D.260)は、核酸の収量を判断するようフォトスペクトロメータ(光分光計)によって確定される。更に、QuantiTect SYBR Green PCR キット(QIAGEN社)を使用する定量PCR(QPCR)は、GAPDHの検出及び増幅によってQPCRでの異なる洗浄方法の影響を判断するよう用いられる。各サンプルからのゲノムDNAを有する溶出液15μlは、プライマを有するQPCRマスター試薬と混合される。結果は、次の表1において挙げられる。
【0020】
【表1】

図1から、4つの群の収量は、全て互いに近接していることが分かり得、したがって本発明の方法は、核酸生成(preparation)の収量を低減させないと同時に、溶出バッファAE又は水等である追加的な洗浄液を加えること及び除去することは、シリカ膜から核酸を解放する能力を有する。更には、QPCRを使用する前の洗浄段階からのカラムにおける残留洗浄液の阻害作用の分析は、I群がカラムにおける残留洗浄液を除去することなく約27のCt値(Ct values)を有する一方、II群は、カラムにおける残留洗浄液を除去するよう遠心分離を使用して約23のCt値を有する、ことを示す。結果は、カラムにおける残留洗浄液を有するゲノムDNAの共溶出(co−elution)によるQPCRの阻害作用を明らかに示す。III群及びIV群におけるQPCRのCt値は、全て約23であり、II群のCt値に近接しており、本発明の方法が前の洗浄段階からカラムにおける残留洗浄液を効率的に除去し得る、ことを示している。
【0021】
要するに、本発明は、カラムを洗浄する方法、及び膜結合標的分子を抽出する方法に係る。該方法は、前の洗浄段階からカラムにおける不純物又は残留洗浄液を効率的に除去するよう、追加的な洗浄液として溶出バッファ、水、又は他の予期されるバッファを使用することを特徴とする。本発明は、膜カラム又はスピンコラムを使用するシリカ膜カオトロピック技術に対して標的分子(核酸)の収量を低減させることなく、従来の洗浄段階と溶出段階との間における前述された追加的な遠心分離又は加熱段階に取って代わることができると同時に、特には自動化に対して操作が大変容易である。
【0022】
本発明は望ましい一実施例に関して説明されてきたが、当業者は、本発明が添付の請求項の趣旨及び範囲内において修正され得る、ことを認識する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1A乃至図1Hは各々、本発明の望ましい一実施例に従う方法の段階を示す。
【符号の説明】
【0024】
10 カラム
11 膜
12 溶液
13 第1の洗浄液
14 第2の洗浄液
15 溶出液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの膜と、不純物と、膜結合標的分子とを有するカラムを洗浄する方法であって、
前記膜結合標的分子を前記膜から液体を有さない形状まで解放する能力を有する洗浄液は、前記カラムに装填され、続いて、前記膜を通過しない前記カラムにおいて残される前記洗浄液の少なくとも一部分は、前記カラムにおける前記不純物を効率的に除去するよう前記カラムから除去される、ことを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記膜は、シリカ膜又はガラス膜である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記標的分子は、核酸、DNA、又はRNAである、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄液は、溶出バッファである、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄液は、水である、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
膜結合標的分子を抽出する方法であって、
a) 下方端部において少なくとも1つの膜を有するカラムを用意する段階と、
b) 前記膜結合標的分子と不純物とを有する溶液で前記カラムを充填する段階と、
c) 前記膜結合標的分子が前記膜に対して結合され、前記溶液が前記カラムから流れ出るよう、前記膜を介して前記溶液を引き出す段階と、
d) 前記不純物を除去するよう第1の洗浄液で前記カラムを充填する一方で、前記膜結合標的分子を前記膜上で結合されたまま残す段階と、
e) 前記第1の洗浄液を前記膜を介し且つ前記カラムを出るよう引き出す段階と、
f) 前記膜結合標的分子を前記膜から液体を有さない形状まで解放する能力を有する第2の洗浄液で前記カラムを充填する段階と、
g) 前記カラムの上方から前記第2の洗浄液を除去する段階と、
h) 前記膜結合標的分子を前記膜から液体を有さない形状まで解放するよう、溶出液で前記カラムを充填する段階と、
i) 前記膜を介して前記溶出液を引き出し、前記膜結合標的分子の採取に対して前記溶出液を回収する段階と、
を有する、方法。
【請求項7】
前記膜は、シリカ膜又はガラス膜である、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記標的分子は、核酸、DNA、又はRNAである、
請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記第1の洗浄液は、有機体である、
請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記第2の洗浄液は、溶出バッファである、
請求項6記載の方法。
【請求項11】
前記第2の洗浄液は、水である、
請求項6記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−45056(P2009−45056A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8100(P2008−8100)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(508017111)タイゲン バイオサイエンス コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】