説明

カラム充填剤、これを用いたカラムおよび分離方法

【課題】試料中に含まれる8−OHdGを簡便で確実に分離する。
【解決手段】8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)の分離に用いられるカラム充填剤であって、官能基として炭素数6以上30以下の直鎖の炭化水素基を有し担体表面の炭素含有量が元素比で18%以下である材料により構成された充填剤を含み、充填剤が、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子数として1累積%以上20累積%以下含む、カラム充填剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラム充填剤、これを用いたカラムおよび分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)は、酸化ストレスマーカーとして知られ、酸化的DNA損傷のマーカーとして広く用いられている。細胞中のDNA構成成分である2−デオキシグアノシンが酸化ストレスに曝されると、活性酸素種・フリーラジカルと反応し、反応生成物として8−OHdGが、体液中、特に尿中に排泄される。
【0003】
体液中の8−OHdG濃度の上昇は、一般的には、環境化学物質、紫外線、電離放射線等による外因性の活性酸素発生と、ガンや生活習慣病を引き起こすライフスタイルの乱れ等による内因性の活性酸素発生とによって引き起こされることが知られている。具体的事例としては、大腸ガン、肺ガン、小児ガン、糖尿病、慢性肝炎、冠動脈疾患、アルツハイマー病、アトピー性皮膚炎、喫煙、飲酒に関して、8−OHdG濃度の増加が報告されている。これに対して、ビタミンE、ビタミンC、β−カロチン、クルクミン、緑茶、赤ワイン、トマトソース、芽キャベツ摂取による8−OHdG濃度の低下が報告されている。その他、運動による活性酸素生成に伴うDNA損傷の程度を検出する目的での研究も進められている。
【0004】
8−OHdGの測定方法としては、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)に接続した電気化学検出器(electrochemical detector:ECD)による測定(HPLC−ECD法)が挙げられる。
また、HPLC−ECD法による8−OHdGの測定に先立ち、試料中の8−OHdGを分離、濃縮する技術として、特許文献1に記載のものがある。同文献には、カラムクロマトグラフィー法を用いて8−OHdGを分離・濃縮することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−121271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、体液等の試料中からクロマトグラフィー法を用いて8−OHdGを分析する技術について本発明者がさらに検討したところ、試料によっては、カラムクロマトグラフィー後のHPLC−ECD測定において、8−OHdGのピークが他成分のピークと重なる場合があることが明らかになった。
【0007】
本発明は、試料中に含まれる8−OHdGと夾雑物とをさらに簡便で確実に分離する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)の分離に用いられるカラム充填剤であって、
官能基として炭素数6以上30以下の直鎖の炭化水素基を有し担体表面の炭素含有量が元素比で18%以下である材料により構成された充填剤を含み、
前記充填剤が、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子数として1累積%以上20累積%以下含むカラム充填剤が提供される。
【0009】
また、前記に記載の8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)の分離に用いられるカラム充填剤であって、
さらに、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子数として65累積%以上99累積%以下含む、カラム充填剤、または、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子数として78累積%以上99累積%以下含む、カラム充填剤が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記本発明におけるカラム充填剤を含む、カラムが提供される。
【0011】
本発明においては、8−OHdG分離用のカラム充填剤として、官能基として炭素数6以上30以下の直鎖の炭化水素基を有するとともに担体表面すなわち当該充填剤表面の炭素(C)の割合が、当該表面全体に含まれる元素の合計に対する元素比で18%以下である充填剤を用いる。この充填剤は、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子を特定の割合で含むように構成されている。または、前記フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子と円相当径20μm以上100μm以下の粒子とを特定の割合で含むように構成されている。これにより、試料中に含まれる8−OHdGと夾雑物とを簡便で確実に分離し、分析の際に8−OHdGのピーク近傍に当該夾雑物のピークが重なってしまうことを抑制できる。
円相当径20μm以上100μm以下の粒子の割合を粒子数として65累積%以上99累積%以下とすることにより、試料中の8−OHdGを吸着剤に確実に吸着させ、分離を効率よく行うことができる。
また、円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子の割合を粒子数として1累積%以上20累積%以下とすることにより、カラム充填剤の比表面積を適度に増加させることができるため、8−OHdGと夾雑物との分離を効率よく行うことができる。
【0012】
本発明のカラム充填剤において、フロー式粒子像分析装置で測定したときに、前記充填剤が、円相当径35μm以上60μm以下の粒子と円相当径10μm以上35μm以下の粒子との重量比が、80:20〜95:5の範囲にあってもよい。こうすることにより、8−OHdGの回収率をさらに向上させることができる。
【0013】
なお、分離された8−OHdGの測定方法に特に制限はないが、たとえば、電気化学的反応を利用することができる。
【0014】
また、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明によれば、上述した本発明のカラム充填剤を用いて8−OHdGを分離する方法であって、
前記充填剤に液体試料を接触させて、前記8−OHdGを前記充填剤に吸着させるステップと、
前記ステップの後、前記充填剤に溶出液を接触させて、前記充填剤に吸着した前記8−OHdGを溶出し、回収するステップと、
を含む、分離方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、試料中に含まれる8−OHdGを簡便で確実に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例における8−OHdGの分離手順を説明する図である。
【図2】実施例における8−OHdGの分離手順を説明する図である。
【図3】実施例における8−OHdGの分離に用いた充填剤のフロー式粒子像分析装置による測定結果を示す図である。
【図4】実施例における8−OHdGの測定結果を示す図である。
【図5】実施例における8−OHdGの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通の構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0018】
(第一の実施形態)
本実施形態においては、カラム充填剤について説明する。
本実施形態におけるカラム充填剤は、8−OHdGの分離に用いられる。このカラム充填剤は、官能基として炭素数6以上30以下の直鎖の炭化水素基を有し担体表面の炭素(C)の割合が元素比で18%以下である材料により構成された充填剤を含む。この充填剤は、官能基として炭素数6以上30以下の直鎖の炭化水素基を有するとともに、担体表面の炭素(C)の割合(以下、「C%」とも呼ぶ。)が元素比で18%以下である材料により構成されているため、8−OHdGを吸着して捕捉する疎水性吸着体として機能する。
【0019】
本実施形態において、充填剤により一層好適な8−OHdG保持力を持たせる観点から、炭化水素基の炭素数は6以上30以下、好ましくは8以上22以下、さらに好ましくは10以上20以下とする。
【0020】
充填剤は、たとえば逆相系充填剤であり、その材料として、さらに具体的には、オクタデシル(ODS)基を化学結合させたシリカゲルが挙げられる。このとき、オクタデシル(ODS)基を化学結合させたシリカゲルにおけるシリル化剤の結合様式は、シリル化剤がシリカゲル中のシラノール基と1対1で結合している様式、つまりモノメリックな結合様式とするとよい。これにより、逆相系充填剤が過度に疎水性とならないようにすることができる。
また、充填剤をさらに好適な疎水性を有する逆相系充填剤とする観点から、C%は、18%以下、好ましくは15%以下とする。
【0021】
また、本実施形態における充填剤は、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子を粒子数として1累積%以上20累積%以下含む。また、さらに上記装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子を粒子数として65累積%以上99累積%以下含んでいてもよく、もしくは、78累積%以上99累積%以下含んでいてもよい。円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子を特定の割合で配合すること、または、円相当径が0.5μm以上10μm以下の粒子と円相当径20μm以上100μm以下の粒子とを上記特定の割合で配合することにより、試料中に、8−OHdGと近接する位置にピークが出現する夾雑物、つまり、分子量や性質等の性状が8−OHdGとわずかに異なる夾雑物が含まれている場合にも、これらを簡便で確実に分離することができる。このため、8−OHdG測定の確度を向上させることができる。この理由としては、粒子径が異なる粒子を特定の比率で配合することにより、大きな粒子の間に小さな粒子が入り込み、単位体積あたりの充填剤の表面積が最大となり、8−OHdGの吸着効率が向上することが考えられる。
【0022】
8−OHdGの分離を効率よく行う観点から、円相当径20μm以上100μm以下の粒子の割合を65累積%以上とする。また、8−OHdGを確実に分離する観点では、円相当径20μm以上100μm以下の粒子の割合を99累積%以下とする。
また、充填剤の比表面積を増加させて8−OHdGを確実に分離する観点では、円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子の割合を1累積%以上とする。また、分離に要する時間を短縮し、分離を効率よく行う観点から、円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子の割合を20累積%以下とする。
【0023】
さらに8−OHdGの分離を効率よく行う観点から、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子を粒子数として含む割合は、好ましくは4累積%以上19累積%以下、さらに好ましくは4累積%以上13累積%以下、特に好ましくは6累積%以上13累積%以下である。また、上記装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子を粒子数として含む割合は、好ましくは68累積%以上95累積%以下、さらに好ましくは78累積%以上93累積%以下、特に好ましくは85累積%以上91累積%以下である。
【0024】
なお、フロー式粒子像分析装置は、測定対象の粒子を含む試料が流れるフローセルにストロボ光等の光を照射して、通過中の粒子の画像を取得し、画像解析により円相当径等の粒子形状を示すパラメータを算出する装置である。実際には隋円形などに崩れた粒子が存在するため、円相当径とは、実際に測定した粒子の粒子投影面積と同じ投影面積を持つ球を想定し、その球の直径と定義している。フロー式粒子像分析装置の具体例としては、シスメックス社製FPIA−3000が挙げられる。
【0025】
また、フロー式粒子像分析装置で測定したときに、円相当径35μm以上60μm以下の粒子と円相当径10μm以上35μm以下の粒子との重量比が、80:20〜95:5の範囲にあってもよい。このようにすれば、8−OHdGの回収率をさらに向上させることができる。円相当径40μm以上60μm以下の粒子と円相当径10μm以上30μm以下の粒子との重量比は、8−OHdGの回収率と分離時間とのバランスを向上させる観点から、好ましくは90:10とする。
【0026】
(第二の実施形態)
本実施形態においては、第一の実施形態に記載のカラム充填剤を含むカラムについて説明する。
本実施形態におけるカラムは、第一の実施形態に記載のカラム充填剤を所定の方法で充填することにより得られる。たとえば、粒径20μmの粒子と粒径50μmの粒子を、90:10等の重量比で均質になるように混合し、充填してもよい。
【0027】
また、充填の際に、フロー式粒子像分析装置を用いて粒度分散性の評価を行い、充填剤が均一に混合していることを確認してもよい。こうすれば、カラム中に粒子径の異なる粒子を充填する場合にも、混合状態のばらつきを抑制することができる。よって、粒径の異なる粒子の配合比率が一定のカラムを安定的に得ることができる。得られたカラムは、8−OHdGの分離カラムとして好適に用いられる。また、8−OHdGの定量に用いられる前処理カラムとしても好適に用いられる。
【0028】
以下、本実施形態のカラムを用いた8−OHdGの分離方法を説明する。
この分離方法は、本実施形態のカラムに液体試料を導入し、8−OHdGを充填剤に吸着させるステップと、上記ステップの後、カラムに溶出液を導入し、充填剤に吸着した8−OHdGを溶出させて、回収するステップと、を含む。この方法は、具体的には以下のステップ11およびステップ12の手順で行われる。
【0029】
さらに、本実施形態では、クロマトグラフィーの組み合わせにより、試料中の8−OHdGを分離および濃縮する。この分離方法は、逆相クロマトグラフィー(以下のステップ11〜12)および陽イオン交換クロマトグラフィー(以下のステップ13〜14)を順次行う方法であって、以下のステップを含む。
ステップ11:液体試料を、第一の実施形態におけるカラム充填剤を含むカラム(第一カラム)に導入し、カラム充填剤に接触させる。
ステップ12:第一カラムに所定の液体を流してカラム充填剤への吸着物を溶出させ、8−OHdGを含む溶出液を得る。
ステップ13:ステップ12で得られた溶出液を陽イオン交換カラム(第二カラム)に導入する。
ステップ14:第二カラムに所定の液体を流し陽イオン樹脂への吸着物を溶出させ、8−OHdGを含む溶出液を得る。
【0030】
ステップ11で用いる液体試料の具体例としては、尿、血液、唾液等の体液が挙げられる。以下、試料が尿である場合を例に説明する。採取する尿の量は、測定をより確実に行う観点から、たとえば0.5mL以上50mL以下、好適には1.0mL以上10mL以下、より好適には1.5mL以上5.0mL以下とする。採取された原尿そのものを使うことが可能である。また、実施例(図1)で後述するように、尿を所定の緩衝液または水で希釈して用いてもよい。尿は採取後直ちに濃縮されることが好ましいが、数時間から数日後であってもよい。
【0031】
ステップ11では、第一カラムの充填剤の材料と移動相との組み合わせとして、たとえばオクタデシル(ODS)基を化学結合させたシリカゲルと水−アセトニトリル混合溶媒の組み合わせが用いられる。なお、逆相クロマトグラフィーは、固定相が移動相より、極性の小さい系であり、この系では、溶質は疎水性結合により固定相に捕捉され、疎水性の大きい溶質ほど遅れて溶出する。本実施形態において、予めコンディショニングされた充填剤と体液サンプル(尿)とを接触させる。充填剤のコンディショニングは、水およびアルコールで充分に行う。
【0032】
その後、所定の緩衝液等を洗浄液として第一カラムに流し、非捕捉物質の洗い流しを行う。なお、非捕捉物質としては、第一カラムの充填剤に捕捉されない夾雑物、または、8−OHdGの測定を阻害する夾雑物が挙げられる。洗浄液のpHは、たとえば5.5以上8.5以下、好ましくは6以上8以下、より好ましくは6.5以上7.5以下とする。洗浄液は、上記pH範囲に調節された緩衝液(たとえば、リン酸緩衝液)であって、たとえば0%(W/V)以上5%以下、好ましくは1%以上4%以下、より好ましくは1%以上3%以下の溶媒を含む。溶媒の具体例としては、エタノール、アセトニトリル、メタノール等が挙げられる。また、洗浄液の量は、カラムの大きさやサンプル濃度に応じて適宜設定されるが、非捕捉物質をより確実に除去する観点から、たとえば1mL以上100mL以下、好ましくは1mL以上50mL以下、より好ましくは1mL以上20mL以下の液量とする。
【0033】
洗浄後、ステップ12において、所定の緩衝液等を溶出液として第一カラムに流し、溶出液中に充填剤への吸着物を溶出させる。これにより、目的物質である8−OHdGが溶出した液体が得られる。溶出液は、たとえば洗浄液の例として前述した緩衝液であって、エタノール、アセトニトリル、メタノール等を5%(W/V)濃度以上に含有する。溶出液(緩衝液)の濃度は、たとえば5%(W/V)以上20%以下、好ましくは6%以上10%以下とする。溶出液としては、たとえば2.5mL以上10mL以下の量を第一カラムを通液させ、1.5mLから2.5mLにかけて溶出する1mLを回収する。なお、溶出液量および回収液量は使用するカラムの大きさ、サンプル量等に応じて、実験的に設定することができ、適宜増減可能である。
【0034】
ステップ13では、回収された8−OHdGを含むサンプルを陽イオン交換カラム(第二カラム)に導入する。第二カラムは、好ましくは強酸性陽イオン交換体とする。サンプル中の夾雑物を第二カラム中の陽イオン交換体に吸着させ、目的の8−OHdGを回収する。陽イオン交換体としては、公知のイオン交換体を利用でき、特に限定されるものではない。好適な陽イオン交換体としては、強酸性陽イオン交換体が挙げられ、さらに具体的には、スルフォン酸基を導入した交換体が挙げられる。スルフォン酸基の具体例として、たとえばベンゼンスルフォン酸基等が挙げられる。
【0035】
サンプルと陽イオン交換体との接触方法は特に限られず、バッチ法でもカラム法でもよいが、少量のサンプルの場合にも効率よく8−OHdGを濃縮する観点から、カラム法が好適である。第一カラムから溶出された8−OHdGを含むサンプル(たとえば、1mL程度)を、第二カラム中の陽イオン交換体と接触させる。陽イオン交換体は、予めコンディショニングされ、充分な水およびアルコールでの処理、所定の緩衝液で平衡化しておく。緩衝液として、たとえばpH5.5以上8.5以下、好ましくは6.0以上8.0以下、より好ましくは6.5以上7.5以下に調節されたリン酸緩衝液が挙げられる。また、この緩衝液は、たとえば6%(W/V)以上、好ましくは7%以上、より好ましくは8%の溶媒を含有する。溶媒としては、エタノール、メタノール等のアルコール類や、アセトニトリルが挙げられる。溶媒(たとえば、エタノール)の濃度は、第一カラムからの溶出液中のエタノール等の濃度以上とする。すなわち、その濃度は、たとえば5%以上40%以下、好ましくは6%以上30%以下、より好ましくは7%以上30%以下が一般的である。
【0036】
カラム法の場合、ステップ13でコンディショニングされた陽イオン交換体にサンプルを流し、ステップ14で展開液によって展開を行う。展開液として、たとえば上記コンディショニングに用いられる溶液と同じもの、または略同一のものが用いられる。展開液の使用量は、たとえば1mL以上10mL以下とし、このとき、0.5mLから2.0mLにかけて溶出する選択された約1.5mLを回収する。なお、展開液の量および回収液の量は、使用するカラムの大きさ、サンプル量等に応じて実験的に設定でき、適宜増減できる。
【0037】
回収された液体中には、8−OHdGが濃縮されており、8−OHdGの定量に供することができる。なお、8−OHdGの定量前に回収液中の溶媒を、適宜除去してもよい。
また、ここでは、サンプルを流した後、ステップ14で展開液を流して8−OHdGを回収する手順を例示したが、実施例で後述するように、第二カラムについても、サンプルを流した後、洗浄および溶出により、8−OHdGを回収してもよい。
【0038】
次に、8−OHdGの定量方法を説明する。定量方法の具体例としては、HPLCによる測定が挙げられ、電気化学的反応を利用して8−OHdGを検出する。具体的には、電気化学的反応により、8−OHdGの酸化または還元に伴う電流を検出し、8−OHdGの濃度を算出する。検出装置に特に制限はなく、たとえば、電流検出型化学センサを用いてもよい。センサの作用極は、たとえば白金やカーボンなどの導電体電極とし、参照極の材料は、銀/塩化銀電極等とする。作用極と参照極との間に所定の電位を印加すると、8−OHdG量に応じた電流が発生する。このときの測定条件は、作用極、対極の二電極測定が好ましく、より正確な測定をするためには作用極、対極、参照極の三電極測定が特に好ましい。
【0039】
以上の手順により、試料中の8−OHdGを分離および濃縮し、定量することができる。本実施形態では、第一の実施形態で前述した充填剤を含むカラムを第一カラムとして用いるため、HPLC分画において、8−OHdGのピークが単一ピークとして確認でき、夾雑物のピークと重ならないようにすることができる。
【0040】
なお、以上においては、尿中の8−OHdGを測定する場合を例に説明したが、血清中の8−OHdG測定の場合は、8−OHdGの正常値が尿中の100分の1程度であるため、ステップ14の後、定量前に、濃縮操作を行ってもよい。たとえば、血清サンプルを50℃のヒートブロックにセットし、窒素気流下で溶媒を飛ばすなど、100倍の濃縮操作を追加することで、測定時に血清中の8−OHdGのピークが明瞭に観察できる。
【0041】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0042】
たとえば、以上の実施形態におけるカラム充填剤の使用態様は、カラムに充填して用いられる場合には限られず、バッチ法による分離等に用いることもできる。以上の実施形態における充填剤を用いた分離方法は、充填剤に液体試料を接触させて、8−OHdGを前記充填剤に吸着させるステップと、上記ステップの後、充填剤に溶出液を接触させて、充填剤に吸着した前記8−OHdGを溶出し、回収するステップと、を含む。
また、以上の実施形態における充填剤は、性質が異なるカラム担体(たとえば、ODSとシリカゲル)を二種類以上配合したC−18カラムや、強陽イオンカラムによる固相抽出カラム等にも適用することができる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例では、第二の実施形態に記載の方法を用いて尿中の8−OHdGの分離を行った。このとき、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径35μm以上60μm以下の粒子とフロー式粒子像分析装置で測定される円相当径10μm以上35μm以下の粒子との配合比の異なる充填剤を準備し、分離への影響を評価した。図1および図2は、8−OHdGの分離手順を説明する図である。図1および図2に示した手順においては、以下のBufferを用いた。
Buffer1:80mMリン酸緩衝液(pH7.0、4mM EDTA)
Buffer2:10mMリン酸緩衝液(pH7.0)
【0044】
(第一カラム)
第一カラムの充填剤として、粒径50μmの粒子と粒径20μmの粒子との配合比の異なる以下の4種類の充填剤(例1〜例4)を準備した。粒径50μmの粒子と粒径20μmの粒子として、それぞれ、YMC社製ODS−AQの50μmおよび20μmサイズを用いた。これらを、例1〜例4に記載の重量比で均質になるように混合して、例1〜例4の充填剤を得た。
例1 50μm:20μm=100:0
例2 50μm:20μm=95:5
例3 50μm:20μm=90:10
例4 50μm:20μm=80:20
【0045】
ここで、前記第一カラムの充填剤の粒径の測定方法は、以下のとおりである。一般的に本カラムの充填剤のような材料は、沈降法もしくはコールター法によって粒径を測定する。沈降法とは、所定の粘性の溶媒中に粒子を懸濁し、重力加速度もしくは遠心力による大きな加速度を利用してセル内で粒子サイズごとに沈降分離して、光検出系でセル全体を走査し、位置による粒子濃度分布パターンから経時変化による沈降パターンを解析し、粒径を求める方法である。一方、コールター法は、電気抵抗を利用した粒子測定原理で、粒子が細孔を通過する際に生じる、2電極間の電気抵抗の変化を測定する。この電気抵抗は、通過する粒子の体積に正確に比例している。細孔を通して流れるサンプル懸濁液の量は精密に制御されていて、粒子の正確な体積から粒径と濃度を測定することができる。実際には、粒径の大きさに適した測定方法が選択されており、本実施例の場合は50μmの粒径の場合が沈降法、20μmの粒径の場合はコールター法が選択されている。
【0046】
例1〜例4の充填剤は、いずれも、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子を粒子数として1累積%以上20累積%以下含み、上記装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子を粒子数として65累積%以上99累積%以下含んでいた。充填剤のフロー式粒子像分析結果の例として、例3の充填剤の測定結果を図3に示す。図3は、例3の充填剤のフロー式粒子像分析結果の円相当径と累積%との関係を示す図である。また、下記表1に例1〜例4の測定結果を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
例1〜例4の充填剤について、それぞれ充填剤を800mg充填したカラムを準備した。
【0049】
(逆相カラム(第一カラム)による尿の分離)
図1は、第一カラムを用いた尿の分離手順を説明する図である。例1〜例4の各第一カラムについて、エタノール、水の順で通液し、活性化を行なった。このカラムに、0.5mLの尿と0.5mLのBuffer1と1mLの純水を混ぜ合わせた合計2mLのサンプルを導入した。そして、洗浄液として、2%エタノールを含有するBuffer2を6.5mL通液させた。
続いて、溶出液として、8%エタノールを含有するBuffer2を0.97mL通液させた部分を捨て、その後0.97mLから1.57mLにかけて溶出する0.6mLを8−OHdG含有フラクションとして回収した。得られたフラクションを、後述する陽イオン交換カラムに供した。
【0050】
(陽イオン交換カラム(第二カラム)による8−OHdGの回収)
図2は、第二カラムを用いた分離手順を説明する図である。第二カラムとして陽イオン交換体(Varian社製、SCX)を250mg充填したカラムを準備し、エタノール、水、8%エタノールを含有するBuffer2を通液し活性化を行なった。
【0051】
上述の手順で得られた8−OHdG含有フラクション(0.6mL)を第二カラムへ添加した。その後、洗浄液として、8%エタノールを含有するBuffer2を0.3mL通液させてカラム内を洗浄した。そして、8%エタノールを含有するBuffer2を0.9mL通液させ、その部分すべてを8−OHdGフラクションとして回収した。
【0052】
(8−OHdGの測定)
以上により回収された8−OHdGフラクションをHPLCシステムへ注入し、8−OHdGの定量を行った。HPLCシステムは、東ソー社製HPLCシステムのように脱気装置(SD−8022)、グラジエント可能なポンプ(CCPM−II)、オートサンプラー(AS−8020)、カラムオーブン(CO−8020)、UV検出器(UV−8020)、電気化学検出器(EC−8020)(ECD)で構成され、分離カラムとして逆相カラムHydrosphere C18(4.6×150mm、5μm、YMC社製)を使用した。移動相としては、10mMリン酸緩衝液(pH 7.0、1mM EDTA、2%アセトニトリルを終濃度として含む)、および同様のリン酸緩衝液で8%アセトニトリルを含有した緩衝液を使用した。この2種類の緩衝液のリニアグラジエントで分析を行なった。8%アセトニトリル溶液が、0分から5分が0%、5分から20分が100%、20分から25分が100%、25分から30分が0%になるようにグラジエントプログラムを行なった。流速は1mL/分、UV検出器の波長は254nm、ECDの印加電圧は+500mV、カラムオーブンは35℃で測定を行なった。なお1測定の時間は洗浄を含めて50分であった。
【0053】
逆相カラムの充填剤として例1〜例4を用いた場合のそれぞれについて、8−OHdGの測定結果を図4に示す。なお、図4中の「前処理時間」は、第一および第二カラムによる処理に要した時間の合計である。
また、逆相カラムの充填剤として例3を用いた場合のHPLC−ECD測定結果を図5に示す。
【0054】
図4より、例1〜例4の充填剤は、いずれも、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下および円相当径20μm以上100μm以下の粒子を特定の割合で含むため、8−OHdGを高い回収率で分離することができた。また、例2〜例4のように、粒径20μmの粒子と粒径50μmの粒子を特定の割合で配合することにより、CV(coefficient of variation:変動係数)をさらに小さくすることができた。
【0055】
また、図5より、円相当径0.5μm以上10μm以下および円相当径20μm以上100μm以下の粒子を特定の割合で含む例3の充填剤を用いた場合には、夾雑物のピークが現れず、8−OHdGのピークが単独で測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)の分離に用いられるカラム充填剤であって、
官能基として炭素数6以上30以下の直鎖の炭化水素基を有し担体表面の炭素含有量が元素比で18%以下である材料により構成された充填剤を含み、
前記充填剤が、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径0.5μm以上10μm以下の粒子数として1累積%以上20累積%以下含むカラム充填剤。
【請求項2】
請求項1に記載の8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)の分離に用いられるカラム充填剤であって、
さらに、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子数として65累積%以上99累積%以下含む、カラム充填剤。
【請求項3】
請求項1に記載の8−ヒドロキシ−2'−デオキシグアノシン(8−OHdG)の分離に用いられるカラム充填剤であって、
さらに、フロー式粒子像分析装置で測定される円相当径20μm以上100μm以下の粒子数として78累積%以上99累積%以下含む、カラム充填剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のカラム充填剤において、
前記充填剤の前記材料が、オクタデシル基を有するシリカゲルである、カラム充填剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のカラム充填剤において、
フロー式粒子像分析装置で測定したときに、前記充填剤が、円相当径35μm以上60μm以下の粒子と円相当径10μm以上35μm以下の粒子との重量比が、80:20〜95:5の範囲にある、カラム充填剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のカラム充填剤を含む、カラム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のカラム充填剤を用いて8−OHdGを分離する方法であって、
前記充填剤に液体試料を接触させて、前記8−OHdGを前記充填剤に吸着させるステップと、
前記ステップの後、前記充填剤に溶出液を接触させて、前記充填剤に吸着した前記8−OHdGを溶出し、回収するステップと、
を含む、分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−222707(P2009−222707A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25600(P2009−25600)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)