説明

カラーフリップフロップ効果を示す樹脂組成物

【課題】成形物の表面が優れたカラーフリップフロップ効果を有する樹脂組成物の提供。
【解決手段】アスペクト比が3以上である無機顔料Aと、一次粒子径の数平均値が150nm以下の無機顔料Bとを含有する樹脂組成物であって、成形物にした時の成形物表面に対する正反射に対する受光角が110°と15°におけるΔa*が10より大きく、および/またはΔb*が10より大きいカラーフリップフロップ効果を示すことを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形物にした時に、該成形物を見る者にカラーフリップフロップ効果を示す樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輛のメタリック塗装において、メタリック顔料を用いたメタリック塗料が使用されている。また、樹脂成形体分野においても受光角度差における明度差ΔLをフリップフロップ効果として、これをメタリックの基準としている。従来のメタリック色では、明度差ΔLが大きいが、色相差ΔaまたはΔbは大きくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−292294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、成形物としたときに成形物表面を見る角度や照明の角度によって、明度差ΔL*が大きく、且つ色相差Δa*またはΔb*も大きいカラーフリップフロップ効果を与える樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、アスペクト比が3以上である無機顔料Aと、一次粒子径の数平均値が150nm以下の無機顔料Bとを含有する樹脂組成物であって、成形物にした時の成形物表面に対する正反射に対する受光角が110°と15°におけるΔa*が10より大きく、および/またはΔb*が10より大きいカラーフリップフロップ効果を示すことを特徴とする樹脂組成物を提供する。
【0006】
上記本発明においては、無機顔料Aが、アルミ粉および無機物でコートしたパール系顔料から選ばれる少なくとも1種であること;および無機顔料Bが、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子酸化スズおよび微粒子酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、樹脂にメタリック色顔料と、これに加えて特定の微粒子酸化物を添加することにより、該樹脂組成物からなる成形物の表面は、ΔL*だけではなくΔa*やΔb*などの色相も変化するカラーフリップフロップ効果が発現することを見いだした。これにより、従来にない陰影のあるメタリック調意匠性樹脂成形物を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】カラーフリップフロップ性を測定する際の参考図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に発明を実施するための形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の樹脂組成物に使用する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、PVC系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン、AS、ABSなどのPS系樹脂、エラストマー系樹脂、PET、PBT、PCなどのポリエステル系樹脂、PA6、PA66などのポリアミド系樹脂、POM、ポリイミド系樹脂などの熱可塑性樹脂およびその混合物が有効である。
【0010】
本発明で使用する無機顔料Aとしては、無機物でコートしたパール系顔料、すなわち、チタンコートマイカ、酸化鉄コートマイカ、無機物コートガラス、無機物コートアルミナや、パール系顔料、アルミ粉など、アスペクト比が3以上で、樹脂組成物にメタリック色を付与する意匠性顔料を使用する。無機顔料Aの添加量は、樹脂に対して0.5質量%〜10質量%の添加量が有効である。添加量が多いほど目標の色彩効果が出やすく、1質量%かそれを超えるとより出やすくなる。添加量の上限10質量%は成形物に求められる強度で決る。本発明においては、チタンコートマイカかアルミ粉が特に色彩効果が高い。そして、その中でも特に色彩効果が高い上に成分・形状とも安定して供給されるため、チタンコートマイカでは、メルク製、商品名イリオジン100〜199の何れかがよい。同じくアルミ粉では、東洋アルミ製、アルペースト各グレードが特に効果的である。なお、イリオジン100〜199のアスペクト比は、10〜100の範囲内である。また、アルペースト各グレードのアスペクト比は、20〜200の範囲内である。
【0011】
本発明で使用する無機顔料Bとしては、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子酸化スズおよび微粒子酸化セリウムなどである。特にこの4種の何れかが色彩効果に優れる。そしてこれらのものの一次粒子径の数平均値が10〜150nmの微粒子の市販各種のものが有効である。特に好ましくは、一次粒子径の数平均値が10〜60nmのさらに細かい物が、色彩効果が高く特に良い。微粒子酸化チタンとしてテイカ製、MT700HD、微粒子酸化亜鉛としてハクスイテック製、ジンクオックススーパーF−3が、成分・形状とも安定して供給される例として挙げられる。それらの添加量としては樹脂に対して0.2質量%〜5質量%が有効である。添加量が多いほど目標の色彩効果が出やすく、添加量の上限は成形物に求められる強度で決る。
【0012】
無機顔料A/無機顔料Bの割合(質量)は、10/1〜2/1の範囲で目標の色彩効果が出やすい。なおカラーフリップフロップ性は、市販の変角スペクトロフォトメーター(分光光度計)にて測定し、車輛のメタリック塗装において、ある程度普及している「5変角評価」の角度の小さい方のハイライトと、角度の大きい方のシェードの評価、すなわち、正反射に対する受光角15°と110°の分光反射率を測定し、各々のCIEのL***3つの値の差により評価すればよい。すなわち、L*値だけでなく、a*値かb*値の少なくとも一方の角度差が大きければ、色相の角度変化の大きなフリップフロップが出ていることになる。通常a**の少なくともどちらかの差が、少なくとも6に達すると、目視でも大きく色は異なって見える。そして、受光角15°と110°との差で10より大きくなれば、5変角評価の差の小さい方の受光角、受光角25°対75°でも同様に6に達するのはほぼ確実なので、受光角15°と110°との差で、上記の差(10)が出ていることが最低限の目標となる。更に受光角15°と110°との差が20より大きくなると、受光角25°対75°でも「非常に大きい色差」とされる差が12に達するのはほぼ確実なので、なおさら良いと言える。なお受光角15°と110°との差で評価する方法は、その他の角度の組合せに比べて、本発明の条件では、色差の絶対値が大きくなるため測定精度が増し、本発明品の品質を安定させるという点で、より好ましい測定手法である。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、前記の樹脂と無機顔料Aと無機顔料Bとを混合し、任意の混練機、例えば、押出機などで混練し、ペレット状、フレーク状、粉状の組成物として得られる。マスターバッチなど、顔料成分の濃度の高い物を中間に作成し、通常の通り、それを更に薄めて使ってもよい。
【0014】
なお、必要に応じて本発明の樹脂組成物には、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、スリップ剤、無機フィラーなど、メタリック発色を阻害しない範囲で各種添加剤の添加が可能である。
【0015】
また、本発明の樹脂組成物の成形法として、射出成形、パイプ成形、ブロー成形、インフレーション成形、Tダイ成形など任意の成形法に使用可能である。このような成形方法で成形した成形物の表面のうち少なくとも一部を、平らな面(鏡面)にすると、(成形物表面に対する正反射に対する受光角が110°と15°における)明度差ΔL*が大きいだけでなく、色相差にあたる、Δa*が10より大きく、および/またはΔb*が10より大きい、優れたカラーフリップフロップ効果を有する成形物が、前記樹脂組成物より得られる。
【実施例】
【0016】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「%」は特に断りのない限り質量基準である。
[実施例1]
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマーJ104)に、パール系顔料としてチタンコートマイカ(メルク製、イリオジン120)を1.0%、および微粒子酸化亜鉛(ハクスイテック製、ジンクオックススーパーF−3:数平均一次粒子径50nm)を0.2%添加し、ブレンドした混合物を40mmφ単軸押出機にて混練・ペレタイズして着色樹脂ペレットを作成した。このペレットを型締め50tの射出成形機にて成形板(90mm×50mm×2.5mm)を成形して、成形物表面のカラーフリップフロップ性を測定した。
【0017】
[実施例2]
ポリメチルメタクリレート樹脂(スミペックスLG)にアルミ粉(東洋アルミ製、アルペーストF M1415)を1.0%、および微粒子酸化チタン(テイカ製、MT700HD:数平均一次粒子径50nm)を0.2%添加し、ブレンドした混合物を40mmφ単軸押出機にて混練・ペレタイズして着色樹脂ペレットを作成した。このペレットを型締め50tの射出成形機にて成形板(90mm×50mm×2.5mm)を成形して、成形物表面のカラーフリップフロップ性を測定した。
【0018】
[比較例1]
実施例1の微粒子酸化亜鉛を添加せずに、同様の方法で樹脂組成物を調製し、且つ同様な方法で成形物表面のカラーフリップフロップ性を測定した。
【0019】
[比較例2]
実施例1の微粒子酸化亜鉛を0.1%添加して、同様の方法で樹脂組成物を調製し、且つ同様な方法で成形物表面のカラーフリップフロップ性を測定した。
【0020】
[比較例3]
実施例2の微粒子酸化チタンを添加せずに、同様の方法で樹脂組成物を調製し、且つ同様な方法で成形物表面のカラーフリップフロップ性を測定した。
【0021】
[比較例4]
実施例2のアルミ顔料を0.2%添加して、同様の方法で樹脂組成物を調製し、且つ同様な方法で成形物表面のカラーフリップフロップ性を測定した。
【0022】
カラーフリップフロップ性は、X−RITE製MA68スペクトロフォトメーターにて入射角45°、正反射に対する受光角15°と110°のL***を測定し、その値から下記のようにして算出した(図1参照)。以上の結果を表1に示す。
【0023】
なお、L***は、CIEのLAB値を表し、それぞれ、白色標準板の物体色のJIS Z 8701から計算される3刺激値をXn、Yn、Znとした試料の相対3刺激値(X/Xn)、(Y/Yn)、(Z/Zn)を使用して、以下の式から計算され、
*=116(Y/Yn)^1/3−16
*=500[(X/Xn)^1/3−(Y/Yn)^1/3]
*=200[(Y/Yn)^1/3−(Z/Zn)^1/3]
ΔL*、Δa*、Δb*は、ここではそれぞれ、入射角45°、正反射に対する受光角15°と110°のL***値の差の絶対値を表す。なお等色関数間の独立性から数学上、Δa*の上限値は約184、Δb*の上限値は約201である。 その結果、比較例に対して実施例は、L*値のみならずa*値やb*値の角度差が大きく、目標どおりのカラーフリップフロップ効果の発現が確認された。
【0024】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、成形物の表面が優れたカラーフリップフロップ効果を有する樹脂組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が3以上である無機顔料Aと、一次粒子径の数平均値が150nm以下の無機顔料Bとを含有する樹脂組成物であって、成形物にした時の成形物表面に対する正反射に対する受光角が110°と15°におけるΔa*が10より大きく、および/またはΔb*が10より大きいカラーフリップフロップ効果を示すことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
無機顔料Aが、アルミ粉および無機物でコートしたパール系顔料から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
無機顔料Bが、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、微粒子酸化スズおよび微粒子酸化セリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−122036(P2011−122036A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280010(P2009−280010)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】