説明

カラーレンズの製造方法及びカラーレンズ

【課題】顔料を含んだ組成液の分散性が良好で透明性に優れたカラーレンズの製造方法及びカラーレンズを提供する。
【解決手段】レンズ基材10の表面にプライマー層12を形成するプライマー工程と、プライマー層12の表面に表面層を形成する表面工程とを備えるカラーレンズの製造方法であって、プライマー工程は、スルホン基を有する顔料を含むインクに塩基性物質を混合してpHを調整するpH調整工程と、pHが調整されたインクにポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の樹脂材料を混合してプライマー組成液121を調製する組成液調製工程と、インクジェット方式により、レンズ基材10の表面10Aにプライマー組成液121を塗布することによりプライマー層12を形成する塗布工程と、を備え、インクのpHは2.8以上8.2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーレンズの製造方法及びカラーレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
サングラスなどのカラーレンズを有する眼鏡は、ファッション性、遮光性などの点で好ましく用いられている。このようなカラーレンズとしては、レンズ基材と、表面層との間に、着色層として機能するプライマー層を備えた構成がある(特許文献1)。
特許文献1のカラーレンズの製造方法では、プライマー層の原料と、顔料とを含んだ組成液をインクジェット方式で吐出してプライマー層を形成している。
一方、スルホン基を有する顔料を含んだ組成液をインクジェット方式で吐出して、着色層を形成する方法もある(特許文献2,3)。特許文献2,3では、このような顔料を用いた場合において、組織液の分散性と吐出安定性との向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−200102号公報
【特許文献2】特許第4466725号
【特許文献3】特開2008−63580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の組成液の顔料として、特許文献2に記載の顔料を用いて、プライマー層を形成する場合、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献2の顔料とプライマー層の原料とを混合した場合、顔料と原料との分散性の悪い組成液が得られる。そのため、この組成液を用いてプライマー層を形成した場合、曇りが発生し、透明性が低いカラーレンズが得られるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、顔料を含んだ組成液の分散性が良好で透明性に優れたカラーレンズの製造方法及びカラーレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカラーレンズの製造方法は、レンズ基材の表面にプライマー層を形成するプライマー工程と、前記プライマー層の表面に表面層を形成する表面工程とを備えるカラーレンズの製造方法であって、前記プライマー工程は、スルホン基を有する顔料を含むインクに塩基性物質を混合して、前記インクのpHを調整するpH調整工程と、前記pHが調整されたインクに、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の樹脂材料を混合してプライマー組成液を調製する組成液調製工程と、インクジェット方式により、前記レンズ基材の表面に前記プライマー組成液を塗布することにより前記プライマー層を形成する塗布工程と、を備え、前記インクのpHは、2.8以上8.2以下であることを特徴とする。
【0007】
ここで、インクのpHが2.8未満又は8.2を超える場合、スルホン基を有する顔料と樹脂材料との分散性が悪いプライマー組成液が得られる。そのため、透明性の低いカラーレンズが得られてしまう。
これに対して、上記構成の発明では、インクのpHが2.8以上8.2以下であるため、スルホン基を有する顔料と樹脂材料との分散性が比較的良好となる。そのため、透明性に優れたカラーレンズが得られる。
【0008】
ここで、本発明のカラーレンズの製造方法では、前記組成液調製工程が、前記インクと前記ポリエステル樹脂とを混合する場合、前記インクのpHは、3.1以上6.9以下であることが好ましい。一方、前記組成液調製工程が、前記インクと前記ポリウレタン樹脂とを混合する場合、前記インクのpHは、3.7以上7以下であることが好ましい。
【0009】
これらの構成の発明では、樹脂材料の違いに応じてpHを特定の範囲に調整するので、いずれの樹脂材料を用いる場合でも、プライマー組成液の分散性が良好となり、インクジェット装置のノズルからプライマー組成液を吐出する際、プライマー組成液の吐出安定性が良好となる。
【0010】
さらに、本発明のカラーレンズの製造方法では、前記組成液調製工程が、前記インクと前記ポリエステル樹脂とを混合する場合、前記インクのpHは、4以上5.2以下であることが好ましい。一方、前記組成液調製工程が、前記インクと前記ポリウレタン樹脂とを混合する場合、前記インクのpHは、4.4以上5.4以下であることが好ましい。
これらの構成の発明では、インクのpHが上記特定の範囲であるので、いずれの樹脂材料を用いる場合でも、さらに透明性に優れたカラーレンズが得られる。
【0011】
そして、本発明のカラーレンズの製造方法では、前記塩基性物質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びジエチルアミンのうちの少なくともいずれか1種であることが好ましい。
この構成の発明では、上述したように、分散性が良好で、透明性と吐出安定性に優れたカラーレンズが得られる。
【0012】
本発明のカラーレンズは、レンズ基材と、表面層と、前記レンズ基材と前記表面層との間に設けられたプライマー層とを備えるカラーレンズであって、前記プライマー層は、インクジェット方式により前記レンズ基材の表面に塗布されたプライマー組成液により形成され、前記プライマー組成液は、スルホン基を有する顔料と塩基性物質とを含むインクと、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の樹脂材料とを含み、前記インクのpHは、2.8以上8.2以下であることを特徴とする。
この構成の発明では、上述しように、分散性が良好であるため、透明性に優れたカラーレンズとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施形態のカラーレンズを示す断面図。
【図2】前記実施形態のカラーレンズの製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態に係るカラーレンズ及びカラーレンズの製造方法について図1,2を用いて説明する。図1は、本発明に係る実施形態のカラーレンズを示す断面図である。
<カラーレンズの構成>
本実施形態のカラーレンズは、眼鏡用レンズとして好適に用いられるが、カメラ用レンズ、投影用レンズとしても用いることができる。
【0015】
図1に示すように、カラーレンズ1は、レンズ基材10と、表面層11と、レンズ基材10と表面層11との間に設けられたプライマー層12とを備える。
レンズ基材10は、例えば、透明なプラスチック製であり、この材料としては、アクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が例示できる。なお、レンズ基材10は、無機ガラス製でもよい。
表面層11は、プライマー層12側から順にハードコート層111と、反射防止層112と、撥水層113とが順に積層された構成である。
ハードコート層111は、レンズ基材10に耐擦傷性を付与するためのものである。ハードコート層111を形成する材料しては、例えば、オルガノポリシロキサンを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO、TiOなどの無機微粒子を有する無機微粒子含有熱硬化性組成物がある。
【0016】
反射防止層112は、多層からなる無機層である。このような無機層としては、例えば、ハードコート層111側から順にSiO層/ZrO層/SiO層/ZrO層/SiO層の5層構造や、SiO層/TiO層/SiO層/TiO層/SiO層の5層構造がある。ただし、反射防止層112は、有機層により構成されていてもよい。
撥水層113は、撥水性や撥油性を有し、防汚層として機能する。撥水層113を形成する材料は、例えば、2種以上のシラン化合物が挙げられ、そのうちの少なくとも1種が含フッ素シラン化合物である。
【0017】
プライマー層12は、レンズ基材10とハードコート層111との間に設けられ、レンズ基材10とハードコート層111との密着性を向上させるとともに、着色層として機能する。
このプライマー層12は、プライマー組成液により形成される。プライマー組成液は、樹脂材料と、インクとを含んでいる。
樹脂材料は、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂であり、密着性を向上させ、耐衝撃性を向上させるためのものである。ポリエステル樹脂等の含有量は、プライマー組成液全量基準で、0.5質量%以上25質量%以下であることが好ましく、例えば、4.5質量%であることが好ましい。
ポリエステル樹脂等の含有量を0.5質量%以上とすることにより、レンズ基材10とハードコート層111とを良好に密着させることができる。
一方、ポリエステル樹脂等の含有量を25質量%以下とすることにより、インクと混合した際に、良好に分散し、透明性に優れたカラーレンズ1が得られる。
好ましいポリエステル樹脂としては、水性ポリエステル樹脂、東洋紡績株式会社製のバイロナールMD−1480が挙げられる。
好ましいポリウレタン樹脂としては、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス210が挙げられる。
【0018】
インクは、スルホン基を有する顔料と塩基性物質とを含んでいる。
スルホン基を有する顔料としては、例えば、下記式(1)に示す化合物が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
上記式(1)において、nは、1から5までのうちのいずれかである。XからXまでは、それぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子である。
ここで、上記式(1)において、XからXまでは、それぞれハロゲン原子であることが好ましい。即ち、Pigment Yellow 138にスルホン基を導入した化合物が好ましい。
【0021】
スルホン基を有する顔料の含有量は、プライマー組成液全量基準で、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、例えば、1質量%であることが好ましい。スルホン基を有する顔料の含有量を0.01質量%以上とすることにより、良好な色調のカラーレンズ1が得られる。一方、スルホン基を有する顔料の含有量を10質量%以下とすることにより、樹脂材料と混合した際に、良好に分散し、透明性に優れたカラーレンズ1が得られる。
【0022】
スルホン基を有する顔料は、公知の顔料又は公知の顔料の誘導体に対して、スルホン化の処理を施すことにより得られる。
スルホン化は、例えば、発煙硫酸、濃硫酸、発煙硫酸と濃硫酸との混合物、硫酸と五酸化リンとの混合物、クロルスルホン酸、亜硫酸水素ナトリウム、塩化スルフリルと塩化アルミニウムとの混合物等のスルホン化剤を用いた芳香族置換反応により、行うことができる。また、芳香族置換反応の際には、必要に応じて、反応系を加熱してもよい。
【0023】
また、スルホン化の処理においては、必要に応じて、触媒を用いてもよい。触媒としては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄等の硫酸金属塩等を用いることができる。触媒を用いることにより、例えば、好ましくない副反応を防止又は抑制、反応条件の緩和、反応速度の上昇等の効果が得られる。
【0024】
また、スルホン化の処理においては、反応速度を制御(抑制)するために、必要に応じて、反応系に、エチレングリコール、プロピレングリコール、クロロホルム、塩化エチレン、四塩化炭素等を用いてもよい。
スルホン化反応終了後、反応混合物を、使用したスルホン化剤に対して大過剰の水中に注ぐことにより、スルホン基を有する顔料を析出させることができる。スルホン基を有する顔料を濾別し、希塩酸等の希酸で洗浄後、水洗、乾燥することにより、目的とするスルホン基を有する顔料が得られる。
【0025】
塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、ジエチルアミン(NH(CHCH)、アンモニア(NH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、トリエチルアミン(N(CHCH)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(HON(CH)、尿素((HN)CO))が挙げられる。
これらの塩基性物質は、1種単独で用いても良く、2種以上混合して用いても良い。これらのうち、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、ジエチルアミン(NH(CHCH)が好ましい。
【0026】
なお、スルホン基を有する顔料は、溶剤に溶解された状態で塩基性物質と混合されることが好ましい。このような溶剤としては、アルコール系溶媒が用いられ、例えば、エチレングリコール、イソプロピルアルコールが好ましい。
一方、塩基性物質も、水などの溶剤に溶解された状態でスルホン基を有する顔料と混合されることが好ましい。
【0027】
また、プライマー組成液は、分散性をさらに向上させる目的で、サーフィノールPSA336などの界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤の含有量は、例えば、プライマー組成液全量基準で、0.5質量%程度である。
その他、プライマー組成液は、必要に応じて公知の染料や顔料を含んでいても良い。
【0028】
<カラーレンズの製造方法の構成>
次に、本実施形態のカラーレンズの製造方法について、図1,2を用いて説明する。
図2は、本実施形態のカラーレンズの製造方法を示す図示す概略図である。
カラーレンズの製造方法は、レンズ基材10の表面10Aにプライマー層12を形成するプライマー工程と、プライマー層12の表面12Aに表面層11を形成する表面工程とを備える。
【0029】
プライマー工程は、インクのpHを調整するpH調整工程と、インクとポリエステル等とを混合する組成液調製工程と、プライマー層12を形成する塗布工程とを有する。
pH調整工程は、スルホン基を有する顔料を含んだインクに、塩基性物質を混合することにより、インクのpHを2.8以上8.2以下に調整する。
ここで、インクのpHが2.8未満又は8.2を超える場合では、スルホン基を有する顔料とポリエステル樹脂等との分散性が低下する。そのため、透明性が低下したカラーレンズ1が得られる。
【0030】
そして、次工程の組成液調整工程が、インクにポリエステル樹脂を混合する場合、pH調整工程は、インクのpHを、好ましくは、3.1以上6.9以下、より好ましくは、4以上5.2以下に調整する。ここで、インクに混合する塩基性物質が水酸化ナトリウムの場合、pH調整工程は、さらに好ましくは、4以上5.1以下に調整する。
一方、次工程の組成液調製工程が、インクにポリウレタン樹脂を混合する場合、pH調整工程は、インクのpHを、好ましくは、3.7以上7以下、より好ましくは、4.4以上5.4以下に調整する。
【0031】
組成液調製工程は、pHが調整されたインクに、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂を混合してプライマー組成液121とする。
塗布工程は、図2に示すように、インクジェット方式により、レンズ基材10の表面10Aにプライマー組成液121を塗布することによりプライマー層12を形成する。具体的には、塗布工程は、インクジェット装置のノズル20にプライマー組成液121を充填し、ノズル20からレンズ基材10の表面10Aに向けてプライマー組成液121を吐出する。また、塗布工程は、プライマー組成液121を吐出しつつ、レンズ基材10の表面10Aに沿ってノズル20を走査する。これにより、レンズ基材10の表面10Aにプライマー組成液121が塗布される。その後、プライマー組成液121が乾燥されてプライマー層12が形成される。
【0032】
次に、表面工程は、プライマー層12の表面12Aにハードコート層111と、反射防止層112と、撥水層113とを順に積層する。ハードコート層111,撥水層113の形成方法としては、浸漬法(ディッピング法)、スピンコート法等がある。反射防止層112の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法等がある。
このようにして、図1に示すようなカラーレンズ1が得られる。
【0033】
本実施形態のカラーレンズ1及びカラーレンズ1の製造方法によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)塩基性物質を混合して、インクのpHを2.8以上8.2以下に調整するので、スルホン基を有する顔料とポリエステル樹脂等との分散性が良好となる。そのため、透明性に優れたカラーレンズ1が得られる。
(2)ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の違いに応じて、インクのpHを3.1以上6.9以下又は3.7以上7以下に調整する。これにより、いずれの樹脂材料を用いた場合においても、プライマー組成液121の吐出安定性に優れる。
(3)ポリエステル樹脂を用いた場合では、ポリウレタン樹脂を用いた場合よりも、インクのpHの調整範囲が広い。よって、ポリエステル樹脂を用いた場合では、ポリウレタン樹脂を用いる場合よりも、pHの調整が容易である。
(4)また、樹脂材料の違いに応じて、インクのpHを4以上5.2以下又は4.4以上5.4以下に調整する。これにより、いずれの樹脂材料を用いた場合においても、さらに透明性に優れたカラーレンズ1が得られる。
(5)塩基性物質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジエチルアミン等を用いるので、分散性が良好であり、透明性と吐出安定性に優れたカラーレンズ1が得られる。
【0034】
(変形例)
なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、レンズに撥水層を設ける構成を説明したが、撥水層の代わりに防曇層を設けてもよい。
また、レンズに反射防止層や撥水層を設ける構成を説明したが、これら反射防止層等は設けなくてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
(実施例1−1)
実施例1−1では、スルホン基を有する顔料を、エチレングリコールとイソプロピルアルコールとに溶かしてインクとした。
このインクに、水酸化ナトリウム(NaOH(0.1N)(水希釈))を加えて、pHが2.8のインクを得た。ここで、pHは、pH Meter F−52(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
次に、インクに、ポリエステル樹脂を混合した後、さらに界面活性剤を添加し、実施例1−1のプライマー組成液を得た。
なお、スルホン基を有する顔料などの含有量は、プライマー組成液全量基準で表1に示す通りである。
【0036】
(実施例1−2から1−7まで、比較例1−1,1−2)
インクに混合する水酸化ナトリウム(NaOH(0.1N)(水希釈))の量を表1に示すように変更してインクのpHを所定値に調整した。それ以外は、実施例1−1と同様に実施した。
【0037】
(透明性の評価)
得られた上記実施例1−1等のプライマー組成液をインクジェットのノズルに充填し、ノズルからレンズ基材に表面に吐出し、プライマー層を形成した。その後、プライマー層の表面に表面層を形成した。
得られたカラーレンズのHaze値を測定し、その測定値に基づき、下記評価基準でカラーレンズの透明性を評価した。その結果を表1に示す。Haze値の測定においては、430nmでの透過率が40%±2%となるように、プライマー組成液の濃度を調整した。これは、430nm付近で透過率が最小となるためである。また、透過率の測定には、SPECTROPHOTOMETER DOT−3(株式会社村上色彩技術研究所製)を用いた。
【0038】
(評価基準)
◎:透明性が非常に良好(Haze値:0.25未満)
○:透明性が良好(Haze値:0.25以上かつ0.35未満)
【0039】
(吐出安定性の評価)
プライマー層の形成において、プライマー組成液の吐出安定性について、以下評価基準で評価した。その結果を表1に示す。
【0040】
(評価基準)
○:良好である。
△:吐出が不安定である。
×:ノズルが詰まる。
【0041】
【表1】

【0042】
(結果)
実施例1−1から1−7まででは、インクにポリエステル樹脂を混合し、塩基性物質として水酸化ナトリウムを用いてインクのpHを2.8以上8.2以下に調整した。そのため、スルホン基を有する顔料とポリエステル樹脂との分散性が良好であった。よって、カラーレンズの透明性も良好であった。また、インクのpHが3.1以上6.9以下の場合では、プライマー組成液の吐出安定性に優れ、インクのpHが4以上5.1以下の場合、透明性がさらに向上することが分かった。
一方、比較例1−1では、pHが2.8未満であり、比較例1−2では、pHが8.2を超えているため、スルホン基を有する顔料とポリエステル樹脂との分散性が悪かった。そのため、ノズルが詰まり、カラーレンズを得ることができず、透明性については評価できなかった。
【0043】
(実施例2−1)
実施例2−1では、塩基性物質として水酸化ナトリウム(NaOH(0.1N)(水希釈))に代えて水酸化カリウム(KOH(0.1N)(水希釈))を用いた以外は、実施例1−1と同様に実施し、評価した。実施例2−1の評価結果を表2に示す。
(実施例2−2から2−4まで,比較例2−1,2−2)
インクに加える水酸化カリウムの量を変更して、表2に示すように、インクのpHを調整した以外は、実施例2−1と同様に実施し、評価した。その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
(結果)
実施例2−1から2−4まででは、インクにポリエステル樹脂を混合し、塩基性物質として水酸化カリウムを用いてインクのpHを2.8以上8.2以下に調整した。その結果、実施例1−1等と同様に、透明性等に優れることが分かった。
【0046】
(実施例3−1)
実施例3−1では、塩基性物質として水酸化ナトリウム(NaOH(0.1N)(水希釈))に代えてジエチルアミン(NH(CHCH(0.1N)(水希釈))を用いた以外は、実施例1−1と同様に実施し、評価した。実施例3−1の評価結果を表3に示す。
(実施例3−2から3−4まで,比較例3−1,3−2)
インクに加えるジエチルアミンの量を変更して、表3に示すように、インクのpHを調整した以外は、実施例3−1と同様に実施し、評価した。その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
(結果)
実施例3−1から3−4まででは、インクにポリエステル樹脂を混合し、塩基性物質としてジエチルアミンを用いてインクのpHを2.8以上8.2以下に調整した。その結果、実施例1−1等と同様に透明性等に優れることが分かった。
【0049】
(実施例4−1から4−7まで,比較例4−1,4−2)
実施例1−1等で用いた商品と異なる商品のポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1−1等と同様に実施して、評価した。その評価結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
(結果)
実施例4−1から4−7まででは、インクにポリエステル樹脂(商品名:バイロナールMD−1480)を混合し、塩基性物質として水酸化ナトリウムを用いてインクのpHを2.8以上8.2以下に調整した。
実施例4−1から4−7まででは、上記実施例1−1から1−7までと比べて、Haze値が全体的にやや高くなったが、上記実施例1−1等とほぼ同様の結果となることが分かった。
【0052】
(実施例5−1から5−7まで、比較例5−1,5−2)
実施例5−1から5−7まででは、ポリエステル樹脂に代えて、ポリウレタン樹脂を用いた以外は、実施例1−1等と同様にして実施し、評価した。その評価結果を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
(結果)
実施例5−1から5−7まででは、インクにポリウレタン樹脂(商品名:スーパーフレックス210)を混合し、塩基性物質として水酸化ナトリウムを用いてインクのpHを2.8以上8.2以下に調整した。その結果、実施例1−1等と同様に、透明性等に優れることが分かった。
また、実施例5−2と、実施例1−2とを比較すると分かるように、インクにポリウレタン樹脂を混合する場合では、pHの値が小さいときやや吐出安定性が悪くなる。それ以外では、実施例1−1等とほぼ同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、眼鏡レンズやカメラレンズなどのカラーレンズやカラーレンズの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…カラーレンズ、10…レンズ基材、10A、12A…表面、11…表面層、12…プライマー層、121…プライマー組成液、20…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材の表面にプライマー層を形成するプライマー工程と、前記プライマー層の表面に表面層を形成する表面工程とを備えるカラーレンズの製造方法であって、
前記プライマー工程は、
スルホン基を有する顔料を含むインクに塩基性物質を混合して、前記インクのpHを調整するpH調整工程と、
前記pHが調整されたインクに、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の樹脂材料を混合してプライマー組成液を調製する組成液調製工程と、
インクジェット方式により、前記レンズ基材の表面に前記プライマー組成液を塗布することにより前記プライマー層を形成する塗布工程と、を備え、
前記インクのpHは、2.8以上8.2以下である
ことを特徴とするカラーレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカラーレンズの製造方法において、
前記組成液調製工程が、前記インクに前記ポリエステル樹脂を混合する場合、
前記インクのpHは、3.1以上6.9以下である
ことを特徴とするカラーレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のカラーレンズの製造方法において、
前記組成液調製工程が、前記インクに前記ポリウレタン樹脂を混合する場合、
前記インクのpHは、3.7以上7以下である
ことを特徴とするカラーレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のカラーレンズの製造方法において、
前記組成液調製工程が、前記インクに前記ポリエステル樹脂を混合する場合、
前記インクのpHは、4以上5.2以下である
ことを特徴とするカラーレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のカラーレンズの製造方法において、
前記組成液調製工程が、前記インクに前記ポリウレタン樹脂を混合する場合、
前記インクのpHは、4.4以上5.4以下である
ことを特徴とするカラーレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のカラーレンズの製造方法において、
前記塩基性物質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びジエチルアミンのうちの少なくともいずれか1種である
ことを特徴とするカラーレンズの製造方法。
【請求項7】
レンズ基材と、表面層と、前記レンズ基材と前記表面層との間に設けられたプライマー層とを備えるカラーレンズであって、
前記プライマー層は、インクジェット方式により前記レンズ基材の表面に塗布されたプライマー組成液により形成され、
前記プライマー組成液は、スルホン基を有する顔料と塩基性物質とを含むインクと、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂の樹脂材料とを含み、
前記インクのpHは、2.8以上8.2以下である
ことを特徴とするカラーレンズ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−189755(P2012−189755A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52597(P2011−52597)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】