説明

カリウムアイオノマーからなる高分子型帯電防止剤

【課題】非帯電性および透明性に優れた未延伸フィルムやシート、これらを製造する際に用いる樹脂組成物、ならびに該組成物に含まれるカリウムアイオノマーからなる高分子型帯電防止剤を提供する。
【解決手段】(a)エチレン単位を30〜60重量%、(b)プロピレン単位を30〜60重量%、(c)ブテン単位を2〜10重量%、(d)(メタ)アクリル酸エステル単位を0〜10重量%および(e)(メタ)アクリル酸単位を5〜15重量%含有する重合体または重合体組成物(但し、成分単位(a)〜(e)の合計を100重量%とする)のカリウムアイオノマーであって、そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5mmol/gの範囲にあるカリウムアイオノマーからなる高分子型帯電防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未延伸フィルムやシートなどの材料として好適なカリウムアイオノマーおよび該カリウムアイオノマーを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アイオノマー樹脂は、エチレン・メタクリル酸共重合体やエチレン・アクリル酸共重合体などの分子間を、ナトリウムや亜鉛などの金属イオンで分子間結合した、特殊な構造を有する非帯電防止性や透明性に優れた樹脂である。
【0003】
アイオノマー樹脂の中でも、カリウムアイオノマーは優れた帯電防止性能を有し、高分子帯電防止剤として用いられている。特にカリウムアイオノマーおよびポリオレフィンを含有する樹脂組成物は、優れた非帯電性を有することが知られている。
【0004】
しかし、従来のカリウムアイオノマーをポリオレフィン、特にプロピレン系重合体にブレンドした樹脂組成物から形成される未延伸フィルムの透明性については、その樹脂組成物の種類や組成によっては未だ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−343973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非帯電性および透明性に優れた未延伸フィルムやシート、これらを製造する際に用いる樹脂組成物、ならびに該組成物に含まれるカリウムアイオノマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決して、優れた非帯電性を有し、熱可塑性樹脂、特にプロピレン系重合体にブレンドした場合において優れた非帯電性と透明性を与えることのできるカリウムアイオノマーについて鋭意研究し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
【0009】
[1](a)エチレン単位を30〜60重量%、(b)プロピレン単位を30〜60重量%、(c)ブテン単位を2〜10重量%、(d)(メタ)アクリル酸エステル単位を0〜10重量%および(e)(メタ)アクリル酸単位を5〜15重量%含有する重合体または重合体組成物(但し、成分単位(a)〜(e)の合計を100重量%とする)のカリウムアイオノマーであって、そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5mmol/gの範囲にあるカリウムアイオノマー。
【0010】
[2][1]に記載のカリウムアイオノマー(A)100未満〜2重量部と、カリウムアイオノマー(A)以外の熱可塑性樹脂またはエラストマー(B)0超〜98重量部(但し、カリウムアイオノマーと、熱可塑性樹脂またはエラストマーとの合計を100重量部とする)とを含有する樹脂組成物。
【0011】
[3]前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィンである[2]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[4]前記熱可塑性樹脂が、プロピレン単独重合体またはプロピレン共重合体である[2]または[3]に記載の樹脂組成物。
【0013】
[5]前記樹脂組成物中の(メタ)アクリル酸残基の含有量が0.1〜15重量%であり、またそのカリウムイオン密度が0.01〜1.5mmol/gの範囲にあることを特徴とする[2]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
[6]23℃、相対湿度(RH)50%における表面抵抗率が1.0E+11Ω/sq以下である[1]〜[5]のいずれかに記載のカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物。
【0015】
[7][1]〜[6]のいずれかに記載のカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物から形成される未延伸フィルム、シートまたは成形体。
【0016】
[8]曇り度(haze)が20以下である[7]に記載の未延伸フィルム。
【0017】
[9][1]〜[6]のいずれかに記載のカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物から形成される未延伸フィルムよりなる層を少なくとも1層有する積層体。
【0018】
[10][1]〜[6]のいずれかに記載のカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物から形成される未延伸フィルムの片面あるいは両面にポリオレフィンフィルムを積層してなる積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアイオノマーまたは該アイオノマーを含有する樹脂組成物を用いて形成された未延伸フィルム、シートまたはその他の成形品、ならびに本発明に係る未延伸フィルムを含む積層体は優れた非帯電性および透明性を有し、また、高周波融着性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<カリウムアイオノマー>
本発明に係るカリウムアイオノマーは、モノマー単位(a)〜(e)を下記の含有量で含有する重合体または重合体組成物中に含まれるモノマー単位(e)のカルボキシル基の一部または全部がカリウム(イオン)によって中和されてなり、そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5mmol/gの範囲にあるものである。
【0021】
重合体または重合体組成物
本発明における重合体または重合体組成物は下記モノマー単位(a)〜(e)を下記の含有量で含有する重合体または重合体組成物である。
(a)エチレン単位30〜60重量%、(好ましくは30〜50重量%)
(b)プロピレン単位30〜60重量%、(好ましくは40〜60重量%)
(c)ブテン単位2〜10重量(好ましくは3〜8重量%)
(d)(メタ)アクリル酸エステル単位0〜10重量%、(好ましくは0〜5重量%)
(e)(メタ)アクリル酸単位(b5)5〜15重量%、(好ましくは7〜14重量%)〔但し、モノマー単位(a)〜(e)の合計を100重量%とする〕
本発明において重合体(x)は、単独の共重合体を意味し、重合体組成物(y)は2種以上の重合体もしくは共重合体の組成物(混合物)を意味する。すなわち、本発明において重合体(x)とは、モノマー単位(a)〜(e)を上記の含有量で含有する共重合体を意味し、重合体組成物(y)とはモノマー単位(a)〜(e)の中から選ばれる1種または2種以上のモノマー単位を有する単独重合体または共重合体を2種以上含有する組成物であって組成物全体として(a)〜(e)を上記含有量で含有する組成物を意味する。
【0022】
また本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸のことを意味し、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。
【0023】
ブテン単位(c)を導くモノマーとしては、1−ブテンおよび2−ブテンが挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル単位(d)を導くモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ブチルおよびメタクリル酸イソオクチルなどが挙げられる。
【0025】
上記重合体組成物を構成するモノマー単位(a)〜(e)の中から選ばれる1種または2種以上を有する単独重合体または共重合体としては、具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、エチレン・ブテン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体などが挙げられる。なかでも、エチレン・メタクリル酸共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体およびプロピレン・エチレン共重合体が好ましい。
【0026】
上記単独重合体または共重合体、すなわち、本発明でベースポリマーとして用いられる重合体の製造方法としては、通常、例えば高温・高圧下でのラジカル重合法が用いられる。
【0027】
本発明に係るカリウムアイオノマーは、例えば以下の方法で得ることができる。
(i)モノマー単位(a)〜(e)(但し(d)は任意成分)を導く各々のモノマーを高圧重合により共重合したポリマーのカルボキシル基の一部または全部をカリウムイオンで中和する方法。
(ii)モノマー単位(a)〜(d)(但し(d)は任意成分)を導く各々のモノマー1種以上と、モノマー単位(e)を導くモノマーとの共重合体のカルボキシル基の一部または全部をカリウムイオンで中和したカリウムアイオノマーと、モノマー単位(a)〜(d)を導く各々のモノマー1種以上を共重合したポリマーとを混合する方法。
(iii)モノマー単位(a)〜(d)(但し(d)は任意成分)を導く各モノマー1種以上と、モノマー単位(e)を導くモノマーとの共重合体と、モノマー単位(a)〜(d)(但し(d)は任意成分)を導く各モノマー1種以上の重合体とからなる組成物中のカルボキシル基の一部または全部をカリウムイオンで中和する方法。
【0028】
本発明に係るカリウムアイオノマーは、上述したオレフィン単位などを有する重合体のカルボキシル基を、カリウムの酸化物、炭酸塩、重炭酸塩および水酸化物などによって中和することにより得られる。
【0029】
本発明に係るカリウムアイオノマーのメルトフローレート(MFR)(230℃、2160g荷重、JIS K7210−1999に準拠)は加工性および熱可塑性樹脂との混
和性などを考慮すると、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分であることが望ましい。
【0030】
本発明に係るカリウムアイオノマー中のカリウム(イオン)密度は、通常0.5〜1.5mmol/g(カリウムアイオノマー1g当たり0.5〜1.5ミリモル)の範囲にある。カリウム(イオン)密度が上記の範囲にあると、本発明に係る未延伸フィルムに優れた帯電防止効果を発現させることができる。
【0031】
本発明では、ベースポリマー、すなわち、モノマー単位(a)〜(e)を上記特定の含有量で有する共重合体またはモノマー単位(a)〜(e)の中から選ばれる1種または2種以上のモノマー単位を有する重合体2種以上の組成物であって組成物全体として(a)〜(e)を上記特定の含有量で含有する組成物を適宜選択し、この重合体または重合体組成物中のカルボキシル基(モノマー単位(e)のカルボキシル基)をカリウムイオンにより中和し、その中和度を適宜調整することにより、所望のカリウムイオン含有量のカリウムアイオノマーを調製することができる。カリウムイオンによる中和は、例えば上記重合体または重合体組成物とカリウムの水酸化物やカリウム塩(炭酸塩等)などとを反応させることによって行うことができる。
【0032】
<熱可塑性樹脂またはエラストマー>
本発明に係る熱可塑性樹脂またはエラストマーとしては、カリウムアイオノマー以外の熱可塑性樹脂またはエラストマーであり、具体的には高圧法ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(例えばメタロセン触媒を用いて製造されたポリエチレンなど)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテンおよびポリ−4−メチル−1−ペンテンのようなオレフィンの単独重合体または共重合体;エチレンと、酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニルなどのビニルエステルならびにアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびマレイン酸ジメチルなどの不飽和カルボン酸エステルなどの不飽和エステルとの共重合体;炭素数2〜12のα−オレフィン2種以上を共重合してなる結晶化度(X線回折法)が40%以下の非結晶性もしくは低結晶性のα−オレフィン系共重合体、例えばエチレンと、炭素数3〜12のα−オレフィンとの非結晶性もしくは低結晶性のランダム共重合体;ポリスチレン;AS樹脂、ABS樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体およびスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体ならびにそれらの水素添加物;スチレン・イソプレンブロック共重合体およびスチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ならびにそれらの水素添加物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・66、ナイロン6・12およびナイロン6TIなどのポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリテトラメチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリカーボネート;ポリアセタール;ポリフェニレンエーテル;アクリル樹脂;ならびにポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
【0033】
これらの熱可塑性樹脂またはエラストマーの中では、カリウムアイオノマーとの均一混合が可能で、透明性が高く、しかも加工性などに優れた樹脂組成物が得られるという観点からポリオレフィンが好ましく、カリウムアイオノマーとの相溶性および透明性の観点から、プロピレン系重合体が特に好ましい。上記プロピレン系共重合体は、プロピレン単独重合体およびプロピレン共重合体のいずれでもよい。
【0034】
上記プロピレン系重合体としては、カリウムアイオノマーとの相溶性および低粘着性などの点から、プロピレンの単独重合体(プロピレンホモポリマー)あるいはプロピレン含量が100未満〜90重量%であり、オレフィン(プロピレンを除く)含量が0超〜10重量%(0を超えて10重量%)であるプロピレン・オレフィン重合体が好ましい。上記オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどの炭素数4〜12のα−オレフィンが挙げられる。
【0035】
本発明に係るカリウムアイオノマーとの相溶性などの点から、熱可塑性樹脂またはエラストマーのメルトフローレート(MFR)(190℃(プロピレン系重合体の場合は230℃)、2160g荷重、JIS K7210−1999に準拠)、特にポリオレフィン
のMFRは、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜50g/10分であるのが望ましい。
【0036】
<樹脂組成物>
本発明に係る樹脂組成物は、カリウムアイオノマー(A)と、熱可塑性樹脂またはエラストマー(B)と、必要に応じてその他の添加剤などを同時または逐次にドライブレンドまたはメルトブレンドすることにより得られる。ドライブレンドする場合には、ヘンシェルミキサーおよびタンブラーミキサーなどの各種ミキサーを用いることができる。メルトブレンドする場合には、一軸もしくは二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールおよびニーダーなどの混練装置を用い、140〜230℃の温度で混練することにより得られる。
【0037】
本発明に係る樹脂組成物は、カリウムアイオノマーを通常100未満〜2重量部、好ましくは10〜50重量部と、熱可塑性樹脂またはエラストマーを通常0超〜98重量部(0を超えて98重量部)、好ましくは50〜90重量部を混合することによって得ることができる。但し、カリウムアイオノマー(A)と、熱可塑性樹またはエラストマー(B)との合計は100重量部である。カリウムアイオノマーが2重量部未満だと、本発明に係る樹脂組成物は非帯電性が十分でなくなる傾向がある。
【0038】
本発明に係る樹脂組成物中に含まれる(メタ)アクリル酸残基の含有量は通常0.1〜15重量%、また樹脂組成物中のカリウムイオン密度は通常0.01〜1.5mmol/gであり、良好な非帯電性を有している。なお、本発明において「(メタ)アクリル酸残基」とは、カリウムイオンによってイオン化される前の重合体中の(メタ)アクリル酸単位を意味する。
【0039】
上述のようにして得られる本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、23℃、相対湿度(RH)50%における表面抵抗率が通常1.0E+11Ω/sq以下、好
ましくは1.0E+10Ω/sq以下、より好ましくは1.0E+9Ω/sq以下であり、23℃、相対湿度(RH)50%の10%帯電減衰時間が通常20秒以下、好ましくは10秒以下、より好ましくは2秒以下である。表面抵抗率および帯電減衰時間が上記の範囲にあるとき、本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、優れた非帯電性を有している。
【0040】
本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、その未延伸フィルムの曇り度(haze)が通常20以下であり、優れた透明性を有している。
【0041】
本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)(230℃、2160g荷重)は、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜50g/10分である。
【0042】
本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料界面活性剤(アニオン、カチオンおよびノニオン型界面活性剤)および帯電防止剤などの添加剤を少量(例えば10重量%以下程度)配合することができる。
【0043】
<未延伸フィルム、シートまたは成形体>
本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、フィルム(未延伸フィルム)
、シート、パイプ、繊維およびその他の成形品など、種々の形状に成形することができる。例えば、未延伸フィルムはキャスト成形およびインフレ成形などによって製造することができ、シートおよびその他の成形品は射出成形およびブロー成形などの公知の方法によって製造することができる。なお、未延伸フィルムの厚みは通常1〜500μm程度である。
【0044】
また、本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、未延伸フィルム以外に、シート、テープ、繊維、織布、不織布、チューブ、管、ロッド、袋、容器、各種射出成形品および各種中空成形品などに加工することができる。
【0045】
<積層体>
本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、単層の未延伸フィルムまたはシートとして使用する以外に、例えば、本発明に係る樹脂組成物同士を積層し、または該樹脂組成物とその他の材料とを積層して、本発明に係る樹脂組成物からなる未延伸フィルム層を少なくとも一層有する多層積層体とすることができる。このとき、上記その他の材料としては、各種重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルおよびポリアミドなどの熱可塑性樹脂のほか、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、粘着剤、紙、金属、織布、不織布、木材およびセラミックスなどが用いられる。その他の材料として熱可塑性樹脂を用いる場合、熱可塑性樹脂からなる層(フィルム)は未延伸でもよく、一軸もしくは二軸延伸していてもよい。なかでも、上記未延伸フィルム層の片面または両面にポリオレフィンフィルム層を積層してなる多層積層体が好ましい。
【0046】
上記多層積層体において、本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物からなる未延伸フィルム層の厚みは1〜500μmが好ましく、他の材料からなる層の厚みは1〜5mmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。
【0047】
本発明に係る積層体は、その他の材料からなる層を一層のみならず、二層以上有していてもよい。本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物は、前述したように単層の未延伸フィルムとして、あるいは該未延伸フィルムとその他の材料との積層体として、フィルム、シート、テープ、繊維、織布、不織布、チューブ、管、ロッド、袋、容器、各種射出成形品および各種中空成形品などに加工することができる。より具体的な用途としては、ダイシングテープ基材およびバックグラインドフィルムなどの半導体用粘着テープまたはフィルム、マーキングフィルム、ICキャリアテープおよび電子部品テーピングテープのような電気・電子材料、食品包装材料、衛生材料、プロテクトフィルム、鋼線被覆材料、クリーンルームカーテン、壁紙、マット、床材、フレコン内袋、コンテナー、靴、バッテリーセパレーター、透湿フィルム、防汚フィルム、防塵フィルム、PVC代替フィルムならびに各種化粧品、洗剤、シャンプーおよびリンスなどのチューブまたはボトルなどが挙げられる。
【0048】
例えば、本発明に係るカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物をダイシングテープ基材として用いる場合には、これらのカリウムアイオノマーまたは樹脂組成物からなるテープ基材にゴム系、アクリル系およびシリコーン系などの粘着剤を塗布し、さらにその上に剥離フィルムを貼着して製品とする。本発明に係るアイオノマーまたは樹脂組成物は優れた非帯電性(帯電防止性)を有しているので、高分子型の帯電防止剤として有用である。また、本発明に係るアイオノマーまたは樹脂組成物は、非帯電性のみならず高周波ウェルダー性にも優れているので、高周波融着用材料として、例えば、高周波シールが適用される単層フィルムまたはその他の材料との積層フィルムとして用いられる。このような積層フィルムにおいて、非帯電性および高周波シール性を併せ持つためには、本発明に係るアイオノマーまたは樹脂組成物を、ヒートシール層として、あるいはヒートシール層に隣接する層として使用すればよい。この際、上記その他の材料としては、上述した熱可塑性樹脂
のほか、アルミニウム箔、アルミ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルムおよびエチレン・ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。なお、この積層フィルムは上記その他の材料を一層のみならず、二層以上有していてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、カリウムアイオノマーを含有する樹脂組成物の物性評価方法(測定方法)は、下記の通りである。
【0050】
<表面抵抗率>
試料を所定の温度および湿度条件で24時間保管後に三菱化学社製ハイレスタ UP(
プローブ:URS)で測定した。
【0051】
<帯電減衰時間>
23℃、50%RHで24時間保管した試料を、米国ETS社製Static Decay Meter Model 4060を用い、印加電圧+5000Vから+500Vへ
減衰(10%)する時間を帯電減衰時間として測定した。
【0052】
<曇り度(haze)>
Haze Meterを用い、試験片1枚の鋼線透過率をJIS K 7105に準拠し
て測定した。
【0053】
[実施例1]
エチレン・メタクリル酸共重合体にプロピレン・α−オレフィン共重合体を配合して、下記の成分組成を有する重合体組成物を調製し、該重合体組成物中のカルボキシル基の一部をカリウムイオンで中和することにより、カリウムアイオノマー(以下、「KIO−A」という。)を得た(カリウムイオン濃度:0.86mmol/g、MFR(230℃、2160g荷重):5.9g/10分、密度:932kg/m3)。
(a)エチレン単位 38.1重量%
(b)プロピレン単位 48.7重量%
(c)1−ブテン単位 4.1重量%
(d)アクリル酸エステル単位 0.6重量%
(e)メタクリル酸単位 8.5重量%
[実施例2]
熱可塑性樹脂として、ホモポリプロピレン樹脂(mp161℃、MFR(JIS K−
7210に準拠;230℃、2160g荷重)3g/10分)(以下、「PP−1」という。)を80重量部、および、KIO−Aを20重量部をドライブレンドし、これをキャスト成形装置(40mmφ)を用いて230℃で押し出し、厚さ50μmの未延伸フィルムを得た。このフィルムの曇り度(haze)、表面抵抗率および帯電減衰時間を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
実施例2において、PP−1を70重量部およびKIO−Aを30重量部に変えた以外は、実施例2と同様にして未延伸フィルムを得た。このフィルムの曇り度(haze)、表面抵抗率および帯電減衰時間を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
熱可塑性樹脂として、ランダム共重合プロピレン樹脂(mp139℃、MFR(230℃,2160g荷重)7g/10分)(以下、「PP−2」という。)を70重量部、および、KIO−Aを30重量部をドライブレンドし、これをキャスト成形装置(40mmφ)を用いて230℃で押し出し、厚さ50μmの未延伸フィルムを得た。このフィルム
の曇り度(haze)、表面抵抗率および帯電減衰時間を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
KIO−Aをプレス成形機を用い、210℃でプレスし、厚さ1mmのプレスシートを得た。シートの表面抵抗率(Ω/sq)の測定結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例6]
エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸単位含量20重量%)と、プロピレン
・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(プロピレン単位含量95.6重量%、エチレン単位含量2.4重量%、1−ブテン単位含量2.0重量%)と、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体(プロピレン含量72重量%、1−ブテン含量28重量%)とを溶融混合して、下記の成分組成を有する重合体組成物を調製し、該重合体組成物中のカルボキシル基の一部をカリウムイオンで中和することにより、カリウムアイオノマー(以下「KIO−B」という。)を得た(カリウムイオン濃度:0.86mmol/g、MFR(230℃、2160g荷重):5.9g/10分、密度:932kg/m3)。
(a)エチレン単位 38.3重量%
(b)プロピレン単位 49.0重量%
(c)1−ブテン単位 4.1重量%
(e)メタクリル酸単位 8.6重量%
[実施例7]
熱可塑性樹脂として、ホモポリプロピレン樹脂(mp161℃、MFR(JIS K−
7210に準拠;230℃、2160g荷重)3g/10分)(以下、「PP−1」という。)を80重量部、および、KIO−Bを20重量部をドライブレンドし、これをキャスト成形装置(40mmφ)を用いて230℃で押し出し、厚さ50μmの未延伸フィルムを得た。このフィルムの曇り度(haze)、表面抵抗率および帯電減衰時間を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
[実施例8]
実施例7において、PP−1を70重量部およびKIO−Bを30重量部に変えた以外は、実施例7と同様にして未延伸フィルムを得た。このフィルムの曇り度(haze)、表面抵抗率および帯電減衰時間を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
[実施例9]
熱可塑性樹脂として、ランダム共重合プロピレン樹脂(mp139℃、MFR(230℃,2160g荷重)7g/10分)(以下、「PP−2」という。)を70重量部、および、KIO−Bを30重量部をドライブレンドし、これをキャスト成形装置(40mmφ)を用いて230℃で押し出し、厚さ50μmの未延伸フィルムを得た。このフィルムの曇り度(haze)、表面抵抗率および帯電減衰時間を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
[実施例10]
KIO−Bをプレス成形機を用い、210℃でプレスし、厚さ1mmのプレスシートを得た。シートの表面抵抗率(Ω/sq)の測定結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
[実施例11]
エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸単位含量20重量%)と、プロピレン
・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(プロピレン単位含量95.6重量%、エチレン単位含量2.4重量%、1−ブテン単位含量2.0重量%)と、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体(プロピレン含量72重量%、1−ブテン含量28重量%)とを溶融混合して、下記の成分組成を有する重合体組成物を調製し、該重合体組成物中のカルボキシル基の一部をカリウムイオンで中和することにより、カリウムアイオノマー(以下「KIO−C」という。)を得た(カリウムイオン濃度:0.87mmol/g、MFR(230℃、2160g荷重):5.5g/10分、密度:937kg/m3)。
(a)エチレン単位 41.9重量%
(b)プロピレン単位 45.1重量%
(c)1−ブテン単位 3.7重量%
(e)メタクリル酸単位 9.3重量%
KIO−Cをプレス成形機を用い、210℃でプレスし、厚さ1mmのプレスシートを得た。シートの表面抵抗率(Ω/sq)の測定結果を表2に示す。
【0064】
次にこのカリウムアイオノマーを用い、実施例7〜9と同様にして未延伸フィルムを作成した。その未延伸フィルムの帯電防止性能及びヘイズはともに良好であることが期待される。
【0065】
[実施例12]
エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸単位含量20重量%)と、プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(プロピレン単位含量95.6重量%、エチレン単位含量2.4重量%、1−ブテン単位含量2.0重量%)と、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体(プロピレン含量72重量%、1−ブテン含量28重量%)とを溶融混合して、下記の成分組成を有する重合体組成物を調製し、該重合体組成物中のカルボキシル基の一部をカリウムイオンで中和することにより、カリウムアイオノマー(以下「KIO−D」という。)を得た(カリウムイオン濃度:0.90mmol/g、MFR(230℃、2160g荷重):5.0g/10分、密度:936kg/m3)。
(a)エチレン単位 41.9重量%
(b)プロピレン単位 45.1重量%
(c)1−ブテン単位 3.7重量%
(e)メタクリル酸単位 9.3重量%
KIO−Dをプレス成形機を用い、210℃でプレスし、厚さ1mmのプレスシートを得た。シートの表面抵抗率(Ω/sq)の測定結果を表2に示す。
【0066】
次にこのカリウムアイオノマーを用い、実施例7〜9と同様にして未延伸フィルムを作成した。その未延伸フィルムの帯電防止性能及びヘイズはともに良好であることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン単位を30〜60重量%、(b)プロピレン単位を30〜60重量%、(c)ブテン単位を2〜10重量%、(d)(メタ)アクリル酸エステル単位を0〜10重量%および(e)(メタ)アクリル酸単位を5〜15重量%含有する重合体または重合体組成物(但し、成分単位(a)〜(e)の合計を100重量%とする)のカリウムアイオノマーであって、そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5mmol/gの範囲にあるカリウムアイオノマーからなる高分子型帯電防止剤。

【公開番号】特開2010−132927(P2010−132927A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49401(P2010−49401)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願2009−544732(P2009−544732)の分割
【原出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】