説明

カリウムチャネル開口薬

【課題】βサブユニットに選択的に作用してBKチャネルを開口するBKチャネル開口薬を提供する。
【解決手段】オキソ−オキソアニオン部を含むオリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成する化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有するものとする。最安定立体構造におけるオキソ−オキソアニオン部の酸素原子間距離が0.3nm以上1nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大コンダクタンスCa2+活性化K+チャネルの開口薬に関する。
【背景技術】
【0002】
大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルは細胞内Ca2+濃度上昇や細胞膜の脱分極により活性化される(非特許文献1)。BKチャネルは興奮性の高い細胞に広く機能発現し、細胞内Ca2+濃度を調節する負帰還機構を担っている。
【0003】
BKチャネルはチャネル孔を形成するαサブユニット(BKα)と補助的な役割を担うβサブユニット(BKβ)が4量体を組み構成されている(非特許文献2)。αサブユニットはβサブユニットとのカップリングに必要な特徴的な領域を備えている(非特許文献3、4)。チャネル孔を形成するαサブユニットはDrosophila において最初に同定されたsloファミリーに属するK+チャネル(KCNMA1)であった(非特許文献5)。BKαはいくつかスプライスバリアントはあるものの一種類のみの遺伝子によりコードされ、心臓を除き幅広い組織に普遍的に発現している(非特許文献6、非特許文献7)。
【0004】
これに対して、βサブユニットは4種類のサブタイプが同定されており、それぞれ異なる組織特異的な発現分布を示すことがしられている(非特許文献8、8,9,11)。β1サブユニット、β4サブユニットはそれぞれ平滑筋、神経に主に発現している(非特許文献12〜14)。βサブユニットはαサブユニットと共発現させると、αサブユニットからなるBKチャネルの生物物理学的・薬理学的性質(見かけのCa2+感受性、電位感受性、ゲーティング速度、薬物感受性)を劇的に変化させ、BKチャネル機能の多様性を生み出している(非特許文献12、13、15〜18)。
【0005】
ここで、αサブユニット(KCNMA1)のノックアウトマウスでは高血圧、過敏性膀胱、尿失禁、勃起不全などの平滑筋機能不全に関連した疾患だけでなく、小脳性運動失調、難聴、高アルドステロン症を併発している(非特許文献20〜23)。一方、平滑筋特異的なβ1サブユニット(KCNMB1)はBKチャネルの見かけのCa2+/電位感受性を増大させるが、そのノックアウトマウスでは、Ca2+スパークとBKチャネル活性化のカップリング機能が低下し、血管のトーンを増大させ、膀胱の一過性収縮を増大させる(非特許文献24、25)。それゆえに、β1サブユニットを選択的なBKチャネル開口薬はより少ない副作用で平滑筋過興奮を伴う疾患を効率的に治療する可能性がある。これは閉経後の女性の冠血管疾患の発症率がβ1サブユニットを共発現したBKチャネルのみを選択的に活性化するβ−エストラジオールにより低下することからも支持される(非特許文献26、27)。
【0006】
現状では、BKβが潜在的な創薬ターゲットであるにもかかわらず、BKβに選択的に作用する化合物についてはあまり知られていない。開発されたBKチャネル開口薬はαサブユニットに作用するものが大部分であり(非特許文献28、29)、βサブユニット選択的なBKチャネル開口薬はβ-エストラジオール
(非特許文献26)、タモキシフェン (非特許文献30)、デヒドロソヤサポニン-I (DHS-I) (非特許文献31、32)のみしか報告されていない。
【0007】
【非特許文献1】Vergara C, LatorreR, Marrion NV and Adelman JP (1998) Calcium-activated potassium channels. CurrOpin Neurobiol 8:321-329V
【非特許文献2】Wallner M, Meera Pand Toro L (1996) Proc Natl Acad Sci U S A 93:14922-14927.
【非特許文献3】Schreiber M andSalkoff L (1997) A novel calcium-sensing domain in the BK channel. Biophys J73:1355-1363.
【非特許文献4】Quirk JC andReinhart PH (2001) Identification of a novel tetramerization domain in largeconductance K(ca) channels. Neuron 32:13-23.
【非特許文献5】Elkins T, GanetzkyB and Wu CF (1986) A Drosophila mutation that eliminates a calcium-dependentpotassium current. Proc Natl Acad Sci U S A 83:8415-8419.
【非特許文献6】Xie J and McCobbDP (1998) Control of alternative splicing of potassium channels by stresshormones. Science 280:443-446.
【非特許文献7】Zarei MM, Zhu N,Alioua A, Eghbali M, Stefani E and Toro L (2001) A novel MaxiK splice variantexhibits dominant-negative properties for surface expression. J Biol Chem 276:16232-16239.
【非特許文献8】Knaus HG, Folaner K,Garcia-Calvo M, Garcia ML, Kaczorowski GJ, Smith M and Swanson R (1994). JBiol Chem 269:17274-17278.
【非特許文献9】Wallner M, Meera Pand Toro L (1999). Proc Natl Acad Sci U S A 96:4137-4142.
【非特許文献10】Uebele VN, LagruttaA, Wade T, Figueroa DJ, Liu Y, McKenna E, Austin CP, Bennett PB and Swanson R(2000) J Biol Chem 275:23211-23218.
【非特許文献11】Brenner R, JeglaTJ, Wickenden A, Liu Y and Aldrich RW (2000a) J Biol Chem 275:6453-6461.
【非特許文献12】Meera P, Wallner Mand Toro L (2000) Proc Natl Acad Sci U S A 97:5562-5567.
【非特許文献13】Weiger TM, HolmqvistMH, Levitan IB, Clark FT, Sprague S, Huang WJ, Ge P, Wang C, Lawson D, JurmanME, Glucksmann MA, Silos-Santiago I, DiStefano PS and Curtis R (2000) JNeurosci 20:3563-3570.
【非特許文献14】Petkov GV, Bonev AD,Heppner TJ, Brenner R, Aldrich RW and Nelson MT (2001). J Physiol (Lond) 537:443-452.
【非特許文献15】McManus OB, Helms LM,Pallanck L, Ganetzky B, Swanson R and Leonard RJ (1995). Neuron 14:645-650.
【非特許文献16】Xia XM, Ding JPand Lingle CJ (1999) J Neurosci 19:5255-5264.
【非特許文献17】Xia XM, Ding JP,Zeng XH, Duan KL and Lingle CJ (2000) J Neurosci 20:4890-4903.
【非特許文献18】Orio P, Rojas P,Ferreira G and Latorre R (2002) New disguises for an old channel: MaxiK channelbeta-subunits. News Physiol Sci 17:156-161.
【非特許文献19】Zeng XH, Xia XMand Lingle CJ (2003). Nat Struct Biol 10:448-454.
【非特許文献20】Meredith AL, Thorneloe KS,Werner ME, Nelson MT and Aldrich RW (2004). J Biol Chem 279:36746-36752.
【非特許文献21】Ruttiger L, Sausbier M,Zimmermann U, Winter H, Braig C, Engel J, Knirsch M, Arntz C, Langer P, Hirt B,Muller M, Kopschall I, Pfister M, Munkner S, Rohbock K, Pfaff I, Rusch A, RuthP and Knipper M (2004). Proc Natl Acad Sci U S A 101:12922-12927.
【非特許文献22】Sausbier M, Hu H, Arntz C,Feil S, Kamm S, Adelsberger H, Sausbier U, Sailer CA, Feil R, Hofmann F, KorthM, Shipston MJ, Knaus HG, Wolfer DP, Pedroarena CM, Storm JF and Ruth P (2004) ProcNatl Acad Sci U S A 101:9474-9478.
【非特許文献23】Sausbier M, Arntz C,Bucurenciu I, Zhao H, Zhou XB, Sausbier U, Feil S, Kamm S, Essin K, Sailer CA,Abdullah U, Krippeit-Drews P, Feil R, Hofmann F, Knaus HG, Kenyon C, ShipstonMJ, Storm JF, Neuhuber W, Korth M, Schubert R, Gollasch M and Ruth P (2005). Circulation112:60-68.
【非特許文献24】Brenner R, Perez GJ, Bonev AD,Eckman DM, Kosek JC, Wiler SW, Patterson AJ, Nelson MT and Aldrich RW (2000b) Nature407:870-876.
【非特許文献25】Petkov GV, Bonev AD, HeppnerTJ, Brenner R, Aldrich RW and Nelson MT (2001) J Physiol (Lond) 537:443-452.
【非特許文献26】Valverde MA, Rojas P, Amigo J,Cosmelli D, Orio P, Bahamonde MI, Mann GE, Vergara C and Latorre R (1999) Science285:1929-1931.
【非特許文献27】Ohya S, Kuwata Y, Sakamoto K,Muraki K and Imaizumi Y (2005). Am J Physiol Heart Circ Physiol 289:H1635-H1642.
【非特許文献28】Imaizumi Y, Sakamoto K, YamadaA, Hotta A, Ohya S, Muraki K, Uchiyama M and Ohwada T (2002) Mol Pharmacol 62:836-846.
【非特許文献29】Nardi A, Calderone V,Chericoni S and Morelli I (2003) Planta Med 69:885-892.
【非特許文献30】Dick GM, Rossow CF, SmirnovS, Horowitz B and Sanders KM (20001) J Biol Chem 276:34594-34599.
【非特許文献31】McManus OB, Helms LM,Pallanck L, Ganetzky B, Swanson R and Leonard RJ (1995) Neuron 14:645-650.
【非特許文献32】Giangiacomo KM, Kamassah A,Harris G and McManus OB (1998). J Gen Physiol 112:485-501.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、βサブユニットに選択的に作用してBKチャネルを開口するBKチャネル開口薬及βサブユニット選択的なBKチャネル開口薬のスクリーニング方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、電位感受性蛍光色素であるDiBAC4(3)(ビス(1,3−ジブチルバルビツール酸)トリメチンオキソノール)と関連オキソノール誘導体が、BKチャネルの開口薬であることを見出し、本発明を完成した。DiBAC4(3)及び関連オキソノール誘導体は、一般的にFLIPRによるKATPチャネル作用薬のスクリーニング(Gonzalez et al., 1999; Whiteaker
et al., 2001)やフローサイトメトリーによるバクテリア生存率の評価に使用されている(Jepras et al., 1997)。以前に本発明者らは、低濃度のDiBAC4(3)をBKチャネル開口薬のスクリーニングに使用し(Yamada et al., 2001)、ピマル酸及び関連ピマル化合物がαサブユニットに作用してBKチャネルを活性化させることを明らかにした(Imaizumi et al., 2002)。この際、50nMのDiBAC4(3)を電位の指標としていたので、BKチャネルに対して開口作用を示すことは発見できなかった。その後、本発明者らは、1μM以上の濃度のDiBAC4(3)ではピマル酸やNS−1619のBKαβ1チャネルの開口作用を検出できないことがわかり、DiBAC4(3)が強力にBKチャネルを活性化するという知見を得た。また、当該知見にもとづき、DiBAC4(3)等の薬理作用等について検討することにより、DiBAC4(3)等がβサブユニット依存的にBKチャネルを活性化する知見を得た。本発明はこれらの知見に基づき提供される。
【0010】
本発明によれば、カリウムチャネル開口薬であって、以下の式(1)で表され、
【化8】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表し、環状の炭化水素基及び複素環基にあっては、オリゴメチン鎖を構成する炭素原子と結合して環状構造を形成していてもよく、lは0、1又は2を表す。]
前記オキソ−オキソアニオン部を含む前記オリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、前記オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成する化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有する、カリウムチャネル開口薬が提供される。本カリウムチャネル開口薬は、βサブユニット選択的とすることができる。本発明の化合物は、前記最安定立体構造における前記オキソ−オキソアニオン部の酸素原子間距離が0.3nm以上1nm以下とすることができる。
【0011】
本発明の化合物は、下記式(2)で表すことができる。
【化9】

[式中、A1及びA2は、同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表す。]
【0012】
式(2)で表される化合物は、下記式(3)で表すことができる。
【化10】

[式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基又は置換されていてもよい環状の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ同一又は異なっていてもよく、イオウ原子又は酸素原子を表す。]
【0013】
式(3)においては、前記X1はいずれも酸素原子であり、lは1又は2とすることができ、前記X1間距離は、0.40nm以上0.67nm以下とすることができる。さらに式(3)で表される化合物は、下記式(4)から選択されるいずれかであってもよい。
【化11】

【0014】
式(2)で表される化合物は、下記式(5)で表される化合物とすることができる。
【化12】

[式中、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表す。]
【0015】
この態様の化合物は、下記式(6)から選択されるいずれかとすることができる。
【化13】

【0016】
本発明によれば、カリウムチャネル開口薬のスクリーニング方法であって、
以下の式(1)で表され、
【化14】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表し、環状の炭化水素基及び複素環基にあっては、オリゴメチン鎖を構成する炭素原子と結合して環状構造を形成していてもよく、lは0、1又は2を表す。]
前記オキソ−オキソアニオン部を含む前記オリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、前記オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成する化合物又はその生理学的に許容される塩を被験成分として用いて、前記被験成分のカリウムチャネル開口率を評価する評価工程を備える、スクリーニング方法が提供される。
【0017】
本発明の方法において、前記評価工程は、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルのβ1サブユニット又はβ4サブユニットへの作用に基づくカリウムチャネル開口率を評価する工程とすることができる。
【0018】
本発明によれば、カリウムチャネル開口薬のスクリーニング方法であって、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルのβ1サブユニットにおける配列番号1に記載のアミノ酸配列(LLFSFFWPTFLLTGGLLIIAMV)からなる部位と被験成分との相互作用を評価する工程を備える、スクリーニング方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のカリウムチャネル開口薬は、上記式(1)で表され、上記式(1)のオキソ−オキソアニオン部を含む前記オリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、前記オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成する化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有することができる。
【0020】
本発明のBKチャネル開口薬は、BKチャネルの開口を促進するため、BKチャネルの開口に関連する試薬のほか、BKチャネルの開口に関連する疾患の予防又は治療薬として用いることができる。また、本発明のBKチャネル開口薬は、BKチャネルのβ1サブユニット及びβ4サブユニットに選択的に作用してBKαβ1及びBKαβ4に対して選択的に作用するため、これらのβサブユニットの発現する組織におけるBKチャネルの開口を促進し、こうした組織におけるBKチャネルの開口薬に関連する疾患の予防又は治療薬として用いることができる。さらに本発明のBKチャネル開口薬は、BKチャネルの開口薬に関連する疾患の予防又は治療薬としての最適化のために有用なシード化合物及びリード化合物としても用いることができる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態であるBKチャネル開口薬及び当該BKチャネル開口薬についての新たな知見に基づくBKチャネル開口薬のスクリーニング方法について詳細に説明する。
【0022】
(BKチャネル開口薬)
本発明のBKチャネル開口薬は、下記式(1)で表される化合物又は生理学的に許容されるその塩を有効成分として含有することができる。式(1)で表される化合物(以下、単に本化合物というものとする。)は、オキソ−オキソアニオン部を含む前記オリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、前記オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成することが好ましい。
【化15】

【0023】
ここで、最安定立体構造とは、density-functional theory (DFT)法を用いた計算により決定することができる。DFT法による最安定立体構造の決定にあたり、スパルタン’04ソフトウェアfor Windows version 1.0.3.(Wavefunction,
Inc., Irvine, CA, U.S.A.)(Windowsは商標である。)を使用することができる。酸素−酸素原子間距離はその最安定構造から測定することができる。さらに、その表示にあたっては、UCSF Chimeraソフトウェアを用いることができる。式(1)で表される化合物は、最安定立体構造における前記オキソ−オキソアニオン部の酸素原子間距離が0.3nm以上1nm以下であることが好ましい。
【0024】
以下の式(7)に、式(1)で表される化合物におけるオキソ−オキソアニオン部における電子伝達カップリング状態を示す。この式に示すように、式(1)で表される化合物は、オリゴメチン鎖を介して酸素原子間を電子が伝達されると考えられる。
【化16】

【0025】
式(1)で表される化合物にあっては、上記最安定立体構造が得られる限り、R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、また、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基、又は置換されていてもよい複素環基で表される。
【0026】
非環状の炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状又はこれらを組み合わせた炭化水素基が挙げられる。こうした炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基が挙げられる。ここで、「アルキル」としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−メチルプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル等のC1-6アルキル等が挙げられる。
【0027】
「アルケニル」としては、例えば、ビニル、アリル、イソプロペニル、2−メチルアリル、1−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−エチル−1−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、4−メチル−3−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル等のC2-6アルケニル等が挙げられる。
【0028】
「アルキニル」としては、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル等のC2-6アルキニルが挙げられる。
【0029】
環状の炭化水素基としては、環状の炭化水素基のほか、直鎖状及び/又は分岐鎖状の炭化水素基を組み合わせた炭化水素基又は複素環基が挙げられる。こうした環状の炭化水素基としては、脂環式炭化水素基、アリール基、アラルキル基、アリールアルケニル基等が挙げられる。ここで、「脂環式炭化水素基」としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基等の飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられる。ここで、「シクロアルキル基」としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル等のC3−C9シクロアルキルが挙げられる。
【0030】
「シクロアルケニル基」としては、例えば、2−シクロペンテン−1−イル、3−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル、3−シクロヘキセン−1−イル、1−シクロブテン−1−イル、1−シクロペンテン−1−イル、1−シクロヘキセン−1−イル、1−シクロヘプテン−1−イル等のC3-9シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0031】
「シクロアルカジエニル基」としては、例えば、2,4−シクロペンタジエン−1−イル、2,4−シクロヘキサジエン−1−イル、2,5−シクロヘキサジエン−1−イル等のC4-6シクロアルカジエニル基等が挙げられる。
【0032】
環状の炭化水素基の例としての「アリール基」としては、単環式又は縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられ、例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル等のC6-14アリール基等が好ましく、中でもフェニル等が特に好ましい。
【0033】
「アラルキル基」としては、例えば、ベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチルなどのフェニル−C1-6アルキル基等が挙げられる。
【0034】
「アリールアルケニル基」としては、例えば、シンナミル等のC8-10アリールアルケニル、好ましくはフェニル−C2-4アルケニル等が挙げられる。
【0035】
また、環状の炭化水素基の例としては、上記した脂環式炭化水素基および芳香族炭化水素基を構成する環から選ばれる同一または異なった2〜3個の環(好ましくは2種以上の環)の縮合から誘導される二環式または三環式炭化水素基などが挙げられる。
【0036】
置換されていてもよい複素環基としては、置換されていてもよい単環式複素環基が挙げられる。置換されていてもよい単環式複素環基における「単環式複素環基」としては、例えば、環系を構成する原子(環原子)として、酸素原子、硫黄原子および窒素原子等から選ばれたヘテロ原子1種ないし3種(好ましくは1ないし2種)を少なくとも1個(好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは1個ないし2個)含む芳香族複素環基、飽和あるいは不飽和の非芳香族複素環基(脂肪族複素環基)等が挙げられる。
【0037】
「芳香族複素環基」としては、例えば、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、フラザニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル等の5ないし6員の芳香族単環式複素環基、および、例えば、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ〔b〕チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、1,2−ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾピラニル、1,2−ベンゾイソチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、ブテリジニル、カルバゾリル、α−カルボリニル、β−カルボリニル、γ−カルボリニル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、フェナトリジニル、フェナトロリニル、インドリジニル、ピロロ〔1,2−b〕ピリダジニル、ピラゾロ〔1,5−a〕ピリジル、イミダゾ〔1,2−a〕ピリジル、イミダゾ〔1,5−a〕ピリジル、イミダゾ〔1,2−b〕ピリダジニル、イミダゾ〔1,2−a〕ピリミジニル、1,2,4−トリアゾロ〔4,3−a〕ピリジル、1,2,4−トリアゾロ〔4,3−b〕ピリダジニル等の8〜16員(好ましくは、8〜12員)の芳香族縮合複素環基が挙げられる。
【0038】
「非芳香族複素環基」としては、例えば、オキシラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、チオラニル、ピペリジル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル等の3〜8員(好ましくは5〜6員)の飽和あるいは不飽和(好ましくは飽和)の非芳香族単環式複素環基(脂肪族単環式複素環基)、1,3−ジヒドロイソインドリル等のように上記した非芳香族単環式複素環基1〜2個(好ましくは、1個)がベンゼン環1〜2個(好ましくは、1個)と縮合した複素環基が挙げられる。
【0039】
置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基における「置換基」としては、特に限定しないが、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等、好ましくは塩素、臭素等)、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基、アリールアルケニル基、複素環基、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボニル基、カルボキシル基、カルバモイル基、アシル基、シアノ基等が挙げられる。また、これらの炭化水素基又は複素環基は、オキソ基又はチオキソ基を有していてもよい。炭化水素基及び複素環基は、こうした置換基を置換可能な位置に有することができる。
【0040】
ここで、「アルキル」としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−メチルプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル等のC1-6アルキル等が挙げられる。
【0041】
「アルケニル」としては、例えば、ビニル、アリル、イソプロペニル、2−メチルアリル、1−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−エチル−1−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、4−メチル−3−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル等のC2-6アルケニル等が挙げられる。
【0042】
「アルキニル」としては、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル等のC2-6アルキニルが挙げられる。
【0043】
「アリール」としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、アセナフチレニル等のC6-14アリール等が挙げられる。
【0044】
「シクロアルキル」としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等のC3-7シクロアルキル等が挙げられる。
【0045】
「シクロアルケニル」としては、例えば、シクロプロぺニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等のC3-6シクロアルケニル等が挙げられる。
【0046】
「アラルキル基」としては、例えば、ベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチルなどのフェニル−C1-6アルキル基等が挙げられる。
【0047】
「アリールアルケニル基」としては、例えば、シンナミル等のC8-10アリールアルケニル、好ましくはフェニル−C2-4アルケニル等が挙げられる。
【0048】
「複素環基」としては、すでに説明した「置換されていてもよい複素環基」における複素環基と同様の基などが挙げられる。
【0049】
置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基及び置換されていてもよい複素環基における置換基は、さらに、低級アルコキシ基(例、メトキシ、エトキシ、プロポキシ等のC1-6アルコキシ等)、ハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、低級アルキル(例、メチル、エチル、プロピル等のC1-6アルキル等)、低級アルケニル(例、ビニル、アリル等のC2-6アルケニル等)、低級アルキニル(例、エチニル、プロパルギル等のC2-6アルキニル等)、置換されていてもよいアミノ、置換されていてもよい水酸基、シアノ基等で置換されていてもよい。
【0050】
環状の炭化水素基又は複素環基は、以下の式(2)で示されるように、オリゴメチン鎖の一部の炭素原子と結合して環状構造を形成していることが好ましい。A1及びA2は、同一であっても異なっていてもよく、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は複素環基を表す。A1及びA2は、式(2)に適合する範囲ですでに説明した置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基とすることができる。
【化17】

【0051】
式(2)で表される化合物は、好ましくは、以下の式(3)で表される化合物である。式(3)において、R3及びR4は、それぞれ同一又は異なっていてもよく、水素原子、置換されていてもよい非環状の炭化水素基又は置換されていてもよい環状の炭化水素基を表す。
【化18】

【0052】
3及びR4としての置換されていてもよい非環状の炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状又はこれらを組み合わせた炭化水素基が挙げられ、R1及びR2としての非環状の炭化水素基と同様の炭化水素基等が挙げられる。好ましくは、アルキル基であり、より好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル等であり、より好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチル基が挙げられる。さらに好ましくはエチル基、n−プロピル基、n−ブチル基である。なお、これらの炭化水素基も適宜置換基を有することができる。
【0053】
及びRとしての置換されていてもよい環状の炭化水素基としては、R1及びR2としての環状の炭化水素基と同様の炭化水素基等が挙げられる。なお、これらの炭化水素基も適宜置換基を有することができる。
【0054】
及びXは、それぞれ同一又は異なっていてもよく、イオウ原子又は酸素原子を表す。すなわち、環骨格の炭素原子とチオキソ基又はオキソ基を構成する。Xは、好ましくは酸素原子であり、2つのXがいずれも酸素原子であることが好ましい。2つのXがいずれも酸素原子であると、本発明の化合物は、これらのX1−X1にによりオキソ−オキソアニオン構造をさらに追加的に備えることになる。
【0055】
式(3)で表される化合物においては、lは1又は2であることが好ましい。lが1又は2であると、オキソ−オキソアニオン構造を構成する酸素原子が適切な距離を保持しやすくなるからである。たとえば、lが1又は2であると、X1−X1距離が、0.40nm以上0.67nm以下の範囲となり、優れたカリウムチャネル開口作用を発揮しやすくなる。
【0056】
式(3)で表される化合物としては、好ましくは、式(4)で表される化合物を挙げることができる。これらの化合物は、いずれも、2つのオキソ−オキソアニオン部を含むオリゴメチン鎖が略同一平面上にあり、各オキソ−オキソアニオン部をそれぞれ構成する二つの酸素原子がオリゴメチン鎖の同一側に配置されている。これらのなかでは、l=1の化合物である4a〜4cにより高いカリウムチャネル開口作用が見出される傾向がある。
【0057】
また、式(2)で表される化合物は、好ましくは、式(5)で表される化合物である。式(5)において、R5は、それぞれ同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表す。
【化19】

【0058】
5における置換されていてもよい非環状の炭化水素基における非環状の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又はこれらの組み合わせであってもよい。こうした炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基が挙げられる。ここで「アルキル」、「アルケニル」及び「アルキニル」としては、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基における「置換基」として既に挙げたアルキル基、アルケニル基、アルキニル基についての「アルキル」、「アルケニル」及び「アルキニル」が挙げられる。これらのアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、いずれも置換されていてもよい。好ましくは、アルキル基である。
【0059】
また、置換されていてもよい環状の炭化水素基における環状の炭化水素基としては、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基及びアリールアルケニル基が挙げられる。ここで「アリール」、「シクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「アラルキル」及び「アリールアルケニル」としては、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基における「置換基」として既に挙げたアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基及びアリールアルキル基についての「アリール」、「シクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「アラルキル」及び「アリールアルケニル」が挙げられる。これらのアリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アラルキル基及びアリールアルケニル基は、いずれも置換されていてもよい。好ましくは、アリール基である。
【0060】
式(5)で表される一つの化合物としては、式(6)で表される化合物を挙げることができる。これらの化合物は、オキソ−オキソアニオン部を含むオリゴメチン鎖が略同一平面上にあり、オキソ−オキソアニオン部を構成する二つの酸素原子がオリゴメチン鎖の片側に配置されている。
【0061】
上記式(1)で表される化合物は、当業者に周知の官能基変換を行うことにより製造することができる。式(4)及び式(6)において例示した化合物は、いずれも商業的に入手することができる。
【0062】
さらに1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。置換基の種類、置換位置、及び個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0063】
本開口薬の有効成分としては、本化合物の他、置換基の種類に応じて生理学的に許容されるその塩を用いることができる。塩の種類は生理学的に許容されるものであれば特に限定されず、酸付加塩、塩基付加塩のいずれであってもよい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩を挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、エチルアミン塩などの有機アミン塩を挙げることができる。グリシンなどのアミノ酸との塩を用いてもよい。
【0064】
また、本開口薬の有効成分としては、遊離形態の化合物又は生理学的に許容されるその塩のほか、それらの任意の水和物又は溶媒和物を用いることもできる。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、アセトン、エタノール、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、本化合物は、置換基の種類に応じて1個以上の不斉炭素を有する場合がある。従って、このような不斉炭素の存在に基づいて光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合があるが、純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを本開口薬の有効成分として用いることもできる。
【0065】
本発明の開口薬は、本化合物、生理学的に許容されるその塩並びにこれらの水和物及び溶媒和物からなる群から選択される1種又は2種以上を含むこともできる。
【0066】
本開口薬は、平滑筋や中枢・抹消神経におけるBKチャネルが関連する疾患、特に、平滑筋を弛緩させることによって予防及び/又は治療が可能な各種の疾患や神経細胞を保護することによって予防及び/又は治療が可能な各種の疾患に対して適用することができる。
【0067】
本開口薬は、例えば、血管、膀胱、気管支、消化管など各種臓器の構成要素である平滑筋に存在するBKαβ1チャネル及び中枢・末梢神経に存在するBKαβ4チャネルに作用し、単位時間あたりに個々のカルシウム依存性カリウムチャネルの開口している確率(開口確率)を増大させ、細胞膜のカリウム透過性の上昇をもたらす。この結果として、平滑筋細胞を過分極させ、電位依存性カルシウムチャネルの活性を低下させる。そして、細胞外液からカルシウム流入を抑制することにより平滑筋を弛緩させ、神経細胞をカルシウム過負荷による障害から保護する。
【0068】
したがって、本発明の開口薬は、本態性高血圧症を含む高血圧症、緊張性膀胱、末梢循環障害、気道過敏症、知覚神経過敏症、中枢性痙攣などの疾患において定常的に収縮気味(過緊張)の平滑筋組織を弛緩させることができ、これらの疾患の予防及び/又は治療のための医薬として有用である。また、中枢及び末梢神経細胞、特に中枢神経細胞を保護するための医薬としても有用である。
【0069】
本開口薬としては、本化合物等を投与してもよいが、好ましくは、当業者に周知の方法によって製造可能な経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することができる。経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、及び貼付剤等を挙げることができる。
【0070】
上記の医薬組成物は1種又は2種以上の製剤用添加物を加えて製造することができる。製剤用添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができるが、これらは医薬用組成物の形態に応じて当業者が適宜選択可能である。
【0071】
本発明のカリウムチャネル開口薬
の投与量は特に限定されず、その作用の種類や作用の強弱などに応じて適宜選択することができ、さらに患者の体重や年齢、疾患の種類や症状、投与経路など通常考慮すべき種々の要因に応じて、適宜増減することができる。一般的には、経口投与の場合には成人一日あたり0.01〜1,000mg程度の範囲で用いることができる。
【0072】
本発明のカリウムチャネル開口薬は、さらに、より適切なカリウムチャネル開口薬のためのシード化合物及びリード化合物として用いることができる。
【0073】
(スクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、本化合物又はその生理学的に許容される塩を被験成分として用いて、前記被験成分のカリウムチャネル開口率を評価する評価工程を備えることができる。こうした評価工程においてカリウムチャネル開口率に優れた化合物を選択することで、よりカリウムチャネル開口薬として適切な化合物を得ることができる。カリウムチャネル開口率は、BKαともにBKβ1又はβ4を発現する細胞を作製し、この細胞を用いてホールセルパッチクランプ法及びインサイドアウトパッチクランプ法等による電気生理学実験を行うことにより測定することがでできる。これらの方法は、Imaizumi et al., 2002(Imaizumi Y, Sakamoto K, Yamada A, Hotta A, Ohya S, Muraki K,
Uchiyama M and Ohwada T (2002) Mol Pharmacol 62:836-846.)に基づいて行った。すなわち、ホールセルパッチクランプ法は、細胞膜上に多数発現したイオンチャネルが総和としてどのような機能を示すかを検討するために頻用され、充分に確立された方法である(Hamil,O.P.,et al.,Pflgers Archiv.,391,pp.85−100,1981)。また、インサイド−パッチクランプ法は、チャネルを含む細胞膜の断片を単離して細胞膜内側の環境を人為的に調節しながら、単一チャネルの開閉を直接観察することができる方法である。この方法は、チャネル機能解析法としてだけでなく、チャネル作用薬の定量的な効力検定を行うためにも、充分に確立された方法である(Hamill,O.P.上掲書)。なお、実験には細胞内液を充填したときの電極抵抗が全細胞膜電流記録時(ホールセル法)は2〜4 MΩ,単一チャネル電流記録時(インサイドアウト法)は15〜30 MΩ,マクロ電流記録時は(インサイドアウト法)は2〜4 MΩの電極を使用した。倒立顕微鏡のステージ上に設置したチャンバーに単離細胞および培養細胞を定着させたガラス片を固定し,HEPES緩衝生理食塩水で灌流し,各種電位固定法による電流の記録を行った。
【0074】
なお、本スクリーニング方法に用いる細胞は、マウス、ラット、ウサギのほか、ヒトを含む高等霊長類に由来する細胞を適宜用いることができる。細胞としてはHEK細胞(Human Embryo Kidney Cell)等を用いることができる。
【0075】
前記評価工程は、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルのβ1サブユニット又はβ4サブユニットへの作用に基づくカリウムチャネル開口率を評価する工程とすることができる。本化合物は、β1サブユニット及びβ4サブユニットに選択的に作用しうるため、こうしたサブユニットを備えるBKチャネルの開口率を評価することで、効率的にチャネル開口薬としてのスクリーニングが可能となる。
【0076】
本発明のスクリーニング方法は、カリウムチャネル開口薬のスクリーニング方法であって、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルのβ1サブユニットにおける配列番号1に記載のアミノ酸配列(LLFSFFWPTFLLTGGLLIIAMV)によって特徴付けられる部位と被験成分との相互作用を評価する工程を備えることができる。ここで相互作用とは、前記アミノ酸配列によって特徴付けられる部位への結合性であってもよいし、前記アミノ酸配列によって特徴付けられる部位を含むBKチャネル開口率であってもよい。
【0077】
本発明者らによれば、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、第2番目、第3番目、第5番目、第10番目〜13番目、第16番目、第17番目及び第19番目の部位(合計10アミノ酸残基)がβ1サブユニットを含むBKチャネルの開口率の変化に関連のある部位であると考えられる。したがって、特にこれらのアミノ酸との相互作用を評価することができる。なかでも、β1サブユニットのこれらのアミノ酸残基によって特徴付けられる構造(三次元構造座標等)への結合性を評価することで、結合性を有しうる化合物をソフトウェア上で探索して化合物ライブラリを構築することができる。
【0078】
次いで、これらの化合物を被験成分としてカリウムチャネル開口率を評価することで、効率的にカリウムチャネル開口薬をスクリーニングすることができる。化合物ライブラリを式(1)で表される化合物の範囲内で構築することでより効率的にカリウムチャネル開口薬のスクリーニングが可能となる。
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0080】
以下に、以下の実施例で用いた実験方法について説明する。
(細胞の単離)
マウス膀胱平滑筋細胞(mUBSMCs)は以前に記載した方法を用いて単離した(Morimura et al., 2006)。すなわち、C57BL/6雄性マウス(8−12週齡)から膀胱を取り出し、0.2%コラゲナーゼ(Amano Enzyme, Nagoya, Japan)を用いて37℃で11〜13分間インキュベートすることによりマウス膀胱平滑筋細胞を得た。
【0081】
(トランスフェクション及び細胞培養)
HEK293細胞は10% ウシ胎児血清(Cell Culture Technologies,
Buhnrain/Zurich, Switzerland)、100units/mlペニシリン(Wako Pure Chemical Industries, Osaka,
Japan)、100μg/mlストレプトマイシン(Meiji Seika, Tokyo, Japan)を添加したMEM培地(Invitrogen
Corp., Carlsbad, CA, U.S.A.)中で、37℃、5%CO下で培養した。rBKα、rSK2、mSK4、rKv1.1、rKv4.3を定常発現させたHEK293細胞(HEK−rBKα、HEK−rSK2、HEK−mSK4、HEK−rKv1.1、HEK−rKv4.3)は以前にrBKα、rSK2、mSK4、rKv1.1、rKv4.3を組み込んだpcDNA3.1(+) (Invitrogen)をトランスフェクションして作製した(Yamada et al., 2001; Imaizumi et al.,
2002; Hatano et al., 2004; Sakamoto et al., 2006)。同様にrBKαとrBKβ1もしくはrBKβ4を定常発現させたHEK293細胞(HEK−rBKαβ1、HEK−rBKαβ4)も以前に作製した。rBKαとrBKβ2を一過性に発現させたHEK293細胞(HEK−rBKαβ2)はrBKαを組み込んだpcDNA3.1(+)(Invitrogen)とrBKβ2を組み込んだpTracer−CMV2(Invitrogen)を同時にトランスフェクションして作製した。トランスフェクションされた細胞はトランスフェクション後24−96時間後のpTracer−CMV2由来のGFPシグナルの有無によって判定した。トランスフェクションされた細胞は培養シャーレ中の小さなガラス片上に培養し、電気生理学実験に用いた。
【0082】
(電気生理)
ホールセルパッチクランプ法及びインサイドアウトパッチクランプ法はCEZ-2200、CEZ-2300、CEZ-2400(Nihon
Kohden, Tokyo, Japan)、EPC-7(List Electronik, Darmstadt,
Germany)のアンプを用いて以前に報告した方法で行った(Imaizumi et al., 2002)。ホールセルでの電気生理学的な記録及びデータの取り込み/解析はカルガリー大学で開発された二つのプログラム(Data-Acquisition、Cell-Soft)を用いて行った。単一チャネル電流の解析はStrathclyde大学で開発されたPATV7.0Cを用いて行われた。ホールセルパッチクランプ法には電極内液をつめたときの電極抵抗が2−5MΩのものを使用し、インサイドアウトパッチクランプ法には10-15 MΩのものを使用した。
【0083】
(溶液)
(単離したマウス膀胱平滑筋単離細胞やトランスフェクションされたHEK293細胞の全細胞電流の記録)
標準的なHEPES緩衝液[(mM): 137
NaCl, 5.9 KCl, 2.2 CaCl2, 1.2 MgCl2, 10 HEPES, 14 D-glucose
(NaOHによりpH 7.4に調製)]を灌流液として使用した。
(マウス膀胱平滑筋単離細胞の全細胞電流の記録)
300 nM Ca2+の電極内液[(mM): 140 KCl, 4.5 CaCl2, 3
MgCl2, 10 EGTA, 10 HEPES, 2 ATP (KOHによりpH 7.2に調製)]と100
μM Cd2+を含む標準的なHEPES緩衝液を使用した。
(HEK-rBKα、HEK-rBKαβ1、HEK-rBKαβ4の全細胞電流の記録)
300 nM Ca2+の電極内液[(mM): 140 KCl, 3.3 CaCl2, 1
MgCl2, 5 EGTA, 10 HEPES, 2 ATPNa2 (KOHによりpH
7.2に調製)]を使用した。
(HEK-rBKαβ2の全細胞電流の記録)
1 μM Ca2+の電極内液[(mM): 140 KCl, 4.3 CaCl2, 4 MgCl2, 5 EGTA, 10
HEPES, 2 ATPNa2 (KOHによりpH 7.2に調製)]を使用した。
(HEK-rSK2、HEK-mSK4の全細胞電流の記録)
1 μM Ca2+の電極内液[(mM): 138 K-aspartate, 8.6 CaCl2, 2 MgCl2, 10
EGTA, 10 HEPES, 1 ATPK2 (KOHによりpH 7.2に調製)]を使用した。液間電位は測定により-14 mV補正した。
(HEK-rKv1.1、HEK-rKv4.3の全細胞電流の記録)
名目上Ca2+のない(~10
nM)電極内液[(mM): 138 KCl, 0.58 CaCl2, 2 MgCl2,
10 EGTA, 10 HEPES, 1 ATPK2 (KOHによりpH 7.2に調製)]を使用した。
(インサイドアウトパッチクランプ下での単一チャネル電流の記録)
灌流液、電極内液ともにHEPES緩衝液[(mM) 140 KCl,
2.2 CaCl2, 1.2 MgCl2, 5 EGTA, 10 HEPES, 14 D-glucose (pCa
7.0, NaOHによりpH 7.2に調製)]を使用した。
遊離Ca2+濃度は(WEBMAXCプログラム(http://www.stanford.edu/~cpatton/webmaxcS.htm)を用いて算出した。
【0084】
(使用した化合物)
なお、今回使用した化合物は、以下のとおりである。入手先とともに示す。
DiBAC(3):ビス(1,3−ジブチルバルビツール酸)トリメチンオキソノール(Dojindo(Kumamoto,Japan)
DiBAC(5):ビス(1,3−ジブチルバルビツール酸)ペンタメチンオキソノール、DiSBAC(3):ビス(1,3−ジエチルチオバルビツール酸)トリメチンオキソノール(Molecular
Probes,Inc.)
DiSBAC(5):ビス(1,3−ジエチルチオバルビツール酸)ペンタメチンオキソノール(AnaSpec,Inc.)
DiSBAC(1):ビス(1,3−ジエチルチオバルビツール酸メチンオキソノール(Specs,Inc.)
BA:バルビツール酸(和光純薬工業株式会社)
DiSBAC(3):ビス(1,3−ジブチルチオバルビツール酸)トリメチンオキソノール、DiSBAC(5):ビス(バルビツール酸)ペンタメチンオキソノール、Oxonol595:ビス(3−シアノ−1−エチル−4−メチル−2,6−ジオキソ−1,2,5,6−テトラヒドロピリジン)トリメチンオキソノール、OxonolV:ビス(3−フェニル−5−オキソイソキサゾール−4−イル)ペンタメチンオキソノール、DMBA:1,3−ジメチルバルビツール酸、DETBA:1,3−ジエチルl−2−チオバルビツール酸、penitremA(シグマ
アルドリッチ)
OxonolVI:ビス(3−プロピル−5−オキソイソオキサゾール−4−イル)ペンタメチンオキソノール(Fluka(Buchs,Switzerland)
DiSBAC10(3):ビス(1,3−ジデシルチオバルビツール酸)トリメチンオキソノール(Cayman(Ann
Arbor,MI,U.S.A.))
【0085】
DiBAC(3)、DiBAC(5)、DiSBAC(3)、DiSBAC(3)、DiSBAC(5)、DiSBAC(1)、Oxonol595、OxonolV、OxonolVI、penitremAは10mMの濃度でDMSOに溶解し、BA、DMBA、DETBAは100mMの濃度でDMSOに溶解し−20℃で保存した。薬物を灌流液に溶解させるために溶解しにくい化合物は約1分間ソニケーションして実験に使用した。
【0086】
(化合物の立体構造の最適化とpKa及び分子内距離の算出)
オキソノール化合物の最安定構造は構造上互変異性体をとり二価の陰イオンとして存在するDiSBAC0(5)を除いて、一価の陰イオンの状態でスパルタン’04ソフトウェアfor Windows version 1.0.3.(Wavefunction,
Inc., Irvine, CA, U.S.A.)を使用し、density-functional theory (DFT)法を用いた計算により決定し、UCSF Chimeraソフトウェアにより表示した。分子内の酸素原子-酸素原子間距離はその最安定構造から測定した。分子のイオン化の度合いを決定するpKa値はSolaris V4.76 ソフトウェア(Advanced Chemistry Development, Inc., Toronto, Ontario, Canada)を用いて計算した。
【0087】
(統計)
実験結果は平均値±標準誤差で表記した。二群間、多群間の検定にはFtestもしくは一元配置分散分析を行った後にStudent’s t−test、Scheffe‘
testにより評価した。図中の*、**はそれぞれ危険率5%及び1%で統計的に有意であることを意味する。
【実施例2】
【0088】
本実施例では、DiBAC4(3)が単離マウス膀胱平滑筋細胞のBK電流を活性化するかどうかを確認した。まず初めに、パッチクランプ法を用いて単離マウス膀胱平滑筋細胞に脱分極刺激を与えたときに惹起される外向き電流に対するDiBAC4(3)の作用について検討した。マウス膀胱平滑筋細胞に脱分極刺激を与えたときに惹起される全細胞BK電流の測定は電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)をブロックするために標準的なHEPES緩衝液に100 μM Cd2+を添加し、Ca2+-EGTA緩衝により電極内液のpCaを6.5に固定した条件で行った。
【0089】
図1Aに示すように、保持電位-60 mVから+40 mVへ150ミリ秒間脱分極させたときに惹起される外向き電流(図中の黒丸)は300 nM DiBAC4(3)投与により著しく増大し、さらに選択的BKチャネル阻害薬であるpenitrem Aを投与により抑制された。また、60
mVから+60 mVの範囲で10 mVステップで150ミリ秒間脱分極させたときに惹起される外向き電流(図中の白丸)から、電流密度-電圧関係を得た(図1B)。図1Bに示すように、+60 mVへ脱分極させたときのピーク外向き電流密度は、薬物投与前16.9 ± 0.4 pA/pF、300 nM DiBAC4(3)投与時28.8
± 1.3 pA/pF (薬物投与前に対してp<0.01)、penitrem A投与時6.6
± 1.6 pA/pF (DiBAC4(3)投与時に対してp<0.01、薬物投与前に対してp<0.05)であった(それぞれn = 4)。これらの結果は、αサブユニットとβ1サブユニットから構成されるマウス膀胱平滑筋細胞のBKチャネル電流に対してDiBAC4(3)は強力な活性化作用をもつことがわかった。
【実施例3】
【0090】
本実施例では、DiBAC4(3)のBKチャネル開口作用の有無について評価した。ラットBKチャネルαサブユニット(rBKα)のみを定常的に発現させたHEK293細胞(HEK-rBKα)とαサブユニットとラットBKチャネルβ1サブユニット、β2サブユニット、β4サブユニット(rBKβ1、rBKβ2、rBKβ4)のいずれかを定常的にもしくは一過性に共発現させたHEK293細胞(HEK-rBKαβ1、HEK-rBKαβ2、HEK-rBKαβ4)を用いた異種発現系により、DiBAC4(3)のBKチャネルに対する作用を検討した。
【0091】
(HEK-rBKαβ1に対する作用)
全細胞電流をpCa 6.5の電極内液と標準的な灌流液で測定した。電流密度-電圧関係を図2Aに示す。HEK-rBKαβ1を保持電位-60 mVから150ミリ秒間10 mVステップで脱分極させたときに惹起される外向き電流は300 nM DiBAC4(3)投与によって-40 mVより高電位において著しく増大し、さらに1 μM penitrem A投与により完全に抑制された。また、+60mVへ脱分極させたときのピーク外向き電流密度は薬物投与前142.8 ± 14.6 pA/pF、300
nM DiBAC4(3)投与時219.1 ± 35.8 pA/pF (薬物投与前に対してp<0.01)、penitrem A投与時2.4 ± 2.0 pA/pF
(薬物投与前及びDiBAC4(3)投与時に対してp<0.01)であった(それぞれn = 3)。また、図2Bに示すように、HEK-rBKαβ1を+20 mVへ脱分極させたときの外向き電流は10 nMから1 μMのDiBAC4(3)の累積投与により濃度依存的に活性化した。そしてさらに1 μM penitrem A投与によりその外向き電流はほぼ完全に抑制された。さらに、図2Cに、HEK-rBKαβ1におけるDiBAC4(3)の濃度-反応関係は、DiBAC4(3)投与時のピーク外向き電流を薬物投与前のピーク外向き電流により規格化し、相対的な増加率として示した。図2Cに示すように、+20 mVへ脱分極させたときの相対的な増加率は10
nM DiBAC4(3)(1.440 ± 0.242; 薬物投与前に対してp<0.05)及びそれ以上のDiBAC4(3)濃度で濃度依存的に増大した。なお、ホールセルパッチクランプ下、低濃度のDiBAC4(3) (100 nM以下)投与により活性化されたBK電流はwash outにより可逆的に回復したが、高濃度のDiBAC4(3)
(300 nM以上) 投与により活性化されたBK電流はwash outにより完全には回復しなかった(図示せず)。
【0092】
また、細胞内外が140 mM K+の条件下、インサイドアウトパッチクランプ法を用いてHEK-rBKαβ1の+20 mVにおける単一チャネル電流を測定した。なお、灌流液及び電極内液のpCaは7.0に固定した。DiBAC4(3)投与時のPoを薬物投与前のPoにより規格化し、相対的な開口確率(Po)として示した。結果は、図3A及び図3Bに示すように、rBKαβ1チャネルの相対的なPoは100
nMから3 μMのDiBAC4(3)の累積投与により濃度依存的に増大した。DiBAC4(3)投与によるrBKαβ1チャネルの相対的なPoの増大は全細胞rBKαβ1電流に対する作用とは異なり、wash
outによりすばやくそして完全に回復した。DiBAC4(3)濃度-相対的なPoの関係を図3Cに示す。
【0093】
また、図3Dに示すように、+50 mVでの単一チャネル電流量及び単一チャネルコンダクタンスは薬物投与前12.37 ± 0.07 pA、260.2 pS、300
nM DiBAC4(3)投与時12.76 ± 0.24 pA、263.4
pS (薬物投与前に対してp>0.05、それぞれn = 5)であった。Poは300
nM DiBAC4(3)投与により測定した全ての電位で増大し、開口確率-電圧曲線は以下に示すボルツマン式によく適合した。
Po = 1/1[1 + exp{ V1/2 - Vm )/S}]
V1/2、Vm、Sはそれぞれ50%活性化電位、膜電位、スロープファクターを示す。
【0094】
図3EにV1/2とSとを示す。図3Eに示すように、V1/2とSは薬物投与前96.3±2.7mV、11.4±2.2mV、300nMDiBAC(3)投与時74.8±8.4mV(薬物投与前に対してp<0.01)、17.3±4.3mV(薬物投与前に対してp>0.05)であった(それぞれn=5)。以上のことから、開口確率−電圧曲線は300nMDiBAC(3)投与により約30mV低電位側へ移動したことがわかった。
【0095】
(HEK-rBKαに対する作用)
なお、同様にHEK-rBKαの全細胞電流及び単一チャネル電流をHEK-rBKαβ1と同じ条件下で測定した。インサイドアウトパッチクランプ下、DiBAC(3)投与時のP0を薬物投与前のP0により規格化し、相対的な開口確率(P0)として図4Aに示す。図4A及び図4Bに示すように、rBKαチャネルの相対的なP0は10 nMから3 μMのDiBAC4(3)の累積投与により著しい変化を示さなかった。また、図4CにDiBAC4(3)濃度-相対的なP0関係を示す。図4Cに示すように、DiBAC4(3)の濃度に比例したrBKαの相対的なP0は増大しなかった。また、図4Dに示す電流密度-電圧関係から明らかなよに、ホールセルパッチクランプ下、HEK-rBKαの外向き電流は300 nM
DiBAC4(3)投与により有意な変化を示さなかった。さらに1 μM penitrem A投与によりその外向き電流は抑制された。+60 mVへ脱分極させたときのピーク外向き電流密度は薬物投与前152.8 ± 70.2 pA/pF、300
nM DiBAC4(3)投与時145.5 ± 67.2 pA/pF (薬物投与前に対してp>0.05)、penitrem A投与時6.8 ± 3.3 pA/pF
(薬物投与前及びDiBAC4(3)投与時に対してp<0.01)であった(それぞれn = 3)。
【実施例4】
【0096】
(DiBAC4(3)のBKチャネルβサブユニットのサブタイプに対する選択性)
次にHEK-rBKαβ1に加えてHEK-rBKαβ2及びHEK-rBKαβ4を用いてDiBAC4(3)のBKチャネルβサブユニットのサブタイプに対する選択性について検討した。
【0097】
(HEK-rBKαβ2に対する作用)
HEK-rBKαβ2において十分に不活性化したBK電流を+20 mVから+80 mVの範囲で観察するため、rBKαβ2全細胞電流をpCa 6.0の電極内液と標準的な灌流液で測定した(Wallner
et al., 1999)。HEK-rBKαβ2におけるDiBAC4(3)の濃度-反応関係を図5Aに示す。図5Aに示すように、HEK-rBKαβ2を保持電位-80 mVから1000ミリ秒間20 mVステップで脱分極させたときに惹起される外向き電流は+20 mVより高電側で速い不活性化を示した。また、HEK-rBKαやHEK-rBKαβ1と異なり、HEK-rBKαβ2の不活性化を示す外向き電流はDiBAC4(3)投与により影響を受けず、3 μM DiBAC4(3)投与により有意に抑制された。さらに1 μM penitrem A投与により完全に抑制された。+80 mVへ脱分極させたときのピーク外向き電流密度は薬物投与前199.1 ± 35.6 pA/pF、300
nM DiBAC4(3)投与時135.0 ± 26.0 pA/pF (薬物投与前に対してp>0.05)、penitrem A投与時7.8 ± 2.3 pA/pF
(薬物投与前及びDiBAC4(3)投与時に対してp<0.01)であった(それぞれn = 3)。また、図5Bに示すように、+80
mVでの相対的な増加率は1 μM DiBAC4(3)投与時0.878 ± 0.090 (p>0.05)、3
μM DiBAC4(3)投与時0.627 ± 0.069 (p<0.01)であった(それぞれn = 5) 。
【0098】
(HEK-rBKαβ4に対する作用)
HEK-rBKαβ4の全細胞電流はHEK-rBKαやHEK-rBKαβ1と同じ条件下で測定した。図6Bに示すように、HEK-rBKαβ4の外向き電流は300 nM DiBAC4(3)投与により-20 mVより高電位側で著しく増大し、さらに1
μM penitrem A投与により完全に抑制された+60 mVへ脱分極させたときのピーク外向き電流密度は薬物投与前127.6 ± 17.9 pA/pF (n = 6)、300 nM DiBAC BAC4(3)投与時230.5 ± 36.1 pA/pF (薬物投与前に対してp<0.01、n = 6)、penitrem A投与時9.4
± 2.3 pA/pF (薬物投与前及びDiBAC BAC4(3)投与時に対してp<0.01、n = 4)であった。
【0099】
また、+20 mVへ脱分極させたときのHEK-rBKαβ4の外向き電流は10 nMから3 μMのDiBAC BAC4(3)の累積投与により濃度依存的に増大した。その外向き電流は1 μM penitrem A投与により完全に抑制された(図6B)。HEK-rBKαβ4におけるDiBAC BAC4(3)の濃度-反応関係は図2Cに示したHEK-rBKαβ1の濃度-反応関係と重ね合わせて図6C示した。注目すべき点は10 nM から3 μMの濃度でのrBKαβ4電流のDiBAC
BAC4(3)による活性化はrBKαβ1電流の活性化とほぼ同程度であることである。+20
mVへ脱分極させたときのrBKαβ4電流の相対的な増加率は10 nM DiBAC BAC4 (3)で1.322 ± 0.096であり、(薬物投与前に対してp<0.05) rBKαβ1電流の10
nM DiBAC BAC4(3)による相対的な増加率とは有意な差は見られなかった(1.440 ± 0.242; rBKαβ1電流に対してp>0.05)。
【実施例5】
【0100】
(DiBAC4(3)の他のK+チャネルに対する選択性)
次にDiBAC BAC4(3)の小コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル(rSK2, mSK4)や電位依存性K+チャネル(rKv1.1, rKv4.3)などの他のK+チャネルに対する選択性をパッチクランプ法により検討するため、これらのチャネルを定常的に発現させたHEK293細胞(HEK-rSK2、HEK-mSK4、HEK-rKv1.1、HEK-rKv4.3)を作製した。
【0101】
(HEK-rSK2及びHEK-mSK4に対する作用)
HEK-rSK2及びHEK-mSK4の全細胞電流はCl-をaspartate-
に置換しpCaを6.0に固定した電極内液と標準的な灌流液を使用し、-160 mVから+20 mVへ250ミリ秒間ランプパルスにより脱分極させて測定した。
【0102】
図7Aに示すように、HEK-rSK2の全細胞電流は10 μM DiBAC
BAC4(3)投与によりかすかに減少し、選択的なSK1-3チャネル阻害薬である10 nM
UCL 1684投与により抑制された。また、図7Bに示すように、HEK-mSK4の全細胞電流は10 μM DiBAC
BAC4(3)投与により影響を受けず、選択的なSK4チャネル阻害薬である1 μMクロトリマゾール投与により抑制された。
【0103】
(HEK-rKv1.1及びHEK-rKv4.3に対する作用)
HEK-rKv1.1及びHEK-rKv4.3の全細胞電流はpCaを8.0に固定した電極内液と標準的な灌流液を使用し、保持電位-80 mVから+20 mVへ1000ミリ秒間脱分極させて測定した。図7Cに示すように、HEK-rKv1.1の全細胞電流は10 μM DiBAC4(3)投与により影響を受けず、Kv1.xチャネル阻害薬である100 nM margatoxin投与により抑制された。また、図7Dに示すように、HEK-rKv4.3の全細胞電流も10 μM DiBAC BAC4(3)投与により影響を受けなかった。
【0104】
これらのチャネルに対する10 μM DiBAC BAC4(3)の作用について図7Eにまとめて示す。HEK-rSK2及びHEK-mSK4での相対的な増加率は、計算によりCl-の逆転電位である-50 mVにおいてDiBAC BAC4(3)投与時の電流量を薬物投与前の電流量により規格化して求めた。HEK-rKv1.1及びHEK-rKv4.3での相対的な増加率は、+20 mVへ脱分極させたときのDiBAC BAC4(3)投与時のピーク外向き電流を薬物投与前のピーク外向き電流により規格化して求めた。
【0105】
10 μM DiBAC BAC4(3)投与による相対的な増加率は、HEK-rSK2では0.754 ± 0.052 (薬物投与前に対してp<0.05)、HEK-mSK4では1.051 ± 0.057
(p>0.05)、HEK-rKv1.1では1.010 ± 0.013 (p>0.05)、HEK-rKv4.3では0.942
± 0.055 (p>0.05)であった(それぞれn = 4)。これらの結果より、DiBAC
BAC4(3)が本実施例で検討したCa2+活性化K+チャネルや電位依存性K+チャネルよりもBKチャネルに選択的であることがわかった。
【実施例6】
【0106】
(BKチャネル開口薬としてのDiBAC BAC4(3)と関連オキソノール化合物の構造活性相関)
DiBAC4(3)は二つの1,3-ジアルキルバルビツール酸がオリゴメチン鎖によって共役し結合した特有の構造をもつため、DiBAC BAC4(3)のBKチャネル活性化に必要な分子構造を決定するために16種類のDiBAC4(3)とその類似化合物のBKチャネル活性化に対する構造-効能関係を明らかにした。DiBAC4(3)とその類似化合物の名称と構造を図8Aに示す。
【0107】
HEK-rBKαβ1に保持電位-60 mVから+20
mVへ脱分極させたときに惹起される全細胞外向き電流量に対する100nM、1μM DiSBAC2(5)の作用及び1、10 μM DiSBAC2(1)の作用を図8にそれぞれ示す。図8Bに示すように、rBKαβ1電流は1 μM DiSBAC2(5)投与により明らかに活性化し、10 μM DiSBAC2(1)投与によりわずかに活性化した。図示した化合物の活性を決定するために同様の実験を行った(図示せず)。類似化合物投与時のピーク外向きBK電流を薬物投与前のピーク外向きBK電流により規格化し、相対的な増加率としてまとめて図8Cに示す。
【0108】
図8Cに示すように、HEK-rBKαβ1の全細胞電流は100 nM
DiSBAC4(3)投与により約2倍に増大した(2.415 ± 0.390, n = 5)。これは100 nM DiBAC4(3)投与により活性化される度合いと同程度であり(2.262 ± 0.096, n = 7; DiSBAC4(3)に対してp>0.05)、DiBACのC=O結合をDiSBACのC=S結合に置換してもBKチャネル活性化作用に影響を与えないことがわかった。さらにHEK-rBKαβ1の全細胞電流は100 nM
DiSBAC2(3)投与により約2倍に増大した(2.044 ± 0.32, n = 4; DiBAC4(3)及びDiSBAC4(3)に対してp>0.05)。
【0109】
同様に、図8Cに示すように、HEK-rBKαβ1の全細胞電流は1、10
μMのDiSBAC0(5)投与により影響を示さなかった(1.017
± 0.011, n = 5; 薬物投与前に対してp>0.05、1.003 ± 0.006, n
= 5; 薬物投与前に対してp>0.05)。インサイドアウトパッチクランプ下においても同様で、HEK-rBKαβ1のNPoは1
μM DiSBAC0(5)投与により影響を受けなかったが、10 μM DiSBAC0(5)投与によりで有意に低下した。1 μM、10 μM DiSBAC0(5)投与によるNPoの相対的な増加率は1.180 ± 0.217 (n = 6; 薬物投与前に対してp>0.05)、0.422 ± 0.146 (n = 4; 薬物投与前に対してp<0.05)であった。それゆえに、アルキル側鎖がなくなると効能が著しく低下するようである。これらの結果より、バルビツール酸の1,3位のアルキル側鎖はBKチャネル開口特性に有効であるが、エチル基(C2)でもブチル基(C4)でも炭素原子の長さは効能に大きく関係しないようであった。
【0110】
さらに、図8Cに示すように、臨床で使用される睡眠薬(ヘキソバルビタール、バルビタール)、ヒダントイン型抗てんかん薬(フェニトイン)、バルビツール酸/チオバルビツール酸(BA, DMBA, DETBA)は、HEK-rBKαβ1の全細胞電流に対する作用を示さなかった(いずれも10μM)(ヘキソバルビタール、バルビタール及びフェニトインについてはデータ図示せず)。10 μMのBA、TMBA、TETBAの投与によるBK電流の相対的な増加率は0.996 ± 0.039 (n = 5; 薬物投与前に対してp>0.05)、0.938 ± 0.028 (n = 4; 薬物投与前に対してp>0.05)、1.125 ± 0.096 (n = 4; 薬物投与前に対してp>0.05)であった。これらの結果より、オリゴメチン鎖により共役した二つのバルビツール環がDiBAC4(3)のBKチャネル開口特性には有効であることがわかった。
【0111】
また、トリメチン鎖のDiBAC4(3)とDiSBAC2(3)の作用とトリメチン鎖をペンタメチン鎖に伸ばしたDiBAC4(5)、DiSBAC2(5)の作用を比較した。さらに、トリメチン鎖をモノメチン鎖に縮めたDiSBAC2(1)の作用についても検討したところ、興味深いことに、100 nM、1 μM DiBAC4(5)投与による相対的な増加率は1.257 ± 0.025 (n = 5; 薬物投与前に対してp<0.01)、1.918 ± 0.287 (n = 5; 薬物投与前に対してp<0.05)であり、 100 nM、1 μM DiSBAC2(5)投与による相対的な増加率は1.293 ± 0.033 (n = 4; 薬物投与前に対してp<0.01)、2.107 ± 0.053 (n = 4; 薬物投与前に対してp<0.01)であった。BKチャネルは1 μM DiSBAC2(1)投与により活性化しなかったが (1.044 ± 0.050, n = 4; 薬物投与前に対してp>0.05)、10 μM DiSBAC2(1)投与により活性化した(1.252 ± 0.063, n = 4; 薬物投与前に対してp<0.05) (図8C)。したがって、1,3−アルキルバルビツール酸を備えるオキソノール化合物においては、トリメチン鎖がオリゴメチン鎖の好ましい長さであることがわかった。これらの結果より、共役しているオリゴメチン鎖の長さがBKチャネル開口薬としての効能を決定する重要な因子であることがわかる。
【0112】
さらに、効能を示す分子に必要なオキソ部の数と局在を明らかにするため、Oxonol 595、Oxonol V、Oxonol
VIの作用について検討した。Oxonol 595はピリミジン環4位のオキソ部が消失しているがDiBAC4(3)と似た構造をもつ。Oxonol V、Oxonol VIは5-イソオキサゾロン環をもつ。Oxonol 595は全く活性を示さなかった(1 μM投与時:1.002 ± 0.025,
n = 4; 薬物投与前に対してp>0.05、10 μM投与時:1.071 ± 0.078, n = 5; 薬物投与前に対してp>0.05)。これに対して、Oxonol V、Oxonol
VIともにBKチャネル開口薬として作用するが、Oxonol VはOxonol VIよりも効能が約10倍高かった(図8D)。酸性のpKaをもつオキソノール化合物はpH 7.4でほぼ完全にオキソアニオンを形成する。それにもかかわらず、10 μMの濃度においてもOxonol 595はBKチャネル開口薬としての効能を示さなかった。
【実施例7】
【0113】
(立体解析に基づくBKチャネル活性化に必要なDiBAC4(3)の構造)
本実施例では、
BKチャネル活性化のための立体構造及び分子内のオキソ-オキソアニオン部間のオリゴメチン鎖の最も効果的な長さを検討した。立体構造解析にあたり、スパルタンソフトウェアを使用し、DFT法を用いてオキソノール化合物の最安定立体構造を計算した。図9Aは実施例6で用いた10種類のオキソノール化合物の最安定立体構造の上面図及び側面図を示す。また表1には、オリゴメチン鎖の両側でのオキソ-オキソアニオン部間距離とHEK-rBKαβ1の全細胞電流の相対的な増加率を示す。
【表1】

【0114】
図9Aの側面図から明らかなように、活性のある化合物においては、矢印で示された負電荷を帯びた酸素原子とそのオリゴメチン鎖は最安定構造において一平面上に存在する。すなわち、DiBAC/DiSBAC化合物中のオリゴメチン鎖により結合した二つのバルビツール環/チオバルビツール環も一平面上に存在している。これは二つの環が5-イソオキサゾロン環であるオキソノールVにおいても同様である。これは負電荷を帯びたオキソ基とオリゴメチン鎖が効果的に電子を伝達するために必要であると考えられる。あまり活性を示さなかったDiSBAC2(1)の分子像の二つのチオバルビツール環にねじれが観察された。また、オキソノールVよりも大幅に活性が落ちたオキソノールVIにはオリゴメチン鎖にかすかなねじれが観察された(図9A)。
【0115】
また、活性のあるDiBAC/DiSBAC化合物及びオキソノール V/VIのオキソ-オキソアニオン部はオキソノール鎖の同一側に位置するのに対して、オキソノール595のオキソ-オキソアニオン部はオリゴメチン鎖の反対側に一つずつ位置する。また、オキソノール595のオキソ-オキソアニオン部が共役したオリゴメチン鎖に対して互いに逆方向に位置している。
【0116】
また、表1に示すように、各種化合物の分子内のオリゴメチン鎖の両側に位置する二つのオキソ-オキソアニオン部において二つの酸素原子間の距離を計算したところ4 オングストロームと7
オングストロームであった。DiBAC/DiSBAC化合物中でトリメチン鎖と共役した距離が短い側(4 オングストローム)のオキソ-オキソアニオン部に存在する二つの酸素原子が、最も効率的な共役π電子の伝達により高い活性を与えるのであろうと考えられる。
【0117】
以上のことから、図9Bに示すように、オリゴメチン鎖により共役した少なくとも一組のオキソ-オキソアニオン部がオリゴメチン鎖の同一側に位置し、これらが略平面構造となる最安定構造を採ることがβユニット選択的なBKチャネル開口薬としての作用に有効であることがわかった。
【実施例8】
【0118】
(βサブユニット選択的BKチャネル活性化の分子機構)
(βサブユニットのDiBAC4(3)感受領域の同定)
BKチャネルβ1サブユニットとβ2サブユニットの間には,アミノ酸レベルで約41%の相同性があり,BKチャネルβサブユニットの中で最も相同性が高い。にもかかわらず,αサブユニットにβ1サブユニットを共発現させたBK電流はDiBAC4(3)に感受性を示すのに対して,β2サブユニットを共発現させたBK電流はDiBAC4(3)に非感受性であった(実施例3及び4参照)。そこで,β1サブユニットとβ2サブユニットのキメラ変異体を作製することにより,オキソノール化合物によるβサブユニットを介したBKチャネル活性化機構を明らかにすることを目指した。
【0119】
BKチャネルβ2サブユニットはN末端領域に不活性化ボールが存在するため、β1サブユニットと異なり不活性化特性を示す。そのため、βサブユニット変異体の機能解析には,この不活性化ボールを欠損させた不活性化特性を示さないβ2サブユニット変異体(β2IRサブユニット;IR:inactivation
removed)を作製し、実験に使用した。細胞内外のK+濃度を140 mM,細胞内液のCa2+濃度は3 μMに固定した条件下インサイドアウトパッチクランプ下において観察されるマクロBK電流のV0.5の300 nM DiBAC4(3)投与による変化量(ΔV0.5)をDiBAC4(3)感受性の指標とした。BKα電流、BKαβ1電流、BKαβ2IR電流に対するDiBAC4(3)の作用を図10に示す。
【0120】
図10に示すように、インサイドアウトパッチクランプ下において観察されるBKα電流、BKα+β2IR電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与によりに有意な変化は見られなかったが、BKαβ1電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与によりに約30 mV低電位側へ移動した。これは以前のHEK-rBKαβ2ホールセル電流に対するDiBAC4(3)の作用と同様の結果であり、不活性化ボールを欠損させてもDiBAC4(3)はBKα+β2IR電流に感受性を示さなかった。それとは対照的にslope factorは測定した全てのBK電流において有意に増大した。これは、DiBAC4(3)のβサブユニットの有無に依存しないBKαサブユニットに対する作用であると考えられる。以上の結果より、300 nM DiBAC4(3)に対してBKαβ1電流は感受性を示すが,BKα電流,BKαβ2IR電流は感受性を示さないことが確認された。
【0121】
次に、β1サブユニットの細胞内NC末端領域をβ2IRサブユニットの細胞内NC末端領域に置換したキメラ変異体(β1NCβ2),β2IRサブユニットの細胞外ループをβ1サブユニットの細胞外ループに置換したキメラ変異体(β2Lβ1)、β2IRサブユニットの二つの膜貫通領域をβ1サブユニットの二つの膜貫通領域に置換したキメラ変異体(β2TMsβ1)をそれぞれ作製し、DiBAC4(3)感受性に必要なβ1サブユニットの領域について検討した。BKαβ2Lβ1電流、BKαβ1NCβ2電流、BKαβ2TMsβ1電流に対するDiBAC4(3)の作用を図11に示す。
【0122】
図11に示すように、BKαβ1NCβ2電流及びBKαβ2TMsβ1電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与により、それぞれ低電位側へ移動したのに対し、BKαβ2Lβ1電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与により、有意な変化は見られなかった。これより、DiBAC4(3)結合領域はβ1サブユニットの二つの膜貫通領域に存在すると推測された。
【0123】
さらに、β1、β2IRサブユニットのN末端側膜貫通領域(TM1)をβ2IR,β1サブユニットのN末端側膜貫通領域にそれぞれ置換したキメラ変異体(β1TM1β2、β2TM1β1)、β1、β2IRサブユニットのC末端側膜貫通領域(TM2)をβ2IR、β1サブユニットのC末端側膜貫通領域にそれぞれ置換したキメラ変異体(β1TM2β2、β2TM2β1)を作製し、DiBAC4(3)感受性について検討した。BKαβ1-LFF/FHL電流,BKαβ1-FLLT/CMMA電流、BKαβ1-LLI/VAV電流に対するDiBAC4(3)の作用を図12に示す。
【0124】
図12に示すように、BKαβ1TM1β2電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与により、低電位側へ移動したのに対し(図示せず)、BKαβ1TM2β2電流及びBKαβ2TM1β1電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与により有意な変化は見られなかった。また興味深いことに、BKαβ2TM2β1電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与により、低電位側へ移動した。以上より、β1サブユニットのC末端側膜貫通領域がDiBAC4(3)の薬物感受領域としてBKチャネル活性を調節することが示唆された。
【実施例9】
【0125】
(βサブユニットC末端側膜貫通部位のDiBAC4(3)感受部位の同定)
β1、β2IRサブユニットキメラ変異体を用いた解析から,実験に使用したラットβ1サブユニットとラットβ2サブユニットのC末端側膜貫通領域のアミノ酸配列を比較した。図13に示すように、膜貫通領域として予測される23アミノ酸のうち12アミノ酸は保存されており,DiBAC4(3)感受部位と推測されるアミノ酸は11個あった。また、ラットβ1サブユニットの156番目(C末端側膜貫通領域1番目)のイソロイシン(I)は,マウスではバリン(V),ヒト,ウサギではアラニン(A),ウシではセリン(S),イヌではスレオニン(T)と種によって異なる(図示せず)。マウス膀胱平滑筋のホールセルBK電流は300 nM DiBAC4(3)投与により著しく活性化したことから(実施例2参照)、β1サブユニットの156番目のイソロイシン(I)はDiBAC4(3)感受部位から除外できる。そのため、現時点においてはβ1サブユニットとβ2サブユニットで異なる10個のアミノ酸がDiBAC4(3)感受部位として推定された。
【0126】
次にDiBAC4(3)感受部位と推測されるβ1サブユニットのC末端側膜貫通領域をN末端部、中央部、C末端部に分け、それらをβ2サブユニットのC末端側膜貫通領域のN末端部、中央部、C末端部にそれぞれ置換した点変異体(β1LFF/FHL、 β1FLLT/CMMA, β1LLI/VAV)を作製し、DiBAC4(3)感受性について検討した。BKαβ1-LFF/FHL電流,BKαβ1-FLLT/CMMA電流,BKαβ1-LLI/VAV電流に対するDiBAC4(3)の作用を併せて図13に示す。
【0127】
図13に示すように、BKαβ1LFF/FHL、 BKαβ1FLLT/CMMA、 BKαβ1LLI/VAV電流のV0.5は300 nM DiBAC4(3)投与により、全て低電位側へ移動した。以上より,β1サブユニットのC末端側膜貫通領域がDiBAC4(3)によるBKチャネル活性化に必要であるが,C末端側膜貫通領域の部分的な変異だけではDiBAC4(3)感受性は消失しないことが示された。
【実施例10】
【0128】
(DiBAC4(3)のラット腸間膜動脈に対する作用)
ラット腸間膜動脈を用いてDiBAC4(3)の薬理作用を検討した。Wister/STラットより摘出した腸間膜動脈の第一分枝血管にカニューレを挿入し,Kreb’s溶液を10 ml/minの速度でペリスタポンプを用いて還流した。測定は還流圧が安定した後に行った。図14に示すように、3μMフェニレフリンを投与することにより還流圧は42.96 ± 1.21 mmHgから218.16 ± 19.92 mmHgへ有意に増大した。100 nM DiBAC4(3)を10分間前投与した後,同様に3μMフェニレフリンを投与すると還流圧は40.14 ± 0.73 mmHgから74.86 ± 8.81 mmHgへ増大するが、100 nM DiBAC4(3)投与前後での3 μMフェニレフリンによる還流圧の増大量はそれぞれ175.20 ± 20.52 mmHg,34.72 ± 8.12 mmHgであり,その作用は著しく減弱していた。以上より,DiBAC4(3)には極めて強力な筋弛緩があることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】マウス膀胱平滑筋細胞の全細胞BK電流に対するDiBAC4(3)の作用 を示す図であり、Aは、全細胞BK電流は薬物投与前、300 nM DiBAC4(3)投与時、1 μM penitrem A投与時のものを示し、Bは、マウス膀胱平滑筋細胞の全細胞BK電流に対するDiBAC4(3)の作用 を示す図であり、薬物投与前、投与時及び1 μM penitrem A投与時の電流-電圧関係を示す。
【図2】HEK-rBKαβ1の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、薬物投与前、投与時及び1 μM penitrem A投与時の電流-電圧関係を示し、Bは、HEK-rBKαβ1の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、10 nMから1 μMのDiBAC4(3)を累積投与しつつ脱分極させ、1 μM penitrem Aを加えたときの時間に対してピーク外向き電流量をプロットした図である。異なる濃度での電流原図を重ね合わせ差込図として示す。Cは、HEK-rBKαβ1の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、HEK-rBKαβ1の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の濃度-反応関係を示す。
【図3】HEK-rBKαβ1の単一チャネル電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、DiBAC4(3)投与時の開口確率(Po)を薬物投与前のPoにより規格化し、相対的なPoとして示した。C、O1、O2、O3はそれぞれBKチャネルの閉口及び開口状態を示す。Bは、Aより得た薬物投与前、300 nM DiBAC4(3)投与時、3 μM DiBAC4(3)投与時, wash out後の電流原図と電流量ヒストグラムを示す図である。矢印の頭はBKチャネルの閉口状態を示す。Cは、Aの実験より得たrBKαβ1チャネルの相対的な開口確率に対するDiBAC4(3)の濃度-反応関係を示す図である。Dは、0 mVから+50 mVの電位において、300 nMDiBAC4(3)投与前と投与後でのrBKαβ1単一チャネル電流を測定したグラフ図である。単一チャネルコンダクタンスはそれぞれのデータを線形フィットすることにより得た。Eは、rBKαβ1単一チャネル電流の相対的なPo-電圧関係を示す。データはボルツマン式によりフィッティングした。
【図4】HEK-rBKαの単一チャネル電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、DiBAC4(3)投与時の開口確率(Po)を薬物投与前のPoにより規格化し、相対的なPoとして示す。C、O1、O2はそれぞれBKチャネルの閉口及び開口状態を示す。Bは、Aより得た薬物投与前、300 nM DiBAC4(3)投与時、3 μM DiBAC4(3)投与時, wash out後の電流原図と電流量ヒストグラムを示す。矢印の頭はBKチャネルの閉口状態を示し、Cは、Aの実験より得たrBKαチャネルの相対的なPoに対するDiBAC4(3)の濃度-反応関係を示す。また、図3Cで示したrBKαβ1チャネルの相対的なPoを比較のため再度プロットした。差込図に拡大したrBKαチャネルの相対的なPoに対するDiBAC4(3)の濃度-反応関係を示す。Dは、薬物投与前、300 nM DiBAC4(3)投与時、1 μM penitrem A投与時の電流-電圧関係を示す図である。
【図5】HEK-rBKαβ2の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、薬物投与前、3 μM DiBAC4(3)投与時、1 μM penitrem A投与時の電流-電圧関係を示し、Bは、HEK-rBKαβ2の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の濃度-反応関係を示す図である。DiBAC4(3)投与時のピーク外向き電流を薬物投与前のピーク外向き電流により規格化し、相対的な増加率として示す。** は薬物投与前に対して危険率1%で有意な差があることを示す。
【図6】HEK-rBKαβ4の全細胞電流に対するDiBAC4(3)の作用 を示す図であり、Aは、薬物投与前、300 nM DiBAC4(3)投与時、1 μM penitrem A投与時の電流-電圧関係を示し、Bは、10 nMから3 μMのDiBAC4(3)を累積投与しつつ分極させ、1 μM penitrem Aを加えたときの時間に対してピーク外向き電流量をプロットした図である。異なる濃度での電流原図を重ね合わせ差込図として示す。Cは、DiBAC4(3)投与時のピーク外向き電流を薬物投与前のピーク外向き電流により規格化し、相対的な増加率として示した図である。図2Cで示したHEK-rBKαβ1の全細胞電流のDiBAC4(3)の濃度-反応関係を比較のため再度プロットした。
【図7】HEK293細胞に発現させたBKチャネル以外のK+チャネルに対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、小コンダクタンスCa2+活性化K+チャネル、タイプ2(rSK2)に対する作用を示し、Bは、同タイプ4(mSK4)に対する作用を示し、Cは、電位依存性K+チャネルrKv1.1に対する作用を示し、Dは、同rKv4.3に対する作用を示し、Eは、A〜Dの実験結果をまとめて示す図であり、rSK2チャネル、mSK4チャネル、rKv1.1チャネル及びrKv4.3チャネルの10 μM DiBAC4(3)投与による相対的な増加率を示す。* は薬物投与前に対して危険率5%で有意な差があることを示す。
【図8】DiBAC/DiSBACとその関連化合物の構造活性相関を示す図であり、 Aは、 DiBAC4(3)とバルビツール酸やその関連化合物を含む類似化合物の構造を示し、Bは、100 nM、1 μM DiSBAC2(5)を投与したとき及び1 μM、10 μM DiSBAC2(1)を投与したときのBK電流量の時間経過を示し、Cは、iBAC4(3)やその類似構造化合物投与時のピーク外向き電流を薬物投与前のピーク外向き電流により規格化し、相対的な増加率として示した図である。*、** はそれぞれ薬物投与前に対して危険率5%、1%で有意な差があることを示し、Dは、オキソノール V、オキソノール VI、オキソノール 595 の濃度とrBKαβ1電流の相対的な増加率との関係を示す。C1、C3、C5で示された点線はCの結果をもとに再度プロットしたものである。
【図9】オキソノール化合物の最安定立体構造を示す図であり、オキソノール化合物の最安定立体構造はスパルタンソフトウェアを使用し、density-functional theory (DFT)法を用いて計算した。Aは、UCSF Chimeraソフトウェアによるその上面図及び側面図を示す。オキソノール化合物中の水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子は白色、灰色、濃灰色、黒色、淡灰色でそれぞれ示す。二組のオキソ-オキソアニオン部をそれぞれ空色とピンク色の矢印で示した。Bは、BKチャネル開口薬として必要な立体構造を示す。
【図10】BKα電流,BKαβ1電流,BKαβ2IR電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、 細胞内外のK+濃度を140 mM,細胞内液のCa2+濃度は3 μMに固定した条件下インサイドアウトパッチクランプ下において観察されるマクロBK電流に300 nM DiBAC4(3)を投与したときのコンダクタンス-電位関係。得られたデータをボルツマン式によりフィッティングすることによりV0.5及びslope factorを算出した。例数はそれぞれ以下の通り(BKα電流; n = 3,BKαβ1電流; n = 7,BKαβ2IR電流; n= 7)。D, E: A-Cで得られたV0.5及びslope factorをまとめた(**; p < 0.01, *; p <0.05 vs. control)。F: 300 nM DiBAC4(3)投与前後でのV0.5の変化量をまとめた(##; p < 0.01 vs.α + β1, $$; p < 0.01 vs. α + β2IR)。
【図11】BKαβ2Lβ1電流,BKαβ1NCβ2電流,BKαβ2TMsβ1電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、A〜Cは、 細胞内外のK+濃度を140 mM,細胞内液のCa2+濃度は3 μMに固定した条件下インサイドアウトパッチクランプ下において観察されるマクロBK電流に300 nM DiBAC4(3)を投与したときのコンダクタンス-電位関係。得られたデータをボルツマン式によりフィッティングすることによりV0.5及びslope factorを算出した。例数はそれぞれ以下の通り(BKαβ2Lβ1電流; n = 4,BKαβ1NCβ2電流;n=5,BKαβ2TMsβ1電流; n= 5)。D, E: A-Cで得られたV0.5及びslope factorをまとめた(**; p < 0.01, *; p <0.05 vs. control)。F: 300 nM DiBAC4(3)投与前後でのV0.5の変化量をまとめた(##; p < 0.01 vs.α + β1, $$; p < 0.01 vs. α + β2IR)。
【図12】BKαβ2TM1β1電流,BKαβ2TM2β1電流,BKαβ1TM2β2電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、A〜Cは、細胞内外のK+濃度を140 mM,細胞内液のCa2+濃度は3 μMに固定した条件下インサイドアウトパッチクランプ下において観察されるマクロBK電流に300 nM DiBAC4(3)を投与したときのコンダクタンス-電位関係。得られたデータをボルツマン式によりフィッティングすることによりV0.5及びslope factorを算出した。例数はそれぞれ以下の通り(BKαβ2TM1β1電流; n = 4,BKαβ2TM2β1電流; n = 5,BKαβ1TM2β2電流;n = 4)。D, E: A-Cで得られたV0.5及びslope factorをまとめた(**; p < 0.01, *; p <0.05 vs. control)。F: 300 nM DiBAC4(3)投与前後でのV0.5の変化量をまとめた(##; p < 0.01 vs.α + β1, $$; p < 0.01 vs. α + β2IR)。
【図13】BKαβ1-LFF/FHL電流,BKαβ1-FLLT/CMMA電流,BKαβ1-LLI/VAV電流に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、ラットBKチャネルβ1サブユニットとβ2サブユニットのC末端側の膜貫通領域のアミノ酸配列の比較。β1サブユニットとβ2サブユニットで異なるアミノ酸を反転させて示し、B〜Dは、細胞内外のK+濃度を140 mM,細胞内液のCa2+濃度は3 μMに固定した条件下インサイドアウトパッチクランプ下において観察されるマクロBK電流に300 nM DiBAC4(3)を投与したときのコンダクタンス-電位関係。得られたデータをボルツマン式によりフィッティングすることによりV0.5及びslope factorを算出した。例数はそれぞれ以下の通り(BKαβ1-LFF/FHL電流; n = 5,BKαβ1-FLLT/CMMA電流; n = 4,BKαβ1-LLI/VAV電流; n = 4)。E及びFは、B〜Dで得られたV0.5及びslope factorをまとめた(**; p < 0.01 vs.control)。G: 300 nM DiBAC4(3)投与前後でのV0.5の変化量をまとめた($$; p < 0.01 vs.α + β2IR)。
【図14】ラット腸間膜動脈に対するDiBAC4(3)の作用を示す図であり、Aは、100 nM DiBAC4(3)存在下・非存在下における3 μMフェニレフリンの投与による還流圧の経時変化を示し、Bは、Aより得られた結果をまとめてグラフとして示す。黒いカラム,白いカラムは3 μMフェニレフリンの投与前後での還流圧を示す(n = 4, **; p < 0.01, *; p < 0.05 vs. 3 μMフェニレフリンの投与前の還流圧)。Cは、DiBAC4(3)存在下・非存在下における3 μMフェニレフリンの投与による還流圧の変化量の比較を示す。(n = 4, *; p < 0.05 vs. DiBAC4(3)非存在下での3 μMフェニレフリンの投与による還流圧の変化量)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウムチャネル開口薬であって、
以下の式(1)で表され、
【化1】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表し、環状の炭化水素基及び複素環基にあっては、オリゴメチン鎖を構成する炭素原子と結合して環状構造を形成していてもよく、lは0、1又は2を表す。]
前記オキソ−オキソアニオン部を含む前記オリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、前記オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成する化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含有する、カリウムチャネル開口薬。
【請求項2】
前記化合物は、下記式(2)で表される、請求項1に記載のカリウムチャネル開口薬。
【化2】

[式中、A1及びA2は、同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表す。]
【請求項3】
前記最安定立体構造における前記オキソ−オキソアニオン部の酸素原子間距離が0.3nm以上1nm以下である、請求項2に記載のカリウムチャネル開口薬。
【請求項4】
前記化合物は、下記式(3)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカリウムチャネル開口薬。
【化3】

[式中、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基又は置換されていてもよい環状の炭化水素基を表し、X及びXはそれぞれ同一又は異なっていてもよく、イオウ原子又は酸素原子を表す。]
【請求項5】
前記X1はいずれも酸素原子であり、lは1又は2である、請求項4に記載のカリウムチャネル開口薬。
【請求項6】
前記X1間距離は、0.40nm以上0.67nm以下である、請求項5に記載のカリウムチャネル開口薬。
【請求項7】
前記化合物は、下記式(4)から選択されるいずれかである、請求項4〜6のいずれかに記載のカリウムチャネル開口薬。
【化4】

【請求項8】
前記化合物は、下記式(5)で表される、請求項1〜3のいずれかに記載のカリウムチャネル開口薬。
【化5】

[式中、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表す。]
【請求項9】
前記化合物は、下記式(6)から選択されるいずれかである、請求項8に記載のカリウムチャネル開口薬。
【化6】

【請求項10】
βサブユニット選択的である、請求項1〜9のいずれかに記載のカリウムチャネル開口薬。
【請求項11】
カリウムチャネル開口薬のスクリーニング方法であって、
以下の式(1)で表され、
【化7】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、置換されていてもよい非環状の炭化水素基、置換されていてもよい環状の炭化水素基又は置換されていてもよい複素環基を表し、環状の炭化水素基及び複素環基にあっては、オリゴメチン鎖を構成する炭素原子と結合して環状構造を形成していてもよく、lは0、1又は2を表す。]
前記オキソ−オキソアニオン部を含む前記オリゴメチン鎖が略同一平面上に存在し、前記オキソ−オキソアニオン部を構成する2つの酸素原子が前記オリゴメチン鎖に対して同一側に存在する最安定立体構造を構成する化合物又はその生理学的に許容される塩を被験成分として用いて、前記被験成分のカリウムチャネル開口率を評価する評価工程を備える、スクリーニング方法。
【請求項12】
前記評価工程は、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルのβ1サブユニット又はβ4サブユニットへの作用に基づくカリウムチャネル開口率を評価する工程である、請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
カリウムチャネル開口薬のスクリーニング方法であって、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネルのβ1サブユニットにおける配列番号1に記載のアミノ酸配列(LLFSFFWPTFLLTGGLLIIAMV)で特定される部位と被験成分との相互作用を評価する工程を備える、スクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図9】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−266161(P2008−266161A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108474(P2007−108474)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 第110回日本薬理学会近畿部会事務局 刊行物名 第110回日本薬理学会プログラム・要旨集 発行年月日 2006年10月28日 〔刊行物等2〕 掲載年月日 2007年1月5日 掲載アドレス http://molpharm.aspetjournals.org/cgi/content/abstract/71/4/1075 〔刊行物等3〕 発行者名 名古屋市立大学大学院薬学研究科 刊行物名 平成18年度名古屋市立大学大学院薬学研究科博士後期課程論文内容要旨集 発行年月日 2007年1月11日 〔刊行物等4〕 発行者名 社団法人日本薬理学会 刊行物名 Journal of Pharmacological Sciences Volume 103 Supplement I 2007 発行年月日 2007年2月28日
【出願人】(507125642)有限会社チャネロサーチテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】