説明

カリックスアレン誘導体の製造方法

【課題】高収率且つ良好な作業性でカリックスアレン誘導体を製造する方法を提供する。
【解決手段】式(1)


(式中、nは4〜8の整数を示し、Rは水素原子又は低級アルキル基を示す)で表されるカリックスアレン誘導体の製造方法であり、カリックス[n]アレンと、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物を反応させることからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカリックスアレン誘導体の製造方法に関する。より詳細には、(2−オキソ−2−エトキシ)エチル化されたカリックスアレン誘導体を高収率且つ良好な作業性で製造することができるカリックスアレン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カリックスアレン(カリクサレンと称されることもある)は、アルキル基を有することのあるフェノールが2,6位でメチレン基を介して複数個結合した環状オリゴマーの総称であり、環を構成するフェノール数(n)によってカリックス(n)アレンと表記される。
カリックスアレンは包接機能、カチオン捕捉機能などを有しており、その機能により金属類の除去、センサー化合物、ある種の臨床検査試薬などとして応用されている。
係るカリックスアレンにおいて、カリックスアレンをハロゲノ酢酸エステルと反応させて得られる、式(1)で表されるカリックスアレン誘導体は、そのカチオン捕捉能を利用してシアノアクリレート系瞬間接着剤の接着促進剤として有用であることが知られている(特許文献1及び2、非特許文献1参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、nは4〜8の整数を示し、Rは水素原子又は低級アルキル基を示す)
式(1)で表されるカリックスアレン誘導体は既に公知の化合物であり、その製造方法は特許文献2及び非特許文献2に記載されている。
特許文献2(その実施例8参照)においては、カリックス(4)アレン1.62g(2.5ミリモル)、ブロム酢酸エチル3.44g(20ミリモル)、無水炭酸カリウム2.07g及び無水アセトン50mlからなる混合物を窒素気流下で14日間還流することにより目的物を1.35g(1.5ミリモル、収率56%)得たことが記載されている。
また、非特許文献2においては、カリックス(n)アレン、過剰のブロム酢酸エチル、過剰の無水炭酸カリウム及び無水アセトンからなる混合物を乾燥条件下3〜5日間還流することにより目的物を得たことが記載されている。
上記のように、従来法では反応時間が長く、また過剰のブロム酢酸エチルを必要とする。特に、ブロム酢酸エチルは催涙性が非常に強いため作業性が悪く、更にブロム酢酸エチルは高価であることから製造コストが上昇する問題もあった。従って、式(1)で表されるカリックスアレン誘導体を工業的に製造するには、従来法は適当ではない。
【0005】
【特許文献1】特公平6−43361号公報
【特許文献2】米国特許第4,556,700号明細書
【非特許文献1】ファインケミカル Vol.36, No.7, p9-16, 2007
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 8681-8691
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような問題から、ブロム酢酸エチルよりも催涙性が弱く且つ安価な試薬であるクロル酢酸エチルの使用が考えられるが、クロル酢酸エチルは反応性が低く、目的とするカリックスアレン誘導体は得られなかった。そこで、本発明者らは作業性に優れ、高収率・低コストで、式(1)で表されるカリックスアレン誘導体を製造する方法を鋭意検討したところ、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物を使用して反応させることによって、所期の目的を達成できる製造方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するためになされた本発明の要旨は、
下記式(2)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、n及びRは前記と同じ)
で表される化合物と、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物を反応させることからなる、式(1)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、n及びRは前記と同じ)
で表されるカリックスアレン誘導体の製造方法である。
【0012】
上記のブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物としては、その混合比がブロム酢酸エチル:クロル酢酸エチル=1:0.3〜1.7(モル比)であることが好ましい。また、上記の反応はアルカリ金属ヨウ化物の存在下に反応を行うことが好ましい。更に式(2)においてnが4で表される化合物の場合、当該化合物に対してブロム酢酸エチルの使用モル比が2.5〜4.5、クロル酢酸エチルの使用モル比が1.5〜4.0であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルを併用することによりブロム酢酸エチルの使用量を低減することが可能になる。従って、高価且つ催涙性を有するブロム酢酸エチルの使用量を減らすことができ、反応時間も短縮できるので、コストの低減化及び作業性の向上を図ることができるという格別な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は上記の構成よりなり、前記式(1)で表されるカリックスアレン誘導体の製造方法である。
式(1)で表されるカリックスアレン誘導体において、nは4〜8の整数であり、n=4が好適である。
また、Rの低級アルキル基は炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキル基を意味する。係るアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、t-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシルなどが例示され、t-ブチルが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法は、式(2)で表されるカリックスアレンと、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物を反応させて、式(1)で表されるカリックスアレン誘導体を得るものである。
この方法において、式(2)で表される化合物は既に公知である。本発明の特徴は、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物(以下、この混合物をハロ酢酸エチルと称することもある)を使用する点にある。
【0016】
係るハロ酢酸エチルにおけるブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合比としては、ブロム酢酸エチル:クロル酢酸エチル=1:0.3〜1.7(モル比、以下同様)、好ましくは1:0.35〜1.3、より好ましくは1:0.4〜1.0とされる。ブロム酢酸エチルに対するクロル酢酸エチルのモル比が0.3未満であるとブロム酢酸エチルの催涙性が高く、作業性の向上を図ることが難しく、一方1.7を越えると反応時間が長くなり且つ収率が低下するという問題がある。
【0017】
式(2)で表される化合物に対するハロ酢酸エチルの使用量は、当該化合物のn(フェノール基の数)に応じて適宜調整され、少なくともn倍モル、通常1.2n〜2.5n倍モル、好ましくは1.3n〜1.6n倍モルの量が使用される。例えば、式(2)においてnが4で表される化合物の場合、当該化合物に対してブロム酢酸エチルの使用モル比が2.5〜4.5、クロル酢酸エチルの使用モル比が1.5〜4.0であることが好ましい。
【0018】
式(2)で表される化合物とハロ酢酸エチルの反応は無溶媒でも行うことは可能であるが、通常は有機溶媒中で行われる。当該有機溶媒としては、反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、DMF、DMSO等の極性溶媒などが挙げられる。有機溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。
なお、ハロ酢酸エチルは、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルを予め混合したものを使用してもよく、またブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの一方を反応系に添加した後、他方を添加するような方法であってもよい。
【0019】
反応温度は反応が進行する温度であれば特に限定はされないが、通常は加熱下に行われ、好ましくは50℃〜溶媒の沸点にて行われる。反応時間は、使用するハロ酢酸エチル量、溶媒種などによるが、通常は3〜12時間程度にて行われる。
【0020】
反応終了後、常法に準じて、分離・精製することにより、式(1)で表されるカリックスアレン誘導体を得ることができる。係る後処理としては、例えば、反応液を水洗、濃縮した後、溶媒を留去し、得られた残渣を再結晶する方法;反応液(親水性溶媒の場合)を酸性水溶液に注入し、析出する結晶を濾取し再結晶する方法などを挙げることができる。
分離・精製に際して、必要に応じて、活性炭処理などの工程を付加してもよい。
【0021】
なお、式(2)で表される化合物とハロ酢酸エチルの反応は塩基性物質の存在下に行うのが好ましく、予め式(2)で表される化合物と塩基性物質を反応させて塩を形成させておいてもよく、また反応系に塩基性物質を添加する方法であってもよい。
塩基性物質としては、例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン類、トリ−n−ヘキシルエチルアンモニウムハイドロオキサイド等の第4級アンモニウム水酸化物、強塩基性陰イオン交換担体などが挙げられる。反応性の点で水素化ナトリウム、水素化カリウムが好ましい。
当該塩基性物質の使用量は式(2)で表される化合物のnに依存し、式(2)で表される化合物に対して少なくともn倍モル、好ましくは1.3n倍モル〜過剰量、より好ましくは1.5n〜2n倍モルが使用される。
【0022】
また、式(2)で表される化合物とハロ酢酸エチルの反応は、反応促進剤であるアルカリ金属ヨウ化物の存在下に行うのが好ましく、係るアルカリ金属ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)等が挙げられ、反応性の点でKIが好ましい。
当該アルカリ金属ヨウ化物の使用量としては反応が進行する量であれば特に限定されず、式(2)で表される化合物に対して触媒量〜過剰量の範囲から適宜選択されるが、好ましくは0.0001n〜1.5n倍モル、より好ましくは0.01n〜1.2n倍モルが使用される。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
テトラエチル p−t−ブチルカリックス[4]アレンテトラアセテート(式(1)で表される化合物において、nが4、Rがt-ブチルの化合物)の製造
THF57.7gの中にp−t−ブチルカリックス[4]アレン10.8g(16.6ミリモル)及び60%NaH4.26gを仕込み、ブロム酢酸エチル11.67g(70ミリモル)滴下した後、クロル酢酸エチル3.26g(26.6ミリモル)滴下した。60℃に昇温後5〜6時間反応させ、反応液を水42gの中へ滴下した。30分間撹拌後分液し、水層を棄て有機層について数回水洗した。得られた有機層をカーボン脱色し溶剤を留去した。そこにヘプタン20g注入し、0℃まで冷却することによって結晶を析出させた。濾過、乾燥を経て目的であるテトラエチル p−t−ブチルカリックス[4]アレンテトラアセテート14.56g(収率88.1%)を得た。
【0025】
実施例2
実施例1において、p−t−ブチルカリックス[4]アレンに対して、ブロム酢酸エチルを4.0倍モル、クロル酢酸エチルを2.4倍モル使用する以外は同様に操作して、テトラエチル p−t−ブチルカリックス[4]アレンテトラアセテートを収率85.3%で得た。
【0026】
実施例3
THF30gの中にp−t−ブチルカリックス[4]アレン6.5g(10ミリモル)及びヨウ化カリウム12.5g(75.3ミリモル)を仕込み、60℃に昇温後、ブロム酢酸エチル7.0g(42ミリモル)滴下した後、クロル酢酸エチル1.96g(16ミリモル)滴下し、同温度で5〜6時間反応させた。この間、60%NaH2.56gを5回に分けて投入した。反応終了後、反応液を濃縮し、5%塩酸水に注ぎ、撹拌し、析出する結晶を濾過し、水洗・乾燥した。乾燥後、エタノールから再結晶し、テトラエチル p−t−ブチルカリックス[4]アレンテトラアセテートを7.66g(収率77.0%)で得た。
【0027】
実施例4
実施例3において、p−t−ブチルカリックス[4]アレンに対して、ブロム酢酸エチルを2.8倍モル、クロル酢酸エチルを3.6倍モル使用する以外は同様に操作して、テトラエチル p−t−ブチルカリックス[4]アレンテトラアセテートを収率73.4%で得た。
【0028】
実施例5
実施例1において、カリックスアレンとしてp−t−ブチルカリックス[8]アレンを使用し、同様な方法にてテトラエチル p−t−ブチルカリックス[8]アレンテトラアセテートを収率73.4%で得た。
【0029】
比較例1
実施例1において、ブロム酢酸エチルを使用せず、クロル酢酸エチルをp−t−ブチルカリックス[4]アレンに対して6.4倍モル使用する以外は同様に操作したが、テトラエチル p−t−ブチルカリックス[4]アレンテトラアセテートの収率は3%程度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2)
【化1】

(式中、nは4〜8の整数を示し、Rは水素原子又は低級アルキル基を示す)
で表される化合物と、ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物を反応させることを特徴とする、
式(1)
【化2】

(式中、n及びRは前記と同じ)
で表されるカリックスアレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
ブロム酢酸エチルとクロル酢酸エチルの混合物の混合比が、ブロム酢酸エチル:クロル酢酸エチル=1:0.3〜1.7(モル比)である請求項1記載のカリックスアレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属ヨウ化物の存在下に反応を行う請求項1又は2記載のカリックスアレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
式(2)においてnが4で表される化合物の場合、当該化合物に対してブロム酢酸エチルの使用モル比が2.5〜4.5、クロル酢酸エチルの使用モル比が1.5〜4.0である請求項1〜3の何れかに記載のカリックスアレン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−184996(P2009−184996A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28858(P2008−28858)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000107561)スガイ化学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】