説明

カルシウムアルミネート化合物を使用した塗工紙

【課題】 本発明の課題はクレーと炭酸カルシウムを顔料の主成分とする一般的塗工紙において、複雑な設備の導入やバインダーの設計変更をすることなく、品質を維持したままクレーの減配と炭酸カルシウムの増配を実現させ、コストダウンに貢献する汎用的な技術を提供することにある。
【解決手段】 本発明は炭酸カルシウム含有塗工層中に3CaO・Al・CaCO・11HOの化学式で表されるカルシウムアルミネートモノカーボネートを1〜50部配合することで炭酸カルシウムとモノカーボネートの相互作用が発現し、塗工層の白紙光沢が大幅に向上する効果を利用したものであり、上記課題の解決のために炭酸カルシウムにはコスト面で有利な重質炭酸カルシウムを選択可能としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工紙の塗料配合に関する技術であり、カルシウムアルミネート化合物のひとつであるカルシウムアルミネートモノカーボネート(以下、モノカーボネートと略す)(化1)を紙の塗工用顔料として用いることで、複雑な設備の導入やバインダーの設計変更をすることなく、品質を維持したままクレーの減配と炭酸カルシウムの増配を実現させ塗工紙のコストダウンに貢献するものである。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
塗工紙は製造装置のバリエーションが多いことと塗工する顔料・薬品の種類が多いことから品質向上と生産性向上のための改良が絶えず行なわれている。品質追及の成果は高白色・高光沢の塗工紙に反映され、主に写真印刷の多い高級出版物、例えばファッション雑誌や自動車雑誌に使われてきたがこれらの購買層への急速なインターネットの浸透により需要が大きく減少してきた。またインターネットの普及は広告媒体の勢力図をも変化させ、ネット広告が大幅な伸びを示しているのに対し、新聞・チラシ・カタログなど紙媒体広告は減少している。
【0004】
このような需要構造の変化に伴い製紙メーカーでは高級グレード・特殊グレードの品種統合が行われるほか、塗工紙全般において品質を維持したコストダウンの研究が盛んに行われている。
【0005】
これまで製紙メーカーがコストダウンに取り組む場合、大型マシンの新設による人件費の削減やスピードアップによる増産が専ら行われてきたが、これらの手法は製品の供給過剰や小ロットへの対応の難しさなどの問題を抱え、時代の変化にそぐわなくなってきている。
【0006】
増産を伴わず技術的にコストを削減するには基本的に安価な原材料を使うしかない。しかしながら往々にして安価な方向への設計変更は品質の低下が付きものである。一般的塗工紙は重量比3割が塗料、7割が原紙で構成され、塗工原紙の原料パルプには通常、NBKP(針葉樹晒しクラフトパルプ)・LBKP(広葉樹晒しクラフトパルプ)・GP(機械パルプ)が目的に応じてブレンドされる。これらはどれもバージンパルプであるが故にコスト高なことから、それらに替えて安価なDIP(古紙脱墨パルプ)を配合することでコストダウンが試みられるが、単純にDIPの配合比率を増やすだけでは引っ張り強度・引き裂き強度・曲げ剛性などの紙力の低下を招くほか、白色度の低下、不透明度の低下、微小異物の混入なども懸念される。
【0007】
一般的塗工紙において重量の3割を占める塗料は、その9割が顔料、1割がバインダー(接着剤)で構成される。使用される顔料は殆どが重質炭酸カルシウムとクレーであると言ってよい。どちらとも天然に豊富に存在する鉱物を原料に大量生産されるためその価格はパルプよりも圧倒的に安価である。従ってパルプを削減し塗料を増やすことは確実にコストダウンに結びつくが、この場合当然ながら紙力全般が低下する他、紙厚の低下など劇的な紙質の変化を伴うため、品質を維持することは困難である。このように塗工紙の基材である原紙の設計変更は品質に与える影響が広範囲に及ぶため、コストダウンの欲求は自ずと顔料に向けられる。
【0008】
クレーはカオリンとも呼ばれ、粘土の風化によって生成した含水珪酸アルミニウムからなる鉱物である。その最大の特徴は極微細な六角板状粒子に由来する高い光沢発現性にあり、一般的塗工紙では顔料中30〜50%配合される。塗工紙に適する微細で白色度の高いクレーはアメリカ国ジョージア州、ブラジル国、英国でしか産出しないため日本国では全て輸入に頼らなければならない。
【0009】
一方、紙塗工用重質炭酸カルシウムは日本国内でも産出する白色の石灰石を目的の粒度に機械的に粉砕しただけのものであり、クレーよりも安価に調達できる。重質炭酸カルシウムの形状は不定形なためクレーに比べると光沢性能は劣るが、白色度が高くスラリーの流動性に優れることから増量材として好んで用いられ、一般的塗工紙では顔料中50〜60%配合されている。
【0010】
重質炭酸カルシウムには粉砕方法の違いにより乾式粉砕重質炭酸カルシウムと湿式粉砕重質炭酸カルシウムがある。乾式粉砕重質炭酸カルシウムは価格的には湿式粉砕品よりも安価であるが、乾式粉砕法は原理的に粉砕限界粒度が大きいため塗工用顔料としては光沢性能が全く期待できない。また、形状がごつごつ角張っているためコーティングアプリケーターの摩耗が激しく塗工品質が安定しないため最近は殆ど使用されなくなった。
【0011】
このような課題を克服し近年成長著しいのが湿式粉砕重質炭酸カルシウムである。粉砕装置の目覚しい進歩により2μm以下100%含有の超微粒グレードが開発され、高い光沢発現性をアピールするようになってきた。その結果、現在では重質炭酸カルシウムの塗工紙への配合率はクレーを凌ぐものとなったが、クレーの光沢性能までには至っておらず、重質炭酸カルシウムの配合量を更に増やすことは確実に塗工紙の光沢を低下させてしまう。
【0012】
ところで、炭酸カルシウムには化学的方法で製造される軽質炭酸カルシウムがあり、重質炭酸カルシウムの高機能化が図られるまでは微細な炭酸カルシウムの需要に応えてきた。化学的合成法はコスト高なことから使用量は減ってきているが、多孔性の塗工層を形成しインキ受理性を高めるため、現在も目的に応じて少量配合される。
【0013】
これらの問題に対し製紙設備で技術革新により解決した方法としてダブルコーティングが挙げられる。ダブルコーティングとは二層塗りのことで、一層目は下地の平滑化を目的とし、二層目は高価な顔料により高品位な塗工を完成させる。多層塗工は品質の高い塗工紙の製造を得意とするが、一層目に安価な塗料を用いても品質の維持が可能となるため、現在では専らコストダウンを目的にダブルコーティングが導入されている。
【0014】
ダブルコーティングの代表的設備はオフマシンコーターによるブレードダブルコーティングである。この装置では塗工量制御に高度な技術が必要なことやペーパーランが複雑化するなど設備費がかかってしまうが、品質面とコスト面を高度にバランスさせることが可能である。また、設備費を抑えるため原紙を造る抄紙機を改造し、ゲートロールコーターで一層目の顔料を塗工した後通常のオフマシンシングルコーターで二層目を塗工するケースも現われている(非特許文献1)。
【0015】
ダブルコーティングにおける塗工紙の代表的な設計とその品質について非特許文献2により詳細に報告されている。一層目には通常のシングルコートに使われるものよりも粗い2μm以下60%含有の重質炭酸カルシウムが単独で塗工され、二層目にシングルコートと同じ塗料が処方されている。このようにダブルコーティングされた紙はシングルコーティングされた紙よりも製造コストを抑えながら、白紙光沢、印刷光沢、不透明度が高く、PPS粗さが小さく良好な品質を与えることが可能である。
【0016】
設備によらない方法として非特許文献3では保水性と流動性を薬品により工夫した重質炭酸カルシウム単独処方が検討されている。保水剤としてCMCを用い、ラテックスの設計を変化させ、更に塗料固形分のアップなど光沢発現性にとってプラス要素を総動員して一定の効果を上げている。しかしながら当該文献の考察では触れていないが、実際は比較検討処方における酸化澱粉の無添加化が白紙光沢にかなり効いでいるものと考えられる。いずれにしてもこのようにバインダーの大幅な設計変更による白紙光沢発現の試みはバインダーの本来の働きである接着強度に影響を与える恐れがあり更に慎重な検討が必要である。
【0017】
これら非特許文献からも分かるように、厳しいコストダウンに晒されている塗工紙製造現場では重質炭酸カルシウムの増配マインド(クレーの配合シフト)が高く、特に近年の原油相場の高騰を受けてその傾向は益々強くなっている。
【0018】
本発明の中で重要な役割を果たすモノカーボネートとは層状構造をもつ結晶性の無機物質で、クレーと同様の微細な六角板状の結晶である。モノカーボネートは天然には存在せず、水酸化カルシウムと水酸化アルミニウムを原料とし化学反応によって合成されるため、不純物を含まず最高の白色度で得ることが可能である。
【0019】
モノカーボネートの合成方法としては例えばアルミン酸ナトリウム水溶液1モルに対して1〜3モルの水酸化カルシウムを混合し、50℃以上に加熱しながら炭酸ガスの吹き込みにより必要量炭酸化することでモノカーボネートの合成が可能なことが開示されている。この方法は比較的簡易な方法であるが炭酸化時に副生する炭酸ナトリウムを除去・洗浄する必要があるため大変コスト高な手法である。また、過度な炭酸化はモノカーボネートを分解し炭酸カルシウムとゲル状水酸化アルミニウムを生成するため、炭酸化の終点の見極めに注意が必要である。このようにして得られたモノカーボネートは粒子径が2〜10μmと一般的なクレーの10倍近い大きさであるため、白紙光沢発現性・流動性にとって明らかに不利であり、とても紙塗工用に適するとは思われない(特許文献1)。
【0020】
別のモノカーボネートの合成方法としては、アルミン酸アルカリ塩とアルカリ炭酸塩と水酸化カルシウムの組み合わせ、もしくは水酸化アルミニウム又は酸化アルミニウムと水酸化アルカリとアルカリ炭酸塩と水酸化カルシウムの組み合わせにおいて、それぞれ目的物の理論量混合し60℃以上に加熱・撹拌する方法が開示されている。この方法は反応性の低い水酸化アルミニウムを強アルカリで溶解し反応の促進を図ったものであり本質的には前記の合成方法と同じである。炭酸ガスの替わりにアルカリ炭酸塩を使用するため過度な炭酸化に至る心配はないが、よりコスト高な方法と言える。この方法は陰イオン吸着剤を目的としており、モノカーボネートの粒度に関する記述はどこにもない(特許文献2)。
【0021】
紙塗工用顔料として白紙光沢性・流動性に優れた微細なモノカーボネートを合成する方法としては、本発明者らが開発したメカノケミカルを利用した方法が適している。この方法は水酸化アルミニウムにメカノケミカル処理(摩砕処理)を施すことで水酸化アルミニウムの結晶構造に歪を与え、水酸化カルシウムとの反応に至らしめるものである。炭酸イオン源には炭酸カルシウムが用いられ、ナトリウム等の不要元素を含まないため無駄がなく低コストな手法である。従って反応式は至ってシンプルなものとなる(式1)。この方法は反応制御性に優れるため幅1μm以下の微細なモノカーボネートを安定して合成することが可能である(特許文献3)。
【0022】
【式1】
3Ca(OH)+2Al(OH)+CaCO+5HO→3CaO・Al・CaCO・11H
【0023】
【非特許文献1】紙パ技協誌2006年12月号 P12〜23
【非特許文献2】紙パ技協誌2009年8月号 P44〜48
【非特許文献3】紙パ技協誌2008年8月号 P30〜34
【特許文献1】特開平5−147930
【特許文献2】特開平9−241019
【特許文献3】特開2008−37664
【0024】
本発明に用いるモノカーボネートは全く新規な顔料であるが、紙塗工用顔料として昔よく使われたサチンホワイトと似た化学式で示される(化2)。サチンホワイトは硫酸アルミニウムと水酸化カルシウムの中和反応により合成され、長さ1〜5μmの針状結晶が比較的簡単に合成できる。サチンホワイトは硫酸イオンに由来すると思われる塗料の不動化促進作用により高い光沢が得られやすいため、ブレードコーティングにおいてアート紙の製造に欠かせない顔料であったが、その反面、塗料保存性(安定性)の悪さ、取り扱いの難しさから現在では殆ど使用されなくなった。
【0025】
その点モノカーボネートは炭酸イオン型なのでサチンホワイトのような取り扱いの難しさは無く、板状粒子ならではの高光沢性に加え、軽量性をも備えている。幅1μm以下に粒径制御されたモノカーボネートは市販の高光沢クレーなど比較にならない程のすばらしい光沢を発現する。軽量性については、ピクノメータ法によるモノカーボネートの真比重は2.1g/ccと、クレーの2.6g/cc、炭酸カルシウムの2.7g/ccに比べてかなり小さい。
【0026】
【化2】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の課題はクレーと炭酸カルシウムを顔料の主成分とする一般的塗工紙において、複雑な設備の導入やバインダーの設計変更をすることなく、品質を維持したままクレーの減配と炭酸カルシウムの増配を実現させ、コストダウンに貢献する汎用的な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は炭酸カルシウム含有塗工層中に1〜50部のモノカーボネートを配合することで炭酸カルシウムとモノカーボネートの相互作用が発現し、塗工層の白紙光沢が大幅に向上する効果を利用したものであり、上記課題の解決のために炭酸カルシウムにはコスト面で有利な重質炭酸カルシウムを選択可能としたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明は白色度、白紙光沢度、軽量性に優れたモノカーボネートの使用による高品質な塗工紙の提供はもちろんであるが、単にモノカーボネートの品質優位性に留まらず、モノカーボネートと炭酸カルシウムを併用することで従来の概念に無い白紙光沢発現の相乗効果を利用することを最大の特徴とする。むしろ炭酸カルシウムを増配するほどその効果は顕著となるため、クレーを減配しても白紙光沢度の維持が可能となり同時にコストダウンが達成される。また、クレーと炭酸カルシウムが置き換わることで確実に白色度が向上することも大きな効果と言える。
【0030】
このように本発明は品質を維持したまま塗工紙のコストダウンを可能とし、しかも複雑な設備の導入やバインダーの設計変更を必要としないため現存のあらゆる塗工設備で導入可能な汎用性の高い技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明に用いるモノカーボネートは本発明の目的を達成するものならばどのような方法で造られたものでも構わないが、前記で紹介したメカノケミカル処理を施した水酸化アルミニウムを用いることを特徴とする方法により製造された微細なモノカーボネートを用いることが、コスト面・品質面で望ましい。前記手法により得られるモノカーボネートの粒径は、通常1μm以下で凝集は殆ど生じない。本発明の実施にはモノカーボネートの粒径は小さいほうが望ましいのは言うまでもないが、1μm以下であれば十分な効果が期待できる。
【0032】
モノカーボネートの使用形態としては一般的な塗工用軽質炭酸カルシウムと同様の技術で一旦脱水濃縮後、ポリアクリル系分散剤の添加と共に強力な剪断撹拌装置を用いて再液化し、固形分50%以上の高濃度スラリーとして仕上げるのが望ましい。
【0033】
本発明ではモノカーボネートと炭酸カルシウムの相互作用により光沢発現効果を高めるため、それらは同一塗工層中に配合されなければならない。例えばダブルコーティングなど複数回塗工する場合、別々に塗工したのでは全く効果が発揮されない。
【0034】
モノカーボネートと炭酸カルシウムの好ましい配合部数は、モノカーボネートは1〜50部、より好ましくは3〜20部である。1部以下では相乗効果が小さく、50部以上ではコスト高となり好ましくない。炭酸カルシウムについては20部以上が好ましく、50部以上が更に好ましい。20部以下では折角の相乗効果が殆ど享受できない。
【0035】
炭酸カルシウムについては重質炭酸カルシウムでも軽質炭酸カルシウムでも同様の効果を発揮するが、課題解決の主旨から安価な重質炭酸カルシウムの方が好ましく、湿式粉砕重質炭酸カルシウムが最も好ましい。
【0036】
本発明の特徴であるモノカーボネートと炭酸カルシウムの光沢発現に至る相互作用、相乗効果についてそのメカニズムは明確ではないが、カルシウムアルミネートイオンが炭酸カルシウム粒子表面に作用し、炭酸カルシウム粒子のレオロジーを光沢発現に好ましい状態に変化させるものと推測している。
【0037】
本発明ではモノカーボネートと炭酸カルシウムの併用を必須とするが、それらと共に市販の塗工用顔料も全く支障なく使用可能である。市販の塗工用顔料としては例えば、クレー、タルク、プラスチックピグメント、酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト等であり、その1種類または2種類以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の塗工層で使用するバインダーとしては、一般的な塗工紙の製造に用いられるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス、及び化工澱粉が好適である。それらはどちらか一方でもよいが通常併用する方がよい。化工澱粉にはバインダーとしてだけでなく、塗料への保水性付与、マイグレーション抑制(流動化抑止)、塗工層の剛性付与などの役割があり、塗工用としてはリン酸エステル化澱粉が好適に用いられるが、酸化澱粉、エーテル化澱粉、酵素変性澱粉などを用いることも可能である。これらのバインダーは顔料100重量部に対して、ラテックスで5〜15重量部、化工澱粉で1〜10重量部使用するのが好ましい。
【0039】
本発明の塗料には通常の塗工紙用塗料と同様に、分散剤、消泡剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤等の各種助剤が適宣使用される。
【0040】
このようにして調整された塗料は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ロッドコーター、カーテンコーター等、各種塗工方式によって全く通常の塗工紙と同様に塗工することが可能である。
【0041】
このほかの条件、例えば原紙条件、塗料濃度、顔料分散条件、塗工速度、乾燥条件、スーパーカレンダーもしくはソフトカレンダー条件なども通常の塗工紙製造条件の範囲で適宣調整すればよく、すなわち本発明ではモノカーボネートと炭酸カルシウムを併用する以外は全く特別な配慮を必要とせず、通常の条件で使用するだけで優れた効果を発揮するものである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、例中の部及び%は、それぞれ重量部、重量%を示し、固形分換算の値である。なお、塗工液及び得られた塗工紙について以下に示すような試験法に基づいて評価を行った。
【0043】
(試験方法)
(1)白紙光沢度:JIS P8142に基づいて測定した。測定装置:日本電色工業株 式会社 VG7000
(2)ISO白色度:JIS P8148に基づいて測定した。測定装置:コニカミノル タセンシング株式会社 CM−3500d
(3)色差値(a値・b値):コニカミノルタセンシング株式会社 CM−3500d a値は大きいほど赤味が強く、b値は大きいほど黄色味が強い。
(4)粒度測定:日本レーザー(株)SIMPATEC HELOS SYSTEMレー ザー回折式粒度測定機 湿式分散法による。
【0044】
実施例1
モノカーボネート(古手川産業製:モノカーボネートV60:平均粒子径0.7μm)を10部、重質炭酸カルシウム(古手川産業製:湿式粉砕品:2μm以下97%)を90部と、バインダーとして顔料100部当たりラテックス(JSR製:品番0695:SBラテックス)11部、澱粉(王子コーンスターチ製:HSS#100:リン酸エステル化澱粉)3部を混合し固形分59%の水性塗料を作成した。これを井元製作所製自動塗工機IMC−70F0に20μmのクリアランスを持つプレーンバーを組み合わせて64g/mの上質紙の片面に塗工量10±0.3g/mとなるよう塗工した。塗工量の微妙な調節は塗工速度の調節により行なった。塗工直後の湿紙は台紙に固定した上で120℃に設定した棚式乾燥機に90秒間入れ乾燥させた。原紙及び塗工紙の質量は恒温恒湿機を用い、25℃・湿度50%でエージングした後に測定した。このようにして作成した塗工紙を熊谷理機工業(株)製テストスーパーカレンダー25FC−200Eにて、ロール温度40℃、線圧50kgf/cm、通紙速度10m/分、2回通しにて艶出し加工を行い目的の塗工紙を完成させた。
【0045】
実施例2
顔料の配合をモノカーボネート50部、重質炭酸カルシウム50部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0046】
実施例3
顔料の配合をモノカーボネート10部、重質炭酸カルシウム60部、軽質炭酸カルシウム(奥多摩工業製:TP−123:アラゴナイト針状)30部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0047】
実施例4
顔料の配合をモノカーボネート10部、重質炭酸カルシウム80部、クレー(エンゲルハード製:UW−90:一級粒度分布)10部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0048】
実施例5
顔料の配合をモノカーボネート10部、重質炭酸カルシウム20部、クレー70部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0049】
比較例1
顔料の配合をモノカーボネート10部、重質炭酸カルシウム5部、クレー85部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0050】
比較例2
顔料の配合をモノカーボネート10部、クレー90部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0051】
比較例3
顔料の配合をモノカーボネート50部、クレー50部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0052】
比較例4
顔料の配合を重質炭酸カルシウム50部、クレー50部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0053】
比較例5
顔料の配合を重質炭酸カルシウム30部、クレー70部に変更した以外は実施例1と同様の方法で塗工紙を作成した。
【0054】
参考例
モノカーボネート・重質炭酸カルシウム・軽質炭酸カルシウム・クレーをそれぞれ単独で実施例1と同様に塗工紙を作成した。その結果を(表1)に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例1〜5、及び比較例1〜5の試験結果を(表2)に示す。白紙光沢実測値は実際に光沢度計で測定した値である。白紙光沢計算値は顔料それぞれの白紙光沢に配合比率を掛け、それらを合計した値である。相乗効果は白紙光沢実測値から白紙光沢計算値を引いた値である。
【0057】
【表2】

【0058】
モノカーボネートと炭酸カルシウムを併用していない比較例2〜5では、白紙光沢の実測値と計算値はほぼ同等なのに対し、実施例1〜5では計算値よりも実測値の方が高く、モノカーボネートと炭酸カルシウムを併用した相乗効果が認められる。また、その効果は重質炭酸カルシウムでも軽質炭酸カルシウムでも殆ど変わらなかった。
【0059】
実施例4・5及び比較例1より、炭酸カルシウムの配合部数が多いほど相乗効果は大きくなり、それは炭酸カルシウムが20部以上で顕著となることが分かる。
【0060】
実施例1〜5より、相乗効果が大きいほど白色度も高くなる傾向であることが分かる。
【産業上の利用の可能性】
【0061】
このように紙塗工産業においてモノカーボネートと炭酸カルシウムを併用する技術は、従来の無機顔料の概念に無い光沢発現性を発揮するため、品質を維持しながら相当量のクレーを重質炭酸カルシウムに振り替えることを可能とし、コストダウンの要求に応えることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗料を塗工する塗工紙において、顔料100重量部に対して、3CaO・Al・CaCO・11HOの化学式で表されるカルシウムアルミネートモノカーボネートを1〜50重量部配合すると同時に、炭酸カルシウムを20部以上配合することを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記炭酸カルシウムが、特に重質炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載の塗工紙。

【公開番号】特開2013−100626(P2013−100626A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258247(P2011−258247)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(397006793)古手川産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】