カルシウムアルミネート
【課題】 本発明は、急硬性や急結性等の発現作用を損なうことなく、優れた易粉砕性を具備せしめた非晶質カルシウムアルミネートクリンカの提供及びセメントペースト、モルタル又はコンクリート等の表面にポップアウト等を生じさせることなく急結性又は急硬性を付与することができる急硬性や急結性等の発現作用を呈することができる非晶質カルシウムアルミネート系混和材を提供する。
【解決手段】 単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0kg/Lの中空状粒子であることを特徴とする非晶質カルシウムアルミネートクリンカ、および該カルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕してなる非晶質カルシウムアルミネート系混和材。
【解決手段】 単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0kg/Lの中空状粒子であることを特徴とする非晶質カルシウムアルミネートクリンカ、および該カルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕してなる非晶質カルシウムアルミネート系混和材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性無機物質に急硬性や急結性を付与したり、耐火性を付与することに活用されるカルシウムアルミネート系物質に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント等の水硬性無機物質に急硬性や急結性を付与する物質として、また不定形耐火材料として用いられるアルミナセメントの有効成分としてカルシウムアルミネート系物質が使用されている。カルシウムアルミネート系物質は構造上、結晶質と非晶質のものに大別され、両者が共存する状態のものも存在する。このうち実質的に非晶質のカルシウムアルミネート系物質は、結晶質または低ガラス化率構造のカルシウムアルミネート系物質よりも反応活性が高く、急結性や急硬性の付与には有利である。(例えば、特許文献1参照)しかるに、非晶質のカルシウムアルミネート系物質は堅く、また従来の原料溶融化プロセス手法においては一般に緻密で比較大きな塊状物(クリンカ)として得られ易い。適度な反応活性の非晶質カルシウムアルミネート系物質を得るには、このようなクリンカを粉砕し、望ましくは整粒する必要があり、またより高い反応活性を得るには粉砕を進め微粉化して比表面積を増大させる必要もあるが(例えば、特許文献2参照)、かかる実情から非晶質カルシウムアルミネートの粉砕性は悪く、粉砕には多大な労力やコストを要した。このように難粉砕性であるが故に、所望のブレーン比表面積(粒度)にすべく粉砕を行っても、ボールミル粉砕等の通常の粉砕手法では300μmを超えるグリッド(粗粒)が粉砕物中に混在し易い。グリッドは内部と表面近傍では注水後の水和反応に多大なタイムラグが発生し、凝結終局面で遅れ水和反応が起こし易く、モルタルやコンクリート表面のポップアウトの主たる原因になる。グリッド混入を防ぎ、適度な反応活性の非晶質カルシウムアルミネート系混和材を得るには、粉砕でクリンカをできるだけ斑無く微細化できる必要がある。クリンカ原料を十分溶融させずに急冷すると反応未達原料残存により粉砕し易くなる可能性があるものの、非晶質カルシウムアルミネートの生成も未達となり、所望の凝結・硬化特性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−230833号公報
【特許文献2】特開2000−233955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、急硬性や急結性等の発現作用を損なわせることなく、優れた易粉砕性を備えた非晶質カルシウムアルミネートクリンカを提供することであり、またセメントペースト、モルタル又はコンクリート等の表面にポップアウトを生じさせることなく急結性又は急硬性を付与できる非晶質カルシウムアルミネート系混和材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題解決のため検討を重ねた結果、加熱溶融を経て得られる非晶質カルシウムアルミネートを特定の形状構造にせしめることで、容易に粉砕できたことから本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、次の(1)〜(3)で表す非晶質カルシウムアルミネートクリンカおよび(4)で表す非晶質カルシウムアルミネート系混和材である。
(1) 単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)の中空状粒子であることを特徴とする非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
(2) フリーカーボンを含む原料を溶融発泡させてなる中空状粒子であることを特徴とする前記(1)の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
(3) フリーカーボン含有量が0.001〜1質量%の中空状粒子であることを特徴とする前記(1)又は(2)の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
(4) 前記(1)〜(3)何れかのカルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕してなる非晶質カルシウムアルミネート系混和材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極めて粉砕し易い非晶質カルシウムアルミネートクリンカが容易に得られるため、特殊な粉砕装置の使用や膨大な粉砕エネルギーを要すことなく、また労力や時間も節減でき、所望の粒度に粉砕することができる。しかも、このクリンカ粉砕物は従来の非晶質カルシウムアルミネートに勝るとも劣らない急結性や急硬性を発現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明でいう非晶質カルシウムアルミネートとは、主要化学成分としてCaOとAl2O3を含む水和活性物質のうち、実質的に結晶構造となっていないものである。ただし、予め原料に加えられた結晶質発泡助剤の加熱後の残存物や微量の不可避結晶質物質などの混在は許容される。好ましくは実質的に結晶構造となっていないものの目安として概ね95%以上のガラス化率のものとする。化学成分としてのCaOとAl2O3の配合上のモル比率は特に限定されないが、急結性や急硬性を十分発現させる上では、CaOとAl2O3の配合上のモル比;CaO/Al2O3が1.0〜3.0であるものが好ましい。またCaOとAl2O3に加えて他の化学成分が加わったものも広義のカルシウムアルミネートとして本発明では対象となる。このような成分は急結性や急硬性の発現に対し阻害要因とならない限り特に限定されない。具体的には、例えばSO4、CaF2、Na2O、Li2O、K2O等が挙げられる。
【0009】
本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、前記のような非晶質カルシウムアルミネートの加熱溶融物を冷却したものであって、単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)の中空状粒子である。ここで中空状粒子とは粒子内部に空隙を有し、概ね殻状の構造の粒子をいう。該空隙は粒子表面に開口せずに密閉された空隙であるのが好ましい。空隙は望ましくは1つの密閉空隙が良いが、単数又は複数の隔壁で仕切られた空隙群からなるものでも良い。複数の空隙が粒子内部で連通しているものでも良い。溶融時の中空粒子形成過程で一部が破泡した構造の殻となったもの、また外部に開口した空隙が共存する粒子であっても良い。好ましくはこれらの不完全殻構造の中空粒子は粉砕後の使用時の反応活性が劣る可能性もあることから、その存在が個数で全体の概ね30%以下となっているものを使用する。また、空隙を隔てる隔壁が多いものほど、また隔壁や殻の厚み又は隔壁や殻の容積は何れも小さいほど粒子としては堅牢化が進んでいないため、粉砕が行い易い。また、本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカの大きさは特に制限されないが、後の粉砕処理を考慮すると概ね0.01〜5mmにすれば、高い粉砕効率で粉砕できることから好ましい。クリンカの大きさは加熱方法である程度調整できる。
【0010】
また、中空殻状構造の殻である粒子表層部の肉厚は、薄い方が好ましいが、特に制限されるものではない。中空状粒子自体の空隙率は粉砕性に影響を及ぼすが、多数の小粒子に対する空隙率の計測は容易ではない。そこで本発明では、粒子の空隙状況の把握可能な代替指標として、該粒子の単位容積あたりの充填嵩密度を規定する。単位容積あたりの充填嵩密度(ρb)は、一定の内容積(V)を有する容器内に、該中空状粒子を振動充填させ、容器上面まで充填させた中空状粒子の質量(W)から算出した密度(ρb=W/V)である。粒径が同様のものでは、この充填嵩密度が低いものほどそれに比例して空隙率が高くなる。本発明では、クリンカ粒子の充填嵩密度を0.1〜1.0(kg/L)とする。充填嵩密度が1.0を超えると、概して空隙率が低くなり、厚肉の殻を有すものとなるため粉砕し難くなり好ましくない。また充填嵩密度が0.1未満では、軽量化し過ぎるためクリンカ粉砕時に高い粉砕エネルギーが生じ難く、その結果、実質未粉砕の粒子が採取される可能性があるので好ましくない。
【0011】
また、本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、このような中空状粒子からなるクリンカであって、フリーカーボン(化合物でないC単体)を含む原料を溶融発泡させてなる中空状粒子である。溶融に供される原料に加えられるフリーカーボンは、例えばグラファイト、無定形炭素、カーボンブラック、活性炭などを挙げることができる。また、原料中のフリーカーボン含有量は、好ましくは総原料中0.001〜1質量%とする。総原料中の含有量が0.001質量%未満だと非晶質カルシウムアルミネートクリンカが中空殻状になり難いので適当でなく、また1質量%を超えると急結性や急硬性が低下することがあるので適当でない。溶融に供される原料のうち、フリーカーボン以外は、非晶質カルシウムアルミネート製造に際して通常使用されるような原料であれば特に限定されない。具体例を挙げれば、CaO源として炭酸カルシウム、消石灰、生石灰など、Al2O3源としてアルミナ、バン土頁岩、ボーキサイト、ベーマイト、ギブサイトなど、またCaOとAl2O3をの両者を化学成分として含有する高炉スラグ等も使用可能である。さらにCaOやAl2O3以外の化学成分として、SO4、CaF2、Na2O、Li2O、K2O、MgO、Fe2O3等が原料中に含まれているものでも良い。CaO源とAl2O3源の含有割合は特に制限されないが、好ましくは、CaOとAl2O3の化学成分としての含有モル比;CaO/Al2O3で1.0〜3.0とする。含有モル比;CaO/Al2O3が1.0未満あるいはCaO/Al2O3が3.0を超えると急結性や急硬性が低下することがあるので適当でない。
【0012】
本発明では非晶質カルシウムアルミネートクリンカに中空殻状構造形成に寄与する主たる物質(発泡助剤)としてフリーカーボンを用いるのが好ましいが、フリーカーボン以外の発泡助剤も本発明の効果を喪失させない限り使用しても良い。このような物質としてSiCが例示される。
【0013】
また、本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)の中空状粒子であって、あるいはフリーカーボンを含む原料を溶融発泡させてなる単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)であって、フリーカーボン含有量が0.001〜1質量%の中空状粒子である。本発明ではフリーカーボンを溶融時の主たる発泡起源に用いた場合、該フリーカーボンは発砲後も気化離脱せずに一部がクリンカ中に残留する。非晶質カルシウムアルミネートクリンカ中に適量のフリーカーボンが残留すれば、残留フリーカーボンは該クリンカにおいては脆弱な破壊源となりうるので、易粉砕性のクリンカを得る上では有利である。一方で過剰にフリーカーボンを含有したクリンカは急結性や急硬性が低下することがある。クリンカ中のフリーカーボン含有量が1質量%を超えるものでは過剰フリーカーボン量となるので適当ではない。またクリンカ中のフリーカーボンが0.001質量%未満ではその含有効果が実質得られない。
【0014】
本発明では非晶質カルシウムアルミネートクリンカの製造方法の好適な一例を述べる。
少なくとも前記のようなCaO源とAl2O3源となる原料にフリーカーボンを加えた原料混合物を電気炉、反射炉又は気流炉などの加熱装置で最高温度1300〜1800℃で加熱する。加熱後は急冷が必要で、急冷方法は冷水と直接接触させる水中急冷などは不適であるが、それ以外の急冷方法なら特に制限されない。一例として比較的簡易で実効性のある急冷方法として加熱溶融温度下の溶融物を加熱炉から直ちに室温環境下に取り出す方法が挙げられる。また、急冷して得たクリンカは、例えばボールミル、ロッドミル又はピンミル等の通常の粉砕手段でも容易に粉砕できる。
【0015】
また、本発明の非晶質カルシウムアルミネート系混和材は前記の中空殻状の非晶質カルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕したものである。このようなブレーン比表面積にすることでセメント、モルタル又はコンクリートに急硬性や急結性を付与するに適した非晶質カルシウムアルミネート系混和材を得ることができる。特にブレーン比表面積4000cm2/g以上に微粉砕した粉末粒子は高い急結・急硬性の付与が可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載された実施例に限定されるものではない。
【0017】
[カルシウムアルミネートクリンカ製造原料]
市販石灰石粉(CaO含有量54%、CO2含有量45%、Al2O3、SiO2及びFe2O3は実質無含有)、市販仮焼ボーキサイト(Al2O3含有量87%、SiO2含有量5%、Fe2O3含有量1%)及び黒鉛粉末(市販試薬、純度>99.9%)を表1で表される化学成分割合となるよう配合し、混合することでクリンカ製造原料を作製した。尚、クリンカ製造原料の粒径は、約1〜10μm程度のものを使用した。
【0018】
【表1】
【0019】
次いで、カーボン電極を具備したアーク式電気炉(加熱室容積200リットル)を用い、該クリンカ製造原料をアーク式電気炉中で、1500℃±約100℃に加熱し、当該温度から直ちに、溶融物を10m/℃の速度の気流中に投入することで溶融発泡させた。溶融物はそのまま炉外常温下に設置したフィルター付回収装置に気流搬送することで急冷され、表2に表すカルシウムアルミネートクリンカを得た。尚、表2のガラス化率は、粉末X線回折により、カルシウムアルミネートクリンカ中のCaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3の結晶存在量(W1)を測定した後、このカルシウムアルミネートクリンカを電気炉で1500℃で再溶融し、炉内で自然放冷することで実質的に全相結晶化させ、粉末X線回折によって自然放冷物中のCaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3の結晶生成量(W2)を測定し、100×(W1/W2)で算出される。また、カルシウムアルミネートクリンカ中のフリーカーボンの含有量は、熱重量分析による方法によって求めた。さらに、カルシウムアルミネートクリンカの形状構造はSEM(走査型電子顕微鏡)観察によって調べた。観察領域において概ね80%以上の粒子が呈した形状構造に共通性があることをもって特定した。形状構造に当該水準での共通性が見られない場合は不定形とした。
【0020】
【表2】
【0021】
得られたカルシウムアルミネートクリンカは4kgずつ内容積50リットルのボールミルと直径15、30および50mmの鋼球を等重量ずつ混合したボールを用い、回転速度40rpmで所定のブレーン比表面積(3000±200cm2/g又は5000±200cm2/g)になるよう粉砕し、粉砕に要した時間を測定した。また、ブレーン比表面積5000±200cm2/gに粉砕したものについて、グリッド残存量を把握するため粉砕物の300μm篩上残存量も調べた。これらの結果を表3に表す。
【0022】
【表3】
【0023】
また、かような方法でブレーン比表面積5000±200cm2/gに粉砕したクリンカ粉砕物をベースモルタルに混和させ、JIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」に準拠した方法でモルタルの凝結時間を測定し、終結時間をもって急硬性を把握した。また、モルタル表面のポップアウト発生有無を目視で調べた。ベースモルタルは、市販の普通ポルトランドセメント1kg、JIS R 5201で規定するセメント強さ試験用標準砂1.35kg及び水0.405kgをホバートミキサに投入し、混合して作製した。クリンカ粉砕物の当該ベースモルタルへの添加量は100gとした。この結果を表4に表す。
【0024】
【表4】
【0025】
以上の結果から、本発明による非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、通常の粉砕手段で従来の非晶質カルシウムアルミネートクリンカに比べてかなり短時間で所定の粒度(ブレーン比表面積)まで容易に粉砕することが出来(表3参照。)、また急結・急硬性に関連する凝結特性も従来の非晶質カルシウムアルミネート系混和材と遜色ない発現状況が確保されていることがわかる。(表4参照。)
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性無機物質に急硬性や急結性を付与したり、耐火性を付与することに活用されるカルシウムアルミネート系物質に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント等の水硬性無機物質に急硬性や急結性を付与する物質として、また不定形耐火材料として用いられるアルミナセメントの有効成分としてカルシウムアルミネート系物質が使用されている。カルシウムアルミネート系物質は構造上、結晶質と非晶質のものに大別され、両者が共存する状態のものも存在する。このうち実質的に非晶質のカルシウムアルミネート系物質は、結晶質または低ガラス化率構造のカルシウムアルミネート系物質よりも反応活性が高く、急結性や急硬性の付与には有利である。(例えば、特許文献1参照)しかるに、非晶質のカルシウムアルミネート系物質は堅く、また従来の原料溶融化プロセス手法においては一般に緻密で比較大きな塊状物(クリンカ)として得られ易い。適度な反応活性の非晶質カルシウムアルミネート系物質を得るには、このようなクリンカを粉砕し、望ましくは整粒する必要があり、またより高い反応活性を得るには粉砕を進め微粉化して比表面積を増大させる必要もあるが(例えば、特許文献2参照)、かかる実情から非晶質カルシウムアルミネートの粉砕性は悪く、粉砕には多大な労力やコストを要した。このように難粉砕性であるが故に、所望のブレーン比表面積(粒度)にすべく粉砕を行っても、ボールミル粉砕等の通常の粉砕手法では300μmを超えるグリッド(粗粒)が粉砕物中に混在し易い。グリッドは内部と表面近傍では注水後の水和反応に多大なタイムラグが発生し、凝結終局面で遅れ水和反応が起こし易く、モルタルやコンクリート表面のポップアウトの主たる原因になる。グリッド混入を防ぎ、適度な反応活性の非晶質カルシウムアルミネート系混和材を得るには、粉砕でクリンカをできるだけ斑無く微細化できる必要がある。クリンカ原料を十分溶融させずに急冷すると反応未達原料残存により粉砕し易くなる可能性があるものの、非晶質カルシウムアルミネートの生成も未達となり、所望の凝結・硬化特性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−230833号公報
【特許文献2】特開2000−233955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、急硬性や急結性等の発現作用を損なわせることなく、優れた易粉砕性を備えた非晶質カルシウムアルミネートクリンカを提供することであり、またセメントペースト、モルタル又はコンクリート等の表面にポップアウトを生じさせることなく急結性又は急硬性を付与できる非晶質カルシウムアルミネート系混和材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題解決のため検討を重ねた結果、加熱溶融を経て得られる非晶質カルシウムアルミネートを特定の形状構造にせしめることで、容易に粉砕できたことから本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、次の(1)〜(3)で表す非晶質カルシウムアルミネートクリンカおよび(4)で表す非晶質カルシウムアルミネート系混和材である。
(1) 単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)の中空状粒子であることを特徴とする非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
(2) フリーカーボンを含む原料を溶融発泡させてなる中空状粒子であることを特徴とする前記(1)の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
(3) フリーカーボン含有量が0.001〜1質量%の中空状粒子であることを特徴とする前記(1)又は(2)の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
(4) 前記(1)〜(3)何れかのカルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕してなる非晶質カルシウムアルミネート系混和材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極めて粉砕し易い非晶質カルシウムアルミネートクリンカが容易に得られるため、特殊な粉砕装置の使用や膨大な粉砕エネルギーを要すことなく、また労力や時間も節減でき、所望の粒度に粉砕することができる。しかも、このクリンカ粉砕物は従来の非晶質カルシウムアルミネートに勝るとも劣らない急結性や急硬性を発現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明でいう非晶質カルシウムアルミネートとは、主要化学成分としてCaOとAl2O3を含む水和活性物質のうち、実質的に結晶構造となっていないものである。ただし、予め原料に加えられた結晶質発泡助剤の加熱後の残存物や微量の不可避結晶質物質などの混在は許容される。好ましくは実質的に結晶構造となっていないものの目安として概ね95%以上のガラス化率のものとする。化学成分としてのCaOとAl2O3の配合上のモル比率は特に限定されないが、急結性や急硬性を十分発現させる上では、CaOとAl2O3の配合上のモル比;CaO/Al2O3が1.0〜3.0であるものが好ましい。またCaOとAl2O3に加えて他の化学成分が加わったものも広義のカルシウムアルミネートとして本発明では対象となる。このような成分は急結性や急硬性の発現に対し阻害要因とならない限り特に限定されない。具体的には、例えばSO4、CaF2、Na2O、Li2O、K2O等が挙げられる。
【0009】
本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、前記のような非晶質カルシウムアルミネートの加熱溶融物を冷却したものであって、単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)の中空状粒子である。ここで中空状粒子とは粒子内部に空隙を有し、概ね殻状の構造の粒子をいう。該空隙は粒子表面に開口せずに密閉された空隙であるのが好ましい。空隙は望ましくは1つの密閉空隙が良いが、単数又は複数の隔壁で仕切られた空隙群からなるものでも良い。複数の空隙が粒子内部で連通しているものでも良い。溶融時の中空粒子形成過程で一部が破泡した構造の殻となったもの、また外部に開口した空隙が共存する粒子であっても良い。好ましくはこれらの不完全殻構造の中空粒子は粉砕後の使用時の反応活性が劣る可能性もあることから、その存在が個数で全体の概ね30%以下となっているものを使用する。また、空隙を隔てる隔壁が多いものほど、また隔壁や殻の厚み又は隔壁や殻の容積は何れも小さいほど粒子としては堅牢化が進んでいないため、粉砕が行い易い。また、本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカの大きさは特に制限されないが、後の粉砕処理を考慮すると概ね0.01〜5mmにすれば、高い粉砕効率で粉砕できることから好ましい。クリンカの大きさは加熱方法である程度調整できる。
【0010】
また、中空殻状構造の殻である粒子表層部の肉厚は、薄い方が好ましいが、特に制限されるものではない。中空状粒子自体の空隙率は粉砕性に影響を及ぼすが、多数の小粒子に対する空隙率の計測は容易ではない。そこで本発明では、粒子の空隙状況の把握可能な代替指標として、該粒子の単位容積あたりの充填嵩密度を規定する。単位容積あたりの充填嵩密度(ρb)は、一定の内容積(V)を有する容器内に、該中空状粒子を振動充填させ、容器上面まで充填させた中空状粒子の質量(W)から算出した密度(ρb=W/V)である。粒径が同様のものでは、この充填嵩密度が低いものほどそれに比例して空隙率が高くなる。本発明では、クリンカ粒子の充填嵩密度を0.1〜1.0(kg/L)とする。充填嵩密度が1.0を超えると、概して空隙率が低くなり、厚肉の殻を有すものとなるため粉砕し難くなり好ましくない。また充填嵩密度が0.1未満では、軽量化し過ぎるためクリンカ粉砕時に高い粉砕エネルギーが生じ難く、その結果、実質未粉砕の粒子が採取される可能性があるので好ましくない。
【0011】
また、本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、このような中空状粒子からなるクリンカであって、フリーカーボン(化合物でないC単体)を含む原料を溶融発泡させてなる中空状粒子である。溶融に供される原料に加えられるフリーカーボンは、例えばグラファイト、無定形炭素、カーボンブラック、活性炭などを挙げることができる。また、原料中のフリーカーボン含有量は、好ましくは総原料中0.001〜1質量%とする。総原料中の含有量が0.001質量%未満だと非晶質カルシウムアルミネートクリンカが中空殻状になり難いので適当でなく、また1質量%を超えると急結性や急硬性が低下することがあるので適当でない。溶融に供される原料のうち、フリーカーボン以外は、非晶質カルシウムアルミネート製造に際して通常使用されるような原料であれば特に限定されない。具体例を挙げれば、CaO源として炭酸カルシウム、消石灰、生石灰など、Al2O3源としてアルミナ、バン土頁岩、ボーキサイト、ベーマイト、ギブサイトなど、またCaOとAl2O3をの両者を化学成分として含有する高炉スラグ等も使用可能である。さらにCaOやAl2O3以外の化学成分として、SO4、CaF2、Na2O、Li2O、K2O、MgO、Fe2O3等が原料中に含まれているものでも良い。CaO源とAl2O3源の含有割合は特に制限されないが、好ましくは、CaOとAl2O3の化学成分としての含有モル比;CaO/Al2O3で1.0〜3.0とする。含有モル比;CaO/Al2O3が1.0未満あるいはCaO/Al2O3が3.0を超えると急結性や急硬性が低下することがあるので適当でない。
【0012】
本発明では非晶質カルシウムアルミネートクリンカに中空殻状構造形成に寄与する主たる物質(発泡助剤)としてフリーカーボンを用いるのが好ましいが、フリーカーボン以外の発泡助剤も本発明の効果を喪失させない限り使用しても良い。このような物質としてSiCが例示される。
【0013】
また、本発明の非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)の中空状粒子であって、あるいはフリーカーボンを含む原料を溶融発泡させてなる単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0(kg/L)であって、フリーカーボン含有量が0.001〜1質量%の中空状粒子である。本発明ではフリーカーボンを溶融時の主たる発泡起源に用いた場合、該フリーカーボンは発砲後も気化離脱せずに一部がクリンカ中に残留する。非晶質カルシウムアルミネートクリンカ中に適量のフリーカーボンが残留すれば、残留フリーカーボンは該クリンカにおいては脆弱な破壊源となりうるので、易粉砕性のクリンカを得る上では有利である。一方で過剰にフリーカーボンを含有したクリンカは急結性や急硬性が低下することがある。クリンカ中のフリーカーボン含有量が1質量%を超えるものでは過剰フリーカーボン量となるので適当ではない。またクリンカ中のフリーカーボンが0.001質量%未満ではその含有効果が実質得られない。
【0014】
本発明では非晶質カルシウムアルミネートクリンカの製造方法の好適な一例を述べる。
少なくとも前記のようなCaO源とAl2O3源となる原料にフリーカーボンを加えた原料混合物を電気炉、反射炉又は気流炉などの加熱装置で最高温度1300〜1800℃で加熱する。加熱後は急冷が必要で、急冷方法は冷水と直接接触させる水中急冷などは不適であるが、それ以外の急冷方法なら特に制限されない。一例として比較的簡易で実効性のある急冷方法として加熱溶融温度下の溶融物を加熱炉から直ちに室温環境下に取り出す方法が挙げられる。また、急冷して得たクリンカは、例えばボールミル、ロッドミル又はピンミル等の通常の粉砕手段でも容易に粉砕できる。
【0015】
また、本発明の非晶質カルシウムアルミネート系混和材は前記の中空殻状の非晶質カルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕したものである。このようなブレーン比表面積にすることでセメント、モルタル又はコンクリートに急硬性や急結性を付与するに適した非晶質カルシウムアルミネート系混和材を得ることができる。特にブレーン比表面積4000cm2/g以上に微粉砕した粉末粒子は高い急結・急硬性の付与が可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載された実施例に限定されるものではない。
【0017】
[カルシウムアルミネートクリンカ製造原料]
市販石灰石粉(CaO含有量54%、CO2含有量45%、Al2O3、SiO2及びFe2O3は実質無含有)、市販仮焼ボーキサイト(Al2O3含有量87%、SiO2含有量5%、Fe2O3含有量1%)及び黒鉛粉末(市販試薬、純度>99.9%)を表1で表される化学成分割合となるよう配合し、混合することでクリンカ製造原料を作製した。尚、クリンカ製造原料の粒径は、約1〜10μm程度のものを使用した。
【0018】
【表1】
【0019】
次いで、カーボン電極を具備したアーク式電気炉(加熱室容積200リットル)を用い、該クリンカ製造原料をアーク式電気炉中で、1500℃±約100℃に加熱し、当該温度から直ちに、溶融物を10m/℃の速度の気流中に投入することで溶融発泡させた。溶融物はそのまま炉外常温下に設置したフィルター付回収装置に気流搬送することで急冷され、表2に表すカルシウムアルミネートクリンカを得た。尚、表2のガラス化率は、粉末X線回折により、カルシウムアルミネートクリンカ中のCaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3の結晶存在量(W1)を測定した後、このカルシウムアルミネートクリンカを電気炉で1500℃で再溶融し、炉内で自然放冷することで実質的に全相結晶化させ、粉末X線回折によって自然放冷物中のCaO・Al2O3及び12CaO・7Al2O3の結晶生成量(W2)を測定し、100×(W1/W2)で算出される。また、カルシウムアルミネートクリンカ中のフリーカーボンの含有量は、熱重量分析による方法によって求めた。さらに、カルシウムアルミネートクリンカの形状構造はSEM(走査型電子顕微鏡)観察によって調べた。観察領域において概ね80%以上の粒子が呈した形状構造に共通性があることをもって特定した。形状構造に当該水準での共通性が見られない場合は不定形とした。
【0020】
【表2】
【0021】
得られたカルシウムアルミネートクリンカは4kgずつ内容積50リットルのボールミルと直径15、30および50mmの鋼球を等重量ずつ混合したボールを用い、回転速度40rpmで所定のブレーン比表面積(3000±200cm2/g又は5000±200cm2/g)になるよう粉砕し、粉砕に要した時間を測定した。また、ブレーン比表面積5000±200cm2/gに粉砕したものについて、グリッド残存量を把握するため粉砕物の300μm篩上残存量も調べた。これらの結果を表3に表す。
【0022】
【表3】
【0023】
また、かような方法でブレーン比表面積5000±200cm2/gに粉砕したクリンカ粉砕物をベースモルタルに混和させ、JIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」に準拠した方法でモルタルの凝結時間を測定し、終結時間をもって急硬性を把握した。また、モルタル表面のポップアウト発生有無を目視で調べた。ベースモルタルは、市販の普通ポルトランドセメント1kg、JIS R 5201で規定するセメント強さ試験用標準砂1.35kg及び水0.405kgをホバートミキサに投入し、混合して作製した。クリンカ粉砕物の当該ベースモルタルへの添加量は100gとした。この結果を表4に表す。
【0024】
【表4】
【0025】
以上の結果から、本発明による非晶質カルシウムアルミネートクリンカは、通常の粉砕手段で従来の非晶質カルシウムアルミネートクリンカに比べてかなり短時間で所定の粒度(ブレーン比表面積)まで容易に粉砕することが出来(表3参照。)、また急結・急硬性に関連する凝結特性も従来の非晶質カルシウムアルミネート系混和材と遜色ない発現状況が確保されていることがわかる。(表4参照。)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0kg/Lの中空状粒子であることを特徴とする非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
【請求項2】
フリーカーボンを含む原料を溶融発泡させてなる中空状粒子であることを特徴とする請求項1記載の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
【請求項3】
フリーカーボン含有量が0.001〜1質量%の中空状粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
【請求項4】
請求項1〜3何れか記載のカルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕してなる非晶質カルシウムアルミネート系混和材。
【請求項1】
単位容積あたりの充填嵩密度が0.1〜1.0kg/Lの中空状粒子であることを特徴とする非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
【請求項2】
フリーカーボンを含む原料を溶融発泡させてなる中空状粒子であることを特徴とする請求項1記載の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
【請求項3】
フリーカーボン含有量が0.001〜1質量%の中空状粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載の非晶質カルシウムアルミネートクリンカ。
【請求項4】
請求項1〜3何れか記載のカルシウムアルミネートクリンカをブレーン比表面積2500cm2/g以上に粉砕してなる非晶質カルシウムアルミネート系混和材。
【公開番号】特開2012−140279(P2012−140279A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293578(P2010−293578)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】
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