説明

カルシウム化合物及びその製造方法

【課題】短径がナノサイズの繊維状のカルシウム化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のカルシウム化合物は、短径が100nm以下であり、繊維状である。このカルシウム化合物は、アルコール、又は、アルコールと水との混合物からなる分散媒中で、粒子状カルシウム化合物を酸と反応させることで製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短径がナノサイズのカルシウム化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノサイズで制御するナノテクノロジーが、国内はもとより、全世界において活発に進められている。中でも、短径が100nm以下、アスペクト比が100以上のナノファイバに関する技術分野は、産業界において重要な役割を担っている。このようなナノファイバ等のナノ化合物に関する研究報告が数多く発表されている。
【0003】
ナノファイバ等のナノ化合物の製造方法としては、ポリスチレンやPET(Poly Ethylene Terephthalate)等の有機ポリマをエレクトロスピニング法等によりナノサイズに紡糸する方法が一般的に行われており、様々な分野に適用されている。しかしながら、有機ポリマは、耐熱性に劣るという欠点を有している。
【0004】
そのため、有機ポリマに代え、耐熱性に優れる無機化合物からなる無機ナノ化合物に対する需要が高まっており、耐熱フィルタ、増強材、難燃剤等への応用が拡大している。
【0005】
近年、ナノ化合物を2次元の平面上に均一に分散させて厚さがナノサイズのシートを作製し、フィルタ等に応用する技術が注目されている。そのため、優れた機能を発現することが可能な繊維状の無機ナノ化合物の必要性が高まっている。
【0006】
産業界の中でも、特に自動車業界においては、例えばプラスチック増強材用として繊維状の無機ナノ化合物の重要性が高まっている。また、これに限らず、製紙、ゴム、プラスチック等の各種業界において多種多様の用途として使用される。
【0007】
繊維状の無機ナノ化合物の製造方法としては、高温、アルカリ環境下の水溶液中において、Ti,Zn,Mg,V等の金属酸化物や金属水酸化物からなる繊維状の無機ナノ化合物を合成する技術も挙げられる。
【0008】
より一般的な製造方法としては、有機ポリマの製造方法と同様に、金属アルコキシド等の前駆体をエレクトロスピニング法で紡糸した後、焼成を行う方法も挙げられる。
【0009】
しかしながら、いずれの製造方法も、原料が高価な上、焼成工程等の複雑な処理工程を有することから大量生産が困難であり、高コストとなる。そのため、安価な原料を用いて簡易且つ大量に繊維状の無機ナノ化合物を合成する製造方法が希求されている。
【0010】
カルシウム化合物は、国内で大量に産出されることから、安価であり、大量生産が可能である。さらに、カルシウム化合物の多くは、食品にも含まれることから無害で衛生上においても安全である。そのため、カルシウム化合物は、ゴム工業をはじめ、プラスチック、塗料、印刷インキ、製紙、食品添加物、香粧品等に至るまで、産業界において幅広く用いられている。カルシウム化合物からなるナノ化合物としては、例えば、炭酸カルシウムフィラーが広く使用されている。例えば特許文献1には、水酸化カルシウムと二酸化炭素を接触させることで、長径10〜200μm、短径1〜10μmの針状又は繊維状のカルサイト型炭酸カルシウムを製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−272920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、炭酸カルシウムフィラーの形状は、粒子状であるため、2次元平面上では優れた機能を発現させることができない。そこで、カルシウムを主成分とする繊維状のナノ化合物が要求されているが、現状、カルシウムを主成分とする繊維状のナノ化合物は、未だ開発されていない。
【0013】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、ナノサイズで繊維状のカルシウム化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明のカルシウム化合物は、短径が100nm以下であり、繊維状であることを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決するために、本発明のカルシウム化合物の製造方法は、アルコール、又は、アルコールと水との混合物からなる分散媒中で、粒子状のカルシウム化合物と酸とを反応させ、短径が100nm以下である繊維状のカルシウム化合物を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特殊な製造装置を必要とすることなく、極めて容易に粒子状カルシウム化合物からナノサイズで繊維状のカルシウム化合物を得ることができる。これにより、ナノサイズで繊維状のカルシウム化合物を低コストで大量生産することが可能である。得られたカルシウム化合物は、従来の粒子状のカルシウムフィラーに比べて短径が小さい繊維状のナノ化合物であることから、2次元の平面上において従来の粒子状のカルシウムフィラーでは得ることができない優れた機能を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】静置反応により粒子状炭酸カルシウム(方解石)から繊維状のカルシウムナノファイバが得られる様子を示す電子顕微鏡写真図である。
【図2】粒子状炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真図である。
【図3】実施例1により得られたカルシウムナノファイバの電子顕微鏡写真図である。
【図4】粒子状酸化カルシウムの電子顕微鏡写真図である。
【図5】実施例2により得られたカルシウムナノワイヤの電子顕微鏡写真図である。
【図6】粒子状水酸化カルシウムの電子顕微鏡写真図である。
【図7】実施例3により得られたカルシウムナノロッドの電子顕微鏡写真図である。
【図8】粉末X線回折法により得られたXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら、以下の順序で詳細に説明する。
1 カルシウム化合物
2 カルシウム化合物の製造方法
3 実施例
【0019】
[1 カルシウム化合物]
本実施の形態におけるカルシウム化合物は、短径(繊維径)が100nm以下の繊維状のナノサイズのカルシウム化合物である。ここで、「繊維状」とは、繊維状のカルシウム化合物の長径(長さ)と短径において、アスペクト比(長径/短径)が1よりも大きい長形状を意味し、細長い線状のファイバ状に限定されず、ワイヤ状(短繊維状)、ロッド状(棒状)等の形状も含む。
【0020】
本実施の形態におけるカルシウム化合物としては、カルシウムナノファイバ、カルシウムナノワイヤ、カルシウムナノロッド等を挙げることができる。
【0021】
カルシウムナノファイバは、短径が100nm以下、例えば1nm〜100nmであり、アスペクト比が100よりも大きいカルシウム化合物である。カルシウムナノワイヤは、短径が100nm以下、例えば1nm〜100nmであり、アスペクト比が10よりも大きく100以下のナノワイヤ状のカルシウム化合物である。カルシウムナノロッドは、短径が100nm以下、例えば1nm〜100nmであり、アスペクト比が1よりも大きく10以下のナノロッド状のカルシウム化合物である。
【0022】
このように、本実施の形態におけるカルシウム化合物は、短径が100nm以下であり、繊維状であることから、シート基材等の2次元の平面上において、従来のカルシウムフィラーでは得ることができない優れた機能を発現することができる。これにより、本実施の形態におけるカルシウム化合物は、例えばプラスチック増強剤、耐久性フィルタ、触媒用担体、燃料電池、組織工学における足場素材等、幅広い分野に適用させることができる。
【0023】
本実施の形態におけるカルシウム化合物は、各種のカルシウム化合物を原料として得ることができる。原料となるカルシウム化合物は、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。これらの形状は、何れも粒子状である。原料となる粒子状カルシウム化合物の粒径により、得られる繊維状カルシウム化合物の長径(長さ)を制御することができる。
【0024】
例えば、原料としての炭酸カルシウム(CaCO)は、化学工業、農業、食品等の幅広い分野で利用されるものであり、天然由来であっても、化学反応によって生成されたものであってもよい。炭酸カルシウムは、天然には、方解石(カルサイト)、石灰石、大理石、白亜(チョーク成分)、貝殻、サンゴの骨格、鶏卵の殻等として産出され、これらの産物を粉砕することで得ることができる。
【0025】
炭酸カルシウムは、石灰石由来の場合、重質炭酸カルシウム(重炭)であっても軽質炭酸カルシウム(軽炭)であってもよい。重質炭酸カルシウムは、採掘した石灰石をそのまま粉砕、分級することで得ることができる。軽質炭酸カルシウムは、石灰石を800〜900℃の高温で焼成して生石灰(主成分:酸化カルシウム(CaO))を生成し、これを水と反応させて生成される消石灰(主成分:水酸化カルシウム(CaOH)を二酸化炭素と反応させることで生成することができる。
【0026】
炭酸カルシウムの結晶構造は、特に制限されず、例えばカルサイト、アナゴナイト、バテライト等を挙げることができる。
【0027】
また、原料としての酸化カルシウム(CaO)は、石灰石(炭酸カルシウム)を熱分解することにより、生成することができる。酸化カルシウム(CaO)は、一般には、漆喰、モルタル、セメント等の原料になる他、陶磁器、ガラスの副原料、土壌改良剤等としても使用されている。さらには、酸化カルシウムは、炭化カルシウム(カーバイド)、水酸化カルシウムの生産原料としても使用されている。
【0028】
また、原料としての水酸化カルシウム(Ca(OH))は、カルシウムイオンと水酸化物イオンからなるイオン結晶の固体である。上述したように、水酸化カルシウムは、酸化カルシウムに水を添加することで生成される。
【0029】
なお、繊維状のカルシウム化合物を得るための原料は、このような何れの粒子状カルシウム化合物であってもよく、或いは、粒子状カルシウム化合物が含まれる何れの原料であってもよい。例えば製紙工程で発生する製紙スラッジ、ゴミ焼却灰、溶融スラグ、アコヤ廃貝殻等の廃棄物を原料としてもよく、この場合、廃棄物を有効に活用することができる。
【0030】
以上のように、本実施の形態におけるカルシウム化合物は、短径が100nm以下であり、従来の粒子状カルシウムフィラーに比べて短径が小さいナノサイズの繊維状であることから、2次元の平面上において従来の粒子状カルシウムフィラーでは得ることができない優れた機能を発現することができる。これにより、自動車部材のプラスチック増強剤、耐久性フィルタ、触媒用担体、燃料電池、組織工学の足場等の様々な分野へ応用可能である。
【0031】
[2 カルシウム化合物の製造方法]
本実施の形態におけるカルシウム化合物は、アルコール、又は、アルコールと水との混合物からなる分散媒中で、粒子状のカルシウム化合物と酸とを反応させることで、製造することができる。
【0032】
粒子状のカルシウム化合物と反応させるために用いる酸は、特に限定されず、例えば硫酸、塩酸、酢酸、硝酸、クエン酸等を挙げることができる。何れの酸も酸水溶液として用いることが好ましい。酸の中でも、硫酸は、特に好ましい。すなわち、硫酸水溶液を用いた場合、後述する繊維状のカルシウムの生成メカニズムにおいて、カルシウムイオン(Ca2+)の一部と、硫酸イオン(SO2−)とが反応し、不溶性の硫酸カルシウム(CaSO)が生成する。これにより、カルシウム化合物の表面の一部又は全部は、硫酸カルシウム(CaSO)の薄膜で被覆され、安定性の高い繊維状のカルシウム化合物を得ることができる。
【0033】
酸水溶液の添加量は、特に限定されない。例えば酸水溶液を硫酸水溶液とする場合、硫酸水溶液において、硫酸は何れの濃度で含有されていてもよいが、原料となる粒子状カルシウム化合物におけるCaモル量と硫酸水溶液中のSモル量との比(Ca/Sモル比)において、例えばCa/S=0.5〜5.0となるように、酸水溶液の添加量を調整することができる。
【0034】
この繊維状のカルシウム化合物の生成反応において、温度、圧力、反応時間は、特に規定されない。反応時の環境は、例えば常温(20℃±15℃(5〜35℃)、(JIS Z8703))、常圧(1気圧(1013.25hPa)とすることができる。
【0035】
分散媒に用いるアルコールは、特に制限されず、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エタノールアミン、ジエタノールアミン等を挙げることができ、これらは、単独で用いても、2種以上を混合した混合物として用いてもよい。分散媒に用いるアルコールの種類によって、得られる繊維状のカルシウム化合物の短径を制御することができる。
【0036】
分散媒としてのアルコール、又は、アルコールと水との混合物に、方解石(カルサイト)等の粒子状カルシウム化合物を分散させる。粒子状カルシウム化合物と分散媒とは、十分に撹拌できればよいため、粒子状カルシウム化合物と分散媒との固液比は、特に限定されない。
【0037】
この分散媒に、スターラー等で撹拌しながら、酸水溶液を添加する。酸水溶液の滴下時間は、特に制限されない。反応時の温度は、常温でよいが、加熱してもよい。また、反応時間は、特に制限されず、合成量に応じて適宜調整される。なお、これに代えて、予め分散媒に酸を添加しておくようにしてもよい。これにより、繊維状のカルシウム化合物を大量生産する場合、酸が含まれた分散媒を繰り返し使用することができるため、更なるコストダウンが可能となる。
【0038】
反応後、ろ過や遠心分離等で固液分離し、分散媒として用いたアルコールで、得られた繊維状のナノ化合物を十分に洗浄する。
【0039】
ここで、繊維状のカルシウム化合物の生成メカニズムについて説明する。すなわち、アルコール、又は、アルコールと水の混合物からなる分散媒中で、粒子状炭酸カルシウム、粒子状酸化カルシウム、粒子状水酸化カルシウム等の粒子状カルシウム化合物と酸とが反応すると、酸における水素イオン(H)が粒子状カルシウム化合物中の一部の陰イオン(CO、O2−、OH等)に作用する。これにより、炭酸カルシウムにおいて、カルシウムイオン(Ca2+)と陰イオンとの結合が切れ、カルシウムイオンがアルコールと結合する。このようにして、粒子状カルシウム化合物において、カルシウムイオンと陰イオンとの結合が特定の部位で切断される。その結果、粒子状カルシウム化合物は、特定の位置間隔において切断されることで解れ、多数の繊維状カルシウム化合物となると考えられる。
【0040】
図1は、常温、常圧下の静置反応により粒子状炭酸カルシウム(方解石)から繊維状のカルシウムナノファイバが得られる様子を示す電子顕微鏡写真図である。図1からわかるように、粒子状カルシウム化合物が、時間経過とともに徐々に規則的な間隔で切断され、多数の繊維形状となることが観測される。
【0041】
従来より知られているように、水を分散媒とし、この水中で粒子状カルシウム化合物と酸とが反応すると、溶性又は不溶性のカルシウム塩が得られる。例えば炭酸カルシウムと硫酸とを反応させると、CaCO+HSO→CaSO+CO+HOの反応によって不溶性の硫酸カルシウム(石膏)が沈殿生成される。
【0042】
これに対し、本実施の形態では、分散媒としてアルコールを用いる。粒子状カルシウム化合物と酸との反応において、粒子状カルシウム化合物の分散媒としてアルコールを用いることで、また、添加する酸を水溶液の状態で用いることで、水の存在下で、アルコールにより、上述のようなカルシウム化合物の特定の部位での選択的な切断が制御される。また、アルコールによって、カルシウム化合物の切断表面におけるカルシウムイオンが水によって溶解されることが抑制される。これにより、分散媒を水のみとした場合では不可能であった繊維状のカルシウム化合物を得ることができる。
【0043】
ここで、酸におけるHにより、カルシウム化合物からCO2−、O2−、OH等の陰イオンが選択的に切り離された後、カルシウム化合物の表面に露出されたカルシウムイオンを安定的に保つことが好ましい。そこで、水の存在下(分散媒中の水、酸水溶液の水)で、酸として硫酸を用いることにより、カルシウムイオンの一部が硫酸イオンと結合して不溶性の硫酸カルシウムを生成させる。その結果、繊維状のカルシウム化合物の表面の一部又は全部は、不溶性の硫酸カルシウムの薄膜で覆われるため、水へ溶解することが防止され、安定性の高い繊維形状を維持することができる。
【0044】
このように、本実施の形態におけるカルシウム化合物の製造方法によれば、常温、常圧下において短時間に繊維状カルシウム化合物を製造することができる。そして、溶液系の簡易な反応であることから、大量生産が可能であり、実用性が極めて高い。
【実施例】
【0045】
[3 実施例]
以下、本発明の具体的な実施例について実験結果を基に説明する。
【0046】
<実施例1>
実施例1では、原料の炭酸カルシウムとして、方解石由来の図2の電子顕微鏡写真図に示す粒径が3μm程度の粒子状炭酸カルシウム(商品名:炭酸カルシウム、和光純薬工業株式会社製)を用意した。この粒子状炭酸カルシウム2.0gを300mlガラス製三角フラスコに添加し、分散媒としてのイソプロピルアルコール(商品名:2−プロパノール、和光純薬工業株式会社製)50mlを添加した。常温、常圧下で撹拌子を回転させながら、1M硫酸水溶液(商品名:1M 硫酸水溶液、和光純薬工業株式会社製)20mlを添加し、5分間撹拌した。その後、ろ過、続けてメタノール洗浄を行い、風乾した。これにより、白色粉末を得た。
【0047】
図3は、実施例1で得られた白色粉末の電子顕微鏡写真図である。図3に示すように、実施例1では、短径(繊維径)が最小で10nm、最大で50nm、長径(長さ)が最小で3μm、最大で10μmのナノファイバが得られた。その中の1つは、短径10nm、長径2μmであった。そして、図3に示すように、多数のナノファイバによって2次元のシート形状を形成できることがわかる。
【0048】
<実施例2>
実施例2では、原料の酸化カルシウムとして、図4の電子顕微鏡写真図に示す粒径が3μm程度の粒子状酸化カルシウム(商品名:酸化カルシウム、片山化学株式会社製)を用いた。この粒子状酸化カルシウム2.0gを300mlガラス製三角フラスコに添加し、分散媒としてのメタノール50mlを添加した。常温で、撹拌子を回転させながら、1M硫酸水溶液20mlを添加し、5分間撹拌した。その後、ろ過、続けてメタノール洗浄を行い、風乾した。これにより、白色粉末を得た。
【0049】
図5は、実施例2で得られた白色粉末の電子顕微鏡写真図である。図5に示すように、実施例2では、短径(繊維径)が最小で10nm、最大で100nm、長径(長さ)が最小で100nm、最大で1μmのナノワイヤが得られた。その中の1つは、短径30nm、長径500nmであった。そして、図5に示すように、多数のナノワイヤによって2次元のシート形状を形成できることがわかる。
【0050】
<実施例3>
実施例3では、原料の水酸化カルシウムとして、図6の電子顕微鏡写真図に示す粒径が5μm程度の粒子状水酸化カルシウム(商品名:水酸化カルシウム、和光純薬工業株式会社製)を用いた。この粒子状水酸化カルシウム2.0gを300mlガラス製三角フラスコに添加し、分散媒としてのメタノール50mlを添加した。常温で、撹拌子を回転させながら、1M硫酸水溶液20mlを添加し、5分間撹拌した。その後、ろ過、続けてメタノール洗浄を行い、風乾した。これにより、白色粉末を得た。
【0051】
図7は、実施例3で得られた白色粉末の電子顕微鏡写真図である。図7に示すように、実施例3では、短径(繊維径)が最小で10nm、最大で50nm、長径(長さ)が最小で10nm、最大で100nmのナノロッドが得られた。その中の1つは、短径50nm、長径100nmであった。そして、図7に示すように、多数のナノロッドによって2次元のシート形状を形成できることがわかる。
【0052】
[粉末X線回折法による結晶構造解析結果]
実施例1〜3で得られた白色粉末について、粉末X線回折法により、結晶構造解析を行った。この回折法で得られたXRDパターンを図8に示す。なお、図8においては、比較のために、原料のCaCO、CaO、Ca(OH)のXRDパターンも併せて載せた。
【0053】
図8からわかるように、実施例1では、僅かに硫酸カルシウムの回折ピークが観測されたが、炭酸カルシウムの大きな回折ピークが観測された。このことから、得られたナノファイバが炭酸カルシウムからなるカルシウムナノファイバであることがわかった。なお、このカルシウムナノファイバの表面の一部に、硫酸カルシウムの薄膜が形成されていると考えられる。
【0054】
また、実施例2、3は、実施例1のXRDパターンと比較してもわかるように、実施例1よりも大きい硫酸カルシウムの回折ピークが観測されたが、それぞれ酸化カルシウム、水酸化カルシウムの回折ピークも十分な大きさで観測された。このことから、実施例2では得られたナノワイヤが酸化カルシウムからなるカルシウムナノワイヤであることがわかった。また、実施例3では得られたナノロッドが水酸化カルシウムからなるカルシウムナノロッドであることがわかった。なお、カルシウムナノワイヤ、カルシウムナノロッドについても、表面の一部に、それぞれ硫酸カルシウムの薄膜が形成されていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短径が100nm以下であり、繊維状であることを特徴とするカルシウム化合物。
【請求項2】
アスペクト比が100よりも大きいナノファイバであることを特徴とする請求項1記載のカルシウム化合物。
【請求項3】
アスペクト比が10よりも大きく100以下のナノワイヤであることを特徴とする請求項1記載のカルシウム化合物。
【請求項4】
アスペクト比が1よりも大きく10以下のナノロッドであることを特徴とする請求項1記載のカルシウム化合物。
【請求項5】
炭酸カルシウム、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムのうちの何れか1つからなることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載のカルシウム化合物。
【請求項6】
当該カルシウム化合物の表面の一部又は全部に、硫酸カルシウムの薄膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載のカルシウム化合物。
【請求項7】
アルコール、又は、アルコールと水との混合物からなる分散媒中で、粒子状のカルシウム化合物と酸とを反応させ、短径が100nm以下である繊維状のカルシウム化合物を製造することを特徴とするカルシウム化合物の製造方法。
【請求項8】
前記酸は、硫酸であることを特徴とする請求項7記載のカルシウム化合物の製造方法。
【請求項9】
前記カルシウム化合物は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムのうちの何れか1つであることを特徴とする請求項7又は請求項8記載のカルシウム化合物の製造方法。
【請求項10】
前記アルコールは、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールの内の何れか1つ又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項記載のカルシウム化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91576(P2013−91576A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232850(P2011−232850)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【Fターム(参考)】