説明

カルシウム測定方法

【課題】各細胞から各発光色の正確な定量的結果を得ることができ、その結果、同一の細胞についてカルシウムイオン濃度の変化を経時的に観察した後に、カルシウムによって誘導される遺伝子の発現過程およびその後の細胞分化の様子を観察することができるカルシウム測定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、カルシウムイオン濃度に依存して発光するよう発光標識された細胞を作製し、作製した細胞の発光画像を、当該細胞に当該細胞外から所定の刺激を所定のタイミングで与えつつ繰り返し撮像し、撮像した複数の発光画像に基づいて、細胞から発せられる発光の発光強度を経時的に測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を測定するカルシウム測定方法に関するものであって、さらにはカルシウムによって誘導される遺伝子発現を1細胞ごと測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光を用いた細胞内カルシウムイオン濃度の測定には、これまでエクオリンという発光タンパク質が用いられてきた。エクオリンはアポエクオリンというカルシウム結合タンパク質とセレンテラジンという発光基質から出来ており、これにカルシウムが結合すると極大波長460nmの光を発する。これまでエクオリンは、マイクロインジェクション法などにより卵などの細胞に導入され、刺激による細胞内のカルシウムイオン濃度の変化が計測されていた。
【0003】
細胞内でのカルシウムの伝達に引き続き、核内の遺伝子の発現がどのように調節されていくのかを測定するには、発光酵素であるホタルのルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイ(プロモーターアッセイ)という、カルシウム測定とは全く別の手法を用いなければならない。この測定では、ルミノメーターを用いて細胞全体からの発光シグナルを測定するため、細胞群全体の平均測定であり、個々の細胞についての解析はできない。また、ルシフェラーゼには、その種類に応じて多様な発光色を持つことが知られている。そして、現状では、すり潰された大量の細胞から、異なる各発光色のシグナルをルミノメーターを用いて同一の測定時間で検出している。しかし、各発光色の正確な定量的結果を得ることが難しい。そこで、大量の細胞を1つの溶解溶液にまとめ、複数色の発光酵素を含む細胞中の各発光酵素による相対光量を同時に測定する特許文献1を用いれば、各発光色の正確な定量的結果を得ることが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−218774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、大量の細胞を1つの溶解溶液にまとめるので、各細胞から各発光色の正確な定量的結果を得ることができず、ゆえに、同一の細胞についての遺伝子の調節発現を画像として観察することができないという問題点があった。すなわち、外界からの刺激を受けた細胞がカルシウムのシグナルとして細胞内に伝え、それを受けてどのような遺伝子の発現が調節されて、いろいろな細胞に分化していくのかという過程を1細胞づつ画像として捉えることは出来なかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、各細胞から各発光色の正確な定量的結果を得ることができ、その結果、同一の細胞についてカルシウムイオン濃度の変化を経時的に観察した後に、カルシウムによって誘導される遺伝子の発現過程およびその後の細胞分化の様子を観察することができるカルシウム測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題に対し、本発明者らは、生物発光による観察が可能な撮像を行うことにより、エクオリンを用いた細胞内カルシウムイオン濃度の変化と、その後の特定遺伝子に関する発現過程とのそれぞれを、細胞ごとに画像として解析することによって、課題を解決できた。従って、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるカルシウム測定方法は、細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を測定するカルシウム測定方法であって、前記カルシウムイオン濃度に依存して発光するよう発光標識された前記細胞を作製する作製工程と、前記作製工程で作製した前記細胞の発光画像を、当該細胞に当該細胞外から所定の刺激を所定のタイミングで与えつつ繰り返し撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した複数の前記発光画像に基づいて、前記細胞から発せられる発光の発光強度を経時的に測定する測定工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明にかかるカルシウム測定方法は、同一細胞に、カルシウムによって発現が調節される遺伝子群をモニターできるようにする細胞を作製する作製工程と、前記作製工程で作製した前記細胞の発光画像を、当該細胞に当該細胞外から所定の刺激を所定のタイミングで与えつつ繰り返し撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した複数の前記発光画像に基づいて、前記細胞から発せられる発光の発光強度を経時的に測定する測定工程と、を含むことを特徴とする。さらに、本発明にかかるカルシウム測定方法は、カルシウム測定に起因する発光シグナルと遺伝子発現の測定に起因する発光シグナルとを分離し、同時に測定できる測定工程を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるカルシウム測定方法は、前記作製工程が、特定の遺伝子の発現量に依存して発光するよう発光標識された前記細胞を作成する工程を含み、且つ前記撮像工程が、カルシウムイオンに対し標識された細胞と同一の細胞を含む撮像視野において継続的な撮像を行う工程を含むことを特徴とする。また、本発明にかかるカルシウム測定方法は、前記特定の遺伝子が、カルシウムによって発現が調節される遺伝子群から選ばれることを特徴とする。また、本発明にかかるカルシウム測定方法は、前記特定の遺伝子がc−fos遺伝子であることを特徴とする。また、本発明にかかるカルシウム測定方法は、前記作製工程に用いる前記特定の遺伝子に対応する発光標識が、カルシウムイオンに対する発光標識とは異なる発光波長を有することを特徴とする。また、本発明にかかるカルシウム測定方法は、前記撮像工程が、前記カルシウム依存性の発光標識を選択的に繰り返し撮像する工程を含んでいることを特徴とする。また、本発明にかかるカルシウム測定方法は、前記撮像工程が複数の異なる細胞について同時に実行され、前記測定工程が複数の発光画像を細胞ごとに照合する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カルシウムイオン濃度に依存して発光するシステムと、遺伝子の発現量に依存して発光するシステムを併せ持つよう発光標識された細胞を作製し、作製した細胞の発光画像を、当該細胞に当該細胞外から所定の刺激を所定のタイミングで与えつつ繰り返し撮像し、撮像した複数の発光画像に基づいて、細胞から発せられるそれぞれの発光の発光強度を分離して、経時的に測定する。これにより、各細胞から各発光色の正確な定量的結果を得ることができ、その結果、同一の細胞についてカルシウムイオン濃度の変化と、それに引き続く遺伝子の発現の調節および細胞の分化過程を経時的に観察することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかるカルシウム測定方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
まず、本発明にかかるカルシウム測定方法で用いる発光観察システム100の構成について、図1、図2および図3を参照して説明する。図1は、発光観察システム100の全体構成の一例を示す図である。
【0013】
図1に示すように、発光観察システム100は、細胞102を収納した容器103(具体的にはシャーレ、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体など)と、容器103を配置するステージ104と、発光画像撮像ユニット106と、画像解析装置110と、で構成されている。微弱な発光を測定するための発光画像撮像ユニット106をステージ104の下側に配置してもよい。これにより、カバー開閉によるサンプル上方からの外乱光を完全に遮断できて発光画像のS/N比を増すことができる。発光画像撮像ユニット106は、レーザー走査式の光学系であってもよい。
【0014】
細胞102は、例えば、カルシウムイオン濃度に依存して発光するよう発光標識された生きた細胞である。細胞102には、当該細胞外から所定の刺激(例えば薬物刺激など)が与えられる。
【0015】
発光画像撮像ユニット106は、具体的には正立型の発光顕微鏡であり、細胞102の発光画像を撮像する。発光画像撮像ユニット106は、図示の如く、対物レンズ106aと、ダイクロイックミラー106bと、CCDカメラ106cと、結像レンズ106fと、で構成されている。対物レンズ106aは、具体的には、(開口数/倍率)の値が0.01以上のものである。ダイクロイックミラー106bは、細胞102から発せられた発光を色別に分離し、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。CCDカメラ106cは、対物レンズ106a、ダイクロイックミラー106bおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像および明視野画像を撮る。また、CCDカメラ106cは、画像解析装置110と有線または無線で通信可能に接続される。ここで、細胞102が撮像範囲中に複数存在する場合、CCDカメラ106cは、当該撮像範囲中に含まれる複数の細胞102の発光画像および明視野画像を撮像してもよい。結像レンズ106fは、対物レンズ106aおよびダイクロイックミラー106bを介して当該結像レンズ106fに入射した像(具体的には細胞102を含む像)を結像する。なお、図1では、ダイクロイックミラー106bで分離した2つの発光に対応する発光画像を2台のCCDカメラ106cで別々に撮像する場合の一例を示しており、1つの発光を用いる場合には、発光画像撮像ユニット106は、対物レンズ106a、1台のCCDカメラ106cおよび結像レンズ106fで構成されてもよい。
【0016】
ここで、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合、発光画像撮像ユニット106は、図2に示すように、対物レンズ106aと、CCDカメラ106cと、スプリットイメージユニット106dと、結像レンズ106fと、で構成されてもよい。そして、CCDカメラ106cは、スプリットイメージユニット106dおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像(スプリットイメージ)および明視野像を撮像してもよい。スプリットイメージユニット106dは、細胞102から発せられた発光を色別に分離し、ダイクロイックミラー106bと同様、2色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。
【0017】
また、複数色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合(つまり、多色の発光を用いる場合)、発光画像撮像ユニット106は、図3に示すように、対物レンズ106aと、CCDカメラ106cと、フィルターホイール106eと、結像レンズ106fと、で構成されてもよい。そして、CCDカメラ106cは、フィルターホイール106eおよび結像レンズ106fを介して当該CCDカメラ106cのチップ面に投影された細胞102の発光画像および明視野画像を撮像してもよい。フィルターホイール106eは、細胞102から発せられた発光をフィルタ交換によって色別に分離し、複数色の発光を用いて発光量や発光強度を色別に測定する場合に用いる。
【0018】
図1に戻り、画像解析装置110は、具体的にはパーソナルコンピュータである。そして、画像解析装置110は、図4に示すように、大別して、制御部112と、システムの時刻を計時するクロック発生部114と、記憶部116と、通信インターフェース部118と、入出力インターフェース部120と、入力装置122と、出力装置124と、で構成されており、これら各部はバスを介して接続されている。
【0019】
記憶部116は、ストレージ手段であり、具体的には、RAMやROM等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。そして、記憶部116は制御部112の各部の処理により得られたデータなどを記憶する。通信インターフェース部118は、画像解析装置110と、CCDカメラ106cと、の間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部118は他の端末と有線または無線の通信回線を介してデータを通信する機能を有する。入出力インターフェース部120は、入力装置122や出力装置124に接続する。ここで、出力装置124には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下で、出力装置124をモニターとして記載する場合がある。)。また、入力装置122には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニターを用いることができる。
【0020】
制御部112は、OS(Operating System)等の制御プログラムや各種の処理手順等を規定したプログラムや所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部112は、大別して、発光画像撮像指示部112aと、発光画像取得部112bと、画像解析部112cと、解析結果出力部112dと、で構成されている。
【0021】
発光画像撮像指示部112aは、通信インターフェース部118を介して、CCDカメラ106cへ発光画像および明視野画像の撮像を指示する。発光画像取得部112bは、CCDカメラ106cで撮像した発光画像および明視野画像を、通信インターフェース部118を介して取得する。制御部112は、発光画像撮像指示部112aを制御して、細胞102の発光画像および明視野画像を繰り返し撮像する。
【0022】
画像解析部112cは、発光画像取得部112bで取得した複数の発光画像に基づいて、細胞102から発せられる発光の発光強度を経時的に測定する。解析結果出力部112dは、画像解析部112cでの解析結果を出力装置124に出力する。具体的には、解析結果出力部112dは、画像解析部112cで得られた、細胞102から発せられる発光の発光強度に関する時系列データを、グラフ化して出力装置124に表示する。
【実施例1】
【0023】
細胞機能の動態を考える際に、細胞内のイオン濃度の変化、とりわけ、細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)の変動は重要なファクターである。外界から刺激を受けると、細胞内Ca2+濃度が上昇し、細胞内へ様々な情報を伝達する。Ca2+の細胞質伝達経路は主に二つ存在し、一つは細胞膜上のCa2+チャネルを介した細胞外からの流入経路であり、もう一つは細胞内の小器官から細胞質へと遊離する経路である。
【0024】
本実施例1では、培養細胞に外部刺激を加えて、細胞質へのCa2+の誘導を行った。さらに、細胞質Ca2+濃度の上昇を発光として検出するために、Ca2+と結合すると発光する性質を持つエクオリン類似発光タンパク質“オベリン”を用いて、発光イメージングシステム“LUMINOVIEW”(オリンパス(株)製)によるカルシウムイメージングを行った。つまり、細胞内にオベリンタンパク質を発現させて発光イメージングを行うことで、細胞内カルシウムイオンの変動を観察した。
【0025】
本実施例1における実験の流れ(手順)について、以下に説明する。
[手順1]HeLa細胞にpcDNA3.1/オベリン発現ベクターを遺伝子導入し、一晩培養する。
[手順2]一晩培養したHeLa細胞の発光観察を行う。
[手順3]HeLa細胞にセレンテラジン(最終濃度60μM)を加えて、4時間静置する。
[手順4]HeLa細胞をATP(最終濃度500μM)で刺激する。
[手順5]手順4の直後、HeLa細胞をLUMINOVIEWにセットし、30秒間隔で発光画像および明視野画像のタイムラプス撮影を行う。発光観察条件として、対物レンズの倍率は20倍、露出時間は25秒、binningは2×2、CCDカメラはiXon(ANDOR社製)、である。
[手順6]タイムラプス撮像開始から20分後、Ionomysin(最終濃度1μM)で再刺激を行う。
[手順7]引き続き、HeLa細胞の発光画像および明視野画像のタイムラプス撮像を行う。
[手順8]手順5で撮影した各々の発光画像とそれに対応する明視野画像とを重ね合わせ、その重ね合わせた画像に対して複数のROI(Region of Interest:関心領域)を指定する(図5参照)。また、手順7で撮影した各々の発光画像とそれに対応する明視野画像とを重ね合わせ、その重ね合わせた画像に対して複数のROIを指定する(図6参照)。そして、指定した各ROIの発光強度を各々の発光画像に基づいて測定し、その発光強度の経時変化をグラフで表示する(図7参照)。
【0026】
以上の実験の結果、各刺激に対する応答の変化をシングルセルレベルで検出することができた(図5および図6参照)。また、個々の細胞における発光強度の変化を見ると、ATP刺激では刺激後20分の間、細胞間の応答に大きなばらつきがあるのに対し、Ionomysin刺激ではばらつきが少ないことが分かった(図7参照)。これまでのカルシウムイメージング法を用いた研究から、Ca2+濃度変化の細胞内分布あるいは時間経過が異なると、シグナルの意味が異なることが明らかにされている。しかし、従来のルミノメーターを用いた解析では、細胞集団全体の観測に留まり、個々の細胞の応答までは解析できなかった。ところが、LUMINOVIEWでは、生体内の変化を1細胞毎にリアルタイムに観察することができ、細胞内シグナルの働きを詳細に研究することができた。
【実施例2】
【0027】
カルシウムは、細胞内のシグナル伝達の1つの手段になっている。オベリンを用いたカルシウムのイメージングを行うことによって、どの細胞が外界からの刺激を受けて細胞内にシグナルを伝達したのかが分かる。そのシグナルは核に届き、ある遺伝子の発現が調節される。
【0028】
本実施例2では、カルシウム応答があった特定の一細胞を、c−fosの遺伝子発現まで継続的に発光イメージで観察する。カルシウム測定によりカルシウムが充分量産出されている細胞を特定して、その後、所望の遺伝子(例えばc−fos)発現を発光イメージングで観察することにより、同一細胞の発現量の変化を追跡する。この観察系によって、細胞の刺激の受容から細胞内シグナル伝達、遺伝子の発現調節、その後の細胞の振る舞いを調べることができる。
【0029】
本実施例2における実験の流れ(手順)について、以下に説明する。
[手順1]HeLa細胞をf35‐mmガラスボトムディッシュ(1×10cells/dish)にまいて、10%の牛胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、COインキュベーター内で一晩培養する。
[手順2]HeLa細胞がガラスボトムディッシュの底に張り付いたのを確認した後、サイトメガロウィルス(CMV)のプロモーターで発現が誘導されるオベリン遺伝子の発現ベクターおよびヒトのc−fosプロモーターで発現が誘導されるホタルルシフェラーゼ遺伝子の発現ベクターを、FuGENE HD(ロシュ社製)を用いて添付のマニュアル通りにHeLa細胞に遺伝子導入する。
[手順3]遺伝子導入を行ったHeLa細胞をCOインキュベーター内で一晩培養する。
[手順4]培養液を、1mMのルシフェリン(プロメガ社製)および1/100容量のRenilla Luciferase Substrate(プロメガ社製)を含む無血清培地(DMEM)に交換して、引き続きCOインキュベーター内で4時間静置する。
[手順5]遺伝子導入したHeLa細胞を培養したディッシュを、発光イメージングシステム“LV−200”(オリンパス社製)のステージに設置し、20倍の対物レンズを用いてその細胞を観察する。手順6に示す刺激を行う前の1分間のオベリン遺伝子の発光を30秒おきに発光画像として取得する。発光画像および明視野画像は、EM−CCDカメラ(IXON、Andor社製)を用いて撮像した後、それら画像をパーソナルコンピュータに取り込んだ。各画像の解析および保存は、Metamorphソフトウェア(ユニバーサルイメージング社製)を用いて行った。
[手順6]ATP(和光純薬社製)を終濃度500mMとなるように培地へ加えることでHeLa細胞への刺激を行う。
[手順7]刺激を行った直後から19分間、オベリン遺伝子の発光を30秒おきに発光画像として取得する。なお、発光した細胞をオベリン遺伝子発現細胞として同定した。さらに、刺激を行った20分後から12時間後まで、ルシフェラーゼ遺伝子の発光を12分おきに発光画像として取得する。なお、発光した細胞をルシフェラーゼ遺伝子発現細胞として同定した。なお、ルシフェラーゼ遺伝子の発光画像を取得する際には、オベリン遺伝子の発光を遮断するために610ALPフィルター(オメガ社製)を用いた。
[手順8]手順5および手順7で取得した画像を市販の画像処理用ソフトウェアであるMetamorphを用いて解析を行い、画像の輝度値を発光強度と見做してグラフを作成する。オベリン遺伝子の発光画像とルシフェラーゼ遺伝子の発光画像を重ね合わせて、両方の発光が得られた細胞を、オベリン遺伝子およびルシフェラーゼ遺伝子を共発現する細胞として同定し発光強度変化の解析を行う。オベリン遺伝子およびルシフェラーゼ遺伝子の両方の発光が得られた3個の細胞(Cell1,2,3と命名)を選択し、それぞれの発光画像を図8、図9および図10に示した。また、選択した各細胞においてATPによる刺激前後のオベリン遺伝子の発光強度を経時的にプロットし、グラフを作成した(図11、図12および図13参照)。さらに、選択した各細胞においてATPによる刺激後のルシフェラーゼ遺伝子の発光強度を経時的にプロットし、グラフを作成した(図14、図15および図16参照)。
【0030】
「オベリン遺伝子はカルシウムイオン濃度依存的に発光する」ことから、オベリン遺伝子の発光強度が強くなったときに細胞内のカルシウムイオン濃度が上がったと想定することが出来る。上記の実験結果より、細胞によってATP投与からカルシウムイオン濃度の上昇までの時間が異なっていることがわかった。一方、ルシフェラーゼ遺伝子はc−fosプロモーターで発現が誘導されるので、ルシフェラーゼ遺伝子の発光強度が強くなったときにc−fosプロモーターの活性があがったと想定することが出来る。実験結果より、細胞によってATP投与からc−fosプロモーター活性上昇までの時間が異なっていることがわかった。また、ATPの刺激によりカルシウムイオン濃度が上昇してからc−fosプロモーター活性上昇までの時間は細胞によりまちまちであり、時間的な相関関係は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明にかかるカルシウム測定方法は、バイオ、製薬、医療など様々な分野で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】発光観察システム100の全体構成の一例を示す図である。
【図2】発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示す図である。
【図3】発光観察システム100の発光画像撮像ユニット106の構成の一例を示す図である。
【図4】発光観察システム100の画像解析装置110の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】ATP刺激16分後の発光画像と明視野画像との重ね合わせ画像を示す図である。
【図6】Ionomysin刺激5分後の発光画像と明視野画像との重ね合わせ画像を示す図である。
【図7】外部刺激によるオベリンタンパク質の発光強度の変化を示す図である。
【図8】オベリン遺伝子とルシフェラーゼ遺伝子の発光が見られた細胞の発光画像を示す図である。
【図9】オベリン遺伝子とルシフェラーゼ遺伝子の発光が見られた細胞の発光画像を示す図である。
【図10】オベリン遺伝子とルシフェラーゼ遺伝子の発光が見られた細胞の発光画像を示す図である。
【図11】選択した細胞でのATP刺激によるオベリン遺伝子の発光強度の経時変化を示した図である。
【図12】選択した細胞でのATP刺激によるオベリン遺伝子の発光強度の経時変化を示した図である。
【図13】選択した細胞でのATP刺激によるオベリン遺伝子の発光強度の経時変化を示した図である。
【図14】選択した細胞でのルシフェラーゼ遺伝子の発光強度の経時変化を示した図である。
【図15】選択した細胞でのルシフェラーゼ遺伝子の発光強度の経時変化を示した図である。
【図16】選択した細胞でのルシフェラーゼ遺伝子の発光強度の経時変化を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
100 発光観察システム
103 容器(シャーレ)
104 ステージ
106 発光画像撮像ユニット
106a 対物レンズ(発光観察用)
106b ダイクロイックミラー
106c CCDカメラ
106d スプリットイメージユニット
106e フィルターホイール
106f 結像レンズ
110 画像解析装置
112 制御部
112a 発光画像撮像指示部
112b 発光画像取得部
112c 画像解析部
112d 解析結果出力部
114 クロック発生部
116 記憶部
118 通信インターフェース部
120 入出力インターフェース部
122 入力装置
124 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を測定するカルシウム測定方法であって、
前記カルシウムイオン濃度に依存して発光するよう発光標識された前記細胞を作製する作製工程と、
前記作製工程で作製した前記細胞の発光画像を、当該細胞に当該細胞外から所定の刺激を所定のタイミングで与えつつ繰り返し撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像した複数の前記発光画像に基づいて、前記細胞から発せられる発光の発光強度を経時的に測定する測定工程と、
を含むことを特徴とするカルシウム測定方法。
【請求項2】
前記作製工程が、特定の遺伝子の発現量に依存して発光するよう発光標識された前記細胞を作成する工程を含み、且つ前記撮像工程が、カルシウムイオンに対し標識された細胞と同一の細胞を含む撮像視野において継続的な撮像を行う工程を含むこと
を特徴とする請求項1に記載のカルシウム測定方法。
【請求項3】
前記特定の遺伝子が、カルシウムによって発現が調節される遺伝子群から選ばれること
を特徴とする請求項2に記載のカルシウム測定方法。
【請求項4】
前記特定の遺伝子がc−fos遺伝子であること
を特徴とする請求項3に記載のカルシウム測定方法。
【請求項5】
前記作製工程に用いる前記特定の遺伝子に対応する発光標識が、カルシウムイオンに対する発光標識とは異なる発光波長を有すること
を特徴とする請求項2または3に記載のカルシウム測定方法。
【請求項6】
前記撮像工程が、前記カルシウム依存性の発光標識を選択的に繰り返し撮像する工程を含んでいること
を特徴とする請求項2から5のいずれか1つに記載のカルシウム測定方法。
【請求項7】
前記撮像工程が複数の異なる細胞について同時に実行され、前記測定工程が複数の発光画像を細胞ごとに照合する工程を含むこと
を特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のカルシウム測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−139336(P2009−139336A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318834(P2007−318834)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】