カルシウム系化合物、カルシウム系化合物の製造方法及び塗工紙
【課題】 インクの発色性が良好なカルシウム系化合物を提供する。
【解決手段】 分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させ、炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集める。得られたカルシウム系化合物において、薄片粒子間には、内部まで貫通していない空隙が形成されている。
【解決手段】 分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させ、炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集める。得られたカルシウム系化合物において、薄片粒子間には、内部まで貫通していない空隙が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花びら状を形成してなるカルシウム系化合物、カルシウム系化合物の製造方法及び塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の印刷技術の向上から、一般家庭においても、インクジェットプリンターで写真などの印刷が容易に行えるようになり、安価で高機能なインクジェット用紙のニーズが高まっている。
【0003】
インクジェット用紙の顔料には、その比表面積の大きさから、非晶質のシリカが多用されている。しかし、高比表面積シリカは、コストが高く(約2000円/kg)、国内で大量に産出する安価なカルシウム系化合物による代替品の開発が急務となっている。
【0004】
特許文献1には、炭酸カルシウムをリン酸処理することにより、表面に空孔を多数形成させた炭酸カルシウム化合物を製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3634404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、表面が多孔質である物質をインクジェット用の顔料に用いた場合には、インクの全てが孔に吸収されてしまうので、インク発色に問題があった。すなわち、特許文献1に記載の技術で得られる炭酸カルシウム化合物では、表面が多孔質であり孔が内部まで貫通しているため、インクが孔に吸収されてしまい、発色が良好ではなかった。インクジェットプリンターなどに用いられる水溶性インクの発色を高めるためには、インクを空隙で吸収しつつ、顔料(カルシウム系化合物)表面にも留めるようなものが求められる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、インクを表面に留めておくことができるカルシウム系化合物、カルシウム系化合物の製造方法及び塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成してなり、薄片粒子間には、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るカルシウム系化合物の製造方法は、分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させ、炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集めることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る塗工紙は、上記カルシウム系化合物を含有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成することにより、薄片粒子間にカルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成され、インクを空隙で吸収しつつ、カルシウム系化合物の表面にインクを留めておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層の電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図2】実施例1で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図3】実施例2で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(20000倍)である。
【図4】実施例4で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図5】実施例5で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図6】実施例6で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図7】実施例7で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図8】(A)は、粉砕したホタテ貝殻の電子顕微鏡写真(6000倍)であり、(B)は、実施例15で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図9】実施例16で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(20000倍)である。
【図10】(A)は、リン酸処理前の軽質炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(50000倍)であり、(B)は、比較例1で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【図11】比較例2で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図12】比較例3で得られた薄片粒子の電子顕微鏡写真(15000倍)である。
【図13】リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層の粉末XRDパターンを示す図である。
【図14】実施例1で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図15】実施例2で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図16】実施例3で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図17】実施例4で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図18】実施例5で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図19】実施例6で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図20】実施例7で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図21】実施例8で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図22】実施例9で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図23】実施例10で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図24】実施例11で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図25】実施例12で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図26】実施例13で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図27】実施例14で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図28】粉砕したカキの貝殻の粉末XRDパターンを示す図である。
【図29】実施例16で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図30】リン酸処理前の軽質炭酸カルシウムの粉末XRDパターンを示す図である。
【図31】比較例1で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図32】比較例3で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図33】DCP(リン酸水素カルシウム)の粉末XRDパターンを示す図である。
【図34】DCPD(リン酸水素カルシウム二水和物)の粉末XRDパターンを示す図である。
【図35】TCP(リン酸三カルシウム)の粉末XRDパターンを示す図である。
【図36】(A)は、実施例1で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、(B)は、実施例1で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図37】(A)は、実施例2で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、(B)は、実施例2で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図38】(A)は、リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、(B)は、リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図39】Ca/Pモル比とトルエンガス吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」と称する。)について、下記順序にて詳細に説明する。
1.カルシウム系化合物
2.カルシウム系化合物の製造方法
3.適用例
4.実施例
【0014】
<1.カルシウム系化合物>
本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成している。また、このように、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成していることにより、薄片粒子間に複数の空隙(隙間)が形成されている。薄片粒子間に形成された複数の空隙は、表面が多孔質である従来の炭酸カルシウム化合物における孔のように、内部まで貫通していない。
【0015】
このようなカルシウム系化合物では、例えば、インク(インクドット)が、薄片粒子間に形成された複数の空隙の厚み方向(空隙の深さ方向)に速やかに吸収されるので、インク吸収性を良好にすることができ、にじみを低減させることができる。
【0016】
また、インクを薄片粒子間に形成された複数の空隙に留めることができるので、インクが薄片粒子間の深い部分まで沈み込んでしまうことを防止することができる。すなわち、インクがカルシウム化合物の内部まで浸透しないようにすることができる。このように、インクがカルシウム化合物の内部まで浸透してしまうのを防止することにより、薄片粒子間に形成された空隙にインクを留めることができるので、インクを表面に留めておくことができる。したがって、本実施の形態に係るカルシウム系化合物では、インクを空隙で吸収しつつ、顔料(カルシウム化合物)表面にも留めることができるので、インクの発色性を良好にすることができる。
【0017】
カルシウム系化合物の平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。カルシウム系化合物の平均粒径を20μm以下とすることにより、例えば、カルシウム系化合物を顔料として塗工層を形成したときに、塗工層においてカルシウム系化合物によって形成される凹凸が大きくなりすぎるのを防止することができる。これにより、塗工層の表面を平滑にすることができるので、カルシウム系化合物によって形成される凹凸にインクが沈み込んでしまうことを防止することができる。したがって、カルシウム系化合物の表面にインクをより効果的に留めておくことができるので、インクの発色性をより良好にすることができる。なお、カルシウム系化合物の平均粒径は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成したカルシウム系化合物の粒子を、例えば、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置によって測定することにより得られる。
【0018】
カルシウム系化合物を構成する薄片粒子の厚さは、100nm以下であることが好ましい。薄片粒子の厚さを100nm以下とすることにより、インクを留めておくことが可能な程度に薄片粒子間に空隙が設けられる。これにより、インクをより効果的に薄片粒子間の空隙に留めておくことができ、インクの発色性をより良好にすることができる。
【0019】
<2.カルシウム系化合物の製造方法>
本実施の形態に係るカルシウム系化合物の製造方法では、分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させる。これにより、貝殻由来の炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集め、上述した花びら状を形成したカルシウム系化合物を得ることができる。例えば、分散媒中に炭酸カルシウムを分散させ、スターラー等で攪拌しながらリン酸を加えて反応させ、反応後、ろ過や遠心分離などによって固液分離し、水洗して乾燥させることにより、カルシウム系化合物が得られる。
【0020】
原料となる炭酸カルシウムとしては、貝殻由来のものが用いられる。例えば、人工的な養殖業から発生する廃貝殻由来のもの、具体的には、カキの貝殻、ホタテ貝の貝殻、アコヤ貝の貝殻を用いることができる。これらの中では、アコヤ貝の貝殻の真珠層を用いることが好ましい。炭酸カルシウムの形状としては、特に限定されないが、貝殻由来の炭酸カルシウムを薄片化させる観点から板状のものを用いることが好ましい。炭酸カルシウムの結晶構造としては、特に限定されず、例えば、カルサイトやアラゴナイトが挙げられる。炭酸カルシウムは、例えば、アトライタ、ボールミル、ジェットミルなどで粉砕したものを使用することができる。粉砕後の炭酸カルシウムの平均粒径は、10μm以下とすることが好ましく、より好ましくは、粒径範囲が0.1〜20μmで、平均粒径が0.5〜2.0μmである。
【0021】
分散媒としては、水、アルコール、水とアルコールとの混合物等を用いることができる。アルコールとしては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを用いることができる。分散媒の使用量は、特に限定されず、例えば、原料である炭酸カルシウムの粒子径、形状等に応じて適宜決定することができる。
【0022】
これらの分散媒の中では、アルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いることが好ましい。分散媒として、アルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いることにより、アルコールがリン酸の反応に対して阻害的に作用して、得られるカルシウム系化合物の粒径をより小さくすることができる。これにより、上述したように、例えば、カルシウム系化合物を顔料として塗工層を形成したときに、塗工層におけるカルシウム系化合物による凹凸が大きくなりすぎるのを防止することができる。これにより、塗工層の表面をより平滑にすることができるので、塗工層におけるカルシウム系化合物による凹凸にインクが沈み込んでしまうことをより効果的に防止し、インクをより効果的にカルシウム系化合物の表面に留めておくことができる。したがって、インクの発色性をより良好にすることができる。
【0023】
また、分散媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合には、アルコールの割合を多くすることが好ましい。アルコールの割合を水よりも多くすることにより、アルコールがリン酸の反応に対して阻害的に作用して、得られるカルシウム系化合物の粒径をより小さくすることができる。これにより、上述したように、例えば、カルシウム系化合物を顔料として塗工層を形成したときに、塗工層におけるカルシウム系化合物による凹凸にインクが沈み込まず、インクをより効果的にカルシウム系化合物の表面に留めておくことができるので、インクの発色性を良好にすることができる。
【0024】
炭酸カルシウムと、分散媒との固液比については、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウムが分散媒中に分散された炭酸カルシウムスラリーを攪拌することができる程度の固液比とすることができる。
【0025】
リン酸は、水溶液の状態で使用する。分散媒中に加えるリン酸の量は、カルシウムとリンとのCa/Pモル比で決定し、Ca/Pモル比が1<(Ca/Pモル比)<4が好ましく、Ca/Pモル比が1.3≦(Ca/Pモル比)≦2.0の範囲がより好ましい。Ca/Pモル比が1<(Ca/Pモル比)<4の範囲となるようにリン酸を加えることにより、薄片粒子をより効果的に寄り集めてカルシウム系化合物の花びら状粒子を容易に得ることができる。一方、Ca/Pモル比が4以上の場合、すなわち、リン酸量がカルシウム系化合物の量に対して少なすぎる場合には、未反応の薄片粒子が混在する状態となり、薄片粒子が寄り集まった花びら状のカルシウム系化合物が得られにくい。また、Ca/Pモル比が1以下の場合、すなわち、リン酸量がカルシウム系化合物の量に対して多すぎる場合には、薄片粒子が寄り集まった花びら状のカルシウム系化合物が得られにくい。
【0026】
分散媒中にリン酸を滴下する時間は、特に限定されず、原料である炭酸カルシウム中のカルシウムと、リン酸中のリンとのCa/Pモル比に応じて規定することができる。例えば、Ca/Pモル比が2である場合には、炭酸カルシウムが分散された分散媒中に、一度に全量のリン酸を滴下することが好ましい。また、例えば、Ca/Pモル比が1.3である場合には、10分以上かけて炭酸カルシウムが分散された分散媒中に、リン酸を滴下することが好ましい。
【0027】
分散媒中で炭酸カルシウムとリン酸とを反応させる際の反応温度は、特に限定されず、例えば、常温(室温)とすることができる。このように常温で反応させることができるので、製造コストを抑えることができる。なお、分散媒中で炭酸カルシウムとリン酸とを反応させる際には、加熱するようにしてもよい。
【0028】
分散媒中で炭酸カルシウムとリン酸とを反応させる反応時間は、特に限定されないが、使用する炭酸カルシウムとリン酸の濃度により異ならせることが好ましい。例えば、Ca/Pモル比が2.0の場合には、0.5Mリン酸1000mlで約80分、1Mリン酸500mlで約40分とすることが好ましい。
【0029】
以上のように、本実施の形態に係るカルシウム系化合物の製造方法では、分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを反応させ、貝殻由来の炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集めることにより、薄片粒子が寄り集まった花びら状のカルシウム系化合物を得ることができる。
【0030】
<3.適用例>
上述したように、本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成してなり、薄片粒子間には、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることにより、インクを表面に留めておくことができる。したがって、本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、例えば、塗工紙の顔料として好適に用いることができる。
【0031】
本実施の形態に係るカルシウム系化合物を用いた塗工紙は、例えば、カルシウム系化合物に対してバインダーと定着剤とを加えて混合して塗工液を調整し、調製した塗工液を基材に塗工した後、乾燥することにより得ることができる。
【0032】
基材としては、特に限定されず、例えば、フィルムや上質原紙などを用いることができる。塗工液を塗工する量としては、特に制限されないが、例えば、固形分濃度が1〜50重量%の塗工液を、乾燥後の塗工量で1〜50g/m2程度となるように基材上に塗工すればよい。塗工液を塗工する方法としては、特に限定されず、例えば、グラビア塗工、エアーナイフ塗工、サイズプレス塗工、ゲートロール塗工、ロッドバー塗工等の公知の塗工方法から適宜選択することができる。塗工液を塗工後に乾燥する方法としては、特に限定されず、例えば、熱源により発生した加熱空気を送風した加温器内に搬送する方法、ヒーター等の熱源近傍を通過させる方法から適宜選択することができる。
【0033】
また、本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、例えば、トルエン等の揮発性有機化合物を効果的に吸着させることができので、環境浄化やプラスチック填料等のカルシウム系化合物を使用する分野に好適に用いることができる。なお、カルシウム系化合物を環境浄化等に用いる場合には、分散媒として水を用い、かつ、Ca/Pモル比が1.3となるように、水中で貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを反応させることが好ましい。このような条件で得られたカルシウム系化合物においては、リン酸オクタカルシウム(以下、「OCP」と称する。)の含有量が多くなるため、例えばトルエンの吸着量を向上させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0035】
本実施例において、実施例1〜実施例16、比較例1〜比較例6では、カルシウム系化合物を作製し、電子顕微鏡写真の観察及びXRDパターンの観察により、得られたカルシウム系化合物の形状等の評価と、結晶構造の評価とを行った。
【0036】
また、本実施例において、実施例17〜実施例32、比較例7〜比較例12では、実施例1〜実施例16、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物を顔料として用いてインクジェット記録紙を作製し、作製したインクジェット記録紙について、インクジェット印刷適性の評価を行った。
【0037】
さらに、本実施例において、実施例1、実施例3、比較例3で得られたカルシウム系化合物について、トルエンガス吸着試験を行った。
【0038】
(実施例1)
実施例1では、原料の炭酸カルシウムとして、図1に示すようにアトライタで1時間粉砕処理することにより、平均粒径1.81μm、最大粒径10μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用い、この炭酸カルシウムを5L容のプラスチック製ビーカに加え、分散媒として蒸留水2000mlを加えた。ホモジナイザー(ULTRA-TURRAX T25:IKA 社製)でビーカ内の炭酸カルシウムを分散させた分散媒を撹拌させながら、Ca/Pモル比が2.0となるように0.5Mのリン酸水溶液1000mlを、チューブポンプ(RP−CF3:古江サイエンス株式会社製)で12ml/分の速度でビーカ内に滴下した。リン酸の添加後、直ちに遠心分離により試料を回収し、その後水洗・乾燥し、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール85%(蒸留水300ml+メタノール1700ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、Ca/Pモル比が1.3となるように0.5Mのリン酸水溶液を1500ml三角フラスコ内に加えたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0041】
(実施例4)
実施例4では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール80%(蒸留水400ml+メタノール1600ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0042】
(実施例5)
実施例5では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール90%(蒸留水200ml+メタノール1800ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0043】
(実施例6)
実施例6では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール95%(蒸留水100ml+メタノール1900ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0044】
(実施例7)
実施例7では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール100%(メタノール2000ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0045】
(実施例8)
実施例8では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで6時間粉砕処理することにより、平均粒径1.03μm、最大粒径5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0046】
(実施例9)
実施例9では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで6時間粉砕処理することにより、平均粒径1.03μm、最大粒径5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例5と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0047】
(実施例10)
実施例10では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで6時間粉砕処理することにより、平均粒径1.03μm、最大粒径5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例7と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0048】
(実施例11)
実施例11では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0049】
(実施例12)
実施例12では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例5と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0050】
(実施例13)
実施例13では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例6と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0051】
(実施例14)
実施例14では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例7と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0052】
(実施例15)
実施例15では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている未焼成ホタテ貝殻粉末100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0053】
(実施例16)
実施例16では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている未焼成カキ貝殻粉末100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0054】
(比較例1)
比較例1では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている平均粒径0.15μmの軽質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、Brilliant−15)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0055】
(比較例2)
比較例2では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている立方体形状の炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0056】
(比較例3)
比較例3では、Ca/Pモル比が1.0となるように1Mのリン酸水溶液を2000ml加えたこと以外は、実施例1と同様に処理を行った。
【0057】
(比較例4)
比較例4では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、平均粒径0.70μmの重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン3200、備北粉化工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0058】
(比較例5)
比較例5では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、平均粒径1.00μmの重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン2200、備北粉化工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0059】
(比較例6)
比較例6では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、平均粒径2.20μmの重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン1000、備北粉化工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0060】
表1には、実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例6における製造条件(炭酸カルシウムの種類、炭酸カルシウム量、炭酸カルシウムの平均粒径、炭酸カルシウムの粉砕時間、分散媒の種類、分散媒量、リン酸濃度、リン酸量、Ca/Pモル比)をまとめたものを示す。また、表2には、実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例6で得られたカルシウム系化合物についての評価(カルシウム系化合物の平均粒径、BET比表面積、カルシウム系化合物の形状等)をまとめたものを示す。なお、カルシウム系化合物の粒径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置マイクロトラックHRA(日機装株式会社製)によって測定した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
<電子顕微鏡写真による観察結果>
図2〜図8(B)、図9は、実施例1、実施例2、実施例4〜実施例7、実施例15、実施例16で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真である。また、図10(B)、図11、図12は、比較例1〜比較例3で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真である。
【0064】
実施例1、実施例2、実施例4〜実施例7、実施例15、実施例16で得られたカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成してなり、薄片粒子間には、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることが分かった。なお、図示しないが、実施例3、実施例8〜実施例14で得られたカルシウム系化合物も、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成してなり、薄片粒子間に、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることが分かった。
【0065】
実施例1〜実施例16で得られたカルシウム系化合物は、分散媒中において貝殻由来の炭酸カルシウムがリン酸によって薄片化して薄片粒子となり、この薄片粒子が寄り集まる、すなわち、薄片粒子が凝集することによって花びら状に形成されたと考えられる。
【0066】
また、分散媒としてアルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いた実施例2、実施例4〜実施例7、実施例9、実施例10、実施例12〜実施例14では、分散媒として水を用いた実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例15、実施例16の場合と比較して、カルシウム系化合物の粒径が小さくなることが分かった。
【0067】
一方、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物は、実施例1〜実施例16で得られたカルシウム系化合物のように、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成していないことが分かった。また、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物は、内部まで貫通した多数の空孔が形成されていることが分かった。これらの結果から、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物は、原料の炭酸カルシウムの表面がリン酸により溶解されて多孔質化していると考えられる。
【0068】
また、比較例3で得られたカルシウム系化合物は、図12に示すように、実施例1〜実施例16で得られたカルシウム系化合物のように薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成していないことが分かった。これは、Ca/Pモル比が1以下、すなわち、リン酸量がカルシウム系化合物の量に対して多すぎたためと考えられる。
<粉末X線回折法による評価結果>
【0069】
図14〜図27、図29、図31、図32には、実施例1〜実施例14、実施例16、比較例1、比較例3で得られたカルシウム系化合物と、アトライタで粉砕したアコヤ真珠層の粉末との結晶構造を粉末X線回折法により分析した結果を示す。また、図33〜図35には、DCP(リン酸水素カルシウム)、DCPD(リン酸水素カルシウム二水和物)、TCP(リン酸三カルシウム)の結晶構造を粉末X線回折法により測定した結果を示す。
【0070】
図14、図16、図21、図24、図29に示すXRDパターンにおいては、2θ=5°付近と、2θ=30°付近に、ピークを確認することができた。この結果から、実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例16で得られたカルシウム系化合物では、OCPが生成されていることが分かった。すなわち、実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例16で得られたカルシウム系化合物は、薄片粒子の表面の一部がOCPであることが分かった。また、実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例16で得られたカルシウム系化合物は、図33〜図35に示すXRDパターンの結果から、OCPだけではなく、DCP、DCPD、TCP等も混在していると考えられる。
【0071】
図15、図18〜図20、図22、図23、図25〜図27、図31に示すXRDパターンにおいて、2θ=5°付近と、2θ=30°付近に、ピークを確認することができなかった。この結果から、実施例2、実施例5〜実施例7、実施例9、実施例10、実施例12〜実施例14、比較例1で得られたカルシウム系化合物には、OCPが含まれていないことが分かった。実施例2、実施例5〜実施例7、実施例9、実施例10、実施例12〜実施例14、比較例1で得られたカルシウム系化合物は、図33〜図35に示す結果から、DCP、DCPD、TCP等が混在していると考えられる。
【0072】
図32、図34に示すXRDパターンにおいては、2θ=10°付近に、ピークを確認することができた。この結果から、比較例3で得られたカルシウム系化合物は、DCPDに変化していると考えられる。
【0073】
<インクジェット印刷適性評価>
(実施例17)
実施例17では、実施例1で調製したカルシウム系化合物(白色顔料)100重量部に対して、バインダーとして市販ポリビニルアルコール7重量部と、ウレタン系樹脂13重量部と、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂13重量部とを加え、さらに定着剤としてアリルアミン系カチオン性樹脂13重量部を加えて混合し、固形分濃度が20重量%の塗料を調製した。調製した塗料を、秤量135g/m2の上質原紙(基材)に、手塗ロッドバーにより乾燥後の塗工量が5g/m2となるように平滑に塗工した後、105℃で1分間乾燥し、インクジェット記録紙を作製した。実施例17で作成したインクジェット記録紙の塗工層表面の電子顕微鏡写真を図36(A)、(B)に示す。
【0074】
(実施例18)
実施例18では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例2で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。実施例18で作成したインクジェット記録紙の塗工層表面の電子顕微鏡写真を図37(A)、(B)に示す。
【0075】
(実施例19)
実施例19では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例3で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0076】
(実施例20)
実施例20では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例4で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0077】
(実施例21)
実施例21では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例5で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0078】
(実施例22)
実施例22では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例6で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0079】
(実施例23)
実施例23では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例7で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0080】
(実施例24)
実施例24では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例8で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0081】
(実施例25)
実施例25では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例9で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0082】
(実施例26)
実施例26では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例10で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0083】
(実施例27)
実施例27では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例11で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0084】
(実施例28)
実施例28では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例12で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0085】
(実施例29)
実施例29では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例13で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0086】
(実施例30)
実施例30では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例14で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0087】
(実施例31)
実施例31では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例15で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0088】
(実施例32)
実施例32では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例16で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0089】
(比較例7)
比較例7では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、アトライタで粉砕した板状のアコヤ真珠層を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。比較例7で作成したインクジェット記録紙の塗工層表面の電子顕微鏡写真を図38(A)、(B)に示す。
【0090】
(比較例8)
比較例8では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例1で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0091】
(比較例9)
比較例9では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例2で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0092】
(比較例10)
比較例10では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例4で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0093】
(比較例11)
比較例11では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例5で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0094】
(比較例12)
比較例12では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例6で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0095】
実施例17〜実施例32及び比較例7〜比較例12で作製したインクジェット記録紙に対し、インクジェットプリンター(製品名 EP−302 セイコーエプソン株式会社製)を用いて、テストパターンを印刷し、インクジェット印刷適性を評価した。インクジェット印刷適性は、インク吸水性評価と、発色の鮮やかさの評価と、にじみの有無の評価とを行うことで評価した。
【0096】
インク吸水性の評価は、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの各ベタ印刷部分について、印刷直後のインク吸収性を目視で観察した。表面に残留したインクが全く認められず、吸収が非常に速いものを「◎」、表面に残留したインクがほぼ認められず、吸収が速いものを「○」、インクの吸収が遅く、印刷部の表面に残留インクが認められるものを「△」とした。
【0097】
発色の鮮やかさの評価は、ブラック、イエロー、マゼンダ、シアンの各ベタ印刷部分及び写真画像印刷部分について、発色を目視で評価した。発色特性が良好なものを「◎」、事実上問題ない範囲で良好なものを「○」、事実上問題があるものを「△」とした。
【0098】
にじみの有無の評価は、ブラック、イエロー、マゼンダ、シアンのベタ印刷部分に白抜文字を印字し、印字部分のにじみを目視で評価した。にじみが全く認められないものを「◎」、にじみがわずかに認められるものを「○」、にじみが明確に認められるものを「△」とした。
【0099】
以下の表3に、実施例17〜実施例32及び比較例7〜比較例12で作製したインクジェット記録紙のインクジェット印刷適性評価の結果を示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示す結果から明らかなように、実施例17〜実施例32で作製したインクジェット記録紙では、発色の鮮やかさが良好であり、また、インク吸収性の向上により印刷画像のにじみを低減させることができた。
【0102】
これは、実施例17〜実施例32で作製したインクジェット記録紙では、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成したカルシウム系化合物を用いたことにより、薄片粒子間に内部まで貫通していない多数の空隙が形成され、インクを空隙で吸収しつつ、顔料表面にも留めておくことができたためと考えられる。
【0103】
また、実施例18、実施例21、実施例25、実施例26、実施例29、実施例30で作製したインクジェット記録紙では、特に良好なインク吸収性を示し、発色の鮮やかさも特に良好であり、印刷画像のにじみをより低減させることができた。例えば、実施例18で作製したインクジェット記録紙では、図37(A)、(B)に示すように、より細かな粒子が小さく複雑な空隙が形成されるとともに、粒子が塗工紙の表面に並び平滑な面が形成されるので、インクドットが空隙に吸収されつつ表面にも留まり、その結果、インク吸収性、にじみに加えて、発色の鮮やかさに対しても有効に作用したと考えられる。
【0104】
一方、比較例7で作製したインクジェット記録紙では、図38(A)、(B)に示すように、塗工層を構成する粒子間に空隙が形成されていないため、インクドットが塗工層の表面に留まるしかできず、インク吸収性及びにじみの結果が悪くなったと考えられる。また、比較例8〜比較例12で作製したインクジェット記録紙では、発色の鮮やかさが良好ではなかった。これは、比較例8〜比較例12で作製したインクジェット記録紙では、塗工層を形成するカルシウム系化合物の粒子間に内部まで貫通した多数の空孔が形成されたためと考えられる。
【0105】
<トルエンガス吸着試験>
実施例1、実施例3、比較例3で得られた各粉末50mgを,φ50mmのガラス製シャーレに均一になるように広げ、これを容積300mlのテフロン製反応容器に静置し、容器を密閉した。反応容器内を、水分を含んだ合成空気(N2:79vol%,O2:21vol%)で置換後、容器内のトルエン濃度が30ppmになるようにトルエン標準ガスをシリンジで導入した。20℃に設定された暗所恒温層内で容器ごと静置し、60分後のトルエン濃度をガスクロマトグラフで定量した。各試料のトルエン吸着量をμg/gで評価した。トルエンガス吸着試験の結果を図39、表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例3で得られたカルシウム系化合物は、トルエンガスの吸着性が特に良好であることが分かった。これは、実施例3で得られたカルシウム系化合物は、分散媒として水を用い、かつ、Ca/Pモル比が1.3となるように、水中で貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを反応させることで、図16に示すようにOCP含有量が多くなったためと考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、花びら状を形成してなるカルシウム系化合物、カルシウム系化合物の製造方法及び塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の印刷技術の向上から、一般家庭においても、インクジェットプリンターで写真などの印刷が容易に行えるようになり、安価で高機能なインクジェット用紙のニーズが高まっている。
【0003】
インクジェット用紙の顔料には、その比表面積の大きさから、非晶質のシリカが多用されている。しかし、高比表面積シリカは、コストが高く(約2000円/kg)、国内で大量に産出する安価なカルシウム系化合物による代替品の開発が急務となっている。
【0004】
特許文献1には、炭酸カルシウムをリン酸処理することにより、表面に空孔を多数形成させた炭酸カルシウム化合物を製造する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3634404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、表面が多孔質である物質をインクジェット用の顔料に用いた場合には、インクの全てが孔に吸収されてしまうので、インク発色に問題があった。すなわち、特許文献1に記載の技術で得られる炭酸カルシウム化合物では、表面が多孔質であり孔が内部まで貫通しているため、インクが孔に吸収されてしまい、発色が良好ではなかった。インクジェットプリンターなどに用いられる水溶性インクの発色を高めるためには、インクを空隙で吸収しつつ、顔料(カルシウム系化合物)表面にも留めるようなものが求められる。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、インクを表面に留めておくことができるカルシウム系化合物、カルシウム系化合物の製造方法及び塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成してなり、薄片粒子間には、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るカルシウム系化合物の製造方法は、分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させ、炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集めることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る塗工紙は、上記カルシウム系化合物を含有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成することにより、薄片粒子間にカルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成され、インクを空隙で吸収しつつ、カルシウム系化合物の表面にインクを留めておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層の電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【図2】実施例1で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図3】実施例2で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(20000倍)である。
【図4】実施例4で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図5】実施例5で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図6】実施例6で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図7】実施例7で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図8】(A)は、粉砕したホタテ貝殻の電子顕微鏡写真(6000倍)であり、(B)は、実施例15で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図9】実施例16で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(20000倍)である。
【図10】(A)は、リン酸処理前の軽質炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(50000倍)であり、(B)は、比較例1で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(50000倍)である。
【図11】比較例2で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図12】比較例3で得られた薄片粒子の電子顕微鏡写真(15000倍)である。
【図13】リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層の粉末XRDパターンを示す図である。
【図14】実施例1で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図15】実施例2で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図16】実施例3で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図17】実施例4で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図18】実施例5で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図19】実施例6で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図20】実施例7で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図21】実施例8で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図22】実施例9で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図23】実施例10で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図24】実施例11で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図25】実施例12で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図26】実施例13で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図27】実施例14で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図28】粉砕したカキの貝殻の粉末XRDパターンを示す図である。
【図29】実施例16で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図30】リン酸処理前の軽質炭酸カルシウムの粉末XRDパターンを示す図である。
【図31】比較例1で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図32】比較例3で得られたカルシウム系化合物の粉末XRDパターンを示す図である。
【図33】DCP(リン酸水素カルシウム)の粉末XRDパターンを示す図である。
【図34】DCPD(リン酸水素カルシウム二水和物)の粉末XRDパターンを示す図である。
【図35】TCP(リン酸三カルシウム)の粉末XRDパターンを示す図である。
【図36】(A)は、実施例1で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、(B)は、実施例1で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図37】(A)は、実施例2で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、(B)は、実施例2で得られたカルシウム系化合物を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図38】(A)は、リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(1000倍)であり、(B)は、リン酸処理前の粉砕したアコヤ真珠層を用いて形成された塗工層表面の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図39】Ca/Pモル比とトルエンガス吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」と称する。)について、下記順序にて詳細に説明する。
1.カルシウム系化合物
2.カルシウム系化合物の製造方法
3.適用例
4.実施例
【0014】
<1.カルシウム系化合物>
本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成している。また、このように、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成していることにより、薄片粒子間に複数の空隙(隙間)が形成されている。薄片粒子間に形成された複数の空隙は、表面が多孔質である従来の炭酸カルシウム化合物における孔のように、内部まで貫通していない。
【0015】
このようなカルシウム系化合物では、例えば、インク(インクドット)が、薄片粒子間に形成された複数の空隙の厚み方向(空隙の深さ方向)に速やかに吸収されるので、インク吸収性を良好にすることができ、にじみを低減させることができる。
【0016】
また、インクを薄片粒子間に形成された複数の空隙に留めることができるので、インクが薄片粒子間の深い部分まで沈み込んでしまうことを防止することができる。すなわち、インクがカルシウム化合物の内部まで浸透しないようにすることができる。このように、インクがカルシウム化合物の内部まで浸透してしまうのを防止することにより、薄片粒子間に形成された空隙にインクを留めることができるので、インクを表面に留めておくことができる。したがって、本実施の形態に係るカルシウム系化合物では、インクを空隙で吸収しつつ、顔料(カルシウム化合物)表面にも留めることができるので、インクの発色性を良好にすることができる。
【0017】
カルシウム系化合物の平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。カルシウム系化合物の平均粒径を20μm以下とすることにより、例えば、カルシウム系化合物を顔料として塗工層を形成したときに、塗工層においてカルシウム系化合物によって形成される凹凸が大きくなりすぎるのを防止することができる。これにより、塗工層の表面を平滑にすることができるので、カルシウム系化合物によって形成される凹凸にインクが沈み込んでしまうことを防止することができる。したがって、カルシウム系化合物の表面にインクをより効果的に留めておくことができるので、インクの発色性をより良好にすることができる。なお、カルシウム系化合物の平均粒径は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成したカルシウム系化合物の粒子を、例えば、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置によって測定することにより得られる。
【0018】
カルシウム系化合物を構成する薄片粒子の厚さは、100nm以下であることが好ましい。薄片粒子の厚さを100nm以下とすることにより、インクを留めておくことが可能な程度に薄片粒子間に空隙が設けられる。これにより、インクをより効果的に薄片粒子間の空隙に留めておくことができ、インクの発色性をより良好にすることができる。
【0019】
<2.カルシウム系化合物の製造方法>
本実施の形態に係るカルシウム系化合物の製造方法では、分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させる。これにより、貝殻由来の炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集め、上述した花びら状を形成したカルシウム系化合物を得ることができる。例えば、分散媒中に炭酸カルシウムを分散させ、スターラー等で攪拌しながらリン酸を加えて反応させ、反応後、ろ過や遠心分離などによって固液分離し、水洗して乾燥させることにより、カルシウム系化合物が得られる。
【0020】
原料となる炭酸カルシウムとしては、貝殻由来のものが用いられる。例えば、人工的な養殖業から発生する廃貝殻由来のもの、具体的には、カキの貝殻、ホタテ貝の貝殻、アコヤ貝の貝殻を用いることができる。これらの中では、アコヤ貝の貝殻の真珠層を用いることが好ましい。炭酸カルシウムの形状としては、特に限定されないが、貝殻由来の炭酸カルシウムを薄片化させる観点から板状のものを用いることが好ましい。炭酸カルシウムの結晶構造としては、特に限定されず、例えば、カルサイトやアラゴナイトが挙げられる。炭酸カルシウムは、例えば、アトライタ、ボールミル、ジェットミルなどで粉砕したものを使用することができる。粉砕後の炭酸カルシウムの平均粒径は、10μm以下とすることが好ましく、より好ましくは、粒径範囲が0.1〜20μmで、平均粒径が0.5〜2.0μmである。
【0021】
分散媒としては、水、アルコール、水とアルコールとの混合物等を用いることができる。アルコールとしては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを用いることができる。分散媒の使用量は、特に限定されず、例えば、原料である炭酸カルシウムの粒子径、形状等に応じて適宜決定することができる。
【0022】
これらの分散媒の中では、アルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いることが好ましい。分散媒として、アルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いることにより、アルコールがリン酸の反応に対して阻害的に作用して、得られるカルシウム系化合物の粒径をより小さくすることができる。これにより、上述したように、例えば、カルシウム系化合物を顔料として塗工層を形成したときに、塗工層におけるカルシウム系化合物による凹凸が大きくなりすぎるのを防止することができる。これにより、塗工層の表面をより平滑にすることができるので、塗工層におけるカルシウム系化合物による凹凸にインクが沈み込んでしまうことをより効果的に防止し、インクをより効果的にカルシウム系化合物の表面に留めておくことができる。したがって、インクの発色性をより良好にすることができる。
【0023】
また、分散媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合には、アルコールの割合を多くすることが好ましい。アルコールの割合を水よりも多くすることにより、アルコールがリン酸の反応に対して阻害的に作用して、得られるカルシウム系化合物の粒径をより小さくすることができる。これにより、上述したように、例えば、カルシウム系化合物を顔料として塗工層を形成したときに、塗工層におけるカルシウム系化合物による凹凸にインクが沈み込まず、インクをより効果的にカルシウム系化合物の表面に留めておくことができるので、インクの発色性を良好にすることができる。
【0024】
炭酸カルシウムと、分散媒との固液比については、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウムが分散媒中に分散された炭酸カルシウムスラリーを攪拌することができる程度の固液比とすることができる。
【0025】
リン酸は、水溶液の状態で使用する。分散媒中に加えるリン酸の量は、カルシウムとリンとのCa/Pモル比で決定し、Ca/Pモル比が1<(Ca/Pモル比)<4が好ましく、Ca/Pモル比が1.3≦(Ca/Pモル比)≦2.0の範囲がより好ましい。Ca/Pモル比が1<(Ca/Pモル比)<4の範囲となるようにリン酸を加えることにより、薄片粒子をより効果的に寄り集めてカルシウム系化合物の花びら状粒子を容易に得ることができる。一方、Ca/Pモル比が4以上の場合、すなわち、リン酸量がカルシウム系化合物の量に対して少なすぎる場合には、未反応の薄片粒子が混在する状態となり、薄片粒子が寄り集まった花びら状のカルシウム系化合物が得られにくい。また、Ca/Pモル比が1以下の場合、すなわち、リン酸量がカルシウム系化合物の量に対して多すぎる場合には、薄片粒子が寄り集まった花びら状のカルシウム系化合物が得られにくい。
【0026】
分散媒中にリン酸を滴下する時間は、特に限定されず、原料である炭酸カルシウム中のカルシウムと、リン酸中のリンとのCa/Pモル比に応じて規定することができる。例えば、Ca/Pモル比が2である場合には、炭酸カルシウムが分散された分散媒中に、一度に全量のリン酸を滴下することが好ましい。また、例えば、Ca/Pモル比が1.3である場合には、10分以上かけて炭酸カルシウムが分散された分散媒中に、リン酸を滴下することが好ましい。
【0027】
分散媒中で炭酸カルシウムとリン酸とを反応させる際の反応温度は、特に限定されず、例えば、常温(室温)とすることができる。このように常温で反応させることができるので、製造コストを抑えることができる。なお、分散媒中で炭酸カルシウムとリン酸とを反応させる際には、加熱するようにしてもよい。
【0028】
分散媒中で炭酸カルシウムとリン酸とを反応させる反応時間は、特に限定されないが、使用する炭酸カルシウムとリン酸の濃度により異ならせることが好ましい。例えば、Ca/Pモル比が2.0の場合には、0.5Mリン酸1000mlで約80分、1Mリン酸500mlで約40分とすることが好ましい。
【0029】
以上のように、本実施の形態に係るカルシウム系化合物の製造方法では、分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを反応させ、貝殻由来の炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集めることにより、薄片粒子が寄り集まった花びら状のカルシウム系化合物を得ることができる。
【0030】
<3.適用例>
上述したように、本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成してなり、薄片粒子間には、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることにより、インクを表面に留めておくことができる。したがって、本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、例えば、塗工紙の顔料として好適に用いることができる。
【0031】
本実施の形態に係るカルシウム系化合物を用いた塗工紙は、例えば、カルシウム系化合物に対してバインダーと定着剤とを加えて混合して塗工液を調整し、調製した塗工液を基材に塗工した後、乾燥することにより得ることができる。
【0032】
基材としては、特に限定されず、例えば、フィルムや上質原紙などを用いることができる。塗工液を塗工する量としては、特に制限されないが、例えば、固形分濃度が1〜50重量%の塗工液を、乾燥後の塗工量で1〜50g/m2程度となるように基材上に塗工すればよい。塗工液を塗工する方法としては、特に限定されず、例えば、グラビア塗工、エアーナイフ塗工、サイズプレス塗工、ゲートロール塗工、ロッドバー塗工等の公知の塗工方法から適宜選択することができる。塗工液を塗工後に乾燥する方法としては、特に限定されず、例えば、熱源により発生した加熱空気を送風した加温器内に搬送する方法、ヒーター等の熱源近傍を通過させる方法から適宜選択することができる。
【0033】
また、本実施の形態に係るカルシウム系化合物は、例えば、トルエン等の揮発性有機化合物を効果的に吸着させることができので、環境浄化やプラスチック填料等のカルシウム系化合物を使用する分野に好適に用いることができる。なお、カルシウム系化合物を環境浄化等に用いる場合には、分散媒として水を用い、かつ、Ca/Pモル比が1.3となるように、水中で貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを反応させることが好ましい。このような条件で得られたカルシウム系化合物においては、リン酸オクタカルシウム(以下、「OCP」と称する。)の含有量が多くなるため、例えばトルエンの吸着量を向上させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0035】
本実施例において、実施例1〜実施例16、比較例1〜比較例6では、カルシウム系化合物を作製し、電子顕微鏡写真の観察及びXRDパターンの観察により、得られたカルシウム系化合物の形状等の評価と、結晶構造の評価とを行った。
【0036】
また、本実施例において、実施例17〜実施例32、比較例7〜比較例12では、実施例1〜実施例16、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物を顔料として用いてインクジェット記録紙を作製し、作製したインクジェット記録紙について、インクジェット印刷適性の評価を行った。
【0037】
さらに、本実施例において、実施例1、実施例3、比較例3で得られたカルシウム系化合物について、トルエンガス吸着試験を行った。
【0038】
(実施例1)
実施例1では、原料の炭酸カルシウムとして、図1に示すようにアトライタで1時間粉砕処理することにより、平均粒径1.81μm、最大粒径10μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用い、この炭酸カルシウムを5L容のプラスチック製ビーカに加え、分散媒として蒸留水2000mlを加えた。ホモジナイザー(ULTRA-TURRAX T25:IKA 社製)でビーカ内の炭酸カルシウムを分散させた分散媒を撹拌させながら、Ca/Pモル比が2.0となるように0.5Mのリン酸水溶液1000mlを、チューブポンプ(RP−CF3:古江サイエンス株式会社製)で12ml/分の速度でビーカ内に滴下した。リン酸の添加後、直ちに遠心分離により試料を回収し、その後水洗・乾燥し、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール85%(蒸留水300ml+メタノール1700ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、Ca/Pモル比が1.3となるように0.5Mのリン酸水溶液を1500ml三角フラスコ内に加えたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0041】
(実施例4)
実施例4では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール80%(蒸留水400ml+メタノール1600ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0042】
(実施例5)
実施例5では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール90%(蒸留水200ml+メタノール1800ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0043】
(実施例6)
実施例6では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール95%(蒸留水100ml+メタノール1900ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0044】
(実施例7)
実施例7では、蒸留水2000mlの替わりに、メタノール100%(メタノール2000ml)の分散媒を用いたこと、遠心分離により試料を回収した後にメタノールで洗浄後乾燥したこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0045】
(実施例8)
実施例8では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで6時間粉砕処理することにより、平均粒径1.03μm、最大粒径5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0046】
(実施例9)
実施例9では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで6時間粉砕処理することにより、平均粒径1.03μm、最大粒径5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例5と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0047】
(実施例10)
実施例10では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで6時間粉砕処理することにより、平均粒径1.03μm、最大粒径5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例7と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0048】
(実施例11)
実施例11では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0049】
(実施例12)
実施例12では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例5と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0050】
(実施例13)
実施例13では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例6と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0051】
(実施例14)
実施例14では、原料の炭酸カルシウムとして、アトライタで16時間粉砕処理することにより、平均粒径0.85μm、最大粒径3.5μm程度に粉砕した板状のアコヤ真珠層100gを用いたこと以外は、実施例7と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0052】
(実施例15)
実施例15では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている未焼成ホタテ貝殻粉末100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0053】
(実施例16)
実施例16では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている未焼成カキ貝殻粉末100gを用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0054】
(比較例1)
比較例1では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている平均粒径0.15μmの軽質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、Brilliant−15)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0055】
(比較例2)
比較例2では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、市販されている立方体形状の炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0056】
(比較例3)
比較例3では、Ca/Pモル比が1.0となるように1Mのリン酸水溶液を2000ml加えたこと以外は、実施例1と同様に処理を行った。
【0057】
(比較例4)
比較例4では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、平均粒径0.70μmの重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン3200、備北粉化工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0058】
(比較例5)
比較例5では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、平均粒径1.00μmの重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン2200、備北粉化工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0059】
(比較例6)
比較例6では、原料の炭酸カルシウムとして、板状のアコヤ真珠層の替わりに、平均粒径2.20μmの重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン1000、備北粉化工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行って、白色粉末(カルシウム系化合物)を得た。
【0060】
表1には、実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例6における製造条件(炭酸カルシウムの種類、炭酸カルシウム量、炭酸カルシウムの平均粒径、炭酸カルシウムの粉砕時間、分散媒の種類、分散媒量、リン酸濃度、リン酸量、Ca/Pモル比)をまとめたものを示す。また、表2には、実施例1〜実施例16及び比較例1〜比較例6で得られたカルシウム系化合物についての評価(カルシウム系化合物の平均粒径、BET比表面積、カルシウム系化合物の形状等)をまとめたものを示す。なお、カルシウム系化合物の粒径は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置マイクロトラックHRA(日機装株式会社製)によって測定した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
<電子顕微鏡写真による観察結果>
図2〜図8(B)、図9は、実施例1、実施例2、実施例4〜実施例7、実施例15、実施例16で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真である。また、図10(B)、図11、図12は、比較例1〜比較例3で得られたカルシウム系化合物の電子顕微鏡写真である。
【0064】
実施例1、実施例2、実施例4〜実施例7、実施例15、実施例16で得られたカルシウム系化合物は、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成してなり、薄片粒子間には、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることが分かった。なお、図示しないが、実施例3、実施例8〜実施例14で得られたカルシウム系化合物も、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成してなり、薄片粒子間に、カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることが分かった。
【0065】
実施例1〜実施例16で得られたカルシウム系化合物は、分散媒中において貝殻由来の炭酸カルシウムがリン酸によって薄片化して薄片粒子となり、この薄片粒子が寄り集まる、すなわち、薄片粒子が凝集することによって花びら状に形成されたと考えられる。
【0066】
また、分散媒としてアルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いた実施例2、実施例4〜実施例7、実施例9、実施例10、実施例12〜実施例14では、分散媒として水を用いた実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例15、実施例16の場合と比較して、カルシウム系化合物の粒径が小さくなることが分かった。
【0067】
一方、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物は、実施例1〜実施例16で得られたカルシウム系化合物のように、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成していないことが分かった。また、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物は、内部まで貫通した多数の空孔が形成されていることが分かった。これらの結果から、比較例1、比較例2、比較例4〜比較例6で得られたカルシウム系化合物は、原料の炭酸カルシウムの表面がリン酸により溶解されて多孔質化していると考えられる。
【0068】
また、比較例3で得られたカルシウム系化合物は、図12に示すように、実施例1〜実施例16で得られたカルシウム系化合物のように薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成していないことが分かった。これは、Ca/Pモル比が1以下、すなわち、リン酸量がカルシウム系化合物の量に対して多すぎたためと考えられる。
<粉末X線回折法による評価結果>
【0069】
図14〜図27、図29、図31、図32には、実施例1〜実施例14、実施例16、比較例1、比較例3で得られたカルシウム系化合物と、アトライタで粉砕したアコヤ真珠層の粉末との結晶構造を粉末X線回折法により分析した結果を示す。また、図33〜図35には、DCP(リン酸水素カルシウム)、DCPD(リン酸水素カルシウム二水和物)、TCP(リン酸三カルシウム)の結晶構造を粉末X線回折法により測定した結果を示す。
【0070】
図14、図16、図21、図24、図29に示すXRDパターンにおいては、2θ=5°付近と、2θ=30°付近に、ピークを確認することができた。この結果から、実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例16で得られたカルシウム系化合物では、OCPが生成されていることが分かった。すなわち、実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例16で得られたカルシウム系化合物は、薄片粒子の表面の一部がOCPであることが分かった。また、実施例1、実施例3、実施例8、実施例11、実施例16で得られたカルシウム系化合物は、図33〜図35に示すXRDパターンの結果から、OCPだけではなく、DCP、DCPD、TCP等も混在していると考えられる。
【0071】
図15、図18〜図20、図22、図23、図25〜図27、図31に示すXRDパターンにおいて、2θ=5°付近と、2θ=30°付近に、ピークを確認することができなかった。この結果から、実施例2、実施例5〜実施例7、実施例9、実施例10、実施例12〜実施例14、比較例1で得られたカルシウム系化合物には、OCPが含まれていないことが分かった。実施例2、実施例5〜実施例7、実施例9、実施例10、実施例12〜実施例14、比較例1で得られたカルシウム系化合物は、図33〜図35に示す結果から、DCP、DCPD、TCP等が混在していると考えられる。
【0072】
図32、図34に示すXRDパターンにおいては、2θ=10°付近に、ピークを確認することができた。この結果から、比較例3で得られたカルシウム系化合物は、DCPDに変化していると考えられる。
【0073】
<インクジェット印刷適性評価>
(実施例17)
実施例17では、実施例1で調製したカルシウム系化合物(白色顔料)100重量部に対して、バインダーとして市販ポリビニルアルコール7重量部と、ウレタン系樹脂13重量部と、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂13重量部とを加え、さらに定着剤としてアリルアミン系カチオン性樹脂13重量部を加えて混合し、固形分濃度が20重量%の塗料を調製した。調製した塗料を、秤量135g/m2の上質原紙(基材)に、手塗ロッドバーにより乾燥後の塗工量が5g/m2となるように平滑に塗工した後、105℃で1分間乾燥し、インクジェット記録紙を作製した。実施例17で作成したインクジェット記録紙の塗工層表面の電子顕微鏡写真を図36(A)、(B)に示す。
【0074】
(実施例18)
実施例18では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例2で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。実施例18で作成したインクジェット記録紙の塗工層表面の電子顕微鏡写真を図37(A)、(B)に示す。
【0075】
(実施例19)
実施例19では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例3で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0076】
(実施例20)
実施例20では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例4で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0077】
(実施例21)
実施例21では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例5で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0078】
(実施例22)
実施例22では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例6で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0079】
(実施例23)
実施例23では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例7で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0080】
(実施例24)
実施例24では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例8で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0081】
(実施例25)
実施例25では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例9で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0082】
(実施例26)
実施例26では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例10で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0083】
(実施例27)
実施例27では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例11で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0084】
(実施例28)
実施例28では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例12で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0085】
(実施例29)
実施例29では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例13で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0086】
(実施例30)
実施例30では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例14で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0087】
(実施例31)
実施例31では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例15で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0088】
(実施例32)
実施例32では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、実施例16で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0089】
(比較例7)
比較例7では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、アトライタで粉砕した板状のアコヤ真珠層を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。比較例7で作成したインクジェット記録紙の塗工層表面の電子顕微鏡写真を図38(A)、(B)に示す。
【0090】
(比較例8)
比較例8では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例1で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0091】
(比較例9)
比較例9では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例2で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0092】
(比較例10)
比較例10では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例4で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0093】
(比較例11)
比較例11では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例5で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0094】
(比較例12)
比較例12では、実施例1で調製した白色顔料に替えて、比較例6で調製したカルシウム系化合物を用いたこと以外は、実施例17と同様に処理を行ってインクジェット記録紙を作製した。
【0095】
実施例17〜実施例32及び比較例7〜比較例12で作製したインクジェット記録紙に対し、インクジェットプリンター(製品名 EP−302 セイコーエプソン株式会社製)を用いて、テストパターンを印刷し、インクジェット印刷適性を評価した。インクジェット印刷適性は、インク吸水性評価と、発色の鮮やかさの評価と、にじみの有無の評価とを行うことで評価した。
【0096】
インク吸水性の評価は、ブラック、シアン、マゼンダ、イエローの各ベタ印刷部分について、印刷直後のインク吸収性を目視で観察した。表面に残留したインクが全く認められず、吸収が非常に速いものを「◎」、表面に残留したインクがほぼ認められず、吸収が速いものを「○」、インクの吸収が遅く、印刷部の表面に残留インクが認められるものを「△」とした。
【0097】
発色の鮮やかさの評価は、ブラック、イエロー、マゼンダ、シアンの各ベタ印刷部分及び写真画像印刷部分について、発色を目視で評価した。発色特性が良好なものを「◎」、事実上問題ない範囲で良好なものを「○」、事実上問題があるものを「△」とした。
【0098】
にじみの有無の評価は、ブラック、イエロー、マゼンダ、シアンのベタ印刷部分に白抜文字を印字し、印字部分のにじみを目視で評価した。にじみが全く認められないものを「◎」、にじみがわずかに認められるものを「○」、にじみが明確に認められるものを「△」とした。
【0099】
以下の表3に、実施例17〜実施例32及び比較例7〜比較例12で作製したインクジェット記録紙のインクジェット印刷適性評価の結果を示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示す結果から明らかなように、実施例17〜実施例32で作製したインクジェット記録紙では、発色の鮮やかさが良好であり、また、インク吸収性の向上により印刷画像のにじみを低減させることができた。
【0102】
これは、実施例17〜実施例32で作製したインクジェット記録紙では、薄片粒子が寄り集まることで花びら状を形成したカルシウム系化合物を用いたことにより、薄片粒子間に内部まで貫通していない多数の空隙が形成され、インクを空隙で吸収しつつ、顔料表面にも留めておくことができたためと考えられる。
【0103】
また、実施例18、実施例21、実施例25、実施例26、実施例29、実施例30で作製したインクジェット記録紙では、特に良好なインク吸収性を示し、発色の鮮やかさも特に良好であり、印刷画像のにじみをより低減させることができた。例えば、実施例18で作製したインクジェット記録紙では、図37(A)、(B)に示すように、より細かな粒子が小さく複雑な空隙が形成されるとともに、粒子が塗工紙の表面に並び平滑な面が形成されるので、インクドットが空隙に吸収されつつ表面にも留まり、その結果、インク吸収性、にじみに加えて、発色の鮮やかさに対しても有効に作用したと考えられる。
【0104】
一方、比較例7で作製したインクジェット記録紙では、図38(A)、(B)に示すように、塗工層を構成する粒子間に空隙が形成されていないため、インクドットが塗工層の表面に留まるしかできず、インク吸収性及びにじみの結果が悪くなったと考えられる。また、比較例8〜比較例12で作製したインクジェット記録紙では、発色の鮮やかさが良好ではなかった。これは、比較例8〜比較例12で作製したインクジェット記録紙では、塗工層を形成するカルシウム系化合物の粒子間に内部まで貫通した多数の空孔が形成されたためと考えられる。
【0105】
<トルエンガス吸着試験>
実施例1、実施例3、比較例3で得られた各粉末50mgを,φ50mmのガラス製シャーレに均一になるように広げ、これを容積300mlのテフロン製反応容器に静置し、容器を密閉した。反応容器内を、水分を含んだ合成空気(N2:79vol%,O2:21vol%)で置換後、容器内のトルエン濃度が30ppmになるようにトルエン標準ガスをシリンジで導入した。20℃に設定された暗所恒温層内で容器ごと静置し、60分後のトルエン濃度をガスクロマトグラフで定量した。各試料のトルエン吸着量をμg/gで評価した。トルエンガス吸着試験の結果を図39、表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例3で得られたカルシウム系化合物は、トルエンガスの吸着性が特に良好であることが分かった。これは、実施例3で得られたカルシウム系化合物は、分散媒として水を用い、かつ、Ca/Pモル比が1.3となるように、水中で貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを反応させることで、図16に示すようにOCP含有量が多くなったためと考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成してなり、上記薄片粒子間には、当該カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることを特徴とするカルシウム系化合物。
【請求項2】
平均粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項1記載のカルシウム系化合物。
【請求項3】
分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、上記炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、上記リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させ、該炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集めることを特徴とするカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項4】
上記分散媒として、アルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いることを特徴とする請求項3記載のカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項5】
上記分散媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合には、アルコールの割合を多くすることを特徴とする請求項4記載のカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項6】
上記炭酸カルシウムは、平均粒径10μm以下に粉砕された貝殻由来の炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項3乃至5のうちいずれか1項記載のカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のカルシウム系化合物を含有してなることを特徴とする塗工紙。
【請求項1】
薄片粒子が寄り集まった花びら状を形成してなり、上記薄片粒子間には、当該カルシウム系化合物の内部まで貫通していない空隙が形成されていることを特徴とするカルシウム系化合物。
【請求項2】
平均粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項1記載のカルシウム系化合物。
【請求項3】
分散媒中で、貝殻由来の炭酸カルシウムとリン酸とを、上記炭酸カルシウム中のカルシウム(Ca)と、上記リン酸中のリン(P)とのモル比(Ca/Pモル比)が1<(Ca/Pモル比)<4となるように反応させ、該炭酸カルシウムが薄片化した薄片粒子を寄り集めることを特徴とするカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項4】
上記分散媒として、アルコール、又は、水とアルコールとの混合物を用いることを特徴とする請求項3記載のカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項5】
上記分散媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合には、アルコールの割合を多くすることを特徴とする請求項4記載のカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項6】
上記炭酸カルシウムは、平均粒径10μm以下に粉砕された貝殻由来の炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項3乃至5のうちいずれか1項記載のカルシウム系化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載のカルシウム系化合物を含有してなることを特徴とする塗工紙。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公開番号】特開2013−43786(P2013−43786A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180619(P2011−180619)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【Fターム(参考)】
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