説明

カルシウム系固溶体およびその利用

【課題】飲料水に適合する中性で安全でしかも簡単な方法でミネラルを強化する剤および方法を提供する。
【解決手段】カルシウムの硫酸塩および/またはリン酸1水素塩にマグネシウム、鉄、亜鉛、等の2価の必須ミネラルを固溶させた新規な固溶体を剤として用い、この剤の造粒物に水を接触、通水させる方法でミネラルが強化された中性の水が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカルシウムの硫酸塩および/またはリン酸1水素塩系固溶体、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の分子生物学の進歩により、生命の維持、健康にミネラルが強く関係していることが明らかになってきた。必須のミネラルは、多く必要とする順に、Ca(多量要素),Mg(中量要素),Fe,Zn,Mn,Cu(微量要素),等である。
【0003】
これら必須ミネラルは、基本的に、それぞれが異なった役目を果たしているため、原則としてお互いが代替できない関係にある。そのため、これらすべてのミネラルをそれぞれ必要とする量摂取する必要がある。ミネラルは不足すると各ミネラルに対応した欠乏症を起こし、逆に摂取量が多すぎると過剰症が発生する。したがって、必須ミネラルは、全ての種類を、しかもそれぞれに最適な量を摂取することが必要である。
【0004】
動植物のミネラル摂取の実態は、不足しているのが現在の状況である。したがって、人間には、近年サプリメントと称してミネラル剤が販売されている。しかし、これらはミネラルを含有しているが、含有していることと吸収性とは別問題である。含有はしているがミネラルの吸収性は必ずしも高くない。また市販のミネラル強化剤は高価な商品に属する。
【0005】
動物には飼料添加物として一部のミネラルが飼料に処方されているが、その種類が少なく、しかも共存する飼料の影響を受けやすく、吸収性が変動しやすい。
【0006】
植物において、たとえば農産物において、ミネラルは添加されているが、動物の場合と同様ミネラルの吸収性と種類の少なさに問題がある。さらなる問題として、7〜10日間隔で散布する必要があり、作業負荷の大きい問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミネラル不足を解消するために、人間にあっては、野菜を毎日多く食べることを奨励しているが実施率は未だ低い。むしろさらにミネラル不足が増える食生活をしている人が若年者ほど多い傾向にある。サプリメントを買って毎日飲むには、一般の人にとって経済的負担が大きい。しかもサプリメントの吸収性は必ずしも高くない。
農作物等の植物の生産において、一般的に土壌がミネラル不足である。しかし、現状はミネラル不足を認識していない人が多く。ミネラル不足を認識しても、既存の剤は吸収性や種類の少なさに問題があり、約1週間ごとに散布する必要があり、高い労働負荷を余儀なくされる等の問題がある。
したがって、本発明の目的は、動植物で不足しているミネラルを簡単、安価な方法で、しかも高い吸収率で提供できる新規なミネラル強化剤および強化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記式(1)
【0009】
【化1】

(式中M2+はMg,Zn,Fe,Mn,Cu,CoおよびNiの少なくとも1種以上の必須ミネラルの2価金属を示し、xとmは次の範囲にある、0<x<0.5、0≦m<5)で表わされる新規な硫酸カルシウムおよび/またはリン酸1水素カルシウム系固溶体をミネラル強化剤として使用する。
【0010】
さらに本発明は、この固溶体を水と接触させるだけの簡単且つ安価な方法、設備で、目的とするミネラルを強化した飲料水等の水を製造できる、製造法を提供する。
さらに本発明は、この固溶体を飲料水、肥料、飼料添加物等に利用する利用方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固溶体を水と接触させるだけでミネラル強化した水が製造できる。水道に連結すれば水道水に必須ミネラルを添加でき、安価で、しかも誰でも摂取しやすい方法で不足しがちなミネラルを、吸収性の良い形で提供し健康に寄与できる。
農作物等の植物に対し、土壌または葉面に与えることにより、収穫量の増加、味覚の向上、栄養成分の増加、そして、花卉等に対しては、開花日数の増加等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の固溶体を水と接触させるだけの極めて簡単な方法で、ミネラルとしての必要要件である濃度が高すぎず、且つ低すぎない条件を満たしながら、多数の必須ミネラルを水に供給、強化できる。水に溶解したミネラルは、全て動植物により容易に高効率で吸収される。しかも、本発明の固溶体は水のpHを中性近傍に保ちながらミネラルをイオンとして水に放出できるので、飲料水として好適である。ちなみに、国が定めた水道水の水質基準によるとpHは5.8〜8.6の範囲である。中性である特徴は、動物だけでなく、植物にも、そして、それを育てる土壌にも好適である。
【0013】
水に溶出するミネラルの濃度は約0.01〜数100ppmで制御でき、この濃度を経時的に安定して守りながら溶出するため、固溶体の量と水の流速の制御で、ミネラルの水への供給可能期間を数日〜数年の長期にわたって調整できる。
【0014】
本発明固溶体を農産物とか花卉に粉末または造粒物の形で土壌に与えると、雨水等の水によりミネラルが徐徐にイオンとして放出されるため、撒布作業が1年に1度か2度で良い。そのため、従来の液体ミネラル剤が約1週間ごとに散布の必要があることに比較して大幅な省力化ができる。
【0015】
本発明固溶体が植物に与える影響は大きく、根の発達が促進され、その結果地上部も生育が向上し、収穫量の増加、味覚の向上、ビタミン等の栄養成分の増加等の効果が出る。
土壌に添加する方法以外に、本発明固溶体の造粒物をカラムに詰めて、水を接触通過させ、通過した水を葉面散布する簡単な方法で、液体肥料として利用することもできる。
また、水耕栽培において、本発明固溶体の造粒物を充填したカラム層に液体肥料または水を通液させる等の方法で利用できる。
【0016】
本発明の式(1)の固溶体は、硫酸カルシウム:CaSO.0〜2HO,の結晶と同じ結晶構造、またはリン酸水素カルシウム:CaHPO.0〜2HOと同じ結晶構造をしている。これらいずれかの結晶においても、Caの一部がMg等の式(1)の2価金属
2+により置換された構造をしている。その結果、固溶体は硫酸カルシウムまたはリン酸1水素カルシウムに近い水に対する溶解性を示す。換言すると、固溶体を形成するミネラルの組成比に近い成分が、硫酸カルシウムまたはリン酸1水素カルシウムに近い溶解度で水に溶けだす。
【0017】
本発明の固溶体は非晶質のCaおよび/またはM2+の水酸化物、塩基性硫酸塩およびまたは塩基性リン酸1水素塩を含有してもよい。ここに言う塩基性とは水酸基が含まれることを意味する。
【0018】
本発明の固溶体の製造は、種々の方法で製造でき、例えば本発明者の発明した下記式(2)
【0019】
【化2】

【0020】
(但し式中、M2+とxは式(1)と同じ定義である)で表わされる水酸化カルシウム系固溶体に硫酸および/またはリン酸を加える方法で実施できる。水酸化カルシウム系固溶体の製造は、例えばCaとM2+の水溶性塩の混合水溶液に水酸化ナトリウム等のアルカリを加えて共沈させる方法で実施できる。
【0021】
上記以外の製造方法としては、例えばM2+の硫酸塩水溶液に水酸化カルシウムをほぼ当量加え、続いて硫酸および/またはリン酸を加えることにより製造できる。
さらに他の製造方法としては、CaとM2+の水溶性塩(例えば塩化物)の混合液に硫酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を加える方法によっても実施できる。
【0022】
本発明固溶体の組成は固溶する範囲で自由に選択できるが、多量必須ミネラルCaを主成分とし、これに同じく中量必須ミネラルであるMgを準成分とし、微量必須ミネラルであるZn,Fe,Mn,CuをCaとMgの約1/10〜1/100の範囲ですべて含有させるのが特に好ましい。
【0023】
本発明の固溶体には、上記必須ミネラル以外に少量のCr3+等の3価必須ミネラルを含有させることもできる。さらに、必須ミネラルの酸素酸イオン例えば、MoO2−,SeO2−,VO3−等をSO2−またはHPO2−に置換して固溶または、混合させて用いることもできる。
【0024】
本発明の固溶体は粉末状で用いることもできるが、造粒してたとえば直径0.5〜10mm程度にして用いることが通水性、粉の飛散性防止等で好ましい。造粒は従来公知の方法例えば、押し出し成型、転動造粒等により実施できる。この際、水だけで造粒できるが、微結晶セルロース、粘土等の慣用のバインダーを使用しても良い。
【0025】
ミネラル含有水の製造は、本発明固溶体好ましくはその造粒物と水を接触させることで実施できる。例えば、造粒物をカラムに充填し、これに水道水等の水を通過させることにより実施できる。水に溶けだすミネラルの濃度は固溶体の量と通水速度により増減できる。
固溶体の量を増やすか、通水速度を下げれば溶出するミネラル濃度は増加する。
【0026】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0027】
塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸第一鉄、硝酸マンガン、硝酸第二銅の混合水溶液(Ca=0.65モル/L,Mg=0.2モル/L,Zn=0.075モル/L,Fe=0.045モル/L,Mn=0.025モル/L,Cu=0.005モル/L)2Lを2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液1.05Lに攪拌下に添加、共沈させた。得られた沈殿を水洗ろ過後、ケーキを水に再分散させた。攪拌下に2モル/Lの硫酸を加え中和した。その後ろ過、水洗、乾燥(約100℃、4時間)、粉砕した。得られた粉末のX線回折を測定した結果、含水硫酸カルシウム;CaSO・2HO、だけの、ただし少し高角側にシフトしているが、回折パターンであった。
【0028】
この結果から、Mg,Zn,Fe,MnおよびCuの硫酸塩が硫酸カルシウムCaSO・2HO、に固溶していることが分かる。この粉末を蛍光X線法で組成分析を行い、化学組成を調べた結果は以下の通りであった。
(Ca)0.640(Mg)0.206(Zn)0.076(Fe)0.044(Mn)0.029(Cu)0.005.SO・2H
【0029】
上記粉末を、小型パン型造粒機を用い、回転させながら水を加え、造粒を行い、直径が約3mmの造粒物を得た。これを約100℃で1時間乾燥した後、その10gを不織布の袋に入れ、直径約30mmのカラムに充填し、水道水を、定量ポンプを使用して1分間に80mLの流速でカラムの下部から通水した。通水した水20Lの一部を採り、水に溶出した元素をICPで分析し、pHをpHメーターで測定した結果を次に示す。
Ca=48ppm,Mg=3.4ppm,Zn=0.93ppm,Fe=0.43ppm,Mn=0.09ppm,Cu=0.02ppm,pH=7.4。
【0030】
この結果、本発明固溶体の造粒物を充填したカラムに水道水を接触、通過させるだけの簡単な設備、方法で飲料水に動物および植物双方に必須のミネラルを強化できることが分かる。なお、使用した水道水のCaとMg濃度はCa=12.0ppm,Mg=1.2ppmであった。
【実施例2】
【0031】
硫酸マグネシウム水溶液(Mg=1.5モル/L)2Lに、攪拌下に、水酸化カルシウムスラリー(Ca=2モル/L)を1.5L加えた。続いてオルトリン酸水溶液(2モル/L)を500mL、硫酸(2モル/L)を100mL加えた後、ろ過、水洗し、約100℃で乾燥後粉砕した。得られた粉末のX線回折パターンは、わずかに高角側にシフトしているがCaSO.2HO/またはCaHPO.2HOのみであった。CaSO.2HOとCaHPO.2HOは同じX線回折パターンを示す。したがって、この結果から、MgはCaHPO.2HOおよび/またはCaSO.2HOのCaの一部をMgが置換した固溶体を形成していることが分かる。この粉末の蛍光X線分析の結果、化学組成は次の通りであった。
(Ca)0.58(Mg)0.42(SO4)0.65(HPO0.35・2H
【0032】
この粉末を実施例1の要領で転動造粒した直径約3mmの造粒物10gを実施例1と同様にして、カラムに充填後、水道水を、計量ポンプを使用して120mL/分の速度で通水した。通水捕集した約60Lの水に含まれるCaとMgをICP法で分析した結果、Ca=45ppm、Mg=12ppmであった。なお使用した水道水のCaとMgはそれぞれCa=12.0ppm、Mg=1.2ppmであった。通水捕集水のpHをpHメーターで測定した結果7.6であった。
【実施例3】
【0033】
幅約30cm、長さ約60cm、深さ約35cmのプランター2個を用意し、それぞれに、市販の培養土を入れ、土の深さを約30cmとした。4月2日に、このプランターそれぞれにサンチュを3本移植し、片方のプランターに、実施例1で作成した固溶体の粉末を6g、土の表面に均等に撒いた。さらに両方のプランターに窒素、リン、カリをそれぞれ8%含有する市販の肥料をそれぞれのプランターに30g均等に土の表面に撒いた。4月29日に栽培を終了し、収穫後水洗した後、地上部、地下部の重量、クロロフィル量、糖度および硝酸態窒素量を測定し、それぞれの3本の平均値を算出した。その結果を表1に示す。
なお、クロロフィルはクロロテスターで、糖度はBrix糖度計で、硝酸態窒素はイオンメーターでそれぞれ測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
この結果から、本発明固溶体を撒布した方が、地上部および地下部(根)ともに成長が良く、しかも、クロロフィル(葉緑素)、糖度が向上し、有害な硝酸態窒素が減少していることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中M2+はMg,Zn,Fe,Mn,Cu,CoおよびNiの少なくとも1種以上の2価の必須ミネラルイオンを示し、xとmは次の範囲にある、0<x<0.5、0≦m<5)で表わされるカルシウムの硫酸塩および/またはリン酸1水素塩系固溶体。
【請求項2】
式(1)においてM2+がMgである請求項1記載の固溶体。
【請求項3】
式(1)においてM2+が必須ミネラルMg,Zn,Fe,MnおよびCuである請求項1記載の固溶体。
【請求項4】
請求項1記載の固溶体を有効成分として含有する飲料水のミネラル強化剤。
【請求項5】
請求項1記載の固溶体を有効成分として含有する肥料。
【請求項6】
請求項1記載の固溶体を有効成分として含有する飼料添加物。
【請求項7】
請求項1記載の固溶体の造粒物中に水を接触、通過させることを特徴とする必須ミネラル強化水の製造方法。


【公開番号】特開2012−76960(P2012−76960A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223413(P2010−223413)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】