説明

カルシウム補給剤及びその製造方法

【課題】カルシウム吸収性に優れたカルシウム補給剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カタツムリを殻ごと粉砕し、得られた粉砕物を酵素によって蛋白質を分解処理してカルシウム補給剤を製造する。カタツムリの殻ごとの粉砕物に、アルカリ剤を添加してpH9〜10に調整し、アルカリプロテアーゼを添加して蛋白質を分解処理することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カタツムリを原料とするカルシウム補給剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カタツムリは、栄養価が高く、殻から取り出した身を加熱調理して食用に供される。身を取り出して残った殻は、料理の飾り付け等に用いられることが主であり、食用されずにそのまま廃棄されていた。
【0003】
しかしながら、カタツムリの殻にはカルシウムが豊富に含まれており、カタツムリの持つ栄養成分を損なうことなく使用するため、下記特許文献1に記載されるように、カタツムリを粉砕して微粉末にして食品素材として用いることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−232866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カタツムリの殻に含まれるカルシウムは吸収性が低く、特許文献1に示されるように、カタツムリを微粉末化しても、カルシウムの吸収性は十分とは言えなかった。
【0006】
よって、本発明の目的は、カルシウム吸収性に優れたカルシウム補給剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々の検討の結果、カタツムリの蛋白質を分解処理して低分子化することにより、カルシウムの吸収性を促進できることを見出し、本発明の目的を達成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のカルシウム補給剤は、カタツムリの殻ごとの粉砕物であって、酵素によって蛋白質が分解処理されたものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のカルシウム補給剤の製造方法は、カタツムリを殻ごと粉砕し、得られた粉砕物を酵素によって蛋白質を分解処理することを特徴とする。
【0010】
本発明のカルシウム補給剤は、前記酵素がアルカリ性プロテアーゼであることが好ましい。
【0011】
本発明のカルシウム補給剤は、乾燥粉末化されたものであることが好ましい。
【0012】
本発明のカルシウム補給剤の製造方法は、カタツムリの殻ごとの粉砕物に、アルカリ剤を添加してpH9.0〜10.0に調整し、アルカリプロテアーゼを添加して蛋白質を分解処理することが好ましい。
【0013】
本発明のカルシウム補給剤の製造方法は、蛋白質を分解処理した後、乾燥粉末化することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカルシウム補給剤は、カタツムリの殻ごとの粉砕物であって、酵素によって蛋白質が分解処理されているので、カルシウムの吸収性が高められており、カルシウム補給効果に優れている。
【0015】
また、本発明のカルシウムの製造方法は、カタツムリを殻ごと粉砕し、得られた粉砕物を酵素によって蛋白質を分解処理することにより、カルシウムの吸収性に優れた、カルシウム補給剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カタツムリ酵素処理物(酵素処理2時間)の蛋白質の分子量分布を示す図である。
【図2】カタツムリ酵素処理物(酵素処理4時間)の蛋白質の分子量分布を示す図である。
【図3】カタツムリ粉砕物(酵素処理0時間)の蛋白質の分子量分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のカルシウム補給剤は、カタツムリを殻ごと粉砕し、得られた粉砕物を酵素によって蛋白質を分解処理して製造できる。
【0018】
原料となるカタツムリは、食用に適したものであればよく、特に限定は無い。例えば、リンゴマイマイ、プティ・グリなどのリンゴマイマイ科に属するカタツムリや、アフリカマイマイなどのアフリカマイマイ科に属するカタツムリが挙げられる。また、オナジマイマイ科やニッポンマイマイ科に属するカタツムリも好ましく用いることができる。これらのカタツムリは、そのまま(生の状態)で用いてもよく、ボイル処理、加熱蒸気処理等の加熱処理を行い、凍結したものを用いてもよい。
【0019】
カタツムリの粉砕方法は、特に限定は無い。剪断処理、擂砕処理、摩砕処理など、従来公知の方法で行うことができる。なかでも、コロイドミル、マスコロイダー等の機械を用いて粉砕することが好ましい。また、凍結したカタツムリを原料として用いる場合、凍結状態のまま粉砕処理してもよく、少なくとも一部を解凍してから粉砕処理してもよい。
【0020】
カタツムリの粉砕処理は、カタツムリの殻の粒径が、JIS標準ふるいで、好ましくは60メッシュパス、より好ましくは200メッシュパスになるまで行う。
【0021】
こうして得られたカタツムリの粉砕物を、酵素処理して蛋白質を分解処理する。酵素処理することで、蛋白質を目的とする分子量に調整し易い。また、蛋白質の強い化学処理による変性を抑えることができる。
【0022】
酵素処理は、カタツムリの粉砕物を水中に溶解又は分散させ、溶液のpHを使用する酵素の至適pHとなるように調整した後、酵素を添加して酵素処理する。酵素としては、トリプシン、キモトリプシン等のアルカリ性プロテアーゼ等が好ましく挙げられる。アルカリ性プロテアーゼを用いて酵素処理する場合、カタツムリの粉砕物を水中に溶解又は分散させた溶液のpHを、好ましくは8〜11、より好ましくは9〜10に調整し、40〜60℃で、2〜8時間行う。そして、所定時間酵素処理した後、酸を加えて中和し、80〜125℃で、5〜40分加熱する。これにより、酵素が失活して反応が停止すると共に、殺菌処理される。
【0023】
なお、酵素処理の代わりに、あるいは酵素処理と併用して、酸処理及び/又はアルカリ処理を行い、蛋白質の分解処理を行ってもよいが、酸処理やアルカリ処理では、強すぎるとアミノ酸まで分解して、かえって活性が落ちたり,変性したりする可能性がある。
【0024】
酸処理は、カタツムリの粉砕物を水中に溶解又は分散させ、溶液のpHを1.5〜3.5(好ましくは2.0〜3.0)に調整し、45〜65℃(好ましくは50〜60℃)で、1〜4時間(好ましくは2〜4時間)行う方法が好ましい一例として挙げられる。
【0025】
アルカリ処理は、カタツムリの粉砕物を水中に溶解又は分散させ、溶液のpHを10〜13(好ましくは11〜12)に調整し、30〜55℃(好ましくは50〜55℃)で、0.5〜3時間(好ましくは1.5〜2.5時間)行う方法が好ましい一例として挙げられる。
【0026】
このようにして得られる分解処理物は、カタツムリの蛋白質が分解されて低分子化されている。また、カタツムリを殻ごと粉砕したものであるので、カルシウムを豊富に含んでいる。カタツムリの殻は比較的柔らかいため、その粉砕物はざらつきが少なく、滑らかな食感である。そして、後述する実施例に示されるように、カルシウムの吸収性が高められているので、カルシウムの補給効果に優れている。この理由は定かではないが、蛋白質が低分子化することにより、カルシウムの腸管膜透過性が向上したためであると考えられる。
【0027】
この分解処理物は、カルシウムが大量に含まれているので、そのままカルシウム補給剤として用いてもよいが、卵殻焼成カルシウム、貝殻焼成カルシウム、魚骨カルシウム、牛骨カルシウム、豚骨カルシウム等の食用カルシウム素材を更に含有させてもよい。
【0028】
本発明のカルシウム補給剤は、上記分解処理物を乾燥粉末化して用いることが好ましい。乾燥粉末化することで、保存性や携帯性を高めることができる。乾燥粉末化したものは、そのままの形態で用いてもよく、賦形剤を加えて打錠成形し錠剤の形態で用いてもよく、カプセルに封入してカプセル剤の形態で用いてもよい。分解処理物の乾燥粉末化方法としては、特に限定は無く、従来公知の方法で行うことができる。例えば、熱風乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。なかでも、熱変性が少ないという理由から凍結乾燥が好ましい。
【0029】
本発明のカルシウム補給剤は、それ自体を経口摂取して用いてもよく、飲食品に添加して用いてもよい。飲食品に添加することで、飲食品のカルシウム補給性を高めることができる。
【実施例】
【0030】
(測定方法)
蛋白質総量:ケルダール窒素定量法により測定した。
【0031】
蛋白質の可溶性成分:試料0.5gを水10mlに分散して、ろ紙(アドバンテック社製、No.3)で吸引ろ過を行い、ろ液をケルダール窒素定量法により測定した。
【0032】
蛋白質の分子量分布:試料40mgに、水8.25mlと、アセトニトリル6.75mlと、トリフルオロ酢酸0.01mlとを加え、室温で一夜静置した後、20mlに定容し、孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過して試験液を調製し、該試験液を高速液体クロマトグラフに注入し、以下の条件により分子量分布を測定した。なお、分子量の標準品は表1に示すものを使用した。
【0033】
高速液体クロマトグラフ分析条件
・カラム:Shodex WS−803F
・移動相:水8.25mlと、アセトニトリル6.75mlと、トリフルオロ酢酸0.01mlとの混液
・移動相流量:0.5ml/min
・注入量:20μl
・検出器:紫外線分光光度計 測定波長220nm
【0034】
【表1】

【0035】
(カタツムリ酵素処理物の製造)
熱水に浸漬してボイルした後、凍結したカタツムリ(Helix Pomatia)を殻ごとマスコロイダーによって粉砕し、80メッシュパスに粉砕された殻を含む粉砕物を得た。得られた粉砕物150gに水50mlを加えて懸濁液を調製し、水酸化ナトリウム溶液を用いて、懸濁液のpHを9.5に調整した。この懸濁液に、市販のアルカリ性プロテアーゼを0.3ml添加して、50℃で2〜4時間処理を行った。処理中、懸濁液のpHを随時確認して、9.5を保った。所定時間の経過後、処理液にクエン酸を添加してpHを7.2に調整し、80℃で10分間失活処理を行った後、凍結乾燥を行い、カタツムリ酵素処理物を製造した。
得られたカタツムリ酵素処理物(酵素処理2時間、4時間)、及び酵素処理を行っていないカタツムリ粉砕物(酵素処理0時間)の蛋白質の総量、蛋白質の可溶性成分、蛋白質の分子量分布を測定した。蛋白質の総量、蛋白質の可溶性成分、全蛋白質中の可溶性成分の割合を表2に示す。また、カタツムリ酵素処理物(酵素処理2時間)の蛋白質の分子量分布を図1に示し、カタツムリ酵素処理物(酵素処理4時間)の蛋白質の分子量分布を図2に示し、カタツムリ粉砕物(酵素処理0時間)の蛋白質の分子量分布を図3に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
<カルシウム吸収性試験>
1.試料の調製方法
以下に示す配合で試料溶液A、B、Cをそれぞれ調製した。
【0038】
試料溶液A(外液):カタツムリ酵素処理物(酵素処理4時間)1.786gを蒸留水で溶解し、500mlにメスアップして6.23mMのカルシウム溶液を調製した。このカルシウム溶液20mlに、25mMのリン酸二水素カリウム溶液20mlと、675mMの塩化ナトリウム溶液20mlとを加え、1Nの水酸化ナトリウムにてpHを7.4に調整し、液量が100mlとなるように蒸留水を加えて、試料溶液Aを調製した。
【0039】
試料溶液B(外液):カタツムリ粉砕物(酵素処理0時間)1.786gを蒸留水で溶解し、500mlにメスアップして6.23mMのカルシウム溶液を調製した。このカルシウム溶液20mlに、25mMのリン酸二水素カリウム溶液20mlと、675mMの塩化ナトリウム溶液20mlとを加え、1Nの水酸化ナトリウムにてpHを7.4に調整し、液量が100mlとなるように蒸留水を加えて、試料溶液Bを調製した。
【0040】
試料溶液C(内液):蒸留水中に、25mMのリン酸二水素カリウム溶液20mlと、675mMの塩化ナトリウム溶液20mlとを加え、1Nの水酸化ナトリウムにてpHを7.4に調整し、液量が100mlとなるように蒸留水を加えて、試料溶液Cを調製した。
【0041】
2.実験工程
SD系4週齢雄マウスを、18時間絶食させた後、屠殺し、腹大動脈より脱血処理を行った。次に、Treitz’s ligament部位から20cmを空腸部位として分離した。そして、分離した空腸を、10cm部位で2分割し、それぞれ生理食塩水で緩やかに洗浄したのち、ステンレス棒を用いて腸の上方から腸管を裏返し、一方の端部を糸で結紮した。そして、結紮部位から約6cmの部位に、あらかじめ37℃に保温した試料溶液C(内液)1.0ml入りの2.5mlディスポシリンジ付きポリエチレンチューブを装着し、縫合糸で結紮した。
そして、液温を37℃で保温した試料溶液C(内液)1mlを腸管内に注入し、37℃に保温した試料溶液A、B(外液)10mlのそれぞれに、腸管を浸漬させ、37℃で30分間、5%炭酸ガス含有酸素を通じながら緩やかに振とうした。
30分間振とう後、結紮間の長さを測定したのち、内液及び外液をそれぞれ採取し、内液及び外液とそれぞれ同量の硝酸を加えて湿式灰化を行い、蒸発乾固させた後、内液及び外液に含まれるカルシウム量を測定し、カルシウム吸収率を求めた。統計処理については、Student’S−t検定を用い、危険率5%以下をもって有意と判定した。結果を表3に示す。
なお、カルシウム吸収率は、外液中のカルシウムが内液に移行したカルシウムの割合とし、下式に基づいて算出した。
【0042】
カルシウム吸収率(%)=試験後の内液のカルシウム量/試験前の外液のカルシウム量
【0043】
【表3】

【0044】
試料溶液Aはカタツムリ酵素分解物を含むものであり、試料溶液Bは酵素処理していないカタツムリ粉砕物を含むものであるが、上記結果から明らかなように、試料溶液Aの方が、試料溶液Bよりもカルシウム吸収率が高く、カタツムリ酵素分解物はカルシウムの吸収を促進する作用があることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カタツムリの殻ごとの粉砕物であって、酵素によって蛋白質が分解処理されたものであることを特徴とするカルシウム補給剤。
【請求項2】
前記酵素がアルカリ性プロテアーゼである請求項1記載のカルシウム補給剤。
【請求項3】
乾燥粉末化されたものである請求項1又は2に記載のカルシウム補給剤。
【請求項4】
カタツムリを殻ごと粉砕し、得られた粉砕物を酵素によって蛋白質を分解処理することを特徴とするカルシウム補給剤の製造方法。
【請求項5】
カタツムリの殻ごとの粉砕物に、アルカリ剤を添加してpH9.0〜10.0に調整し、アルカリプロテアーゼを添加して蛋白質を分解処理する請求項4記載のカルシウム補給剤の製造方法。
【請求項6】
蛋白質を分解処理した後、乾燥粉末化する請求項4又は5に記載のカルシウム補給剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240947(P2012−240947A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111364(P2011−111364)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(591190494)株式会社富士見養蜂園 (2)
【Fターム(参考)】