説明

カルド構造を有するπ共役化合物並びにその製造方法及び用途

【課題】 長期に渡り結晶化せずに薄膜が安定に保持され、且つ真空蒸着法に加えて、高い溶解性によるスピンコート法等の塗布法によっても成膜可能な新規な発光材料、特に青色発光材料又は電子輸送材料を提供する。
【解決手段】 特定構造を有するフルオレン中間体と特定構造を有するボロン酸化合物Aとを遷移金属触媒存在下に反応させ、酸触媒存在下に脱保護し、更にトリフルオロメタンスルホニル化した後、再度遷移金属触媒存在下に特定構造を有するボロン酸化合物Bと反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルド構造を有するπ共役化合物並びにその製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関するものである。カルド構造を有するπ共役化合物は、広く有機半導体材料に使用でき、更に具体的には、平面光源や表示に使用される有機EL素子の発光材料若しくは電子輸送材料、又は有機トランジスタ材料として利用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光、高速応答性、高視野角の特徴を有するフラットパネルディスプレイとして、有機エレクトロルミネッセンス素子等が注目されている。そして、その構成材料として、有機発光材料への関心が高まっている。有機発光材料の第一の利点は、分子設計によって、材料の光学的な性質をある程度コントロールできるところにあり、これによって赤、青、緑の3原色発光をすべてそれぞれの発光材料で作製したフルカラー有機発光素子の実現が可能となるものである。
【0003】
これまでに数多くの材料が開発されているが、その多くが有機溶媒に対する低い溶解性と、それ自体の高い結晶性のために、有機EL材料としては必ずしも好適な化合物とはならなかった。例えば、青色発光材料又は電子輸送材料として知られているポリフェニレン化合物、代表的な化合物としてセキシフェニル誘導体又はその類似化合物が挙げられるが、それ自体の高い結晶性のため、真空蒸着により薄膜を形成した時に凝集が起こり、安定な薄膜が得られず、それを有機EL素子等の有機薄膜デバイスに応用した場合、ショート又はダークスポット等が発生する可能性が大きいという問題があった(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
また、セキシフェニルをスピロ4級炭素で結合させたスピロ−6φは、高いガラス転移温度(Tg)を有し、スピンコート法により作製した有機EL素子中でも長時間結晶化することがなく、青色発光を示すと記載されているものの、十分に満足のいくものではなかった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
更に、電子輸送材料、正孔ブロック材料として有用なバソフェナントロリンは、電子移動度に関しては高い値を示すものの、長期の薄膜安定性が低いため、素子寿命の観点からは問題を有している。そのため、フェナントロリン誘導体の薄膜安定性及び電子親和性を改良するため、9,9−ジアルキルフルオレニレン基を導入したフェナントロリン誘導体が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−278537号公報
【特許文献2】特開平2004−277377公報
【非特許文献1】有機EL材料とディスプレー(シー エム シー出版)p195
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、長期に渡り結晶化せずに薄膜が安定に保持され、且つ真空蒸着法に加えて、高い溶解性によるスピンコート法等の塗布法によっても成膜可能な新規な発光材料、特に青色発光材料、正孔ブロック材料又は電子輸送材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般式(1)で表されるカルド構造を有する特定のπ共役化合物が、熱安定性の指標であるガラス転移温度が高いこと、そのうちの多くの化合物が結晶性化合物ではなく、非晶質構造をとることから薄膜安定性に優れること、結晶性を示したとしても、カルド構造(カルドとは、ちょうつがいを意味する言葉であり、主鎖に対し環状の基が直接結合したものをいう)のためか、長期に渡って真空蒸着法のみならずスピンコート等の塗布法によっても薄膜が白濁化しないこと、及び特に有機エレクトロルミネッセンス素子において発光材料、正孔ブロック材料、電子輸送材料として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、一般式(1)で表されるカルド構造を有するπ共役化合物並びにその製造方法及び用途に関するものである。
【0009】
【化1】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基若しくはフェノキシ基、又はハロゲン原子を表し、Arは各々独立して下記一般式(2)又は(3)で表される基を表す。Arは各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基又は炭素数3〜24のヘテロアリール基を表す。)
【0010】
【化2】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。l,mは0〜3の整数、nは0〜2の整数を表す。)
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0011】
一般式(1)で表されるカルド構造を有するπ共役化合物において、Arは各々独立して下記一般式(2)又は(3)で表される基である。
【0012】
【化3】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。l,mは0〜3の整数、nは0〜2の整数を表す。)
アルキル基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキサジエニル基又は2−シクロペンテン−1−イル基等を例示することができる。
【0013】
アルコキシ基としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ステアリルオキシ基又はトリフルオロメトキシ基等を例示することができる。
【0014】
置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基としては、具体的には、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−シクロペンチルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、1−ビフェニリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基又は9,9−ジメチル−2−フルオレニル基等を挙げることができる。
【0015】
置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数3〜24のヘテロアリール基としては、具体的には、ピリジル基、ビピリジル基又はキノリル基等の含窒素複素環式芳香族基が挙げられる。
【0016】
中でも、フェニル基、ピリジル基がより好ましい。
【0017】
置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリールオキシ基としては、具体的には、フェノキシ基、p−tert−ブチルフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基又は4−フルオロフェノキシ基等を挙げることができる。
【0018】
ハロゲン原子としては、弗素、塩素、臭素又はヨウ素原子が挙げられる。
【0019】
上記一般式(1)で表されるπ共役化合物において、Arは各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基であり、具体的には、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−アントリル基、9−アントリル基、2−フルオレニル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ペリレニル基、ピセニル基が挙げられる。置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数3〜24のヘテロアリール基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子のうち少なくとも一つのヘテロ原子を含有する芳香族基であり、例えば、4−キノリル基、4−ピリジル基、3−ピリジル基、2−ピリジル基、2−ジピリジリル基、1,10−フェナントロリニル基、アザフルオレニル基、3−フリル基、2−フリル基、3−チエニル基、2−チエニル基、2−オキサゾリル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ベンゾイミダゾリル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。置換基としては、上記R〜Rに記載された置換基を例示することができる。
【0020】
中でも、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基の他、アントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ピセニル基、ペリレニル基又はベンゾ[c]フルオレニル基等の縮合環式芳香族基、1,10−フェナントロリニル基、アザフルオレニル基等のヘテロアリール基、下記一般式(6a)又は(6b)で表される置換基が好ましい。
【0021】
【化4】

(式中、R13〜R15は、各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくは炭素数3〜24のヘテロアリール基を表す。p及びqは1≦p+q≦3を満たす整数、s,xは0〜2の整数を表す。)
中でも、下記一般式(4a)、(4b)又は(5)で表される縮合環式芳香族基若しくはヘテロアリール基がより好ましい。
【0022】
【化5】

(式中、R〜Rは、各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。また、Xは炭素原子又は窒素原子を表す。)
【0023】
【化6】

(式中、R10〜R12は、各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。但し、R10とR11は互いに結合して環を形成していてもよい。また、Xは炭素原子又は窒素原子を表す。)
表1〜4に上記一般式(1)で表されるπ共役化合物の具体例を示すが、これら化合物に限定されるものではない。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

前記一般式(1)で表されるπ共役化合物は、公知の反応形式(例えば、Chem. Rev.19955,95,p2457−2483参照)により合成可能である。例えば、下記一般式(7)で表されるフルオレン中間体と下記一般式(8)で表されるボロン酸化合物Aとを遷移金属触媒存在下に反応させ、酸触媒存在下に脱保護し、更にトリフルオロメタンスルホニル化した後、更に遷移金属触媒存在下にボロン酸化合物B(9)と反応させることにより合成することができる。
【0028】
遷移金属触媒としては、ニッケル触媒、パラジウム触媒を例示することができる。より具体的には、ニッケル触媒として、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンニッケル(II)クロライド、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンニッケル(II)クロライド、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケル(II)クロライド、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロライド等が挙げられる。また、パラジウム触媒として、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム(II)クロライド、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンパラジウム(II)クロライド、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンパラジウム(II)クロライド、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンパラジウム(II)クロライド、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンパラジウム(II)クロライド、ビス(トリ−ターシャリーブチルホスフィン)パラジウム(0)、ポリマー固定型パラジウム触媒、パラジウム炭素等が挙げられる。
【0029】
【化7】

(式中、Zはフェノール基の保護基であり、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基若しくはフェノキシ基、又はハロゲン原子を表し、Xはヨウ素原子、臭素原子又は塩素原子を表す。)
【0030】
【化8】

(式中、Arは各々独立して下記一般式(2)又は(3)で表される基を表す。Arは各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基又は炭素数3〜24のヘテロアリール基を表す。)
【0031】
【化9】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。l,mは0〜3の整数、nは0〜2の整数を表す。)
Zは、公知のフェノール性水酸基の保護基(例えば、Protecting Group in Organic Synthesis, John Wiley & Sons)であれば特に制限はないが、脱離の容易さの観点から、エトキシエトキシメチル基、メトキシメチル基等のアルコキシアルキル基が好ましい。
【0032】
フェノール性水酸基の保護基は、酸触媒存在下に脱離させることができる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素等が挙げられる。これらの酸触媒中、塩酸が特に好ましい。
【0033】
より具体的な合成法として、Zがメトキシメチル基の場合の合成例を簡単に下記一般式(10)に例示することができる。
【0034】
【化10】

本発明のカルド構造を有するπ共役化合物は、特に有機エレクトロルミネッセンス素子の青色発光材料、正孔ブロック材料、電子輸送材料に使用できる。正孔ブロック材料は、素子に用いられる発光材料、例えば緑色蛍光材料であるアルミニウムトリスキノリノール錯体(Alq)、燐光ホスト材料である4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)のイオン化ポテンシャルより高いほうが好ましい。また、電子輸送材料は、従来のAlq、バソフェナントロリンの電子親和性と同等以上がより好ましい。更に、電子輸送材料は、従来材料のAlqの電子移動度(10−6cm/V・s程度)より大きいことがより好ましい。上記イオン化ポテンシャルは、通常、光電子分光法又はサイクリックボルタンメトリにより測定可能である。更に、電子親和性は、光電子分光法から求められるイオン化ポテンシャル及び吸収スペクトルの吸収末端のエネルギーから求めるか、サイクリックボルタンメトリにより測定可能である。
【0035】
また、本発明のカルド構造を有するπ共役化合物は、従来材料とは異なり、薄膜安定性に優れる利点を有する。従って、有機EL素子若しくは電子写真感光体等の発光材料、正孔ブロック材料及び電子輸送材料としてのみでなく、有機トランジスタ材料、光電変換素子、太陽電池、イメージセンサー等の有機半導体材料のいずれの分野においても使用できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のカルド構造を有するπ共役化合物は、従来の材料と比較して、薄膜安定性及び耐久性に優れた材料であり、有機EL素子若しくは電子写真感光体等の発光材料及び電子輸送材料としてのみでなく、有機トランジスタ材料、光電変換素子、太陽電池、イメージセンサー等の広範な有機半導体材料として有用である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明する。
【0038】
なお、FDMS(電界脱離質量分析法)測定は、日立製作所製 M−80Bを用いて行った。
【0039】
NMR測定は、バリアン社製 GEMINI−200を用いて行った。
【0040】
GCMS測定は、日本電子(株)製 JMS−K9を用いて行った。
【0041】
元素分析測定は、パーキンエルマー(株)製 2400IIを用いて行った。
【0042】
合成例1(2,7−ジブロモ−9,9’−ビス[4−(メトキシメチルオキシ)フェニル]−9H−フルオレンの合成)
100mLナス型フラスコに、窒素気流下、水素化ナトリウム0.82g(34.2mmol)及びテトラヒドロフラン25mLを加え、反応液を0℃に冷却した。そこへ、2,7−ジブロモ−4,4’−(9−フルオレニリデン)−ジフェノール 6.5g(14.3mmol)テトラヒドロフラン溶液を滴下し、引き続きクロロメチルメチルエーテル3.44g(42.7mmol)を滴下した後、室温下で12時間攪拌し、メタノールを10mL添加し、水素化ナトリウムを分解した。その後、トルエン20mLを加えて有機相を分離した。水及び飽和食塩水にて洗浄後、有機相を濃縮した。濃縮液をエタノールから再結晶することにより、2,7−ジブロモ−9,9’−ビス[4−(メトキシメチルオキシ)フェニル]−9H−フルオレンを6.7g(収率=80%)単離した。
【0043】
合成例2(2,7−ジブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレンの合成)
マグネシウム3.3g(135mmol)、2−ブロモビフェニル 31.4g(135mmol)から別途調製したテトラヒドロフラン溶液0.2Lを40℃に保持しながら、2,7−ジブロモフルオレノン 35g(104mmol)とテトラヒドロフラン280mLの混合溶液に滴下した(反応容器は、1Lのセパラブルフラスコを使用)。滴下終了後、更に同温度で3時間攪拌した。反応終了後、10%塩化アンモニウム水溶液420gを室温下加え、有機層を分離した。有機層は、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過、濃縮し、最終的にトルエンにて再結晶することにより、36gのカルビノール体を得た。次に、1Lセパラブルフラスコに、カルビノール体34g、ビフェニル107g、酢酸480g及び硫酸27gを仕込み、80℃で一晩加熱攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、反応液を氷水中に攪拌しながら加え、反応を終了させた。得られた沈殿は、水で洗浄し、更に熱エタノールで洗浄した。最終的に、トルエンにて再結晶することにより、27gの2,7−ジブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレンを得た(融点=277−282℃、収率=80%)。
【0044】
同定は、FDMS、H−NMR及び13C−NMRにより行った。
・FDMS:628
H−NMR(CDCl,ppm);7.23−7.64(m,24H)
13C−NMR(CDCl,ppm);152.8,143.2,140.4,140.0,138.0,131.0,129.4,128.7,128.3,127.3,127.2,126.9,121.9,121.6,65.2
合成例3(2−ブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレンの合成)
2,7−ジブロモフルオレノンを2−ブロモフルオレノンに変更した以外は合成例2と同様の操作を行い、2−ブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレンを得た。
【0045】
同定は、FDMSにより行った。
・FDMS:548
合成例4(2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの合成)
2−ブロモフルオレン 15g(40.8mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド329mg(2.5mol%)、48%水酸化ナトリウム3.73g及びトルエン220mLを500mLナス型フラスコに仕込み、空気をバブリングさせながら60℃で一晩加熱攪拌した。濃縮後、水を80mL添加し、析出した沈殿を濾過し、pHが中性になるまで洗浄した。その後、エタノール/テトラヒドロフラン混合溶液から再結晶し、黄色針状晶の2−ブロモフルオレノンを10.5g得た(融点=145−147℃)。
【0046】
同定は、H−NMR及び13C−NMRより行った。
H−NMR(CDCl,ppm);7.30−7.76(m,7H)
13C−NMR(CDCl,ppm);192.32,143.68,143.00,137.11,135.79,135.04,133.72,129.45,127.59,124.64,122.95,121.74,120.46
次に、マグネシウム1.0g(42.2mmol)と2−ブロモビフェニル 9.85g(42.2mmol)から調製したグリニヤール溶液を300mLナス型フラスコに仕込み、室温下、2−ブロモフルオレノン 9.9g/テトラヒドロフラン130mL溶液を滴下し、その後14時間加熱還流した。反応終了後、分液し、更に10%塩化アンモニウム溶液にて有機層を洗浄した。濃縮後、トルエンにて再結晶することにより、8.8gの2−ブロモ−9−(2−ビフェニリル)−9−ヒドロキシフルオレンを得た。得られた2−ブロモ−9−(2−ビフェニリル)−9−ヒドロキシフルオレン及び酢酸65mLを100℃に加熱してから、濃塩酸を数滴添加し、1.5時間加熱攪拌した。反応終了後、反応液を氷水120gに加え、得られた沈殿を濾過、洗浄した。沈殿は、クロロホルム/エタノールで再結晶することにより、8.1gの2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレン(融点=181−183℃)を得た。
【0047】
同定は、FDMS及び13C−NMRにより同定した。
・FDMS:394
13C−NMR(CDCl,ppm);150.75,148.48,147.83,141.66,140.71,140.58,130.84,128.20,127.93,127.89,127.23,124.05,124.01,121.36,121.26,120.09,120.00,65.85
合成例5(9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレン−2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロランの合成)
合成例2で得られた2,7−ジブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレン(1.68mmol)、ビス(ピナコラート)ジボラン(3.77mmol)、酢酸カリウム(10.1mmol)、ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンジクロロパラジウム(0.034mmol)及び無水ジメチルホルムアミド15mLを100mLナス型フラスコに添加し、80℃で2時間加熱攪拌した。反応終了後、トルエン20mL及び水20mLを加えて抽出した。有機層は、飽和食塩水及び水で洗浄した後、濃縮することで粉体を得た。更にテトラヒドロフラン/エタノールにて再結晶することにより、目的とする化合物を0.61g得た。
【0048】
同定は、FDMS、H−NMR及び13C−NMRにより行った。
・FDMS:721
H−NMR(CDCl,ppm):1.31(s,24H),7.26〜7.58(m,18H),7.84〜7.88(m,6H)
13C−NMR(CDCl,ppm):25.03,65.10,83.82,119.98,126.96,127.09,128.68,128.85,132.34,134.39,139.28,140.78,142.84,144.69,151.04
合成例6(4,5−ジアザ−2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの合成)
マグネシウム0.40g(16.3mmol)、2−ブロモビフェニル 3.82g(16.4mmol)及びテトラヒドロフラン20mLから調製したグリニヤール試薬に、加熱還流下、4,5−ジアザフルオレノン 2.71g(14.9mmol)/テトラヒドロフラン65mL溶液を滴下し、21時間還流した。その後、反応液を室温まで冷却し、水50gを加えて反応を終了した。反応液は、クロロホルム50mLで2回抽出し、更に無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。濾過、濃縮及びヘキサンにて洗浄することにより、淡茶褐色の粉末3.75gを得た。得られた粉末、酢酸75mLを200mLナス型フラスコに仕込み、100℃まで昇温してから、濃硫酸4.97gを加え、22時間加熱攪拌した。反応液を、冷水50gに加え、反応を終了した。得られた反応液は、30%水酸化ナトリウム水溶液にてpHを11に調整した。更に、クロロホルム100mLにて2回抽出し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。濾過、濃縮の後、ヘキサン/エタノールにて再結晶することにより、4,5−ジアザ−9,9’−スピロビフルオレン 1.69g(収率=48%、融点=208−210℃)を合成した。
【0049】
化合物の同定は、FDMS、H−NMR及び13C−NMRにより行った。
・FDMS:318
H−NMR(CDCl,ppm);8.72−8.76(m,2H),7.87(d,J=7.2Hz,2H),7.33−7.41(m,2H),7.11−7.18(m,6H),6.73(d,J=7.2Hz,2H)
13C−NMR(CDCl,ppm);158.3,149.8,145.6,143.1,141.4,131.4,128.0,127.7,123.5,123.3,120.0,61.8
更に、4,5−ジアザ−9,9’−スピロビフルオレン 0.5g(1.57mmol)、塩化鉄0.25g(1.56mmol)及びジクロロメタン5mLを50mLナス型フラスコに加え、氷水浴下、臭素0.25g(1.56mmol)を滴下した後、室温下で一晩攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液により反応を終了させてから、クロロホルム15mLを加えて目的物を抽出した。抽出を2回行った後、硫酸マグネシウムにより乾燥した。濃縮後トルエンにて再結晶することにより、4,5−ジアザ−2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンを0.11g得た(収率=18%)。
【0050】
モノ臭素化体に特徴的なH−NMR上のピーク(δ=6.86ppm(br s,1H)及び6.73ppm(d,J=7.8Hz,1H))、及びFDMSによりm/e=396のピークが検出されたことから目的物であることを同定した。
【0051】
合成例7(2−ブロモ−9,9−ジメチル−4,5−ジアザフルオレンの合成)
フェナントロリン18g(99.9mmol)、水酸化カリウム18g(320.8mmol)、水900gを2Lセパラブルフラスコに加え、80℃に加熱した。同温度で攪拌しながら、過マンガン酸カリウム45gと水720gの混合液を滴下した。滴下終了後、更に30分攪拌して反応を終了した。熱時濾過して生成した二酸化マンガンを除去した後、反応液を室温まで冷却した。反応液をクロロホルムにて抽出し、常法処理の後、濃縮することで黄色粉末が得られた。更にアセトンにより再結晶することにより、黄色針状晶が7.54g得られた(収率=41%)。
【0052】
化合物の同定はH−NMR及び13C−NMRにより行った。
H−NMR(CDCl,ppm);8.80(d,J=5.2,2H),8.05(dd,J=7.6,1.6,2H),7.36(dd,J=7.6,5.2,2H)
13C−NMR(CDCl,ppm);189.42,163.31,155.10,131.45,129.30,124.69
4,5−ジアザフルオレノン 7.5g(41.4mmol)、水酸化ナトリウム7.5g(187.5mmol)、98%ヒドラジン 5.3g(165.4mmol)及びジエチレングリコール130mLを300mLナス型フラスコに加え、160℃で18時間加熱攪拌した。反応終了後、水250mLを加え、クロロホルムにて抽出した。クロロホルム層を硫酸マグネシウムにより乾燥した後、濾過、濃縮した。更に、アルミナカラムにより精製することにより、緑色を帯びた灰色結晶を6.43g単離した。
【0053】
GCMS及びH−NMRにより目的とする4,5−ジアザフルオレンであることを確認した。
・GCMS:168
H−NMR(CDCl,ppm);8.74(d,J=4.8,2H),7.89(d,J=7.8,2H),7.36(dd,2H),3.88(s,2H)
次に、得られた4,5−ジアザフルオレン 6.4g、ジメチルホルムアミド150mLを300mLナス型フラスコに仕込み、氷浴にて反応液を5℃以下に冷却した。同温度でナトリウムメトキシド4.82gを少量ずつ添加し、引続きヨウ化メチル21.5gを滴下した。添加終了後、室温にて17時間攪拌した。反応終了後、水250mLを加え、クロロホルムにて抽出した。クロロホルム層を硫酸マグネシウムにより乾燥した後、濾過、濃縮した。更に、アルミナカラムにより精製することにより、緑色を帯びた紫色結晶を2.84g単離した(収率=38%)。
・GCMS:196
H−NMR(CDCl,ppm);8.83(d,2H),8.02(d,2H),7.59(dd,2H),1.61(s,6H)
9,9−ジメチル−4,5−ジアザフルオレン 2g(10.2mmol)とニトロベンゼン30mLを三口フラスコに入れ、130℃に加温した。そこへ、臭素1.6gとニトロベンゼン5mLの混合溶液を1時間かけて滴下した。5時間反応させた後、反応液を室温まで冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して反応を終了した。クロロホルムで抽出した後、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させ、アルミナクロマトグラフィーにより、目的物を0.59g(収率=21%)単離した。
【0054】
同定は、FDMSにより行った。
・FDMS:274
実施例1(化合物1の合成)
還流冷却器を備えた100mLナス型フラスコに、合成例1で得られた2,7−ジブロモ−9,9’−ビス[4−(メトキシメチルオキシ)フェニル]−9H−フルオレン 2.6g(4.4mmol)、ビフェニルボロン酸1.82g(9.2mmol)、20重量%炭酸ナトリウム14.6g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム10mg及びテトラヒドロフラン20mLを加え、5時間加熱還流した。所定時間攪拌した後、反応液を冷却して有機層を分離した。有機層は、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、濃縮することにより、2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス[4−(メトキシメチルオキシ)フェニル]−9H−フルオレン 2.44g(収率=75%)を単離した。
【0055】
次に、得られた2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス[4−(メトキシメチルオキシ)フェニル]−9H−フルオレンをジクロロメタン20mLに溶解させた反応液に、6N−塩酸水溶液5mL(30mmol)を加え、室温で5時間反応させてから、水を添加して有機相を分離した。得られた有機相は、更にピリジン1.03g(13.0mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物3.1g(9.9mmol)を添加して室温下で攪拌した。水を添加して有機相を分離、濃縮することで、目的とする2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス[4−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]−9H−フルオレンを2.7g単離した(収率=90%)。
【0056】
FDMSにより目的物であることを確認した。
・FDMS:918
次に、得られた2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス[4−(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]−9H−フルオレン 2.7g、ビフェニルボロン酸1.2g、20重量%炭酸ナトリウム14.6g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム10mg及びテトラヒドロフラン20mLを還流冷却器を備えた100mLナス型フラスコに加え、4時間加熱還流した。所定時間攪拌した後、反応液を冷却して有機層を分離した。有機層は、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、濃縮することにより、目的とする2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス(ターフェニル−1−イル)−9H−フルオレン 1.9g(化合物1、収率=66%)を淡黄色粉末として単離した。
【0057】
同定はFDMSにより行った。
・FDMS:926
【0058】
【化11】

実施例2(化合物2の合成)
実施例1において、2回目の合成に供したビフェニルボロン酸をターフェニルボロン酸に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス(クオーターフェニル−1−イル)−9H−フルオレン 2.0g(化合物2)を単離した。
・FDMS:1078
【0059】
【化12】

実施例3(化合物24の合成)
実施例1において、2回目の合成に供したビフェニルボロン酸を2−ピリジンボロン酸ピナコールエステルに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス(2−ピリジルフェニル)−9H−フルオレン 2.0g(化合物24)を単離した。
・FDMS:776
【0060】
【化13】

実施例4(化合物3の合成)
実施例1において、2回目の合成に供したビフェニルボロン酸をフェニルボロン酸に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス(4−フェニルフェニル)−9H−フルオレン 2.0g(化合物3)を単離した。融点、ガラス転移温度は、それぞれ289℃、159℃であった。尚、薄膜での最大蛍光測定において、417nmの青色蛍光を観測した。また、オプテル社製の移動度測定装置を用い、タイムオブフライト法により正孔移動度及び電子移動度を測定(電界強度=約400(V/cm)1/2)すると、各々1.5×10−4cm/V・sec、4.0×10−5cm/V・secであった。バイポーラー性を示すことから、発光材料として利用可能であることがわかった。
・FDMS:774
13C−NMR(CDCl);152.10,144.77,140.60,140.64,140.33,140.13,140.05,139.61,139.14,128.79,128.68,127.49,127.33,127.12,127.00,126.76,124.84,120.68,65.32
【0061】
【化14】

比較例1
実施例1で得られた2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス[4−(メトキシメチルオキシ)フェニル]−9H−フルオレンをジクロロメタン20mLに溶解させた反応液に、6N−塩酸水溶液 5mL(30mmol)を加え、室温で5時間反応させてから、水を添加して有機相を分離した。得られた有機相は、ジメチル硫酸にてメチル化することにより、2,7−ビス(4−フェニルフェニル)−9,9’−ビス(4−メトキシフェニル)−9H−フルオレンを単離した。
【0062】
同定は、FDMSにより行った。
・FDMS:682
実施例5
実施例1、2及び4で得られた化合物1〜3、比較例1で得られた化合物及びSpiro−6Φ 20mgを各々トルエン2mLに溶解させ、1%溶液を調製した。スピンコート法(回転条件=1000rpm(1分間)、真空加熱条件=60℃(1時間)真空加熱)により石英基板上に薄膜を調製し、室温下(1ヶ月)放置して、薄膜の白濁(又は凝集)を観察した。その結果、化合物1〜3は、全く白濁が観察されなかった。
【0063】
【表5】

実施例6(化合物7の合成)
合成例2で得られた2,7−ジブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレンと2−ブロモ−9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレンとを公知のニッケル触媒を用いて、yamamoto coupling反応を行うことにより、化合物7を合成した。
・FDMS:1406
実施例7(化合物6の合成)
100mLナス型フラスコに、合成例4で得られた2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレン 1.1g(2.8mmol)、合成例5で得られた9,9−ビス(ビフェニリル)フルオレン−2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン) 1.0g(1.39mmol)、20%炭酸ナトリウム水溶液5.5g(11.4mmol)、テトラヒドロフラン20mLを加え、触媒としてビス(ジフェニルホスフィノフェロセン)ジクロロパラジウム41mgを窒素雰囲気下添加し、一晩還流した。冷却後、反応液を分液ロートに移し、有機層を分離した。有機層は、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した後、濃縮することにより結晶を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/ヘキサン)を用い精製することにより、目的とする化合物6を収率=66%で得た。
【0064】
尚、ガラス転移温度は、232℃であった。また、薄膜での最大蛍光測定において、421nmの青色蛍光を観測した。
・FDMS:1098
13H−NMR(CDCl,ppm);6.67−6.76(m,6H),6.89(s,2H),7.04−7.11(t,6H),7.24−7.64(m,34H),7.78−7.85(m,6H)
・元素分析 ; 実測値 C:95.2%, H:4.8%
計算値 C:95.05%,H:4.95%
実施例8(化合物5の合成)
2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの代わりに1−ブロモピレン(2.8mmol)を用い、実施例7と同様の操作を行うことにより、目的とする化合物5を0.91g(収率=75%)得た。
【0065】
化合物の同定は、FDMS及び元素分析により行った。
・FDMS:870
・元素分析 ; 実測値 C:95.2%, H:4.8%
計算値 C:95.14%,H:4.86%
実施例9(化合物12の合成)
2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの代わりに4,5−ジアザ−2’−ブロモ−9,9’−スピロフルオレン(2.8mmol)を用い、実施例7と同様の操作を行うことにより、目的とする化合物12を0.49g(収率=32%)で得た。
【0066】
化合物の同定は、FDMS及び元素分析により行った。
・FDMS:1102
・元素分析 ; 実測値 C:90.3%, H:4.6%, N:5.1%
計算値 C:90.35%,H:4.57%,N:5.08%
実施例10(化合物13の合成)
2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの代わりに2−ブロモ−9,9−ジメチル−4,5−ジアザフルオレン(2.8mmol)を用い、実施例7と同様の操作を行うことにより、目的とする化合物13を0.49g(収率=38%)で得た。
【0067】
化合物の同定は、FDMS及び元素分析により行った。
・FDMS:858
・元素分析 ; 実測値 C:88.1%, H:5.4%,N:6.5%
計算値 C:88.08%,H:5.4%,N:6.52%
実施例11(化合物10の合成)
2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの代わりに5−ブロモ−2,3’−ビピリジン(2.8mmol)を用い、実施例7と同様の操作を行うことにより、目的とする化合物10を0.43g(収率=40%)得た。融点、ガラス転移温度は、それぞれ346℃、164℃であった。
・FDMS:778
13C−NMR(CDCl,ppm);153.38,152.54,149.85,148.48,148.07,144.23,140.40,139.94,139.69,137.23,135.57,135.20,134.39,134.16,128.74,128.50,128.17,127.23,126.92,124.82,123.61,121.25,120.29,65.41
実施例12(化合物11の合成)
2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの代わりに2−(4−ブロモフェニル)ピリジン(2.8mmol)を用い、実施例7と同様の操作を行うことにより、目的とする化合物11を0.49g(収率=45%)得た。ガラス転移温度は、174℃であった。
・FDMS:776
H−NMR(CDCl,ppm);7.19−7.57(m,22H),7.69−7.92(m,12H),8.03−8.07(d,4H),8.68−8.70(d,2H)
13C−NMR(CDCl,ppm);156.86,152.16,149.67,144.74,141.61,140.62,140.27,139.67,139.28,138.26,136.70,128.70,127.45,127.27,127.16,126.98,126.90,124.74,122.11,120.75,120.42,65.38
実施例13(化合物17の合成)
2−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレンの代わりに4−ブロモ−2,4’−ビピリジン(2.8mmol)を用い、実施例7と同様の操作を行うことにより、目的とする化合物17を0.87g(収率=80%)得た。ガラス転移温度は、176℃であった。
【0068】
化合物の同定は、FDMS、H−NMR及び元素分析により行った。
・FDMS:776
H−NMR(CDCl,ppm);8.99(s,2H),8.73(d,4H,J=6.2),7.26−8.03(m,32H)
・元素分析 ; 実測値 C:88.2%,H:4.7%,N:7.1%
計算値 C:87.9%,H:4.9%,N:7.2%
実施例14(化合物18の合成)
3−ブロモ−9,9−ジメチル−4,5−ジアザフルオレン 2.0g(7.3mmol)のテトラヒドロフラン溶液60mLを300mLナス型フラスコに加え、−78℃に冷却した。同温度を保ちながら、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)(5mL,8mmol)を滴下し、30分攪拌した。その後、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)亜鉛2.0gを固体のまま加えた後、反応混合物を室温下1時間攪拌した。更に、2,6−ジブロモ−9,9−ジ(ビフェニリル)フルオレン 2.2g(3.5mmol)及びジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム51mgを加え、一晩加熱還流した後、室温まで反応液を冷却した。水30mLを加え、トルエン抽出を2回行った後、有機層を水で洗浄し、得られた有機層は無水硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧下で濃縮した。残渣は、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム混合液)にて精製し、黄色の結晶を1.02g得た(収率=34%)。
【0069】
得られた結晶は、FDMSにより同定した。
・FDMS:858
実施例15(化合物19の合成)
3−ブロモ−9,9−ジメチル−4,5−ジアザフルオレンの代わりに6−ブロモ−2,2’−ビピリジンを用いた以外は、実施例14の方法に準じて化合物19を合成した。
【0070】
化合物の同定は、FDMSにより行った。
・FDMS:778
実施例16(サイクリックボルタンメトリでの電子親和性及び電子移動度評価)
測定は、ビー・エー・エス(株)製 セルを用い、カウンター電極に白金電極、作用電極にグラッシーカーボン電極、参照電極としてAg/Ag、電解質としてテトラブチルアンモニウムパークロライドを用い、スキャンスピード=100mV/secの条件下で行った。尚、溶媒としては、ジクロロメタン及びテトラヒドロフランを併用した。
【0071】
その結果、化合物12及び13は、フェロセン(Fc/Fc)基準で−2.40eV,−2.38eVと、Alq及びバソフェナントロリンの値−2.41eVと同等以上の値を示した。また、株式会社オプテル社製の移動度測定装置を用い、タイムオブフライト法により電子移動度を測定したところ、10−4cm/V・sec程度の値を示し、従来材料であるAlqより高速であることを確認した。
【0072】
実施例17(サイクリックボルタンメトリによる電気化学的安定性評価)
実施例16と同条件下、サイクリックボルタンメトリによりピークの可逆性を評価した。
【0073】
代表例として化合物10と従来報告されているバソフェナントロリンの結果を図1に示す。その結果、バソフェナントロリンは不可逆性を示す一方、実施例1〜15に示した化合物はすべて可逆性を示すピークが得られた。故に、電気化学的に材料の安定性に優れることから、有機EL素子の耐久性向上が期待される。
【0074】
実施例18(光電子分光法によるイオン化ポテンシャル測定)
理研計器製 AC−3を用い、代表例として化合物17のイオン化ポテンシャルを測定したところ、6.24eVであった。これは、Alq(=5.7eV)、CBP(=5.97eV)の値より大きいことから、正孔ブロック材料として利用可能であることを確認した。
【0075】
実施例19(化合物17の素子評価)
厚さ130nmのITO透明電極を有するガラス基板をアセトン、イソプロピルアルコールで順次超音波洗浄し、次いで、イソプロピルアルコールで煮沸洗浄した後、乾燥した。更に、UV/オゾン処理したものを透明導電性支持基板として使用した。ITO透明電極上に、銅フタロシアニンを真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜した。次に、α−NPDを真空蒸着法により40nmの膜厚で成膜し、正孔輸送層を形成した。次に、アルミニウムトリスキノリノール錯体を真空蒸着法により40nmの膜厚で成膜した。更に、化合物17を20nmになるように成膜し、電子輸送層を形成した。尚、上記有機化合物の蒸着条件は、真空度1.0×10−4Pa、成膜速度0.3nm/secの同一条件で成膜した。
【0076】
次に、陰極としてLiFを0.5nm、Alを150nm蒸着し、金属電極を形成した。
【0077】
更に、窒素雰囲気下、保護用ガラス基板を重ね、UV硬化樹脂で封止した。このようにして得られた素子に、ITO電極を正極、LiF−Al電極を負極にして、6Vの直流電圧を印加すると86mA/cmの電流密度が得られ、3400cd/mの輝度で緑色の発光が観測された。電子輸送層をアルミニウムトリスキノリノール錯体(Alq)に変更した素子と比較して、2.7倍の電流密度が得られた。図2に電圧−電流密度、図3に電圧−輝度曲線を示す。尚、輝度半減寿命は、Alqと同程度の値を示した。
【0078】
実施例20
化合物17の代わりに化合物19を用いた以外は、実施例19の方法に準じて素子評価を行ったところ、6Vの印加電圧で95mA/cmの電流密度が得られ、3950cd/mの輝度で緑色の発光が観測された。
【0079】
比較例2
化合物17の代わりに4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)を用いて同様の素子を作成した。その結果、6Vの直流電圧を印加すると15mA/cmの電流密度しか得られず、510cd/mの輝度で緑色の発光が観測された。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】サイクリックボルタンメトリによるピークの可逆性評価を示す。
【図2】電圧−電流密度を示す。
【図3】電圧−輝度曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるカルド構造を有するπ共役化合物。
【化1】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基若しくはフェノキシ基、又はハロゲン原子を表し、Arは各々独立して下記一般式(2)又は(3)で表される基を表す。Arは各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基又は炭素数3〜24のヘテロアリール基を表す。)
【化2】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。l,mは0〜3の整数、nは0〜2の整数を表す。)
【請求項2】
Arが、各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24の縮合環式芳香族基であることを特徴とする請求項1に記載のπ共役化合物。
【請求項3】
縮合環式芳香族基が、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、ベンゾ[c]フルオレニル基、アザフルオレニル基又は1,10−フェナントロリニル基であることを特徴とする請求項2に記載のπ共役化合物。
【請求項4】
置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24の縮合環式芳香族基が、下記一般式(4a)又は(4b)で表されることを特徴とする請求項2に記載のπ共役化合物。
【化3】

(式中、R〜Rは、各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。また、Xは炭素原子又は窒素原子を表す。)
【請求項5】
置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24の縮合環式芳香族基が、下記一般式(5)で表されることを特徴とする請求項2に記載のπ共役化合物。
【化4】

(式中、R10〜R12は、各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。但し、R10とR11は互いに結合して環を形成していてもよい。また、Xは炭素原子又は窒素原子を表す。)
【請求項6】
Arが、各々独立して下記一般式(6a)又は(6b)で表される基であることを特徴とする請求項1に記載のπ共役化合物。
【化5】

(式中、R13〜R15は、各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくは炭素数3〜24のヘテロアリール基を表す。p及びqは1≦p+q≦3を満たす整数、s,xは0〜2の整数を表す。)
【請求項7】
下記一般式(7)で表されるフルオレン中間体と下記一般式(8)で表されるボロン酸化合物Aとを遷移金属触媒存在下に反応させ、酸触媒存在下に脱保護し、更にトリフルオロメタンスルホニル化した後、再度遷移金属触媒存在下に下記一般式(9)で表されるボロン酸化合物Bと反応させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のπ共役化合物の製造方法。
【化6】

(式中、Zはフェノール基の保護基であり、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基若しくはフェノキシ基、又はハロゲン原子を表し、Xはヨウ素原子、臭素原子又は塩素原子を表す。)
【化7】

(式中、Arは各々独立して下記一般式(2)又は(3)で表される基を表す。Arは各々独立して置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基又は炭素数3〜24のヘテロアリール基を表す。)
【化8】

(式中、R〜Rは各々独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基(但し、アミノ基を除く)を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、炭素数3〜24のヘテロアリール基、又はハロゲン原子を表す。l,mは0〜3の整数、nは0〜2の整数を表す。)
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のπ共役化合物を発光層、正孔ブロック層又は電子輸送層のいずれかに用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−223904(P2007−223904A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36378(P2006−36378)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】