説明

カルニチンの製造方法

【課題】
カルニチンアミドハロゲン化物を塩基触媒で加水分解してカルニチンを製造する際に、反応温度を下げて反応時間を遅延させることなく、また大量の触媒を使用することなく、副生成物であるクロトノベタインの生成量を抑えた純度の高いカルニチンの製造方法を提供すること。
【解決手段】
本発明は、カルニチンアミドハロゲン化物を塩基触媒により加水分解させることによってカルニチンを製造する際、塩基触媒を含む溶液に対してカルニチンアミドハロゲン化物を分割添加することを特徴とする、カルニチンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルニチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベタインの一種であるL−カルニチンはビタミンBTとも言われ、生体内で脂肪酸の代謝に関係している重要な化合物である。L−カルニチンは、心臓疾患治療剤(特許文献1)、過脂肪質血症治療剤(特許文献2)、静脈疾患治療剤等(特許文献3)としても注目されている。
【0003】
カルニチンを製造する方法としては、カルニチンアミド塩化物を加温シュウ酸水溶液中で加水分解することによりカルニチンを得る方法(特許文献4)、カルニチンアミド塩化物を塩酸ガスの存在下、氷酢酸中で亜硝酸アルキルによりジアゾ化する方法でカルニチンを得る方法(特許文献5)、カルニチンアミドにアミダーゼを作用させて加水分解させてカルニチンを得る方法(特許文献6)、カルニチンニトリルクロライドに塩基と水性過酸化水素を作用させてカルニチンアミド塩化物を得、引き続き塩基を作用させカルニチンを得る方法(特許文献7)が知られている。
【0004】
ここで、カルニチンアミド塩化物を化学的な方法、特に塩基性触媒を用いて加水分解してカルニチンを製造する際、数モル%のクロトノベタインの副生は避けることができない。塩基触媒によりカルニチンを製造する場合、特許文献7に記載の方法を用いた場合には、クロトノベタインは数モル%生成する。
【0005】
具体的には、特許文献7は以下のことを示している。カルニチンアミド10mmolで反応を開始し、4N−NaOHaqを5.0ml(2当量)加えて50℃で加水分解を行った場合、5時間後にカルニチンの収率は94%、クロトノベタインの収率は2.5%であった。同条件のもと、比較的低温の30℃で加水分解を行った場合、24時間後にカルニチンの収率は92%、クロトノベタインの収率は0.4%であるという結果が得られている。
【0006】
このようにカルニチンアミド塩化物を加水分解する際、数%程度のクロトノベタインの生成は避けられない。クロトノベタインの生成を抑えようとすれば反応温度を下げる方法があるが、反応時間を著しく遅延させてしまう。これを回避するには大量の触媒を使用して反応の進行を促進させなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−76830号公報
【特許文献2】特開昭54−113409号公報
【特許文献3】特開昭58−88312号公報
【特許文献4】特公昭43−26849号公報
【特許文献5】特公昭43−26850号公報
【特許文献6】特開昭63−56294号公報
【特許文献7】特開平01−287065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、カルニチンアミドハロゲン化物を塩基触媒で加水分解してカルニチンを製造する際に、反応温度を下げて反応時間を遅延させることなく、また大量の触媒を使用することなく、副生成物であるクロトノベタインの生成量を抑えた純度の高いカルニチンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、塩基触媒を含む溶液に対してカルニチンアミドハロゲン化物を分割添加することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、カルニチンアミドハロゲン化物を塩基触媒により加水分解してカルニチンを製造する方法において、塩基触媒を含む溶液に対してカルニチンアミドハロゲン化物を分割添加することを特徴とする、カルニチンの製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明では、カルニチンアミドハロゲン化物を、塩基触媒を用いて加水分解してカルニチンを製造する(下記式)際に、塩基触媒を含む溶液に対して、カルニチンアミドハロゲン化物を分割添加する。当該方法により、副生するクロトノベタインの生成を従来より大幅に抑制することができる。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、Xはハロゲン原子を表し、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などが挙げられる。それらの中でも、カルニチンアミドハロゲン化物の様々な前駆体の入手し易さの観点から、塩素であることが好ましい。
【0015】
(イ)カルニチンアミドハロゲン化物
本発明で使用するカルニチンアミドハロゲン化物の製造方法としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
(i)カルニチンニトリルに塩基と過酸化水素とを作用させることにより、カルニチンアミドを得ることができる。この場合、前駆体のカルニチンニトリルは、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルにトリメチルアミンを作用させることにより得ることができる(特開平1−287065号公報参照)。
(ii)D−樟脳酸−L−カルニチンアミドをイソプロピルアルコールに溶解させ、当該溶液に塩化水素ガスを通じることによってカルニチンアミドを得ることも可能である(特開昭55−13299号公報参照)。
(iii)p−トルエンスルホン酸存在下、カルニチン塩酸塩をアルコール中で加熱することによりカルニチンエステルを合成し、続いてアンモニア水で処理することによって、カルニチンアミドを得ることも可能である。
(iv)4−ハロ−3−ヒドロキシブタンアミドにトリメチルアミンを作用させることにより、カルニチンアミドを得ることができる。この場合、前駆体の4−ハロ−3−ヒドロキシブタンアミドは、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを塩基触媒や酵素触媒を用いてアミド化することにより得ることができる。本発明では、当該方法で得られたカルニチンアミドハロゲン化物を使用するのが好ましい。当該方法によれば効率よくカルニチンアミドハロゲン化物が得られるからである。
【0016】
本発明で使用するカルニチンアミドハロゲン化物は、上記のような製造方法で製造した反応終了液をそのまま用いても、精製したものを用いても、どちらでも構わない。またカルニチンアミドハロゲン化物のD体またはL体のうちいずれか一方が他方よりも多く含まれている光学異性体でも構わない。一般に、カルニチンアミドハロゲン化物を製造するための出発化合物が光学純度を有していれば、光学活性体としてカルニチンアミドハロゲン化物を得ることができる。また、カルニチンアミドハロゲン化物のラセミ体から、光学分割剤を用いて光学活性体を得ることができる。その光学活性体をカルニチンアミドハロゲン化物のラセミ体に任意の量を混ぜることで、任意の光学純度を持った光学活性カルニチンアミドハロゲン化物を得ることもできる。
【0017】
(ロ)塩基触媒
使用する塩基触媒としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩または重炭酸塩、第3級アミン、第4級アンモニウムヒドロキシド、塩基性陰イオン交換樹脂などが挙げられ、より詳細には、NaOH、KOH、Ca(OH)、NaCO、KCO、トリエチルアミン、NHOH及び陰イオン交換樹脂IRA−400からなる群から選らばれる少なくとも1種がよい。これらは単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、特にNaOH、KOHが好ましい。反応を円滑に進行させることができるからである。
【0018】
本発明における塩基触媒の使用量は、カルニチンアミドハロゲン化物に対して等モル以上になるように加えればよい。例えば、1.1〜5当量程度が好ましく、1.2〜3当量程度がより好ましい。1.1当量以上とするのは十分な反応速度が得られるからであり、5当量以下とするのはそれ以上の当量数では触媒を増量しても加水分解を促進する効果が薄いためである。
【0019】
(ハ)溶媒
本発明において、加水分解は溶媒中で行う。溶媒としては特に限定されないが、水性溶媒を用いることが好ましい。本発明において水性溶媒とは、水又は水と有機溶剤との混合物のことである。水と有機溶剤は二相系でもよい。
【0020】
使用される有機溶剤としては特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、メタクリル酸メチルなどのエステル系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルムなどの塩素系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、これらは1種を単独で使用することもできるし、2種以上を混合して使用することもできる。
【0021】
これらの有機溶剤の中でも、水への溶解度が高いアルコール系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドを使用することがより好ましい。水と有機溶剤とを混合する割合については限定されず、水に溶解する範囲で有機溶剤を使用することがより好ましい。水単独で使用する場合には、反応速度が速くなること及び副生成物が抑制されることから、水単独を溶媒として使用することが特に好ましい。
【0022】
(ニ)分割添加
本発明でいう分割添加とは、塩基触媒を含む溶液に対してカルニチンアミドハロゲン化物を添加するに際し、カルニチンアミドハロゲン化物全量を一括して添加するのではなく、複数回に分けて非連続的に又は連続的に添加することを意味する。すなわち分割添加によれば、最終的に添加するカルニチンアミドハロゲン化物全量が同時に塩基触媒による加水分解に供されるのではなく、順次反応に供されることになる。
【0023】
原料を添加する際のカルニチンアミドハロゲン化物は、固体を使用しても溶媒に溶解または懸濁したものを使用しても、いずれでも構わない。
【0024】
塩基触媒を含む溶液に対してカルニチンアミドハロゲン化物を分割添加する方法としては特に限定されず、連続的に分割添加する方法、非連続的に分割添加する方法、その他いずれの添加方法でも構わない。連続的に添加する方法は添加速度を調節することで反応を一定に安定に行うことができるなどのメリットがあるが、非連続的に添加する方法は操作が簡便であるため、より好ましい。
【0025】
連続的に分割添加する場合、添加速度を調節して時間をかけて添加することが好ましい。反応温度にもよるが、4時間以上かけて添加を完了することが好ましく、6時間以上がより好ましい。連続フィード中(連続的にカルニチンアミドハロゲン化物を塩基触媒を含む溶液に添加している最中)には反応系内のカルニチンアミドハロゲン化物の濃度を10質量%以下に保つことが好ましく、5質量%以下がより好ましい。当該濃度に調整することにより、副生物であるクロトノベタインの生成を十分抑制したままで、高い収率でカルニチンを得ることができる。
【0026】
非連続的に分割添加する場合、できる限り少量ずつに多分割して回数を増やして時間をかけて添加することが好ましい。4回以上に分割することが好ましく、6回以上に分割することがより好ましい。また、複数回の分割添加における一回分の添加量は、全添加量に対して70%以下の量であることが好ましく、0.01%〜70%とすればよい。好ましくは0.01%〜60%であり、より好ましくは0.01%〜50%である。より細やかに分割した方が副生成物であるクロトノベタインの生成量を十分に抑制できるからである。
【0027】
より詳細には、添加済みカルニチンアミドハロゲン化物の添加分転化率(例えば、3回添加した場合には、3回添加したカルニチンアミドハロゲン化物の合計量におけるカルニチンアミドハロゲン化物の転化率)が40%以上に達してから次の添加を行うことが好ましく、50%以上とすることがより好ましい。これは、副生物であるクロトノベタインの生成を十分抑制したままで、高い収率でカルニチンを得ることができるからである。
【0028】
また、非連続的、又は連続的添加どちらの場合も、最終的に全量の添加(添加するカルニチンアミドハロゲン化物の総量)を完了した時点でカルニチンアミドハロゲン化物のトータル転化率が40%以上であることが好ましく、トータル転化率50%以上がより好ましい。これも、副生物であるクロトノベタインの生成を十分抑制したままで、高い収率でカルニチンを得ることができるからである。
【0029】
本発明において転化率とは、加水分解反応によってカルニチンアミドハロゲン化物がカルニチンアミドハロゲン化物以外の化合物に変換された割合を表す。本発明では、カルニチンアミドハロゲン化物を分割して添加することを特徴とするため、2種の転化率算出方法が考えられる。すなわち、加水分解反応に供するカルニチンアミドハロゲン化物の総量に対する転化率と、分割添加により反応系内にすでに添加されたカルニチンアミドハロゲン化物の量に対する転化率の2種である。本発明においては、前者をトータル転化率、後者を添加分転化率と呼ぶこととする。添加分転化率は、加水分解反応系内に添加されたカルニチンアミドハロゲン化物のうち、カルニチンアミドハロゲン化物以外の化合物に変換された割合を表すため、分割添加により添加されていないカルニチンアミドハロゲン化物は、添加分転化率を算出する分母には含まれない。よって添加すべきカルニチンアミドハロゲン化物が残っている(分割添加が完了していない)場合、添加分転化率はトータル転化率よりも高い数値となって現れる。一方、添加すべきカルニチンアミドハロゲン化物の総量を添加完了した後は、添加分転化率=トータル転化率となる。
【0030】
(ホ)カルニチンアミドハロゲン化物濃度
塩基触媒を含む溶液へ添加する際のカルニチンアミドハロゲン化物溶液の濃度は特に限定されないが、例えば1〜70質量%程度とすればよく、5〜50質量%程度がより好ましい。非連続的、又は連続的分割添加中は、添加したカルニチンアミドハロゲン化物の全溶液に対する濃度を10質量%以下に保つことが好ましく、5質量%以下がより好ましい。これは、効率良くカルニチンアミドハロゲン化物の加水分解が進み、且つ、副生物であるクロトノベタインの生成を十分抑制できるからである。
【0031】
(ヘ)反応温度
本発明における反応温度とは、周囲の気温が低い時の反応仕込み時の反応液温度や、塩基を加えた時の溶解熱による反応液温度の上昇、基質を仕込んだ直後でジャケット温度と内温との差がある場合等の一時的な温度若しくは温度変化のことは含まず、反応液が所定の温度で安定している状態や、その状態から意図して反応温度を変化させている最中の反応液の温度をいう。
【0032】
本発明における加水分解の反応温度は特に限定されない。通常は5〜100℃で反応を行えばよいが、10〜80℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。これは、クロトノベタインの生成を抑えることができるからである。
【0033】
反応開始時から反応終了時まで一定の温度で反応を行ってもよいが、反応の途中から反応温度を上昇させてもよい。反応の途中から高温で反応を行うことにより、クロトノベタインの生成量を抑制したままで、反応時間を短縮することが可能となる。反応開始時は比較的低温の10〜40℃の反応温度で反応を行うことが好ましく(反応初期)、温度を上昇させ始めた後(反応後期)は、比較的高温の40〜60℃程度で反応を行うことが好ましい。反応途中で反応温度を上昇させた結果、反応終了時の反応温度を、反応開始時の反応温度より5〜50℃高くすることが好ましく、10〜30℃高くすることがより好ましい。これは、副生物であるクロトノベタインの生成を十分抑制しつつ、カルニチンアミドハロゲン化物の加水分解の反応速度を上昇させることができるからである。
【0034】
反応温度を上昇させる時期としては、反応を開始後反応温度を一定に保って加水分解を進行させ、カルニチンアミドハロゲン化物の転化率が50〜95%の時点で反応温度を上昇させることが好ましい。より好ましくは転化率が60〜90%の時点、さらに好ましくは転化率が60〜85%の時点で反応温度を上昇させればよい。
【0035】
カルニチンアミドハロゲン化物の転化率が50%以上の時点で反応温度を上昇させる理由は以下の通りである。クロトノベタインの副生は、カルニチンアミドハロゲン化物の加水分解の初期(反応初期)において顕著であり、使用する塩基触媒の当量数に関係なく反応温度に大きく依存する。また、クロトノベタインは、カルニチンからよりも、カルニチンアミドハロゲン化物からの方が生成しやすい。従って、カルニチンアミドハロゲン化物の転化率が50%以上の時点で反応温度を上昇させることにより、副生するクロトノベタインの量を十分に抑制できる。一方、カルニチンアミドハロゲン化物の転化率が95%を超えてから反応温度を上昇させても、反応時間短縮の効果が十分には得られないため、カルニチンアミドハロゲン化物の転化率が95%以下の時に反応温度を上昇させることが好ましい。
【0036】
ここ(反応温度の項)で述べる転化率とは、添加分転化率又はトータル転化率のどちらを指すこともできる。すなわち添加すべきカルニチンアミドハロゲン化物を全量添加し終わっていない時の添加分転化率が前記の範囲になった時に反応温度を上昇させることもできるし、加水分解反応全体においてトータル転化率が前記の範囲になった時に反応温度を上昇させることもできる。しかしカルニチンアミドハロゲン化物のトータル転化率が前記の温度範囲になった時に反応温度を上昇させる方が操作が簡便であるため、トータル転化率を指す方がより好ましい。
【0037】
これらのことから、反応初期を低温で反応を行い、反応後期において高温で反応を行えば、反応時間を短縮することができ、それに伴って使用する触媒量を減らすことも可能となる。さらに、分割添加と反応温度上昇を組み合わせることにより、クロトノベタインの生成抑制と反応時間短縮を同時に達成することが可能となる。
【0038】
(ト)その他
加水分解は常圧下で行っても減圧下で行っても構わない。塩基触媒を用いたカルニチンアミドハロゲン化物の加水分解はアンモニアが副生する。加水分解終了後にはこのアミンを中和、若しくは気化除去する必要があるが、中和する場合は酸を使用するために塩も発生し、処理に手間がかかる。
【0039】
しかしながら、減圧下で加水分解を行った場合、副生するアンモニアを気化除去しながら反応を進行できるため、中和の際に発生する塩を減少させることができる。また、加水分解完了後にアンモニアを気化除去することと比べると大幅な反応時間の短縮も可能であるので、より好ましい。
【0040】
減圧によって加水分解中に副生するアンモニアを除去しながら反応を行う場合の圧力は、25hPa以上1013hPa未満とすることが好ましく、40hPa以上1013hPa未満とすることがより好ましい。反応後期において減圧下で反応を行う場合、減圧度をコントロールすることで内温を調節することができ、反応初期よりも比較的高温に設定することもできる。
【0041】
以上のようにして合成したカルニチンは、抽出、カラム分離、再結晶、電気透析、イオン交換法等の定法に従い、単離精製することができる。また加水分解では、薄い褐色に着色することがある。また加水分解終了後の中和後にも着色することがある。この脱色のため、活性炭などによる脱色操作を行ってもよい。
【実施例】
【0042】
本発明において使用した各種定量分析方法について、分析方法の詳細を以下に示す。
分析方法(I)
・分析対象化合物
カルニチンアミドクロライド(以下、「Car−アミド」と略すことがある)
カルニチン(以下、「Car」と略すことがある)
・試料調製方法 :反応液を移動相に溶解
・カラム :Shodex IC YK−421,
4.6mm I.D.×125mm(GLサイエンス製)
・カラムオーブン温度:40℃
・移動相 :3mM HNOaq/ATN=4/6(容量比)、1mL/min
・検出器 :電気伝導度検出器(CD−5) Shodex製
・注入量 :20μl
・保持時間 :Car−アミド 10.2min
:Car 7.9min。
分析方法(II)
・分析対象化合物
カルニチン(以下、「Car」と略すことがある)
クロトノベタイン(以下、「CB」と略すことがある)
・試料調製方法 :反応液を移動相に溶解
・カラム :Nucleosil 100−5N(CH
4.6mm I.D.×250mm(GLサイエンス製)
・カラムオーブン温度:40℃
・移動相 :50mM KHPO(pH=4.7)aq/ATN
=35/65(容量比)、1mL/min
・検出器 :UV検出器(205nm) 日本分光製UV−930
・注入量 :5μl
・保持時間 :Car 10.8min
:CB 13.0min。
【0043】
<実施例1>
500mLセパラブルフラスコに純水14.16gを入れ、そこへ48%NaOHaq:15.31g(183.7mmol)を発熱に注意しながら注意深く加えて、約25%NaOH aqを調製した。この水溶液をオイルバスに浸して内温を30℃に保つよう加熱し、以下のような順序でカルニチンアミド塩化物の加水分解を行った。
(1)6.03質量%のカルニチンアミド塩化物水溶液を50g(カルニチンアミド塩化物として3.02g:15.4mmol(全添加量の16.7%に当たる)添加した。
(2)内温(反応温度)を30℃に保つようオイルバス温度をコントロールして反応を開始した。
(3)原料を添加して1時間後、サンプリング。
(4)(1)〜(3)を計6回繰り返した(合計300gのカルニチンアミド塩化物水溶液添加)。
(5)全カルニチンアミド塩化物添加完了以降も30℃で反応を継続した。
添加したカルニチンアミド塩化物全量に対し、NaOH aqのモル数は2当量に当たる。各々添加してから1時間後にサンプリングして分析を行い、添加分転化率、トータル転化率を算出した。各反応時間におけるカルニチンアミド塩化物のトータル転化率、添加分転化率、カルニチン(Car)のトータル収率、及びクロトノベタイン(CB)の生成率について、下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、反応温度、触媒当量数がほぼ同条件での反応といえる後述の比較例Run7(24hr後の結果)と比較すると、明らかにクロトノベタインの生成量が少ないことがわかる。
【0046】
<実施例2>
500mLセパラブルフラスコに純水14.16gを入れ、そこへ48%NaOHaq:15.31g(183.7mmol)を発熱に注意しながら注意深く加えて、約25%NaOH aqを調製した。この水溶液をオイルバスに浸して内温を30℃に保つよう加熱し、以下のような順序でカルニチンアミド塩化物の加水分解を行った。
(1)6.03質量%のカルニチンアミド塩化物水溶液を50g(カルニチンアミド塩化物として3.02g:15.4mmol(全添加量の16.7%に当たる)添加した。
(2)添加直後系内を減圧し、オイルバス温度を約140℃に保って減圧還流した。減圧中、内温を30℃に保つよう減圧度をコントロールした(33〜40hPa)。
(3)原料を添加して1時間後、Dean−Stark装置を使ってアンモニアを含んだ水を27g除去した。
(4)減圧ブレーク。
(5)サンプリング。
(6)(1)〜(5)を計6回繰り返した(合計300gのカルニチンアミド塩化物水溶液添加)。ただし6回目は(4)はなし。
(7)全カルニチンアミド塩化物添加完了以降も継続してそのまま内温を30℃で反応を続けた。
【0047】
添加したカルニチンアミド塩化物全量に対し、NaOH aqのモル数は2当量に当たる。添加してから1時間後にサンプリングして分析を行い、添加分転化率、トータル転化率を算出した。各反応時間におけるカルニチンアミド塩化物のトータル転化率、添加分転化率、カルニチン(Car)のトータル収率、及びクロトノベタイン(CB)の生成率について、下記表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2より、反応温度、触媒当量数がほぼ同条件での反応といえる後述の比較例Run7(24hr後の結果)と比較すると、明らかにクロトノベタインの生成量が少ないことがわかる。
【0050】
<実施例3>
実施例2と同様にして25% NaOH aqの調製を行い、(1)〜(6)まで行った。反応開始から7時間まで内温(反応温度)30℃で反応を継続し、7時間後から減圧度をコントロールして内温(反応温度)を40℃に調整し、反応を継続した。
【0051】
添加したカルニチンアミド塩化物全量に対し、NaOH aqのモル数は2当量に当たる。計6回の原料添加の1時間後にサンプリングして分析を行い、各反応時間におけるカルニチンアミド塩化物の添加分転化率、トータル転化率を算出した。各反応時間におけるカルニチンアミド塩化物のトータル転化率、添加分転化率、カルニチン(Car)のトータル収率、及びクロトノベタイン(CB)の生成率について、下記表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3より、カルニチンアミド塩化物を分割添加し、さらに反応後期に反応温度を上昇させて加水分解を行うことにより、クロトノベタインの生成量が抑制されたままで、反応時間が大幅に短縮される(反応効率が大きく上昇する)ことが分かった。
【0054】
<比較例1>
6.03質量%のカルニチンアミド塩化物水溶液50gと塩基触媒とを一括で混合して加水分解反応を開始した。塩基触媒の当量数、反応温度を下記Run1〜7のように設定し、表記の反応時間におけるカルニチンアミドハロゲン化物の転化率(トータル転化率に当たる)とCBの生成率の結果を下記表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
このように、カルニチンアミド塩化物を一括添加した場合には、生成するクロトノベタインの量が非常に多くなることが分かった。
【0057】
<比較例2>
2L四ッ口フラスコに、カルニチンアミド塩化物7.76%水溶液を1497g(カルニチンアミド塩化物として116.2g、591mmol)入れてジャケット温度を30℃に設定し、内温とジャケット温度が一定するまで1時間放置した。内温が30℃で一定になったのを確認後、48%NaOH水溶液88.6g(1063mmol)を加えて反応を開始した。ジャケット温度30℃のまま反応を継続し、8時間後にはカルニチンアミド塩化物の転化率は78.0%に達していることを確認した。この時のカルニチンの収率は77.5%、クロトノベタインの生成率は0.47%であった。
【0058】
8時間後から系内を減圧して73hPa下におき、ジャケット温度を60℃に上げて反応を継続した。この時内温は40℃でほぼ一定であった。8時間そのまま減圧下の状態を保ち、アンモニアを含んだ水を約280g留出させた。減圧を解いたのち、カルニチンアミド塩化物の転化率は99.7%、この時のカルニチンの収率は98.5%、クロトノベタインの収率は0.70%であることがわかった。
【0059】
続いてジャケット温度は60℃に保ったまま撹拌を続けると、約1.5時間後には内温が59℃まで上昇した。この時カルニチンアミド塩化物の転化率は100%、カルニチンの収率は99.7%、クロトノベタインの収率は0.74%であることがわかった。
【0060】
このように、反応後期において反応初期よりも反応温度を上げることで反応時間の短縮にはなるが、クロトノベタインの生成率は0.74%程度である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチンアミドハロゲン化物を塩基触媒により加水分解してカルニチンを製造する方法において、塩基触媒を含む溶液に対してカルニチンアミドハロゲン化物を分割添加することを特徴とする、カルニチンの製造方法。
【請求項2】
分割添加における1回分のカルニチンアミドハロゲン化物の添加量が、カルニチンアミドハロゲン化物全添加量に対して70質量%以下の量である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2回目以降のカルニチンアミドハロゲン化物の添加を、添加済みのカルニチンアミドハロゲン化物の合計量に対するカルニチンアミドハロゲン化物の転化率(添加分転化率)が40%以上となった後に行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
塩基触媒が、NaOH、KOH、Ca(OH)、NaCO、KCO、トリエチルアミン、NHOH及び陰イオン交換樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
塩基触媒の使用量が、前記カルニチンアミドハロゲン化物に対して1.1〜5当量である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
加水分解を10〜60℃の範囲の反応温度で行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
カルニチンアミドハロゲン化物の転化率が50%に達した後95%に到達するまでの間に前記加水分解の反応温度を上昇させる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記加水分解の反応終了時の反応温度が、反応開始時の反応温度より5〜50℃高い、請求項7記載の方法。
【請求項9】
加水分解反応において副生するアンモニアを、減圧によって除去しながら加水分解を行う、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
加水分解を水性溶媒中で行う、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2011−111449(P2011−111449A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272495(P2009−272495)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】