説明

カルニチンを用いた調製粉乳または機能性健康原料

【課題】乳若しくは乳製品のUF透過液、又はホエイからカルニチンを回収する方法により得られた無機陽イオン含量の少ないカルニチンを用いた調製粉乳または機能性健康原料を提供する。
【解決手段】乳若しくは乳製品の限外濾過透過液又はホエイを、陽イオン交換樹脂を充填したカラム上部から供給し、該カラムの樹脂充填部の下約1/3の下層部にカルニチンを吸着させ、次いで、該下層部に溶出液を供給し、カルニチンを溶出させることによって回収した無機陽イオン含量が低減されたカルニチンを用いる、調製粉乳または機能性健康原料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳若しくは乳製品の限外濾過透過液、又はホエイ中のカルニチンを回収する方法により得られた無機陽イオン含量の少ないカルニチンを用いた調製粉乳または機能性健康原料に関する。
【背景技術】
【0002】
カルニチンは必須アミノ酸であるリジンとメチオニンから主として肝臓で、一部腎臓で生合成される。その生合成能は0.16〜0.48mg/kg of body weight/dayである。また、95%のカルニチンは腎臓で濾過されて再吸収されるため、健常人ではカルニチン欠乏症になることはない。しかし、新生児ではカルニチンの合成能力は大人より低いと言われており、また加齢によって低下すると言われている。カルニチンは脂肪代謝において脂肪酸がミトコンドリア内に入る際に重要な役割を果たしており、また、カルニチンの持つ疲労回復、運動能力向上、脳の老化防止等の機能は最近注目されている。
カルニチンは羊肉、牛肉等に多く含まれており、これらからの抽出物や合成品、また最近では微生物発酵によるL−カルニチン製剤などが販売されている。
一方、牛乳に含まれるカルニチンは乾物換算で40mg/100g前後と少ない。しかし、カルニチンはチーズやカゼイン製造の副産物であるホエイに、またホエイからWPCを製造する際の副産物である限外濾過(UF)透過液に移行する。ホエイもしくはUF透過液から効率的にカルニチンを回収できれば調製粉乳や機能性健康原料としての利用が期待できる。
【0003】
カルニチンは解離定数3.8のアミノ酸の一種で、pHが3.8以下の溶液では陽イオンとして挙動する。この性質を利用して陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いてUF透過液からカルニチンを回収する方法が開示されている(特許文献1参照)。
しかし、単にUF透過液を陽イオン交換樹脂に付するのみでは、カルシウムやナトリウム等のイオンもカルニチンと共に回収されてしまうという問題がある。
このため、特許文献1の発明では、UF透過液を予め電気透析により脱塩処理しているが、これは工業的に有利な方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−63553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、乳若しくは乳製品のUF透過液、又はホエイからカルニチンを回収する方法により得られた無機陽イオン含量の少ないカルニチンを用いた調製粉乳または機能性健康原料を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる実情に鑑み、本発明者はカルニチン及び他のイオンのイオン交換樹脂カラムにおける吸着、放出について鋭意研究を行ったところ、ある時点で、該カラムの樹脂充填部の下約1/3の下層部にカルニチンが多量に吸着していることを見出し、該下層部のみに溶出液を供給し、カルニチンを溶出させれば、他のイオン含量が少なく効率的にカルニチンが回収できることを見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、乳若しくは乳製品の限外濾過透過液又はホエイを、陽イオン交換樹脂を充填したカラム上部から供給し、該カラムの樹脂充填部の下約1/3の下層部にカルニチンを吸着させ、次いで、該下層部に溶出液を供給し、カルニチンを溶出させることによって回収した無機陽イオン含量が低減されたカルニチンを用いる、調製粉乳または機能性健康原料の製造方法を提供するものである。
また、乳若しくは乳製品の限外濾過透過液又はホエイを、陽イオン交換樹脂を充填したカラム上部から供給し、該カラムの樹脂充填部の下約1/3の下層部にカルニチンを吸着させ、次いで、該下層部に溶出液を供給し、カルニチンを溶出させることを特徴とするカルニチンの回収方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳若しくは乳製品のUF透過液又はホエイから、カルシウム等の陽イオンの含量が少ない状態で、カルニチンを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に用いる装置の一例を示す図である。
【図2】樹脂の長さと吸収の関係を示す図である。
【図3】樹脂の長さと吸収の関係を示す図である。
【図4】樹脂の長さと吸収の関係を示す図である。
【図5】樹脂の長さと吸収の関係を示す図である。
【図6】カルニチン溶出の手順を示す図である。
【図7】NaOH滴定とpH変化を示す図である。
【図8】KOHと回収率の関係を示す図である。
【図9】KOHと回収率の関係を示す図である。
【図10】KOHと回収率の関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
原料
本発明の出発原料である「乳」とは、生乳、牛乳、脱脂乳、部分脱脂乳、成分調整牛乳等を言い、「乳製品」とは、濃縮乳、全粉乳、脱脂粉乳、ホエイ、ホエイ粉、練乳、牛乳タンパク質濃縮物(MPC: Milk Protein Concentrate)、乳清タンパク質濃縮物(WPC: Whey Protein Concentrate)、乳清タンパク質単離物(WPI: Whey Protein Isorate)等を言う。
乳又は乳製品のUF(限外濾過)は、次の様に行うことが好ましい。
まず、上記原料は、UF膜を損傷させぬよう、清浄化してゴミ等を除去することが望ましい。また、UF膜の分画分子量は、特に限定はないが、1,000〜50,000程度が好適である。
更に、UF装置に使用される膜としては、格別の限定はなく中空系タイプ、ディスクタイプその他が適宜使用可能である。
UF処理で得られた透過液、それを濃縮して得た濃縮液、濃縮に際して析出した乳糖を除去した液、のいずれもが原料として使用できる。
【0011】
陽イオン交換樹脂を充填したカラム(以下、「陽イオン交換樹脂カラム」という)
本発明で用いる陽イオン交換樹脂は特に限定されないが、強酸性のものが好ましく、官能基は、スルホン酸が好ましい。また、総交換容量は、1.6〜2.2eq/lが好ましく、特に1.8〜2.0eq/lが好ましい。このようなイオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIR120B(Rohm and Haas社製)、ダイヤイオン(R)SK1B・SK104・SK110・SK112・SK116・PK208・PHK212・PK216・PK220・PK228・HPK25等が挙げられる。
また、カラム中の充填陽イオン交換樹脂の長さは、カルニチンの吸着帯の位置を考えると少なくとも600mm以上が必要である。カラムは、1本でなくともよく、複数のカラムを直列に繋いだものであってもよい。
【0012】
カルニチンの陽イオン交換樹脂への吸着
先ず、乳若しくは乳製品のUF透過液又はホエイ(以下「原料」という)を陽イオン交換樹脂カラムの上部から供給する。供給線速度は、1〜12m/hが好ましく、特に3〜8m/hが好ましい。そして、カルシウム等の陽イオンは樹脂に吸着され、水素イオンが液相に放出されpHが低くなる。すると、カルニチンはプラスに荷電し、樹脂に吸着される。
原料の供給を続けて樹脂の吸着能が飽和に近づくと、放出される水素イオンが減り、液相のpHが徐々に高くなる。すると、pHに荷電状態が影響を受けるカルニチンは陽イオンよりも早く樹脂から脱離し、脱塩液に出てくるようになる。
従って、原料の供給を陽イオン交換樹脂のイオン交換容量が飽和した時点で停止することが好ましく、この飽和した時点は、液相の電気伝導度が低くなる直前、液相のpHが高くなる直前などである。また、この飽和した時点は、原料の組成や濃度が既知の場合などでは、供給量(供給液の体積や重量)で決めることもできる。原料の供給量は樹脂1リットルあたりの原料液固形分量として1.1〜1.85kgが好ましい。これはカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムの合計当量として1.5〜2.4eq/l−Rに相当する(イオン交換樹脂の公称交換容量は1.9eq/l−R)。
【0013】
溶出液によるカルニチンの回収
樹脂が吸着飽和に達する直前では、カルシウムはカラムの樹脂充填部の下層約1/3にはほとんど吸着しておらず、カルニチンはカラムの樹脂充填部の下層約1/3に吸着している。そこで下層の樹脂に吸着しているカルニチンを溶出液で溶出すれば、カルシウム等の混入が少ないカルニチン液が得られる。なお、カラムの樹脂充填部の下層約1/3とは、樹脂の体積又は重量の約1/3であり、内径が同じカラムの場合は、長さの約1/3となるが、内径の異なる複数のカラムを用いた場合は、樹脂の長さの約1/3とはならない。
具体的には、カラムの下層から上昇流で溶出液を供給し、その後下降流で水を供給すれば、カルシウム等の混入が少ないカルニチン液が得られる。
この場合、溶出液を最も上流部から供給すると、カルシウムなどが結晶として析出し、好ましくない。
また、例えば下部の約1/3を別のカラムとすれば、その別カラムの上部から、カラム全体を洗い流す様に、溶出液を供給すれば、カルシウム等の混入が少ないカルニチン液が得られる。
更に、上記とは逆に、乳若しくは乳製品の限外濾過透過液又はホエイを、陽イオン交換樹脂を充填したカラム下部から供給し、該カラムの樹脂充填部の上約1/3の上層部にカルニチンを吸着させ、次いで、該上層部に溶出液を供給し、カルニチンを溶出させることもできる。この場合、該カラムの樹脂充填部の上約1/3の上層部を別カラムにし、分離してから、溶出液を供給すると溶出液が下層部に行かず、カルシウム等の混入が少ないカルニチン液が得られ、好ましい。
【0014】
樹脂に吸着したカルニチンは液相のpHが高くなれば、荷電を失い樹脂から脱離すると考えられるので、溶出液は、アルカリ溶液が好ましく、特に水酸化カリウムの溶液が好ましい。溶出液の濃度は、0.4〜3Nとすることが好ましく、特に0.5〜2Nとすることが好ましく、溶出液の液量は、充填している樹脂量(容積)に対して1/4〜1倍とすることが好ましく、特に1/3〜1/2倍とすることが好ましい。
なお、本発明の操作は、全て2〜50℃、特に5〜20℃で行うのが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
1−1. 試料
試料はホエイUF透過液(以下「UF透過液」という)を用いた。試料濃度の影響を調べるため、UF透過液は固形分の異なる2種を以下のように調製した。ホエイ粉を27%に溶解後、10℃以下に冷却して分画分子量10,000のホローファイバー型UF膜で分離してUF透過液を得た。ただし、このUF透過液はチーズカード分離後の液体ホエイを乾燥せずにUF膜分離したUF透過液よりカルシウム含量が低いため、これに塩化カルシウムを添加し、カルシウム含量を調整した。また、保管中の不溶性塩の生成を抑制するため、塩酸でpHを6.0に調整し、固形分23〜25%のUF透過液(Conc.液)試料とした。
この液を2.5倍に希釈し、固形分9〜10%のUF透過液(Dil.液)試料とした。試料は調製後に冷蔵保管し、Conc.液は3日以内に、Dil.液は1週間以内に実験に供した。
試料の組成を表1に示す。UF透過液の主たる陽イオンであるカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムを当量換算して合計すると、Dil.液、Conc.液にはそれぞれ0.13eq/l、0.32eq/l含まれており、1価イオン、2価イオンの比率は80:20であった。
【0017】
【表1】

【0018】
1−2. 実験装置
実験装置を図1に示す。カラムを用いた実験の場合、吸着帯の移動を考えると樹脂層高は600mm以上必要と言われている。そこで、直径25mm、高さ500mmのガラスカラムを3本直列につなぎ、各カラムには強酸性のスチレン系ゲル型陽イオン交換樹脂「Amberlite IR−120B」(Rohm&Haas社製)を160mlずつ充填し、樹脂層高を合計で980mmとした。
実験終了後、8m/hの上昇流で水を12分間流して逆洗浄を行った。再生は通常の2倍量の塩酸で行い、樹脂の状態の安定化を図った。すなわち、樹脂1リットルあたり10%の塩酸を2100g、次いで同量のイオン交換水をいずれも3.2m/hの上昇流で流して樹脂を水素型にした。再生後、イオン交換水を8m/hの下降流で11分間流して樹脂を平衡状態とした。なお、実験に用いた樹脂の交換容量は完全再生で1リットルあたり1.9eqである(メーカー測定値)。
【0019】
1−3. 分析方法
カルニチンは、特開2002−277452(食品中のL−カルニチン類の測定法)に準じて測定した。非たんぱく態窒素(NPN)は12%トリクロル酢酸可溶性の窒素をケルダール法で測定し、6.38の係数を乗じて求めた。尿素は12%トリクロル酢酸可溶性の画分を「尿素窒素Bテストワコー」(和光純薬)で測定した。ミネラルは原子吸光法により測定した。
【0020】
1−4. 吸着分布の測定
(実験方法)
陽イオン交換樹脂カラムにUF透過液を供給すると、カルニチンは他の陽イオンとともに樹脂に吸着し、供給し続けるとこれらの吸着分布は変化していく。そこで、UF透過液をカラムに一定量供給した後に、直列に連結した3本のカラムに吸着している成分をそれぞれ溶出し、無機陽イオンおよびカルニチンの吸着分布を測定した。
Dil.液とConc.液を固形分として1.2〜1.6kg/l−R(カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムの合計当量として1.6, 1.8, 2.0, 2.2eq/l−R)供給し、出口液の糖度(Brix)が0.2以下になるようにカラム内に残っている液を樹脂容量の1.2倍の水で押し出した。供給線速度はDil.液、Conc.液でそれぞれ8m/h、3.2m/hとした。また、カルニチンと無機陽イオンの分離性を向上する目的でDil.液を3m/hの線速度で供給した実験も行った。その後、直列に連結した3本のカラムの配管を独立させ、それぞれ再生と同じ条件で吸着している成分を脱離させ、再生液の重量および各成分の含量を測定した。一段目のカラムIの再生液には樹脂の最上層から330mmまでに吸着している成分が含まれる。同様に二段目のカラムII、および三段目のカラムIIIの再生液には樹脂の最上層からそれぞれ330〜650m、650〜980mmの間に吸着している成分が含まれる。980mmまでに吸着していない分は脱塩液側に移行した成分である。
【0021】
(実験結果)
横軸に樹脂の最上層からの高さ、縦軸にその高さまでに吸着した各成分の入口液の含量に対する積算比率をプロットした結果を図2、3に示す。Dil.液を1.18kg・TS/l−R供給した場合、カルニチンはカラムIおよびIIの樹脂(樹脂層高660mmまで)にはほとんど吸着しておらず、カラムIIIの樹脂に大部分が吸着していた(図2)。UF透過液の供給量が1.46kg・TS/l−R以上に増えるとカルニチンはカラムIIIの樹脂から急激に溶出して脱塩液に移行した。一方、カルシウムは今回の実験条件の範囲ではカラムIの樹脂に70%以上、カラムIIまでの樹脂に90%以上吸着していた。カリウム、ナトリウムは供給量が増えると徐々により下層のカラムの樹脂への吸着比率が増えていき、ナトリウムは脱塩液側に溶出していった。
【0022】
Conc.液を1.16kg・TS/l−R供給した場合(図3)、カルニチンはカラムIの樹脂には吸着していないが、カラムIIの樹脂に約30%吸着していた。Conc.液の供給量が増えるとカルニチンはカラムIIIの樹脂に吸着する比率が増え、更に供給すると溶出して脱塩液に移行した。
Conc.液とDil.液の吸着分布を比較するために、1.3kg・TS/l−R供給したときの吸着分布を図4に示す。
また、Dil.液を試料とし、カルニチンと他の成分の分離を改善する目的で、供給線速度を遅くした実験結果を図5に示す。供給線速度を遅くすることで、カラムIIIに吸着するカルニチン量が多くなる傾向はあるものの、吸着分布に及ぼす影響は少なかった。
UF透過液を1.2〜1.6kg・TS/l−R供給した場合の吸着分布測定の結果より、以下のことがわかった。
(1)カルシウムはカラム上部の樹脂に吸着している比率が高く、カルシウムの90%は上部2/3の樹脂に吸着していた。UF透過液の濃度が低い場合、この傾向は顕著になった。
(2)ナトリウム、カリウムの1価イオンもカラムの上部の樹脂に吸着しており、特にUF透過液の濃度が高いと、カラムの上部に吸着する比率が高くなっていた。これは試料濃度が高いとカラム上部に2価イオンが吸着しにくいためと考えられる。
(3)カルニチンはカラムの上部には吸着しておらず、樹脂が吸着飽和に達する直前(およそ1.3kg.TS/l−RのUF透過液の供給後)ではカルニチンの約70%は下部1/3の樹脂に吸着していた。
【0023】
1−5. 溶出剤によるカルニチンの回収
(実験方法)
樹脂が吸着飽和に達する直前では、カルニチンはカラムの下層の樹脂に吸着しているので、カラムの下層から上昇流で溶出剤を供給し、その後に下降流で水を供給してカルニチンを溶出する方法について検討した。
まず、溶出剤を選定する実験を行った。UF透過液は固形分として1.3kg/l−R(カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムの合計当量として1.8eq/l−R)に相当する量を供給した。UF透過液の供給速度は実験1−4.に準じた。図6に示すようにUF透過液を供給した後に、樹脂容量の1.2倍の水でカラム内のUF透過液を押し出し、脱塩液と混合した。次に樹脂に吸着したカルニチンを溶出するために以下の操作を行った。
(1)配管を上昇流に変更し、カラムIIIの底から溶出剤を供給した。
(2)配管内およびカラム最下部に滞留している溶出剤を樹脂に接触させるために水を供給した。
(3)配管を下降流に戻し、溶出したカルニチンを含む画分を樹脂容量の3倍量の水で押し出し、溶出液とした。
【0024】
溶出剤は、ナトリウムよりも樹脂に対する吸着選択性が大きい可溶性の塩溶液である塩化カルシウム、塩化カリウム、水酸化カリウムを用いた。また、再生に使われている塩酸も比較対照とした。溶液の濃度は0.5Nとし、UF透過液と溶出剤の合計当量として2.2eq/l−Rになるように樹脂容量の0.8倍(0.4eq/l−R)供給した。(2)の操作の水は溶出剤との合計で樹脂容量と同じ容量になるように樹脂容量の0.2倍とした。
次に溶出剤を水酸化カリウムとし、UF透過液の供給量と溶出剤の供給量等を変えた実験を行った。実験条件を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
UF透過液の供給量は固形分として1.1〜1.6kg/l−R(カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムの合計当量として1.5〜2.2eq/l−R)に相当する量とした。テスト3では、カルニチンを濃縮するために、供給開始から1.1kg・TS/l−R供給した脱塩液にはカルニチンが含まれていないので、これを脱塩液(A)とした。さらに1.1kg・TS/l−R以上供給した脱塩液を脱塩液(B)として別に採取した。
脱塩液および溶出液の重量を測定し、カルニチン、NPN、尿素、ミネラル含量を分析した。供給したUF透過液および脱塩液、溶出液の各成分の重量を計算し、脱塩液および溶出液における回収率を求めた。なお、各陽イオンの回収率の計算において、溶出に用いた塩溶液由来の陽イオンは計算に入れていない。
【0027】
(実験結果)
溶出剤の検討
溶出剤として塩化カルシウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、塩酸を用いた場合、溶出液における各成分の回収率を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
Dil.液、Conc.液のいずれを試料とした場合でも、水酸化カリウムを用いるとカルニチンは溶出されやすくなることがわかった。尿素、NPNはConc.液を原料とする方がDil.液を原料とした場合より溶出されやすく、カルニチンと同様、水酸化カリウムを用いた場合が最も溶出されやすいが、溶出剤の種類の影響は小さかった。
水酸化カリウムを用いた場合にカルニチンの溶出率が大きかった理由は、カルニチンがアルカリ性溶液ではプラスの荷電が弱くなる、もしくは失うためと推定される。図7にカルニチンおよび酢酸の0.1M溶液10mlに対して0.1M水酸化ナトリウムを滴定した時のpHの変化を示す。カルニチンはプラスに荷電した窒素原子基とマイナスに荷電したカルボキシル基を有し、弱酸であるカルボキシル基は酸性溶液では解離せず、カルニチンは酸性域では強くプラスに荷電していると考えられる。しかし、カルニチンは酢酸と同様の滴定曲線を描くことから、アルカリ性溶液ではカルボキシル基は解離し、窒素原子のプラス荷電を中和するため、カルニチン分子全体のプラスの荷電は弱まると考えられる。
【0030】
アルカリ溶出法の検討
テスト1:
Dil.液を1.1kg・TS/l−R供給して得られた脱塩液に回収されたカルニチン、尿素、NPNはそれぞれ2%、25%、46%(n=9)で、カルニチンは脱塩液にほとんど含まれていなかった。
溶出に用いた水酸化カリウム溶液の供給量が0.2eq/l−R以下の場合、カルニチンはほとんど溶出液に回収されないが、水酸化カリウム溶液の供給量が0.4eq/l−R以上に増えると急激に回収率が上がり、0.6eq/l−R供給した場合、62%のカルニチンが回収された。この場合の尿素とNPNの回収率はそれぞれ43%、35%であった(図8)。溶出液に回収されたナトリウム、カリウムはいずれの条件でも10%以下で、2価イオンは溶出されなかった。
【0031】
テスト2:
Dil.液を1.3kg・TS/l−R供給して得られた脱塩液に回収されたカルニチン、尿素、NPNはそれぞれ9%、26%、50%(n=4)であった。一方、Conc.液を原料とした場合、脱塩液に回収されたカルニチン、尿素、NPNはそれぞれ6%、5%、37%(n=4)であった。したがって、濃度が高いUF透過液をカラムに供給すると、NPN成分、特に尿素の脱塩液への回収率は低くなった。
溶出液へのカルニチンの回収率は水酸化カリウム溶液供給量の増加に比例して上がり、0.45eq/l−R供給すると、Dil.液、Conc.液を試料とした溶出液にはそれぞれ79%、61%のカルニチンが回収された(図9、10)。UF透過液の濃度が高い方が尿素、NPNの溶出液への回収率は高くなった。この場合の陽イオンの溶出液への回収率はいずれも10%以下であった。
【0032】
テスト3:
テスト3では、カルニチンを濃縮するために、供給開始から1.1kg・TS/l−R供給した脱塩液にはカルニチンが含まれていないので、これを脱塩液(A)(Dem.(A))とした。さらに1.1kg・TS/l−R以上供給した脱塩液を脱塩液(B)(Dem.(B))として別に採取した。
Dil.液およびConc.液を1.3kg.TS/l−R供給した後、0.4もしくは0.5eq/l−R相当の水酸化カリウム溶液で溶出した実験における脱塩液(A)(Dem.(A))および脱塩液(B)(Dem.(B))と溶出液(Elu.)に回収された各成分の比率を表4に、脱塩液(B)と溶出液の混合液もしくは溶出液の組成を表5に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
Dil.液の場合、供給量1.1kg・TS/l−Rまでの脱塩液(A)を別に採取することで脱塩液(B)と溶出液の混合液に無機陽イオン漏出率11%以下でカルニチンを90〜95%回収できた。一方、Conc.液の場合は、同様に無機陽イオン漏出率10%以下でカルニチンを79〜87%回収できた。カルニチンは乾物換算0.18〜0.11%でUF透過液の3〜4倍に濃縮された計算になる。
脱塩液(B)を混合しない場合、溶出液へのカルニチンの回収率は76〜87%で、乾物換算のカルニチン含量は約2%であった。
液の混合液の乾物換算のカルニチン含量は0.1〜0.2%である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、乳又は乳製品から、カルシウム等の陽イオンの含量が少ない状態で、カルニチンを回収することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳若しくは乳製品の限外濾過透過液又はホエイを、陽イオン交換樹脂を充填したカラム上部から供給し、該カラムの樹脂充填部の下約1/3の下層部にカルニチンを吸着させ、次いで、該下層部に溶出液を供給し、カルニチンを溶出させることによって回収した無機陽イオン含量が低減されたカルニチンを用いる、調製粉乳または機能性健康原料の製造方法。
【請求項2】
乳若しくは乳製品の限外濾過透過液又はホエイの供給を陽イオン交換樹脂の交換容量が飽和した時点で停止することを特徴とする請求項1記載の調製粉乳または機能性健康原料の製造方法。
【請求項3】
溶出液がアルカリ液である請求項1又は2記載の調製粉乳または機能性健康原料の製造方法。
【請求項4】
溶出液を陽イオン交換樹脂を充填したカラムの下部から供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の調製粉乳または機能性健康原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の調製粉乳の製造方法によって製造された調製粉乳または機能性健康原料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−48631(P2013−48631A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−245489(P2012−245489)
【出願日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【分割の表示】特願2007−531023(P2007−531023)の分割
【原出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】