説明

カルバ−NADの酵素合成

本発明は、いわゆる「カルバ−NAD」、つまりリボースの代わりにカルバ環糖を含むそれぞれNAD/NADH又はNADP/NADPHのアナログであるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドNAD/NADH及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートNADP/NADPHの安定なアナログの酵素合成に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる「カルバ−NAD」、つまりリボースの代わりにカルバ環糖(carbacyclic sugar)を含むそれぞれNAD/NADH又はNADP/NADPHのアナログであるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドNAD/NADH及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェートNADP/NADPHの安定なアナログの酵素合成に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分析のための測定系は臨床的に関連する分析法の重要な成分である。これは、酵素を用いて直接的に又は間接的に決定される例えば代謝産物又は基質のような分析物の測定に主に関する。しばしば、興味ある分析物は酵素・補酵素複合体を用いて転換され、ついでこの酵素反応を介して定量される。このプロセスにおいて、適切な反応条件下で定量される分析物は適切な酵素及び補酵素に接触せしめられ、それによって補酵素が酵素反応によって例えば酸化又は還元等、変化させられる。このプロセスは直接的に又はメディエーターによって電気化学的に又は測光的に検出されうる。通常、較正曲線が測定値と興味ある分析物の間の直接的相関をもたらし、それによって分析物濃度を決定することができる。
【0003】
補酵素は酵素に共有的に又は非共有的に結合される有機分子であり、分析物の転換により変化せしめられる。補酵素の著名な例は、それからNADHとNADPHがそれぞれ還元によって形成されるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)とニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP)である。米国特許出願公開第2008/0213809号に記載されているように、常套的な測定系の不具合、例えば限られた有効期間、改善された有効期間を達成するための冷却又は乾燥貯蔵のような貯蔵条件に対する特別な要求は少なくとも、そこに開示された安定なニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADP/NADPH)誘導体によってかなり克服できる。これらの安定なNAD(P)Hアナログは、例えば血糖自己測定におけるようにエンドユーザー自身によって実施される試験の場合に特に重要である、間違った看過された不完全な保管によって引き起こされる誤った結果を避けるのに適している。
【0004】
米国特許出願公開第2008/0213809号に記載されているように、カルバ−NADの化学合成は、極めて困難であり、少なくとも8の合成工程を必要とし、かなり低収量で、よって全体的にかなり費用がかかる。カルバ−NADの合成の化学的経路を図1に示す。合成の代替経路が緊急に必要とされている。
【0005】
よって、本発明の目的は、煩わしさが少なく、高収率で、魅力的に低いコストでカルバ-NADを提供することである。
驚いたことに、カルバ-NADを高い費用効率かつ簡便な方法で提供するために一般化学の代わりに酵素を利用することができることが今見出された。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、カルバ−NAD又はそのアナログを酵素的に合成する方法であって、a)3−カルバモイル−1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム−メタンスルホネート又はそのアナログをNRK酵素によってリン酸化し、b)工程(a)のリン酸化生成物を、NMN−AT酵素を用いてアデノシン又は構造的に関連した化合物でアデニル化し、それによってカルバ−NAD又はそのアナログを得る工程を含んでなる方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
好ましい実施態様において、本発明は、カルバ−NAD又はそのアナログの合成方法であって、
a)ニコチンアミドリボシルキナーゼ(NRK)酵素を用いて式I

(上式中、R1はOH、NH2、O−メチル又はN−ジメチル、メチルであり、Yは対イオンであり、XはO又はSである)
の化合物をリン酸化し、
b)NMN−AT酵素を用いて工程(a)のリン酸化生成物を式II

(上式中、R2はNH2、OH、又はNHアルキルであり、
R3はH、OH又はNH2である)
の化合物でアデニル化し、
よって、R1、R2、R3、Y及びXが上の定義の通りである式III

のカルバ−NAD又はそのアナログを得ること
を含んでなる方法に関する。
【0008】
上記方法はまた図2に示された反応スキームによって例証される。
「カルバ−」なる用語は、リボシル糖残基の代わりに、2,3−ジヒドロキシシクロペンタンが存在していることを示すために使用される。換言すれば、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD’)のカルバ−アナログは、2,3−ジヒドロキシシクロペンタン環がニコチンアミドリボシド部分のD−リボヌクレオチド環に換わることを除いて、(NAD’)と同一である化合物である(Slama, J.T.及びSimmons, A.M., Biochemistry 27 (1988) 1831)。
【0009】
酵素は、それが存在しない場合には厳しい条件を必要とするか又はしばしば達成するのが殆ど不可能でさえある反応が、程度の差はあれ、生理学的条件で起こることを可能にする非常に特異的な触媒として知られている。そのような特定の反応を実施することができるためには、また淘汰圧下での世代間を通した進化の結果、酵素は、基質特異性に関してと、触媒される反応に関しての双方で非常に特異的になる傾向がある。今、驚いたことに、ニコチンアミドリボシルキナーゼが、基質としてリボシル残基の代わりに2,3,ジヒドロキシシクロペンタン環を含む式Iのピリジニウム化合物を受容し、これらの化合物をリン酸化することができることが見出された。
【0010】
国際酵素命名法に従ってニコチンアミドリボシルキナーゼ(NRK)は、クラスEC2.7.1.22(ATP:N−リボシルニコチンアミド5’−ホスホトランスフェラーゼ)にグループ化される。好ましくは、クラスEC2.7.1.22から選択される酵素が、式Iの化合物をリン酸化するために本発明に係る方法において使用される。好ましいNRKは、サッカロマイセス・セレビシエ、シュードモナス・エルジノーサ、ストレプトコッカス・サンギニウス(sanguinius)及びホモ・サピエンスから知られているものである。また好ましくは、本発明に係る方法において使用されるNRKはストレプトコッカス・サンギニウス及びホモ・サピエンスから知られているものである。好ましい一実施態様では、本発明に係る方法における第一工程を実施するためにホモ・サピエンスからとして知られているNRK1が使用される。
【0011】
式Iに示されるように、R1がNH2であるカルバ−ニコチンアミドばかりでなく、R1に対して与えられた別のものによって定義され、まとめられるカルバ−ニコチンアミドアナログのような他の化合物がある種のNRK酵素に対して適した基質を表す。本発明の開示を武器にすれば、RNK酵素によって効果的にリン酸化されるその能力について式Iの化合物並びに関連化合物を調査することは当業者には問題がないであろう。好ましくは、式Iに定義されたピリジニウム化合物は本発明に係る方法において酵素的リン酸化に使用される。ニコチンアミドに対するアナログは、R1がNH2ではない式Iに定義された化合物である。好ましくは、式IのR1は、OH、NH2及びO−メチルからなる群から選択される。好ましい一実施態様では、R1はOHであり、更に他の好ましい一実施態様では、R1はNH2である。R1又はR2中のアルキルは好ましくはC1からC6の直鎖状又は分枝状アルキル、好ましくは直鎖状アルキルである。
【0012】
式I中の残基XはO又はSのいずれかであり得る。好ましい一実施態様では、式I中のXはOである。
対イオンYは、好ましくは、メチルスルホネート、Cl、PF6、BF4、及びClO4からなる群から選択される。また好ましくは、対イオンはBF4又はメチルスルホネートである。
【0013】
驚いたことに、ニコチンアミドヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼ(NMN−AT)は、上述のようにして得られたリン酸化カルバ−ニコチンアミドをアクセプター分子として使用することができ、これらの化合物をアデニル化することができる。カルバ−NAD又はそのアナログの酵素合成の第二工程では、ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼがよってアデニル残基又はそのアナログをリン酸化カルバ−ニコチンアミド又はそのアナログに移動させるために使用され、それによってカルバ−NAD又はそのアナログが形成される。
【0014】
国際酵素命名法に従ってニコチンアミドヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼ(NMN−AT)はクラスEC2.7.7.1(ATP:ニコチンアミド−ヌクレオチドアデニルイルトランスフェラーゼ)に分類される。好ましくは、クラスEC2.7.7.1から選択される酵素が、本発明に係る方法において、式Iのリン酸化化合物を式IIに記載の化合物でアデニル化するために使用される。好ましいNMN−ATは、バチルス・スブチリス、エシェリキア・コリ、メタノコックス・ジャナスキ、スルホロブス・ソルファタリカス、サッカロマイセス・セレビシエ及びホモ・サピエンスから知られているものである。好ましい一実施態様では、ホモ・サピエンスから知られ、例えばエシェリキア・コリ又はバチルス・スブチリスにおいて発現されるNMN−ATが本発明に係る方法において第二の酵素反応を実施するために使用される。アデニル基ばかりでなくそのアナログをまた本発明において開示された方法においてNMN−ATに対する基質として使用できるという事実にかかわらず、便宜上、アデニル化する、アデニル化された、又はアデニル化という用語は全てのこれらの物質に対して同等に使用される。
【0015】
また驚いたことに、カルバNAD又はそのアナログの酵素合成における両工程を単一の反応混合物中で実施することができることが観察された。また更に好ましい実施態様では、本発明は、カルバ−NAD又はそのアナログを酵素的に合成する方法であって、a)3−カルバモイル−1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム−メタンスルホネート又はそのアナログをNRK酵素によってリン酸化し、b)工程(a)のリン酸化生成物を、NMN−AT酵素によってアデノシン又は構造的に関連した化合物でアデニル化し、それによってカルバ−NAD又はそのアナログを得る工程を具備し、ここで両酵素反応が一つの反応混合物中で実施される方法に関する。
【0016】
驚いたことに、本発明において開示された方法に基づいて、カルバモイル−1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)ピリジニウムの1R,2S,3R,4Rエナンチオマーに基づくcNADの生物学的に関連したエナンチオマーを純粋な形態及び高収率で得ることができることが見出された。好ましい実施態様では、本発明において開示された方法は、カルバモイル−1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウムの1R,2S,3R,4Rエナンチオマーを含むcNADを合成するために使用される。
【0017】
式IIに示されるように、アデノシン−トリ−ホスフェートばかりでなく、他の構造的に関連した化合物もまた式IIにおけるR2及びR3それぞれに対して与えられた定義によって特徴付けられまとめられる。式IIにおいてそれぞれ様々な可能な組み合わせのR2及びR3を持つ化合物がある種のNMN−AT酵素に対して適した基質を表す。本発明の開示を武器にすれば、NMN−AT酵素によって効果的にアデニル化されるその能力について式IIの化合物並びに構造的に関連した化合物を調査することは当業者には問題がないであろう。アデノシンと構造的に関連した化合物は、それぞれR2がNH2ではなく、R3がHではない式IIで定義される化合物である。好ましくは、式IIにおいてそれぞれR2及びR3に対して与えられた基を介して定義されるプリン化合物は、リン酸化カルバ−ニコチンアミド又はそのアナログの酵素アデニル化に使用される。
【0018】
更に好ましい実施態様では、本発明は、式IIの化合物に関し、ネブラリン、ホルマイシン、アリステロマイシン、7デアザ−アデノシン、7デアザ−グアノシン、7デアザ−イノシン、7デアザ−キサントシン、7デアザ2,6−ジアミノオウリン、7デアザ8アザ−アデノシン、7デアザ8アザ−グアノシン、7デアザ8アザ−イノシン、7デアザ8アザ−キサントシン、7デアザ8アザ2,6−ジアミノオウリン、8アザ−アデノシン、8アザ−グアノシン、8アザ−イノシン及び8アザ−キサントシン及び8アザ2,6−ジアミノプリンのトリホスフェートからなる群から選択される化合物の使用に関する。これらの化合物は、本発明に係る方法においてニコチンアミドのカルバアナログを含む対応のジヌクレオチドを製造するためにまた使用できる。
【0019】
好ましくは、式IIのR2はNH2又はOHからなる群から選択される。好ましい一実施態様では、R2はOHであり、更に他の好ましい一実施態様では、R2はNH2である。好ましくは、式IIのR3は、H又はOHからなる群から選択される。好ましい一実施態様では、R3はHである。
【0020】
好ましい一実施態様では、本発明に係る方法は、R1がNH2であり、R2がNH2であり、R3がHであり、XがOである式I、II及びIIIに与えられた化合物で実施される。
【0021】
当業者には明らかなように、カルバ−NAD又はそのアナログは、それぞれ補酵素又は補因子としてNADを必要とする様々な異なった酵素と正確に同じようには作用しないであろう。しかしながら、今問題の選択肢から適切なアナログを選択するのは当業者には問題はないであろう。
【0022】
次の実施例及び図面は本発明の理解を助けるために提供されるもので、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。本発明の精神を逸脱しないで記載された手順において変更を加えることができることは理解される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1はカルバ−NAD(cNAD)を化学的に合成するために使用される標準的な経路を図で示している。与えられたパーセントで示されるように、この手順による全収率はかなり低い。
【図2】図2は本発明に開示されたカルバ−NADの合成において使用される二つの酵素段階で模式的に例証する。
【実施例】
【0024】
実施例1:
5-ジメチルアミノ-4-メトキシカルボニル-ペンタ-2,4-ジエニリデン-ジメチル-アンモニウムテトラフルオロボレートの合成
実施例1.1:メチル−(2E)−3−(3−ジメチルアミノ)プロパ−2−エノエートの合成

700mlの無水THF中のメチルプロピオレート(68.0ml,0.764mol)の溶液に同じ溶媒(392ml,0.783mol)中のN,N−ジメチルアミンの2M溶液を室温で1時間以内に添加した。溶媒の除去後、エバポレーターで1時間(37℃、10−20mbar)乾燥させ、淡黄色の固形物を生じた。粉砕した固形物をn−ヘキサンで洗浄して、TLC及び1H NMRに従って純粋であった93.0g(94%)のメチル−(2E)−3−(3−ジメチルアミノ)プロパ−2−エノエートを得た。
【0025】
実施例1.2:ピリジニウムテトラフルオロボレートの合成

テトラフルオロホウ酸(250ml,2.00mol)を加えてピリジン(157.7ml,1.95mol)を25分以内に冷却し(0℃)、無色沈殿物を得た。酸を完全に添加した後、混合物を同じ温度で更に30分攪拌した。ついで、反応混合物を濾過した。残留物を冷エタノールで洗浄し、高真空下で12時間乾燥させて、201.9g(60%)のピリジニウムテトラフルオロボレートを無色の結晶として得た。
【0026】
実施例1.3:5−ジメチルアミノ−4−メトキシカルボニル−ペンタ−2,4−ジエニリデン−ジメチル−アンモニウムテトラフルオロボレートの合成

ピリジニウムテトラフルオロボレート(283.7g,1.70mol)を442.5mlの無水酢酸/酢酸(2:1)中のメチル−(2E)−3−(3−ジメチルアミノ)プロパ−2−エノエートの溶液に加えた。得られた懸濁液を0℃に冷却し、激しく攪拌し、氷浴で冷却しながら3−ジメチルアミノアクロレイン(169.9ml,1.70mol)をゆっくり(3時間)加え、黄褐色の沈殿物を得た。室温で2時間更に攪拌した後、反応混合物を濾過した。残りの固形物をジエチルエーテルで数回洗浄し、減圧下で乾燥させた。i−プロパノール/エタノール(2:1)からの結晶化により、326.7g(65%)のペンタメチニウム塩が黄色結晶として得られた。
【0027】
実施例2:
2,3−ジヒロキシ−4−ヒドロキシメチル−1−アミノシクロペンタンの合成

EtOH中のKOHの1M溶液(54.5ml,54.5mmol)を、540mlのEtOHに溶解した塩酸塩の冷却(0℃)溶液に加えた。室温で15分攪拌した後、形成された無色の沈殿物を濾過によって除去した。濾液を減圧下で濃縮した。残りの油をエバポレーター(1時間、40℃)で乾燥させて、9.01g(112%)のアミノカルバリボースを淡黄色の油として得た。得られた生成物は、更なる精製なしに次の工程で使用される。
この手順は、(1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒロキシ−4−ヒドロキシメチル−1アミノシクロペンタン及びそのエナンチオマーの合成に使用される。
【0028】
実施例3:
1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−3−メトキシカルボニル−ピリジニウム−メタンスルホネートの合成

ビナミジニウム塩(298.1g,1.00mol)を1500mlのDMFに溶解させ、1当量のメタンスルホン酸(65.02ml,1.00mol)を加えた。この混合物を、1250mlのMeOH中の3−アミノ−5−ヒドロキシメチル−シクロペンタン−1,2−ジオール(165.3g,0.90mol)及び3−アミノ−5−ヒドロキシメチル−シクロペエンタン−1,2−ジオール(25.8g,0.15mol)の還流溶液(90℃)に連続的に非常にゆっくりと(5時間以内)滴下した。ビナミジニウム塩溶液を完全に添加した後、反応混合物を室温まで冷却し、再び0.15当量のメタンスルホン酸を加えた。混合物を同じ温度で12時間攪拌した。減圧下で溶媒を除去した後、赤褐色の油を得、これを更に3時間(45℃、4mbar)乾燥させた。収量:693.0g(191%,塩及び多量の溶媒を含む)。
この手順は、3−メトキシカルボニル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩及びそのエナンチオマーの合成に使用される。
【0029】
実施例4:
3−カルバモイル−1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム−メタンスルホネート
実施例3からの粗1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−3−メトキシカルボニル−ピリジニウム−メタンスルホネート材料を更なる精製なしに対応するアミドに迅速に転換した。

粗1−(2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−3−メトキシカルボニル−ピリジニウム−メタンスルホネート118.3g,173.7mmol)を100.0mlのメタノールに溶解させた。メタノール性アンモニア(7M,350.0ml,2.45mol)の添加後、反応混合物を2.5時間攪拌した。減圧下で溶媒を除去した後、赤褐色の油を得、これを更に3時間(40℃、10mbar)乾燥させた。この粗生成物は活性炭で前もって精製し、例えばcNADの合成に対して(国際公開第2007/012494号)又はここで以下に記載されるcNADの酵素合成において直接使用される。
【0030】
本発明に係る方法において使用するのに適した他の化合物、例えば式Iに定義される化合物は、上記実施例1から4に与えられた手順に類似した形で合成することができる。
この手順は、3−カルバモイル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩及びそのエナンチオマーの合成に使用される。
【0031】
実施例5:
ニコチンアミド リボシルキナーゼを用いた式Iに係る幾つかの化合物の酵素的リン酸化

12,14,17の純粋な(1R,2S,3R,4R)エナンチオマー
各100mg/ml: 100μl
TRIS×HClバッファーpH7.5,15mM MgCl: 960μl
ATP溶液100mM/l: 40μl
リン酸クレアチンフォスフェート: 14.5mg
クレアチンキナーゼ: 0.1mg
ニコチンアミドリボシルキナーゼ,0.7U/ml 230μl
(組換え型NRK1,ホモ・サピエンス由来(SwissProt ID:Q9NWW6)又はNRK(nadR),ストレプトコッカス・サンギニウス由来(SwissProt ID:A3CQV5),エシェリキア・コリ中で異種性に発現)。
【0032】
一般的作業手順:
クレアチンホスフェート(14.5mg)及びクレアチンキナーゼ(0.1mg)を、TRISバッファー(pH7.5,15mM MgCl,960μl)及びATP(HO中100mM/l,40μl)の混合物に溶解させた。ついで、リボシド(上記の化合物14又はアナログ)の溶液(HO中100mg/ml,100μl)と続いてリボシルキナーゼ(0.7U/ml,230μl)を添加した。反応混合物を37℃で16時間インキュベートした。80℃で短い間温めた後、混合物を濾過し、HPLCによって調べた。
3例(化合物14、12又は17)の全てにおいて、リボシドの完全な消費と新規化合物の形成(それぞれ上に化合物15、16又は18として与えた対応のリン酸化産物)をHPLCによって検出することができた。
所望のリン酸化産物の正確な質量はLC/MSによって見出した:(MS:ESI:M=330.75(化合物15),345.74(化合物16),358.79(化合物18))。
化合物15はカチオン交換樹脂Dowexで水で溶出するクロマトグラフィーを使用して精製する。
【0033】
実施例6:
それぞれNMN−ATを用いたカルバ−ニコチンアミド及びそのアナログの酵素的転換

それぞれ物質15、16及び18(実施例5の酵素的リン酸化からの粗物質)
おおよそ 10.0mg
物質19(アデノシントリホスフェート,二ナトリウム塩) 22.6mg
NMN−AT:,(32U/ml) 4.8μl(0.153U)
(組換え型ニコチンアミドモノヌクレオチド−アデノシルトランスフェラーゼ(NMN−AT),ホモ・サピエンス由来(SwissProt ID:Q9HAN9)。あるいは、例えばNMN−AT、エシェリキア・コリ由来(SwissProt ID:P0A752)又はバチルス・スブチリス由来(SwissProt ID:P54455)、エシェリキア・コリ中で異種性に発現、を使用)
【0034】
作業手順:
ATP二ナトリウム塩(22.6mg)及びニコチンアミドモノヌクレオチドアデノシルトランスフェラーゼ(NMN−AT,4.8μl,0.153U)を、モノヌクレオチドを含む酵素的リン酸化から得られた濾過液(化合物15又はアナログ、例えば化合物16及び18)に加えた。反応混合物を37℃で18時間インキュベートした。80℃で短い間温めた後、混合物を濾過し、HPLC及びLC/MSによって調査した。
3例全ての実験において、モノヌクレオチド(化合物15,16又は18)の完全な消費及び新規化合物の形成はHPLCによって検出することができた。
化合物20の正確な質量を見出した(MS:ESI:M=659.77)。
【0035】
実施例7:
カルバ−ニコチンアミドへの3−カルバモイル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩の転換のワンポット手順
1g(2.16mmol)の3−カルバモイル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム;クロリド,0.242g(0.4mmol)ATP二ナトリウム塩,300mgのMgCl2×6H2O(1.45mmol)16Uのリボシルキナーゼ、1.45g(4.43mmol)クレアチンホスフェート及び4.27kUのクレアチンキナーゼを25mlの滅菌水に溶解させた。混合物を35℃で一晩インキュベートした。ついで、2.42g(4mmol)のATP二ナトリウム塩、440mgのMgCl2×6H2O(2.16mmol)及び32UのNMNATを加えた。混合物を35℃で一晩インキュベートした。ついで、それを90℃に5分間加熱し、冷却後に濾過した。精製は国際公開第2007/012494号に記載されたイオン交換クロマトグラフィーを使用して実施した。
【0036】
実施例8:
エナンチオマー3−カルバモイル−1−((1S,2R,3S,4S))−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩の存在下でのカルバ−ニコチンアミドへの3−カルバモイル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩の転換
3−カルバモイル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム;クロリド及び3−カルバモイル−1−((1S,2R,3S,4S)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム;クロリド0.242g(0.4mmol)、ATP二ナトリウム塩、300mgのMgCl2×6H2O(1.45mmol)の16Uのリボシルキナーゼ、1.45g(4.43mmol)のクレアチンホスフェート及び4.27kUのクレアチンキナーゼからなる1g(2.16mmol)の1:1混合物を25mlの滅菌水に溶解させた。混合物を35℃で一晩インキュベートした。反応を逆相HPLC分析(ODS Hypersil,5μm,250×4.6mm Thermo Scientific,Part−Nr.:30105−254630,溶出剤A=0.1MのトリエチルアンモニウムアセテートpH7.0,溶出剤B=0.2Lの0.1Mのトリエチルアンモニウムアセテート。pH7.0+0.8Lのアセトニトリル,勾配2分0%のB,23分100%のB,流量1ml/分,検出:UV/260nm)によってモニターし、両エナンチオマーがリン酸化されたことが示された。2.96分の3−カルバモイル−1−((1R,2S,3R,4R)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム;クロリド及び(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーに対応するピークは消え、3.45分のリン酸化生成物に対応する新しいピークが現れる。
【0037】
ついで、2.42g(4mmol)ATP二ナトリウム塩、440mgのMgCl2×6H2O(2.16mmol)及び32UのNMN−ATを添加した。混合物を35℃で一晩インキュベートした。その後、それを90℃に5分間加熱し、冷却後濾過した。逆相HPLC分析は、cNADに対応する7.92分にピークを示す。3.45分には、リン酸化(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーに対応するピークが残っている。アルカリホスファターゼの添加時に7.92のピークは影響されないが、3.45分のリン酸化(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーのピークは消え、2.96分に3−カルバモイル−1−((1S,2R,3S,4S)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩に対応するピークが現れる。よって、cNAD(1R,2S,3R,4Rエナンチオマーに基づく)はもたらされない一方、残存するリン酸化(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーはアルカリホスファターゼによって脱リン酸化される。
【0038】
コントロールとして、3−カルバモイル−1−((1S,2R,3S,4S)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム;クロリドだけを使用して同じ実験を実施し、HPLCによってモニターした。リボシルキナーゼの添加時に(リン酸化エナンチオマーに対応する)3.45分にピークの形成があったが、7.92分の保持時間でのピークは、NMN−AT添加後のHPLCクロマトグラムには見出されなかった。
【0039】
よって、(1R,2S,3R,4R及び1S,2R,3S,4S)エナンチオマーからなる2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−1−アミノシクロペンタンのエナンチオマー混合物を用いたcNADの合成を開始し、本発明において開示された方法だけによって、生物学的に関連したcNADを得ることができる。
【0040】
ついで、2.42g(4mmol)のATP二ナトリウム塩、440mgのMgCl2×6H2O(2.16mmol)及び32UのNMN−ATが添加された。混合物を35℃で一晩インキュベートした。その後、それを5分間90℃まで加熱し、冷却後、濾過した。HPLC分析は、cNADに対応する7.92分にピークを示す。3.45分には、リン酸化(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーに対応するピークが残っている。アルカリホスファターゼの添加時に7.92のピークは影響されないが、3.45分のリン酸化(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーのピークは消え、2.96分に3−カルバモイル−1−((1S,2R,3S,4S)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム塩に対応するピークが現れる。よって、cNAD(1R,2S,3R,4Rエナンチオマーに基づく)はもたらされない一方、残存するリン酸化(1S,2R,3S,4S)エナンチオマーはアルカリホスファターゼによって脱リン酸化される。
【0041】
コントロールとして、3−カルバモイル−1−((1S,2R,3S,4S)−2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−シクロペンチル)−ピリジニウム;クロリドだけを使用して同じ実験を実施し、HPLCによってモニターした。リボシルキナーゼの添加時に(リン酸化エナンチオマーに対応する)3.45分にピークの形成があったが、7.92分の保持時間でのピークは、NMN−AT添加後のHPLCクロマトグラムには見出されなかった。
【0042】
よって、(1R,2S,3R,4R及び1S,2R,3S,4S)エナンチオマーからなる2,3−ジヒドロキシ−4−ヒドロキシメチル−1−アミノシクロペンタンのエナンチオマー混合物を用いたcNADの合成を開始し、本発明において開示された方法によって、生物学的に関連した1R,2S,3R,4Rエナンチオマーだけに基づいてcNADを得ることができる。
【0043】
実施例9:
NMN−AT及びN6ヘキシルアミノATPを用いたカルバ−ニコチンアミドモノヌクレオチド(物質15)の酵素的転換

一般的作業手順:
N6−ヘキシルアミノATP二ナトリウム塩Jena Bioscience(0.33mg)及びニコチンアミドモノヌクレオチドアデノシルトランスフェラーゼ(NMN−AT,4.8μl,0.153U)を1mgの15の溶液に加えた。反応混合物を37℃で18時間インキュベートした。80℃に短い間温めた後、混合物を濾過し、HPLC及びLC/MSによって調べた。
カルバ−NMN(化合物15)は完全に消費し、新規化合物(対応するアデノシル誘導体)がHPLCによって検出された。
正確な質量が見出された(MS:ESI:M=759.77)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバ-NAD又はそのアナログの合成方法であって、
a)ニコチンアミドリボシルキナーゼ(NRK)酵素を用いて式I

(上式中、R1はOH、NH2、O−メチル又はN−ジメチル、メチルであり、Yは対イオンであり、XはO又はSである)
の化合物をリン酸化し、
b)ニコチンアミド モノヌクレオチドアデノシルトランスフェラーゼ(NMN−AT)酵素を用いて工程(a)のリン酸化生成物を式II

(上式中、R2はNH2、OH、又はNHアルキルであり、
R3はH、OH又はNH2である)
の化合物でアデニル化し、
よって、R1、R2、R3、Y及びXが上の定義の通りである式III

のカルバ-NAD又はそのアナログを得ること
を含んでなる方法。
【請求項2】
上記NRK酵素が、サッカロマイセス・セレビシエ、シュードモナス・エルジノーサ、ストレプトコッカス・サンギニウス及びホモ・サピエンス由来のNRKから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記NMN−ATが、バチルス・スブチリス、エシェリキア・コリ、メタノコックス・ジャナスキ、スルホロブス・ソルファタリカス、サッカロマイセス・セレビシエ及びホモ・サピエンス由来のNMN−ATからなる群から選択される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
式Iの化合物において、R1がOH、NH2、及びO−メチルからなる群から選択される請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
式IIの化合物において、R2がNH2又はOHである請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
式IIの化合物において、R3がH又はOHである請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
式Iの化合物において、XがOである請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
R1がNH2であり、R2がNH2であり、R3がHであり、XがOである請求項1から7の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−500026(P2013−500026A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522013(P2012−522013)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004523
【国際公開番号】WO2011/012270
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(306021192)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】