説明

カルバペネム化合物の水への安定な溶解方法

【課題】医薬品原薬として有用な化合物を、十分な溶解度および低い分解率をもって水へ溶解させ、晶析精製する方法を提供する。
【解決手段】式(1):


(式中R1は水素原子または低級アルキル基であり、R2はカルボキシル基の保護基を示し、R3はアミノ基の保護基を示し、R4は水素原子または低級アルキル基を示す。)の化合物を脱保護し、酸および塩基の存在下、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解し、貧溶媒を加えてカルバペネム化合物またはその溶媒和物を晶析。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後述式(2)で表される化合物を、十分な溶解度および低い分解率をもって水に安定に溶解させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(2):
【0003】
【化1】

(式中R1は水素原子または低級アルキル基であり、R4は水素原子または低級アルキル基を示す。)で表される化合物は特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第02/38564号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている式(2)で表される化合物の製造方法は、当該化合物を合成後、リン酸緩衝液(pH7.0)に溶解・抽出し、分液後ポリマークロマトグラフィーにより精製後、凍結乾燥するものである。ポリマークロマトグラフィーを用いる製法であるため工業的製造への適用は難しく、また、当該化合物のリン酸緩衝液(pH7.0)への溶解度が低いという問題も明らかとなってきた。そのため、リン酸緩衝液(pH7.0)で抽出する場合、大量の水が必要で容積効率が低下する。その点からも工業的製造が難しい。
医薬品原薬を工業的に製造する場合、水溶液状態で精製や結晶化を行う際には、効率よく製造するために大きな溶解度が必要となる。
また、一般に工業的な製造では実験室での小実験と比較して操作に時間がかかるため、化合物の水溶液中の安定性が原薬の品質や収率に与える影響はより大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々の検討を行った結果、溶解性を向上させようとしたところ分解率が高くなり安定性が低下する問題が生じたが、さらに検討を行った結果十分な溶解度および低い分解率をもって下記式(2)で表される化合物を水へ溶解する方法、また水溶液から直接結晶化させる方法を見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は以下のものに関する。
〔1〕 式(1):
【0007】
【化2】

(式中R1は水素原子または低級アルキル基であり、R2はカルボキシル基の保護基を示し、R3はアミノ基の保護基を示し、R4は水素原子または低級アルキル基を示す。)
で表される化合物の保護基を脱保護し、式(2):
【0008】
【化3】

(式中R1およびR4は前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得て、酸および塩基の存在下、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解し、貧溶媒を加えて晶析することを特徴とする、式(2)で表されるカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0009】
〔2〕 酸および塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液のpHが5.5〜8.0である、〔1〕に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0010】
〔3〕 酸および塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液のpHが6.4〜7.5である、〔1〕に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0011】
〔4〕 R2がアリル基、置換されていてもよいベンジル基、R3がアリルオキシカルボニル基、置換されていてもよいベンジル基またはベンジルオキシカルボニル基である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0012】
〔5〕 R2がアリル基、R3がアリルオキシカルボニル基である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0013】
〔6〕 脱保護工程において、水と混和しない有機溶媒中、パラジウム触媒で脱保護し、式(2)で表される化合物を得て、酸および塩基の存在下、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解し、有機層を除去した後に、貧溶媒を加えて晶析させる、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0014】
〔7〕 酸がアルキルカルボン酸、リン酸ジアルキルエステル、リン酸モノアルキルエステル、またはそれらの混合物であり、塩基が炭酸水素酸のアルカリ金属塩、炭酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ金属の水酸化物である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0015】
〔8〕 酸がリン酸ジアルキルエステル、リン酸モノアルキルエステル、またはそれらの混合物であり、塩基が炭酸水素酸のアルカリ金属塩である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0016】
〔9〕 酸がリン酸ジブチルエステル、リン酸モノブチルエステル、またはそれらの混合物であり、塩基が炭酸水素ナトリウムである、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0017】
〔10〕 式(2)で表される化合物を得て、酸および塩基の存在下、水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解する、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0018】
〔11〕 水と混和する有機溶媒がアルコール系溶媒である、〔10〕に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0019】
〔12〕 水と混和する有機溶媒が2−プロパノールである、〔11〕に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0020】
〔13〕 貧溶媒が、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、またはアセトンである、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
〔14〕 式(2)で表される化合物を得て、リン酸ジブチルエステル、リン酸モノブチルエステル、および炭酸水素ナトリウムの存在下、2−プロパノールと水との混合水溶液に溶解し、有機層を除去した後に、貧溶媒を加えて晶析させる、〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0021】
〔15〕 R1がメチル基である、〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0022】
〔16〕 R4がメチル基である、〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【0023】
〔17〕 R1がメチル基でありR4がメチル基である、〔1〕〜〔16〕のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、医薬品原薬として有用な化合物を、十分な溶解度および低い分解率をもって水へ溶解させ、クロマトグラフィーを用いることなく晶析精製することができる。リン酸緩衝液(pH7.0)で抽出する場合と比較して容積効率が改善され、工業的製造も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
なお、本明細書において、「置換された」で定義される基における置換基の数は、置換可能であれば特に制限はなく、1または複数である。また、特に指示した場合を除き、各々の基の説明はその基が他の基の一部分または置換基である場合にも該当する。
【0026】
低級アルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチルまたはn−ヘキシルのような直鎖状、または分枝鎖状の炭素数1〜6のものが挙げられる。
【0027】
カルボキシル基の保護基としては通常用いられる各種の保護基が可能であるが、好適には例えばメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチルのような直鎖状もしくは分枝鎖状で炭素数1〜5の低級アルキル基、例えば2−ヨウ化エチル、2,2,2−トリクロロエチルのような炭素数1〜5のハロゲノ低級アルキル基、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、イソブトキシメチルのような炭素数1〜5のような低級アルコキシメチル基、例えばアセトキシメチル、プロピオニルオキシメチル、ブチリルオキシメチル、ピバロイルオキシメチルのような炭素数1〜5の低級脂肪族アシルオキシメチル基、例えば1−エトキシカルボニルオキシエチルのような1−(C1〜C5)低級アルコキシカルボニルオキシエチル基、例えばベンジル、p−メトキシベンジル、o−ニトロベンジル、p−ニトロベンジルのような置換されていてもよいベンジル基、例えばアリル、3−メチルアリルのような炭素数3〜7の低級アルケニル基、ベンズヒドリル基、またはフタリジル基等が挙げられる。更に好適にはPd触媒で脱保護できる保護基が挙げられ、例えばアリル基、ベンジル基、ベンジルオキシメチル基、フェナシル基、ジフェニルメチル基などが挙げられる。
【0028】
アミノ基の保護基としては、通常用いられる各種の保護基が可能であるが、好適には例えば、tert−ブチルオキシカルボニルのような炭素数1〜5の低級アルコキシカルボニル基、例えば2−ヨウ化エチルオキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエチルオキシカルボニルのような炭素数1〜5のハロゲノアルコキシカルボニル基、例えばアリルオキシカルボニルのような置換されていてもよい炭素数3〜7の低級アルケニルオキシカルボニル基、例えばプロパルギルオキシカルボニルのような置換されていてもよい炭素数3〜7の低級アルキニルオキシカルボニル基、例えばベンジルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、o−ニトロベンジルオキシカルボニル、p−ニトロベンジルオキシカルボニルのような置換されていてもよいアラルキルオキシカルボニル基、例えばトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、tert−ブチルジメチルシリルのような炭素数3〜9のトリアルキルシリル基、ジフェニルメチルシリル、トリフェニルシリルのようなフェニル基を有するシリル基等が挙げられる。更に好適にはPd触媒で脱保護できる保護基が挙げられ、アリルオキシカルボニル基、シンナミルオキシカルボニル基、4-ニトロシンナミルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、p-メトキシベンジルオキシカルボニル基、p-ニトロベンジルオキシカルボニル基、p-ブロモベンジルオキシカルボニル基、p-クロロベンジルオキシカルボニル基、2,4-ジクロロベンジルオキシカルボニル基、ホルミル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0029】
次に本発明の製造方法および製造中間体について詳細に説明する。
【0030】
【化4】

(式中R1、R2、R3、およびR4は前記と同じ意味を表す。)
【0031】
式(1)で表される化合物の保護基を脱保護し、式(2):
【0032】
【化5】

(式中R1、およびR4は前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得ることが出来る。
【0033】
式(1)で表される化合物の脱保護には、特許文献1で示される方法や、その他文献既知の条件を用いることができる。例えば、式(1)で表される化合物のR2がアリル基、R3がアリルオキシカルボニル基である場合、式(1)で表される化合物の溶液に、求核剤存在下、パラジウム触媒を加えて、カルボン酸およびアミンの保護基いずれも脱保護することが出来る。
【0034】
その際に使用される溶媒としては、式(1)で表される化合物を溶解させ、式(1)や(2)で表される化合物と反応せず、水と混合しない溶媒であれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン等の芳香族系溶媒が挙げられ、好ましくはモノクロロベンゼンが挙げられる。
【0035】
求核剤としては、水素化トリn-ブチルすず等の水素化すず化合物や、アニリン、メチルアニリンなどのアニリン系化合物などが挙げられ、好ましくはアニリン、メチルアニリンが挙げられる。
【0036】
パラジウム触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム炭素等の0価パラジウムや、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等の2価パラジウムとトリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等のホスフィンを予めあるいは反応混合物中で混合して生成させた0価パラジウム等が挙げられ、好ましくはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが挙げられる。
【0037】
脱保護反応によって得られた式(2)で表される化合物は、反応液にそのまま酸、塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液を加えてもよいし、脱保護反応により結晶が析出する場合は該結晶をろ取後、得られた結晶に酸、塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液を加えてもよい。また、得られた水溶液は水と混和しない有機溶媒で洗浄することによりさらに精製することもできる。脱保護反応に水と混和しない溶媒を使用している場合は、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液を加えた後、分離した有機相を分液により除去してもよい。
【0038】
使用される酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸、酢酸、アルキルカルボン酸、アリールカルボン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、リン酸モノアルキルエステル、リン酸ジアルキルエステルなどの有機酸、あるいはそれらの混合物などが挙げられる。好ましくはリン酸ジブチル、リン酸モノブチル、それらの混合物などが挙げられる。また、リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、それらの混合物は、水洗分液などの方法により含有する無機塩を除去してから使用してもよい。
【0039】
使用される塩基としては、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミンや、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの炭酸水素酸のアルカリ金属塩、炭酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ金属の水酸化物などに代表される無機塩基、あるいはそれらの混合物などが挙げられる。好ましくは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムが挙げられる。
【0040】
酸および塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液のpHの範囲としては5.5〜8.0が挙げられ、好ましくは6.4〜7.5が挙げられる。
【0041】
水と混和する有機溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒などが挙げられ、好ましくはアセトン、2−プロパノールが挙げられる。
【0042】
酸、塩基、水と混和する有機溶媒の組み合わせとしては、好適には、リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、炭酸水素ナトリウム、2−プロパノールの組み合わせが挙げられる。好適な割合としては、水溶液のpHの範囲が上述の範囲であれば特に限定されないが、リン酸ジブチルが原料に対して2.7〜3.9モル倍、リン酸モノブチルが原料に対して1.2〜1.8モル倍、炭酸水素ナトリウムが原料に対して3.8〜6.3モル倍、2−プロパノールが原料に対して1〜10重量倍が挙げられる。さらに好適には、リン酸ジブチルが原料に対して3.1〜3.8モル倍、リン酸モノブチルが原料に対して1.4〜1.7モル倍、炭酸水素ナトリウムが原料に対して4.3〜6.1モル倍、2−プロパノールが原料に対して2〜6重量倍が挙げられる。
【0043】
溶解温度としては、通常−15℃〜40℃、好ましくは−10℃〜30℃、さらに好ましくは0℃〜20℃、が挙げられる。
【0044】
酸、塩基、水、および/または水と混和する有機溶媒の仕込順序は特に限定されず、あらかじめ混合してから式(2)で表される化合物または式(2)で表される化合物を含む反応マスに加えてもよく、逆に混合水溶液中に式(2)で表される化合物を加えてもよく、式(2)で表される化合物を含む反応マス中に酸、水と混和する有機溶媒、塩基水溶液を順番に加えてもよい。好ましくは、あらかじめ混合水溶液を調製しておき、これを式(2)で表される化合物を含む反応マス中に加えるか、逆にあらかじめ調製しておいた混合水溶液中に式(2)で表される化合物を含む反応マスを加える方法が挙げられる。
【0045】
得られた水溶液を水と混和しない有機溶媒で洗浄する場合、使用される有機溶媒としては、水と混和せず、式(2)で表される化合物と反応しないものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン等が挙げられ、好ましくはトルエン、モノクロロベンゼンが挙げられる。
【0046】
こうして得られた水溶液に貧溶媒を加えることにより、結晶を析出させることができる。使用する溶媒により得られる結晶が溶媒和晶となることもある。晶析は、式(2)で表される化合物を水に溶解し、さらに貧溶媒を加えることで実施することができる。貧溶媒としては、当該化合物の水溶液に添加したときに、水と均一に混合し、また、当該化合物を溶解しにくいものであれば特に限定されず、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒などが挙げられ、好適には2−プロパノール、アセトン、テトラヒドロフランが挙げられる。
【0047】
晶析温度としては、通常0〜40℃、好ましくは15〜30℃が挙げられる。結晶化させたのち、冷却してさらに結晶析出を促進させてもよい。また、結晶化のために種晶を添加してもよい。
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【実施例1】
【0049】
実施例1
各種溶解液中の(4R,5S,6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−3−({4−[(5S)−5−メチル−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−3−イル]−1,3チアゾール−2−イル}チオ)−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸の溶解度および分解率を測定した。溶解度は、溶解液に化合物を加えて溶かし、溶け残りをろ過して除き、ろ液中の化合物の濃度をHPLC法で下記HPLC条件にて測定した。また、溶液中の化合物量を経時的にHPLC法にてモニタリングし、溶解直後の量と比較して各温度での分解率を算出した。その結果は下表1の通りであった。
HPLC条件
カラム :SUMIPAX ODS A-212 (5μm, 6mmφ x 15cm)
カラム温度 :25℃付近の一定温度
移動相 :(A液)5mMリン酸緩衝液(pH7.0)
(B液)アセトニトリル
グラジエント条件:B液濃度 10%(0分) → 70%(20分) → 80%(20.01分) → 80%(40分) 10%(40.01分) → STOP(50分)
流量 :1mL/分
検出 :UV254nm
【0050】
【表1】

【0051】
上記の通り、本発明者らが見出した溶解液を用いて当該化合物を溶解した場合、当該化合物の溶液中の分解率は低く抑えられ、かつ、実用的な溶解度を得ることが出来る。
【0052】
実施例2
【0053】
【化6】

アリル(4R,5S,6S)−3−({4−[(5S)−1−アリルオキシカルボニル−5−メチル−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−3−イル]−1,3チアゾール−2−イル}チオ)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボキシラート16.0gのクロロベンゼン溶液270gに−10℃下、アニリン22g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム1gを加えた。反応終了後、炭酸水素ナトリウム13g、水179g、2−プロパノール64g、リン酸ジブチル23g、リン酸モノブチル6gの混合物を加え、分離した水層にアセトン512gを加え、析出した結晶をろ過し、アセトン水(67%, 50g, 2回)、アセトン50g(3回)で洗浄後、乾燥し、(4R,5S,6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−3−({4−[(5S)−5−メチル−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−3−イル]−1,3チアゾール−2−イル}チオ)−7−オキソ−1−アザビシクロ[3.2.0]ヘプト−2−エン−2−カルボン酸アセトン溶媒和晶12g(収率83%)を得た。
【0054】
以上より、本発明は、医薬品原薬として有用で分解しやすい化合物を、十分な溶解度および低い分解率をもって水へ溶解させ、クロマトグラフィーを用いることなく晶析精製することができる方法であり、カルバペネム化合物の製造に有用であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、医薬品原薬として有用な化合物を、十分な溶解度および低い分解率をもって水へ溶解させ、クロマトグラフィーを用いることなく晶析精製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中R1は水素原子または低級アルキル基であり、R2はカルボキシル基の保護基を示し、R3はアミノ基の保護基を示し、R4は水素原子または低級アルキル基を示す。)
で表される化合物の保護基を脱保護し、式(2):
【化2】

(式中R1およびR4は前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物を得て、酸および塩基の存在下、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解し、貧溶媒を加えて晶析することを特徴とする、式(2)で表されるカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項2】
酸および塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液のpHが5.5〜8.0である、請求項1に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項3】
酸および塩基、および、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液のpHが6.4〜7.5である、請求項1に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項4】
2がアリル基、置換されていてもよいベンジル基、R3がアリルオキシカルボニル基、置換されていてもよいベンジル基またはベンジルオキシカルボニル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項5】
2がアリル基、R3がアリルオキシカルボニル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項6】
脱保護工程において、水と混和しない有機溶媒中、パラジウム触媒で脱保護し、式(2)で表される化合物を得て、酸および塩基の存在下、水、または水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解し、有機層を除去した後に、貧溶媒を加えて晶析させる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項7】
酸がアルキルカルボン酸、リン酸ジアルキルエステル、リン酸モノアルキルエステル、またはそれらの混合物であり、塩基が炭酸水素酸のアルカリ金属塩、炭酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ金属の水酸化物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項8】
酸がリン酸ジアルキルエステル、リン酸モノアルキルエステル、またはそれらの混合物であり、塩基が炭酸水素酸のアルカリ金属塩である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項9】
酸がリン酸ジブチルエステル、リン酸モノブチルエステル、またはそれらの混合物であり、塩基が炭酸水素ナトリウムである、請求項1〜8のいずれかに記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項10】
式(2)で表される化合物を得て、酸および塩基の存在下、水と混和する有機溶媒と水との混合水溶液に溶解する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項11】
水と混和する有機溶媒がアルコール系溶媒である、請求項10に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項12】
水と混和する有機溶媒が2−プロパノールである、請求項11に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項13】
貧溶媒が、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、またはアセトンである、請求項1〜12のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項14】
式(2)で表される化合物を得て、リン酸ジブチルエステル、リン酸モノブチルエステル、および炭酸水素ナトリウムの存在下、2−プロパノールと水との混合水溶液に溶解し、有機層を除去した後に、貧溶媒を加えて晶析させる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項15】
1がメチル基である、請求項1〜14のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項16】
4がメチル基である、請求項1〜15のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。
【請求項17】
1がメチル基でありR4がメチル基である、請求項1〜16のいずれか一項に記載のカルバペネム化合物またはその溶媒和物の製造方法。