説明

カルパイン活性抑制剤

【課題】カルパインの過剰な活性化によりもたらされる種々の疾患の予防及び治療に利用できる安全性に優れたカルパイン活性抑制剤を提供すること。
【解決手段】ツツジ科スノキ属に属する植物、バラ科ビワ属に属する植物からなる群から選択される1種又は2種以上の植物又はそれらの植物の溶媒抽出物、特にビルベリー又はその溶媒抽出物、枇杷葉又はその溶媒抽出物は、カルパイン活性抑制作用が顕著に優れることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルパイン活性抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カルパインは、システインプロテアーゼ群に属する細胞内のタンパク質分解酵素であり、多くの細胞および組織に見られる。カルパインは、細胞内カルシウム濃度の上昇によって活性化され、μ−モル濃度のカルシウムイオンによって活性化されるカルパインI又はμ−カルパインと、m−モル濃度のカルシウムイオンによって活性化されるカルパインII又はm−カルパインが知られており、更なるカルパインアイソザイムも想定されている。
【0003】
カルパインは、様々な生理学的過程において重要な役割を担っている。カルパインの過剰な活性化は、神経内カルシウムの増加により誘発される虚血または損傷と病理学上の神経変性との間に分子的な関係を与えることが知られており、例えば、心虚血、腎臓または中枢神経系の虚血、炎症、筋ジストロフィー、白内障、糖尿病、HIV疾患、中枢神経系への損傷、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症等の発症は、カルパインの活性化と強く関与することが指摘されてきた。
【0004】
また、インターロイキン−1αの放出は、カルパイン阻害剤により阻止されることが報告されているので(非特許文献1)、カルパインは、皮膚の老化現象に関与する可能性もある。従って、カルパイン阻害剤は、インターロイキン−1αによるスーパーオキシドアニオン等の活性酸素の産生を抑制することで、皮膚の乾燥、色素沈着、シワ発生等の皮膚老化現象の遅延に有効であることが期待できる。
【0005】
カルパイン阻害剤としては、不可逆的及び可逆的阻害剤並びにペプチド及び非ペプチド阻害剤として大きく分類されている。具体的には特定のペプチド(特許文献1)、α−置換ヒドラジド(特許文献2)、インドールカルボキサミド(特許文献3)、カルボキサミド化合物(特許文献4)などが報告されている。しかしながら、これらのカルパイン阻害剤は、副作用をもたらす可能性があるため安全性の点で懸念があり、価格の点でも十分満足されるものではなかった。また、安全性の面で問題が少ない植物由来成分を有効成分とするカルパイン酵素の阻害剤についての研究はこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平9−500087号公報
【特許文献2】特表平11−500124号公報
【特許文献3】特表2001−515508号公報
【特許文献4】特表2010−514738号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N.Watanabeら,Cytokine vol.6(6),597−601(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性に優れたカルパイン活性抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、安全性の面で問題が少ない植物由来成分を有効成分とするカルパイン活性抑制剤について鋭意研究した結果、ビルベリー抽出物及び枇杷葉抽出物はカルパイン活性抑制作用が顕著に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
〔1〕ツツジ科スノキ属に属する植物、バラ科ビワ属に属する植物からなる群から選択される1種又は2種以上の植物又は植物の溶媒抽出物を有効成分とするカルパイン活性抑制剤を提供するものである。
【0011】
なお、前記ツツジ科スノキ属に属する植物がビルベリーであり、バラ科ビワ属に属する植物が枇杷の葉であることが好ましく、溶媒抽出物の場合は、エタノール、含水メタノール又は水を用いて抽出して得られる抽出物を有効成分とするものであることが好ましい。
【0012】
〔2〕また、前記カルパイン活性阻害剤は、外用剤であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
従来、カルパイン抑制剤として有効とされていた成分は、副作用をもたらす可能性があり、安全性の点で懸念があったが、本発明により、カルパインの過剰な活性化によりもたらされる種々の疾患の予防及び治療に利用できる安全性の面で問題が少ないカルパイン活性抑制剤の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電気泳動法を用いた活性測定法(一次スクリーニング)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。
【0016】
本発明に係わるカルパイン活性抑制剤は、ツツジ科スノキ属又はバラ科ビワ属に属する植物、又は植物の溶媒抽出物を有効成分とするものである。
【0017】
本発明に係わるツツジ科スノキ属は、北半球の温帯から寒帯に広く分布し、約300種が知られている常緑又は落葉の低木あるいは高木である。ツツジ科スノキ属植物としてはビルベリー(Vaccinium myrtillus)、ブルーベリー(Vaccinium australe Small)、コケモモ(Vaccinium vitis-ideaea L.)、クロマメノキ(Vaccinium.uliginosum L.)、クランベリー(Vaccinium.macrocarpon Ait.)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明に係わるツジ科スノキ属植物の種類は、特に限定されるものではないが、ビルベリー(Vaccinium myrtillus)が好ましい。ツジ科スノキ属植物の葉、芽、樹皮、樹液、果実等には薬効があり、使用部位についても特に限定されるものではないが、アントシアニン等を含む果実が好ましい。
【0018】
本発明に係わるバラ科ビワ属植物は、東アジアの温暖な地域分布する約10種が知られている常緑の低木又は高木。バラ科ビワ属植物としてはビワ(Eriobotrya japonica (Thunb.)Lindl.)が挙げられ、これを用いることが好ましい。使用部位についても特に限定されるものではないが、枇杷葉として知られる枇杷の葉及び葉から得られた成分が好ましい。枇杷の葉には、オレアノール酸、ウルソール酸、サポニン、アミグダリン、ビタミンB1、タンニンなどが含まれており、民間で生薬として利用されることもある。
【0019】
上記植物を抽出物として利用する場合、抽出溶媒は特に限定されないが、上記植物を溶媒、たとえば水、低級アルコール、含水低級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ブタノール等の極性溶媒またはクロロホルム、酢酸エチル、各種エーテル等あるいはこれらの混合物の有機溶媒で抽出して得た抽出物をそのまま、あるいは濃縮して用いるか、抽出物を吸着法、たとえばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したり、ポーラスポリマーのカラムに吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し濃縮した抽出物も使用できる。また、分配法、たとえばブタノールで抽出した抽出物等も使用できる。しかしながら、カルパイン活性がより高い分画物を得るためには、エタノール、含水エタノール又は水を用いて抽出することが好ましく、50%含水エタノールを用いることが更に好ましい。市版品としては、例えば、ツツジ科スノキ属植物成分としては、グリーンテック社のPhytelene of Bilberry EG 348 Liquid(ビルベリー果実/葉エキス)、一丸ファルコス社のエコファーム ビルベリーリーフ E、キュアベリー(共にビルベリー葉エキス)、池田糖化工業社のブルーベリー抽出物B(ビルベリーエキス)、キッコーマン社のキッコーマンクランベリーパウダー(クランベリー果汁)等を、バラ科ビワ属植物としては、丸善製薬社のビワ葉抽出液(枇杷葉エキス)、一丸ファルコス社のファルコレックスビワリーフB(枇杷葉エキス)、池田糖化工業社のビワ葉抽出液B(枇杷葉エキス)等があるのでこれを利用してもよく、これらの市販品を前記方法で処理したものを利用することもできる。
【0020】
かくして得られたツツジ科スノキ属に属する植物、バラ科ビワ属に属する植物からなる群から選択される植物又は植物の溶媒抽出物は、優れたカルパイン活性抑制作用を有し、カルパインの過剰な活性化によりもたらされる種々の疾患の予防及び治療に有用である。
【0021】
なお、枇杷の葉の有効成分である、オレアノール酸、ウルソール酸を含有するナツメ、レンギョウ、サンシュユ、シソ、ウメ、アンズ、モモなどのエキスも同様にカルパイン活性阻害効果が発揮される可能性がある。
【0022】
本発明のカルパイン活性抑制剤は、安全性が高く、内服及び外用のいずれの方法でも投与可能であるが、外用剤として用いることが好ましい。本発明の外用剤の形態であるカルパイン活性抑制剤には、通常使用される外用基材、薬効成分等を配合することができる。外用基材としては、流動パラフィンなどの炭化水素、植物油脂、ロウ類、合成エステル油、シリコーン系の油相成分、フッ素系の油相成分、高級アルコール類、脂肪酸類、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、顔料、色材、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコール、糖、高分子化合物、経皮吸収促進剤、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤等を任意に配合することができる。薬効成分としては、鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、ビタミン類、皮膚軟化剤等を適宜使用できる。本発明の外用剤の剤型は任意であり、油性基財をベースとするもの、水中油型、油中水型の乳化系基剤をベースとするもの、水をベースとするもののいずれの剤型も任意にとることができる。また、用途としては、化粧料の外、皮膚外用剤、医薬用軟膏等に好適に使用できる。その形態は、化粧水、ローション、乳液、クリーム、パック、軟膏、分散液、固形物、ムース等の任意の形態をとることができる。本品の投与量は、通常の範囲内のものであれば特に制限はないが、通常、製品1日あたり、カルパイン活性阻害剤の原体として0.001〜2000mgの範囲で用いられる。外用剤への配合量は、用途、剤型、配合目的等によって異なり、特に限定されるものではないが、カルパイン活性阻害剤の原体として外用剤中0.001〜20.0質量%、好ましくは0.01〜10.0質量%の範囲で用いられる。
【0023】
なお、外用剤として本発明に係わるツツジ科スノキ属に属する植物、バラ科ビワ属に属する植物からなる群から選択される1種又は2種以上の植物又はそれらの植物の溶媒抽出物を有効成分とするカルパイン活性抑制剤は、紫外線照射後のインターロイキン−1α(IL−1α)の放出を有意に抑制することを見出している。このことは、本発明のカルパイン活性抑制剤は、カルパインによるPro−IL−1αからIL−1αへのプロセシングを阻害していることを示唆しており、IL−1αレベルの増大に起因する疾患の治療にも有用であることが期待される。
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
カルパイン活性抑制作用を有する植物抽出物のスクリーニング
【0026】
1.試験の概容
カルパイン活性抑制作用を有する植物抽出物をスクリーニングした。
【0027】
2.実験方法
【0028】
2−1.電気泳動法を用いた活性測定法(一次スクリーニング)
1.5mLエッペンドルフチューブに、終濃度500ngのカルパインI、表1に示す各植物抽出物およびカルシウム含有緩衝液を添加した。氷上にて10分間インキュベート後、終濃度4μgのβ−caseinを添加し、37℃にて反応を開始した。30分反応後、直ちに氷上にて急冷して反応を停止させた。停止後の反応液に対しSDSサンプル緩衝液を添加し、100℃にて5分間ボイルした。反応液全量を12%SDS−PAGEにて展開し、クマシーブリリアントブルー染色にてβ−caseinの分解程度を分子量比較にて検出した。なお、各植物抽出物のうち、溶液タイプの植物抽出物は、凍結乾燥で得た固形分を用いて評価した。
【0029】
2−2.蛍光基質(D−casein−FITC)を用いた活性阻害作用比較(二次スクリーニング)
96wellプレートに、終濃度750ngのカルパインI、表1に示す各植物抽出物のうち、一次スクリーニングにてカルパイン阻害活性を認めたもの、およびカルシウム含有緩衝液を添加した。氷上にて10分間インキュベート後、終濃度2.5μgのD−casein−FITCを添加し、37℃にて反応を開始した。30分間反応後、FITC蛍光強度変化を蛍光プレートリーダーにて測定した。なお、各植物抽出物のうち、溶液タイプの植物抽出物は、凍結乾燥で得た固形分を用いて評価した。
【表1】

【0030】
3.結果
電気泳動法によるカルパイン阻害活性スクリーニングの結果例を図1に示した。カルパインI添加によりβ−caseinの減少およびβ−casein分解物の増加が認められるのに対し、ビルベリーエキス、ビワヨウエキス、シベリア人参エキス、ラロクエキス、マイタケエキス又はレイシエキスを添加することにより、β−caseinの分解抑制が認められた。
【0031】
次に、カルパイン活性阻害作用の比較を行うために、一次スクリーニングで分解抑制作用が認められた各植物抽出物の50%阻害濃度(IC50)を評価した。その結果、ビルベリーエキス、ビワヨウエキスにおいて、特に高いカルパイン阻害作用が認められた(表2)。
【表2】

【0032】
以下に、本発明のカルパイン活性抑制剤を利用した各種製剤を調整し実施例を以下に示す。配合量は質量%である。実施例2〜5は、カルパイン活性抑制作用が認められた。
【実施例2】
【0033】
(錠剤)
ビルベリーの水/エタノール抽出物 5.0g
コーンスターチ 4.0g
結晶セルロース 30.0g
乳糖 10.0g
タルク 1.0g
カルボキシメチルセルロース 5.0g
軽質無水ケイ酸 0.5g
ステアリン酸マグネシウム 0.5g
(製法)
上記各成分を均一に混合し、定法に従って、直径8mm、重量180mgの錠剤とした。
【実施例3】
【0034】
(顆粒剤)
ビワヨウの水抽出物 10.0g
乳糖 70.0g
デンプン 16.5g
ヒドロキシプロピルセルロース 3.5g
(製法)
均一に混合し、捏和した。押出造粒機により造粒後乾燥し、篩別して顆粒剤とした。
【実施例4】
【0035】
(軟膏製剤)
ビルベリーの水/ブチレングリコール抽出物 10.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 10.0g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 5.0g
セタノール 6.0g
プロピレングリコール 10.0g
精製水 47.0g
防腐剤 適量
(製法)
定法に従って、混合し、軟膏製剤とした。
【実施例5】
【0036】
(外用剤(乳剤))
ビワヨウの水/エタノール抽出物 15.0g
白色ワセリン 41.0g
マイクロクリスタリンワックス 3.0g
ラノリン 10.0g
モノオレイン酸ソルビタン 4.75g
モノオレイン酸POEソルビタン(20E.O.) 0.25g
精製水 47.0g
防腐剤 適量
(製法)
乳剤組成物の製造方法の常法に従い、乳化組成物を調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツツジ科スノキ属に属する植物、バラ科ビワ属に属する植物からなる群から選択される1種又は2種以上の植物又はそれらの植物の溶媒抽出物を有効成分とするカルパイン活性抑制剤。
【請求項2】
前記ツツジ科スノキ属に属する植物がビルベリーであり、バラ科ビワ属に属する植物が枇杷の葉であることを特徴とする請求項1に記載のカルパイン活性抑制剤。
【請求項3】
前記溶媒が、エタノール、含水エタノール又は水を用いて抽出して得られる抽出物を有効成分とする請求項1又は2に記載のカルパイン活性抑制剤。
【請求項4】
外用剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルパイン活性抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25713(P2012−25713A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168286(P2010−168286)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第35回日本香粧品学会講演要旨
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】