説明

カルボキシエステラーゼ−1多型およびその使用方法

カルボキシエステラーゼ-1(CES1)の多型を検出するための方法およびキットを提供する。ヒトCES1のいくつかの一塩基多型(SNP)(例えば、Gly143Glu、12754T>del)およびその検出方法が提供される。結果は、Gly143Glu(9486G>A)多型のアレル頻度が白人集団では1.5%であることを示している。本発明の多型は、カルボキシエステラーゼ-1酵素(hCES1)の機能を改変し得る。従って、本発明の方法およびキットは、療法を個別化するのに、および/またはCES1多型に起因し得る治療薬もしくは化合物(例えば、エナラプリル、メチルフェニデートなど)の代謝変化の有害事象を避けるのに使用することができる。さらに、野生型CES1を過剰発現する、またはCES1変異体を発現する組換え細胞株を提供する。このような細胞株は、CES1に対する候補化合物の効果、およびこれらの候補化合物に対するCES1の作用を評価するのに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許に関わる政府の権利
本発明は、米国立衛生研究所により付与された助成金番号RO1 DA-15797およびMO1 RRO1070-18による政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本願は、2007年6月8日に出願された米国特許仮出願第60/942,818号、2008年5月9日に出願された米国特許仮出願第61/051,680号、および2008年5月15日に出願された米国特許仮出願第61/053,524号を基礎として優先権を主張する。これらの内容は全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
1.発明の分野
本発明は、概して、分子生物学および医学の分野に関する。さらに具体的には、本発明は、カルボキシエステラーゼ-1(hCE-1)酵素の多型を検出する方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連分野の説明
カルボキシエステラーゼ-1(CES1)遺伝子は、メチルフェニデート(MPH)ならびにヘロインおよびコカインを含む他の多くの従来よりある違法薬物の代謝を支配する主要な酵素である、ヒトカルボキシエステラーゼ-1(hCES1)をコードする1,2。一塩基多型(SNP)は、薬物を代謝する酵素および輸送体の発現および/または活性に重大な影響を及ぼし、従って、薬物動態および治療応答の個体間のばらつきに寄与することがある。
【0005】
メチルフェニデート(Ritalin(登録商標))は、hCES1によって代謝される薬物3の一例である。メチルフェニデートは、学童期小児がかかる注意欠陥多動障害の治療に用いられる最も一般的な薬物である。注意欠陥多動障害の有病率は世界中で8〜12%と見積もられている3,4。MPHの薬物動態および薬物動力学の個体間のばらつきが大きいことはよく認識されているが、依然として未解明である。MPH代謝を支配する主要な代謝経路は、不活性代謝産物であるリタリン酸への急速なエステル分解である(図1)7。このプロセスはhCESIによって媒介される8
【0006】
個体間で薬物の代謝または薬物動態が異なる結果として、重大な副作用が起こることがある。個体に「典型的な」量の治療薬、例えば、メチルフェニデート(Ritalin(登録商標))またはエナラプリル(Vasotec(登録商標))が投与され、その結果、治療薬の代謝が異なるために「典型的でない」濃度(例えば、血中濃度)が生じた時に、副作用(例えば、毒性など)が起こることがある。例えば、治療量のメチルフェニデートは、時として、中枢性ドーパミン作動効果と血漿中エピネフリン濃度の上昇により、多くの心血管パラメータを著しく上昇させることがある14-16。めったにないが、基礎をなす危険因子を有する患者において脳卒中または突然死が報告されており、このため、米食品医薬品局は、精神刺激薬の製薬業者に、リスクに関する啓蒙資料を患者に提供するよう命じている17
【0007】
被験体に化合物または治療薬を投与するかどうか決定する前に、被験体における化合物または治療薬の代謝の変化を予測する方法が利用できれば、これらの有害な結果を回避する見込みが大幅に改善するだろう。明らかに、治療薬の代謝または薬物動力学を変える根本原因を検出する改善された方法が必要とされている。さらに、このような薬物動力学を調節する分子を特定することは大いに有益であろう。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、hCES1機能を変え得るカルボキシエステラーゼ-1(CES1)遺伝子の特定の多型を検出する方法を提供することによって先行技術の限界を克服する。これらのCES1遺伝子多型(Gly143Glu、12754T>del)はヒト集団に存在する。本明細書において提供されるデータは、これらの変異のいずれか、またはその両方が、メチルフェニデートおよび他のhCES1基質に応答した臨床的に意義のある薬物動態変化につながり得ることを示している。本発明の多型は、hCES1基質に応答した、個体間のある程度のばらつきの基礎となり得る。Gly143Glu多型のアレル頻度は白人集団において約1.5%と計算されている。
【0009】
本発明の一局面は、被験体におけるカルボキシエステラーゼ-1機能の低下を診断する方法に関する。この方法は、被験体由来の生物学的試料におけるカルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つの存在または非存在を検出する工程を含み、12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つの存在は、被験体のカルボキシエステラーゼ-1機能が低下していることを示している。この方法は、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delおよび/またはGly143Glu(9486G>A)の1つまたは両方の存在または非存在を検出する工程を含んでもよい。ある特定の態様では、検出する工程は、リアルタイムPCR(rtPCR)を含む。rtPCRは、5'蛍光色素を含む第1のオリゴヌクレオチドプローブおよび3'クエンチャーを含む第2のオリゴヌクレオチドプローブを利用してもよい。rtPCRは、5'ヌクレアーゼプローブ、TaqMan(登録商標)プローブ、分子ビーコン、またはFRETプローブを利用してもよい。
【0010】
ある特定の態様では、rtPCRは、

を利用する。SEQ ID NO:3はVic標識されてもよく、SEQ ID NO:4はFam標識されてもよい。
【0011】
他の態様において、rtPCRは、

を利用する。SEQ ID NO:7はVic標識されてもよく、SEQ ID NO:8はFam標識されてもよい。
【0012】
被験体はヒトでもよい。生物学的試料は、血液、痰、唾液、粘膜擦過物、または組織生検材料でもよい。ある特定の態様では、この方法は、被験体に合うように療法を個別化する方法とさらに定義される。前記の個別化は、被験体に投与するメチルフェニデートの適量を決定する工程を含んでもよい。個別化は、被験体に投与しようとする薬物の適量を決定する工程を含んでもよく、薬物は、オピオイド、メペリジン、ドーパミン作動薬もしくはノルアドレナリン作動薬、メチルフェニデート、ACE阻害剤、キナプリル、エナラプリル、ベンザプリル(benzapril)、イミダプリル、デラプリル、ペモカプリル(pemocapril)、シラザプリル、麻酔薬、リドカイン、ロバスタチン、抗ウイルス薬、オセルタミビル、抗癌薬、またはイリノテカンである。
【0013】
ある特定の態様では、前記方法は、化合物に対する被験体の感受性を確かめる方法とさらに定義される。化合物は、ヘロイン、コカイン、毒素、化学兵器剤、サリン神経ガス、ソマン、タブン、殺虫剤、および有機リン酸系殺虫剤からなる群より選択されてもよい。試料からDNAおよび/またはRNAが単離されてもよい。試料から得られたDNAまたは試料に由来するDNAに、核酸プローブがハイブリダイズされてもよい。プローブは検出可能に標識されてもよい。プローブは15〜25ヌクレオチド長でもよい。プローブは一本鎖または二本鎖でもよい。標識は、放射性同位体、生物発光化合物、化学発光化合物、蛍光化合物、金属キレート、または酵素である。蛍光化合物は、Vic標識、Fam標識、TaqMan(登録商標)標識、フルオレセイン、ローダミン、オーラミン、テキサスレッド、AMCAブルー、またはルシファーイエローでもよい。ある特定の態様では、被験体のカルボキシエステラーゼ-1遺伝子の少なくとも一部は検出前に増幅される。増幅はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるものでもよい。
【0014】
被験体は、12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つについてヘテロ接合性またはホモ接合性でもよい。ある特定の態様では、被験体は、12754T>delもGly143Glu(9486G>A)も有さない。検出する工程は、被験体のカルボキシエステラーゼ-1遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程を含んでもよい。
【0015】
本発明の別の局面は、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子のGly143Glu(9486G>A)の存在または非存在を検出するキットに関する。このキットは、適切な容器手段の中に、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の9486ヌクレオチドに選択的に結合することができる核酸プローブを備える。ある特定の態様では、キットは、

を備える。ある特定の態様では、SEQ ID NO:3はVic標識されており、SEQ ID NO:4はFam標識されている。キットはリアルタイムPCR試薬を備えてもよい。キットはCYP2D6多型の試験をさらに備えてもよい。
【0016】
本発明のさらに別の局面は、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delの存在または非存在を検出するキットに関する。このキットは、適切な容器手段の中に、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754ヌクレオチドに選択的に結合することができる核酸プローブを備える。ある特定の態様では、キットは、

を備える。ある特定の態様では、SEQ ID NO: 7はVic標識されており、SEQ ID NO: 8はFam標識されている。キットはリアルタイムPCR試薬を備えてもよい。キットはCYP2D6多型の試験をさらに備えてもよい。
【0017】
この技術の態様は、カルボキシエステラーゼ-1(hCES1)として知られる主要な加水分解酵素をコードする遺伝子CES1、ならびに一般集団のかなりの割合で生じる天然の遺伝子変種を特異的に過剰発現する細胞株を必要とする。hCES1は、主に肝臓に見られる内因性酵素であり、ある特定の化合物(例えば、メチルフェニデート[Ritalin(登録商標)])を非活性化することができ、または、投与された親薬物(プロドラッグ)を治療活性部分に変換する機能酵素に依存する、いわゆるプロドラッグとして処方される様々な薬(例えば、オセルタミビル[Tamiflu(登録商標)])を活性化することができる。
【0018】
トランスフェクションおよび部位特異的変異誘発を介して開発された対象細胞株の用途には、(1)既存の治療剤および/またはリード化合物を潜在的なhCES1基質および/または阻害剤として試験および評価できること;(2)この系を用いて迅速に試験して野生型(すなわち、正常)酵素対変異酵素の相対触媒効率を評価できること;(3)hCES1は特異的基質に対して立体選択的であるので、ラセミ化合物についても評価できること;ならびに(4)様々な化合物を代謝する(すなわち、非活性化対活性化する)能力を評価するために、この変異を有する個体における遺伝子変種の潜在的影響を評価できることを含めて、多くのハイスループットインビトロ用途がある。
【0019】
この技術の態様は、(1)既存の治療剤またはリード化合物が、薬物間で潜在的に相互作用する能力を有する、意味を有するhCES1基質であるかどうか、またはこの酵素の阻害剤であるかどうかを評価するための、ならびに(2)薬物動態および/または治療作用もしくは毒性に及ぼす特定の遺伝子変異の影響の確認において、(創薬および開発プロセス中)既存の治療剤またはリード化合物をスクリーニングするための、迅速なスクリーニングツールとして使用することができる。
【0020】
特に、本発明はまた、正常細胞における野生型カルボキシエステラーゼ-1(CES1)発現と比較して、CES1を過剰発現している単離された細胞を提供する。別の態様は、変異体カルボキシエステラーゼ-1(CES1)をコードする異種発現構築物を含有する単離された細胞を含み、変異体カルボキシエステラーゼ-1(CES1)をコードする異種発現構築物は前記細胞において機能するプロモーターの制御下にある。変異体CES1は、Gly143→Glu置換またはゲノムヌクレオチド12754におけるT欠失を含んでもよい。プロモーターは天然CES1プロモーターでもよい。細胞は胎児腎臓細胞でもよい。
【0021】
別の態様において、候補物質に対するカルボキシエステラーゼ-1(CES1)活性の効果を評価する方法が提供される。この方法は、(a)変異体CES1を発現するか、または正常細胞と比較して野生型CES1を過剰発現する細胞を準備する工程;(b)前記細胞と前記候補物質を接触させる工程;および(c)前記候補物質に対するCES1の効果を評価する工程を含む。評価する工程は、CES1による前記候補物質の改変を測定する工程を含んでもよい。評価する工程はまた、前記細胞内のおよび/または前記細胞が培養されている培地中の候補物質のレベルを測定する工程を含んでもよい。改変は、プロドラッグ候補物質から活性部分への変換または前記候補物質の異性化を含んでもよい。測定する工程はクロマトグラフィーまたは質量分析を含んでもよい。変異体CES1は、Gly143→Glu置換またはゲノムヌクレオチド12754におけるT欠失を含んでもよい。
【0022】
別の態様において、カルボキシエステラーゼ-1(CES1)活性に対する候補物質の効果を評価する方法が提供される。この方法は、(a)変異体CES1を発現するか、正常細胞と比較して野生型CES1を過剰発現する細胞を準備する工程;(b)前記細胞と前記候補物質を接触させる工程;および(c)CES1の発現または活性に対する前記候補物質の効果を評価する工程を含む。評価する工程は、CES1による候補物質の改変を測定する工程を含んでもよい。前記方法は、前記細胞と公知のCES1基質を接触させる工程をさらに含んでもよく、評価する工程は、公知の基質の改変を測定する工程を含む。変異体CES1は、Gly143→Glu置換またはゲノムヌクレオチド12754におけるT欠失を含んでもよい。
【0023】
なおさらなる態様において、カルボキシエステラーゼ-1(CES1)欠陥を有する細胞に対する候補物質の効果を評価する方法が提供される。この方法は、(a)変異体CES1を発現する細胞を準備する工程;(b)前記細胞と前記候補物質を接触させる工程;および(c)前記細胞に対する前記候補物質の効果を評価する工程を含む。評価する工程は、CES1の活性もしくは発現、またはCES1基質の改変、例えば、プロドラッグ基質から活性部分への変換もしくは前記基質の異性化を測定する工程を含んでもよい。評価する工程はまた、前記細胞内のおよび/または前記細胞が培養されている培地中の候補物質のレベルを測定する工程を含んでもよい。変異体CES1は、Gly143→Glu置換または12754でのT欠失を含んでもよい。
【0024】
なおさらに別の態様において、カルボキシエステラーゼ-1(CES1)活性に対するCES1変異の効果を評価する方法が提供される。この方法は、(a)変異体CES1を発現する細胞を準備する工程;(b)前記細胞とCES1基質を接触させる工程;および(c)CES1による前記基質の改変を評価する工程を含む。
【0025】
「a」および「an」という語句の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語と共に用いられた場合、「1つ」を意味することがあるが、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは1を超える」という意味とも一致する。
【0026】
本明細書において考察されている任意の態様は本発明の任意の方法または組成物に関して実施できることができ、逆の場合も同様であると意図される。さらに、本発明の方法を実現するために、本発明の組成物を使用することができる。
【0027】
本願全体を通じて、「約」という用語は、ある値が、この値を求めるために用いられている装置、方法の誤差の固有のばらつき、または試験被験体の中に存在するばらつきを含むことを示すために用いられる。
【0028】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみを指す、すなわち、選択肢が互いに相反することを指すように明確な指示が出されていない限り、「および/または」を意味するように用いられるが、この開示は、選択肢のみを指す定義と「および/または」を指す定義を裏付ける。
【0029】
本明細書および特許請求の範囲において使用する「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形)という語句は包括的またはオープンエンドであり、さらなる、列挙されなかった要素または方法の工程を排除しない。
【0030】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は本発明の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲の中で様々な修正および変更が当業者に明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【0031】
以下の図面は本明細書の一部をなし、本発明のある特定の局面をさらに証明するために含まれる。これらの図面の1つまたは複数を、本明細書において示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによって、本発明をさらに深く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
(図1)ヒトにおけるラセミMPHの代謝経路。
(図2)0.3mg/kgのラセミMPHを1回投与した後の、代謝が明らかに異常な人におけるMPHの総濃度(d-MPHおよびl-MPH)の血漿中濃度対時間曲線と、19人の試験同等者からの平均異性体濃度の同様のプロットを比較した。
(図3)0.3mg/kgのラセミMPHを1回投与した後の、代謝遅延者における個々の異性体濃度(d-MPH対l-MPH)を示した血漿中濃度対時間曲線を、19人の試験同等者の平均値を示したAUCと比較した。
(図4)野生型hCES1の推定タンパク質配列(SEQ ID NO:13)および代謝遅延者において特定された2つの変異のアラインメント。p.Gly143Glu(SEQ ID NO:14)はGly143Glu置換であり、囲みのアミノ酸により示される。p.Asp260fs(SEQ ID NO:15)はAsp260Gluフレームシフト変異であり、変化したアミノ酸配列を下線で示した。触媒三連構造のアミノ酸を太字で示し、オキシアニオンホールの残基を記号

で示した。*は停止コドンを示す。
(図5)hCES1とd-MPHおよびl-MPHとの相互作用 (Sun et al., JPET 2004から)。d-MPHおよびl-MPHに対するGly143の位置に留意のこと。
(図6)d-MPHおよびl-MPHの加水分解の際のWT CES1およびその変種の触媒活性。d-MPHおよびl-MPH(20μM〜1000μM)と、WT CES1でトランスフェクトした細胞、p.Gly143Glu CES1でトランスフェクトした細胞、およびp.Asp260fs CES1でトランスフェクトした細胞からのS9(500μg/ml)を37℃で2時間インキュベートした後に、生成したRAをHPLCアッセイによって測定した。d-MPHおよびl-MPHの加水分解触媒には、WT CES1の大きな触媒立体選択性があることが見出された。p.Gly143Gluおよびp.Asp260fsは、d-MPHおよびl-MPH異性体に対して加水分解活性を示さなかった。データは3回の独立した実験の平均±S.D.である。
(図7)CES1およびその変異体によるPNPAの加水分解。WT CES1をコードするcDNA構築物でトランスフェクトされた細胞、p.Gly143Glu CES1をコードするcDNA構築物でトランスフェクトされた細胞、およびp.Asp260fs CES1をコードするcDNA構築物でトランスフェクトされた細胞から調製した細胞S9画分を、PNPA加水分解に対する触媒活性についてアッセイした。加水分解産物PNPは、PNPAと細胞S9(20μg/ml)を37℃で10分間インキュベートした後の405nmでの吸光度によってモニタリングした。データは平均±S.D.(n=3)で表した。
(図8)オセルタミビル加水分解の際のWTおよび変異体hCES1の酵素活性。オセルタミビルに対するWT hCES1およびその変種の加水分解活性は、確立したHPLCアッセイを用いて、活性代謝産物である酸オセルタミビルを測定することによって評価した。WT酵素と比較してp.Gly143Gluでは酵素活性の大幅な減少が観察された。p.Asp260fs変種では触媒活性は見られなかった。データは4回の独立した実験の平均±S.D.で表した。
(図9)(図9A)hCES1 cDNAでトランスフェクトしたFlp-In-293細胞またはhCES1 cDNAでトランスフェクトしていないFlp-In-293細胞におけるhCES1発現のウェスタンブロッティング分析を、ヒト肝臓細胞におけるhCES1発現と比較した。抗アクチンを試料ローディング対照として含めた。(図9B)PNPA加水分解の際のhCES1の酵素活性。触媒活性は、ヒト肝臓細胞およびhCES1でトランスフェクトしたFlp-In-293細胞からから調製したs9を用いて加水分解産物PNPを測定することによって求めた。
(図10)V5-Hisタグ付けhCES1 cDNAでトランスフェクトされた細胞および非タグ付けhCES1 cDNAでトランスフェクトされた細胞における、hCES1発現のウェスタンブロッティング分析。抗アクチンを試料ローディング対照として含めた。
(図11)PNPAの加水分解の際のV5-Hisタグ付けおよび非タグ付けhCES1の酵素活性。触媒活性は、100μM PNPAと、タグ付けhCES1でトランスフェクトされた細胞および非タグ付けhCES1でトランスフェクトされた細胞から調製したS9(20μg/ml)を37℃で10分間インキュベートした後に、加水分解産物PNPを測定することによって求めた。データは平均±S.D.(n=4)で表した。
(図12)ヒトにおけるhCES1を介したオセルタミビルの活性化。
(図13)100μMのl-MPHとWT hCES1 s9(0.5mg/ml)を37℃で2時間インキュベートした後のRA HPLC分析のクロマトグラム。
(図14)WT hCES1 s9(0.1mg/ml)により37℃で10分間加水分解した、100μMリン酸オセルタミビルの典型的なクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0033】
例示的な態様の説明
本発明は、ヒトカルボキシエステラーゼ-1(hCES1)機能の変化を診断するのに使用することができる一塩基多型(SNP)を提供する。ヒトカルボキシエステラーゼ-1遺伝子(CES1)の2つの多型が提供される。一方のSNPはエキソン4の中の変異であり、コドン143(GGG→GAG)に位置し、グリシン143からグルタミン酸への非保存的アミノ酸置換につながる(Gly143Glu,p.Gly143Glu)。他方のSNPは、エキソン6の中にあるコドン260の欠失であり、残基260〜299を変え、中途の停止コドンで早期の切り詰めを引き起こすフレームシフト変異をもたらす(12754T>del,p.Asp260fs)。Gly143Gluのアレル頻度は白人集団において約1.5%と計算されている。
【0034】
これらの多型はカルボキシエステラーゼ-1機能に影響を及ぼし得る。例えば、これらの変異の一方または両方がメチルフェニデート(MPH)の薬物動態を変え得る。CES1遺伝子の別個の対立遺伝子において両SNPともヘテロ接合性であり他の点では正常なボランティアにおいて、これらの多型はMPH血中濃度の大幅な上昇とl-MPH異性体の前例のない濃度につながった。このボランティアは、本明細書において「代謝遅延者(slow metabolizer)」と呼ばれる。
【0035】
本明細書において示されるデータは、本発明の多型が、CES-1基質に対する応答(例えば、メチルフェニデートの代謝)の個体間のばらつきの一部の根底をなしている可能性があることを示している。hCES1活性のばらつきがMPHの薬力学的効果の定量可能な差につながったかどうか確かめるために、0.3mg/kg MPHを投与した代謝遅延者の血行力学的応答を代謝遅延者の試験同等者と比較した。代謝遅延者は試験スタッフに副作用を報告しなかったが、この被験者は、MPH投与の1.5時間後に得られたデータを用いて、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、および心拍(HR)、平均動脈圧(MAP)エンドポイントが統計異常値の状態に達した。時として、治療量のMPHは、中枢性ドーパミン作動効果があり、血漿中エピネフリン濃度を上昇させるために多くの心血管パラメータを有意に増加させることがある14-16。めったにないが、潜在的な危険因子を有する患者において脳卒中または突然死が報告され、このため、米食品医薬品局は、精神刺激薬の製薬業者に、リスクに関する啓蒙資料を患者に提供するよう命じている17。この結果は、特定されたCES1多型を有する個体では有害事象が起こるリスクが高くなる可能性があることを示している。このリスクは、複数回の投薬の後に、または現在、市場の主流となっている1日1回の徐放性製剤を使用した後に上昇する可能性がある5,9。従って、本発明は、このような有害事象を避けるための療法の個別化を可能にする。
【0036】
I.カルボキシエステラーゼ-1およびその基質
カルボキシエステラーゼ1(CES1)遺伝子(MIM114835)は、最も広範囲に処方されている精神刺激薬メチルフェニデート(MPH)の代謝を支配する主要な酵素であるヒトカルボキシエステラーゼ1(CES1)をコードし、非常に多くの他の治療薬ならびに一部の違法薬物、例えば、ヘロインおよびコカインの代謝に関与している。さらに、多くのエステルプロドラッグの代謝活性化を担っている。一塩基多型(SNP)は、多くの治療剤の代謝および動態に大きな影響を及ぼし得る。
【0037】
d-MPHとl-MPHの代謝および動態には顕著な個体間差が存在し、エナンチオ特異的研究において一貫して証明されている。MPH代謝を媒介する主要な経路は、不活性代謝産物であるリタリン酸への急速なエステル分解である。MPHの最も一般的な製剤は、d-スレオ-(R,R)-MVHおよびl-スレオ-(S,S)-MVHのラセミ混合物であり、d-異性体が活性異性体とみなされている。d-MPHおよびl-MPHの代謝を支配する主要な代謝経路は不活性代謝産物であるリタリン酸へのエステル分解である(図1)。このプロセスはCES1によって媒介され、立体選択的であり、l-異性体の加水分解にかなり有利に働く。実際に、エナンチオ選択的分析法を用いたラセミMPHの薬物動態学的研究から、l-異性体はMPHの総循環血中濃度のごくわずかしか(1〜15%)占めず、主な循環種はd-MPH異性体であることが一貫して証明されている5,9。さらに、d-MPHの血漿半減期(t1/2)はl-MPHより著しく長い。dl-MPHのプレシステミック(pre-systemic)代謝およびクリアランスはエナンチオ選択的プロセスであり、その結果、d-MPHの血漿中濃度はl-MPHと比較して著しく高い。静脈内投与されたMPHのエナンチオ特異的研究では、両異性体とも類似の分布特性を示したが、l-異性体の末期排出相(terminal elimination phase)の方が速かった。様々な経口製剤を用いた他の多くの研究では、l-異性体の血漿中濃度対時間曲線下面積(AUCinf)値はd-MPHの値の約1%〜15%しか達しないことが報告されている21
【0038】
プロドラッグ
プロドラッグは、典型的には、意図された薬理学的効果を示す前に生体内変換を受けなければならない任意の化合物と定義されている。従って、プロドラッグは、活性化合物の望ましくない特徴を変える、または排除するために一過的にしか存在しないように意図された特殊な無毒の保護基を組み込んでいる化合物とみなすことができる。このような望ましくない性質、または意図された作用部位への治療部分の十分な送達への障害は、多くの場合、十分でない水溶解度、吸収、および透過性、ならびに高い初回通過肝抽出に関係し、全ての要因は十分でない全経口バイオアベイラビリティに寄与する。
【0039】
従って、プロドラッグ合成の背後にある共通の原理および戦略は、別の部分、最も一般的にはエステルを付加することによって、活性化合物の親油性を高め、活性化合物の水素結合基をマスクすることである。実際に、多くのプロドラッグの設計は、多くのエステル結合含有薬の合成の基礎として、いくつかの組織において生じることが知られている内因性加水分解酵素の活性を利用している11。このようなプロドラッグは吸収期の加水分解プロセスに対して安定でなければならないが、体循環に到達し、肝臓を通過したら酵素的加水分解を容易に受けて活性部分を遊離する25
【0040】
カルボキシエステラーゼ(CES)は、実験室での研究において日常的に用いられる哺乳動物、例えば、げっ歯類を含めて、研究されている本質的に全ての哺乳動物の血液中に見出されるが、報告によれば、CESを介した有意な加水分解活性はヒト血漿中に検出されないことが関心対象となっており、これに気づくことが重要である26。しかしながら、新薬申請の間、プロドラッグ毒性の全評価はスポンサーの自主性に任せられることが多く、多くの場合、スポンサーは、活性のある(すなわち、遊離された)薬物の毒性プロファイルが、プロドラッグのみが投与された時に生じる毒性プロファイルに相当すると主張している27
【0041】
明らかに、このアプローチは、親(すなわち、プロドラッグ)の毒性の十分な評価を軽視している。例として、テルフェナジン(Seldane(登録商標))は、同時投与される薬によって、このプロドラッグの活性化酵素(CYP3A4)の代謝が阻害されたために、プロドラッグの濃度が予想外に高くなり、その後に心毒性および多くの死亡が起こったことを経験している。しかしながら、ヒトCES1(hCES1)活性に関する遺伝子欠陥個体の潜在的な影響の評価については、カルボキシエステラーゼ活性を阻害することが知られている化合物(例えば、ロペラミド、ベンジル)が利用可能であるが、どれもhCES1特異的でなく、ヒト被験者への安全な投与に関してさらなる制限もある。
【0042】
II.本発明の多型はhCES1機能に影響を及ぼす
本明細書において特定された多型の一方または両方はhCES1の機能活性を下げ得る。hCES1酵素はより大きなセリン加水分解酵素ファミリーに属し、このファミリーには、ヒトアセチルコリンエステラーゼ(AcChE)およびブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)が含まれる。ヒトCES1、AcChE、およびBuChEの結晶構造は、それぞれが、セリン、グルタミン酸、およびヒスチジン残基からなる触媒三連構造(triad)を含有する類似した活性部位の溝を有することを示している19
【0043】
hCES1の位置143にあるグリシンはhCES1のタンパク質機能にとって重要である。hCES1の場合、対応する活性部位三連構造残基はセリン221(S)、グルタミン酸354(E)、およびヒスチジン468(H;図4に太字で示した)である。hCES1の活性部位には3つの連続した一続きのグリシン残基も位置しており(Gly141〜143)、「オキシアニオンホール」と呼ばれているものを作り出す。オキシアニオンホールは、オキシアニオンの形をしたカルボニル酸素と形成する水素結合を介して基質-酵素中間体を安定化すると考えられており、従って、適切なhCES1機能に不可欠であると考えられる19。触媒三連構造およびオキシアニオンホールは、種間で(魚からヒト)、および関連するセリン加水分解酵素内で進化上保存されている19。図5は、メチルフェニデートの結合部位に対するGly143の位置を示している。hCES1のGly143と類似するhBuChEのグリシンが変異すると、基質親和性および触媒作用は両方とも著しく低下するか、無くなる20。このことから、Gly143がグルタミン酸に変異すると(p.Gly143Glu)、オキシアニオンホールが破壊されるために機能障害hCES1が生じ得ることが分かる。
【0044】
同様に、12785T>del変異(p.Asp260fs)はhCES1において大きな変化を引き起こす。例えば、このフレームシフト変異は、早期の切り詰め、および残基260〜299の変化を引き起こすだけでなく、三連構造残基の3つのうち2つ、ならびにタンパク質機能に重要であり得る図5に示した他の残基をさらに排除する。図4に示したように、p.Asp260fsでは、ヌクレオチド780が欠失した結果として、後でフレームシフトおよび早期の切り詰めが起こるために、3つの保存された触媒三連構造残基のうち2つが無くなったタンパク質が生じる。
【0045】
本明細書において示されたデータは、本明細書において示された多型の一方または両方がhCES1活性を著しく消失させる可能性が高いことを示している。代謝遅延者は両変異についてヘテロ接合性であり、それぞれの変異は異なる対立遺伝子上で起こった。特定された、それぞれのSNPの頻度のために、これらのSNPの1つが両対立遺伝子上にあるのは稀にしか起こらないと予想されるだろう。それにもかかわらず、本明細書において示された代謝遅延者が思いがけなく特定されたことは、2つのSNPの発見にとって重要であった。
【0046】
III.療法の個別化
カルボキシエステラーゼ-1は、ヒトおよび非ヒト動物における多くの公知の化合物の機能および代謝にとって重要である。従って、本発明の1つまたは複数の多型の存在または非存在は、本発明の多型の存在または非存在による治療剤に対する被験体の感受性に基づいて、被験体または患者に合わせて療法を「個別化」または改変するのに使用することができる。
【0047】
hCES1酵素は、非常に多くのクラスに由来する薬物の加水分解を触媒する。この加水分解によって、一般的に、不活性代謝産物(例えば、MPHおよびコカイン)が生成される1,9。しかしながら、hCES1は、活性代謝産物の生成(例えば、ヘロインからモノアセチルモルヒネおよびモルヒネへの変換) 1,2、またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤であるキナプリルおよびベナゼプリルなどのプロドラッグの活性化に関与することも知られている18。CES1と、関連するアイソフォームCES2の間にはある程度の重複が存在するが、CES1は、エステル交換反応を媒介するアイソフォームである11。メチルフェニデートおよびエタノールが一緒に投与された時に、代謝遅延者がエチルフェニデートを形成できなかったという観察は、hCES1変種の機能障害性をさらに強調している。乱用薬物に関して、認められていないhCES1欠陥が存在すれば、場合によっては、死前または死後の血中濃度に基づいて偶発的な薬物過量とみなされる、特異体質毒性および/または致死的曝露につながるかもしれない。さらに、これらの加水分解反応は立体選択的に進行することができ、dl-MPHなどの薬を投与した後のラセミ化合物の予想される異性体配置をゆがませる(図6) 8
【0048】
ある特定の態様では、本発明の多型の存在または非存在の評価は、療法を個別化する、および/または化合物に対する被験体の感受性を確かめるのに使用することができる。化合物は、違法薬物、ヘロイン、コカイン、オピオイド、メペリジン(全て、イソニペカイン;リドール(lidol);フェタノール(pethanol);ピリドザール(piridosal);Algil(登録商標);Alodan(登録商標);Centralgin(登録商標);Demerol(登録商標);Dispadol(登録商標);Dolantin(登録商標);Dolargan(登録商標);Dolestine(登録商標);Dolosal(登録商標);Dolsin(登録商標);Mefedina(登録商標)とも呼ばれる))、ドーパミン作動薬またはノルアドレナリン作動薬、メチルフェニデート(Ritalin(登録商標))、ACE阻害剤、キナプリル、エナラプリル、ベンザプリル、イミダプリル、デラプリル、ペモカプリル、シラザプリル、麻酔薬、リドカイン、毒素、化学兵器剤、サリン神経ガス、ソマン、タブン、殺虫剤、有機リン酸系殺虫剤、ロバスタチン、抗ウイルス薬、オセルタミビル、抗癌薬、またはイニノテカン(ininotecan)(CPT-11)でもよい。
【0049】
メチルフェニデートは、学童期小児がかかる注意欠陥多動障害の治療に用いられる最も一般的な薬理学的薬剤である。注意欠陥多動障害の有病率は世界中で8〜12%と見積もられている3,4。MPH薬物動態および薬物動力学の個体間のばらつきが大きいことはよく認識されているが、依然として未解明である。メチルフェニデートの最も一般的な製剤は、d-スレオ-(R,R)-およびl-スレオ-(S,S)-メチルフェニデート(MPH)鏡像異性体のラセミ混合物であり5、d-異性体が活性治療異性体とみなされている6。MPHの代謝を支配する主要な代謝経路は不活性代謝産物であるリタリン酸への急速なエステル分解である(図1)7。このプロセスはhCES1によって媒介される8。さらに、Sunおよび共同研究者らは、l-MPHに対するhCES1の触媒効率がd-MPHより6倍まで高いので、この加水分解プロセスが高度にエナンチオ選択的であることを証明した8。さらに、両異性体を測定した薬物動態学的研究から、l-異性体はd-MPHの血中濃度の1〜15%しか存在しないことが一貫して証明されている9。さらに、d-MPHの血漿半減期(t1/2)はl-MPHより著しく長い5
【0050】
これらの観察に基づいて、本発明を用いると、それぞれの薬物およびCES1またはその変種についての薬物代謝プロファイルを確立することができる。関与する被験体のCES1遺伝子またはタンパク質を調べることによって、どの薬物が被験体において有効であるか(有効性がある場合)、どの用量の薬物が被験体において有効であるかを予測することができる。本願の他の場所で説明される細胞株は、このような分析の実施において極めて有用であることが分かっている。
【0051】
例えば、正常ボランティアにおいてMPHおよびエタノールの相互作用を調べることを目的とした、0.3mg/kgのラセミMPHを単回経口投与したランダム化3期クロスオーバー試験の実施中に、MPH代謝能の代謝欠陥を示唆する、MPH動態に関して極めて珍しい表現型を有する白人男性被験者が特定された10。この試験デザインは他で説明されており、試験日全体を通した複数回の血液サンプリングと血行力学的測定の繰り返しを含んだ10。実施例では、被験体にMPHのみを与えた時に試験した3つの相の1つのみからのデータが用いられている。
【0052】
この被験者はMPHの代謝遅延者であるように見え、残りの19人の試験被験者と比較して、測定された全ての薬物動態学的パラメータ値の著しい上昇を示した。d-MPH濃度およびl-MPH濃度を組み合わせて調べると、代謝遅延者と残りの被験者との差が大きいことは容易に分かる(図2)。観察された最大血漿中濃度(Cmax)は、他の被験者について求められた平均Cmaxより約7倍高い。この被験者における活性d-MPH異性体の濃度と、他の全ての被験者からの試験平均(±SD)の差は以下の通りであった。無限大まで外挿された血漿中濃度-時間曲線下面積(AUCinf)は、209ng/ml・hr対83±22であった。Cmaxは、37ng/ml対15±3であった。Cmaxに達する時間(Tmax)は、3.0hr対2.3±0.8であった。血漿排出半減期(t1/2)は、5.4hr対2.8±0.4hrであった9。前例のない観察は、被験者におけるd-MPHと比較して異常に高いl-MPH種の濃度であり(Cmax=62ng/ml)、この値は、試験同等者の平均濃度(図2)および文献値8,10より約100倍高かった。最後に、メチルフェニデートとエタノールが同時投与されると、通常、hCES1を介して、エステル交換反応代謝産物であるエチルフェニデートが形成される。代謝遅延者を除く全被験者において、検出可能な濃度のエチルフェニデートが存在した。
【0053】
IV.カルボキシエステラーゼ-1多型を検出する方法
CES1遺伝子における12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)多型の一方または両方の存在または非存在は、様々な技法を用いて評価することができる。例えば、一塩基多型の存在または非存在を確かめるために、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子をクローニングし、配列決定することができる。ある特定の態様では、リアルタイムPCRを用いて、本発明の一塩基多型を検出することができる。他の態様では、本発明の多型を検出するために、PCR、多重PCR、ゲル電気泳動、配列決定、一塩基多型に特異的なプローブを用いたハイブリダイゼーション、制限エンドヌクレアーゼ消化、プライマー伸長、マイクロアレイもしくは遺伝子チップ分析、質量分析、またはDNアーゼ保護アッセイを含む技法を使用することができる。
【0054】
A.リアルタイムPCR(rtPCR)
本発明の多型の存在または非存在はリアルタイムPCRを用いて検出することができる。リアルタイムPCRは、典型的には、多型を選択的に検出するために蛍光プローブを利用する。本発明で使用することができる様々なリアルタイムPCR試験プラットフォームには、5'ヌクレアーゼ(TaqMan(登録商標)プローブ)、分子ビーコン、およびFRETハイブリダイゼーションプローブが含まれる。これらの検出方法は、蛍光共鳴エネルギー転移と呼ばれるプロセスである、2つの隣接する色素分子間の光エネルギーの転移に頼っている(本発明で使用することができる様々なrtPCRアプローチの総説については、例えば、Espy et al(2006) Clin Microbiol Rev. 2006 January; 19(1): 165-256を参照されたい)。
【0055】
1.5'ヌクレアーゼプローブ
ある特定の態様では、本発明の多型を検出するために、5'ヌクレアーゼプローブを使用することができる。5'ヌクレアーゼプローブは、商標名TaqMan(登録商標)プローブと呼ばれることも多い。TaqMan(登録商標)プローブは、5'蛍光色素および3'消光色素を含有する短いオリゴヌクレオチド(DNA)である。光シグナルを生じさせるためには(すなわち、蛍光色素に及ぼす消光色素の影響を取り除くためには)、2つの事象が起こらなければならない。第1に、プローブはDNA相補鎖に、例えば、約60℃で結合しなければならない。第2に、この温度で、PCRに一般的に用いられるTaqポリメラーゼが、TaqMan(登録商標)プローブの5'末端を切断して(5'ヌクレアーゼ活性)、蛍光色素と消光色素を分離しなければならない。
【0056】
被験体由来のDNA中の一塩基多型と野生型配列を区別するために、多型に相補的なヌクレオチド、および発光スペクトルが異なる蛍光色素を有する第2のプローブが典型的に用いられる。従って、これらのプローブを用いて、PCR増幅産物の中の、プローブの下にある特定の予め定義された多型を検出することができる。典型的には、2つの反応容器が用いられ、1つは、野生型標的DNAを検出する相補プローブが含まれ、もう1つは、変異株の特定の核酸配列を検出する相補プローブが含まれる。TaqMan(登録商標)プローブは、典型的には、効率的な5'ヌクレアーゼ活性のために約60℃の温度を必要とするので、PCRは、増幅の場合、約90〜95℃から約60℃の間でサイクルすることができる。さらに、切断された(遊離の)蛍光色素は、それぞれのPCR温度サイクルの後に蓄積することができる。従って、色素は、ハイブリダイゼーション工程を含むPCRサイクリング中の任意の時点で測定することができる。対照的に、分子ビーコンおよびFRETハイブリダイゼーションプローブは、典型的には、ハイブリダイゼーション工程の間に蛍光を測定することを伴う。
【0057】
カルボキシエステラーゼ-1遺伝子における12754T>del(「p.Asp260fs」)またはGly143Glu(9486G>A,「p.Gly143Glu」)のジェノタイピングは、以下の(5'エンドヌクレアーゼプローブ)リアルタイムPCR法を用いて評価することができる。ジェノタイピングアッセイは二通り実施し、Bio-Rad iCycler Iq(登録商標)Multicolorリアルタイム検出システム(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)により分析することができる。CES1遺伝子の特異的な一塩基多型であるp.Gly143Glu(ゲノム:nt9486;Cdna:nt428)およびP.Asp260fs(ゲノム:nt12754;Cdna:nt780)の存在または非存在を検出する、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)対立遺伝子識別アッセイは、蛍光発生TaqMan(登録商標)プローブを用いることができる。以下のプライマー配列を使用することができる。

【0058】
リアルタイムPCR増幅は、5ngのゲノムDNA、900Nmの各プライマー、200Nmの各プローブ、ならびに5μlの2X TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix(PCR緩衝液、パッシブレファレンス色素ROX、デオキシヌクレオチド、ウリジン、ウラシル-N-グリコシラーゼ、およびAmpliTaq Gold DNA ポリメラーゼ; Perkin-Elmer, Applied Biosystems, Foster City, CAを含有)を含有する反応混合物10μl中で行った。サイクルパラメータは、95℃10分、その後に、92℃15秒および60℃1分の50サイクルでもよい。リアルタイム蛍光検出は、各サイクルの6O℃アニーリング/伸長工程の間に行うことができる。IQソフトウェアを用いて、49サイクルでのFAMおよびVICの蛍光強度を用いた2つのパラメータプロットに基づいて、遺伝子型をプロットし、自動的に指定することができる。
【0059】
2.分子ビーコン
分子ビーコンは、本発明の多型の存在または非存在を特定するのに使用することができる別のリアルタイムPCRアプローチである。分子ビーコンは、蛍光色素(典型的には、5'末端)およびクエンチャー色素(典型的には、3'末端)で標識されたオリゴヌクレオチドプローブである。分子ビーコンプローブの両端にある領域は互いに相補的になるように設計されており、そのため、低温では末端はアニールして、ヘアピン構造が生じる。このヘアピン構造は2つの色素を近づけるので、レポーター色素からの蛍光が消光される。プローブの中央領域は、PCR増幅産物の領域に相補的になるように設計されている。高温では、PCR増幅産物とプローブは両方とも一本鎖である。PCR温度が下がるにつれて、分子ビーコンプローブの中央領域はPCR産物に結合し、蛍光レポーター色素と消光色素を強制的に分離することができる。クエンチャー色素が近くになければ、レポーター色素からの光シグナルを検出することができる。PCR増幅産物が結合できなければ、プローブは再アニールできるので、レポーター色素とクエンチャー色素は近づき、従って、蛍光シグナルが阻止される。
【0060】
一塩基多型の検出には、異なるレポーター色素を有する2種類またはそれ以上の分子ビーコンプローブを使用することができる。例えば、第1のレポーター色素を用いて設計された第1の分子ビーコンが、SNPの存在を示すために用いられてもよく、第2のレポーター色素を用いて設計された第2の分子ビーコンが、対応する野生型配列の存在を示すために用いられてもよい。このようにして、被験体が、対応するDNA領域でSNPヘテロ接合性、SNPホモ接合性、またはホモ接合性野生型かどうか確かめるために、第1のレポーター色素および/または第2のレポーター色素からの異なるシグナルを使用することができる。適切なPCR温度および/またはプローブ長の伸長を選択することによって、分子ビーコンは、ヌクレオチド多型が存在する時に標的PCR産物に結合することができるが、特異性が低いというわずかな犠牲を払う。有利なことに、分子ビーコンはサーモサイクリングを必要とせず、そのため、PCRの温度最適化は簡単である。
【0061】
3.FRETハイブリダイゼーションプローブ
FRETハイブリダイゼーションプローブはLightCycler(登録商標)プローブとも呼ばれ、これも本発明の多型を検出するのに使用することができる。FRETハイブリダイゼーションプローブは、典型的には、PCR産物上でヘッドトゥテール(head-to-tail)配置で互いにアニールするように設計された2つのDNAプローブを含む。典型的には、上流プローブは3'末端に蛍光色素を有し、下流プローブは5'末端にアクセプター色素を有する。両プローブとも標的PCR産物にアニールすれば、3'色素からの蛍光は、第2のプローブの5'末端にある隣接するアクセプター色素に吸収される。結果として、第2の色素は励起し、第3の波長の光を発することができ、この光を検出することができる。十分な相補DNAが無く、2つの色素が近づかなければ、FRETは2つの色素間で起こらない。第2の(下流)プローブの3'末端は、PCR増幅中にTaqによるプライマーとして用いられないようにするためにリン酸化されてもよい。2つのプローブは、40〜50のDNA塩基対の領域を含んでもよい。
【0062】
FRETハイブリダイゼーションプローブ技術は、増幅産物の融解曲線分析を可能にする。温度がゆっくりと上がる場合、プローブと標的PCR産物とのアニーリングは減少し、FRETシグナルは無くなる。FRETシグナルの半分が無くなる温度は、このプローブシステムの融解温度と呼ばれる。ハイブリダイゼーションFRETプローブの下で標的DNA中に一塩基多型があってもシグナルは依然として生じるが、融解曲線は低Tmを示す。Tmの低下は特異的多型が存在することを示している。標的PCR産物が検出され、Tmが変化したら、検出された配列に差異があると使用者は分かる。分子ビーコンと同様に、FRETハイブリダイゼーションプローブには特定のサーモサイクリング温度を必要としない。分子ビーコンと同様に、FRETハイブリダイゼーションプローブにはPCR温度サイクリング中にリサイクルまたは保存されるという利点があり、PCR産物がそれぞれのPCR温度サイクルの後に蓄積するので、蛍光シグナルは蓄積しない。
【0063】
B.プライマー伸長
プライマー伸長は、本発明に従って使用することができる別の技法である。プライマーと3種類以下のNTPを、ポリメラーゼ、および増幅テンプレートとして役立つ標的配列と組み合わせることができる。全4種類よりも少ないNTPを用いることで、多型部位での組み込みに必要な多型ヌクレオチドの1つまたは複数を省くことができる。省かれたヌクレオチドがプライマーの3'末端と標的多型の間に必要とされないように増幅が設計されることが本発明の実施にとって重要である。次いで、プライマーは、核酸ポリメラーゼによって、好ましい態様ではTaqポリメラーゼによって伸長する。省かれたNTPが多型部位で必要とされれば、プライマーは多型部位まで伸長し、この点で重合は終わる。しかしながら、省かれたNTPが多型部位で必要とされなければ、プライマーは多型部位を越えて伸長し、さらに長い産物が作り出される。伸長産物の検出は、例えば、サイズ/長さによる分離に基づいており、これによって、どの多型が存在するのか明らかになる。例えば、米国特許出願第10/407,846号は参照により本明細書に組み入れられ、プライマー伸長の一形態について説明している。
【0064】
C.RFLP
制限断片長多型(RFLP)は、DNA切断から生じたパターンを分析することによって異なるDNA配列を区別することができる技法である。2つの配列が、ある特定の制限エンドヌクレアーゼの切断部位間の距離の点で異なる場合、DNAが制限酵素によって消化された時に生じる断片の長さは異なる。生じるパターンの類似性を用いて、種(株でさえも)互いに区別することができる。
【0065】
次に、制限エンドヌクレアーゼは、使用する特定の酵素に応じて特定のヌクレオチド配列でDNA分子を切断する酵素である。酵素の認識部位は、通常、長さが4〜6塩基対である。一般的に、認識配列が短ければ短いほど、生じる断片の数は多くなる。分子のヌクレオチド配列が異なれば、異なるサイズの断片が生じ得る。断片はゲル電気泳動によって分離することができる。制限酵素は多種多様な細菌属から単離され、細菌ウイルス侵入に対する細胞防御の一部と考えられている。SNP分析においてRFLPおよび制限エンドヌクレアーゼを使用するには、SNPが少なくとも1つの制限酵素部位の切断に影響を及ぼすことが必要である。
【0066】
D.配列決定
本発明の多型を評価するためにDNA配列決定を使用することができる。例えば、Sanger法はジデオキシ配列決定法またはチェーンターミネーションとも呼ばれ、DNA中に見出される通常のヌクレオチド(NTP)に加えてジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を使用することに基づいている。ジデオキシヌクレオチドは、3'炭素のヒドロキシル基(OH)の代わりに水素基を含有する以外はヌクレオチドと本質的に同じである。これらの修飾ヌクレオチドは配列に組み込まれると、さらなるヌクレオチドの付加を妨げる。これは、ジデオキシヌクレオチドと入ってくる次のヌクレオチドとの間にホスホジエステル結合が形成できず、従って、DNA鎖が終結するために起こる。この方法を用いると、任意で、核酸標的の増幅と併用すると、多数の標的分子を、通常、自動配列決定装置を用いて迅速に配列決定することができる。このような技法は当業者に周知である。
【0067】
E.質量分析
本発明の多型を検出するために質量分析も使用することができる。質量および電荷の固有特性を利用することによって、質量分析(MS)は多種多様な複合化合物を分離し、確信をもって特定することができる。従来の定量MSは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)の後にタンデムMS(MS/MS)を用いてきた(Chen et al., 2001; Zhong et al., 2001; Wu et al., 2000)。これに対して、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)の後に飛行時間型(TOF)MSを用いる新たな定量法が開発されている(Bucknall et al., 2002; Mirgorodskaya et al., 2000; Gobom et al., 2000)。本発明で使用することができる質量分析法には、ESI、ESIタンデム質量分析(ESI/MS/MS)、二次イオン質量分析(SIMS)、レーザー脱離質量分析(LD-MS)、レーザー脱離レーザー光イオン化質量分析(LDLPMS)、およびMALDI-TOF-MSが含まれる。
【0068】
F.ハイブリダイゼーション
遺伝子プロファイルを評価することができる様々なやり方があるが、これらの多くは核酸ハイブリダイゼーションに頼っている。ハイブリダイゼーションは、核酸がDNAおよび/またはRNAの相補配列と二重鎖分子を選択的に形成できる能力と定義される。想定された用途に応じて、標的配列に対するプローブまたはプライマーの様々な程度の選択性を実現するために、様々なハイブリダイゼーション条件が用いられる。
【0069】
典型的には、長さが13〜100ヌクレオチド、好ましくは17〜100ヌクレオチドから、長さが1〜2キロベースまでまたはそれ以上のプローブまたはプライマーを用いると、安定したかつ選択的な二重鎖分子を形成することができる。このような断片は、例えば、化学的手段により断片を直接合成することによって、または選択された配列を組換え作製用の組換えベクターに組み込むことによって容易に調製することができる。
【0070】
高い選択性を必要とする用途の場合、典型的には、ハイブリッドを形成するために比較的高いストリンジェンシー条件を使用することが望ましい。例えば、比較的低い塩条件および/または高い温度の条件は、例えば、約50℃〜約70℃の温度で、約0.02M〜約0.10M NaClによって得られる。このような高いストリンジェンシー条件は、プローブまたはプライマーとテンプレートまたは標的鎖とのミスマッチがたとえあってもほとんど許容せず、特異的な遺伝子の単離または特異的なmRNA転写物の検出に特に適している。漸増量のホルムアミドを添加することによって、条件をよりストリンジェントにできることが一般に理解されている。
【0071】
ある特定の用途の場合、例えば、低ストリンジェンシー条件を使用することができる。これらの条件下では、ハイブリダイズした鎖の配列が完全に相補しておらず、1つまたはそれ以上の位置にミスマッチがあっても、ハイブリダイゼーションは起こることがある。塩濃度を上げることによって、および/または温度を下げることによって、条件を低ストリンジェントにすることができる。例えば、中程度のストリンジェンシー条件は、約0.1〜0.25M NaCl、約37℃〜約55℃の温度によって得ることができるが、低ストリンジェンシー条件は、約0.15M〜約0.9M塩、約20℃〜約55℃の温度によって得ることができる。ハイブリダイゼーション条件は、望ましい結果に応じて容易に操作することができる。
【0072】
他の態様において、ハイブリダイゼーションは、例えば、50mM Tris-HCl(pH8.3)、75mM KCl、3mM MgCl2、1.0mMジチオスレイトールの条件下で、約20℃〜約37℃の温度で行うことができる。使用される他のハイブリダイゼーション条件には、約10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl2、約40℃〜約72℃の温度が含まれ得る。
【0073】
ある特定の態様では、本発明の定義された配列の核酸を、ハイブリダイゼーションを測定するための適切な手段、例えば、標識と併用することが有利である。蛍光リガンド、放射性リガンド、酵素リガンド、または他のリガンド、例えば、アビジン/ビオチンを含む、多種多様な適切な指示手段が当技術分野において公知である。好ましい態様において、放射性試薬または他の環境に望ましくない試薬の代わりに、蛍光標識または酵素タグ、例えば、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、またはペルオキシダーゼを使用することが望ましい場合がある。酵素タグの場合、肉眼で検出可能な、または分光測定で検出可能な検出手段となって、相補核酸を含む試料との特異的ハイブリダイゼーションを同定するのに使用することができる比色分析用指示基質が公知である。
【0074】
一般的に、本明細書に記載のプローブまたはプライマーは、対応する遺伝子の発現を検出するためにPCR(商標)のように溶液ハイブリダイゼーション(solution hybridization)の試薬として、ならびに固相を使用する態様の試薬として有用なことが想定される。固相を伴う態様では、選択されたマトリックスまたは表面に試験DNA(またはRNA)が吸着されるか、別の方法で付けられる。次いで、この固定された一本鎖核酸は、望ましい条件下で、選択されたプローブとのハイブリダイゼーションに供される。選択される条件は特定の状況に左右される(例えば、G+C含有量、標的核酸のタイプ、核酸の供給源、ハイブリダイゼーションプローブのサイズなどに左右される)。関心対象の特定の用途のためにハイブリダイゼーション条件を最適化することは当業者に周知である。ハイブリダイズした分子を洗浄して、非特異的に結合したプローブ分子を除去した後に、結合した標識の量を求めることによって、ハイブリダイゼーションが検出および/または定量される。代表的な固相ハイブリダイゼーション法は、米国特許第5,843,663号、同第5,900,481号、および同第5,919,626号に開示される。本発明の実施において使用することができる他のハイブリダイゼーション法は、米国特許第5,849,481号、同第5,849,486号、および同第5,851,772号に開示される。本明細書のこの項において特定される、これらの参考文献および他の参考文献の関連する部分は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0075】
G.検出可能な標識
様々な核酸の存在、量、または配列を確認するために、これらを視覚化することができる。1つの態様において、プライマーは発色団と結合されるが、その代わりに、放射標識されてもよく、蛍光定量的に標識されてもよい。別の態様において、プライマーは、検出可能な部分を有する結合パートナー、例えば、抗体またはビオチンに結合される。他の態様において、プライマーは蛍光の色素または標識を組み込む。さらに他の態様では、プライマーは、増幅された分子を検出するのに使用ことができる質量標識を有する。前記のように、他の態様はまた、Taqman(登録商標)およびMolecular Beacon(登録商標)プローブの使用も意図する。または、dNTPの1つまたは複数を、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、色素、または酵素で標識することができる。また、検出のために、DNAの存在下で特性が変化する化学物質を使用することができる。例えば、この方法は、蛍光色素、例えば、臭化エチジウムもしくはVistra Greenによるゲルの染色、または分離媒体への取り込み、および適切な光源下での視覚化を伴ってもよい。
【0076】
産物に組み込まれる標識の選択は、分析に用いられる方法によって決まる。キャピラリー電気泳動、マイクロ流体電気泳動、HPLC、またはLC分離を使用する時には、組み込まれるまたはインターカレートされる蛍光色素を用いて、増幅産物を標識および検出する。標識種が検出器を通り過ぎる時に蛍光が定量化されるので、試料は動的に検出することができる。分離のために任意の電気泳動法、HPLC、またはLCが用いられる場合、DNAに固有の特性であるUV光の吸収によって、産物を検出することができ、従って、標識の付加を必要としない。ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはスラブゲル電気泳動が用いられる場合、伸長反応用のプライマーをフルオロフォア、発色団、もしくは放射性同位体を用いて、または関連する酵素的反応によって標識することができる。または、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはスラブゲル電気泳動が用いられる場合、伸長反応におけるNTPの1つまたは複数をフルオロフォア、発色団、もしくは放射性同位体を用いて、または関連する酵素的反応によって標識することができる。酵素的検出は、ゲル上で増幅産物を分離した後に、酵素と核酸を結合させ、例えば、ビオチン:アビジン相互作用を介して酵素と核酸とを結合させ、次いで、化学反応によって、例えば、ルミノールを用いて生じた化学ルミネセンスを検出することを伴う。蛍光シグナルは動的にモニタリングすることができる。放射性同位体または酵素的反応による検出は、最初にゲル電気泳動により分離を行い、その後に、分析の前にDNA分子を固体支持体に転写すること(ブロット)を必要とする。ブロットが作られたら、プロービング、ブロットのストリッピング、次いで、再プロービングによって2回以上分析することができる。伸長産物が質量分析計を用いて分離される場合、核酸は直接検出されるので標識は必要とされない。
【0077】
放射性同位体の場合、トリチウム、14C、および32Pを使用することができる。結合体としての使用が意図される蛍光標識の中には、Alexa350、Alexa430、AMCA、BODIPY630/650、BODIPY650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5,6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー(Pacific Blue)、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン(Renographin)、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはテキサスレッドが含まれる。
【0078】
H.標的配列の増幅
特定の態様において、SNPの評価の前に標的配列を増幅することが望ましい場合がある。増幅用テンプレートとして用いられる核酸は、標準的な方法(Sambrook et al., 1989)に従って細胞、組織、または他の試料から単離することができる。ある特定の態様では、テンプレート核酸の実質的な精製を伴わずに、細胞全体または組織ホモジネートまたは生物学的液体試料に対して分析が行われる。核酸はゲノムDNAでもよく、分画された細胞RNAでもよく、全細胞RNAでもよい。RNAを使用する場合、まず最初に、RNAを相補的DNAに変換することが望ましい場合がある。DNAはまた、クローニングされた供給源に由来してもよく、インビトロで合成されてもよい。
【0079】
本明細書で使用する「プライマー」という用語は、テンプレート依存プロセスにおいて新生核酸の合成を開始することができる任意の核酸を含むことが意図される。典型的には、プライマーは、長さが10〜20塩基対または30塩基対のオリゴヌクレオチドであるが、これより長い配列を使用することができる。プライマーは二本鎖または一本鎖の形で提供されてもよいが、一本鎖の形が好ましい。
【0080】
選択的ハイブリダイゼーションが可能な条件下で、多型部位に隣接する核酸に選択的にハイブリダイズするように設計されたプライマー対と、テンプレート核酸を接触させる。望ましい用途に応じて、プライマーに対して完全に相補的な配列としかハイブリダイズしない高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件が選択されることがある。他の態様では、プライマー配列と1つまたはそれ以上のミスマッチを含む核酸を増幅することができる低いストリンジェンシーで、ハイブリダイゼーションが行われることがある。ハイブリダイズしたら、テンプレート-プライマー複合体と、テンプレート依存性核酸合成を容易にする1種類またはそれ以上の酵素を接触させる。十分な量の増幅産物が得られるまで、「サイクル」とも呼ばれる複数回の増幅が行われる。
【0081】
複数の標的配列を一回の反応で増幅することも可能である。標的ゲノムの異なる領域に位置する特異的配列に及び、それによって異なる多型を特定するように設計されたプライマーを一緒にして1つの反応混合物中で混合する。結果として生じた増幅混合物は複数の増幅領域を含有し、本願に記載の方法を用いた多型検出のソーステンプレートとして使用することができる。
【0082】
ある特定のテンプレート試料に存在するオリゴヌクレオチド配列を増幅するために、多数のテンプレート依存性プロセスを利用することができる。最も良く知られている増幅方法の1つはポリメラーゼ連鎖反応(PCR(商標)と呼ばれる)であり、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,800,159号、ならびにInnis et al., 1988(それぞれが、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)において詳細に説明されている。
【0083】
逆転写酵素PCR(商標)増幅法は、核酸供給源が分画されているか、全細胞 RNAである時に行うことができる。RNAをcDNAに逆転写する方法は周知である(Sambrook et al., 1989を参照されたい)。
【0084】
別の逆重合法では耐熱DNAポリメラーゼが用いられる。これらの方法はWO90/07641に記載されている。ポリメラーゼ連鎖反応の方法は当技術分野において周知である。代表的なRT-PCR法は米国特許第5,882,864号に記載されている。
【0085】
別の増幅法は、全体が参照により本明細書に組み入れられる欧州出願第320,308号に開示される、リガーゼ連鎖反応(「LCR」)である。米国特許第4,883,750号は、プローブ対と標的配列を結合させる、LCRに似た方法について説明している。米国特許第5,912,148号に開示される、PCR(商標)およびオリゴヌクレオチドリガーゼアッセイ(OLA)に基づく方法も使用することができる。
【0086】
リガーゼを介した別の反応がGuilfoyle et al. (1997)により開示されている。ゲノムDNAを制限酵素で消化し、次いで、ユニバーサルリンカーを制限断片に連結する。次いで、制限断片を増幅するために、ユニバーサルリンカー配列に対するプライマーをPCRにおいて使用する。PCR条件を変えることによって、ある特定のサイズ(すなわち、1000塩基未満)の断片を特異的に増幅することができる。本発明で使用する例の1つは、ゲノムDNAをXbaIで消化し、M13-ユニバーサルプライマー上でXbaIオーバーハングと連結し、その後に、M13ユニバーサルプライマーを用いてゲノムDNAを増幅することである。総DNAのごくわずかしか増幅されない(1000塩基未満の制限断片)。次いで、ある特定のサイズ(<1000塩基)のXbaI制限断片内に位置するSNPに対応する標識プライマーを用いて、アッセイを行う。このアプローチを使用する利点は、それぞれ個々の領域を別々に増幅する必要がないことである。1回のPCR反応から何千ものSNPをスクリーニングする能力、すなわち、多重能(multiplex potential)がある。
【0087】
本発明の実施において使用することができる別の標的核酸配列増幅法は、米国特許5,843,650号、同第5,846,709号、同第5,846,783号、同第5,849,546号、同第5,849,497号、同第5,849,547号、同第5,858,652号、同第5,866,366号、同第5,916,776号、同第5,922,574号、同第5,928,905号、同第5,928,906号、同第5,932,451号、同第5,935,825号、同第5,939,291号、および同第5,942,391号、GB出願第2202328号、ならびにPCT出願PCT/US89/01025に開示される。これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0088】
PCT出願PCT/US87/00880に記載のQbetaレプリカーゼもまた本発明における増幅法として使用することができる。この方法では、標的に相補的な領域を有するRNA複製配列を、RNAポリメラーゼの存在下で試料に添加する。ポリメラーゼは複製配列をコピーし、次いで、複製配列を検出することができる。
【0089】
制限エンドヌクレアーゼおよびリガーゼを用いて、制限部位の一方の鎖にヌクレオチド5'-[α-チオ]-三リン酸を含む標的分子の増幅を行う定温増幅(isothermal amplification)法もまた本発明の核酸増幅において有用であり得る(Walker et al., 1992)。米国特許第5,916,779号に開示される鎖置換増幅(Strand Displacement Amplification)(SDA)は定温核酸増幅を行う別の方法であり、複数回の鎖置換および合成、すなわち、ニックトランスレーションを伴う。
【0090】
他の核酸増幅法には、核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence based amplification)(NASBA)および3SR (Kwoh et al., 1989; Gingeras et al., PCT出願WO88/10315, その全体が参照により本明細書に組み入れられる)を含む、重合に基づく増幅システム(polymerization-based amplification system)(TAS)が含まれる。欧州出願第329822号は、一本鎖RNA(ssRNA)、ssDNA、および二本鎖DNA(dsDNA)の周期的な合成を伴う核酸増幅プロセスを開示し、この核酸増幅プロセスは本発明に従って使用することができる。
【0091】
PCT出願WO89/06700(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)は、プロモーター領域/プライマー配列と標的一本鎖DNA(ssDNA)とをハイブリダイズさせ、その後に、その配列の多数のRNAコピーを重合することに基づく核酸配列増幅スキームを開示している。このスキームは繰り返されない。すなわち、結果として生じたRNA転写物から新たなテンプレートは生成されない。他の増幅方法には、「race」および「ワンサイディッドPCR(one-sided PCR)」(Frohman, 1990; Ohara et al., 1989)が含まれる。
【0092】
別の有利な工程は、組み込まれなかったNTPが、後のプライマー伸長反応において組み込まれないようにする工程である。市販のキットを用いて、組み込まれなかったNTPを増幅産物から取り除くことができる。エビアルカリホスファターゼを用いて、組み込まれなかったNTPを破壊することもまた、この目的のために周知の戦略である。
【0093】
V.キット
試料中の核酸変異を検出するのに必要な必須の材料および試薬は全て一緒にしてキットにすることができる。これには、一般的に、関心対象の多型の標的ヌクレオチドの上流および/または下流に特異的にハイブリダイズするように設計されたプライマーまたはプローブが含まれる。プライマーまたはプローブは、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、色素、酵素、またはTOF担体で標識されてもよい。増幅に必要な反応混合物を準備するために、様々なポリメラーゼ(逆転写酵素、Taqなど)を含む核酸増幅に適した酵素、dNTPs/rNTPs、および緩衝液(例えば、10X緩衝液=100mM Tris-HCl(pH8.3)、および500mM KCl)が含まれてもよい。デオキシヌクレオチドの1つまたは複数が、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、色素、または酵素で標識されてもよい。このようなキットはまた、特異的な核酸または増幅産物の検出に適した酵素および他の試薬を備えてもよい。様々な態様において、キットは、CYP2D6多型および/またはCYP2D6機能を試験するための1つまたは複数の試薬をさらに備えてもよい。これらの態様では、ADHD療法をさらに効果的に個別化することができる。
【0094】
キットの容器手段には、一般的に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、または他の容器手段が含まれ、これらの中には成分が入れられてもよく、好ましくは、適切に分注される。キットの中に複数の成分がある場合、キットは、一般的に、さらなる成分を別個に入れることができるさらなる容器も備える。しかしながら、成分の様々な組み合わせを1個の容器に入れてもよい。本発明のキットはまた、典型的には、市販のために成分容器を厳重に包装するための手段を備える。このような包装は、望ましい成分容器が保持される、射出成形または吹き込み成形により製造されたプラスチック容器を備えてもよい。
【0095】
VI.発現構築物および細胞株の作製
1つの局面において、本発明は、野生型/非病的細胞と比較して正常レベル、低レベル、または高レベルの野生型CES1を発現する細胞および細胞株の作製、ならびに変異体CES1分子、例えば、本明細書に記載の変異体CES1分子の発現を提供する。このような細胞を作製する技法は当技術分野において周知であり、一般的に、Sambrook et al.に記載のような組換え細胞の標準的な作製法に従う。組換え宿主細胞作製の局面の一部は以下でさらに詳細に説明される。
【0096】
A.発現構築物
発現構築物は、所定の遺伝子産物の発現を容易にする調節エレメント、および遺伝子産物をコードする核酸セグメントを含有する核酸である。多くの場合、このような構築物は担体核酸分子である「ベクター」の中に含まれ、発現カセットを複製可能な細胞に導入するために、ベクターの中に発現カセットを挿入することができる。核酸配列は「外因性」でもよい。「外因性」とは、核酸配列が、核酸配列が導入される細胞またはベクターにとって外来のものであるか、細胞またはベクターの中の配列と相同であるが、配列が普通見られない宿主細胞ゲノムまたはベクターバックボーンの位置にあることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YACs)が含まれる。当業者であれば、標準的な組換え技法によってベクターを構築するのに十分な知識を持っているだろう(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Maniatis et al., 1988およびAusubel et al., 1994を参照されたい)。
【0097】
1.プロモーターおよびエンハンサー
「プロモーター」は、転写の開始および速度を制御する核酸配列領域である。「プロモーター」は、核酸配列の特異的転写を開始するために調節タンパク質および調節分子、例えば、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子が結合することができる遺伝因子を含有してもよい。「機能的に配置された」「機能的に連結された」、「制御下にある」、および「転写制御下にある」という句は、プロモーターが、核酸配列の転写開始および/または発現を制御するために、核酸配列に対して正しい機能的な位置および/または方向にあることを意味する。
【0098】
プロモーターは、一般的に、RNA合成開始部位を配置する機能のある配列を含む。この最良の公知の例はTATAボックスであるが、TATAボックスを欠く一部のプロモーター、例えば、哺乳動物末端デオキシヌクレオチド転移酵素遺伝子プロモーターおよびSV40後期遺伝子プロモーターでは、開始部位に重なる別個のエレメントそれ自体が開始の場所を決定するのに役立つ。さらなるプロモーターエレメントが転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは、開始部位の30〜110bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターは、開始部位の下流に機能エレメントも含有することが示されている。コード配列をプロモーターの「制御下」にするために、転写読み枠の転写開始点の5'末端を、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、3'側)に配置する。「上流」プロモーターはDNA転写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0099】
プロモーターエレメントが互いを基準として逆位になった時または移動した時にプロモーター機能が保存されるように、往々にして、プロモーターエレメントの間隔には柔軟性がある。tkプロモーターでは、プロモーターエレメントの間隔は、活性が低下し始めるまでには50bpまで増やすことができる。プロモーターにもよるが、個々のエレメントは転写を活性化するように協力してまたは独立して機能できるように見える。プロモーターは「エンハンサー」と共に用いられてもよく、用いられなくてもよい。「エンハンサー」とは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列を意味する。
【0100】
プロモーターは核酸配列と天然で関連しているものでもよく、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって得ることができる。このようなプロモーターは「内因性」プロモーターと呼ばれることがある。同様に、エンハンサーは核酸配列と天然で関連しているものでもよく、核酸配列の下流に位置してもよく、上流に位置してもよい。または、コード核酸セグメントを組換えプロモーターまたは異種プロモーターの制御下に置くことによって、ある特定の利益が得られるだろう。組換えプロモーターまたは異種プロモーターは、天然環境において核酸配列と通常関連していないプロモーターを指す。組換えエンハンサーまたは異種エンハンサーも、天然環境において核酸配列と通常関連していないエンハンサーを指す。このようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、「天然」にはないプロモーターまたはエンハンサー、すなわち、異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変える変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーを含んでもよい。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により作製することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物と共に、組換えクローニング技術および/またはPCR(商標)を含む核酸増幅技術を用いて作製することができる(米国特許第4,683,202号および同第5,928,906号を参照されたい。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。
【0101】
もちろん、発現のために選択された細胞小器官、細胞タイプ、組織、器官、または生物においてDNAセグメントを効果的に発現させるプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが重要であろう。分子生物学の当業者であれば、タンパク質を発現させるために、プロモーター、エンハンサー、および細胞タイプの組み合わせを用いることを一般的に知っている(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al. (1989)を参照されたい)。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、ならびに/または導入されたDNAセグメントを高レベルに発現させるのに適切な条件下で有用な、例えば、組換えタンパク質および/もしくは組換えペプチドの大規模産生に有利なプロモーターでよい。プロモーターは、ベクターまたは宿主細胞にとって異種プロモーターでもよく、内因性プロモーターでもよい。
【0102】
プロモーターは強力な構成的プロモーターでもよい。このようなプロモーターは、標的タンパク質の高レベルまたは「過剰発現」の状況において有用である。このような例の1つがサイトメガロウイルス最初期(CMV IE)プロモーターである。本発明において有用な他の構成的プロモーターにはSV40が含まれる。別のクラスのプロモーターは組織特異的プロモーターまたはエレメントである。これらのプロモーターは、ある特定の細胞タイプにおいて優先的または選択的な発現を示す。本発明で使用するのに適した他のプロモーターには、α-ミオシン重鎖(心臓)、α-フェトプロテイン(肝臓)、アルブミン(肝臓)、チログロブリン(甲状腺)、エノラーゼ(脳)、CC10(肺)、ケラチン(表皮)、およびβ-ラクトグロブリン(乳腺)が含まれる。
【0103】
使用することができるさらに別のタイプのプロモーターは誘導性プロモーターである。誘導性プロモーターは、使用者の判断で供給することができる外因性シグナルによって活性化される。誘導性プロモーターの一例は、Tet-On(登録商標)/Tet-Off(登録商標)Systems(Clontech)である。Tet-On(登録商標)およびTet-Off(登録商標)は、キメラトランス活性化因子を用いて、サイレントプロモーターからの関心対象の遺伝子の転写を活性化する。トランス活性化因子であるtTAまたはrtTAは、宿主細胞内で構成的プロモーターまたは組織特異的プロモーターから発現される。Tet-Off(登録商標)系では、tTAが、サイレントプロモーターのTet Response Element(TRE)に結合し、誘導物質であるドキシサイクリンの非存在下で転写を活性化する。Tet-On(登録商標)系では、rtTAがTREに結合し、ドキシサイクリンの存在下で転写を活性化する。また、このようなプロモーターは、「正常」細胞または野生型細胞において見られる発現を上回る、時として何倍も上回る「高レベル」発現を実現することができる。
【0104】
本発明において、肥大プロモーターは、肥大遺伝子発現パターンを示す細胞において特に活発と考えられており、従って、本明細書に記載のスクリーニングアッセイにおいて有用であると考えられているプロモーターである。これらのプロモーターには、ANF、α-骨格アクチン、ミオグロビン、α-ミオシン重鎖、β-ミオシン重鎖、NFAT、MEF-2、SERCA、および肥大心においてアップレギュレートまたはダウンレギュレートされていることが知られている他の任意の遺伝子が含まれる。
【0105】
2.開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位
コード配列が効率的に翻訳されるには、ある特定の開始シグナルも必要とされる場合がある。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルを設けることが必要な場合がある。当業者であれば、このことを容易に確かめ、必要なシグナルを設けることができるだろう。インサート全体の翻訳を確実にするために、開始コドンが望ましいコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは天然のものでもよく、合成のものでもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって増強することができる。
【0106】
本発明のある特定の態様において、多重遺伝子の、すなわち、ポリシストロニックなメッセージを作り出すために、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用が用いられる。IRESエレメントは、5'メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)に由来するIRESエレメントが説明されおり(Pelletier and Sonenberg, 1988)、哺乳動物メッセージに由来するIRESも説明されている(Macejak and Sarnow, 1991)。IRESエレメントは異種オープンリーディングフレームと連結することができる。それぞれIRESによって分けられた複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写して、ポリシストロニックなメッセージを作り出すことができる。IRESエレメントによって、それぞれのオープンリーディングフレームは、効率的な翻訳のためにリボソームに接近することができる。1種類のプロモーター/エンハンサーを用いて1本のメッセージを転写するように、複数の遺伝子を効率的に発現させることができる(米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照されたい。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。
【0107】
3.マルチクローニングサイト
ベクターは、マルチクローニングサイト(MCS)を含んでもよい。マルチクローニングサイトは、複数の制限酵素部位を含有する核酸領域であり、どの制限酵素部位も、ベクターを消化するために標準的な組換え技術で使用することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Carbonelli et al., 1999, Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照されたい)。「制限酵素消化」は、核酸分子の特定の位置でしか機能しない酵素による核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は当業者に広く理解されている。外因性配列がベクターに連結できるように、往々にして、MCS内で切断する制限酵素を用いて、ベクターは直線化または断片化される。「連結」は、2つの核酸断片間でホスホジエステル結合を形成するプロセスを指す。2つの核酸断片は互いに連続してもよく、連続してなくてもよい。制限酵素および連結反応を伴う技法は組換え技術の当業者に周知である。
【0108】
4.スプライシング部位
ほとんどの転写された真核生物RNA分子は、一次転写物からイントロンを除去するためにRNAスプライシングを受ける。転写物を適切にプロセシングしてタンパク質を発現するために、ゲノム真核生物配列を含有するベクターはドナースプライシング部位および/またはアクセプタースプライシング部位を必要とする場合がある(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Chandler et al., 1997を参照されたい)。
【0109】
5.終結シグナル
本発明のベクターまたは構築物は、一般的に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的な終結に関与するDNA配列からなる。従って、ある特定の態様において、RNA転写物の生成を終わらせる終結シグナルが意図される。望ましいメッセージレベルを実現するために、ターミネーターがインビボで必要な場合がある。
【0110】
真核生物系において、ターミネーター領域はまた、新たな転写物を部位特異的に切断して、ポリアデニル化部位を曝露するのを可能にする特定のDNA配列も含んでよい。これは、約200のA残基(ポリA)の配列を転写物の3'末端に付加するように、特殊な内因性ポリメラーゼにシグナルを送る。このポリAテールで修飾されたRNA分子は安定性が高いように見られ、より効率的に翻訳される。従って、真核生物を伴う他の態様において、ターミネーターはRNA切断のためのシグナルを含むことが好ましく、ターミネーターシグナルはメッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強するのに、およびカセットから他の配列への読み過ごしを最小限にするのに役立ち得る。
【0111】
本発明における使用が意図されるターミネーターには、本明細書に記載のまたは当業者に公知の、任意の公知の転写ターミネーターが含まれる。これには、例えば、遺伝子終結配列、例えば、ウシ成長ホルモンターミネーター、またはウイルス終結配列、例えば、SV40ターミネーターが含まれるが、これに限定されない。ある特定の態様において、終結シグナルは、転写可能な配列または翻訳可能な配列が欠けたもの、例えば、配列が切断されたために転写可能な配列または翻訳可能な配列が欠けたものでもよい。
【0112】
6.ポリアデニル化シグナル
発現、特に、真核生物での発現において、典型的には、転写物の適切なポリアデニル化をもたらすためにポリアデニル化シグナルが組み込まれる。ポリアデニル化シグナルがどういったものであるかは本発明の実施の成功に重要だと考えられておらず、任意のそのような配列を使用することができる。好ましい態様には、便利で、かつ様々な標的細胞において良好に機能することが知られているSV40ポリアデニル化シグナルまたはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化は転写物の安定性を高めてもよく、細胞質への輸送を容易にしてもよい。
【0113】
7.複製起点
宿主細胞内でベクターを増殖させるために、ベクターは、1つまたは複数の複製起点部位(しばしば「ori」と呼ばれる)を含有してもよい。複製起点は、複製が開始する特定の核酸配列である。または、宿主細胞が酵母であれば、自己複製配列(ARS)を使用することができる。
【0114】
B.遺伝子導入法
1.非ウイルス送達
本発明の一環として、一過的な発現および安定した形質転換のために、様々な遺伝子構築物を細胞に導入することが必要であろう。本発明で使用するのに適した核酸送達法は、本明細書に記載または当業者に公知のように、核酸(例えば、DNA)を細胞に導入することができる実質的に全ての方法を含むと考えられている。このような方法には、DNAの直接送達、例えば、マイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられる、Harland and Weintraub,1985;米国特許第5,789,215号)を含む、注入(米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号、同第5,580,859号、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);エレクトロポレーション(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspa et al., 1986; Potter et al., 1984);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990);DEAE-デキストラン後のポリエチレングリコールの使用(Gopal, 1985);ダイレクトソニックローディング(direct sonic loading)(Fechheimer et al., 1987);リポソームを介したトランスフェクション(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987; Wong et al., 1980; Kaneda et al., 1989; Kato et al., 1991)および受容体を介したトランスフェクション(Wu and Wu, 1987; Wu and Wu, 1989);微粒子銃(PCT出願WO94/09699およびWO95/06128;米国特許第5,610,042号;同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号、および同第5,538,880号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);炭化ケイ素繊維を用いた攪拌(米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);アグロバクテリウム(Agrobacterium)を介した形質転換(米国特許第5,591,616号および同第5,563,055号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);またはPEGを介したプロトプラスト形質転換(Omirulleh et al., 1993;米国特許第4,684,611号および同第4,952,500号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);乾燥/阻害を介したDNA取り込み(Potrykus et al., 1985)、ならびにこのような方法の任意の組み合わせによるDNAの直接送達が含まれるが、これに限定されない。
【0115】
2.ウイルス法
ある特定のウイルスは細胞に感染し、トランスジーンを一過的または安定して発現できるので、外来核酸を細胞を導入するための魅力的な候補となっている。従って、本発明は、心臓薬スクリーニング法に関連するレポーター遺伝子構築物または他の遺伝子を送達するためにウイルスベクターを利用することができる。本発明の核酸を送達するのに使用することができるウイルスベクターの非限定的な例は、アデノウイルス、AAV、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、シンドビスウイルス、サイトメガロウイルス、および単純ヘルペスウイルスである。
【0116】
さらに、送達しようとする核酸は、ある特定の結合リガンドを発現するように操作されている感染性ウイルスの中に収容されてもよい。従って、ウイルス粒子は、標的細胞のコグネイト受容体に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。ウイルスエンベロープにラクトース残基を化学的に付加することによるレトロウイルスの化学修飾に基づいて、レトロウイルスベクターを特異的に標的化するように設計された新規のアプローチが開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞への特異的な感染を可能にする。
【0117】
組換えレトロウイルスを標的化する別のアプローチが設計された。このアプローチではレトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体およびある特定の細胞受容体に対するビオチン化抗体が用いられた。これらの抗体は、ストレプトアビジンを用いることによってビオチン成分を介して結合された(Roux et al, 1989)。主要組織適合複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を用いて、これらの抗原を有する様々なヒト細胞にエコトロピックウイルスがインビトロで感染することが証明された(Roux et al., 1989)。
【0118】
VII.スクリーニング法
本発明はまた、CES1の有益な基質またはモジュレーターである化合物を特定する、細胞に基づくスクリーニング法も提供する。これらのアッセイは、大きな候補物質ライブラリーのランダムスクリーニングを含んでもよい。または、アッセイは、CES1機能を調節する可能性が高い、またはCES1の基質である可能性が高いと考えられている構造特性を考慮して選択された特定のクラスの化合物に焦点を当てるのに用いられてもよい。
【0119】
もちろん、本発明のスクリーニング法は全て、有効な候補が見出されない場合があっても、それ自体が有用であると理解されるだろう。本発明は、このような候補を発見する方法だけでなく、このような候補をスクリーニングする方法を提供する。
【0120】
A.候補物質
本明細書で使用する「候補物質」という用語は、心肥大を潜在的に阻害し得る任意の分子を指す。候補物質は、タンパク質またはその断片、低分子、さらには核酸分子でもよい。改善した化合物の開発を助けるためにリード化合物を用いることは「合理的薬物設計」と知られ、公知の阻害剤およびアクチベーターとの比較だけでなく、標的分子の構造に関連する予測も含む。
【0121】
合理的薬物設計の目的は、生物学的に活性なポリペプチドまたは標的化合物の構造類似体を作製することである。このような類似体を作り出すことによって、天然分子より活性もしくは安定性が高い薬物、変化に対する感受性が異なる薬物、または様々な他の分子の機能に影響を及ぼし得る薬物を作ることができる。1つのアプローチでは、標的分子またはその断片の三次元構造が作製されるだろう。これは、X線結晶学、コンピュータモデリング、または両アプローチの組み合わせによって達成することができる。
【0122】
他方で、ただ単に、「力ずくで」有用な化合物を特定するために、有用な薬物の基本的な基準を満たすと考えられている低分子ライブラリーを様々な商業的供給業者から入手することができる。コンビナトリアルケミストリーにより作製されたライブラリーを含む、このようなライブラリーのスクリーニングは、多数の関連する(および関連しない)化合物を活性についてスクリーニングする迅速かつ効率的なやり方である。コンビナトリアルアプローチはまた、活性があるが、他の点では望ましくない化合物から、第2世代、第3世代、および第4世代の化合物を作り出すことによって潜在的な薬物を迅速に進化させるのに役立つ。
【0123】
候補化合物は天然化合物の断片または部分を含んでもよく、他の場合には不活性な、公知化合物の活性のある組み合わせとして見出されてもよい。天然供給源、例えば、動物、細菌、菌類、葉および樹皮を含む植物供給源、ならびに海洋試料から単離された化合物が、潜在的に有用な薬学的剤の存在についての候補としてアッセイできることが提案されている。スクリーニングしようとする薬学的剤はまた化学組成物または人工化合物から得られてもよく、合成されてもよいことが理解されるだろう。従って、本発明によって特定される候補物質は、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、低分子阻害剤、または公知の阻害剤もしくは刺激剤から合理的薬物設計によって設計され得る他の任意の化合物でもよいことが理解される。
【0124】
B.アッセイ形式
第1のアッセイ形式では、プロモーター発現に対する候補物質の効果が調べられる。典型的には、これは、関心対象のプロモーターに連結したレポーターのコード領域を含むトランスジーンの使用を伴う。レポーターは、自動光学系によってモニタリング可能な(最適には、ハイスループット形式でモニタリング可能な)目に見える測定値(色のついた酵素生成物、蛍光シグナル)を表示することができる。典型的なアッセイはマルチウェルマイクロタイタープレートを伴う。
【0125】
第2のアッセイ形式は、基質が候補物質である場合、または公知の基質の代謝回転の速度もしくは程度を調節するために候補物質が用いられる場合の基質の代謝回転の速度または程度に注目する。これはまた、基質または生成物の局在化、例えば、細胞内の場所または細胞外の場所を調べることも伴うことがある。
【0126】
第3のアッセイ形式では、基質または候補物質の異性化または他の構造改変が調べられ、前者は候補物質の存在下で評価される。CES1活性に注目した形式は、正常CES1酵素、野生型過剰発現CES1酵素、または変異体CES1酵素の使用を伴うことがある。
【0127】
C.レポーター遺伝子
前記のように、アッセイの中には、スクリーニング可能な様々なマーカー遺伝子を用いるものがある。このようなマーカーまたは「レポーター」遺伝子を用いると、シグナルを探すことによって遺伝子発現レベルをアッセイすることができる。適切なレポーター遺伝子には、スクリーニング可能な生成物を生成する酵素が含まれる。このような酵素の1つがβ-ガラクトシダーゼである。特定の基質の存在下で用いられると、この酵素は、試料中の酵素の量に正比例する青色生成物を生成する。この生成物は光学的に測定することができる。スクリーニング活性において有用な別の酵素は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、すなわちCATである。
【0128】
別の態様において、スクリーニング可能なマーカーは、蛍光化学発光分子、例えば、lux遺伝子によりコードされるホタルルシフェラーゼでもよい。形質転換細胞におけるlux遺伝子の存在は、例えば、X線フィルム、シンチレーション測定、蛍光分光光度法、低照度ビデオカメラ(low-light video camera)、光子計数カメラ(photon counting camera)、またはマルチウェルルミノメトリーを用いて検出することができる。特に有用なレポーター遺伝子として、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子が意図される (Sheen et al., 1995; Haseloff et al., 1997; Reichel et al., 1996; Tian et al., 1997; WO97/41228)。緑色蛍光タンパク質の発現は、特定の光の波長を照射した後に蛍光として視覚化することができる。
【0129】
他のスクリーニング可能な分子には、β-グルクロニダーゼ、高感度GFP、青色蛍光タンパク質、分泌型アルカリホスファターゼ、ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ、およびキシレンオキシダーゼが含まれる。
【0130】
D.生成物分離技術
1.クロマトグラフィー
多種多様な任意のクロマトグラフィー手順を本発明に従って使用することができる。例えば、様々な化学種を分離するために、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、または超臨界流(supercritical flow)クロマトグラフィーを使用することができる。
【0131】
分配クロマトグラフィーは、2つの相が互いに接触し、かつ一方または両方の相が溶質を構成していれば、溶質は2相間で分配されるという理論に基づいている。通常、分配クロマトグラフィーでは、吸着剤および溶媒が充填されたカラムが用いられる。溶質を含有する溶液はカラム上部に積層される。次いで、溶媒は連続してカラムに通され、これにより溶質はカラム材料を通って移動できるようになる。次いで、溶質は、その移動速度に基づいて収集することができる。最も一般的なタイプの2つの分配クロマトグラフはペーパークロマトグラフおよび薄層クロマトグラフ(TLC)である。これらは合わせて吸着クロマトグラフィーと呼ばれる。どちらの場合も、マトリックスは結合用液体を含有する。分配クロマトグラフィーの他の例は、気-液クロマトグラフィーおよびゲルクロマトグラフィーである。
【0132】
薄層クロマトグラフィー(TLC)は脂質を分離するために一般的に用いられ、従って、本発明の好ましい態様とみなされる。TLCはペーパークロマトグラフィーを利用するが、微細に分けることができ、単層になる任意の物質を使用することができる。TLCでは、固定相は、ガラス板またはプラスチック板の表面に均一に塗られた吸着剤の層である。板は、通常、板の外周に沿って選択した高さでテープを配置することによってウェルを作った後に、ゲルの表面に注いだ吸着剤のスラリーを形成することによって作られる。吸着剤が乾いた後に、テープを取り除き、板をペーパークロマトグラフィーでの紙と同様に扱う。試料を適用し、板を溶媒と接触させる。溶媒が板の端にほぼ到達したら、板を取り出し、乾燥させる。次いで、蛍光、免疫による特定、放射能の計数、または表面に様々な試薬を噴霧して色を変えることによって、スポットを特定することができる。
【0133】
気-液クロマトグラフィー(GLC)では、移動相は気体であり、固定相は、チューブもしくはカラムの内面または固体支持体に吸着された液体である。液体は、通常、固体をエーテルなどの揮発性溶媒に溶解したものとして適用される。試料は揮発可能な任意の試料でよく、ヘリウム、アルゴン、または窒素などの希ガスと共に液体として導入され、次いで、加熱される。この気体混合物はチューブを通過する。揮発した化合物は、分配係数に応じて気体移動相と液体固定相との間を連続して再分配される。
【0134】
GLCの利点は低分子の分離にある。感度および速度は極めて良好であり、速度は標準的な液体クロマトグラフィーの1000倍に迫る。非破壊検出器を用いることによって、GLCは、グラム量の材料を精製するために調製に使用することができる。GLCの主な用途は、アルコール、エステル、脂肪酸、およびアミンの分離にあった。
【0135】
ゲルクロマトグラフィー、すなわち分子ふるいクロマトグラフィーは、分子サイズに基づく特殊なタイプの分配クロマトグラフィーである。ゲルクロマトグラフィーの背後にある理論は、小さな孔のある不活性物質からなる小さな粒子を用いて調製されたカラムが、大きな分子と小さな分子が孔を通過するかまたは孔の周囲を通ると、これらをサイズによって分離するという理論である。粒子を作っている材料が分子を吸着しない限り、流速を決定する唯一の要因はサイズである。従って、形状が比較的一定している限り、分子は大きいものから順にカラムから溶出される。ゲルクロマトグラフィーは、異なるサイズの分子の分離では他の追随を許さない。なぜなら、分離は、pH、イオン強度、温度などの他の全ての要因と無関係だからである。また、実質的に吸着がなく、ゾーンの広がりが少なく、溶出体積は単に分子量と関連する。
【0136】
ゲルクロマトグラフィーのゲル材料は、通常ランダムな構造を有する三次元網状組織である。概して不活性であり、分析材料に結合も反応もせず、無電荷の架橋ポリマーからゲルはなる。ゲル内の空間には液体が充填され、この液体はゲル体積の大部分を占める。一般的なゲルは、デキストラン、アガロース、およびポリアクリルアミドであり、これらは水溶液に用いられる。
【0137】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、極めて迅速な分離と並外れたピーク分解を特徴とする。これは、非常に微細な粒子および高圧を用いて、十分な流速を維持することによって実現される。分離は、わずか数分、長くても1時間で達成することができる。さらに、粒子がとても小さく、高密度に充填されているために、空隙容量がカラム体積のごくわずかしかないので、極めて少量の試料しか必要とされない。また、バンドがとても狭いために、試料がほとんど希釈されないので、試料の濃度は高濃度である必要はない。
【0138】
アフィニティクロマトグラフィーは、単離しようとする物質と、その物質が特異的に結合できる分子との特異的親和性に依存するクロマトグラフィー法である。これは受容体-リガンド型相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの一方と不溶性マトリックスを共有結合することによって合成される。次いで、カラム材料は、溶液から物質を特異的に吸着することができる。結合が起こらない条件に条件を変える(pH、イオン強度、温度などを変える)ことによって、溶出が生じる。
【0139】
マトリックスは、分子をあまり吸着せず、広範囲の化学的、物理的、および熱的安定性を有する物質でなければならない。リガンドは、その結合特性に影響を及ぼさないやり方で結合しなければならない。リガンドはまた比較的緊密な結合も生じなければならない。試料もリガンドも破壊することなく、物質を溶出できなければならない。最も一般的な形のアフィニティクロマトグラフィーの1つがイムノアフィニティクロマトグラフィーである。本発明による使用に適した抗体の作製を下記で説明する。
【0140】
2.質量分析
前記のように、質量および電荷の固有特性を利用することによって、質量分析(MS)は多種多様な複合化合物を分離し、確信をもって特定することができる。従来の定量MSは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)の後にタンデムMS(MS/MS)を用いてきた(Chen et al., 2001; Zhong et al., 2001; Wu et al., 2000)。これに対して、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法 (MALDI)の後に飛行時間型 (TOF)MSを用いる定量法が開発されている(Bucknall et al., 2002; Mirgorodskaya et al., 2000; Gobom et al., 2000)。本発明で使用することができる質量分析法には、ESI、ESIタンデム質量分析(ESI/MS/MS)、二次イオン質量分析(SIMS)、レーザー脱離質量分析(LD-MS)、レーザー脱離レーザー光イオン化質量分析(LDLPMS)、およびMALDI-TOF-MSが含まれる。
【0141】
VIII.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を証明するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明の実施において良好に機能すると本発明者らによって発見された技法であり、従って、本発明を実施するための好ましい態様を構成するとみなすことができると当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、開示された特定の態様に多くの変更を加えることができ、なおさらに、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似の結果が得られることが当業者に理解されるはずである。
【0142】
実施例1-方法
CES1遺伝子変種の同定
CES1 DNA配列分析のために、全ゲノムDNAを全血から抽出した。DNA配列決定、最初のSNP同定、および変異配列の立証は、SeqWright, Inc. Laboratories(Houston, TX)が行った。14個全てのCES1エキソンと、各エキソンにある50〜200bpの隣接するイントロン領域の双方向配列決定では、52個のカスタムプライマーを使用した(GenBankアクセッション番号:ゲノム参照番号,AB119997;cDNA,AB119995)。イントロンはこれ以上調べなかった。5'末端の配列はエキソン1の約12bp上流に及び、3'末端の配列はエキソン14の約13bp下流まで及んだ。説明された2個の変異を立証するために、さらなるプライマーセット:

を使用した。
【0143】
配列の描写およびベースコーリングは、自動蛍光DNAシークエンサー(ABIモデル 3730x1; Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行った。サイクル条件は以下の通りであった:95℃30秒、50〜60℃(Tmによる)30秒、および7O℃1分の30サイクル。
【0144】
全ての手順は、Medical University of South Carolina Institutional Review Boardによる認可を受け、書面によるインフォームドコンセントを得た後にしか行わなかった。一般集団におけるSNP頻度を求める目的でさらなるDNA試料をさらなる被験者から入手した場合、全ての手順は、University of Florida Institutional Review Boardによる認可を受け、書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0145】
CES1変種のジェノタイピングおよびSNP頻度の決定
ジェノタイピングアッセイは二通り行い、Bio-Rad iCycler iQ(登録商標)Multicolorリアルタイム検出システムにより分析した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)対立遺伝子識別アッセイを、Assay-by-Designサービスを用いて設計し、CES1遺伝子の特異的変種であるp.Gly143Glu(ゲノム:nt9486;cDNA:nt428,dbSNP ss番号:99307125)およびp.Asp260fs(ゲノム:nt12754;cDNA:nt780, dbSNP ss番号:99307126)を、蛍光発生TaqMan(登録商標)プローブを用いて同定した。プライマーおよびプローブの配列は以下の通りであった。

【0146】
リアルタイムPCR増幅は、5ngのゲノムDNA、900nMの各プライマー、200nMの各プローブ、ならびに5μlの2X TaqMan(登録商標)Universal PCR Master Mix(PCR緩衝液、パッシブレファレンス色素ROX、デオキシヌクレオチド、ウリジン、ウラシル-N-グリコシラーゼ、およびAmpliTaq Gold DNA ポリメラーゼ; Perkin-Elmer, Applied Biosystems, Foster City, CAを含有)を含有する反応混合物10μl中で行った。サイクルパラメータは、95℃10分、その後に、92℃15秒および60℃1分の50サイクルであった。リアルタイム蛍光検出は、各サイクルの6O℃アニーリング/伸長工程の間に行った。IQソフトウェアを用いて、49サイクルでのFAMおよびVICの蛍光強度を用いた2つのパラメータプロットに基づいて、遺伝子型をプロットし、自動的に指定した。
【0147】
代謝異常者(aberrant metabolizer)と同じ薬物動態学的研究から、13人のさらなる参加者(10人の白人男性および3人の白人女性)由来のゲノムDNAもCES1変種についてスクリーニングした。これらの参加者は、研究被験者および利用可能な患者研究において典型的に観察されるものと一致する「正常な」MPH濃度を示した。代謝異常者の生物学上の親もCES1変種についてスクリーニングした。白人一般集団における、これらのCES1変種のアレル頻度を見積もるために、 Coriell Cell Repositories(Coriell Institute, Camden, NJ)を介して入手した、100人の自己申告で白人の個体コホート(51人の男性、49人の女性)に相当するゲノムDNAパネル(HD100CAU)をスクリーニングした。さらに、自己申告した様々な人種グループおよび民族グループが併用降圧治療の大規模多施設臨床試験(ベラパミルSR/トランドラプリルの世界的な試験[INVEST])に参加している間に収集したゲノムDNA試料も分析に使用することができた。このグループは、355人のさらなる白人被験者、117人の黒人被験者、299人のヒスパニックの被験者、および54人のアジア人個体からなった。CES1活性に関するアプリオリな情報を研究者は知っていたので、代謝異常者、その親、および試験同等者は、このアレル頻度の計算に含めなかった。
【0148】
薬物動態学的データ、血行力学的データ、および統計データの分析
WinNonLinソフトウェア(Pharsight, Mountainview, CA)を用いて、標準的な薬物動態学的分析をMPHデータに適用した。これは、以前の刊行物に記載されている10。代謝遅延者のパラメータ測定値が真の統計異常値を構成するかどうか確かめるために、Extreme Studentized Deviate(ESD)シングルアウトライアー(single-outlier)法を用いて、AUC、Cmax、およびt1/2を分析した12。それぞれのパラメータについて、ESD法によって測定値がp<0.01水準で異常値と確認された。この手法は控えめであることが知られているので、代謝異常者からのデータを、正常参加者のみに対する類似の手法を用いて再評価した。
【0149】
MPH血中濃度が上昇した結果として、MPH代謝遅延者が有意に異なる薬力学的効果を経験したかどうか確かめるために、本発明者は、試験中に、MPH投与後に8つの時点で集められた血行力学的データを調べた10。収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、および心拍(HR)の各被験者の測定値の他に、以下の式:MAP=DBP+1/3(SBP-DBP)に従って、平均動脈圧(MAP)も計算した。
【0150】
本発明者は、各エンドポイントの測定値のセットが多変量ベクトルであると考え、被験者の測定値のマハラノビス距離を評価した。エンドポイントの分散に関係する、中心多変量平均(central multivariate mean)からの距離の尺度であるマハラノビス距離は、F分布を参照することによって異常値を特定するのに有用である。この分析は、生命徴候に及ぼす明確な時間効果モデルを仮定しないが、各参加者に対する経時的な反復測定間の潜在的な相関関係を認め、第I種の過誤の割合を制御しながら、前記の時点セットにわたる平均からの同時に起こる差異について検定する。4つのエンドポイントベクトルのそれぞれについて、本発明者は、Wilksの棄却限界値(α=0.0125、棄却限界値:13.8)を比較することによって、代謝遅延者の測定値が異常値であるというアプリオリな仮説を検定した13。この1人の参加者の唯一の試験異常値状態を検定したので、参加者の中でボンフェローニ補正を行わなかった。しかしながら、各検定は、検定されている4つのエンドポイントに合わせて調整するために、ボンフェローニ補正したα=0.0125の水準で行った。0〜1.5hの時間枠内では、代謝遅延者とその試験同等者との間には血漿MPH濃度にはほとんど差が無かった(図6)。これは、錠剤の崩壊、溶解および吸収の遅延による可能性が高い。この初期の期間の後に、MPHは、初回通過代謝およびhCES1を介した立体選択的加水分解を受け、2つの濃度対時間曲線は急速に互いに異なっていく(図2〜3)。従って、この知見およびデータの目視検査に基づいて、0〜1.5hrの時点の間に取られた測定値を除外した2つめの分析がより妥当であることは明白であった。
【0151】
アレル頻度は遺伝子を数えることによって求めた。さらに、遺伝子型頻度を、1自由度でカイ二乗検定を用いて、ハーディ・ワインベルグ平衡からの逸脱について個々の性別および民族グループの中で検定した。
【0152】
インビトロ機能研究
hCES1を安定発現する細胞株を樹立するために、親細胞としてFlp-In-293細胞を利用することには2つの大きな利点がある。
【0153】
1.Flp-In-293細胞は、きわめて低いバックグラウンドhCES1発現および触媒活性を示す。
第1に、Flp-In-293細胞は、動物細胞株から生じる利用可能なほとんど全ての他のFlp-In細胞とは異なり起源がヒト(腎臓)である。本発明者の研究室において行ったウエスタンブロット研究から、親Flp-In-293細胞におけるhCES1の内在発現は本質的に検出不可能であるが、トランスフェクト細胞は正常ヒト肝臓組織とほぼ同じで程度で強いhCES1発現を示すことが証明された(図9A)。さらに、標準的な加水分解酵素基質であるPNPAに対する非トランスフェクトFlp-In-293細胞の加水分解活性はきわめて低いことが確かめられた。比較すると、hCES1酵素をコードするCES1遺伝子でトランスフェクトされた細胞は、正常ヒト肝臓組織に匹敵する著しい加水分解活性を示した(図9B)。
【0154】
2.Flp-In Systemは、Flp-In-293細胞を含むFlp-In細胞株のゲノムにFlp組換え標的(FRT)部位を導入することを伴う。
次いで、CES1を含有する発現ベクターを、Flpリコンビナーゼを介したDNA組換えを介してゲノムのFRT部位に組み込む。CES1遺伝子を各トランスフェクト細胞内の正確に同じゲノム部位に挿入し、1コピーの各遺伝子だけを各細胞に組み込む。従って、このモデルは、hCES1を安定発現する高度に均一な細胞からなる。
【0155】
pCMV-SPORT6ベクターにクローニングされたヒトCES1A1 cDNAをATCCから購入した。TAクローニング戦略を用いて、Flp-In(商標)-293細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)の中でヒトCES1を発現することができる構築物を作製した。簡単に述べると、ヒトCES1A1遺伝子をPCR増幅し、pcDNA5/FRT/V5-His-TOPO(登録商標)ベクターに挿入し、形質転換によってOne Shot(登録商標)TOP10 Chemically Competent大腸菌細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)に導入した。ヒトCES1A1遺伝子は、以下のプライマー:

を用いたPCRに基づいて、Taqポリメラーゼ(Takara EX TaqTM HS, Shiga, Japan)によって増幅した。
【0156】
PCRサイクリングパラメータは以下の通りである。

【0157】
1%アガロースゲル電気泳動後に、PCR産物を視覚化した。推定分子量1.72kbの単一のDNAバンドを得た。DNAをゲル精製し、前記のプライマーおよび2つのさらなる特注プライマー(フォワード:

;リバース:

)を用いたDNA配列決定によって、望ましい配列を確認した。PCR産物をpcDNA5/FRT/V5-His-TOPO(登録商標)ベクターに挿入し、形質転換によってOne Shot(登録商標)TOP10 Chemically Competent大腸菌細胞(Invitrogen(登録商標))に導入した。100μg/mlアンピシリンを含有するLBプレート上で培養した後、100μg/mlアンピシリンを含有するLB培地5ml中でさらに一晩培養するために、10個の形質転換体を選択した。プラスミドを、Eppendorf(登録商標)FastPlasmid(商標)Mini Kit(Fisher Scientific)を用いて抽出し、制限酵素およびDNA配列決定を用いて分析した。検出および精製を容易にするV5-Hisタグと共に、組換えhCES1が哺乳動物細胞において発現するように、望ましいプラスミドを設計した。さらに、CES1A1遺伝子の後に停止コドンを挿入して、V5-Hisタグの無いhCES1を発現する構築物を得る部位特異的変異誘発アッセイを用いて、別のプラスミドを作製した。センス変異原性プライマーは、

であるのに対して、アンチセンス変異原性プライマーは、

である。CES1変異p.Gly143Gluの構築物も部位特異的変異誘発アッセイを用いて作製した。p.Gly143Gluの変異原性プライマーを以下に列挙する。

【0158】
検出および精製を容易にするV5-Hisタグと共に、組換えCES1が哺乳動物細胞において発現するように、望ましいプラスミドを設計した。さらに、CES1A1遺伝子の後に停止コドンを挿入して、V5-Hisタグの無いCES1を発現する構築物を得ることによって、別のプラスミドを作製した。ウェスタンブロッティングから、V5-Hisタグ付けCES1の検出可能な発現レベルは非タグ付けCES1より有意に低いことが明らかになった。これは、タグ付けCES1の間違ったタンパク質フォールディングによって引き起こされる可能性がある(図10)。さらに、標準的なエステラーゼ基質であるp-ニトロフェニル酢酸(p-nitrophenyl acet)(PNPA)に対する、タグ付けhCES1でトランスフェクトされた細胞の酵素活性は、非タグ付けhCES1より有意に低い(図11)。従って、酵素的加水分解研究では、非タグ付けCES1およびその関連する変異体のみを使用した。CES1変異であるp.Gly143Gluおよびp.Asp260fsの2つの構築物を、部位特異的変異誘発アッセイを用いて作製した。望ましいプラスミドが得られたことを確認するために、全ての構築物をDNA配列決定分析に供した。特定されたCES1A1プラスミド(WT、p.Gly143Glu、およびp.Asp260fs)をpOG44プラスミドと共に1:10の比で、リポフェクタミン2000(商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いたコトランスフェクションによってFlp-In(商標)-293細胞に導入した。さらに、自己連結したpcDNA5/FRT/V5-His-TOPO(登録商標)ベクターをベクター対照として含めた。トランスフェクションの24時間後に、細胞をPBSで洗浄し、新鮮な完全培地(10%胎仔ウシ血清を含有するダルベッコ改変イーグル培地)を添加した。トランスフェクションの48時間後に、細胞を1:10の比に分け、細胞付着が観察されるまで37℃で培養した。次いで、培地を取り除き、選択用抗生物質ハイグロマイシンB(100μg/ml)を添加した完全培地を補充した。ハイグロマイシンBを用いた最低3週間の選択プロセスの後のみ、WT、p.Gly143Glu、およびp.Asp260fs CES1を安定発現する細胞株を得た。作製された各細胞株を発現検出アッセイおよび酵素機能アッセイによって特定した。
【0159】
酵素機能研究
d-MPHおよびl-MPHは、説明されたSNPを本発明者が初めて発見した際に役割を果たし、非活性化(すなわち、代謝)されるのにhCES1にほぼ独占的に依存するので、部位特異的変異誘発酵素研究のために選ばれた基質となった。hCES1はまた多くのプロドラッグの活性化において極めて重要であるので、hCES1による基質代謝活性化に及ぼす変異CES1の影響を調べるための魅力的な基質として、代表的な基質であるリン酸オセルタミビル([OP]Tamiflu(登録商標))を選択した22。この場合、OPをカルボン酸オセルタミビル(OC)に変換するのに、hCES1が必要とされる(図12)。インフルエンザウイルスノイラミニダーゼを阻害することによって抗ウイルス活性を発揮するのは、遊離されたOCである。さらに、活性OC代謝産物は本質的にさらなる代謝を受けない。従って、MPHと同様に、生体内変換はほぼ完全に代謝エステル分解に依存する。最後に、OPは、小児科集団において頻繁に用いられ、この薬物に関連する相当数の重篤な神経精神医学的事象についての進行中の懸念があるために、さらなる関心があった。注目すべきことに、最初のOP新薬申請(NDA)における薬理学調査23の中で、若齢ラットはOPを加水分解してOCを形成することが非常に困難であったことに言及していた。さらに、この報告は続けて、ほとんどの毒性が高いプロドラッグ曝露に関連している可能性があると示唆している。これらの副作用は、2006年11月に、小児科患者における自傷行為、せん妄、および他の事象の報告を蓄積することを喚起し、改訂添付文書を添付した「医療提供者様へ」の書簡を促すのに十分であった。しかしながら、1999年からの小児科患者における、この種の約600件(75%は日本から)の有害な精神医学的反応報告についての継続した懸念から、FDA 委員会によるさらなる調査が行われ、2007年後半にはRocheに添付文書の注意書きを強調するように勧告した(承諾済み)。
【0160】
約95%コンフルエンスに達した後に、細胞をリンスし、10mM HEPESを含有するPBS(pH7.4)の中に収集した。次いで、細胞懸濁液を超音波処理し、上清9000(S9)画分を、900Og、4℃30分間の遠心分離によって収集した。Pierce BCAアッセイキット(Rockford, IL)を用いて、タンパク質濃度を求めた。
【0161】
PNPAの加水分解は、96ウェル培養プレート中で、最終体積200μl、37℃で行った。WT発現細胞および変異体CES1発現細胞のS9を、最終S9濃度が20μg/mLとなるように反応緩衝液(10mM HEPESを含有するPBS、pH7.4)で希釈し、37℃で10分間プレインキュベートした。ある範囲の濃度のPNPA(20μM〜1000μM)を添加することによって反応を開始した。37℃で10分間インキュベーションした後に、405nmでの吸光度によって、PNPAからのp-ニトロフェノール(PNP)の形成を確かめた。
【0162】
MPH加水分解を研究するために、反応を、S9の最終濃度0.5mg/mL、総体積100μLで1.5mLエッペンドルフチューブ内で行った。インキュベーションの前に、d-MPHおよびl-MPH溶液を、反応緩衝液50μLに溶解して新たに調製し、次いで、最終基質濃度が20μM〜1000μMのS9 50μLと混合した。37℃で2時間インキュベーションした後、メタノール500μlを添加することによって、反応を止めた。次いで、遠心分離(20,00Og 、4℃で5分間)によって、沈殿タンパク質を除去した。加水分解によって生じた主な第一相MPH代謝産物であるリタリン酸(RA)の濃度を、下記の確立したHPLC法を用いて求めた。
【0163】
PNPAおよびMPHは両方とも反応緩衝液中で自発的に加水分解した。従って、酵素アッセイの後に、自発的なPNPおよびRAの加水分解について求めた値を、PNPおよびRAの生成全体から差し引いた。注目すべきことに、空のベクターでトランスフェクトされた細胞は、CES1の測定可能な触媒活性も発現も示さなかった。集められた全てのデータはミカエリス・メンテン式に適合させ、キネティックパラメータを、Graphpad Prismソフトウェア(Graphpad Software Inc., San Diego, CA)により非線形回帰分析を用いて計算した。
【0164】
HPLC分析
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いて、Soldinおよび同僚によって説明された方法に基づいてRA濃度を求めた。HPLCシステムは、Agilent 1100モジュール、4mmx3mm C18ガードカラムに続くC18逆相カラム(250x4.6mm,5μm)(Phenomenex, Torrance, CA)、およびダイオードアレイ検出器からなった。分離は、アセトニトリル/20mM KH2PO4,pH3.8(16/84,v/v)を用いて、流速1.0mL/min、カラム温度を40℃に設定して行った。検出波長は192nmに設定した。RAは7.6分に溶出した。RA定量の下限は0.2μMであった。
【0165】
典型的なクロマトグラムを図13に示した。ここでは、100μMのl-MPHをWT hCES1 s9によって37℃で2時間、加水分解した。OPの加水分解産物であるOCを定量するために、HPLC法を確立し、検証した。37℃で10分間インキュベートした後、内部標準として40μM RAを含有するメタノール500μlを添加することによって、OP加水分解反応を止めた。MPHアッセイにおいて測定された主な加水分解産物であるRAは、この別々に行われたOP/OCアッセイにおいて優れた内部標準としても役立つと見出されたことに注目した。タンパク質を沈殿するために混合物を遠心分離し、次いで、波長を220nmに設定したダイオードアレイ検出器を備えるAgilent 1100 HPLCシステムを用いて、上清を分析した。移動相は、メタノールおよび20mM KH2PO4 (pH2.5)の混合物であった。分離のために勾配溶出を適用し、時間プログラムを以下の通りに設定した。0〜4分はメタノール44%、4〜14分は50%まで上げ、次いで、16分まで50%に維持し、16分で、メタノールを初期条件(44%)に戻した。リタリン酸、OC、およびOPは、それぞれ、5.1分、6.0分、および15.7分に溶出した。この時、流速は1ml/minに設定した。OCの定量の下限は0.25μMであった。図14は、WT hCES1 s9によって37℃で10分間加水分解された100μM OPの典型的なクロマトグラムである。日内および日間の相対標準偏差が、RAアッセイおよびOCアッセイについて10%未満になることを確かめた。
【0166】
実施例2-2つのCES1遺伝子変異はヒトにおけるカルボキシエステラーゼ1活性の機能障害につながる:臨床的意義および分子的基盤
薬物動態学的統計解析
データに適用されたESD解析に基づいて、本発明者は、被験者のd-MPHのAUC、Cmax、およびt1/2値が、それぞれ、他の19人の正常ボランティアの平均値から7.3、4.9、および5.2標準偏差であると見積もった(表1)。これらの結果は、この代謝異常者の個々の重要な薬物動態学的パラメータ(すなわち、AUCinf、Cmax、t1/2)が、代謝異常を示唆する統計異常値であったことを証明している。
【0167】
(表1)代謝異常者対19人の試験同等者における薬物動態学的パラメータ

【0168】
薬力学的統計解析およびCES1欠陥の結果
時点0〜1.5hからのデータを含む全てのデータをデータセットに含めた時には、代謝遅延者は、MAPエンドポイントについて異常値であったが(距離:18.0)、SBPは統計的有意性に近かった(距離:13.3、棄却限界値13.8と比較)。しかしながら、この代謝遅延者はDBPおよびHRの測定値について異常値ではなかった。経口投与後にMPH吸収が一般的に起こる時間枠(すなわち、0〜1.5h)を排除した時には、全ての血行力学的測定値(すなわち、SBP、DBP、HR、およびMAP)について、統計異常値の状態に達した。代謝遅延者対他の19人の被験者の投薬前の値ならびに最大値を表2に示した。
【0169】
(表2)メチルフェニデート投薬前の代謝遅延者対19人の試験同等者における血行力学的パラメータ、および得られた最大値

【0170】
CES1多型の特定
CES1遺伝子の14全てのエキソンを配列決定した。2つのコード領域CES1非同義変種を特定した(図4)。第1の変種は、エキソン4にある、コドン143の2番目のヌクレオチド(nt)(ゲノム:nt9486;cDNA:nt428)の置換(p.Gly143Glu)であり、GからAに変化していた(GGG→GAG)。これは、グリシン143からグルタミン酸(Gly143Glu)への非保存的アミノ酸置換をもたらす。特定された第2の変種(p.Asp260fs)は、エキソン6にあるコドン260の最後のヌクレオチド(ゲノム:nt12754;cDNA:nt780)で生じる欠失(T/-)であった(GAT→GA-G)。これはフレームシフト(p.Asp260fs)変異をもたらし、アスパラギン酸260をグルタミン酸に変え、野生型配列から次の39の残基を変え、その後に、中途の停止コドンにおいて早期の切り詰が生じる(図4)。従って、野生型CES1および置換(p.Gly143Glu) 変種はそれぞれ567アミノ酸長であるが、フレームシフト(p.Asp260fs)変種は298アミノ酸に限定される(最初の259の野生型残基の後に39のミスセンス残基および早期の切り詰め)。
【0171】
特定の人種グループおよび民族グループにおける変異の対立遺伝子頻度
説明されたゲノムDNAデータセットを用いて、これらのCES1変種のアレル頻度を求めた。これらのうち、455人の白人、117人の黒人被験者、および299人のヒスパニック個体を試験し、それぞれ、合計34人、10人、および12人がp.Gly143Gluヘテロ接合性と特定された。従って、p.Gly143Gluのマイナーアレル頻度(MAF)は、白人集団、黒人集団、およびヒスパニック集団においてそれぞれ3.7%、4.3%、および2.0%と見積もられた。変種が検出されたいずれの集団においてもハーディ・ワインベルグ平衡からの逸脱は無かった。さらに、p.Gly143Gluは、試験された54人のアジア人被験者において特定されなかった。このことは、この変種がアジア人集団では稀であるとみなさなければならないことを示している(表3)。p.Asp260fsは、ジェノタイピングされた925人の被験者のうちだれ一人として見出されず、頻度は実質的に1%未満であったので、稀な変異であるように見える。どの人種グループおよび民族グループでも、性別間で、p.Gly143GluのMAFの統計的に有意な差は無かった。最後に、代謝異常者の生物学上の親のジェノタイピングから、父親はp.Gly143Gluヘテロ接合性であったのに対して、母親はp.Asp260fsヘテロ接合性であったことが明らかになった。このことは、2つの変種が連鎖不平衡の状態になく、従って、別個の対立遺伝子上に見出されることを示している。
【0172】
(表3)CES1 SNP p.Gly143Gluのマイナーアレル頻度(MAF)

*4つの試験集団からの平均MAFの95%信頼区間は-0.57%〜5.57%である。
【0173】
MPHおよびPNPAの加水分解に対するCES1およびその変異体の酵素活性
PNPAならびにd-MPHおよびl-MPHに対するCES1およびその変異のキネティックパラメータ(VmaxおよびKm)を、異なる基質濃度でPNPおよびRAの酵素的生成速度を測定し、非線形回帰分析を用いてデータをミカエリス・メンテン式に適合させることによって求めた。
【0174】
PNPAは、CES1ならびに他のヒトエステラーゼの感度が高く、かつ確立したモデル基質である。結果から、WT CES1はPNPA加水分解に対して有意な触媒活性を示し、VmaxおよびKm値はそれぞれ493.9nmole/min/mgタンパク質および106.6μMであったことが証明された。p.Gly143Gluおよびp.Asp260fsの酵素活性は著しく低いことが観察された。p.Gly143Gluおよびp.Asp260fsのVmax値は、それぞれ、WT CES1の18.6%および5.7%しかなかった。p.Gly143GluのKm値はWTとほぼ同じであったが、p.Asp260fsはWTより約9.5倍高い。このことは、認められている基質に対するp.Asp260fsの親和性が著しく低い(が、p.Gly143Gluは低くない)ことが注目されることを示している(図7、表4)。
【0175】
(表4)PNPA、l-MPH、およびd-MPHの酵素的加水分解のキネティックパラメータ

値は平均±S.D.(n=3)を示す。
N.D.、検出不能
KmはμMで示した。
PNPAおよびMPHに対するVmax値は、それぞれ、nmole/min/mgタンパク質およびpmole/min/mgタンパク質で示した。
PNPAおよびMPHに対するVmax/Km値は、それぞれ、ml/min/mgタンパク質およびμl/min/mgタンパク質で示した。
【0176】
MPH加水分解研究から、WT CES1は触媒効率に関してかなりの立体選択性を示し、l-MPHがd-異性体よりも好まれ、Vmaxは、それぞれ、1701.0および177.2pmole/min/mgタンパク質であった。この立体選択作用は本発明者の以前の臨床観察および他の研究者のものと完全に一致していた。MPH加水分解に対してCES1変異体p.Gly143Gluおよびp.Asp260fsが生じる触媒活性は低すぎるために、非常に高いS9濃度(2mg/ml)を使用した時でも本発明者の実験条件下では確かめることができなかった(図6,表4)。
【0177】
本発明は、hCES1が、エステル基を切断することによってプロドラッグであるオセルタミビルの活性化を支配する主要な加水分解酵素であり、OPがhCES1の優れた基質として役立つことを確認している。本発明は、Vmax値が145.3nmole/min/mgタンパク質、Km値が1381.6μMで、OPが活性型OCに急速に代謝されることを証明している。hCES1変種であるp.Gly143Gluおよびp.Asp260fsは、オセルタミビル加水分解に対してかなり低い酵素活性を示した。p.Gly143GluのVmax値は37.1nmole/min/mgタンパク質であると求められ、これはWT hCES1の約1/4である。MPHを用いた本発明者の実験観察と同様に、p.Asp260fsとのインキュベーションは、OCへの変換によって測定されるように、OPの検出可能な加水分解をもたらさなかった(図8)。
【0178】
考察
グリシン143はhCES1触媒機能にとって重要な残基である20,24。本発明者の機能研究から、グリシン143がグルタミン酸で置換された後、p.Gly143GluではhCES1の機能活性の大半は失われることが証明された。さらに、フレームシフト変異から生じた未熟な酵素p.Asp260fsは一般集団では明らかに稀な変異であるが、完全に機能しないCES1変異体とみなすことができる。本発明者のデータは、これらのSNPのいずれかを保有する個体が、hCES1によって代謝(非活性化または活性化)される薬物に対して異常なPKおよび治療応答を示すと予想されると強く裏付けている。
【0179】
この試験によって、CES1遺伝子の2つの変種が特定された。エキソン4にある一方の変種はコドン143に位置し(GGG→GAG)、グリシン143からグルタミン酸への非保存的アミノ酸置換(p.Gly143Glu)につながる。エキソン6のコドン260にある欠失は、残基260〜299を変えた後に、中途の停止コドンにおいて早期に切り詰めが起こるフレームシフト変異をもたらす(p.Asp260fs)。これらの変異は、CES1遺伝子の別個の対立遺伝子上にある両変異についてヘテロ接合性の個体においてMPH総血中濃度を著しく上昇させると共に、典型的な異性体配置をゆがませた。
【0180】
CES1活性のばらつきがMPHの薬力学的効果の定量可能な差につながったかどうか確かめるために、本発明者は、この個体の血行力学的応答と試験同等者の血行力学的応答を比較した。この被験体は、MPH投与の1.5時間後に得られたデータ点を用いると、全てのエンドポイント(SBP、DBP、HR、およびMAP)について異常値であった。重要なことに、治療量のMPHは、時として、心血管有害作用の原因となることがある。めったにないが、基礎をなす危険因子を有する患者において脳卒中または突然死が報告されている(FDA、FDAは、ADHD薬の製造業者に、患者に心血管有害事象および精神医学的有害事象について知らせるように指導している)。本結果は、特定されたCES1変種を有する個体では有害事象のリスクが高くなる可能性があることを示唆している。このリスクは、典型的には速放性MPHが推奨されている1日3回の投薬、または現在、市場において主流になっている1日1回の製剤を用いることによって高まると予想される。
【0181】
代謝欠陥者(deficient metabolizer)におけるMPHの薬物動態学および薬力学的効果の著しい変化の分子遺伝学的基盤を明らかにするために、WT CES1を安定に発現する細胞、p.Gly143Gluを安定に発現する細胞、およびp.Asp260fsを安定に発現する細胞を用いて、それぞれのCES1変種の触媒機能を調べた。この結果から、CES1の触媒効率はp.Gly143Gluおよびp.Asp260fsにおいて劇的に減少することが証明された。この観察は、最近提案された、CES1を介した触媒作用機構の仮説とよく一致している。CES1酵素はより大きなセリン加水分解酵素ファミリーに属し、このファミリーには、ヒトアセチルコリンエステラーゼ(AcChE)およびブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)が含まれる。CES1、AcChE、およびBuChEの結晶構造は、それぞれが、セリン、グルタミン酸、およびヒスチジン残基からなる触媒三連構造を含有する類似した活性部位の溝を有することを示している。CES1の場合、対応する活性部位三連構造残基はセリン221(S)、グルタミン酸354(E)、およびヒスチジン468(H;図4に太字で示した)である。CES1(Gly141〜143)の活性部位には3つの連続した一続きのグリシン残基も位置しており(Gly141〜143)、現在、オキシアニオンホールと呼ばれているものを作り出す。オキシアニオンホールは基質-酵素中間体を安定化すると考えられており、従って、CES1機能性に不可欠であると分かるだろう。触媒三連構造およびオキシアニオンホールは、種間で、および関連するセリン加水分解酵素内で進化上保存されている。p.Asp260fsでは、ヌクレオチド780が欠失した結果として、後にフレームシフトおよび早期の切り詰めが起こるために、3つの保存された触媒三連構造残基のうち2つが無くなったタンパク質が生じる(図4)。しかしながら、p.Asp260fsは明らかに稀にしか認められないことから、この変異がp.Gly143Gluほど臨床上懸念されていないことが分かる。(CES1のGly143に類似する)BuChEのグリシンが変異した時には、基質親和性および触媒作用は両方とも著しく低下するか、または無くなる。このことは、Gly143をグルタミン酸に置換する変異(すなわち、p.Gly143Glu)がきわめて重要であり、機能障害性CES1をもたらす可能性が高いことを示唆している。まとめると、これらの知見は、特定されたCES1の両変種が、これらのインビトロ機能研究によって証明されたように、CES1活性を著しく消失させる可能性が高く、いずれも触媒活性を大きく乱すのに十分であるという仮説を裏付けている。代謝異常者は両変異についてヘテロ接合性であり、それぞれの変異は異なる対立遺伝子上に生じた。各変種の見積もられた頻度から、これらの変異体の1つが両対立遺伝子上にあるのは極めて稀にしか起こらないと予想される。それにもかかわらず、この被験体の表現型が思いがけなく特定されたことは、説明した2つの変種の発見および探索にとって重要であった。
【0182】
CES1酵素は、非常に多くのクラスに由来する薬物の加水分解を触媒する。一般的に、MPHの場合と同様にエステル切断によって不活性代謝産物が生成される。しかしながら、CES1は、ヘロインからモノアセチルモルヒネおよびモルヒネへの変換を含む活性代謝産物の生成に関与することも知られている。恐らく、それより重要なのは、CES1が多くのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、キナプリル)および抗インフルエンザ薬オセルタミビルを含むプロドラッグの活性化において役割を果たしていることである。CES1プロモーター領域にあるSNP、A(-816)Cが、プロドラッグであるアンジオテンシン変換酵素阻害剤イミダプリルに対する降圧応答に有利な影響を及ぼしたという少なくとも1つの研究報告がある。このことは、この酵素のプロドラッグ基質を投与した時の、十分かつ機能的なCES1の重要性を強調している。さらに、エステル交換反応の媒介には機能的なCES1が必要とされる。乱用薬物に関して、認められていないCES1欠陥が存在すれば、死前または死後の濃度に基づいて判断された場合に意図的なまたは偶発的な薬物過量と誤解釈される、毒性および/または致死的曝露につながるかもしれない。さらに、これらの加水分解反応は立体選択的に進行することがあり、dl-MPHなどのラセミ化合物の予想される配置をゆがませる(図3)。他の基質の代謝に及ぼす、それぞれ個々の変種の影響をさらに調べる必要があるだろう。最後に、機能障害性のまたは非機能的なCES1が存在すると、CES1が活性治療部分を切断および遊離できないために、バイオアベイラビリティの増強を目的としてエステルとして処方された様々なプロドラッグに対して十分な応答が得られないかもしれない。
【0183】
それぞれの対立遺伝子が薬物応答および有害事象に関連するので、これらの臨床的意義を定義するには、さらなる研究が必要である。MPHの他に、これらのCES1遺伝子変種は多様な治療剤グループの使用ならびに違法物質を乱用する個体と密接な関係がある。公知のCES1基質のよく設計された臨床研究に参加する個体のジェノタイピングは、これらの変種の真の臨床的意義および個別化薬物療法への寄与の評価における最初の段階であろう。
【0184】
本明細書において開示および主張される組成物および方法は全て、本開示を考慮すれば過度の実験なく製造および実施することができる。本発明の組成物および方法は好ましい態様の点から説明されたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の組成物および方法ならびに方法の工程または工程の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかであろう。より具体的には、本明細書に記載の薬剤の代わりに、化学的および生理学的に関連しているある特定の薬剤を使用することができ、同時に、同じ結果または類似する結果が得られることは明らかであろう。当業者に明らかな、このような全ての類似の代用および改変は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内と考えられる。
【0185】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載のものを補足する他の詳細を示す程度まで、参照として本明細書に具体的に組み入れられる。




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体におけるカルボキシエステラーゼ-1機能の低下を診断する方法であって、以下の工程を含む方法:
被験体由来の生物学的試料におけるカルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つの存在または非存在を検出する工程であって、12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つの存在が、被験体のカルボキシエステラーゼ-1機能が低下していることを示す、工程。
【請求項2】
カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delの存在または非存在を検出する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
カルボキシエステラーゼ-1遺伝子のGly143Glu(9486G>A)の存在または非存在を検出する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delおよびGly143Glu(9486G>A)両方の存在または非存在を検出する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
検出する工程がリアルタイムPCR(rtPCR)を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
rtPCRが、5'蛍光色素を含む第1のオリゴヌクレオチドプローブ、および3'クエンチャーを含む第2のオリゴヌクレオチドプローブを利用する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
rtPCRが、5'ヌクレアーゼプローブ、TaqMan(登録商標)プローブ、分子ビーコン、またはFRETプローブを利用する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
rtPCRが、5'ヌクレアーゼプローブまたはTaqMan(登録商標)プローブを利用する、請求項5記載の方法。
【請求項9】
rtPCRが、

を利用する、請求項5記載の方法。
【請求項10】
SEQ ID NO:3がVic標識されており、SEQ ID NO:4がFam標識されている、請求項9記載の方法。
【請求項11】
rtPCRが

を利用する、請求項5記載の方法。
【請求項12】
SEQ ID NO:7がVic標識されており、かつSEQ ID NO:8がFam標識されている、請求項11記載の方法。
【請求項13】
被験体がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
生物学的試料が血液、痰、唾液、粘膜擦過物、または組織生検材料である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
生物学的試料が血液である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
被験体に合う療法を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
決定が、被験体に投与するメチルフェニデートの適量を決定する工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
決定が、オピオイド、メペリジン、ドーパミン作動薬もしくはノルアドレナリン作動薬、メチルフェニデート、ACE阻害剤、キナプリル、エナラプリル、ベンザプリル(benzapril)、イミダプリル、デラプリル、ペモカプリル(pemocapril)、シラザプリル、麻酔薬、リドカイン、ロバスタチン、抗ウイルス薬、オセルタミビル、抗癌薬、またはイリノテカンより選択される薬物の適量を決定する工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
化合物に対する被験体の感受性を決定する方法とさらに定義される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
化合物が、ヘロイン、コカイン、毒素、化学兵器剤、サリン神経ガス、ソマン、タブン、殺虫剤、および有機リン酸系殺虫剤からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
試料からDNAが単離される、請求項1記載の方法。
【請求項22】
試料からRNAが単離される、請求項1記載の方法。
【請求項23】
試料から得られたDNAまたは試料に由来するDNAに核酸プローブがハイブリダイズされる、請求項1記載の方法。
【請求項24】
プローブが検出可能に標識されている、請求項23記載の方法。
【請求項25】
プローブが15〜25ヌクレオチド長である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
プローブが一本鎖である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
プローブが二本鎖である、請求項24記載の方法。
【請求項28】
標識が、放射性同位体、生物発光化合物、化学発光化合物、蛍光化合物、金属キレート、または酵素である、請求項24記載の方法。
【請求項29】
蛍光化合物が、Vic標識、Fam標識、TaqMan(登録商標)標識、フルオレセイン、ローダミン、オーラミン、テキサスレッド、AMCAブルー、またはルシファーイエローである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
検出の前に、被験体のカルボキシエステラーゼ-1遺伝子の少なくとも一部が増幅される、請求項1記載の方法。
【請求項31】
増幅がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるものである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
被験体が12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つについてヘテロ接合性である、請求項1記載の方法。
【請求項33】
被験体が12754T>delまたはGly143Glu(9486G>A)の少なくとも1つについてホモ接合性である、請求項1記載の方法。
【請求項34】
被験体が12754T>delもGly143Glu(9486G>A)も有さない、請求項1記載の方法。
【請求項35】
検出する工程が、被験体のカルボキシエステラーゼ-1遺伝子の少なくとも一部を配列決定する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項36】
カルボキシエステラーゼ-1遺伝子のGly143Glu(9486G>A)の存在または非存在を検出するキットであって、適切な容器手段の中に、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の9486ヌクレオチドに選択的に結合することができる核酸プローブを備える、キット。
【請求項37】

を備える、請求項36記載のキット。
【請求項38】
SEQ ID NO:3がVic標識されており、かつSEQ ID NO:4がFam標識されている、請求項37記載のキット。
【請求項39】
リアルタイムPCR試薬を備える、請求項36記載のキット。
【請求項40】
CYP2D6多型の試験をさらに備える、請求項36記載のキット。
【請求項41】
カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754T>delの存在または非存在を検出するキットであって、適切な容器手段の中に、カルボキシエステラーゼ-1遺伝子の12754ヌクレオチドに選択的に結合することができる核酸プローブを備える、キット。
【請求項42】

を備える、請求項41記載のキット。
【請求項43】
SEQ ID NO:7がVic標識されており、かつSEQ ID NO:8がFam標識されている、請求項42記載のキット。
【請求項44】
リアルタイムPCR試薬を備える、請求項41記載のキット。
【請求項45】
CYP2D6多型の試験をさらに備える、請求項41記載のキット
【請求項46】
正常細胞におけるカルボキシエステラーゼ-1(CES1)の発現と比較して野生型CES1を過剰発現している、単離された細胞。
【請求項47】
変異体カルボキシエステラーゼ-1(CES1)をコードする異種発現構築物を含有する単離された細胞であって、変異体カルボキシエステラーゼ-1(CES1)をコードする異種発現構築物が、該細胞において機能するプロモーターの制御下にある、単離された細胞。
【請求項48】
変異体CES1がGly143→Glu置換またはゲノムヌクレオチド12754におけるT欠失を含む、請求項47記載の単離された細胞。
【請求項49】
プロモーターが天然CES1プロモーターである、請求項47記載の単離された細胞。
【請求項50】
胎児腎臓細胞である、請求項46または47記載の単離された細胞。
【請求項51】
候補物質に対するカルボキシエステラーゼ-1(CES1)活性の効果を評価する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)変異体CES1を発現するか、正常細胞と比較して野生型CES1を過剰発現する細胞を準備する工程;
(b)該細胞と該候補物質を接触させる工程;および
(c)該候補物質に対するCES1の効果を評価する工程。
【請求項52】
評価する工程が、CES1による候補物質の改変を測定する工程を含む、請求項51記載の方法。
【請求項53】
改変を測定する工程が、クロマトグラフィー、質量分析を含む、請求項52記載の方法。
【請求項54】
評価する工程が、前記細胞内のおよび/または前記細胞が培養されている培地中の候補物質のレベルを測定する工程を含む、請求項51記載の方法。
【請求項55】
レベルを測定する工程が、クロマトグラフィー、質量分析を含む、請求項54記載の方法。
【請求項56】
改変がプロドラッグ候補物質から活性部分への変換を含む、請求項52記載の方法。
【請求項57】
改変が候補物質の異性化を含む、請求項52記載の方法。
【請求項58】
変異体CES1がGly143→Glu置換またはゲノムヌクレオチド12754におけるT欠失を含む、請求項51記載の方法。
【請求項59】
カルボキシエステラーゼ-1(CES1)活性に対する候補物質の効果を評価する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)変異体CES1を発現するか、正常細胞と比較して野生型CES1を過剰発現する細胞を準備する工程;
(b)該細胞と該候補物質を接触させる工程;および
(c)CES1の発現または活性に対する該候補物質の効果を評価する工程。
【請求項60】
評価する工程が、CES1による候補物質の改変を測定する工程を含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記細胞と、CES1の公知の基質とを接触させる工程をさらに含む方法であって、評価する工程が、該公知の基質の改変を測定する工程を含む、請求項60記載の方法。
【請求項62】
変異体CES1がGly143→Glu置換またはゲノムヌクレオチド12754におけるT欠失を含む、請求項59記載の方法。
【請求項63】
カルボキシエステラーゼ-1(CES1)欠陥を有する細胞に対する候補物質の効果を評価する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)変異体CES1を発現する細胞を準備する工程;
(b)該細胞と該候補物質を接触させる工程;および
(c)該細胞に対する該候補物質の効果を評価する工程。
【請求項64】
評価する工程が、CES1の活性または発現を測定する工程を含む、請求項63記載の方法。
【請求項65】
評価する工程が、CES1基質の改変を含む、請求項64記載の方法。
【請求項66】
改変がプロドラッグ基質から活性部分への変換を含む、請求項65記載の方法。
【請求項67】
改変が基質の異性化を含む、請求項65記載の方法。
【請求項68】
評価する工程が、前記細胞内のおよび/または前記細胞が培養されている培地中の候補物質のレベルを測定する工程を含む、請求項63記載の方法。
【請求項69】
変異体CES1がGly143→Glu置換または12754におけるT欠失を含む、請求項63記載の方法。
【請求項70】
カルボキシエステラーゼ-1(CES1)活性に対するCES1変異の効果を評価する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)変異体CES1を発現する細胞を準備する工程;
(b)該細胞とCES1基質を接触させる工程;および
(c)該CES1による該基質の改変を評価する工程。

【公表番号】特表2010−528666(P2010−528666A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511402(P2010−511402)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/066280
【国際公開番号】WO2009/029321
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(506217324)エムユーエスシー ファウンデーション フォー リサーチ ディベロップメント (3)
【Fターム(参考)】