説明

カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩

【課題】高い接着性を発現し、金属イオンフリーで安全性が高い、水溶性のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩及びその水溶液、並びに該カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を用いてなる電池用電極及びリチウムイオン二次電池。
【解決手段】重合度が100以上3000以下で、カウンターカチオンが特定構造の第四級アンモニウム塩であり、カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、カルボキシルエチル基の置換度が0.2以上2.5以下であり、カルボキシルエチル基のアンモニウム化度が10%以上であり、かつカルボキシルエチル基の金属イオン化度が5%以下である、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔に対して高い接着性を発現できる金属イオンフリーのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型軽量化、多機能化、及びコードレス化の要求に伴い、充電により繰り返し使用が可能な二次電池、例えば、水素吸蔵合金を用いて得られるアルカリ系二次電池、及びリチウム化合物を用いたリチウムイオン二次電池が広く使用されている。この中でも、ポータブルコンピュータ、携帯電話、ビデオ付カメラ等に使用されるリチウムイオン二次電池には、高容量化、及び安全性が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、及び電解液から構成されている。正極及び負極は、それぞれ集電体及び電極フィルムからなり、電極フィルムは、電極活物質、導電剤、及びバインダーで構成されている。負極の構成物質であるバインダーが優れた接着性を有し、バインダー自体の投入量を低減することができれば、活物質の含量が高い電極が作製可能となり、リチウムイオン二次電池の高容量化に繋がる。従って、リチウムイオン二次電池の高容量化を目指すためには、バインダーの接着性が重要となってくる。例えば、高容量化を目指すためには、接着性の試験(クロスカット法、JIS−K5600−5−6に準拠)で0等級又は1等級の接着性が求められる。また電池用電極に使用されるバインダーが金属イオンを含んでいると、金属イオンが放電時に正極に移動して正極上に被膜を形成し、充電時の抵抗となり、電池内部温度の上昇を促進するため、安全性の課題が生じる。一方、リチウムイオン二次電池用電極に使用されているバインダーには、有機溶剤系と水系とがあり、近年は、VOC削減の観点から、有機溶剤系に使用されるバインダーよりも、水系に使用できる金属イオンフリーかつ接着性が強い水溶性バインダーが期待されてきている。
【0004】
特許文献1では、リチウムイオンを含んだカルボキシルメチルセルロースリチウムをバインダーとして用いている。特許文献2では、金属イオンフリーのカルボキシルメチルセルロースアンモニウム塩をバインダーとして用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池が開示されている。特許文献3では、水を分散媒として、スチレン、ブチルアクリレート及びアリールメタクリレートの共重合物とカルボキシルメチルセルロースとの混合物をバインダーとして用いてリチウムイオン二次電池用電極を作製している。
【0005】
一方、本発明者らは、新規構造の水溶性のカルボキシルエチルセルロースを報告している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−82472号公報
【特許文献2】特開2002−313323号公報
【特許文献3】特表2008−537841号公報
【特許文献4】特開2010−13549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1が提案するバインダーに関し、本発明者らの検討によれば、電池用電極スラリーにカルボキシルメチルセルロースリチウムを用いて、接着性の試験を行ったところ、3等級程度でしかなく容易に金属箔から剥離してしまった。また、簡易円筒型リチウムイオン二次電池を作製し、電圧をかけて内部温度を測定したところ、電池内部温度が200℃まで上昇した。これは、分子内にリチウムイオンを含んでいるため、リチウムイオンが正極に移動して被膜を形成したため、電気抵抗となり、電池内部温度の上昇が起こったためと考えられる。これより金属イオンを含んだバインダーを負極に使用するのは望ましくない。
【0008】
また、特許文献2が提案するバインダーに関し、接着性の試験を上記同様に行ったところ、3等級程度で高い接着性とは言えない。また、特許文献3が提案するバインダーに関して上記同様に接着性の試験を行ったところ2等級という結果であった。バインダーの上記問題を解決するためには、接着性が高い金属イオンフリーの新規水溶性高分子が必要となる。
【0009】
特許文献4で提案したように、本発明者らは、カルボキシルエチルセルロースは、従来のバインダーと同等以上の接着性を有していることを見出した。しかしながら、特許文献4で提案したカルボキシルエチルセルロースは、接着性においてまだ改善の余地があり、かつ分子内にナトリウムイオンを含んでいるため、電池用電極のバインダーとして使用するにはなお改善を必要とする。
【0010】
本発明の課題は、電池用電極のバインダーとして有効に利用できる、高い接着性を発現し、金属イオンフリーで安全性の高い水溶性のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、驚くべきことに、カルボキシルエチルセルロースのカウンターカチオンを第四級アンモニウム塩にすることで、高い接着性が発現されることを見出し、更に鋭意検討し、実験を重ねた結果、本発明を完成するに到った。本発明は以下の通りである。
【0012】
[1] 重合度が100以上3000以下のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩であって、
カウンターカチオンが下記化学式1:
【化1】

(式中、R1〜R4はそれぞれ独立に、水素、C1〜C30の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、アリール基、アラルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、フェノキシアルキル基、又はモノ若しくはジアルキルフェノキシアルキレンオキシアルキレン基であり、R1〜R4の何れか2つ又は3つが窒素原子を介して5員環又は6員環を形成してもよい。)
で表される構造の第四級アンモニウム塩であり、
カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、
カルボキシルエチル基の置換度が0.2以上2.5以下であり、
カルボキシルエチル基のアンモニウム化度が10%以上であり、かつ
カルボキシルエチル基の金属イオン化度が5%以下である、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩。
[2] 上記[1]に記載のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上60質量%以以下含有する、水溶液。
[3] 上記[1]に記載のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上80質量%以下含有する、電池用電極。
[4] 上記[1]に記載のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上80質量%以下含有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、水溶性であるとともに、例えば電池用電極のバインダーとして使用する場合に要求される、金属箔との優れた接着性を発現できる。また本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は不純物が少ないので安定性及び安全性に優れる。また本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、原料の利用率が高く工程及び精製が簡便である製造方法によって製造できるため、生産コストが安いという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、JIS−K5600−5−6に準拠した接着性試験方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩>
本発明の一態様は、重合度が100以上3000以下のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩であって、カウンターカチオンが下記化学式1:
【化2】

(式中、R1〜R4はそれぞれ独立に、水素、C1〜C30の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、アリール基、アラルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、フェノキシアルキル基、又はモノ若しくはジアルキルフェノキシアルキレンオキシアルキレン基であり、R1〜R4の何れか2つ又は3つが窒素原子を介して5員環又は6員環を形成してもよい。)
で表される構造の第四級アンモニウム塩であり、
カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、
カルボキシルエチル基の置換度が0.2以上2.5以下であり、
カルボキシルエチル基のアンモニウム化度が10%以上であり、かつ
カルボキシルエチル基の金属イオン化度が5%以下である、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を提供する。本発明に係る上記の特定のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、水溶性で、不純物が少なく、かつバインダーとしての良好な接着性を発現するという利点を有する。なおここで水溶性であるとは、25℃の水100gにカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩が例えば0.3g以上溶解できることを意味する。
【0016】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の重合度は、バインダーとして有効な接着性を発現し、かつ塗工しやすい水溶液粘度に調整するために、100以上3000以下である必要がある。該重合度は、好ましくは200以上2900以下、より好ましくは300以上2800以下である。重合度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によって測定したカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の重量平均分子量を、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の構成単位としての置換グルコース単位の分子量で除して得られる値である。置換グルコース単位の分子量は、後述の13C−NMR(核磁気共鳴)分析によって測定されるカルバモイル基及びカルボキシルエチル基のそれぞれの置換度と、グルコースの分子量とから算出される。
【0017】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、上記化学式1で表される構造の第四級アンモニウム塩をカウンターカチオンとして有する。化学式1中のR1〜R4は、それぞれ独立に、水素、C1〜C30の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、アリール基、アラルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、フェノキシアルキル基、又はモノ若しくはジアルキルフェノキシアルキレンオキシアルキレン基である。また、R1〜R4の何れか2つ又は3つが窒素原子を介して5員環又は6員環を形成してもよい。
【0018】
アンモニウム塩としては、具体的には、テトラヒドロアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、テトラヘキシルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩;テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩等のアルキルベンジルアンモニウム塩;セチルピリジニウム塩;アルキルイミダゾリニウム塩;及びアルキルピリジニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、テトラヒドロアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、及びテトラプロピルアンモニウム塩である。
【0019】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩においては、カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下である必要がある。ここでカルバモイルエチル基とは、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の製造途中に発生する中間体のことである。カルバモイルエチル基の置換度が0.04を超えると、理由は明らかではないが、バインダーとして使用した時に接着性が低下する。好ましくは、カルバモイルエチル基の置換度が0.03以下であり、更に好ましくはカルバモイルエチル基の置換度が0.01以下である。
【0020】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩においては、カルボキシルエチル基の置換度が0.2以上2.5以下である必要がある。カルボキシルエチル基の置換度が0.2未満であると、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は水溶性を示さず、バインダーとして使用しても十分な接着性が得られない。一方、カルボキシルエチル基の置換度が2.5を超えるものは、製造上困難である。水溶性及び接着性の観点から、カルボキシルエチル基は0.4以上2.0以下が好ましく、最も好ましくは0.5以上1.8以下である。
【0021】
カルバモイルエチル基及びカルボキシルエチル基の置換度は、それぞれ13C−NMRにより評価できる。具体的には、セルロースのC1のピーク(106.32−104.2ppm)面積cを基準とし、カルバモイルエチル基のα炭素のピーク(38.55−38.27ppm)面積a及びカルボキシルエチル基のα炭素のピーク(40.96−39.72ppm)面積bから、下式によってそれぞれの置換度を算出する。
カルバモイルエチル基の置換度=a/c
カルボキシルエチル基の置換度=b/c
【0022】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩においては、バインダーとして使用するためのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩水溶液を提供するために、カルボキシルエチル基のアンモニウム化度が10%以上であることが必要である。ここでアンモニウム化度とは、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩中の窒素元素含有率dを、理論窒素元素含有率e(導入されたカルボキシルエチル基が100%アンモニウムイオン化したと仮定したときの窒素元素含有率であり、グルコース単位の分子式から算出する)で除したパーセンテージ値をいう。アンモニウム化度が10%を下回ると、水に対する溶解性が低くなり、接着性が低下する。好ましくは、アンモニウム化度が20%以上で、より好ましくは30%以上である。また、アンモニウム化度は90%以下であることが好ましい。90%を超えると、90%以下の場合と比べて、性能が大きくは改善されない一方でコストが上昇するからである。アンモニウム化度は、より好ましくは80%以下、特に好ましくは70%以下である。アンモニウム化度は、窒素定量装置(例えばCHNコーダー)を用いて発光分析法により測定される窒素元素含有率から上記のようにして算出される値である。
【0023】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩においては、安全性の高いバインダーを提供するために、カルボキシルエチル基の金属イオン化度が5%以下であることが必要である。ここで金属イオン化度とは、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩中の金属元素含有率fを、理論金属元素含有率g(導入されたカルボキシルエチル基が100%金属イオン化したと仮定したときの金属元素含有率であり、グルコース単位の分子式から算出する)で除したパーセンテージ値をいう。金属イオン化度が5%を超えると、例えば電極内で、不純物である金属イオンが放電時に正極に移動して被膜を形成し、電池内部温度の上昇を引き起こしてしまう。金属イオン化度は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。金属イオン化度は、ICP(誘導結合プラズマ)装置を用いた発光分析により測定される金属元素含有率から上記のようにして算出される値である。
【0024】
カルボキシエチル基のアンモニウム化度及び金属イオン化度は、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の製造において、後述のカチオン交換が高効率で行われる条件に製造工程を設定すること等により、本発明の所望の範囲に制御できる。酸型化工程とカチオン交換工程とを組合せることは上記観点から好ましい。
【0025】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、水溶液、電池用電極、リチウムイオン二次電池等の製造に用いる際に、本発明の目的である接着性と安全性とを阻害しない限度において不純物を含有する状態であってもよい。不純物としては、アクリル酸、2−シアノエタノール、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−シアノエチルエーテル、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。不純物の含有量は少ないほど好ましい。例えば、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩中の上記不純物の総含有量は、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは200ppm以下である。
【0026】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、下記の方法で測定される接着性において1等級以下を与えることが好ましい。この場合、接着性が要求される電池用電極のバインダーとして好適である。より具体的には、本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を含有する試料(より典型的には電池用電極)の該接着性が1等級以下であることが好ましい。接着性の等級は、JIS−K5600−5−6に準拠し、クロスカット法を用いて評価する。例えば電池用電極の場合の測定方法の例を以下に説明する。剥離試験のための電池用電極としては、電池用電極スラリー(バインダーの濃度0.6wt%、純水49wt%、グラファイト(KS−6)4.8%、グラファイト(大阪ガス社製MCMB)44wt%、ラテックス溶液(旭化成ケミカル社製L−1571 48%)1.7%)を銅箔に塗工したものを使用する。得られた電池用電極の塗膜に、直角の格子パターン(25マス)で、素地(すなわち銅箔)まで貫通するように切り込みを入れたときの、素地からの剥離に対する塗膜の耐性を評価する。剥離後の状態を図1(JIS−K5600−5−6準拠)に示す等級基準と比較して、0〜5等級で判断する(0等級::剥離率(どれだけ剥離したかの値)0%、1等級::剥離率5%未満、2等級::剥離率5%以上15%未満、3等級::剥離率15%以上35%未満、4等級:剥離率35%以上60%未満、5等級:4等級より悪い)。この等級を、試料の接着性とする。接着性が2等級以上であると、電極の金属箔から電極活物質が容易に剥離してしまう場合がある。接着性は、より好ましくは0等級である。
【0027】
<カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の製造>
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の製造方法は、特に限定はされないが、下記(a)〜(g):
(a)アルセル化工程
(b)圧搾工程
(c)シアノエチル化工程
(d)加水分解工程
(e)酸型化工程
(f)カチオン交換工程
(g)洗浄工程
の工程を含む方法が挙げられる。特に(e)及び(f)の工程においてはアンモニウム化度と金属イオン化度とをコントロールすることが重要である。(a)〜(d)の工程は、例えば前述の特許文献4(特開2010−13549号公報)に準拠して実施できるため、ここでは詳細な説明を省略する。上記工程を含む方法は、1ステップで生産できるため工程及び精製が簡便であり、原料の利用率が高く、有利である。
【0028】
(a)アルセル化工程
本工程では、原料セルロースをアルカリ水溶液に浸漬し、アルセル化を行い、アルカリセルロースを生成させる。原料セルロースとしては、綿、木材等の天然セルロース、コットンリンター、再生セルロース及び結晶セルロース等を好ましく使用できる。
(b)圧搾工程
本工程では、上記工程(a)で得られたアルカリセルロース中のアルカリ水溶液量をセルロース質量に対して特定範囲内にコントロールする。
(c)シアノエチル化工程
本工程では、上記工程(b)の後のアルカリセルロースにアクリロニトリルを添加して反応させ、シアノエチルセルロースを生成させる。
(d)加水分解工程
本工程では、上記工程(c)で得られたシアノエチルセルロースに例えば水及び/又はアルカリ水溶液を添加することによって、反応系内のアルカリ濃度を例えば0.1〜18wt%に調整してシアノエチルセルロースを加水分解してカルボキシルエチルセルロースに変換する。
【0029】
以下、(e)〜(g)の工程を詳しく説明する。
【0030】
(e)酸型化工程
本工程では、上記工程(d)で合成したカルボキシルエチルセルロースを、好ましくは10℃以上70℃以下で、酸を用いてpH1以上5以下の範囲で酸型にする。この酸型化により、一旦完全な酸型のカルボキシルエチルセルロースが得られるため、後続のカチオン交換工程で、目的とする金属イオン化度のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を精度よく得ることができる。本明細書において、酸型のカルボキシルエチルセルロースとは、カルボキシルエチル基の金属イオン化度が5%以下で、カルボキシル基の大部分がカルボン酸になっていることを示すカルボキシルエチルセルロースを意味する。
【0031】
通常、例えばカルボキシルメチルセルロース(CMC)のカルボキシルメチルセルロースアンモニウム塩への変換においては、この様な工程はないことが公知である(特許文献2)。しかし、カルボキシルエチルセルロースは、炭素鎖がCMCよりも長いため、アルセル化で使用したアルカリの少量の金属イオンを保持してしまい、少量の金属イオンを中心とした安定構造をとってしまう。そのため、一旦酸型のカルボキシルエチルセルロースにすることが、金属イオン化度のコントロールの点で望ましい。
【0032】
酸型化工程において、反応系内の温度が10℃未満であると、酸型への変換が十分に進行しないために完全な酸型のカルボキシルエチルセルロースが生成しない場合がある。一方、反応系内の温度が70℃を超えると、解重合反応が進行してしまうために重合度低下が著しくなる場合がある。pH1未満で中和(酸型化)を行うと、解重合反応が進行するとともに、ポリマー自体が黄変したり、反応温度によってはゲル化して水溶性ではなくなってしまう場合がある。一方pH5を超えると、十分に中和反応が進行しないために完全な酸型のカルボキシルエチルセルロースが生成しない場合がある。反応時間は、0.5時間未満であると、酸型への変換が十分に進行しない場合があり、5時間以上であると、重合度低下が起こる場合がある。酸型化工程においては、反応系の温度15℃以上50℃以下、pH2以上4.5以下、反応時間1時間以上4時間以下で中和することがより好ましく、特に好ましくは温度20℃以上30℃以下、pH3以上4以下、反応時間2時間以上3間以下である。酸としては、塩酸、硫酸、酢酸等を使用し得るが、経済的な理由から塩酸が好ましい。
【0033】
(f)カチオン交換工程
本工程では、上記工程(e)で得られた酸型のカルボキシルエチルセルロースを、好ましくは、反応系の温度5℃以上20℃以下で、アンモニウム塩濃度が1wt%以上50wt%以下のアンモニウム塩水溶液を用いてカチオン交換し、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を得る。目的とするカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を確実に得るという観点から、反応系の温度5℃以上20℃以下で、アンモニウム塩濃度が1wt%以上50wt%以下のアンモニウム塩水溶液を用いてカチオン交換することが望ましい。
【0034】
反応系の温度が5℃未満であると、十分にカチオン交換反応が進行しないために目的とするアンモニウム化度に達しない場合がある。反応系の温度が20℃を超えると、平衡反応であるカチオン交換反応の平衡状態が出発原料側に偏ってしまい、カチオン交換反応が進行しない場合がある。アンモニウム塩水溶液のアンモニウム塩濃度が1%未満であると、不純物としてのアクリル酸、3−ヒドロキシプロピオン酸等がカチオン交換してしまい、カルボキシルエチルセルロースのカチオン交換反応が進行しない場合がある。また50wt%を超えるアンモニウム塩濃度でアンモニウム塩水溶液を調製するのは非常に困難である場合がある。反応時間は、0.2時間未満であると、カチオン交換反応が十分に進行しない場合があり、3時間以上反応させても3時間未満の場合と比べて反応の進行度は大幅には変わらない。カチオン交換工程においては、反応系の温度7℃以上18℃以下、濃度が5wt%以上40wt%以下のアンモニウム塩水溶液を用いて0.3時間以上2時間以下、カチオン交換反応を行うことがより好ましく、特に好ましくは、反応系の温度10℃以上15℃以下で、10wt%以上30wt%以下のアンモニウム塩水溶液を用いて0.5時間以上1時間以下、反応を行う。
【0035】
カチオン交換工程において使用するアンモニウム塩は、前述の化学式1で表される第四級アンモニウム塩である。アンモニウム塩としては、具体的にはテトラヒドロアンモニウム塩、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラペンチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム塩等の塩化テトラアルキルアンモニウム;塩化テトラフェニルアンモニウム、塩化テトラベンジルアンモニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化トリエチルベンジルアンモニウム等のアルキルベンジルアンモニウム;塩化セチルピリジニウム;塩化アルキルイミダゾリニウム;塩化アルキルピリジニウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、塩化テトラヒドロアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、及び塩化テトラプロピルアンモニウムである。またアンモニウムイオンのカウンターアニオンは臭素イオン及び/又はヨウ素イオンであっても良い。
【0036】
カチオン交換後には、洗浄操作を行う前に沈殿剤で反応物を沈殿させ、固形分を回収することが好ましい。沈殿剤としてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、酢酸エチル、エーテル等を使用し得るが、経済的な理由からメタノール、エタノール、及びアセトンが好ましい。
【0037】
(g)洗浄工程
本工程では、上記工程(f)で得られた固形分を、好ましくは含水率5wt%以上50wt%以下のメタノール水溶液で洗浄して、目的のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を得る。不純物を効果的に除去するという観点から、上記工程(f)で沈殿させた後の固形分を、含水率5wt%以上50wt%以下のメタノール水溶液で洗浄することが好ましい。メタノール水溶液の含水率が5%未満であると、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩ポリマーの表面が固化してしまい、アクリル酸、2−シアノエタノール、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−シアノエチルエーテル等が不純物としてポリマー内部に取り込まれてしまい、不純物を除去することが不可能になる場合がある。メタノール水溶液の含水率が50wt%を超えると、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩が含水メタノールに溶け込んでしまい、収率が低下する場合がある。洗浄工程においては、含水率10wt%以上40wt%以下の含水メタノールで洗浄することがより好ましく、更に好ましくは含水率15wt%以上30wt%以下の含水メタノールで洗浄する。また洗浄回数としては、不純物を効果的に除去するという観点から5回以上が好ましく、特に、含水率15wt%以上30wt%以下の精製含水メタノールで5回以上洗浄することが好ましい。
【0038】
洗浄後に回収される固形分は有機溶媒及び水等を含んでいるために、30℃以上90℃以下で1時間以上60時間以下で真空下加熱乾燥することが望ましい。30℃未満であると、有機溶媒及び水を完全に除去できず高純度のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩が得られない場合がある。一方、90℃を超えると、乾燥中に黄色及び褐色に変色する場合がある。乾燥時間は、1時間より少ないと有機溶媒及び水を完全に除去できない場合がある。一方、60時間を超えても、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩中の有機溶媒及び水の残留量に大幅な変化はなくエネルギーがかかるだけで不経済である傾向がある。そのため、乾燥条件は、より好ましくは、温度40℃以上80℃以下、反応時間2時間以上50時間以下であり、更に好ましくは、50℃以上70℃以下で、反応時間10時間以上36時間以下である。
以上のようにして、目的のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を得ることができる。
【0039】
<カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の用途>
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、電池用電極のバインダーの用途に特に有効に利用することができるが、この用途に限定されることはなく、フィルム用原料、養魚用飼料、食品、壁材組成物、掘削安定液用調整剤、化粧品、医薬品、洗浄剤、塗料、高分子架橋体、高吸水性樹脂等の分野に使用することができる。以下、本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の好ましい用途について説明する。
【0040】
[水溶液]
本発明の別の態様は、上述した本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上60質量%以以下含有する、水溶液を提供する。該水溶液は、例えば化粧品、塗料、食品、医薬品、掘削安定液用調整剤、洗浄剤等の用途に好適である。水溶液中のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、経済性の観点から60質量%以下であることが好ましい。該含有量は、より好ましくは0.5質量%以上50質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以上30質量%以下である。
【0041】
[電池用電極]
本発明の別の態様は、上述した本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上80質量%以下含有する、電池用電極を提供する。電池用電極は電極活物質層と金属箔とを有する。また電極活物質層は電極活物質とバインダーとを有する。本発明の電池用電極において、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、電極活物質層におけるバインダーとして用いることができる。電池用電極中のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の含有量が0.1質量%未満であると、課題であった接着性が発現しない場合がある。また80質量%を超えると、活物質の含量が少なくなるために、この電極を用いた電池、例えばリチウム二次電池の容量が小さくなる傾向がある。該含有量は、より好ましくは0.5質量%以上50質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以上30質量%以下である。本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を電池用電極のバインダーとして適用することにより、従来の水溶性ポリマーからでは得ることのできなかった、安全性が高く、電極活物質層と金属箔表面との間の接着性が高い電池用電極が得られる。
【0042】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩をバインダーとして用いた電池用電極の製造方法には特に制限はないが、例えば、後述のようなバインダー組成物に活物質及び分散剤を混合した電池電極用スラリーを金属箔上に塗布し、分散媒を乾燥等の方法で除去して、金属箔に活物質を決着させると共に、活物質同士を決着させることで作製できる。
【0043】
バインダー組成物の組成としては、本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩単独、またはこれと他のバインダーとの併用が挙げられる。またバインダー組成物は、バインダー以外の成分を含有してもよい、併用可能なバインダーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン等のフッ素系樹脂、フッ化ビニリデンとヘキサフロロプロピレンとテトラフロロエチレンとの共重合体のフッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、等のラテックス等が挙げられる。他のバインダーを併用する場合は、バインダー総量中のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の割合を20wt%以上とすることが好ましい。
【0044】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を含むバインダー組成物は、典型的には溶媒と組合せて使用する。溶媒としては、水を単独で使用することもできるが、水と有機溶媒とを混合してなる混合溶媒を用いることも可能である。具体的な有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、アセトン等が挙げられる。
【0045】
本発明で用いる電池電極用スラリーは、典型的には、上述したバインダー組成物及び電極活物質で構成できる。
【0046】
上記スラリーに含まれる電極活物質は、電池の容量を決める重要な物質である。正極活物質としては、MoS2、TiS2、MnO2、TiS2、MnO2、V25等の遷移金属酸化物又は遷移金属硫化物、LiPF6、LiCoO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiO2、LiNixCo(1-x)2等のリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリアセン、ジメルカプトチアジアゾール/ポリアニリン複合体等の導電性高分子材料等が挙げられる。これらの中でも、特にリチウムと遷移金属とからなる複合酸化物が好ましい。負極がリチウム金属又はリチウム合金である場合は、正極として炭素材料を用いることもできる。また、正極として、リチウム及び遷移金属の複合酸化物と炭素材料との混合物を用いることができる。
【0047】
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、MPCF、MCMB、PIC、フェノール樹脂焼成体、PAN系炭素繊維、石油コークス、活性化カーボン、グラファイト等の炭素質物質、リチウム金属、リチウム合金等のリチウム系金属等がある。
【0048】
本発明の電池用電極に用いられる金属箔は、通常の導電性材料からなるものであれば、特に制限されないが、正極金属箔としては、アルミニウム、ニッケル、又はこれらの混合物からなる金属箔等が挙げられ、負極金属箔としては、銅、金、ニッケル、銅合金、又はこれらの混合物からなる金属箔等が挙げられる。
【0049】
[リチウムイオン二次電池]
本発明の別の態様は、上述した本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上80質量%以下含有する、リチウムイオン二次電池を提供する。本発明のリチウムイオン二次電池は、典型的には正極、負極および電解質、更にセパレータを有する。正極および負極はそれぞれ電極活物質層と金属箔とを有する。本発明のリチウムイオン二次電池において、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、正極および/または負極における電極活物質層のバインダーとして用いることができる。リチウムイオン二次電池中のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の含有量が0.1質量%未満であると、課題であった接着性が発現しない場合がある。また80質量%を超えると、活物質の含量が少なくなるためにリチウム二次電池の容量が小さくなる傾向がある。該含有量は、より好ましくは0.5質量%以上50質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以上30質量%以下である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、いうまでもなく本発明は実施例等により何ら限定されるものでない。なお、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
【0051】
(1)カルボキシルエチル基及びカルバモイルエチル基の置換度の測定方法
置換度測定用のサンプルを重水に溶解させ、3〜5wt%重水溶液を調製し、BRUKER社製のFT−NMR(Avance 400MHz)を用いて、13C−NMRにより測定を行った。置換度はセルロースのC1のピーク(106.32−104.2ppm)面積cを基準とし、カルバモイルエチル基のα炭素のピーク(38.55−38.27ppm)面積a及びカルボキシルエチル基のα炭素のピーク(40.96−39.72ppm)面積bから、下式のようにそれぞれの置換度を算出した。
カルバモイルエチル基の置換度=a/c
カルボキシルエチル基の置換度=b/c
総置換度=a/c(カルバモイルエチル基の置換度)+b/c(カルボキシルエチル基の置換度)
なお上記の分析でカルバモイルエチル基が検出されなかった試料については、JASCO社製のFT−IR−6200を用いて赤外吸収スペクトル測定を行い、カルバモイルエチル基に基づく吸収3300−3200cm-1のピークを検出されないことを確認した。
【0052】
(2)カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の重合度の測定方法
カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩0.005〜0.010gを10mlの水に溶解させ、島津製作所社製のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)装置(SIL−20A)を用いて分子量を測定した。測定条件は以下の通りである。
カラム OHpak SB−806MHQ
検出方式 RI
カラム温度 40℃
流量 1.0ml/分
注入量 0.3ml
このように測定された分子量分布に基づいて重量平均分子量hを算出し、上記(1)で求めた置換度から、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の構成単位としての置換グルコース単位の分子量iを算出し、更に以下の式に基づいて重合度を算出した。
重合度=h/i
【0053】
(3)カルボキシルエチル基のアンモニウム化度の測定方法
窒素元素含有率aをヤナコ分析工業社製の窒素定量装置CHNコーダーを用いて下記測定条件で発光分析法により測定する。
測定方式:自己積分方式
キャリアーガス:ヘリウム
助燃ガス:高純度酸素
助燃方式:ヘリウム、酸素混合方式
カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩中の窒素元素含有率dと、カルボキシルエチル基が100%アンモニウム化されたと仮定したときの窒素元素含有率である理論窒素元素含有率e(カルボキシルエチル基が100%アンモニウム化したと仮定したときのアンモニウムイオンの元素含有率であり、分子式から算出する)とから、下記式によりアンモニウム化度を算出した。
アンモニウム化度(%)=(d/e)×100
【0054】
(4)金属イオン化度の測定方法
金属元素含有率jを、セイコーインスツル社製のICP(誘導結合プラズマ)装置を用いて下記測定条件で発光分析法により測定した。
波長(Na) 588.995nm
高周波出力 0.8kW
カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩中の金属元素含有率fと、カルボキシルエチル基が100%金属イオン化されたと仮定したときの金属元素含有率g(カルボキシルエチル基が100%金属イオン化したと仮定したときの金属イオンの元素含有率であり、分子式から算出する)とから、下記式により金属イオン化度を算出した。
金属イオン化度(%)=(f/g)×100
【0055】
(5)接着性の試験(剥離試験法)
接着性の等級は、JIS−K5600−5−6に準拠し、クロスカット法を用いて評価した。電池用電極の塗膜に、直角の格子パターン(25マス)で、素地まで貫通するように切り込みを入れたときの、素地からの剥離に対する塗膜の耐性を評価する。測定方法の詳細は以下の通りである。
(i)2mm間隔で、電池用電極に対して垂直になるように直線状の6本の切り込みを入れ、90°方向を変えて、上記切り込みに直交する直線状の6本の切込みを入れた。これにより、塗膜に2mm×2mmの25マスの格子を形成した。
(ii)約75mmの長さにテープを取り出した。
(iii)テープを、塗膜の格子にカットした部分に貼り、塗膜が透けて見えるようにしっかり指でテープをこすった。
(iv)テープを付着させてから5分後、60°に近い角度で、0.5〜1.0秒でテープを確実に引き離した。
素地からの剥離に対する塗膜の耐性を評価した。剥離後の状態を、図1(JIS JIS−K5600−5−6準拠)に示す等級基準と比較して、0〜5等級で判断した(0等級::剥離率0%、1等級::剥離率5%未満、2等級::剥離率5%以上15%未満、3等級::剥離率15%以上35%未満、4等級:剥離率35%以上60%未満、5等級:4等級より悪い)。この等級を、試料の接着性とした。
【0056】
[実施例1]
<カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩の製造>
重合度1100のコットンリンターを、ホソカワミクロン社製の粉砕機(機種:ACMパルペライザ)を用いて約1〜5mm角に粉砕して、70℃で12時間真空乾燥し、10g採取し、15wt%濃度の水酸化ナトリウム水溶液100gに30℃で30分間浸漬した((a)アルセル化工程)。セルロース質量に対してアルカリ水溶液質量が5倍量になるまで圧搾し((b)圧搾工程)、アクリロニトリルをセルロースのグルコース残基当り1.0モル加え、プライミクス社製の二軸型混練機(クリアランス:4mm)を用いて自転50rpm、公転35rpm、0℃で24時間攪拌した((c)シアノエチル化工程)。その後、25gの純水を加えて反応系内のアルカリ濃度を10wt%に調整し16時間混練した((d)加水分解工程)後、20℃中で6N塩酸でpH3に調整し2時間反応させて((e)酸型化工程)、次いで20wt%水酸化ナトリウム水溶液を200g添加し、更に10℃で1時間混練した。20wt%塩化テトラヒドロアンモニウム塩水溶液を200g添加し、更に10℃で1時間混練した((f)カチオン交換工程)。この反応物にアセトンを添加して凝固させて沈殿させ、固形分を回収した。この固形分を、含水率20wt%メタノール水溶液で洗浄し、回収した((g)洗浄工程)。ここで得られた固形分を真空乾燥機内で70℃にて36時間乾燥させて、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を得た。カルボキシルエチル基の置換度は0.93であり、カルバモイルエチル基は検出されなかった。なお、赤外吸収スペクトルより、シアノエチル基は検出されなかった。またこのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は、25℃で水100g中に少なくとも5g溶解し、水溶性を示した。尚、このカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩のアンモニウム化度は68%で、金属イオン化度は0.1%であった。
【0057】
<負極スラリーの製造>
このカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を1.44g採取し、100gの純水に溶解させて、その後、ナイロンメッシュ(280メッシュ)を用いて、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩水溶液をろ過して、遠心脱泡機用容器に30.4g計り取り、グラファイト(KS−6)を3.0g加えた。この容器を、シンキー社製の遠心脱泡機(あわとり練太郎ARE−310)にセットし、1500rpmで5分間運転した。その後、大阪ガス社製のグラファイト(MCMB)を27g添加し、再度遠心脱泡機にセットし、1500rpmで10分間運転した。その後、旭化成ケミカル社製のラテックス溶液(L−1571 48%)を1.1g加えて、更に遠心脱泡機で5分間運転し、負極スラリーを得た。
【0058】
<負極の製造>
上記負極スラリーを、目付けが100g/m2程度になるように厚さ10μmの銅箔に塗布し、85℃で10分間予備乾燥した後、140℃で30分間乾燥し、クリアランス70μm、30μm、10μmでそれぞれ1回ずつプレスを行い、目付けが102g/m2で膜厚が63μmの負極を得た。この負極の接着性を測定したところ0等級であった。
【0059】
[実施例2〜5]
重合度200〜1800のパルプを原料に用いた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエルチルセルロースナトリウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表5に示す。
【0060】
[実施例6〜25]
各種アンモニウム塩水溶液20wt%を用いて、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表5及び6に示す。
【0061】
[実施例26〜27]
酸型化工程で、pHを1〜5の間で変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表7に示す。
【0062】
[実施例28〜29]
酸型化工程で、反応系の温度を10〜70℃の間で変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表7に示す。
【0063】
[実施例30〜31]
カチオン交換工程で、アンモニウム塩水溶液の添加時の反応系の温度を2〜15℃の間で変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表7に示す。
【0064】
[実施例32〜34]
カチオン交換工程で、添加するアンモニウム塩水溶液のアンモニウム塩の濃度を1〜50wt%の間で変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表7に示す。
【0065】
[実施例35〜36]
シアノエチル化工程で、添加するアクリロニトリルの量を変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。いずれのカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩も、本発明の範囲を満足するものであった。結果を表7に示す。
【0066】
[比較例1〜3]
重合度500、1000、1800でカルボキシルメチル基の置換度0.90のカルボキシルメチルセルロースアンモニウム塩の水溶液をそれぞれバインダーとして用いた以外は、実施例1と同じ条件で電池電極用スラリーと負極とを製造し、接着性を評価した。結果を表9に示す。いずれの負極の接着性は本発明の範囲をはずれるものだった。
【0067】
[比較例4]
加水分解工程後、酸型化工程を経ずにpH8.4で中和し、アセトンで沈殿させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した。
【0068】
[比較例5]
加水分解工程で、反応温度を変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した(表4)。カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は得られたものの、カルバモイルエチル基が残存しており、本発明の範囲をはずれるものだった。
【0069】
[比較例6]
酸型化工程で、pHを6に変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した(表4)。カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は得られたものの、金属イオン化度が7%で、本発明の範囲をはずれるものだった。
【0070】
[比較例7〜8]
酸型化工程で、反応温度を変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した(表4)。カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は得られたものの、本発明の範囲をはずれるものだった。
【0071】
[比較例9]
カチオン交換工程で、水酸化ナトリウム水溶液0.1wt%を用いた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した(表4)。カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は得られたものの、本発明の範囲をはずれるものであった。また得られたカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は水に溶解せず、電池用電極のバインダーとして使用することができなかった。
【0072】
[比較例10〜11]
カチオン交換工程で、アンモニウム塩水溶液の添加時の反応系温度を20℃より高い温度へ変化させた以外は、実施例1と同じ条件で、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を合成し、回収した(表4)。カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は得られたものの、本発明の範囲をはずれるものであった。また得られたカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩は水に溶解せず、電池用電極のバインダーとして使用することができなかった。
【0073】
[実施例37〜38及び比較例12]
バインダーとして実施例1及び2並びに比較例4のサンプルを用いて、実施例1と同じ条件で電池電極用スラリーと負極とを製造した。正極として、コバルト酸リチウム100g、グラファイト(大阪ガス社製MCMB)3g、ポリフッ化ビニリデン3g、及びN−メチル−2−ピロリドン40gを混合したスラリーを厚さ10μmのアルミ箔の片面にドクターブレードを用いて塗布し、140℃で30分間乾燥し、クリアランス70μm、30μm、10μmでそれぞれ1回ずつプレスを行い、目付けが102g/m2で膜厚が63μmの正極を得た。以上で作製した正極層と負極層とセパレーターと、LiPF6を添加した電解液とを用いて、円筒形リチウムイオン二次電池を組み立てた。こうして得られた電池に1kHzで1ボルトの電圧を5時間電圧かけた時の内部温度を測定した。結果を表10に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩及びその水溶液は、リチウムイオン二次電池等における電池用電極のバインダーとして特に好適に使用でき、その他、フィルム用原料、養魚用飼料、食品、壁材組成物、掘削安定液用調整剤、化粧品、医薬品、洗浄剤、塗料、高分子架橋体、高吸水性樹脂等の分野にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が100以上3000以下のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩であって、
カウンターカチオンが下記化学式1:
【化1】

(式中、R1〜R4はそれぞれ独立に、水素、C1〜C30の直鎖若しくは分岐鎖の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、アリール基、アラルキル基、トリアルキルアンモニウムアルキル基、フェノキシアルキル基、又はモノ若しくはジアルキルフェノキシアルキレンオキシアルキレン基であり、R1〜R4の何れか2つ又は3つが窒素原子を介して5員環又は6員環を形成してもよい。)
で表される構造の第四級アンモニウム塩であり、
カルバモイルエチル基の置換度が0.04以下であり、
カルボキシルエチル基の置換度が0.2以上2.5以下であり、
カルボキシルエチル基のアンモニウム化度が10%以上であり、かつ
カルボキシルエチル基の金属イオン化度が5%以下である、カルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩。
【請求項2】
請求項1に記載のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上60質量%以以下含有する、水溶液。
【請求項3】
請求項1に記載のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上80質量%以下含有する、電池用電極。
【請求項4】
請求項1に記載のカルボキシルエチルセルロースアンモニウム塩を0.1質量%以上80質量%以下含有する、リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−36346(P2012−36346A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180303(P2010−180303)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】