説明

カルボキシル基含有高分子の製造方法

【課題】安価な過酸化水素を酸化剤として、高分子原料から高酸化度で高分子量なカルボキシル基含有高分子を十分に早くかつ選択的に製造する方法を提供する。
【解決手段】ルイス酸及び周期律表第6族金属化合物の存在下、ベンゼン環を除く環状構造に直接ヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子、不飽和結合を有する高分子又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子と、過酸化水素とを反応させてなるカルボキシル基含有高分子(A)の製造方法。ルイス酸が希土類金属を活性中心とするルイス酸であることが好ましい。周期律表第6族金属化合物がタングステン、モリブデン及びクロムから選ばれた少なくとも一種の金属化合物であることが好ましい。反応液のpHが、1〜5であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基含有高分子の製造方法に関する。さらに詳しくは、高いカルボキシル基含有率を持ちかつ高分子量のカルボキシル基含有高分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリル酸等の水溶性高分子は分散剤、湿潤剤、レベリング改良剤、農薬製剤用薬剤、キレート剤、コンクリート混和剤及びサイズ剤等、広く工業利用されており、ますますその需要は増加している。しかし原料であるアクリル酸はポリアクリル酸の需要量に対して供給量が不足しており、高いカルボキシル基含有率を持つ水溶性高分子を安価かつ簡便に、枯渇リスクの低い天然高分子や汎用合成高分子から調整することが望まれている。
【0003】
従来、高分子化合物を出発原料として水溶性高分子を得る方法としてはセルロースのカルボキシメチル化が知られている(例えば特許文献1参照)。カルボキシメチルセルロース(CMC)はセルロースを濃厚アルカリ水溶液処理しモノクロル酢酸と置換反応させることで製造され、高いカルボキシル基導入率が可能である。しかしカルボキシル化率を高めるためにはモノクロル酢酸を過剰量反応させる必要があるため、モノクロル酢酸のコストが高まるだけでなく多量の副生塩が生じ製造工程が煩雑である。また濃厚アルカリ処理のために著しい分子量の低下という問題もある。
【0004】
セルロース以外を出発原料として水溶性高分子を得る方法としては酸化デンプンが知られている。酸化デンプンは、コスト及び技術上の理由のため、次亜塩素酸塩で酸化処理することにより製造されている。次亜塩素酸塩での処理は、表面にアルデヒド基あるいはカルボキシル基を生成することにより、表面を親水性に改質することができる。この場合の酸化度は低いものであるので、デンプンを水溶性高分子として用いるには、さらに酸化度を高める必要がある。しかしながら、酸化度を高めるためには酸化剤である次亜塩素酸塩を過剰量使用する必要がありコストが高まるだけでなく、非選択的に酸化反応が進行するため分子量の低下が著しく起こり、工業利用は限られている。
【0005】
上述のような多糖類を選択的に開裂酸化し高い酸化度を実現する方法としては、非特許文献1に示すように過ヨウ素酸塩を用いた方法が従来から知られている。また、ルテニウム触媒と次亜塩素酸塩を併用して開裂酸化を行い、分子量低下を抑制しながら高い酸化度を実現した方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。さらに過酸化水素とタングステン系触媒を併用した方法が非特許文献2に示されている。しかし非特許文献1や特許文献2に示されているような過ヨウ素酸塩や次亜塩素酸塩でデンプンを目標の酸化度に至らしめるには多量の酸化剤が必要で高価であり実用的とは言い難い。また非特許文献2に示されている方法では、過酸化水素は安価であるが酸化力が弱く開裂酸化を十分に早くかつ選択的に進行させることが困難であり、結果として大量の過酸化水素を必要としコスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平06−055762号公報
【特許文献2】特開2001−122903号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Malaprade, L. Bull. Soc. Chim. France 1928, 43, 683.
【非特許文献2】M.Floorら、starch 41(1989)Nr.8.S.303-309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、安価な過酸化水素を酸化剤として、高分子原料から高酸化度で高分子量なカルボキシル基含有高分子を十分に早くかつ選択的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、触媒としてルイス酸及び周期律表第6族金属化合物の存在下、ベンゼン環を除く環状構造に直接ヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子、不飽和結合を有する高分子又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子と、過酸化水素とを反応させてなるカルボキシル基含有高分子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカルボキシル基含有高分子の製造方法は、高酸化度で高分子量なカルボキシル基含有高分子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカルボキシル基含有高分子の製造方法は、触媒としてルイス酸及び周期律表第6族金属化合物の存在下、ベンゼン環を除く環状構造に直接ヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子、不飽和結合を有する高分子又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子と、過酸化水素を反応させてなることを特徴とする。
【0012】
本発明で使用されるルイス酸触媒としては、原料とする高分子に応じて使い分けることが出来る。原料が非水溶性高分子の場合は通常のルイス酸で構わないが、原料が水溶性高分子の場合は耐加水分解性を有するルイス酸が好ましい。
【0013】
耐加水分解性を有するルイス酸としては、その化学構造中にパーフルオロフェニル基(以下、C65と略称する)又はトリフルオロメタンスルホニル基(以下、Tfと略称する)を有するルイス酸が挙げられる。
【0014】
ルイス酸としては、耐加水分解性の観点から、希土類金属を活性中心とするルイス酸であることが好ましい。
【0015】
上記希土類金属を活性中心とするルイス酸は、下記一般式(1)で表される錯体化合物が含まれる。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(1)中、Mは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)又はルテチウム(Lu)を表す。
Yは、窒素原子、炭素原子、硫黄原子、酸素原子又はリン原子を表す。
ZはC65又はTfを表す。
j及びkは1〜3の整数である。
複数のY又はZは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
一般式(1)において、Yが窒素原子の時はjが2、炭素原子の時はjが3、硫黄原子又は酸素原子の時はjが1、リン原子の時はjが2〜4である。
【0018】
本発明におけるルイス酸の使用量は、反応時間等の観点から、原料となる高分子(ベンゼン環を除く環状構造に直接ヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子、不飽和結合を有する高分子、又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子。以下同じ)が有するヒドロキシル基、カルボニル基及び不飽和結合の合計モル数に対して0.1〜10mol%であることが好ましい。
【0019】
本発明における周期律表第6族金属化合物は触媒として使用するものであり、このような金属化合物としては、タングステン、モリブデン及びクロムから選ばれた少なくとも一種の金属を含有する化合物を挙げることができる。
【0020】
具体的にはタングステン化合物としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物であり、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物及びタングステン酸ナトリウム二水和物等が挙げられる。
【0021】
モリブデン化合物としては、水中でモリブデン酸アニオンを生成する化合物であり、モリブデン酸、三酸化モリブデン、三硫化モリブデン、六塩化モリブデン、リンモリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム二水和物及びモリブデン酸ナトリウム二水和物等が挙げられる。
【0022】
クロム化合物としては、水中でクロム酸アニオンを生成するクロム化合物であり、クロム酸、三酸化クロム、三硫化クロム、六塩化クロム、リンクロム酸、クロム酸アンモニウム、クロム酸カリウム二水和物及びクロム酸ナトリウム二水和物等が挙げられる。
【0023】
本発明における上記の周期律表第6族金属化合物の使用量は、反応時間等の観点から、原料となる高分子のヒドロキシル基、カルボニル基及び不飽和結合の合計モル数に対して0.1〜10mol%であることが好ましい。
【0024】
本発明で使用される原料となる高分子としては、ベンゼン環を除く環状構造に直接ヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子、不飽和性結合を有する高分子又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子であり、天然高分子、合成高分子のいずれであっても構わない。天然高分子としては多糖、天然ゴム、タンパク質及び核酸等が挙げられる。
【0025】
多糖としては、デンプン、セルロース、グリコーゲン、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン及びキシログルカン等が挙げられる。コスト及び過酸化水素との反応性の観点から、デンプン、セルロースが好ましい。多糖には、これらを原料にして変性された水溶性デンプンや酸化デンプン、カルボキシル化デンプン、リン酸化デンプン、カチオン化デンプン、アルデヒド化デンプン、アセチル化デンプン、アルキルエーテル化デンプン、ヒドロキシエーテル化デンプン、アリルエーテル化デンプン、ビニルエーテル化デンプン、カルボキシル化セルロース、リン酸化セルロース、カチオン化セルロース、アルデヒド化セルロース、アセチル化セルロース、アルキルエーテル化セルロース、ヒドロキシエーテル化セルロース、アリルエーテル化セルロース、ビニルエーテル化セルロース及びニトロセルロース等も含まれ、本発明で使用できる。水溶性デンプンの例としては、酸加水分解された水解デンプンが挙げられる。酸化デンプンとしては、次亜塩素酸塩処理された市販の酸化デンプンが挙げられる。酸化デンプンはデンプンを構成するピラノース環の一部の水酸基がカルボキシル化あるいはアルデヒド化したデンプンである。
【0026】
天然ゴムとしてはポリイソプレンゴムが挙げられる。生ゴムも使用できるが、酸化開裂を伴う反応の観点から加硫処理したゴムが好ましい。
【0027】
タンパク質としては酸化開裂が可能な部位を有するアミノ酸を含むタンパク質ならば何であっても構わない。具体的には環状構造に不飽和結合を有するヒスチジン、トリプトファンを含有するタンパク質が挙げられる。
【0028】
核酸としてはリボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)が挙げられる。
【0029】
本発明に使用できる原料となる高分子原料としては、不飽和結合を有する合成高分子も含まれる。また不飽和結合を有するならばラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合又はメタセシス重合等、いかなる重合方法によって製造されたものであってもよく、この不飽和結合を有する合成高分子から誘導されるヒドロキシル基又はカルボニル基含有化合物も原料高分子として使用することが可能である。
不飽和性結合を有する合成高分子としてはポリブタジエン、ポリイソプレン及びポリクロロプレン等のポリジエン、シクロペンテン、シクロヘキセン及びシクロオクテン等のシクロアルケンを開環メタセシス重合して得られるポリアルケン、イソプレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びスチレン−(イソプレン/ブタジエン)−スチレンブロック共重合体等のポリジエンブロックを有するブロック共重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体及びスチレン−イソプレンランダム共重合体等のジエンと他の重合性単量体からなるランダム共重合体並びにこれらの部分水素添加物などが挙げられる。これらの不飽和性結合を有する重合体は、その分子鎖内または分子末端に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、エステル基、ハロゲン原子などの官能基をさらに有していてもよい。
【0030】
本発明において、原料となる高分子の反応液中濃度は、操作性及び反応時間等の観点から、反応液全体の重量を基準として、0.1〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは1〜35重量%である。
【0031】
本発明において使用される過酸化水素の量は、反応時間等の観点から、原料となる高分子のヒドロキシル基、カルボニル基及び不飽和性結合の合計数1モルに対して1モル〜6モルが好ましく、さらに好ましくは1モル〜4モルである。
【0032】
本発明において、ルイス酸触媒及び周期律表第6族金属化合物の存在下における、原料となる高分子と過酸化水素との反応は、反応時間等の観点から、酸性条件化で行われることが好ましい。酸性条件下としては、反応させる際の反応液のpHが1〜5であることが好ましく、さらに好ましくは1〜4である。
【0033】
pHの調整は、リン酸、塩酸又は硫酸を添加することにより調整することができる。弱酸性条件を調整することができる観点から、リン酸が好ましい。
【0034】
反応溶媒に関しては、反応速度の観点から原料となる高分子が溶解するものであれば特に限定されない。反応溶媒としては、水、極性溶媒及び非極性溶媒が含まれる。極性溶媒としてはメタノール及びエタノール等のアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド並びにテトラヒドロフラン等が挙げられる。中でも耐酸化性のある水がより好ましい。また非極性溶媒を使用する場合は、酸化剤である過酸化水素との不均一反応となるので第4級アンモニウム塩等の相間移動触媒を用いることが好ましい。
【0035】
原料となる高分子が溶解することができれば、反応温度は特に限定されないが反応速度及び過酸化水素の分解の観点から、反応温度0〜100℃が好ましい。また反応時間はカルボキシル化度の観点から0.5〜48時間が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法によれば、原料となる高分子のヒドロキシル基若しくはカルボニル基が平均10モル%以上カルボキシル基に転化した構造、又は原料となる高分子の不飽和結合が平均10モル%以上ジカルボキシル基に転化した構造からなり、重量平均分子量が3,000〜1,000,000であるカルボキシル基含有高分子を得ることができる。本発明の効果を奏しやすい観点から、本発明の製造方法により製造される高分子としては、この物が好ましい。
【0037】
本発明の製造法の一例を記載する。デンプン、ルイス酸触媒、タングステン化合物及び過酸化水素水溶液の混合物を撹拌しながら、温度0〜100℃、pH1〜5で反応させる。酸化反応は0.5〜48時間で終了する。反応混合物にはルイス酸触媒及びタングステン化合物が含まれており、カルボキシル基含有高分子の析出工程とルイス酸触媒及びタングステン化合物の回収工程を経てカルボキシル基含有高分子が精製される。ルイス酸触媒及びタングステン化合物は、大半を回収、再利用できる。
【0038】
本発明のカルボキシル基含有高分子の製造法は、安価な過酸化水素を酸化剤として用い、かつ開裂酸化の反応中間体に対して選択的に作用するルイス酸触媒を用いているためより高い酸化度を実現するとともに、分子量低下が少ないため、高分子量のカルボキシル基含有高分子を枯渇リスクの低い安価な原料から製造することができる。本発明で得られたカルボキシル基含有高分子は、水溶性の高分子量ポリマーとして工業用途に使用することができ有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、分子量及びカルボキシル基含量は以下の方法で測定される。
【0040】
<分子量>
測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。
測定条件は以下の通りである。
溶媒 :酢酸ナトリウムを0.5重量%含むメタノール30vol%水溶液
サンプル濃度:2.5mg/ml
使用カラム:東ソー(株)製 GuardcolumnPWXL+TSKgelG6000PWXL+TSKgelG3000PWXL
カラム温度 :40℃
<カルボキシル基含量>
300mlのビーカーにカルボキシル基含有高分子1.00gを正確に測りとり、純水を加えて100gとした後、95℃で15分攪拌して溶解し、測定溶液とする。この測定溶液を、まず、1/50NのKOH水溶液でpH10まで滴定を行い、その後1/20NのHCl水溶液でpH2.7まで滴定する。後者の滴定液の量をもとに、カルボキシル基の量を算出し、高分子1g当たりの重量%を求めて、カルボキシル基含量とした。
【0041】
<実施例1>
デンプン(日本コーンスターチ社製トウモロコシデンプン)10g(ヒドロキシル基総モル数:0.06モル)を180gの水に分散させ、撹拌しながら90℃まで加熱し溶解させ混合液を得た。そこにリン酸を加えて、混合液のpHを4とした。混合液にトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(東京化成工業(株)製)を1.5g及びタングステン酸ナトリウム二水和物(和光純薬工業(株)製)を1.0g加えて溶解させた。混合液を反応槽に仕込んだ後、30重量%過酸化水素水溶液を42g加えた。その後、温度を90℃に保ちながら48時間撹拌反応した。
【0042】
反応終了後、反応液にt−ブタノールを加えて反応生成物を析出沈殿し遠心ろ過して、白色のカルボキシル基含有デンプン沈殿物を得た。このカルボキシル基含有デンプンを上澄み液で3回洗浄した後に、48重量%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水で希釈し最終的に30重量%カルボキシル基含有デンプン水溶液となるよう調整した。その後60℃で5時間減圧乾燥して、生成物13.1g(収率94%)を得た。
【0043】
上記生成物を13CNMR、IRにより分析したところ、原料デンプンを構成するグルコピラノース単位のC6位の一級アルコールが25モル%カルボキシル基に酸化されていると同時に、C2−C3位が開裂し、C2、C3位の二級アルコールが75モル%カルボキシル基に酸化されたトリカルボキシデンプンナトリウム塩であり、重量平均分子量は12000であった。
【0044】
<実施例2>
実施例1におけるデンプンを置換度1(6位の一級アルコールのエーテル化率100%)のカルボキシメチルセルロースを15g(ヒドロキシル基総モル数:0.06モル)、30重量%過酸化水素水溶液を21g使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物18.6g(収率95%)を得た。重量平均分子量は36000であった。
【0045】
<実施例3>
加硫処理したポリイソプレンゴム3.7gを室温の塩化メチレン67gに溶解させ混合液を得た。そこにリン酸を加えてpHを4とした水110gに30重量%過酸化水素水溶液24.6g、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム1.3g、タングステン酸ナトリウム二水和物0.8g及び相間移動触媒としてメチルトリオクチルアンモニウム硫酸水素塩0.12gを加えたものを、上述塩化メチレン溶液と室温下で撹拌混合し、温度を室温下に保ちながら48時間撹拌反応した。反応生成物の回収は実施例1と同様の操作を行い、生成物8.4g(収率95%)を得た。
【0046】
上記生成物を13CNMR、IRにより分析したところ、原料の加硫ポリイソプレンゴムを構成するイソプレンモノマー単位のC2−C3の二重結合が開裂し、100モル%カルボキシル基に酸化されたカルボキシポリイソプレンナトリウム塩であり、重量平均分子量は40000であった。
【0047】
<比較例1>
実施例1におけるトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを加えなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物11.6g(収率95%)を得た。
【0048】
<比較例2>
実施例1におけるトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムをトリメチルアルミニウムとした以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物12.0g(収率95%)を得た。
【0049】
<比較例3>
実施例1におけるタングステン酸ナトリウム二水和物を塩化ルテニウムトリフェニルホスフィンとした以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物10.6g(収率95%)を得た。
【0050】
<比較例4>
実施例1におけるタングステン酸ナトリウム二水和物を硫酸鉄(II)とした以外は実施例1と同様の操作を行い、生成物4.5g(収率40%)を得た。
【0051】
実施例1〜3及び比較例1〜4の結果を表1に示した。表1から、実施例1〜3では分子量高くカルボキシル基含有量も多いことがわかる。これに対し、比較例1、2はカルボキシ基含有量が低いことがわかる。これは比較例1ではルイス酸触媒が存在しないため、比較例2ではルイス酸触媒が水中で加水分解し失活したため酸化開裂反応が十分に進行しなかったことが原因として考えられる。また比較例3では、分子量は高いが、カルボキシル基含有量が低い。これはルテニウムが触媒となって、過酸化水素が分解し酸化に必要な過酸化水素量に達しなかったためと考えられる。比較例4では分子量が著しく低くなったが、鉄イオンの存在下ヒドロキシルラジカルが大量に発生したためと考えられる。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により製造されるカルボキシル基含有高分子は、高分子量の水溶性ポリカルボン酸として工業利用することができる。ポリカルボン酸は、分散剤、湿潤剤、レベリング改良剤、農薬製剤用薬剤、キレート剤、コンクリート混和剤、等の用途に用いられており、本発明により製造されるカルボキシル基含有高分子は枯渇リスクの低い汎用的な高分子を原料としたポリカルボン酸として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス酸及び周期律表第6族金属化合物の存在下、ベンゼン環を除く環状構造に直接ヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子、不飽和結合を有する高分子又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子と、過酸化水素とを反応させてなるカルボキシル基含有高分子(A)の製造方法。
【請求項2】
ルイス酸が希土類金属を活性中心とするルイス酸である請求項1に記載のカルボキシル基含有高分子の製造方法。
【請求項3】
周期律表第6族金属化合物が、タングステン、モリブデン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物である請求項1又は2に記載のカルボキシル基含有高分子の製造方法。
【請求項4】
過酸化水素と反応させる高分子が多糖、天然ゴム、タンパク質及び核酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のカルボキシル基含有高分子の製造方法。
【請求項5】
過酸化水素と反応させる高分子が不飽和結合を有する合成高分子又はこの不飽和結合を有する高分子から誘導されるヒドロキシル基若しくはカルボニル基を有する高分子である請求項1〜4のいずれかに記載のカルボキシル基含有高分子の製造方法。
【請求項6】
反応させる際の反応液のpHが、1〜5である請求項1〜5のいずれかに記載のカルボキシル基含有高分子の製造方法。
【請求項7】
得られるカルボキシル基含有高分子(A)の重量平均分子量が3,000〜10,000,000である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−95852(P2013−95852A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239958(P2011−239958)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】