説明

カルボニル化抑制剤

【課題】真皮タンパク質のカルボニル化を抑制する作用を有する種々の有効成分を含んで成る新規薬剤の提供。
【解決手段】加水分解真珠タンパク(コンキオリン)抽出液、ショウガ科ハナミョウガ属の多年草であるゲットウ(月桃)葉のエキス、スイカズラの花蕾として知られているキンギンカ(金銀花)エキスから選ばれる1種又は2種以上の有効成分を含んで成る、真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス及びキンギンカエキスから選ばれる1種又は2種以上の有効成分を含んで成る、真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は、酸化ストレス(空気中の酸素、紫外線、大気中の有害物質、食物中の刺激物など)に常に曝されている。本来、生体には活性酸素を消去するメカニズムが備わっているが、消去能を上回った活性酸素の生成や消去能の低下によって、生体内で酸化が進行することが知られている。なかでもタンパク質は、生体の構造を決定するだけでなく、酵素等の生体機能をつかさどる重要な分子であることから、生体タンパク質の酸化についての研究が盛んに行われている。また、生体タンパク質の酸化は臓器の機能低下に関与していると考えられており、老化に伴った酸化タンパク質の増加が知られている(Tahara S et al., Mech Ageing Dev. 2001 Apr 15;122(4):415-26)。
【0003】
生体タンパク質の「酸化」は、活性酸素によって生じる様々な反応を包括しており、タンパク質のみならず、糖、脂質、核酸が関与した多様な反応を含んで定義される。これに対して、狭義でのタンパク質の酸化は、糖、脂質、核酸などが関与しない、活性酸素によるタンパク質の直接的な酸化反応を意味する。
【0004】
また、糖が関与するタンパク質の修飾反応は「糖化」と呼ばれており、糖の酸化が関与したタンパク質の修飾反応を意味する。例えば、グルコースが酸化分解することによって生じる、グリオキサール、メチルグリオキサール、グリコールアルデヒドなどのアルデヒド基やカルボニル基を有する物質は、タンパク質を修飾することが知られている(Glomb MA et al. J Biol Chem. 1995 Apr 28; 270(17):10017-26, Thornalley PJ et al. Biochem J. 1999 Nov 15; 344 Pt 1:109-16)。糖が関与するタンパク質の修飾反応は、この経路以外にも多岐に渡っており、最終的に生じる生成物が多く同定されている。
【0005】
一方で、脂質が関与するタンパク質の修飾反応は「脂質過酸化反応に関連するタンパクの修飾反応」等と呼ばれている。脂質が活性酸素に曝されると、アクロレイン、4−ハイドロキシー2−ノネナール、マロンジアルデヒドなどの反応性の高いアルデヒド(カルボニル化合物)が生じる。これらの中間生成物質がタンパク質を修飾する反応は「カルボニル化」とも称される。
【0006】
真皮タンパク質のカルボニル化は、多様な疾患や症状に関与することが報告されている。カルボニル化タンパク質は、生体内の様々な組織において検出されることが知られており、例えば、肝臓や脳などでは一般的に加齢とともに増加することが報告されている (Stadtman E.R. et al., EXS. 62:64-72, 1992, Levine RL et al. Free Radic Biol Med. 2002 May 1;32(9):790-6)。また、加齢現象が促進されて現れる早老症などでは、カルボニル化タンパクが増加することが報告されており(Stadtman E.R. et al., J biol Chem. 262:5488-5491, 1987)、その因果関係が研究されている。皮膚においても、カルボニル化タンパク質の存在が知られており、露光部の角層や光老化部位の真皮での蓄積が報告されている (Fujita H. et al., Skin Res Tech. 13:84-90, 2007;Sander, C.S. et al., J Invest Dermatol. 118:618-25, 2002)。具体的には、露光部角層のカルボニル化タンパク質は光学的透過性を低下させるなどの物性変化をもたらすことが報告されており(Iwai I. et al., Int J Cosmet Sci. 30:41-46, 2008)、また真皮のカルボニル化タンパク質は、光線性弾力線維症の重症度に応じて蓄積することが報告されている(Tanaka, N. et al., Arch Dermatol Res. 293:363-367, 2001;Sander, C.S. et al., J Invest Dermatol. 118:618-25, 2002)。
【0007】
このように、タンパク質のカルボニル化は、非酵素的、非特異的に生じるため、あらゆる組織における老化の原因となる。皮膚では、シワやたるみ、くすみなどの原因となり、内臓や脳では、機能低下を引き起こし、さらには多様な疾患の原因になりうると考えられている。このような背景から、タンパク質のカルボニル化を抑制する作用を有する種々の医薬的又は美容学的な薬剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tahara S et al., Mech Ageing Dev. 2001 Apr 15;122(4):415-26
【非特許文献2】Glomb MA et al. J Biol Chem. 1995 Apr 28;270(17):10017-26
【非特許文献3】Thornalley PJ et al. Biochem J. 1999 Nov 15;344 Pt 1:109-16
【非特許文献4】Stadtman E.R. et al., EXS. 62:64-72, 1992
【非特許文献5】Levine RL et al. Free Radic Biol Med. 2002 May 1;32(9):790-6
【非特許文献6】Stadtman E.R. et al., J biol Chem. 262:5488-5491, 1987
【非特許文献7】Fujita H. et al., Skin Res Tech. 13:84-90, 2007
【非特許文献8】Sander, C.S. et al., J Invest Dermatol. 118:618-25, 2002
【非特許文献9】Iwai I. et al., Int J Cosmet Sci. 30:41-46, 2008
【非特許文献10】Tanaka, N. et al., Arch Dermatol Res. 293:363-367, 2001
【非特許文献11】Sander, C.S. et al., J Invest Dermatol. 118:618-25, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生体中の真皮タンパク質のカルボニル化は非酵素的、非特異的に生じるため、あらゆる組織における老化の原因となる。皮膚では、シワやたるみ、くすみなどの原因となり、内臓や脳では、機能低下を引き起こし、さらには多様な疾患の原因になりうると考えられている。したがって、本発明は、真皮タンパク質のカルボニル化を抑制する作用を有する種々の有効成分を含む新規の医薬的又は美容学的な薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このたび、本発明者は、真皮中のタンパク質のカルボニル化が、美容学的又は臨床学的に、生体の多様な症状や疾患、特に皮膚の黄色化に密接に関与している、という驚くべき知見を見出した。かかる知見に基づき、真皮タンパク質のカルボニル化抑制効果を有する薬剤を検討した結果、加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス及びキンギンカエキスの3種が、真皮タンパク質のカルボニル化を有意に抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本願は以下の発明を包含する:
[1] 加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス、キンギンカエキスから選ばれる1種又は2種以上の有効成分を含んで成る、真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。
[2] 真皮タンパク質のカルボニル化に関係する症状又は疾患を予防又は治療するための[1]に記載の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。
[3] 真皮タンパク質のカルボニル化に関係する症状又は疾患が、皮膚の黄色化であることを特徴とする[2]に記載の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
生体の真皮タンパク質のカルボニル化を抑制し、これにより、真皮タンパク質のカルボニル化に関係する多様な症状又は疾患を予防又は治療することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願明細書において、「真皮タンパク質」とは、生体の真皮中に存在するいずれかのタンパク質を意味する。真皮は、表皮下層に位置する1〜2mm程度の典型的な結合組織である。真皮は、線維芽細胞、マクロファージ、マスト細胞などの細胞成分、コラーゲン、エラスチンなどの線維成分、及びプロテオグリカン類から構成されており、皮膚の弾力や強度に関与しているため(化粧品辞典, 第534頁左欄第1行〜7行を参照のこと)、真皮タンパク質の修飾は、多様な症状や疾患の原因となりうることが予想される。また、真皮は、乳頭層、乳頭下層及び網状層の3層からなる比較的厚い層を形成していることから、真皮中のタンパク質の変化は皮膚色の変化として表れ、黄色化等の皮膚の変色にも大きく関与しているものと考えられる。
【0014】
本願明細書において、タンパク質の「カルボニル化」とは、脂質の過酸化等で生じたアルデヒドなどのカルボニル化合物が、タンパク質を非特異的に、非酵素的に修飾する反応を意味する。脂質が活性酸素に曝されると、過酸化脂質が形成され、さらに分解されることで、アクロレイン、4−ハイドロキシー2−ノネナール、マロンジアルデヒドなどの反応性の高いアルデヒド(カルボニル化合物)が生じる。これらの中間生成物質は極めて反応性が高いため、タンパク質を修飾する。修飾によって生じる様々な物質は、脂質過酸化最終産物(ALEs)と称されている。これに対して糖の酸化が関与するタンパク質の修飾反応は「糖化」と呼ばれており、糖を由来とする反応であることから、カルボニル化反応とは異なる。「糖化」として知られる反応経路としては、例えば、グルコースが酸化分解することによって生じる、グリオキサール、メチルグリオキサール、グリコールアルデヒドによるタンパク質の修飾等が知られている(Glomb MA et al. J Biol Chem. 1995 Apr 28;270(17):10017-26, Thornalley PJ et al. Biochem J. 1999 Nov 15;344 Pt 1:109-16)。糖が関与するタンパク質の修飾反応は、この経路以外にも多岐に渡っており、最終的に生じる生成物が多く同定されている。これらは、最終糖化産物(AGEs)と称されている。
【0015】
ALEsにはAGEsと一部共通する物質も見つかっているが、ALEsが「糖」が関連しない反応である点で、AGEsとは異なる。
【0016】
活性酸素によって「糖」や「脂質」からアルデヒド基やカルボニル基を有する物質が生成した状態をカルボニルストレスと呼ぶことから、広義においては、「カルボニル化」を「酸化」と同等の意味で用いられることがあるが、本願明細書で用いられる「カルボニル化」は、脂質の過酸化および分解等で生じたアルデヒドが関与したタンパク質の修飾反応(ALEsが生成する反応)のことを称し、糖が関連した反応(「糖化」)とは区別される。
【0017】
なお、AGEsとして知られている物質が生成する反応の全てを、広義において糖化と称する場合がある。AGEsとして古くに同定された化合物と同様の化合物が、脂質が関連する反応経路からも生成することが見つかったことから、「糖化」を広義での「酸化」と同様の意味において使用されることもあるが、本願明細書で用いられる「糖化」とは、糖が関与したタンパク質の修飾反応のことを称し、「カルボニル化」とは区別される。
【0018】
本発明は、このような真皮タンパク質のカルボニル化が、加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス、及びキンギンカエキスによって有意に抑制される、という驚くべき知見に基づくものである。
【0019】
加水分解真珠タンパク抽出液
真珠は宝飾品としてのみならず、滋養強壮、沈静、解熱などの効能をもつ生薬としても使用されてきた。真珠は、アコヤガイなどの貝類の体内に、その貝殻と同質の炭酸カルシウムを主成分として形成された球状あるいは不定形の物質であり、その中心部より殻皮層、稜柱層、真珠層の3層より形成されている。殻皮層は硬タンパク質であるコンキオリンを主成分とする薄膜であり、稜柱層は炭酸カルシウムが六方晶形の結晶を形成している層でコンキオリンを約11%含む。真珠層は炭酸カルシウムの板状結晶(アラゴナイト)によって敷き詰められた薄層が貝殻表面に平行な積層構造をなし、コンキオリンを約5%含む。強酸、例えば塩酸等に真珠を投じ、炭酸カルシウムが激しく発泡して溶解すると、淡黄色の薄膜が残るが、この薄膜の主成分がコンキオリンである。コンキオリンは、グリシン、アラニン、セリンを中心とする約20種類のアミノ酸で構成され、そのアミノ酸組成は皮膚の角質層にある保湿成分(NMF)に類似している。
【0020】
具体的には、加水分解真珠タンパク抽出液は、真珠層を有する貝の貝殻及び/又は真珠部分を、そのまま、あるいは粉砕した後、脱灰処理し、これにより得られた真珠タンパク質(コンキオリン)を加水分解することによって得られる。真珠層を有する貝としては特に制限されることはないが、例えば、アコヤガイ(Pinctada fucata)、イガイ(Mytilus coruscum)、イケチョウガイ(Hyriopsis schlegelii)、カラスガイ(Cristariaplicata)等が挙げられる。好ましくはアコヤガイが用いられる。
【0021】
脱灰処理に用いられる酸は、貝殻及び/又は真珠部分に含有される炭酸カルシウム成分を溶出できる限り特に制限されることはなく、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、シュウ酸、炭酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、酢酸、ギ酸等の慣習的な酸を用いることができる。その後、慣習的な手段により、脱灰処理後の溶液から不純物を除去し、乾燥させることによって真珠タンパク質が得られる。これを加水分解処理に慣習的に用いられる酸又は塩基により加水分解する。このような酸又は塩基としては、例えば、塩酸、硫酸等の強酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基が好ましい。
【0022】
このようにして得られた溶液を中和することにより、溶液中の酸又は塩基を除去し、必要に応じて、濾過、イオン交換樹脂処理、活性炭処理等の精製処理により不純物を取り除き、その後濃縮乾燥することにより、淡黄色〜淡褐色の液体として加水分解真珠タンパク抽出液が得られる。なお、加水分解真珠タンパク抽出液は市販のものを用いてもよく、丸善製薬株式会社より入手できる。
【0023】
ゲットウ葉エキス
ゲットウ(月桃)(Alpinia speciosa)は、ショウガ科ハナミョウガ属(アルピニア属)の多年草である。中国南部、台湾、インド、ビルマ等の熱帯・亜熱帯地域に生息しており、日本では沖縄県から九州南部に分布している。ゲットウの茎は2〜3m以上にまで達し、ゲットウの葉は、長さ約40〜70cm、幅約5〜10cmの長楕円状であり、やや硬くてツヤがあり、緑濃色で独特の香りを有する。葉から抽出した油は甘い匂いを有するため、アロマオイルや香料として使用されており、また虫除けの効果があることも知られている。また、ゲットウ葉エキスはにきび、肌荒れの改善用途として化粧料の配合されることは公知(特開2000−191493)であるが、真皮カルボニル化の抑制効果については知られていない。
【0024】
ゲットウ葉からの有効成分の抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、ゲットウ葉をそのまま使用することもできるが、粉末状に粉砕・細断して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。
【0025】
抽出温度は特に限定されるものではなく、ゲットウ葉の粉砕物の大きさや溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、ゲットウ葉の粉砕物の大きさ、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0026】
例えば、ゲットウ葉エキスは、ゲットウ葉を溶媒中に浸漬し、室温又は80℃〜100℃にて抽出することができる。抽出処理により得られた抽出液をろ過後、そのまま又は必要に応じて濃縮若しくは乾固したものを、真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用することができる。なお、この抽出処理の際には、ゲットウ葉は細断又は粉砕したものを用いてもよい。また、生のゲットウ葉又は乾燥したゲットウ葉を用いてもよいし、あるいは焙煎したゲットウ葉を用いてもよい。焙煎方法は特に限定されるものではないが、80℃〜120℃で0.5時間〜2時間焙煎する方法が挙げられる。
【0027】
抽出に使用される溶媒の種類は特に限定されるものではないが、水(熱水等を含む)、アルコール(例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール)、グリコール(例えば1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール)、グリセリン、ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えばジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル)、アセトニトリル、エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えばクロロホルム)、又はこれらのうち2種以上の混合溶媒が好ましい。
【0028】
このような抽出操作により、ゲットウ葉から有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよいが、数日静置して熟成させてから用いても良い。さらに滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解して真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよい。
【0029】
なお、ゲットウ葉エキスの抽出方法として、超臨界流体を用いた抽出法を採用することも可能である。超臨界流体の種類は特に限定されるものではなく、二酸化窒素、アンモニア、エタン、プロパン、エチレン、メタノール、エタノール等が挙げられる。なお、ゲットウ葉エキスは市販されており、丸善製薬株式会社から入手することができる。
【0030】
キンギンカエキス
キンギンカ(金銀花)は、スイカズラ(Lonicera japonica Thumb)の花蕾として知られている。スイカズラは九州、朝鮮半島、中国に分布し、山地や丘陵地に育成するキンポウゲ科オウレン属のツル性の常緑低木である。スイカズラの花蕾にはセリルアルコール、ステリン、アラキン酸、ミリスチン酸、エライジン酸、リノレイン酸、リノール酸の他、ルテオリン、ロニセリン、イノシトール等が含まれている。キンギンカエキスは、消化性胃潰瘍に対して軽度の予防効果や、腸管運動には交感神経興奮、副交感神経抑制、平滑筋麻酔による自動運動振幅減少、緊張緩和効果などを示すことが知られている。なお、スイカズラの葉は忍冬(ニンドウ)として知られており、解熱、消炎、利尿薬として化膿症、浄血、関節症等に用いられる。花蕾や葉を煎じて服用したり、茶剤として飲用したり、浴湯料として用いられる。また、美白効果を有する化粧料への配合も公知であるが、(特平7−157412)真皮のカルボニル化抑制効果については知られていない。
【0031】
スイカズラの花蕾(キンギンカ)からの有効成分の抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、キンギンカをそのまま使用することもできるが、細断又は粉砕したものを用いてもよく、また、生又は乾燥したものを用いてもよいし、焙煎したものを用いてもよい。顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。
【0032】
抽出温度は特に限定されるものではなく、キンギンカの粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、キンギンカの粉砕物の粒径、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0033】
抽出に使用される溶媒の種類は特に限定されるものではないが、水(熱水等を含む)、アルコール(例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール)、グリコール(例えば1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール)、グリセリン、ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えばジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル)、アセトニトリル、エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えばクロロホルム)、又はこれらのうち2種以上の混合溶媒が好ましい。
【0034】
このような抽出操作により、キンギンカから有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよいが、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解して真皮タンパク質カルボニル化抑制剤に使用してもよい。なお、キンギンカの抽出物は、一丸ファルコス株式会社から市販されているので、これを用いることもできる。
【0035】
本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤中の、加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉抽出物及び/又はキンギンカエキスの配合比は特に限定されるものではなく、任意に設定可能である。ただし、本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤のカルボニル化抑制能をより優れたものとするためには、抽出物の配合比は、真皮タンパク質カルボニル化抑制剤全体に対して0.00001質量%以上10質量%以下とすることが好ましく、0.001質量%以上5質量%以下とすることがより好ましく、そして0.01質量%以上1質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤は、その使用目的に合わせて用量、用法、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤の投与形態は、経口、非経口、外用等であってよい。剤型としては、例えば錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤、又は注射剤、点滴剤、若しくは坐剤等の非経口投与剤軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の外用剤を挙げることができる。
【0037】
また、本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤中には、有効成分以外に、例えば、美容学的又は医薬的に許容される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0038】
さらに、本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤を皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0039】
真皮タンパク質のカルボニル化は、美容学的又は臨床学的に、多様な症状又は疾患に関係していることが知られており、これらの症状又は疾患としては、例えば老化、内蔵や脳の機能低下、早老症、光線性弾力線維症、乾癬、アトピー性皮膚炎、シワ、皮膚のたるみ等が挙げられる。したがって、本発明のカルボニル化抑制剤は、真皮タンパク質のカルボニル化に関係するこれらの症状又は疾患を予防又は治療するために極めて有効である。
【0040】
さらに、真皮は、乳頭層、乳頭下層及び網状層の3層からなる比較的厚い層を形成していることから、真皮中のタンパク質のカルボニル化は皮膚色の変化として表れ、真皮に存在するタンパク質のカルボニル化は、皮膚の変色、特に皮膚の黄色化と密接に関与していることが分かった(Yuki Ogura, Tomohiro Kuwahara, Tetsuji Hirao, Minoru Akiyama, Shingo Tajima, Kazuhisa Hattori, Kouhei Okamoto, Shinpei Okawa, Yukio Yamada, Hachiro Tagami, Motoji Takahashi, The First Eastern Asia Dermatology Congress Program and Abstracts, (2010年9月, 福岡), p71; 桑原智裕, 神保直翔, 前田 貴章, 小倉 有紀, 舛田 勇二, 平尾 哲二, 相津 佳永 第67回日本化粧品技術者会研究討論会_要旨集, (2010年11月, 東京), p37-38)。したがって、本発明の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤は、皮膚の黄色化を抑制するために特に有用となりうる。
【実施例】
【0041】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。
【0042】
例1.抽出物のカルボニル化抑制効果の評価
試験には、I型コラーゲンが予めコーティングされている96ウェルプレートを用いた(コーニング株式会社 コード番号:NCO3585)。カルボニル化を誘導する試薬としては、過酸化脂質由来のアルデヒドであるアクロレイン(AccuStandard社)を用いた。タンパク質にアクロレインを作用させると、カルボニル基が導入される。導入されたカルボニル基は、カルボニル基と結合する、ヒドラジノ基(−NHNH2)とビオチンが結合したビオチン−ヒドラジド(PIERCE社 コードNo.21339)を用いて検出した。加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス、及びキンギンカエキスの各抽出物のカルボニル化抑制効果は、これらの抽出物存在下と、非存在下におけるカルボニル基検出効率を比較して、どの程度、カルボニル基導入が抑えられるかについて検討した。
【0043】
具体的には、300μMアクロレイン及び各抽出物を溶解して試料溶液を調製した。各抽出物の濃度は、0.01%〜0.3%に設定した。抽出物を含まない試料溶液には、300μMアクロレイン及び抽出物と同量の溶媒を溶解させた(ポジティブコントロール)。これらの試料溶液を、コラーゲンプレートの各ウェルに100μLずつ分注して37℃で一昼夜反応させた。なお、アクロレインを含まず、抽出物と同量の溶媒を含む溶液についても、同様に試験を行った(ネガティブコントロール)。
【0044】
一昼夜反応させたプレートは、界面活性剤(0.1%Tween20)を含むリン酸緩衝液(PBS−T)を用いて洗浄した。その後100mMの2−モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES)緩衝液で調製した0.1μMビオチン−ヒドラジド溶液を各ウェルに100μLずつ分注して室温で2時間反応させた。反応後、PBS−T緩衝液を用いて洗浄した。その後0.1μg/mLの西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識アビジン(ベクター社 A−2004)を各ウェルに100μLずつ分注して37℃で1時間反応させた。さらにPBS−T緩衝液を用いて洗浄した後、HRPの基質である3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンに塩酸塩(TMB)を含有する基質溶液(バイオ・ラッド社 製品番号172−1066)で発色させた。発色反応を止めるため、1M 硫酸溶液で反応を止めた。その後、波長450nmにおける吸光度を測定して、カルボニル基が導入されたタンパクの量を定量した。
【0045】
カルボニル化抑制効果は、(サンプルの吸光度−ネガティブコントロールの吸光度)/(ポジティブコントロールの吸光度−ネガティブコントロールの吸光度)で表した。各試料の各濃度についてn=5で評価を行った。これらの平均値ならびに標準偏差値を求め、独立2群に対してt検定を行い、P値を求め有意差の検定を行った。統計的有意差は「*」をp<0.05の有意差あり、「**」をp<0.01の有意差ありとした。
【表1】

【0046】
上記の結果から、加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス及びキンギンカエキスの各抽出物は、それぞれタンパク質のカルボニル化を有意に抑制することがわかる。なお、加水分解真珠タンパク抽出液の評価には、丸善製薬株式会社から市販されている真珠たん白抽出液BG−JC<NP>(商品名)を用いた。ゲットウ葉エキスの評価には、丸善製薬株式会社から市販されている月桃葉抽出液(商品名)を用いた。キンギンカエキスの評価には、一丸ファルコス株式会社から市販されているファルコレックス スイカズラFE(商品名)を用いた。
【0047】
処方例
以下に本願のカルボニル化抑制剤を配合した処方例を示す。なお、本処方例はあくまでも一例であり、本発明は本処方例に限定されるものではない。
【0048】
処方例1:バニシングクリーム(O/W型、石けん+ノニオン界面活性剤併用)
薬剤:カルボニル化抑制剤(加水分解真珠タンパク抽出液) 0.1質量%
油分: ステアリン酸 8.0
ステアリルアルコール 4.0
ステアリン酸ブチル 6.0
保湿剤: プロピレングリコール 5.0
界面活性剤:モノステアリン酸グリセリン 2.0
アルカリ: 水酸化カリウム 0.4
防腐剤: 適量
酸化防止剤: 適量
香料: 適量
精製水: 74.5
【0049】
製法
精製水に薬剤、保湿剤、アルカリを加えて水相を調製し、70℃に加熱調整する。油分を加熱溶解後、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、70℃に調整する。これを先の水相に加え、予備乳化を行う。ホモミキサーにて乳化粒子を均一にした後、脱気、濾過、冷却を行う。
【0050】
処方例2:エモリエントクリーム(O/W型)
薬剤:カルボニル化抑制剤(ゲットウ葉エキス) 0.1質量%
油分: ステアリルアルコール 6.0
ステアリン酸 2.0
水添ラノリン 4.0
スクワラン 9.0
オクチルドデカノール 10.0
保湿剤: 1,3 ブチレングリコール 6.0
PEG1500 4.0
界面活性剤:POE(25)セチルアルコールエーテル 3.0
モノステアリン酸グリセリン 2.0
防腐剤: 適量
酸化防止剤: 適量
香料: 適量
精製水: 53.9
【0051】
製法
精製水に薬剤、保湿剤を加えて水相を調製し、70℃に加熱調整する。油分を加熱溶解後、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、70℃に調整する。これを先の水相に加え、ホモミキサーにて乳化粒子を均一にして、脱気、濾過、冷却を行う。
【0052】
処方例3:エモリエントクリーム(O/W型)
薬剤:カルボニル化抑制剤(加水分解真珠タンパク抽出液) 0.1質量%
油分: セチルアルコール 5.0
ステアリン酸 3.0
ワセリン 5.0
スクワラン 10.0
グリセロールトリ 2-エチルヘキサン酸 7.0
エステル
保湿剤: ジプロピレングリコール 5.0
グリセリン 5.0
界面活性剤:プロピレングリコールモノステアリン酸 3.0
エステル
POE(25)セチルアルコールエーテル 3.0
アルカリ: トリエタノールアミン 1.0
防腐剤: 適量
酸化防止剤: 適量
香料: 適量
精製水: 52.9
【0053】
製法
精製水に薬剤、保湿剤、アルカリを加えて水相を調製し、70℃に加熱調整する。油分を加熱溶解後、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、70℃に調整する。これを先の水相に加え、予備乳化を行う。ホモミキサーにて乳化粒子を均一にして、脱気、濾過、冷却を行う。
【0054】
処方例4:マッサージクリーム(O/W型)
薬剤:カルボニル化抑制剤(キンギンカエキス) 0.1質量%
油分: 固形パラフィン 5.0
ミツロウ 10.0
ワセリン 15.0
流動パラフィン 41.0
保湿剤: 1,3 ブチレングリコール 4.0
界面活性剤:モノステアリン酸グリセリン 2.0
POE(25)ソルビタンモノラウリン酸 2.0
エステル
アルカリ: ホウ砂 0.2
防腐剤: 適量
酸化防止剤: 適量
香料: 適量
精製水: 20.7
【0055】
製法
精製水に薬剤、保湿剤、ホウ砂を加えて水相を調製し、70℃に加熱調整する。油分を加熱溶解後、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料を加え、70℃に調整する。これを先の水相に徐々に加え、予備乳化を行う。ホモミキサーにて乳化粒子を均一にして、脱気、濾過、冷却を行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解真珠タンパク抽出液、ゲットウ葉エキス、キンギンカエキスから選ばれる1種又は2種以上の有効成分を含んで成る、真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。
【請求項2】
真皮タンパク質のカルボニル化に関係する症状又は疾患を予防又は治療するための請求項1に記載の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。
【請求項3】
真皮タンパク質のカルボニル化に関係する症状又は疾患が、皮膚の黄色化であることを特徴とする請求項2に記載の真皮タンパク質カルボニル化抑制剤。

【公開番号】特開2012−246226(P2012−246226A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117203(P2011−117203)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】