説明

カルボラニルポルフィリンとその使用

本発明は、低毒性ホウ素化合物及び腫瘍の治療、視覚化及び診断における該化合物の使用方法に関する。より具体的には、本発明は、ハロゲン化物、アミン又はニトロ基を有する、低毒性のカルボラン含有ポルフィリン化合物と、とりわけ、脳、頭部及び頚部ならびにその周囲の組織の腫瘍を治療するためのホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、X線照射治療(XRT)及び光線力学療法(PDT)においての該化合物の使用方法に関する。また、本発明は、MRI、SPECT又はPETなどの腫瘍の撮像方法及び/又は診断方法での該カルボラン含有ポルフィリン化合物の使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の背景)
癌治療における放射線療法及び化学療法の効果は、治療剤が腫瘍細胞を選択的に標的とすることの難しさにより限界があった。現行の腫瘍治療方法では、正常な組織を温存しようとして放射線量及び/又は化学治療用量を最適量又は臨床上十分な量よりもかなり少ないレベルに制限してきた。それゆえ、単独での使用又は治療方法の一環として腫瘍細胞を選択的に標的として破壊することができる化合物の設計が、注目の研究分野である。
新生物組織に対するポルフィリン類の親和性は既に知られている。そのため、ポルフィリンを脳、頭部及び頚部の新生物並びに関連する腫瘍の治療におけるデリバリー剤として使用することに大きな関心が寄せられてきた。一般に、ポルフィリンは、着色芳香性テトラピロール化合物のグループに属し、植物及び動物中に天然に存在するものもあり、それぞれの例としてクロロフィル及びヘムが挙げられる。
比較的長い三重項寿命を有するポルフィリン及び他のテトラピロール類は、光線力学療法(PDT)を用いた悪性腫瘍の治療に既に使用されている。PDTでは、一般的にはポルフィリンを光増感剤として最初に患者に投与する。こうして腫瘍細胞を光増感させておくので、レーザー赤色光の強い光線が照射されると腫瘍細胞は壊れやすい。PDTにおける細胞破壊の生化学的メカニズムには一重項酸素が大きく仲介していると考えられる。この一重項酸素は、光励起状態のポルフィリン分子から酸素分子へエネルギーが転移されることにより生成される。しかしながら、赤色光の透過はその深さがわずか数ミリメートルと限界があることから、PDTには多大な限定があった。
多数の癌の形態に対し、X線照射治療(XRT)がもっとも一般的に用いられる放射線治療である。従来のXRTでは放射線増感剤を使わずに患者は分割X線放射線治療をうける。しかし、X線照射前に放射線増感剤を投与しておけば、腫瘍細胞は放射線感受状態となり、X線照射時に周囲の組織よりも破壊されやすい。X線は、組織を通過する際のエネルギー堆積速度から低LET(線エネルギー付与)放射線に分類される。現在、XRTで臨床的に使用されている化合物は、頭部及び頚部並びに他の致命的な癌の治療において高い腫瘍治癒率をまだ示していない。
【0002】
高LET放射線による癌治療の前途有望な新しい形態として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が挙げられ。BNCTは、ホウ素-10又は10Bとして知られている安定したホウ素の核種を腫瘍に選択的に集積させた後、熱中性子線を腫瘍に照射する、バイモーダル(bimodal)な癌治療法である。熱中性子がホウ素-10に衝突し、核分裂(崩壊反応decay reaction)を起こす。核分裂反応により、莫大な量のエネルギーが高(LET)放射線として高度に局所化して放出されるので、X線のような低LET放射線よりも効率的に細胞を殺傷することができる(相対的生物学的効果比が高い)。
ホウ素-10は、熱中性子に捕捉されると下記の核反応を起こす。
10B + n → 11
11B → 7Li + 4He + γ(478keV)
この核反応では、原子核ホウ素-10は中性子を捕捉し準安定の核種11Bを形成し、この核種が自然に、かつ、ほぼ瞬間的に4He−7Li粒子に分解される。この粒子は合計して2.34MeVの平均運動エネルギーを有する。この2種のイオン化された粒子は、軟組織において反対方向にそれぞれ9μm及び5μm(7±2μm)移動する。
この4He及び7Li粒子の移動距離は多くの腫瘍細胞及び腫瘍関連細胞の直径に相当する。したがって、BNCTの有効性は、高度に局所化した高LETイオン化放射エネルギーを腫瘍内に産出するところにある。そのため、標的腫瘍は放射線の高照射量を受ける一方、周囲の正常な組織は何の影響もうけない。
【0003】
脳腫瘍の場合、ホウ素化合物を投与した後、患者頭部の脳腫瘍の全体領域を入射ビーム又は熱外中性子(0.5eV〜10keV)に照射する。中性子は、頭部の深部へ侵入するにつれて、漸進的に熱中性子化する(平均エネルギー、約0.04eV)。中性子は熱中性子化すると、腫瘍細胞及び/又は腫瘍を支持する組織に集積したホウ素-10に捕獲されやすくなる。捕獲断面積は中性子速度に反比例するからである。
BNCTにおいて、ホウ素含有化合物が治療上の有効量で投与される場合、癌組織への選択的な集積が可能であるだけでなく、該化合物は無毒又は低毒性でなければならない。なければならない。BPAは化学的毒性が低いという長所はあるが、臨界部の正常な組織に集積するレベルが所望レベルに満たない。特に、ホウ素の集積比が腫瘍:正常な脳又は血液でおよそ3:1である。このように特殊性が低いと、腫瘍に対するBPAの最大用量には限界がある。これは正常な組織への許容用量が制限因子となるからである。
ポルフィリンは腫瘍の治療において有用なだけでなく、腫瘍の可視化及び診断においても有用である。ポルフィリン分子の長所は、その内部に金属イオンをキレート化することができるところである。このようにキレート化されたポルフィリンは、前記のほかに、ポルフィリンの集積をリアルタイムで監視する可視化の道具として、及び/又は、診断用物質として機能することが可能である。例えば、ポルフィリンを常磁性金属イオンにキレート化させれば、磁気共鳴映像法(MRI)の造影剤として機能することができる。また、放射性金属イオンにキレートさせれば、ポルフィリンは単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)又は陽電子放射断層撮影(PET)用の造影剤として機能することもできる。
さらに、キレート化したホウ素含有ポルフィリンをBNCTで使用すれば、照射治療容積の範囲で腫瘍内とその周辺並びにすべての組織におけるホウ素の集積及び分布を、照射前も照射中も正確かつ迅速に非侵襲的に求めることができる。このような診断情報に基づき、ホウ素レベルが高いことがわかった組織領域は熱外中性子による照射を減らせば、より迅速に、より正確に、より安全にBNCT治療を行うことができる。照射時間が短ければ、リアクターポートでの長時間にわたる往々にして厄介な頭部の位置決めといった不便で不快な作業を患者から取り除いてくれる。しかしながら、中性子は粒子加速器(accelerator)により作り出されたものの使用が期待されるが、その場合、著しく流量(flux)が低くなるので結果的に照射時間が長くなる。そこで、腫瘍内での滞留時間がより長い化合物が重要になる。
したがって、腫瘍に滞留する時間が長く、正常な組織をできるだけ損傷せずに腫瘍細胞を選択的に標的として破壊する新規な化合物、とりわけホウ素含有ポルフィリンが必要とされる。さらには、脳、頭部及び頚部腫瘍並びに関連の腫瘍を治療するためのより効果的な方法であって、特には、効果的なXRT及びBNCT治療でホウ素送達系化合物(boron-delivery compounds)を使用する治療方法が必要とされている。
【0004】
(発明の概要)
本発明は、低毒性のホウ素化合物(boronated compounds)及び、腫瘍の治療、可視化、診断における該化合物の使用方法に関する。より詳細には、本発明は、低毒性のカルボラン含有ニトロポルフィリン化合物と、脳、頭部及び頚部ならびにその周囲組織の腫瘍を治療するための、特にはホウ素中性子捕捉療法(BNCT)又はX線照射療法(XRT)での前記化合物の使用方法に関するものである。
とりわけ、本発明は下記式で表されるカルボラン含有ポルフィリン化合物に関する。
【0005】
【化1】

【0006】
式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基を示し、
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Yは独立してフェニル環のオルト、メタ又はパラ位で、水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
式(3)で表される置換基:
- X - (CR10R11)r - Z (3)
であって、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、Yが式(3)で表される式(2)の置換基であり、
Xは、酸素又は硫黄であり、
5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11はそれぞれ独立して水素及びC1〜C4のヒドロカルビルから選択され、
Zはケージ構造中に少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原子とを有するカルボランクラスターであり、
rは0又は1〜20の整数であり、
aは1〜4の整数を表し、
ただし、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンである置換基であり、
【0009】
Mは、2個の水素イオン、1個の一価金属イオン、2個の一価金属イオン、二価金属イオン、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンのいずれかの化合物であって、
1個の一価金属イオンから誘導されるポルフィリン金属錯体は、1個のカウンターカチオンにより電荷のつり合いがとれており、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンから誘導されるポルフィリン金属錯体は、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン又はトリアニオンにより電荷のつり合いがとれている。
【0010】
好ましくは、Zは-C2HB9H10又は-C2HB10H10のカルボランから選択され、-C2HB9H10はnido型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト−、メタ−、パラ−カルボランである。
Mはバナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、テクネチウム(Tc)、クロム(Cr)、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)、金(Au)、バリウム(Ba)、タングステン(W)又はガドリニウム(Gd)が好ましい。なかでも好ましい実施形態におけるMは銅(Cu)又はニッケル(Ni)である。
実施形態の1つにおいては、R1、R2、R3及びR4の2つが式(2)で表される置換基を表し、aが1であり、Yが式-X-(CR10R11)r-Zで表され、R10及びR11が水素であり、rが1であり、Zが-C2HB10H10であり、置換基-X-(CR10R11)r-Zはフェニル環のメタ位であり、R1〜R4のなかで式(2)で表されない2つは-NO2又は-Brであり、式(2)で表される置換基のほうはポルフィリン環でcis-配座にある。
【0011】
別の実施形態では、R1、R2、R3及びR4のうちの2つが式(2)で表される置換基を表し、aが1であり、Yが式-X-(CR10R11)r-Zで表され、R10及びR11が水素であり、rが1であり、Zが-C2HB10H10であり、置換基-X-(CR10R11)r-Zはフェニル環のメタ位であり、R1〜R4のなかで式(2)で表されない方の2つは-NO2又は-Brであり、式(2)で表される置換基のほうはポルフィリン環でtrans-配座にある。
さらに別の実施形態において、ポルフィリン化合物にカウンタージアニオンが必要な場合、該カウンタージアニオンが二価の陰電荷を含むポルフィリン化合物である。二価の陰電荷を有するポルフィリン化合物が本発明のカルボラン含有ポルフィリン化合物であってもよく、その場合はMがないことを前提とする。
また、本発明は、SPECT、PET又はMRIによる腫瘍の撮像方法、ならびに、前記ポルフィリン化合物1種以上を含む組成物を対象者に投与することを必要とする、BNCT、XRT及びPDT等のバイモーダルな癌治療方法に関する。好適な実施形態においては、該組成物が本質的に前記ポルフィリン化合物1種以上を含む。
(発明の詳細な説明)
本発明は、下記式で表されるカルボラン含有ニトロポルフィリン化合物に関する。
【0012】
【化3】

【0013】
式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基:
【0014】
【化4】

【0015】
を示すが、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、式(2)で表わされる置換基であり、かつ、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンである置換基である。
Yは独立してフェニル環のオルト及び/又はメタ位の片方又は両方にあるか、或いは、フェニル環のパラ位にあり、aは1〜4の整数である。Yは、水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9、又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、式(3)で表される置換基:
- X - (CR10R11)r - Z (3)
であって、Yの少なくとも1つは、式(3)で表わされる置換基である。
前記式(3)において、Xは酸素又は硫黄であり、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11はそれぞれ独立して、水素及びC1〜C4のヒドロカルビルから選択され、rは0又は1〜20の整数である。
Zはカルボランクラスターである。カルボランクラスターはホウ素原子及び炭素原子で構成される。カルボランは多角体である。
【0016】
Zは、ケージ構造中に、少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原子とを有する。カルボランクラスターの例としては、closo型構造として知られる正多角体カルボランクラスター、ならびにnido型構造としても公知の多角体のイオン化フラグメントが挙げられる。本発明の好適なカルボランとして-C2HB9H10又は-C2HB10H10が挙げられるが、-C2HB9H10はnido型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト−、メタ−、パラ−カルボランである。
ニトロ基又はハロゲン等の電子求引基をポルフィリン環のメソ(meso)位に直接結合させて付加すれば、ポルフィリン大環状分子の電子親和性が増すので、得られる化合物はX線放射線増感剤としてより効果的になる。
電子求引基としては、-NO2、-NH2、ハロゲンを挙げることができる。ハロゲンは塩素、フッ素、臭素又はヨウ素が挙げられる。ハロゲンは臭素が好ましい。
好適な実施形態においては、R1、R2、R3及びR4の2つが-NO2である。別の好適な実施形態ではR1、R2、R3及びR4の2つが-Brである。
ヒドロカルビルは炭素原子1〜20個を含む直鎖又は分岐のヒドロカルビル基であり、二重結合又は三重結合を3個まで含んでいてもよい。ヒドロカルビル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、3-ブチニル、2-メチル-2-ブテニル、n-ペンチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル及びエイコシルが挙げられる。
【0017】
ヒドロカルビル基は、無置換であるか、又はヒドロカルビル基が許容できる限りの数(例えば、1〜4個)の親水基で置換されていてもよい。好適な親水基の例としては、ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9、及びポリアルキレンオキシドが挙げられる。R5、R6、R7、R8及びR9はそれぞれ独立して、水素及びヒドロカルビル基から選択される。但し、R5、R6、R7、R8のヒドロカルビル基の炭素数が1〜4個であることを除いて前記で定義したとおりである。
また、ヒドロカルビル基の炭素原子は1〜4個のヘテロ原子で置換されていてもよい。本願明細書において、ヘテロ原子はO、S、N又はNR10を指す。R10は水素及び前記定義のヒドロカルビル基から選択される。通常、ヘテロ原子同士は隣接せずに、少なくとも1個の炭素原子によって離されていることが好ましい。2個の炭素原子に対してヘテロ原子が多くても1個が好ましい。
非芳香族炭素環式基又は複素環式基とは、4員、5員、6員、7員又は8員の炭素環式基又は複素環式基である。該環式基は飽和であってもよいし、或いは、炭素環式基が許容できる限りの数の不飽和結合(即ち、二重又は三重結合)を含んでいてもよい。
飽和炭素環式基の例としては、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンタン環式基が挙げられる。不飽和炭素環式基の例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、1,3-シクロヘプタジエン環式基が挙げられる。
複素環式基は、ヘテロ原子が許容できる限りの数(例えば、1〜4個)のヘテロ原子、即ち、O、S、N又はNR10を含む。飽和及び不飽和の非芳香族複素環式基の例としては、ピロリジニル、ピペリジン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、フラン、チオフェン、1,3-オキサゾリジン、イミダゾール及びピロール環が挙げられる。複素環式基は前記に定義したヒドロカルビルで置換されていてもよく、又は、前記に定義した1〜4個の親水基で置換されていてもよい。
【0018】
非芳香族炭素環式基又は複素環式基は二環式基であるとよい。炭素環式基の例としては、ビシクロ[2.2.2.]オクタン、ビシクロ[3.1.1.]ヘプタン、ビシクロ[3.3.0.]オクタン、ビシクロ[4.3.0.]ノン-3-エンが挙げられる。非芳香族複素環式基としては、1,4-アザビシクロ[2.2.2.]オクタン及び2-アザビシクロ[3.1.1.]ヘプタンが挙げられる。
アリール基は芳香族炭素環式基又は複素環式基のいずれかが挙げられる。芳香族炭素環式基は、好ましくはフェニル基である。
アリール環は前記定義のヒドロカルビルで置換されていてもよく、アルキルアリール又はアリールアルキル基を形成していてもよい。アリール、アルキルアリール及びアリールアルキル基は前記定義の親水基1〜4個で置換されていてもよい。
芳香族複素環式基は1〜4個のヘテロ原子、即ち、O、S、N又はNR10を含む。芳香族複素環式基は一般に5員、6員又は7員環である。芳香族複素環式基の例としては、チオフェン、ピリジン、オキサゾール、チアゾール、オキサジン及びピラジン環が挙げられる。芳香族複素環式基は前記定義の1〜4個の親水基で置換されていてもよい。
前記の環はいずれも更なる1〜3個の5員、6員又は7員のアリール環と縮合してもよい。縮合環の例としては、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、トリフェニレン、クリセン、インドリン、キノリン及びテトラアザナフタレン(プテリジン)環が挙げられる。
本願明細書においては、アルコキシ基には前記に定義したヒドロカルビル部位が含まれる。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ及びドデシルオキシが挙げられる。
【0019】
ポリアルキレンオキシドは、式-(CH2)d-O-[(CH2)e-O-]x-[(CH2)f-O-]y-(CH2)g-OR'で定義され、式中、独立してdは0又は1〜10の整数、eは0又は1〜10の整数、fは1〜10、gは1〜10、x及びyはそれぞれ独立して1又は0、R’は水素又は前記定義のヒドロカルビル基のいずれかを表し、eが0の場合はxが0となり、fが0の場合はyが0となり、eが0ではない場合はxが1となり、fが0でない場合はyが1となる。
本発明の好適なポリアルキレンオキシドはポリエチレンオキシドである。ポリエチレンオキシドは、式-(CH2)d-O-[(CH2)e-O-]x-[(CH2)f-O-]y-(CH2)g-OR'(式中、独立してdは0又は2、eは0又は2、fは0又は2、gは2、x及びyはそれぞれ独立して1又は0、R’は水素又はエチル基のいずれかで、eが0の場合はxが0となり、fが0の場合はyが0となり、eが0ではない場合はxが1となり、fが0でない場合はyが1となる)で定義される。
式(1)において、Mは2個の水素イオン、1個の一価金属イオン又は2個の一価金属イオンであるとよい。好適な一価金属イオンとしては、Li+1、Na+1、K+1、Cu+1、Ag+1、Au+1及びTl+1が挙げられる。Mが1個の一価金属イオンである場合、得られるポルフィリン金属錯体アニオンはカウンターカチオンにより電荷がつり合う。カウンターカチオンの例としては、上述の一価金属イオン及びアンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオンが挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウムが挙げられる。カウンターカチオンはいずれかの形態でポルフィリン金属錯体と結合又は会合していてもよい。
また、Mは二価金属イオンでもよい。好適な二価金属イオンとしては、V+2、Mn+2、Fe+2、Ru+2、Co+2、Ni+2、Cu+2、Pd+2、Pt+2、Zn+2、Ca+2、Mg+2、Sr+2、Ba+2が挙げられる。
【0020】
或いは、Mは三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン又は六価金属イオンでもよい。好適な三価金属イオンの例としては、Gd+3、Y+3、In+3、Cr+3、Ga+3、Al+3、Eu+3及びDy+3が挙げられる。好適な四価金属イオンの例としては、Tc+4、Ge+4、Sn+4及びPt+4が挙げられる。好適な五価金属イオンの例としてはTc+5が挙げられる。好適な六価金属イオンの例としては、W+6、Tc+6及びMo+6が挙げられる。
こうして得られたポルフィリン金属錯体カチオンは、適正な数のカウンターアニオンにより電荷のつり合いがとれている。アニオンはモノアニオン、ジアニオン又はトリアニオンであってもよい。例えば、3価の金属イオンから誘導されたポルフィリン金属錯体は1個のカウンターモノアニオンで、また、4価の金属イオンから誘導された錯体の場合は、例えば、1個のカウンタージアニオン又は2個のカウンターモノアニオンで、電荷をつり合わせることができる。
好適なカウンターモノアニオンの例としては、クロリド、パークロレート、スルフェート、ニトレート、テトラフルオロボレートが挙げられる。カウンタージアニオンの好適な例としては、オキシド、スルフィド、又は、二価の負電荷を含むポルフィリン化合物が挙げられる。二価の負電荷を含むポルフィリン化合物は、Mがないことを前提とした本発明のポルフィリン化合物であってもよい。カウンタートリアニオンの好適な例としては、ホスフェートが挙げられる。
カウンターモノアニオン、ジアニオン又はトリアニオンは、本発明のカルボラン含有ポルフィリン化合物といずれかの形態で結合又は会合してもよい。また、カルボラン含有ポルフィリン化合物は、中性の分子、例えば、溶媒和の分子である水、アセトニトリル、メタノール等と結合又は会合してもよい。
【0021】
Mは、単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)又は陽電子放射断層撮影(PET)により撮像が可能な放射性金属イオンでもよい。SPECTに適した放射性金属の例としては67Cu、99mTc、111Inで、PET用としては64Cu、55Coが挙げられる。また、Mは治療用放射性医薬品として有用な放射性金属でもよい。このような治療に適した放射性金属の例としては、90Y、188Re、67Cuが挙げられる。
また、Mは磁気共鳴映像法(MRI)で検出可能な常磁性金属であってもよい。このような金属の例として、Mn、Fe、Co及びGdが挙げられる。
さらに、Mは、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、X線照射治療(XRT)、光線力学療法(PDT)或いはこれらの組み合わせに適した金属イオンでもよい。BNCTに適した金属イオンとしては前述の金属イオンが挙げられるが、ZnやSnのように光活性金属イオンは除く。光活性金属、とりわけ三重項状態が長命である光活性金属はPDTに好適である。BNCTでの投与量はPDTでの量にくらべて100〜1000倍多いので、こうした光活性金属をBNCTに使用すると、結果として光活性金属が皮膚中に著しく集積することがある。このような光活性金属の集積は生物学的な損傷を与える可能性がある。そのため、ZnやSn等の光活性金属は、皮膚への蓄積が少なくても皮膚への損傷の原因となることがあるのでBNCT又はXRTには望ましくない。Cu、Co又はNi等の非光活性金属であれば好ましい。さらには、XRTの場合、Pt又はAuのように高Zイオンであると、それらのK吸収端よりもX線のエネルギーが大きい場合、細胞殺傷効果が更に大きくなる。
【0022】
また、本発明は腫瘍の治療方法に関する。好適な実施形態において、悪性腫瘍、特に脳腫瘍の治療方法はBNCTである。悪性脳腫瘍のBNCTについては、ホウ素キャリアーとしてp-ホウ素化フェニルアラニン(BPA)を使用した臨床実験がブルックヘブン国立研究所医学部で行われた(Chanana等、Neurosurgery, 44, 1182-1192, 1999)。
Chanana等の論文のBNCTについての記述を、引用により本願明細書の記載に含まれるものとする。この分野の当業者であれば、該方法を本発明の化合物に適用することは容易である。
本発明の方法による悪性脳腫瘍のBNCTにおいては、例えば、まずホウ素-10を高濃度に含む式(1)で表されるカルボラン含有ポルフィリンを患者に注入する。カルボラン含有ポルフィリンは放射線の有効照射容積範囲内で脳腫瘍に優先的に集積されるが、この範囲は、脳腫瘍の場合は脳のなかの実質的な部分であればよい。例えば、大脳の半球の大部分もしくは全体に位置する腫瘍や対側半球の一部又は全体に位置する腫瘍に、ホウ素化ポルフィリンを集積させることができる。
その後、腫瘍領域に熱中性子化させた中性子を照射する(第一の照射)。中性子の一部は腫瘍に集積していたホウ素-10に捕獲される。腫瘍組織のホウ素-10の濃度が30μg/gより多ければ、移動速度の遅い熱中性子がホウ素-10核種に捕獲される相対的な確率は、哺乳動物の組織に通常存在する他のいずれの核種に捕獲される確率よりも高い。
腫瘍内又は腫瘍の周りに存在するホウ素-10核種が中性子を捕獲した直後に核反応を起こすのは極めてわずかな割合である。そのため、BNCTを臨床上有効なものとするには、標的となる組織中のホウ素-10を高濃度にする必要である。そこで、標的組織中のホウ素-10濃度を最大限にするためには、カルボランクラスターのホウ素-10濃度を高くする。具体的には、カルボランクラスター中のホウ素は、ホウ素-10の含有率を少なくとも95atom%まで高くする。
【0023】
癌治療に関して先行技術よりも本発明が優れている点は、現在臨床的に使用されているホウ素含有化合物よりも、本発明のホウ素含有ポルフィリンが新生細胞中に高い濃度で選択的に集積し、正常な脳や血液よりも腫瘍へのホウ素の集積性が高いことである。
さらに、生体内実験を続けてきた本発明のポルフィリン化合物は、理論上の治療有効投与量においては毒性がない。本発明のカルボラン含有ポルフィリン化合物は選択性が高くなるほど、また、毒性が低くなるほど、照射時に腫瘍組織を選択的に破壊し、正常な組織とその機能の崩壊を最小限におさえることが見込まれる。
本発明のカルボラン含有ポルフィリンのもう一つの長所は極性が大きいことである。これは極性基NO2、NH2及びハロゲンにより付与される極性である。このような基の大きな極性によって、ポリフィリン化合物の親油性が低下するので、投与の際の乳化用共溶媒の量を減らすことができる。そのため、腫瘍細胞内の微少局在を向上させ、相対的な生物学的効果を上げることができる。HPLCの結果によると、ジニトロポルフィリン及びジブロモポルフィリンは、銅テトラ-フェニル-カルボラニルポルフィリン(CuTCPH)又は銅オクタブロモ-テトラカルボラニル-フェニルポルフィリン(CuTCPBr)よりも保持時間が短く極性が大きい。
さらには、ポルフィリンのXが酸素である場合、本発明のカルボラン含有ポルフィリンのエーテル結合は炭素-炭素結合よりも極性が高いので、親油性が更に低下する。同時に、エーテル結合には、加水分解や他の化学的攻撃の形態に対して炭素-炭素結合と同じくらいの耐性がある。
【0024】
必要量の本発明による化合物を腫瘍中に集積させるために、通常、約10〜50mg/体重のホウ素-10を医薬的に許容できる担体中に含む全身性の注射又は輸液を患者に投与する。担体として、市販の溶媒であるCremophor EL、プロピレングリコール、Tween 80、ポリエチレングリコール又はリポソームを挙げることができる。該化合物は1回以上の回数で投与するが、最終投与が、熱外中性子の照射よりもおよそ1時間〜1週間前になるようにする。
中性子の照射のタイミングは血中のポルフィリン濃度によって決める。血中のポルフィリン濃度は、腫瘍中のポルフィリン濃度に比べて時間の経過とともに急速に降下する。カルボラン含有ポルフィリンを投与するタイミングは、BNCT臨床治療分野の当業者には公知である考慮すべき様々な点、即ち、該化合物の薬物動態学的挙動(例えば、腫瘍内や腫瘍脈管構造内への化合物の吸収速度等)、ならびに、該化合物を吸収する腫瘍や他の様々な組織からの排出速度及び/又は該化合物を吸収する腫瘍や他の様々な組織における化合物の代謝速度をはじめとする点に左右される。
別の好ましい実施形態においては、本発明の悪性腫瘍の治療方法はXRTである。通常、XRTとは、何週間にもわたるLETの低いX線を多数分割照射する従来からの放射線療法である。さらに、ガンマナイフのような放射線外科手術も含むもので、これは分割を減らし一括照射で行うこともある。いずれの場合も、放射線照射に先立ちバイモーダル治療として照射促進剤を投与することができる。現在のところ、こうした促進剤にはニトロイミダゾール又はGdテキサフィリンなどの化合物が含まれる。本発明では、促進剤は、基本的に治療領域内の腫瘍組織にポルフィリンを選択的に集積させるので、後続の放射線照射では、周囲の正常な組織に優先して腫瘍組織が選択的に損傷されるものである。
【0025】
別の好適な実施形態では、本発明の悪性腫瘍の治療方法はPDTである。PDTは、最初にポルフィリンを選択的に腫瘍に集積させた後、レーザー赤色光を腫瘍に照射するバイモーダル型の癌治療方法である。光で活性化するとポルフィリンの電子が励起し、一重項基底状態から一重項励起状態にかわる。その後、電子は一重項基底状態に戻り蛍光を発光するか、或いは、三重項への項間交差を介してスピンを変化させる。三重項から一重項基底状態へ減衰する際に、基底状態の三重項二酸素にエネルギーを伝達し、反応性の高い一重項酸素を形成することができる。一重項酸素ときわめて速やかに反応する生体分子としては、不飽和脂質とアルファアミノ酸残基が挙げられるが、これらはいずれも生体膜の主要構成物質である。可逆的又は修復可能なある一定の閾値を超えると、生体膜、とりわけ内皮細胞膜への損傷は局所的な血管内血栓や血液循環の遮断につながることがある。
本発明においてPDTを用いる場合、まず最初に、光増感剤である式(1)のカルボラン含有ポルフィリンを患者に注入又は輸液する。その後、光ファイバープローブを使って腫瘍組織に光をあてる。悪性腫瘍の場合、PDT光増感剤の吸光ピークが非常に長波長にあり腫瘍深部に最大限透過することが好ましい。
好適な実施形態の1つでは、SPECT又はPETで悪性腫瘍の治療的処理の効果を上げる。SPECTでは、式(1)の化合物(式中、Mがガンマ放出する放射性金属イオンである)を最初に患者に注入又は輸液する。その後、患者の頭部を非侵襲的に走査すると、放射性核種濃度、即ち、間接的にはホウ素平均濃度が脳又は脳腫瘍組織を表すピクセル又はボクセルで画像化される。これによって、ホウ素-10濃度が等しい領域を示す輪郭線を脳の各図に引くことができる。
脳のSPECTは、従来のX線撮影又はコンピュータによる断層撮影に比べて、同位体トレーサーに対し少なくとも一桁は感度が高い。さらに、従来のX線撮影による結果と異なり、SPECTの結果は分析することで、BNCTの治療計画及び実施に適したホウ素濃度から、明確な体積又は脳画像のボクセルのいずれかで表された量的情報が得られる。SPECT走査により患者に腫瘍があるかどうかがわかると同時に、脳内又は脳以外の体内における腫瘍の位置が示される。SPECT走査は非侵襲的であり、かつ、迅速で簡便である。
【0026】
しかしながら、陽電子射出断層撮影PETの撮像が可能な放射性同位体Cu-64は、SPECTで使用されるCu-67よりも容易に入手できる。Cu-64の方が極めて入手しやすいことから、ここではCu-64の標識のポルフィリンを使ってPETの前臨床試験を行ってきた。
別の好適な実施形態においては、MRIを使用して悪性腫瘍の治療処理を向上させる。MRIでは、まず最初に好適な常磁性金属イオンにキレート化した式(1)のカルボラン含有ポルフィリンを含む溶液を患者に注入又は輸液する。脳腫瘍の場合、患者の頭部を走査して、脳内の常磁性金属イオンの濃度、即ち、ホウ素濃度を画像化して定量化する。本発明の化合物を利用したMRIは速やかなターゲッティングが可能となり、輸液前、輸液中や輸液後の血液、腫瘍及び健康な組織中にホウ素化合物が再分布されている最中にBNCTでの中性子照射の治療計画を行うことが可能である。
本発明のカルボラン含有ポルフィリンは個々の工程を連続して合成される。まずは、本発明の好適なカルボラン含有ニトロポルフィリン(式中、R1、R2、R3及びR4のうち2個はカルボラニルメトキシフェニル基を示し、残りの2個はニトロ基である)の調製に必要な合成工程の概要を下記に示す。当該分野の当業者であればこの反応条件を容易に見極めることができるであろう。
具体例では本発明の化合物の好適な合成方法を説明する。本発明の範囲はいずれの場合も本願明細書に記載の実施例に限定されるものではない。例えば、カルボラニルポルフィリンアミン類及びカルボラニルポルフィリンハロゲン化物は、異なる出発物質の混合物を使用し、反応式2に示すようにリンゼー法による環化などと同様の合成反応を用いて行うことにより合成することができる。
反応式1
【0027】
【化5】

【0028】
前記式中、XはO又はSで、Zは少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原子とを含むか、或いは、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原子とを含む、ケージ構造のカルボランクラスターを表す。リンゼー法による環化条件を用いて、ジクロロメタン(DCM)等の非極性の中性溶媒中、三フッ化ホウ素等のルイス酸又はトリフルオロ酢酸等のブレーンステッド酸を酸触媒として用いた。例えば、カルボランクラスターは-C2HB9H10又は-C2HB10H10であってもよく、-C2HB9H10はnido型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト−、メタ−、パラ−カルボランである。
反応式2
【0029】
【化6】

【0030】
前記式中、X及びZは前記定義の通りである。Qは-NO2、-NH2又はハロゲンである。反応の詳細については、下記の実施例4及び6を参照する。
反応式3
【0031】
【化7】

【0032】
前記式中、X、Z及びQは前記定義の通りである。好適な実施形態において、Mはバナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、テクネチウム(Tc)、クロム(Cr)、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、スズ(Sn)、イットリウム(Y)、金(Au)、バリウム(Ba)、タングステン(W)及びガドリニウム(Gd)からなる群から選択される。さらに好適な実施形態において、Mは銅(Cu)又はニッケル(Ni)である。使用する金属塩には、金属イオンMがポルフィリンにキレート化して含まれる。例えば、Mが所望の銅となる化合物にするには、酢酸銅、即ちCu(OAc2).H2Oを金属塩として使用すればよい。溶媒Aは、ポルフィリンと金属塩とを少なくとも部分的に溶解することができ、かつ、金属をポルフィリンに合体させることを妨害しない溶媒又は溶媒混合物である。
ポルフィリンVは反応式1〜3を用いて調製した。合成の詳細については、下記実施例1〜5を参照する。ポルフィリンVは下記の構造を有する。
【0033】
【化8】

【0034】
上記ポルフィリンVでは、R1とR3が-NO2、R2とR4が式(2)で表される。Yは式(3)で表され、R10とR11が水素、rが1、Zが-C2HB10H10カルボラン、Yはフェニル環のメタ位にあり、MがCuである。
ポルフィリンVIIは反応式1〜3を用いて調製した。合成の詳細については、下記実施例1〜4及び6〜7を参照する。ポルフィリンVIIは下記の構造を有する。
【0035】
【化9】

【0036】
上記ポルフィリンVIIでは、R1とR3が-Br、R2とR4が式(2)で表される。Yは式(3)で表され、R10とR11が水素、rが1、Zが-C2HB10H10カルボラン、Yはフェニル環のメタ位にあり、MがCuである。
(実施例)
本発明を説明し、現時点での本発明の最良の様態を記載する目的で、実施例を下記に示す。本発明の範囲はいずれも本願明細書記載の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
ピロロメタン(I)の合成
ピロロメタンIを、Clezy and Smythe, Aust J Chem, 1969, 22, 239及びBruckner et al, J Porph Phthal, 1998, 2, 455に記載の手順にしたがって調製した。簡潔に言うと、ピロールとチオホスゲンから合成したジピリルチオンを水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元し、ピロロメタン(I)を得た。
【実施例2】
【0038】
3-o-カルボラニルメトキシベンズアルデヒド(II)の合成
3-o-カルボラニルメトキシベンズアルデヒド(II)を、Miura et al, Tet Let, 1990, 31, 2247-2250に記載の方法を用いて合成した。
【実施例3】
【0039】
ジカルボラニルフェニルポルフィリン(III)
文献Bruckner et al, J Porph Phthal, 1998, 2, 455に記載のものと同様の手順にしたがった。マグネチックスターラーを備えた乾燥した清潔な250mlのフラスコ中、ピロメタン(I)(97mg、0.66mmol)を無水DCM(120mL)に溶解させた。この溶液を攪拌しながら10分間窒素ガスを投入して脱酸素化を行った。3-o-カルボラニルメトキシベンズアルデヒド(II)(172mg、0.699mmol)を添加し、さらに5分間溶液の脱酸素化を行った。トリフルオロ酢酸(TFA)(11.5mL、0.155mmol)を加えて、溶液を室温で窒素雰囲気下、一晩攪拌状態にした。およそ18時間後、p-クロロアニル(500mg、2.03mmol)を添加すると、溶液はすぐに暗い赤紫色になった。溶液を1時間還流させたところ、所望のポルフィリンであることが吸光スペクトルからわかった。簡単に精製するために、水性重亜硫酸ナトリウを添加して、過剰なp-クロロアニルをヒドロキノンに還元した。10分後、DCMで希釈して反応を終了させ、有機層を水/塩水で数回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒分を取り除き、赤色の残渣をメタノールとともに粉砕してヒドロキノンを取り除く。紫色の固形物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ、30%ヘキサン/DCM)により精製し、およそ27mgの収量を得た(収率:約9%)。
この生成物は、以下の陽子核磁気共鳴(1H NMR)スペクトル(ppm)を示した(溶媒CDCl3):10.344 (s, 2H, メチン H); 9.419 (d (J = 4.6Hz), 4H, ピロール H); 9.058, (d (J = 4.6Hz), 4H, ピロール H); 7.973 (d (J = 7.1Hz), 2H, ArH); 7.720-7.768 (m, 6H, ArH); 4.656 (s, 4H, OCH2-カルボラン); 4.220 (s, 2H, カルボラン CH); 1.5-2.9 (br m, 20H, BH) -3.177 (s, 2H, NH)。生成物の紫外−可視吸収スペクトル(ジクロロメタン溶媒中)では、波長406、502、535、574nmにピークが現れた。
【実施例4】
【0040】
5,15-ジニトロ-10,20-ビス(3-[o-カルボラニルメトキシフェニル)ポルフィリン(IV)の合成
文献Arnold et al, Aus J Chem, 1997, 50, 495-503に記載のものと同様の手順に従った。攪拌バーを備えた乾燥した清潔な100mlのフラスコ中、窒素雰囲気下でジカルボラニルフェニルポルフィリン(III)(20mg、0.025mmol)を、無水1,2-ジクロロエタン(DCE)(15mL)と無水アセトニトリル(15mL)とに溶解させた。アセトニトリル(5mL)に溶解させたヨウ素(64mg、0.25mmol)を前記ポルフィリン溶液に添加し、1時間還流温度で攪拌した。このとき、亜硝酸銀(80mg、0.53mmol)を含むアセトニトリル(5mL)をポルフィリン溶液に加え、さらに2時間還流温度で攪拌し、その後、室温で一晩攪拌した。TLC(シリカ、30%ヘキサン/DCM)では、ほぼ同じRfに新規な生成物が見られたが、赤色ではなく緑色であった。光スペクトルから所望の生成物であることがわかった。反応混合物を焼結ガラスで濾過し、溶媒分を真空下で除去した。残渣をクロロホルムに溶解し、短いシリカパッドで溶離させた。
この生成物は、以下の陽子核磁気共鳴(1H NMR)スペクトル(ppm)を示した(溶媒CDCl3):9.31 (d (J = 4.1Hz) 4H, ピロール H); 9.00 (d (J = 4.1Hz), 4H, ピロール H); 7.889 (m, 2H, ArH); 7.739-7.778 (m, 2H, ArH); 7.65-7.671 (m, 2H, ArH); 7.339-7.365 (m, 2H, ArH); 4.650 (s, 4H, OCH2-カルボラン); 3.490 (s, 2H, カルボラン CH); 1.5-2.9 (br m, 20H, BH); -3.10 (s, 2H, NH)。生成物の紫外−可視吸収スペクトル(ジクロロメタン溶媒中)では、波長421、513、555、589、652nmにピークが現れた。
【実施例5】
【0041】
銅(II)5,15-ジニトロ-10,20-ビス(3-[o-カルボラニルメトキシ]フェニル)ポルフィリン(V)の合成
遊離塩基5,15-ジニトロ-10,20-ビス(3-[o-カルボラニルメトキシ]フェニル)ポルフィリン(IV)をクロロホルムに溶解し、そこに酢酸銅(II)一水和物を添加した。この混合物を還流温度で一晩攪拌した。光学分光により完全なメタレーションがわかった。DCMで希釈し、水で3回洗浄し、乾燥させ(無水硫酸ナトリウム)、溶媒分を取り除き反応を終了させた。
生成物の紫外−可視吸収スペクトル(ジクロロメタン溶媒中)では、波長426、545、583nmにピークが現れた。
【実施例6】
【0042】
5,15-ジブロモ-10,20-ビス(3-[o-カルボラニルメトキシ]フェニル)ポルフィリン(VI)の合成
文献C. Liu et al. (Chem Comm 2006, 770 - 772)に記載のものと同様の手順で、ジカルボラニルポルフィリンIIIをN-ブロモスクシンイミド(NBS)で処理し、出発物質のポルフィリンIV(126mg、0.156mmol)をDCMとメタノールとの混合物(9/1v/v、30mL)に溶解させた。この溶液を室温で攪拌しながら、NBS(55.6mg、0.312mmol)を添加した。およそ15分後、吸光スペクトル及びTLC(DCM中、50%ヘキサン)には出発物質が見られなかった。光スペクトルにはソーレー帯が406nmから421nmへと赤色側へシフトしていた。また、TLCでは極性が低くなった生成物が示された。水を添加して反応系を冷却して反応を終わらせた。DCMを溶離液とするシリカパッドを使い、粗生成物精製した。さらに精製するために、DCMに不溶であった生成物(48mg)を濾過して取り出したものと、分取TLC(シリカ、ヘキサン中10%の酢酸エチル)により精製した生成物(44mg)とを合わせた。HPLC分析によると、濾過した生成物の純度は90%であり、TLCによる生成物の純度は83%であった。合計の収量は純度100%として84mgであった(収率53%)。
陽子NMRによると、メソプロトン(meso protons)は既に存在していないことがわかった。(1H NMR)スペクトル(ppm)(溶媒CDCl3):9.628 (d (J = 3.6Hz) 4H, ピロール H); 8.815 (d (J = 4.4Hz), 4H, ピロール H); 7.867 (d, 2H, ArH); 7.654-7.725 (m, 4H, ArH); 7.296-7.324 (m, 2H, ArH); 4.628 (s, 4H, OCH2-カルボラン); 4.190 (s, 2H, カルボラン CH); 1.5-3.0 (br m, 20H, BH); -2.766 (s, 2H, NH)
【実施例7】
【0043】
銅(II)5,15-ジブロモ-10,20-ビス(3-[o-カルボラニルメトキシ]フェニル)ポルフィリン(VII)の合成
実施例5に記載の手順と同様にして、酢酸銅を用いてジブロモポルフィリンVI遊離塩基を金属酸塩化し銅(II)ポルフィリンを形成した。124mgの銅ポルフィリンVIIを、HPLC分析により純度90%で得た。紫外−可視吸収スペクトル(DCMλmax):418、546nm。C38H42N4O2B20Br2Cuは1026.330必要である。ディスラノールマトリックス中のMALDI-TOF:m/z = 1026.93
【実施例8】
【0044】
ポルフィリン溶液の調製
9%のクレモフォールELと18%のプロピレングリコールとを含む塩水に、ポルフィリン化合物(V)を乳化させた。
9%クレモフォールEL(CRM)と18%プロピレングリコール(PRG)中に濃度約3.7mg/mLのポルフィリンを含む溶液を調製するため、ポルフィリンをテトラヒドロフラン(THF)(全容積の1.5%)に溶解させた。その後15分間40℃に加熱した。CRM(全容積の9%)をさらに添加して、混合物を60℃で2時間加熱してTHFをおおかた取り除いた。室温に冷却した後、PRG(全容積の18%)を添加し、高速で攪拌しながら塩水(全容積の71.5%)をゆっくりと滴下した。真空下(約30mmHg)、30〜60分間攪拌しながら溶液の脱ガス処理を行った後、濾過した(Millipore、8μm)。
【実施例9】
【0045】
EMT-6癌腫を移植したマウスにおけるポルフィリン化合物Vの生体内分布
胸部背面に皮下埋め込みによりEMT-6乳癌を移植したBALB/cマウスに、総用量105mg/体重kg(23.7mg B/kg)のポリフィリン化合物Vを投与した。最終投与から1日後と2日後にマウスを安楽死させてホウ素分析のため腫瘍、血液、脳及び肝臓を取り出した。血液は最初に毒性を表す血液学的パラメータを分析してからホウ素の分析を行った。表1に、BALB/cマウスから採取した異なる組織のホウ素平均濃度を示す。
表1
用量105mg/kg(23.7mg B/kg)のポルフィリン化合物Vを8時間にわたって3回腹腔内注入したマウス(n=5)の、最終注入から1日後、2日後の様々な組織におけるホウ素平均濃度(湿った組織1gあたりのμg)。数値は平均標準偏差として示す。
【0046】
【表1】

【実施例10】
【0047】
ポルフィリンVによる体重の変化と血液学的パラメータ
表2
用量105mg/kg(23.7mg B/kg)のポルフィリン化合物Vを注入されたマウスにおける、最終注入から1日後、2日後の体重変化と血液学的パラメータ。数値は平均標準偏差として示す。
【0048】
【表2】

【0049】
生体内分布についてのこの予備調査の結果から、BNCT及びXRTのいずれにおいても、ポルフィリン化合物Vが有望な増感剤の候補であることがわかる。注入の1日後では腫瘍と血液におけるホウ素濃度比は1:1であるが、注入から2日後には30:1を超える上昇を示している。ポルフィリンの用量が約100mg/kg(24mg/kg B)と比較的低用量でも、相当量のホウ素(約50ppm)が腫瘍に送達されていた。これに対し、肝臓や脾臓での値は、低用量から予期していた量よりもさらに低い。ホウ素とポルフィリンによる腫瘍標的性は、湿った組織1グラムあたりの腫瘍に注入された量の割合(約10.5%/g)で計測した場合、このクラスのポルフィリンで最も研究されてきたCuTCPHが同じ腫瘍モデルにおいて6.1%/gという値を示すことから、これに比べてかなり効率的であると考えられる。
【実施例11】
【0050】
EMT-6癌腫を有するマウスにおけるポルフィリン化合物VIIの生体内分布
8時間にわたり3回の腹腔内注入で、全用量をわずかに増やして143mg/体重kgにしたことを除き実施例8と同様にして、腫瘍を移植したマウスに化合物VIIを投与した。
表3
用量143mg/kg(30mg B/kg)のポルフィリン化合物VIIを8時間にわたって3回腹腔内注入したマウス(n=5)の、最終注入から1日後、2日後の様々な組織におけるホウ素平均濃度(湿った組織1gあたりのμg)。数値は平均標準偏差として示す。
【0051】
【表3】

【実施例12】
【0052】
表4
用量143mg/kg(30mg B/kg)のポルフィリン化合物VIIを注入されたマウスにおける、最終注入から1日後、2日後の体重変化と血液学的パラメータ。数値は平均標準偏差として示す。
【0053】
【表4】

【0054】
表3に示すポルフィリンVIIの生体内分布データによると、メソ位に4個のテトラカルボラニルフェニル部位を有する他の親油性ポルフィリンと同様に、本発明の2個のテトラカルボラニルフェニル部位を有するポルフィリンは、腫瘍組織に送達することができるホウ素及びポルフィリンの量が多いことがわかる。最終注入から1日後では腫瘍と血液におけるホウ素濃度比は1:1より低かったが、2日後には約7:1に上昇し、腫瘍におけるホウ素濃度は若干上がった。なんらかの毒性がポルフィリンと結びついたとしても、この用量であればほとんど毒性はない。
本発明のより好適な実施形態について説明してきたが、この分野の当業者であれば本発明の精神から逸脱することなく、本願明細書に記載の請求の範囲に入るすべての更なる実施形態及び変形をはじめとする他の実施形態が把握できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基を示し、
【化2】

前記式中、
Yは独立してフェニル環のオルト、メタ又はパラ位に位置し、独立して水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
式(3)で表される置換基を示し、
- X - (CR10R11)r - Z (3)
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、Yが式(3)で表される式(2)の置換基であり、
Xは、酸素又は硫黄であり、
5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立して水素及びC1〜C4のヒ
ドロカルビルから選択され、
Zは、ケージ構造中に少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原
子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原
子とを有するカルボランクラスターであり、
rは0又は1〜20の整数であり、
aは1〜4の整数を表し、
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンである置換基であり、
Mは、2個の水素イオン、1個の一価金属イオン、2個の一価金属イオン、二価金属イオン、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンのいずれかである)化合物であって、
ポルフィリン金属錯体が1個の一価金属イオンから誘導される場合、1個のカウンターカチオンにより電荷のつり合いがとれており、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンから誘導される場合は、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン又はトリアニオンにより電荷のつり合いがとれている、前記化合物。
【請求項2】
前記Zが、-C2HB9H10又は-C2HB10H10のカルボランから選択され、-C2HB9H10はnido型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記Mが、ラジオアイソトープ型照射治療に有用であるか、単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)又は陽電子放射断層撮影(PET)により撮像化が可能な放射性金属イオン、磁気共鳴映像法(MRI)で検出可能な常磁性金属イオン、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、X線照射治療(XRT)又は光線力学療法(PDT)に適した金属イオン、或いは、これらの組合わせであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
前記Mが、バナジウム、マンガン、鉄、ルテニウム、テクネチウム、クロム、白金、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、イットリウム、金、バリウム、タングステン又はガドリニウムである、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
前記式中、
i. R1、R2、R3及びR4の2つが式(2)で表される置換基を表し、
ii. aが1であり、
iii. Yが式(3)で表され、
iv. Yがフェニル環のメタ位にあり、
v. R1〜R4のなかで式(2)で表されない2つが-NO2又は-NH2又はハロゲンであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項6】
式(2)で表される前記置換基がシス配座にある、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
式(2)で表される前記置換基がトランス配座にある、請求項5記載の化合物。
【請求項8】
前記R1〜R4のなかで式(2)で表されない2つが-NO2又は-Brである、請求項7記載の化合物。
【請求項9】
前記Zが、-C2HB9H10又は-C2HB10H10のカルボランから選択され、-C2HB9H10はnido型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであることを特徴とする、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
前記Mが、バナジウム、マンガン、鉄、ルテニウム、テクネチウム、クロム、白金、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、イットリウム、金、バリウム、タングステン又はガドリニウムである、請求項9記載の化合物。
【請求項11】
前記Xが酸素であり、R10及びR11が水素であり、rが1である、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
対象中の腫瘍及び周囲組織の撮像方法であって、下記式:
【化3】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基を示し、
【化4】

前記式中、
Yは独立してフェニル環のオルト、メタ又はパラ位に位置し、独立して水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
式(3)で表される置換基を示し、
- X - (CR10R11)r - Z (3)
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、Yが式(3)で表される式(2)の置換基であり、
Xは、酸素又は硫黄であり、
5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立して水素及びC1〜C4のヒ
ドロカルビルから選択され、
Zは、ケージ構造中に少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原
子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原
子とを有するカルボランクラスターであり、
rは0又は1〜20の整数であり、
aは1〜4の整数であり、
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンである置換基であり、
Mは、2個の水素イオン、1個の一価金属イオン、2個の一価金属イオン、二価金属イオン、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンのいずれかである)で表される化合物であって、
1個の一価金属イオンから誘導されるポルフィリン金属錯体は、1個のカウンターカチオンにより電荷のつり合いがとれており、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンから誘導されるポルフィリン金属錯体は、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン又はトリアニオンにより電荷のつり合いがとれている化合物を含む組成物を前記対象に投与し、前記対象を撮像することを特徴とする方法。
【請求項13】
対象中の腫瘍及び周囲組織の撮像方法であって、下記式:
【化5】

(式中、
i. R1、R2、R3及びR4の2つが式(2)で表される置換基を表し、
ii. aが1であり、
iii. Yが式(3)で表され、
iv. Yがフェニル環のメタ位にあり、
v. R1〜R4のなかで式(2)で表されない2つが-NO2又は-Brであり、
vi. 式(2)で表される前記置換基がトランス配座にあり、
vii. Zが-C2HB9H10又は-C2HB10H10のカルボランから選択され、-C2HB9H10はnido
型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト
−、メタ−、パラ−カルボランであり、
viii. Mがバナジウム、マンガン、鉄、ルテニウム、テクネチウム、クロム、白
金、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、イッ
トリウム、金、バリウム、タングステン又はガドリニウムであり、
ix. Xが酸素、R10及びR11が水素、rが1を示す)で表される化合物を含む組成物を前記対象に投与し、前記対象を撮像することを特徴とする方法。
【請求項14】
前記撮像化が、磁気共鳴映像法(MRI)、単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)又は陽電子放射断層撮影(PET)方法から選択される方法によることを特徴とする、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
対象内のバイモーダル型癌治療方法であって、下記式:
【化6】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基を示し、
【化7】

前記式中、Yは独立してフェニル環のオルト、メタ又はパラ位に位置し、独立して水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
式(3)で表される置換基を示し、
- X - (CR10R11)r - Z (3)
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、Yが式(3)で表される式(2)の置換基であり、
Xは、酸素又は硫黄であり、
5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立して水素及びC1〜C4のヒ
ドロカルビルから選択され、
Zは、ケージ構造中に少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原
子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原
子とを有するカルボランクラスターであり、
rは0又は1〜20の整数であり、
aは1〜4の整数を表し、
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンである置換基であり、
Mは、2個の水素イオン、1個の一価金属イオン、2個の一価金属イオン、二価金属イオン、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンのいずれかである)で表される化合物であって、
1個の一価金属イオンから誘導されるポルフィリン金属錯体は、1個のカウンターカチオンにより電荷のつり合いがとれており、三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン、六価金属イオンから誘導されるポルフィリン金属錯体は、適切な数のカウンターアニオン、ジアニオン又はトリアニオンにより電荷のつり合いがとれている化合物を含む組成物を前記対象に投与し、前記対象に照射することを含む前記癌治療方法。
【請求項16】
対象内のバイモーダル型癌治療方法であって、下記式:
【化8】

(式中、
i. R1、R2、R3及びR4の2つが式(2)で表される置換基を表し、
ii. aが1であり、
iii. Yが式(3)で表され、
iv. Yがフェニル環のメタ位にあり、
v. R1〜R4のなかで式(2)で表されない2つが-NO2又は-Brであり、
vi. 式(2)で表される前記置換基がトランス配座にあり、
vii. Zが-C2HB9H10又は-C2HB10H10のカルボランから選択され、-C2HB9H10はnido
型オルト−、メタ−、パラ−カルボランであり、-C2HB10H10はcloso型オルト
−、メタ−、パラ−カルボランであり、
viii. Mがバナジウム、マンガン、鉄、ルテニウム、テクネチウム、クロム、白金
、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、イット
リウム、金、バリウム、タングステン又はガドリニウムであり、
ix. Xが酸素であり、R10及びR11が水素であり、rが1を示す)で表される化合物を含む組成物を前記対象に投与し、前記対象に照射を行うことを含む前記癌治療方法。
【請求項17】
前記照射が、熱中性子又は熱外中性子或いはレーザー赤色光を利用した方法によることを特徴とした、請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
前記バイモーダル型癌治療がホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を含む、請求項15又は16記載の方法。
【請求項19】
前記バイモーダル型癌治療が光線力学療法(PDT)を含む、請求項15又は16記載の方法。
【請求項20】
前記バイモーダル型癌治療がX線照射治療(XRT)を含む、請求項15又は16記載の方法。
【請求項21】
前記バイモーダル型癌治療が、単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)又は陽電子放射断層撮影(PET)を利用し、式中MがSPECT及び/又はPETでの画像化が可能な放射性金属イオンである、請求項15又は16記載の方法。
【請求項22】
前記バイモーダル型癌治療が、磁気共鳴映像法(MRI)を利用し、式中Mが常磁性金属イオンである、請求項15又は16記載の方法。
【請求項23】
下記式:
【化9】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基を示し、
【化10】

前記式中、Yは独立してフェニル環のオルト、メタ又はパラ位に位置し、独立して水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
式(3)で表される置換基を示し、
- X - (CR10R11)r - Z (3)
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、Yが式(3)で表される式(2)の置換基であり、
Xは、酸素又は硫黄であり、
5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立して水素及びC1〜C4のヒ
ドロカルビルから選択され、
Zは、ケージ構造中に少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原
子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原
子とを有するカルボランクラスターであり、
rは0又は1〜20の整数であり、
aは1〜4の整数を表し、
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンで表される置換基であり、
Mは三価金属イオン、四価金属イオン、五価金属イオン又は六価金属イオンである)で表される化合物であって、前記ポルフィリン金属錯体が、2価の負電荷を含む1個以上のポルフィリン化合物により電荷のつり合いがとれている前記化合物。
【請求項24】
前記2価の負電荷を含むポルフィリン化合物が、下記式:
【化11】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して-NO2、-NH2、ハロゲン又は下記式で表される置換基を示し、
【化12】

前記式中、Yは独立してフェニル環のオルト、メタ又はパラ位に位置し、独立して水素、ヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
ヒドロキシ、アルコキシ、-C(O)OR5、-SOR6、-SO2R6、ニトロ、アミド、ウレイド、カルバメート、-SR7、-NR8R9又はポリアルキレンオキシドから選択される1〜4個の親水基で置換されたヒドロカルビル、非芳香族炭素環式基、非芳香族複素環式基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、或いは、
式(3)で表される置換基を示し、
- X - (CR10R11)r - Z (3)
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、Yが式(3)で表される式(2)の置換基であり、
Xは、酸素又は硫黄であり、
5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は独立して水素及びC1〜C4のヒ
ドロカルビルから選択され、
Zは、ケージ構造中に少なくとも2個の炭素原子と少なくとも3個のホウ素原
子とを有するか、又は、少なくとも1個の炭素原子と少なくとも5個のホウ素原
子とを有するカルボランクラスターであり、
rは0又は1〜20の整数であり、
aは1〜4の整数を表し、
1、R2、R3及びR4の少なくとも1つは、-NO2、-NH2又はハロゲンである置換基である)で表される、請求項23記載の化合物。

【公表番号】特表2010−511704(P2010−511704A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540246(P2009−540246)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/024767
【国際公開番号】WO2008/133664
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(309040310)ブルックヘヴン サイエンス アソシエイツ リミテッド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】