説明

カルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体およびその製造方法

【課題】優れた水溶解性を有するカルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体を提供すること。
【解決手段】シクロデキストリン誘導体と、カルボラン修飾コウジ酸の錯体を調製する。調製には、シクロデキストリン誘導体と、カルボラン修飾コウジ酸との混合物を振動させる工程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、特にホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いられるシクロデキストリン誘導体と7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの錯体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用した癌の治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が注目を集めている。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(たとえば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的にかつ確実に取り込まれるホウ素化合物を開発することが必要となる。
【0003】
従来、BNCTに用いる薬剤として基本骨格にホウ素原子またはホウ素原子団を導入したホウ素含有化合物が種々合成されている。これまでのところ、実際の臨床で用いられている薬剤として、p−ボロノフェニルアラニン(BPA)やメルカプトウンデカハイドロドデカボレート(BSH)がある。
【0004】
一方、その他の化合物として、カルボランなどが注目されている。しかしながら、カルボランは水に難溶で、細胞選択性もないため細胞に導入することや、ガン細胞の周りに集積させることは困難である。このためこれまでに細胞選択性や水溶性の向上、置換基修飾など様々な研究がなされている(非特許文献1-8および特許文献1)。
【0005】
特にメラノサイトなどへの細胞集積性が知られており、細胞導入リガンドとしての作用が期待されるコウジ酸構造を導入したカルボラン誘導体が合成されているが、その低い水溶性のため、十分な評価に至っていない(非特許文献9〜10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−222585号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. B. Kaul, R.A. Kaser, J. Am. Chem. Soc., 118, 1223 (1996).
【非特許文献2】P. D. Godfrey,W. J. Crigsby, P. J. Nichols, C. L. Raston, J. Am. Chem. Soc., 119, 9283(1997).
【非特許文献3】A. Harada, S. Takahashi, J. Chem. Commun.,12, 1352 (1988).
【非特許文献4】M-J. Hardie,C-L. Raston., J. Chem. Commun., 12, 1153 (1999).
【非特許文献5】M-J. Hardie,C-L. Raston., Eur. J. Inorg. Chem., 12, 195 (1999).
【非特許文献6】L. Craciun, R.Custelcean, Inorg. Chem, 38, 4916 (1999).
【非特許文献7】L. Deng, H-S.Chan, Z. Xie, J. Am. Chem. Soc, 128, 5219. (2006).
【非特許文献8】A. H. Soloway,W. T. Beverly, A, Barnum, F-G. Rong, R-F. Barth, I-W. Codogni, J. G. Wilson,Chem. Rev., 98, 1515 (1998).
【非特許文献9】S. Parves, M.K. Kang, H.S. Chung, C.W.Cho, M.C.Hong, M.K.Shin, H.Bae, PHYTOTHER. Res., 20, 921 (2006)
【非特許文献10】H. Nakao, M. Kirihata, M. Kobayashi, Y.Kitaoka, Adv. Neutron Capture Ther., 1132, B126 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コウジ酸を含むカルボラン誘導体は、低水溶性の為に、生物活性評価すら困難であり、有用性に乏しい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、安定性に優れ、BNCTに実用化し得るような水溶性に富んだカルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、このようなカルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリン誘導体とカルボラン−コウジ酸化合物との錯体が、高い水溶解性と安定性および安全性を確保するのに好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、シクロデキストリン誘導体と、
【化1】


(ここで、Rは、水素、ボロン、メチル基またはエチル基を表わし、 R2は、水素、メチルカルボニル、アリールカルボニル基を表わす。)
または
【化2】


(ここで、Rは、水素、アリールカルボニル、またはメチルカルボニルを表わす。)との錯体、に関する。
ここで、化学式中黒丸はCを表わし、白丸はBHを表わす(以下同じ)。
【0013】
本発明はまた、シクロデキストリン誘導体と、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの錯体、に関する。
【0014】
上記シクロデキストリン誘導体は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される1種であり得る。
【0015】
本発明はまた、上記錯体を含むホウ素中性子捕捉療法用組成物、に関する。
【0016】
本発明はまた、シクロデキストリン誘導体と、
【化3】


(ここで、Rは、水素、ボロン、メチル基またはエチル基を表わし、 R2は、水素、メチルカルボニル、アリールカルボニル基を表わす。)
または
【化4】


(ここで、Rは、水素、アリールカルボニル、またはメチルカルボニルを表わす。)との錯体の製造方法であって、混合物を振動または撹拌させる工程を含む製造方法、に関する。
【0017】
本発明はまた、シクロデキストリン誘導体と、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの錯体の製造方法であって、
シクロデキストリン誘導体と、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの混合物を振動または撹拌させる工程を含む製造方法、に関する。
【0018】
上記シクロデキストリン誘導体は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される1種であり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシクロデキストリン誘導体と、カルボラン修飾コウジ酸の錯体は、水溶性および安定性にすぐれ、ヒトや動物への投与にも許容できる特性を有し、特にBNCTに有用である。また、カルボラン修飾コウジ酸単独で示される毒性が劇的に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】可溶化剤シクロデキストリン及びCKA錯体の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】o-カルボランとメチル-β-シクロデキストリンの錯体の培養細胞に対する細胞活性を示す図である。
【図3】CKAとメチル-β-シクロデキストリンの錯体の培養細胞に対する細胞活性を示す図である。
【図4】CKAとヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの錯体の培養細胞に対する細胞活性を示す図である。
【図5】KACMEヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの錯体の培養細胞に対する細胞活性を示す図である。
【図6】BNCTにおいて、CKA/ヒドロプロピル−β−シクロデキストリン包接錯体を用いた坦癌マウスのBNCTの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明でいうシクロデキストリン誘導体とは、ブドウ糖が環状に連なっている構造を有するオリゴ糖を指し、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの誘導体のいずれも含まれる。それらのメチル化やヒドロキシプロピル化した誘導体が特に好ましく用いられ得る。特に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される1種であることが好ましい。
【0022】
本発明のカルボラン修飾コウジ酸は、
【化5】


(ここで、Rは、水素、ボロン、メチル基またはエチル基を表わし、 R2は、水素、メチルカルボニル、アリールカルボニル基を表わす。)
または
【化6】


(ここで、Rは、水素、アリールカルボニル、またはメチルカルボニルを表わす。)で表わされる化合物である。ここでいうアリールは、好ましくはフェノール、あるいは、アルキル基1置換、2置換、または3置換のフェノール、またはハロゲン置換フェノールなどを指すが、特に限定されない。
【0023】
好ましくは、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルを指す。
【0024】
本発明においては、このようなカルボラン修飾コウジ酸とシクロデキストリン誘導体とを、水溶液中にて混合することによって、カルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体が調製され得る。ここで、調製では、好ましくは、混合液の振動または撹拌工程が含まれ、特に、高速振動粉砕法またはボルテックス法による懸濁液の調製工程、DMSOなどの極性有機溶媒でシクロデキストリン誘導体と化合物両方を溶解しておき、水溶液に置換していく、溶媒置換法が含まれることが好ましい。さらにこのようにして得られた液を、例えば遠心分離して上清を回収すると、可溶化した錯体の回収が可能となる。
【0025】
この他、固体状態の化合物同士をそのまま混合したり、振動させたり、撹拌混合させることで、本発明の錯体を調製することも可能である。
【0026】
さらには、錯体を製造する様々な方法をいずれも採用することが可能であり、そのような錯体の製造方法には、噴霧乾燥、凍結乾燥、飽和水溶液法、混練法、混合粉砕法、のいずれも、含まれる。
【0027】
例えば、飽和水溶液法とは、シクロデキストリン誘導体の飽和水溶液中でカルボラン修飾コウジ酸を投入し、撹拌混合する方法である。混練法においては、シクロデキストリン誘導体と水およびカルボラン修飾コウジ酸を混練し、包接錯体を得る方法である。噴霧乾燥法においては、シクロデキストリン誘導体またはシクロデキストリン誘導体を含む多糖水溶液とカルボラン修飾コウジ酸を噴霧乾燥して、包接錯体を含む粉体を得る方法である。
【0028】
いずれの場合においても、工業的には、ブレードと回転ブレードとスクリューとの組合せを有する装置、ボールミル、V型混合機、スクリュー混合機などを使用することができる。
【0029】
カルボラン修飾コウジ酸の可溶化剤としては、シクロデキストリン誘導体の他に、多糖類(β-1,3-グルカン、デキストラン)、オリゴ糖(シクロアミロース)なども用いられ得る。
【0030】
ここで、水溶液は、好ましくは水であるが、溶媒を含む水溶液、エタノール、DMSO、グリセロール、エチレングリコール、ポリエチレングリコールなどを含んでもよい。
【0031】
7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルなどのカルボラン修飾コウジ酸とシクロデキストリン誘導体は、重量比で、1:2〜1:10、好ましくは、1:3〜1:5の割合で、水溶液中に含有させて、本発明のカルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体を調製することができる。
【0032】
7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルなどのカルボラン修飾コウジ酸とシクロデキストリン誘導体との錯体は、その量比にもよるが、例えば水中に、少なくとも、20〜50ppm存在させることができる。シクロデキストリン誘導体の量が7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルの3倍以上、好ましくは5倍以上存在する場合には、100ppmあるいはそれ以上、条件により、3000ppm〜4000ppm存在させることができる。
【0033】
本発明においては、このようにして調製される錯体を含むホウ素中性子捕捉療法用組成物を調製することができる。
【0034】
本発明のホウ素中性子捕捉療法用組成物は、どのような形態でもよいが、液状が好ましい。液状の場合には、水性、アルコール性、その他のいずれの液でもよいが、水性液であることが好ましい。
【0035】
本発明の組成物が液状の場合のpHは、生体への投与を考慮して、中性付近のpHであることが好ましい。より具体的には、4から8の範囲であり、好ましくは6.5〜7.5、特には7.4付近である。但し、経口剤として用いられる場合には、より低いpHでもよい。調節には必要に応じて、当該技術分野で用いられる適当なpH調節剤(塩酸、炭酸水素ナトリウムなど)、緩衝剤などを使用してもよい。
【0036】
本発明の組成物の浸透圧比は特に限定されないが、生理食塩水対比で、1から2までの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1.1から1.4の範囲である。この範囲にある場合には、注射剤の場合、痛みの軽減や投与時間の短縮が可能になる。
【0037】
本発明の組成物中には、その生体内外での安定性を図る為、適宜、生体に含まれていても良い各種金属イオンが含まれていてもよい。好ましくは、ナトリウムイオンが含まれており、その濃度は、特に限定はされないが、130mEq/Lから160mEq/Lが特に好ましい。細胞内液と細胞外液の電解質バランスが大きく崩れないように体液のNaイオン濃度範囲に近いこの数値範囲が好ましい。
【0038】
本発明の組成物には、必要に応じて、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝剤を加えてもよい。これらの緩衝剤は、製剤の安定化や刺激性の低下に有用な場合がある。
【0039】
さらに本発明の組成物には、本発明の目的に反しないかぎり、通常、当該技術分野で用いられる他の成分を、必要に応じて含有させることができる。そのような成分として、通常、液体、特に水性の組成物に用いられる添加剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸カリウム、塩酸クロロヘキシジン等の保存剤、エデト酸Na等の安定化剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ショ糖、ブドウ糖等の等張化剤、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン等の等張剤、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤が挙げられる。
【0040】
本発明の組成物は、ホウ素中性子療法に用いられる医薬品として、点鼻剤、口腔用剤、膣用剤、座剤、注射剤等の形をとりうる。
【0041】
すなわち、本発明の組成物を医薬品として用いる場合、液剤等による経口投与、又は、動注、静注、筋注等の注射剤 、坐剤、経皮用製剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。その非経口投与としては、静脈内、筋肉内、皮下、組織内、鼻腔内、皮内、点滴注入、脳内、直腸内、膣内、腹腔内投与等が挙げられる。
【0042】
製剤は、散剤 、顆粒剤 、細粒剤 、ドライシロップ剤 、錠剤 、カプセル剤 、注射剤、注射剤用乾燥固体、液剤などのいずれの形態にもなり得る。また、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により、適切な賦形剤 ;崩壊剤;結合剤;滑沢剤;希釈剤;リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、および他の有機酸またはそれらの塩のような緩衝剤緩衝剤;等張化剤;防腐剤;湿潤剤;乳化剤;分散剤;安定化剤;溶解補助剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニン);単糖、二糖および他の炭水化物(セルロースまたはその誘導体、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);対イオン(例えば、ナトリウム);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポロキサマー)、などの医薬品添加物と適宜混合または希釈・溶解することにより調剤することができる。等張性および化学的安定性を増強するこのような物質は、使用された投薬量および濃度においてレシピエントに対して非毒性である。
【0043】
投与形態が経口である場合、組成物は固体でも液体でもあり得るが、液体の場合が特に好ましく、その場合には、上記材料のうち、特に、薬学的に許容される乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な溶剤、例えば、精製水、エタノールを含む。この組成物 は不活性な溶剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、保存剤を含有していてもよい。
【0044】
非経口投与のための注射剤が液体の場合としては、一定量の有効成分を分散剤(例えば、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウム等)、保存剤(例えば、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノール等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム,グリセリン,D−マンニトール、グルコース等)等と共に水性溶剤(例えば、注射用蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油,ゴマ油,綿実油,トウモロコシ油等の植物油、プロピレングリコール等)等に溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造される。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム,酢酸ナトリウム等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン等)、無痛化剤(例えば、ベンジルアルコール等)等の添加物を用いてもよい。更に必要に応じて抗酸化剤、着色剤等や他の添加剤を含有せしめてもよい。
【0045】
また、「薬学的に許容される担体」を用いることもできる。このような物質としては、液状製剤における、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、ゲル化剤等の製剤添加物を常法に従って用いることもできる。
【0046】
「抗酸化剤」の好適な例としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸等が挙げられる。「等張化剤」の好適な例としては、例えば、グルコース、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられる。
【0047】
「溶解補助剤」の好適な例としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
「溶剤」の好適な例としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール等が用いられる。
【0049】
「懸濁化剤」の好適な例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が例示できる。
【0050】
「界面活性剤」として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。
「無痛化剤」の好適な例としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0051】
「保存剤」の好適な例としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
【0052】
処方および投与のための技術は、例えば、日本薬局方の最新版および最新追補、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
下記実施例に示す方法では、まず、製造例1で得られた7−o−カルボラニルコウジ酸およびコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルを合成し、さらにこれらのカルボラン修飾コウジ酸を用いて、カルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体を調製した。その後、これらのカルボラン修飾コウジ酸/シクロデキストリン包接錯体について、可溶化率および毒性評価を行った。
【0055】
(製造例1) I. 7-o-カルボラニルコウジ酸 (CKA) の合成
本発明の7-o-カルボニルコウジ酸 (CKA)は、下記の構造を有する化合物を指す。
【化7】

【0056】
(1)o-カルボラニルトリブチルスズ (1)の合成
【化8】



o-カルボラン(100 mg、0.70 mmol)を無水テトラヒドロフラン(8 ml)に溶解し、アルゴン気流下 -78°に冷却した。ここに、n-ブチルリチウムのテトラヒドロフラン溶液(0.46 ml、0.78 mmol)を30分間かけて滴下し、さらに同温度で90分間攪拌を続けた。この反応溶液に、塩化n-トリブチルスズ(0.20 ml、0.72 mmol)を10分間かけて滴下し、同温度で5分間攪拌した。冷却バスを取り去って、反応温度を室温まで上昇させ、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物に水とジエチルエーテルを加え抽出した。有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ジエチルエーテルを減圧下で留去した。この粗生成物をシリカゲルカラムを用いて精製し、純粋なo−カルボラニルトリブチルスズ(270 mg、90%)を油状物質として得た。
【0057】
分析値
1H-NMR(CDCl3) δ: 0.91 (9H, t, J=7.2 Hz, CH3)、0.99-3.10 (37H, m)、3.23 (1H,s)
13C-NMR (CD3OD)δ: 11.8、13.5、27.2、28.3
IR (cm-1): 2961、2921、2873、2855、2593、1463、1417、1378、1072、1021、721、673
【0058】
(2)コウジ酸ベンジルエーテル(2)の合成
(5-Benzyloxy-2-hydroxymethyl-4H-pyran-4-one)
【化9】

【0059】
窒素気流下、無水メタノール(200 ml)と金属ナトリウム(2.3 g、0.1 atm)から調整したナトリウムメチラート溶液に、コウジ酸(14.2 g、0.1 mol)を加え、室温で2時間攪拌した。この溶液に、塩化ベンジル(13 ml、0.11 mmol)を滴下し、3時間、加熱還流した。次いで、この反応液に、氷冷下で水500mlを加え、析出した結晶を吸引濾取した。この粗結晶をエタノールから再結晶化して2(13g、74%)を無色針状結晶として得た。
【0060】
また、別法として、以下の方法も可能であった。
【化10】


コウジ酸(20.0 g、0.14 mol)のメタノール溶液(140ml)に、水酸化ナトリウム水溶液(14 ml、6.2 g、0.155 mo)を加え、加熱還流下、塩化ベンジル(19.7g、0.155mol)を滴下して、一昼夜、還流を続けた。反応液を減圧濃縮し、残査に水(200ml)を加えて、固形物を吸引濾取した。この粗結晶をメタノールから再結晶化して2(23.0g、71%)を無色針状結晶として得た。
【0061】
2の分析値
Mp: 131-133 ℃
1H-NMR (CDCl3) δ: 3.73 (1H, t, J=6.5 Hz, -OH)、4.43 (2H, d, J=6.5 Hz, -CH2O-)、5.03 (2H, s, PhCH2-)、6.52 (1H, s, 3-H), 7.29-7.38 (5H, m, C6H5)、7.51(1H, s, 6-H)
13C-NMR (CD3OD)δ: 60.9、72.4、111.9、129.1、129.3、129.5、137.1、142.9、148.2、170.5、176.8
IR (cm-1): 3323、3112、2906、2838、1646、1605、1502、1457、1445、139、 1329、1261、1236、1207、1151、1083、1021、949、867、839、 779、744、697、587、535
【0062】
3)5-ベンジルオキシ-2-ホルミル-4H-ピラン-4-オン (3)の合成
(5-Benzyloxy-2-formyl-4H-pyran-4-one)
【化11】

【0063】
2(13 g、56 mmol) の ベンゼン(90 ml)溶液に、二酸化マンガン(100 g)を加えて、4時間、加熱還流した。反応液をセライトを用いて吸引濾過し、濾液を減圧下で濃縮して粗生成物を得、これを、酢酸エチルーヘキサンから再結晶して、アルデヒド3(11 g、83%)を無色プリズム状結晶として得た。
【0064】
別法として、以下の方法も可能であった。
【化12】

【0065】
2(10.0 g、43 mmol)のクロロホルム(200ml)溶液に、のトリエチルアミン(36.8 ml、265 mmol)、およびジメチルスルホキシド(54ml)を加え、5 ℃に冷却した。ここに、三酸化硫黄ピリジン錯体(34.2g、215 mmol)を加え、室温下で一晩攪拌を続けた。反応液を、水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧下で留去した。残査をシリカゲルカラムにより精製して、純粋な3(8.1 g、81%)を無色結晶として得た。
【0066】
3の分析値
Mp: 120-121 ℃ 1H-NMR (CDCl3) δ: 5.13 (2H, s, PhCH2), 6.99 (1H, s, 3-H), 7.34-7.40 (5H,m, C6H5), 7.66 (1H, s, 6-H), 9.64 (1H, s, CHO)
13C-NMR (CD3OD) δ: 72.1、120.1、127.9、128.8、129.0、135.1、141.4、141.5、 141.6、149.2、155.7、174.2、184.0
IR (cm-1): 3100、2852、1718、1656、1620、1589、1500、1463、1455、1392、1299、1211、1191、1143、1018、939、870、744
【0067】
(4)7-o-カルボラニルコウジ酸ベンジルエーテル (4)の合成
(5-Benzyloxy-5-(1’-o-carboranyl-1’-hydroxy)methyl-4H-pyran-4-one)
【化13】



アルゴン気流で置換した合成フラスコに、1(0.7 g、1.6 mmol)、3(0.29 g、1.2 mmol)およびテトラヒロドフラン(15 ml)を入れ撹拌した。この溶液に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム(0.28 g、0.27 mmol)および1,2-ビスジフェニルホスフィノエタン DPPE(0.21 g、0.54 mmol)を加え、3時間還流した。反応液を減圧下で濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムにより精製して、純粋な4(0.45 mg、94%)を無色プリズム状結晶として得た。
【0068】
4の分析値
Mp: 213-216
1H-NMR (CDCl3) δ: 1.00-3.30 (11H, m, carborane)、4.79 (1H, br s, OH)、5.12 (1H, s, 7-H)、5.14 (2H, s, PhCH2)、6.69 (1H, s, 3-H)、7.40−7.56 (5H, m, C6H5)、8.18 (1H, s, 6-H)
13C-NMR (CD3OD):δ:60.9、71.7、72.6、77.9、113.7、129.3、129.6、137.0, 142.7、148.9、167.1、176.4
IR (cm-1): 3298、3119、3101、3050、2940、2871、2603、2581、1642、1597、1455、1257、1213、1164、1109、988、961、833、749、700
【0069】
(5)7-o-カルボラニルコウジ酸(CKA)の合成
(7-o-Caboranylkojic acid)
{2-(1’-o-Carboranyl-1’-hydroxy)methyl-5-hydroxy-4H-pyran-4-one}
【化14】



10%−パラジウム炭素(30 mg)を加えた4(100 mg、0.26 mmol)のメタノール溶液を中圧還元装置に附して、室温下、4 kg/cm2水素圧下で4時間攪拌した。パラジウム炭素触媒を吸引濾去し、濾液を減圧濃縮して粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムにより精製して、CKA(270 mg、90%)を無色プリズム状結晶として得た。
【0070】
CKA の分析値
Mp: 98-100 ℃
1H-NMR (CDCl3): δ: 1.00-3.30 (11H, m, carborane)、4.78 (1H, m, CH2O)、
5.12 (1H, s, CH)、6.67 (1H, s, 3-H)、8.10 (1H, s, 6-H)
13C-NMR (CD3OD) δ: 60.9、71.8、78.0、112.4、140.6、148.2、166.9、176.3
IR (cm-1) : 3285、3085、2975、2925、2599、1724、1614、1572、1466、1394、
1256、1213、1158、1077、875、834、718
FABMS: m/z 285 (M+ +1)

【0071】
(製造例2)
II. コウジ酸o-カルボラニルメチルエーテル(KACME)の合成
{5-(o-Carboranyl)methoxy-2-hydroxymethyl-4H-pyran-4-oneの合成}
コウジ酸o-カルボラニルメチルエーテルは、以下のような構造を有する化合物である。
【化15】

【0072】
(1)コウジ酸プロピニルエーテル(5)の合成
{2-Hydroxymethyl-5-propynyloxy-4H-pyran-4-one}
【化16】

【0073】
無水メタノール(100 ml)と金属ナトリウム(0.80 g、35 atm)から調整したナトリウムメチラート溶液に、窒素気流下、コウジ酸(5.00 g、35 mmol)を加え、90分間撹拌した。白色の沈殿が生じた反応液に、3-ブロモプロピン(3.44 ml、38.7 mmol)をゆっくり滴下し、滴下終了後、8時間60 ℃に加熱撹拌した。反応液を減圧濃縮して、残査に黄色油状物を得た。これに、水(15 ml)加え、酢酸エチル(20 ml × 10)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝で乾燥、濃縮し、得られた油状物をシリカゲルカラムにより精製して、純粋な5(5.90 g, 93%)を結晶として得た。
【0074】
5の分析値
Mp: 90−92 ℃
1H-NMR (CDCl3) □: 2.58 (1H, t, J=2.4 Hz, CH)、4.50 (2H, s, J=5.8 Hz, CH2O)、
4.73(2H, d, J=2.4 Hz, CH2C)、4.85 (2H, t, J=6.4 Hz, OH)、
6.55 (1H, s, 3-H), 7.82 (1H, s, 6-H)
13C-NMR (CD3OD) : 57.4、60.1、76.2、76.6、111.7、142.6、145.2、168.1、174.9 IR (cm-1): 3279、3256、2134、1646、1607、1591、1230、1205、1161、1034、
1002、972、923、878、745、673
【0075】
(2)2-Benzoxymethyl-5-propynyloxy-4H-pyran-4-one (6)の合成
【化17】

【0076】
5(2.00 g、11 mmol)、ジメチルアミノピリジン(0.10 g)およびピリジンの混合溶液(50 ml)を 0 ℃に冷却し、ここに、塩化ベンゾイル(1.35 ml、11 mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、反応液を室温(20 ℃)に戻して1時間撹拌した。減圧で濃縮して過剰のピリジンを留去し、残査油状物を希塩酸に注ぎ入れた。これを酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝による乾燥を経て、溶媒を留去した。得られた残査をシリカゲルカラム(酢酸エチル : ヘキサン = 2 : 8−3 : 7)で精製して、6(2.84 g、90%)を結晶として得た。
【0077】
6の分析値
Mp: 74 ℃
1H-NMR (CDCl3): 2.58 (1H, t, J=2.4 Hz, CH)、4.78 (2H, d, J=2.4 Hz, CH2C)、
5.17 (2H, s, CH2OBz)、6.55 (1H, s, 3-H)、7.48 (2H, t, J=7.6
Hz, m-C6H5)、7.62 (1H, t, J=7.3 Hz, p-C6H5)、7.85 (1H, s, 6-H)、
8.08 (2H, d, J=7.6 Hz, o-C6H5)
13C-NMR (CD3OD): 57.8、61.2、77.1、77.2、114.3、128.5、128.6、129.8、133.7、
143.2、145.9、161.9、165.4、174.2
IR (cm-1): 3243、3081、2135、1725、1645、1615、1595、1453、1439、1266、
1249、1215、1166、1107、1096、1071、995、970、921、884、732、
717、702、690
【0078】
(3)2-Benzoxymethyl-5-o-carboranylmethoxy-4H-pyran-4-one (7)の合成
【化18】



アルゴン気流下、6(0.55 g、1.9 mmol)とデカボラン(0.24 g、1.9 mmol)を無水プロピオニトリル(6 ml)に溶解し、20 ℃で 4時間、次いで、60 ℃で 12時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮して粗生成物を得、これをシリカゲルカラム(酢酸エチル : ヘキサン = 2 : 8)により精製して、純粋な 7(0.24 g、32%)を無色結晶として得た。
【0079】
7の分析値
Mp: 122 ℃
1H-NMR (CDCl3) : 1.10■3.30 (10H, m, B-H)、4.31 (1H, broad, carborane C-H)、
4.46 (2H, s, CH2)、5.16 (2H, d, J=0.6 Hz, CH2OBz)、6.53 (1H,
s, 3-H)、7.45■7.51 (2H, m, m-C6H5)、7.59■7.66 (1H, m,
p-C6H5)、7.80 (1H, s, 6-H)、8.04■8.08 (2H, m, o-C6H5)
13C-NMR (CD3OD): 58.3、61.2、71.9、115.0、128.5、128.6、129.8、133.8、145.3、
146.5、162.5、165.4、173.9
IR (cm-1): 3220、3071、2597、1731、1663、1628、1455、1270、1233、1210、
1177、1105、1095、1028、709
【0080】
(4)コウジ酸o-カルボラニルメチルエーテル(KACME)の合成
{5-(o-Carboranyl)methoxy-2-hydroxymethyl-4H-pyran-4-one}
【化19】

【0081】
0 ℃に冷却した7(1.00 g, 2.48 mmol)の無水メタノール(20 ml)溶液に、90%ナトリウムメトキシド(0.15 g, 2.48 mmol)を加えて、同じ温度で5分間撹拌した後、20 ℃で 50分間撹拌を続けた。この反応溶液に 0.2規定塩酸を加えてpH 7に調整し、酢酸エチル(50 ml × 2)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝で乾燥して減圧濃縮して粗生成物を得た。これをシリカゲルカラム(酢酸エチル : ヘキサン = 1 : 1)により精製して、純粋な KACME(0.59 g, 80%)を得た。
【0082】
KACME の分析値
Mp: 136 ℃
1H-NMR (CDCl3) : 1.10−3.30(10H, m, B-H)、2.67(1H, t,J=6.3 Hz, OH)、
4.34 (1H, broad s, carborane C-H)、4.44 (2H, s, CH2)、4.50
(2H, d, J=5.5 Hz, CH2OH)、6.52(1H, s, 3-H)、7.78(1H, s,
6-H)
13C-NMR (CD3OD) : 58.2、60.6、71.7、71.9、113.1、145.0、146.3、167.5、174.5
IR (cm-1): 3299、3058、2608、2583、2553、1659、1642、1619、1593、1449、
1266、1210、1154、1083、1030、862、725
FABMS: m/z 299 (M+ +1)
【0083】
〔実施例1〕
コウジ酸修飾カルボラン化合物の高速振動粉砕法による水溶化
水溶化剤としてα-シクロデキストリン(α-CD、和光純薬社製)、β-シクロデキストリン(β-CD、和光純薬社製)、メチル-β-シクロデキストリン(Me-β-CD、和光純薬社製)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD、和光純薬社製)、シクロアミロース(CAm、和光純薬社製)、シゾフィラン(SPG、三井製糖社製)、デキストラン(和光純薬社製)を用い、o-カルボランもしくはコウジ酸修飾o-カルボラン誘導体(CKA、KACME)を表1に示す所定量で混合し、メノウ製粉砕ジャーにメノウ粉砕ボールと共に封入し、レッチェ社製ミキサーミル(MM200)にて25 Hz,20 分間高速振動粉砕を行った。その後、粉砕物を表1表示量のMilliQ水で抽出後、遠心分離(25℃,3,000 rpm,10 min)を行い上清を分離した。ICP発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、Vista-MPX)でホウ素濃度を測定し、可溶化率を評価した。
【0084】
表1の結果が示すように、何れの可溶化剤を用いた場合でも全てのホウ素化合物においてホウ素化合物単独での溶解より高ホウ素濃度の水溶液を作製することに成功した。特に、可溶化剤そのものの水溶性が高いメチル-β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを用いた場合にはo-カルボランでは約1160倍、CKAは約150倍、KACMEの場合は390倍濃度まで水溶性を高めるうえで可溶化剤が効果的であることが明らかとなった。
【0085】
【表1】

【0086】
〔実施例2〕コウジ酸修飾カルボラン化合物のボルテックス混合法による水溶化
水溶化剤としてα-シクロデキストリン(α-CD、和光純薬社製)、β-シクロデキストリン(β-CD、和光純薬社製)、メチル-β-シクロデキストリン(Me-β-CD、和光純薬社製)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD、和光純薬社製)、シクロアミロース(CAm、和光純薬社製)、シゾフィラン(SPG、三井製糖社製)、デキストラン(和光純薬社製)を用い、o-カルボランもしくはコウジ酸修飾o-カルボラン誘導体(CKA、KACME)とMilliQ水を表2に示す所定量で混合し、ボルテックスミキサー(サイエンティフィックインダストリーズ社製VORTEX-GENIE 2)にて60 分間混合を行った。その後、懸濁液を遠心分離(25℃,3,000 rpm,10 min)し上清を分離した。ICP発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、Vista-MPX)でホウ素濃度を測定し、可溶化率を評価した。
【0087】
結果を表2に示す。溶質溶媒比が等条件で実施した高速振動粉砕法での結果と比較してボルテックス混合法による水溶化は、約1.3倍、KACMEの場合は約1.2倍高濃度の水溶液作製に成功した。使用器具が安価で、操作も簡便であるボルテックス法がより複合化そして水溶液作製に適法であることが明らかとなった。
【表2】

【0088】
〔実施例3〕CKA/シクロデキストリン錯体形成の1H-NMRによる確認
CKA (5 mg)に対して、メチル-β-シクロデキストリン(23 mg)もしくはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(26 mg)を混合し、重水(500ml)を加え、ボルテックス混合法により錯体作製を行った。そして、ブルッカー社製AVANCE 300N 核磁気共鳴分光装置を用い1H-NMR測定を行った。図1にMe-β-CD単独(a)、Me-β-CD+CKA(b)、HP-β-CD単独(c)、HP-β-CD+CKA(d)のスペクトルを示す。
図1-b,dに示すCKA存在条件でのスペクトルにはコウジ酸骨格のアルケニルプロトンが6.7 および 8.2 ppm付近に二本鋭いシングレットピークとして観察され、1-3 ppm付近に非常にブロードなシグナルとしてo-カルボラン部位の11水素原子分のプロトンピークが現れており、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン共にCKAを水溶化していることが確認できる。また、3.2-4 ppm 付近に複雑なピークとして現れるシクロデキストリン環構造を構成するグルコース由来プロトンシグナルはメチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン共にCKAの有無でシグナル形状が異なり、環構造の疎水的空孔にCKAが相互作用していることを示唆している。
【0089】
〔実施例4〕コウジ酸修飾カルボラン化合物/シクロデキストリン複合体の細胞毒性評価
96穴プレートに1×105cellsずつになるようにColon26細胞(マウス直腸がん細胞)の細胞懸濁液を播き24時間DME培地(牛胎児血清を10w/v%含む)を用い、37℃、5v/v%CO2下で培養した。アスピレーターで培地をとり除き、所定サンプル濃度に調整した培地を100 mLずつ加え、22時間培養し、WST試薬((株)同仁化学研究所製、Cell-counting Kit-8)(下記文献参照)を10 mL加えて更に2時間培養し呈色反応を行った。プレートリーダー(ThermoLab Systems社製、MultiSkan Acent BIF)を用い、450 nm(リファレンス650 nm)の吸光度を測定し細胞生存率を算出した。
【0090】
一般に未修飾及び簡単な誘導体の毒性は高く化合物で1-3 ppm(ホウ素濃度ではその数分の一)が毒性を示す濃度であることが知られている(G. Oros, I. Ujvary, R. J. Nachman., Amino Acids, 17, 357 (1999).)。このようにo-カルボランやCKA単独では細胞障害性が高い。しかし、o-カルボランとメチル-β-シクロデキストリンを複合化することで培養細胞に対する細胞活性を半減させるホウ素濃度は20 ppmと毒性が低減した(図2)。CKAを用いたときもメチル-β-シクロデキストリンで 20 ppm、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンでは 10 ppmであった(図3および図4)。KACMEを用いた場合にも、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンでは 20 ppmであった(図5)。シクロデキストリン空孔部分に疎水的カルボラン構造が包接され毒性がシールドされることが考えられる。可溶化剤を用いてカルボラン誘導体を水溶化する本発明は中性子捕捉療法用薬剤として使用する際に非常に有利であることがわかった。
【0091】
〔実施例5〕担癌マウスにおける腫瘍増殖抑制評価
(1)担癌マウスの作製
6週齢のヌードマウス(BALB/c Sic-nu/nu mice、オス、18〜23 g、日本エスレルシー社より入手)をイソフルラン吸入麻酔下、ハンクス液に懸濁したColon26 細胞(1×105cell/100 ml)を26G注射針を用いて背部皮下投与した。
【0092】
(2)CKA/Hp-β-CD複合体の中性子捕捉効果の評価
前記のようにして得た担癌マウスを、1群4匹として4群に分け、CKA/Hp-β-CD複合体の投与方法2種(中性子照射12時間前と3時間前の2回投与群と3時間前の1回投与群)について中性子照射の有無で計4条件の処置を行い、腫瘍の増殖における経時変化を追跡した。CKA/Hp-β-CD複合体投与は、ホウ素濃度 375 ppm のCKA/Hp-β-CD複合体水溶液 400 mlを25%グルコース溶液100 mlと混合し、等張液とし、200 ml(ホウ素濃度 300 ppm)を30G注射針を用いてマウスの尾静脈より静注した。また、中性子照射は、日本原子力研究開発機構JRR?4にて熱中性子2×1012フルーエンス/cm2となる条件で行った。腫瘍サイズは照射後4週間にわたり腫瘍サイズの長軸長と短軸長を電子ノギスで測定し、 体積=1/2×長軸(mm)×[短軸(mm)]2の式を用いて算出し評価した。
【0093】
腫瘍体積経緯変化の図から明らかなように(図6)、増殖CKA/Hp-β-CD複合体を2回投与し、中性子照射を行った場合4週間後でも腫瘍サイズの変化は見られず明瞭な増殖抑制効果が見られた。4匹の中には腫瘍サイズを計測不可能な状態まで腫瘍を縮小させる効果が見られるケースもあり、可溶化剤で水溶化されたコウジ酸修飾カルボラン/シクロデキストリン包接錯体はBNCT薬剤として非常に有望な錯体であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン誘導体と、
【化1】


(ここで、Rは、水素、ボロン、メチル基またはエチル基を表わし、 R2は、水素、メチルカルボニル、アリールカルボニル基を表わす。)
または
【化2】


(ここで、Rは、水素、アリールカルボニル、またはメチルカルボニルを表わす。)錯体。
【請求項2】
請求項1記載の錯体であって、シクロデキストリン誘導体と、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの錯体。
【請求項3】
前記シクロデキストリン誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される請求項1または2記載の錯体。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の錯体を含むホウ素中性子捕捉療法用組成物。
【請求項5】
シクロデキストリン誘導体と、
【化3】


(ここで、Rは、水素、ボロン、メチル基またはエチル基を表わし、 R2は、水素、メチルカルボニル、アリールカルボニル基を表わす。)
または
【化4】


(ここで、Rは、水素、メチル基、エチル基、アリールカルボニル、またはメチルカルボニルを表わす。)との錯体の製造方法であって、混合物を振動または撹拌させる工程を含む製造方法。
【請求項6】
シクロデキストリン誘導体と、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの錯体の製造方法であって、
シクロデキストリン誘導体と、7−o−カルボラニルコウジ酸またはコウジ酸o−カルボラニルメチルエーテルとの混合物を振動または撹拌させる工程を含む製造方法。
【請求項7】
前記シクロデキストリン誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される請求項5記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−153647(P2012−153647A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14388(P2011−14388)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(507288132)ステラファーマ株式会社 (3)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】