説明

カルボン酸の脱カルボキシのための連続方法

【課題】カルボン酸−特にアミノ酸−を水溶液として使用できるカルボン酸の連続脱カルボキシ方法の提供。
【解決手段】リシン等のアミノ酸の脱カルボキシのための連続方法であって、I.溶媒中のカルボニル化合物を触媒として反応温度で装入し、II.該アミノ酸を水溶液、水性懸濁液として、又は水を有する固形物として、この触媒にこの反応区域中において計量供給し、かつIII.CO2、溶媒、水及び、式IIの所望の反応生成物及び/又は式IIIのアニオン


を有する塩からなる混合物を、蒸気として反応混合物から連続的に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸の脱カルボキシ(Decarboxylierung)のための方法に関する。
【0002】
アミノ酸の脱カルボキシは、アミノ化合物を製造するための慣例の方法である。この得られるアミノ化合物は再度、数々の技術的な中間生成物及び薬理活性物質のための出発化合物である。
【背景技術】
【0003】
触媒としてのケトンの存在下でのアミノ酸の脱カルボキシのための反応機構を、Chatelusは、Bull. Soc. Chim. Fr., 1964, 2523-2532に記載している:
【化1】

【0004】
Hashimoto et al.は、Chemistry Letters (1986) 893〜896に、触媒としての2−シクロヘキセン−1−オンの使用下でのα−アミノ酸の脱カルボキシを記載している。
【0005】
JP 4010452 Bも、アミノ酸の脱カルボキシのための方法を記載し、その際、溶媒、シクロヘキサノール中のアミノ酸が装入され、かつ触媒2−シクロヘキセン−1−オンが添加される。
【0006】
この技術水準中に記載された方法は、アミノ酸を純粋な物質として使用する。しかしながら市場では、これらのアミノ酸はしばしば、水溶液としてのみ入手できる。この水溶液からの純粋な物質の獲得は、個々の場合において、極度に困難でありかつ手間がかかって可能になる。更に、この技術水準による方法は、非連続方法である。
【特許文献1】JP 4010452 B
【非特許文献1】Chatelus、Bull. Soc. Chim. Fr., 1964, 2523-2532
【非特許文献2】Hashimoto et al.、Chemistry Letters (1986) 893〜896
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、カルボン酸−特にアミノ酸−を水溶液として使用することを可能にする、カルボン酸の脱カルボキシ方法を提供することであった。特に、連続的方法を提供することが課題であった。
【0008】
意外にも、溶媒中の、触媒として用いられるカルボニル化合物を装入し、かつ脱カルボキシすべきカルボン酸の水溶液を計量供給する場合に、脱カルボキシすべきカルボン酸が水溶液として本発明による方法の際に使用できることが見出された。脱カルボキシの機構は、技術水準によれば、シッフ塩基−反応(Schiffsche Base-Reaktion)により説明され、それだけに一層、脱カルボキシすべきカルボン酸を水溶液として使用できることは意外であり、というのも、シッフ塩基−反応は、周知のように、この際の反応の前進を達成するために、水の脱離下で経過するからである。本発明による方法を用いて、いまや、市販のアミノ酸(これは、主として水溶液として市場で提供されている)が、予め、手間のかかる方法において水不含のカルボン酸−特にアミノ酸−をこの水溶液から精製する必要なしに、脱カルボキシのために直接的に使用することが可能になる。通常は、脱カルボキシが起こる相当する反応温度では、脱カルボキシ生成物は、CO2、溶媒及び水と一緒に蒸気としてこの反応混合物から取り除かれることができる。このようにしていまや、連続方法を提供することが可能である。この所望の脱カルボキシ生成物は、蒸気の形態で、反応区域から取り除かれ、かつ混合物として−例えば水分離器(Wasserabscheider)を用いて−簡単に分離されることができる。この溶媒は、通常は有機相を形成し、その一方でこの水相は所望の生成物又はこの所望の生成物の前駆物質を有する。水相は、例えば熱による分離方法を介して今や後処理されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主題は、式I
【化2】

[式中、R1=水素、アルキル−、アリールアルキル−、アリール−、シクロアルキル−又は複素環、その際、R1のタイプの置換基は置換されていてよい、及び
2=水素、アルキル、シクロアルキル]のカルボン酸の脱カルボキシのための連続方法であって、
I.溶媒中のカルボニル化合物を触媒として反応温度で装入し、
II.式Iのカルボン酸を水溶液、水性懸濁液として、又は水を含有する固形物として、前記触媒に反応区域中で計量供給し、
かつ
III.CO2、溶媒、水及び、式IIの所望の反応生成物及び/又は式IIIのアニオン
【化3】

を有する塩からなる混合物を、蒸気として反応混合物から連続的に除去することを特徴とする、式Iのカルボン酸の脱カルボキシのための連続方法である。
【0010】
カルボン酸として、本発明による方法においては、式I:
【化4】

[式中、R1=水素、アルキル−、アリールアルキル−、アリール−、シクロアルキル−又は複素環、その際、R1のタイプの置換基は置換されていてよい、及びR2=水素、アルキル、シクロアルキル]の化合物が使用される。R1のタイプの置換基での更なる置換基として、これは次の官能基を有することができる:−OH、−COOH、−CONH2、−SH、−S−アルキル、−NN2、−NH−CH(NH22、−S−S−CH2−CH(NH2)−COOH、−NH−CO−NH2、−CO−NH−アルキル、−S+(アルキル)2、−SO−CH2−CH=CH2、−O−PO(OH)2
【0011】
特に、本発明による方法においては、天然に存在するアミノ酸が使用される。
【0012】
1及びR2のタイプの置換基は、本発明による方法の特殊な一実施態様において、環系を構成することができ、特に有利にはこの際、天然に存在するアミノ酸、プロリン又はこのプロリン誘導体が使用される。
【0013】
好ましくは、本発明による方法において、式IV
【化5】

によるα−アミノ酸が使用される。
【0014】
有利には、本発明による方法においてしかしながら、式V:
【化6】

による化合物が使用される[式中、B=−アルキル−、−アリールアルキル−、−アリール−、−シクロアルキル−又は−複素環−]。特に有利には、本発明による方法においてしかしながら、式VI
【化7】

[式中、n=1〜5]
のカルボン酸が使用される。特にとりわけ有利には、本発明による方法において、リシン及びオルニチンから選択されたα−アミノ酸が使用される。
【0015】
脱カルボキシすべきカルボン酸は、本発明による方法において、水溶液として、水性懸濁液として、又は水を有する固形物として使用されることができる。
【0016】
本発明による方法においては、好ましくは、触媒のために、沸点150〜390℃、特に有利には180〜220℃を有する溶媒が使用される。触媒のためのこの溶媒は、本発明による方法において、好ましくは、水連行作用(wasserschleppende Wirkung)を有し、これは、本発明の意味合いにおいて、この溶媒が水のための共留剤であることを意味する。特に有利には、2−エチルヘキサノール、ジベンジルトルエン及びイソノナノールから選択された溶媒が、本発明による方法において使用される。複数の適した溶媒からなる混合物は、本発明による方法において同様に溶媒として使用されることができる。
【0017】
高い沸点を有する溶媒の使用により、脱カルボキシの間に、高い反応温度が、カルボン酸の水溶液の計量供給の際に可能である。これにより、脱カルボキシの反応機構を妨げる水が、これはカルボン酸の水性の供給形態により、反応混合物中に又は反応区域中に導入されるが、迅速に再度、反応器の反応区域から取り出されることができる。とりわけ、この水の搬出は、本発明による方法において使用される溶媒が、水連行作用をも有する場合に、極めて良好に行われる。
【0018】
本発明による方法の脱カルボキシは、有利には、140℃〜240℃、有利には170〜210℃の反応温度で実施される。
【0019】
本発明による方法の脱カルボキシが実施される圧力は、有利には20mbar〜2000mbar、有利には800〜1200mbar、特に有利には950〜1100mbarである。特にとりわけ有利には、本発明による方法の脱カルボキシ化は、大気圧で実施される。
【0020】
触媒として、本発明による方法の脱カルボキシの際に、有利には高沸性カルボニル化合物、特に環式又は非環式のケトン又はアルデヒド、特に有利にはしかしながら、2−シクロヘキセン−1−オン又はイソホロンが使用される。高沸性カルボニル化合物とは、150℃よりも高い沸点を有するカルボニル化合物が、本発明の枠内において理解される。
【0021】
有利には、本発明による方法において、0.005〜10Moleq.(モル当量)、有利には0.007〜1Moleq.、特に有利には0.008〜0.05Moleq.、特にとりわけ有利には0.009〜0.03Moleq.の触媒が、カルボン酸の使用量に対して使用される。
【0022】
更なる一実施態様において、本発明による方法においては、0.09〜4.5Moleq、有利には0.1〜1.5Moleq.の触媒が、カルボン酸の使用量に対して使用される。
【0023】
本発明による方法の脱カルボキシの間の強力なCO2発生のために、脱泡剤(Entschaeumer)を反応混合物に添加することが有利である。この際、脱カルボキシ反応に対して不活性に振る舞う、当業者に慣用の脱泡剤が使用されることができる。有利には、シリコーンオイルが使用される。例えば、商品名シリコーンオイル(Silikonoel)AK 350又はEXTRAN(R) AP 81で販売される脱泡剤が使用されることができる。
【0024】
有利には、まず前記触媒を、反応器の反応区域に溶媒と一緒に供給する。引き続き、有利には、所望の反応温度にこの触媒溶液を加温又は加熱する。所望の反応温度に達したときに初めて、カルボン酸の水性の供給形態の添加が行われることが望ましい。強力なCO2発生による反応混合物の制御できない泡立ちを妨げるために、有利には、脱泡剤を、触媒溶液へとカルボン酸の装入前に既に添加する。
【0025】
この脱カルボキシの際に自由になった、等モル量で生じる二酸化炭素を、式IIによる脱カルボキシ生成物及び/又は、式IIIによるアニオンを有する塩のためのストリップガスとして用いる。これにより、この脱カルボキシ生成物を、反応区域から取り去ることができる。
【0026】
CO2、溶媒、水及び脱カルボキシ生成物は、蒸気の形態で反応区域から除去される。この生成物混合物はいまや、その両方の相で−例えば、水分離器中で−分離されることができる。この有機相は、これは通常は溶媒であるが、−とりわけ更なる後処理無しに−反応器に返送されることができる。この水相は、式IIによる脱カルボキシ生成物及び/又は式IIIによるアニオンを有する塩を含有する。この塩は、気相中で、式IIによる脱カルボキシ生成物及びCO2から形成される。通常は、凝縮の後に、式IIによる脱カルボキシ生成物及び式IIIによるアニオンを有する塩からの混合物が存在する。この水相の後処理は、有利には、熱的方法を介して行われ、ここで、水の分離は、式IIIのアニオンを有する塩の脱カルボキシ生成物の、式IIの脱カルボキシ生成物及びCO2への分解としても行われることができる。熱的方法は、有利には不活性ガスのもとで実施される。
【0027】
有利には、水相の後処理は、蒸発器−例えば流下液膜式(Fallfilm)蒸発器、薄膜(Duennschicht)蒸発器又は細流膜(Rieselfilm)蒸発器−中で行われ、その際この水は蒸発され、かつ式IIによる脱カルボキシ生成物は、この蒸発器の底部で、既に高い純度−特にGC純度>99.0面積%(Flaechen %)−で生じる。蒸発器のこの条件下で、塩又はカルバマートとして存在するこの脱カルボキシ生成物の部分は、再度熱により、式IIによる所望の脱カルボキシ生成物及びCO2へと分解されることができる。この反応生成物及び大気からのCO2から形成することができる式IIIのカルバマートの新たな形成を妨げるために、この後処理工程の際に不活性ガスのもとで作業することが適している。
【0028】
脱カルボキシ生成物が、この熱による方法の後に、所望の純度で存在しない場合には、本発明による方法においては、高純度の生成物を得るために、更なる蒸留又は精留が引き続くことができる。
【0029】
この更なる蒸留工程又は精留工程は、同様に、不活性ガス雰囲気、例えば窒素下で行われることが望ましい。
【0030】
以下の実施例は、カルボン酸の脱カルボキシのための本発明による方法を詳説するが、但し本発明をこの実施例に制限するものではない。
【実施例】
【0031】
例1
ジベンジルトルエン400.0g、イソホロン8.0g(0.06mol)及び脱泡剤4.0g(Wacker社のSilikonoel AK 350)を、内部温度計、撹拌シャフト(Ruehrhuelse)及び撹拌モータを有する翼付き撹拌機(Fluegelruehrer)、カルボン酸水溶液の計量供給のための1lのTelabポンプ、ラシヒリングで充填された10cmの長さの鏡面加工したカラム、水分離器、頂部温度のための取り付け具及び冷却器を有する2lの二重壁の、円柱状の反応容器中に装入し、撹拌下で加熱し、その際サーモスタットでのオイル供給温度(Oelvorlauftemperatur)は240℃であった。全体として、計量供給速度199g/hでもって、50%のリシン水溶液1195g(L−リシン 4.09molに相当)をポンプを用いてこの底部中に計量供給導入した。
【0032】
水及び脱カルボキシ生成物カダベリンは、連続的に水分離器で水相として生じ、その一方でジベンジルトルエンは有機相として水分離器中に生じた。この水相(783.5g)を分離し、その際この水相のカダベリン含有量は14面積%であった(GCを用いて測定、カラムHP 5及び検出器WLD)。この水相の後処理を、薄膜蒸発器(高さ44cm、ワイパー(Wischer)長さ38cm、直径5.1cm、この薄膜蒸発器の面積:0.061m2、不活性ガスすすぎ)を介して、オイル供給温度185℃及び計量供給速度600ml/hで行った。この薄膜蒸発器の底部では、カダベリン97.8gが、GC純度>97.0面積%(検出器WLD)において生じた。カダベリンの収率は、使用されたL−リシンに対して23.4%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

[式中、R1=水素、アルキル−、アリールアルキル−、アリール−、シクロアルキル−又は複素環、その際、R1のタイプの置換基は置換されていてよい、及び
2=水素、アルキル、シクロアルキル]のカルボン酸の脱カルボキシのための連続方法であって、
I.溶媒中のカルボニル化合物を触媒として反応温度で装入し、
II.式Iのカルボン酸を水溶液、水性懸濁液として、又は水を含有する固形物として、この触媒溶液に計量供給し、かつ
III.CO2、溶媒、水及び、式IIの所望の反応生成物及び/又は式IIIのアニオン
【化2】

を有する塩からなる混合物を、蒸気として反応混合物から連続的に除去することを特徴とする、式Iのカルボン酸の脱カルボキシのための連続方法。
【請求項2】
溶媒が、水連行作用を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶媒が、150〜390℃の沸点を有することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
カルボン酸の使用量に対して、触媒0.005〜10Moleq.を使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
カルボン酸の使用量に対して、触媒0.008〜0.05Moleq.を使用することを特徴とする、請求項4項記載の方法。
【請求項6】
反応混合物に、脱泡剤を添加することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】

【化3】

[式中、n=1〜5]
のカルボン酸を使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2008−156355(P2008−156355A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328947(P2007−328947)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】