説明

カルボン酸アミド類の新規合成法

【課題】有機カルボン酸と有機アミンとの脱水反応でカルボン酸アミド類を製造する際に、水を反応媒体として、温和な反応条件で製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるカルボン酸と有機アミンとを、水を反応媒体としてマイクロ波を照射して反応させることにより比較的低温で、高収率でカルボン酸アミド類を製造する。
R−(COOH)n (1)
(一般式(1)中、Rは、炭素数9以上の置換若しくは無置換のn価の飽和又は不飽和脂肪族基を表し、nは1又は2を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬や農薬、さらには機能性高分子材料として有用な、カルボン酸アミド類の製造方法に関する。
【0002】
カルボン酸アミド類には生理活性を有する化合物が多い。たとえば抗生物質であるペニシリンやセファロスポリンはカルボン酸アミド構造をもつ生理活性物質の代表例であり、そのほかにも血圧降下剤や消化器官用剤にもカルボン酸アミド類が使われている。またカルボキシアミド系殺菌剤やアミド系除草剤などの農薬にも用いられている。
【0003】
また、カルボン酸アミド類は、ポリアミド樹脂やポリアクリルアミド樹脂あるいはオリゴマーの形で、各種の機能性材料に用いられている。
【背景技術】
【0004】
カルボン酸アミド類の製造方法については、非特許文献1に詳細が記載されているが、大別すると次の通りである。
【0005】
1.カルボン酸及び関連化合物からの合成
a)カルボン酸とアミンまたはアンモニアとの直接脱水反応
カルボン酸とアミンを混合すると両者の塩との間に平衡が成立するが、これに脱水の操作を加えるとカルボン酸アミドが生成する。通常は過剰のアミンを用い、両者の混合物を高温に加熱したり、或いは生成する水を共沸蒸留により除去するなどして平衡を生成系にずらし、カルボン酸アミドを得る。
b)カルボン酸とアミンまたはアンモニアとの縮合剤利用反応
脱水操作の代わりに各種の縮合剤を加えると、温和な条件ですみやかにカルボン酸アミド類を合成することが出来る。カルボジイミドは最適な縮合剤のひとつであり、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いると、ほぼ定量的にカルボン酸アミドが生成する。また、無水ピリジン中で四塩化ケイ素や四塩化チタンを作用させる方法や、カルボン酸とトリフェニルホスフィンからトリフェニルアシルオキシホスホニウムクロリドをつくり、これにアミンをさせる方法なども、このカテゴリーに属する。
c)カルボン酸に各種のアミド化剤、例えば、尿素、五酸化りんのDMF溶液(ジメチルアミド化剤)、ヘキサメチル燐酸トリアミド(HMPA:ジメチルアミド化剤)、イソシアネートを作用させる。
d)酸ハロゲン化物とアミンまたはアンモニアの反応
カルボン酸をいったん酸ハロゲン化物にかえ、これにアンモニア、1級或いは2級アミンを作用させるとすみやかにカルボン酸アミドが生成する。生成するハロゲン化水素酸を除くために過剰のアミンを用いるか、あるいは3級アミンを共存させる。また、ピリジンを溶媒として用いる。
e)酸無水物とアミンとの反応
酸無水物に脂肪族及び芳香族の1級あるいは2級アミンを作用させて、カルボン酸アミドとする。アミンの代わりにアミド化剤を用いることも可能で、無水酢酸をDMFと還流するとN,N−ジメチルアセトアミドが得られる。また酸無水物のHMPAの溶液を加熱してもよい。
f)エステル或いはラクトンとアンモニアまたはアミンとの反応
エステルはアンモノリシスにより1級のカルボン酸アミドを生成する。この反応で水およびグリコールなどは反応を促進することが知られている。アンモノリシスには液体アンモニアも用いられる。触媒として塩化アンモニウム、ナトリウムメトキシド、及びブチルリチウムなどを用いると反応が促進される。また、エステルとアミンの混合物を加熱して、生成するアルコールを留去すると酸アミドが生成する。
【0006】
2.ニトリルの加水分解による合成
ニトリルを加水分解して1級のカルボン酸アミドを得る。酸、アルカリ、中性加水分解がある。
【0007】
3.一酸化炭素を用いるカルボニル化による合成
アミンのカルボニル化、アミンまたは酸アミドの存在下オレフィンのカルボニル化、アミンの存在下、ハロゲン化物のカルボニル化などがある。
【0008】
4.転位反応による酸アミドの合成
Schmidt反応、Favorskii型転位、Beckmann転位、ヒドラジン転位、イミノエーテル転位、Ckaisen転位などがある。
【0009】
5.その他
a)α、β―不飽和アルデヒドのカルボニル基へアミンを付加させ、生成すアミナールを酸化する。
b)窒素原子に結合するメチル及びメチレン基の酸化による合成
c)環状イミドを水素化還元し、開環しω―ヒドロキシカルボン酸アミドを得る。
d)ヒドロキサム酸を加水分解して1級のカルボン酸アミドを得る
e)シッフ塩基を酢酸中還元的アシル化する。
f)モノ及びジアシルヒドラジンのN−N結合を水素分解する。
【0010】
上述のカルボン酸アミド類の製造方法1〜5のうち、「1.カルボン酸及び関連化合物からの合成」は、カルボン酸部位およびアミン部位双方の構造バリエーションが大きく、広範な構造のカルボン酸アミド類の製造に適用できる点で、最も汎用性が高い。
その中でも、上記(1−a)のカルボン酸とアミンまたはアンモニアの反応は、工程数が少なく、また、副産物が理論上は水のみという点で、本来は最も好ましい方法であるが、本質的かつ致命的な問題点がある。すなわち、カルボン酸とアミンから脱水反応によりカルボン酸アミド類を得るには、カルボン酸とアミンとが安定な塩を形成するため、脱水反応を進行させるには、高い温度(通常160℃以上)を必要とし、各種の機能を付与する官能基をもつカルボン酸やアミンでは、これらの官能基がこの反応温度で分解もしくは副反応が生起するケースが多く、適用範囲は狭い。
【0011】
このため、緩和な反応条件、特に低い温度で反応を遂行する方法として、通常、DCCのような縮合剤を用いる(1−b)、アミンやアンモニアを活性なアミド化剤にかえる(1−c)、カルボン酸を一旦活性な酸ハロゲン化物や酸無水物に変換したのちにアミン類と反応させる(1−d)のような方法を採っている。しかし、これらの方法では、反応工程が増える点や、アミド化剤や縮合剤を用いた場合にはこれらに由来する副産物、酸ハロゲン化物や酸無水物を用いた場合には、生成するハロゲン化水素やカルボン酸を中和するために添加するアミンやアルカリとの塩が、化学量論量生成し、経済的にも環境的にも好ましくない。
また、エステル或いはラクトンを経由する方法(1−f)は、エステル化工程が増える点や反応温度の緩和化が顕著でない点、アミンが過剰量必要な点で、メリットは大きくない。
【0012】
このように、カルボン酸とアミンもしくはアンモニアとからカルボン酸アミド類を製造する方法は、直接の脱水反応が高温を必要とするため、上述のような迂回方法が採られているが、そのため、工程数の増加や副産物の発生など新たな問題が生じ、その対策が課題となっている。
【0013】
この課題を解決するための新たな試みとして、D. G. Hallらは、オルト置換の芳香族ボロン酸を触媒量用いると、カルボン酸とアミンとの脱水反応が室温で進行し、相当するカルボン酸アミド類が収率良く生成することを報告しているが、この反応はジクロロメタンなどの有機溶剤中で行われ、水が存在すると反応成績は著しく低下する(非特許文献2)。
【0014】
また、マイクロ波照射も課題解決の有力な手段である。すなわち、マイクロ波照射すると有機反応が加速することが近年数多く報告され、それらは成書にまとめられている(非特許文献3、非特許文献4)。特に、脱水反応がマイクロ波照射により効率よく進行することは、カルボン酸とアルコールとからエステル類を得る方法で幾つか提示されている(特許文献1,2など)。
【0015】
このマイクロ波照射による脱水反応を、カルボン酸とアミンとの反応に適用することも、いくつか提案されている。たとえば、特許文献3では、チタン酸テトラ−n―ブチル、チタン酸テトラ−n―エチル、ブチルスズクロリドジヒドロキシなどのルイス酸触媒存在下、オレイン酸と尿素との混合物を、常圧でマイクロ波照射して140〜250℃に加熱し、尿素の分解で発生するアンモニアとオレイン酸との脱水縮合反応により、オレイルアミドを高収率で得ている。また、特許文献4では、メタクリル酸とポリエーテルアミンとをマイクロ波照射により210℃を上限温度に加熱すると、通常の加熱方法では生起する重合反応が抑制され、相当するメタアクリル酸アミドが選択的に得られることを開示している。さらに、特許文献5では、安息香酸とベンジルアミンとを、イミダゾールやトリエチルアミンのような有機塩基性物質存在下、マイクロ波を照射すると、N―ベンジルベンズアミドが製造できることが記載されている。
しかしながら、これらのマイクロ波照射によるカルボン酸アミド類の製造方法は、水が存在すると反応が阻害されるためと考えられるが、溶媒は水以外の有機溶媒を使用しており、地球環境や作業環境上好ましくない。さらに、水溶媒或いは水媒体中での反応を教えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−330667号公報
【特許文献2】特開昭56−7740号公報
【特許文献3】特開2006−96736号公報
【特許文献4】特開2006−298918号公報
【特許文献5】特許第3586707号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】日本化学会偏、新実験科学講座14巻、有機化合物の合成と反応II、1134〜1188頁、丸善株式会社、1977年
【非特許文献2】R. M. Al-Zoubi, Olivier Marion, D. G. Hall, Angew. Chem. Int.Ed., 47(15), 2876(2008).
【非特許文献3】(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、平成17年度成果報告書「マイクロ波を利用する革新的化学プロセスに関する基盤技術調査」平成18年3月
【非特許文献4】Microwaves in Organic Synthesis」Ed. Andre Loupy, Wiley-VCH, 2002, Weinheim
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、有機カルボン酸と有機アミンとの脱水反応でカルボン酸アミド類を、水を反応媒体として、温和な反応条件で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、有機カルボン酸と有機アミンとを、水を反応媒体としてマイクロ波を照射することにより、カルボン酸アミド類が製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明は、有機カルボン酸と有機アミンとを、水を反応媒体としてマイクロ波を照射して反応させることを特徴とするカルボン酸アミド類の製造方法である。
【0021】
また、本発明は、有機カルボン酸と有機アミンの何れか一方が、炭素数9以上の置換若しくは無置換の飽和又は不飽和脂肪族基を有することを特徴とするカルボン酸アミド類の製造方法である。
【0022】
有機カルボン酸としては、下記一般式(1)で表されるカルボン酸が好適に使用できる。
R−(COOH)n (1)
(一般式(1)中、Rは、炭素数9以上の飽和又は不飽和のn価の脂肪族基を表し、nは1又は2を表す。)
【0023】
有機アミンとしては、一級アミンが好適に使用でき、下記一般式(2)で表される一級アミンがより好適に使用できる。
Ar−(L−NH2m (2)
(一般式(2)中、Arは置換若しくは無置換のm価の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは無置換のm価の芳香族複素環基を表す。Lは直接結合、置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、mは1又は2を表す。)
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、有機カルボン酸と有機アミンとを脱水剤を用いることなしに、水を反応媒体として、必要に応じて水を溶媒・分散媒としてマイクロ波を照射し反応させ、カルボン酸アミド類を温和な条件で簡便に製造することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明で用いる有機カルボン酸は、特に限定されるものではないが、前記一般式(1)で表わされるカルボン酸を好適に使用することができる。一般式(1)において、Rは分岐、直鎖又は脂環式のn価の置換若しくは無置換の脂肪族基である。nは1又は2である。Rは炭素数9以上、より好ましくは炭素数9〜23のn価の脂肪族基であり、飽和、不飽和を問わない。また、置換基としては、本発明の脱水反応に関与しない基であれば限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのアルコシキ基や、エチレンジオキシ基、プロピリデンジオキシ基のような1,2-ジオキシ置換基、フェノキシ基、ナフトキシ基などの芳香族オキシ基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基のような低級アルキル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、N-ピペリジニル基、N-ピロジニル基のような2級アミノ基、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基などのハロゲン基、トリフロロメチル基、ペンタフロロエチル基などのペルフロロアルキル基、ニトロ基、などが例示できる。
【0026】
一般式(1)のカルボン酸としては、デカン酸、ラウリン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、アラキドン酸、ドコサン酸、テトラドコサン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカン二酸、イコサン二酸、シクロドデカンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、などが具体例として挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明で使用する有機アミンは、特に限定されるものではないが、一級アミンが好適に使用でき、好ましくは前記一般式(2)の一級アミンが好適に使用できる。一般式(2)においてArは置換若しくは無置換のm価の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは無置換のm価の芳香族複素環基であり、好ましくは炭素数6〜30の置換若しくは無置換のm価の芳香族炭化水素基、又は炭素数3〜30の置換若しくは無置換のm価の芳香族複素環基である。mは1又は2である。
【0028】
好ましい無置換の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、イソインドール、インダゾール、プリン、イソキノリン、イミダゾール、ナフチリジン、フタラジン、キナゾリン、ベンゾジアゼピン、キノキサリン、シンノリン、キノリン、プテリジン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、カルボリン、インドール、カルバゾール、又はこれら芳香環が複数連結された芳香族化合物からm個の水素を除いて生じるm価の基が挙げられる。なお、芳香環が複数連結された芳香族化合物から生じる基である場合、連結される数は2〜5が好ましく、より好ましくは2〜3であり、連結される芳香環は同一であっても異なっていても良い。その場合、Lとの結合位置は限定されず、連結された芳香環の末端部の環であっても中央部の環であってもよい。ここでArは、置換若しくは無置換のフェニル基又はフェニレン基が好ましい。
【0029】
芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が置換基を有する場合は、本発明の脱水反応に関与しない置換基であり、2つ以上の置換基を有する場合は、同一であっても異なっていても良い。尚、炭素数の計算には置換基の炭素数を含む。
【0030】
置換基としては、本発明の脱水反応に関与しない基であれば限定されないが、前記一般式(1)のRの置換基と同様である。
【0031】
一般式(2)において、Lは直接結合、置換若しくは無置換のアルキレン基であり、好ましくは直接結合、炭素数1〜23の置換若しくは無置換のアルキレン基である。アルキレン基が置換基を有する場合は、前記一般式(1)のRの置換基と同様である。
【0032】
本発明では、有機カルボン酸と有機アミンを使用するが、何れか一方が炭素数9以上の置換若しくは無置換の飽和又は不飽和脂肪族基を有することが好ましく、より好ましくは前記一般式(1)のカルボン酸と一級アミン、さらに好ましくは前記一般式(2)の一級アミンとを、反応媒体として水を用いて、マイクロ波を照射して実施する。マイクロ波の周波数は、通常0.9〜3 GHzであるが、2.45 GHzが発信器が容易に入手できる点で好ましいが、915 MHzも好適に使用できる。マイクロ波の照射エネルギー量(Wh)は照射する反応混合物の量に依存するが、反応混合物の温度が80℃〜180℃、好ましくは120℃〜160℃になるように照射量を調整することが好ましい。この温度は、反応混合物が入れられたガラス製の反応容器が非断熱の状態で、室内環境(23℃、無風)に置かれた状態でマイクロ波を照射して測定されるものと理解され、マイクロ波の照射量を特定するための指標であり、反応温度とは同義ではない。したがって、この範囲のマイクロ波を照射すればよく、必要により他の加熱手段又は冷却手段を併用してもよく、断熱又は保温手段を設けてもよい。
【0033】
なお、反応温度が反応溶媒である水の沸点100℃以上に設定する場合は、必要に応じて密閉反応容器を用いて加圧条件下で実施することができる。
【0034】
本発明では、有機カルボン酸と有機アミンとを等モル量用いても遂行出来るが、反応を迅速に完結させるために、通常はどちらか一方を小過剰〜3倍モル量、好ましくは1.05〜2倍モル量用いることがよい。
【0035】
本発明では、水を反応媒体として用いる。
反応媒体として用いる水の量は、有機カルボン酸と有機アミンの合計量に対して重量比で、等量〜20倍、好ましくは10倍〜20倍量である。20倍を超えるの大過剰量でも反応は進行するが、反応容器が大きくなり、かつ、水の加熱に要するマイクロ波照射の量が多くなり、経済的ではない。等量以下の水では、後記する疎水性の反応場が効率よく発現されないため、マイクロ波照射の効果が小さくなる。
【0036】
本発明では、通常、触媒は特に用いないが、ルイス酸やブレンステッド酸を少量添加してもよい。ルイス酸としては塩化鉄や塩化亜鉛、トリス(トリフルオロメタンスルホン酸)スカンジウム、トリス(トリフルオロメタンスルホン酸)イットリビウム、トリ(ドデカンスルホン酸)スカンジウム、ブレンステッド酸としては塩酸、硫酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸が例示できる。
【0037】
また、本発明では水を反応媒体として用いるが、反応に関与しない有機溶媒を添加してもよい。このような有機溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、THF、などが例示できる。有機溶媒を用いる場合、全反応媒体中の1/2以上は水であることが好ましい(重量基準)。
【0038】
本発明における有機カルボン酸と有機アミンとの反応時間は、反応温度や有機カルボン酸及び有機アミンの種類、濃度、溶媒量等に依存するため、限定されるものではないが、反応温度が150℃の場合は通常0.1〜12時間である。
【0039】
本発明は、水を反応媒体として脱水反応を行うものである。通常、脱水反応において、水は反応を阻害するが、本発明において水を反応媒体として用いても脱水反応が進行するのは、本発明で用いる有機カルボン酸もしくは有機アミンの少なくとも何れか一方が、水に分散した状態でナノレベルの疎水性場を作るためと考えられ、この疎水性場を作り易いと考えられる長鎖脂肪族基を有する化合物が好適に使用できると考えられる。この疎水性場でカルボン酸と一級アミンとがマイクロ波で選択的に活性化されて脱水反応が進行し、反応により生じた水分子は、疎水性場から水の層へと移行するために、水を反応媒体として用いても円滑に反応が進行するものと考えられる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を、実施例及び参考例に基づき、より詳細に説明する。
【0041】
実施例1
ラウリル酸0.0501 g(0.25 mmol)とベンジルアミン0.0536g(0.50 mmol)及び水1.5 mlを容積 2mlの硝子製密閉容器に挿入し、2.45GHzのマイクロ波を照射し150℃に昇温させ、以後マイクロ波の出力20Wとし、3時間照射して、反応を行った。反応温度は150℃であった。なお、150℃への昇温時間は2分以下である。
反応混合物に1 N塩酸を加えて塩化メチレンで三回抽出し、有機層を飽和食塩水で一回洗浄した後に無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して溶媒を留去し、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製した。ラウリル酸ベンジルアミド 37.6 mgを無色結晶として得た。収率52%(ラウリル酸基準)。
【0042】
実施例2〜5
実施例1においてマイクロ波照射時間を6時間、9時間及び12時間にする以外は同様の操作を行い、ラウリル酸ベンジルアミドを、それぞれ収率73%、78%及び80%で得た。
【0043】
実施例6〜11
実施例5において、ベンジルアミンの代わりに、p-メトキシベンジルアミン、p-トリフルオロメチルベンジルアミン、アニリン、p-メトキシアニリン、p-tertブチルアニリン、または3-フェニルプロピルアミンを用いて、同様に150℃で12時間マイクロ波で照射し、対応するラウリル酸アミド類を、それぞれ収率78%、84%、40%、51%、55%、及び54%で得た。
【0044】
実施例12〜13
実施例1においてラウリル酸の代わりにデカン酸またはオレイン酸をもちいて同様の操作を行い、相当するベンジルアミド類をそれぞれ収率41%、及び77%で得た。
【0045】
比較例1〜2
実施例1及び2において、マイクロ波照射をすることなく、反応容器を油浴で150℃に加熱する以外は同様に操作を行い、ラウリル酸ベンジルアミドをそれぞれ収率23%及び28%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機カルボン酸と有機アミンとを、水を反応媒体としてマイクロ波を照射して反応させることを特徴とするカルボン酸アミド類の製造方法。
【請求項2】
有機カルボン酸と有機アミンの何れか一方が、炭素数9以上の置換若しくは無置換の飽和又は不飽和脂肪族基を有することを特徴とする請求項1記載のカルボン酸アミド類の製造方法。
【請求項3】
有機カルボン酸が下記一般式(1)で表されるカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載のカルボン酸アミド類の製造方法。
R−(COOH)n (1)
(一般式(1)中、Rは炭素数9以上の置換若しくは無置換のn価の飽和又は不飽和脂肪族基を表し、nは1又は2を表す。)
【請求項4】
有機アミンが一級アミンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカルボン酸アミド類の製造方法。
【請求項5】
一級アミンが、下記一般式(2)で表される一級アミンであることを特徴とする請求項4記載のカルボン酸アミド類の製造方法。
Ar−(L−NH2m (2)
(一般式(2)中、Arは置換若しくは無置換のm価の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは無置換のm価の芳香族複素環基を表す。Lは直接結合、置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、mは1又は2を表す。)
【請求項6】
一般式(2)において、Arが置換若しくは無置換のフェニル基又はフェニレン基であることを特徴とする請求項5記載のカルボン酸アミド類の製造方法。

【公開番号】特開2011−195479(P2011−195479A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62448(P2010−62448)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】