説明

カルボン酸アンモニウムの製造方法

【課題】カルボン酸アンモニウムの製造方法において、カルボン酸アンモニウム水溶液中の反応の副生成物が効率よく低減でき、高純度なカルボン酸アンモニウムを製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ニトリラーゼ活性を有する酵素(B)の存在下で、ニトリル化合物(C)を加水分解してなるカルボン酸アンモニウムの製造方法であって、酵素(B)が界面活性剤(A)の存在下で細菌を用いて分泌生産された酵素であるカルボン酸アンモニウムの製造方法。界面活性剤(A)が、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びHLBが0〜13のノニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸アンモニウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素活性を持つ生体触媒を利用して目的の化合物を合成する方法は、反応条件が穏和であり、反応プロセスの環境負荷が少ない等の利点があるため、近年、様々な化合物の製造に用いられている。カルボン酸アンモニウムの製造においても、ニトリル化合物をカルボン酸アンモニウムに変換する酵素(ニトリラーゼ)が見いだされので、この酵素を用いたカルボン酸アンモニウム製造方法への応用もいくつか検討されている。例えば、特許文献1〜6等が挙げられる。
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では、生体触媒であるために、生体由来の不純物(蛋白質等の有機不純物及び菌体等)が混入してしまう欠点を有しており、反応途中で反応液が粘調になる(特許文献1)等の問題点がある。また、反応の副生成物が生成してしまう問題点がある。
【0004】
生体由来の不純物混入を防ぐ方法として、これら不純物を許容範囲まで低下させるため精製系を設けることが考えられるが、多大なコストが必要となる。
例えば、蛋白質等の有機不純物を精製する方法としては、UF膜(限外ろ過膜)等の膜を用いる方法、ポリアクリロニトリル繊維を用いる方法及び活性炭を用いる方法等がある。UF膜等の膜で除去する方法は一般的であるが、反応液中の蛋白質等の有機不純物が多い場合、UF膜が短時間に閉塞し、頻繁にUF膜の再生処理が必要となったり、濾過面積を大きくする必要がある等の不利益を生じ、運転コストや設備費が大きくなってしまう。また、ポリアクリロニトリル繊維を用いる方法は、蛋白質等の有機不純物の吸着容量が少ない上に再生が困難である。また、活性炭を用いる方法は、活性炭の再生処理が難しく、さらに活性炭の持つ反応性により目的化合物が変性する場合もある。
【0005】
また、反応の副生成物を低減する方法としては、反応副生物であるカルボン酸アミドを含む粗カルボン酸アンモニウム水溶液を固体酸触媒と接触させ、カルボン酸アミドをカルボン酸アンモニウムに変換する(特許文献7)方法がある。しかしながら、非常に手間がかかる、反応時間が長くなる等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−282089号公報
【特許文献2】特開昭63−129988号公報
【特許文献3】特開昭63−209592号公報
【特許文献4】国際公開第WO97/21805号パンフレット
【特許文献5】特許4255730号
【特許文献6】特許4553242号
【特許文献7】特開2010−235495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、酵素を用いてカルボン酸アンモニウムを製造する場合、生体由来の不純物が少なく、反応の副生成物を効率よく低減する方法が無いのが現状である。
本発明は、製造されるカルボン酸アンモニウム水溶液中の反応の副生成物が効率よく低減でき、高純度なカルボン酸アンモニウムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法は、ニトリラーゼ活性を有する酵素(B)の存在下で、ニトリル化合物(C)を加水分解してなるカルボン酸アンモニウムの製造方法であって、酵素(B)が界面活性剤(A)の存在下で細菌を用いて分泌生産された酵素であるカルボン酸アンモニウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法は、反応の副生成物を効率よく低減したカルボン酸アンモニウムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法は、ニトリラーゼ活性を有する酵素(B)の存在下で、ニトリル化合物(C)を加水分解してなるカルボン酸アンモニウムの製造方法であって、酵素(B)が界面活性剤(A)の存在下で細菌を用いて分泌生産された酵素であるカルボン酸アンモニウムの製造方法である。
【0011】
本発明でいうニトリラーゼ活性を有する酵素(B)には、ニトリラーゼが含まれる。ニトリラーゼとしては、微生物由来及び動植物細胞由来等のニトリラーゼが挙げられるが、重量当たりの酵素発現量や取り扱いの容易性から、微生物由来のニトリラーゼが好ましい。
【0012】
微生物由来のニトリラーゼとしては、多くのものが知られているが、ニトリラーゼ活性が高いものとして、フサリウム属、ロドコッカス属、アシネトバクター属、アルカリゲネス属、アシドボラックス属及びパイロコッカス属等の微生物菌体由来のニトリラーゼが挙げられる。
本発明においては、これの中でも、安定性の観点からフサリウム属、アシドボラックス属、パイロコッカス属が望ましいが、これらに限定するものではない。
微生物の菌株として、具体的には、Acinetobacter sp.AK226(FERM BP−08590)、Acinetobacter sp.AK227(FERM BP−08591)である。これらの菌株は特開2001−299378号公報、特開平11−180971号公報、特開平06−303991号公報、特開昭63−209592号公報及び特開昭61−282089号公報等に記載されている。
【0013】
本発明の(B)を生産する細菌としては、遺伝子組み換え法を用いなくても、もともと発現している上記の微生物等を、本発明における細菌として用いる方法もあるが、酵素(B)を大量発現するという観点から、上記の微生物等から遺伝子を取り出し、他の細菌へ遺伝子組み換えして発現させる方法が好ましい。
【0014】
上記他の細菌として、以下に例を挙げるがこれに限定するものではない。細菌は、真正細菌及び古細菌が含まれる。真正細菌は、グラム陰性菌及びグラム陽性菌が含まれる。グラム陰性細菌としては、エシェリチア属菌(Escherichia)、サーマス属菌(Thermus)、リゾビウム属菌(Rhizobium)、シュードモナス属菌(Pseudomonas)、シュワネラ属菌(Shewanella)、ビブリオ属菌(Vibrio)、サルモネラ属菌(Salmonella)、アセトバクター属(Acetobacter)、シネコシスティス属(Synechocystis)等が挙げられる。グラム陽性菌としては、バチルス属(Bacillus)、ストレプトマイセス属(Streptmyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ブレビバチルス属(Brevibacillus)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium)、ラクトコッカス属 (Lactococcus)、エンテロコッカス属 (Enterococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属 (Leuconostoc)及びストレプトマイセス属(Streptomyces)等に含まれる細菌が挙げられる。
【0015】
これらのうち、酵素(B)の発現量の観点から、グラム陰性菌が好ましく、さらに好ましくはエシェリチア属菌であり、より好ましくは大腸菌である。
【0016】
本発明において酵素(B)は、酵素が細菌内で発現した後、一部又は全てがペリプラズムへ移行する性質を有している事が好ましい。さらに好ましくはペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列をORF中にコードしている酵素である。
ペリプラズムとは、細菌の細胞質膜より外側で細菌の最表面までの空間の事である。
ペリプラズムへの移行に必要なシグナル配列としては、Sec分泌シグナル配列やTAT分泌シグナル等が挙げられる。
【0017】
本発明において、分泌生産で使用する細菌の量(乾燥菌体密度)は、酵素(B)の生産効率の観点から培養液の体積を基準として1.5g/L〜500g/Lが好ましく、さらに好ましくは3g/L〜200g/Lであり、特に好ましくは4〜100g/Lである。
細菌が大腸菌である場合の乾燥菌体密度は、培養液の体積を基準として、酵素(B)の生産が実施可能な観点から、1.5g/L〜500g/Lが好ましく、さらに好ましくは3〜100g/Lであり、特に好ましくは10〜50g/Lであり、最も好ましくは12〜27g/Lである。
上記範囲内であれば、乾燥菌体密度が大きければ大きいほど酵素(B)の生産量は増加する。
【0018】
本発明において、乾燥菌体密度とは、酵素(B)の分泌生産において、培養開始時から培養終了時までのいずれかの時点における培養液1L中に含まれる細菌の重量(g)を表す。なお、この細菌の重量は、乾燥させた状態の細菌の重量である。
乾燥菌体密度は、次の手順(1)〜(5)により求める。
手順(1):あらかじめ容器(遠心チューブ)の重量(g)を測定しておく。
手順(2):培養液100mLを手順(1)で重量を測定した容器に入れ、遠心分離(4,000G、15分、4℃)して、上澄みを抜き取り、細菌を集菌する。
手順(3):容器中の集菌した細菌を、0.9重量%NaCl水溶液100mLで洗い、再度遠心分離(4,000G、15分、4℃)して、上澄みを抜き取り、細菌を集菌する。
手順(4):手順(3)で得られた細菌を容器にいれたままの状態で、105℃で10時間乾燥させた後、容器と細菌の合計の重量(g)を測定する。
手順(5):手順(4)の後さらに105℃で2時間乾燥させた後、容器と細菌の合計の重量(g)を測定して重量変化が無いことを確認する。さらに重量が減少するなら重量変化が無くなるまで105℃で乾燥を持続する。
手順(5)と手順(1)の測定値と手順(2)で使用した培養液の体積(L)を下記式に当てはめることにより、乾燥菌体密度を求める。
乾燥菌体密度(g/L)=([手順(5)の測定値]−[手順(1)の測定値])/0.1
【0019】
本発明において、乾燥菌体密度が上記範囲内である時間は、酵素(B)の生産量の観点から、酵素(B)を分泌させる工程に要する時間の10%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0020】
乾燥菌体密度は、例えば十分な通気条件下で半回分培養法を用いて適切な速度で流加を行うことによって増加させることができ、制限した通気条件下で回分培養を行うことによって減らすことができる。また、培養開始から界面活性剤(A)を入れるまでの時間を長くすることによって増加し、培養開始から界面活性剤(A)を入れるまでの時間を短くすることによって減らすことができる。
【0021】
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法で使用される界面活性剤(A)は、両性界面活性剤(A1)、アニオン性界面活性剤(A2)、ノニオン性界面活性剤(A3)及びカチオン界面活性剤(A4)からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤が挙げられる。
【0022】
両性界面活性剤(A1)としては、カルボン酸塩型両性界面活性剤(A1−1)、硫酸エステル塩型両性界面活性剤(A1−2)、スルホン酸塩型両性界面活性剤(A1−3)及びリン酸エステル塩型両性界面活性剤(A1−4)等が含まれる。
【0023】
カルボン酸塩型両性界面活性剤(A1−1)としては、アミノ酸型両性界面活性剤(A1−1−1)、ベタイン型両性界面活性剤(A1−1−2)及びイミダゾリン型両性界面活性剤(A1−1−3)等が挙げられる。
【0024】
アミノ酸型両性界面活性剤(A1−1−1)としては、分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する両性界面活性剤であり、下記一般式(1)で示される化合物等が挙げられる。
[R−NH−(CH2n−COO-mM (1)
一般式(1)中、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。nは1以上の整数である。mは1以上の整数である。Mはプロトン;又はアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム(アミン及びアルカノールアミン等由来のカチオンを含む)及び第4級アンモニウム等の1価又は2価のカチオンである。
また、(A1−1−1)として具体的には、アルキルアミノプロピオン酸型両性界面活性剤(コカミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム及びラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等);アルキルアミノ酢酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノ酢酸ナトリウム等)及びN−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等が挙げられる。
【0025】
ベタイン型両性界面活性剤(A1−1−2)は、分子内に第4級アンモニウム塩型のカチオン部分とカルボン酸型のアニオン部分を持っている両性界面活性剤である。(A1−1−2)は下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。(A1−1−2)として具体的には、アルキルジメチルベタイン(ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)、アミドベタイン(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等(ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)及びラウリン酸アミドプロピルベタイン等)及びアルキルジヒドロキシアルキルベタイン(ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)、硬化ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
R−N+(CH32−CH2COO- (2)
一般式(2)中、Rは炭素数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0026】
イミダゾリン型両性界面活性剤(A1−1−3)としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0027】
その他の両性界面活性剤としては、ナトリウムラウロイルグリシン、ナトリウムラウリルジアミノエチルグリシン、ラウリルジアミノエチルグリシン塩酸塩及びジオクチルジアミノエチルグリシン塩酸塩等のグリシン型両性界面活性剤;ペンタデシルスルホタウリン等のスルホベタイン型両性界面活性剤;コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO);ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイド型両性界面活性剤等が含まれる。
【0028】
アニオン性界面活性剤(A2)としては、エーテルカルボン酸(A2−1)及びその塩、硫酸エステル(A2−2)又はその塩、エーテル硫酸エステル(A2−3)及びその塩、スルホン酸塩(A2−4)、スルホコハク酸塩(A2−5)、リン酸エステル(A2−6)及びその塩、エーテルリン酸エステル(A2−7)及びその塩、脂肪酸塩(A2−8)、アシル化アミノ酸塩並びに天然由来のカルボン酸及びその塩(ケノデオキシコール酸、コール酸及びデオキシコール酸等)等が挙げられる。
【0029】
エーテルカルボン酸(A2−1)又はその塩としては炭化水素基(炭素数8〜24)を有するエーテルカルボン酸及びその塩が含まれる。(A2−1)又はその塩として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンオクチルエーテル酢酸ナトリウム塩及びラウリルグリコール酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0030】
硫酸エステル(A2−2)及びその塩としては、炭化水素基(炭素数8〜24)を有する硫酸エステル及びその塩が含まれる。(A2−2)及びその塩として具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム塩及びラウリル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0031】
エーテル硫酸エステル(A2−3)及びその塩としては、炭化水素基(炭素数8〜24)を有するエーテル硫酸エステル及びその塩が含まれる。(A2−3)及びその塩として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0032】
スルホン酸塩(A2−4)としては、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩及びナフタレンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0033】
スルホコハク酸塩(A2−5)としては、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸二ナトリウム塩、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム塩及びスルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0034】
リン酸エステル(A2−6)としては、オクチルリン酸二ナトリウム塩及びラウリルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0035】
エーテルリン酸エステル(A2−7)としては、ポリオキシエチレンオクチルエーテルリン酸二ナトリウム塩及びポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸二ナトリウム塩等が挙げられる。
【0036】
脂肪酸塩(A2−8)としては、オクチル酸ナトリウム塩、ラウリル酸ナトリウム塩及びステアリン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0037】
ノニオン性界面活性剤(A3)としては、アルコールアルキレンオキサイド(以下、アルキレンオキサイドはAOと略記)付加物(A3−1)、アルキルフェノールAO付加物(A3−2)、脂肪酸AO付加物(A3−3)及び多価アルコール型ノニオン性界面活性剤(A3−4)等が含まれる。
【0038】
ノニオン性界面活性剤の親水性及び疎水性を示す尺度としてHLBが知られている。HLBの値が高いほど親水性が高いことを意味する。本発明におけるHLBとは下記式(1)で計算される数値である(藤本武彦著、界面活性剤入門、142頁、三洋化成工業株式会社発行)。
【0039】
HLB=20×{親水基の分子量/界面活性剤の分子量} (1)
【0040】
ノニオン性界面活性剤(A3)のHLBは、反応の副生成物を効率よく低減する及び分泌効率の観点から、0〜13が好ましく、さらに好ましくは5〜12であり、次にさらに好ましくは8〜12である。
【0041】
アルコールAO付加物(A3−1)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが含まれる。(A3−1)として具体的には、炭素数8〜24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコール及びオレイルアルコール等)のエチレンオキサイド(以下、エチレンオキサイドはEOと略記)0〜20モル及び/又はプロピレンオキサイド(以下、プロピレンオキサイドはPOと略記)1〜20モル付加物(ブロック付加物及び/又はランダム付加物を含む。以下同様)[例えば、デシルアルコールのEO8モル/PO7モルブロック付加物]が含まれる。(A3−1)としてさらに具体的には、ラウリルアルコールEO7モル付加物(HLB=12.4)、オレイルアルコールEO5モル付加物(HLB=9.0)、オレイルアルコールEO6モル付加物(HLB=10.2)、オレイルアルコールEO7モル付加物(HLB=11.0)及びオレイルアルコールEO10モル付加物(HLB=12.4)、1,2−ドデカンジオールモノオキシエチレン付加物(HLB=8.1)等が挙げられる。
【0042】
アルキルフェノールAO付加物(A3−2)としては、炭素数6〜24のアルキル基を有するアルキルフェノールAO付加物が含まれる。(A3−2)として具体的には、オクチルフェノールのEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物並びにノニルフェノールのEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物等が挙げられる。また、TRITONTMX−114(HLB=12.4)、igepalTMCA−520(HLB=10.0)及びigepalTMCA−630(HLB=13.0)等が市場から容易に入手できる。
【0043】
脂肪酸AO付加物(A3−3)としては、炭素数8〜24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びヤシ油脂肪酸等)のEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物が含まれる。(A3−3)として具体的には、オレイン酸EO9モル付加物(HLB=11.8)、ジオレイン酸EO12モル付加物(HLB=10.4)、ジオレイン酸EO20モル付加物(HLB=12.9)及びステアリン酸EO9モル付加物(HLB=11.9)等が挙げられる。
【0044】
多価アルコール型ノニオン性界面活性剤(A3−4)としては、炭素数3〜36の2〜8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビット及びソルビタン等)のEO及び/又はPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステル及びそのEO付加物、並びに、砂糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド(ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド等)及びこれらのAO付加物が含まれる。(A3−4)として具体的には、ソルビタンテトラオレイン酸エステルEO付加物(HLB=11.4)及びソルビタンヘキサオレイン酸エステルEO付加物(HLB=10.2)等が挙げられる。
【0045】
カチオン界面活性剤(A4)としては、アミン塩型カチオン界面活性剤(A4−1)及び第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A4−2)等が含まれる。
【0046】
アミン塩型カチオン界面活性剤(A4−1)としては、1〜3級アミンを無機酸(塩酸、硝酸、硫酸、ヨウ化水素酸など)または有機酸(酢酸、ギ酸、蓚酸、乳酸、グルコン酸、アジピン酸、アルキル燐酸など)で中和したものが含まれる。例えば、第1級アミン塩型のものとしては、脂肪族高級アミン(ラウリルアミン、ステアリルアミン、セチルアミン、硬化牛脂アミン、ロジンアミンなどの高級アミン)の無機酸塩または有機酸塩;低級アミン類の高級脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸など)塩などが挙げられる。第2級アミン塩型のものとしては、例えば脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物などの無機酸塩または有機酸塩が挙げられる。また、第3級アミン塩型のものとしては、例えば、脂肪族アミン(トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなど)、脂肪族アミンのエチレンオキサイド(2モル以上)付加物、脂環式アミン(N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルヘキサメチレンイミン、N−メチルモルホリン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−7−ウンデセンなど)、含窒素ヘテロ環芳香族アミン(4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール、4,4’−ジピリジルなど)の無機酸塩または有機酸塩;トリエタノールアミンモノステアレート、ステアラミドエチルジエチルメチルエタノールアミンなどの3級アミン類の無機酸塩または有機酸塩などが挙げられる。
【0047】
第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A4−2)としては、3級アミン類と4級化剤(メチルクロライド、メチルブロマイド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸などのアルキル化剤;エチレンオキサイドなど)との反応で得られるものが含まれる。例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム)、セチルピリジニウムクロライド、ポリオキシエチレントリメチルアンモニウムクロライド、ステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムメトサルフェートなどが挙げられる。
【0048】
界面活性剤(A)としては、反応の副生成物を効率よく低減する及び分泌効率の観点から、両性界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びHLBが0〜13のノニオン系界面活性剤が好ましく、さらに好ましくはカルボン酸塩型両性界面活性剤(A1−1)、エーテルカルボン酸(A2−1)、スルホン酸塩(A2−4)、高級アルコールAO付加物(A3−1)及び多価アルコール型ノニオン性界面活性剤(A3−4)であり、特に好ましくはポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム塩(ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸(A2−1)のナトリウム塩)、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド(A3−4)、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(A1−1−2)、1,2−ドデカンジオールモノオキシエチレン付加物(A3−1)、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(A1−1−2)、硬化ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(A1−1−2)、コカミノプロピオン酸ナトリウム(A1−1−1)、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩(A2−4)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム塩(ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(A2−1)のナトリウム塩)、高級アルコールEO付加物(A3−1)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸(A2−3)のナトリウム塩)、デシルアルコールEO付加物(A3−1)である。
【0049】
本発明において界面活性剤(A)は、界面活性剤(A)をそのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いてもよい。
水性希釈液における、界面活性剤(A)の合計濃度は、対象となる微生物、生理活性物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、酵素(B)の分泌性及びハンドリング性の観点から、水性希釈液の重量を基準として、0.1〜99重量%が好ましく、好ましくは1〜50重量%である。
【0050】
界面活性剤(A)を用いて酵素(B)の生産を行った場合の界面活性剤(A)の分泌効率(%)は、反応の副生成物を効率よく低減する及び生産性の観点から、1〜100が好ましく、さらに好ましくは5〜100、次にさらに好ましくは10〜100、特に好ましくは50〜100である。
【0051】
界面活性剤(A)の分泌効率とは、界面活性剤により細菌内の酵素(B)が細菌外(培養液中)へ分泌されること示している。
なお、本発明においては、下記式によって定義される。
分泌効率(%)=100×{(X/Y)−Z}
X:遠心分離による菌体除去後に残る培養液中の酵素(B)の重量
Y:培養液中の全酵素(B)の重量
Z:溶菌した細菌の割合を示し、下記の式によって定義される。
Z=Z1/Z2
Z1:遠心分離による菌体除去後に残る培養液中の細胞質内局在物質
Z2:培養液中の全細胞質内局在物質
なお細胞質内局在物質とは、細胞質内に存在している物質であり、溶菌によって培養液中に溶出される物質をさす。
【0052】
分泌効率は、例えば細菌内で生産された酵素(B)がよりペリプラズム移行するようにすれば分泌効率は上がり、よりペリプラズム移行しないようにすれば分泌効率は下がる。また、スクリーニングによって分泌効率の高い界面活性剤を選定することにより分泌効率を上げることができる。
【0053】
界面活性剤(A)の使用量(重量%)は、対象となる微生物、生産される酵素(B)及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、培養液の重量を基準として、分泌効率、酵素(B)の変性のさせにくさ及び反応の副生成物を効率よく低減する観点から、0.0001〜10が好ましく、さらに好ましくは0.005〜10、次にさらに好ましくは0.1〜5である。
【0054】
界面活性剤(A)はあらかじめ培養液と混合して使用する以外に、微生物を懸濁させた培養液に後から添加しても良い。培養液との混合は、4℃〜99℃で培養液に界面活性剤(A)を添加し、撹拌羽根又はスターラー等で撹拌することで行うことができる。後から混合する際は、撹拌羽根等で撹拌しながら添加することで行うことができる。
【0055】
界面活性剤(A)の使用にあたっては、上記界面活性剤を単独で用いる以外に、数種類を混合して用いても良い。
【0056】
酵素(B)の分泌生産には、下記工程(a)を含む細胞外分泌生産方法が含まれる。
工程(a):酵素(B)を生産する細菌(グラム陰性細菌等)を培養する培養液と界面活性剤(A)を同時に存在させて酵素(B)を細胞外(培養液中)に分泌させる工程。
【0057】
以下に界面活性剤(A)の存在下で細菌による分泌生産により酵素(B)を生産する方法の一例を示す。
(i)遺伝子組み換え
(i−1)目的タンパク質を発現している細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該二本鎖DNAをファージDNA又はプラスミドに組み込む。得られた組み換えファージ又はプラスミドを宿主大腸菌に形質転換しcDNAライブラリーを作成する。
(i−2)目的とするDNAを含有するファージDNA又はプラスミドをスクリーニングする方法としては、ファージDNA又はプラスミドと目的タンパク質の遺伝子又は相補配列の一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション法が挙げられる。
(i−3)スクリーニング後のファージ又はプラスミドから目的とするクローン化DNA又はその一部を切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって、目的遺伝子の発現ベクターを作成することができる。内膜を移行させるシグナル配列(ペリプラズムに目的物質を発現させるシグナル配列)をコードするDNAを同時に連結することもできる。
(ii)培養
(ii−1)宿主細菌を発現ベクターで形質転換して組み換え細菌を作成し、組み換え細菌を前培養する。前培養は寒天培地上で通常15〜43℃で3〜72時間行う。
(ii−2)酵素(B)の生産に用いる培養液を121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、ここに寒天培地で前培養した組み換え細菌を培養する。培養は、通常15〜43℃で12〜72時間行う。なお、培養開始と同時に界面活性剤(A)を使用する場合は、界面活性剤(A)と培養液を混合し均一化したものを、培養液として用いて同様の操作を行う。また、培養後6時間から72時間後に界面活性剤(A)を加える場合は、界面活性剤を加えてから1〜1000時間培養を継続する。
(iii)精製
本発明の製造方法で使用する酵素(B)は、上記界面活性剤(A)の存在下で細菌による分泌生産により生産したものであり、少量の細菌で大量に酵素(B)が得られるため、不純物となる細菌が非常に少ない。したがって、酵素(B)を培養液中から精製せずにそのまま使用することもできるが、生体由来の不純物を低減するとの観点から、精製することが好ましい。
(iii−1)培養液中に分泌された酵素(B)は、遠心分離、中空糸分離、ろ過等で微生物及び微生物残さと分離される。
(iii−2)酵素(B)を含む培養液は、イオン交換カラム、ゲルろ過カラム、疎水カラム、アフィニティカラム及び限外カラム等のカラム処理を繰り返し、エタノール沈殿、硫酸アンモニウム沈殿及びポリエチレングリコール沈殿等の沈殿処理を必要に応じ適宜行うことによって分離精製される。
【0058】
(iii−1)で分離された宿主細胞は、その後、新たに培養液を供給することにより、さらに培養することができる。その培養液等をさらに(iii)の工程に供し精製、培養を繰り返すことにより、酵素(B)の連続生産を行うことができる。
【0059】
上記の(iii)のタンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド及びビニルポリマー等が挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等がある。
【0060】
上記生産方法で得られる酵素(B)は、従来よりも比活性が高い。そのため、反応の副生成物であるカルボン酸アミドが少ない、高純度なカルボン酸アンモニウムを得ることができる。
【0061】
上記の生産方法で得られた酵素(B)を、本発明で使用するニトリラーゼ活性を有する酵素(B)として使用する場合、触媒の形態としては、発現した酵素(B)をそのまま用いても構わないが、連続的に大量に処理するという観点から、酵素(B)を一般的な包括法、架橋法、担体結合法等で固定化したもの(固定化触媒)を用いる方が好ましい。固定化する際の固定化担体の例としては、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明で使用されるニトリル化合物(C)としては、ニトリラーゼの触媒作用により対応するカルボン酸アンモニウムに変換される限り、特に限定されない。例えば、脂肪族飽和ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、サクシノニトリル、アジポニトリル)、脂肪族不飽和ニトリル(アクリロニトリル、メタクリロニトリル)、芳香族ニトリル(ベンゾニトリル、フタロジニトリル)及び複素環式ニトリル(3−シアノピリジン、2−シアノピリジン)等が挙げられる。
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法において、生産効率の観点から、プロピオニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、3−シアノピリジン及び2−シアノピリジンが好ましく、さらに好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル及び3−シアノピリジンである。
【0063】
次に、本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法について説明する。
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法は、ニトリラーゼ活性を有する酵素(B)の存在下で、ニトリル化合物(C)を加水分解してなるカルボン酸アンモニウムの製造方法であり、下記工程(1)〜(2)により製造する方法が含まれる。下記において、ニトリル化合物(C)を加水分解する工程は工程(2)である。
(1)所定量の酵素(B)、ニトリル化合物(C)及び溶剤(D)を混合して反応溶液(E)とし、所定の温度、所定のpHに調整して加水分解反応を開始する。
(2)反応溶液(E)の温度を調整しながら、所定の時間、ニトリル化合物(C)の加水分解反応をする。本工程では、必要により攪拌してもいい。
【0064】
上記工程(1)において、反応溶液(E)中の酵素(B)の含有量(重量%)は、酵素(B)として発現した酵素をそのまま用いる場合、反応の副生成物を効率よく低減する及び加水分解反応の速度の観点から、反応溶液(E)の重量を基準として、0.0000001〜2%が好ましく、さらに好ましくは0.00001〜1%である。
酵素(B)の形態が固定化触媒の場合、固定化触媒中の固定化された酵素(B)の含有量(重量%)は、固定化触媒全体の重量を基準として、生産効率の観点から、0.000001〜100%が好ましく、さらに好ましくは0.00001〜99%である。
また、反応溶液(E)中の固定化触媒の含有量(重量%)は、反応の副生成物を効率よく低減する及び加水分解反応の反応速度の観点から、反応溶液(E)の重量を基準として、0.000001〜50%が好ましく、さらに好ましくは0.00001〜10%である。
【0065】
反応溶液(E)中のニトリル化合物(C)の含有量(重量%)は、反応溶液(E)の重量を基準として、反応の副生成物を効率よく低減する及び生産効率の観点から、0.001%〜10%が好ましく、さらに好ましくは0.05%〜5%であり、特に好ましくは0.1%〜2%である。
【0066】
溶剤(D)としては、水が挙げられる。pH調整の観点から、緩衝作用を有するバッファー等を含有していても良い。緩衝作用を有するバッファー等としては、従来のpH調整剤が使用でき、ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、酢酸バッファー、Trisバッファー、HEPESバッファー、硫酸、塩酸、クエン酸、乳酸、ピルビン酸、蟻酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、モノエタノールアミン及びジエタノールアミン等が挙げられる。
【0067】
反応溶液(E)の温度は、酵素(B)の安定性及び反応速度の観点から0〜100℃が好ましい。
【0068】
反応溶液(E)のpHは、酵素(B)の安定性及び反応速度の観点から、3〜12が好ましい。
【0069】
工程(2)において、反応溶液(E)の温度は、酵素(B)の安定性及び反応速度の観点から、0〜100℃の間で調整することが好ましく、さらに好ましくは5〜80℃である。
工程(2)において、加水分解反応させる時間は、酵素(B)の活性、反応溶液(E)の温度、酵素(B)とニトリル化合物(C)の量比等によって異なる。反応溶液(E)の温度を、酵素(B)の活性が高く、加水分解反応の反応速度が速い温度に調整すれば、反応時間を短くすることができる。また、反応溶液(E)中のニトリル化合物(C)に対する酵素(B)の量が多いほど、反応は早くなり、反応時間は短くなる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0071】
<製造例1>
プライマー1と2(表1)を用いてPCR法によりRhodococcus jostiiのニトリラーゼ遺伝子を増幅した。PCR断片を制限酵素NdeIとBamHIで処理後、pET−22bプラスミド(Novagen社)のNdeI制限酵素サイトとBamHI制限酵素サイトに結合した。その後、BL21(DE3)株(Novagen社)に形質転換してニトリラーゼ発現株(α)を作成した。
【0072】
【表1】

【0073】
<比較例1>
1.ニトリラーゼ(B−1)発現株の培養
製造例1で得た大腸菌(α)の終夜培養液10mLを作製し、250mL培養液(TB培養液(Difco社)、培養液中の各成分は、0.7重量%硫酸アンモニウム、0.05重量%クエン酸2アンモニウム、1mM硫酸マグネシウム)に植菌し1L微生物培養装置(エイブル社)を用いてpH7.0、37℃で維持したまま培養を行った。培養開始3時間後に、1M IPTG(イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド)0.75mLを加えた。培養開始8時間後から、50%グリセリンを2mL/時間の速度で滴下して、培養開始50時間後に培養を停止した。培養液100mlを回収して、遠心分離(6000×g、15分間)を行った後、上清を除去し、酵素(B)であるニトリラーゼ(B−1)が含まれる菌体(乾燥菌体重量で16.5g)を回収した。37℃、pH7.0のリン酸緩衝液200mLに、回収した菌体を再懸濁した。
2.アクリロニトリルの加水分解反応
37℃、pH7.0のリン酸緩衝液に、アクリロニトリルの濃度が1g/Lになるように、アクリロニトリルを加え、アクリロニトリル水溶液を調整した。上述の菌体を再懸濁した溶液200mlのうち10mlを、アクリロニトリル水溶液に添加し、反応溶液(E−1)を作成した。反応溶液(E−1)の温度を37℃に保ち、1時間加水分解反応を行った。
【0074】
<比較例2>
比較例1の(2.アクリロニトリルの加水分解反応)において、「菌体を再懸濁した溶液200mLのうち10mLを」を「菌体を再懸濁した溶液200mLのうち100mLを」に変更して、反応溶液(E−2)を作成する以外は比較例1と同様に行った。
【0075】
<比較例3>
比較例1の(1.ニトリラーゼ(B−1)発現株の培養)において、「回収した菌体を再懸濁」した後、超音波破砕(130W、10分)を行った。次いで破砕液の遠心分離(10000×g、30分)を行い、上清200mLを回収した。上清200mL中のニトリラーゼ(B−1)の含有量は0.02gであった。
上清200mLのうち100mLをアクリロニトリル水溶液に添加し、反応溶液(E−3)を作成した。反応溶液(E−3)の温度を37℃に保ち、1時間加水分解反応を行った。
【0076】
<実施例1>
比較例1の(1.ニトリラーゼ(B−1)発現株の培養)において、IPTG添加時に、界面活性剤(A−1)であるヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン(三洋化成工業(株)製、商品名「レボン2000」)を培養液中の濃度が0.3重量%になるように添加したこと以外は比較例1と同様に培養を行い、遠心分離後の上清160mLを回収した。上清160mL中のニトリラーゼ(B−1)の含有量は0.17gであった。
比較例1の(2.アクリロニトリルの加水分解)において「再懸濁した溶液200mLのうち10mLを」を「遠心分離後の上清160mLのうち10mLを」に変更して、反応溶液(E−4)を作成する以外は比較例1と同様に行った。
【0077】
<反応溶液中の各成分の分析>
比較例1〜3及び実施例1の加水分解反応後の反応溶液(E−1)〜(E−4)中のアクリロニトリル、アクリル酸アンモニウム及びアクリルアミドの量を分析した。
アクリロニトリルについてはガスクロマトグラフィーで測定した。次に、生成物であるアクリル酸アンモニウムと副生成物であるアクリルアミドは、高速液体クロマトグラフィーで測定した。カラムは逆相カラムで実施した。結果を表2に示す。
○ガスクロマトグラフィー
ガスクロマトグラフ:島津製 GC−14B
インジェクション温度:220℃
カラム初期温度:110℃
キャリアーガス流量:40mL/min
カラム初期温度保持時間:1min
カラムファイナル温度:200℃
カラムファイナル温度保持時間:15min
○高速液体クロマトグラフィー
カラム:Shim−pack SCR−101H
カラム温度:40℃
移動相:0.015重量%リン酸水溶液
流速:1.0ml/min
検出器:UV210nm
【0078】
【表2】

【0079】
表2から、菌体中に存在するニトリラーゼ(B−1)を酵素(B)として使用した比較例1及び2の製造方法では、原料であるアクリロニトリルや生成物であるアクリル酸アンモニウムが菌体に消費され、生産効率が悪いことがわかる。また、菌体中に存在するニトリラーゼ(B−1)を酵素(B)として多量に使用した比較例2は、加水分解反応は早いものの、副生成物であるアクリル酸アミドが多く生成していることがわかる。さらに、菌体からニトリラーゼ(B−1)を取り出して酵素(B)として使用した比較例3は、原料や生成物が菌体に消費されることは無いものの、副生成物であるアクリル酸アミドが非常に多く生成していることが分かる。
一方、実施例1の本発明の製造方法では、副生成物であるアクリル酸アミドの量が少なく、高純度なアクリル酸アンモニウムを製造することができることが分かる。また、ニトリラーゼ(B−1)の培養液の上清を使用しているので、反応溶液中に菌体が含まれておらず、原料や生成物が菌体に消費されることがない。さらに、生体由来の不純物が少ないアクリル酸アンモニウムが製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のカルボン酸アンモニウムの製造方法は、高純度なカルボン酸アンモニウムを得ることができ、得られたカルボン酸アンモニウムは、高分子凝集剤や高吸水性樹脂の原料等として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリラーゼ活性を有する酵素(B)の存在下で、ニトリル化合物(C)を加水分解してなるカルボン酸アンモニウムの製造方法であって、酵素(B)が界面活性剤(A)の存在下で細菌を用いて分泌生産された酵素であるカルボン酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
界面活性剤(A)が、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びHLBが0〜13のノニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ニトリル化合物(C)がアクリロニトリルである請求項1又は2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−171922(P2012−171922A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35581(P2011−35581)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】