説明

カルモジュリン様皮膚タンパク質CLSPの複合形の使用方法

【課題】上皮の経時的老化の状態のin vitro又はex vivoでの特徴付けの為の手段として使用する方法を提供する。
【解決手段】配列ID NO 1により完全に又は部分的に表わされる核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド又はその類似体又はその断片に少なくとも部分的に由来するカルモジュリン様皮膚タンパク質すなわちCLSPの少なくとも1つの複合形を、上皮の経時的老化の状態のin vitro又はex vivoでの特徴付けの為の手段として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルモジュリン様皮膚タンパク質(CLSP)の複合形、このタンパク質のペプチド断片又はその類似体を、上皮、特には表皮の経時的老化の状態を評価する為のマーカーとして使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮は、その細胞が互いに結合され及び互いに連結され並びに基底膜上に横たわる組織である。それらは、例えば皮膚の表面で、外部皮膜を形成し、又は、粘膜の表面で、内部皮膜を形成する。それらは腺を形成することもできる。
【0003】
より特には、これらの上皮は、細胞増殖、細胞遊走及び細胞分化の全ての段階で作用し、及びまた種々の細胞外マトリックス成分の合成の全ての段階でも作用する細胞内及び細胞外シグナルの細かく制御されたセットの実行から、そのホメオスタシスがもたらされる構造物である。これらのシグナルは特に、ケラチノサイトにより産生される因子の作用からもたらされうる。
【0004】
上皮の正確な生理学的機能を維持することは、特に、上皮の最終的な分化及び/又はプロテオグリカン合成に関係する。
【0005】
より特には表皮に関して、上皮は、特には皮膚幹細胞を含み且つ表皮の胚芽層を構成するケラチノサイトの基底層、該基底層上に配置される多面細胞(polyhedral cells)のいくつかの層から構成される「有棘」層、明確な細胞質内封入体、ケラトヒアリン顆粒、を含む扁平細胞と呼ばれる1〜3の層を含む「顆粒」層、及び、最後に、角質細胞と呼ばれる、ケラチノサイトの分化の最終段階にあるケラチノサイトから構成される角質層(又はstratum corneum)と呼ばれる上部の細胞のセットに慣習的に分類される。
【0006】
角質層、生物と環境との間のバリアの機能を果たす皮膚の最外側の部分、及び毛幹、頭髪を構成する毛包の出現部分、は両方とも、ケラチノサイト分化プロセスの結末を表す。表皮分化は、基底層からのケラチノサイトが、角質細胞の形成を結果するように分化及び移動する成熟のプロセスに従う。この分化は、一定に維持される表皮の厚さを結果し及びすなわち表皮のホメオスタシスを確保するであろう完全に調和した現象の結果である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多くの皮膚の疾患及び病理学的状態は、表皮のホメオスタシスの機能障害からもたらされうる。
【0008】
すなわち、老いた皮膚の場合、この機能障害は一般に、しわ(マイクロレリーフ及び深いしわ)の出現、弾力性の喪失、荒れた感じ及び乾燥により、表される。組織学的観点から、真皮−表皮接合の平板化並びに真皮の厚さ及び表皮の厚さにおける減少が観察される。コラーゲン及びグリコサミノグリカンの含有量が減少する。皮膚のバリア機能が損なわれる。これらの現象全てが、太陽への長期にわたる曝露により増加される。
【0009】
同様に、この機能障害は、閉経期の間の女性において悪化されうる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、角質層におけるCLSPタンパク質の複合形の本発明者らによる特徴付けからより特にはもたらされ、その発現は、上皮の経時生物学的老化の過程にわたって異なって調節されると分かる。
【0011】
CLSPは、カルモジュリンファミリーに属するカルシウム結合性タンパク質であり、その前駆体は、146のアミノ酸を含む。それは、約16kDaの分子量を有し、そして、カルモジュリンと約52%のアミノ酸配列相同性を有する。
【0012】
CLSPの構造は、4つの潜在的な「EF−ハンド」カルシウム結合性部位、潜在的なN−グリコシル化部位、複数の潜在的なホスホリル化部位及びミリスチル化部位を含む。
【0013】
CLSPへのカルシウムの結合は、その立体構造における変化を誘発し、これはその活性化をもたらし、特には種々の標的タンパク質とのその相互作用を可能にする。
【0014】
CLSPをコードするmRNAの増加が、光誘発性老化、すなわち太陽からの光線への皮膚の繰り返しの曝露からもたらされる老化の経過(経時的老化(すなわち時間の経過とリンクした生理学的老化)のそれと異なるプロセス)にわたって示された(Urschitz, J. et al., J. Invest. Dermatol., 2002, 119:3-13)。
【0015】
その一部について、米国特許出願公開第2004/0142335号明細書は、トランスクリプトーム分析により、若い個体の皮膚と比較して、老いた個体の皮膚におけるCLSPタンパク質をコードするmRNAの発現における増加を観察する。
【0016】
すなわち、CLSPは特に、ケラチノサイトの最終的な分化に関与しうる(B. Mehul et al., J. Biol. Chem., 2000, Apr. 28; 275(17):12841-7)、(欧州特許出願公開第1 204 744号明細書)。
【0017】
より最近、本発明者らは予想外に、老いたヒトの表皮の角質層中のCLSPの特定の形の発現における減少に気づいた。きわめて明らかに、本発明者らにより特徴付けされた該形は、今まで考えられていたCLSPの形のそれら及び特には上記言及されたCLSPの形のそれらと異なるタンパク質の成熟の段階に対応する。
【0018】
以下から明らかになるように、該複合形は、本発明者らによって、特には本明細書以下の実施例1に記載された、特異的ELISAアッセイ技術の実行により、特徴付けされた。
【0019】
すなわち、その局面の1つに従い、本発明は、配列ID NO1により完全にまたは部分的に表わされる核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド、またはその類似体、またはその断片から少なくとも部分的に得られるカルモジュリン様皮膚タンパク質すなわちCLSPの少なくとも1つの複合形の、上皮の、特には表皮の、経時的老化の状態の、特にはin vitroまたはex vivoでの、特徴付けの為の手段としての使用方法に関する。
【0020】
「経時的老化」により、本発明の意味内において、本発明の範囲から、太陽またはU.V.曝露に続く皮膚の現象、すなわち光誘発性皮膚老化を除外することが意図される。
【0021】
本発明の目的の為に、語「複合形」は、CLSPタンパク質又はその誘導体と、CLSPとは別の他のタンパク質若しくはその断片又は他のCLSPタンパク質若しくはその断片との任意の複合物を含むことが意図される。
【0022】
本発明の目的の為に、語「CLSPタンパク質の誘導体」は、本明細書以下で定義されるとおり、その断片又は類似体を意味する。
【0023】
より特には、複合形は、全部のCLSPタンパク質又はその断片と、それ自体若しくはその断片の1つとの、又は標的タンパク質との、又はタンパク質構造物、例えば角質層中でタンパク質分解された角化膜(cornified envelope)などさえとの会合(association)から得られうる。
【0024】
すなわち、第1の変形に従い、本発明に従う考慮の下にある該複合形は、CLSPタンパク質の二量体形であってよく、又は2つの同一の若しくは異なる、このタンパク質の断片の複合物であってよい。
【0025】
他の変形に従い、これらの複合形は、CLSPタンパク質又はその断片と、第2の標的タンパク質との会合からもたらされる生成物でありうる。CLSP及び/又はその断片と相互作用することができるこれらの標的タンパク質の説明のために、14.3.3 βポリペプチド、14.3.3 シグマ、アネキシンII及びV、カルレティキュリン、ERp72、ヌクレオリン、トランスグルタミナーゼ3、MAGED1(メラノーマ抗原遺伝子D1)、PPP4C(プロテインホスファターゼ4)及びUSF2(上流転写因子2)が特に言及されうる。それらは、例えばYWHAQモチーフ(14.3.3tau)などのペプチドモチーフでもありうる。
【0026】
全ての予想に反して、本発明者らは、角質層中のこれらの複合形の定量が、対応する表皮の状態を明らかにする為の有効な且つ信頼できる手段を構成することに気づいた。上記で特定されたとおり、これらの複合形の発現における減少は、経時的老化の経過にわたって観察される。
【0027】
この点において、本発明に従う複合形の減少は、上皮の経時的老化の状態を示す。
【0028】
これらの複合形の特徴付けは、それ故に、表皮の状態の診断を確立する為に特に役立つと分かる。
【発明の効果】
【0029】
この診断に関して、個体のプロファイルに特に最も適した化粧的処置を該個体に提供することが有利に可能であろう。明白な理由の故に、化粧的処置の点におけるこの種の個人化は、使用者により特に所望され且つ好まれる。本発明は、この要求を有利に満たすことを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】齢と、前腕及び顔の皮膚に存在する、本発明に従う複合形の量との関係を示すグラフである。
【図2】前腕及び顔の皮膚における、本発明に従う複合形の量に対する、10%のビフィディオバイオティック(bifidiobiotic)(CLR複合体)及び0.002%のフィトスフィンゴシン−SLC(処置「G」)から構成される化粧料組成物の施与と関連付けられた効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
その局面の他に従い、本発明は、表皮の経時的状態を、特にin vitro又はex vivoで、特徴付けする為の非侵襲的な方法、特には非侵襲的な化粧方法、であって、該表皮の角質層における、本発明に従うCLSPの少なくとも1つの複合形の発現の定性的又は定量的な特徴付けを含む上記方法に関する。
【0032】
1つの変形の実施態様に従い、そのような方法により得られるデータ又は値の一部分が、例えば該特徴付けの対象であるものと異なり且つその状態が既知である少なくとも1つの上皮、特には表皮、から得られたデータ又は値の参照部分と比較して評価されうる。
【0033】
その局面の1つに従い、本発明は、上記で定義されたとおりの表皮の経時的状態を特徴付けする為の方法であって、本発明に従う複合形の減少が経時的老化の状態を示す上記方法に関する。
【0034】
その局面の他に従い、本発明は、個体における経時的老化に関連した皮膚老化の兆候(sign)、例えばしわ及び細かいしわなど、を防ぎ及び/又は処置することが意図される化粧的又は治療的処置の有効性を、特にはin vitro又はex vivoで、特徴付けする為の非侵襲的な方法、特には非侵襲的な化粧方法、であって、本発明に従うCLSPの少なくとも1つの複合形の定性的又は定量的な特徴付けを少なくとも含む上記方法にもまた向けられる。
【0035】
表現「皮膚老化の兆候」は、経時的老化に起因する皮膚の外観の全ての変更、例えばしわ及び細かいしわ、しわだらけの皮膚、皮膚の弾力性及び/又は緊張度の欠如、真皮の菲薄化及び/又はコラーゲン繊維の分解、それによりたるんでおり及びしわのある皮膚の出現をもたらす、など、を意味することが意図される。
【0036】
本発明において考慮される皮膚老化の兆候は、経時的皮膚老化と関連し又は経時的皮膚老化からもたらされるそれらである。
【0037】
特に、本発明において考慮される皮膚老化の兆候は、光誘発性皮膚老化と関連し又は光誘発性皮膚老化からもたらされるそれらと別である。
【0038】
「光誘発性老化」により、フリーラジカルの生成、タンパク質のグリケーション又はいくつかの細胞表面受容体の過剰活性化、及び、組織レベルでは、エラスチン繊維の肥厚化を結果する、表皮のU.V曝露、より特にはU.V.A.曝露からもたらされる酸化的損傷を特に意味することが意図される。
【0039】
すなわち、本発明は、経時的皮膚老化に関連し、且つより特にはUV曝露に関連しない、皮膚の兆候の予防及び/又は処置に向けられる。
【0040】
本発明はより特には、細胞摩擦及び細胞老化からもたらされる経時的皮膚老化兆候に向けられる。
【0041】
また、経時的老化は、表皮細胞レベルでは、テロメア減少、ホルモン欠乏、例えばDHEAなど、若しくは成長因子欠乏に起因する又は細胞受容体数の減少に起因する細胞刺激の減少によりそれ自体を現し、及び、組織レベルでは、特にはエラスチン繊維消失により現れる。
【0042】
そのような現象は、UV曝露に関連せず、そして結果として、光誘発性皮膚老化に関連しない。
【0043】
経時的皮膚老化に続いて起こる細胞の及び組織の欠陥は、乾燥症、表皮弛緩症、しわ及び/又は細かいしわ、皮膚のたるみ、脂漏性角化症又はサクランボ色血管腫を結果しうる。
【0044】
より特には、上記で記載されたとおりの方法は、
i.該個体を代表する少なくとも第1の皮膚表面試料を用意すること、
ii.該試料中において、特にはELISAアッセイ技術により、及び特には本明細書以下の実施例1に記載されたELISAアッセイ技術により、本発明に従う少なくとも1つの複合形を定量すること、
iii.該個体を代表する第2の皮膚表面試料について、工程i及びiiを繰り返すこと、及び
iv.工程ii及びiiiの終わりで得られた結果を、特にはそこから該処置の少なくとも1つの効果に関する情報を推測する為に、比較すること、ここで該第1及び第2の皮膚表面試料は異なる処置段階に対応する、
からなる工程を少なくとも含みうる。
【0045】
工程iiにおけるデータの参照値又はデータの参照部分は、該処置の執行の前の又は処置開始日付に関してより短い経時的時間内の、該処置の対象である個体を代表する上皮、特には表皮、から得られたデータの部分でありうる。
【0046】
1つの好ましい実施態様に従い、該第1の試料は処置前の状態を代表し、且つ該第2は処置の経過の間の状態又は処置後の状態を代表する。
【0047】
1つの変形の実施態様に従い、本発明は、上記の方法の1つであって、複合形の増加が、該皮膚老化の兆候の該処置が有効であることを示す上記方法に関する。
【0048】
1つの変形の実施態様に従い、上記方法の1つは、CLSPの複合形を特徴付ける工程の終わりで、該個体に、該複合形について得られた情報に関して確立され又は選択されたケア組成物、特には化粧的ケア組成物を施与することを狙う少なくとも1つの追加工程も含みうる。この追加の工程は、該特徴付け工程に続きうる。
【0049】
1つの実施態様に従い、この組成物は種々の組成物から選ばれてもよく、後者のそれぞれが、本発明の方法に従い得られうる情報の種類にとってより特に適当である。
【0050】
すなわち、本発明の利点は、第1には上皮の、特には皮膚の表皮の、生理学的状態の特徴づけを確立する為の、及び第2にはそれに応じて該上皮又は皮膚の表皮にとって適当な処置を調節する為の、簡単であり且つ迅速である方法を提案することである。
【0051】
本発明の方法は、in vitro、ex vivo又はin vivoで、実施されうる。
【0052】
以下に続く記載から明らかになるように、本発明に従う方法は、その実施が侵襲的手順を要求しない限りにおいて特に有用である。
【0053】
これは、なぜなら角質層における老化についてのこれらの新規バイオマーカーの、局在化が、本発明者らにより、簡単な局所的サンプリングによって該マーカーの発現を定量的に又は定性的に特徴付けることを可能とするからである。
【0054】
有利に、この方法は、剥ぎ取りにより簡単に採られた、考慮下の個体の角質層の試料について実施されうる。サンプリング方法は、例えば、粘着テープの一部を、考慮下の上皮、例えば表皮など、に施与することからなる剥ぎ取り技術でありうる。この粘着テープをはがすと、上皮の一部分、例えば表皮の一部分、が採られる。タンパク質抽出後、該部分は次に、本発明において考慮されるようなELISAアッセイにより分析される。
【0055】
さらに他の局面に従い、本発明は、本発明に従う少なくとも1つの複合形を、これらの複合形の増加及び/又は安定性及び/又は生物学的活性を調節することができる、特には促進することができる生物学的又は化学的化合物についてのスクリーニングの為の手段として使用する方法にも関する。
【0056】
特に、それは、アンチエイジング活性剤についてのスクリーニングの方法であって、
a)本発明に従う少なくとも1つの複合形を含む少なくとも1つの細胞タイプを、少なくとも1つの化学的又は生物学的試験化合物との接触に、該形の発現の顕在化にとって適当な条件下で付すること、
b)該複合形の少なくとも1つの含有量を決定すること、及び
c)工程b)で決定された該含有量と、化学的又は生物学的試験化合物の不在下において決定された該複合形の含有量とを比較すること
からなる工程を少なくとも含む上記方法に関する。
【0057】
1つの変形の実施態様に従い、本発明は、上記定義された方法であって、本発明に従う複合形の増加が、アンチエイジング特性を有する活性剤を示す上記方法に関する。
【0058】
すなわち、有利に、本発明に従う複合形の含有量の増加が観察される活性剤を選択する工程が、工程c)の終わりで、さらに実施されうる。
【0059】
さらに最後の局面に従い、本発明は、本発明に従う複合形の有効量を、皮膚老化の兆候を防ぎ及び/又は処置する為に有用な剤として、化粧的に使用する方法に関する。
【0060】
さらに他の局面に従い、本発明は、本発明に従う複合形の有効量を、表皮の菲薄化(thinning)並びに/又は表皮の硬さの喪失、弾性力の喪失、密度の喪失及び/若しくは緊張度の喪失並びに/又はしわ及び細かいしわの形成を防ぎ及び/又は処置する為に使用する方法に関する。
【0061】
さらに他の局面に従い、本発明は、本発明に従う複合形の有効量又は該複合形の形成を調節する少なくとも1つの剤の有効量を、複数階層化細胞モデル(pluristratified cell model)、特には再構築された皮膚モデル、を調製し及び/又は改善する為に使用する方法に関する。
【0062】
さらに他の局面に従い、本発明は、分離された再構築された皮膚を調製する方法であって、本発明に従う少なくとも1つの複合形を、分離された再構築された皮膚を生成することができる細胞、及び特にはケラチノサイト、との接触に付することからなる工程を少なくとも含む上記方法に関する。
【0063】
CLSPの「複合形」の定義
【0064】
上記で特定されたとおり、本発明に従う該複合形は、配列ID NO 1により完全に又は部分的に表わされる核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又はその類似体若しくはその断片から少なくとも部分的に得られる。
【0065】
CLSPの複合形は特に、少なくとも完全CLSPタンパク質又はその断片と、それ自体若しくはその1つの断片との、又は少なくとも1つの標的タンパク質との、少なくとも1つのタンパク質構造物、例えば角質層中のタンパク質分解された角化膜など、さえとの会合からもたらされる多量体でありうる。
【0066】
本発明に従うCLSP断片は、本発明に従う複合形としてのそれらの実施にとって適当な長さ及び活性を有する断片である。
【0067】
より特には、CLSPの複合形は、二量体、より特には完全CLSPのホモ二量体又はその断片でありうる。
【0068】
特定の実施態様に従い、本発明の二量体は、完全CLSPタンパク質又はその断片により表わされる第一の単量体と該完全CLSPタンパク質又はその断片と異なる構造により表わされる第二の単量体とを含みうる。
【0069】
本発明にとって適当な完全CLSPタンパク質又はその断片と異なる構造により表わされる単量体の例として、該完全CLSP又はその断片と二量体化することができる上記言及されたタンパク質及びその断片が言及されうる。
【0070】
他の特定の実施態様に従い、本発明にとって適当な複合形は、CLSPから得られ且つ完全CLSP配列とは異なるペプチド、特には配列ID NO 1により表わされる核酸配列によりコードされるアミノ酸配列とは異なるペプチドを含みうる。
【0071】
特に、本発明にとって適当なCLSPから得られるペプチドは、CLSPの断片、より特には配列ID NO 1により表わされる核酸配列によってコードされるタンパク質の断片、であって、本発明に従う複合形としてのそれの使用にとって適当である適切な長さ及び活性を有する上記断片でありうる。
【0072】
本発明の目的の為に、表現「核酸配列の断片」は、本発明に従う複合形を部分的にコードする核酸配列、又はその類似体、及び特には配列ID NO 1により表わされる核酸配列又はその類似体を意味することが意図される。
【0073】
表現「核酸配列の類似体」は、任意的に核酸コードの縮重からもたらされ、且つ該核酸配列によりコードされるポリペプチドの配列と同一のまたは類似の配列を有する複合形の少なくとも一部をコードする任意の核酸配列を意味することが意図される。
【0074】
該核酸配列は、任意のあり得る源、すなわち動物、特には哺乳類、およびさらにより特にはヒトもしくは植物から、または微生物(とりわけウィルス、ファージ、バクテリア)からもしくは菌類から、それらが該源の有機体中に天然に存在してよくまたは存在しなくてもよいという事実を早まって判断することなく、得られてよい。
【0075】
1つの変形の実施態様に従い、本発明に従う複合形は可溶性でありうる。
【0076】
本発明の目的の為に、語「可溶性」は、本発明に従う考慮下の複合体化ペプチド形の、カオトロピック剤またはイオン性界面活性剤タイプのタンパク質変性物質を有さない水または水性媒体の中に(例えば、そのような剤の存在下においてだけ抽出されることができる未変性の(native)CLSPとは対照的に)可溶化する能力を説明することが意図される。
【0077】
他の実施態様に従い、本発明に従う複合形は、そのアミノ酸配列が、配列ID NO 2により完全にまたは部分的に表わされるポリペプチド、またはその類似体、またはその断片に、少なくとも部分的に由来する。
【0078】
本発明の目的の為に、語「CLSP」は、一般に、他に示されない限り、位置25および/または43におけるアスパラギン残基についてのグリコシル化タイプの、ホスホリル化タイプのおよび/またはミリスチル化タイプの翻訳後修飾(その見かけ分子量またはその等電点を変更することができる)を受けたまたは受けていないタンパク質の該配列(配列ID NO 2)を意味することが意図される。
【0079】
さらに、ポリペプチドの一次配列、すなわち一続きのそのアミノ酸、は、プロテアーゼ酵素、たとえばトリプシンなど、により特異的に認識される部位(該酵素は、これらの部位の認識が有効になると、プロテオリシスによるポリペプチドの開裂を誘発するであろう)を決定することが知られている。このプロテオリシスは、CLSPの複合形の種々のペプチドまたはタンパク質分解断片の生成を結果する。
【0080】
本発明者らは、角質層におけるそのようなペプチドの存在を検出した。
【0081】
その結果、本発明は、配列ID NO 3, 配列ID NO 4, 配列ID NO 5, 配列ID NO 6, 配列ID NO 7, 配列ID NO 8, 配列ID NO 9, 配列ID NO 10, 配列ID NO 11, 配列ID NO 12, 配列ID NO 13, 配列ID NO 14, 配列ID NO 15, 配列ID NO 16, 配列ID NO 17, 配列ID NO 18, 配列ID NO 19, 配列ID NO 20, 配列ID NO 21, 配列ID NO 22, 配列ID NO 23, 配列ID NO 24および配列ID NO 25のペプチド配列を有するCLSPのタンパク質分解断片を少なくとも含む複合形にひろがる。
【0082】
すなわち、1つの特定の実施態様に従い、本発明に従う複合形は、アミノ酸配列が配列ID NO 3, 配列ID NO 4, 配列ID NO 5, 配列ID NO 6, 配列ID NO 7, 配列ID NO 8, 配列ID NO 9, 配列ID NO 10, 配列ID NO 11, 配列ID NO 12, 配列ID NO 13, 配列ID NO 14, 配列ID NO 15, 配列ID NO 16, 配列ID NO 17, 配列ID NO 18, 配列ID NO 19, 配列ID NO 20, 配列ID NO 21, 配列ID NO 22, 配列ID NO 23, 配列ID NO 24および配列ID NO 25から選ばれるアミノ酸配列により完全にまたは部分的に表わされるポリペプチド、並びにそれらの混合物に少なくとも由来する。
【0083】
語「ポリペプチドの類似体」は、配列相同性、特には該ポリペプチドの特徴的配列の1つに関する配列相同性と、同じ性質の生物学的活性とを示す任意のポリペプチドを意味することが意図される。
【0084】
この類似体は、ペプチド模倣剤でありうる。
【0085】
該相同性は、少なくとも85%、例えば少なくとも90%、および例えば少なくとも95%でありうる。該相同性は、視覚による比較によって、または、当技術分野において一般的に用いられる任意のコンピューターツール、例えばwww.ncbi.nlm.nih.govで利用可能でありかつデフォルトパラメーターと一緒に用いられるBLASTプログラムなど、の手段によって決定されうる。
【0086】
該配列相同性は、本発明に従うポリペプチドの特徴的配列における、1以上(1またはそれより多い)のアミノ酸の欠失から、または1以上のアミノ酸の挿入から、または1以上のアミノ酸の置換から生じる、本発明に従うペプチドの配列における変異または変化に起因する改変からもたらされうる。
【0087】
本発明の目的の為に、語「断片」は、CLSPタンパク質の少なくとも4つの、少なくとも6つの、特には少なくとも8つの、およびより特には少なくとも12の連続したアミノ酸を含み、かつ実質的に類似の生物学的活性を有する任意のペプチド部分を意味することが意図される。
【0088】
一般に、該ポリペプチド類似体は、天然のアミノ酸配列についての同類置換(conservative substitutions)を含みうる。
【0089】
これらの改変のいくつかが一緒にされうる。
【0090】
本発明において考慮されうる変異として、非徹底的に、同様のハイドロパシー指標を有するアミノ酸残基による1以上のアミノ酸残基の置換、しかしながら本発明に従う複合形の生物学的特性に実質的に影響を及ぼすことがない、が言及されうる。
【0091】
該ハイドロパシー指標は、アミノ酸の疎水性およびそれらの電荷に従い、それらに割り当てられる指標である(Kyte et al. (1982), J. Mol. Biol., 157: 105)。
【0092】
本発明に含まれる該複合形は、上記で定義されたような、1以上の翻訳後修飾を受けたポリペプチドに由来しうる。
【0093】
語「翻訳後修飾」は、ペプチドまたはタンパク質が、細胞内におけるその合成の最後で受けることができるすべての修飾、例えば、1以上のホスホリル化、1以上のチオール化(thiolation)、1以上のアセチル化、1以上のグリコシル化、1以上の脂質付加(lipidation)、例えばミリスチル化など、構造的再配列、例えばジスルフィド架橋の形成など、および/またはペプチド配列内の開裂など、を包含することが意図される。
【0094】
さらに、該類似体は、天然のポリペプチドと同じ生物学的活性を実質的に有する。
【0095】
1つの実施態様に従い、本発明の実施にとって適当な複合形は、必要に応じて、CLSPの天然形(native form)の酵素的若しくは化学的な溶解後に得られることができる、又は化学的若しくは生物学的合成により得られることができる、又はこれらの複合形をおよびその種々の翻訳後の形を天然に発現する生物学的組織、例えば皮膚、からの抽出により得られることができる、天然の又は合成のポリペプチドにも由来しうる。
【0096】
当技術分野の当業者は、組み換えDNAに基づく方法、例えばマニュアル「Molecular Cloning - A Laboratory Manual" (2nd edition), Sambrook et al., 1989, Vol. I-III, Coldspring Harbor Laboratory, Coldspring Harbor Press, NY, (Sambrook)」に記載されたそれらなど、により本発明に従う複合形を得ることができる。
【0097】
他の実施態様に従い、本発明の実施にとって適当な複合形は、上記で同定されたそれらとは別の他のポリペプチドと、親水性又は疎水性ターゲティング剤と、バイオコンバージョン前駆体と、又は発光性の、放射性の若しくは測色的な標識剤と結合もされうる。
【0098】
非限定な様式で、本発明に従う複合形と結合されうる化合物の例として、蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質など、蛍光性化学的化合物、例えばローダミン、フルオレセイン、又はTexas Red(商標)など、リン光発光性化合物、放射性元素、例えばH、14C、35S、121I又は125Iなど、又は測色的標識剤、例えばガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ又はアルカリホスファターゼの作用に感受性の発色性基質など、が言及されうる。
【0099】
本発明に従う複合形と結合されうる化合物の性質によって、当技術分野の当業者に既知の、特には反応性の化学的官能基による、化学的方法により、又は分子生物学的方法により、該結合が実施されうる。
【0100】
ポリペプチドの検出の為の方法として、ウェスタンブロッティング、スロットブロッティング(slot blotting)、ドットブロッティング、シングルプレックスタイプ又はマルチプレックスタイプのELISA(酵素連結免疫吸着アッセイ)方法、プロテオミクス又はグライコミクスの方法、銀に基づく染料による、クマシーブルーによる又はSYPROによるポリアクリルアミドゲル中のポリペプチドの染色、免疫蛍光、UV吸収、慣用の免疫組織化学的方法、電子顕微鏡若しくは共焦点顕微鏡、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)、TR−FRET(時間分解FRET)方法、FLIM(蛍光寿命イメージング顕微鏡)方法、FSPIM(蛍光スペクトルイメージング顕微鏡)方法、FRAP(光漂白後蛍光回復)方法、リポーター遺伝子方法、AFM(原子間力顕微鏡)方法、表面プラズモン共鳴方法、, マイクロカロリメトリー方法、フローサイトメトリー方法、バイオセンサー方法、ラジオイムノアッセイ(RIA)方法、等電点電気泳動方法、及び酵素的アッセイ、ペプチドチップ、糖チップ、抗体チップを用いる方法、マススペクトロメトリー方法、及びSELDI−TOFスペクトロメトリー方法(Ciphergen)が言及されうる。
【0101】
以下から明らかになるように、ELISA方法に従う、本発明に従う複合形の検出が好まれる。
【0102】
本発明に従う複合形の、表皮の状態の診断の目的及び/又はアンチエイジング活性剤のスクリーニングの目的の為の使用方法
【0103】
上記で特定されたとおり、その局面の他に従い、本発明は、非病理学的な表皮の表面状態又は代わりに化粧的若しくは治療的な処置の有効性を、特にはin vitroで若しくはex vivoの様式で、特徴付ける為の非侵襲的方法であって、CLSP、又はその誘導体若しくは断片から少なくとも部分的に形成された複合形の発現を定性的に若しくは定量的に特徴付けることを狙いとした上記方法に関する。
【0104】
これらの方法は、その実施が、そのような特徴付けを実施する為に外科的技術に義務的に頼ることを要求しない限りにおいて、特に有利である。
【0105】
本明細書以下に記載される、本発明に従う方法は、個体から採られた上皮の、特には表皮の試料、例えば分離された試料など、について実施されうる。
【0106】
本発明に従う方法はまた、上皮細胞モデル、特には表皮細胞モデルから又は再構築された分離された皮膚から採られた上皮、特には表皮の試料について、それらの状態を決定する為に実施されうる。
【0107】
該表皮の抽出物はすなわち、簡単な剥ぎ取りにより得られることができ、そして、本明細書以下の実施例1に記載されるようなELISA方法によって直接的に分析されることができる。
【0108】
該剥ぎ取り技術は、該表皮の表面に粘着性表面、例えば3MからのBlenderm(商標)、D'squam(CuDERMからの市販の粘着物)、又はシアノアクリレート接着剤など、を施与することからなる。これらの剥ぎ取りのおかげで、付着した角質細胞及びそれらの細胞間の空間(intercellular space)の内容物が、試料採取されることができ、そしてその後、タンパク質含有量にアクセスすることを可能とする抽出に付されることができる。
【0109】
該方法にとって適当な試料を採ることはまた、より直接的には、例えば流体回路と組み合わせられた、仏国特許出願公開第2 667 778号明細書に記載されたような、羽根タービンタイプ又はスパイラルセル(spiral cell)タイプのアクセサリーにより皮膚表面を「洗浄」することにより、又は、簡単には、皮膚の表面でのバッファーのしずくの添加/除去により、実施されてもよい。
【0110】
本発明の実施にとって適当な他の試料採取方法の指示として、二枚刃システムにより又は薄片生検により角質層の上部を削り取ることに基づく方法が言及されうる。この技術は、次に、ミネラル、アミノ酸又は脂質の含有量を決定する為に種々の技術によって直接的に分析されることができるうろこ状構造物(squamae)を収集することを可能にする。
【0111】
該試料採取の終わりで、該試料は、ELISA方法によって特徴付けられる。
【0112】
この方法は特に、本発明に従う考慮下の複合形の検出にとって適当な抗体の使用に基づく。表皮の状態を評価する為の手段として使用されることができる抗体は、「Antibodies: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1990)、に記載されたような、当技術分野の当業者に既知の任意の方法により得られうる。
【0113】
以下に続く実施例1に記載されたとおり、CLSPの複合形の検出の方法は特に、会社covalAbにより開発された2種類のモノクローナル抗体、すなわち捕捉抗体(クローンDB15C9)及び「スルホ−タグ(sulpho-tag)」により標識された選択抗体(CLSPクローンDB7g12)、の使用を要求する。
【0114】
表皮の状態の診断の為の方法
【0115】
1つの実施態様に従い、上皮、例えば表皮、の状態を特徴付ける為の方法は、
a)該上皮の表面試料中における、本発明に従う少なくとも1つの複合形の含有量を決定すること、及び
b)工程a)において決定された該含有量を参照値と比較すること
からなる工程を少なくとも含む。
【0116】
有利に、本発明の方法は、非侵襲的である。
【0117】
参照値は、例えば、上皮、特には正常な皮膚、すなわち、例えば若い皮膚のような、生理学的観点から満足な皮膚、から採られた表皮の試料について決定された、複合形の含有量でありうる。
【0118】
参照値の測定は、該複合形の該含有量の決定と並行して又は当該決定に続いて実施されうる。
【0119】
決定された含有量と参照値との比較は、この値に対する偏差を評価することを可能にしうる。
【0120】
この偏差(負又は正)の大きさ及び/又は特徴の分析は、該表皮の状態に関して情報を与えうる。
【0121】
表皮の状態の特徴付けは、本発明における考慮下の複合形の発現を調節することができる化合物の使用を通じて修正されうるあり得る皮膚疾患を示しうる。
【0122】
すなわち、本発明の複合形の減少は、経時的老化の状態を示す。
【0123】
1つの実施態様に従い、本発明に従う方法は、上皮の、特には表皮の、生理学的状態のin vivo、in vitro又はex vivoの診断の為の方法において、特に個体におけるその経時生物学的老化状態、及び、例えばその関連する欠陥及び/又は変化を評価することを目的として、実施されうる。
【0124】
生物学的又は化学的化合物のスクリーニング
【0125】
本発明は、本発明に従う複合形の、これらの複合形の増加及び/又は安定性及び/又は生物学的活性を調節することができる生物学的又は化学的化合物についてのスクリーニングの為の手段としての使用方法に関する。
【0126】
本発明は、本発明に従う複合形の量を調節することができる生物学的若しくは化学的化合物、又はアンチエイジング活性剤さえ、又は物理化学的因子についてのスクリーニングの方法であって、
a)本発明に従う少なくとも1つの複合形を含む少なくとも1つの細胞タイプを、該複合形の放出にとって適当な条件下で、少なくとも1つの化学的若しくは生物学的試験化合物との接触に付すること、
b)該複合形の含有量を決定すること、及び
c)工程b)において決定された該含有量を、化学的若しくは生物学的試験化合物の不在下において決定された該複合形の含有量と比較すること
からなる工程を少なくとも含む上記方法にも関する。
【0127】
工程c)において実施される比較は、本発明に従う複合形の発現を調節することの、該試験された化合物の特性に関する情報を推定することを可能にしうる。
【0128】
上記で特定されたとおり、この方法は、複合形の含有量の増加が観察される該活性剤を保持することを狙いとする工程も含みうる。
【0129】
より特には、個体における皮膚老化の兆候を防ぎ及び/又は処置することができる処置の有効性を特徴付ける為に役立つ該方法は、
i.該個体を代表する少なくとも第1の皮膚表面試料を用意すること、
ii.該試料における、本発明における考慮下の少なくとも1つの複合形を、特には実施例1に開示されたELISAアッセイ技術により、定量すること、
iii.該個体を代表する第2の皮膚表面試料について、工程i.及びii.を繰り返すこと、及び
iv.工程ii.及びiii.の終わりで得られた結果を、特にはそれから該処置の少なくとも1つの効果に関する情報を推定する為に、比較すること、ここで該第1及び第2の皮膚表面試料は異なる処置段階に対応する、
からなる工程を少なくとも含みうる。
【0130】
生物学的若しくは化学的試験化合物又は物理化学的試験因子の使用の前に参照値測定が実施される場合、本発明に従う方法はまた、必要に応じて、該化合物の潜在的有効性を評価することを可能にもしうる。
【0131】
この量は、該化合物の存在によって影響されなくてよく、又は他方では、抑制され若しくは刺激されうる。
【0132】
増加が観察される場合、試験された該化合物は、例えばアンチエイジング活性剤として用いられることができる。
【0133】
1つの変形の実施態様に従い、上記で定義されたとおりの方法は、工程ivの終わりで得られた情報に関して確立され又は選択された化粧的ケア組成物を個体に施与することからなる少なくとも1つの工程も含みうる。
【0134】
本発明に従う複合形の含有量の決定は、ELISA方法により、特には本明細書以下の実施例1で具体的に記載されたELISA方法により、実施される。
【0135】
本発明の局面の他に従い、上記で記載されたとおりのCLSPの複合形は、化粧的又は治療的組成物中において用いられうる。
【0136】
本発明に従う考慮下の全ての化粧的又は治療的組成物が生理学的に許容できる媒体を使用することが理解される。
【0137】
本発明の目的の為に、語「生理学的に許容できる媒体」は、上皮又はケラチン物質、例えば皮膚、頭皮、唇、粘膜、及びケラチン繊維、例えば髪、爪、及び体毛など、への組成物の施与、又は必要に応じて経口的又は非経口的な組成物の施与にとって適当である媒体を意味することが意図される。
【0138】
本発明の目的の為に、語「化粧的(化粧用:cosmetic)」は、美的効果及び/又は快適な効果を与えることが主として意図された使用を意味することが意図される。
【0139】
本発明の目的の為に、語「治療的(治療用:therapeutic)」は、予防的及び/又は治療的処置の文脈において用いられうる組成物、又は上皮、特には表皮の状態を評価する為の方法の文脈において用いられうる組成物を意味することが意図される。
【0140】
本発明の目的の為に、語「予防的」又は「防止的」は、現象、例えば病理学的状態(a pathological condition)、の発生の減少されたリスクを意味する事が意図される。
【0141】
他の実施態様に従い、本発明に従う化粧的又は治療的組成物は、少なくとも1つの化粧的及び/又は治療的活性剤も含みうる。
【0142】
本発明の文脈において用いられうる活性剤の例として、化粧用油、例えばシリコーン油、トリグリセリドタイプの植物油、炭化水素に基づく油、例えばパールリーム油など、並びに脂肪酸及び脂肪アルコールのエステルなど、が言及されうる。
【0143】
皮膚の状態を改善することを可能とする他の活性剤、例えば保湿性活性剤など、又は天然の脂質バリアを改善することを可能とする活性剤、例えばセラミド、コレステロールサルフェート及び/又は脂肪酸並びにそれらの混合物など、もまた用いられうる。
【0144】
皮膚に対する作用を有する酵素、例えばプロテアーゼ、リパーゼ、グルコシダーゼ、アミダーゼ、セレブロシダーゼ及び/又はメラナーゼ(melanase)、並びにそれらの混合物など、を用いることも可能でありうる。
【0145】
一般に、本発明の任意の組成物は、皮膚に(体の任意の皮膚の領域に)又は粘膜に(口腔粘膜、頬(jugal)、歯肉、生殖器、結膜などに)施与されうる。
【0146】
既知の様式で、化粧的組成物(化粧料組成物)は、化粧料の分野で通例のアジュバント、例えば親水性若しくは親油性ゲル化剤、親水性若しくは親油性添加物、保存料、抗酸化剤、溶媒、香料、フィラー、スクリーニング剤、臭気吸収物及び染料など、も含みうる。
【0147】
本発明に従う組成物の種々の成分の量は、考慮下の技術分野において慣用的に用いられるものである。
【0148】
「有効量」とも言われる、本発明に従う組成物中に含まれる、本発明に従う複合形の量は、もちろん、該化合物の性質に及び所望の効果に基づき、そしてそれ故に、広い範囲で変わりうる。
【0149】
大きさ(magnitude)の指示を与えるために、組成物は、本発明に従う複合形を、該組成物の全重量の0.00001%〜50%を表す量で、特には該組成物の全重量の0.001%〜10%を表す量で、より特には、該組成物の全重量の0.1%〜1%を表す量で含みうる。
【0150】
本発明に従う組成物はより特には、上皮、特には表皮、の状態の悪化を引き起こしうる条件を減少し及び/又は処置する為に意図されうる。
【0151】
そのような状態は、経時的な原因(すなわち経過した時間に関連し、例えば皮膚老化など)に起因してよく、及び/又は、例えば光老化に関連した、皮膚疾患を示しうる。
【0152】
すなわち、本発明に従う組成物、特には化粧的組成物、は特に、表皮の菲薄化(thinning)、並びに/又は表皮の堅さ、弾性度、密度及び/若しくは緊張度の喪失、並びに/又はしわ及び細かいしわの形成を防ぎ及び/又は処置することにおいて用いられうる。
【0153】
他の実施態様に従い、本発明に従う組成物、特には化粧的組成物、は特には、皮膚の乾燥兆候を防ぎ及び/又は処置することにおいて、特には表皮の脱水を防ぎ及び/又は処置することにおいて用いられうる。
【0154】
他の実施態様に従い、本発明に従う組成物、特には化粧的組成物、は、表皮の老化の兆候を防ぎ及び/又は処置することにおいて用いられうる。
【0155】
他の局面に従い、本発明は、皮膚老化の兆候の化粧的処置の為の方法であって、本発明に従う少なくとも1つの化粧的組成物を皮膚、粘膜及び/又はケラチン繊維の少なくとも一部に施与することからなる少なくとも1つの工程を含む上記方法に関する。
【0156】
さらに他の局面に従い、本発明は、特には皮膚老化の兆候を防ぐ為の、特には老化した皮膚を防ぎ及び/又は処置する為の、CLSPタンパク質の複合形の、このタンパク質のペプチド断片の、若しくはその類似体の、又はそのようなポリペプチドの活性、発現及び/若しくは安定性を調節する剤の使用方法、特には化粧的及び/又は治療的使用方法にも関する。
【0157】
本発明は、複数層化細胞モデル、特には表皮又は粘膜タイプの複数層化細胞モデル、特には再構築された皮膚モデルを調製し及び/又は改善する為に、本発明に従う複合形の有効量を使用する方法にも関する。
【0158】
本発明の目的の為に、語「再構築された皮膚モデル」は、種々の細胞タイプ、特には、例えばケラチノサイト、フィブロブラスト、ランゲルハンス細胞及びメラノサイトのような皮膚の天然の構成成分など、が一緒にされたモデルを意味することが意図される。
【0159】
該フィブロブラスト細胞は、放射線照射されてよく又はされなくてもよい。
【0160】
そのようなモデル及びその調製は、当技術分野の当業者に知られている。
【0161】
すなわち、本発明は、分離された再構築された皮膚を調製する方法であって、本発明に従う少なくとも1つの複合形を、分離された再構築された皮膚を生成することができる細胞、及び特にはケラチノサイトとの接触に付することからなる工程を少なくとも含む上記方法にも向けられる。
【0162】
以下に続く実施例及び図面は、本発明の非限定的な説明として提示される。
【実施例1】
【0163】
本発明に従うCLSPの複合形をアッセイする為の高感度ELISAアッセイの開発:
【0164】
MesoScale Discovery(MSD)テクノロジーにより、カスタムメイドで開発されたCLSPプレートがこのアッセイにおいて用いられた。GSTと結合された、「完全長」組み換えCLSPタンパク質に対して向けられたモノクローナル抗体が、会社CovalAb(リヨン、フランス)によって開発された(Mehul et al., 2006)。捕捉抗体(クローンDB15C9)が、「スモールスポット」タイプの標準的96ウェルプレート(MesoScale)に、200μg/mlの濃度で堆積された。
【0165】
参照曲線(5〜0.078μg/ml)が、該組み換えCLSPタンパク質を用いて構築された。
【0166】
それぞれのプレートが、外界温度(ambient temperature)で1時間、ブロッキングバッファー(MesoScale)によりブロックされた。夫々の試料の25μl及び標準の25μlが3通りに堆積され、そして外界温度で1時間、攪拌しながらインキュベートされた。該プレートは次に、Trisバッファー(MesoScale)により4回洗浄された。該プレートは次に、外界温度で1時間、「スルホ−タグ」により標識された検出抗体(Mesoscale)(CLSPクローンDB7g12)25μlと一緒に、1μg/mlの濃度で、攪拌しながらインキュベートされた。該プレートは、150μlの1×リードバッファー(read buffer)T(MesoScale)の添加の前に、Trisバッファー(MesoScale)により4回洗浄された。該プレートは、「Sector Imager 6000」装置上で読み取られた。データは、全タンパク質のμg当たりのngのCLSPの点から標準化された。
【実施例2】
【0167】
剥ぎ取りにより採られた種々の試料中のCLSP複合形の含有量の特徴付け
【0168】
この特徴付けは、実施例1において記載されたELISAアッセイにより実施される。
【0169】
2つの臨床的研究が実施された:前腕及び顔から採られた試料による知識研究(knowledge study)(20の女性個体の2グループ、コーカサス人種の皮膚を有する:年齢30〜35及び年齢60〜65)、及び前腕だけから採られた試料による56日(すなわち2月)にわたる製品研究(24の女性個体の1グループ、コーカサス人種の皮膚を有する、年齢40〜45)。
【0170】
該製品は、10%のビフィドバイオティック(CLR複合体)と0.002%のフィトスフィンゴシン−SLCとから構成されるセラム(serum)である(処置「G」)。
【0171】
該CLR複合体は、INCI名:Bifidat ferment Lysate下で、EINECS名:Bifidobacterium longum下で、EINECS番号:306−168−4下で、及びCAS番号:96507−89−0下で登録された溶解物に関する。
【0172】
そのような溶解物は特に、会社K.Richter GmbHにより、名称Repair Complex CLR(商標)下で販売される。
【0173】
名称フィトスフィンゴシン−SLCは、会社Evonik Goldschmidtにより販売されるフィトスフィンゴシンサリチレート誘導体に対応する。
【0174】
両方の研究において、D−squame試料は、顔(頬)から及び前腕(後部面)から採られた。該前腕から試料採取された該D−squame角質ディスク(corneodisc)は、製品効果を評価する為に用いられた。
【0175】
a)該D−squame角質ディスクからのタンパク質の抽出:
【0176】
該角質ディスクが、2mlエッペンドルフチューブに置かれ、内側を向いている粘着表面、そこへ、チューブ当たりで550μlの「Native+」抽出バッファー(TBS、1%Triton X−100、1MのNaCl)と1つのステンレス鋼ボール(stainless steel bread)とが添加される。該チューブは次に、MM400バイブレーションミル(Retsch)のラック中に置かれる。抽出は、30Hzで2分の1サイクルの間の振動粉砕により実施される。該媒体が、次に回収され、そして0.45μmのMillipore Ultrafree カラムによりろ過され、4℃で、5000gでの5分間の遠心が続く。上清が、分析されるのを待つ間、−20℃で貯蔵される。
【0177】
b)統計的分析
【0178】
齢(若い対年老いた)及び領域(腕対顔)の効果についてのバイオマーカーの分析が、齢、領域、ならびに母数効果(fixed effects)としての齢領域交互作用因子及び変量効果(random effects)としての被験者因子(the subject factor)による分散の分析の混同モデルにより実施される。齢カテゴリーに対する領域効果及び領域に対する齢効果が、対比により表された。
【0179】
該処置効果についての、バイオマーカーの分析が、母数効果としての時間因子及び変量効果としての被験者因子による、対にされた活性剤−プラセボ差異に対する分散の分析の混合モデルにより実施される。
【0180】
0日目及び56日目での処置効果が、対比により試験される。
【0181】
変量は、必要なときに、それらの分布をよりガウス分布にするために、あらかじめlog変換された。
【0182】
SPSSソフトウェア(バージョン14)が、記述的分析(平均値のグラフ及びボックスプロット)の為に用いられ、そしてSAS Enterprise Guideソフトウェア(バージョン3)が、干渉部分の為に用いられる。
【0183】
第1の種のα−リスクが、両側アプローチにおいて5%で固定された。
【0184】
これらの2つの研究の結果が図1及び2に与えられる。
【0185】
該データは、図1に表されるとおり、齢による、CLSPの複合形の減少を明らかにする。
【0186】
開発された高感度ELISAキットは、CLSPの複合形の発現が齢とともに減少することを確認することを実際に可能にする。
【0187】
図2は、その部分について、複合形の量に対する該試験された製品の効果を表す。複合形の量の有意な増加が明白に観察され、それによりこの製品の活性化する効果を実証する。それ故に、後者は、実際のアインチエイジング効果を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列ID NO 1により完全に又は部分的に表わされる核酸配列によりコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド又はその類似体又はその断片に少なくとも部分的に由来するカルモジュリン様皮膚タンパク質すなわちCLSPの少なくとも1つの複合形を、上皮の経時的老化の状態のin vitro又はex vivoでの特徴付けの為の手段として使用する方法。
【請求項2】
複合形の減少が経時的老化の状態を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ポリペプチドが、配列ID NO 2により表わされる配列によって完全に又は部分的に表わされるアミノ酸配列又はその類似体を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該ポリペプチドが、配列ID NO 3、配列ID NO 4、配列ID NO 5、配列ID NO 6、配列ID NO 7、配列ID NO 8、配列ID NO 9、配列ID NO 10、配列ID NO 11、配列ID NO 12、配列ID NO 13、配列ID NO 14、配列ID NO 15、配列ID NO 16、配列ID NO 17、配列ID NO 18、配列ID NO 19、配列ID NO 20、配列ID NO 21、配列ID NO 22、配列ID NO 23、配列ID NO 24及び配列ID NO 25から選ばれるアミノ酸配列によって完全に又は部分的に表わされるアミノ酸配列を有する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
該複合形が、CLSP又はその断片と、それ自身若しくはその断片の1つとの又は標的タンパク質との会合に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
上皮の状態を特徴付けする為の方法であって、
a)該上皮の表面試料中における、請求項1〜5のいずれか1項に定義された少なくとも1つの複合形の含有量を決定すること、及び
b)工程a)で決定された該含有量と参照値とを比較すること
からなる工程を少なくとも含む上記方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に定義されたとおりの複合形の減少が、経時的老化の状態を示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アンチエイジング剤についてスクリーニングする方法であって、
a)請求項1〜5のいずれか1項に定義されたとおりの少なくとも1つの複合形を含む少なくとも1つの細胞タイプを、少なくとも1つの試験アンチエイジング活性剤との接触に、該複合形の発現にとって適当な条件下で付すること、
b)該複合形の含有量を決定すること、及び
c)工程b)において決定されえた該含有量を、化学的又は生物学的試験化合物の不在下において決定された該複合形の含有量と比較すること
からなる工程を少なくとも含む上記方法。
【請求項9】
個体における経時的老化に関連した皮膚老化の兆候を防ぎ及び/又は処置することが意図された化粧的又は治療的処置の有効性を特徴付ける為の化粧的方法であって、請求項1〜5のいずれか1項に定義された少なくとも1つの複合形の定性的又は定量的特徴付けを少なくとも含む上記方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に定義されたとおりの複合形の増加が、アンチエイジング特性を有する活性剤を示し又は皮膚老化の兆候の有効である処置を示す、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
個体における皮膚老化の兆候を防ぎ及び/又は処置することができる処置の有効性を特徴付ける為の非治療的方法であって、
i.該個体を代表する少なくとも第1の皮膚表面試料を用意すること、
ii.該試料中において、特にはELISAアッセイ技術により、請求項1〜5のいずれか1項に定義されたとおりの少なくとも1つの複合形を定量すること、
iii.該個体を代表する第2の皮膚表面試料について工程i.及びii.を繰り返すこと、及び
iv.工程ii.及びiii.の終わりで得られた結果を、特にはそこから該処置の少なくとも1つの効果に関する情報を推定する為に、比較すること、ここで該第1及び第2の皮膚表面試料は異なる処置段階に対応する、
からなる工程を少なくとも含む上記方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に定義されたとおりの少なくとも1つの複合形を、該複合形の増加及び/又は安定性及び/又は生物学的活性を調節することができる生物学的又は化学的化合物についてのスクリーニングの為の手段として使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−164563(P2010−164563A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−4441(P2010−4441)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(595100370)ロレアル (108)
【氏名又は名称原語表記】L′OREAL
【Fターム(参考)】