説明

カロチノイド含有組成物の製造方法

【課題】結晶性の高いカロチノイドを含有する組成物であっても、結晶化が抑制されたカロチノイド含有組成物を製造する。
【解決手段】少なくとも1種の結晶性カロチノイドを含むカロチノイド成分と、グリセリン単位が1〜6であり脂肪酸単位の数が1〜6であって、グリセリン単位の水酸基を少なくとも1つ有する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含む油相成分混合液を、前記カロチノイド成分の融点以上の温度条件で加熱して、カロチノイド含有油相組成物を得ること、及び、水溶性乳化剤を含有する水相組成物と、前記カロチノイド含有油相組成物とを加圧乳化して、水中油型乳化組成物を得ること、を含む、カロチノイド含有組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロチノイド含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カロチノイドの高い機能性に着目して、カロチノイドを含有する種々の組成物が提案されている。一般にカロチノイドは難溶性の素材として広く知られていることから、通常、乳化組成物の形態が採用されている。
カロチノイドを含む乳化組成物として具体的には、水相に少なくとも1種の水溶性乳化剤を含有し、油相にトコフェロール及びレシチンを含有するカロチノイド含有エマルジョン組成物(特許文献1参照。)や、食品用カロチノイド系色素とポリグリセリン脂肪酸エステルの組成物が微粒子化され、その可視部の極大吸収波長での吸光度が1のとき、660nmにおける透過率が99%以上である食品用カロチノイド系色素可溶化液製剤(特許文献2参照)、更には、カロチノイド類を油脂に溶解してなる油相をポリグリセリン脂肪酸エステル及びレシチンの存在下に多価アルコールを含む水相に乳化してなり、かつ上記油相の平均粒子径が100nm以下であるカロチノイド含有組成物(特許文献3参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13751号公報
【特許文献2】特開平10−120933号公報
【特許文献3】特開平9−157159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リコピンのような結晶性カロチノイドは結晶性が高く、例えば乳化組成物を調製する際に結晶体が残ることが多い。このように結晶体を含む組成物では、期待される効果が結晶体の存在に起因して得られない場合がある。
従って本発明は、結晶性カロチノイドを含有する組成物であっても、結晶化が抑制されたカロチノイド含有組成物を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
[1] 少なくとも1種の結晶性カロチノイドを含むカロチノイド成分と、グリセリン単位が1〜6であり脂肪酸単位の数が1〜6であって、グリセリン単位の水酸基を少なくとも1つ有する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含む油相成分混合液を、前記カロチノイド成分の融点以上の温度条件で加熱して、カロチノイド含有油相組成物を得ること、及び、乳化剤を含有する水相組成物と、前記カロチノイド含有油相組成物とを加圧乳化して、水中油型乳化組成物を得ること、を含む、カロチノイド含有組成物の製造方法。
[2] 前記結晶性カロチノイドがリコピンである[1]に記載の粉末組成物。
[3] 前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの分子量が10000以下である[1]又は[2]記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[4] 前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの全質量が、前記結晶性カロチノイドの全質量の0.01倍〜10倍である[1]〜[3]のいずれかに記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[5] 前記加熱の前に、前記油相成分混合液に酸化防止剤を含有させることを含む[1]〜[4]のいずれかに記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[6] 前記酸化防止剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸エステル及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種である[5]に記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[7] 前記酸化防止剤の全質量が、結晶性カロチノイドの全質量の0.05倍〜50倍である[5]又は[6]に記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[8] 更に、果糖単位を少なくとも2つ含む糖単位からなる糖ポリマーおよびオリゴマーから選択された少なくとも一種の水溶性包括剤を含む[1]〜[7]のいずれかに記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[9] 前記水溶性包括剤の全質量が、前記カロチノイド成分を含む油性成分の全質量に対して0.5倍〜50倍量である[8]記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[10] 前記水相組成物に含まれる乳化剤の全質量が、前記カロチノイド成分を含む油性成分の合計質量の0.1倍〜10倍である[1]〜[9]のいずれかに記載のいずれかに記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[11] 前記水中油型乳化組成物を乾燥して粉末組成物を得ることを更に含む[1]〜[10]のいずれかに記載のいずれかに記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
[12] 前記水中油型乳化組成物又は前記粉末組成物を再溶解させて得られた再溶解水中油型乳化物の平均粒子径が50nm〜300nmである[1]〜[11]のいずれかに記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、結晶性の高いカロチノイドを含有する組成物であっても、結晶化が抑制されたカロチノイド含有組成物を製造する製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のカロチノイド含有組成物の製造方法は、少なくとも1種の結晶性カロチノイドを含むカロチノイド成分と、グリセリン単位が1〜6であり脂肪酸単位の数が1〜6であって、グリセリン単位の水酸基を少なくとも1つ有する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含む油相成分混合液を、前記カロチノイド成分の融点以上の温度条件で加熱して、カロチノイド含有油相組成物を得ること(以下、「カロチノイド含有油相組成物調製工程」とする)、及び、乳化剤を含有する水相組成物と、前記カロチノイド含有油相組成物とを加圧乳化して、水中油型乳化組成物を得ること、(以下、「水中油型乳化組成物調製工程」とする)、を含む。
【0008】
本発明によれば、結晶性カロチノイドを含むカロチノイド成分を、所定の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルと共にカロチノイド成分の融点以上の温度条件下で加熱するので、カロチノイド成分が所定の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルと共に共溶解する。水溶性乳化剤を含む水相組成物と共に加熱乳化する油相組成物を、この共溶解により得られたカロチノイド含有油相組成物とすることによって、乳化により得られたカロチノイド含有組成物は、結晶性カロチノイドの結晶化が抑制された組成物となる。
【0009】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において「(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル」との表現には、グリセリン単位及び脂肪酸単位をそれぞれ1つずつ含むグリセリン脂肪酸エステル、いずれか一方を複数含むグリセリン脂肪酸エステル、いずれも複数含むグリセリン脂肪酸エステルのすべてが包含され、これらのグリセリン脂肪酸エステルを区別せずに用いる場合に使用される。
以下、本発明について説明する。
【0010】
[カロチノイド含有油相組成物]
カロチノイド含有油相組成物は、少なくとも1種の結晶性カロチノイドを含むカロチノイド成分と所定の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含む油相成分混合液から調製される。
【0011】
本発明における「結晶性カロチノイド」は、特定なカロチノイドを示すものではなく、カロチノイドを含むオイル、もしくはペースト等の形態とした場合に、その製法、あるいは処理、保存等の様々な要因により結晶体として存在し得るカロチノイドを意味する。特に、後述するリコピン、β−カロチン、δ−カロテン、ゼアキサンチン、ルテイン、アスタキサンチン等は結晶体が存在しやすいカロチノイドである。
【0012】
結晶性カロチノイドは、黄色から赤のテルペノイド類の色素であり、植物類、藻類、及びバクテリアに由来するものを挙げることができる。また、天然由来のものに限定されず、常法に従って得られるものであればいずれのものであってもよい。また、結晶性カロチノイドであることは、常法によって確認すればよく、例えば、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)、偏光顕微鏡観察、X線回折等を適用することができる。
【0013】
本発明における結晶性カロチノイドとして、具体的には、リコピン、α−カロチン、β−カロチン、γ−カロチン、δ−カロテン、アクチニオエリスロール、ビキシン、カンタキサンチン、カプソルビン、β−8’−アポ−カロテナール(アポカロテナール)、β−12’−アポ−カロテナール、キサントフィル類(例えば、アスタキサンチン、フコキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、カプサンチン、β−クリプトキサンチン、ビオラキサンチン等)、及びこれらのヒドロキシル又はカルボキシル誘導体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0014】
中でも、酸化防止効果、美白効果等が非常に高いことで知られ、従来より食品、化粧品、医薬品の原材料及びそれらの加工品等への添加が要望、検討、実施されている点から、結晶性カロチノイドとしては、リコピンが好ましい。
リコピン(場合によって、「リコペン(lycopene)」と称される場合がある)は、化学式C4056(分子量536.87)のカロチノイドであり、カロチノイドの一種カロテン類に属している。474nm(アセトン)に吸収極大を示す赤色色素である。
リコピンには、分子中央の共役二重結合のcis−、trans−の異性体も存在し、例えば、全trans−、9−cis体と13−cis体などが挙げられるが、本発明においては、これらのいずれであってもよい。
【0015】
リコピンはそれを含有する天然物から分離・抽出されたリコピン含有オイルやリコピン含有ペーストとして、本発明のエマルジョン組成物に含まれていてもよい。
リコピンは、天然においてはトマト、柿、スイカ、ピンクグレープフルーツに含まれており、上記のリコピン含有オイルはこれらの天然物から分離・抽出されたものであってもよい。
また、本発明で用いられるリコピンは、前記抽出物、また、更にこの抽出物を必要に応じて適宜精製したものでもよく、また、合成品であってもよい。
本発明においては、リコピンとしては、トマトから抽出されたものが、品質、生産性の点から特に好ましい。
【0016】
また、本発明では、広く市販されているトマト抽出物をリコピン含有オイル又はペーストとして用いることができ、例えば、サンブライト(株)より販売されているLyc−O−Mato 15%、Lyc−O−Mato 6%、協和発酵工業(株)より販売されているリコピン18等が挙げられる。
【0017】
結晶性カロチノイドは、単体でカロチノイド成分を構成してもよく、また天然物から抽出する際に用いられた油分(オイル)と共にカロチノイド成分を構成してもよい。
【0018】
結晶性カロチノイドは、カロチノイド含有組成物中の固形分(水を除く全成分)の全質量に対して0.1質量%〜5質量%が好ましく、0.2質量%〜4質量%がより好ましく、0.3質量%〜3質量%が更に好ましい。この範囲であれば、結晶性カロチノイドによる効果が期待できる。
【0019】
カロチノイド成分と共に油相成分混合液を形成する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン単位が1〜6であり脂肪酸単位の数が1〜6であって、グリセリン単位の水酸基を少なくとも1つ有する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルである。
このような特定の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルであれば、結晶性カロチノイドとの相溶性が高く、共溶解物としてカロチノイド含有油相組成物を構成した場合に、結晶性カロチノイドの結晶化を抑制しうる。グリセリン単位が7以上の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルでは、親水性が高まりカロチノイドとの親和性が低くなり、一方、脂肪酸単位の数が7以上の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルでは、カロチノイドの結晶抑制効果が期待できない。また、グリセリン単位の水酸基を含まない(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド等では、理由は定かではないがカロチノイドの結晶化を充分に抑制できなく、一定量の水酸基が必要であり、カロチノイドの結晶抑制効果が期待できない。
【0020】
共溶解物として油相成分混合物に含まれる(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、再結晶抑制等の観点から、グリセリン単位数(平均重合度)が1〜6、より好ましくは1〜4であるグリセリンと、脂肪酸単位が1〜6、より好ましくは1〜5であり且つ、炭素数8〜22の脂肪酸(例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸およびベヘン酸)、より好ましくは炭素数14〜18の脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
これらの中でも、共溶解時における均一溶解性の観点から、分子量が10000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2500以下であることが更に好ましい。また、カロチノイドとの親和性の観点から、HLBが9以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0021】
また、粉末組成物とする場合には、常温で固体の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルであることが、カロチノイド粉末組成物中のカロチノイド濃度および該組成物製造時の熱風乾燥時における収率の観点から好ましい。即ち、常温で固体であれば、包括剤の増量の必要がなく、充分な量のカロチノイドを含むことができる。また常温で固体であれば、熱風乾燥時に接触面に付着しにくく、カロチノイド粉末組成物の収率の低下を抑制できる。
【0022】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ミリスチン酸グリセリル、モノステアリン酸モノグリセリル、モノステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸トリグリセリル、モノグリセリン酸ペンタグリセリル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリル、ジパルミチン酸トリグリセリル、ジステアリン酸グリセリル、トリステアリン酸テトラグリセリル、ペンタステアリン酸テトラグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、トリステアリン酸ヘキサグリセリル、テトラベヘン酸ヘキサグリセリル等が挙げられ、再結晶抑制および均一溶解性の観点から、ミリスチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノステアリン酸ジグリセリル、ペンタステアリン酸テトラグリセリル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリルが好ましい。
【0023】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量(質量)は、用いられる結晶性カロチノイドの種類又は含有量によって異なるが、カロチノイド含有組成物の安定性の観点から、結晶性カロチノイドの全質量に対して0.01倍〜10倍であることが好ましく、0.1倍〜8倍であることがより好ましく、0.3倍〜5倍であることが更に好ましい。カロチノイド含有組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの全質量が、結晶性カロチノイドの全質量の0.01倍量であれば、充分な結晶抑制効果が期待でき、一方、10倍量以下であれば乳化物としたときの乳化粒子の粒子径の増大を抑制することができる。
【0024】
油相成分混合液には、カロチノイド成分及び(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル以外の他の成分として、結晶性カロチノイドの分解を抑制するために、酸化防止剤を含むことが好ましい。
このような酸化防止剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸エステル及びこれらの塩から選択された少なくとも1種であることが結晶性カロチノイドの確実な分解抑制の観点から好ましい。このような酸化防止剤(以下、「アスコルビン酸系酸化防止剤」と称する場合がある)を用いることよって、結晶性カロチノイドの加熱による分解(例えば、酸化分解等)を確実に抑制して、カロチノイド含有組成物の製造工程における結晶性カロチノイドの減少を抑えることができる。
【0025】
アスコルビン酸系酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸K、L−アスコルビン酸Ca、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩、L−アスコルビン酸硫酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビル酸パルミチン酸エステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビル等;また、ステアリン酸L−アスコルビルエステル、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルエステル、パルミチン酸L−アスコルビルエステル等のアスコルビン酸の脂肪酸エステル類等を挙げることができる。これらのうち、カロチノイドの熱損失抑制の観点から、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸Ca、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸2−グルコシド、L−アスコルビル酸パルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩、L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム塩、テトライソパルミチン酸L−アスコルビルが特に好ましい。
これらのアスコルビン酸系酸化防止剤は、単体で油相成分混合液に含まれていてもよく、水溶液の形態で油相成分混合液に配合してもよい。このような水溶液のアスコルビン酸系酸化防止剤濃度としては、特に制限はないが、一般に0.05質量%〜5質量%とすることが酸化防止の観点から好ましい。
【0026】
油相成分混合液に含まれるアスコルビン酸系酸化防止剤の全質量は、熱によるカロチノイドの損失抑制の観点から、結晶性カロチノイドの質量の0.05倍〜50倍であることが好ましく、1倍〜10倍であることがより好ましく、1.5倍〜10倍であることが更に好ましく、2倍〜10倍であることが更により好ましい。アスコルビン酸系酸化防止剤の質量が結晶性カロチノイドの0.05倍量以上であれば、結晶性カロチノイド含量の低下抑制効果の発揮に充分であり、50倍以下であれば、充分な量の結晶性カロチノイドの配合を損なうことがない。
【0027】
本発明における油相組成物(カロチノイド含有油相組成物)は、上記油相成分の混合液(油相成分混合液)を加熱処理することによって得られる。
油相成分混合液を加熱するときの温度は、カロチノイド成分の融点以上の温度であることが必要である。カロチノイド成分の融点未満では、結晶性カロチノイドが溶解せず、多量の結晶体がカロチノイド含有組成物に存在することになる。
【0028】
カロチノイド成分の融点とは、カロチノイド成分中の結晶性カロチノイドが溶解する温度を意味する。結晶性カロチノイド単体でカロチノイド成分が構成されている場合には、結晶性カロチノイドの融点が該当する。一方、カロチノイド成分に結晶性カロチノイド以外の成分が含まれる場合には、カロチノイド成分中のカロチノイドが溶解する温度を意味する。例えば、カロチノイド成分として天然物由来のカロチノイド含有オイルを用いた場合には、不純物等が含まれる場合があり、結晶性カロチノイドの融点よりも低い温度でカロチノイド成分中の結晶性カロチノイドが溶解することが知られている。この場合には、カロチノイド成分中の結晶性カロチノイドが溶解する温度が、本発明における「カロチノイド成分の融点」に該当する。カロチノイド成分の融点は、融点を確認するために一般に用いられている方法によって確認することができ、例えば、DSCによって確認することができる。
【0029】
カロチノイド含有油相組成物を調製するために適用される加熱温度は、具体的には、用いられる結晶性カロチノイド又はカロチノイド成分の種類等によって異なるが、一般に、リコピンを含むカロチノイド成分の場合、150℃〜200℃とすることができ、熱分解の抑制の観点から150℃〜180℃であることが好ましく、150℃〜170℃であることがより好ましい。
【0030】
また、カロチノイド含有油相組成物を調製するために適用される最大の加熱温度としては、結晶性カロチノイドの分解抑制の観点から、過熱処理における最高温度が、カロチノイド成分の融点との差が10℃以内の温度であることが好ましく、融点をわずかに、例えば5℃以内の温度であることがより好ましい。
【0031】
加熱時間は、油相成分混合液中のカロチノイド成分が溶解する時間であればよく、効率よく結晶体の非結晶化および過剰な熱によるカロチノイドの分解を抑制する観点から10分〜60分であることが好ましく、15分〜45分であることがより好ましいが、これに限定されない。
このような加熱処理によって、カロチノイド成分及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含む油相成分混合液からカロチノイド含有油相組成物を得ることができる。
【0032】
なお、加熱処理においては、油相成分混合液全体が均一な温度となるようにすることが重要であるため、加熱しながら充分に攪拌することが好ましく、密閉容器を用い攪拌しながら過熱し一定温度に保持することが望ましい。
【0033】
カロチノイド含有油相組成物には、上記の各成分の他、通常油相成分として用いられる他の油性成分を含んでもよい。
このような他の油性成分としては、その他の油性成分としては、水性媒体に溶解せず、油性媒体に溶解する成分であれば、特に限定はなく、目的に応じた物性や機能性を有するものを適宜選択して使用することができ、例えば、非結晶性のカロチノイド類、不飽和脂肪酸類、ココナッツ油等の油脂類、トコフェロール等の脂溶性ビタミン、ユビキノン類が好ましく用いられる。
【0034】
不飽和脂肪酸としては、例えば、炭素数10以上、好ましくは18〜30の一価高度不飽和脂肪酸(ω−9、オレイン酸など)又は多価高度不飽和脂肪酸(ω−3、ω−6)が挙げられる。このような不飽和脂肪酸類は公知のもののいずれであってよく、例えば、ω−3油脂類としては、リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)並びにこれらを含有する魚油などを挙げることができる。
ユビキノン類としては、コエンザイムQ10のようなコエンザイムQ類等が挙げられる。
【0035】
脂溶性ビタミン類としては、脂溶性ビタミンE類、ビタミンA類、ビタミンD類、エリソルビン酸の油溶化誘導体を挙げることができ、この内でも、抗酸化機能が高くラジカル捕捉剤(酸化防止剤)としても使用可能な脂溶性ビタミンE類であることが好ましい。
【0036】
ビタミンE類としては、特に限定されず、例えばトコフェロール及びその誘導体からなる化合物群、並びにトコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群から選ばれるものを挙げられる。これらは単独で用いても、複数併用して用いてもよい。またトコフェノール及びその誘導体からなる化合物群とトコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群からそれぞれ選択されたものを組み合わせて使用してもよい。
【0037】
トコフェロール及びその誘導体からなる化合物群としては、dl−α−トコフェロール、dl−β−トコフェロール、dl−γ−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、ニコチン酸−dl−α−トコフェロール、リノール酸−dl−α−トコフェロール、コハク酸dl−α−トコフェロール等が含まれる。これらの内で、dl−α−トコフェロール、dl−β−トコフェロール、dl−γ−トコフェロール、dl−δ−トコフェロール、及び、これらの混合物(ミックストコフェロール)がより好ましい。また、トコフェロール誘導体としては、これらのカルボン酸エステル、特に酢酸エステルが好ましく用いられる。
トコトリエノール及びその誘導体からなる化合物群としては、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール等が含まれる。また、トコトリエノール誘導体としては、これらの酢酸エステルが好ましく用いられる。
【0038】
ビタミンA類としては、レチノール,3−ヒドロレチノール,レチナール,3−ヒドロレチナール,レチノイン酸,3−デヒドロレチノイン酸,ビタミンAアセテート等を挙げることができる。ビタミンD類としては、ビタミンD乃至D等のビタミンD類を挙げることができる。またその他の脂溶性ビタミン物質としては、ニコチン酸ビタミンE等のエステル類;ビタミンK乃至K等のビタミンK類を挙げることができる。
【0039】
また、パルミチン酸エリソルビルエステル、テトライソパルミチン酸エリソルビルエステル等のエリソルビン酸の脂肪酸エステル類;ジパルミチン酸ピリドキシン、トリパルミチン酸ピリドキシン、ジラウリン酸ピリドキシン、ジオクタン酸ピリドキシン等のビタミンBの脂肪酸エステル類等も、脂溶性ビタミン類として挙げることができる。
【0040】
上記以外の油脂としては、常温で、液体の油脂(脂肪油)及び固体の油脂(脂肪)が挙げられる。
前記液体の油脂としては、例えばオリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油、アボガド油、月見草油、タートル油、トウモロコシ油、ミンク油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルチミン酸グリセリン、サラダ油、サフラワー油(ベニバナ油)、パーム油、ココナッツ油、ピーナッツ油、アーモンド油、ヘーゼルナッツ油、ウォルナッツ油、グレープシード油、スクワレン、スクワラン等が挙げられる。
また、前記固体の油脂としては、牛脂、硬化牛脂、牛脚脂、牛骨脂、ミンク油、卵黄油、豚脂、馬脂、羊脂、硬化油、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム硬化油、モクロウ、モクロウ核油、硬化ヒマシ油等が挙げられる。
上記の中でも、エマルション組成物の粒子径、安定性の観点から、中鎖脂肪酸トリグリセライドであるココナッツ油が好ましく用いられる。
【0041】
本発明における油性成分としては、組成物中での物性を向上させるために、脂溶性ビタミン類に包含されるトコフェロール、トコトリエノールおよびそれらの誘導体からなる群より選択される化合物(以下、適宜、トコフェロール類と称する)を、他の油相成分とともに含有することが好ましい。
カロチノイド含有油相組成物中に、前記トコフェロール類を併用する場合には、好ましくは、油性成分の全質量の5質量%〜35質量%、より好ましくは7質量%〜20質量%の範囲で併用することができる。
【0042】
本発明のカロチノイド含有油相組成物のカロチノイド含有組成物における含有量は、目的とするカロチノイド含有組成物の形態によって異なるが、油相成分の総量として、油性成分の機能発揮の観点から、乳化組成物の場合には、好ましくは0.1質量%〜50質量%、より好ましくは0.5質量%〜25質量%、更に好ましくは0.2質量%〜10質量%である。また、粉末組成物の場合には、組成物全質量の10質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましく、10質量%〜30質量%であることが更に好ましい。
【0043】
上記成分の他、油相成分として使用可能な乳化剤を含んでもよい。このような油相成分として使用可能な乳化剤としては、例えば、後述する乳化剤のうちHLBが7以下のものが挙げられる。
【0044】
[水相組成物]
水中油型乳化物調製工程では、水溶性乳化剤を含有する水相組成物と、前記カロチノイド含有油相組成物とを加圧乳化して、水中油型乳化組成物を得る。
本発明のカロチノイド含有組成物を得るために用いられる水相組成物は、水性媒体、特に水で構成されており、少なくとも乳化剤を含むものである。
【0045】
本発明における乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
また、本発明における乳化剤は、乳化力の観点から、HLBが10以上であることが好ましく、12以上が更に好ましい。HLBが低すぎると、乳化力が不十分となることがある。なお、抑泡効果の観点からHLB=5以上10未満の乳化剤を併用してもよい。
ここで、HLBは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えば川上式等が使用できる。川上式を次に示す。
HLB=7+11.7log(M/M
ここで、Mは親水基の分子量、Mは疎水基の分子量である。
また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
また、上記の式からも分かるように、HLBの加成性を利用して、任意のHLB値の乳化剤を得ることができる。
【0046】
カロチノイド含有組成物における乳化剤の含有量は、一般に、組成物の形態によって異なるが、乳化組成物の場合、組成物全体の0.5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、2〜15質量%が更に好ましく、粉末組成物の場合、組成物全体の0.1〜50質量%が好ましく、5〜45質量%がより好ましく、10〜30質量%が更に好ましい。この範囲内であれば、油相/貧溶媒相間の界面張力を下げ易く、過剰量とすることがなく分散組成物の泡立ちがひどくなる等の問題を生じ難い点で好ましい。
また、乳化剤の総質量は、粉末組成物及び乳化組成物の形態のいずれにおいても、カロチノイド成分を含む油性成分の合計質量の0.1倍〜10倍の範囲で用いることができ、分散粒子の微細化と発泡抑制の点から、0.5倍〜8倍が好ましく、0.8倍〜5倍が特に好ましい。この範囲内であれば、組成物の分散安定性を良好なものにすることができる。
【0047】
乳化剤の中でも、低刺激性であること、環境への影響が少ないこと等から、非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤の例としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0048】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、組成物における分散粒子の安定性の観点から、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の炭素数が12〜20のものが好ましく、14〜16がより好ましい。
【0049】
ショ糖脂肪酸エステルの好ましい例としては、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル等が挙げられ、これらの中でも、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステルがより好ましい。
本発明においては、これらのショ糖脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0050】
水相組成物に含まれるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均重合度が2以上、好ましくは6〜15、より好ましくは8〜10のポリグリセリンと、炭素数8〜18の脂肪酸、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、及びリノール酸と、のエステルである。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル等が挙げられる。
これらの中でも、より好ましくは、デカグリセリンモノオレイン酸エステル(HLB=12)、デカグリセリンモノステアリン酸エステル(HLB=12)、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル(HLB=13)、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル(HLB=14)、デカグリセリンモノラウリン酸エステル(HLB=16)などである。
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0051】
本発明におけるソルビタン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が8以上のものが好ましく、12以上のものがより好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい例としては、モノカプリル酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
本発明においては、これらのソルビタン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0052】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸の炭素数が8以上のものが好ましく、12以上のものがより好ましい。また、ポリオキシエチレンのエチレンオキサイドの長さ(付加モル数)としては、2〜100が好ましく、4〜50がより好ましい。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ポリオキシエチレンモノカプリル酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンセスキステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンイソステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンセスキイソステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンセスキオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
これらのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0053】
更に、本発明における乳化剤として、レシチンなどのリン脂質を含有してもよい。
本発明に用いうるリン脂質は、グリセリン骨格と脂肪酸残基及びリン酸残基を必須構成成分とし、これに、塩基や多価アルコール等が結合したもので、レシチンとも称されるものである。リン脂質は、分子内に親水基と疎水基を有しているため、従来から、食品、医薬品、化粧品分野で、広く乳化剤として使用されている。
【0054】
産業的にはレシチン純度60%以上のものがレシチンとして利用されており、本発明でも利用できるが、微細な油滴粒径の形成及び機能性油性成分の安定性の観点から、好ましくは一般に高純度レシチンと称されるものであり、これはレシチン純度が80%以上、より好ましくは90%以上のものである。
【0055】
リン脂質としては、植物、動物及び微生物の生体から抽出分離された従来公知の各種のものを挙げることができる。
このようなリン脂質の具体例としては、例えば、大豆、トウモロコシ、落花生、ナタネ、麦等の植物や、卵黄、牛等の動物及び大腸菌等の微生物等から由来する各種レシチンを挙げることができる。
このようなレシチンを化合物名で例示すると、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ビスホスアチジン酸、ジホスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等を挙げることができる。
また、本発明においては、上記の高純度レシチン以外にも、水素添加レシチン、酵素分解レシチン、酵素分解水素添加レシチン、ヒドロキシレシチン等を使用することができる。本発明で用いることができるこれらのレシチンは、単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
【0056】
本発明のカロチノイド含有組成物は、粉末組成物とする場合には、乾燥時の粉末化過程や粉末保存時に油滴を保護するために、水溶性包括剤を含むことが好ましい。これにより、油滴粒径を微細な状態に保つと共に油滴中のカロチノイド成分の劣化を小さくすることができる。
また、水溶性包括剤は、粉末組成物を水に再溶解したときには油性成分の水分散性を良好なものにすることができると共に、再溶解後の透明性も良好なものにすることができる。
【0057】
水溶性包括剤としては、果糖単位を少なくとも2つ含む糖単位からなる果糖ポリマー及びオリゴマーから選ばれた少なくとも1種である多糖類(以下、単に「果糖ポリマー又はオリゴマー」と称する)が好ましい。
本発明における果糖ポリマー又はオリゴマーは、果糖(フルクトース)を繰り返し単位として含むと共に、複数の糖単位が脱水縮合で結合した糖単位からなるポリマー又はオリゴマーを指す。本発明では、果糖単位を含む糖の繰り返し単位が20個未満のものを果糖オリゴマー、20個以上のものを果糖ポリマーと称する。
【0058】
この糖単位の繰り返し個数は、乾燥適性と再溶解性時の油滴微細化の観点から好ましくは2〜60個であり、より好ましくは4〜20個である。繰り返し個数(果糖の重合度)が2個以上であれば吸湿性が強すぎることがなく、乾燥過程で乾燥容器に付着して回収率が低下するといったことを効果的に防止することができ、一方、60個以下であれば水再溶解時における油滴粒径の粗大化を効果的に防止することができる。
【0059】
果糖ポリマー又はオリゴマーには、果糖以外に、分子の末端または鎖中に他の単糖類を含んでもよい。ここで含むことのできる他の単糖単位としては、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、イドース、アルトロース、グロース、タロース、アロース、キシロース、アラビノース、リキソース、リボース、トレオース、エリトロース、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、ソルボース、タガトース等があるが、これに限定されることはない。これらの単糖のうちグルコースが入手の容易性の観点から好ましい。また、結合位置は果糖鎖の末端に存在することが再溶解時の油滴微細化の観点から好ましい。
果糖以外の糖類を含む場合、その含有比率は乾燥適性と再溶解性時の油滴微細化の観点から果糖単位数に対して重合度で50%以下であり、好ましくは30%以下である。
【0060】
色素の保存安定性及び入手の容易性等の観点から本発明に好ましく用いられる水可溶性包括剤としては、イヌリンが挙げられる。本発明におけるイヌリンは、末端にブドウ糖を1個有する果糖ポリマーまたは果糖オリゴマーをいう。イヌリンは広く自然界に存在することが知られており、チコリ、キクイモ、ダリア、ニンニク、ニラ、タマネギなどに多く含まれる。イヌリンの詳細に関してはHandbook of Hydrocolloids, G.O.Phillips,P.A.Williams Ed.,397-403,(2000) CRC Pressに記載されている。一般に、ブドウ糖単位をG、果糖単位をFとして鎖長を表現する。本発明のイヌリンには、GFで表記されるスクロースは含まれない。
通常天然から抽出されるイヌリンは、GF2(ケストース)、GF3(ニストース)、GF4(フラクトシルニストース)からGF60程度までのポリマーかオリゴマー、またはそれらの混合物である。
【0061】
本発明では、イヌリンはチコリ、キクイモ、ダリアなどの根から分離熱水抽出され、この水溶液を濃縮、スプレードライにより粉末化販売されているものを含むことができる。この例としては、チコリ根から抽出されたFrutafit(SENSUS社製)、同じくチコリ根から抽出されたベネオ(オラフティ社)、ダリア根由来試薬((株)和光純薬、シグマ社)、チコリ根抽出試薬(シグマ社)等を挙げることができる。
また、本発明における果糖オリゴマー及びポリマーには、β−フルクトフラノシダーゼのフラクタン転移活性を利用して、ショ糖(スクロース)から調製するものも含むことができる。この例としては、フジFF(フジ日本精糖(株)製)、GF2(明治製菓(株))を挙げることができる。
【0062】
本発明に用いられるイヌリンは、再溶解時の油滴の微細化の観点から、果糖の繰り返し数(重合度)で2〜60であることが好ましく、より好ましくは、噴霧乾燥時の装置への付着性と水への溶解性の観点から、果糖の重合度は4〜20である。
本発明の果糖ポリマー又はオリゴマーは、乳化時に添加されていることが好ましいが、その一部または全部を乳化後に添加することもできる。
【0063】
また果糖ポリマー又はオリゴマーと併用して、他の水溶性ポリマーやオリゴマーを用いてもよい。他の水溶性ポリマー、オリゴマーの例としては、アガロース、澱粉、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ジェランガム、ガラクトマンナン、カゼイン、トラガンドガム、キシログルカン、βーグルカン、カードラン、水溶性大豆繊維、キトサン、アルギン酸、アルギン酸アトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
水溶性包括剤は、カロチノイド含有組成物において、形状維持と溶解性の観点から組成物における油性成分の全質量に対して好ましくは0.5倍量〜50倍量、より好ましくは1倍量〜20倍量、更に好ましくは1倍量〜10倍量であり、より更に好ましくは2倍量〜5倍量である。
なお、水溶性包括剤は、カロチノイド含有組成物の水相に含まれていればよく、後述する加圧乳化の際に水相組成物として含まれていてもよく、加圧乳化後のカロチノイド含有組成物の水相に添加してもよい。
【0065】
[その他成分]
上記成分の他、食品、化粧品等の分野において通常用いられる成分を、本発明のカロチノイド含有組成物に、当該組成物の形態に応じて適宜配合してもよい。添加成分は、添加成分の特性によって、油相成分混合液、カロチノイド含有油相組成物又は水相組成物の成分として配合してもよく、カロチノイド含有組成物の水相への添加成分として配合してもよい。
【0066】
このような他の成分としては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;グルコース、果糖、乳糖、麦芽糖、ショ糖、ペクチン、カッパーカラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピルグアガム、キサンタンガム、カラヤガム、タマリンド種子多糖、アラビアガム、トラガカントガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストリン等の単糖類又は多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;カゼイン、アルブミン、メチル化コラーゲン、加水分解コラーゲン、水溶性コラーゲン、ゼラチン等の分子量5000超のタンパク質;カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、酸化エチレン・酸化プロピレンブロック共重合体等の合成高分子;ヒドロキシエチルセルロース・メチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体;フラボノイド類(カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチン)、フェノール酸類(クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル)、リグナン類、クルクミン類、クマリン類などを挙げることができ、その機能に基づいて、例えば機能性成分、賦形剤、粘度調整剤、ラジカル捕捉剤などとして含んでもよい。
その他、例えば、種々の薬効成分、pH調整剤、pH緩衝剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、着色剤など、通常、その用途で使用される他の添加物を併用することができる。
【0067】
[製造方法]
本発明のカロチノイド含有組成物の製造方法では、カロチノイド含有油相組成物調製工程において得られたカロチノイド含有油相組成物と、水相組成物とを、水中油型乳化組成物調製工程において加圧乳化して、水中油型乳化組成物としてのカロチノイド含有組成物を得る。
これにより、結晶性カロチノイドを含む油性成分を含む油滴(分散粒子)が水中に微細分散された水中油滴型乳化物であり、カロチノイドの結晶化が抑制されたカロチノイド含有組成物が得られる。
【0068】
乳化における油相と水相との比率(質量)は、特に限定されるものではないが、油相/水相比率(質量%)として0.1/99.9〜50/50が好ましく、0.5/99.5〜30/70がより好ましく、1/99〜20/80が更に好ましい。
油相/水相比率を0.1/99.9以上とすることにより、有効成分が低くならないためエマルション組成物の実用上の問題が生じない傾向となり好ましい。また、油相/水相比率を50/50以下とすることにより、乳化剤濃度が薄くなることがなく、乳化組成物の乳化安定性が悪化しない傾向となり好ましい。
【0069】
加圧乳化は、1ステップの乳化操作を行うことでもよいが、2ステップ以上の乳化操作を行うことが均一で微細な乳化粒子を得る点から好ましい。
具体的には、剪断作用を利用する通常の乳化装置(例えば、スターラーやインペラー攪拌、ホモミキサー、連続流通式剪断装置等)を用いて乳化するという1ステップの乳化操作に加えて、高圧ホモジナイザー等を通して乳化する等の方法で2種以上の乳化装置を併用するのが特に好ましい。高圧ホモジナイザーを使用することで、乳化物を更に均一な微粒子の液滴に揃えることができる。また、更に均一な粒子径の液滴とする目的で複数回行ってもよい。
【0070】
ここで使用可能な乳化手段は、自然乳化法、界面化学的乳化法、電気乳化法、毛管乳化法、機械的乳化法、超音波乳化法等一般に知られている乳化法のいずれも使うことができる。
【0071】
エマルションを微細化するための有用な方法として、PIT乳化法、ゲル乳化法等の界面化学的乳化法が知られている。この方法は消費するエネルギーが小さいという利点があり、熱で劣化しやすい素材を微細に乳化する場合に適している。
【0072】
また、汎用的に用いられる乳化法として、機械力を用いた方法、すなわち外部から強い剪断力を与えることで油滴を分裂させる方法が適用されている。機械力として最も一般的なものは、高速、高剪断攪拌機である。このような攪拌機としては、ホモミキサー、ディスパーミキサーおよびウルトラミキサーと呼ばれるものが市販されている。
【0073】
また、微細化に有用な別な機械的な乳化装置として高圧ホモジナイザーがあり、種々の装置が市販されている。高圧ホモジナイザーは、攪拌方式と比べて大きな剪断力を与えることが出来るために、乳化剤の量を比較的少なくても微細化が可能である。
高圧ホモジナイザーには大きく分けて、固定した絞り部を有するチャンバー型高圧ホモジナイザーと、絞りの開度を制御するタイプの均質バルブ型高圧ホモジナイザーがある。
チャンバー型高圧ホモジナイザーの例としては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等が挙げられる。
均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0074】
比較的エネルギー効率の良い分散装置で、簡単な構造を有する乳化装置として超音波ホモジナイザーがある。製造も可能な高出力超音波ホモジナイザーの例としては、超音波ホモジナイザーUS−600、同US−1200T,同RUS−1200T、同MUS−1200T(以上、(株)日本精機製作所製)、超音波プロセッサーUIP2000,同UIP−4000、同UIP−8000,同UIP−16000(以上、ヒールッシャー社製)等が挙げられる。これらの高出力超音波照射装置は25kHz以下、好ましくは15〜20kHzの周波数で使用される。
【0075】
また、他の公知の乳化手段として、外部からの攪拌部を持たず、低エネルギーしか必要としない、スタチックミキサー、マイクロチャネル、マイクロミキサー、膜乳化装置等を使う方法も有用な方法である。
【0076】
本発明における乳化分散する際の温度条件は、特に限定されるものでないが、機能性油性成分の安定性の観点から10〜100℃であることが好ましく、取り扱う機能性油性成分の融点などにより、適宜好ましい範囲を選択することができる。
また、本発明において高圧ホモジナイザーを用いる場合には、その圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは50MPa〜280MPa、更に好ましくは100MPa〜280MPaで処理することが好ましい。
また、乳化分散された組成物である乳化液はチャンバー通過直後30秒以内、好ましくは3秒以内に何らかの冷却器を通して冷却することが、分散粒子の粒子径保持の観点から好ましい。
【0077】
本製造方法では、水中油型乳化組成物調製工程によって得られた水中油型乳化組成物を乾燥して粉末組成物を得ること(以下、「粉末化工程」ということがある。)を含んでもよい。これにより、粉末組成物としてのカロチノイド含有組成物を得ることができる。この粉末組成物としてのカロチノイド含有組成物は、粉末化形態による保存安定性を備えると共に、粉末組成物においても、また粉末組成物を水性媒体に再溶解させた乳化組成物においても、結晶性カロチノイドの結晶化が抑制された組成物である。
【0078】
粉末化工程で用いられる乾燥手段としては、公知の乾燥手段を用いることができ、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥、高周波乾燥、超音波乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。これらの手段は単独で用いてもよいが、2種以上の手段を組み合わせて用いることもできる。
本発明では熱に比較的弱い機能性素材を含むことが多いため、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥が好ましい。また、真空乾燥の一つであるが、0℃以下氷結温度以上の温度を保ちながら真空(減圧)乾燥する方法も好ましい。
真空乾燥又は減圧乾燥する場合、突沸による飛散を回避するため、徐々に減圧度を上げながら濃縮を繰り返しつつ、乾燥させることが好ましい。
【0079】
本発明においては、凍結状態にある材料から氷を昇華させて水分を除去する凍結乾燥が好ましい。この凍結乾燥方法では、通常、乾燥過程が0℃以下、通常は−20℃〜−50℃程度で進行するため、素材の熱変性が起こらず、復水過程で味、色、栄養価、形状、テクスチャーなどが乾燥以前の状態に復元し易い事が大きなメリットとして挙げられる。
市販の凍結乾燥機の例としては、凍結乾燥機VD−800F(タイテック(株))、フレキシドライMP(FTSシステムズ社)、デュラトップ・デュラストップ(FTSシステムズ社)、宝真空凍結乾燥機A型((株)宝エーテーエム)、卓上凍結乾燥機FD−1000(東京理化器械(株))、真空凍結乾燥機FD−550(東京理化器械(株))、真空凍結乾燥機((株)宝製作所)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0080】
また、本発明では、乾燥手段として、生産効率と品質を両立する観点から噴霧乾燥法が特に好ましい。噴霧乾燥は対流熱風乾燥の一種である。液状の組成物が熱風中に数100μm以下の微小な粒子として噴霧され、乾燥されながら塔内を落下して行くことで固体粉末として回収される。素材は一時的に熱風に曝されるが、曝されている時間が非常に短いことと水の蒸発潜熱のため余り温度が上がらないことから、凍結乾燥同様に素材の熱変性が起きにくく、復水による変化も小さいものである。非常に熱に弱い素材の場合、熱風の代わりに冷風を供給することも可能である。その場合、乾燥能力は落ちるが、よりマイルドな乾燥を実現できる点で好ましい。
【0081】
市販の噴霧乾燥機の例としては、噴霧乾燥機スプレードライヤSD−1000(東京理化器械(株))、スプレードライヤL−8i(大川原化工機(株))、クローズドスプレードライヤCL−12(大川原化工機(株))、スプレードライヤADL310(ヤマト科学(株))、ミニスプレードライヤB−290(ビュッヒ社)、PJ−MiniMax(パウダリングジャパン(株))、PHARMASD(ニロ社)等が挙げられるがこれに限定されることはない。
また、例えば流動層造粒乾燥機MP−01((株)パウレック)、流動層内蔵型スプレードライヤFSD(ニロ社)等のように。乾燥と造粒とを同時に行える装置で、乾燥と同時に取り扱い性の優れた顆粒状にすることも好ましい。
【0082】
本発明の粉末組成物は、復水性、すなわち再び水の中に再溶解(再分散)させたとき、乾燥前の水中油型乳化組成物の状態を復元する性質を有する。
【0083】
本発明におけるカロチノイド含有組成物は、水中油型乳化組成物又はこれを粉末化した粉末組成物である。
カロチノイド含有組成物における平均粒径は、水中油型乳化組成物の場合には、乳化組成物中の分散粒子(油滴)の粒径を意味し、粉末組成物の場合には、1質量%の水溶液としたとき(再溶解時)の分散粒子(油滴)粒径を意味する。
【0084】
分散粒子の粒径は市販の粒度分布計等で計測することができる。エマルションの粒度分布測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
【0085】
本発明における粒径範囲および測定の容易さから、本発明における分散粒子の粒径測定では動的光散乱法が好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられるが、本発明における粒径は、粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))を用いて25℃で測定した値を採用する。
即ち、粒径の測定方法は、水中油型乳化組成物の場合には純水で20倍に希釈し、粉末組成物の場合には固形分濃度が1質量%となるように純水で希釈を行い、粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))を用いてメジアン径(d=50)として求める。
【0086】
また、分散粒子の粒径は、組成物の成分以外に、製造方法における攪拌条件(せん断力・温度・圧力)や、油相と水相比率、などの要因によって調整することができる。
【0087】
本発明におけるカロチノイド含有組成物の粒径は、透明性の観点及び吸収性の観点から50nm〜300nmであることが好ましく、透明性の観点から、より好ましくは50nm〜200nm、最も好ましくは50nm〜150nmである。
【0088】
本発明のカロチノイド含有組成物は、結晶性カロチノイドの結晶化が抑制され、カロチノイドによる所期の効果が充分に期待されるカロチノイド含有組成物である。このため、食品組成物、化粧品組成物、医薬品組成物に好ましく適用しうる。
また、本発明のエマルション組成物を含有する食品又は化粧品には、必要に応じて、食品又は化粧品に添加可能な成分を適宜添加することができる。特に食品に用いた場合には、粉末状の食品として長期保存が可能であり、水性媒体に溶解したときには、微細な分散粒子を有する透明性に優れた分散組成物となる。
本発明のカロチノイド含有組成物を含む食品、化粧品等は、結晶体の存在に起因して充分に発揮されない場合がある効果、例えばカロチノイドの良好な吸収性を示し得る。
【0089】
化粧品組成物としては、例えば、化粧水、美容液、乳液、クリームパック・マスク、パック、洗髪用化粧品、フレグランス化粧品、液体ボディ洗浄料、UVケア化粧品、防臭化粧品、オーラルケア化粧品等などで好適に使用される。
また、食品としては、栄養ドリンク、滋養強壮剤、嗜好性飲料、冷菓などの一般的な食品類のみならず、錠剤状・顆粒状・カプセル状の栄養補助食品なども好適に使用される。
機能性食品として用いられる場合には、本発明にかかる粉末組成物の添加量は、製品の種類や目的などによって異なり一概には規定できないが、製品に対して、0.01〜10質量%、好ましくは、0.05〜5質量%の範囲となるように添加して用いることができる。添加量が0.01質量%以上であれば目的の効果の発揮が期待でき、10質量%以下であれば、適切な効果を効率よく発揮できることが多い。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」と「%」表示してあるものは、特に断らない限り質量基準である。
【0091】
[実施例1]
<油相組成物の調製>
下記に示される油相成分(ミックストコフェロールを除く)を、室温から160℃〜165℃の範囲となるように調整し、20分間加熱しながら攪拌溶解して、カロチノイド含有油相組成物を得た。得られたカロチノイド含有油相組成物を、60℃に調整して保温し、攪拌しながらミックストコフェロールを添加して油相組成物1を得た。
<水相組成物の調製>
下記に示される水相成分を、70℃で加熱しながら、混合攪拌して溶解した後、600W超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所社製 US−150T)にて90秒間、粗分散して、水性組成物1を得た。
【0092】
[油相成分1]
・リコピンペースト(リコピン濃度18%) 8.9g
・モノステアリン酸ジグリセリル 0.9g
・アスコルビン酸カルシウム50%溶液 7.1g
・ミックストコフェロール 1.3g
【0093】
[水相成分1]
・ショ糖ラウリン酸エステル 11.1g
・レシチン 1.8g
・イヌリン 25.6g
・水 246.9g
【0094】
なお、リコピンペーストはリコピン18((株)協和ウエルネス製)、モノステアリン酸ジグリセリルはNIKKOL DGMS(HLB=5.0、日光ケミカルズ(株)製)、ミックストコフェロールは理研Eオイル800(理研ビタミン(株)製)を使用し、また、ショ糖ラウリン酸エステルはリョートーシュガーエステルL−1695(HLB=16、三菱化学フーズ(株)製)、レシチンはレシオンP(理研ビタミン(株)製)、イヌリンはフジFF(フジ日本精糖(株)製)を用いた。また、リコピン18の融点は、153℃である。
【0095】
<乳化物の調製>
油相組成物1を攪拌しながら60℃に保温し、これに、上記で作製し70℃に保温された水相組成物1を添加して、600W超音波ホモジナイザーにて3分間分散を行い、粗分散乳化物1を得た(リコピン濃度0.53%)。
次いで、粗分散乳化物1を、スターバーストミニ(株式会社スギノマシン製)を用いて、245MPaの圧力及び30℃での高圧乳化処理を4回繰り返して、乳化物1を得た。
【0096】
得られた乳化物1を次いで、スプレードライ(スプレードライヤADL310型、ヤマト科学製)にて、噴霧圧力0.15MPa、出口温度80℃、処理量7ml/分の条件で、上記乳化物1の噴霧乾燥を行い、サイクロンで粉末を捕集し、リコピン濃度3%の粉末組成物1を得た。
【0097】
[実施例2〜5、比較例1〜2]
油相成分及び水相成分の種類及び含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして油相組成物2〜5、7〜8及び水相組成物2〜5、7〜8を得た。実施例1と同様にして、油相組成物2〜5、7〜8と、水相組成物2〜5、7〜8とを用いて乳化を行って乳化物2〜5、7〜8を得た。更に噴霧乾燥を行って、粉末組成物2〜5、7〜8を得た。
なお、表1中、トリ(カプリル酸・カプロン酸)グリセリンはココナードMT(HLB=1、花王(株)製)、ペンタステアリン酸ヘキサグリセリルはHexaglyn 5−SV(グリセリン数7、ステアリン酸数5、日光ケミカルズ(株)製)、リン酸アスコルビン酸マグネシウムはアスコルビン酸PM(昭和電工(株)製)、モノステアリン酸デカグリセリルはDecaglyn1−SV(グリセリン数10、ステアリン酸数1、HLB=12.0、日光ケミカルズ(株))をそれぞれ使用した。
【0098】
[実施例6]
油相成分及び水相成分の種類及び含有量を表1に示すように変更し、噴霧乾燥を行わなかった以外は、実施例1と同様に各相の組成物の調製と乳化を行って、乳化物6を得た。
なお、表1中、モノステアリン酸グリセリルは、MGS−F50V(グリセリン数1、ステアリン酸数1、日光ケミカルズ(株)製HLB=3.5、)、モノラウリン酸デカグリセリルは、Decaglyn1−L(グリセリン数10、ラウリン酸数1、HLB=15.5、日光ケミカルズ(株))を使用し、グリセリンは花王(株)製を使用した。
【0099】
[比較例3]
油相成分及び水相成分の種類及び含有量を表1に示すように変更し、油相成分を混合したのみで加熱を行わずに油相組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、各相の組成物の調製、乳化及び噴霧乾燥を行って、粉末組成物9を得た。
【0100】
[比較例4]
油相組成物を調製する際の加熱処理を70℃で30分間とした以外は、実施例1と同様にして、各相の組成物の調製、乳化及び噴霧乾燥を行って、粉末組成物10を得た。
【0101】
【表1】

【0102】
<評価>
乾燥工程前の乳化物と、得られた粉末組成物の評価は、以下のとおりに行った。また、比較例5として、リコピン18のみの場合も評価した。これらの評価結果を表2に示す。
(1)DSC吸熱ピーク温度
DSC Q2000(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株))を使用し、乳化物のものは凍結乾燥し水分を除去して、粉末組成物のものは粉末状態で、30℃〜200℃の温度範囲で昇温−降温(15℃/min)の1サイクルで吸熱、発熱温度を求めた。
(2)偏光顕微鏡観察による結晶評価
PCLIPSE LV100POL ((株)ニコン)を使用して、乳化物のものは乳化物として、粉末組成物のものは水で溶解して目視にて観察した。目視観察の評価結果は、以下のとおりに行った。
目視評価 ○:リコピン由来の結晶が殆ど認められない
△〜○:僅かにリコピン由来の結晶が認められる程度
△:リコピン由来の結晶が散在するがわずか。
×:観察画像一面にリコピン由来の結晶が存在する
【0103】
(3)平均粒子径
水相成分及び油相成分により得られた乳化物中の分散粒子の平均粒径は、純水で20倍希釈し、また粉末組成物は固形分濃度が1%となるように純水で希釈して、それぞれ、粒子径アナライザー FPARE−1000(大塚電子(株))を用いて25℃でのd=50の値を平均粒子径として読み取った。
(4)リコピン残存率
実施例1、3〜6及び比較例1〜4の乳化物又は粉末組成物の場合は、0.005容量%のリコピン濃度となるように、乳化物は、アセトンで1062倍希釈して充分に溶解させた。一方、粉末組成物は、同様に0.005%容量リコピン濃度となるように純水にて5.65倍希釈し充分に溶解させ、アセトンで1062倍希釈し充分に溶解させた。ついで、0.45μmのフィルタで濾過した後、その濾過物の最大ピーク波長の吸光度(465nm〜475nm)を、分光光度計V−630(日本分光(株)製)で測定した。
なお、実施例2の場合は、0.005容量%のリコピン濃度となるように、乳化物はアセトンで708倍希釈し、一方、粉末組成物は、純水にて5.65倍希釈し充分に溶解させ、アセトンで708倍希釈し充分に溶解する以外は、実施例1,3〜6及び比較例1〜4同様に行って、残存率を測定した。
評価は、リコピン18をリコピン濃度0.005容量%となるようにアセトンで希釈して同様にピーク波長の吸光度を測定し、このリコピンの吸光度を100%とした時の割合を各組成物のリコピンの残存率とした。
【0104】
(4)動態吸収性
実施例1〜6、比較例1〜5の乳化物又は粉末組成物(比較例5は、ココナードMTでリコピン濃度2mg/mlに調整した希釈物)を、リコピン濃度2mg/mlに希釈して、非絶食6週齢の雄ラットに、10ml/kgの投与容量で経口投与(各群n=4)し、投与後、1、2、3、4、6、8、24h後に各0.4mlの血液を採取した。採取した血液を遠心分離し上澄みの血漿を0.1ml取り出た。この血漿を、アセトン溶解させた後に、ヘキサンを加えて静置し、上澄み液を回収した。回収した上澄み液を固化乾燥させた後に、クロロホルム/メタノール=1/1(vl/vl)に再溶解させて、HPLCHPLCにてリコピンの含量を求めた。
投与から採血までの時間と血漿中のリコピン濃度との関係をグラフ化し、それぞれの投与組成物について投与後から8時間のAUC(血中濃度−時間曲線下面積)を求め、動態吸収値とした。結果を下記表2に示す。この数値が大きいほど、血中の有効成分濃度が高いと評価する。
【0105】
【表2】

【0106】
表1及び表2から示されるように、リコピン18を、グリセリン単位が1〜6であり脂肪酸単位が1〜5のポリグリセリン脂肪酸エステルと共にリコピン18の融点よりも高い温度で加熱処理して油相組成物を調製した実施例1〜6のカロチノイド含有組成物は、乳化物形態であっても粉末形態であっても、DSC吸熱ピークが認められず、結晶化が抑制された組成物であった。
また、ラットへの投与実験の結果より、実施例1〜6のカロチノイド含有組成物はいずれも、優れたリコピン吸収性を示しており、リコピンの結晶化が抑制されて高い吸収性を示すカロチノイド含有組成物であることが明らかであった。
【0107】
従って、本発明によれば、結晶性の高いカロチノイドを含有する組成物であっても、結晶化が抑制されたカロチノイド含有組成物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の結晶性カロチノイドを含むカロチノイド成分と、グリセリン単位が1〜6であり脂肪酸単位の数が1〜6であって、グリセリン単位の水酸基を少なくとも1つ有する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとを含む油相成分混合液を、前記カロチノイド成分の融点以上の温度条件で加熱して、カロチノイド含有油相組成物を得ること、及び、
乳化剤を含有する水相組成物と、前記カロチノイド含有油相組成物とを加圧乳化して、水中油型乳化組成物を得ること、
を含む、カロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記結晶性カロチノイドがリコピンである請求項1記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの分子量が10000以下である請求項1又は請求項2記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの全質量が、前記結晶性カロチノイドの全質量の0.01倍〜10倍である請求項1〜請求項3のいずれか一項記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記加熱の前に、前記油相成分混合液に酸化防止剤を含有させることを含む請求項1〜請求項4のいずれか一項記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項6】
前記酸化防止剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸エステル及びこれらの塩からなる群より選択された少なくとも一種である請求項5記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記酸化防止剤の全質量が、結晶性カロチノイドの全質量の0.05倍〜50倍である請求項5又は請求項6に記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項8】
更に、果糖単位を少なくとも2つ含む糖単位からなる糖ポリマーおよびオリゴマーから選択された少なくとも一種の水溶性包括剤を含む請求項1〜請求項7のいずれか一項記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性包括剤の全質量が、前記カロチノイド成分を含む油性成分の全質量に対して0.5倍〜50倍である請求項8記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項10】
前記水相組成物に含まれる乳化剤の全質量が、前記カロチノイド成分を含む油性成分の合計質量の0.1倍〜10倍である請求項1〜請求項9のいずれか一項記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項11】
前記水中油型乳化組成物を乾燥して粉末組成物を得ることを更に含む請求項1〜請求項10のいずれか一項記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。
【請求項12】
前記水中油型乳化組成物又は前記粉末組成物を再溶解させて得られた再溶解水中油型乳化物の平均粒子径が50nm〜300nmである請求項1〜請求項11のいずれか一項記載のカロチノイド含有組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−241177(P2011−241177A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114793(P2010−114793)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】