説明

カロテノイドの製造方法

【課題】高純度、安価かつ安全なカロテノイド高含有組成物及びその工業的な製造方法の提供。さらには該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品の提供。
【解決手段】微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類または、80℃以上の水と低級アルコール類との組み合わせを用いて抽出処理した後、抽出液から得た沈殿物を低級アルコール類と水を組み合わせたもので洗浄・濾過することを特徴とするカロテノイド含量が80%以上の組成物の製造方法。
及び該カロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイドの製造方法に関し、特に、食品、医薬組成物、又は化粧品の成分として用いるアスタキサンチンの工業的に適した製造方法に関する。具体的には、本発明は、微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール類との組み合わせで抽出処理する方法に関し、また前記抽出後、抽出液から得られる沈殿物を低級アルコール類および水の組み合わせで洗浄することを特徴とする。また、本発明は、生体由来の夾雑物が少なく、且つ、低級アルコール類以外の有機溶媒を用いないアスタキサンチンを含有するカロテノイド含量が80%以上の組成物を得る製造方法に関する。さらに、本発明は、上記方法で得られるカロテノイド含有組成物、さらには該カロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは自然界に広く存在する天然色素であり、黄色から赤色又は紫色に及ぶポリエン色素である。アスタキサンチンは天然で見出されるカロテノイドの1種であり、遊離の状態あるいはエステルとして存在するほか、タンパク質と結合して種々の色素タンパク質として存在する。
アスタキサンチンは、魚類、鶏卵の色揚げ剤として広く使用されている。また、食品添加物としても認められており、油脂加工食品、タンパク質性食品、水性液状食品などに幅広く使用されている。さらに、フリーラジカルによって誘起される脂質の過酸化に対する抗酸化活性、α−トコフェロールの数百倍に達する一重項酸素消去作用などから、アスタキサンチンは、その強力な抗酸化活性を生かした機能性食品、化粧品、又は医薬品としての用途が期待されている。
アスタキサンチンは、サケ、マス、マダイ等の魚類、カニ、エビ、オキアミ等の甲殻類など広く自然界に分布すると共に、アグロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、パラコッカス属に属する細菌類、ヘマトコッカス属緑藻類、ファフィア属酵母類等の微生物によっても生産されている。アスタキサンチンやゼアキサンチン等のカロテノイドは、化学合成法により工業的に生産されているが、安全面の不安から天然物由来のものが求められている。
【0003】
こうした背景から特に、大量生産に適していると考えられている藻類や微生物由来のアスタキサンチンを含有するカロテノイド類の製造方法が数多く報告されている。
例えば、ヘマトコッカス藻類の場合、培養後の藻類のシスト細胞を熱アセトン処理し、夾雑物であるクロロフィルを溶出させた後、該シスト細胞をスプレードライし、得られた乾燥細胞からエタノールでカロテノイドを抽出する方法(特許文献1)などが報告されている。しかしこのような製造方法で得られる組成物には、まだ多くの生体由来の夾雑物が含まれており、1)カロテノイドの含量、2)アスタキサンチンの含量、等の点で満足のいくものではない。
【0004】
アスタキサンチン高含量の組成物を得るために、上述の方法に準じて得た粗キサントフィルを、水存在下でリパーゼを作用させて夾雑物のひとつである中性脂質を分解し、そのリパーゼ酵素処理液を油水分離し、次いで分取した油層から遊離脂肪酸を蒸留にてアスタキサンチンと分離して濃縮精製する方法(特許文献2)などが報告されている。しかし、このような複雑な処理工程を施してもアスタキサンチン含量として30%を超えたものは得られていない。
【0005】
また、超臨界流体抽出法を用いて0.5〜60%含量のアスタキサンチンを得る方法(特許文献3)も報告されているが、この処理工程中に副生産される目的含量未満のアスタキサンチン分画は、廃棄するか含量を上げるために別のさらなる濃縮操作が必要となる。したがって、本製造方法も簡便性と経済性の点で生体由来の夾雑物が少ないアスタキサンチンを高含量に含む高純度カロテノイドを製造する工業的方法として満足できるものではない。
【0006】
また、ファフィア属酵母を用いる方法として、該酵母の破砕菌体を有機溶媒で抽出し、抽出液を濃縮して得られた油状の粗抽出エキスをイオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等の精製を行ってアスタキサンチンを得る方法(特許文献4)が報告されているが、この方法は、低濃度のアスタキサンチンの粗液を複数のカラムクロマトグラフィーにて精製を行っているため工業化することが困難である。
【0007】
また、別の方法として、ファフィア属酵母培養後の菌体をアセトンで抽出し、得られた抽出液を濃縮して得られる粗抽出物に炭化水素系溶剤を加えて晶析させる製造方法(特許文献5)が報告されている。この製造方法は、簡便性が高いが、得られる組成物はカロテノイド含量が70〜73%程度(アスタキサンチン含量としては36〜42%)しかなく、生体由来の夾雑物の少ない高純度カロテノイドの製造方法として満足できるものではないことに加え、カロテノイド中にアセトンおよび炭化水素系溶剤が残留することが危惧される点でも満足できるものではない。
一方、アスタキサンチン、アドニキサンチンなどの生産菌株であるE−396株(FERM BP−4283:1993年4月27日付(原寄託日)、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6))においては、食品の製造には安全性の面から使用することが危惧される環状親水性有機化合物に菌体を接触させて抽出処理する方法(特許文献6)、特許文献3と同様に超臨界流体抽出を用いた方法(特許文献7)、E−396株を水溶性有機溶媒、非極性溶媒および水に接触させ、液液抽出を行う方法(特許文献8)などが報告されている。
こうした状況から、さらに簡便で低コスト、特殊な設備を用いない方法の確立が切望されている。
【特許文献1】特開平11−56346号公報
【特許文献2】特開2002−218994号公報
【特許文献3】特開2004−41147号公報
【特許文献4】特開平10−276721号公報
【特許文献5】特開2004−208504号公報
【特許文献6】特開平7−242621号公報
【特許文献7】特開平8−89280号公報
【特許文献8】特開平8−253695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高純度、安価かつ安全な溶剤を使用したカロテノイド高含有組成物およびその工業的な製造方法を提供し、さらには該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために微生物培養物に注目して研究した。そして、簡便で特殊な設備や複雑な操作を必要とせず食品製造に安全な溶剤によってアスタキサンチンを高含量で含む高純度カロテノイドを工業的に製造する方法として、低級アルコール類を用いて該溶媒の沸点以下で抽出処理する方法では、菌体からのカロテノイドの抽出に使用するための溶媒が大量に必要となり、安価にプロセスを組むことができないとの課題を新たに見出した。該課題の解決も含めてさらに鋭意研究を重ねた結果、微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、または80℃以上の水と低級アルコール類との組み合わせを用いて抽出処理した後、抽出液を必要により濃縮して得られる沈殿物を低級アルコール類と水の組み合わせで洗浄することにより、極めて少ない溶媒使用量で高純度のカロテノイド組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1)微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール類との組み合わせを用いて抽出処理する工程を含むカロテノイド含有組成物の抽出方法。
(2)以下の1)〜4)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール類 との組み合わせを用いて抽出処理する工程
2)得られる抽出液から沈殿物を得る工程
3)沈殿物を低級アルコール類にて洗浄する工程
4)沈殿物をさらに水で洗浄する工程
(3)以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール類 との組み合わせを用いて抽出処理する工程
2)得られる抽出液から沈殿物を得る工程
3)沈殿物を低級アルコール類にて洗浄する工程
(4)低級アルコール類がエタノールである(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)カロテノイド含有組成物が、カロテノイドを80%以上含有する組成物である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)カロテノイドが、アスタキサンチンを40%以上含有するカロテノイドである(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)微生物の16SリボゾームRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列と実質的に相同のものである(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)微生物が、E−396株(FERM BP−4283)又はその変異株である(1)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の方法で得られる、カロテノイド含有組成物。
(10)カロテノイドがフリー体である、(9)に記載のカロテノイド含有組成物。
(11)(9)および(10)に記載のカロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、天然物由来の高純度、安価かつ安全なカロテノイド高含有組成物およびその工業的な製造方法を提供し、さらには該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明について具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。本発明に用いることができる微生物としては、カロテノイドを生産する微生物であればなんら限定されないが、パラコッカス細菌、ヘマトコッカス属藻類、ファフィア属酵母などを用いることができる。
特に増殖速度の速さ、カロテノイド類の生産性から、16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列と実質的に相同である細菌が好ましい。実質的に相同であるとは、DNAの塩基配列決定のエラー頻度等を考慮し、配列が、94%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有することを意味する。このような細菌のなかでも、特にE−396株(FERM BP−4283)が好ましい。また、これらの微生物を変異処理してカロテノイド生産性を向上させるために選択したカロテノイド高生産株を用いることも大変に好適な例として挙げられる。
なお、E−396菌株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに以下の通り国際寄託されている。
国際寄託当局:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
〒305-8566
茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6
識別のための表示:E−396
受託番号:FERM BP−4283
原寄託日:平成5年(1993年)4月27日
ここで、変異処理する方法は、突然変異を誘発するものであれば特に限定されない。たとえば、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート(EMS)などの変異剤による化学的方法、紫外線照射、X線照射などの物理的方法、遺伝子組換え、トランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。この変異処理は1回でもよいし、また、例えばこの突然変異処理によりアスタキサンチン生産微生物の変異体を得て、これをさらに突然変異処理するというように2回以上の変異処理を行うこともできる。
【0012】
本発明に用いる微生物培養物は、上記微生物を効率良く培養できる方法、例えば、下記の培地を用いて、液体培養、固体培養、又はそれらの組み合わせによって培養する方法を用いることで得られる培養物であれば何ら限定されない。
本発明に用いる微生物の培養に使用される栄養培地としては、生産菌の生育に必要な炭素源、窒素源及び無機塩を含む栄養培地であれば十分であるが、ビタミン類を添加するとさらに好ましい場合がある。また、さらにアミノ酸、核酸塩基等を添加すると好ましい場合もある。その他として、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスチープリカー、乾燥酵母、大豆粕等を適宜添加しても良い。
炭素源としてはグルコース、シュークロース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール、マルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸、ピルビン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール、グリセノール等のアルコール類、大豆油、ヌカ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ゴマ油、アマニ油等の油脂類などが挙げられ、1種又は2種以上の炭素源を用いることができる。添加割合は炭素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。
窒素源としては、例えば硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア、尿素等の1種又は2種以上が用いられる。添加割合は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1g〜30g、好ましくは1〜10gである。
無機塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の1種又は2種以上が用いられる。添加割合は無機塩の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.001〜10gである。
ビタミン類を加える場合、添加割合はビタミン類の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1〜1000mgであり、好ましくは1〜100mgである。
アミノ酸、核酸塩基、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスチープリカー、乾燥酵母、大豆粕等の添加割合は、物質の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.2g〜200g、好ましくは3〜100gである。
培地のpHは2〜12、好ましくは6〜9に調整する。培養条件は15〜80℃、好ましくは20〜35℃の温度であり、通常1日〜20日間、好ましくは2〜8日間、好気条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振とう培養又は通気撹拌培養等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いる培養微生物が産生したアスタキサンチンを抽出するに際しては、培養後、培養液、または培養液から得られる菌体の濃縮液、湿菌体又は乾燥菌体を以下の抽出処理に供する方法が、より好適な例としてあげられる。上記菌体の濃縮液は、例えば、培養液を膜濾過濃縮することによって得ることができ、上記湿菌体は、培養液を遠心分離、加圧又は減圧濾過などの一般的に知られている濾過方法に供することによって得ることができる。さらに、この湿菌体を噴霧乾燥、流動乾燥、回転ドラム式乾燥又は凍結乾燥など一般的に知られる乾燥方法によって乾燥させることによって、乾燥菌体を得ることができる。また、以下の抽出を行う前に、培養液、菌体濃縮液、湿菌体又は乾燥菌体の段階において、アルカリ試薬や界面活性剤などを用いた化学的処理、溶菌酵素や脂質分解酵素およびタンパク分解酵素などを用いた生化学処理、又は超音波もしくは粉砕などの物理的処理のうち1つ又は2つ以上の処理を行っても良い。なお、該乾燥菌体とした場合には、その1g中には、約20mg程度のアスタキサンチンが含有されていると考えられる。
【0014】
本発明の抽出および洗浄に用いる溶媒としては、低級アルコール類が挙げられ、エタノール、メタノール、イソプロパノールが好ましく、エタノールが特に好ましく用いられる。抽出時の低級アルコール類の温度は、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましく、93℃以上が特に好ましい。この抽出時の温度は、エタノールへのアスタキサンチンを含むカロテノイドの溶解度の上昇と関係しており、抽出効率を上げるために重要な要素となる。また抽出時の低級アルコール類の上限温度については、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましく、110℃以下が特に好ましく、100℃以下が最も好ましい。この上限温度は、アスタキサンチンを含むカロテノイドの熱分解を抑えるために重要である。このとき、溶媒の沸点以上又は沸点付近の温度を必要とするため、密閉式の圧力容器内にて処理することが必要とされる。このときの圧力は、最大でもゲージ圧で0.8MPa以下、好ましくは0.4MPa以下、さらに好ましくは0.2MPa以下で行うものとする。
低級アルコール類の量としては、抽出時の温度によって規定されるが、菌体内に含有されるアスタキサンチン量を溶解できる量であれば良く、乾燥菌体から低級アルコール類を用いて抽出する場合、菌体内に含まれるアスタキサンチン量1gに対して、300〜3,000g、好ましくは、500〜2,000g、より好ましくは、800〜1,600gである。
例えば、前記した約20mgのアスタキサンチンを含む乾燥菌体1gからの抽出を95℃のエタノールで行う場合は、5g〜100g程度、好ましくは8g〜60g、さらに好ましくは10g〜35g程度の量のエタノールを用いると良い。
抽出時、水を加えることにより菌体中の色素が抽出しやすくなるため、低級アルコール類に水を加えて行うことができる。低級アルコール類に水を加える場合は、低級アルコール類の容量の1/400〜1/5程度、好ましくは1/300〜1/10程度、さらに好ましくは1/200〜1/15である。
また、低級アルコール類を加える前に水を加えることにより乾燥菌体表面が湿潤し、後から添加する低級アルコール類が菌体内に入り込みやすくなり、カロテノイドの抽出効率が5〜10%程度あがる。そのため、水を加える場合は、乾燥菌体に低級アルコール類を加える前に添加することが望ましい。さらに、低級アルコールと水とを混合して、その混合物を抽出に用いることができる。混合割合は、特に限定されるものではないが、1:10〜1:100、好ましくは、1:20〜1:40である。
乾燥している材料の場合は、水を添加することが望ましいが、生菌や生の試験体などのように水分含量の多い試験体から色素抽出を行う場合には、水を加えることによって低級アルコール類の濃度が低下し抽出効率が落ちる。そのため、抽出すべき材料の水分含量を検討して、水を添加するかどうかを定める必要がある。
【0015】
抽出操作中においてカロテノイドの酸化を極力防止したい場合には、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気で処理することができ、また、医薬品や食品で用いられている酸化防止剤を選択して抽出溶媒に加えて行うことができる。あるいは、これらの処理を組み合わせてもよい。
上記酸化防止剤は、最終的にはカロテノイド組成物から除くことが望ましいが、用いる酸化防止剤の種類(例えば、ビタミンC)によっては除去不要である。
また、光によるカロテノイドの分解を極力防止するために、光を当てない条件下で行うことができる。
また、抽出時間については特に制限する必要はないが、熱分解による収率低下を少なくするためにも短時間処理が良く、120分以内が好ましく、60分以内がより好ましく、30分以内が最も好ましい。
【0016】
抽出操作後の抽出液を微生物から分離する方法は何でもよいが、膜濾過、遠心分離、デカンテーションなどが用いられ、工業的に用いる場合は遠心分離が好ましい。また工業的に行う場合は、分離の温度は特に限定されない。80℃以上の高温で抽出し、一度低級アルコール類に溶解したカロテノイド色素は過冷却状態となっており、−20℃〜70℃に冷却しても短時間では容易には析出しないので、低い温度でも安定的に抽出液の分離ができる。
【0017】
微生物培養物を低級アルコール類で抽出処理して得られた抽出液から沈殿物を得る方法としては、一般的には加熱及び/又は減圧濃縮や晶析が挙げられる。この他、低温におけるカロテノイド色素の析出、酸・アルカリ薬剤や各種塩類による析出によってカロテノイド色素を濃縮せずに分離しても良い。また、本操作下での過冷却状態は常温で1時間以上放置することで解除され、カロテノイド色素を析出させることができる。このとき、攪拌したり振動を与えたりすることにより過冷却状態の解除を早めることもできる。ただし抽出温度によって、過冷却状態が変化するため、抽出温度に応じた過冷却解除条件を選択するものとする。
これらの操作を行うことによりフリー体のトランス型カロテノイドを得ることができる。また上記操作により過冷却状態が解除されると、フリー体のトランス型アスタキサンチンは常温のエタノールに対して難溶性となり、エタノールを加えても溶解せず懸濁状態になる。
濃縮する場合の例を挙げると、濃縮の程度としては、得られる沈殿物の量と純度を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、抽出液の重量の10倍〜1000倍濃縮であり、好ましくは30倍〜500倍、さらに好ましくは50倍〜400倍、特に好ましくは100倍〜200倍である。最も好ましくは抽出液を完全に乾固させることである。
また、抽出液の濃縮で得られた留去液は、そのまま微生物培養物からの抽出に再利用することができる。
工業的に用いる場合には、晶析することが望ましい。
【0018】
乾固した沈殿物、濃縮された沈殿物または晶析された沈殿物は、洗浄のため必要に応じて少量の低級アルコール類を用いて懸濁攪拌させる。過冷却が解除された沈殿物を懸濁させる低級アルコール類の量は、沈殿物の純度を考慮しながら工業的に耐え得る程度の量を選択することが望ましい。例えば、乾固した沈殿物1gあたり2倍量程度の少量でよいが、それ以上でもよく、好ましくは4倍量以上、より好ましくは8倍量以上、さらに好ましくは16倍量以上であり、必要に応じて32倍量以上を用いても良い。濃縮された沈殿物を用いる場合は、未乾燥物の容量又は重量と乾固した沈殿物重量との相関関係を予め検討して設定することができる換算係数を用いて算出された乾燥物重量を用いるものとする。
沈殿物の純度をあげるために、超音波もしくは粉砕などの物理的処理を行って沈殿物をより細かい状態にして低級アルコール類に懸濁させても良い。本操作を行う際の詳細な条件については、得られた沈殿物の純度に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
洗浄の手法についてはなんら限定されないが、例えば、懸濁攪拌後に濾取する方法もしくは沈殿物の上から通液する方法等が実用的に好ましい方法として挙げられる。洗浄時の温度は、通常、1℃〜30℃の範囲が好ましいが、状況に応じて1℃未満や30℃を越える温度としても良い。ただし上限温度としては、低級アルコール類への溶解度が高まる低級アルコール類の沸点付近が挙げられ、沸点以下の温度であることが好ましい
このとき、低級アルコール類で洗浄を行うと、フリー体のトランス型アスタキサンチンは難溶性を示すが、高温によりシス化したシス型アスタキサンチンはエタノールに易溶性を示すため、濾過洗浄を行うことによりフリー体のトランス型アスタキサンチンのみが固体として残り、シス化したシス型アスタキサンチンと区別することができる。本明細書において使用する場合、フリー体のアスタキサンチンとは、アスタキサンチンが脂肪酸とエステル結合しておらず、基本構造に2つの水酸基のみが結合した状態を指す。
【0020】
沈殿物から高純度カロテノイドを得るための洗浄で発生する廃液から蒸留や減圧留去などの方法で使用した低級アルコール類を回収し、洗浄に用いる溶媒として再利用することができる。
【0021】
また、洗浄、乾燥後の本発明のカロテノイド含有組成物中における残存溶媒量を軽減するために、洗浄の最後に水で溶媒置換的に洗浄する工程を加えることができる。
この水洗浄の操作を行うことにより、水可溶性画分を除去できるためカロテノイドの純度を2〜10%程度上げることができる。
【0022】
上記の製造方法を用いて得られるカロテノイド含有組成物におけるカロテノイド含量、及びアスタキサンチン等の主成分含量の調整は、収量が最大となる様に上記精製工程の条件を適宜変更することによって行うことができる。本発明のカロテノイド含有組成物におけるカロテノイド含量は、菌体内におけるカロテノイド中のアスタキサンチン量に規定される。上記菌体としてE−396株またはその変異株を使用すると、組成物中の全カロテノイド量に対してアスタキサンチンを40%以上含有するカロテノイド含有組成物を得ることができる。
【0023】
本発明の製造方法は、上記の通り、微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類または、80℃以上の水と低級アルコール類との組み合わせを用いて抽出処理した後、該抽出液を濃縮乾固等を行って得られる沈殿物を低級アルコール類及び水にて洗浄することを特徴とする。これらの極めて簡便な操作のみにより、カロテノイドを高純度で得ることができ、高温で抽出することにより使用する溶媒量を著しく低減させることができる。
本発明の方法は、従来技術に比較して、1)複雑な操作を必要としない、2)低濃度溶液の高純度化のような非効率的な精製操作を必要としない、3)抽出に溶媒を大量に使用しないという点において、工業的な観点から著しく有利である。そして本発明の効果として、4)アスタキサンチンを高含量で含む高純度カロテノイド組成物を安価に提供できる点、5)各工程で使用した溶媒の回収が容易で再利用可能という点で優れた工業的製造方法を提供するものである。
【0024】
本発明のカロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品も本発明の範囲内である。
本発明の製造方法により製造されるアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する医薬品の剤型としては、散剤、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル剤、速崩剤、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は定法に従って調製されるが、カロテノイドは水に難溶性であるため、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか又は、乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤等とともに、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザー)を用いて水溶液中に分散、乳化させたり、温度をかけて溶解させたりして用いる。さらに、カロテノイドの吸収性を高めるために、平均粒子径を1ミクロン程度まで微粉砕し用いることも可能である。
【0025】
製剤化のために用いることができる添加剤としては、例えば大豆油、サフラワー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、グレープシード油、牛脂、いわし油等の動植物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアゴム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、その他の甘味料、着色料、pH調整剤、香料などをあげることができる。尚、液体製剤は、服用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良いし、ゾル状又はゲル状物質等で包んでもよい。
【0026】
注射剤の形で投与する場合としては、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内などに投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ボーラス投与のいずれであってもよい。
カロテノイドを医薬品として使用する場合、用法及び用量として、大人1 日あたり、1mg〜3g 、好ましくは3mg 〜1g 、より好ましくは10mg〜670mgである。体重1kg換算では、それぞれ17μg〜50mg 、54μg〜17mg 、160μg〜12mgとなる。上記用量は1から数回に分けて投与される。但し、薬学的な有効量、投与方法または投与手段および投与期間は、投与対象の臨床状態、性別、年齢、体重などに応じて当業者により適宜設定することができる。
【0027】
本発明のアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する食品の形態としては、例えばサプリメント(散剤、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)、飲料(お茶、炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)、調味料(ケチャップ、ソース等)、流動食、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ等)、パン類、麺類(うどん、そば、ラーメン、パスタ、焼きそば、きしめん、ソーメン、冷麦、ビーフン等)等が挙げられる。但し、これらの形態に限定されるものではない。
【0028】
本発明のアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する機能性食品としては、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE等)、各種ミネラル類、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、その他の栄養素(コエンザイムQ10、カルニチン、セサミン、α−リボ酸、イノシトール、D−カイロイノシトール、ピニトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルDHA、ホスファチジルイノシトール、タウリン、グルコサミン、コンドロイチン硫酸、S−アドノシルメチオニン等)、分散剤、乳化剤などの安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。また、ペパーミント、ベルガモット、カモミール、ラベンダー、タイム等のハーブ類を配合しても良い。またテアニン、デヒドロエピアンドステロン、メラトニンなどの素材を配合しても良い。
【0029】
本発明のアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する化粧品としては、クリーム、乳液、ローション、マイクロエマルジョンエッセンス、入浴剤等が挙げられ、香料等を混合しても良い。
カロテノイドを食品又はサプリメントとして使用する場合、用法及び用量として特に限定されるものではないが、体重1kg換算で、17μg〜50mg 、好ましくは54μg〜17mg 、より好ましくは160μg〜12mgである。
また、カロテノイドを化粧品として使用する場合、化粧品100gあたり10μg〜5g 、好ましくは10μg〜2g 、より好ましくは10μg〜1gの量を配合することができる。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例、参考例、製剤例及び試験例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されることはない。
なお、実施例及び比較例におけるアスタキサンチン及びカロテノイドの定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。カラムはWakosil−II SIL−100(φ4.6×250mm)(和光純薬製)を2本連結して使用した。溶出は、移動相であるn−ヘキサン−テトラヒドロフラン−メタノール混合液(40:20:1)を室温付近一定の温度にて毎分1.0mL流すことで行った。測定においては、サンプルをテトラヒドロフランで溶解したものを移動相にて100倍希釈した液20μLを注入量とし、カラム溶離液の検出は波長470nmで行った。また、定量のための標準品としては、シグマ社製アスタキサンチン(Cat.No.A9335)を用いた。標準液のアスタキサンチン濃度の設定は、標準液の477nmの吸光度(A)及び上記条件でHPLC分析を行ったときのアスタキサンチンピークの面積百分率%(B)を測定した後に、以下の式を用いて行った。
アスタキサンチンの濃度(mg/L)=A÷2150×B×100
【0031】
[実施例1]アスタキサンチンの高含量の高純度カロテノイドの製造1
工程1:エタノール抽出工程
E−396菌株(FERM BP−4283)を培養して得られた菌体であって、その1g中に20mgのアスタキサンチンを含む乾燥菌体13gに、エタノール200gを加え、高圧容器内で窒素置換した雰囲気下95℃にて30分間攪拌しながらアスタキサンチンを含むカロテノイドの抽出を行った。30℃に冷却後、濾過にて菌体を除き、さらに菌体ケークをエタノールにて洗浄してアスタキサンチン0.14%(wt/wt)、カロテノイド重量濃度0.36%(wt/wt)の抽出液300gを得た。
【0032】
工程2:抽出液濃縮、及び析出工程
本実施例の工程1で得られた抽出液300gを、エバポレーターを用いて減圧濃縮して沈殿物を含んだ濃縮乾固物(約2g)と留去液(約300gのエタノール)を得た。
【0033】
工程3:沈殿物濾取、洗浄及び乾燥工程
本実施例の工程2で得られた濃縮乾固物約2gに20gのエタノールを加えて懸濁洗浄し、濾過を行った。さらに、10gの水にて濾過物を洗浄した後、常温減圧乾燥を行い0.2gの沈殿物の乾燥物を得た。この乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイド含量は、それぞれ43%と86%であった。
【0034】
[実施例2]アスタキサンチンの高含量の高純度カロテノイドの製造2
工程1:エタノール抽出工程
E−396菌株(FERM BP−4283)を培養して得られた菌体であって、その1g中に20mgのアスタキサンチンを含む乾燥菌体13gに、エタノール200gと水10gを加え、高圧容器内で窒素置換した雰囲気下95℃にて30分間攪拌しながらアスタキサンチンを含むカロテノイドの抽出を行った。30℃に冷却後、濾過にて菌体を除き、さらに菌体ケークをエタノールにて洗浄してアスタキサンチン0.16%(wt/wt)、カロテノイド重量濃度0.38%(wt/wt)の抽出液300gを得た。
【0035】
工程2:抽出液濃縮、及び析出工程
本実施例の工程1で得られた抽出液300gを、エバポレーターを用いて減圧濃縮して沈殿物を含む濃縮乾固物(約2g)と留去液(約300gのエタノール)を得た。
【0036】
工程3:沈殿物濾取、洗浄及び乾燥工程
実施例1の工程2で得られた濃縮乾固物約2gに20gのエタノールを加えて懸濁洗浄し、濾過を行った。さらに、10gの水にて濾過物を洗浄した後、常温減圧乾燥を行い0.2gの沈殿物の乾燥物を得た。この乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイド含量は、それぞれ48%と88%であった。
【0037】
[実施例3]アスタキサンチンの高含量の高純度カロテノイドの製造3
工程1:エタノール抽出工程
E−396菌株(FERM BP−4283)を培養して得られた菌体であって、その1g中に20mgのアスタキサンチンを含む乾燥菌体13gに実施例2の工程1に準じたカロテノイドの抽出と濾過を行い、抽出液300gを得た。
【0038】
工程2:抽出液濃縮、及び析出工程
実施例1の工程2に準じたカロテノイドの抽出と濾過を行い、抽出液300gを得た。この抽出液を実施例1の工程2に準じて減圧濃縮し、濃縮乾固物約2gを得た。
【0039】
工程3:沈殿物濾取、洗浄及び乾燥工程
実施例3の工程2で得られた濃縮乾固物約2gに20gのエタノールを加えて懸濁洗浄し、濾過を行った。常温減圧乾燥を行い0.25gの沈殿物の乾燥物を得た。この乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイド含量は、それぞれ44%と80%であった。
水による洗浄工程を除くことで、純度は下がるが、回収量が多くなることが確認できた。
【0040】
[実施例4]アスタキサンチンの高含量の高純度カロテノイドの製造4
サケ肉のサンプルに少量のエタノールを加え、フードプロセッサにてサケをミンチ状にした後、実施例1の工程1に準じたカロテノイドの抽出と濾過を行い、抽出液を得た。この抽出液を実施例1の工程2に準じて減圧濃縮し濃縮乾固物を得た。この濃縮乾固物から実施例1の工程3に準じて沈殿物を濾取、洗浄および乾燥を行い、乾燥物を得た。この乾燥物を調査したところ、カロテノイド含量は、サケに含まれるカロテノイドの60%であった。
魚肉サンプルからカロテノイドを抽出する場合、繰り返して抽出を行うことが知られているが、本法におけるカロテノイド抽出方法を1サイクル行って得られるカロテノイドの量は、定法に従うカロテノイド抽出の1サイクル目の抽出で得られるカロテノイドの量と同等の量であった。
【0041】
[実施例5]回収溶媒を用いたアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドの製造1
実施例1と同様のE−396株の乾燥菌体13gに、実施例1の工程1で得られた留去液(エタノール)を200g加え、実施例1の工程1に準じたカロテノイドの抽出と菌体濾過を行い、抽出液300gを得た。この抽出液を実施例1の工程2に準じて減圧濃縮し、濃縮乾固物約2gを得た。この濃縮乾固物から実施例1の工程3に準じて沈殿物を濾取、洗浄および乾燥を行い、0.2gの乾燥物を得た。この乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイド含量は、それぞれ43%と86%であった
以上のことにより、回収されたエタノールの再利用はなんら支障がないことが確認できた。
【0042】
[実施例6]回収溶媒を用いたアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドの製造2
実施例1と同様のE−396株の乾燥菌体13gに、実施例1の工程1で得られた留去液(エタノール)を200g加え、実施例1の工程1に準じたカロテノイドの抽出と菌体濾過を行い、抽出液300gを得た。この抽出液を実施例1の工程2に準じて減圧濃縮し、濃縮乾固物約2gを得た。この濃縮乾固物に、実施例1の工程2から得られた回収エタノール20gを加えて懸濁し、濾過を行った。さらに、10gの水にて濾過物を洗浄した後、常温減圧乾燥を行い0.2gの沈殿物の乾燥物を得た。この乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイド含量は、それぞれ43%と86%であった。
以上のことにより、減圧留去で回収されたエタノールを用いても洗浄工程になんら支障がないことが確認できた。
【0043】
[食品例1]マーガリン
抗酸化剤及び着色剤として、実施例1で得たアスタキサンチン組成物を、マーガリンの5重量%になるように植物油に添加した後、乳化剤などと共に均一になるように攪拌し、通常の方法によりマーガリンを作成した。このマーガリンは、通常のマーガリンと比較して、アスタキサンチンの存在により、薄い赤色を呈していた。
【0044】
[食品例2]オリーブ油
実施例1で得たアスタキサンチン組成物を、オリーブ油の0.25重量%になるように添加した後、50℃にて攪拌して溶解させ、常温まで冷却した。このオリーブ油は、通常のオリーブ油と比較して、アスタキサンチンの存在により、濃い赤色を呈していた。またアスタキサンチン組成物の添加量を変更することで色の濃さは変化させることができた。さらに長時間放置しても一度溶解したアスタキサンチンは、析出しなかった。
【0045】
[製剤例1]アスタキサンチン含有錠剤
実施例1で得たカロテノイド含有組成物120重量部に対して結晶セルロース330重量部、カルメロース−カルシウム15重量部、ヒドロキシプロピルセルロース10重量部及び精製水60重量部を用いて通常の方法にて配合、乾燥した後、10重量部のステアリン酸マグネシウムを添加し、打錠を行い、1錠あたりカロテノイド含有組成物を20mg含有する100mgの錠剤を得た。
【0046】
[製剤例2]アスタキサンチン含有ソフトカプセル
実施例1で得たカロテノイド含有組成物1重量部に、5倍重量部の大豆油に懸濁し、均一になるように十分に混合した後、カプセル充填機にてカプセル充填し、内容物約300mgの赤褐色のカプセルを得た。
【0047】
[化粧品例1]アスタキサンチン含有クリーム剤(化粧品)
実施例1で得たアスタキサンチン含有組成物を、白色ワセリンに10重量%になるように添加し、芳香剤などと共に、均一になるように分散し、通常の方法によりクリーム剤を作製した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、天然物由来の高純度、安価かつ安全なカロテノイド高含有組成物及びその工業的な製造方法を提供することができ、その結果、該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0049】
配列番号1:未知生物(E−396)の説明

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール類との組み合わせを用いて抽出処理する工程を含むカロテノイド含有組成物の抽出方法。
【請求項2】
以下の1)〜4)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール類 との組み合わせを用いて抽出処理する工程
2)得られる抽出液から沈殿物を得る工程
3)沈殿物を低級アルコール類にて洗浄する工程
4)沈殿物をさらに水で洗浄する工程
【請求項3】
以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物を、80℃以上の低級アルコール類、又は80℃以上の水と低級アルコール 類との組み合わせを用いて抽出処理する工程
2)得られる抽出液から沈殿物を得る工程
3)沈殿物を低級アルコール類にて洗浄する工程
【請求項4】
低級アルコール類がエタノールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
カロテノイド含有組成物が、カロテノイドを80%以上含有する組成物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
カロテノイドが、アスタキサンチンを40%以上含有するカロテノイドである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
微生物の16SリボゾームRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列番号1に記載の塩基配列と実質的に相同のものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
微生物が、E−396株(FERM BP−4283)又はその変異株である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で得られる、カロテノイド含有組成物。
【請求項10】
カロテノイドがフリー体である、請求項9に記載のカロテノイド含有組成物。
【請求項11】
請求項9および10に記載のカロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品。

【公開番号】特開2009−50237(P2009−50237A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222476(P2007−222476)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】