説明

カロテノイド類の定量方法

【課題】柑橘系果実等に含まれるβ−クリプトキサンチンなどのカロテノイド類を、簡便かつ正確に定量する方法を提供する。
【解決手段】リコペンまたはレチナールといった内部標準を用いることにより、作業を容易にし、かつ、測定値の誤差を低減させ、また、サンプル調製時のケン化反応において脱水剤を添加することにより測定値のばらつきを低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド類の定量方法に関し、より詳細には、柑橘系果実や果汁含有飲料等に含まれるカロテノイド類を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、動植物界に広く分布している色素であり、イソプレンC58を構造単位とするテトラテルペン(C40)に分類される。カロテノイド類としては、例えば、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、リコペン、クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチン等が挙げられる。カロテノイド類の中には、動物体内においてビタミンAに変換されうる物質(プロビタミンA)が含まれ、また、高い抗酸化作用を有する物質も知られている。
【0003】
これらのカロテノイド類の中でも、温州ミカン、バレンシアオレンジなどの柑橘系果実やビワ、柿、桃、赤ピーマン、パパイヤなどに含まれるβ−クリプトキサンチンは、プロビタミンAとしての特性を備えているだけではなく、高い抗発ガン作用や抗酸化作用が存在することが明らかとされており、近年注目が集まっている。
【0004】
【化1】

【0005】
β−クリプトキサンチンは、光や熱により異性化(シス化)しやすく、また、酸化によりポリエンが切断するなど、光、熱、酸素の影響を受けやすい物質であり、果汁などに含まれるβ−クリプトキサンチン量を簡便かつ正確に測定する方法を検討した例はいまだ少ない。
【0006】
非特許文献1には、温州ミカン果汁中のβ−クリプトキサンチンの定量法が記載されている。非特許文献1に記載の方法は、詳細には、まず、果汁10gに1gのケイソウ土と10mlのエタノールを加えて撹拌し、ケイソウ土を薄く敷いたガラスフィルター上に注ぎ入れ、残渣の着色が無くなるまでエタノールで洗浄抽出する。次いで、得られたエタノール抽出液(約60ml)を分液漏斗に洗い移し、同量のエーテルと蒸留水とを加えて、気層を窒素ガスに置換したのち、振盪してカロテノイドをエーテルに分配する。このエーテル溶液を減圧下で濃縮し、等量の10%メタノール性KOH溶液を加えて20℃、暗所、窒素雰囲気下で1時間放置してケン化処理する。ケン化処理した溶液から不ケン化物をエーテルで分画し、アルカリが除去されるまで蒸留水で洗浄する。続いて無水硫酸ナトリウムで脱水し、窒素雰囲気下で溶媒を減圧留去したのち、移動相溶媒を加えて10mlに定容し、0.45μmのメンブランフィルターでろ過した溶液を、C30分析カラムを装着したHPLC装置で分析する。β−クリプトキサンチン標品を用いて同様に調製した試料により検量線を作成し、果汁中のβ−クリプトキサンチン量を定量する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】隅田孝司、外4名、「C30カラムによる温州ミカン果汁中のβ−クリプトキサンチン定量法」、日本食品科学工学会誌、1999年7月、第46巻、第7号、p.467−472
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の方法は、初めに精秤した温州ミカン果汁中に含まれるβ−クリプトキサンチンの全量を測定する方法であり、例えば、容器から容器へとサンプルを移動させる際などに元の容器に残量があると誤差の原因となる。この場合、一般的には何度も洗浄を繰り返すなどして、β−クリプトキサンチンの全量が回収されるように努めるが、その結果、サンプルの容積が増大し、濃縮に時間がかかるなどの問題が生じる。非特許文献1に記載の方法では、ガラスフィルター上の残渣の洗浄に使用したエタノールと同量のエーテル及び蒸留水を加えた後にエーテル溶液を減圧下で濃縮しており、洗浄に使用するエタノールの量が多ければ、濃縮時のエーテルの量も多くなるため濃縮に時間がかかる。また、エーテルは突沸や引火の恐れがあるため、操作の間中、目を離すことができず、作業に手間がかかる。また、操作時間が長くなると、測定対象物であるβ−クリプトキサンチンが光や酸素の影響を受けて劣化し、さらなる誤差につながる。
【0009】
本発明は、上記従来法の欠点を克服し、簡便であり、かつ、より正確な定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、果汁等の試料に内部標準物質を添加することにより、使用する溶媒の量を減らし、濃縮操作にかかる時間、手間、コストを削減し、さらに、測定値の誤差を減らすことができることを見出した。また、その際に用いる内部標準物質の種類について検討した。さらに、ケン化反応に先立ち、脱水剤を添加することにより、測定値のばらつきを軽減することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.試料中のβ−クリプトキサンチンの定量方法であって、
リコペンまたはレチナールから選択される内部標準物質を含有するジエチルエーテル溶液と、前記試料とを混合し、
ジエチルエーテル層を取り出し、
得られたジエチルエーテル層に脱水剤を加えて乾燥させ、
乾燥後、アルカリ溶液を加えてケン化反応を行い、
反応後、酸を加えて静置した後にジエチルエーテル層を取り出し、
得られたジエチルエーテル層を高速液体クロマトグラフィーに供して、内部標準法を用いてβ−クリプトキサンチンを定量する
ことを含む、方法。
2.内部標準物質が、レチナールである、上記1に記載の方法。
3.脱水剤が、硫酸ナトリウムである、上記1に記載の方法。
4.試料が、果汁又は野菜汁含有液体である、上記1〜3のいずれかに記載の方法。
5.果汁又は野菜汁含有液体が、柑橘系果実の果汁を含有する液体である、上記4に記載の方法。
6.果汁又は野菜汁含有液体が、果汁含有飲料である、上記4に記載の方法。
7.ケン化反応が、5〜60℃で暗所で1〜3時間行われる、上記1〜6のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、初めに試料と内部標準物質とを正確に測り取ることができれば、その後の操作ではそれほどの精密さは要求されず、作業に不慣れな者にとっても作業が比較的容易である。また、洗浄操作により多量に溶媒を使用することがないため溶媒のコストを低減でき、かつ濃縮操作も必要ない。また、サンプル調製時間が短縮されるため測定対象物の構造変化による誤差も減らすことができ、さらに、簡便な操作により測定値のばらつきも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】内部標準を用いた場合と用いない場合の検量線の比較である。
【図2】検出波長381nmおよび451nmにおけるβ−クリプトキサンチン、レチナール、及びリコペンのHPLCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法は、果汁等の試料と、内部標準物質を含有する有機溶媒の溶液とを混合し、有機溶媒層を取り出し、脱水剤を加えて乾燥させた後にアルカリ溶液を加えてケン化反応を行い、次いで酸を加えて静置して有機溶媒層を取り出して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量する方法である。
【0015】
本発明の方法は、特にβ−クリプトキサンチンの定量に適しているが、β−クリプトキサンチン以外のカロテノイド類の定量にも応用することができる。
(試料)
本発明の方法では、果汁、野菜汁、飲料等の試料に含まれるカロテノイド類を定量することができる。特に、β−クリプトキサンチンを多く含有する果実の果汁、特に柑橘系果実の果汁、または果汁含有液体を試料として好ましく用いることができる。β−クリプトキサンチンを多く含有する果実としては、温州ミカン、バレンシアオレンジなどの柑橘系果実や、ビワ、柿、桃、パパイヤなどの果実が挙げられる。また、赤ピーマンなどの野菜汁でもよい。これらの果実及び野菜を適宜洗浄し、インライン搾汁機、チョッパーパルパー搾汁機、ブラウン搾汁機などの一般に用いられる搾汁機を用いて搾汁し、必要に応じてろ過処理等を行なうことにより、果汁又は野菜汁試料として用いることができる。
【0016】
また、果汁又は野菜汁含有液体に慣用の添加物等を加えて飲料とした果汁又は野菜汁含有飲料や、β−クリプトキサンチンを外部から添加した飲料を試料として用いてもよい。これらの飲料には、水、アルコール、炭酸ガス等が含まれていてもよく、また、甘味料、着色料、増粘剤、安定剤、酸化防止剤、香料、酸味料、保存料、ゲル化剤、糊剤、乳化剤、pH調整剤などのような添加物が含まれていてもよい。
【0017】
また、ゼリーなどのような固形の食品であっても、公知の手法で液状化することにより、本発明の試料として用いることができる。
試料の粘度やBrix(糖度)が高く、サンプルの調製に不向きである場合には、慣用の方法で適宜希釈するなどして、試料としてもよい。
【0018】
(標準溶液と試料との混合)
本発明の方法では、まず、精秤した試料に、精秤した内部標準物質を含有する有機溶媒の溶液(標準溶液)を混合する。精秤は、ホールピペット等を用いることにより簡単に行うことができる。
【0019】
有機溶媒としては、ジエチルエーテル、石油エーテル、ノルマルへキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、酢酸エチルなどを用いることができる。中でも抽出効率の面からジエチルエーテルが好ましい。
【0020】
標準溶液に添加する内部標準物質としては、試料(果汁等)の中に同様の成分が含有されておらず、サンプル調製時に安定であり、溶出挙動、物性、特性などが測定対象物質(β−クリプトキサンチンなど)と大きく異ならず、HPLCの移動相に溶解し、HPLCによって測定対象物質と十分に分離されるものを用いることが好ましい。また、費用が安いものや、入手しやすいものは好ましい。具体的には、リコペン、レチナール、レチノール、デヒドロレチノール、α−カロテン、β−カロテン、カプサイシン、アスタキサンチン、フコキサンチンなどが挙げられ、中でもリコペンまたはレチナールが好ましく、特にレチナールが好ましい。レチナールは、HPLC測定において保持時間が短いため、測定時間を短縮することができ、さらに、リコペンに比べてピークがシャープであるため、ピーク面積算出時の誤差が少なくなり、測定値のばらつきや誤差を低減することができる。また、レチナールはリコペンに比べて低コストで入手することができる。
【0021】
標準溶液は、内部標準物質を正確に測り取り、有機溶媒(例えばジエチルエーテル)を加え、超音波下などで十分に溶解させ、残りの溶媒を一定容量までメスアップすることにより調製することができる。標準溶液中の内部標準物質の濃度は特に限定されないが、通常、1〜100μg/ml程度、好ましくは20〜40μg/ml程度である。
【0022】
試料と標準溶液との混合比は、試料の種類などに応じて後のHPLC測定において内部標準物質を検出できるように適宜設定すればよいが、通常、試料:標準溶液=1:3〜1:1(容量比)程度である。
【0023】
試料と標準溶液との混合は、測定対象物質(β−クリプトキサンチン等)の酸化による劣化を防ぐために、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。具体的には、ふた付の容器を用いて、容器中のヘッドスペースの気体を窒素ガス等の不活性気体に置換することが好ましい。
【0024】
試料と標準溶液とを混合すると、液−液分配が起こり、測定対象物のカロテノイドが有機溶媒層(例えばジエチルエーテル層)に抽出される。続いて、遠心分離(1000〜5000rpm、3〜20分間程度)などにより有機溶媒層を分離させ、一定容量取り出す。取り出した有機溶媒層は、続くケン化反応に供される。ケン化反応に供する有機溶媒層の量は、特に限定されないが、通常、1〜3ml程度でよい。
【0025】
(ケン化反応)
続いて、得られた有機溶媒層にアルカリ金属の水酸化物の有機溶媒性溶液を加えてケン化反応を行わせるが、その際、本発明の方法では、アルカリの添加に先立ち、有機溶媒層に脱水剤を加えて、脱水乾燥させる。本発明者らは、ケン化に先立ち脱水剤を加えることで、後のHPLCによる測定値のばらつきを抑えることができることを見出した。脱水剤としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、モレキュラーシーブスなどを用いることができ、特に硫酸ナトリウムが好ましい。
【0026】
有機溶媒層への脱水剤の添加割合は、特に限定されないが、1mlの有機溶媒層に対し、脱水剤を0.025〜0.25g程度、好ましくは0.10〜0.15g程度である。有機溶媒層に脱水剤を加えて、撹拌、静置し、3〜10分程度おくことにより、有機溶媒層を脱水、乾燥させることができる。
【0027】
乾燥後、有機溶媒層にアルカリ溶液を加えて、ケン化反応を行わせる。添加するアルカリ溶液の種類は、ケン化反応に一般に用いられるものであればよく、例えば、メタノール性水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。
【0028】
ケン化反応の条件は、特に限定されないが、β−クリプトキサンチンは光の影響を受けて異性化するため、反応は暗所で行うことが好ましい。反応温度は特に限定されず、一般的には5〜60℃程度で行うことができる。しかし、β−クリプトキサンチンは熱により異性化する傾向があるから、室温程度、例えば15〜30℃程度で行うことがより好ましい。また、β−クリプトキサンチンは酸化により分解するため、窒素ガス等の不活性雰囲気下で反応させることが好ましい。また、反応時間が短すぎるとケン化が十分に進行せず、長すぎると異性化や分解が起こる可能性があるから、反応時間は1〜3時間程度が好ましく、1〜2時間程度がより好ましく、1時間程度が最も好ましい。
【0029】
ケン化反応後、酸を加えて撹拌した後、静置することにより、測定対象物質のカロテノイド類を有機溶媒層に移行させる。この際用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。次いで有機溶媒層を取り出し、0.45μmメンブランフィルターなどの慣用のフィルターでろ過して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供する。
【0030】
(HPLCによる分析及び定量)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析は、カロテノイド類の測定に通常用いられる公知の手法を用いることができる。カラムは、カロテノイド類の測定に慣用されるC30カラム等を用いることができる。検出は、紫外吸光度検出器を用いることができる。得られた測定対象物質の測定値と、別に作成した検量線とを用い、公知の手法で内部標準補正することにより、試料中の測定対象物質を定量することができる。
【0031】
本発明によれば、内部標準物質を用いることにより、操作の精密さがそれほど要求されず、操作に不慣れな者にとっても作業が比較的容易となり、煩雑な操作に伴う測定値の不正確さを低減させることができる。また、洗浄に用いる溶媒のコストを削減でき、かつ、濃縮にかかる時間や器具等のコストも削減できる。さらに、サンプル調製時間が短縮されたことにより、測定対象物質の異性化や分解などの構造変化を抑えることができ、測定値の誤差を低減させることができる。また、ケン化反応の前に脱水剤を添加することにより、測定値のばらつきを抑えることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[β−クリプトキサンチン定量手順]
(内部標準物質含有標準溶液の作成)
内部標準物質2.0mgを少量のジエチルエーテルに超音波下で溶解させ、フィルター(0.45μm、4mmφ)に通し、ジエチルエーテルで100mlにメスアップする。
【0033】
(HPLC分析用サンプルの作成)
試料液4.0mlと、上で作成した標準溶液4.0mlとをスクリュー付試験管に入れ、ヘッドスペースの気体を窒素ガスに置換して栓をする。液−液分配の後、2000rpm、5分の条件で遠心分離する。ジエチルエーテル層3.0mlを取り、別のスクリュー付試験管に入れ、ここに無水硫酸ナトリウム(約0.5g)を加えて乾燥させる。乾燥後、10%メタノール性水酸化カリウム0.5mlを加え、ヘッドスペースの気体を窒素ガスに置換して栓をした後、暗所、室温にて1時間静置する。次いで、1M塩酸1.0mlを加え、試験管ミキサーを用いてよく撹拌する。5分間静置した後、ジエチルエーテル層をフィルター(0.45μm、4mmφ)で濾過して、HPLC分析用サンプルとする。
【0034】
(HPLCによる分析)
以下の条件でHPLC測定を行う。
カラム:YMC CarotenoidC30(4.6φ × 250mm、5μm、ワイエムシィ株式会社製)
検出:451nm(β−クリプトキサンチン、リコペン)、381nm(レチナール)
カラム温度:40℃
移動相A:酢酸アンモニウム1.0gにメタノールを加え1000mlにメスアップしたもの
移動相B:酢酸アンモニウム1.0gにメタノールとt−ブチル−メチルエーテル(1:1の混液)を加え1000mlにメスアップしたもの
グラジエント:移動相B 0%−0%−100%−100%(0min−2min−8min−20min)
流速:1.5ml/min
サンプル注入量:10μl。
【0035】
(β−クリプトキサンチン濃度の算出)
β−クリプトキサンチン標品(四国八州薬品株式会社製)を濃度5〜50μg/mlになるように標準溶液に溶解させ、各濃度3点以上で定量し、検量線を作成する。検量線により得られたβ−クリプトキサンチン濃度を、次の式により補正する。
β−クリプトキサンチン濃度 = Con ×(At1/At2
Con:検量線によって導き出されたβ−クリプトキサンチンの濃度(μg/ml)
At1:標準溶液の内部標準のピークエリア
At2:サンプル中の内部標準のピークエリア。
【実施例1】
【0036】
[内部標準の有無の比較]
内部標準としてリコペンを用い、上記の方法に基づいて作成したβ−クリプトキサンチンの検量線と、内部標準を用いないで作成した検量線とを比較した。結果を図1に示す。
【実施例2】
【0037】
[内部標準物質の検討]
上述した定量手順に基づき、6種の温州ミカン果汁飲料(温州ミカン濃縮果汁7%、香料0.3%、酸化防止剤0.02%、着色料0.01%)についてβ−クリプトキサンチンの定量を行った。内部標準にはリコペンまたはレチナールを用いた。各試料につき3回の測定を行い、測定値のばらつき(標準偏差)を求めた。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より、内部標準としてリコペンを用いるよりも、レチナールを用いる方が、全体的にばらつきが小さい傾向がうかがえた。これは、リコペンのピークがレチナールのピークに比べてブロードであるために、ピーク面積算出時に誤差が出やすいためと推測される(レチナール、β−クリプトキサンチン、及びリコペン含有試料の検出波長381nmおよび451nmにおけるクロマトグラムを図2に示す)。また、リコペンよりもレチナールの方が保持時間が短いため、測定時間を短縮することができた。
【0040】
また、内部標準としてリコペンを用いる場合よりも、レチナールを用いる方が、全体的に測定値が高く算出される傾向がうかがえた。
【比較例1】
【0041】
[硫酸ナトリウムの効果]
ケン化反応の前に硫酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例2と同様にして、β−クリプトキサンチンの定量を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
ケン化反応の前に硫酸ナトリウムを添加した場合(表1)は、添加しない場合(表2)と比べて、全体的にばらつきが小さくなった。ケン化時に硫酸ナトリウムを加えることで、β−クリプトキサンチンを再現性よく定量できることが示された。
【実施例3】
【0044】
[ケン化反応時間の検討]
上述した定量手順に基づき、温州ミカン果汁飲料(温州ミカン濃縮果汁7%)について、ケン化反応時間を5分、10分、30分、60分、及び120分とした場合のβ−クリプトキサンチン濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
β−クリプトキサンチン濃度は、60分の反応時間で最高値となった。これにより、ケン化反応時間は、60分以上が好ましいことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のβ−クリプトキサンチンの定量方法であって、
リコペンまたはレチナールから選択される内部標準物質を含有するジエチルエーテル溶液と、前記試料とを混合し、
ジエチルエーテル層を取り出し、
得られたジエチルエーテル層に脱水剤を加えて乾燥させ、
乾燥後、アルカリ溶液を加えてケン化反応を行い、
反応後、酸を加えて静置した後にジエチルエーテル層を取り出し、
得られたジエチルエーテル層を高速液体クロマトグラフィーに供して、内部標準法を用いてβ−クリプトキサンチンを定量する
ことを含む、方法。
【請求項2】
内部標準物質がレチナールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱水剤が硫酸ナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試料が、果汁又は野菜汁含有液体である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
果汁又は野菜汁含有液体が、柑橘系果実の果汁を含有する液体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
果汁又は野菜汁含有液体が、果汁含有飲料である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ケン化反応が、5〜60℃で暗所で1〜3時間行われる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−127905(P2011−127905A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283734(P2009−283734)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)