説明

カンキツグリーニング病の検出方法、および検出キット

【課題】本発明は、早期かつ正確にカンキツグリーニング病(CG病)を検出することができる方法、CG病を簡便に検出するためのCG病検出キット、およびCG病の検出に用いられる鉄濃度測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のCG病の検出方法は、CG病に罹ったカンキツ類等の樹木の葉部に含まれる鉄およびマンガンの濃度が、健全樹木のそれに比して有意に減少するという新規知見に基づくものであり、被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する「測定工程」を包含する。また当該CG病の検出方法は、被検定樹から抽出液を取得する「抽出工程」、および上記測定工程において測定された被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度とを比較する「比較工程」を包含してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度測定し、当該いずれかの濃度の低下を指標として、カンキツグリーニング病を検出する方法、およびカンキツグリーニング病検出キット、並びに当該カンキツグリーニング病の検出に用いる鉄濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カンキツグリーニング病(以下、適宜「CG病」という。)は、グラム陰性細菌であるLiberobacter asiaticum (L. asiaticum)またはLiberobacter africanum (L.africanum)がカンキツ類等の樹木に感染して起こる植物病である。その発生源は中国であるとされており、インド、アジア、インドネシアやフィリピンを含む東南アジア、アフリカ、アラビア半島において発生し、その猛威をふるっている。CG病はカンキツ類の難防除病害とされ、わが国では1986年に西表島、1994年に沖縄本島において発見された(非特許文献7)。
【0003】
当該CG病に罹ったカンキツ類の果実は小さく、また熟しているにもかかわらず、その大部分が緑色のままであり、さらにその味も相当苦いものである。よって、CG病に罹ったカンキツ類の果実の商品価値は、ほとんどないといえる。また、CG病に罹った樹木は落葉し、やがて枯死する。よって当該CG病は、園芸農業に対して大打撃をもたらす深刻な病害であるといえる。なおCG病は、カンキツキジラミ(Diaphorina citri、および Trizoa erytreae)が媒介して感染するということが知られており、その感染力は高い。またCG病に罹ったカンキツ類等の樹木は、根からの亜鉛吸収が阻害され、亜鉛欠乏を起こすということが知られている。なお上記CG病については、例えば、非特許文献1、2、3、4等に開示されている。
【0004】
現段階のCG病に対する対処方法としては、罹病樹の早期発見および伐採、媒介虫であるカンキツキジラミの防除を行なうことが最善策とされている。CG病の検出方法としては、例えばわが国ではカンキツ葉部等の樹木の観察および接木による検出方法(例えば、非特許文献8〜10参照)、罹病中に存在する蛍光物質をマーカーとして検出する方法およびその簡易検出法(非特許文献5、非特許文献11〜15参照)、モノクローナル抗体による検出(非特許文献6、非特許文献16〜18参照)、DNAプローブによるサザンハイブリダイゼーションおよびドットハイブリダイゼーション検出方法(非特許文献19〜21参照)、PCR法による検出方法(非特許文献22〜26参照)、電子顕微鏡による病原体そのものを観察する方法および光学顕微鏡により罹病葉師管部異常形態を観察する方法(非特許文献27〜31参照)、またその他の方法としてヨウ素・デンプン反応を利用した検出方法(特許文献1参照)も考案されている。
【非特許文献1】James Planck, ”Citrus Greening (Huanglongbing) Watch out for this exotic disease”, September 1999, http://www.dpi.qld.gov.au/health/5639.html,(2004年2月16日検索)
【非特許文献2】Joseph L. Knapp, Susan Halbert, Richard Lee, Marjorie Hoy, Richard Clark and Michael Kesinger, “The Asian Citrus Psyllid and Citrus Greening Disease” January 9, 2004, http://ipm.ifas.ufi.edu/agricultural/fruit/citrus/ASP-hoy.htm, (2004年2月16日検索)
【非特許文献3】J. V. da Graca, “CITRUS GREENIG DISEASE” Annu. Rev. Phytopathol. 1991. 29: 109-36
【非特許文献4】FFTC NEWSLETTER 2000/128, “Micronutrients in crop production” June 2000
【非特許文献5】Schwarz, R. E. 1968. Indexing of greening and exocortis through fluorescent marker substances. Proc. Conf. Int. org. Citrus Virol., 4th pp. 118-24
【非特許文献6】Garnier, M., Martin-Gros, G., Bove, J. M. 1987. Monoclonal antibodies against the bacterial-link organism associated with citrus greening disease. Ann. Inst. Pasteur/ Microbiol. 138: 639-50
【非特許文献7】Kawano, S., Ctrus greening control project in Okinawa, Japan, Extension Bulletin- ASPAC, Food & Fertilizer Technology Center, Food and Fertilizer Technology Center for the Asian and Pacific Region, Taipei, Taiwan: 1998, 459, 7-10, 10 ref.
【非特許文献8】Tsunekuni Miyakawa, Experimentally-induced Symptoms and Host range of Ctirus Likubin (Greening Dsiease), Ann. Phytopath, Sco, Japan 46, 224-230, 1980
【非特許文献9】加納健、果樹ウイルス病の診断方の実際(1)カンキツウイルス病の検定方法(1)、植物防疫 第43巻 第3号、37−41、
【非特許文献10】加納健、果樹ウイルス病の診断方の実際(2)カンキツウイルス病の検定方法(2)、植物防疫 第43巻 第6号、54−58
【非特許文献11】Shama, R. C., Bakhshi, J. C., Jeyarajan, R. Periodic Changes in the concentration of fluorescent marker substance in relation to leaf chlorisis of swee-orange, Indian Jaournal of Agricultural Sciences, 1974, 44, 1, 18-21
【非特許文献12】Sniassy, N., Lallmahomed, G.M. Confirmation of the citrus greening diseases in Mauritlus by identification of the marker substance gentiosyl glucose. Revue Agricole et Sucriere de I’Iie Maurice, 1972, 51, 3, 198-200
【非特許文献13】Vuuren, S. P. van, Comparison of thin layer chromatographic methods for indexing citrus greening disease. Phytophylactica. 1977, 9, 4, 91-94..
【非特許文献14】Cheema, S. S., Dhillon, R. S., Kapur, S. P. Flowers as source material in chromatographic detection of citrus greening disease. Current Science, 1982, 51, 5, 241
【非特許文献15】Hooker, M. E., Lee, R. F., Civerolo E. L., Wang, S. Y. Reliability of gentisic acid, a fluorescent marker, for diagnosis of citrus greening disease. Plant Disease, 1993, 77, 2, 174-180.
【非特許文献16】Nariani, T.K., Ghosh,S. K., Kumar, D., Raychaudhuri, S. P., viswanath, S.M. Detectio of possibilities of therapeutic control of the greening disease of citrus caused by mycoplasma. Proceedings of the Indian National Science Academy. B. 1975, 41, 4, 334-339
【非特許文献17】Garnier,M.,Martin−Gros,G.,Iskra,M.L.,Zreik,L.,Gandar,J.,Fos,A.,Bove,J.M.Monoclonal antibodies against the MLOs associated with tomato stolbur and clover phyllody. Recent advances in mycoplasmology. Proceedings of the 7th congress of the International Organization for Mycoplasmology, Baden near Vienna, 1988.
【非特許文献18】Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, Germany; 1990, 263-269
【非特許文献19】Villechanoux, S., Garnier, M., Renaudin, J., Bove, M. Detection of several strains of the bacterium-like organism of citrus greening disease by DNA probes. Current Microbiology, 1992, 24, 2, 89-95
【非特許文献20】HungTingHsuan,WuMengLing,SuHongJi. Detection of fastidious bacteria causing citrus greening disease by non-radioactive DNA proves. Annals of the Phytopathological Sciety of Japan. 1999, 65, 2, 140-146
【非特許文献21】Hung. T. H., Wu. M. L., Su. H. J. Identification of alternative hosts of the fastidious bacterium causing citrus greening disease. Journal of Phytopathology, 2000, 148, 6, 321-326
【非特許文献22】Jagoueix, S., Bove, J.M., Garnier, M. The phloem-limited bacterium of greening disease of citrus is a member of the alpha subdivision of the Proteobacteria. International Journal of Systematic Bacteriology. 1994, 44, 3, 379-386
【非特許文献23】Sandrine Jagoueix, Joseph M. Bove, and Monique Garnier. Comparison of the 16S/23S Ribosomal Intergenic Regions of “Candidatus Liberobacter asiaticum” and “Candidatus Liberobacter africanum,” the two Species Associated with Citrus Huanglongbing (Greening) Disease. International Fournal of Systematic Bacteriology, 1997, 224-227
【非特許文献24】Agnes Hocquellet, Joseph M. Bove, Monique Garnier. Isolation of DNA from the uncultured “Candidatus Liberobacter” Species Associated with citrus Huanglongbing by RAPD. Current Microbiology 38, 176-182
【非特許文献25】HungTingHsuan,WuMengLing,SuHongJi. Detection of fastidious bacteria causing citrus greening disease by non-radioactive DNA proves. Annals of the Phytopathological Sciety of Japan. 1999, 65, 2, 140-146, 15ref
【非特許文献26】Hung. T. H., Wu M. L., Su. H. J. Development of a rapid method for the diagnosis of citrus greening disease using the polymerase chain reaction. Journal of Phytopathology, 199, 147, 10, 599-604, 13 ref
【非特許文献27】Tanaka, s., Doi, Y. Studies on mycoplasma-like organisms suspected cause of citrus likubin and leaf-mottling. Bulletin of the Faculty of Agriculture, Tamagawa University, 1974, 14, 64-70
【非特許文献28】Garnier, M., Bove, J. M. Trilamella structure of two membranes surrounding prokaryotic organisms associated with citrus greening disease. Fruits. 1977. 32, 12, 749-752, 10 ref
【非特許文献29】Aubert. B., Bove, J. M., Etienne. J. Control of citrus greening disease in Reunion. Results and prospects. Fruits. 1980, 35, 10, 605-624. 78ref
【非特許文献30】Garnier, M., Bove, J. M. Tranmission of the organisms associated with citrus greening disease from sweet orange to periwinkle by dodder. Phytopathology, 1983, 73, 10, 1358-1363
【非特許文献31】Akhtar, M. A Ahmad, I. Incidence of citrus greening disease in Pakistan. Pakistan Journal of Phytopathology. 1999, 11, 1, 1-5
【特許文献1】特開2004−264101号公報(公開日:平成16年9月24日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のごとく、CG病はカンキツ類等の樹木にとって深刻な病害であり、その被害を最小限に抑えるためには罹病樹をできるだけ早期に発見することが重要である。したがってCG病の早期検出方法が求められている。また園芸農家がその検出を独自に行なう場合が多いため、CG病の検出方法としては、熟練した技術、および複雑な機器を必要としない簡便な検出方法が求められる。
【0006】
しかしCG病の検出方法としては、上述の方法を始めとして種々考案されているが、いずれにおいても満足のいくものとはなっていなかった。例えば、樹木の観察による検出方法では、実際に症状が現れるまで正確な判断することができず、早期検出を行なうことができない。また、早期検出可能な方法としては、上記蛍光物質をマーカーとして検出する方法(非特許文献15)、DNAプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションおよびドットハイブリダイゼーション検出方法(非特許文献19〜21)、PCR法による検出方法(非特許文献22、23、24、25、26)等がある。しかし、蛍光物質をマーカーにする方法(非特許文献15)や特許文献1に記載された方法では複雑な機器を必要としないが、正確性においてPCR技術に劣るという欠点を有している。現在、植物防疫所におけるCG病の診断には、PCR法が利用されているが、この手法はサーマルサイクラーなどの検出機器、高額な反応試薬や発色試薬、ある程度の検出技術が必要なことから、簡便・安価な迅速・高感度検出法として広く民間で利用されるに至っていない。
【0007】
そこで本発明は、早期かつ正確にCG病を検出することができる方法、CG病を簡便に検出するためのCG病検出キット、およびCG病の検出に用いる鉄濃度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、PCR法によってカンキツグリーニング病に罹ったと診断されたカンキツ類樹木の葉部に含まれる鉄およびマンガンの濃度が、健全樹木のそれに比して有意に減少していることを発見し、本発明を完成するに至った。なお、カンキツグリーニング病と亜鉛欠乏との関連については、非特許文献1および4等において開示されているが、カンキツグリーニング病と、鉄欠乏またはマンガン欠乏との関連に関してはこれまでに報告されていない。したがって本発明は、本発明者らが見出した上記新規知見に基づき完成されたものであるといえる。
【0009】
すなわち本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する測定工程を包含することを特徴としている。
【0010】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、上記測定工程は、被検定樹の葉部に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する工程であってもよい。
【0011】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、上記鉄およびマンガンが、それぞれ水溶性鉄および水溶性マンガンであってもよい。
【0012】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、上記測定工程において測定された被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度とを比較する比較工程をさらに包含する方法であってもよい。
【0013】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、被検定樹から抽出液を取得する抽出工程をさらに包含する方法であってもよい。
【0014】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、上記抽出工程は、被検定樹の葉部から抽出液を取得する工程であってもよい。
【0015】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、上記抽出工程は、水また緩衝液を用いて被検定樹から抽出液を取得する工程であってもよい。
【0016】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法は、上記課題を解決するために、上記抽出工程は、リン酸緩衝液、2-morpolinoethanesulfonic acid緩衝液(MES緩衝液)、またはHomopiperazin-N,N'-bis-2-(ethansulfonsyre)緩衝液(HOMOPIPES緩衝液)を用いて被検定樹から抽出液を取得する工程であってもよい。
【0017】
一方、本発明にかかるカンキツグリーニング病検出キットは、上記課題を解決するために、鉄濃度測定手段およびマンガン濃度測定手段の一方または双方を備えることを特徴としている。
【0018】
また本発明にかかるカンキツリーニング病の検出キットは、被検定樹から抽出液を取得するための抽出手段をさらに備えるものであってもよい。
【0019】
一方、本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出に用いられる鉄濃度測定装置は、上記課題を解決するために、被検液が注入されるセル部、被検液の吸光度を測定する吸光度測定部、および鉄濃度測定用試薬と被検液とがその内部において反応する反応容器を備えることを特徴としている。
【0020】
また、本発明にかかる鉄含有植物の含有鉄分の濃度測定装置は、上記課題を解決するために、被検液が注入されるセル部、被検液の吸光度を測定する吸光度測定部、および鉄濃度測定用試薬と被検液とがその内部において反応する反応容器を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法によれば、被検定樹中に含まれる鉄、マンガンの濃度を測定するだけで早期かつ正確にカンキツグリーニング病を検出することができる。また本発明にかかる方法は、現場において行ない得る簡便な方法である。それゆえ、カンキツグリーニング病に罹った樹木を伐採すること等の処置を早期に施すことによりカンキツグリーニング病の伝播を防止し、甚大な被害を未然に防ぐことができるという効果を奏する。
【0022】
また本発明にかかるカンキツグリーニング病検出キットによれば、園芸農家において早期、正確かつ簡便にカンキツグリーニング病を検出することができる。よってカンキツグリーニング病による甚大な被害を未然に防止することができるという効果を奏する。
【0023】
さらには、本発明にかかる鉄濃度測定装置によれば、特に複雑な機器を導入することなく、かつ簡便にカンキツグリーニング病を検出することができる。よってカンキツグリーニング病による甚大な被害を未然に防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
(1.本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法)
本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法(以下、適宜「本発明の検出方法」という。)は、被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する「測定工程」を包含することを特徴としている。また本発明の検出方法は、被検定樹から抽出液を取得する「抽出工程」をさらに包含する方法であってもよく、さらには上記測定工程において測定された被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、を比較する「比較工程」を包含する方法であってもよい。
【0026】
本発明の検出方法は、上記「測定工程」、「抽出工程」、「比較工程」全てが含まれている必要はないが、以下の説明においては、上記全ての工程を含んだ方法について説明する。なお上記全ての工程を含む本発明の検出方法は、「抽出工程」→「測定工程」→「比較工程」の順で実施される。以下、各工程を実施の順序に従って説明する。
【0027】
(1−1.抽出工程)
当該抽出工程は、被検定樹から抽出液を取得する工程である。
【0028】
ここで「被検定樹」とは、本発明にかかる検出方法によりCG病に罹っているか否かを検出する対象樹木のことである。かかる被検定樹としては、CG病に罹病する樹木(CG罹病性樹)であれば特に限定されるものではない。CG病はミカン亜科に分類される樹木に感染するといわれており、例えばミカン亜科に分類される樹木が上記被検定樹となる。ミカン亜科に属する樹木としては、例えばカンキツ類(真正カンキツ類)等が挙げられる。またカンキツ類としては、例えば温州ミカン,タンカン,シークワーシャー,レモン,ザボン,キンコウジ,ライム,ユズ,ポンカン等を始めとするカンキツ属、豆キンカン,長キンカン,長寿キンカン等を始めとするキンカン属、カラタチ,トゲナシカラタチ,ヒリュウ,ウンリュウ等を始めとするカラタチ属、エレモシトラス属、クリメリア属、およびミクロシトラス属等が挙げられる。
【0029】
上記被検定樹から抽出液を取得する方法については、特に限定されるものではなく、例えば、被検定樹(例えば葉部)を破砕して水、または緩衝液で抽出してもよい(水系抽出)。また、被検定樹(例えば葉部)を硝酸−過塩素酸分解、あるいは硫酸によって加熱酸分解を行なって抽出液を調製してもよい(酸分解)。また、被検定樹(例えば葉部)を450−500℃で灰化を行ない、希硝酸に溶解して抽出液としてもよい。また被検定樹(例えば葉部)を圧搾して抽出液を調製し取得してもよい(圧搾抽出)。
【0030】
<水系抽出>
水系抽出は、例えば以下の通りにして行なうことができる。まず被検定樹の破砕を行なう。破砕は、被検定樹(例えば葉部)を乳鉢および乳棒(より好ましくはステンレス製または、めのう製乳鉢および乳棒)を用いて破砕してもよいし、公知のミキサーを用いて破砕してもよい。なお当該破砕は抽出工程において必須ではないが、抽出効率を向上させるために破砕を行なうことが好ましい。
【0031】
次に上記破砕物から抽出液を調製する。抽出液の調製は、例えば、被検定樹の破砕物を水または緩衝液で懸濁後、当該懸濁液をろ過または遠心分離等で固液分離することによって、抽出液を取得することができる。なお上記操作のうち、ろ過、遠心分離等の固液分離は必須の操作ではないが、後に行なう測定工程(例えば吸光度を測定する場合、機器分析を行なう場合)においては、固体成分が除かれている必要があるために当該固液分離を行なうことが好ましい。
【0032】
ここで抽出に用いる水は、水道水であってもよいが、後に行なう測定工程において抽出液中の鉄またはマンガンを測定するため、できるだけ鉄、マンガン等の微量元素を含まない水であることが好ましい。したがって蒸留水あるいはイオン交換水が好適である。
【0033】
一方、抽出に用いる緩衝液は、抽出液の安定性が高いという理由から被検定樹の生体内pH付近、すなわちpH5.8〜6.2、より好ましくはpH6.0〜6.1が緩衝域である緩衝液を適宜選択の上、採用すればよい。かかる緩衝液としては、Homopiperazin-N,N'-bis-2-(ethansulfonsyre)緩衝液(HOMOPIPES緩衝液)、2-morpolinoethanesulfonic acid緩衝液(MES緩衝液)を始めとする各種Good’s buffer、あるいはリン酸緩衝液、等が利用可能である。上記Good’s bufferは、安定性が高く、抽出効率が高いために好ましい。また本発明者らの検討結果によれば、リン酸緩衝液は、Good’s bufferと同等の抽出効率を示し、さらに抽出液の安定性、また抽出液の着色度については、上記Good’s bufferのそれを上回るものであった。よってリン酸緩衝液は特に好ましいといえる。加えてリン酸緩衝液は、Good’s bufferに比して安価であるためにコスト面においても優れている。
【0034】
上記緩衝液の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1mM程度が好ましい。上記1mM程度の濃度であれば、抽出効率を下げることなく、十分な緩衝作用が得られることとなる。なお緩衝液の濃度が濃くなればなるほど、水溶成分以外のイオン交換性の成分が溶出されてくるためなるべく緩衝液の濃度は薄いほうがよい。
【0035】
また抽出温度については、特に限定されるものではなく、通常室温で行なえばよい。一般に抽出温度が高温であるほど抽出効率が上がるとされ、高温で抽出することが好ましいが、室温以上となると別途加熱手段が必要となること、および操作が増加すること等のデメリットがあるため、本発明の検出方法においては室温で抽出を行なえばよいといえる。また植物が最も利用し易い形態の元素(水溶性鉄、水溶性マンガン、水溶性亜鉛等)を抽出し、その濃度を分析するためには、植物が生活している温度、すなわち室温で抽出を行なうことが好ましい。
【0036】
なお上記水系抽出によって得られる抽出液は、被検定樹に含まれる水溶性成分(例えば水溶性鉄、水溶性マンガン、水溶性亜鉛等)である。
【0037】
<酸分解>
酸分解は、被検定樹(例えば葉部)および酸溶液を適当な容器に入れて加熱することにより行なうことができる。かかる酸分解により得られた被検定樹の分解物を抽出液とすればよい。
【0038】
ここで上記酸溶液は、被検定樹を分解することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、硝酸−過塩素酸分解は、以下のようにして行なう。まず被検定樹(例えば葉部)を70℃から80℃で乾燥後に、60%(v/v)程度の硝酸を加えて加熱する。加熱は、試料が溶解して透明になるまで継続する。加熱後、試料を一旦冷却する。その後、60%(v/v)程度の過塩素酸を、試料に加えて硝酸の時と同様に加熱する。発煙が生じた時点で分解終了とする。
【0039】
また硫酸による加熱分解では、乾燥した被検定樹(例えば葉部)に、95%(v/v)程度の硫酸を加えて加熱すればよい。また適宜、少量の過酸化水素水を加えて加熱分解してもよい。
【0040】
なお分解終了後の試料は、加水して定容(メスアップ)することが好ましい。当該試料を原子吸光法で分析する際には、過塩素酸濃度が0.1%(v/v)以下になるまで加水を行なうことが好ましい(江副優香、高津章子、黒岩貴芳、恵山栄、内海昭「黒鉛炉原子吸光法による魚試料中の微量アルミニウムの定量」BUNSEKI KAGAKU, 48, 1013-1018, 1999.参照)。
【0041】
また上記加熱は、被検定樹が分解されるように加熱すれば良く、例えば被検定樹(例えば葉部)および酸溶液を仕込んだ容器をコンロにかけることによって行なうことができる。なおこの時、撹拌操作を適宜行なうことが好ましい。被検定樹の分解効率が上がるためである。
【0042】
被検定樹の分解物は、ろ過または遠心分離により固液分離を行なうことが好ましい。後に行なう測定工程(例えば吸光度を測定する場合、機器分析を行なう場合)においては、固体成分が除かれている必要があるからである。また被検定樹の分解物は、後に行なう測定工程(例えば吸光度を測定する場合、機器分析を行なう場合)を行なうために、適宜pH調整を行なってもよい。また抽出液に沈殿が生じた場合は、加熱して沈殿を溶解することが好ましい。
【0043】
なお上記酸分解によって得られる抽出液は、既述の「水系抽出」により得られるものと異なり被検定樹に含まれる水溶性成分(例えば水溶性鉄、水溶性マンガン、水溶性亜鉛等)以外の成分をも含んでいる。
【0044】
<圧搾抽出>
かかる圧搾抽出は、被検定樹(例えば葉部)を公知の圧搾器に仕込み、圧搾すればよい。この時得られる圧搾液が抽出液である。
【0045】
なお当該抽出工程において、抽出液を取得する被検定樹の部位は、特に限定されるものではなく、維管束から抽出すればよい。ただし抽出液の調製がし易いこと、採取が容易であること等の理由から葉部、新梢、果実が好ましい。
【0046】
また、後に行なう測定工程における測定値のバラツキを抑え、CG病の検出精度を上げるためには、抽出液を調製する被検定樹の部位を1つの部位に決定しておくことが好ましい。具体例としては、本発明の検定方法を行なう場合は、常に葉部から抽出液を調製することとが挙げられる。被検定樹の部位間で、含有成分・含有濃度等が異なっているため、任意の複数の部位から調製した抽出液に含まれる鉄、マンガンを測定すれば、その測定値にバラツキが生じてしまう可能性が高い。さらには、測定値間のバラツキを抑えるという理由から抽出条件、抽出方法についても、一定にしておくことが好ましい。
【0047】
(1−2.測定工程)
本発明者らは、CG病に罹った樹木中に含まれる鉄およびマンガンの濃度が健全樹木(CG病に罹っていない樹木)のそれに比して有意に減少していることを発見した。当該測定工程では、CG病のマーカーとなる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する工程である。当該測定工程では、鉄またはマンガンのいずれかを測定すればよいが、CG病の検出精度が上がるという理由から、両者を測定することが好ましいといえる。
【0048】
<鉄濃度の測定>
被検定樹に含まれる鉄濃度の測定法は、特に限定されるものではなく、公知の測定法を適宜選択の上、採用すればよい。例えば、原子吸光法、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)、蛍光X線回析法等の機器分析法が挙げられる。この他、バソフェナントロリン法、オルトフェナントロリン法等の発色定量法も適用できる。ただし、前者の機器分析法は、分析機器の操作が必要であり、かつ機器が高価であるために後者の発色定量法が好ましいといえる。発色定量法であれば、園芸農家の従事者自身が測定工程を行なうことができ、その結果CG病の検出を簡便かつ早期に行なうことができる。また当該発色定量法であれば、所謂「鉄定量キット」が市販されており、当該キットを適宜選択の上、適用すればよい。例えば、パックテスト(登録商標;株式会社共立理化学研究所)、エフイーテストワコー(和光純薬工業株式会社製)、Fe Bテストワコー(和光純薬工業株式会社製)、Fe Cテストワコー(和光純薬工業株式会社製)が利用可能である。
【0049】
上記のほか、株式会社藤原製作所のリフレクトクァント試験紙(リフレクトクァント鉄テスト)を使用して反射式光度計 RQフレックスまたはRQフレックスプラスで鉄濃度を測定する方法がある(http://www.fujiwara-sc.co.jp/catalog/rq2.html参照)。また単項目比色計ポータブル水質計(LaMotte Company製)、ポケット水質計(HACH社製)、Iron(ferrous) CHEMets Kit(chemetrics社製)、LSA30/50/100(DR.LANGE社製)、RAPID TESTS(MACHEREY-NAGEL社製)、モデルAQ4000ポータブル型色彩計(オリオン社製)を用いて鉄濃度を測定してもよい。
【0050】
鉄濃度測定法については、『石井誠治「化学物質と環境」エコケミストリー研究会 NO26 1-3 1997年』や、『金子恵美子・礒江準一「水質分析キット」ぶんせき 360- 2002年7月号』が参照できる。
【0051】
<マンガン濃度の測定>
被検定樹に含まれるマンガン濃度の測定法は、特に限定されるものではなく、公知の測定法を適宜選択の上、採用すればよい。例えば、原子吸光法、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)、蛍光X線回析法等の機器分析法が挙げられる。上記のほか、藤原製作所のリフレクトクァント試験紙(リフレクトクァントマンガンテスト)を使用して反射式光度計 RQフレックスまたはRQフレックスプラスでマンガン濃度を測定する方法がある(http://www.fujiwara-sc.co.jp/catalog/rq2.html参照)。また単項目比色計ポータブル水質計(LaMotte Company製)、ポケット水質計(HACH社製)、LSA30/50/100(DR.LANGE社製)、RAPID TESTS(MACHEREY-NAGEL社製)、モデルAQ4000ポータブル型色彩計(オリオン社製)を用いてマンガン濃度を測定してもよい。
【0052】
マンガン濃度測定法については、『石井誠治「化学物質と環境」エコケミストリー研究会 NO26 1-3 1997年』や、『金子恵美子・礒江準一「水質分析キット」ぶんせき 360- 2002年7月号』が参照できる。
【0053】
なお、本発明の検出方法における測定工程は、被検定樹中に含まれる鉄濃度、マンガン濃度の値まで求める定量分析である必要はなく、鉄濃度、マンガン濃度の高低が分かる程度の半定量分析であってもよい。
【0054】
測定工程に用いられる試料は、例えば上記抽出工程により得られた抽出液が利用可能である。抽出液としては、酸分解による抽出液であっても、水系抽出による抽出液であってもよいが、後者の水系抽出による抽出液の方がより好ましい。本発明者らの検討によれば、水系抽出による抽出液の方が、CG病に罹った樹木中に含まれる鉄およびマンガンの濃度と健全樹木(CG病に罹っていない樹木)のそれとの差が明瞭となることが分かった。よって後者の水系抽出による抽出液の方がより好ましいといえる。換言すれば、本測定工程においては、水溶性鉄および水溶性マンガンの一方または双方の濃度を測定することが好ましい。
【0055】
なお、鉄およびマンガンの濃度の測定は一回の試行でもよいが、種々のサンプルについて複数回測定することが好ましい。検定樹における鉄およびマンガンの濃度は、その部位、場所によって異なっている場合が多い(同じ葉部であっても上葉と下葉では濃度差がある場合が多い)。よって、複数回濃度測定を行なって、平均値を出しておくことが好ましいといえる。
【0056】
(1−3.比較工程)
当該工程は、上記測定工程において被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度とを比較する工程である。
【0057】
比較の方法は、被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度の値と、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方ンガンの濃度の値とを比較してもよいし、例えば、発色法を用いて鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する場合においては、発色度を目視により対比してもよい。また被検定樹および健全樹の鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を同日に測定してその高低を比較してもよいし、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を予め測定して標準値としておき、その値と被検定樹のそれとを比較してもよい。さらには、発色法を用いて鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する場合においては、健全樹の発色度の標準を予め作製しておき、被検定樹の発色度と比較してもよい。
【0058】
当該比較工程によって、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度に対して、測定工程において被検定樹中に含まれる測定された鉄およびマンガンの一方または双方の濃度が低ければ、当該被検定樹はCG病に罹っていると判断することができる。なお、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、測定工程において被検定樹中に含まれる測定された鉄およびマンガンの一方または双方の濃度との比較の際に有意差検定を行なうことが好ましい。有意差検定によって、健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度に対して、測定工程において被検定樹中に含まれる測定された鉄およびマンガンの一方または双方の濃度が有意に低いと判断できれば、さらに高い精度を持ってCG病に罹っているか否かを判断することができるからである。
【0059】
(2.本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出キット)
本発明にかかるカンキツグリーニング病検出キット(以下、適宜「本発明の検出キット」という。)は、上記本発明の検出方法を行なうためのキットである。本発明にかかる検出キットには、例えば、「検定樹から抽出液を取得する抽出手段」や「鉄濃度測定手段、およびマンガン濃度測定手段の一方または双方」が含まれていることが好ましい。
【0060】
(2−1.抽出手段)
当該抽出手段は、被検定樹から抽出液を取得する手段であり、既述「1−1.抽出工程」を行なうための手段である。
【0061】
抽出手段には、例えば、被検定樹を破砕するために用いられる乳鉢と乳棒、あるいはホモジナイザー(ミキサー)等が含まれていてもよい。また、抽出用の水(蒸留水、イオン交換水)あるいは緩衝液が含まれていてもよい。また抽出液の固液分離を行なうために用いられる、ろ紙(メンブレンフィルター)、遠心分離用のチューブ等が含まれていてもよい。さらには既述「<酸分解>」の項で説示した酸溶液が含まれていてもよい。また酸分解を行なうための容器が含まれていてもよい。
【0062】
(2−2.鉄濃度測定手段、マンガン濃度測定手段)
当該「鉄濃度測定手段」「マンガン濃度測定手段」は、既述「1−2.測定工程」を行なうための手段(物品)である。
【0063】
<鉄濃度測定手段>
鉄濃度測定手段には、例えば、発色法により鉄濃度を測定するための試薬(鉄濃度測定用試薬)や、発色度を測る吸光度計等が含まれていることが好ましい。前記鉄濃度測定試薬は、市販の「鉄定量キット」(例えば、パックテスト 型番WAK−Fe(D)(登録商標;株式会社共立理化学研究所)、エフイーテストワコー(和光純薬工業株式会社製)、Fe Bテストワコー(和光純薬工業株式会社製)、Fe Cテストワコー(和光純薬工業株式会社製)が挙げられる)に含まれる試薬類により構成してもよいし、バソフェナントロリン法、オルトフェナントロリン法等の発色定量法に必要な試薬類を適宜調製して構成してもよい。例えば、バソフェナントロリン法に必要な試薬としては、1,10‐フェナントロリン、塩化ヒドロキシルアンモニウム、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。またバソフェナントロリン法では、1,10‐フェナントロリンの代りにバソフェナントロリンを用いる以外はオルトフェナントロリン法と同様である。
【0064】
一方、発色度の測定に用いられる吸光度計としては、特に限定されるものではなく、市販の吸光度計を適宜利用可能である。なお吸光度計は、単波長タイプのものであっても複数波長タイプのものであってもよい。かかる吸光度計の一例としては、本発明にかかる鉄濃度測定装置(以下、適宜「本測定装置」という。)が利用可能である。
【0065】
本測定装置(一例)、および本測定装置を用いた鉄の濃度測定方法(一例)の概略を示す模式図を図1に示す。鉄濃度測定装置1は被検液(抽出液)が注入されるセル部2、被検液(抽出液)の吸光度を測定する吸光度測定部3、および鉄濃度測定用試薬と被検液(抽出液)とがその内部において反応する反応容器4を備えている。そのほか鉄濃度の測定値を示す表示部5を備えている。
【0066】
本測定装置が備えるセル部2は、吸光度計に用いられている公知のセルを用いることができ、その材質は石英製であっても、樹脂製であってもよい。また微量の被検液を測定可能にするため、セル内壁がセル上部から底部にかけて絞り込まれているセルであってもよい。また吸光度測定部3内にセル部2が安定的に保持されるような形状を有していてもよい。
【0067】
吸光度測定部3は、公知の吸光度計を用いて構成すればよい。吸光度計の測定様式は、一波長のみを測定する単波長タイプであっても、複数波長を測定する複数波長タイプであってもよい。またその測定波長についても特に限定されるものではなく、適宜目的に応じて設定すればよい。なお、本鉄濃度測定装置1はバソフェナントロリン法により鉄濃度を測定するように構成されているために525nmの単波長に固定されている。被検液の吸光値は、予めインプットされている鉄の標準曲線を用いて鉄濃度値に変換された後に、表示部5に出力されるようになっている。
【0068】
反応容器4は、その中にバソフェナントロリン法を行なうための試薬(鉄測定用試薬)が密閉チューブ内に充填された構成となっている。反応容器4の一箇所に孔を空け空気を押し出した後に、上記孔から被検液(抽出液)を吸い込むようになっている。なお、当該反応容器4は、公知のパックテスト 型番WAK−Fe(D)(登録商標;株式会社共立理化学研究所)を適用すればよい。
【0069】
次に本測定装置を用いた鉄の濃度測定方法(一例)の概略を説明する。(a)まず被検液(抽出液)をセル部2に入れて吸光度測定部3にセットし、0点調整(0調)を行なう。(b)反応容器4の上部一箇所に孔を空け、空気を押し出した後に、上記孔から被検液(抽出液)を吸い込む。この時、被検液(抽出液)と鉄測定試薬とが反応する。(c)3分後再びセル部2に被検液(反応後の抽出液)を戻して、セル部2を吸光度測定部3にセットして吸光度を測定する。(d)測定した鉄濃度が表示部5に表示される。
【0070】
なお前記(b)の後、反応後の抽出液の発色度と、鉄濃度と発色度との対応を示す標準表6とを対比することによって、およその鉄濃度を求めることもできる。
【0071】
また、鉄濃度測定手段は、原子吸光法、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)等の機器分析の前処理に必要な試薬、機器類により構成されていてもよい。また、株式会社藤原製作所のリフレクトクァント試験紙(リフレクトクァント鉄テスト)、反射式光度計 RQフレックスまたはRQフレックスプラスが含まれていてもよい(http://www.fujiwara-sc.co.jp/catalog/rq2.html参照)。また鉄濃度測定手段は、単項目比色計ポータブル水質計(LaMotte Company製)、ポケット水質計(HACH社製)、Iron(ferrous) CHEMets Kit(chemetrics社製)、LSA30/50/100(DR.LANGE社製)、RAPID TESTS(MACHEREY-NAGEL社製)、モデルAQ4000ポータブル型色彩計(オリオン社製)により構成されていてもよい。
【0072】
なお、本測定装置は、本発明にかかるCG病の検出方法のみに利用されるものではなく、工場廃水・環境水等の水分析、食品等の成分分析を始めとして鉄濃度を測定する一般的な用途に幅広く利用可能であることはいうまでもない。
【0073】
ところで、全ての動植物の生育には鉄は不可欠な元素であり、ヒトにとっても重要な元素である。ヒトは、食物から鉄分摂取しており、サニーレタス,ブロッコリー,大葉,ほうれん草等の野菜類は、代表的な鉄分含有植物である。ところが、産地や土壌によっては、これらの鉄含有植物中の鉄分含有量は相当異なっている。そこで、これらの鉄含有植物の鉄分含有量を本測定装置によって測定して表示することにより、鉄分含有量の多さをアピールする手段として用いることが可能となる。すなわち、同一野菜であっても鉄分含有量の少ない他の産地や他の農家の野菜との差別化手段(品質表示手段)として用いることが考えられる。
【0074】
また近年、ほうれん草中の鉄濃度が減少しているということ問題となっている。かかる状況下、本発明の検出方法と同様の工程をおよび、本測定装置を用い、ほうれん草の鉄濃度を簡単に測定することができる。よって本測定装置は、ほうれん草等の鉄含有植物の含有鉄分の濃度測定装置とすることができる。かかる「鉄含有植物の含有鉄分濃度測定装置」は例えば、ほうれん草等の品質管理、品質表示に利用が可能である。
【0075】
<マンガン濃度測定手段>
マンガン濃度測定手段には、例えば、マンガン濃度測定手段は、原子吸光法、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)、蛍光X線回析法、等の機器分析の前処理に必要な試薬、機器類が含まれていることが好ましい。また、株式会社藤原製作所のリフレクトクァント試験紙(リフレクトクァントマンガンテスト)、反射式光度計 RQフレックスまたはRQフレックスプラスが含まれていてもよい(http://www.fujiwara-sc.co.jp/catalog/rq2.html参照)。またマンガン濃度測定手段は、単項目比色計ポータブル水質計(LaMotte Company製)、ポケット水質計(HACH社製)、LSA30/50/100(DR.LANGE社製)、RAPID TESTS(MACHEREY-NAGEL社製)、モデルAQ4000ポータブル型色彩計(オリオン社製)により構成されていてもよい。
【0076】
なお本発明の検出キットには、上記「抽出手段」や「鉄濃度測定手段およびマンガン濃度測定手段の一方または双方」に加え、他の構成を含んでいてもよい。
【0077】
上記本発明の検出キットによれば、本発明の検出方法を実施するために必要な構成が含まれているため、園芸農家が圃場において簡便に本発明の検出方法を実施することができ、CG病の早期検出を行なうことが可能となる。よってCG病による甚大な被害を未然に防ぐことができるという効果を奏する。
【0078】
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0079】
〔実施例1〕カンキツグリーニング病(CG病)罹病樹および健全樹の葉部に含まれる微量元素濃度
(方法)
CG病に罹ったタンカン(2本の樹木)と健全なタンカン(3本の樹木)から各々10枚程度の葉を採取し、混合して1調査区または対照区とした。これを反復して行ない5個の調査区を作製した。
【0080】
<酸抽出>
各調査区の葉を乾燥、細断後20ml容のガラス製試験管に入れ、そこに60%の硝酸を1ml添加し、3〜5時間、温度をゆっくり上昇させ、分解液が透明になるまで徐々に加熱を続けた。有機物が分解されたら、試料を室温程度まで冷却後、0.5mlの過塩素酸を加えた。その後、徐々に加熱して180℃位まで上昇させ、白煙が出た時点で加熱を停止して分解を終了した。分解終了後、試料を20mlに定容(メスアップ)し、ICP分光分析を行なって各元素を定量した。
【0081】
<MES緩衝液抽出>
各調査区の葉を5mm以下にはさみで切り、よく撹拌して約5gを計りとり、1mM MES緩衝液(pH6.0)20mlを加えてミキサーでホモジナイズを行なった。その破砕物を10,000rpmで、15分間4℃で遠心し、上澄み液をMES緩衝液で10倍に希釈して測定に供した。
【0082】
<鉄、マンガンおよび亜鉛の定量法>
鉄、マンガンおよび亜鉛の定量は、ICP分光分析により行なった。具体的には酸分解液の希釈液あるいはMES緩衝液の希釈液を、パーキンエルマー社OPTIMA3000を用いて定量を行なった。なお上記ICP分光分析装置の運転条件は、所定のプログラムにより行なった。
【0083】
各調査区の葉の含水率を求めておき、葉の単位乾燥重量当りの鉄、マンガンおよび亜鉛の乾燥重量を計算して結果とした。
【0084】
(結果)
図2に結果を示す。図2(a)は酸分解による抽出液について鉄濃度(同図中「Fe」で示す)、マンガン濃度(同図中「Mn」で示す)、および亜鉛濃度(同図中「Zn」で示す)を測定した結果を示し、図2(b)はMES緩衝液による抽出液について鉄濃度(同図中「Fe」で示す)、マンガン濃度(同図中「Mn」で示す)、および亜鉛濃度(同図中「Zn」で示す)を測定した結果を示す。同図において斜線を付した棒グラフは罹病樹の結果であり、白抜きの棒グラフは健全樹の結果である。同図中Y軸の単位中の『DM』は、Dry Matterの略であり、葉の単位乾燥重量当りの鉄、マンガン、亜鉛の乾燥重量を示している(以下の実施例、図において全て同じ)。
【0085】
図2(a)および(b)の結果によれば、酸分解による抽出液、およびMES緩衝液による抽出液のいずれの場合においても、CG病の罹病樹における鉄濃度、マンガン濃度、および亜鉛濃度は、健全樹中のそれに比べて低いということが分かった。特に鉄およびマンガン濃度において、その濃度差が顕著であった。したがって、鉄濃度、マンガン濃度、および亜鉛濃度の低下がCG病のマーカーとして利用できるということがわかった。
【0086】
〔実施例2〕緑色葉を用いたCG病の検出
<材料>
CG病に罹ったタンカン(CG罹病樹)の2本の樹木から、黄色葉または緑色葉を各々10枚程度採取し、混合して1調査区とした。これを反復して行ない5個の調査区を作製した。また健全なタンカン(健全樹)の1本の樹木から対照区を、調査区と同様にして作製した。
【0087】
<方法>
抽出液の調製は、酸分解により行なった。酸分解の方法は実施例1の方法に準じて行なった。
【0088】
また鉄、マンガン、および亜鉛濃度の濃度測定についても実施例1の方法に準じて行なった。
【0089】
<結果>
図3に結果を示す。同図中、白抜きの棒グラフは鉄濃度を示し、黒塗りの棒グラフはマンガン濃度を示し、斜線を付した棒グラフは亜鉛濃度を示した。また「CG黄色」はCG病罹病樹の黄色葉中の各種濃度を示し、「CG緑色」はCG病罹病樹の緑色葉中の各種濃度を示し、「健康緑」は健全樹の緑色葉中の各種濃度を示した。
【0090】
図3の結果から、CG病罹病樹は黄色葉および緑色葉のいずれにおいても、鉄濃度、マンガン濃度、および亜鉛濃度は、健全樹中のそれに比べて低いということが分かった。特に鉄およびマンガン濃度において顕著であった。
【0091】
よって緑色葉、すなわちCG病の兆候が現れる前の段階の葉であっても、CG病を検出できるということが分かった。換言すれば本発明にかかるCG病の検出方法は、CG病を早期に検出できる方法であるということが分かった。
【0092】
〔実施例3〕酸分解による抽出液とMES緩衝液抽出による抽出液の比較
<材料>
CG病に罹ると鉄欠乏を起こすということがこれまでの実施例において明らかとなったことから、鉄欠乏条件下の水耕栽培によって擬似的にCG病罹病樹(シークワーシャー)を作製し、本実施例に用いた(n=3)。水耕栽培は、以下のようにした。シークワーシャーの実生を発芽させ、高さ15cm程度の幼苗に仕立てたもの(1試験区1植物)を、1L容量のポットを用い、鉄を除いた状態で24日間水耕栽培を行なった。試験は3反復した。なお対照として、鉄が除かれていない通常条件下の水耕栽培で栽培したシークワーシャーを用いた。
【0093】
上記で作製した擬似CG罹病性樹の上位葉は黄色を呈しておりCG病の兆候が見られた状態である。一方、下位葉は緑色でありCG病の兆候が表れていない状態である。かかる上位葉と下位葉を用いて抽出液を調製した。
【0094】
<方法>
抽出液の調製は、酸分解およびMES緩衝液抽出により行なった。酸分解、およびMES緩衝液抽出の方法は実施例1の方法に準じて行なった。また鉄の濃度測定についても実施例1の方法に準じて行なった。
【0095】
<結果>
図4に結果を示す。図4(a)は、酸抽出による抽出液を用いて鉄濃度を測定し、CG病の検出を行なった結果を示した。また図4(b)は、MES抽出による抽出液を用いて鉄濃度を測定し、CG病の検出を行なった結果を示した。同図中「上位」は上位葉の結果を示し、「下位」は下位葉の結果を示す。また白抜きの棒グラフは対照区の結果を示し、黒塗り棒グラフは擬似CG罹病性樹(調査区)の結果を示した。
【0096】
図4(a)に示した対照区と調査区との鉄濃度の差に対して、図4(b)に示した対照区と調査区との鉄濃度の差が顕著となっていた。このことは、MES緩衝液で抽出した抽出液の方が、罹病樹と健全樹との鉄濃度の差が顕著になるということを示しており、抽出液の調製にはMES緩衝液による抽出が好ましいということが分かった。
【0097】
MES緩衝液抽出等の水系抽出では水溶性鉄のみが抽出されるのに対して、酸分解による抽出液では水溶性鉄以外の鉄、すなわち葉に付着している不溶性の鉄分のほか、生体組織内で不溶化している(例えば維管束組織や細胞の液胞内などで)形態のものも抽出される。CG病で欠乏するのは維管束や葉脈中を流動する水溶性の鉄濃度が低下し、やがては細胞内の鉄濃度が低下すると考えられる。したがって、酸分解ではCG病とは関連しない鉄を含めて抽出してしまうこととなり、罹病樹と健全樹との鉄濃度の差が表れにくくなる。
【0098】
〔実施例4〕抽出用緩衝液の検討
実施例3によって抽出液の調製には水系抽出がより好ましいという結果が得られた。次に抽出に好ましい緩衝液を検討することとした。
【0099】
<材料>
2004年春出葉した青島(健全樹)を用いた(n=5)。
【0100】
検討する緩衝液は、MES緩衝液、リン酸緩衝液、HOMOPIPES緩衝液、またはクエン酸緩衝液を用いた。なお各緩衝液の濃度はいずれも1mMであり、また各緩衝液のpHはいずれも6.0とした。pH6.0を採用したのは、青島、ゲッキツ等のカンキツ類の生体内pHが6.0付近だからである(発明者らの検討結果による)。
【0101】
<方法>
抽出液の調製方法、および鉄の濃度測定については、いずれも実施例1の方法に準じて行なった。
【0102】
<結果>
図5に結果を示す。リン酸緩衝液(同図中「リン酸」で示す)、およびHOMOPIPES緩衝液(同図中「Homopipes」で示す)はMES緩衝液(同図中「MES」で示す)とほぼ同等の抽出効率を示した。よって、リン酸緩衝液、およびHOMOPIPES緩衝液を用いてCG検出に用いる抽出液を調製することができるということがわかった。特にリン酸緩衝液は、抽出液の変色が少なく安定性が高いといえるために好ましい。さらにHOMOPIPES緩衝液、MES緩衝液に比してリン酸緩衝液は安価であるため、コスト面においても優れている。
【0103】
一方、クエン酸緩衝液(同図中「クエン酸」で示す)は、MES緩衝液の場合に比して高い値が得られた。これは、当該クエン酸緩衝液を用いた場合において、水溶性鉄以外の鉄が溶出されたことが原因であると推測される。よって、当該クエン酸緩衝液は、健全樹との相対比較によりCG病を検出する際には利用可能であるが、CG病とは関連しない鉄を含めて抽出してしまうこととなり、罹病樹と健全樹との鉄濃度の差が表れにくくなる。
【0104】
〔実施例5〕温州ミカンおよびラフレモンに対するCG病診断
<材料>
沖縄県本島のCG病野外感染経歴のある果樹園から選抜された温州ミカン(健全樹4検体、罹病樹3検体)と、CG病罹病ラフレモンを接ぎ木接種したラフレモン(罹病樹5検体)および未接種のラフレモン(健全樹5検体)と、タンカン(健全樹10検体、罹病樹2検体)とを調査対象樹木(結果を示す図および表においては「調査樹木」と表記する)とした。
【0105】
各調査対象樹木から、採取年春に出葉した葉であって、樹木中央部の枝先端部の葉を3〜4枚、および枝の根元部の葉を4〜5枚採取した。採取した葉を全て混ぜ合わせて検体とし、当該検体を以後の試験に用いた。
【0106】
なお、「Marjorie A. Hoy, Ayyamperumal Jeyaprakash, and Ru Nguyen (2001), Long PCR is a sensitive Method for Detecting Liberobacter asiaticum in Parasitoids Undergoing Risk Assessment in Quarantine. Biological Control 22, 278-287」に記載の方法に従ってPCR法によるCG病診断(以下「PCR診断」という)をあらかじめ行ない、陽性と判断された樹木を「罹病樹」とし、陰性と判断された樹木を「健全樹」とした。
【0107】
<方法>
上記各検体から、実施例1記載のMES緩衝液抽出を行なって抽出液を調製し、当該抽出液中の銅、鉄、マンガン、亜鉛、カルシウム、およびマグネシウムの定量を行なった。上記各金属の定量は、実施例1に記載のICP分光分析により行なわれた。
【0108】
<結果>
表1〜3に、各検体からの抽出液中の金属をICP分光分析により定量した結果を示す。表1は温州ミカンの結果であり、表2はラフレモンの結果であり、表3はタンカンの結果である。表1〜3における「平均値」は検体中の各金属濃度(検体乾物重量あたりの濃度)であり、銅(Cu)、鉄(Fe)、およびマンガン(Mn)の単位は(μg/g)で、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)の単位は(mg/g)である。また健全樹の平均値および罹病樹の平均値について有意差検定(T検定)を行なっており、両者のデータ間に危険率5%で有意差があったものには「*」、危険率1%で有意差があったものには「**」、危険率0.5%で有意差があったものには「***」、危険率0.1%で有意差があったものには「****」、有意差がなかったものには「N」を表中に示した。また表1〜3における「比率」は、健全樹検体中の各金属濃度の平均値に対する罹病樹検体中の各金属濃度の平均値の比率である。なお、温州ミカンの罹病樹については、CG病の兆候が既に表れた黄色の葉について各金属濃度を測定した結果(表1中「罹病黄色」で示す)と、CG病の兆候が表れる前の緑色の葉について各金属濃度を測定した結果(表1中「罹病緑色」で示す)とに分けて検討を行ない、その結果を示した。またタンカンの罹病樹については、CG病の兆候が表れる前の緑色の葉について各金属濃度を測定した結果(表3中「罹病緑色」で示す)を示した。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
表1〜3の結果から、罹病樹葉中の鉄(Fe)、マンガン(Mn)、および亜鉛(Zn)濃度が、健全樹葉中のそれに比して有意に減少しているということが分かった。よって、上記金属の濃度の減少を指標として、調査対象樹木のCG病診断を行なうことができるということが分かった。また表1および3の「罹病緑色」の結果においても罹病樹中の上記金属濃度が、健全樹中のそれに比して有意に減少していることから、上記金属濃度はCG病の兆候が表れる前であってもCG病診断を実施できるということが分かった。特に表1の鉄(Fe)については、健全樹中の濃度に対する罹病樹の濃度の比率が亜鉛(Zn)のそれに比して低い、すなわち健全樹と罹病樹との間での鉄濃度の差が亜鉛(Zn)に比して大きいため(表1中の「比率」参照)、鉄(Fe)濃度の減少を指標にすれば、より明瞭かつ正確にCG病診断を行なうことができるといえる。
【0113】
なお、本実施例に用いたラフレモンの健全樹および罹病樹について、葉の色を目視によって比較したが、両者間で葉の色に差が認められず、健全樹と罹病樹とは目視によって区別することができなかった。
【0114】
〔実施例6〕鉄濃度測定によるCG病診断とPCR法によるCG病診断との比較
温州ミカン、およびタンカンについて鉄濃度測定によるCG病診断(以下「鉄濃度診断」という)とPCR診断の結果とを比較した。
【0115】
<方法>
各調査対象樹木から任意に4〜5枚の葉を採取し、それを混ぜて1検体とした。一部の調査対象樹木を除き、同一の調査対象樹木から3または4検体を調製してCG病診断を行なった。鉄濃度診断の方法およびPCR診断の方法は、実施例5と同様である。
【0116】
<結果>
その結果を、図6(温州ミカン)、図7(タンカン、採取樹園1)、および図8(タンカン、採取樹園2)に示す。なお図6〜8の各図(a)は鉄濃度診断を行なった結果を示し、(b)はPCR診断の結果を示している。また図6〜8の各図(a)の縦軸は鉄濃度(μg/gDM)を示し、横軸は各調査対象樹木を示す。なお上記横軸において、同一のアルファベットを示されるものは同一の調査対象樹木であることを意味し、さらに右に「Y」が付されたものは調査対象樹木から特に黄色葉を採取して検体としたものであり、「Y」が付されていないものは緑色葉を採取して検体としたものである。また上記横軸のアルファベット右に付された数字は、同一調査対象樹木から調製された検体数を示す。また各図(a)において白抜きで示す結果は罹病樹の結果であり、黒抜きで示す結果は健全樹の結果である。
【0117】
一方、図6〜8の各図(b)において「陽性数」はPCR診断によってCG病陽性と判断された検体の数を示し、「陰性数」はPCR診断によってCG病陰性と判断された検体の数を示し、「検体数」は同一調査対象樹木から調製された検体数を示す。各図(b)における「調査樹木」のアルファベットは、各図(a)のそれと対応する。
【0118】
図6〜8の各図(b)の結果から、PCR診断によってもCG病診断を的確に行ない得るということがわかるが、罹病樹の緑色葉を用いた診断結果においてCG病陰性と判断される場合があり(図6(b)A、B、Dおよび図8(b)N参照)、検体によってはPCR診断に誤りが生じ得るということが分かった。
【0119】
一方、図6〜8の各図(a)の結果によれば、罹病樹葉中の鉄(Fe)濃度が、健全樹葉中のそれに比して明らかに減少しているということが分かる。またCG病の兆候が表れる前の緑色葉を用いて診断を行なった場合でも、上記と同様の結果を示した。よって鉄濃度診断によれば、検体の状態によらず安定してCG病診断を行なうことができるということが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
上記説示したように、本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法によれば、カンキツ類等の樹木にとって深刻な病害であるカンキツグリーニング病を早期かつ正確に判定することが可能となる。また本発明にかかるカンキツグリーニング病検出キット、および鉄濃度測定装置によれば、上記本発明にかかるカンキツグリーニング病の検出方法を圃場において簡便に実施することができる。
【0121】
よって本発明は、カンキツ類の生産を行なう園芸農業、食品産業等に利用が可能である。
【0122】
さらには、ほうれん草等の鉄含有植物の品質表示、品質管理を行なう手段として利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明にかかる鉄濃度測定装置の一例、および当該鉄濃度測定装置を用いた鉄濃度測定方法の一例の概略を示す模式図である。
【図2】図2(a)は酸分解による抽出液について鉄濃度、マンガン濃度、および亜鉛濃度を測定した結果を示すヒストグラムであり、図2(b)は2-morpolinoethanesulfonic acid緩衝液(MES緩衝液)抽出による抽出液について鉄濃度、マンガン濃度、および亜鉛濃度を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図3】カンキツグリーニング病の罹病樹の緑色葉および黄色葉、並びに健全樹の緑色葉からの抽出液中の鉄濃度、マンガン濃度、および亜鉛濃度を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図4】図4(a)は鉄欠乏条件下の水耕栽培により栽培したシークワーシャー、および通常条件下の水耕栽培により栽培したシークワーシャーの酸抽出による抽出液を用いて鉄濃度を測定した結果を示すヒストグラムであり、図4(b)は同シークワーシャーの2-morpolinoethanesulfonic acid緩衝液(MES緩衝液)抽出による抽出液を用いて鉄濃度を測定した結果を示すヒストグラムである。
【図5】各緩衝液(2-morpolinoethanesulfonic acid緩衝液(MES緩衝液)、リン酸緩衝液、Homopiperazin-N,N'-bis-2-(ethansulfonsyre)緩衝液(HOMOPIPES緩衝液)、クエン酸緩衝液)の抽出効率を検討した結果を示すヒストグラムである。
【図6】温州ミカンについてCG病診断を行なった結果を示す図であり、(a)は鉄濃度診断を行なった結果を示すヒストグラムであり、(b)はPCR診断の結果を示す図である。
【図7】タンカン(採取樹園1)についてCG病診断を行なった結果を示す図であり、(a)は鉄濃度診断を行なった結果を示すヒストグラムであり、(b)はPCR診断の結果を示す図である。
【図8】タンカン(採取樹園2)についてCG病診断を行なった結果を示す図であり、(a)は鉄濃度診断を行なった結果を示すヒストグラムであり、(b)はPCR診断の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0124】
1 鉄濃度測定装置
2 セル部
3 吸光度測定部
4 反応容器
5 表示部
6 標準表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する測定工程
を包含することを特徴とするカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項2】
上記測定工程は、被検定樹の葉部に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度を測定する工程であることを特徴とする請求項1に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項3】
上記鉄およびマンガンが、それぞれ水溶性鉄および水溶性マンガンであることを特徴とする請求項1または2に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項4】
上記測定工程において測定された被検定樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度と、
健全樹中に含まれる鉄およびマンガンの一方または双方の濃度とを比較する比較工程
をさらに包含することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項5】
被検定樹から抽出液を取得する抽出工程
をさらに包含することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項6】
上記抽出工程は、被検定樹の葉部から抽出液を取得する工程であることを特徴とする請求項5に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項7】
上記抽出工程は、水また緩衝液を用いて被検定樹から抽出液を取得する工程であることを特徴とする請求項5または6に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項8】
上記抽出工程は、リン酸緩衝液、2-morpolinoethanesulfonic acid緩衝液(MES緩衝液)、またはHomopiperazin-N,N'-bis-2-(ethansulfonsyre)緩衝液(HOMOPIPES緩衝液)を用いて被検定樹から抽出液を取得する工程であることを特徴とする請求項5または6に記載のカンキツグリーニング病の検出方法。
【請求項9】
鉄濃度測定手段およびマンガン濃度測定手段の一方または双方を備えることを特徴とするカンキツグリーニング病検出キット。
【請求項10】
被検定樹から抽出液を取得する抽出手段をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載のカンキツグリーニング病検出キット。
【請求項11】
被検液が注入されるセル部、
被検液の吸光度を測定する吸光度測定部、および
鉄濃度測定用試薬と被検液とがその内部において反応する反応容器
を備えることを特徴とするカンキツグリーニング病の検出に用いられる鉄濃度測定装置。
【請求項12】
被検液が注入されるセル部、
被検液の吸光度を測定する吸光度測定部、および
鉄濃度測定用試薬と被検液とがその内部において反応する反応容器
を備えることを特徴とする鉄含有植物の含有鉄分の濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−267092(P2006−267092A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44473(P2006−44473)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】