説明

カンゾウ属植物の栽培方法

【課題】天候に左右されず、短期間で有効成分を一定量以上含み且つ収穫や採取後の加工が容易であり、コストパフォーマンスにも優れたカンゾウ属植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】露地の畑に所定高さに盛土した畝に水を通さないシートを被せ、養分を充分含んだ培養土を充填し、底板部に1以上の孔を開けた長さ100mmないし300mmの栽培補助用筒体を、シートの設置用孔を通して畝に立設し、この栽培補助用筒体内にカンゾウ属植物を植えてなり、シートにより降水量を遮断して畝内の水分をコントロールすると共に、栽培補助用筒体の側壁によりカンゾウ属植物の水平方向へのストロンの生育を抑制し、且つ、カンゾウ属植物の垂直方向へ延びる根部は1以上の孔を抜けて、水分をコントロールした畝にて生育させ、根部(主根)及びこれから分枝した側根を主体的に肥大化させて、上記課題を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンゾウ属植物の栽培方法に関するものであり、より詳細には、ストロンの生育を抑制して、主に根部の肥大を優先させ、短期間で根部の利用を可能とするカンゾウ属植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウラルカンゾウなどのカンゾウ属植物は、漢方薬を含む医薬品、化粧品、食品の矯味料などの原料として重要である。例えば、ウラルカンゾウの薬効成分であるグリチルリチンは、SARSウイルスや肝炎ウイルスに対する効果が確認され、さらに、含有しているイソフラボノイドのグリシリンには、メタボリックシンドロームの改善効果があるという、薬理学的証拠が報告されている。このウラルカンゾウは、乾燥地帯に生育する植物であり、我が国では栽培が難しいため、ほぼ100%輸入に頼っている。しかしながら、ウラルカンゾウの主要輸出国である中国では、野生のウラルカンゾウの乱獲により乾燥地帯の砂漠化が進行したため、輸出規制が強化され、さらに、異常気象による収穫量の減少、農薬や重金属類の残留などがあり、ウラルカンゾウを安定的に中国から輸入できない状況になりつつある。
【0003】
そこで、我が国でウラルカンゾウの栽培が試みられているが、その地下部分が多数の細いストロン(走出茎)に分枝し、上記の薬効成分であるグリチルリチンやグリシリンの含量が増えないばかりでなく、ストロンの生育が優勢となり、地下部分の根部の肥大が損なわれ、収穫に4,5年の栽培期間が必要となり、さらに、収穫時に伸長し過ぎたストロンが収穫用の機械に絡み、収穫作業を困難にしている。したがって、ウラルカンゾウは、栽培、収穫、生薬調製が困難であるとされ、我が国国内ではウラルカンゾウの栽培は不可能であると言われている。このような状況下で、ウラルカンゾウの我が国国内での栽培の試みが報告されている。
【0004】
種の直播きによるウラルカンゾウの露地栽培が報告されている。すなわち、ウラルカンゾウの種子を簡易的に割り、それを北海道名寄市の圃場に直播きして発芽させ、そのまま生育させて、1年生及び2年生のウラルカンゾウを採取し、その生育状況を調査したものである。また、発芽させた苗を上記の圃場に移植して生育させ、1年生及び2年生のウラルカンゾウを採取して、その生育状況を調査したものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、ウラルカンゾウのセル苗を育苗し移植機で定植するなど、既存の農業機械を用いた省力化栽培の報告がある(例えば、非特許文献2、非特許文献5参照)。
また、グリチルリチン高含量のウラルカンゾウ種を選抜した報告がある(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照)。
【0006】
また、いわゆるウラルカンゾウの筒栽培と言われるものが報告されている。すなわち、径10cm×1.0mの塩化ビニールパイプの下端部に、排水孔のあるキャップを嵌め、そのパイプ内に培養土を充填し、苗を植えそのまま生育させて、1年生のウラルカンゾウを採取し、その生育状況を調査したものである。また、パイプ内の培土に種を播き、発芽させそのまま生育させて、1年生のウラルカンゾウを採取して、その生育状況を調査したものがある(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「カンゾウの国内栽培を目指して」 独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター北海道研究部 柴田敏郎 第3回甘草に関するシンポジウム〜持続的国内栽培をめざして〜 講演要旨集 平成17年7月(名寄市市民文化センター)、pp.3〜7
【非特許文献2】「北海道研究部における薬用植物栽培研究について」独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター北海道研究部 柴田敏郎 薬用植物フォーラム2010 講演要旨集2010 pp25−300
【非特許文献3】「カンゾウの国内栽培を目指して(1)ウラルカンゾウの筒栽培について」 尾崎和男、芝野真喜雄、草野源次郎、渡辺斉 武田薬品工業株式会社京都薬用植物園、大阪薬科大学 生薬学雑誌61(2),89−92(2007)
【非特許文献4】「甘草の国内生産を目指して(2)カンゾウ(Glycyrrhizauralensis Fisher)の優良個体の選抜について」尾崎和男、芝野真喜雄、草野源次郎、渡辺斉、武田薬品株式会社京都薬用園、大阪薬科大学、生薬学雑誌64(2),76−82(2010)
【非特許文献5】「カンゾウの栽培研究について」独立行政法人 医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センター北海道研究部 林 茂樹 薬用植物フォーラム2010 pp37−40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1、2は、露地栽培地の北海道名寄市が乾燥地帯であり、しかも本州以南のような梅雨の影響を受けない点で良いが、露地栽培のため、ウラルカンゾウの根部及び地下茎部からストロンが分枝してしまい、このストロンにより、収穫と生薬調製とが困難となる。さらに、ストロンのため生育が遅くなり、薬効のある有効成分であるグリチルリチン含有量が、生薬「甘草」の日本薬局方の基準値である2.5%以上、並びに根部及び地下茎部が0.5cm以上の太さ、となるのに2、3年かかるという問題がある。
【0009】
非特許文献3は、梅雨の影響を受ける京都府で筒栽培をしているが、筒栽培であるためにウラルカンゾウの根部及び地下茎部からストロンが分枝しづらい点で良い。しかしながら、湿度、温度、降雨量の影響を受け、生育が遅くなりがちであり、薬効のある有効成分であるグリチルリチン含有量が、生薬「甘草」の日本薬局方の基準値である2.5%以上、並びに根部及び地下茎部が0.5cm以上の太さとなるのに、これまた2、3年かかってしまい、生産コストの面で困難さが伴うことになる。
【0010】
さらに、ウラルカンゾウなどのカンゾウ属植物は、すでに述べたように、もともと砂漠地帯に自生する植物であるため、梅雨のある日本国では通常の露地栽培が難しく、仮にその露地栽培がうまくいったとしても、ストロンの生育が優勢となり、根部の生育が遅れてしまうので、収穫が出来るまでの年数がかかってしまう。この梅雨を避けるため、カンゾウ属植物をハウス内で栽培を行うと、ハウス栽培でよく問題となる害虫(アブラムシ、ハダニ、スリップス)の発生が多発することになる。
【0011】
本発明者の知見によれば、ハウス内での筒栽培は、カンゾウ属植物の栽培に適しているが、ハウスの建設に多額の資金が必要であり、筒栽培に多くの人手が必要である不利な点がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、天候に左右され難く、短期間で日本薬局方の基準値である根部が0.5cm以上の太さの基準値を超え、且つ低イニシャルコストであると共に収穫や採取後の加工が容易な、コストパフォーマンスに優れたカンゾウ属植物の栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。
すなわち、本発明によれば、露地の畑に所定高さに盛土して畝を形成し、該畝に水を通さないシートを被せ、養分を充分含んだ培養土を充填し底板部に複数の孔を開けた長さ100mmないし300mmの栽培補助用筒体を、前記シートに開けた設置用孔を通して前記畝に立設し、該栽培補助用筒体内にカンゾウ属植物を植えてなり、前記シートにより降水量を遮断して畝内の水分をコントロールすると共に、前記栽培補助用筒体の側壁により前記カンゾウ属植物の水平方向へのストロンの生育を抑制し、且つ、前記カンゾウ属植物の垂直方向へ延びる根部は複数の孔を抜けて、水分をコントロールした前記畝にて生育させ、前記根部を主に肥大化させるようにしたことを特徴とするカンゾウ属植物の栽培方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、前記複数の孔が、前記栽培補助用筒体の底板に開けた複数の小径孔のみからなるカンゾウ属植物の栽培方法が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、前記複数の孔が、前記栽培補助用筒体の底板の中心部に開けた一の中径孔と、該中径孔の回りの底板に開けた複数の小径孔とからなるカンゾウ属植物の栽培方法が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、育苗用栽培容器にてカンゾウ属植物を予備栽培して、径5mmないし20mm、長さ20mmないし100mm程度にカンゾウ根を生育させ、一方、所定高さに盛土した畝に水を通さないシートを被せ、該シートに栽培用孔を開け、前記カンゾウ根を、その上部にある茎・葉及びストロンの成長点が前記畝の表面より上方に位置するように、前記栽培用孔を通して前記畝に植えてなり、前記カンゾウ根のストロンの生育を抑制し、且つ、前記カンゾウ植物の根部を、水分をコントロールした前記畝にて生育させ、前記根部を主に肥大化させるようにしたことを特徴とするカンゾウ属植物の栽培方法が提供される。
【0017】
上記第1の課題解決手段による作用は次のとおりである。
すなわち、養分を充分含んだ培養土を充填した栽培補助用筒体内に植えたカンゾウ属植物は、シートにより降雨が抑制され且つ所定高さに盛土された畝により、地下水や降雨による浸透水の影響が逓減されて、乾燥環境が創出された状態にあって、栽培補助用筒体の側壁によりカンゾウ属植物の水平方向へのストロンの生育が抑制されて且つ垂直方向へ延びる根部は複数の孔を抜け、乾燥環境にある畝にて生育されて、ストロンの生育が抑制された分、根部が選択的に肥大化する。
【0018】
上記第2の課題解決手段による作用は、カンゾウ属植物の垂直方向へ延びるすべての根部が複数の小径孔を抜け、乾燥環境が創出している畝にて生育して、主たる根部が孔径による規制が大きい状態で、他の細い根部は孔径による規制が少ない状態で、ストロンの生育が抑制された分、根部が選択的に肥大化する。
【0019】
上記第3の課題解決手段による作用は、カンゾウ属植物の垂直方向へ延びる主たる根部が一の中径孔を抜け、他の細い根部が中径孔回りにある複数の小径孔を抜けることになって、乾燥環境を創出している畝にて生育して、主たる根部及び他の細い根部が共に孔径による規制が少ない状態で、ストロンの生育が抑制された分、根部が選択的に肥大化する。
【0020】
上記第4の課題解決手段による作用は、シートの栽培用孔を通して畝に直接植えた予備栽培のカンゾウ根は、シートにより降雨が抑制され且つ所定高さに盛土された畝により、地下水や降雨による浸透水の影響が逓減されて、乾燥環境が創出された状態にあり、カンゾウ根の上部にある茎・葉及びストロンの成長点は、畝の表面より上方に位置しているから、茎・葉は生育するがストロンは土壌が無いから生育できず、根部は、乾燥環境にある畝にて生育されて、ストロンの生育が抑制された分、根部が選択的に肥大化する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、天候に左右され難く、栽培補助用筒体内の養分に加えて畝の土壌からも養分を吸収して、栽培補助用筒体内の根部及び畝内の根部が、ストロンが少ない分より肥大化して、短期間で日本薬局方の基準値である根部が0.5cm以上の太さの基準値を超え、且つハウスなど必要ないから低イニシャルコストであると共に、ストロンが少ないため収穫や採取後の加工が容易な、コストパフォーマンスに優れたカンゾウ属植物を得ることが出来る効果がある。
【0022】
また、本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、上記の効果に加えて、主たる根部が孔径による規制が大きい状態で、他の細い根部は孔径による規制が少ない状態で、選択的に肥大化して、種々の形状の根部を得ることが出来る効果がある。
【0023】
また、本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、上記の効果に加えて、主たる根部及び他の細い根部が共に孔径による規制が少ない状態で選択的に肥大化して、すっきりした形状の根部を得ることが出来る効果がある。
【0024】
また、本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、天候に左右され難く、畝の土壌からの養分を吸収して、畝内の根部が、ストロンが生育しない分余計に肥大化して、短期間で日本薬局方の基準値である根部が0.5cm以上の太さの基準値を超え、且つハウスや栽培用筒体なども必要ないから、低イニシャルコストであると共に、ストロンが少ないから収穫や採取後の加工が容易な、コストパフォーマンスに優れたカンゾウ属植物を得ることが出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明方法の実施形態の畝に立設した栽培補助用筒体にてカンゾウ属植物を栽培している状態を示す断面図である。
【図2】本発明方法の実施形態の畝にシートを被せた状態の平面図である。
【図3】本発明方法の実施形態の栽培補助用筒体の平面図である。
【図4】本発明方法の実施形態の他の栽培補助用筒体の平面図である。
【図5】本発明方法の実施形態の他の栽培補助用筒体の平面図である。
【図6】段落[0020]で説明した本発明の第4の実施形態の畝に直接予備栽培したカンゾウ根を定植した状態で栽培している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0027】
図面において、本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、所定高さに盛土した畝1に水を通さないシート2を被せ、養分を充分含んだ培養土3を充填し底板部4に複数の孔5を開けた長さ150mmないし300mmの栽培補助用筒体6を、シート2に開けた設置用孔7を通して畝1に立設し、この栽培補助用筒体6内にカンゾウ属植物8を植えてなり、シート2により降水量を遮断して畝1内の水分をコントロールすると共に、栽培補助用筒体6の側壁6aによりカンゾウ属植物8の水平方向へのストロン9の生育を抑制し、且つ、カンゾウ属植物8の垂直方向へ延びる根部(主根)10は複数の孔5を抜けて、水分をコントロールした畝1にて生育させ、根部10を主に肥大化させるようにした方法である。
【0028】
前記畝1は、露地の畑における地下水位の影響を抑制するものであるから、それなりの高さ、例えば、250mmから500mm程度が必要となる。さらに、この畝1には、雨や雪などの気象状況による水分の影響を抑制するために、水を通さないシート2が被され、このシート2には、図2に示すように、前記栽培補助用筒体6を通すための設置用孔7が開けられている。なお、このシート2は、太陽光や雨・雪などに直接晒されるため、耐候性に優れた材質のものが使用される。
【0029】
前記培養土3は、実際に栽培するカンゾウ属植物8の特性に合わせて、その種類及び粒径を決める。そして、培養土3の粒径は5mm以下がよく、下限値は経済性も考慮して1mm程度が良い。このように、培養土3の粒径を5mm以下にすることで、カンゾウ属植物8の根部10が栽培補助用筒体6の側壁6aに沿い、培養土3の塊などに影響されることなく直線状に生育させることが出来る。また、培養土3は、これを前記栽培補助用筒体6に充填する際、栽培するカンゾウ属植物8の特性に合わせて肥料や石灰などを加え、pH5.5ないし6.8の範囲となるように調整して、充分な養分を含んだものとする。
【0030】
前記栽培補助用筒体6は、直径30mmないし200mm×長さ100mmないし200mmのものが好ましく使用され、実際に栽培するカンゾウ属植物8の特性に合わせて、直径×長さが決められ、カンゾウ属植物8の根部10の垂直方向の順調な生育と、水平方向へのストロン9の生育を抑制するためのものである。したがって、栽培補助用筒体6の直径が200mmを超えると、栽培補助用筒体6内にあるカンゾウ属植物8のストロン9の水平方向への生育の抑制が不十分となり、且つ根部10の垂直方向の伸長の方向性が明確に定まらなくなる。逆に、直径が30mm未満であると、栽培補助用筒体6内外に渉るカンゾウ属植物8の根部10が充分に肥大化育成しない虞が生じることになる。
【0031】
また、栽培補助用筒体6の長さが300mmを越えると、筒体内での栽培に近くなり、畝1を利用した露地栽培的要素が失せることになってしまい、イニシャルコストの上昇を招く虞がある。
【0032】
また、栽培補助用筒体6の底板部4に、複数の孔5が開けられていれば足りるのであるが、図3に示すように、底板部4が、直径5mmないし10mmの小径孔5aが複数開けられた底面キャップ20であり、これが栽培補助用筒体6の底部に着脱可能な状態で嵌められている。これらの小径孔5aは、栽培補助用筒体6内の培養土3の水分値を調整維持すると共に、カンゾウ属植物8の根部10が栽培補助用筒体6内で生育して、その先端部10aが底面キャップ20に当たった後、その先端部10aから側根11が分枝して複数の小径孔5aを通過伸張し、畝1内の土壌の水分や養分を吸収して、栽培補助用筒体6内外の根部10及び分枝した側根11をより肥大化させるものである。したがって、底面キャップ20の小径孔5aは、その直径及び個数が重要であり、最終的には実際に栽培するカンゾウ属植物8の種類によって、経験則に照らし合わせて決められる。なお、栽培補助用筒体6及びその底面キャップ20の材質は、特に限定がないが、価格面、入手のし易さから紙製あるいはポリ塩化ビニールやポリエチレン等のプラスチック製が一般的である。
【0033】
また、上記した底面キャップ20は、図4に示すように、直径15mmないし30mmの一の中径孔21が中心部に開けられ、さらに、この中径孔21周りに直径3mmないし7mmの小径孔5bが複数開けられた底面キャップ20Aに替えてもよい。そして、この底面キャップ20Aは、栽培補助用筒体6の底部に着脱可能な状態で嵌められる。一の中径孔21及び複数の小径孔5bは、栽培補助用筒体6内の培養土3の水分値を調整維持すると共に、カンゾウ属植物8の根部10が栽培補助用筒体6内で生育して、その主たる根部10の先端部10aが底面キャップ20Aに当ることなく一の中径孔21を通過伸張して、畝1内の土壌の水分や養分も吸収し、その主たる根部10をより肥大化させる。
【0034】
一方、他の細い根部10の先端部10aが底面キャップ20Aに当ると、その先端部10aから側根11が分枝して中径孔21周りの複数の小径孔5bを通過伸張し、畝1内の土壌の水分や養分を吸収して、栽培補助用筒体6内外の側根11をより肥大化させる。なお、この底面キャップ20Aにするか、あるいは上記底面キャップ20にするかは、実際に栽培するカンゾウ属植物8の種類によって、最終的に経験則に照らし合わせて決められる。
【0035】
なお、上記の栽培補助用筒体6の底部に底面キャップ20あるいは20Aを嵌め、養分を充分含んだ培養土3を充填したものに替えて、図5に示すように、中心部に排水孔12が開いている育苗用のポリエチレン製ポット13を簡易的に使用することも可能であり、このポリエチレン製ポット13に、上記したように養分を充分含んだ培養土3を充填すればよい。
【0036】
前記カンゾウ属植物8は、根部10を主に利用するものであり、例示すれば、G.glabra,G.uralensis,G.inflata,G.aspera,G.korshinkyi,G.eurycarpaなどがあり、好ましくはG.glabra,G.uralensisであって、これらが特に顕著な効果が得られる。上記例示のカンゾウ属植物8は、いずれも上記の栽培方法に馴染むが、栽培補助用筒体6の長さ、底板部の複数の孔形状、培養土、肥料など、実際に栽培するカンゾウ属植物8の種類により、若干変える必要がある。
【0037】
次に、図面を参照して、上記構成になるカンゾウ属植物の栽培方法について説明する。
まず、例示した上記のカンゾウ属植物から栽培するカンゾウ属植物8を選定し、その選定したカンゾウ属植物8に適合する栽培補助用筒体6及び底面キャップ20あるいは20Aを選択する。この選択した栽培補助用筒体6の下端部に選択した底面キャップ20あるいは20Aを嵌めて、選定カンゾウ属植物8に適合する粒度の培養土3、肥料及び石灰などを混ぜたものを充填する。また、ポリエチレン製ポット13に選定カンゾウ属植物8に適合する粒度の培養土3、肥料及び石灰などを混ぜたものを充填したものでもよい。
【0038】
一方、露地の畑の土壌を盛土して、所定高さ及び幅を有する畝1を立て、この畝1をシート2にて覆う。このシート2に、栽培補助用筒体6あるいはポリエチレン製ポット13の径に合った設置用孔7を、所定の間隔を保って開ける。そして、この設置用孔7に栽培補助用筒体6あるいはポリエチレン製ポット13を通して畝1に立設する。
【0039】
その後、栽培補助用筒体6に選定カンゾウ属植物8の苗を植えるか、その種を播く。この栽培方法では、日照量及び栽培補助用筒体6あるいはポリエチレン製ポット13から侵入する雨水量を完全にコントロールすることは出来ない。しかし、畝1に降る雨水は、シート2により排除され、さらに露地の畑における地下水や降雨による浸透水は、所定高さがある畝1によりその影響が抑制されるから、選定カンゾウ属植物8に充分適合した乾燥環境が創出されることになる。そのうえ、上記した栽培補助用筒体6あるいはポリエチレン製ポット13から侵入した雨水は、逆にこれらの内部における水分値をコントロールすることになって、選定カンゾウ属植物8の生育環境が整えられることになる。
【0040】
したがって、カンゾウ属植物8は、全体として順調に生育し、栽培補助用筒体6内あるいはポリエチレン製ポット13内の根部10も、側壁6aあるいは側壁13aに沿い分枝がほとんどない状態で直線状で垂直方向にスムーズに生育する。やがて、その先端部10aが栽培補助用筒体6の底面キャップ20及び20Aあるいはポリエチレン製ポット13の底部に当たるから、それ以上の垂直方向の生育を規制する。しかしながら、底面キャップ20の場合には小径孔5aがあるから、根部10の先端部10aより側根11が分枝して、小径孔5aを通過伸張し、畝2内の土壌の水分や養分を吸収して、栽培補助用筒体6内の垂直方向の生育を規制された根部10及び栽培補助用筒体6外の側根11を肥大化させることが出来る。
【0041】
また、底面キャップ20Aの場合には中径孔21及び小径孔5bがあるから、主たる根部10の先端部10aは中径孔21を通過伸張し、畝2内の土壌の水分や養分を吸収して肥大化し、従たる根部10の先端部10aも底面キャップ20Aに当たると、従たる根部10の先端部10aより側根11が分枝して、小径孔5bを通過伸張し、同じく畝2内の土壌の水分や養分を吸収して肥大化する。
【0042】
また、ポリエチレン製ポット13の場合は、中心部に排水孔12があるから、それを主たる根部10の先端部10aが通過伸張し、従たる根部10の先端部10aから分枝した側根11も排水孔12を通過伸張し、同じく畝2内の土壌の水分や養分を吸収して肥大化する。
【0043】
一方、ストロン9も水平方向に生育するが、栽培補助用筒体6の側壁6aあるいはポリエチレン製ポット13側壁13aに阻まれ、これら側壁6aあるいは側壁13aに沿い渦巻き状に伸長し徐々に下方に伸長してゆき、この過程でストロン9の生育は大幅に抑制される。ストロン9は、上述のように、水平方向に生育するので、上記の小径孔5a、5b、中径孔21、排水孔12から栽培補助用筒体6あるいはポリエチレン製ポット13外部に伸長することがない。このようにストロン9の生育が抑制されたことにより、カンゾウ属植物8の根部10及び側根11の生育が優勢となり、小径孔5a、5b、中径孔21、排水孔12から出た根部10及び側根11は肥大化する。この時、カンゾウ属植物8の根部10及び側根11は、小径孔5a、5bや中径孔21に絞られた状態になっているが、根部10及び側根11の肥大化には影響しないことが確認されている。
【0044】
カンゾウ属植物8の栽培開始から6ないし10ヶ月が経過して、栽培補助用筒体6内外の根部10及び側根11が充分肥大化し、有効成分が一定量以上含むこととなったカンゾウ属植物8は、栽培補助用筒体6と共に畝1から引き抜かれ、さらに、栽培用筒体6内からのストロン9もほとんどないから容易に引く抜くことが出来て、収穫される。収穫されたカンゾウ属植物8は、その肥大化した根部10及び側根11が分離され、乾燥、調製などの加工を経て製品化される。
【実施例2】
【0045】
本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、以下のようにしてもよい。
すなわち、このカンゾウ属植物の栽培方法は、育苗用栽培容器にてカンゾウ属植物8を予備栽培して、径5mmないし20mm、長さ20mmないし100mm程度にカンゾウ根14を生育させ、一方、所定高さに盛土した畝1に水を通さないシート2を被せ、該シート2に栽培用孔7Aを開け、カンゾウ根14を、その上部にある茎・葉15及びストロン9の生長点が畝1より上方に位置するように、栽培用孔7Aを通して畝1に植えてなるものであり、これにより、カンゾウ根14のストロン9の生育を抑制し、且つ、カンゾウ属植物8の根部10を、水分をコントロールした畝1にて生育させ、根部10を主に肥大化させるようにしたものである。
【0046】
このカンゾウ属植物の栽培方法は、カンゾウ属植物8を育苗用栽培容器にて約1年から数年予備栽培すると、径5mmないし20mm×長さ20mmないし100mm程度のカンゾウ根14を有するカンゾウ属植物8を生育させることが出来る。そのカンゾウ根14をシート2を被せた畝1に栽培用孔7Aを通して植える際、カンゾウ根14の上部にある茎・葉15及びストロン9の生長点が、畝1の表面より上方に位置するように定植する。このようにカンゾウ根14を定植すると、ストロン9の成長点が常時畝1の表面より上にあるため、ストロン9は生育出来ない。したがって、ストロン9が生育出来ない分、カンゾウ属植物の根部10を肥大化させることになる。その他の構成、作用は実施例1のカンゾウ属植物の栽培方法とほぼ同じなので、その詳細な説明を省略する。
【0047】
次に、上記構成になるカンゾウ属植物の栽培方法の優位性を実証したので、その状況を説明する。
〈試験例1〉
試験地:山口県岩国市の西畑圃場において、直径100mm×長さ150mmの塩化ビニール製の栽培補助用筒体に、図4に示す底面キャップ(中径孔20mm×1、小径孔5mm×12)を被せ、粒径5mm以下の培養土に肥料1.5%を混ぜ、pH5.8ないし6.5の範囲となるように石灰を加えて調製したものを栽培補助用筒体に充填し、それを高さ300mmで防水シートを被せ培養土に肥料、石灰を加えて調整したものを栽培補助用筒体に充填し、2010年4月6日から同年10月15日まで193日間栽培した。収穫直後の培養土及び畝の土壌を落としたウラルカンゾウの各部位の重量を測定した。なお、ウラルカンゾウの各測定部位は、根頭部+ストロン、底面キャップより上部の根部、底面キャップより下部の根部、ストロンの4部位である。なお、栽培数は6例である。
【0048】
〈対照例1〉
栽培補助用筒体を使用しないこと以外、試験例1と同じ条件にてウラルカンゾウを栽培し、その各部位の重量を測定した。なお、栽培数は5例である。
【0049】
〈試験例2〉
栽培補助用筒体に代えて直径100mm×長さ110mmのポリエチレン製ポットを使用すること以外、試験例1と同じ条件にて、ウラルカンゾウを栽培し、その各部位の重量を測定した。なお、栽培数は2例である。
【0050】
〈試験例3〉
ウラルカンゾウを播種し、ポリポットにおいて育苗、予備栽培した径10mm、長さ40mmのカンゾウ根14を、高さ300mmに盛土した畝に防水シートを被せ、該シートに栽培用の孔を開け、茎・葉、ストロンの生長点が畝表面より上部に出るように定植し、2010年4月6日から同年10月15日まで193日間栽培した。収穫直後の培養土及び畝の土壌を落としたウラルカンゾウの各部位の重量を測定した。なお、栽培例は4例である。
以上の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明のカンゾウ属植物の栽培方法により収穫した試験例1、2におけるカンゾウ属植物のストロンは、表1に示す通り、いずれも対照例1におけるものよりも遙かに少なく、その分、根部の収穫は相対的に多くなった。
その要因は、筒内部で成長した根部10は、孔5を通過し畝1で生育する過程において太くなり孔5により絞られることにより、その部位より先端部での一次側根、二次側根を発生し、これら側根におけるグリチルリチン含量が多いため、全体のグリチルリチン含量が増加するもの推定される。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体的な構成はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更は適宜可能であることは理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のカンゾウ属植物の栽培方法は、栽培地の天候に左右され難く、短期間で日本薬局方の基準値である根部が0.5cm以上の太さの基準値を超え、且つ低イニシャルコストであると共に収穫や採取後の加工が容易な、コストパフォーマンスに優れたカンゾウ属植物を得たいような場合に、極めて高い利用可能性がある。
【符号の説明】
【0055】
1 畝
2 シート
3 培養土
4 底板部
5 孔
5a、5b 小径孔
6 栽培補助用筒体
6a、13a 側壁
7 設置用孔
7A 栽培用孔
8 カンゾウ属植物
9 ストロン
10 根部(主根)
10a 先端部
11 側根
12 排水孔
13 ポリエチレン製ポット
14 カンゾウ根
15 茎・葉
20、20A 底面キャップ
21 中径孔


























【特許請求の範囲】
【請求項1】
露地の畑に所定高さに盛土して畝を形成し、該畝に水を通さないシートを被せ、養分を充分含んだ培養土を充填し底板部に1以上の孔を開けた長さ100mmないし300mmの栽培補助用筒体を、前記シートに開けた設置用孔を通して前記畝に立設し、該栽培補助用筒体内にカンゾウ属植物を植えてなり、前記シートにより降水量を遮断して畝内の水分をコントロールすると共に、前記栽培補助用筒体の側壁により前記カンゾウ属植物の水平方向へのストロンの生育を抑制し、且つ、前記カンゾウ属植物の垂直方向へ延びる根部は1以上の孔を抜けて、水分をコントロールした前記畝にて生育させ、前記根部を主に肥大化させるようにしたことを特徴とするカンゾウ属植物の栽培方法。
【請求項2】
前記孔は、前記栽培補助用筒体の底板部に開けた複数の小径孔からなる請求項1記載のカンゾウ属植物の栽培方法。
【請求項3】
前記孔は、前記栽培補助用筒体の底板部の中心部に開けた一の中径孔と、該中径孔周りの底板部に開けた複数の小径孔とからなる請求項1記載のカンゾウ属植物の栽培方法。
【請求項4】
育苗用栽培容器にてカンゾウ属植物を予備栽培して、径5mmないし20mm、長さ20mmないし100mm程度にカンゾウ根を生育させ、一方、所定高さに盛土した畝に水を通さないシートを被せ、該シートに栽培用孔を開け、前記カンゾウ根を、その上部にある茎・葉及びストロンの成長点が前記畝の表面より上方に位置するように、前記栽培用孔を通して前記畝に植えてなり、前記カンゾウ根のストロンの生育を抑制し、且つ、前記カンゾウ属植物の根部を、水分をコントロールした前記畝にて生育させ、前記根部を主に肥大化させるようにしたことを特徴とするカンゾウ属植物の栽培方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−170343(P2012−170343A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32698(P2011−32698)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(500094543)新日本製薬 株式会社 (6)
【Fターム(参考)】