説明

カンチレバー、バイオセンサ、及びプローブ顕微鏡

【課題】重量検出感度を向上させるためのカンチレバーの形状を見い出す。検出対象物に関する物理量を検出することができるようにする。
【解決手段】カンチレバー型バイオセンサは、台座12の先端にカンチレバー10の一端が支持されて取り付けられており、カンチレバー10の表面には、表面に開口し、かつ、カンチレバー10の厚さ方向に貫通する複数の貫通孔10Aを穿設されている。貫通孔10Aの開口部は、各々矩形状であり、粘性抵抗を小さくするために、複数の貫通孔10Aを穿設して、開口面積をできるだけ大きくしている。これにより、カンチレバー10を振動させるときに、カンチレバー10の複数の貫通孔10Aによって、分子の移動が滑らかになるため、大きな粘性抵抗が発生することを防ぎ、粘性抵抗が小さくなっている。従って、質量変化に対する周波数変化の変化量が大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応及び蛋白質等を高感度で検出することができるカンチレバー、バイオセンサ、及びプローブ顕微鏡に係り、特に、片持ち張り(カンチレバー)を用いて液体中に溶解している物質や大気中に浮遊している物質を高感度で検出することができるカンチレバー、バイオセンサ、及び試料表面形状を高分解能で検出できるプローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力電子顕微鏡で用いられているカンチレバーは、共振点を持ち、外部から受ける力により共振点がシフトすることを利用して微小な力であるpN(ピコニュートン)単位の力を計測できるセンサとして利用されている。
【0003】
カンチレバーをバイオセンサとして利用した論文としては、ラング等が発表したセンサ(非特許文献1)が知られている。
【0004】
このセンサは、光てこを利用して小さなカンチレバーの共振周波数の変化を検出し、物理量、化学量、温度、または応力等を検出するセンサである。
【0005】
また、カンチレバー共振型バイオセンサでは、カンチレバー表面に分子等を多数吸着させるために、板状のものを使用している。
【非特許文献1】”人工ノーズ”(アナリティカ ケミカ アクタ Analytica Chamica Acta 第393巻(1999年)59頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のカンチレバー共振型バイオセンサでは、液中でカンチレバーを共振する際に液を動かすため、大きな粘性抵抗が発生し、Q値が下がり、検出感度が落ちてしまう、という問題がある。また、検出感度を向上させるためには、共振周波数を増加させること、及びカンチレバーの重さを小さくすることが必要である。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、検出感度を向上させて、検出対象物に関する物理量を高感度で検出することができるカンチレバー、バイオセンサ、及びプローブ顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明に係るカンチレバーは、支持部を介して基板に支持された板状のカンチレバーであって、表面に開口し、かつ、前記カンチレバーの厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を穿設したことを特徴としている。
【0009】
本発明に係るカンチレバーによれば、カンチレバーを振動させるときに、カンチレバーの複数の貫通孔によって、分子の移動が滑らかになるため、大きな粘性抵抗が発生することを防ぐことができる。また、共振周波数をあまり低下させずにカンチレバーの重量を小さくすることができるので、検出感度を向上させることができる。さらに、2つの支持部や大きな開口部を持つカンチレバーはねじれ成分を多くもつが、本発明ではねじれ成分の増加を防ぐことができる。
【0010】
従って、カンチレバーの表面に複数の貫通孔を穿設することにより、大きな粘性抵抗が発生することを防ぐことができるため、検出感度を向上させて、検出対象物に関する物理量を高感度で検出することができる。
【0011】
本発明に係る貫通孔の開口部を、一辺が3μm〜6μmの大きさの矩形状とすることができる。
【0012】
上記のカンチレバーの貫通孔が穿設されていない未開口部分に探針を形成することができる。これによって、検出感度を向上させて、検出対象物の表面の形状を高感度かつ高分解能で検出することができる。
【0013】
また、本発明に係るカンチレバーの貫通孔が穿設されていない未開口部分の少なくとも一部分を反射面とすることができる。
【0014】
また、本発明に係るカンチレバーの支持部に歪み抵抗素子を設けることができる。これによって、歪み抵抗素子の出力に基づいて、検出感度を劣化させずに、検出対象物に関する物理量を検出することができる。
【0015】
また、カンチレバーの貫通孔が穿設されていない未開口部分を静電容量素子の一部とすることができる。
【0016】
上記のカンチレバーを、液中に浸漬するか、又は大気中に配置することができる。これによって、カンチレバーが液中又は大気中で振動される場合であっても、検出感度を劣化させずに、検出対象物に関する物理量を検出することができる。
【0017】
また、本発明に係るバイオセンサは、上記のカンチレバーと、カンチレバーに付着した物質の付着量を検出する検出手段とを含んで構成されている。
【0018】
本発明に係るバイオセンサによれば、カンチレバーを振動させるときに、カンチレバーの複数の貫通孔によって、分子の移動が滑らかになるため、大きな粘性抵抗を発生させることなく、検出手段によって、カンチレバーに付着した物質の付着量を検出することができる。これによって、重量検出感度が向上する。また、カンチレバーの重量が減少し、共振周波数がほとんど変化しないため、重量検出感度が向上する。
【0019】
従って、カンチレバーの表面に複数の貫通孔を穿設することにより、大きな粘性抵抗が発生することを防ぎ、また、重量を減少させるため、カンチレバーに付着した物質の付着量を高感度で検出することができる。
【0020】
また、本発明に係るプローブ顕微鏡は、上記の未開口部分に探針が形成されたカンチレバーを備え、カンチレバーを、探針と試料の表面との間に原子間力が作用するように配置して構成されている。
【0021】
本発明に係るプローブ顕微鏡によれば、カンチレバーを振動させるときに、カンチレバーの複数の貫通孔によって、分子の移動が滑らかになるため、大きな粘性抵抗を発生させることなく、高感度で探針と試料の表面との間に作用する原子間力を検出することができる。
【0022】
従って、カンチレバーの表面に複数の貫通孔を穿設することにより、大きな粘性抵抗が発生することを防ぐことができるため、高感度で探針と試料の表面との間に作用する原子間力を検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のカンチレバー、バイオセンサ、及びプローブ顕微鏡によれば、カンチレバーの表面に複数の貫通孔を穿設することにより、大きな粘性抵抗が発生することを防ぐことができるため、重量検出感度を向上させて、検出対象物に関する物理量、カンチレバーに付着した物質の付着量を高感度で検出することができ、又は探針と試料の表面との間に作用する原子間力を高感度で検出することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサは、基板としての台座12に支持された薄板状のカンチレバー10を備えている。
【0025】
台座12には、台座12を加振することによりカンチレバー10を振動させる圧電素子で構成されたアクチュエータ14が取り付けられている。アクチュエータ14は、台座12に接着又は機械的に接合させて、台座12と一体化するように取り付けられている。また、アクチュエータ14を取り付ける位置は、カンチレバー10をカンチレバー10の厚み方向に振動させることができる位置であればよく、図示したように台座12のカンチレバーが形成されていない側、又はカンチレバーが形成されている側に取り付けられる。
【0026】
また、カンチレバー10の台座12との支持部としての接合部16には、自己検知型のセンサである歪み抵抗素子が埋め込まれている。アクチュエータ14によりカンチレバー10を厚み方向に振動させることにより、カンチレバー10の台座12との接合部16に引張り及び圧縮応力が生じ、歪み抵抗素子の抵抗値が変化するため、この抵抗値の変化からカンチレバー10の振動状態を検出することができる。
【0027】
カンチレバー10は、シリコン、SiN、SiO等で形成された半導体基板を台座12に相当する部分を残存させて薄板状にエッチングすることにより、台座12と一体的に形成することができる。また、歪み抵抗素子については、カンチレバー10の台座12との接合部16に、半導体技術で一対の電極が形成されており、ボロン等の不純物原子を電極間にイオン打ち込みすることにより歪み抵抗パターンが形成されて作成されている。歪み抵抗の抵抗値は、2kΩ以下が望ましい。なお、カンチレバー10と台座12とは、シリコン基板で形成することが好ましいが、イオン打ち込みすることなく、電極を形成して歪み抵抗素子を貼着するようにしてもよい。
【0028】
歪み抵抗素子の電極には、歪み抵抗素子の抵抗値の変化を検出するための検出回路18が接続されている。検出回路18は、歪み抵抗素子の電極が接続されたホイーストンブリッジを構成するブリッジ回路、及びブリッジ回路に電圧を印加する電源を備えており、歪み抵抗素子の抵抗変化を電圧変化として検出し、検出した信号を出力する。この検出回路18は、アクチュエータ14を駆動してカンチレバー10を共振させるための正帰還回路20、及び周波数を電圧に変換するF−V変換回路(FM復調回路)22に接続されている。F−V変換回路22には、データ処理及び表示を行なうパーソナルコンピュータ26が接続されている。
【0029】
パーソナルコンピュータ26は、一般的なパーソナルコンピュータの構成であり、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、ディスプレイ等を備えており、F−V変換回路22から入力されたデータをハードディスクに保存し、また、保存したデータに基づいて所定のデータ処理を行う。
【0030】
次に、本実施の形態のカンチレバーに付着した物質の質量を検出するための原理について説明する。カンチレバーは、外力が加わると撓み、共振している状態で質量が変化すると共振周波数が変化する。カンチレバーを振動子として考えると、カンチレバーの動作は以下の(1)式の運動方程式で表すことができる。
【0031】
【数1】

【0032】
ここで、mはカンチレバーの有効質量、aはカンチレバーが浸漬されている液体等の粘性係数、kはカンチレバーのバネ定数、Asinωtはアクチュエータの励振力、F(x)はアクチュエータの加振力、xはカンチレバーの変位である。また、F(x)は力勾配F´と変位xとの積で表されるので、以下の(2)式で表わすことができる。
【0033】
【数2】

【0034】
また、一般式は、以下の(3)式で表すことができる。
【0035】
【数3】

【0036】
上記(1)式より、aやF´がほとんど無視できるものとすると、カンチレバーの共振周波数f0は、カンチレバーの有効質量m及びばね定数kを用いて以下の(4)式で表わされる。
【0037】
【数4】

【0038】
ここで、カンチレバーが周波数f0で共振している状態で、カンチレバーの質量がΔm増加すると、周波数の変化Δfは、上記(4)式より、以下の(5)式のように表される。
【0039】
【数5】

【0040】
したがって、上記(5)式より、カンチレバーの共振周波数の変化を検出することにより、カンチレバーの質量の変化、すなわちカンチレバーに付着した物質の質量を検出することができる。周波数の変化を1Hz以下の精度で計測できることから、上記(5)式ではピコグラムまたはフェムトグラムでカンチレバーの質量の変化が計測できることを意味する。例えば、共振周波数f0を100kHz、カンチレバーの有効質量mを10ngとすると、約0.2pg/Hzの感度でカンチレバーに付着した物質の質量を検出することができる。
【0041】
ここで、大気中測定と水中測定とでは粘性係数aが変化することを考慮する必要がある。以下で、粘性を考慮する場合(水中)の周波数変化Δfの解析について説明する。
【0042】
粘性係数aを考慮した場合には、aが0でないとして、上記(3)式より、以下の(6)式で表わされる。
【0043】
【数6】

【0044】
上記(6)式を、m、kで全微分すると、以下の(7)式が得られる。
【0045】
【数7】

【0046】
バネ定数の変化Δkを無視すると、Δk=0となるため、上記(7)式は以下の(8)式で表わされる。
【0047】
【数8】

【0048】
ここで、上記(8)式について、実験で用いたピエゾ抵抗カンチレバーの質量mを45.6×10−9とし、バネ定数kを40とした場合に、aをパラメータとしたΔmとΔf1との関係は、図2に示すような関係となる。
【0049】
上記図2に示すように、Δmの増加とともにΔf1は減少する。また、a=0.0005のときの変化量Δf1/Δmは、−0.022[Hz・ng−1]であり、a=0.00075のときの変化量Δf1/Δmは、−0.0185[Hz・ng−1]であり、a=0.001のときの変化量Δf1/Δmは、−0.01185[Hz・ng−1]である。
【0050】
上記図2の結果により、粘性抵抗aが大きくなると、質量変化に対する周波数変化の変化量が小さくなるため、質量の検出感度が低下することが分かる。これより、検出感度を低下させないためには、粘性抵抗aを小さくすることが必要である。すなわち、カンチレバーを振動させた際に、分子の移動がスムーズなほど、検出感度が良くなる。
【0051】
以下、本実施の形態のカンチレバー10の構成について図3を用いて説明する。図3(A)に示すように、台座12の先端にカンチレバー10の一端が支持されて取り付けられており、また、台座12の中には、2つの電極12A、12Bが形成されている。また、図3(B)に示すように、2つの電極12A、12Bは、接合部16で接続されている。また、カンチレバー10の表面には、表面に開口し、かつ、カンチレバー10の厚さ方向に貫通する複数の貫通孔10Aを穿設されている。貫通孔10Aの開口部は、各々矩形状のフレーム構造となっており、一辺が3μm〜6μmの大きさとなっている。上記図2の結果より、粘性抵抗を小さくするために、分子の移動をスムーズにするとよいことから、開口面積をできるだけ大きくするために、複数の貫通孔10Aを穿設する。また、物質が付着する部分の面積を増やすために、カンチレバー10の表面積ができるだけ大きくなるように構成するとよい。
【0052】
また、図3(C)に示すように、接合部16の中には、2つの電極12A、12Bを接続するための配線16Aが設けられており、配線16Aと電極12A、12Bとの接続部分の各々には、歪み抵抗素子(ピエゾ抵抗素子)16Bが各々設けられている。
【0053】
以下、本実施の形態のカンチレバー型バイオセンサを用いた計測方法について説明する。正帰還回路20から加振信号がアクチュエータ14に入力されると、台座12が加振され、これによってカンチレバー10がカンチレバーの厚み方向に加振される。容器24中の反応溶液にカンチレバー10を浸漬すると、カンチレバー10に反応溶液が付着すると共に反応溶液の粘性の影響によってカンチレバー10の振動数が若干減少する。しかしながら、このとき種々の振動モードが発生するので、カンチレバー10は当初の共振周波数とは異なる周波数で共振する。このときのカンチレバー10と台座12との動きが一体ではないので、歪み抵抗素子16Bに引張り及び圧縮応力が発生し、歪み抵抗素子16Bの抵抗が変化するため歪み抵抗素子16Bに一定電圧を印加していると、電流がカンチレバー10の振動に応じて変化する。この電流変化を検出回路18のブリッジ回路で電圧変化として検出することにより、カンチレバー10の振動周波数を検出することができ、これによりカンチレバー10の振動状態を検出することができる。
【0054】
ここで、カンチレバー10を振動させるときに、カンチレバー10の複数の貫通孔10Aによって、分子の移動が滑らかになるため、大きな粘性抵抗が発生することを防ぎ、粘性抵抗が小さくなる。従って、質量変化に対する周波数変化の変化量が大きくなっている。
【0055】
また、検出回路18で検出された電圧変化は、正帰還回路20で増幅され、位相が揃えられ、アクチュエータ14に入力される。これによって、カンチレバー10は共振周波数で振動される。また、検出回路18で検出された電圧変化は、F−V変換回路22でアナログ信号(出力V)に変換され、パーソナルコンピュータ26に入力される。
【0056】
次に、コンピュータによる演算処理について図4を参照して説明する。ステップ100では、F−V変換回路から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込み、ステップ102において出力Vをコンピュータのメモリに記憶する。
【0057】
次のステップ104では、前回取り込んだ出力を今回取り込んだ出力とを比較し、出力の変化量ΔVを演算し、ステップ106において、上記(5)式に基づいてカンチレバーに付着した物質の質量を演算する。これにより、カンチレバーに付着した物質の質量の時間変化を検出することができる。また、この質量の時間変化を所定時間にわたって積算することにより、所定時間内にカンチレバーに付着した物質の総量を検出することができる。このようにして検出したカンチレバーに付着した物質の質量は、コンピュータに接続されているLCD等の表示装置に表示される。
【0058】
そして、ステップ108において、一定時間内で出力Vが変化したか否かを判定し、変化したと判断された場合には、ステップ100へ戻るが、一定時間内で出力Vの変化がなかった場合には、カンチレバーに付着する物質の質量変化がなくなったと判断し、演算処理を終了する。この他にコンピュータでは、ノイズ除去や反応速度等を処理、演算することができる。
【0059】
本実施の形態のバイオセンサを抗原抗体反応の検出に利用するには、最初に抗体をカンチレバーの表面に付着してカンチレバーを反応溶液に浸漬し、その後抗原を持つ測定試料を反応容器24の反応溶液中に投入する。これにより、アレルギー等の要因を持つ体質か否かが明らかになる。また、このような場合と逆に、最初に抗体を反応容器に入れてから抗原を投入すると、人間の体内にアレルギー物質が生成しているのが分かる。
【0060】
次に、カンチレバー10の貫通孔10Aの開口部の大きさに関する検討結果について説明する。図5に示すように、カンチレバーの貫通孔の開口部の矩形状の大きさが、3μm×3μm(図5(A)参照)、4μm×4μm(図5(B)参照)、5μm×5μm(図5(C)参照)、6μm×6μm(図5(D)参照)の各々となる場合について検討を行った結果を以下に示す。なお、上述したカンチレバーは、長さが100μmであり、幅が49〜51μmであり、厚さが4μmである。
【0061】
貫通孔の開口部の大きさの変化に対する検出感度の変化について調べると、図6に示すように、貫通孔の開口部の大きさが大きくなるについて、検出感度が向上していくことが分かる。また、貫通孔の開口部の大きさの変化に対する共振周波数の変化について調べると、図7に示すように、貫通孔の開口部の大きさが大きくなるにつれて、共振周波数が高くなるが、ほぼ同じ共振周波数であることが分かる。また、貫通孔の開口部の大きさの変化に対する表面積の変化について調べると、図8に示すように、貫通孔の開口部の大きさが大きくなるにつれて、表面積が縮小していくことが分かる。
【0062】
以上の検討結果から、貫通孔の開口部を、一辺が3μm〜6μmの大きさの矩形状とすればよく、検出感度を高くするためには、一辺が6μmの大きさの矩形状とすることが好ましい。
【0063】
また、表面積を大きくするためには、一辺の大きさが小さい矩形状とすればよく、例えば、一辺が3μmの大きさの矩形状とすればよい。
【0064】
次に、カンチレバー10の全体の長さに関する検討結果について説明する。図9に示すように、カンチレバーの全体の長さが、100μm(図9(A)参照)、80μm(図9(B)参照)、60μm(図9(C)参照)の各々となる場合について検討を行った結果を以下に説明する。なお、上述したカンチレバーは、貫通孔の開口部の大きさが6μm×6μmであり、幅が50μmであり、厚さが4μmである。
【0065】
カンチレバーの全体の長さの変化に対する検出感度の変化について調べると、図10に示すように、カンチレバーの全体の長さが長くなるについて、検出感度が低下していくことがわかる。また、カンチレバーの全体の長さの変化に対する共振周波数の変化について調べると、図11に示すように、カンチレバーの全体の長さが長くなるにつれて、共振周波数が低下していくことがわかる。また、カンチレバーの全体の長さの変化に対する表面積の変化について調べると、図12に示すように、カンチレバーの全体の長さが長くなるにつれて、表面積が拡大していくことが分かる。
【0066】
重量検出には、図10と図12とを考慮すればよく、総合的にはカンチレバーの全体の長さを短くすれば良いことが分かる。また、周波数を低くするために、カンチレバーの厚さを薄くすればよい。
【0067】
以上の検討結果から、検出感度を高くするためには、カンチレバーの全体の長さを短くすればよい。また、共振周波数を高くするためには、カンチレバーの全体の長さを短くすればよく、共振周波数を低くするためには、カンチレバーの全体の長さを長くすればよい。 また、表面積を大きくするためには、カンチレバーの全体の長さを長くすればよい。
【0068】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサによれば、カンチレバーの表面に複数の貫通孔を穿設して、分子を通り易くしたフレーム構造としたことにより、大きな粘性抵抗が発生することを防ぐことができるため、液中の中でもQ値を落とさずに、検出感度を向上させて、カンチレバーに付着した物質の質量を検出することができる。
【0069】
また、カンチレバーの表面に複数の貫通孔を穿設することにより、分子の移動が滑らかになり、粘性抵抗が小さくなって、質量変化に対する周波数変化の変化量が大きくなるため、液中でも、高い検出感度でカンチレバーに付着した物質の質量を検出することができる。
【0070】
また、センサとして歪み抵抗素子をカンチレバーに埋め込むことより、光てこ方式を使用しないため、溶液中などでカンチレバー型バイオセンサを使用する際に光軸調整する必要がなく、簡便に使用することができる。
【0071】
また、検出回路で検出された電圧変化を示す信号をデジタルデータに変換し、このデジタルデータに基づいて計測対象物に関する物理量を計測することにより、検出できる電圧変化の周波数領域に制限がなく、また、電圧変化が大きくても高精度に電圧変化を検出できるため、高精度かつ広範囲に計測対象物に関する物理量を計測することができる。
【0072】
本実施の形態では、アクチュエータ14を圧電素子で構成した例について説明したが、本実施の形態においては図13に示すように圧電素子の電極部分の各々に絶縁皮膜28を被覆し、電気的に絶縁するようにしてもよい。この場合においても、上記と同様に、アクチュエータ14の一方の絶縁皮膜を台座12に接着または機械的に接合させてアクチュエータ14を台座12とを一体化させる。アクチュエータ14の電極が絶縁皮膜28により被覆されているため、このカンチレバー10を反応溶液に浸漬することにより直ちに計測を開始することができる。
【0073】
また、上記では、カンチレバーを溶液中に浸漬した場合を例に説明したが、計測対象物が浮遊している大気中にカンチレバーを配置するようにしてもよい。
【0074】
また、図14に示すように、カンチレバー10及び台座12を絶縁皮膜28で被覆するようにしてもよい。この場合には、アクチュエータ14は図13に示したように絶縁皮膜により被覆してもよいし、被覆しないようにしてもよい。これにより、カンチレバー10を反応溶液中に浸漬したときに、カンチレバー10の表面にリーク電流が流れるのを防止し、検出回路18によって正確に電流を計測することができる。
【0075】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、カンチレバーの振動状態の変化を検出するセンサとして第1の実施の形態の歪み抵抗素子に代えて、カンチレバーの振動に応じて静電容量が変化する静電容量素子を使用するものである。本実施の形態では、図15に示すように、カンチレバー10と台座12との接合部16には、歪み抵抗素子が設けられていない。
【0076】
また、図16に示すように、カンチレバー10と対向して平行になるように対向電極30が台座12に固定され、対向電極30により、カンチレバー10の貫通孔10Aが穿設されていない未開口部分を静電容量素子の一部とし、対向電極30とカンチレバー10の未開口部分との間に静電容量素子が構成されている。そして、カンチレバー10及び対向電極30は、上記と同様に静電容量素子と共にホイーストンブリッジを構成するブリッジ回路を備えた検出回路18に接続されている。これにより、カンチレバーが振動すると静電容量素子の静電容量が周期的に変化するため、検出回路のブリッジ回路によってカンチレバーの振動を検出し、振動信号を出力することができる。
【0077】
ここで、カンチレバー10を振動させるときに、カンチレバー10の複数の貫通孔10Aによって、分子の移動が滑らかになるため、大きな粘性抵抗が発生することを防ぎ、粘性抵抗が小さくなる。従って、質量変化に対する周波数変化の変化量が大きくなっている。
【0078】
本実施の形態によれば、検出回路から出力される振動信号から共振周波数の変化を検出し、この共振周波数の変化から上記と同様にカンチレバーに付着した物質の質量の時間変化等を検出することができる。
【0079】
また、カンチレバーの複数の貫通孔によって、粘性抵抗が小さくなり、質量変化に対する周波数変化の変化量が大きくなるため、高い検出感度で、カンチレバーに付着した物質の質量の時間変化を検出することができる。
【0080】
次に、図17を参照して本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態の対向電極をアクチュエータとして使用するようにしたものである。カンチレバーの振動を検出するセンサとしては、第1の実施の形態と同様の歪み抵抗素子16Bが用いられている。
【0081】
歪み抵抗素子16Bは、第1の実施の形態と同様に、検出回路18のブリッジ回路に接続されている。また、カンチレバー10の基端側は接地され、静電容量素子を構成する対向電極30は、正帰還回路20に接続されている。
【0082】
本実施の形態によれば、歪み抵抗素子16Bの電圧変化を検出回路18のブリッジ回路で検出し、検出した信号が正帰還回路20に入力され、対向電極30に加振信号として入力されるので、カンチレバー10が共振振動するように制御される。また、検出回路18のブリッジ回路で検出された信号は、F−V変換回路22を介してパーソナルコンピュータ26に入力され、パーソナルコンピュータ26において共振周波数の変化から上記と同様にカンチレバー10に付着した物質の質量の時間変化等が検出される。
【0083】
次に、図18を参照して本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第3の実施の形態の静電誘導アクチュエータに代えて、電磁誘導型アクチュエータを用いたものである。本実施の形態では、カンチレバー10と対向して略並行になるように電磁誘導コイル32が台座12に固定され、カンチレバー10の表面側には磁性材で構成された磁性薄膜34がコーティングされている。カンチレバーの振動を検出するセンサとしては、第1の実施の形態と同様の歪み抵抗素子16Bが用いられている。
【0084】
本実施の形態によれば、上記と同様に歪み抵抗素子16Bからの信号を検出回路18のブリッジ回路で検出し、検出した信号が正帰還回路20に入力され、電磁誘導コイル32に加振信号として入力されるので、カンチレバー10が共振振動される。また、検出回路18のブリッジ回路で検出された信号は、上記と同様にF−V変換回路22を介してパーソナルコンピュータ26に入力され、パーソナルコンピュータ26において共振周波数の変化からカンチレバー10に付着した物質の質量の時間変化等が検出される。図18では片面だけにコーティングしたが、両面にコーティングしてもよく、図18と反対の面にコーティングしてもよい。
【0085】
図19は、本発明の第5の実施の形態を示すものであり、図14に示したカンチレバーの絶縁皮膜に、検出対象の物質を付着させるために、特別な化学反応基を付着させるための金等で構成された薄膜36を被覆したものである。薄膜の種類は、付着させる物質に応じて適宜選択される。これにより、チオール基等を介在して人為的に選択された蛋白質、DNA、抗体、または抗原等の計測対象物に関する物理量の時間変化等を検出することができる。
【0086】
次に、第6の実施の形態について説明する。第6の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサは、図20に示すように、レーザ光を照射する半導体レーザ212と、半導体レーザ212から照射されたレーザ光であって、かつ、レンズ(図示省略)によって集光された光を反射させるための反射面を有するカンチレバー210と、カンチレバー210の反射面で反射されたレーザ光を入射させるように設けられたフォトダイオード等で構成された位置検出器214とを備えており、光てこを利用して小さなカンチレバー210の共振周波数の変化を検出し、物理量、化学量、温度、または応力等を検出する。
【0087】
また、カンチレバー型バイオセンサは、台座215を加振することによりカンチレバー210を振動させる圧電素子で構成されたアクチュエータ216と、カンチレバー210の共振周波数の変化を検出するための検出回路218と、アクチュエータ216を駆動してカンチレバー210を共振させるための正帰還回路220、周波数を電圧に変換するF−V変換回路(FM復調回路)222と、データ処理及び表示を行なうパーソナルコンピュータ226とを備えている。
【0088】
また、図21に示すように、カンチレバー210は、貫通孔10Aが穿設されていない未開口部分を反射面としている。なお、カンチレバー210の反射面は平坦である。
【0089】
本実施の形態によれば、半導体レーザからレーザ光をカンチレバーの反射面に照射し、カンチレバーからの反射光を位置検出器に入射し、位置検出器から出力される振動信号から共振周波数の変化を検出し、この共振周波数の変化から上記と同様にカンチレバーに付着した物質の質量の時間変化等を検出することができる。
【0090】
また、カンチレバーを振動させるときに、カンチレバーの複数の貫通孔によって、分子の移動が滑らかになって、粘性抵抗が小さくなり、質量変化に対する周波数変化の変化量が大きくなるため、高い検出感度で、カンチレバーに付着した物質の質量の時間変化等を検出することができる。
【0091】
次に、第7の実施の形態について説明する。なお、第7の実施の形態では、走査型プローブ顕微鏡に本発明を適用した場合を説明する。
【0092】
第7の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡は、図22に示すように、カンチレバー310の貫通孔が穿設されていない未開口部分に探針310Aが形成されている。また、カンチレバー310と台座との接合部16には、第1の実施の形態と同様に、歪み抵抗素子16Bが設けられている。
【0093】
また、カンチレバー310は、光てこ検出器に固定され、あるいは走査機構に片持ち支持され、カンチレバー310の探針310Aと試料の表面との間に原子間力が作用するように、カンチレバー310が配置されている。
【0094】
光てこのレーザ光は探針310Aの裏側に入射され、反射して光てこ光学系を形成する。該裏面は金コートやAlコートしたものが使用される。
【0095】
第7の実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡では、走査機構によって、カンチレバー310をX方向、Y方向、Z方向の各々へ移動させると共に、カンチレバー310を共振振動させるように、アクチュエータが制御される。そして、歪み抵抗素子16Bから出力された信号を、第1の実施の形態と同様に、検出回路のブリッジ回路で検出し、F−V変換回路を介してコンピュータに入力される。そして、コンピュータにおいて共振周波数の変化から、カンチレバー310の探針310Aと試料の表面との間の原子間力の変化を検出し、試料の3次元的な表面形状を計測する。
【0096】
本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、カンチレバーを振動させるときに、カンチレバーの複数の貫通孔によって、分子の移動が滑らかになって、粘性抵抗が小さくなり、Q値が向上し、原子間力の変化に対する周波数変化の変化量が大きくなるため、高い検出感度で、探針と試料の表面との間の原子間力の変化を検出することができ、試料の3次元的な表面形状を高精度に計測することができる。
【0097】
なお、上記の実施の形態では、自己検知素子として、歪み抵抗素子または静電容量素子を用いた例について説明したが、圧電素子、電磁誘導素子、または温度検知素子等を用いるようにしてもよい。また、アクチュエータとしても圧電素子、静電駆動の静電容量素子に代えて、温度駆動のアクチュエータ、または光駆動のアクチュエータ等を用いるようにしてもよい。さらに、カンチレバーを絶縁皮膜で被覆した例について説明したが、自然酸化膜で覆うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサの構成を示す概略図である。
【図2】粘性係数を考慮した場合における質量の変化に対する周波数の変化の関係を示すグラフである。
【図3】(A)本発明の第1の実施の形態に係るカンチレバー及び台座の構成を示す図、(B)カンチレバーの構成を示す図、及び(C)カンチレバーと台座との接合部の構成を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態のカンチレバーに付着した物質を検出する処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】貫通孔の開口部の大きさが異なる複数のカンチレバーの構成例を示す概略図である。
【図6】貫通孔の開口部の大きさの変化に対する検出感度の変化の関係を示すグラフである。
【図7】貫通孔の開口部の大きさの変化に対する共振周波数の変化の関係を示すグラフである。
【図8】貫通孔の開口部の大きさの変化に対する表面積の変化の関係を示すグラフである。
【図9】全体の長さが異なる複数のカンチレバーの構成例を示す概略図である。
【図10】カンチレバーの全体の長さの変化に対する検出感度の変化の関係を示すグラフである。
【図11】カンチレバーの全体の長さの変化に対する共振周波数の変化の関係を示すグラフである。
【図12】カンチレバーの全体の長さの変化に対する表面積の変化の関係を示すグラフである。
【図13】本発明の第1の実施の形態の変形例を示す概略図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態の他の変形例を示す概略図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係るカンチレバーの構成を示す図である。
【図16】本発明の第2の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサの構成を示す概略図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサの構成を示す概略図である。
【図18】本発明の第4の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサの構成を示す概略図である。
【図19】本発明の第5の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサの構成を示す概略図である。
【図20】本発明の第6の実施の形態に係るカンチレバー型バイオセンサの構成を示す概略図である。
【図21】本発明の第6の実施の形態に係るカンチレバーの構成を示す図である。
【図22】本発明の第7の実施の形態に係るカンチレバーの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0099】
10、210、310 カンチレバー
10A 貫通孔
12、215 台座
12A 電極
14、216 アクチュエータ
16 接合部
16B 歪み抵抗素子
18、218 検出回路
20、220 正帰還回路
22 変換回路
26、226 パーソナルコンピュータ
30 対向電極
212 半導体レーザ
214 位置検出器
310A 探針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部を介して基板に支持された板状のカンチレバーであって、表面に開口し、かつ、前記カンチレバーの厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を穿設したカンチレバー。
【請求項2】
前記貫通孔の開口部を、一辺が3μm〜6μmの大きさの矩形状とした請求項1記載のカンチレバー。
【請求項3】
前記カンチレバーの前記貫通孔が穿設されていない未開口部分に探針を形成した請求項1又は2記載のカンチレバー。
【請求項4】
前記カンチレバーの前記貫通孔が穿設されていない未開口部分の少なくとも一部分を反射面とした請求項1又は2記載のカンチレバー。
【請求項5】
前記カンチレバーの支持部に歪み抵抗素子を設けた請求項1〜請求項3の何れか1項記載のカンチレバー。
【請求項6】
前記カンチレバーの前記貫通孔が穿設されていない未開口部分を静電容量素子の一部とした請求項1又は2記載のカンチレバー。
【請求項7】
前記カンチレバーを、液中に浸漬するか、又は大気中に配置した請求項1〜請求項6の何れか1項記載のカンチレバー。
【請求項8】
前記カンチレバーの母材が、シリコン、SiN、及びSiOの少なくとも一つで形成された請求項1〜請求項7の何れか1項記載のカンチレバー。
【請求項9】
表面が、金、白金、SiO、絶縁物、有機物、及び磁性材の少なくとも一つで被覆された請求項1〜請求項8の何れか1項記載のカンチレバー。
【請求項10】
請求項1〜請求項9の何れか1項記載のカンチレバーと、
前記カンチレバーに付着した物質の付着量を検出する検出手段と、
を含むバイオセンサ。
【請求項11】
請求項3記載のカンチレバーを備え、
前記カンチレバーを、前記探針と試料の表面との間に原子間力が作用するように配置したプローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−241619(P2008−241619A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85569(P2007−85569)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000151520)株式会社東京測器研究所 (29)