説明

カンデサルタンシレキセチル含有錠剤及びその製造方法

【課題】カンデサルタンシレキセチル含有錠剤中のカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制され安定化されているのみならず、カンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収が抑制され、ひいては急激な血圧低下に伴う副作用が抑制されて、患者の苦痛が改善されたカンデサルタンシレキセチル含有錠剤及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】カンデサルタンシレキセチル及びステアリン酸を含有することを特徴とするカンデサルタンシレキセチル含有錠剤、及びカンデサルタンシレキセチルに、ステアリン酸を配合することを特徴とするカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全等の患者の治療に有用なカンデサルタンシレキセチル含有錠剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、医薬品においては、過剰に活性成分が吸収された場合、悪心、嘔吐などの副作用を起こすことがある。そのため活性成分の過剰な吸収を抑制することにより、副作用を抑制して、患者の苦痛を改善した製剤が求められている。
【0003】
カンデサルタンシレキセチルは、結晶の粒子径を調整することによって、血中濃度を抑制できることが知られている(非特許文献1参照)。しかし、その一方で、カンデサルタンシレキセチルには、製剤化工程において圧力、摩擦、熱等により結晶の歪みが生じ、経日的な含量低下がみられることもあり(特許文献1参照)、常法により原薬の粒子径を調整するのは困難を伴う。
【0004】
カンデサルタンシレキセチルは、上記の通り、圧力等によって結晶の歪みが生じるので製剤化工程において結晶が変形し、純度低下、経時的な分解を引き起こす。そのため、種々のカンデサルタンシレキセチル製剤の安定化方法が提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。例えば、特許文献1では、カンデサルタンシレキセチル製剤の安定化のために、低融点油脂状物質を添加して有効成分の分解を抑制することが提案されている。また、特許文献2では、同様の目的で、親水コロイド特性を有する親水性物質を添加して、錠剤化における劣化に対して、有効成分を適切に安定化させることが提案されている。しかし、これらのカンデサルタンシレキセチル製剤についての特許文献には、カンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収の抑制についての記載、示唆は全く無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−194218号公報
【特許文献2】特表2008−528456号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Drug Bioavailability” P521-523 (The Biopharmaceutical Classification System), WILEY-VCH社出版, 2003年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、カンデサルタンシレキセチル含有錠剤中のカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制され安定化されているのみならず、カンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収が抑制され、ひいては急激な血圧低下に伴う副作用が抑制されて、患者の苦痛が改善されたカンデサルタンシレキセチル含有錠剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、カンデサルタンシレキセチルを安定化する物質として、特にステアリン酸を選択・使用することによって、カンデサルタンシレキセチル含有錠剤中のカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制され安定化された上で、しかもカンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収が抑制されることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤及びその製造方法を提供するものである。
【0010】
1.カンデサルタンシレキセチル及びステアリン酸を含有することを特徴とするカンデサルタンシレキセチル含有錠剤。
【0011】
2.ステアリン酸の含有量が、錠剤全重量に対して0.5〜40重量%である上記項1に記載のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤。
【0012】
3.カンデサルタンシレキセチルに、ステアリン酸を配合することを特徴とするカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤によれば、カンデサルタンシレキセチルに、ステアリン酸を配合したことによって、以下の如き格別顕著な効果を得ることができる。
【0014】
(1)カンデサルタンシレキセチル含有錠剤中のカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制され安定化されたカンデサルタンシレキセチル含有錠剤が提供される。
【0015】
(2)カンデサルタンシレキセチル含有製剤中のカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制されるのに加えて、更に、カンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収が抑制され、ひいては急激な血圧低下に伴う悪心、嘔吐、めまい、発疹等の副作用が抑制されて、患者の苦痛が改善されたカンデサルタンシレキセチル含有錠剤が提供される。
【0016】
(3)また、本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の製造方法によれば、カンデサルタンシレキセチルに、ステアリン酸を配合するという簡便な方法で、カンデサルタンシレキセチル含有錠剤中のカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制され安定化されるのみならず、カンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収が抑制され、ひいては急激な血圧低下に伴う副作用が抑制されて、患者の苦痛が改善されたカンデサルタンシレキセチル含有錠剤を容易に調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1及び比較例1で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤を服用した場合のカンデサルタンの血漿中濃度を、経時的に測定した結果を示したグラフである。
【図2】図2は、実施例1及び比較例1で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の溶出試験の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
カンデサルタンシレキセチル含有錠剤
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤は、カンデサルタンシレキセチルと、カンデサルタンシレキセチルを安定化する物質としてのステアリン酸とを含有することを特徴とし、これによってカンデサルタンシレキセチルの分解が抑制され安定化されるのみならず、カンデサルタンシレキセチルの過剰な吸収が抑制されるものである。
【0019】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤は、カンデサルタンシレキセチルと、ステアリン酸とを含有するものであり、カンデサルタンシレキセチルと、ステアリン酸と、製薬分野において通常使用される薬理学的に許容される各種添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤等を、混合し、含有する錠剤である。
【0020】
カンデサルタンシレキセチル含有錠剤としては、素錠、コーティング錠、徐放錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠等が好ましいものとして、包含される。
【0021】
カンデサルタンシレキセチル
カンデサルタンシレキセチルは、本発明錠剤の薬効成分であり、化学名が(RS)−1−〔(シクロヘキシルオキシ)カルボニルオキシ〕エチル 2−エトキシ−1−{〔2’−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イル〕メチル}−1H−ベンズイミダゾール−7−カルボキシレートである。カンデサルタンシレキセチルは、持続性アンジオテンシンII受容体拮抗作用を有しており、高血圧症、腎実質性高血圧症等の治療薬として有用である。
【0022】
添加剤
カンデサルタンシレキセチル及びステアリン酸は、通常、賦形剤、崩壊剤及び結合剤の少なくとも1種の薬理学的に許容可能な添加剤と組み合わせて用いられる。
【0023】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、トウモロコシデンプンなどのデンプン類;乳糖、粉糖、グラニュー糖、ブドウ糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、タルク、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、第三リン酸カルシウム、キシリトール、ソルビトールなどが挙げられる。これらの賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、架橋化ポリビニルピロリドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン類などが挙げられる。これらの崩壊剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
結合剤としては、慣用の結合剤、例えば、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム末、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、α化デンプン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの結合剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
これらの賦形剤、崩壊剤及び結合剤の少なくとも1種である添加剤の割合は、カンデサルタンシレキセチル100重量部に対して、500〜10000重量部程度の範囲から選択でき、通常、700〜8000重量部程度であるのが好ましく、900〜7000重量部程度であるのがより好ましい。
【0027】
カンデサルタンシレキセチルには、賦形剤、崩壊剤、結合剤などの薬理学的に許容可能な添加剤の他に、さらに、薬理学的に許容可能な慣用の他の添加剤、例えば、滑沢剤、流動化剤、帯電防止剤、界面活性剤、矯味剤、湿潤剤、充填剤、増量剤、吸着剤、保存剤(例えば防腐剤など)、緩衝剤、崩壊延長剤、着色剤などを加えてもよい。
【0028】
上記滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、タルク、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、L−ロイシンなどを挙げることができる。帯電防止剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸などを挙げることができる。界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体などの非イオン系界面活性剤などを挙げることができる。矯味剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、マンニトール、キシリトール、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオシド、スクラロース、アセスルファムカリウム、タウマチン、エリスリトールなどの甘味剤;香料などを挙げることができる。湿潤剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、グリセリン、プロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0029】
これら慣用の他の添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分は、特に、最終錠剤中の含量に制限はない。
【0030】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の製造方法は、カンデサルタンシレキセチルに、ステアリン酸を配合することを特徴とする。カンデサルタンシレキセチル及びステアリン酸を含有する錠剤は、薬学分野において公知の方法に従って、製造することができる。例えば、カンデサルタンシレキセチルと、ステアリン酸と、賦形剤、崩壊剤、結合剤等の添加剤とを、通常使用される溶媒を用いて、混合、造粒、乾燥、整粒、打錠等の各操作を、当該分野で周知の方法に従って行うことによって、錠剤を製造できる。整粒後打錠前に、崩壊剤、滑沢剤等を混合してもよい。これらの操作の内、造粒操作は、例えば、撹拌造粒機、流動層造粒機、ブラベンダー、双軸造粒機等の装置を使用して行えばよい。また、打錠は、市販の打錠機を使用して、行うことができる。
【0031】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤において、ステアリン酸の含有量は、通常、錠剤全重量に対して、0.5〜40重量%程度であるのが好ましく、1〜20重量%程度であるのがより好ましい。
【0032】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の製造において、素錠又は造粒後の素顆粒等に、コーティングを施してもよい。コーティングをする場合は、フィルムコーティング機、流動層造粒機等の手段により実施するのが好ましい。コーティングには、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒプロメロースフタル酸エステル、酢酸フタル酸セルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、乾燥メタクリル酸コポリマーLD、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、白糖等の当該分野で周知のコーティング剤を用いることができる。
【0033】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤を使用する場合、ヒトに、高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全等の患者の治療の有効量を投与すればよい。患者の年令、体重、症状、性別などにより投与量は変わりうるが、通常、1日当たり、1回または必要に応じて数回に分けて、カンデサルタンシレキセチルに換算して、例えば1〜50mg程度を経口的に投与することができる。
【0034】
本発明錠剤は、例えば、50℃密栓の条件で2週間保存後の主薬であるカンデサルタンシレキセチルの純度低下率が、0.4%未満であり、十分な経時安定性を有しており、その上で、カンデサルタンシレキセチルの血漿中濃度が抑制されていることによって、急激な血圧低下に伴う副作用の軽減効果が得られる。
【0035】
本発明錠剤は、PTP包装またはボトル包装(例:プラスチック瓶、ガラス瓶、アルミニウム缶)されていてもよい。また、それらの包装された錠剤は、さらにピロー包装等の二次包装されていてもよい。包装中には脱臭剤、乾燥剤、脱酸素剤等を同封しても良い。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0037】
実施例1
流動層造粒機(パウレック(株)製)にて、カンデサルタンシレキセチル24.0g、乳糖水和物552g、トウモロコシデンプン120g、ステアリン酸24.0gを混合し、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液をスプレーして造粒・乾燥した。これを22号篩で整粒した。得られた整粒物、カルメロースカルシウム33.6g、ステアリン酸マグネシウム2.40gを、V型混合機(不二パウダル(株)製)にて混合し、得られた混合末をロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)で、1錠当たりの重量130.0mg、厚み2.7mmとなるように打錠し、錠剤を得た。
【0038】
比較例1
流動層造粒機(パウレック(株)製)にて、カンデサルタンシレキセチル24.0g、乳糖水和物576g、トウモロコシデンプン120gを混合し、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液をスプレーして造粒・乾燥した。これを22号篩で整粒した。得られた整粒物、カルメロースカルシウム33.6g、ステアリン酸マグネシウム2.40gを、V型混合機(不二パウダル(株)製)にて混合し、得られた混合末をロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)で、1錠当たりの重量130.0mg、厚み2.7mmとなるように打錠し、錠剤を得た。
【0039】
実施例2
流動層造粒機(パウレック(株)製)にて、カンデサルタンシレキセチル48.0g、乳糖水和物537.6g、トウモロコシデンプン120g、ステアリン酸24.0gを混合し、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液をスプレーして造粒・乾燥した。これを22号篩で整粒した。得られた整粒物、カルメロースカルシウム24.0g、ステアリン酸マグネシウム2.40gを、V型混合機(不二パウダル(株)製)にて混合し、得られた混合末をロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)で、1錠当たりの重量130.0mg、厚み2.7mmとなるように打錠し、錠剤を得た。
【0040】
実施例3
流動層造粒機(パウレック(株)製)にて、カンデサルタンシレキセチル48.0g、乳糖水和物513.6g、トウモロコシデンプン120g、ステアリン酸48.0gを混合し、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液をスプレーして造粒・乾燥した。これを22号篩で整粒した。得られた整粒物、カルメロースカルシウム24.0g、ステアリン酸マグネシウム2.40gを、V型混合機(不二パウダル(株)製)にて混合し、得られた混合末をロータリー式打錠機(菊水製作所(株)製)で、1錠当たりの重量130.0mg、厚み2.7mmとなるように打錠し、錠剤を得た。
【0041】
表1に、錠剤1錠(130.0mg)当たりの成分処方を示した。
【0042】
【表1】

【0043】
次に、実施例1〜3及び比較例1で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の安定性試験を行った。安定性試験は、50℃密栓の保存条件下に2週間保存して、行った。
【0044】
開始時及び安定性試験後の錠剤について、HPLCを用いて、カンデサルタンシレキセチルのピーク面積を調べて、カンデサルタンシレキセチル純品のピーク面積に対する比率(純度)を、算出した。試料溶液は、被験錠剤1個を取り、粉砕し、水/メタノール(1/9容量比)の混合液を加えて、10分間超音波で抽出し、濾過して得た濾液を、試料溶液とし、下記HPLC測定方法によって、純度を調べた。
【0045】
HPLC測定方法
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル
カラム温度:35℃付近の一定温度
移動相:pH3.0のリン酸緩衝液及びメタノールの混液
流量:0.05mL/min
【0046】
表2に、実施例1、比較例1及び実施例2〜3で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤について、安定性試験の試験開始時並びに安定性試験を2週間行った試験終了後のカンデサルタンシレキセチルの純度(%)を示した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2より、ステアリン酸を配合した実施例1の錠剤は、ステアリン酸を配合していない比較例1の錠剤に比して、カンデサルタンシレキセチルの安定性が顕著に優れていることが明らかである。
【0049】
次に、実施例1及び比較例1で得た各カンデサルタンシレキセチル含有錠剤について、ヒトに投与したときのカンデサルタンの血漿中濃度を測定した。投与方法及び血漿中濃度測定方法は、以下の通りである。
【0050】
投与方法
20歳以上35歳以下の健康な成人男性9人を1群とし、2群合計18人を、被験者として、クロスオーバー試験をした。即ち、各群に対して、実施例1又は比較例1の錠剤を投与し、血漿中濃度を測定した後に、7日間の休薬期間を設け、次に、投与する錠剤をクロスして、投与し、血漿中濃度を測定した。投与量・投与方法は、いずれも、絶食下、被験錠剤1錠を水とともに経口投与した。
【0051】
血漿中濃度測定方法
血漿0.1mLに、メタノールを加えて全量1mLとし、攪拌後、遠心分離する。上清0.1mLを取り、水/メタノール(1/1容量比)の混合液0.4mLと混合し、この液5μLを用いて、下記のLC/MS/MS(島津製作所製)により、カンデサルタンの血漿中濃度を測定する。
【0052】
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル
移動相:0.1%ギ酸水溶液及びアセトニトリルの混液
定量範囲:1〜200ng/mL
【0053】
表3に、実施例1及び比較例1で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤について、ヒトに投与したときの血漿中カンデサルタン濃度(18例の平均値及びSD)を測定した結果を示した。尚、投与前のカンデサルタン濃度は0である。
【0054】
【表3】

【0055】
また、図1に、表3に示した、実施例1及び比較例1のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤をヒトに投与したときの血漿中濃度を測定した結果(平均値±SD)についてのグラフを示した。
【0056】
表3及び図1より、ステアリン酸を配合した実施例1のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤は、ステアリン酸を配合していない比較例1のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤に比して、カンデサルタンの血漿中濃度が抑制されていることが明らかである。
【0057】
次に、実施例1及び比較例1で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤について、溶出試験を行った。溶出試験方法は、下記の通りである。
【0058】
溶出試験
日本薬局方14局の溶出試験法の第2法(パドル法)に準じて試験を実施し、5分後、10分後、15分後、30分後、45分後、60分後、90分後、120分後のカンデサルタンシレキセチルの溶出率(%)を、下記HPLC測定方法によって、調べた。
【0059】
HPLC測定方法
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル
カラム温度:35℃付近の一定温度
移動相:アセトニトリル及び希酢酸の混液
流量:0.5mL/min
【0060】
溶出試験の試験条件は、下記の通りである。
各検体量:1錠
試験液:0.01%(W/V)ポリソルベート80添加のpH6.8の試験液
パドル回転数:50rpm
【0061】
表4に、溶出試験の結果を示す。各溶出率(%)は、3例の平均値及びSDを測定した結果で示した。尚、試験前の溶出率は0%である。
【0062】
【表4】

【0063】
図2に、実施例1及び比較例1で得たカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の溶出試験の結果(平均値)を示したグラフを示した。
【0064】
表4及び図2より、カンデサルタンシレキセチル含有錠剤において、ステアリン酸の含有の有無に拘わらず、溶出率には実質的な差がないことが明らかである。また、この溶出率の試験結果と、前記表3及び図1のカンデサルタンの血中濃度の試験結果とから、カンデサルタンシレキセチル含有錠剤において、ステアリン酸を含有させることによって、溶出率には差がないのにも拘わらず、血中濃度を抑制できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤は、高血圧症、腎実質性高血圧症、慢性心不全等の患者の治療に有用であり、本発明は製薬分野において有効に利用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンデサルタンシレキセチル及びステアリン酸を含有することを特徴とするカンデサルタンシレキセチル含有錠剤。
【請求項2】
ステアリン酸の含有量が、錠剤全重量に対して0.5〜40重量%である請求項1に記載のカンデサルタンシレキセチル含有錠剤。
【請求項3】
カンデサルタンシレキセチルに、ステアリン酸を配合することを特徴とするカンデサルタンシレキセチル含有錠剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153629(P2012−153629A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12556(P2011−12556)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000209049)沢井製薬株式会社 (24)
【Fターム(参考)】