説明

カンピロバクタージェジュニ(C.jejuni)N−グリカン、または、その誘導体を提示するサルモネラエンテリカ(Salmonellaenterica)

本発明は、カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の少なくとも一つのpglオペロン、または、その機能的誘導体を含み、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのN-グリカン、または、そのN-グリカン誘導体をその細胞表面に提示する、サルモネラ エンテリカ(Salmonella enterica)に関する。加えて、本発明は、医学的使用、および、その医薬組成物、ならびに、カンピロバクター、および場合によってはサルモネラ感染の治療及び/または予防のための方法、ならびに、これらサルモネラ菌株を作製する方法を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的誘導体を含み、および、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのN-グリカン、またはそのN-グリカンの誘導体を細胞表面に提示する、サルモネラ エンテリカ(Salmonella enterica)に関する。加えて、本発明は、医学的用途、それらで製造された、医薬組成物、食品、および、飼料添加物、ならびに、カンピロバクター感染、特に、カンピロバクター ジェジュニ(C. jejuni)、カンピロバクター ラリ(C. lari)、カンピロバクター コリ(C. coli)、カンピロバクター ウプサリエンシス(C. upsaliensis)、および、カンピロバクター フィタス(C. fetus)によって引き起こされる感染、および、場合によってはサルモネラ(Salmonella)感染の治療、および/または、予防のための方法、ならびに、前記サルモネラ菌株を作製するための方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni(C. jejuni))は、先進国におけるヒト急性胃腸炎の原因となる、食物経由の病原菌である。その一般的な宿主は、生きている家畜、特にニワトリ、および畜牛である。また、カンピロバクター ジェジュニの感染は、いくつかの長期的結果とも関連し、最も深刻なものは、自己免疫疾患である、ミラー フィッシャー症候群(Miller-Fisher syndrome)および、ギラン バレー症候群(Guillain-Barre syndrome)である。それらは、病原体の表面上の、哺乳類のガングリオシド構造の擬態に対して、哺乳類宿主の抗体によって引き起こされ、前記抗体は宿主自身のガングリオシドを攻撃する。前記分子擬態は、ワクチンとして、弱毒化した、または、死滅した(killed)カンピロバクター ジェジュニ細胞の使用の余地をなくするため、現在、カンピロバクター ジェジュニに対して利用可能で効果的なワクチンがない理由の一つである。
【0003】
米国特許第2007/065461号は、キャリアータンパク質に、in vitroにおいて任意に結合したカンピロバクター ジェジュニの、少なくとも一つの莢膜多糖類(CPS)から成るワクチンを開示する。マウスおよび類人猿へこの複合体を注射することにより、後のカンピロバクター ジェジュニの鼻腔内投与から保護された。このワクチンの製造は、CPSの単離と精製、およびキャリアータンパク質との化学結合、ならびに、さらなる精製工程を必要とする。
【0004】
Polyら(Infection and Immunity, 75:3425-3433, 2008)には、カンピロバクター ジェジュニ菌株が、ワクチンの候補として通常試験される、ガングリオシド擬態構造を欠いていることが記載されている。
【0005】
かつてグリコシル化は、真核生物に特異的な現象であるとみなされたが、後に、古細菌および真正細菌の両方のドメインに広がっていることが示された。細菌のO-およびN-結合は、真核生物の糖タンパク質において観察されるものよりも、広い範囲の糖と形成される。原核生物におけるタンパク質のグリコシドのN-グリコシル化は、最初、カンピロバクター ジェジュニにおいて示された(Szymanski et al., Molecular Microbiology 32:1022-1030, 1999)。カンピロバクター ジェジュニのグリコシル化の機構は、特徴付けられ、大腸菌(エシェリキア コリ(E. coli))に成功裏に導入され、タンパク質の活性なN-グリコシル化が実証された (Wacker et al., Science, 298:1790-1793, 2002)。(タンパク質のグリコシル化に関する)pglと呼ばれる、カンピロバクター ジェジュニの遺伝子座は、複合タンパク質のグリコシル化に関与する。その変異的なサイレンシングは複合タンパク質内の免疫原性の喪失をもたらす。
【0006】
米国特許出願第2006/0165728 A1号では、ヒトおよび獣医学的病原菌として重要である、少なくともいくつかのカンピロバクター(Campylobacter)種および多くの菌株に共通である、特異的かつ高度に免疫原性のヘプタサッカリドが同定されている。ヘプタサッカリドは以下の一般式(I):
【0007】
GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-Bac,
【0008】
を持ち、
式中、
Bac(バシロサミン(bacillosamine)とも呼ばれる)は、2,4-ジアセトアミド−2,4,6−トリデオキシ-D-グルコピラノースであり、
GalNAcは、N-アセチル-ガラクトサミンであり、および、
Glcはグルコースである。
このグリカン部分は、複合糖タンパク質の成分である。カンピロバクター ジェジュニにおいてN-グリカンは宿主細胞とカンピロバクター ジェジュニの相互作用にとって重要である。グリコシル化機構における変異は、マウスの腸管におけるコロニー形成の減少を導く。さらに、(i)前記ヘプタサッカリド、または、その複合体、あるいは、(ii)前記ヘプタサッカリドに対する抗体を含む医薬組成物が、家畜、特に家禽における、予防接種の使用のために提案されている。
【0009】
サルモネラ属は、エンテロバクター科(Enterobacteriaceae)のメンバーである。前記属は、条件的嫌気性、および有鞭毛(運動性)である、グラム陰性桿菌から成る。それらは、三つの主な抗原、「H」または鞭毛抗原、「O」または菌体抗原(LPS部分の一部)、および、「Vi」または莢膜抗原(他のエンテロバクター科において「K」と呼ばれる)を持つ。また、サルモネラは、グラム陰性細菌に特徴的である、LPSエンドトキシンを持つ。LPSは、三つのドメインから成る。リピドA部分は、またエンドトキシンとして知られ、LPS分子を、その脂肪酸鎖で外膜に固定する。それは、ヘキソースおよびN-アセチルヘキソースを含む外側のコアを伴う、ヘプトースおよびKOD(3-デオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸)から成る、内部のコアを通して連結される。外側のコアの末端のグルコースが結合するのは、ポリマー性O-抗原領域である。この領域は、4から6個の単糖類を含む、16から>100個のオリゴ糖構造の反復から成る。内毒素性リピドA部分は熱を引き起こし、補体、キニン、および凝固因子を活性化しうる。
【0010】
しばらくの間、サルモネラ菌株は、細菌免疫原の作製および提示に関心が持たれていた。例えば、赤痢菌(Shigella)のO-抗原の生合成のための酵素をコードする遺伝子は、ゲノム的に、ワクチン投与菌株であるサルモネラ エンテリカ(Salmonella enterica)血清型チフィリウム(Typhimurium)のaroAに組み込まれ、その後、ハイブリッドLPSが作製された(Falt et al., Microbial Pathogenesis 20:11-30, 1996)。また、サルモネラ ディセンテリエ(Salmonella dysenteriae)のO-抗原生合成のために必要なクラスターは安定な発現ベクターへクローニングされ、その後、腸チフスワクチン投与菌株Ty21aへ移行した。得られた菌株は、ハイブリッドLPSを産生し、サルモネラ ディセンテリエ(S. dysenteriae)の暴露に対する防御免疫を誘導する(DE Qui Xu et al., Vaccine 25: 6167-6175, 2007)。
【0011】
米国特許第6,399,074 B1号は、トリ病原性グラム陰性微生物による感染に対してトリを防御する、生弱毒化サルモネラワクチンを開示する。前記ワクチンは、家禽において病原性のある大腸菌O78のような、トリの病原性グラム陰性微生物のO-抗原を発現する、組換えサルモネラ菌株である。O-抗原ポリメラーゼrfz(新しい遺伝子名称 wzy)における変異のために、組換えサルモネラ菌株は、サルモネラO-抗原を発現しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】US2007/065461
【特許文献2】US2006/0165728 A1
【特許文献3】US6,399,074 B1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Poly et al., Infection and Immunity, 75:3425-3433, 2008
【非特許文献2】Szymanski et al., Molecular Microbiology 32:1022-1030, 1999
【非特許文献3】Wacker et al., Science, 298:1790-1793, 2002
【非特許文献4】Falt et al., Microbial Pathogenesis 20:11-30, 1996
【非特許文献5】DE Qui Xu et al., Vaccine 25: 6167-6175, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の先行技術の観点から、本発明の目的は、ヒトまたは動物における、特に、家畜、さらに特に家禽における、カンピロバクター感染の予防および/または治療のために、効果的、および安全な、簡単に大量生産される、長期間効果のある、および安価な、ワクチン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的誘導体を含み、かつ、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのN-グリカン、またはそのN-グリカン誘導体をその細胞表面に提示する、第一の態様におけるサルモネラ エンテリカの提供によって解決される。
【0016】
本発明のために有益なサルモネラ菌株は、生存および/または死亡形態において、ヒトおよび/または動物への非病原性投与を可能にするのに十分に弱毒化されるか、弱毒化されうる、任意の菌株でありうる。好ましいサルモネラ菌株は、サルモネラ チフィリウム(Typhimurium)、エンテリティディス(enteriditis)、ハイデルベルグ(heidelberg)、ガリナルム(gallinorum)、ハダル(hadar)、アゴナ(agona)、ケンタッキー(kentucky)、チフス(typhi)、およびインファンティス(infantis)から成る群から選択される、サルモネラ エンテリカ菌株であり、より好ましくは、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム菌株である。ゲノム配列が十分に特徴付けられており、かつ、多くの動物研究によりその安全な医薬的使用が確認されているため、サルモネラ チフィリウム菌株は、ワクチン投与の目的のために特に有用である。
【0017】
本願明細書において使用される、用語「pglオペロン」は、本発明のサルモネラ菌株によって産生される、N-グリコシル化相同的または異種的構造を可能にするカンピロバクター ジェジュニ遺伝子の、任意の生理学的に活性なN-グリコシル化クラスターを示す。カンピロバクター ジェジュニのpglオペロンは、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン ヘパトサッカリドの合成、内膜を通るその輸送、および、タンパク質への移行に必要な全ての酵素をコードする。PglD、E、F、は、バシロサミン生合成に関与する酵素をコードし、PglCはリン酸化バシロサミンをウンデカプレニルリン酸へ移行し、PglA、H、およびJは、GalNAc残基を付加する。分枝したGlcはPglIによって付加される。完成したへパトサッカリドの移行は、PglKの作用を介して起こり、オリゴサッカリルトランスフェラーゼPglBはN-グリカンをタンパク質へ移行する。
【0018】
pglオペロンの機能的誘導体は、ヌクレオチドまたは全遺伝子の欠失、変異、および/または置換を有するが、本発明のサルモネラ菌株によって産生された、相同的、または異種的構造へ連結することができる、連結可能なオリゴ―、または、ポリサッカリドをなお産生することができる、任意のカンピロバクター ジェジュニのpglオペロン由来の遺伝子のクラスターである。一つまたは複数のpglオペロンまたはその誘導体を、サルモネラ菌株の染色体へ組み込むことができ、あるいは、それを少なくとも一つのプラスミドの一部として導入することができる。伝播の際にロスが起こりうるプラスミドベクターに比べてより安定であるため、染色体への組み込みは好ましい。本発明のサルモネラ菌株は、一つまたは複数のN-グリカン類またはその誘導体を産生する、一つ超のpglオペロンまたはその誘導体を含みうることが注目される。実際のところ、本発明の菌株は、異なるカンピロバクター ジェジュニ菌株に対して、ヒトまたは動物において、さらに様々な免疫応答を引き出す利点となりうる、一つ超のN-グリカン構造をもたらす、一つ超のタイプのpglオペロンを有することが好ましい。
【0019】
また、カンピロバクター ジェジュニのN-グリカンの発現レベルを、リボソームタンパク質遺伝子、例えば、spc、または、rpsm、および、blaのような抗生物質耐性コード遺伝子由来のプロモーター、もしくは類するもの、および、好ましくは強いプロモーターを含むがそれに限定されない、pglオペロンの上流の異なるプロモーターの使用によって、任意に制御することができることが注目される。このタイプの制御により、プラスミドにコードされる、または、ゲノム的に組み込まれたpglオペロンを利用することができる。さらに、本発明のサルモネラ菌株のゲノム上の遺伝子を欠失させる一方で、プラスミド上に、必須の遺伝子を含むことによって、プラスミドの安定性を任意に増進することができる。好ましい標的は、例えば、CysSのようなtRNA-トランスフェラーゼをコードする遺伝子を含む。
【0020】
好ましい実施態様において、本発明のサルモネラ菌株は、少なくとも一つのpglオペロンを含む菌であり、バシロサミン生合成のための一つまたは複数の遺伝子が、変異、および/または、部分的、もしくは、完全な欠失によって、好ましくは、遺伝子D、E、F、Gの部分的および/または完全な欠失によって不活性化されている菌である。最も好ましい実施態様において、pglオペロンのpglE、F、および、G遺伝子を、完全に欠失し、かつ、pglD遺伝子を部分的に欠失する、例えば、pglDオペロンオープンリーディングフレーム(ORF)は270塩基対で終結する(全長ORFは612塩基対を含む)。
【0021】
さらに好ましい実施態様において、pglオペロンのpglB遺伝子は不活性化され、このことは、対応するオリゴサッカリルトランスフェラーゼBが発現しないか、あるいは少なくとも酵素的に不活性化されていることを意味する。pglB遺伝子産物は、N-グリカンを、さらに以下に記載された特異的なポリペプチド受容体部位へ移行する。トランスフェラーゼの不活性化は、サルモネラのO―抗原受容体リピドAコアに排他的に結合する、N-グリカン、または、N-グリカン誘導体を導く。
【0022】
最も好ましい実施態様において、pgl誘導体は、バシロサミン生合成のための、一つまたは複数の遺伝子、pglD、E、F、Gの一つであり、移行が不活性化され、かつ、pglB遺伝子もまた不活性化されるものである。この実施態様は、バシロサミンに関してGlcNAcへの変換を導き、細胞の提示の増加、および、改変されたヘパトサッカリドの、ポリペプチド受容体ではなくリピドAコアへの移行をもたらす。
【0023】
カンピロバクター ジェジュニの、少なくとも一つのN-グリカン、または、そのN-グリカン誘導体は、カンピロバクター ジェジュニの任意のpglオペロン、または、その機能的誘導体によって、産生される、任意のN-グリカンでありうる。もちろん、N-グリカンがまだ免疫原性であること、すなわち、カンピロバクター ジェジュニ特異的な免疫応答を引き起こすことが好ましい。
【0024】
好ましい実施態様において、N-グリカンは、前記の式(I)すなわち、GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-Bacのヘプタサッカリドであり、式中、Bac(または、バシロサミンと呼ばれる)が2, 4-ジアセトアミド-2, 4, 6−トリデオキシ−D−グルコピラノースである。
【0025】
好ましいpglオペロンは、バシロサミン生合成に関する遺伝子が不活性化され、好ましくは、大部分または完全に欠失し、N-グリカン誘導体、すなわち、式(II)のヘプタサッカリド、GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-GlcNAcの合成を導く。
【0026】
驚くべきことに、式(II)のN-グリカン誘導体は、本発明のサルモネラ菌株の細胞表面上に、式(I)のN-グリカンよりも、より大量に提示され、また免疫原性である。これは、以下の実施例のセクションにおいて、実験的に確かめられている。
【0027】
好ましい実施態様において、少なくとも一つのpglオペロンまたはその誘導体由来のN-グリカンもしくは誘導体を、最終的には細胞表面に移行され、かつ、提示される少なくとも一つの相同的または異種的サルモネラポリペプチドに連結することができる。好ましくは、少なくとも一つのN-グリカンまたはN-グリカン誘導体を、少なくとも一つのコンセンサスシークオン(sequon)N-Z-S/T(Nita-Lazar M et al., Glycobiology. 2005;15(4):361-7を参照せよ)、好ましくは、D/E-X-N-Z-S/T(配列番号1)(式中、XおよびZは、Pro以外の任意の天然アミノ酸でありうる(Kowarik et al. EMBO J. 2006;25(9):1957-66を参照せよ))を含む、ポリペプチドに連結する。
【0028】
N-グリカン(誘導体)に連結したポリペプチドは、純粋なポリペプチド(アミノ酸のみ)、または、翻訳後修飾的に改変されたポリペプチド、例えば、脂質と連結したポリペプチドのような、任意のタイプのポリペプチドでありうる。
【0029】
N-グリカン(誘導体)のキャリアーとしての異種的なポリペプチドに関して、それらが、細胞外膜へのN-結合型複合体を対象とするシグナル配列MKKILLSVLTTFVAVVLAAC(配列番号2)を含むこと、かつ、LAACモチーフ(配列番号3)が、外膜のポリペプチドに連結されるシステイン残基のアシル化のために使用される(Kowarik et al., EMBO J. May 3;25(9):1957-66, 2006もまた参照せよ)ことが好ましい。
【0030】
最も好ましい実施態様において、少なくとも一つのpglオペロン、または、その誘導体由来の少なくとも一つのN-グリカンまたはその誘導体は、サルモネラ リピドAコア、または、その機能的に等価な誘導体に連結する。サルモネラのリピドAコアは、ヘキソース、N-アセチルヘキソース、ヘプトース、および、二つのグルコサミンを介して、細菌の外膜の構造に固定している六つの脂肪酸鎖へ連結したKDO(3-デオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸)から成るオリゴサッカリド構造である。リピドAコアの機能的に等価な誘導体は、一つまたは複数のグリカン、または、その誘導体を受容することができるものであり、かつ、それらを細胞表面上に提示できるものである。サルモネラ リピドA構造がポリペプチドでないために、この場合において、N-グリカン、または、その誘導体がN-結合型ではないことが注目される。好ましくは、N-グリカンは、リピドAコア、または、その機能的な誘導体のGlu IIに連結される。
【0031】
好ましくは、少なくとも一つのN-グリカンまたはその誘導体が、LPS(リポポリサッカリド)のO-抗原側鎖にとって代わる。O-抗原生合成はwbaPの変異を介して破壊されるが、サルモネラの、内側および外側リピドAコアは、変化しないままである。その後、N-グリカンは、O-抗原リガーゼWaaLによって移行され、リピドA外側コア オリゴサッカリド構造のGlc II残基と連結される。
【0032】
本発明のサルモネラ菌株は、生および/または不活性化形態において動物またはヒトに投与された場合に、病原性の効果を生じないことが好ましく、かつ医薬用途に対して非常に重要である。当業者は、変異によって弱毒化した毒性のサルモネラ種の多くの用途を知っている。本発明における使用のための弱毒化したサルモネラ菌株に関する好ましい変異は、pab、pur、aro、aroA、asd、dap、nadA、pncB、galE、pmi、fur、rpsL、ompR、htrA、hemA、cdt、cya、crp、phoP、phoQ、rfc、poxA、および、galUから成る群から選択される。一つまたは複数のこれらの変異が存在してよい。変異aroA、cya、および/またはcrpはさらに好ましい。
【0033】
サルモネラのO-抗原生合成遺伝子は、サルモネラ染色体の超可変DNA領域である、rfb遺伝子座に集まっている。部分的、または全体的不活性化はサルモネラ菌株の弱毒化と関連していた。一方で、O-抗原はまた、宿主における免疫の誘導のための、重要な抗原性決定要因である。
【0034】
特に好ましい実施態様において、本発明のサルモネラ菌株を、O-抗原の発現の部分的または全体的不活性化によって、好ましくは、rfb遺伝子クラスター内の一つまたは複数の変異、および/または欠失によって、より好ましくは、wbaP遺伝子内の変異、および/または欠失によって、最も好ましくは、wbaP遺伝子の欠失によって、弱毒化する。
【0035】
本願明細書において使用される、用語「rfb遺伝子座」および「wbaP遺伝子」は、O-抗原または関連した抗原を発現することができる、任意のサルモネラ菌株における、任意の対応する遺伝子座および遺伝子を含むことを意味すると理解される。
【0036】
wbaP遺伝子産物は、ウンデカプレニルリン酸(undecaprenylphosphate)へのホスホガラクトース(phosphogalactose)の付加によってO‐抗原生合成を開始する、ホスホガラクトシルトランスフェラーゼ(phosphogalactosyltransferase)である。その不活性化/欠失は、O‐抗原合成の完全な破壊を導き、その糖生成物は、脂質キャリアーウンデカプレニルリン酸に関して、かつ、リガーゼWaaLによる移行に関して、カンピロバクター ジェジュニのN-グリカン(誘導体)と競合する。細菌における、pgl遺伝子座誘導タンパク質N-グリコシル化、および、wzy依存O-抗原合成は相同な工程である。サルモネラO-抗原リガーゼWaaLが穏やかな基質特異性を有し、前記リガーゼが、カンピロバクター ジェジュニN-グリカンをサルモネラリピドAコアへ移行できることが発見された。
【0037】
従って、最も好ましい実施態様において、本発明のサルモネラ菌株は、wbaP遺伝子が変異し、ホスホガラクトシルトランスフェラーゼ酵素が不活性化される。ワクチン投与目的のための、このタイプのO-抗原不活性化が、以前は記載されていなかったこと、遺伝的に定義され、かつ、サルモネラ菌株の細胞表面上に提示されるカンピロバクター ジェジュニ N-グリカン(誘導体)の量を増加させることが可能であるために、現在知られるO-抗原陰性変異体よりも優れていることは注目される。
【0038】
従って、かつ、独立した発明として、本発明はまた、wbaP遺伝子座において変異した、好ましくは、欠失した、したがって、不活性化した、サルモネラ菌株のワクチン使用のために有用である、ならびに異種性の抗原のキャリアーとしての、好ましくはグリコシル化した、さらに好ましくはN-グリコシル化した抗原のキャリアーとしてのサルモネラ菌株のワクチン使用のために有用である、wbaP遺伝子座において変異した、好ましくは、欠失した、したがって、不活性化したサルモネラ菌株に関する。
【0039】
最も好ましい実施態様において、本発明は、サルモネラ エンテリカ、好ましくは、血清型チフィムリウム菌株を対象とし、それは、
(a)(i)バシロサミン生合成のための一つまたは複数の遺伝子が不活性化されている、カンピロバクター ジェジュニの、少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的誘導体、好ましくは、少なくとも一つのpglオペロン、ならびに、(ii)O-抗原生合成の完全な不活性化を導くwbaP遺伝子の変異、および/または失欠を、含み、ならびに、
(b)カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのN-グリカン、または、そのN-グリカン誘導体、好ましくは、(I)GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-2,4-ジアセトアミド−2,4,6−トリデオキシ−D−グルコピラノース、および/もしくは(II)GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-GlcNAcをその細胞表面に提示する。
【0040】
本発明の前記サルモネラ菌株は高度に免疫原性であり、カンピロバクター ジェジュニ感染に対する免疫応答を生成する。さらに、一度調製されると、菌株を容易に増殖させ、大量生産させることができる。さらなる利点として、動物またはヒトへの前記サルモネラ菌投与は、カンピロバクター ジェジュニおよびサルモネラ感染に対する免疫を提供する。それらを死滅また生ワクチンとして投与することができ、生ワクチンは宿主における期間の長い増殖および維持された免疫刺激、および、アジュバンドなしの完全な免疫応答を、可能にする。
【0041】
従って、また、本発明は、本発明の生または死滅サルモネラ菌株の医学的使用、特に医薬の調製のための、好ましくはワクチンの調製のための、使用に関する。
【0042】
好ましくは、医薬は、カンピロバクター ジェジュニおよび、場合によってはサルモネラ感染、好ましくは、家畜における感染、より好ましくは畜牛および家禽における感染、最も好ましくは、ニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、および、カモのような家禽における感染の予防および/または治療のために、有用である。
【0043】
本発明の第三の態様は、本発明の死滅または生サルモネラ エンテリカ、および、生理学的に受容可能な賦形剤を含む、医薬組成物、食物、餌(添加物)に関する。
【0044】
例えば、本発明の医薬組成物を、少なくとも一つのプラスミドがコードする、または、染色体に組み込まれたpglオペロンもしくはその誘導体のいずれかを含む本発明のサルモネラ菌株の、培地またはラージスケール増殖によって、調製することができる。これらのサルモネラを、直接的に使用することができ、または、特異的な標的、ヒトもしくは動物に適合するべく、かつ、投与の特定の経路に適合するべく、処方することができる。生サルモネラを含む医薬組成物は、明白な理由のために好ましい。
【0045】
あるいは、本発明は、本発明の死滅または生サルモネラ エンテリカ、および、生理学的に受容可能な賦形剤、および/または、食品を含む、ヒトまたは動物、好ましくは家畜、さらに好ましくは家禽のための食物または餌に関する。例えば、このような餌は、家禽類のカンピロバクター ジェジュニのコロニー形成を大きく減少させ、その結果として、汚染された肉を介した、カンピロバクター ジェジュニおよびまたサルモネラによるヒトへの感染の機会を減少させうる。
【0046】
本発明の第四の態様は、生理学的に活性な量における、治療および/または予防を必要とするヒトまたは動物への、本発明のサルモネラ エンテリカ、医薬組成物、食物または餌の投与を含む、カンピロバクター ジェジュニおよび、場合によってはサルモネラ感染の治療および/または予防のための方法を対象とする。
【0047】
治療的および/または予防的使用のために、本発明の医薬組成物を、任意の従来の方法における、任意の従来の投与形態において、投与しうる。投与の経路は、点滴による、舌下の、経皮的、経口の、(例えば、強制投与)、局所的、または吸入による、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、鼻腔内投与、滑液内投与を含むがそれに限定されない。投与の好ましい方法は、経口投与、静脈内投与、鼻腔内投与であり、経口および鼻腔内投与が最も好ましい。
【0048】
本発明のサルモネラを、単独で、または、細菌の安定性および/もしくは免疫原性を増進する、他の活性成分を含むアジュバンドと組み合わせて投与してよく、それらを含む医薬組成物の投与を促進してよく、溶出または分散の増大を提供してよく、増殖活性を増大させてよく、付加的治療を提供したりしてよい。
【0049】
本願明細書において記載されたサルモネラの医薬的投薬形態は、当業者に既知の、医薬的に受容可能なキャリアー、および/または、アジュバンドを含む。これらのキャリアーおよびアジュバンドは、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清蛋白質、緩衝物質、水、塩、電解液、セルロースベースの基質、ゼラチン、水、ワセリン、動物または植物油、鉱物または合成油、生理食塩水、デキストロース、または他のサッカリド、ならびに、エチレングリコール、プロピレングリコール、または、ポリエチレングリコールのようなグリコール化合物、抗酸化剤、乳酸塩等を含む。好ましい投与形態は、タブレット、カプセル、溶液、懸濁液、エマルション、再構成可能な(reconstitutable)パウダー、および、経皮パッチを含む。投与形態を調製する方法は周知であり、例えば、H. C. Ansel and N. G. Popovish, Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 5th ed., Lea and Febiger (1990)、および、特に、Pastoret et al., Veterinary Vaccinology, Elsevier March (1999)を参照されたい。投与量レベルおよび必要用量は当該業界において、よく認識されており、利用可能な方法、および、特定の患者のために適した技術から当業者に選択されうる。当業者が理解するであろうように、特定の因子に依存して、より低用量またはより高用量が要求されうる。例えば、特定の用量および治療計画は、患者(ヒトまたは動物)の一般的健康プロフィール、重症度、患者の既往歴またはそれに対する素因、および、医師または獣医師の治療の判断のような因子に依存するであろう。
【0050】
経口ワクチン投与のための好ましい実施態様において、療法は、プラスミド上で、または染色体内に組み込まれて、pglオペロン、またはその誘導体を含むサルモネラの、ニワトリの孵化の1日または2日後における、ひな鳥あたり約106 cfu(コロニー形成単位(colony forming units))の投与、それに伴う、孵化後14または21日における、等量の細菌の追加免疫から成る。前記2回の投与は、カンピロバクター ジェジュニのN-グリカンまたはその誘導体に対する免疫システムの応答、および、ニワトリの、後期のコロニー形成に対する防御を提供するサルモネラタンパク質に対する免疫システムの応答もまた高めるのに十分な刺激を提供する。ニワトリへのワクチン接種の代替手段は、不活性化された、例えば、加熱不活性化した、またはホルマリンにより不活性化した、細菌の、孵化後1または2日後における静脈内注射、および、14または21日の追加免疫によるものである。さらなる選択肢として、また、ニワトリは、加熱不活性化したまたはホルマリンにより不活性化した細菌を静脈内に、あるいは、生細菌を胃内に、3週齢までの後期において一度のみ、ワクチン接種されうる。
【0051】
最後に大切なことを述べるが、本発明は、本発明によるサルモネラ エンテリカを作製する方法に関し、
(i)好ましくは、少なくとも一つのプラスミドベクターによって、または、ゲノム的組み込みによって、一つもしくは複数の、好ましくは全てのバシロサミン生合成に関する遺伝子が不活性化されている、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的ホモログを、好ましくは、少なくとも一つのpglオペロンを、サルモネラ エンテリカに導入する工程、
(ii)好ましくは、O-抗原生合成の完全な不活性化を導く、wbaP遺伝子における変異、および/または、欠失を導入する工程、
を含む。
【0052】
以下に、本発明を、特定の実施態様および実験を参照してさらに例示するが、添付の請求項によって提示された本発明の範囲の限定として解釈されることを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムにおける、カンピロバクター ジェジュニのN-グリカン提示の概略図である。A)は、O-抗原を産生し、かつ、pglmutオペロン(「mut」は、PglBが2つの点変異より不活性化していることを意味する)を特徴とする菌株における、カンピロバクター ジェジュニのN-グリカンの、サルモネラ チフィリウムのリピドAコアへの移行を示す。B)は、O-抗原がなく、バシロサミン生合成に関する遺伝子が欠失している、pgl3mutオペロンを特徴とする、サルモネラ チフィリウムΔwbaP菌株を示す。c)は、pgl3mutオペロンにおける失欠を図示する。
【図2】サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム上のカンピロバクター ジェジュニのN-グリカンの提示を実証する。A)は、サルモネラ チフィリウム野生型および、ΔwbaPの、前記プラスミドを持つ菌株のプロテイナーゼK処理全細胞抽出物の、SDS-PAGEの抗カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンのイムノブロットを示し、サルモネラ チフィリウム リピドAコア上のカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの提示を実証する。B)は、サルモネラ チフィリウム野生型、および、ΔwbaPの、プロテイナーゼK処理された全細胞抽出物の、銀染色されたSDS-PAGE(左のパネル)、および、抗サルモネラ グループB O-抗原のSDS-PAGEのイムノブロット(右のパネル)を示す。これにより、ΔwbaP菌株において、重合したO-抗原を欠失を確認する。c)は、空ベクター(コントロール)を組み込んだ、または、pgl3mutオペロンを組み込んだ、サルモネラ チフィリウムΔwbaP菌株の、SDS-PAGEの、抗カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの、イムノブロット示し、組みこまれたpgl3mutオペロンとともに、サルモネラ チフィリウムΔwbaP リピドAコア上のカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの発現を証明する。D)は、左のパネルにおいて、還元性の末端位にGlcNAcを伴い、pgl3mutにコードされた、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを提示する、加熱殺菌したサルモネラ チフィリウムΔwbaPを静脈内注射で感染させたマウス由来の血清を用いたイムノブロットを示す。カンピロバクター ジェジュニ野生型では認識され、カンピロバクター ジェジュニ81-176pglB細胞では認識されないことが明らかである。右のパネルは、マウス血清のイムノブロット解析に使用したサンプルのSDS-PAGEのクマシー染色を示す。
【図3】サルモネラ チフィリウムΔwbaPの弱毒化を実証するために使用したin vitro試験を示す。A)は、ヒト血清における、補体に対する、サルモネラ チフィリウムΔwbaPの増加した感受性を示す。(カナマイシン耐性血清型チフィリウム野生型菌株、M939、O-抗原陰性ΔwbaP::cat (SKI11)および、補体の変異体ΔwbaP::pKI9 (SKI33)の補体媒介の殺菌を、野生型、ΔwbaP、および、ΔwbaP::pKI9(SKI33)サルモネラの1:1:1の混合物の、20%ヒト血清、または、20%加熱不活性化ヒト血清を用いたインキュベーションによって、指示された時点に関して、試験した。生存率を、異なる培地上に蒔くことによって解析した。)B)は、A)の設定で、代わりに、加熱不活性化した血清の使用において異なる、実験の結果を示す。どの菌株も生存率に影響はない。C)は、サルモネラ チフィリウム 野生型、および、非運動性菌株fliGHI:Tn10と比較したサルモネラ チフィリウムΔwbaPの遊泳運動の欠損を示す。
【図4】サルモネラ チフィリウム野生型を伴う共感染実験における、サルモネラ チフィリウムΔwbaPのコロニー形成能の減少を実証する。A)は、血清型チフィリウムΔwbaP(SKI12)の、および野生型の、糞便中での感染後1-3日、および、感染後4日における盲腸内容物中での後感染において決定された、野生型と比較した場合のサルモネラ チフィリウムΔwbaPのコロニー形成能減少を実証する、競合指標(CI; (変異体/野生型)アウトプット/(変異型/野生型)インプット)を、図を用いて示す。B)感染後4日における、腸間膜のリンパ節、脾臓、および肝臓のCI。
【実施例】
【0054】
(細菌株および生育条件)
実施例で記載された、実験に使用した細菌株の要約を表1に示す。細菌を、Luria-Bertani(LB)培地(10 g/l バクトトリプトン、5 g/l バクトイーストエキス、5 g/l NaCl)で生育させた。LB寒天プレートは、1.5%(w/w)寒天を追加した。抗生物質は、以下の終濃度で使用した。アンピシリン(amp) 100 μg/ml、カナマイシン(kan)50 μ/ml、クロラムフェニコール(cam)25 μg/ml、ストレプトマイシン(strep)50 μg/ml、テトラサイクリン(tet) 10 μg/ml。
【0055】
(実施例1:サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム リピドAコア上におけるカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの提示)
Wzy依存性O-抗原生合成、および、カンピロバクター ジェジュニ N‐グリカン生合成は、ウンデカプレニルピロリン酸リンカー上のオリゴサッカリド構造の会合で共に開始する、相同的なプロセスである(Feldman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA.;102(8):3016-21, 2005)。二つの経路の相同性、および、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムO-抗原リガーゼWaaLの穏やかな基質特異性(Falt et al., Microbial Pathogenesis 20:11-30, 1996; De Qui Xu et al., Vaccine 25: 6167-6175, 2007)は、サルモネラ リピドAコア上のカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの提示への経路を兼ね備える可能性について、研究された。
【0056】
不活性化されたPglBを伴うカンピロバクター ジェジュニpglmutオペロンを含むプラスミド(pACYCpglmut; Wacker et al 2002)を、エレクトロポレーションによって、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムへ導入した。ネガティブコントロールとして、対応する空ベクターpACYC184を使用した。
【0057】
形質転換体の複合糖質を、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの提示に関してSDS-PAGE、およびそれに引き続いた、抗−カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン抗血清(Amber 2008)を用いたイムノブロットにより試験した。サンプルを以下のように調製した。pACYC184あるいはpACYCpglmutのいずれかを含むサルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムの、2 OD600/mlに相当する、対数増殖期の培養物を、16,000 g、2分間で沈降させ、その上清を除去した。細胞をLammliサンプルバッファー100μl(0.065 M Tris-HCl pH 6.8、2 % SDS (w/v)、5 % β−メルカプトエタノール (v/v)、10 % グリセリン (v/v)、0.05 % ブロモフェノールブルー (w/v))に再懸濁し、95℃、5分間で溶菌した。室温まで冷却した後、プロテイナーゼK(Gibco/Life Technologies)を添加し(終濃度0.4 mg/ml)、1時間、60℃でインキュベートし、その後、等量を、15%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にロードした。カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを検出するために、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンに対するウサギポリクローナル抗血清を使用した(S. Amber, PhD.-thesis, ETH Zurich, Department of Biological Science. Zurich, 2008)。シグナルの可視化を、ヤギ抗ウサギIgG-HRP共役抗体(Santa Cruz)、および、ECL(Amersham)を用い、説明書に推奨されたように、行った。
【0058】
細胞内にpACYCpglmutが存在している場合に、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを、サルモネラ エンテリカ 血清型チフィリウム リピドAコア上に検出することができたが(図2A レーン2)、細胞内へ空ベクターが導入された場合には検出できなかった(図2A レーン1)。このことは、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムのWaaLが、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを、ウンデカプレニルピロリン酸からリピドAコアに移行させたことを、示す。
【0059】
(実施例2:サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムにおけるwbaP欠失体の構築、および、O-抗原陰性菌株におけるカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの増加した提示)
O-抗原生合成の欠失は、O-抗原生合成経路と、脂質キャリアーウンデカプレニルリン酸に関するカンピロバクター ジェジュニN-グリカンの生合成との間の競争を破壊すると推察される。
【0060】
サルモネラ チフィリウム野生型SL1344のwbaP欠失変異体の構築を、記載されたように行った(Datsenko and Wanner, PNAS USA 97(12): 6640-5, 2000)。FRT(FLP認識標的)部位に隣接してクロラムフェニコール耐性遺伝子を持つ、プラスミドpKD3由来の鋳型DNAへアニーリングする、プライマーRfbP H1P1(配列に関しては表1を参照せよ)、および、RfbP H2P2を、を合成した。また、前記プライマーは、wbaP遺伝子の直接的な上流および、下流の領域に対応する、40から50の付加的なヌクレオチドを含む。前記プライマーを、記載されたように、wbaPのインフレーム欠失のための遺伝子カセットの増幅に使用した(Datsenko and Wanner、前記を参照)。サルモネラ チフィリウム野生型菌株SL1344内の、プラスミドpKD46由来のλ Redリコンビナーゼのアラビノース誘導発現の後、リコンビナーゼにより、標的遺伝子を、エレクトロポレーションによって導入されたPCR産物のクロラムフェニコールカセットと、交換した。形質転換体を、37℃で一晩のクロラムフェニコールプレートへプレーティングすることによって選択し、ゲノムの正しい位置にcat遺伝子が存在することをPCRによって確認した。クロラムフェニコール耐性の得られたクローン(wba::cat)をSKI11と名づけた。クロラムフェニコール耐性カセットの除去は、隣接したFRT領域を認識するFLPリコンビナーゼをコードするpCP20の使用によって可能であり、得られた菌株をPCRによる検査の後でSKI12と名づけた(Ilg, Endt et al., Inf. Immun., 77, 2568, June 2009も参照せよ)。
【0061】
得られた菌株の複合糖質の表現型的解析を、SDS-PAGEと、それに引き続く銀による複合糖質の染色によって、行った。SDS-PAGEに関して、サンプルを、以下のように調製した。サルモネラ チフィリウム野生型、または、サルモネラ チフィリウムΔwbaP(SKI12)の、2 OD600/mlに相当する、対数増殖期培養物を16,000 g、2分間で沈降させ、上清を除去した。細胞を、100 μl Lammliサンプルバッファー(0.065 M Tris-HCl pH 6.8、 2 % SDS (w/v)、 5 % β-メルカプトエタノール (v/v)、 10 % グリセリン (v/v)、 0.05 % ブロモフェノールブルー (w/v))に再懸濁し、95℃、5分間で溶菌した。室温まで冷却の後、プロテイナーゼK(Gibco/Life Thechnnologies)を添加し(終濃度 0.4mg/ml)、1時間、60℃でインキュベートし、その後、12%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に等量をロードした。サルモネラ チフィリウム O-抗原を検出するために、サルモネラ O 抗血清 グループB因子 1、4、5、12 (Difco)を使用した。シグナルの可視化をヤギ―抗―ウサギ―IgG―HRP共役抗体(Santa Cruz)およびECL(Amersham)を用いて、説明書に推奨される通りに、行った。染色のために、Tasai、およびFraschによる方法を使用した(Tsai and Frasch, Anal. Biochem. 119(1): 115-9, 1982)。
【0062】
サルモネラ エンテリカ野生型におけるホスホガラクトシルトランスフェラーゼWbaPをコードする遺伝子の欠失は、図2Bに明らかなように、O-抗原生合成の破壊を導いた。引き続いて複合糖質の銀染色を伴うSDS-PAGE、ならびに、引き続いてサルモネラ グループB特異的抗O血清を用いたイムノブロットを伴うSDS−PAGEは、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム野生型菌株において、重合したO-抗原の典型的なリポポリサッカリドのラダーパターンを示し、このパターンは、ΔwbaP菌株では示されなかった。
【0063】
このO-抗原陰性サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム ΔwbaP SKI12を、細胞表面におけるカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの提示能力に関して試験した。プラスミドpACYCpglmut、または、pACYC184を、エレクトロポレーションにより導入した。形質転換体の複合糖質を、実施例1に記載したように解析した。野生型に比べ、ΔwbaP菌株を含むレーンにおいて、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを、より強い強度で検出することができた(図2A レーン4対レーン2)。空ベクターpACYC184が、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムΔwbaP SKI12内にある場合、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを検出することはできなかった。このことは、ΔwbaP菌株内において、より多いカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンが、リピドA コアに移行されることを実証する。
【0064】
(実施例3:サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム上のカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの提示の増加を導く、改変されたカンピロバクター ジェジュニ pglmutオペロンの構築)
カンピロバクター ジェジュニにおいて、N-グリカンはヘプタサッカリドGalNAc5(Glc)-Bacとして合成され、式中、Bacは、還元末端における糖であり、2,4-ジアセトアミド-2,4,6-トリデオキシ-グルコピラノースである。大腸菌およびサルモネラ チフィリウムにおいて、Bacは、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン生合成機構が、異種的に発現されない限り、合成されない。カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン生合成機構を共発現する大腸菌野生型細胞において、二つの異なる種類のN-グリカン(一つは還元末端にBacを伴い、もう一つはGlcNAcを伴う)が合成されることが示された。この現象は、糖脂質生合成に関与する、ウンデカプレニルリン酸GlcNAc1-1リン酸トランスフェラーゼ、UDP-GlcNAcである、WecAの作用に起因する(Linton D. et al., Mol. Microbiol.,55(6):1695-703, 2005)。知られているように、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムのO-抗原リガーゼWaaLは、GlcNAcを含む構造をリピドAコアに移行することができ、GlcNAcを含むN-グリカンがBacを含むN-グリカンよりもより適した基質と成りえることが予想された。pglmutオペロンを、バシロサミン生合成に関する遺伝子、すなわち、pglD、E、F、Gを欠失するように構築した。PglE、F、Gをコードする遺伝子を完全に欠失させ、一方で、PglDをコードする遺伝子を部分的に欠失させた。改変したpglオペロンのpglDのオープンリーディングフレーム(ORF)は、全長のORFは612塩基対を含むが、270塩基対で終了する。この改変したpglmutオペロンを構築する方法を、プラスミド増殖のために、大腸菌DH5αを宿主菌株として用いて、実行し、以下のようである。pACYCpglmut DNAをAlw44IおよびSmaIで消化し、その後、DNAポリメラーゼI クレノウフラグメントを用いて、Alw44I突出末端を埋め、再度ライゲーションした。得られたオペロンをpACYCpgl3mutと名づけ、ΔwbaP菌株へ導入した。得られた形質転換体の複合糖質を、実施例1に記載したように解析した。カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを、野生型と比較した場合、pgl3mutオペロンを持つΔwbaP菌株を含むレーンにおいて、pglmutオペロンを持つΔwbaP菌株を含むレーンよりも、より強い強度で検出することができた(図2A レーン5対レーン4)。全般的に見て抗カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンを用いて調べた場合、pgl3mutを持つΔwbaP菌株は、より強い強度を示し、従って、より高いレベルのカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンがサルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムのリピドAコア上に提示されることを、実証する。
【0065】
(実施例4:pgl3mutオペロンの、O-抗原陰性サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムΔwbaP菌株のゲノムへの組み込み)
カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンの、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムΔwbaP菌株のリピドAコア上への、in vivoにおける、継続的な提示を確実にするために、pgl3mutオペロンを、pagC遺伝子の下流の、ΔwbaP菌株SKI12のゲノムへ組み込んだ。
【0066】
oriR6Kを有する自滅的プラスミド(suicide plasmid)に関する、全てのクローニング工程を大腸菌CC118λpir内で行った。最後に統合した自滅的プラスミドpKI15を、以下の方法で構築した。サルモネラゲノムの標的領域と相同的な512 bpの配列を、3' PagC Fw NotIおよび3' PagC Rev SacII(配列は表1を参照のこと)のプライマーを用いて PCRで増幅した。得られたDNAフラグメントをpSB377内のSacIIとNotI間に挿入し、挿入配列の確認の後にそのプラスミドを、pKI14と名づけた。PKI15を、pACYCpgl3mut DNAのBamHIおよびEheIを用いた消化、さらに、pKI14のBamHIおよびSmaIを用いた消化により、構築した。その後、pACYCpgl3mut由来の11083 bpの切断フラグメントを、pKI14のバックボーンにライゲーションした。サルモネラ菌株への自滅的プラスミドのエレクトロポレーションは効率が悪いため、最初、pKI15またはpKI14を、大腸菌Sm10λpirへのエレクトロポレーションによる接合のために導入した。その後、pKI15またはpKI14を含むSm10λpirをSKI12に接合させた。接合のために、pKI15およびSKI12を含むSm10λpirの、4 OD600に相当する、対数増殖期後期培養物を、沈降させ、3回1 mL LBで洗浄した。ペレットを100 μl LBで再懸濁し、混合して、LB寒天プレート上に直径3 cmで塗布し、その後、37℃で一晩インキュベートした。翌朝に、1 mL LBを用いて細菌をプレートから洗い落とし、いくつかの希釈物をLB(+ストレプトマイシン+テトラサイクリン)上に塗布し、接合体を選択した。得られた菌株をSKI34 (SKI12::pKI14)、および、SKI35 (SKI12::pKI15)と呼ぶ。
【0067】
組み込んだpgl3mutクラスター、あるいは、ネガティブコントロールとして組み込んだ空ベクターを含む、O-抗原陰性菌株のリピドAコア上のカンピロバクター ジェジュニ N-グリカンに関して試験するために、SKI34およびSKI35の全細胞抽出物を調製し、実施例1に記載したように解析した。図2Cは、抗カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン抗血清を用いて検出したイムノブロットであり、SKI35を含むレーン2において強いシグナルを示すが、SKI34を含むレーン1においてはシグナルは示されない。このことは、カンピロバクター ジェジュニのN-グリカンの、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウムのpgl3mutオペロンからリピドAコアへの効率的な移行を実証する。
【0068】
(実施例5:pgl3mutオペロンによってコードされたグリカンの免疫原性)
pgl3mutのコードするグリカンの免疫原性を解析するために、マウスを、加熱不活性化した細菌SKI12 +pMLpgl3mutに感染させ、その血清を、抗カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン抗体で試験した。実験を以下のように行った。
【0069】
<マウス感染実験>
サルモネラ感染は、以前に記載したように(Stecher, Hapfelmeier et al., Infection Infect Immun. 2004 Jul;72(7):4138-50 2004)、チューリッヒ、RCHCIにおいて、個々に換気したケージにおいて、行った。静脈注射感染のために、マウスの尾静脈へ、pMLBAD (コントロール)または、pMLpgl3mutを持つ、加熱不活性化サルモネラ チフィリウムSL1344ΔwbaP (SKI12)を、5×105 CFU、注射した。感染後29日目の血清の解析の後に、マウスは再度同じ細菌株を36日目に注射され、血清を50日目に解析した。
【0070】
<マウス血清の解析>
マウス血清を、カンピロバクター ジェジュニ 81-176および81-176pglB(ネガティブコントロール)の全細胞抽出物に対するイムノブロットにより、抗カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン抗体の産生に関して解析した。カンピロバクター ジェジュニ81-176pglBは、グリコシル化タンパク質を産生せず、ネガティブコントロールとして役立つ。全細胞抽出物を、1 mLのPBSを用いた、コンフルエントに細菌が生育したプレートからのカンピロバクター ジェジュニの回収によって、調製した。PBSを用いて、サンプルを同一の光学的密度へ調整した後に、細胞を、室温にて16000 × g、2分間の遠心分離にて集菌した。細胞をLammliサンプルバッファー(0.065 M Tris-HCl pH 6.8、2 % SDS (w/v)、5 % β- メルカプトエタノール (v/v)、10 % グリセリン(v/v), 0.05 % ブロモフェノールブルー(w/v))に、5分間、95℃で溶解し、事前に決定した同じ終量まで加え、PBSで各サンプルが同じ細胞量になるようにした。このことは、SDS-PAGE、それに続くクマシーブルーを用いたタンパク質の染色によって、各サンプルが等しい量に分けられることによって確認される。加えて、グリコシル化、および、非グリコシル化タンパク質AcrAを、カンピロバクター ジェジュニ N-グリカンに対する免疫応答を可視化するために使用した。マウス血清の解析のために、等量の全細胞抽出物、ならびに、等量のグリコシル化および非グリコシル化AcrAを、SDS-PAGE、それに続くイムノブロット検出のためのフッ化ポリビニリデンメンブレンへのタンパク質のトランスファーによって、分離した。マウス血清は、最初のインキュベーション工程において、一次抗血清として提供された。結合したIgGを、抗-マウス-IgG-HRP共役抗体(Bethyl Laboratories)によって、同定した。検出を説明書に従って、ECL(Amersham)を用いて行った。
【0071】
図1D)は、再感染61日後におけるマウス血清中の抗-カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン-IgGの存在を示す。前記抗体は、カンピロバクター ジェジュニ由来の非グリコシル化AcrA、または、非グリコシル化タンパク質抽出物を認識せず、従って、グリカンについて特異性を証明する。カンピロバクター ジェジュニ N-グリカン特異的反応は、コントロール菌株を用いて感染させたマウスの血清では、観察されなかった(データは示さない)。
【0072】
(実施例6:サルモネラ チフィリウムΔwbaPの弱毒化した表現型)
サルモネラ チフィリウムΔwbaPの弱毒化を、いくつかのin vitro、および、in vivoのアプローチで試験した。in vitroのアプローチは、変異体および野生型の、血清耐性、運動性、および、抗菌ペプチド模倣体ポリミキシンBに対する耐性に関する試験から構成された。ΔwbaPのコロニー形成能をin vivo共感染実験において解析した。
【0073】
<血清耐性の解析>
補体の殺菌性活性を、基本的に、記載されているように試験した(Bengoechea, Najdenski et al. 2004)。簡単に説明すれば、対数増殖培養物から得られた、血清型チフィリウムwbaP::cat (SKI11)、血清型チフィリウム野生型SL1344菌株のカナマイシン耐性類縁菌(aphをsopEの下流に組み込んだ)であるM939、血清型チフィリウムΔwbaP::pKI9 (SKI33)由来の細胞を、等量で混合し(M393に関しては3×108 cfu/ml、SKI11およびSKI33に関しては4×108 cfu/ml)、使用前に、滅菌した1×PBSで5×104 倍に希釈した。この希釈した細菌培養物を1:1で、血清型チフィリウムLPSに対する抗体を含まない20%ヒト血清と混合し、軽く撹拌しながら37℃でインキュベートした。混合の後、アリコートを0、15、30分に採取し、補体活性をブレインハートインフュージョン培地(Brain Heart Infusion Broth)の添加によってクエンチした。アリコートを、野生型を選択するLB(ストレプトマイシン、カナマイシン)、wbaP::catを選択するLB(ストレプトマイシン、クロラムフェニコール)、ΔwbaP::pKI9 CFU を決定するためのLB(ストレプトマイシン、テトラサイクリン)の上に塗布するまで、氷上にて保持した。同様の実験を、56℃30分で補体を加熱不活性化した血清を用いて行った。データをlog CFUの平均±標準偏差によって示す。図3Aは、野生型と比較した場合の、サルモネラ チフィリウムΔwbaPの血清耐性の減少を示す。20%ヒト血清とともに30分間インキュベーションした後のΔwbaPのカウントは、インキュベーション期間の開始時より少なく、60分の1であった。図3Bは、ネガティブコントロールとして、加熱不活性化した血清とともにインキュベートした、同じ菌株を示す。
【0074】
<遊泳運動の解析>
細菌の運動性は既知の病原性因子であるため、細菌の運動性を軟寒天プレートにおいて試験した(0.3 % (w/v) 寒天、5 g/l NaCl、10 g/l バクトトリプトン)。血清型チフィリウム野生型(SL1344)、血清型チフィリウムΔwbaP(SKI12)、血清型チフィリウムΔwbaP::pKI9(SKI33)、または、血清型チフィリウムfliGHI::Tn10 (M933)の1 μlの一晩培養物をプレートの中央にスポットし、37℃でインキュベートの4.75時間および9.5時間の後に可視的な円盤の直径を計測することによって、運動性を定量した。各実験は、トリプリケートで異なる時に2回、行い、データを、平均±標準偏差として示す。図3Cにおいて見られるように、運動性は、運動性のないコントロールfliGHI::Tn10における運動性よりも高いものの、野生型と比較した場合、ΔwbaP(SKI12)において大きく減少した。
【0075】
<ポリミキシンB耐性の解析>
血清型チフィリウム野生型SL1344菌株、または、血清型チフィリウムΔwbaP(SKI12)由来の、1 OD600/mlに相当する、対数増殖培養物を沈降し、滅菌した150 μlの冷1×PBSで再懸濁し、使用前に5×106倍に希釈した。解析のために、45 μlの希釈した培養物を5 μlのポリミキシンB(Sigma、終濃度1 μl/ml)または、5μl PBSと混合し、37℃、1時間、軽く撹拌しながらインキュベートした。80 μlのLBの添加の後、細菌をストレプトマイシンを含むLB寒天プレートに塗布した。生存効率を、ペプチドで処理した培養物のCFU(コロニー形成単位(colony forming units))を未処理培養物のCFUで割り、100をかけて計算した。解析を、2回の独立した実験をトリプリケートで行い、データを、平均±標準偏差として示す。サルモネラ チフィリウムΔwbaPのポリミキシンB抵抗性が野生型に比べ減少することが図3Dにおいて実証される。
【0076】
<共感染実験における、ΔwbaPのコロニー形成能>
サルモネラ チフィリウムΔwbaPのコロニー形成能を、マウスを胃内においてΔwbaP変異体および野生型菌株に感染させた、共感染実験において、試験した。C57BL/6マウス(SPF; チューリッヒ、RCHCIのコロニー)を、20 mgのストレプトマイシンの強制投与によって、前処理した。24時間後、マウスに、5×107 CFUの血清型チフィリウム菌株または、示された菌株の混合物を接種した。新鮮な糞便ペレット、腸間膜のリンパ節(mLNs)、脾臓、および、盲腸内容物中の細菌量(CFU)を、以前に記載されたように、MacConkey寒天プレート(50 μg/ml ストレプトマイシン)に塗布することによって、決定した(Barthel, Hapfelmeier et al. 2003)。競合指標(CI)を、塗布後に、式 CI=(変異型/野生型)アウトプット/(変異型/野生型)インプットによって、決定した。血清型チフィリウム野生型(M939)、および、ΔwbaP菌株(SKI11)の共感染実験を実施した。5匹のストレプトマイシン処理マウスを、ΔwbaP菌株(SKI11)および野生型菌株の1:2混合物(合計5×107 CFU)で胃内に感染させた。感染後、1、2、および、3日において、糞便中の2菌株の比(CI:競合指標、材料および方法を参照のこと)を決定した。野生型と比較してΔwbaPの数が減少することを検出し(1日あたり1ログスケール)、ΔwbaP菌株(SKI11)が、腸管において、野生型血清型チフィリウム菌株と比較して、実際に激しく競争的に不利であることを証明した(p>0.05、図4A)。さらに、また、二つの菌株の、感染後4日の浸透性部位(腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓)のCIも、血清型チフィリウムΔwbaP(SKI12)の著しい競争的不利を実証する。それでもなお、前記不利は、腸における不利よりも少なく示される(図4B)。
【0077】
【表1−1】

【0078】
【表1−2】

【0079】
【表1−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的誘導体を含み、かつ、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのN-グリカン、またはそのN-グリカン誘導体をその細胞表面に提示することを特徴とする、サルモネラ エンテリカ(Salmonella enterica)。
【請求項2】
サルモネラ チフィリウム(Typhimurium)、エンテリティディス(enteriditis)、ハイデルベルグ(heidelberg)、ガリナルム(gallinorum)、ハダル(hadar)、アゴナ(agona)、ケンタッキー(kentucky)、およびインファンティス(infantis)から成る群、より好ましくは、サルモネラ エンテリカ血清型チフィリウム菌株から選択される、請求項1に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項3】
少なくとも一つのpglオペロンを含み、バシロサミン生合成のための一つまたは複数の遺伝子が、変異、および/または、部分的、もしくは、完全な欠失によって、好ましくは、遺伝子pglD、E、F、Gの部分的および/または完全な欠失によって不活性化されている、請求項1または2に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項4】
少なくとも一つのpglオペロンを含み、そのpglB遺伝子産物が、変異および/または欠失により不活性化されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項5】
少なくとも一つのN-グリカンが、式(I)、
GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-Bac
を有し、
式中、
Bac(または、バシロサミンと呼ばれる)が2, 4-ジアセトアミド-2, 4, 6−トリデオキシ−D−グルコピラノースである、請求項1から4のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項6】
少なくとも一つのN-グリカン誘導体が、式(II)、
GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-GlcNAc
を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項7】
N-グリカンまたは誘導体が、細胞表面に移行され、かつ、提示される少なくとも一つの相同的または異種的サルモネラポリペプチドに連結され、好ましくは、少なくとも一つのコンセンサスシークオン(sequon)N-Z-S/T、より好ましくはD/E-X-N-Z-S/T(配列番号1)(式中、XおよびZは、Pro以外の任意の天然のアミノ酸でありうる)を含む、少なくとも一つのポリペプチドに連結されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項8】
少なくとも一つのN-グリカンまたはその誘導体が、サルモネラのリピドAコア、または、その機能的に等価な誘導体に連結されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項9】
サルモネラ菌株が、好ましくは、pab、pur、aro、aroA、asd、dap、nadA、pncB、galE、pmi、fur、rpsL、ompR、htrA、hemA、cdt、cya、crp、phoP、phoQ、rfc、poxA、および、galUから成る群から選択される変異によって、より好ましくは、変異aroA、cya、およびcrpによって、弱毒化されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項10】
サルモネラ菌株が、O-抗原の発現の部分的または全体的不活性化によって、好ましくは、rfb遺伝子クラスター内の一つまたは複数の変異、および/または欠失によって、より好ましくは、wbaP遺伝子内の一つまたは複数の変異、および/または欠失によって、最も好ましくは、wbaP遺伝子の欠失によって、弱毒化される、請求項1から9のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項11】
好ましくは、血清型チフィリウム菌株であって、
(a)(i)バシロサミン生合成のための一つまたは複数の遺伝子が不活性化されている、カンピロバクター ジェジュニの、少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的誘導体、好ましくは、少なくとも一つのpglオペロン、ならびに、(ii)O-抗原生合成の完全な不活性化を導くwbaP遺伝子の変異、および/または失欠
を含み、ならびに、
(b)カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのN-グリカン、または、そのN-グリカン誘導体、好ましくは、(I)GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-2,4-ジアセトアミド−2,4,6−トリデオキシ−D−グルコピラノース、および/もしくは(II)GalNAc-a1,4-GalNAc-a1,4-[Glc-β-1,3]GalNAc-a1,4-Gal-NAc-a1,4-GalNAc-a1,3-GlcNAcをその細胞表面に提示する、
ことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ。
【請求項12】
医薬、好ましくはワクチンの製造のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の、サルモネラ エンテリカ、好ましくは、生サルモネラ エンテリカの使用。
【請求項13】
カンピロバクター ジェジュニ、および、場合によってはサルモネラ感染、好ましくは、家畜における感染、より好ましくは畜牛および家禽における感染、最も好ましくは、家禽における感染の予防および/または治療のための、医薬、好ましくはワクチンの製造のための、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカ、好ましくは、生サルモネラ エンテリカ、および、場合によって、生理学的に受容可能な賦形剤を含む、医薬組成物、食物または餌、食物または餌の添加物。
【請求項15】
治療および/または予防を必要とするヒトまたは動物への、生理学的に活性な量の、サルモネラ エンテリカ、サルモネラ エンテリカを含む医薬組成物、食物または餌を投与する工程を含む、カンピロバクター ジェジュニおよび、場合によってはサルモネラ感染の治療および/または予防のための方法。
【請求項16】
(i)少なくとも一つのプラスミドベクターによって、または、ゲノム組み込みによって、一つもしくは複数の、好ましくは全てのバシロサミン生合成に関する遺伝子が不活性化されている、カンピロバクター ジェジュニの少なくとも一つのpglオペロン、またはその機能的誘導体を、好ましくは、少なくとも一つのpglオペロンを、サルモネラ エンテリカに導入する工程、
(ii)好ましくは、O-抗原生合成の完全な不活性化を導く、wbaP遺伝子に変異、および/または、欠失を導入する工程、
を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のサルモネラ エンテリカを製造する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−521747(P2012−521747A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501188(P2012−501188)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001884
【国際公開番号】WO2010/108682
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(505357971)
【Fターム(参考)】