説明

カーテンウォール用複合耐火構造、及び建物

【課題】耐火ボードの支持性能を向上し、耐火性能を高めることを目的とする。
【解決手段】耐火ボード34の貫通孔48に挿入された雌ネジ部42Aに、第2保持部44Bの取付孔62を通して締結ボルト38を締め付けることにより、耐火ボード34が第1保持部42B及び第2保持部44Bで挟み込まれた状態で保持される。これらの第1保持部42B及び第2保持部44Bを耐火ボード34に面接触させ、耐火ボード34との接触面積を増加することにより、耐火ボード34の被保持部に作用する応力が低減される。この結果、耐火ボード34の被保持部の破損、損傷が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーテンウォール用複合耐火構造、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築基準法では、一定の高さ及び規模を超える建物に使用されるカーテンウォールに関し、上下階の窓と窓の間の部分(以下、「スパンドレル」という。)については、外壁に対する技術的基準を適用し、上階への延焼防止を目的として、高さ900mm以上の層間区画部材を設けることを義務付けている。
【0003】
アルミカーテンウォールでは、一般に、スパンドレル部分に層間区画部材として耐火ボードが用いられている。この耐火ボードは、例えば、繊維混入けい酸カルシウム板、石膏ボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード等の柔らかい材料(脆い材料)で構成され、周縁部に設けられたアルミ枠(方立と無目)によって支持される。
【0004】
一方、鉄骨造の梁等には1〜3時間の耐火性能が要求されており、梁等の外周面には、吹付けロックウールや繊維混入けい酸カルシウム板等の耐火被覆が設けられる。
【0005】
しかしながら、前述した耐火ボードと梁との間隔が狭い場合、梁の耐火ボード側の面に耐火被覆を設けることが困難になる。外壁にPCa(プレキャストコンクリート)板、ALCパネル、押し出し成形セメント板等の材料を用いる場合は、この対策として外壁板を耐火被覆の一部として併用することで、鉄骨梁等の外壁側の耐火被覆を省略する方法がよく用いられ、一般に「複合耐火」と呼ばれている。しかし、アルミカーテンウォールは耐火ボードを支持するアルミ枠(方立てと無目)が火災時に溶融、焼失すると、耐火ボードを安定して支持することが困難になるため、耐火被覆材として機能しない場合がある。このため、アルミカーテンウォールで複合耐火を成立させるためには、外壁用の耐火ボードとは別に耐火被覆材を用意する必要がある。例えば、特許文献1では、外壁用耐火ボードと鉄骨梁の間に梁材用耐火ボードを設置し、梁の耐火性能は梁用耐火ボードで担保する方法が提案されている。特許文献2では、予め鉄骨梁の外壁に面する部分に耐火塗料を施すことで、外壁用耐火ボードが機能しなくなった後の耐火被覆の機能を耐火塗料が補い、鉄骨梁に対して所定の耐火性能を確保する方法を提案している。
一方、アルミ枠が火災により溶融、焼失した後も耐火ボードが建物の躯体に直接支持されていれば、外壁用耐火ボードを複合耐火の構成部材として使用することが可能である。
【0006】
ここで、耐火ボードを躯体から支持する方法としては、例えば、特許文献3に開示されたものが知られている。特許文献3の耐火ボードの支持構造では、図17に示されるように、方立110及び無目112からなるアルミ枠によって耐火ボード100の周縁部が支持されている。この方立110には、方立ブラケット116がボルト119で固定されている。方立ブラケット116は、方立110を挟んで水平方向に隣接する耐火ボード100にまたがって配置され、これらの耐火ボード100の幅方向端部に埋め込まれたインサートナット(図示省略)にボルト118を締め込むことで耐火ボード100に固定されている。一方、建物の室内側のスラブ102にはファスナー114がボルト117で固定されており、このファスナー114に方立ブラケット116がボルト120で固定されている。
【0007】
しかしながら、特許文献3の耐火ボードの支持構造は、耐火ボード100に埋め込まれたインサートナットにボルト118を締め込んで方立ブラケット116を固定する構成であるため、インサートナットの埋め込み部に応力が集中し、耐火ボード100のインサートナットの埋め込み部が破損、損傷する恐れがある。そのため、火災時に耐火ボードの周縁部を拘束するアルミ枠が溶融すると、耐火ボード100を安定して支持することが困難となり、この方法で支持された耐火ボード100を複合耐火に用いることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−147993号公報
【特許文献2】特開平5−306554号公報
【特許文献3】特開平7−324415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事実を考慮し、耐火ボードの支持性能を向上し、耐火性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、室外側に耐火ボードが隙間を空けて配置される構造部材を支持する鉄骨部材の室内側を向く面を覆うと共に、該鉄骨部材から前記耐火ボードへ向かって張り出し、前記鉄骨部材と前記耐火ボードとの隙間を塞ぐ耐火手段と、構造部材の上部に取り付けられ、前記耐火ボードの両面を挟んで保持する保持手段と、を備えている。
【0011】
請求項1に係る発明によれば、耐火手段によって、構造部材を支持する鉄骨部材の室内側を向く面が覆われている。一方、鉄骨部材の室外側を向く面は、構造部材と隙間を空けて配置された耐火ボードによって覆われている。更に、耐火ボードと鉄骨部材との隙間は、鉄骨部材から耐火ボードへ張り出す耐火手段によって塞がれている。これにより、火災時に、耐火ボードと鉄骨部材との隙間から耐火ボードと鉄骨部材の間へ流入する熱気や炎が抑制される。従って、鉄骨部材の室外側を向く面を被覆する耐火被覆材等を省略することができるため、施工性の向上、コスト削減を図ることができる。特に、本発明は、耐火ボードと鉄骨部材との間隔が狭く、鉄骨部材の室外側を向く面に耐火被覆材等を設けることが困難な場合に有効である。
【0012】
ここで、火災時に、耐火ボードの周縁部を拘束するアルミ枠が溶融し、アルミ枠による耐火ボードの周縁部の拘束が解除されると、鉄骨部材の室外側を向く面が露出する恐れがある。この対策として本発明では、保持手段が耐火ボードの両面を挟んで保持する。これにより、例えば、保持手段を耐火ボードの両面に面接触させ、耐火ボードとの接触面積を増加することにより、耐火ボードを保持する保持部に作用する応力が低減される。この結果、耐火ボードの破損、損傷が抑制されるため、耐火ボードの支持性能が向上する。従って、保持手段を備えない構成と比較して、鉄骨部材の室外側を向く面が耐火ボードによって長期的に覆われるため、耐火性能が向上する。
【0013】
更に、耐火ボードの周縁部を拘束するアルミ枠を省略することが可能となるため、コスト削減を図ることができる。
【0014】
請求項2に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項1に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記保持手段が、前記耐火ボードに形成された貫通孔に挿入される雌ネジ部と、前記雌ネジ部から該雌ネジ部の径方向に突出し、前記耐火ボードの表面と接触する第1保持部と、前記耐火ボードの裏面と接触する第2保持部と、前記第2保持部に形成された取付孔を通して前記雌ネジ部に締結される締結ボルトと、を有している。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、耐火ボードの貫通孔に挿入された雌ネジ部に、第2保持部の取付孔を通して挿入された締結ボルトを締め付けることにより、耐火ボードの両面が第1保持部及び第2保持部によって挟み込まれる。これらの第1保持部及び第2保持部を耐火ボードに面接触させ、耐火ボードとの接触面積を増加することにより、耐火ボードに作用する応力が低減される。この結果、耐火ボードの破損、損傷が抑制されるため、耐火ボードの支持性能が向上する。
【0016】
また、耐火ボードに形成された貫通孔に雌ネジ部を挿入する構成であるため、従来(例えば、特許文献3)のようなインサートナットを埋め込む構成と比較して、施工性が向上する。
【0017】
請求項3に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項1又は請求項2に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記耐火手段と前記耐火ボードとを接合する接合手段を備えている。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、接合手段によって、耐火手段と耐火ボードを接合することにより、火災時に耐火手段と耐火ボードとの隙間から耐火ボードと鉄骨部材との間へ流入する熱気、炎等が抑制される。従って、耐火性能が向上する。
【0019】
請求項4に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項3に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記接合手段が、前記耐火手段の張り出し方向先端部に取り付けられ、前記耐火ボートに接合されるフレームと、前記耐火手段の張り出し方向先端部と前記フレームとの隙間を塞ぐ閉塞部材と、を有している。
【0020】
請求項4に係る発明によれば、耐火手段の張出し方向先端部にフレームを設けるという簡単な構成により、耐火手段と耐火ボードとを接合することができる。従って、施工性が向上する。更に、耐火手段の張り出し方向先端部とフレームとの隙間を閉塞部材で塞ぐことにより、火災時に当該隙間から耐火ボードと鉄骨部材との間へ流入する熱気や炎等が抑制される。従って、耐火性能が向上する。
【0021】
請求項5に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記耐火手段が、耐火板材を有している。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、耐火板材として、例えば、繊維混入けい酸カルシウム板、石膏ボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード等が用いられる。これらの耐火板材は取り扱いが容易であるため、施工性が向上する。
【0023】
請求項6に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項1〜5の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記耐火手段が、前記鉄骨部材から前記耐火ボードに向かって張り出す下地材と、前記下地材に吹き付けられる耐火被覆材と、を有している。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、耐火手段として、安価な耐火被覆材を用いることにより、コスト削減を図ることができる。
【0025】
請求項7に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項6に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記耐火ボードの表面に設けられる防水手段を備えている。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、耐火ボードの表面に防水手段を設けたことにより、例えば、耐火被覆材の施工時に、耐火ボードが吸収する水分量が低減される。これにより、耐火ボードと対向するカーテンウォールの窓ガラスの曇りが抑制される。従って、カーテンウォールの見栄えが良くなる。
【0027】
請求項8に記載されたカーテンウォール用複合耐火構造は、請求項1〜6の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造において、前記耐火手段が、巻き付け耐火被覆材、発泡性耐火シート材、又は熱膨張耐火シート材を有している。
【0028】
請求項8に係る発明によれば、巻き付け耐火被覆材、発泡性耐火シート材、又は熱膨張耐火シート材を適宜選択することにより、要求される耐火性能を確保することができる。
【0029】
請求項9に記載された建物は、請求項1〜8の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造を備えている。
【0030】
請求項9に係る発明によれば、請求項1〜8の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造を備えることにより、耐火ボードの支持性能が向上するため、建物の耐火性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、上記の構成としたので、耐火ボードの支持性能を向上し、耐火性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るカーテンウォールを室外側から見た図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図2の要部拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る保持手段及び規制手段を示す、斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る耐火手段の変形例を示す、図4に相当する図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る耐火手段の変形例を示す、図4に相当する図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る耐火手段の変形例を示す、図4に相当する図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る下地材の変形例を示す、斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る耐火手段の変形例を示す、図4に相当する図である
【図11】本発明の一実施形態に係る保持手段の変形例を示す、図4に相当する要部拡大図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る保持手段の変形例を示す、図4に相当する図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る保持手段の変形例を示す、図3に相当する要部拡大図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る保持手段の変形例を示す、図3に相当する要部拡大図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る保持手段の変形例を示す、図4に相当する要部拡大図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る保持手段の変形例を示す、図4に相当する要部拡大図である。
【図17】従来技術を示す、図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るカーテンウォール用複合耐火構造について説明する。
【0034】
先ず、カーテンウォール用複合耐火構造10の構成について説明する。
【0035】
<カーテンウォールの構成>
図1には、カーテンウォール用複合耐火構造10が適用されたカーテンウォール12が示されている。カーテンウォール12は、水平方向に間隔を空けて立てられた複数の方立14と、方立14の間に上下方向に間隔を空けて架設された複数の無目16を備えている。これらの方立14及び無目16はアルミ製で、格子状に連結されており、この格子枠内に窓ガラス18が配置されている。
【0036】
図2及び図3に示されるように、方立14はコンクリートスラブ(構造部材)20に隣接して配置されており、方立ブラケット22及びファスナー24を介してコンクリートスラブ20に支持されている。
【0037】
方立ブラケット22は断面L字状で、方立14の両側面にそれぞれボルト26で固定されている。ファスナー24は、断面L字状でコンクリートスラブ20の上面にボルト28で固定されている。このファスナー24に方立ブラケット22をボルト30及びナット31で固定することにより、カーテンウォール12がコンクリートスラブ20に支持されている。なお、コンクリートスラブ20は鉄骨梁32(図2参照)に支持されている。
【0038】
カーテンウォール12の上階の窓と下階の窓との間のスパンドレルには、層間区画部材としての耐火ボード34が設けられている。耐火ボード34は、窓ガラス18の室内側に設けられ、方立14及び無目16で囲まれたアルミ枠内に配置されている。耐火ボード34は、繊維混入けい酸カルシウム板、石膏ボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード等で構成されており、その周縁部が方立14及び無目16に設けられたレール36内に配置されている。このレール36によって耐火ボード34がコンクリートスラブ20と隙間D(図2参照)を空けた状態で保持されている。
【0039】
<保持手段の構成>
図4に示されるように、耐火ボード34は、保持手段40を介してコンクリートスラブ20に支持されている。保持手段40は、耐火ボード34に取り付けられるナット部材42と、コンクリートスラブ20の上面に取り付けられる取付部材44と、ナット部材42と締結される締結ボルト38を備えている。なお、説明の便宜上、耐火ボード34の室外側の面を表面34Aとし、室内側の面を裏面34Bとして以下説明する。
【0040】
図5に示されるように、ナット部材42は、雌ネジ部42Aと、雌ネジ部42Aの端部に設けられた第1保持部42Bを有している。雌ネジ部42Aは筒状で、その内部には雌ネジが切られており、締結ボルト38が締結可能になっている。第1保持部42Bは、円盤状で雌ネジ部42Aと同軸上に配置され、雌ネジ部42Aの端部から当該雌ネジ部42Aの径方向へつば状に突出している。
【0041】
一方、ナット部材42が取り付けられる耐火ボード34の幅方向両端部には、貫通孔48がそれぞれ形成されている。貫通孔48の耐火ボード34の表面34A側の縁には、貫通孔48よりも直径が大きい座グリ50が形成されている。この貫通孔48にナット部材42の雌ネジ部42Aが、耐火ボード34の裏面34Bから突出しないように挿入されると共に、ナット部材42の第1保持部42Bが、座グリ50の底面に面接触した状態で収納されている。なお、第1保持部42Bは、耐火ボード34の表面34Aと略面一となるように座グリ50に収納されている。これにより、耐火ボード34の室外側からの見栄えが良くなっている。
【0042】
ナット部材42と対向する位置には、取付部材44が設けられている。取付部材44は断面L字状の鋼板で構成され、コンクリートスラブ20上面から耐火ボード34に向かって張り出している。この取付部材44は、コンクリートスラブ20に取り付けられる取付部44Aと、取付部44Aの張り出し方向先端部から耐火ボード34に沿って上方へ屈曲された第2保持部44Bを有し、耐火ボード34の裏面34Bに第2保持部44Bを面接触させた状態で配置されている。この第2保持部44Bに形成された取付孔52を通して、ナット部材42の雌ネジ部42Aに締結ボルト38を締め込むことにより、ナット部材42の第1保持部42Bと取付部材44の第2保持部44Bとの間で耐火ボード34の被保持部34X(図4参照)の表面34A及び裏面34Bが挟み込まれた状態で保持されている。
【0043】
なお、耐火ボード34の表面34A及び裏面34Bは、座グリ50の底面のように、耐火ボード34の表面34Aから凹んだ面も含む概念である。また、耐火ボード34の被保持部34Xとは、第1保持部42Bと第2保持部44Bで挟みこまれる耐火ボード34の部位を意味し、本実施形態では、耐火ボード34の幅方向両端部にそれぞれ設けられている。この被保持部34Xは、耐火ボード34の支持条件に応じて、耐火ボード34の必要部位に適宜設けることができる。
【0044】
取付部材44の取付部44Aには取付孔54が形成されており、この取付孔54に貫通されるボルト56をコンクリートスラブ20の上面に埋設されたアンカーナット58に締め込むことにより、取付部材44がコンクリートスラブ20の上面に固定されている。また、取付孔54は取付部44Aの張り出し方向(矢印A方向)に延びる長孔とされており、耐火ボード34とコンクリートスラブ20との隙間Dを調整可能になっている。なお、取付孔54は、取付部44Aの張り出し方向と直交する方向に延びる長孔としても良い。
【0045】
<規制手段の構成>
また、図4に示されるように、コンクリートスラブ20には、規制手段60が取り付けられている。規制手段60は鋼板をZ字状に屈曲させて構成され、取付部60A、対向部60B、及び張出し部60Cを有している。取付部60Aは、コンクリートスラブ20の上面と取付部材44の取付部44Aとの間に配置され、取付部材44と共にコンクリートスラブ20の上面に取り付けられている。
【0046】
具体的には、規制手段60の取付部60Aには取付孔62が形成されており、この取付孔62及び取付部材44の取付孔54に貫通されるボルト56をコンクリートスラブ20の上面に埋設されたアンカーナット58に締め込むことにより、規制手段60及び取付部材44がコンクリートスラブ20の上面に固定されている。また、規制手段60の取付部60Aの取付孔62は、後述する張出し部60Cの張り出し方向(矢印A方向)に延びる長孔とされており、耐火ボード34とコンクリートスラブ20との隙間Dを調整可能になっている。なお、この取付孔62は、張出し部60Cの張り出し方向と直交する方向に延びる長孔としても良い。
【0047】
取付部60Aの耐火ボード34側の端部には、当該端部からコンクリートスラブ20の端面に沿って下方へ屈曲された対向部60Bが設けられている。対向部60Bは、耐火ボード34とコンクリートスラブ20との隙間Dに配置され、コンクリートスラブ20と対向している。
【0048】
対向部60Bの下端部には、当該下端部から耐火ボード34に向かって張り出す張出し部60Cが設けられている。張出し部60Cは、コンクリートスラブ20の下面と略面一となるように略水平に配置され、その張り出し方向(矢印A方向)先端部が耐火ボード34の被保持部34Xよりも下方で耐火ボード34の裏面34Bと接触している。これにより、ナット部材42又は取付部材44を支点とした耐火ボード34のコンクリートスラブ20に接近する方向の傾きや回転(矢印B方向)が規制されている。
【0049】
また、張出し部60Cの上には、耐火ボード34とコンクリートスラブ20の隙間Dを塞ぐ板材64が載置されている。板材64は、耐火ボード34とコンクリートスラブ20の隙間Dに沿って配置され、隣接する規制手段60の張出し部60Cの間に渡されている。この板材64の上には、耐火ボード34とコンクリートスラブ20との隙間Dを埋めるロックウール等の層間塞ぎ材66が載置されている。この層間塞ぎ材66によって、火災時に耐火ボード34とコンクリートスラブ20との隙間Dを通して、コンクリートスラブ20の下階からコンクリートスラブ20の上階へ流入する熱気や炎が抑制されている。
【0050】
<耐火手段の構成>
コンクリートスラブ20を支持する鉄骨梁(鉄骨部材)32はH型鋼で、ウェブ32Aとウェブ32Aの上下の端部に設けられた上部フランジ32B、下部フランジ32Cを備え、耐火ボード34と平行又は略平行して配置されている。鉄骨梁32の室内側を向く面は、耐火手段としての2枚の耐火板材150、152によって覆われている。耐火板材150、152としては、耐火ボード34と同様に、繊維混入けい酸カルシウム板、石膏ボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボードを用いることができる。
【0051】
なお、鉄骨梁32の室内側を向く面とは、ウェブ32Aの耐火ボード34と反対側の面や下部フランジ32Cの下面等を含む概念である。また、鉄骨梁32の室外側を向く面とは、耐火ボード34と対向する面等である。また、説明の便宜上、上部フランジ32Bと下部フランジ32Cとの間に形成された2つの開口のうち、耐火ボード34側に向く開口を室外側開口35とし、耐火ボード34と反対側を向く開口を室内側開口37として以下説明する。
【0052】
耐火板材150は、鉄骨梁32を間において耐火ボード34と対向すると共に、鉄骨梁32の上部フランジ32B及び下部フランジ32Cに渡って配置され、鉄骨梁32の室内側開口37を塞いでいる。耐火板材150はタッピングねじ、釘等の固定ピン154で、鉄骨梁32の室内側開口37内に設けられた不燃性のスペーサ156に固定されている。
【0053】
鉄骨梁32の下方には、耐火板材152が配置されている。耐火板材152は、鉄骨梁32の下方へ突出した耐火板材150の下端部と耐火ボード34との間に水平又は略水平に配置されている。この耐火板材152の一端部は、耐火板材150の下端部に突き当てられ、固定ピン154で耐火板材150に固定されている。また、鉄骨梁32の下部フランジ32Cには断面C型のアングル158が取り付けられており、このアングル158内に設けられた不燃性のスペーサ160に耐火板材152の中央部が固定ピン154で固定されている。これにより、耐火板材152が鉄骨梁32から耐火ボード34に向かって張り出した状態で保持され、耐火ボード34と鉄骨梁32の隙間Hが、施工誤差吸収用の隙間hを残して塞がれている。なお、アングル158は適宜省略可能である。
【0054】
一方、耐火板材152の張り出し方向(矢印A方向)先端部152Aは、耐火ボード34の裏面34Bに固定ピン154で固定された一対の目地材162A、162Bの間に挿入されている。これらの目地材162A、162Bは、耐火板材152の幅方向に延びる長手部材とされ、耐火ボード34と耐火板材152の隙間hを塞いでいる。この目地材162A、162Bによって、耐火ボード34と耐火板材152の隙間hから耐火ボード34と鉄骨梁32との間に流入する熱気や炎等が抑制されている。
【0055】
なお、目地材162A、162Bとしては、耐火ボード34と同様に、繊維混入けい酸カルシウム板、石膏ボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード等を用いることができる。また、本実施形態では2つの目地材162A、162Bを設けたが、目地材162A及び目地材162Bの少なくとも一方があれば良い。更に、目地材162A、162Bを省略し、耐火板材152を耐火ボード34の裏面34Bに接触させて、耐火ボード34と耐火板材152との隙間hを塞ぐことも可能である。
【0056】
次に、一実施形態に係るカーテンウォール用複合耐火構造10の作用について説明する。
【0057】
鉄骨梁32の室内側を向く面が、2枚の耐火板材150、152によって覆われている。一方、鉄骨梁32の室外側を向く面は耐火ボード34によって覆われている。また、耐火ボード34と鉄骨梁32との隙間Hは、耐火ボード34と耐火板材150との隙間hを残して、鉄骨梁32から耐火ボード34へ張り出した耐火板材152によって塞がれている。更に、この耐火板材152と耐火ボード34との隙間hは、目地材162A、162Bで塞がれている。これにより、火災時に、耐火ボード34と鉄骨梁32との隙間Hから耐火ボード34と鉄骨梁32の間へ流入する熱気や炎が抑制される。従って、鉄骨梁32の室外側開口35等の室外側を向く面を被覆する耐火被覆材等を省略することができるため、施工性の向上、コスト削減を図ることができる。特に、本実施形態は、耐火ボード34と鉄骨梁32との隙間Hが狭く、鉄骨梁32の室外側を向く面に耐火被覆材等を設けることが困難な場合に有効である。
【0058】
更に、耐火手段としての耐火板材150、152は取り扱いが容易であるため、一般的に用いられている吹付けロックウール等の吹付け系の耐火被覆を設ける構成と比較して、施工性が向上する。
【0059】
ここで、耐火ボード34を支持するカーテンウォール12の方立14及び無目16は、一般にアルミ製であるため、火災時の温度上昇によって溶融する恐れがある。これらの方立14及び無目16が溶融し、レール36(図2、図3参照)による耐火ボード34の周縁部の拘束が解除されると、保持手段40が耐火ボード34の全重量を負担することなる。この結果、耐火ボード34の被保持部34Xに作用する応力が大きくなる。従って、従来(例えば、特許文献3)のように耐火ボード34に埋め込んだインサートナットで耐火ボード34を支持する構成では、インサートナットの埋め込み部に応力が集中し、当該埋め込み部が破損、損傷する恐れがある。
【0060】
これに対して本実施形態では、保持手段40が耐火ボード34の表面34A及び裏面34Bを挟んで保持する。具体的には、耐火ボード34に取り付けられたナット部材42の雌ネジ部42Aに、取付部材44の第2保持部44Bに形成された取付孔52を通して締結ボルト38を締め込むことにより、ナット部材42の第1保持部42Bと取付部材44の第2保持部44Bの間で、被保持部34Xの表面34A及び裏面34Bが挟み込まれて保持されている。これにより、被保持部34Xの表面34A及び裏面34Bに作用する応力が低減されると共に、ナット部材42の雌ネジ部42Aが挿入された貫通孔48の内周面に作用する応力が低減される。
【0061】
また、火災時の熱気や、風、地震等の外力によって耐火ボード34が振動すると、耐火ボード34の被保持部34Xに繰り返し応力が作用するところ、本実施形態では、第1保持部42B及び第2保持部44Bが耐火ボード34の被保持部34Xの表面34A及び裏面34Bに面接触するため、繰り返し応力が分散されて被保持部34Xに伝達される。従って、耐火ボード34の被保持部34Xに作用する応力が低減される。
【0062】
このように、耐火ボード34の被保持部34Xの破損、損傷が抑制されるため、耐火ボード34の支持性能が向上する。この結果、保持手段40を備えない構成と比較して、鉄骨梁32の室外側を向く面が耐火ボード34によって長期的に覆われるため、鉄骨梁32の耐火性能が向上する。
【0063】
更に、耐火ボード34の被保持部34Xに作用する応力が低減されるため、被保持部34Xに要求される強度、剛性を小さく抑えることができる。従って、耐火ボード34の材料コスト等を削減することができる。
【0064】
更にまた、耐火ボード34に形成された貫通孔48に雌ネジ部42Aを挿入することにより、耐火ボード34にナット部材42を取り付ける構成であるため、従来(例えば、特許文献3)のように、耐火ボードにインサートナットを埋め込む構成と比較して、ナット部材42の取り付け作業の手間が低減される。
【0065】
ところで、本実施形態のように、コンクリートスラブ20から耐火ボード34に向かって張り出す保持手段40によって耐火ボード34を支持する構成では、火災時の温度上昇によって方立14及び無目16が溶融し、レール36による耐火ボード34の周縁部の拘束が解除されると、耐火ボード34の重量によって取付部材44が撓んだり、ナット部材42の周辺の耐火ボード34が圧壊されたりして、これらの取付部材44又はナット部材42を支点として、耐火ボード34がコンクリートスラブ20に接近する方向(図4において、矢印B方向)へ傾いたり、回転したりする恐れがある。
【0066】
この対策として本実施形態では、コンクリートスラブ20に規制手段60を設けている。この規制手段60は、コンクリートスラブ20から耐火ボード34に向かって張り出す張出し部60Cを有し、この張出し部60Cの張り出し方向(矢印A方向)先端部が、耐火ボード34の被保持部34Xよりも下方で耐火ボード34の裏面34Bに接触することにより、耐火ボード34のコンクリートスラブ20に接近する方向(矢印B方向)の傾きや回転が抑制されている。これにより、常時だけなく、火災時における耐火ボード34の支持性能を向上することができる。
【0067】
また、規制手段60によって耐火ボード34の傾きや回転が抑制されるため、耐火ボード34の周縁部を拘束するレール36等を省略することが可能になる。従って、カーテンウォール12の構造が単純化されるため、製作コストを削減することができる。
【0068】
更に、規制手段60の張出し部60Cは、耐火ボード34とコンクリートスラブ20との間の隙間Dに配置されており、この張出し部60Cによって板材64及び層間塞ぎ材66が支持されている。このように張出し部60Cを層間塞ぎ材66の支持部材として利用することにより、層間塞ぎ材66を支持する支持部材を省略することができるため、コスト削減を図ることができる。
【0069】
なお、耐火板材152を規制手段としても機能させることができる。即ち、耐火ボード34の裏面34Bに接触する耐火板材152によっても耐火ボード34のコンクリートスラブ20に接近する方向(矢印B方向)の傾きや回転を抑制することができる。これにより、規制手段60を省略することができるため、コスト削減を図ることができる。
【0070】
また、耐火ボード34を保持する保持手段40と規制手段としての耐火板材152の支持点間の距離L(図)が広がるため、即ち、モーメントの腕の長さが長くなるため、耐火ボード34の傾きや回転を効率的に抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では、保持手段40及び規制手段60をコンクリートスラブ20の上面に取り付けることにより、保持手段40及び規制手段60の取り付け作業が容易となる。保持手段40及び規制手段60の取り付け作業を下向きで行うことができるためである。また、保持手段40及び規制手段60を1つのボルト56でコンクリートスラブ20の上面に固定するため、保持手段40と規制手段60とを別々に取り付ける構成と比較して、保持手段40及び規制手段60の取り付け作業の手間が低減される。従って、施工性が向上する。
【0072】
このように本実施形態に係るカーテンウォール用複合耐火構造10を備えることにより、耐火ボード34の破損、損傷が抑制されると共に、火災時における耐火ボード34の傾きや回転が抑制され、耐火ボードの支持性能が向上する。この結果、鉄骨梁32の耐火性能が向上する。
【0073】
次に、一実施形態に係るカーテンウォール用複合耐火構造の変形例について説明する。
【0074】
図6及び図7に示されるように、耐火ボード34と耐火板材152の張り出し方向先端部152Aとを接合手段によって接合しても良い。具体的には、耐火板材152の張り出し方向先端部152Aには、フレーム166が取り付けられている。フレーム166は、断面C字型の鋼板で、耐火板材152の幅方向に延びる長手部材とされ、C字型の開口166Bに耐火板材152の張り出し方向先端部152Aが挿入された状態で、図示しないピン等で当該張り出し方向先端部152Aに取り付けられている。
【0075】
フレーム166の底壁166Aには、当該フレーム166の長手方向に並ぶ複数のボルト孔168が形成されている。このボルト孔168を通して耐火ボード34の裏面34Bに埋設されたインサートナット170(接合手段)に接合ボルト172(接合手段)を締め込むことにより、耐火ボード34と耐火板材152とが接合されている。
【0076】
また、図7に示されるように、フレーム166の開口166B内には、閉塞部材174が設けられている。閉塞部材174は、耐火板材152の幅方向に延びる長手部材とされ、接合ボルト172の頭部と耐火板材152の端面との間に配置されている。この閉塞部材174によって、フレーム166と耐火板材152の隙間が塞がれており、この隙間から火災時に耐火ボード34と鉄骨梁32との間に流入する熱気や炎等が抑制されている。なお、耐火板材152の端面に熱膨張性の耐火ゴムテープや無機系耐火塗料を設けて耐火性を高めても良い。
【0077】
このように、接合手段としての接合ボルト172及びインサートナット170によって耐火板材152に取り付けられたフレーム166と耐火ボード34を接合することにより、火災時に耐火ボード34とフレーム166の隙間から耐火ボード34と鉄骨梁32との間へ流入する熱気、炎等が抑制される。更に、耐火板材152の端面とフレーム166との隙間を閉塞部材174で塞ぐことにより、この隙間から火災時に耐火ボード34と鉄骨梁32との間へ流入する熱気や炎等が抑制される。従って、耐火性能が向上する。
【0078】
また、耐火板材152の張出し方向先端部152Aにフレーム166を設けるという簡単な構成により、耐火板材152と耐火ボード34を接合することができる。従って、施工性が向上する。
【0079】
次に、耐火手段の変形例について説明する。
【0080】
図8には、耐火手段としての鋼板176及び耐火被覆材178が示されている。下地材としての鋼板176は、一端部が鉄骨梁32の下部フランジ32Cに溶接等で接合され、他端部が鉄骨梁32から耐火ボード34に向かって張り出し、耐火ボード34の裏面34Bに接触している。この鋼板176及び鉄骨梁32の室外側を向く面に吹付けロックウール等の吹付け系の耐火被覆材178が施されている。
【0081】
このように、耐火手段として、安価な耐火被覆材178を用いることにより、コスト削減を図ることができる。
【0082】
また、耐火ボード34の表面34A及び裏面34Bは、防水手段としての撥水材180により被膜されている。ここで、耐火ボード34は吸水性が高く、耐火被覆材178の吹き付け施工時の水分を吸収する恐れがある。この水分が蒸発してカーテンウォール12の窓ガラス18に結露すると、窓ガラス18が曇ってカーテンウォール12の見栄えが悪くなり、また、カーテンウォール12に結露用の排水路等が必要となり、カーテンウォール12の構造が複雑化する。
【0083】
これに対して本変形例では、撥水材180で耐火ボード34の表面34A及び裏面34Bを被膜したことにより、耐火ボード34に吸収される水分量が低減される。従って、窓ガラス18の曇りが抑制されると共に、結露用の排水路等を省略することができるため、カーテンウォール12の構造を単純化することができる。
【0084】
なお、下地材としては、図9に示されるように、メタルラスやアングルラス等のラス182を用いても良い。このラス182は、鉄骨梁32の下部フランジ32Cに溶接等で固定された複数の棒鉄筋184の上に載置さている。このラス182に対して耐火被覆材178(図8参照)が吹き付けられる。なお、下地材としての鋼板176やラス182は、前述した耐火ボード34の傾きや回転を規制する規制手段としても機能させることができる。
【0085】
また、耐火手段としては、図10に示されるように、ロックウールやセラミックウール等をシート状に成形した巻き付け耐火被覆材186を用いても良い。巻き付け耐火被覆材186は、鉄骨梁32の室内側を向く面を覆うように、鉄骨梁32の上部フランジ32B及び下部フランジ32Cに渡って配置されると共に、鉄骨梁32の下部フランジ32Cに沿って水平方向へ屈曲され、当該下部フランジ32Cから耐火ボード34に向かって張り出している。この巻き付け耐火被覆材186によって、耐火ボード34と鉄骨梁32との隙間Hが塞がれている。
なお、巻き付け耐火被覆材186は、図示しないタッピングねじ、釘等の固定ピンで鉄骨梁32や耐火ボード34に固定されている。
【0086】
この巻き付け耐火被覆材186は柔軟性が高いため、鉄骨梁32の形状に応じて巻き付けることができる。従って、施工性が向上する。
【0087】
なお、図示を省略するが、巻き付け耐火被覆材186に替えて、発泡性耐火シート材、又は熱膨張耐火シート材等を用いても良い。これらの巻き付け耐火被覆材186、発泡性耐火シート材、又は熱膨張耐火シート材を適宜選択することにより、要求される耐火性能を確保することができる。
また、上記した耐火板材150、152、耐火被覆材178、巻き付け耐火被覆材186、発泡性耐火シート材、及び熱膨張耐火シート材を適宜組み合わせて用いても良い。
【0088】
次に、保持手段の変形例について説明する。
【0089】
図11に示されるように、耐火ボード34に形成された座グリ50内に、耐火ボード34と同じ材料で構成された化粧板92を配置し、座グリ50を塞いでも良い。これにより、化粧板92によってナット部材42が隠されるため、耐火ボード34の見栄えが良くなる。
【0090】
また、耐火ボード34の貫通孔48とナット部材42の雌ネジ部42Aとの間や、座グリ50の底面と第1保持部42Bとの間、耐火ボード34の裏面34Bと第2保持部44Bとの間に、接着剤や緩衝材、シール部材等の機能性材料を設けても良い。
【0091】
ここで、機能性材料として接着剤を設けることにより、耐火ボード34とナット部材42との接合強度が上がるため、耐火ボード34の支持強度が向上する。また、耐火ボード34の搬送時におけるナット部材42の抜け落ち等が防止されるため、施工性が向上する。
【0092】
なお、接着剤としては、有機系無機系を問わずに使用可能である。有機系の場合は繊維混入けい酸カルシウム板への表面処理(シーラー処理)が必要となる。耐火性能上は無機系接着剤のうち、セラミック系やけい酸ソーダ系の使用が望ましく、また、繊維混入けい酸カルシウム板には、けい酸ソーダ系が一般的に使用される。
【0093】
また、機能性材料として緩衝材又はシール部材を設けることにより、耐火ボード34のガタツキが抑制されると共に、緩衝材又はシール部材が耐火ボード34に対する衝撃を吸収するため、耐火ボード34の支持性能が向上する。
【0094】
なお、緩衝材としては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、粘弾性体等を用いることができる。また、シール部材としては、例えば、シリコン系充填材、熱膨張性耐火充填材の充填材や、これらの成形品を用いることができる。また、熱膨張性耐火材の成形品としては、例えば、ゴム材とスポンジ材等がある。
【0095】
また、上記実施形態では、コンクリートスラブ20の上面に取付部材44を直接取り付けたがこれに限らない。例えば、図12に示されるように、取り付け高さ調整用の調整部材94を介して取付部材44をコンクリートスラブ20に取り付けても良い。この調整部材94は鋼板をZ字状に屈曲させて構成され、高さの異なる取付部94Aと連結部94Bを有している。この調整部材94は、その取付部94Aが規制手段60の取付部60Aの上に重ねられ、連結部94Bがコンクリートスラブ20から耐火ボード34に向かって張り出すように配置されている。
【0096】
取付部94Aには取付孔96が形成されており、この取付孔96及び規制手段60の取付部60Aの取付孔62に貫通されるボルト56をコンクリートスラブ20の上面に埋設されたアンカーナット58に締め込むことにより、調整部材94及び規制手段60がコンクリートスラブ20の上面に固定されている。
【0097】
また、調整部材94の取付部94Aの取付孔96は、連結部94Bの張り出し方向(矢印A方向)に延びる長孔とされており、耐火ボード34とコンクリートスラブ20との隙間D(図2参照)を調整可能になっている。なお、この取付孔96は、連結部94Bの張り出し方向と直交する方向に延びる長孔としても良い。
【0098】
取付部94Aよりもコンクリートスラブ20に対して高い位置に配置された連結部94Bの上には、取付部材44の取付部44Aが重ねられている。この連結部94Bには貫通孔98が形成されており、この貫通孔98及び取付部44Aの取付孔54に貫通されるボルト121及びナット122によって連結部94Bと取付部44Aが連結されている。
【0099】
このように、調整部材94を介して取付部材44をコンクリートスラブ20に取り付けることにより、耐火ボード34の取り付け高さを調整することができる。これにより、カーテンウォール12の施工誤差やコンクリートスラブ20の施工誤差を調整部材94で吸収することができるため、施工性が向上する。
【0100】
更に、図13に示されるように、耐火ボード34を支持するファスナー24を介して、取付部材44をコンクリートスラブ20に取り付けても良い。ファスナー24の上には、断面L字状のアングル124が配置されている。このアングル124は耐火ボード34と略平行して配置され、その両端部がファスナー24から水平方向両側へ張り出している。
【0101】
アングル124は、ファスナー24をコンクリートスラブ20に固定するボルト28によって、ファスナー24と共にコンクリートスラブ20の上面に固定されている。このアングル124の両端部に、取付部材44の取付部44Aが取り付けられている。取付部材44は、アングル124と略直交するように配置され、その取付部44Aがアングル124の両端部にそれぞれ重ねられている。アングル124の両端部には、連結孔(図示省略)がそれぞれ形成されており、各連結孔及び取付部44Aの取付孔54に貫通される連結ボルト126及びナット(図示省略)によって取付部材44がアングル124に固定されている。この取付部材44は、アングル124から耐火ボード34に向かって張り出し、第2保持部44Bを耐火ボード34の裏面34Bに接触させた状態で配置されている。
【0102】
このように、ファスナー24を介して取付部材44を取り付けることより、コンクリートスラブ20に埋設するアンカーナット58(図4参照)を省略することができるため、取り付け作業の手間が低減される。従って、施工性が向上する。
【0103】
また、取付部材44の形状は断面L字状に限らない。例えば、図14に示されるように、断面Z字状の取付部材140を用いても良い。この取付部材140はアングル142を介してコンクリートスラブ20の上面に取り付けられている。アングル142は断面L字状で、その一端部に設けられた取付部142Aがボルト144でコンクリートスラブ20の上面に固定され、他端部に設けられた連結部142Bがコンクリートスラブ20から耐火ボード34に向かって張り出した状態で配置されている。
【0104】
取付部材140は鋼板をZ字状に屈曲させて構成され、高さの異なる取付部140Aと第2保持部140Bを有し、その長手方向を水平方向にして配置されている。この取付部材140は、その取付部140Aがアングル142の連結部142Bに重ねられ、取付部140Aよりも耐火ボード34側に配置された第2保持部140Bが耐火ボード34の裏面34Bに面接触された状態でアングル142に支持されている。この取付部140A及びアングル142の連結部142Bには、取付孔146及び貫通孔(図示省略)がそれぞれ形成されており、これらの取付孔146及び貫通孔に貫通されるボルト148及びナット149によって取付部140Aが連結部142Bに連結されている。
【0105】
なお、取付部材140の取付部140Aに形成された取付孔146は、アングル142の張り出し方向(矢印A方向)と直交する方向に延びる長孔とされており、アングル142と耐火ボード34の水平方向の施工誤差等を吸収可能となっている。また、取付孔146は、鉛直方向に延びる長孔としても良い。これと同様に、アングル142の連結部142Bに形成された貫通孔も長孔としても良い。
【0106】
耐火ボード34の裏面34Bに面接触された第2保持部140Bには取付孔145が形成されており、この取付孔145を通してナット部材42の雌ネジ部42A(図4参照)に締結ボルト38を締め込むことにより、耐火ボード34の被保持部34Xが保持されている。
【0107】
このように、取付部材140の形状、配置する向きは適宜変更可能である。また、取付部材140の長手方向を水平方向にすることにより、コンクリートスラブ20と耐火ボード34との水平方向の施工誤差等を容易に吸収することができる。
【0108】
また、上記実施形態では、取付部材44をコンクリートスラブ20の上面に取り付けたがこれに限らない。取付部材44は、コンクリートスラブ20の上部に取り付けられていれば良く、例えば、コンクリートスラブ20の端面の上部に取り付けても良い。
【0109】
更に、上記実施形態では、耐火ボード34にナット部材42を取り付けたが、これに限らない。保持手段40は、耐火ボード34の被保持部34Xの表面34A及び裏面34Bを挟んで保持できれば良く、即ち、耐火ボード34の厚さ方向両側から耐火ボード34を挟んで保持する構成であれば良く、例えば、図15に示されるように、耐火ボード34の表面34Aに第1保持部としての当て板128を面接触させ、この当て板128と第2保持部44Bとの間で、被保持部34Xの表面34A及び裏面34Bを挟んでも良い。
【0110】
具体的には、当て板128及び耐火ボード34の被保持部34Xには貫通孔130、132がそれぞれ形成されており、これらの貫通孔130、132及び第2保持部44Bの取付孔52を貫通するボルト134及びナット136によって、当て板128と第2保持部44Bの間隔を狭くすることにより、耐火ボード34の被保持部34Xの表面34A及び裏面34Bが挟み込まれている。これにより、上記実施形態に係る保持手段40と同様の効果を得ることができる。
【0111】
また、上記実施形態に係るナット部材42では、雌ネジ部42Aの端部に第1保持部42Bを設けたがこれに限らない。例えば、直径が大きくされた円盤状の第1保持部42Bに、複数の雌ネジ部42Aを設けても良い。これにより、耐火ボード34の被保持部34Xに作用する応力が更に分散されるため、耐火ボード34の被保持部34Xの破損、損傷が抑制される。また、第1保持部42Bは円盤状に限らず、矩形でも良い。
【0112】
また、図16に示されるように、板材64を省略し、張出し部60Cで層間塞ぎ材66を直接支持しても良い。この構成では、張出し部60Cを隙間D(図2参照)に沿う板状に形成しても良い。
【0113】
また、上記実施形態に係るカーテンウォール用複合耐火構造は、鉄骨梁32に限らず、鉄骨柱にも適用可能である。また、コンクリートスラブ20に限らず、デッキ合成スラブ、デッキ複合スラブ、又はデッキ構造スラブにも適用可能である。また、耐火ボード34、耐火板材150、152には、繊維混入けい酸カルシウム板、石膏ボード、ロックウールボード、セラミックファイバーボード等の柔らかい材料(脆い材料)に限らず、PC板、ALCパネル、押し出し成形セメント板等の固い材料に適用することも可能である。
【0114】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0115】
10 カーテンウォール用複合耐火構造
20 コンクリートスラブ(構造部材)
32 鉄骨梁(鉄骨部材)
34 耐火ボード
38 締結ボルト(保持手段)
40 保持手段
42 ナット部材(保持手段)
42A 雌ネジ部(保持手段)
42B 第1保持部(保持手段)
44B 第2保持部(保持手段)
48 貫通孔
52 取付孔
128 当て板(第1保持手段)
134 ボルト(保持手段)
136 ナット(保持手段)
140B 第2保持部(保持手段)
150 耐火板材(耐火手段)
152 耐火板材(耐火手段)
152A 張り出し方向先端部
166 フレーム(接合手段)
170 インサートナット(接合手段)
172 接合ボルト(接合手段)
174 閉塞部材(接合手段)
176 鋼板(下地材、耐火手段)
178 耐火被覆材(耐火手段)
180 撥水材(防水手段)
182 ラス(下地材、耐火手段)
186 巻き付け耐火被覆材(耐火手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室外側に耐火ボードが隙間を空けて配置される構造部材を支持する鉄骨部材の室内側を向く面を覆うと共に、該鉄骨部材から前記耐火ボードへ向かって張り出し、前記鉄骨部材と前記耐火ボードとの隙間を塞ぐ耐火手段と、
構造部材の上部に取り付けられ、前記耐火ボードの両面を挟んで保持する保持手段と、
を備えるカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項2】
前記保持手段が、
前記耐火ボードに形成された貫通孔に挿入される雌ネジ部と、
前記雌ネジ部から該雌ネジ部の径方向に突出し、前記耐火ボードの表面と接触する第1保持部と、
前記耐火ボードの裏面と接触する第2保持部と、
前記第2保持部に形成された取付孔を通して前記雌ネジ部に締結される締結ボルトと、
を有する請求項1に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項3】
前記耐火手段と前記耐火ボードとを接合する接合手段を備える請求項1又は請求項2に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項4】
前記接合手段が、
前記耐火手段の張り出し方向先端部に取り付けられ、前記耐火ボートに接合されるフレームと、
前記耐火手段の張り出し方向先端部と前記フレームとの隙間を塞ぐ閉塞部材と、
を有する請求項3に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項5】
前記耐火手段が、耐火板材を有する請求項1〜4の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項6】
前記耐火手段が、
前記鉄骨部材から前記耐火ボードに向かって張り出す下地材と、
前記下地材に吹き付けられる耐火被覆材と、
を有する請求項1〜5の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項7】
前記耐火ボードの表面に設けられる防水手段を備える請求項6に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項8】
前記耐火手段が、巻き付け耐火被覆材、発泡性耐火シート材、又は熱膨張耐火シート材を有する請求項1〜6の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載のカーテンウォール用複合耐火構造を備える建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−190613(P2011−190613A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57756(P2010−57756)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】