説明

カーテン用生地

【課題】十分な断熱性を有しているとともに、安価かつ容易に製造することが可能なカーテン用生地を提供する。
【解決手段】滑剤を添加していないポリエチレンテレフタレートを溶融押し出しして紡糸した後に染色することによって、略三角形状の異形断面を有するポリエステルブライト糸を形成した。一方、滑剤として1質量%のシリカ粒子を添加したポリエチレンテレフタレートを溶融押し出しして紡糸した後に染色することによって、ポリエステル染色糸を形成した。そして、得られたポリエステルブライト糸を経糸とし、ポリエステル染色糸を緯糸とし、両者を繻子織りすることによって、カーテン用生地を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーテンの用途に適した生地に関するものであり、詳しくは、断熱性(赤外線の反射特性)に優れたカーテン用生地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
夏季に用いられるカーテン用生地には、赤外線を反射させて外部からの熱の伝達を遮断することによって一定の空間の内部の温度上昇を抑制する性質が求められる。そのような断熱性を有する繊維布帛としては、アルミニウムを蒸着した繊維を用いたもの、銀メッキを施した繊維を用いたもの、繊維中に酸化チタン粒子を練り込んだものが知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−92842号公報
【特許文献2】特開2008−75184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の如く、アルミニウムを蒸着した繊維や、銀メッキを施した繊維を用いた繊維布帛は、繊維を製造する際に、大掛かりな装置を必要とするため、製造に手間がかかる上に、製造コストが高い、という不具合がある。一方、繊維中に酸化チタン粒子を練り込んだ繊維布帛は、高濃度の酸化チタン粒子を樹脂中に均一に分散させなければ、赤外線の反射特性を十分に発現させることができないため、合成樹脂製の繊維布帛としての特性が損なわれる、という不具合がある。
【0005】
本発明の目的は、上記従来の繊維布帛が有する問題点を解消し、十分な断熱性(赤外線の反射特性)を有しているとともに、安価かつ容易に製造することが可能なカーテン用生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、経糸と緯糸とを繻子織りあるいは綾織りしてなるカーテン用生地であって、経糸あるいは緯糸の内の一方が、実質的に滑剤を添加していないポリエステル樹脂によって形成された異形断面を有する繊維からなる異形断面糸であることを特徴とするものである。なお、異形断面(異型断面とも言う)を有する繊維とは、断面形状が円形(真円形)以外の形状(三角形状、楕円形状、星形等)になっている繊維のことを言い、異形断面糸とは、異形断面を有する1本の繊維からなる糸、あるいは、異形断面を有する複数の繊維を束ねてなる糸のことを言う。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記異形断面糸が、略三角形状の断面を有する繊維からなるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載のカーテン用生地は、経糸あるいは緯糸に用いられた異形断面糸の各単糸が効率的に赤外線を反射するため、良好な断熱性を発揮することができる。したがって、特に、夏季用の各種のカーテンの製造材料として、好適に用いることができる。
【0009】
請求項2に記載のカーテン用生地は、略三角形状の断面を有する繊維からなる異形断面糸の単糸が非常に効率的に赤外線を反射するため、きわめて高い断熱性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】カーテン用生地の断熱性の評価方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るカーテン用生地は、実質的に滑剤を添加していないポリエステル樹脂によって形成された異形断面を有する繊維からなる異形断面糸を、経糸あるいは緯糸として用い、他の糸と繻子織りあるいは綾織りすることによって形成される。なお、繻子織(朱子織り)とは、経糸・緯糸が各5本以上で一つの完全組織を作り、交錯する点が一定間隔で、かつ隣り合わない織物組織(あるいは織り方)のことを言い、綾織りとは、経糸が緯糸の上を2本(あるいは3本)、緯糸の下を1本、交差させて織られる織物組織(あるいは織り方)のことを言う。
【0012】
異形断面糸を形成するポリエステル樹脂としては、芳香族系ポリエステルや脂肪族系ポリエステルを好適に用いることができる。芳香族系ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、あるいは、それらとイソフタル酸、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸およびポリエチレングリコール等の第三成分とを共重合またはブレンドさせたもの等を挙げることができ、脂肪族系ポリエステルとしては、ポリL乳酸、ポリD乳酸およびポリD、L乳酸からなるホモポリマー、またはポリ乳酸−グリコール酸共重合体等を挙げることができる。
【0013】
また、異形断面糸は、ポリエステル樹脂を溶融させてノズルから押し出す(紡糸する)際に、楕円形、三角形、十字形、星形、放射線状等の真円形でない孔を穿設したノズルを利用することによって得られる。異形断面糸を紡糸する際のノズルの孔の形状(すなわち、形成される異形断面糸の断面形状)は、特に限定されないが、三角形やY字状の孔を穿設したノズルを利用することによって形成されており各単糸が略三角形状(各辺が内側や外側に湾曲した三角形状を含む)の異形断面糸を用いると、カーテン用生地の断熱性がより優れたものとなるので好ましい。また、異形断面糸の異形度(異形断面の外接円R1と内接円R2との半径比R1/R2)は、特に限定されないが、1.1〜3.0の範囲であると、断熱性が良好になるので好ましい。
【0014】
さらに、異形断面糸を形成するポリエステル樹脂は、赤外線の反射特性を高めるために、シリカや炭酸カルシウム等の滑剤が含まれていないことが必要であるが、加工性、生産性向上や特性改善のために、通常使用されている熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、平滑剤、可塑剤、抗菌剤、防かび剤、消臭剤等の各種の添加剤を添加することも可能である。
【0015】
また、本発明に係るカーテン用生地は、上記した異形断面糸を経糸あるいは緯糸に用いて、他の糸と繻子織りあるいは綾織りすることによって得られるが、異形断面糸と織り込む他の糸は、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、木綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、あるいはそれらを単独または2種以上混合してなる混合繊維のいずれをも用いることができる。異形断面糸と織り込む他の糸を合成繊維とすると、織り込んだ後の加工がし易くなるので好ましく、ポリエステル系繊維を用いると、特に好ましい。
【0016】
また、本発明に係るカーテン用生地を形成する際には、上記した異形断面糸を経糸あるいは緯糸のいずれにも用いることができるが、異形断面糸を経糸に用いると、断熱性がより高いものとなる上、生産し易いものとなるので好ましい。
【0017】
また、本発明に係るカーテン用生地に用いる異形断面糸の単糸の太さは、特に限定されるものではないが、1〜1000d(デニール)の太さであると、赤外線の反射特性が良好なものとなるので好ましい。さらに、異形断面糸(単糸を束ねた糸)の太さも、特に限定されないが、50〜1000dの太さであると、赤外線の反射特性が良好となるので好ましく、50〜300dの太さであると、特に好ましい。一方、異形断面糸と織り込む他の糸の太さも、特に限定されるものではないが、50〜1000dの太さであると、織り込んだ後の生地の肌触りが良好なものとなるので好ましい。
【0018】
加えて、本発明に係るカーテン用生地は、上記した異形断面糸を経糸あるいは緯糸に用いて、他の糸と繻子織りあるいは綾織りすることによって得られるが、異形断面糸を経糸として用いる場合には、織り方が繻子織りであると、赤外線の反射特性が一段と優れたものとなるので好ましい。
【0019】
上記した方法によって得られるカーテン用生地は、十分な断熱性(赤外線の反射特性)を発現することから、建造物や自動車用の各種のカーテンの素材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例における断熱性の評価方法は、以下の通りである。
【0021】
<断熱性試験(赤外ランプ 60℃法)>
図1の如く、矩形(左右×上下=50cm×40cm)のガラス板Gを前方の壁面に嵌め込んだ直方体状(縦×横×高さ=54cm×54cm×45cm)の密封した箱状の試験装置Eを形成し、その試験装置Eのガラス板Gと隣接した後方に、約50cm×40cmの試験片(カーテン用生地)Sを吊るすとともに、ガラス板Gより約50cm前方に離れたところに赤外ランプLを設置する。また、吊した試験片Sの表面より8cm後方の位置に、ブラックパネルBを、ガラス板Gの板面と平行に立設し、ガラス板Gと反対側の壁面より4cm前方の位置に、温度センサーDを設置する。そして、赤外ランプLを60分間に亘って照射し、ブラックパネルBの温度および試験槽内の温度(温度センサーDの温度)を所定時間(5分間)毎に測定する。また、試験片Sを吊るさない状態で、赤外ランプLを60分間に亘って照射し、ブラックパネルBの温度および試験槽内の温度(温度センサーDの温度)を所定時間毎に測定する(空試験)。なお、測定条件は、以下の通りに設定する。
環境温度:25.0±1.0℃
初期温度:ブラックパネル、試験槽内とも 25.0±0.5℃
有効空試験条件:ブラックパネル最大上昇温度 37.0±0.5℃、試験槽内最大上昇温度 24.0±0.5℃
【0022】
そして、上記したブラックパネルBの温度および試験槽内の温度(温度センサーDの温度)の測定結果に基づいて、下式1,2を用いて、断熱効果、断熱効果率を算出する。
断熱効果(℃)=空試験の最大上昇温度(℃)−試験片吊着試験の最大上昇温度(℃) ・・・(1)
断熱効果率(%)=(空試験の最大上昇温度−試験片吊着試験の最大上昇温度)/空試験の最大上昇温度×100 ・・・(2)
【0023】
[実施例1]
<経糸の作製>
滑剤を添加していないポリエチレンテレフタレート(極限粘度=0.70dl/g)を、常法によりチップ化して乾燥し、平面視が正三角形のノズル孔を24個有する紡糸口金を通して、紡糸温度288℃にて紡出した。さらに、紡出糸条を冷却固化した後、220℃に設定した円筒型間接加熱処理装置中を走行させ、次いで油剤を付与し、2糸条分を合わせて引き取り、ローラー間に設けた流体交絡処理装置で流体交絡処理しつつ、所定の紡糸速度で巻取ることによって、各単糸が略三角形状(各辺が外側に湾曲した三角形状)の異形断面(異形度=1.2)を有する100d(デニール)/48フィラメントの延伸繊維を得た。しかる後、得られた延伸繊維を市販の染料(分散染料)で染色することによって、経糸用のポリエステルブライト糸を得た。
【0024】
<緯糸の作製>
滑剤として1質量%のシリカ粒子を添加したポリエチレンテレフタレート(極限粘度=0.70dl/g)を、常法によりチップ化して乾燥し、平面視が円形のノズル孔を24個有する紡糸口金を通して、紡糸温度288℃にて紡出した。さらに、紡出糸条を冷却固化した後、220℃に設定した円筒型間接加熱処理装置中を走行させ、次いで油剤を付与し、2糸条分を合わせて引き取り、ローラー間に設けた流体交絡処理装置で流体交絡処理しつつ、所定の紡糸速度で巻取ることによって、各単糸が円形の断面を有する75d(デニール)/48フィラメントの延伸繊維を得た。しかる後、得られた延伸繊維を市販の染料(分散染料)で染色することによって、緯糸用のポリエステル染色糸を得た。
【0025】
<カーテン用織布の作製>
経糸として上記ポリエステルブライト糸を用い、緯糸として上記ポリエステル染色糸を用いて、最終的な経糸密度、緯糸密度が、それぞれ、110本/2.54cm,120本/2.54cmとなるように繻子織りすることによって、繻子組織(サテン組織)を有する実施例1のカーテン用生地を作製した。そして、上記した方法によって、得られた実施例1のカーテン用生地の断熱性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2]
経糸と緯糸との織り方を綾織りに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のカーテン用生地を作製した。そして、上記した方法によって、得られた実施例2のカーテン用生地の断熱性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
経糸を作製する際に、ポリエチレンテレフタレートを溶融紡出する紡糸口金を、平面視が円形のノズル孔を24個有するものに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のカーテン用生地を作製した。そして、上記した方法によって、得られた比較例1のカーテン用生地の断熱性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から、異形断面糸を経糸に用いた実施例1,2のカーテン用生地は、異形断面糸を用いていない比較例1のカーテン用生地に比べて、赤外線を照射したときの断熱効果率が高く、断熱性(赤外線の反射特性)に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るカーテン用生地は、上記の如く優れた効果を奏するものであるから、各種のカーテンの製造材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
E・・試験装置
B・・ブラックパネル
D・・温度センサ
L・・赤外ランプ
G・・ガラス板
S・・試験片(カーテン用生地)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸とを繻子織りあるいは綾織りしてなるカーテン用生地であって、
経糸あるいは緯糸の内の一方が、実質的に滑剤を添加していないポリエステル樹脂によって形成された異形断面を有する繊維からなる異形断面糸であることを特徴とするカーテン用生地。
【請求項2】
前記異形断面糸が、略三角形状の断面を有する繊維からなるものであることを特徴とする請求項1に記載のカーテン用生地。

【図1】
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【公開番号】特開2013−19077(P2013−19077A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154321(P2011−154321)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(509308447)株式会社 維研 (2)
【Fターム(参考)】