説明

カートリッジ、印刷装置

【課題】カートリッジの誤装着に対処できる新たな手法を提供する。
【解決手段】インクカートリッジ200は、インク収容部を形成する筐体202の一つの周壁表面にラベル部210を有する。このラベル部210は、異なる性状の複数の層を積層した積層構造とされ、所定の波長の光(第1波長光)を透過させる光学機能層213と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で第1波長光を透過させる光透過層212とを、光学機能層213が筐体表面側にして積層して備える。光透過層212は、ラベル部210に向かい合う加熱ユニット100のサーマルヘッド102から、発泡性材料が発泡する温度で受熱すると、発泡性材料の発泡を経て第1波長光の透過状況を不可逆的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷に用いる印刷材を収容するカートリッジと、当該カートリッジを装着可能な印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カートリッジを印刷装置に装着して用いる場合、カートリッジと印刷装置との間で種々の情報交換を行うため、カートリッジに記憶素子を搭載する技術が提案されている(例えば、特許文献1等)。記憶素子には、印刷材の色種別、印刷材残量といったカートリッジが収容する印刷材についての情報が記憶され、これら情報に基づいて、種類の異なる印刷材の供給回避などが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献で提案された技術は、カートリッジに関する何らかの情報を記憶させたいという要請に応えたものではあるものの、カートリッジにはEEPROMなどの記憶素子を設ける必要があり、さらにカートリッジの記憶素子と記録装置本体の制御回路との間で通信可能とするための電気配線も必要となり、カートリッジの構造が複雑になるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、カートリッジに関する情報更新に対処できる新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の適用例として実施することができる。
【0007】
[適用1:カートリッジ]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
カートリッジ表面に、所定の波長の光を透過させる光学機能層と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で前記波長の光を透過させる光透過層とを、前記光学機能層がカートリッジ表面側となるように積層して備え、
前記光透過層は、前記発泡性材料の発泡を経て前記波長の光の透過状況を不可逆的に変化させる性状を有する
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成を備えるカートリッジは、そのカートリッジ表面に積層して備える光学機能層と光透過層とで、以下に説明するような情報更新が可能である。以下、カートリッジ表面に上記のように積層して備える光学機能層と光透過層とを、説明の便宜上、積層部と称し、上記構成を備えるカートリッジでの情報更新について説明する。
【0009】
上記構成を備えるカートリッジにおける積層部の光透過層は、カートリッジ表面側の光学機能層に積層して位置し、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で、上記所定の波長の光(以下、「第1波長光」と称する)光を透過させる。その一方、この光透過層は、その有する発泡性材料が発泡すれば、第1波長光の透過状況を不可逆的に変化させる。このため、積層部は、光透過層が含む発泡性材料の発泡前後において、光透過層での第1波長光の透過状況を発泡性材料の発泡が起きた範囲において異なるものとする。この場合、光透過層において発泡性材料が発泡すると、その光透過層では発泡性材料の発泡により気泡が発現して、光透過層に気泡が混在することになり、層中の気泡は、一般に、光の散乱を招く。よって、光透過層において発泡性材料が発泡すると、第1波長光の透過状況は悪くなり、透過率は低下することになる。そして、この発泡性材料の発泡は、不可逆的であることから、光透過層での第1波長光の透過率は不可逆的に低下する。このため、積層部にその光透過層の側から第1波長光を照射した場合、光透過層での第1波長光の透過状況は、発泡性材料の発泡前後で相違し、これにより、発泡性材料の発泡前後において、積層部は変化し、その変化は、光透過層での透過状況の変化が不可逆的であることから、不可逆的となる。
【0010】
こうした不可逆的な積層部の変化は、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当する。よって、上記構成を備えるカートリッジによれば、カートリッジ表面における積層部にて、カートリッジに関する情報更新を図ることができる。なお、カートリッジ表面の積層部にて情報更新を図るに当たり、記憶素子を用いる必要はないものの、記憶素子を併用することも可能である。
注)本件は、印刷材の使い切りについても削除されていますが、他の案件JP04P566−567では、印刷材の使い切りについての例示は残されています。統一すべきかに付き、ご指示願います。
【0011】
この他、上記したカートリッジは、次のような態様とすることができる。例えば、前記発泡性材料が加熱により発泡するものであれば、光透過層は、発泡性材料の発泡を起こす温度で受熱することで、前記発泡性材料を発泡させて第1波長光の透過状況を不可逆的に変化、即ち既述したように第1波長光の透過率を不可逆的に低下させることになる。
【0012】
また、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を有するものとし、この光吸収パターン層を前記光学機能層の表裏のいずれかの面に備えるようにできる。こうすれば、発泡性材料の発泡前後で次のようになる。発泡性材料の発泡前では、積層部にその光透過層の側から照射された第1波長光は、光透過層を透過して光吸収パターン層に到達し、その光吸収パターン層のパターンで吸収され、パターン以外の部位では光学機能層まで到達する。このため、光透過層を透過して光学機能層に到達する第1波長光の到達状況には光吸収パターン層のパターン像が映り込むことになる。その一方、発泡性材料の発泡後では、光透過層の透過率が既述したように低下することから、発泡性材料の発泡前後での積層部の上記した不可逆的な変化は、パターン像の変化として捉えることができる。この結果、上記の態様によれば、積層部の不可逆的な変化を光吸収パターン層のパターン像変化により、より顕著に認識できる。
【0013】
具体的には、光透過層の全域において発泡性材料が発泡すれば、光透過層の全域で透過率が低下するので、積層部は、第1波長光を照射した場合に、光吸収パターン層のパターン像を、発泡性材料の発泡前と比較してより低いコントラスト比で表示するか、または、パターン像を表示しないことになり、積層部の不可逆的な変化を光吸収パターン層のパターン像の変化により、より顕著に認識できる。換言すると、発泡性材料の発泡後では、光吸収パターン層のパターン像の観察が不可能となるか、又は、その観察が困難となるので、この変化を肉眼で及び/または機械読み取りで検出することにより、発泡性材料の発泡を起こす処置の有無を容易に判別することができる。
【0014】
また、光透過層の一部領域において発泡性材料が発泡すれば、その一部領域においてのみ透過率が低下するので、第1波長光の照射を経た場合に上記一部領域における透過率変化の影響がパターン像に反映して、発泡性材料の発泡のパターン像とは異なるパターン像となる。よって、この場合であっても、積層部の不可逆的な変化を光吸収パターン層のパターン像の変化により、より顕著に認識できる。
【0015】
そして、前記波長を近赤外領域内のものとし、前記光学機能層の前記波長に対する透過率を30%以上とし、前記光学機能層は、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上である。即ち、前記光学機能層は、近赤外領域における透過スペクトルが、第1波長において高い透過率を示し、他の多くの波長で低い透過率を示すものであってもよい。こうすれば、光学機能層の近赤外領域における透過スペクトルは、第1波長光に対して高い透過率を示すが、多くの波長の光に対しては低い透過率を示す。従って、積層部の不可逆的な変化に第1波長光を利用することを知らない者に対しては、光透過層における発泡性材料の発泡前の積層部と発泡性材料の発泡後の積層部との不可逆的な変化を判別することを不可能、もしくは困難とできる。このため、この態様によれば、積層部の不可逆的な変化に第1波長光を利用することを知らない者に、積層部の不可逆的な変化を悟られ難くできる。
【0016】
この場合、前記光吸収パターンと前記光学機能層とを同じ色とでき、こうすれば、光透過層における発泡性材料の発泡前の積層部を肉眼で観察した場合に、光吸収パターンの存在を悟られ難くできる。
【0017】
また、光学機能層と光透過層とが上記のように積層した積層部については、これを前記カートリッジ表面に直接形成したり、前記カートリッジ表面に接着することができる。
【0018】
[適用2:インクカートリッジ]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で前記波長の光を透過させ前記発泡性材料の発泡を経て前記波長の光の透過状況を不可逆的に変化させる性状を有する光透過層とを、積層して備え、
前記光透過層は、前記波長の光の入射側に位置する
ことを要旨とする。
【0019】
上記構成を備えるカートリッジによっても、既述した効果を奏することができる。
【0020】
[適用3:カートリッジ用ラベル]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジに付されるカートリッジ用ラベルであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で前記波長の光を透過させる光透過層とを、積層して備え、
前記光透過層は、前記発泡性材料の発泡を経て前記波長の光の透過状況を不可逆的に変化させる性状を有し、
前記光学機能層によって前記カートリッジに関する情報を示すパターンが形成されている
ことを要旨とする。
【0021】
前記光学機能層によって形成されたカートリッジに関する情報を示すパターン像の観察によってカートリッジに関する情報を読み取ることができる。
【0022】
[適用4:カートリッジ用ラベル]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジに付されるカートリッジ用ラベルであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で前記波長の光を透過させる光透過層とを、積層して備え、
前記光透過層は、前記発泡性材料の発泡を経て前記波長の光の透過状況を不可逆的に変化させる性状を有し、
前記光学機能層の表裏のいずれかの面に、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を備え、
前記光吸収パターン層によって前記カートリッジに関する情報を示すパターンが形成されている
ことを要旨とする。
【0023】
かかる構成によっても、適用3と同様にカートリッジに関する情報を読み取ることができる。
【0024】
[適用5:印刷装置]
印刷装置であって、
上記したいずれかのカートリッジが装着可能とされ、
前記光透過層の前記波長の光の透過状況が不可逆的に変化するように、前記発泡性材料を発泡させる不可逆処置を実行する不可逆処置部を備える
ことを要旨とする。
【0025】
上記構成を備える印刷装置は、上記したいずれかのカートリッジが装着されると、その装着済みのカートリッジの積層部に対して不可逆処置を実行する。この不可逆処置は、前記光透過層の発泡性材料を発泡させるものであることから、光透過層は、既述したように不可逆的に第1波長光の透過状況を変化させる(透過率を低下させる)ので、上記構成を備える印刷装置によれば、不可逆処置を経て、積層部の上記した不可逆的な変化を起こすようにできる。この場合、発泡性材料が加熱により発泡するものであれば、上記の不可逆処置では、光透過層を発泡性材料の発泡を起こす温度で加熱し、光透過層は、こうした温度で受熱することで、発泡性材料を発泡させて第1波長光の透過状況を不可逆的に変化させる。
【0026】
この他、上記した印刷装置は、次のような態様とすることができる。例えば、前記波長の光を照射してその反射の状態を読み取り、前記不可逆処置の前後において前記読取部が読み取った反射の状態を対比する。こうすれば、積層部の上記した不可逆的な変化に対応した処置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】印刷システムPSの概略構成を示す説明図である。
【図2】インクカートリッジ200とラベル部210とを概略的に示す説明図である。
【図3】インクカートリッジ200のラベル部210と加熱ユニット100との関係を示す説明図である。
【図4】ラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と加熱ユニット100の位置関係を示す説明図である。
【図5】加熱ユニット100がラベル部210に対して一方向に走査した場合の光透過層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。
【図6】読取ユニット150の機能とラベル部210との関係を示す説明図である。
【図7】ラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と読取ユニット150の位置関係を示す説明図である。
【図8】加熱ユニット100にて行う不可逆処置の前後における分光特性を示す説明図である。
【図9】変形例のラベル部210Aを正面視して示す説明図である。
【図10】図9における10−10線でラベル部210Aを断面視しつつ加熱ユニット100との関係を示す説明図である。
【図11】図5相当図であり加熱ユニット100が変形例のラベル部210Aに対して一方向に走査して不可逆処置を行った際の光透過層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。
【図12】この一方向走査の不可逆処置を経た光透過層212の変化の様子を正面視側から概略的に示す説明図である。
【図13】また別の変形例のラベル部210Bを図10相当に断面視して示す説明図である。
【図14】また別の変形例のラベル部210Cを図13相当に断面視して示す説明図である。
【図15】ラベル部形成の他の形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を印刷システムに適用した実施例について説明する。図1は印刷システムPSの概略構成を示す説明図である。図示するように、印刷システムPSは、印刷装置としてのプリンター20と、コンピューター90と、を備えている。プリンター20は、コネクター80を介して、コンピューター90と接続されている。
【0029】
プリンター20は、副走査送り機構21と、主走査送り機構27と、印刷ヘッドユニット60と、主制御部40と、を備えている。副走査送り機構21は、紙送りモーター22と紙送りローラー26とを備えており、紙送りローラー26を用いて用紙PAを副走査方向に搬送する。主走査送り機構27は、キャリッジモーター32と、プーリー38と、キャリッジモーター32とプーリー38との間に張設された駆動ベルト36と、紙送りローラー26の軸と並行に設けられた摺動軸34と、を備えている。摺動軸34は、駆動ベルト36に固定されたキャリッジ30を摺動可能に保持している。キャリッジモーター32の回転は、駆動ベルト36を介してキャリッジ30に伝達され、キャリッジ30は、摺動軸34に沿って紙送りローラー26の軸方向と平行な主走査方向に往復動する。
【0030】
印刷ヘッドユニット60は、キャリッジ30にインクカートリッジ200と図示しない印刷ヘッドとを搭載し、キャリッジ30により主走査方向に駆動しながら印刷ヘッドを駆動して、用紙PA上にインクカートリッジ200が収容したインクを吐出させる。主制御部40は、上述した各機構を制御して印刷処理を実現する。主制御部40は、例えば、コンピューター90を介してユーザーの印刷ジョブを受信し、受信した印刷ジョブの内容に基づき、上述した各機構を制御して印刷を実行する。インクカートリッジ200のそれぞれは、キャリッジ30に脱着自在に装着可能とされている。印刷ヘッドは、異なるインクをそれぞれ吐出する複数のノズル列を有する。また、この印刷ヘッドユニット60は、加熱ユニット100と読取ユニット150とを備える。加熱ユニット100は、インクカートリッジ200が有する後述のラベル部210に対して熱放射を行う。読取ユニット150は、ラベル部210への光照射とその反射光の読み取りを行う。ラベル部210に対する加熱や読み取りについては後述する。
【0031】
この他、プリンター20は、ユーザーがプリンター20の各種の設定を行ったり、プリンター20のステータスを確認したりするための操作部70を備えている。操作部70は、ユーザーに各種の通知を行うための表示部72を備えている。
【0032】
図2はインクカートリッジ200とラベル部210とを概略的に示す説明図、図3はインクカートリッジ200のラベル部210と加熱ユニット100との関係を示す説明図である。
【0033】
図2に示すように、ラベル部210は、インクカートリッジ200におけるインク収容部201を形成する筐体202の一つの周壁表面に形成されている。このラベル部210は、異なる性状の複数の層を積層した積層構造とされ、光透過層212と光学機能層213とをこの順で積層した上で、光学機能層213を筐体202の表面側とする。光学機能層213は、所定の波長の光(以下、この波長を第1波長と称し、その光を第1波長光と称する)を透過させる性状を有し、光透過層212は、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で第1波長光を透過させる性状を有する。これら性状については後述する。
【0034】
インクカートリッジ200のカートリッジ表面側に位置する光学機能層213は、第1波長の光を透過させる。第1波長の光に対する光学機能層213の透過率は、例えば30%以上であり、典型的には30ないし60%の範囲内にある。
【0035】
光学機能層213は、着色していてもよい。光学機能層213は、典型的には、黒色層である。なお、ここで「黒色」とは、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nmないし700nmの範囲内にある全ての光成分について、反射率が10%以下であることを意味している。
【0036】
第1波長が近赤外領域内にある場合、光学機能層213として、第1波長における透過率が30%以上であり、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上であるものを使用してもよい。即ち、光学機能層213は、近赤外領域における透過スペクトルが、第1波長において高い透過率を示し、他の多くの波長で低い透過率を示すものであってもよい。ここでは、一例として、光学機能層213は、このような分光特性を有していることとする。また、ここでは、第1波長と異なる第2波長も近赤外領域内にあり、第2波長における光学機能層213の透過率は、第1波長における光学機能層213の透過率と比較してより低いこと、例えば、第1波長における光学機能層213の透過率の80%以下であることとする。
【0037】
上記の分光特性、即ち、近赤外領域内の光のうち、一部の波長域の光を選択的に透過させ、残りの光を吸収する分光特性を有している光学機能層213は、例えば、所定の近赤外線吸収剤と樹脂とを含んでいる。この近赤外線吸収剤は、例えば、上記第2波長の光を吸収する。この近赤外線吸収剤としては、例えば、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、ジイモニウム化合物、及びシアニン化合物からなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。また、樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。
【0038】
光学機能層213は、例えば、印刷法により形成する。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、及びフレキソ印刷法が挙げられる。光学機能層213の厚みは、例えば0.5ないし10μmの範囲内とし、典型的には1ないし5μmの範囲内とする。この光学機能層213を形成するには、例えば、オフセット印刷機にインクカートリッジ200をセットし、筐体202の表面に、以下の組成のインクAを印刷し、その際には、乾燥膜厚が1μmになるようにした。その後、更に、この塗膜に紫外線を照射することで、光学機能層213を筐体202の表面に印刷形成できる。
【0039】
[インクAの組成]
有機系青色顔料(御国色素社製) 5質量部;
有機系赤色顔料(御国色素社製) 7質量部;
有機系黄色顔料(御国色素社製) 8質量部;
UV硬化型オフセットインクメジウム(FD カルトンACE メジウム ロ:東洋インキ社製) 80質量部;
【0040】
光学機能層213に重ねて形成された光透過層212は、第1波長光の入射側に位置し、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で第1波長光を透過させる。即ち、光透過層212は、少なくともインクカートリッジ200へのラベル部210の形成から後述の不可逆処置が施されるまでの期間に亘り、第1波長光を透過させる。
【0041】
光透過層212は、加熱することによって発泡する発泡性材料、例えば、後述の発泡性粒子を含んでいる。そして、この光透過層212は、上記の発泡性材料を発泡させる不可逆処置により受熱することにより、その受熱範囲において、第1波長光の透過率を低下させるように構成されている。光透過層212の第1波長光の透過率が低下すると、その後方に位置している光学機能層213に到達する光量が減り、この光学機能層213に起因した光学効果が視認または検出し難くなる。このような光学効果の差異を視認又は検出することにより、不可逆処置の有無を判断することができる。
【0042】
インクカートリッジ200へのラベル部210の形成後において、第1波長光に対する光透過層212の透過率T1は、例えば、40ないし80%の範囲内にある。また、不可逆処置後において、第1波長光に対する光透過層212の透過率T2は、例えば、30ないし60%の範囲内にある。そして、透過率T2と透過率T1との比は、例えば、0.25ないし0.6の範囲内にあり、典型的には0.3ないし0.5の範囲内にある。
【0043】
光透過層212は、典型的には、発泡性粒子と、これらを保持するバインダ樹脂とを含んでいる。この発泡性粒子は、例えば、熱可塑性プラスチックを外殻に含んだ中空粒子と、それに内包された液状ガスとを含んでいる。この中空粒子は、例えば略球状であり、典型的には球状である。この中空粒子を構成している熱可塑性プラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリオレフィン及びポリ塩化ビニルが挙げられる。また、上記液状ガスとしては、例えば、低沸点炭化水素が挙げられる。
【0044】
上記の構成を有した発泡性粒子が受熱すると、中空粒子に内包された液状ガスが気化して発泡する。その結果、中空粒子の内圧が上昇して、その外殻を構成している熱可塑性プラスチックが軟化するので、発泡性粒子の体積膨張が生じる。なお、典型的には、この体積膨張と共に、光透過層212の白濁が生じる。発泡性粒子が受熱して液状ガスが気化する現象は、不可逆的に起き、これにより、光透過層212は、第1波長光の透過率を不可逆的に低下させる。このように光透過層212の第1波長光の透過率が低下すると、光透過層212に照射された第1波長光は、光透過層212自体で反射され、反射率が高まることになる。
【0045】
バインダ樹脂としては、一般的なものを使用することができる。使用可能なバインダ樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0046】
光透過層212は、例えば、スクリーン印刷法等の印刷法或いは塗布法により形成する。この塗布は、例えば、エアーナイフコータ、ロールコータ、スプレーコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、又はミヤバコータを用いておこなうことができる。光透過層212の膜厚は、例えば3ないし30μmの範囲内とし、典型的には5ないし10μmの範囲内とする。本実施例では、この光透過層212を形成するに当たり、スクリーン印刷機に、光学機能層213を既述したように形成済みのインクカートリッジ200をセットし、形成済み光学機能層213に重なるように以下に組成を示すインクCを塗布し、その際には、乾燥膜厚が5μmになるようにした。この塗膜を自然乾燥させることにより、光透過層212を、筐体202の表面に形成済みの光学機能層213に重ねて形成され、第1波長光の入射側に位置する。
【0047】
[インクCの組成]
アクリル樹脂:ジョンクリル(BASF社製) 100質量部;
発泡性粒子:EXPANCEL(日本フィライト株式会社製) 10質量部;
【0048】
図3に示すように、加熱ユニット100は、インクカートリッジ200におけるカートリッジ表面のラベル部210に対向する。この場合、加熱ユニット100をインクカートリッジ200のラベル部210に常時対向するようにできるほか、加熱ユニット100を例えば2次元テーブル或いは3次元テーブルに設置し、ラベル部210に対して進退可能とすることもできる。加熱ユニット100は、ラベル部210に向き合うようサーマルヘッド102を備え、主制御部40(図1)からの制御を受けて、サーマルヘッド102にてラベル部210を光透過層212の側から加熱する。この加熱は、既述したように光透過層212の発泡性粒子の発泡を起こすよう加熱するものであり、光透過層212は、サーマルヘッド102から熱を受けた受熱範囲において、発泡性粒子を発泡させ、第1波長光の透過率を不可逆的に低下させる。このように加熱ユニット100にて発泡性粒子を発泡させる温度で光透過層212を受熱させて第1波長光に対する光透過層212の透過率を不可逆的に低下させる処置が不可逆処置であり、その際の温度は、光透過層212に含有された発泡性粒子に内包した液状ガスにより定まる。本実施例では、発泡性粒子を上記のEXPANCEL(日本フィライト株式会社製)としたので、内包される液状ガスの気化温度(150℃:不可逆変化温度)を超える温度で不可逆処置がなされることになる。なお、サーマルヘッド102にて上記のように光透過層212に受熱させる際、サーマルヘッド102をラベル部210の表面に接触させるようにすることもできる。
【0049】
図4はラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と加熱ユニット100の位置関係を示す説明図、図5は加熱ユニット100がラベル部210に対して一方向に走査した場合の光透過層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。図4に示すように、加熱ユニット100は、その有するサーマルヘッド102をラベル部210の一つの箇所に対向させただけでもよく(図4(A))、既述した2次元或いは3次元のテーブルにより、ラベル部210に対して縦横、或いはその一方の方向に走査するようにすることができる(図4(B))。図4(A)に示す場合には、加熱ユニット100による上記の不可逆処置により、ラベル部210では、詳しくは光透過層212では、加熱ユニット100のサーマルヘッド102と向き合う一箇所の受熱範囲において、透過率の不可逆的な低下が起きる。その一方、図4(B)に示す場合は、加熱ユニット100の走査軌跡に倣った軌跡が受熱範囲となるので、光透過層212では、サーマルヘッド102の走査軌跡に倣った連続的な受熱範囲において、透過率の不可逆的な低下が起きる。
【0050】
図5では、加熱ユニット100が一方向に移動した場合の光透過層212の変化の様子が示されており、加熱ユニット100の移動範囲では、光透過層212は、受熱を受けていない非受熱部212aから受熱後の受熱部212bとなり、この受熱部212bにおいて、光透過層212は、発泡性粒子の発泡を起こして当該範囲の体積が膨張し、既述したように白濁して第1波長光の透過率が低下する。非受熱部212aは、受熱を受けないので、当該範囲における第1波長光の透過率は不可逆処置を受ける以前のままである。ラベル部210のうち受熱部212bに対応した範囲では、第1波長光の光透過層212の透過率が低下するため、光学機能層213に基づいた光学効果が視認又は検出できなくなるか、又は、その視認又は検出がより困難となる。即ち、受熱部212bに当たる範囲の分光特性は、不可逆処置の前後において異なることになる。この場合、不可逆処置を受けた受熱部212bでは、第1波長光の透過率が低下すると共に、典型的には、可視光領域の光の透過率も低下する。
【0051】
図6は読取ユニット150の機能とラベル部210との関係を示す説明図である。図示するように、読取ユニット150は、インクカートリッジ200におけるカートリッジ表面のラベル部210に対向する。この場合、読取ユニット150にあっても、加熱ユニット100と同様、ラベル部210に常時対向するようにできるほか、2次元テーブル或いは3次元テーブルに設置し、ラベル部210に対して進退可能とできる。読取ユニット150は、照射部152と受光部154とをラベル部210に向き合うようにして備え、主制御部40(図1)からの制御を受けて、照射部152による光照射と、受光部154による読み取りを行う。照射部152は、赤外線LED(light-emitting diode)を内蔵し、光透過層212が加熱ユニット100による不可逆処置を受けて光吸収率を不可逆的に低下させる際の第1波長としての800nmの波長の光(第1波長光)を照射する。受光部154は、CCD(charge-coupled device)カメラとして構成され、照射部152から照射した光がラベル部210で反射した反射光を受光する。この場合、受光部154は、図示しない光学フィルタにて上記の第1波長を含む赤外領域の光を受光するように構成されている。図6には、光透過層212が不可逆処置を受ける前のラベル部210と読取ユニット150との関係を示しているが、光透過層212が不可逆処置を受けた後であれば、図5に示したラベル部210が読取ユニット150にて光照射とその読み取りを受けることになる。そして、既述したように受熱部212bにて第1波長光の透過率が低下すると、照射部152から照射した光のラベル部210での反射率は低下し、その低下した反射率での反射光が受光部154にて読み取られる。
【0052】
図7はラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と読取ユニット150の位置関係を示す説明図である。図示するように、読取ユニット150は、複数の照射部152からラベル部210の全面に向けて上記波長(第1波長)の光を照射し、ラベル部210の全面からの反射光を受光部154にて受光する。よって、図4で説明したいずれの場合の加熱ユニット100による不可逆処置であっても、読取ユニット150は、この不可逆処置により透過率の不可逆的な低下を起こした光透過層212の呈する反射状況を読み取ることができる。
【0053】
プリンター20は、加熱ユニット100による上記したサーマルヘッド102を用いた不可逆処置を、インクカートリッジ200の収容済みインクが使い切られたタイミング(不可逆変化タイミング)で実行する。具体的には、主制御部40は、処理を行った印刷ジョブの累積からインクカートリッジ200のインク残量を求め、その残量が次回の印刷ジョブを賄えないと予想されるインク量となると、加熱ユニット100に制御信号を送る。加熱ユニット100は、この制御信号を受けてサーマルヘッド102を上記した不可逆変化温度(150℃)まで昇温させ、その熱をラベル部210に放射する。熱放射の時間は、光透過層212が熱を受けてその含む発泡性粒子が発泡して透過率の不可逆的な低下を起こすに足りる時間とされている。なお、図4(B)のように加熱ユニット100を走査する場合には、その走査速度を調整しつつ、熱放射時間が確保される。
【0054】
また、プリンター20は、キャリッジ30にインクカートリッジ200が装着されると、そのタイミング(読取タイミング)で、主制御部40から読取ユニット150に制御信号を送信する。読取ユニット150は、これを受けて、照射部152による光照射と受光部154による反射光読み取りを行い、読み取り結果を主制御部40に送信する。主制御部40は、予め、加熱ユニット100による不可逆処置前の読取状況を記憶しているので、受光部154の読取結果を記憶済み読取状況と比較することで、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が不可逆処置を受けていないものか、当該処置を受けたものかの特定が可能となる。或いは、上記したように不可逆処置の前後においては、光学機能層213に特有の分光特性が異なるので、この分光特性の差異に基づいて、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が不可逆処置を受けていないものか、当該処置を受けたものかの特定が可能となる。
【0055】
以上説明した本実施例の印刷システムPSによれば次の利点がある。本実施例のインクカートリッジ200は、その筐体202の表面にラベル部210を備え、このラベル部210をカートリッジ表面側から、光学機能層213と光透過層212とを積層した積層部とする。このラベル部210は、インクカートリッジ200が図1に示すようにキャリッジ30に装着された状態で、上記の不可逆変化タイミングにて、プリンター20の印刷ヘッドユニット60に搭載済みの加熱ユニット100を介して不可逆処置を受ける。ラベル部210の光透過層212は、この不可逆処置を受けることで加熱ユニット100のサーマルヘッド102にて加熱され、その受熱範囲(図4参照)において、第1波長(800nm)の光に対しての透過率の不可逆的な低下を起こす。このため、ラベル部210の光透過層212は、受熱を伴う不可逆処置の前後において、第1波長光(800nmの波長の光)に対する透過率を上記の受熱範囲において異なるものとする。
【0056】
ここで、不可逆処置による特性変化について説明する。図8は加熱ユニット100にて行う不可逆処置の前後における分光特性を示す説明図である。図8の結果を求めるに当たり、既述した手順で光学機能層213と光透過層212とを積層して形成したラベル部210を有するインクカートリッジ200を2個用意し、一方のインクカートリッジ200には、加熱ユニット100による不可逆処置を行わず、サンプルAとした。他方のインクカートリッジ200には、加熱ユニット100による不可逆処置(150℃で10秒間の加熱)を光透過層212の全領域について実行し、サンプルBとした。この両サンプルのラベル部210に可視光領域および近赤外線領域の光を照射して、その分光特性(反射率)を測定してサンプルごとにプロットした。この図8から分かるように、可視光領域及び近赤外線領域の双方において、サンプルB(不可逆処置済み)は、サンプルA(不可逆処置なし)と比較して反射率が高かった。これは、サンプルBでは、光透過層212の発泡性粒子が発泡して、既述したような層の白濁化とこれに伴う透過率の低下により、光透過層212での反射率が高まることに符合する。
【0057】
プリンター20は、インクカートリッジ200がキャリッジ30に装着されたような上記の読取タイミングで、インクカートリッジ200のラベル部210にその光透過層212の側から第1波長光(800nmの波長の光)を読取ユニット150の照射部152から照射し、光透過層212からのこの第1波長光の反射状況を受光部154で読み取る(図6、図7参照)。今、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が、それ以前にキャリッジ30に装着された経歴がなく所定のインクを満量収容したカートリッジであれば、当該カートリッジは、加熱ユニット100による不可逆処置を受けてはいない。よって、この新たに装着されたインクカートリッジ200についての受光部154による読取結果は、第1波長光(800nmの波長の光)に対する不可逆的な透過率の低下を起こしていないものとなる。
【0058】
その一方、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が、それ以前に加熱ユニット100による不可逆処置を受けたものであれば、この新たに装着されたインクカートリッジ200についての受光部154による読取結果は、第1波長光(800nmの波長の光)に対する不可逆的な透過率の低下が反映したものとなる。つまり、不可逆処置を経たラベル部210の光透過層212の不可逆的な透過率の変化は、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当する。よって、本実施例のインクカートリッジ200によれば、ラベル部210の不可逆的な変化を、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当するものとできるので、情報更新を起こすに当たって記憶素子を必要としない。なお、記憶素子をラベル部210と併用することも可能である。
【0059】
また、本実施例のプリンター20によれば、ラベル部210における光透過層212の不可逆的な透過率の変化を、インクカートリッジ200のインクが使い切られたタイミングで起こすので、インク使い切りのインクカートリッジ200が誤ってキャリッジ30に装着されても、その誤装着の旨を操作部70の表示部72に表示する等してユーザーに認知でき、こうした認知に際して記憶素子を必要としない。なお、記憶素子をラベル部210と併用することも可能である。
【0060】
また、本実施例のプリンター20では、インクカートリッジ200のインクが使い切られたタイミングで不可逆処置を行って、ラベル部210における光透過層212の透過率を発泡性粒子の発泡を経て不可逆的に低下させ、この光透過層212の透過率を不可逆処置前の状態に戻せないようにする。よって、真正品であるかが未知のインクカートリッジ200について、ラベル部210に対する上記の不可逆処置の有無を判別することができる。このことは、真正品であるかが未知のインクカートリッジ200の真偽判定が可能であることを意味する。従って、ラベル部210を引き剥がして再利用しようとする行為を牽制できる。
【0061】
次に、変形例について説明する。図9は変形例のラベル部210Aを正面視して示す説明図、図10は図9における10−10線でラベル部210Aを断面視しつつ加熱ユニット100との関係を示す説明図である。
【0062】
図示するように、このラベル部210Aは、筐体202の表面に積層した光学機能層213と光透過層212との間、即ち光透過層212の側の光学機能層213の面(以下、この面を裏面と称する)に、光吸収パターン層214を積層して有する。この光吸収パターン層214は、図9に示すような一次元コード様のパターンを後述する材料で光学機能層213の上に形成し、光学機能層213を間に挟んで光透過層212の一部と向き合っている。図9および図10に示す例では、光吸収パターン層214のパターンは、一次元コードであるが、二次元コード様のパターン、或いは、文字、記号、模様および図形などの他のパターンとすることもできる。そして、この光吸収パターン層214のパターンを、インクカートリッジ200に固有の情報、例えば、インク色に応じて異なるようにすれば、カートリッジ装着の際のパターンの読取結果からインク色を特定できる。
【0063】
光吸収パターン層214は、既述した第1波長光を吸収する。具体的には、光吸収パターン層214の第1波長における吸収率は、ラベル部210Aの製造直後における光透過層212の第1波長における吸収率および光学機能層213の第1波長における吸収率と比較してより大きい。第1波長光に対する光吸収パターン層214の吸収率は、例えば50%以上であり、典型的には80%以上である。
【0064】
第1波長が近赤外領域内にある場合、光吸収パターン層214は、例えば、近赤外線吸収剤と樹脂とを含有している。この樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。ここで「近赤外線領域」とは、700nmないし1500nmの波長域を意味している。
【0065】
ここで使用する近赤外線吸収剤は、典型的には、光学機能層213において使用する近赤外線吸収剤とは、近赤外線領域の吸収スペクトルが異なっている。例えば、ここで使用する近赤外線吸収剤は、光学機能層213において使用する近赤外線吸収剤と比較して、第1波長光に対する吸収率がより大きい。この近赤外線吸収剤としては、例えば、プロセス墨インクに用いられているカーボンブラックを使用することができる。或いは、この近赤外線吸収剤として、光学機能層213の近赤外線吸収剤として例示した化合物を使用してもよい。
【0066】
光吸収パターン層214は、光学機能層213と同色にするか、または、第1波長光に対して十分な吸収率を示す限り、薄い色にすることが好ましい。こうすると、ラベル部210Aを肉眼で観察した場合に、光吸収パターン層214の存在が分かり難くなる。
【0067】
光吸収パターン層214は、光透過層212に対応した領域のほぼ全体に亘ってパターン状に分布していることが望ましい。こうすると、光学機能層213の分光特性の解析を困難とすることができる。
【0068】
光吸収パターン層214は、例えば、印刷法により形成する。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびフレキソ印刷法が挙げられる。或いは、光吸収パターン層214は、熱転写リボンを用いて形成してもよい。つまり、光学機能層213を形成済みのインクカートリッジ200を上記の印刷手法に処して、光学機能層213の表面に以下の組成のインクBを用いて光吸収パターン層214を形成する。光吸収パターン層214の厚さは、例えば0.5ないし10μmの範囲内とし、典型的には0.5ないし2μmの範囲内とする。
【0069】
[インクBの組成]
FD カルトンACE スミ ロ(東洋インキ社製);
【0070】
こうして光吸収パターン層214を形成した後、この変形例のラベル部210Aでは、この光吸収パターン層214を光学機能層213とで層状に挟み込むようにして、光透過層212を既述した印刷法等にて形成する。これにより、図9〜図10に示すラベル部210Aを有するインクカートリッジ200を得ることができる。そして、この変形例のラベル部210Aにあっても、図10に示すように、光透過層212を第1波長光の入射側とすると共に、加熱ユニット100により既述した不可逆処置を受けることになる。
【0071】
不可逆処置の前にあって、変形例のラベル部210Aに光透過層212の側から第1波長光を照射すると、この第1波長光は、光透過層212を透過する。よって、この場合、変形例のラベル部210Aは、光吸収パターン層214のパターンに対応したパターン像および光学機能層213に特有の分光特性を示す。この分光特性は、変形例のラベル部210Aの具体的な構成に対応した特異的なものである。具体的には、この分光特性には、光吸収パターン層214のパターン像にて第1波長光が吸収された結果が反映するので、この分光特性を測定することにより、光吸収パターン層214の形成パターンに割り付けられた情報、例えば、インク色を特定できる。この特定は、インクカートリッジ200の装着時における読取ユニット150による第1波長光照射とその反射光の読み取りで可能である。なお、肉眼にて、光吸収パターン層214のパターン像を認識できる。
【0072】
図11は図5相当図であり加熱ユニット100が変形例のラベル部210Aに対して一方向に走査して不可逆処置を行った際の光透過層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。図12はこの一方向走査の不可逆処置を経た光透過層212の変化の様子を正面視側から概略的に示す説明図である。図示するように、光透過層212は、加熱ユニット100の走査軌跡に倣った受熱範囲に対応する受熱部212bの範囲で不可逆処置を受けることになり、この受熱部212bにおいて、発泡性粒子の発泡を起こして当該範囲の体積を膨張させ、既述したように白濁して第1波長光の透過率を不可逆的に低下させる。一方、受熱を受けていない非受熱部212aでは、透過率は不可逆処置前のままである。ラベル部210Aのうち受熱部212bに対応した部分と不可逆処置を受けていない非受熱部212aとでは、第1波長光に対する透過率が相違する。つまり、ラベル部210Aのうち受熱部212bに対応した部分は、照射された第1波長光を光吸収パターン層214および光学機能層213の側に透過させないようにする。よって、この部分では、光学機能層213と光吸収パターン層214のパターン像に特有の分光特性は、第1波長光の照射とその読み取りを読取ユニット150において行う場合、及び、肉眼で観察した場合の双方において変化し、視認または検出できないか、或いは、その視認または検出がより困難となる。
【0073】
図11に示す不可逆処置済みのラベル部210Aを読取ユニット150にて読み取ると或いは肉眼観察すると、受熱部212bに対応した部分において、光透過層212より筐体202の側に位置している光吸収パターン層214のパターン像および光学機能層213に起因した分光特性が検出または視認し難くなり、光吸収パターン層214の一次元コードのパターンを正確に読み取ることができない。ところが、図10に示す不可逆処置前のラベル部210Aを読取ユニット150にて読み取ると或いは肉眼観察すると、その双方で一次元コードを正確に読み取ることができた。つまり、変形例のラベル部210Aにあっても、第1波長光を照射したときに、既述した不可逆処置の前後において、互いに異なった分光特性を示すので、この分光特性の差異を検出することにより、既述した実施例と同様の効果を奏することができる。
【0074】
図9〜図12に示すラベル部210Aについては、光学機能層213を形成する既述したインクAに代え、以下の組成のインクDを用いることもできる。膜厚等については、既述したとおりである。
【0075】
[インクDの組成]
有機系青色顔料(御国色素社製) 5質量部;
有機系赤色顔料(御国色素社製) 7質量部;
有機系黄色顔料(御国色素社製) 8質量部;
赤外線吸収剤(YKR−3081:山本化成社製) 5質量部;
UV硬化型オフセットインク用メジウム(FD カルトンACE メジウム ロ:東洋インキ社製) 75質量部;
【0076】
このインクDで形成した光学機能層213は、第1波長とは異なる波長(第2波長)の光(以下、第2波長光)を吸収する赤外線吸収剤を含んでいることから、第2波長光を吸収する。このインクDで形成した光学機能層213を有するラベル部210Aについて読取ユニット150にて機械読み取りの試験を行った。その結果、不可逆処置前のラベル部210Aでは、第1波長光を光透過層212に照射して反射光を読み取ったところ、光吸収パターン層214のパターン像、即ちバーコードを読み取ることができた。しかしながら、不可逆処置前のラベル部210Aに対して、第2波長光を照射して反射光を読み取ったところ、第2波長光を吸収する性状の光学機能層213の存在に起因して、光吸収パターン層214と光学機能層213とのコントラストが低下し、バーコードを読み取ることができなかった。他方、不可逆処置後のラベル部210Aでは、第1波長光および第2波長光の双方について、光吸収パターン層214のパターン像としてのバーコードを読み取ることができなかった。
【0077】
図13はまた別の変形例のラベル部210Bを図10相当に断面視して示す説明図である。図示するように、この変形例のラベル部210Bは、光吸収パターン層214が筐体202の表面に形成され、この光吸収パターン層214に光学機能層213と光透過層212とが積層されていることを除いては、図9〜図11を参照しながら説明したラベル部210Aと同様の構成を有している。
【0078】
図13に示すラベル部210Bにあっても、第1波長光の照射を受けたときに、既述した不可逆処置の前後において、互いに異なった分光特性を示す。それ故、この分光特性の差異を検出することにより、既述した実施例と同様の効果を奏することができる。
【0079】
図14はまた別の変形例のラベル部210Cを図13相当に断面視して示す説明図である。図示するように、この変形例のラベル部210Cは、光吸収パターン層214が光透過層212に重ねて形成されていることを除いては、図9〜図11を参照しながら説明したラベル部210Aと同様の構成を有している。
【0080】
図14に示すラベル部210Cにあっても、第1波長光の照射を受けたときに、既述した不可逆処置の前後において、互いに異なった分光特性を示す。それ故、この分光特性の差異を検出することにより、既述した実施例と同様の効果を奏することができる。
【0081】
図15はラベル部形成の他の形態を模式的に示す説明図である。この形態では、図3〜図8に示したラベル部210に粘着層230を形成し、この粘着層230にて、ラベル部210を筐体202の表面に貼り付けている。粘着層230の形成に当たっては、例えば、紙、プラスチック、木材、ガラスまたは樹脂からなる印刷基材を用意し、その一面に、光学機能層213と光透過層212とをこの順に印刷形成する。そして、この印刷基材の他面に粘着剤を塗布等して粘着層230を形成し、この粘着層230を介してラベル部210を筐体202の表面に接着する。このようにしても、既述した効果を奏することができる。この場合、加熱ユニット100による不可逆処置を受けたラベル部210をインクカートリッジ200から引き剥がして別のインクカートリッジ200に貼り直したとして、当該別のインクカートリッジ200がキャリッジ30に装着されると、読取ユニット150の上記した読込により、当該別のインクカートリッジ200は、インク使い切りのインクカートリッジが誤って装着されたものである等の旨を操作部70の表示部72に表示できる。変形例のラベル部210A等についても、粘着層230を用いてインクカートリッジ200に形成できる。
【0082】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、ラベル部210やラベル部210A等を、ほぼ全域の波長の光を透過させる透光性を有する薄膜状或いは薄葉状の保護層で覆うようにすることもできる。
【0083】
また、上記の実施例では、ラベル部210やラベル部210A等に対して行う不可逆処置に際して、サーマルヘッド102を有する加熱ユニット100を用いたが、メタルヒーターを用いて光透過層212を加熱したり、光透過層212にレーザー光やマイクロ波等を照射して、光透過層212を発熱させ、その熱を受けて、光透過層212の透過率を不可逆的に高めるようにすることもできる。
【0084】
また、上記の実施例では、光透過層212が含む発泡性粒子の発泡を熱により起こしたが、これは、光透過層212が含む上記の発泡性粒子の性質に基づくものである。よって、例えば、紫外線等の光の照射を受けると発泡する発泡性粒子を光透過層212に未発泡の状態で含むようにすれば、既述した不可逆処置は、光透過層212に光を照射する処置となる。この他、圧力を受けると発泡する発泡性粒子、磁力を受けると発泡する発泡性粒子等であれば、これら粒子を含む光透過層212については、圧力印加或いは磁力印加といった不可逆処置を処することで、光透過層212の既述した不可逆的な透光率の低下を起こすようにできる。
【符号の説明】
【0085】
PS…印刷システム
20…プリンター
21…副走査送り機構
22…紙送りモーター
26…紙送りローラー
27…主走査送り機構
30…キャリッジ
32…キャリッジモーター
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリー
40…主制御部
60…印刷ヘッドユニット
70…操作部
72…表示部
80…コネクター
90…コンピューター
100…加熱ユニット
102…サーマルヘッド
150…読取ユニット
152…照射部
154…受光部
200…インクカートリッジ
201…インク収容部
202…筐体
210、210A〜210C…ラベル部
212…光透過層
212a…非受熱部
212b…受熱部
213…光学機能層
214…光吸収パターン層
230…粘着層
PA…用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
カートリッジ表面に、所定の波長の光を透過させる光学機能層と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で前記波長の光を透過させる光透過層とを、前記光学機能層がカートリッジ表面側となるように積層して備え、
前記光透過層は、前記発泡性材料の発泡を経て前記波長の光の透過状況を不可逆的に変化させる性状を有する
カートリッジ。
【請求項2】
前記光透過層は、前記発泡性材料の発泡を起こす温度で受熱すると、該受熱によって前記発泡性材料を発泡させる請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記光学機能層の表裏のいずれかの面に、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を備える請求項1または請求項2に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記波長は近赤外線領域内にあり、前記光学機能層の前記波長における透過率は30%以上であり、前記光学機能層は、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記光吸収パターン層の前記パターンと前記光学機能層とは同じ色である請求項3または請求項4に記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記光学機能層と前記光透過層とは、前記カートリッジ表面に直接形成され、または、前記カートリッジ表面に接着されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項7】
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、発泡性材料を未発泡の状態で含んだ上で前記波長の光を透過させ前記発泡性材料の発泡を経て前記波長の光の透過状況を不可逆的に変化させる性状を有する光透過層とを、積層して備え、
前記光透過層は、前記波長の光の入射側に位置する
カートリッジ。
【請求項8】
印刷装置であって、
請求項1ないし請求項7のいずれかのカートリッジが装着可能とされ、
前記光透過層の前記波長の光の透過状況が不可逆的に変化するように、前記発泡性材料を発泡させる不可逆処置を実行する不可逆処置部を備える
印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷装置であって、
前記光透過層に前記波長の光を照射し、その反射の状態を読み取る読取部と、
前記不可逆処置の前後において前記読取部が読み取った反射の状態を対比する対比部とを有する印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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