説明

カートリッジ、印刷装置

【課題】 カートリッジの誤装着に対処できる新たな手法を提供する。
【解決手段】インクカートリッジ200は、インク収容部を形成する筐体202の一つの周壁表面にラベル部210を有する。ラベル部210は、異なる性状の複数の層を積層した積層構造とされ、所定の波長の光(第1波長光)を透過させる光学機能層213と、第1波長光を反射する光反射層212と、光学機能層213との間に介在するスクラッチ層218とを、光反射層212がカートリッジ表面の側となるように積層して備えている。スクラッチ層218は、スクラッチユニット100によりスクラッチ層218の少なくとも一部が引っ掻かれると、光学機能層213の少なくとも一部を伴ってカートリッジ表間側から剥離され、波長の光の反射光を不可逆的に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷に用いる印刷材を収容するカートリッジと、当該カートリッジを装着可能な印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カートリッジを印刷装置に装着して用いる場合、カートリッジと印刷装置との間で種々の情報交換を行うため、カートリッジに記憶素子を搭載する技術が提案されている(例えば、特許文献1等)。記憶素子には、印刷材の色種別、印刷材残量といったカートリッジが収容する印刷材についての情報が記憶され、これら情報に基づいて、種類の異なる印刷材の供給回避などが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献で提案された技術は、カートリッジに関する何らかの情報を記憶させたいという要請に応えたものではあるものの、カートリッジにはEEPROMなどの記憶素子を設ける必要があり、さらにカートリッジの記憶素子と記録装置本体の制御回路部との間で通信可能とするための電気配線も必要となり、カートリッジの構造が複雑になるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、カートリッジに関する情報更新に対処できる新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用1:カートリッジ]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
カートリッジ表面に、所定の波長の光を透過させる光学機能層と、該光学機能層と向き合い前記波長の光を反射する光反射層と、該光反射層と前記光学機能層との間に介在するスクラッチ層とを、前記光反射層が前記カートリッジ表面の側となるように積層して備え、
前記スクラッチ層は、該スクラッチ層の少なくとも一部に外力が加えられたときに前記光学機能層の少なくとも一部を伴ってカートリッジ表面側から剥離するように構成された
ことを要旨とする。
【0008】
前記構成を備えるカートリッジは、そのカートリッジ表面に積層して備える光学機能層とスクラッチ層と光反射層とで、以下に説明するような情報更新が可能である。以下、カートリッジ表面に前記のように積層して備える光学機能層と光反射層とスクラッチ層とを、説明の便宜上、積層部と称し、前記構成を備えるカートリッジでの情報更新について説明する。
【0009】
積層部が、スクラッチ層の一部に外力が加えられて、その一部に損傷を受けると、その損傷範囲において、前記所定の波長の光(以下、「第1波長光」と称する)の反射率が変更する。このため、積層部は、損傷の範囲において異なるものとする。具体的には、積層部にその光学機能層の側から第1波長光を照射した場合、光反射層からの第1波長光の反射の状況は、スクラッチ層および光学機能層の損傷の状況により、損傷前後で相違し、第1波長光を照射した場合の分光特性が変化することになる。つまり、積層部は損傷前後で変化し、その変化は、スクラッチ層の機械的損傷が不可逆的であることから、不可逆的となる。
【0010】
こうした不可逆的な積層部の変化は、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当する。よって、前記構成を備えるカートリッジによれば、カートリッジ表面に有する積層部にて、カートリッジに関する情報更新を図ることができる。この場合、積層部の不可逆的な変化を、例えば、印刷材の使い切りがなされたカートリッジ等において起こせば、これらカートリッジが誤って装着されても、その誤装着がなされた旨をユーザーに認知させることが可能となる。なお、既述したスクラッチ層の一部を損傷させる不可逆的な変化は、第1波長光に対する反射率を不可逆的に変更することに相当する。また、カートリッジ表面の積層部にて情報更新を図るに当たり、記憶素子を用いる必要はないものの、記憶素子を併用することも可能である。
【0011】
また、積層部の不可逆的な変化を、既述したように、印刷材の使い切りがなされたカートリッジ等において起こせば、不可逆的に変化済みの積層部を有するカートリッジを視認することで、これらカートリッジは、印刷材の使い切りがなされたカートリッジであることを、ユーザーに容易に認知させることができる。
【0012】
この他、前記したカートリッジは、次のような態様とすることができる。例えば、前記波長を赤外領域内のものとし、前記光学機能層を黒色層とするようにできる。この場合、「黒色」とは、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nmないし700nmの範囲内にある全ての光成分について、反射率が10%以下であることを意味している。そして、例えば、黒色層の光学機能層にて光反射層の全面を被覆すれば、この黒色層の光学機能層でその下方の光反射層を隠蔽することができる。
【0013】
そして、前記波長を近赤外領域内のものとし、前記光学機能層の前記波長に対する透過率を30%以上とし、前記光学機能層は、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500%の波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上である。こうすれば、光学機能層の近赤外領域における透過スペクトルは、第1波長光に対して高い透過率を示すが、多くの波長の光に対しては低い透過率を示す。
【0014】
前記スクラッチ層は、樹脂とその中で分散したフィラーとを含み、前記波長の光を反射又は散乱させるように構成することができる。これにより、スクラッチ層の機械的強度を他の層より小さくすることで、その層が優先的に損傷させることができる。
【0015】
前記光学機能層の表裏のいずれかの面に、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を備える構成をとることができる。この場合において、光吸収パターンと光学機能層とが同じ色であれば、光吸収パターンが形成していたパターンを肉眼では観察し難くなるか、または、観察が極めて困難となる。例えば、光吸収パターンを一次元または二次元コード状に設けていた場合、当該コードを観察できなくすることができる。
【0016】
また、光学機能層と光反射層とスクラッチ層とが前記のように積層した積層部については、これを前記筐体表面に直接形成したり、前記筐体表面に接着することができる。
【0017】
[適用2:カートリッジ用ラベル]
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジに付されるカートリッジ用ラベルであって、
所定の波長の光を透過させる光学機能層と、該光学機能層と向き合い前記波長の光を反射する光反射層と、該光反射層と前記光学機能層との間に介在するスクラッチ層とを積層して備え、
前記スクラッチ層は、該スクラッチ層の少なくとも一部に外力が加えられたときに前記光学機能層の少なくとも一部を伴ってカートリッジ表面側から剥離するように構成され、
前記光学機能層の表裏のいずれかの面に、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を備え、
前記光吸収パターン層によって前記カートリッジに関する情報を示すパターンが形成されている、
ことを要旨とする。
【0018】
所定の波長の光を照射し、その反射状況を関するすることで光吸収パターン層によって形成されたパターンを読み取ることができ、カートリッジに関する情報を取得することができる。
【0019】
[適用3:印刷装置]
印刷装置であって、
前述したいずれかのカートリッジが装着可能とされ、
前記スクラッチ層の少なくとも一部に外力を加えて前記光学機能層の少なくとも一部を伴って、前記スクラッチ層をカートリッジ表面側から剥離する不可逆処置を実行する不可逆処置部を備える
ことを要旨とする。
【0020】
前記構成を備える印刷装置は、前記したいずれかのカートリッジが装着されると、その装着済みのカートリッジの積層部に対して不可逆処置を実行する。この不可逆処置は、積層部における一部を損傷するから、前記構成を備える印刷装置によれば、不可逆処置を経て、積層部の前記した不可逆的な変化を起こすようにできる。
【0021】
この他、前記した印刷装置は、次のような態様とすることができる。例えば、前記光学機能層に前記波長の光を照射してその反射の状態を読み取り、前記不可逆処置の前後において前記読取部が読み取った反射の状態を対比する。こうすれば、積層部の前記した不可逆的な変化に対応した処置が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】印刷システムPSの概略構成を示す説明図である。
【図2】インクカートリッジ200とラベル部210とを概略的に示す説明図である。
【図3】インクカートリッジ200のラベル部210とスクラッチユニット100との関係を示す説明図である。
【図4】ラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210とスクラッチユニット100の位置関係を示す説明図である。
【図5】スクラッチユニット100がラベル部210に対して移動した場合のラベル部210の表面の変化の様子を概略的に示す説明図である。
【図6】読取ユニット150の機能とラベル部210との関係を示す説明図である。
【図7】ラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と読取ユニット150の位置関係を示す説明図である。
【図8】第1の変形例のラベル部210Aを正面視して示す説明図である。
【図9】図8における9−9線に沿った断面図である。
【図10】不可逆処置前のラベル部210Aを読取ユニット150にて読み取った読取画像を示す説明図である。
【図11】図5の相当図でありスクラッチユニット100がラベル部210Aに対して移動した場合のラベル部210Aの表面の変化の様子を概略的に示す説明図である。
【図12】ラベル部210Aの不可逆処置後を正面視して示す説明図である。
【図13】不可逆処置後の受光部154による読取結果に基づくパターン像の様子を示す説明図である。
【図14】第2の変形例のラベル部210Bを正面視して示す説明図である。
【図15】図14における15−15線に沿った断面図である。
【図16】ラベル部の他の形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を印刷システムに適用した実施例について説明する。図1は印刷システムPSの概略構成を示す説明図である。図示するように、印刷システムPSは、印刷装置としてのプリンター20と、コンピューター90と、を備えている。プリンター20は、コネクター80を介して、コンピューター90と接続されている。
【0024】
プリンター20は、副走査送り機構21と、主走査送り機構27と、印刷ヘッドユニット60と、主制御部40と、を備えている。副走査送り機構21は、紙送りモーター22と紙送りローラー26とを備えており、紙送りローラー26を用いて用紙PAを副走査方向に搬送する。主走査送り機構27は、キャリッジモーター32と、プーリー38と、キャリッジモーター32とプーリー38との間に張設された駆動ベルト36と、紙送りローラー26の軸と並行に設けられた摺動軸34と、を備えている。摺動軸34は、駆動ベルト36に固定されたキャリッジ30を摺動可能に保持している。キャリッジモーター32の回転は、駆動ベルト36を介してキャリッジ30に伝達され、キャリッジ30は、摺動軸34に沿って紙送りローラー26の軸方向と平行な主走査方向に往復動する。
【0025】
印刷ヘッドユニット60は、キャリッジ30にインクカートリッジ200と図示しない印刷ヘッドとを搭載し、キャリッジ30により主走査方向に駆動しながら印刷ヘッドを駆動して、用紙PA上にインクカートリッジ200が収容したインクを吐出させる。主制御部40は、上述した各機構を制御して印刷処理を実現する。主制御部40は、例えば、コンピューター90を介してユーザーの印刷ジョブを受信し、受信した印刷ジョブの内容に基づき、上述した各機構を制御して印刷を実行する。インクカートリッジ200のそれぞれは、キャリッジ30に脱着自在に装着可能とされている。印刷ヘッドは、異なるインクをそれぞれ吐出する複数のノズル列を有する。また、この印刷ヘッドユニット60は、スクラッチユニット100と読取ユニット150とを備える。スクラッチユニット100は、インクカートリッジ200が有する後述のラベル部210の表面の一部を引っ掻いたり、一部を剥離などの損傷を行なう。読取ユニット150は、ラベル部210への光照射とその反射光の読み取りを行う。ラベル部210に対する剥離や読み取りについては後述する。
【0026】
この他、プリンター20は、ユーザーがプリンター20の各種の設定を行ったり、プリンター20のステータスを確認したりするための操作部70を備えている。操作部70は、ユーザーに各種の通知を行うための表示部72を備えている。
【0027】
図2はインクカートリッジ200とラベル部210とを概略的に示す説明図、図3はインクカートリッジ200のラベル部210とスクラッチユニット100との関係を示す説明図である。
【0028】
図3に示すように、ラベル部210は、インクカートリッジ200におけるインク収容部201を形成する筐体202の一つの周壁表面に形成されている。このラベル部210は、異なる性状の複数の層を積層した積層構造とされ、或る波長の光(以下、この波長を第1波長と称し、その光を第1波長光と称する)を透過させる光学機能層213と、この第1波長光を反射させる光反射層212と、光学機能層213と光反射層212との間に介在するスクラッチ層218とを備え、光反射層212を筐体202の表面側とする。
【0029】
光反射層212は、筐体202の表面に支持される機能、第1波長光を反射又は散乱させる機能、および後述する不可逆処置、つまり機械的な外力によりスクラッチ層218の剥離を容易にするための機構を有する層である。こうした性状を有する光反射層212は、例えば、硬質樹脂と滑剤とを含むことにより実現することができる。硬質樹脂は、例えば、紫外線又は電子線硬化型のアクリル樹脂の硬化物である。滑剤として、例えばシリコーンを使用することができる。すなわち、光反射層212は、紫外線又は電子線硬化型の樹脂と滑剤とを含んだ組成物からなる塗膜を形成し、この塗膜に紫外線又は電子線を照射することにより得られる。この塗膜は、例えば、塗布法又は印刷法により形成する。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、及びフレキソ印刷法が挙げられる。光反射層212の厚さは、例えば1〜10μmの範囲内とし、典型的には2〜5μmの範囲内とする。
【0030】
インクカートリッジ200へのラベル部210の形成後において、第1波長光に対する光反射層212の反射率は、例えば60〜90%の範囲内にあり、典型的には70〜80%の範囲内にある。ここでは、一例として、第1波長は近赤外線領域にあることとする。ここで、「近赤外線領域」は、700〜1500nmの波長域を意味することとする。
【0031】
この光反射層212を筐体202の表面に形成するには、インクカートリッジ200を前記の印刷手法の印刷機器にセットし、筐体202の表面に、スクリーン印刷法により、所定の寸法形状の矩形の領域に、透明ニスとして、以下に組成を示すインクAを、乾燥膜厚が3μmになるようにした。この塗膜を乾燥させることにより、光反射層212を筐体202の表面に印刷形成できる。
【0032】
[インクAの組成]
アクリルポリオール(メチルテマクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体) 25重量部
ニトロセルロース 5重量部
キシレンジイソシアネート 5重量部
トルエン 35重量部
メチルエチルケトン 30重量部
【0033】
スクラッチ層218は、ラベル部210の前面を引掻く等の外力を受けた際に、光反射層212からの剥離を容易にするための層であり、光反射層212で第1波長光を反射または散乱させるために、第1波長に光に対して透明または半透明とする。こうした性状を有するスクラッチ層218としては、例えば、樹脂、金属粉末から形成することができる。この樹脂としては、例えば、ゴム系天然樹脂、例えば天然ゴム及び塩酸ゴムなどの天然ゴム誘導体、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、又は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を使用することができる。
【0034】
スクラッチ層218の厚さは、例えば3〜30μmの範囲内とし、典型的には5〜20μmの範囲内とする。
スクラッチ層218は、例えば、塗布法又は印刷法により形成する。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、及びフレキソ印刷法が挙げられる。例えば、スクラッチ層218は、スクリーン印刷法により、銀インクとして、銀粉末と樹脂との混合物を、乾燥膜厚が3μmになるように塗布し、この塗膜を乾燥させることにより得ることができる。
【0035】
なお、スクラッチ層218は、光反射層212と同じような光学的特性、つまり、光反射層又は光散乱層としての役割を付加してもよい。この場合において、光反射層212の第1波長における反射率は、例えば60〜90%の範囲内にあり、典型的には70〜80%である。スクラッチ層218には、スクラッチ層218にフィラーを更に含有させればよい。フィラーとしては、金属材料からなるフィラー、非金属材料からなるフィラー、又はそれらの組み合わせを使用することができる。金属材料からなるフィラーとしては、例えば、アルミニウム粉末及び銅粉末などの金属粉末、黄銅粉末などの合金粉末、又はそれらの組み合わせを使用することができる。非金属材料からなる粉末としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、アルミナ、二酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、タルク、カオリン、クレー、カーボンブラック、若しくは樹脂からなる粉末、又はそれらの混合物を使用することができる。スクラッチ層218に含有させるフィラーは、白色顔料であってもよく、着色顔料であってもよい。また、スクラッチ層218には、染料を含有させてもよい。
【0036】
スクラッチ層218は、一定以上の力が加わったときには、容易に除去できるものであることが好ましい。ただし、通常の保管環境下やハンドリングの際に、スクラッチ層218が傷付くことは好ましくない。従って、スクラッチ層23上には、図示しないスクラッチ保護層を形成してもよい。スクラッチ保護層は、例えば、樹脂からなる。この樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂、又はポリウレタン樹脂を使用することができる。スクラッチ保護層は、例えば、前記樹脂の溶液を塗布し、塗膜を乾燥させることにより得られる。
【0037】
スクラッチ層218に重ねて形成された光学機能層は、第1波長の光を透過させる。第1波長の光に対する光学機能層の透過率は、例えば30%以上であり、典型的には30〜60%の範囲内にある。
【0038】
光学機能層213は、典型的には着色している。光学機能層213が着色している場合、特に光学機能層213が黒色に着色している場合、ラベル部210を前面側(即ち、光学機能層213の側)から肉眼で観察しただけでは、スクラッチ層218や光反射層212のパターンがあっても、そのことを知覚することは不可能であるかまたは困難である。ここでは、一例として、光学機能層213は黒色を呈していることとする。
【0039】
第1波長が近赤外領域内にある場合、光学機能層213として、第1波長における透過率が30%以上であり、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500nmの波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上であるものを使用することができる。即ち、光学機能層213は、近赤外領域における透過スペクトルが、第1波長において高い透過率を示し、他の多くの波長で低い透過率を示すものであってもよい。ここでは、一例として、光学機能層213は、このような光学特性を有していることとする。また、ここでは、第1波長と異なる第2波長も近赤外領域内にあり、第2波長における光学機能層213の透過率は、第1波長における光学機能層213の透過率と比較してより低いこと、例えば、第1波長における光学機能層213の透過率の80%以下であることとする。
【0040】
前記の光学特性、即ち、近赤外領域内の光のうち、一部の波長域の光を選択的に透過させ、残りの光を吸収する光学特性を有している光学機能層213は、例えば、所定の近赤外線吸収剤と樹脂とを含んでいる。この近赤外線吸収剤としては、例えば、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、ジイモニウム化合物、およびシアニン化合物からなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。また、樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。
【0041】
光学機能層213にあっても、光反射層212と同様、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびフレキソ印刷法等の印刷手法で形成される。光学機能層213の厚さは、例えば0.5ないし10μmの範囲内とし、典型的には1ないし5μmの範囲内とする。この光学機能層213を形成するには、例えば、オフセット印刷機に光反射層212が形成済みのインクカートリッジ200をセットし、形成済み光反射層212に重なるように、以下の組成のインクBまたはインクCを印刷し、その際には、乾燥膜厚が1μmになるようにした。その後、更に、この塗膜に紫外線を照射することで、光学機能層213を光反射層212に重ねて形成した。このようにして光反射層212に光学機能層213を積層したラベル部210を、筐体202の表面の側から肉眼で観察したところ、全体が黒色に見えた。
【0042】
[インクBの組成]
有機系青色顔料(御国色素社製) 5質量部;
有機系赤色顔料(御国色素社製) 7質量部;
有機系黄色顔料(御国色素社製) 8質量部;
UV硬化型オフセットインクメジウム(FD カルトンACE メジウム ロ:東洋インキ社製) 80質量部;
【0043】
[インクCの組成]
有機系青色顔料(御国色素社製) 5質量部;
有機系赤色顔料(御国色素社製) 7質量部;
有機系黄色顔料(御国色素社製) 8質量部;
赤外線吸収剤(YKR−3081:山本化成社製) 5質量部;
UV硬化型オフセットインク用メジウム(FD カルトンACE メジウム ロ:東洋インキ社製) 75質量部;
【0044】
図3に示すように、スクラッチユニット100は、インクカートリッジ200における筐体表面のラベル部210に対向する。この場合、スクラッチユニット100をインクカートリッジ200のラベル部210に常時対向するようにできるほか、スクラッチユニット100を例えば2次元テーブル或いは3次元テーブルに設置し、ラベル部210に対して進退可能とすることもできる。スクラッチユニット100は、回収部101aを有する支持本体101と、支持本体101からラベル部210に向き合うよう突出した鉤状具102とを備え、主制御部40(図1)からの制御を受けて、スクラッチユニット100をラベル部210の表面に向かって移動するとともに、その表面に倣って移動する。この移動は、鉤状具102の先端がスクラッチ層218に達して、鉤状具102の先端で紙面の図示の右方向に引っ掻く。つまり、スクラッチユニット100は、主制御部40からの制御タイミングにて、光学機能層213の一部の表面を引っ掻く不可逆処置を実行する。光反射層212は、この不可逆処置を受けて、光学機能層213の有無にしたがって第1波長光に依拠する像の違いを表示する。
【0045】
図4はラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210とスクラッチユニット100の位置関係を示す説明図、図5はスクラッチユニット100がラベル部210に対して移動した場合の光反射層212の変化の様子を概略的に示す説明図である。図4に示すように、スクラッチユニット100は、その有する鉤状具102をラベル部210の一つの箇所に対向させただけでもよく(図4(A))、既述した2次元或いは3次元のテーブルにより、L字形の鉤状具102Aを用いて、ラベル部210に対して縦横、或いはその一方の方向に走査するようにすることができる(図4(B))。図4(A)に示す場合には、スクラッチユニット100による前記の不可逆処置により、ラベル部210の表面が鉤状具102で引っ掻かれた範囲にて、ラベル部210の一部の光学特性の変化を生じる。その一方、図4(B)に示す場合は、スクラッチユニット100の走査軌跡に倣った軌跡がラベル部210の引っ掻かれた範囲となるので、ラベル部210の一部の光学的特性の変化を生じる。図5では、スクラッチユニット100が一方向に移動した場合のラベル部210の表面の変化の様子が示されており、スクラッチユニット100の移動範囲では、光学機能層213を含む一部の層が剥離されつつ、その剥離片が回収部101aに回収されている。
【0046】
図6は読取ユニット150の機能とラベル部210との関係を示す説明図である。図示するように、読取ユニット150は、インクカートリッジ200における筐体表面のラベル部210に対向する。この場合、読取ユニット150にあっても、スクラッチユニット100と同様、ラベル部210に常時対向するようにできるほか、2次元テーブル或いは3次元テーブルに設置し、ラベル部210に対して進退可能とできる。読取ユニット150は、照射部152と受光部154とをラベル部210に向き合うようにして備え、主制御部40(図1)からの制御を受けて、照射部152による光照射と、受光部154による読み取りを行う。照射部152は、赤外線LED(light-emitting diode)を内蔵し、第1波長としての800nmの波長の光(第1波長光)を照射する。受光部154は、CCD(charge-coupled device)カメラとして構成され、照射部152から照射した光が光反射層212で反射した反射光を受光する。この場合、受光部154は、図示しない光学フィルタにて前記の第1波長を含む赤外領域の光を受光するように構成されている。
【0047】
図7はラベル部210を光学機能層213の側から正面視しつつラベル部210と読取ユニット150の位置関係を示す説明図である。図示するように、読取ユニット150は、複数の照射部152からラベル部210の全面に向けて前記波長(第1波長)の光を照射し、ラベル部210の全面からの反射光を受光部154にて受光する。よって、図4で説明したいずれの場合のスクラッチユニット100による不可逆処置であっても、読取ユニット150は、この不可逆処置、つまりラベル部210の表面の剥離により、ラベル部210の反射状況を読み取ることができる。
【0048】
プリンター20は、スクラッチユニット100による前記した鉤状具102を用いた不可逆処置を、インクカートリッジ200の収容済みインクが使い切られたタイミング(不可逆変化タイミング)で実行する。具体的には、主制御部40は、処理を行った印刷ジョブの累積からインクカートリッジ200のインク残量を求め、その残量が次回の印刷ジョブを賄えないと予想されるインク量となると、スクラッチユニット100に制御信号を送る。スクラッチユニット100は、この制御信号を受けて鉤状具102を前記したように移動させ、ラベル部210の表面の一部を剥離させる。
【0049】
また、プリンター20は、キャリッジ30にインクカートリッジ200が装着されると、そのタイミング(読取タイミング)で、主制御部40から読取ユニット150に制御信号を送信する。読取ユニット150は、これを受けて、照射部152による光照射と受光部154による反射光読み取りを行い、読み取り結果を主制御部40に送信する。主制御部40は、予め、スクラッチユニット100による不可逆処置前の読取状況を記憶しているので、受光部154の読取結果を記憶済み読取状況と比較することで、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が不可逆処置を受けていないものか、当該処置を受けたものかの特定が可能となる。
【0050】
以上説明した本実施例の印刷システムPSによれば次の利点がある。本実施例のインクカートリッジ200は、その筐体202の表面にラベル部210を備え、このラベル部210を筐体表面側から、光反射層212、スクラッチ層218および光学機能層213を積層した積層部とする。このラベル部210は、インクカートリッジ200が図1に示すようにキャリッジ30に装着された状態で、前記の不可逆変化タイミングにて、プリンター20の印刷ヘッドユニット60に搭載済みのスクラッチユニット100を介して不可逆処置を受ける。ラベル部210の表面は、この不可逆処置を受けることでスクラッチユニット100の鉤状具102にて一部が引っ掻かれる。ラベル部210は、不可逆処置の前後において、第1波長光(800nmの波長の光)に対して異なる反射光に伴うパターンが異なるものとなる。
【0051】
一方、プリンター20は、インクカートリッジ200がキャリッジ30に装着されたような前記の読取タイミングで、インクカートリッジ200のラベル部210にその光学機能層213の側から第1波長光(800nmの波長の光)を読取ユニット150の照射部152から照射し、光学機能層213からのこの第1波長光の反射状況を受光部154で読み取る(図6、図7参照)。今、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が、それ以前にキャリッジ30に装着された経歴がなく所定のインクを満量収容したカートリッジであれば、当該カートリッジは、スクラッチユニット100による不可逆処置を受けてはいない。よって、この新たに装着されたインクカートリッジ200についての受光部154による読取結果は、第1波長光(800nmの波長の光)に対するラベル部210の表面の損傷を起こしていないものとなる。
【0052】
その一方、キャリッジ30に新たに装着されたインクカートリッジ200が、それ以前にスクラッチユニット100による不可逆処置を受けたものであれば、この新たに装着されたインクカートリッジ200についての受光部154による読取結果は、第1波長光(800nmの波長の光)に対するラベル部210の表面の引っ掻きや剥離を反映したものとなる。つまり、不可逆処置を経たラベル部210の表面の引っ掻きや剥離は、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当する。よって、本実施例のインクカートリッジ200によれば、ラベル部210の不可逆的な変化を、記憶素子における電気的なデータ更新、例えば、データを値0から値1に或いはその逆に更新する情報更新に相当するものとできるので、情報更新を起こすに当たって記憶素子を必要としない。なお、記憶素子をラベル部210と併用することも可能である。
【0053】
また、本実施例のプリンター20によれば、ラベル部210の表面の引っ掻きや剥離の変化を、インクカートリッジ200のインクが使い切られたタイミングで起こすので、インク使い切りのインクカートリッジ200が誤ってキャリッジ30に装着されても、その誤装着の旨を操作部70の表示部72に表示する等してユーザーに認知でき、こうした認知に際して記憶素子を必要としない。なお、記憶素子をラベル部210と併用することも可能である。
【0054】
次に、第1の変形例について説明する。図8は第1の変形例のラベル部210Aを正面視して示す説明図、図9は図8における9−9線断面図である。
【0055】
図示するように、この変形例のラベル部210Aは、インクカートリッジ200の筐体202の表面に、光反射層212、スクラッチ層218および光学機能層213を積層した上で、この光学機能層213に光吸収パターン層214を積層して備える。光吸収パターン層214は、図8に示すような一次元コード状のパターンを後述する材料で光学機能層213の上に形成し、光学機能層213を間に挟んで光反射層212と向き合っている。図8および図9に示す例では、光吸収パターン層214のパターンは、一次元コードであるが、二次元コード状のパターン、或いは、文字、記号、模様および図形などの他のパターンとすることもできる。そして、この光吸収パターン層214のパターンを、インクカートリッジ200に固有の情報、例えば、インク色に応じて異なるようにすれば、カートリッジ装着の際のパターンの読取結果からインク色を特定できる。
【0056】
光吸収パターン層214は、既述した第1波長光を吸収する。具体的には、光吸収パターン層214の第1波長における吸収率は、ラベル部210Aの製造直後における光反射層212、スクラッチ層218および光学機能層213の第1波長における吸収率と比較してより大きい。第1波長光に対する光吸収パターン層214の吸収率は、例えば70%以上であり、典型的には80%以上である。
【0057】
第1波長が近赤外領域内にある場合、光吸収パターン層214は、例えば、近赤外線吸収剤と樹脂とを含有している。この樹脂としては、例えば、プロセスインクにおいて一般に使用されているものを使用することができる。
【0058】
ここで使用する近赤外線吸収剤は、典型的には、光学機能層213において使用する近赤外線吸収剤とは、近赤外線領域の吸収スペクトルが異なっている。例えば、ここで使用する近赤外線吸収剤は、光学機能層213において使用する近赤外線吸収剤と比較して、第1波長光に対する吸収率がより大きい。この近赤外線吸収剤としては、例えば、プロセス墨インクに用いられているカーボンブラックを使用することができる。或いは、この近赤外線吸収剤として、光学機能層213の近赤外線吸収剤として例示した化合物を使用してもよい。
【0059】
光吸収パターン層214は、光学機能層213と同色にするか、または、第1波長光に対して十分な吸収率を示す限り、薄い色にすることが好ましい。こうすると、ラベル部210Aを肉眼で観察した場合に、光吸収パターン層214の存在が分かり難くなる。
【0060】
光吸収パターン層214は、光反射層212に対応した領域のほぼ全体に亘って分布していることが望ましい。こうすると、光学機能層213の分光特性の解析を困難とすることができる。
【0061】
光吸収パターン層214は、例えば、印刷法により形成する。この印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、およびフレキソ印刷法が挙げられる。或いは、光吸収パターン層214は、熱転写リボンを用いて形成してもよい。つまり、光反射層212、スクラッチ層218および光学機能層213を形成済みのインクカートリッジ200を前記の印刷手法に処して、光学機能層213の表面に光吸収パターン層214を形成する。光吸収パターン層214の厚さは、例えば0.5ないし5μmの範囲内とし、典型的には0.5ないし2μmの範囲内とする。
【0062】
前記したラベル部210Aを有するインクカートリッジ200に対するスクラッチユニット100による不可逆処置、および読取ユニット150による読取結果について説明する。図10は図6と図7に示すようにして不可逆処置前のラベル部210Aを読取ユニット150にて読み取った読取画像を示す説明図である。
【0063】
インクを規定の満量収容したインクカートリッジ200にラベル部210Aを形成した状態で、このラベル部210Aをその前面から肉眼で観察した場合、例えば、その全体が黒色に見える(図8参照)。これに対し、図6〜図7に示すように読取ユニット150の照射部152にて第1波長光を照射しながら受光部154でその反射光を読み取ると、受光部154の読取結果は、光吸収パターン層214の形成したパターンに対応した領域が黒く、ラベル部210Aの他の部分に対応した領域が白くなったパターン像P1に相当する読取結果となる。この読取結果を受け取る主制御部40は、画像としてパターン像P1を認識する。この場合、照射部152から第1波長光と異なる赤外領域の第2波長の光を放射すれば、受光部154の読取結果は、例えば、全体が黒い画像、または、パターン像P1がより低いコントラスト比で表示される読取結果となる。
【0064】
前記したラベル部210Aを備えたインクカートリッジ200がプリンター20にてそのインクが使い切られ、ラベル部210Aが、既述したスクラッチユニット100による不可逆処置を受けると、次のようになる。図11は図5に相当する図でありスクラッチユニット100がラベル部210Aに対して移動した場合のラベル部210の表面の一部が剥離されている変化の様子を概略的に示す説明図、図12は不可逆処置後の受光部154による読取結果に基づくパターン像の様子を示す説明図である。例えば、図4(A)に示すように、スクラッチユニット100をラベル部210Aに対向させた状態で不可逆処置が実行されると、スクラッチユニット100が移動する範囲において、灰色のパターン像P2が生じ、これがパターン像P1と重なる(図12参照)。受光部154は、新たな灰色のパターン像P2が重なったパターン像P1に相当する読取結果を主制御部40に送信し、主制御部40は、新たなパターン像P2が重なったパターン像P1を認識する。こうしたパターン像P1の読取結果は、次の理由により得られる。
【0065】
スクラッチユニット100による不可逆処置を受けたラベル部210Aでは、その光学機能層213の側から照射部152により照射された第1波長光は、損傷範囲にて異なったパターンを生じる。すなわち、ラベル部210Aを有するインクカートリッジ200では、スクラッチユニット100による不可逆処置の前では、パターン像P1のみとなるのに対して、当該処置後では、新たな灰色パターン像P2が重なったパターン像P1となる。この結果、前記した変形例のラベル部210Aを有するインクカートリッジ200によれば、不可逆的な損傷によりパターン像P1〜P2への形状変化により、より顕著に認識できる。
【0066】
図14は第2の変形例のラベル部210Bを正面視して示す説明図、図15は図14における15−15線断面図である。図示するように、この変形例のラベル部210Bは、インクカートリッジ200の筐体202の表面に、当該表面側から光反射層212と光学機能層213とを積層する。このラベル部210Bは、光学機能層213の側から肉眼で観察した場合には、光学機能層213の前記した性質により、全体が黒色の画像を表示する。そして、キャリッジ30に装着された時点で、図6に示したようにインクカートリッジ200のラベル部210Bを、読取ユニット150の照射部152から第1波長光を照射しながら受光部154で読み取ると、その読取結果の画像は、光吸収パターン層214を配置した領域が黒く、それ以外の領域が白い画像となる。即ち、このラベル部210Bを有するインクカートリッジ200では、肉眼で観察したときのラベル部210Bが表示する画像とは異なる画像を表示する。
【0067】
このラベル部210Bを前記した不可逆変化タイミングで不可逆処置する際には、ラベル部210の表面の少なくとも一部、つまり、光学機能層213および光吸収パターン層214を含んだ領域をスクラッチユニット100の鉤状具102により損傷させることにより、異なった画像パターンを得ることができる。
【0068】
図16はラベル部形成の他の形態を模式的に示す説明図である。この形態では、図8〜図9に示したラベル部210に粘着層230を形成し、この粘着層230にて、ラベル部210を筐体202の表面に貼り付けている。粘着層230の形成に当たっては、例えば、紙、プラスチック、木材、ガラスまたは樹脂からなる印刷基材を用意し、その一面に、光反射層212、スクラッチ層218および光学機能層213をこの順に印刷形成する。そして、この印刷基材の他面に粘着剤を塗布等して粘着層230を形成し、この粘着層230を介してラベル部210を筐体202の表面に接着する。このようにしても、既述した効果を奏することができる。この場合、スクラッチユニット100による不可逆処置を受けたラベル部210をインクカートリッジ200から引き剥がして別のインクカートリッジ200に貼り直したとして、当該別のインクカートリッジ200がキャリッジ30に装着されると、読取ユニット150の前記した読込により、当該別のインクカートリッジ200は、インク使い切りのインクカートリッジが誤って装着されたものである等の旨を操作部70の表示部72に表示できる。
【0069】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、前記した実施の形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
【0070】
前記実施例において、ラベル部の表面を損傷させる不可逆処置部として、鉤状具102によりラベル部210の一部を剥離するスクラッチユニット100について説明したが、これに限らず、例えば、粘着テープにより光学機能層213を剥ぎ取る手段やヤスリなどの凹凸で損傷させる手段などであってもよい。粘着テープで剥ぎ取る手段であれば、剥離片を回収するための構成が不要となる。
【0071】
また、ラベル部210の表面の一部を剥ぎ取った剥離片が周辺機器に不具合を生じさせないために、スクラッチユニットは、受け皿を備えたり、吸引手段により回収する手段を設けてもよい。
【0072】
さらに、ラベル部210の一部だけを損傷させるために、ラベル部210の表面に予め網目状のスクラッチなどを形成しておき、その損傷範囲を確実に設定してもよい。
【0073】
また、ラベル部210やラベル部210A等を、ほぼ全域の波長の光を透過させる透光性を有する薄膜状或いは薄葉状の保護層で覆うようにすることもできる。
【0074】
なお、前記実施例の一部の構成は、その課題を解決するために必要な構成以外は、本発明の適用範囲において、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0075】
20…プリンター
21…副走査送り機構
22…モーター
23…スクラッチ層
26…ローラー
27…主走査送り機構
30…キャリッジ
32…キャリッジモーター
34…摺動軸
36…駆動ベルト
38…プーリー
40…主制御部
60…印刷ヘッドユニット
70…操作部
72…表示部
80…コネクター
90…コンピューター
100…スクラッチユニット
101…支持本体
101a…回収部
102…鉤状具
102A…鉤状具
150…読取ユニット
152…照射部
154…受光部
200…インクカートリッジ
201…インク収容部
202…筐体
210…ラベル部
210A…ラベル部
210B…ラベル部
212…光反射層
213…光学機能層
214…光吸収パターン層
218…スクラッチ層
230…粘着層
PA…用紙
PS…印刷システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷に用いる印刷材を収容したカートリッジであって、
カートリッジ表面に、所定の波長の光を透過させる光学機能層と、該光学機能層と向き合い前記波長の光を反射する光反射層と、該光反射層と前記光学機能層との間に介在するスクラッチ層とを、前記光反射層が前記カートリッジ表面の側となるように積層して備え、
前記スクラッチ層は、該スクラッチ層の少なくとも一部に外力が加えられたときに前記光学機能層の少なくとも一部を伴ってカートリッジ表面側から剥離するように構成された
カートリッジ。
【請求項2】
前記波長は赤外線領域内にあり、前記光学機能層は黒色層である請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記波長は近赤外線領域内にあり、前記光学機能層の前記波長における透過率は30%以上であり、近赤外領域の700ないし800nmの波長域と、近赤外領域の800ないし1500%の波長域でいずれかの波長の透過率差が10%以上である請求項2に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記スクラッチ層は、樹脂とその中で分散したフィラーとを含み、前記波長の光を反射又は散乱させるように構成された請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記光学機能層の表裏のいずれかの面に、前記波長の光を吸収する材料により、前記光学機能層の一部を占める形状のパターンを形成した光吸収パターン層を備える請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記光吸収パターン層の前記パターンと前記光学機能層とは同じ色である請求項5に記載のカートリッジ。
【請求項7】
前記光学機能層、前記スクラッチ層および前記光反射層は、前記筐体表面に直接形成され、または、前記筐体表面に接着されている請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項8】
印刷装置であって、
請求項1ないし請求項7のいずれかのカートリッジが装着可能とされ、
前記スクラッチ層の少なくとも一部に外力を加えて前記光学機能層の少なくとも一部を伴って、前記スクラッチ層をカートリッジ表面側から剥離する不可逆処置を実行する不可逆処置部を備える
印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷装置であって、
前記光学機能層に前記波長の光を照射し、その反射の状態を読み取る読取部と、
前記不可逆処置の前後において前記読取部が読み取った反射の状態を対比する対比部とを有する
印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−71401(P2013−71401A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213881(P2011−213881)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】