説明

カード型電気化学センサ

【課題】携帯性に優れるとともに衝撃や曲げに対して強く、筐体が割れることによる故障が起こりにくいカード型電気化学センサを提供する。
【解決手段】測定試料Sと接触した際に発生する電位を検出するための電極チップ1と、前記電極チップで発生した電位を取得し、その電位に基づいて前記測定試料Sの電気化学量を算出する演算チップ2と、薄板状に形成されており、前記演算チップ2で算出された電気化学量を表示する表示部3と、薄板状に形成されており、前記演算チップ2及び前記表示部3を駆動するのに必要な電力を供給する電力供給部4と、前記電極チップ1、前記演算チップ2、前記表示部3、前記電力供給部4をについて各部材の少なくとも一部を内部に収容するカード状筐体5と、を備え、前記カード状筐体5に屈曲性を持たせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定電極が測定試料と接触した際に生じる電位に基づいて、前記測定試料の電気化学量を測定するためのカード型電気化学センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から環境分析等の分野で用いられるpHセンサ等の電気化学センサは、様々な測定環境において、簡便に測定できることが求められている。例えば、特許文献1に示される電気化学センサは、どこへでも持ち運びやすいように携帯性を高めるために、カード型に形成されている。
【0003】
ところで、特許文献1に示される電気化学センサは、カード型に形成されることにより、小さく軽くなっているため確かに持ち運びやすくはなっているものの、その筐体や液晶表示部、太陽電池の部分が硬く脆い材質で形成されているため、携帯中の不意の衝撃や曲げが加わることで簡単に割れてしまい、故障することがある。例えば河川等の水質測定の場合、野外での測定を多数の測定地点で行う必要があり、移動中にカード型電気化学センサに対して衝撃や曲げが加わらないように持ち運ぶことは難しい。このため、カード型電気化学センサは実際の測定現場において使用しにくいものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−61157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような問題点を鑑みてなされたものであり、携帯性に優れるとともに衝撃や曲げに対して強く、筐体が割れることによる故障が起こりにくいカード型電気化学センサを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のカード型電気化学センサは、測定試料と接触した際に発生する電位を検出するための電極チップと、前記電極チップで発生した電位を取得し、その電位に基づいて前記測定試料の電気化学量を算出する演算チップと、薄板状に形成されており、薄板状に形成されており、前記演算チップで算出された電気化学量を表示する表示部と、薄板状に形成されており、前記演算チップ及び前記表示部を駆動するのに必要な電力を供給する電力供給部と、前記電極チップ、前記演算チップ、前記表示部、前記電力供給部について各部材の少なくとも一部を内部に収容するカード状筐体と、を備え、前記カード状筐体が、屈曲性を有する事を特徴とする。
【0007】
このようなものであれば、カード状筐体が従来のように硬く脆い材質ではなく、屈曲性を有するものであるので、例えば、このカード型電気化学センサをズボンのポケットに入れる等の粗雑な持ち運び方をして、曲げが加わったとしても割れてしまいにくい。つまり、本発明のカード型電気化学センサは、従来には付与されることのなかった屈曲性を有しているので、持ち運び時において、筐体が折れてしまい、故障するのを防ぐことができ、より様々な測定現場において用いることが可能となる。
【0008】
持ち運び時において、筐体が折れてしまうことを防ぐための具体的な屈曲性の目安としては、前記カード状筐体が、曲げRを5mm以上許容するものであればよい。
【0009】
前記電力供給部に屈曲性を持たせてより故障を生じにくくするための具体的な実施の態様としては、前記電力供給部が、有機薄膜型太陽電池である場合が挙げられる。
【0010】
前記表示部を屈曲性のあるものとし、さらに故障を生じにくくするための具体例としては、前記表示部が、電子ペーパーで形成されているものが挙げられる。
【0011】
曲げが加わった際に各部材間を接続する配線が断線する等して故障するのを防ぐには、各部材間を接続する配線が、フレキシブルプリント配線であればよい。
【0012】
液体の測定試料にカード型電気化学センサの一部を浸して測定する際に、電極チップを測定試料に対して接触させやすくするには、前記カード状筐体が、厚さ方向寸法が縦方向寸法及び横方向寸法よりも小さく、表面と裏面とが概略長方形形状をなすものであり、前記表面の角近傍に前記電極チップの一部が露出するように配置されたものであればよい。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明のカード型電気化学センサによれば、前記カード状筐体が屈曲性を有するように構成されているので、持ち運び中に多少の衝撃や曲げが加わったとしても割れが生じることにより壊れるのを防ぐことができる。従って、携行性及び耐久性に優れたカード型電気化学測定センサとすることができ、移動の多い現場での測定等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るカード型電気化学センサを示す模式図。
【図2】同実施形態におけるカード型電気化学センサの模式的分解斜視図。
【図3】同実施形態におけるカード型電気化学センサの使用状態を示す模式的斜視図。
【図4】同実施形態におけるカード型電気化学センサの通常状態と曲げ状態を示す模式的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態のカード型電気化学センサ100は、測定試料SのpHを測定するためのカード型pHセンサであり、例えば、水質のチェックや、食品の品質管理等のために用いられるものである。
【0016】
このカード型電気化学センサ100は、図1に示すように概略キャッシュカード等と同様の大きさ、薄さに形成してあり、その表面にはpHに応じた電位を発生する電極チップ1と、測定時の演算等に必要な電力を発生させるための電力供給部たる太陽電池4と、測定結果等を表示するための表示部3と、前記表示部3のオンオフを切り替えるためのスイッチ6と、が露出させてあり、その内部には、pH値等の電気化学量を算出するための演算チップ2が収容してある。また、これらの各部材は、樹脂等により形成されたカード状筐体5に収容してある。さらに、表面に露出させてある各部材は、前記カード状筐体5の表面においてそれぞれ略四隅に1つずつ配置してある。
【0017】
各部について説明する。以下の説明では、図1及び図2の分解斜視図を参照しながら説明する。
【0018】
前記カード状筐体5は、表面を形成する表側部材5aと、裏面を形成する裏側部材5bと、を備え、前記電極チップ1、前記太陽電池4、前記表示部3、前記スイッチ6とをそれぞれをフレキシブルプリント配線Lにより接続して形成されたフレキシブルプリント回路FPCを前記表側部材5aと裏側部材5bとで挟み込むことによりカード型電気化学センサ100を形成するものである。前記表側部材5a及び前記裏側部材5bは、屈曲性を有するとともに、水分が内部へと浸透するのを防ぐ事ができる塩化ビニル樹脂やPET等の樹脂材料で形成してある。この屈曲性について詳述すると、カード状筐体5を曲げた際に生じる曲げRが5mm以上を許容できるものである。すなわち、カード型電気化学センサ100を、折るのではなく面板方向に対して曲げただけでは、亀裂が生じたり破断したりしない程度の屈曲性を有している。
【0019】
前記表側部材5aは、面板部が概略長方形状の薄板状に形成したものであり、左下角近傍に前記電極チップ1の一部を露出させるための第1開口部51と、左上角近傍に前記太陽電池4の受光面を露出させるための第2開口部52と、右上角近傍に表示部3を露出させるための第3開口部53と、を備えている。さらに前記表側部材5aは、内部に収容されるスイッチ6を厚さ方向に押圧するために押圧部54が右下角の近傍に形成してある。
【0020】
前記裏側部材5bも、面板部が概略長方形状の薄板状に形成してあり、所定の厚みを有する前記演算チップ2と、前記スイッチ6とがそれぞれ収容される第1凹部55、第2凹部56が形成してある。なお、第1凹部55及び第2凹部56は、裏面に対して開口しないように有底穴として形成してあり、裏面は平面状にしてある。これらの表側部材5aと裏側部材5bに設けられた各開口部及び各凹部に対し電極チップ1等の各部材が嵌め合うようにしてフレキシブルプリント回路FPCが挟み込まれる。これらの表側部材5aと裏側部材5bとを張り合わせて形成されるカード状筐体5は、その表面、裏面のそれぞれが略平面となるようにしてある。
【0021】
前記電極チップ1は、測定試料Sと接触した際に電気化学量に応じて発生する電位を検出するためもの例えばISFETチップであって、測定極と参照極がセットになったものである。この電極チップ1は、前記カード状筐体5の角近傍に露出するように設けてあるので、図3の使用状態を示す斜視図のように、測定試料S中に前記カード型電気化学センサ100自体を浸しやすく、容易にpHの測定を行うことができる。また、カード型電気化学センサ100の一部のみを測定試料S中に浸せばよいので、例えば、何らかの原因でカード状筐体5の密閉が破れる等した場合でも、内部に液体が侵入し故障の原因となるのを防ぎやすい。また、測定試料Sが固体の場合であっても同様に接触させやすい。ここで、前記電極チップ1の一例として本実施形態ではISFETチップを挙げているが、電極チップ1としては、概略平板状であり、前記カード状筐体5と同程度の厚みを有し、測定試料Sと接触した際に電気化学量に応じた電位が発生するチップ状の電極であればよい。具体例としては、シート状に形成されたガラス応答膜を用いたガラス電極チップを用いてもよい。すなわち、電極チップ1は、例示している半導体電極に限られるものではなく、上述したような厚み及び大きさにより規定されるものであり、ガラス電極等であってもチップ状に形成されたものであればそれらを含む概念のものである。
【0022】
前記電力供給部は、薄板状に形成された有機薄膜太陽電池4であり、屈曲性を有するものである。従って、この有機薄膜太陽電池4を用いているので、カード型電気化学センサ100に対して所定量以下の曲げを受けた際にもその給電能力を維持することができる。
【0023】
前記演算チップ2は、前記電力供給部から電力の供給を受けるとともに、前記電極チップ1からで検出された電位に基づいて、測定試料SのpH値を算出するものである。ここで、本実施形態では、pH値であるが、その他のイオン濃度や酸化還元電位等様々な電気化学量を算出するようにしてもかまわない。
【0024】
前記表示部3は、例えばE−Ink等の電子ペーパーにより薄板状に形成されており、前記演算チップ2で算出された電気化学量を表示するものである。
【0025】
前記スイッチ6は、例えば前記表示部3及び前記演算チップ2におけるオンオフを切り替えるためのものであり、使用していない時における電力消費を抑えるために用いられるものである。
【0026】
このように構成されたカード型電気化学センサ100であれば、前記カード状筐体5、前記電力供給部、前記表示部3が屈曲性を有する素材で形成されているので、図4(a)の平板状態から図4(b)のように曲げを許容することができる。また、各部材の特性から薄く形成することができるので、非常に薄いカード型電気化学センサ100にできる。
【0027】
従って、非常に小さく薄いカード型電気化学センサ100であることから携帯性に優れるとともに、従来のように硬く脆い素材で形成されておらず、屈曲性を有するものであることから、ポケットに入れて持ち運ぶなど乱暴な扱いをした場合でも曲げによって割れることがなく、故障を防ぐことができる。
【0028】
つまり、特に前記カード状筐体5が屈曲性を有する素材で形成されていることから、携帯性に優れるとともに、曲げによる故障の少ない電気化学センサとすることができる。
【0029】
その他の実施形態について説明する。
【0030】
前記実施形態では、カードの形状としては長方形状のものを図示したがこれに限定されるものではなく、その他の形状でも薄板状であればよい。さらに、前記実施形態におけるカード型電気化学センサは、前記表示部、前記電力供給部、前記カード状筐体の全てについて屈曲性を有するものであったが、少なくともカード状筐体が屈曲性を有するものであればよい。言い換えると、前記カード状筐体は、厚さ方向寸法が縦方向寸法及び横方向寸法よりも小さく設定してあればよい。
【0031】
前記電力供給部は、有機薄膜太陽電池であったがその他の太陽電池であってもよいし、屈曲性を有するシート状のバッテリーをカード状筐体の内部に収容しても構わない。また、前記表示部も電子ペーパーに限定されるものではなく、例えば、液晶パネル等であっても構わない。
【0032】
また、前記電極チップは、測定対象だけでなく、補正用の測定値を取得するための機構を有するものであっても構わない。また、前記スイッチを省略し、常に測定待機状態として動作するものであってもかまわない。
【0033】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0034】
100・・・カード型電気化学センサ
1 ・・・電極チップ
2 ・・・演算チップ
3 ・・・表示部
4 ・・・太陽電池(電力供給部)
5 ・・・カード状筐体
S ・・・測定試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料と接触した際に発生する電位を検出するための電極チップと、
前記電極チップで発生した電位を取得し、その電位に基づいて前記測定試料の電気化学量を算出する演算チップと、
薄板状に形成されており、前記演算チップで算出された電気化学量を表示する表示部と、
薄板状に形成されており、前記演算チップ及び前記表示部を駆動するのに必要な電力を供給する電力供給部と、
前記電極チップ、前記演算チップ、前記表示部、前記電力供給部について各部材の少なくとも一部を内部に収容するカード状筐体と、を備え、
前記カード状筐体が、屈曲性を有する事を特徴とするカード型電気化学センサ。
【請求項2】
前記カード状筐体が、曲げRを5mm以上許容するものである請求項1記載のカード型電気化学センサ。
【請求項3】
前記電力供給部が、有機薄膜型太陽電池である請求項1又は2記載のカード型電気化学センサ。
【請求項4】
前記表示部が、電子ペーパーで形成されている請求項1、2又は3記載のカード型電気化学センサ。
【請求項5】
各部材間を接続する配線が、フレキシブルプリント配線である請求項1、2、3又は4記載のカード型電気化学センサ。
【請求項6】
前記カード状筐体が、厚さ方向寸法が縦方向寸法及び横方向寸法よりも小さく、表面と裏面とが概略長方形形状をなすものであり、
前記表面の角近傍に前記電極チップの一部が露出するように配置された請求項1、2、3、4又は5記載のカード型電気化学センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−61300(P2013−61300A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201277(P2011−201277)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)