説明

カード用コネクタ

【課題】カード排出時の減速機構を簡単に構成でき、小型化を可能とすること。
【解決手段】接続対象物を収容するハウジング1と、ハウジングに接続対象物を装着する方向とハウジングから接続対象物を排出する方向とに移動可能なスライド部材2と、スライド部材を前記排出方向に付勢する付勢部材5と、付勢部材の付勢力に抗してスライド部材を接続対象物装着位置に選択的に保持するロック機構6とを有するカード用コネクタであって、ハウジング1は、スライド部材2の移動をガイドするハウジング摺動部1aを有し、スライド部材2は、ハウジング摺動部1aに摺接するスライド部材摺動部2aを有し、
ハウジング摺動部1aとスライド部材摺動部2aとの摺動面に潤滑剤が付与されており、スライド部材摺動部2aはハウジング摺動部1aに押し付けられていることを特徴とするカード用コネクタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード用コネクタに関し、特に、記憶装置や制御装置として用いられる着脱式の小型カードに対応するカード用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カード用コネクタを採用する製品分野が拡大し、デジタルスチルカメラや携帯電話機等の、手軽に持ち運びができる携帯機器にもカード用コネクタが多用されるようになった。また、メモリーカードの小型化が進み、より小形の携帯機器にもカード用コネクタが組み込まれるようになり、カード用コネクタにも、より小型化が要求されている。
【0003】
ところでカードが小型化されたことにより、携帯機器への組み込みは有利となったが、使用者にとっては取り扱いにくい状況も起きるようになった。特にカードの取り出しは困難であるため、エジェクトボタン操作またはプッシュプッシュ操作でロック機構を解除すると排出ばねによってカードが排出される形式のカード用コネクタが増加している。
【0004】
しかし、カードが排出される形式のカード用コネクタでも、排出の移動速度が大きいと使用者が排出されたカードをつかみにくいという問題があるため、カードの排出速度を減速させる機能が求められる。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されるカード用コネクタのように、カードと共に移動可能なスライド部材にラックギアを設け、これにオイルダンパーの平歯車を噛み合わせてオイルダンパーの回転抵抗によってラックギアの移動を規制し、カード排出時の移動速度を減速することが提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているようなオイルダンパーを採用した場合にはオイルダンパーがカード用コネクタの側方に張り出すので、カード用コネクタを小型化しにくい、またオイルダンパーの平歯車の下部にオイルダンパーの本体部が位置するため、カード用コネクタを薄型化しにくいという問題がある。さらにオイルダンパーを組み込むため組立て工数が増加するという問題があった。
【0007】
そのため、ハウジングと摺動するスライド部材に潤滑剤を直接塗布してこの潤滑剤で減速させることが考えられる。しかし、スライド部材に塗布された潤滑剤だけではハウジングと摺動するスライド部材の摺動抵抗は小さく、充分な減速効果が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−31307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的はメモリーカード排出時の減速機構を簡単に構成でき、小型化が可能なカード用コネクタを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、接続対象物を収容するハウジングと、ハウジングに接続対象物を挿入する方向とハウジングから接続対象物を排出する方向とに移動可能なスライド部材と、スライド部材を排出方向に付勢する付勢部材と、付勢部材の付勢力に抗してスライド部材を接続対象物装着位置に選択的に保持するロック機構とを有するカード用コネクタにおいて、ハウジングは、スライド部材の移動をガイドするハウジング摺動部を有し、スライド部材は、ハウジング摺動部に摺接するスライド部材摺動部を有し、ハウジング摺動部とスライド部材摺動部との摺動面に潤滑剤が付与されており、スライド部材摺動部はハウジング摺動部に押し付けられていることに特徴を有する。
【0011】
これにより、本発明ではスライド部材摺動部とハウジング摺動部に塗布された潤滑剤を挟んでハウジング摺動部にスライド部材摺動部が押し付けられることでスライド部材が移動するときの潤滑剤の抵抗が大きくなるため移動の減速効果が大きくなり、潤滑剤のみで接続対象物の排出速度を減速させることができ、オイルダンパーやギアなどの減速機構が不要になるので、減速機構を簡単に構成でき、カード用コネクタを小型化できる。
【0012】
また、本発明では、スライド部材は接続対象物と摺接する受け面を有し、受け面はスライド部材が移動する際にスライド部材摺動部がハウジング摺動部に押し付けられる方向の力を生じるように形成されていることに特徴を有する。
【0013】
これにより、本発明は接続対象物の挿入時,排出時にスライド部材の受け面に加わる付勢力の一部により、潤滑剤が付与されたスライド部材摺動部をハウジング摺動部に押し付けることができるので、スライド部材摺動部をハウジング摺動部に押し付けるための格別の機構を追加することなく、減速機構を簡単に構成することができる。
【0014】
また、本発明は、ハウジング摺動部とスライド部材摺動部の摺動によって潤滑剤がはみ出す領域に当接して、はみ出した潤滑剤を集める回収部と、回収部に集めた潤滑剤を再び摺動面に戻す誘導路からなる潤滑剤の付与機構とを有することに特徴を有する。
【0015】
これにより、本発明はスライド部材摺動部とハウジング摺動部とが摺動を繰り返すうちに潤滑剤が摺動面からはみ出したとしても、はみ出した潤滑剤を回収し再び摺動面に付与できるようにしたので、長期にわたり潤滑剤による接続対象物排出時の減速を安定して行うことができる。
【0016】
また、本発明は、回収部に集められ誘導路を介して摺動面に供給される潤滑剤の一部を収容する収容部を、誘導路の回収部とは反対側の開口部側に有することに特徴を有する。
【0017】
これにより、本発明では回収部で回収され再度摺動面に供給される潤滑剤が過剰となった場合に余剰の潤滑剤を収容部に貯めることができ、回収される潤滑剤が不足した場合には収容部に貯められた潤滑剤が摺動面に供給されるので、減速に必要な潤滑剤を長期にわたり安定して供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スライド部材摺動部とハウジング摺動部に塗布された潤滑剤を挟んでハウジング摺動部にスライド部材摺動部を押し付けることで潤滑剤による減速効果が大きくなり、潤滑剤のみで接続対象物の排出速度を減速させることができるため、オイルダンパーやギアなどの減速機構が不要になり、減速機構を簡単に構成でき、カード用コネクタを小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの外観斜視図である。
【図2】上記実施の形態におけるカード用コネクタのカバーを省略した外観斜視図である。
【図3】上記実施の形態におけるカード用コネクタの構成を示す分解斜視図である。
【図4】上記実施の形態におけるカード用コネクタのスライド部材の部品前方右側よりの外観斜視図である。
【図5】上記実施の形態におけるカード用コネクタの、排出状態を示すカバーを省略した平面図である。
【図6】上記実施の形態におけるカード用コネクタにカードを挿入する途中の状態を示すカバーを省略した平面図である。
【図7】上記実施の形態におけるカード用コネクタの、スライド部材のロック状態を示すカバーを省略した平面図である。
【図8】上記実施の形態におけるカード用コネクタの、カードが排出される途中の状態を示すカバーを省略した平面図である。
【図9】本発明の実施の形態の変形例に係るカード用コネクタの、スライド部材の組み込み状態を示す製品後方よりの要部の外観分解斜視図である。
【図10】上記実施の形態の変形例におけるカード用コネクタのスライド部材の外観図であり、(a)はスライド部材の部品後方底面よりの外観斜視図、(b)は潤滑剤の供給状態を説明するスライド部材の摺動面付近の部品後方底面よりの要部の外観斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの装着対象のカードの外観斜視図であり、(a)は上面側の外観斜視図、(b)は底面側の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の実施の形態に係るカード用コネクタについて説明する前に、図11(a)および図11(b)を参考に、装着対象物となるカードについて説明する。図11の(a)はカード11の外観斜視図で、図11の(b)はカード11の底面側の外観斜視図である。
【0021】
カード11は記憶媒体として用いられるメモリーカードで、図11(a),(b)に示すように、平面視で略矩形状の板状の製品で、一方の長辺部に切り欠き部11aがあり、切り欠き部11aの後方には傾斜面11bが設けられおり、傾斜面11bの後方は直線に延出し奥側の端面につながる。
【0022】
本発明の実施例のカード用コネクタでは、切り欠き部11aおよび傾斜面11bのある長辺が右側になる方向が正しい挿入方向である。
【0023】
また、図11(b)に見える底面の奥側には、電気接続用の複数のパッド11cが設けられている。
【0024】
本発明の実施例のカード用コネクタでは、複数のパッド11cが奥側になる方向が正しい挿入方向である。
【0025】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態に係るカード用コネクタに装着される接続対象物は、いわゆるマイクロSDカードと呼ばれるメモリーカードであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、制御キーを通信機能や、各種制御装置として用いられる他の接続対象物を装着対象とする種々のカード用コネクタに適用することが可能である。
【0026】
まず、図1および図2を参考に、本発明の実施の形態に係るカード用コネクタの構成を説明する。
【0027】
図1はカード用コネクタの外観斜視図である。図1に示すように、カード用コネクタはハウジング1と、ハウジング1の上部に係合されるカバー3と、ハウジング1の底部に係合される下カバー4により外形が構成され、ハウジング1とカバー3により構成される挿入口部1bがカード11の挿入口となる。
想像線で示すカード11は、挿入口部1bに図中に示すカード挿入方向11dから挿入され、カード排出方向11eに向けて排出される。
【0028】
図2は説明のためにカバー3を省略した外観斜視図である。図2に示すように、挿入口部1bから見てハウジング1の右側の壁に近接してスライド部材2が挿入方向および排出方向に摺動可能に組み込まれており、スライド部材2の後端側にはスライド部材2を排出方向11eに向けて付勢する排出バネ5が組み込まれている。
【0029】
また、ハウジング1とスライド部材2にまたがるようにラッチピン6が組み込まれており、スライド部材2がロック位置に移動させられると、ラッチピン6は排出バネ5の付勢に抗してスライド部材2をロック位置に保持する。
【0030】
つぎに、図3を参考に各部品を説明する。図3はカード用コネクタの部品構成を示す分解斜視図である。
【0031】
ハウジング1は、成型材等で上方と前方が開口した箱状に形成され、基部の略中央部に複数の接続端子1eがインサート成型等にて組み込まれている。これらの複数の接続端子1eはハウジング1内で延出し、外部に露出し複数の外部端子1fとなる。カード11がロック位置まで挿入されると、複数の接続端子1eとカード11のパッド11cは電気的に接続する。
【0032】
ハウジング1の後方壁部にはカード検出スイッチ部1gが設けられている。
カード検出スイッチ部1gは、可動片側端子部1hと固定片側端子部1iと可動片側端子部1hに組み込まれた動作部1jから構成され、可動片側端子部1hと固定片側端子部1iはそれぞれ端部がハウジング1外に延出し、可動片側外部接続端子1kおよび固定片側外部接続端子1lとなる。
【0033】
カード11が挿入口部1bからハウジング1内に挿入されるとカード11の奥側の端部が動作部1jを奥側に移動させ可動片側端子部1hが弾性変形する。弾性変形した可動片側端子部1hが固定片側端子部1iと接触し、これにより可動片側端子部1hと固定片側端子部1iが短絡するので、可動片側外部接続端子1kと固定片側外部接続端子1lの導通状態を監視することにより、カード11が挿入されたことが検出できる。
【0034】
ハウジング1の右側壁の内側面はスライド部材2が当接するハウジング摺動部1aとなり、潤滑剤が塗布される。
【0035】
また、ハウジング摺動部1aにつながる内底面にスライドガイド部1cを有し、スライドガイド部1cの後方壁部には丸穴部1dを有する。スライドガイド部1cはスライド部材2を摺動可能に保持する溝部で、丸穴部1dはラッチピン6の他方側の端部を回動可能に保持する穴部である。
【0036】
カバー3はステンレス等の金属板を略矩形状に形成し、カード11の挿入口側の辺以外の3つの辺にそれぞれ組込用の複数の折り曲げ形状を有し、上面の右側後方部には板バネ部3aを有する。板バネ部3aはラッチピン6を下方に付勢する。
【0037】
スライド部材2は成形材等により略矩形に形成されており、カード排出方向11e側の端部の略中央部に、カード保持突出部2cが設けられ、カード保持突出部2cにつながるスライド部材2移動方向に平行な壁部の奥側に傾斜した受け面2bを有する。また、後方左側にはハートカム溝2dを有し、後方右側には排出バネ保持用突出部2eを有する。さらに右側面の略中央部にはスライド部材摺動部2aを有する(図4参照)。
【0038】
カード保持突出部2cは挿入されたカード11の切り欠き部11aと係合し、カード11が不用意にスライド部材2から離脱することを回避する。
【0039】
受け面2bはカード11の傾斜面11bと当接し、カード11の挿入時にはカード11の傾斜面11bが受け面2bを押し込み、カード11の排出時には受け面2bがカード11の傾斜面11bを押し出す。
【0040】
ハートカム溝2dは、閉じた環状に連続する溝形状で、ラッチピン6が溝内を一方向にのみ移動するように段差が溝内に形成されている。スライド部材2が挿入方向に移動するときにラッチピン6の一方端が通過する略直線状の挿入用溝経路2jとスライド部材2が排出方向に移動するときにラッチピン6の一方端が通過する一部が直線で中間位置から挿入用溝経路2j方向に向かい屈曲した排出用溝経路2kと、挿入用溝経路2jと排出用溝経路2kを接続する略Vの字形状のロック用溝経路2lを有し、ロック用溝経路2lの屈曲部はスライド部材2がロック状態となるときにラッチピン6を保持するロック壁部2mとなっている(図5参照)。
【0041】
排出バネ保持用突出部2eには排出バネ5が挿入される。
【0042】
排出バネ5はバネ用ステンレス鋼線等からなる圧縮バネで、ハウジング1の内壁とスライド部材2の排出バネ保持用突出部2eが設けられた壁部の間で圧縮されることとにより、スライド部材2を排出方向に付勢する。
【0043】
ラッチピン6はバネ用ステンレス鋼線等で、中間部が長い略コの字を伏せたような形状に形成されている。ラッチピン6の一端部はハートカム溝2dに移動可能に係合し、他端部はハウジング1の丸穴部1dに回転可能に保持されている。
【0044】
カバー3の板バネ部3aがラッチピン6をハートカム溝2dの底部に押し付けることにより、ラッチピン6の一端部がハートカム溝2dから抜け出ることを防止している。そして、ラッチピン6の一端部はスライド部材2が挿入方向に移動する場合と排出方向に移動する場合とでハートカム溝2dの異なる経路を通過する。また、スライド部材2がロック位置に来たときは、ラッチピン6の一端部はハートカム溝2dのロック用溝経路2lのロック壁部2mに当接し、排出バネ5の付勢に抗してスライド部材2をロック位置に保持する。
【0045】
下カバー4はステンレス等の金属板で略矩形状に形成され、カード11の挿入口側の辺以外の3つの辺にそれぞれ組込用の複数の折り曲げ形状を有する。
【0046】
つぎに、図5から図8を参考に、カード用コネクタにカード11を挿入、排出するときのロック機構の動作を説明する。なお、図5から図8では説明のためにカバー3を省略して表示している。
【0047】
図5はスライド部材2が排出位置にあるときのカード用コネクタである。排出位置では、スライド部材2は排出バネ5により排出方向に押され、ハウジング1の前方側の内壁に当接して停止している。このときラッチピン6の一端部は挿入用溝経路2jのロック用溝経路2lとは反対側の端部付近に位置している。
【0048】
図5に想像線で表示するカード11が挿入されると、最初にスライド部材2のカード保持突出部2cがカード11の傾斜面11bに当接する。
【0049】
更にカード11を奥に挿入すると、スライド部材2はカード保持突出部2cが傾斜面11bに押されてカード11から遠ざかる方向(図5の反時計方向)に回転し、カード保持突出部2cの頂部はカード11の傾斜面11bの端部を乗り越え、やがてカード保持突出部2cの頂部がカード11の切り欠き部11aに到達すると、スライド部材2はカード保持突出部2cがカード11に近づく方向(図5の時計方向)に回転し、カード保持突出部2cは切り欠き部11aに入りカード11はスライド部材2に保持される。
【0050】
カード11をさらに奥に挿入すると、スライド部材2の受け面2bとカード11の傾斜面11bが当接し、以降は受け面2bと傾斜面11bが当接したまま、スライド部材2はカード11に押されて挿入方向に移動する。
【0051】
図6はカード11が挿入されスライド部材2が挿入方向に移動している途中状態を示す平面図である。カード11が挿入されるとスライド部材2は挿入方向に移動し、ラッチピン6の一端部は挿入用溝経路2jをロック用溝経路2l側に移動する。
【0052】
カード11を最も奥まで挿入するとスライド部材2も最も奥まで移動し、ラッチピン6の一端部は挿入用溝経路2jのロック用溝経路2l側の最端部まで移動し、ハウジング1に設けた図示しないストッパと当接するとスライド部材2は移動できなくなる。
【0053】
そののち挿入力を除去すると、スライド部材2は排出バネ5の付勢により排出方向に移動するが、ラッチピン6の一端部は挿入用溝経路2jをロック用溝経路2l側にわずかに移動した後、挿入用溝経路2jとロック用溝経路2lの溝底部の高さの違いによりロック用溝経路2lに浸入し、ロック用溝経路2lをロック壁部2m方向に移動し、図7に示すように、ラッチピン6の一端部がロック用溝経路2lのロック壁部2mに当接して停止する。
【0054】
スライド部材2は排出バネ5により排出方向に付勢されているため、ラッチピン6の一端部はロック壁部2mに保持されたままとなり、ラッチピン6がスライド部材2の排出方向への移動を阻止するので、スライド部材2はロック状態となる。
【0055】
スライド部材2がロック状態となったのちに、再度カード11をわずかに挿入するとスライド部材2も挿入方向に移動するが、ロック壁部2m付近のロック用溝経路2lの溝底部にはラッチピン6の一端部が一方向にしか移動できないように段差を設けてあるため、ラッチピン6の一端部はハートカム溝2dのロック用溝経路2lを排出用溝経路2k方向に移動し、遂には排出用溝経路2kに移動する。
【0056】
カード11をさらに奥に挿入するとラッチピン6の一端部は排出用溝経路2kのロック用溝経路2l側の最端部まで移動し、ラッチピン6の一端部が排出用溝経路2kの最端部と当接するとスライド部材2は移動できなくなる。
【0057】
そののち挿入力を除去するとスライド部材2は排出バネ5の付勢により排出方向に移動し、ラッチピン6の一端部は排出用溝経路2kをロック用溝経路2l側に移動するが、ロック用溝経路2lと挿入用溝経路2jの溝底部の高さの違いによりロック用溝経路2lには戻らず、図8に示すように、排出用溝経路2kを移動する。
【0058】
排出用溝経路2kは直線部ののち中間位置から屈曲して挿入用溝経路2jとつながっているため、スライド部材2は排出バネ5の付勢により排出方向に移動し、ラッチピン6の一端部は排出用溝経路2kから挿入用溝経路2jのロック用溝経路2lとは反対側の端部付近まで移動可能する。なお、挿入用溝経路2jと排出用溝経路2kの溝底部の高さの違いにより、排出用溝経路2kから挿入用溝経路2jに移動したラッチピン6の一端部は排出用溝経路2kには戻らない。
【0059】
以上のように、本発明の実施の形態のロック機構ではカード11を繰り返し挿入することにより、カード11を挿入、排出できるため、排出操作のための操作部を設ける必要がなく、カードコネクタの小型化が可能である。
【0060】
引きつづき、図8を参考にカード11を挿入、排出するときの摺動部の挙動を説明する。
【0061】
カード11を挿入すると、カード11の傾斜面11bがスライド部材2の受け面2bと当接しスライド部材2は挿入方向に移動させられる。このときスライド部材2を押し込む力は受け面2bに垂直な力であるため、挿入方向に平行な方向の分力がスライド部材2を挿入方向に移動させ、挿入方向に垂直な方向の分力はスライド部材2をカード11から遠ざかる方向に移動させる。
【0062】
この挿入方向に垂直な方向の分力によりスライド部材2のスライド部材摺動部2aはハウジング1のハウジング摺動部1aに押し付けられる。
【0063】
カード11の排出時には排出バネ5がスライド部材2を排出方向に付勢し、この付勢力によりスライド部材2の受け面2bがカード11の傾斜面11bを押し出す。
【0064】
スライド部材2の受け面2bがカード11の傾斜面11bを押す力は傾斜面11bに垂直な力であるため、排出方向に平行な方向の分力がカード11を排出方向に移動させるが、排出方向に垂直な方向の分力はカード11をスライド部材2から遠ざかる方向に移動させる。
【0065】
しかしカード11の左側端面は、すぐにハウジング1の左側内壁に当接しそれ以上にはスライド部材2から遠ざかる方向に移動できなくなるため、カード11の左側端面がハウジング1の左側内壁に当接した後は、スライド部材2がカード11から遠ざかる方向に移動し、スライド部材2のスライド部材摺動部2aはハウジング1のハウジング摺動部1aに押し付けられながら移動する。
【0066】
これにより、本発明の実施の形態では、カード11の挿入時および排出時のいずれの場合にも、スライド部材2はスライド部材摺動部2aがハウジング摺動部1aに押し付けられながら移動する。
【0067】
以上により、本発明の実施の形態ではカード11の挿入時および排出時ともにスライド部材2は、スライド部材摺動部2aがハウジング1のハウジング摺動部1aに押し付けられながら移動する。
【0068】
スライド部材摺動部2aとハウジング摺動部1aの摺動面には潤滑剤が塗布されているが、スライド部材摺動部2aがハウジング摺動部1aに押し付けられながら移動するため、摺動面に塗布された潤滑剤の一部がスライド部材摺動部2aにより掻き取られる。スライド部材2のスライド部材摺動部2aが移動しながら塗布された潤滑剤が掻き取られるときには、潤滑剤の粘性によりスライド部材2の移動抵抗が生じる。
【0069】
また掻き取られた潤滑剤はスライド部材摺動部2aの縁部に堆積するが、スライド部材摺動部2aの縁部に堆積した潤滑剤はカード11の挿入時および排出時にスライド部材2とともに移動するので、潤滑剤の粘性抵抗によりスライド部材2の移動抵抗が生じる。
【0070】
以上により、本発明の実施の形態ではカード11の挿入時および排出時ともにスライド部材2は、スライド部材摺動部2aがハウジング1のハウジング摺動部1aに押し付けられながら移動することにより、スライド部材2とハウジング1の摺動面に塗布してある潤滑剤の粘性抵抗により、スライド部材2の移動抵抗が生じ、カード11の排出速度を減速できる。
【0071】
なお、本発明の実施の形態では摺動面をスライド部材2の側壁部とハウジング1の側壁の内壁部としたが、例えば、摺動面をスライド部材2の底面とハウジング1の内底面としても、スライド部材2の受け面2bの傾斜を適切に設定することにより、同様な効果を得ることとができる。または、専用の摺動面をスライド部材2およびハウジング1に個別に設けても同様な効果が得られる。
【0072】
つぎに、本発明の実施の形態における潤滑剤の回収と供給に係る構造を、図9から図10を参照して説明する。
【0073】
図9は本発明の実施の形態におけるスライド部材2の組み込み状態を示す、製品後部上方より見た分解斜視図である。
【0074】
図9に示すように、スライド部材2はハウジング1のスライドガイド部1cに、スライド部材摺動部2aがハウジング摺動部1aに当接する方向で組み込まれ、カード11の挿入,排出時にはスライド部材2のスライド部材摺動部2aがハウジング1のハウジング摺動部1aに押し付けられながら移動する。
【0075】
図10(a)は本発明の実施の形態におけるスライド部材2を製品後部下方側より見た外観斜視図である。
【0076】
本発明の実施の形態では、スライド部材2のスライド部材摺動部2aの近傍の垂直面の一部に開口部を設け潤滑剤の回収部2fとし、回収部2fの開口部をスライド部材2内部にて延伸し、摺動面に設けた開口部に接続する誘導路2gとする。また誘導路2gの開口部に連続して潤滑剤の収容部2hを設ける。
【0077】
回収部2fはカード11の挿入および排出に伴うスライド部材2の移動により摺動面からはみ出した潤滑剤を誘導路2gに取り込むための開口部である。誘導路2gは回収部2fに取り込まれた潤滑剤をスライド部材摺動部2aに流す溝部である。また、収容部2hは回収部2fに取り込まれた潤滑剤が過剰となった場合に、過剰な潤滑剤を一時的に保持する窪み部である。
【0078】
図10(b)は潤滑剤の回収,供給状態を説明する、図10(a)に示すスライド部材2の潤滑剤の回収部2f近傍の拡大図である。
【0079】
スライド部材2が挿入方向に移動させられると、摺動面に塗布された潤滑剤はスライド部材2のスライド部材摺動部2aにより掻き取られ、スライド部材摺動部2aの縁部に潤滑剤が堆積する。
【0080】
スライド部材摺動部2aの縁部に堆積した潤滑剤は、スライド部材摺動部2aと隣接する面および隣接する面につながる垂直面に堆積して増加するが、やがて排出バネ保持用突出部2eの根元部にそって回収部2fの開口部付近に到達する。
【0081】
回収部2fの開口部付近に到達した潤滑剤の一部はスライド部材2の挿入方向への移動により誘導路2gに入るが、誘導路2gの底面部は開口しハウジング1のスライドガイド部1cと対向しているため、スライド部材2がスライドガイド部1c上を移動すると誘導路2gの底面の開口部に達した潤滑剤はスライドガイド部1cに引っ張られ、図10(b)に矢印で示す潤滑剤の流れ2iのように、潤滑剤は誘導路2g中を収容部2hの方向に向かって移動する。
【0082】
誘導路2gの開口部に達した潤滑剤はスライド部材摺動部2aに当接するハウジング1のハウジング摺動部1aに供給され、同時に余剰の潤滑剤は収容部2hに収容される。
【0083】
収容部2hに収容された余剰の潤滑剤は、回収部2fからの潤滑剤の回収量が少ないと、余剰の潤滑剤が収容部2hからハウジング摺動部1aに供給される。
【0084】
スライド部材2が排出方向に移動するときは、スライド部材2が挿入方向に移動したときにハウジング1のハウジング摺動部1aに供給された潤滑剤の粘性抵抗により移動速度が減速される。このとき潤滑剤はスライド部材2のスライド部材摺動部2aにより掻き取られスライド部材摺動部2aの縁部に堆積するが、次にスライド部材2が挿入方向へ移動されたときに再び回収部2fに回収される。
【0085】
以上により本発明の実施の形態では、カード11を挿入,排出する都度、スライド部材2の移動により潤滑剤が回収,供給されるため、排出時の減速に必要な潤滑剤を継続的に供給することができる。
【0086】
なお、本発明の実施の形態では誘導路の開口部に連続して収容部を設けたが、収容部を誘導路の途中に設けることも可能である。また、誘導路を大きくして収容部を省略することとも可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 ハウジング
1a ハウジング摺動部
1b 挿入口部
1c スライドガイド部
1d 丸穴部
1e 接続端子
1f 外部端子
1g カード検出スイッチ部
1h 可動片側端子部
1i 固定片側端子部
1j 動作部
1k 可動片側外部端子
1l 固定片側外部端子
2 スライド部材
2a スライド部材摺動部
2b 受け面
2c カード保持突出部
2d ハートカム溝(ロック機構)
2e 排出バネ保持突出部
2f 回収部
2g 誘導路
2h 収容部
2i 潤滑剤の流れ
2j 挿入用溝経路
2k 排出用溝経路
2l ロック用溝経路
2m ロック壁部
3 カバー
3a 板バネ部
4 下カバー
5 排出バネ(付勢部材)
6 ラッチピン(ロック機構)
11 カード(接続対象物)
11a 切り欠き部
11b 傾斜面
11c パッド
11d カード挿入方向
11e カード排出方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続対象物を収容するハウジングと、
前記ハウジングに前記接続対象物を装着する方向と前記ハウジングから前記接続対象物を排出する方向とに移動可能なスライド部材と、
前記スライド部材を前記排出方向に付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力に抗して前記スライド部材を接続対象物装着位置に選択的に保持するロック機構と
を有するカード用コネクタにおいて、
前記ハウジングは、前記スライド部材の移動をガイドするハウジング摺動部を有し、
前記スライド部材は、前記ハウジング摺動部に摺接するスライド部材摺動部を有し、
前記ハウジング摺動部と前記スライド部材摺動部との摺動面に潤滑剤が付与されており、
前記スライド部材摺動部は前記ハウジング摺動部に押し付けられていることを特徴とするカード用コネクタ。
【請求項2】
前記スライド部材は前記接続対象物と摺接する受け面を有し、当該受け面は前記スライド部材が移動する際に前記スライド部材摺動部が前記ハウジング摺動部に押し付けられる方向の力を生じるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のカード用コネクタ。
【請求項3】
前記ハウジング摺動部と前記スライド部材摺動部の摺動によって前記摺動面からはみ出した潤滑剤を集める回収部と、前記回収部に集めた潤滑剤を再び前記摺動面に戻す誘導路からなる潤滑剤の付与機構とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のカード用コネクタ。
【請求項4】
前記回収部に集められ前記誘導路を介して前記摺動面に供給される前記潤滑剤の一部を収容する収容部を、前記誘導路の前記回収部とは反対側の開口部側に有することを特徴とする請求項3に記載のカード用コネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−164503(P2012−164503A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23484(P2011−23484)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】