説明

カード用コネクタ

【課題】差動信号が伝送される一対のコンタクト端子の長さが異なる場合においても、データ伝送速度を高速化すること。
【解決手段】メモリカード(5)を収容可能な収容部と、メモリカード(5)の電極との間で差動信号を伝送するための一対のコンタクト端子とを有する樹脂製のハウジング(2)を備えたカード用コネクタであって、一対のコンタクト端子は、半田付け部からメモリカードの電極との接触部までの線路長が異なっており、ハウジング(2)には、一対のコンタクト端子間の線路長の差分に応じて一方のコンタクト端子の周囲に配置された樹脂量を調整する凹部(201d)が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード用コネクタに関し、特に、一対の信号線を用いてデータを伝送する差動伝送方式が適用されるカード用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータや携帯電話機等の電子機器においては、各種のメモリカードを利用するためにカード用コネクタを搭載するものが知られている。このようなカード用コネクタにおいては、近年、メモリカードにおける記憶容量の増加に伴い、電子機器との間のデータ伝送の高速化に対応すべく差動伝送方式を採用するものが提案されている。
【0003】
差動伝送方式では、1本の信号線を用いてデータを伝送するシングルエンド伝送方式と異なり、1対の信号線を用いてデータを伝送する。差動伝送方式は、シングルエンド伝送方式と比べて、信号振幅を小さくできる分、データ伝送速度を高速化できる。例えば、シングルエンド伝送方式では、0Vを「0」とし、2.5Vを「1」とした場合に0Vから2.5Vまで遷移させる必要がある。これに対して、差動伝送方式では、2.1Vを「0」とし、2.5Vを「1」とすれば、遷移に必要な電位差が0.4Vで済む。振幅(電位差)が小さい分だけ、「0」から「1」への切り替えに要する時間を短縮できるので、信号周波数の高速化が可能となる。
【0004】
差動伝送方式を採用するカード用コネクタでは、コネクタにおける特性インピーダンスを整合すべく、一対の信号線を構成するコンタクト端子における特性インピーダンスを調整する必要がある。このような要請に対応すべく、例えば、グランド板を備え、このグランド板と一対のコンタクト端子との間隔を調整することでコンタクト端子の特性インピーダンスを調整し、カード用コネクタにおける特性インピーダンスを整合するカード用コネクタが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−129173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、差動伝送方式のカード用コネクタでは、2本のコンタクト端子に伝送される信号(以下、「差動信号」という)間の電圧差を利用する。このため、一方の差動信号に対して他方の差動信号に信号伝送遅延が発生すると、差動信号間の電圧差を精度良く検出することが困難となる。この場合、差動信号間の電圧差の誤検出に伴い、伝送誤り率が高まるため、データ伝送速度の高速化が困難となる。
【0007】
一方、カード用コネクタは、搭載される電子機器の小型化に伴って小型化及び薄型化が要請される。このため、コンタクト端子を配置する領域が極めて制限される。また、コンタクト端子において、電子機器と電気的に接続される接続部(例えば、半田付け部)の位置は、搭載される電子機器の仕様に依存する。このため、カード用コネクタのコンタクト端子においては、接続部からメモリカードの電極と接触する接触部までの線路長(長さ)が異なる場合が想定される。
【0008】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、差動信号が伝送される一対のコンタクト端子の長さが異なる場合においても、データ伝送速度を高速化できるカード用コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカード用コネクタは、カードを収容可能な収容部と、前記カードの電極との間で差動信号を伝送するための一対のコンタクト端子とを有する樹脂製のハウジングを備えたカード用コネクタであって、前記一対のコンタクト端子は、半田付け部から前記カードの電極との接触部までの線路長が異なっており、前記ハウジングには、前記一対のコンタクト端子間の線路長の差分に応じて一方のコンタクト端子の周囲に配置された樹脂量を調整する凹部が形成されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ハウジングに、一対のコンタクト端子間の線路長の差分に応じて、一方のコンタクト端子の周囲に配置された樹脂量を調整する凹部が形成されることから、一方のコンタクト端子の周囲に配置された物質の誘電率を小さくでき、そのコンタクト端子の信号伝送速度を速めることができるので、一対のコンタクト端子間の信号伝送遅延差を低減できる。この結果、一対のコンタクト端子の長さが異なる場合においても、信号伝送の誤り率を低減でき、データ伝送速度を高速化できる。
【0011】
例えば、上記カード用コネクタにおいて、前記凹部は、前記一対のコンタクト端子間の線路長の差分の所定倍の長さに相当する樹脂量を調整することが考えられる。この場合には、一対のコンタクト端子の長さが異なる場合においても、両者のコンタクト端子の線路長の差分を基準として一方のコンタクト端子の信号伝送速度を適度に調整できる。
【0012】
特に、上記カード用コネクタにおいて、前記凹部は、前記一対のコンタクト端子のうち線路長が長い一方のコンタクト端子の周囲に形成されることが好ましい。この場合には、線路長が長い一方のコンタクト端子の周囲のみに凹部が形成されることから、信号伝送遅延が発生し易い一方のコンタクト端子における信号伝送速度の遅延を確実に低減できる。
【0013】
例えば、上記カード用コネクタにおいて、前記凹部は、板状に構成される前記一方のコンタクト端子の板面上に形成される。この場合には、板状に構成される一方のコンタクト端子のうち、最も表面積が大きい板面上に凹部が形成されることから、効果的に一方のコンタクト端子の周囲に配置される物質の誘電率を調整することができる。
【0014】
また、上記カード用コネクタにおいて、前記凹部は、前記一方のコンタクト端子に沿って不連続に形成される。一方のコンタクト端子に沿って凹部を連続して形成すると、このコンタクト端子における特性インピーダンスが局部的に大きくなる事態が発生し得る。一方のコンタクト端子に沿って不連続に凹部を形成することにより、このコンタクト端子における特性インピーダンスの変化を小さくすることができる。
【0015】
さらに、上記カード用コネクタにおいて、前記凹部は、前記一方のコンタクト端子の板面の一部を露出させるように形成される。この場合には、ハウジングに対する一方のコンタクト端子のインサート成形工程で凹部を形成できるので、容易に凹部を形成することができる。
【0016】
例えば、上記カード用コネクタにおいては、前記凹部が形成される長さ寸法を、前記凹部の内底部と前記一方のコンタクト端子の板面との間の樹脂の厚さ寸法に反比例して変化させることが考えられる。この場合には、凹部の内底部と一方のコンタクト端子の板面との間の樹脂の厚さ寸法に応じて柔軟に凹部の長さ寸法を変化させることができるので、各種のカード用コネクタに最適な寸法で凹部を形成しつつ、一対のコンタクト端子間の信号伝送遅延差を低減できる。
【0017】
また、上記カード用コネクタにおいては、前記凹部が形成される長さ寸法を、前記一方のコンタクト端子の板面の幅方向に沿った前記凹部の寸法に反比例して変化させるようにしてもよい。この場合には、一方のコンタクト端子の板面の幅方向に沿った凹部の寸法に応じて柔軟に凹部の長さ寸法を変化させることができるので、各種のカード用コネクタに最適な寸法で凹部を形成しつつ、一対のコンタクト端子間の信号伝送遅延差を低減できる。
【0018】
さらに、上記カード用コネクタにおいては、前記凹部が形成される長さを、前記凹部が形成される樹脂の誘電率の大きさに反比例して変化させるようにしてもよい。この場合には、凹部が形成される樹脂の誘電率の大きさに応じて柔軟に凹部の長さ寸法を変化させることができるので、各種のカード用コネクタに最適な寸法で凹部を形成しつつ、一対のコンタクト端子間の信号伝送遅延差を低減できる。
【0019】
さらに、上記カード用コネクタにおいては、前記凹部が形成される長さを、前記一方のコンタクト端子の厚さ方向の寸法に反比例して変化させるようにしてもよい。この場合には、一方のコンタクト端子の厚さ方向の寸法に応じて柔軟に凹部の長さ寸法を変化させることができるので、各種のカード用コネクタに最適な寸法で凹部を形成しつつ、一対のコンタクト端子間の信号伝送遅延差を低減できる。
【0020】
さらに、上記カード用コネクタにおいては、前記一方のコンタクト端子よりも前記一対のコンタクト端子のうち線路長が短く板状に構成される他方のコンタクト端子の幅方向の寸法を小さくすることが考えられる。この場合には、他方のコンタクト端子におけるインダクタンスを大きくでき、その特性インピーダンスを大きくできるので、凹部の形成に伴って一方のコンタクト端子における特性インピーダンスが大きくなる場合においても、一対のコンタクト端子間の特性インピーダンスを近似値に設定できる。
【0021】
また、上記カード用コネクタにおいて、前記一方のコンタクト端子よりも前記一対のコンタクト端子のうち線路長が短く板状に構成される他方のコンタクト端子の厚さ方向の寸法を小さくするようにしてもよい。この場合には、他方のコンタクト端子におけるインダクタンスを大きくでき、その特性インピーダンスを大きくできるので、凹部の形成に伴って一方のコンタクト端子における特性インピーダンスが大きくなる場合においても、一対のコンタクト端子間の特性インピーダンスを近似値に設定できる。
【0022】
上記カード用コネクタにおいて、前記凹部は、前記一対のコンタクト端子のうち線路長が長い一方のコンタクト端子の周囲において、前記一対のコンタクト端子間の線路長の差分の所定倍の長さに相当する樹脂量を調整するように、前記一対のコンタクト端子の双方のコンタクト端子の周囲に形成されるようにしてもよい。この場合には、線路長が長い一方のコンタクト端子の周囲において、一対のコンタクト端子間の線路長の差分の所定倍の長さに相当する樹脂量を調整するように、双方のコンタクト端子の周囲に凹部が形成されることから、一対のコンタクト端子間の信号伝送遅延差を低減しながら、双方のコンタクト端子の信号伝送速度を速めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、差動信号が伝送される一対のコンタクト端子の長さが異なる場合においても、データ伝送速度を高速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態に係るカード用コネクタの外観を示す斜視図である。
【図2】上記実施の形態に係るカード用コネクタが有するハウジングの上面図である。
【図3】上記実施の形態に係るカード用コネクタが有するハウジングの下面図である。
【図4】上記実施の形態に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。
【図5】上記実施の形態に係るカード用コネクタが有する差動端子の特性インピーダンス及び信号電圧の遷移の説明図である。
【図6】第1の参照例に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。
【図7】図6に示すカード用コネクタが有する一対の差動端子の特性インピーダンス及び信号電圧の遷移の説明図である。
【図8】第2及び他の参照例に係るカード用コネクタが有する一対の差動端子の特性インピーダンス及び信号電圧の遷移の説明図である。
【図9】上記実施の形態の第1の変形例に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。
【図10】第1の変形例に係るカード用コネクタが有する一対の差動端子の特性インピーダンス及び信号電圧の遷移の説明図である。
【図11】上記実施の形態の第2の変形例に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。
【図12】上記実施の形態の第3の変形例に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。
【図13】上記実施の形態の第4の変形例に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。
【図14】上記実施の形態の第5の変形例に係るカード用コネクタの外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態に係るカード用コネクタ(以下、単に「コネクタ」という)は、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant:個人用携帯情報端末)、デジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽プレーヤ、ゲーム機、車両用ナビゲーション装置等の電子機器に搭載されるものであり、メモリカードを装着可能とするものである。特に、本実施の形態に係るコネクタは、メモリカードとの間でデータ伝送を行う際に差動伝送方式を採用する。
【0026】
本実施の形態に係るコネクタに装着されるメモリカードとしては、例えば、SIM(Subscriber Identity Module)カード、MMC(Multi Media Card)(R)、SD(Secure Digital)(R)カード、miniSD(R)カード、xDピクチャーカード(xD−Picture card)(R)、メモリスティック(R)、メモリスティックDuo(R)、スマートメディア(R)、Trans−Flashメモリカード、マイクロSD(R)カード等が該当するが、これらに限定されるものではない。
【0027】
以下においては、本発明に係るコネクタが、電極が配置された面(以下、「電極面」という)を上方側に配置した状態でメモリカードが装着されるリバースタイプのコネクタで構成される場合について説明する。また、以下においては、本発明に係るコネクタが、挿入方向に沿って2列に配置された電極を有するメモリカードを装着可能とするコネクタで構成される場合について説明する。しかしながら、本発明が適用されるコネクタについては、これに限定されるものではなく、1列に配置された電極を有するメモリカードを装着可能とするコネクタで構成することも可能である。
【0028】
図1は、本実施の形態に係るコネクタ1の外観を示す斜視図である。なお、図1においては、説明の便宜上、コネクタ1に装着されるメモリカードも示している。以下においては、適宜、図1に示す紙面上方側を「コネクタ1の前方側」又は単に「前方側」と呼び、同図に示す紙面下方側を「コネクタ1の後方側」又は単に「後方側」と呼ぶものとする。また、図1に示す紙面右方側を「コネクタ1の右方側」又は単に「右方側」と呼び、同図に示す紙面左方側を「コネクタ1の左方側」又は単に「左方側」と呼ぶものとする。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態に係るコネクタ1は、合成樹脂材料などの絶縁材料を成型して形成されるハウジング2と、このハウジング2に被せられる金属製のカバー部材3とを備えている。ハウジング2は、概して偏平な直方体形状を有しており、その下方側及び後方側に開口している。電子機器が有する基板に実装されることで、ハウジング2は、後方側にのみ開口した形状となり、この開口部でカード挿入口4が構成される。ハウジング2には、メモリカード5に設けられた複数の電極と接続可能に複数のコンタクト端子が設けられている。なお、ハウジング2の構成については後述する。
【0030】
カバー部材3は、金属板材に打ち抜き加工及び折り曲げ加工を施すことで、ハウジング2の上面及び側面の略全面を覆う形状に構成される。カバー部材3の上面の所定位置には、複数の開口部301〜303が形成されている。開口部301、302は、それぞれ後述する第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203に対応する位置に形成されている。これらの開口部301、302により、メモリカード5の挿入に伴う第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203の退避領域が構成される。開口部303は、後述する係止部材8に対応する位置に形成されている。この開口部303により係止部材8を収容する空間が構成される。カバー部材3は、電子機器の基板に実装されたハウジング2に被せられた状態で固定される。基板に固定された状態において、カバー部材3の一部が電子機器のグランドに接続される。
【0031】
メモリカード5は、このカード挿入口4の内側に配置される収容部内に装着される。メモリカード5は、電極面を上方側に配置した状態で収容部内に装着される。メモリカード5の電極面には、挿入方向前方側に配列された第1電極501と、挿入方向後方側に配列された第2電極502とが設けられている。メモリカード5の挿入方向前方側の左方側端部には、切り欠き部503が設けられている。また、メモリカード5の側方側には、リブ状部504が設けられている。左方側のリブ状部504の中央近傍には、矩形状の切り欠き部504aが設けられている。一方、右方側のリブ状部504の中央近傍には、メモリカード5への書き込みを許容又は制限するスイッチ504bが設けられている。
【0032】
図2及び図3は、それぞれ本実施の形態に係るコネクタ1が有するハウジング2の上面図及び下面図である。図2に示すように、ハウジング2の上面部201の中央近傍には、矩形状の開口部201aが形成されている。この開口部201aの前方側には、左右方向に配列された複数の開口部201bが形成されている。上面部201の後端部近傍であって左方側端部には、開口部201cが形成されている。開口部201a、201bは、それぞれカバー部材3の開口部302、301に対応する位置に配置され、開口部201cは、カバー部材3の開口部303に対応する位置に配置される。また、開口部201aの後方側には、特定のコンタクト端子(後述する第2コンタクト端子203)に沿って凹部201dが形成されている。なお、この凹部201dの配置については後述する。
【0033】
ハウジング2には、複数のコンタクト端子(第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203)がインサート成形されている。第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203は、導電性の金属板材に打ち抜き加工及び折り曲げ加工を施すことで形成される。これらの第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203は、ハウジング2の上面部201、前面部及び側面部の一部にインサート成形される。
【0034】
第1コンタクト端子202は、電子機器と電気的に接続される半田付け部202aを構成する一端部がハウジング2の前面部から前方側に突出すると共に、メモリカード5の第1電極501に接離する接触部202bが設けられた他端部が開口部201bから露出するようにハウジング2に配置される。第1コンタクト端子202の他端部は、開口部201bを規定する後面から前方側であって僅かに下方側(図2に示す紙面奥側)に延出している。接触部202bは、この他端部の前端部近傍に設けられている。第1コンタクト端子202の両端部を連結する連結部202cは、開口部201bの後方側から前方側に引き回されている。なお、この連結部202cは、その内側面がハウジング2の上面部201及び前面部から内側に露出するように配置されている。半田付け部202aは、ハウジング2の前面部の下端部から前方側に突出している。
【0035】
第2コンタクト端子203は、半田付け部203aを構成する一端部がハウジング2の側面部から側方側に突出すると共に、メモリカード5の第2電極502に接離する接触部203bが設けられた他端部が開口部201aから露出するようにハウジング2にインサート成形される。また、第2コンタクト端子203の他端部は、開口部201aを規定する後面から前方側であって僅かに下方側(図2に示す紙面奥側)に延出している。接触部203bは、この他端部の前端部近傍に設けられている。第2コンタクト端子203の両端部を連結する連結部203cは、開口部201aの後方側から屈曲して側方側に引き回されている。なお、この連結部203cは、その内側面がハウジング2の上面部201及び側面部から内側に露出するように配置されている。連結部203cの上面の一部は、凹部201dから露出している。半田付け部203aは、ハウジング2の側面部の下端部から側方側に突出している。なお、第2コンタクト端子203の詳細な構成については後述する。
【0036】
図3に示すように、ハウジング2の下方側にはスライダ6が配設されている。スライダ6は、ハウジング2内の収容部に挿入されたメモリカード5と一緒に前後移動し、メモリカード5を所定の装着位置と排出位置との間で案内する。スライダ6は、例えば、絶縁性の樹脂材料で成形され、前後方向に延在する基部601と、この基部601の前端部で右方側に延出した係合部602とを有する。基部601は、ハウジング2の左方側端部に配置され、前方側に配置されたコイルばね7の付勢力を受ける。なお、コイルばね7は、前端部がハウジング2の前面部に設けられた軸部204に係止され、後端部が基部601の前端部に押し付けられている。
【0037】
係合部602は、ハウジング2の内側であって、メモリカード5の移動経路上に延出している。係合部602の後面には、メモリカード5の切り欠き部503に対応する傾斜面602aが形成され、所定位置まで挿入されたメモリカード5の前端部と係合する。また、基部601の下面には、前後方向に延在する板ばね603が保持されている。板ばね603の後端部近傍には、ハウジング2の内側に突出する突出部603aが設けられている。突出部603aは、所定位置まで挿入されたメモリカード5の切り欠き部504aに入り込む位置に配置されている。
【0038】
基部601の上面には、ハートカム604と、このハートカムを囲むようにカム溝605が形成されている。このカム溝605には、係止部材8の前端部が係合する。係止部材8は、金属製又は絶縁性樹脂製の棒状部材で構成され、その両端部で下方側に屈曲した形状を有する。係止部材8は、前端部をカム溝605に係合させると共に、後端部をハウジング2の後端部近傍に形成された穴部205に回動可能に挿入された状態で開口部201c内に配置される。カム溝605は、メモリカード5の挿入動作に伴い、コイルばね7の付勢力に抗してハウジング2内の収容部の装着位置に固定する一方、コイルばね7の付勢力に応じてメモリカード5を排出位置まで案内する。
【0039】
ハウジング2の右方側端部であって、前端部近傍には、収容部内の所定の装着位置に対するメモリカード5の装着状態を検出する検出スイッチ9が配設されている。検出スイッチ9は、メモリカード5の前端部と当接して揺動する揺動部を備える。この揺動部には、可動接点が設けられている。メモリカード5の挿入に伴う揺動部の揺動に応じて可動接点がハウジング2に設けられた固定接点と接離して導通状態が切り替わることで、メモリカード5の装着を検知可能に構成されている。
【0040】
このような構成を有し、メモリカード5がハウジング2の収容部内の所定位置に装着されると、第1コンタクト端子202の接触部202bが第1電極501と接触し、第2コンタクト端子203の接触部203bが第2電極502に接触する。これにより、コネクタ1を搭載する電子機器と、メモリカード5との間で情報伝送が可能となる。本実施の形態に係るコネクタ1において、第2コンタクト端子203を介した情報伝送には、差動伝送方式により行われる。
【0041】
次に、本実施の形態に係るコネクタ1が有する第2コンタクト端子203の構成と、この第2コンタクト端子203周辺に形成される凹部201dの配置について説明する。図4は、本実施の形態に係るコネクタ1が有する第2コンタクト端子203周辺を拡大した上面図である。なお、図4においては、説明の便宜上、ハウジング2内に配置される第2コンタクト端子203の一部を破線にて示している。また、図4においては、ハウジング2の右方側に配置される4本の第2コンタクト端子203のみを示している。左方側に配置される4本のコンタクト端子203は、ハウジング2の中心線を基準として線対称に配置される点を除き、右方側に配置される第2コンタクト端子203と同様の構成を有する。
【0042】
図4に示す4本の第2コンタクト端子203のうち、内側に配置される2本の第2コンタクト端子203は、差動信号が伝送されるコンタクト端子(以下、適宜「差動端子」という)206を構成する。一方、4本の第2コンタクト端子203のうち、外側に配置される2本の第2コンタクト端子203は、電子機器のグランドに接続されるコンタクト端子(以下、適宜「グランド端子」という)207を構成する。
【0043】
差動端子206及びグランド端子207は、それぞれハウジング2の内側に配置された一方側の差動端子206a、グランド端子207aの方が外側に配置された他方側の差動端子206b、グランド端子207bよりも長く構成されている。すなわち、差動端子206においては、半田付け部203aと接触部203bとの間の線路長が、差動端子206bよりも差動端子206aの方が長い。同様に、グランド端子207においても、半田付け部203aと接触部203bとの間の線路長が、グランド端子207bよりもグランド端子207aの方が長い。
【0044】
凹部201dは、差動端子206の周囲に配置された樹脂量を調整する凹部として機能するものであり、差動端子206aと差動端子206bとの線路長の差分に起因する、差動端子206a、206bの間の信号伝送遅延差を調整(低減)するために形成される。具体的には、差動端子206bを伝送される差動信号を基準として、差動端子206bよりも線路長の長い差動端子206aを伝送される差動信号の信号伝送遅延を低減するために形成されている。
【0045】
凹部201dは、ハウジング2の内側に配置される差動端子206aに沿って形成されている。凹部201dの長さ方向の寸法が、差動端子206aと差動端子206bとの線路長の差分の所定倍(例えば、4〜5倍)に設定されている。また、凹部201dは、ハウジング2の上面に不連続に形成されている。特に、凹部201dは、ハウジング2の上面から差動端子206aの上面を露出するように形成されている。
【0046】
ここで、凹部201dを形成することで差動端子206a、206bの間の信号伝送遅延差が調整される仕組みについて説明する。差動端子206を伝送される差動信号の伝送速度は、差動端子206の周囲に配置された物質の誘電率の影響を受ける。具体的には、差動端子206の周囲に配置される物質の誘電率を「ε」とし、光の伝搬速度を「c」とすると、差動端子206を伝送される信号の伝送速度「v」は、以下の(式1)で求められる。
(式1)

【0047】
(式1)から分かるように、差動端子206の信号伝送速度vは、差動端子206の周囲に配置された物質の誘電率εが大きくなるほど遅くなる。凹部201dを形成することで、差動端子206aの一部を空気に触れさせることができる。ハウジング2を構成する樹脂の誘電率εは、空気の誘電率εよりも大きい。このため、凹部201dを形成することにより、凹部201dに対応する領域の差動端子206aにおける信号伝送速度を速めることができ、結果として差動端子206aの全体の信号伝送速度を速めることができる。本実施の形態に係るコネクタ1においては、凹部201dによって差動端子206aの周囲に配置される樹脂量を調整することにより、差動端子206bを伝送される差動信号に対して、差動端子206aを伝送される差動信号の信号伝送遅延を低減している。
【0048】
また、本実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを同一値又は近似値に調整するために、差動端子206a、206bの幅方向の寸法を異ならせている。図4に示すコネクタ1においては、差動端子206bの幅方向の寸法W1を、差動端子206aの寸法W2よりも狭く構成している。なお、差動端子206bの幅寸法W1と差動端子206aの幅寸法W2との寸法差は、両者の特性インピーダンスの差異に応じて適宜変更することができる。
【0049】
差動端子206のインダクタンスを「L」とし、部分的に樹脂で覆われている差動端子206のキャパシタンスを「C」とすると、差動端子206の特性インピーダンス「Z」は、以下の(式2)で求められる。なお、差動端子206のキャパシタンスCは、特性インピーダンスZの計算対象となる差動端子206と、その周囲に配置されている第2コンタクト端子203(グランド端子207)及び電子機器のグランドに接続されているカバー部材3との間で発生しており、これらの端子の周囲に配置されている樹脂の影響も受ける。
(式2)

【0050】
(式2)から分かるように、差動端子206の特性インピーダンスZは、差動端子206のインダクタンスLが大きくなるほど大きくなる。差動端子206の幅を狭く構成することで、差動端子206のインダクタンスLを大きくでき、差動端子206の特性インピーダンスを大きくできる。一方、差動端子206の幅を広く構成することで、差動端子206のインダクタンスLを小さくでき、差動端子206の特性インピーダンスを小さくできる。
【0051】
図4に示すコネクタ1においては、凹部201dを形成することにより差動端子206aの特性インピーダンスが、凹部201dを形成しない場合と比べて大きくなる。このため、差動端子206bの幅方向の寸法W1を、差動端子206aの幅方向の寸法W2よりも狭く構成することで、差動端子206bのインダクタンスLを大きくし、その特性インピーダンスが大きくなるように調整している。
【0052】
なお、本実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206a、206bの幅方向の寸法を異ならせることで両者の特性インピーダンスを調整する場合について説明しているが、差動端子206a、206bの厚さ方向の寸法を異ならせることで両者の特性インピーダンスを調整することも可能である。この場合にも、本実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206bの特性インピーダンスを差動端子206aの特性インピーダンスに近付けることができる。
【0053】
以下、図4に示すコネクタ1が有する差動端子206a、206bの特性インピーダンス、並びに、差動端子206a、206bを伝送される差動信号の電圧値の遷移について、参照例に係るカード用コネクタとの比較において説明する。図5Aは、図4に示すコネクタ1が有する差動端子206a、206bの特性インピーダンスの遷移の説明図である。図5Bは、図4に示すコネクタ1が有する差動端子206a、206bを伝送される差動信号の電圧値の遷移の説明図である。
【0054】
図6は、第1の参照例に係るカード用コネクタが有するハウジングの一部の拡大図である。図7Aは、図6に示すカード用コネクタが有する一対の差動端子の特性インピーダンスの遷移の説明図である。図7Bは、図6に示すカード用コネクタが有する一対の差動端子を伝送される差動信号の電圧値の遷移の説明図である。図8Aは、第2の参照例に係るカード用コネクタが有する一対の差動端子の特性インピーダンスの遷移の説明図である。図8Bは、他の参照例に係るカード用コネクタが有する一対の差動端子を伝送される差動信号の電圧値の遷移の説明図である。なお、図6に示すカード用コネクタにおいては、説明の便宜上、上記実施の形態に係るコネクタ1と共通する構成について同一の符号を付与するものとする。
【0055】
図6に示すカード用コネクタは、幅方向の寸法が同一である差動端子206c、206dを有する点のみで上記実施の形態に係るコネクタ1と相違する。差動端子206c、206dの長さは、差動端子206a、206bと同一であり、凹部201dの形成位置についても上記実施の形態に係るコネクタ1と同一であるものとする。なお、図6に示すカード用コネクタでは、差動端子206c、206dの幅寸法W3が、差動端子206aの幅寸法W2と同一であるものとする。
【0056】
図6に示すカード用コネクタのように、差動端子206c、206dの幅寸法W3が同一である場合、図7Aに示すように、凹部201dを形成した差動端子206cのインダクタンスが大きくなり、その特性インピーダンスが差動端子206dよりも大きくなる。一方、凹部201dが形成されていることから、図7Bに示すように、差動端子206dを伝送される差動信号に対する、差動端子206cを伝送される差動信号の信号伝送遅延が調整(低減)された状態となる。
【0057】
図8においては、図6に示すカード用コネクタの凹部201dを非形成としたカード用コネクタにおける特性インピーダンス、並びに、差動信号の電圧値の遷移の説明図である。図8Bに示すように、ハウジング2に凹部201dを形成しない場合には、差動端子206cを伝送される差動信号の伝送速度が調整されないため、差動端子206c、206d間の線路長の差異に起因して、差動端子206dを伝送される差動信号に対して差動端子206cを伝送される差動信号に信号伝送遅延が発生している。一方、開口部が形成されていないことから、図8Aに示すように、差動端子206c、206dの特性インピーダンスは、近似値を維持している。
【0058】
これらの参照例に対し、上記実施の形態に係るコネクタ1においては、図5Aに示すように、差動端子206bの幅寸法W1を、差動端子206aの幅寸法W2よりも適度に狭幅に構成していることから、差動端子206bにおけるインダクタンスLを大きくでき、その特性インピーダンスを大きくできる。このため、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に設定できる。一方、図5Bに示すように、差動端子206aに沿って凹部201dを形成していることから、差動端子206aの周囲に配置された物質の誘電率を小さくでき、差動端子206aの信号伝送速度を速めることができる。このため、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差が低減される。
【0059】
このように本実施の形態に係るコネクタ1においては、ハウジング2の上面部201に、差動端子206a、206b間の線路長の差分に応じて、線路長が長い差動端子206aの周囲に配置された樹脂量を調整する凹部201dを形成している。これにより、差動端子206aの周囲に配置された物質の誘電率εを小さくでき、差動端子206aの信号伝送速度を速めることができるので、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差が低減される。この結果、差動信号が伝送される一対の差動端子206a、206bの長さが異なる場合においても、信号伝送の誤り率を低減でき、データ伝送速度を高速化できる。
【0060】
特に、本実施の形態に係るコネクタ1においては、線路長が短い差動端子206bの幅寸法W1を、線路長が長い差動端子206aの幅寸法W2よりも狭幅に構成している。これにより、差動端子206bにおけるインダクタンスを大きくでき、その特性インピーダンスを大きくできるので、凹部201dの形成に伴って差動端子206aにおける特性インピーダンスが大きくなる場合においても、差動端子206a、206b間の特性インピーダンスを近似値に設定できる。
【0061】
また、本実施の形態に係るコネクタ1においては、ハウジング2に形成した凹部201dにより、一対の差動端子206a、206b間の線路長の差分の所定倍(例えば、4〜5倍)の長さに相当する樹脂量を調整する。これにより、差動端子206a、206bの長さが異なる場合においても、両者の差動端子206a、206bの線路長の差分を基準として線路長が長い差動端子206aの信号伝送速度を適度に調整できる。
【0062】
さらに、本実施の形態に係るコネクタ1においては、ハウジング2に形成した凹部201dを、一対の差動端子206a、206bのうち、線路長が長い一方の差動端子206aの周囲に形成している。線路長が長い差動端子206aの周囲のみに凹部201dを形成していることから、信号伝送遅延が発生し易い差動端子206aにおける信号伝送速度の遅延を確実に低減できる。
【0063】
さらに、本実施の形態に係るコネクタ1においては、板状に構成される差動端子206aの板面上に凹部201dを形成している。板状部材で構成される差動端子206aのうち、最も表面積が大きい板面上に凹部201dが形成されることから、効果的に差動端子206aの周囲に配置される物質の誘電率εを調整することができる。特に、本実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206aの板面の一部を露出させるように形成される。この場合、ハウジング2に対する差動端子206aのインサート成形工程で凹部201dを形成できるので、容易に凹部201dを形成することができる。
【0064】
さらに、本実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206aに沿って凹部201dを不連続に形成している。差動端子206aに沿って凹部201dを連続して形成すると、差動端子206aにおける特性インピーダンスが局部的に大きくなる事態が発生し得る。差動端子206aに沿って不連続に凹部201dを形成することにより、差動端子206aにおける特性インピーダンスの変化を小さくすることができる。
【0065】
なお、上記実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206bの幅寸法W1を差動端子206aの幅寸法W2よりも狭幅とすることで、差動端子206bにおける特性インピーダンスを大きくすることで双方の差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に調整している。双方の差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に調整する観点においては、差動端子206aの幅寸法を、差動端子206bの幅寸法よりも広幅とすることも可能である。
【0066】
図9は、上記実施の形態の第1の変形例に係るコネクタ10が有するハウジング2の一部の拡大図である。なお、図9に示すコネクタ10においては、説明の便宜上、上記実施の形態に係るコネクタ1と共通の構成については同一の符号を付与している。図9に示すコネクタ10においては、差動端子206aの幅方向の寸法W4を、差動端子206bの幅方向の寸法W5よりも広く構成している。差動端子206aの幅寸法W4を差動端子206bの幅寸法W5よりも広幅とすることにより、差動端子206bに比べて差動端子206aのインダクタンスを小さくでき、その特性インピーダンスを小さく調整できる。
【0067】
図10Aは、図9に示すコネクタ10が有する差動端子206a、206bの特性インピーダンスの遷移の説明図である。図10Bは、図9に示すコネクタ10が有する差動端子206a、206bを伝送される差動信号の電圧値の遷移の説明図である。第1の変形例に係るコネクタ10においては、図10Aに示すように、差動端子206aの幅寸法W4を、差動端子206bの幅寸法W5よりも広幅に構成していることから、差動端子206aにおけるインダクタンスLを小さくでき、その特性インピーダンスを小さくできる。このため、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に設定できる。一方、図10Bに示すように、差動端子206aに沿って凹部201dを形成していることから、差動端子206aの周囲に配置された物質の誘電率εを小さくでき、差動端子206aの信号伝送速度を速めることができる。このため、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減できる。
【0068】
また、上記実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減するために、差動端子206aの一部を露出する凹部201dを形成する場合について説明している。しかしながら、差動端子206を伝送される差動信号の信号伝送速度vを調整するためには、必ずしも差動端子206aの一部を露出させる必要はない。
【0069】
第2の変形例に係るコネクタ11においては、差動端子206aに沿って、差動端子206aが露出しない程度に凹部201eを形成する点で上記実施の形態に係るコネクタ1と相違する。図11は、上記実施の形態の第2の変形例に係るコネクタ11が有するハウジング2の説明図である。図11Aは、第2の変形例に係るコネクタ1が有するハウジング2の一部を拡大した上面図である。図11Bは、図11Aに示す矢示A―Aにおける断面図である。図11Cは、上記実施の形態に係るコネクタ1における凹部201d周辺の断面図である。なお、図11においては、説明の便宜上、上記実施の形態に係るコネクタ1と共通の構成については同一の符号を付与している。
【0070】
第2の変形例に係るコネクタ11においては、図11Aに示すように、差動端子206aに沿って、差動端子206aが露出しない程度に凹部201eを形成する。差動端子206aに沿って凹部201eを形成する場合、差動端子206aの上部に樹脂が残存することから(図11B参照)、凹部201dを介して差動端子206aが露出する場合(図11C参照)と比べてより大きい領域で凹部201eを形成する必要がある。このため、第2の変形例に係るコネクタ11においては、ハウジング2の上面の右方側端部近傍から、開口部201aの近傍まで連続して凹部201aが形成されている。
【0071】
第2の変形例に係るコネクタ11においては、差動端子206aに沿って凹部201eを形成していることから、差動端子206aの周囲に配置される物質の誘電率を下げることでき、差動端子206aの信号伝送速度を速めることができる。これにより、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減できる。また、第2の変形例に係るコネクタ11においては、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206bの幅寸法W1を、差動端子206aの幅寸法W2よりも狭幅に構成していることから、差動端子206bにおける特性インピーダンスを大きくでき、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に設定できる。
【0072】
なお、第2の変形例に係るコネクタ11において、凹部201eの長さ寸法は、例えば、凹部201eの内底部と差動端子206aの板面との間の樹脂の厚さ寸法に反比例して変化させることができる。この場合には、凹部201eの内底部と差動端子206aの板面との間の樹脂の厚さ寸法に応じて柔軟に凹部201dの長さ寸法を変化させることにより、各種のカード用コネクタに最適な寸法で凹部201dを形成しつつ、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減できる。
【0073】
さらに、上記実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減するために、差動端子206aに対応する箇所にのみ凹部201dを形成する場合について説明している。しかしながら、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減することができれば、凹部201dが形成される箇所については、差動端子206aに対応する箇所に限定されるものではない。
【0074】
第3の変形例に係るコネクタ12においては、差動端子206aに対応する箇所のみでなく、差動端子206bに対応する箇所にも凹部201dを形成する。図12は、上記実施の形態の第3の変形例に係るコネクタ12が有するハウジング2の一部の拡大図である。なお、図12においては、説明の便宜上、上記実施の形態に係るコネクタ1と共通の構成については同一の符号を付与している。
【0075】
第3の変形例に係るコネクタ12においては、差動端子206aに対応する箇所に凹部201dを形成するだけでなく、差動端子206bに対応する箇所にも凹部201dを形成する点で上記実施の形態に係るコネクタ1と相違する。なお、第3の変形例に係るコネクタ12においては、差動端子206bに対応する箇所に凹部201dが形成されることから、差動端子206bを伝送される差動信号の信号伝送速度が速まる。このため、差動端子206aに対応する箇所に形成される凹部201dの寸法は、差動端子206bに対応する凹部201dの寸法を考慮して形成する必要がある。具体的には、線路長が長い差動端子206aの周囲において、差動端子206a、206b間の線路長の差分の所定倍の長さに相当する樹脂量を調整するように、双方の差動端子206a、206bの周囲に凹部201dを形成する必要がある。
【0076】
第3の変形例に係るコネクタ12においては、差動端子206aだけでなく、差動端子206bに対応する箇所にも凹部201dが形成されることから、差動端子206a、206bの双方の信号伝送速度を速めることができる。この場合においても、差動端子206aに対応する凹部201dの寸法は、差動端子206bに対応する凹部201dの寸法との差が、差動端子206a、206b間の線路長の差分の所定倍に設定されることから、差動端子206aを伝送される差動信号の信号伝送速度を速めることができ、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減できる。また、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206bの幅寸法W1を、差動端子206aの幅寸法W2よりも狭幅に構成していることから、差動端子206bにおける特性インピーダンスを大きくでき、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に設定できる。
【0077】
特に、ハウジング2に対して差動端子206(コンタクト端子203)をインサート成形する場合には、位置精度を確保するために差動端子206を位置決めして成形する必要がある。差動端子206a、206bに対応する箇所の双方に凹部201dを形成する場合には、これらの凹部201dを位置決め用の治具の配置のために利用できる。このため、コンタクト端子203の位置精度を確保しつつ、差動端子206a、206b間の特性インピーダンス及び信号伝送速度を適切に調整できる。
【0078】
さらに、上記実施の形態に係るコネクタ1においては、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減するために、差動端子206aの上方側の領域に凹部201dを形成する場合について説明している。しかしながら、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減することができれば、凹部201dが形成される箇所については、差動端子206aの上方側の領域に限定されるものではない。
【0079】
第4の変形例に係るコネクタ13においては、差動端子206aの上方側の領域でなく、差動端子206aの側方側の領域に凹部201fを形成する。図13は、上記実施の形態の第4の変形例に係るコネクタ13が有するハウジング2の一部の拡大図である。なお、図13においては、説明の便宜上、上記実施の形態に係るコネクタ1と共通の構成については同一の符号を付与している。
【0080】
第4の変形例に係るコネクタ13においては、差動端子206aに側方側の領域に凹部201fを形成する点で上記実施の形態に係るコネクタ1と相違する。図13に示すように、第4の変形例に係るコネクタ13においては、差動端子206aの内側の領域に凹部201fが形成されている。なお、凹部201fは、例えば、ハウジング2を貫通する構成とすることが考えられるが、必ずしもハウジング2を貫通する構成である必要はない。差動端子206aの周囲に配置される樹脂量を低減できる構成であれば、いかなる構成であっても構わない。
【0081】
第4の変形例に係るコネクタ13においては、差動端子206aの側方側に凹部201fを形成することにより、差動端子206aの周囲に配置される物質の誘電率εを調整できることから、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206aの信号伝送速度を速めることができ、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減できる。また、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206bの幅寸法W1を、差動端子206aの幅寸法W2よりも狭幅に構成していることから、差動端子206bにおける特性インピーダンスを大きくでき、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に維持できる。
【0082】
以上の説明においては、本発明に係るコネクタ1を、電極面を上方側に配置した状態でメモリカードが装着されるリバースタイプのカード用コネクタに適用した場合について説明している。しかしながら、本発明に係るコネクタ1については、これに限定されるものではなく、電極面を下方側に配置した状態でメモリカードが装着されるスタンダードタイプのカード用コネクタに適用することも可能である。
【0083】
第5の変形例に係るコネクタ14は、スタンダードタイプのカード用コネクタに適用される点で上記実施の形態に係るコネクタ1と相違する。図14は、上記実施の形態の第5の変形例に係るコネクタ14の外観を示す斜視図である。なお、図14においては、説明の便宜上、上記実施の形態に係るコネクタ1と共通の構成については同一の符号を付与している。なお、図14においては、説明の便宜上、カバー部材3を省略している。
【0084】
図14に示すように、第5の変形例に係るコネクタ14は、上面部201の代わりに下面部208を有し、その上方側及び後方側に開口したハウジング2を備える点で上記実施の形態に係るコネクタ1と相違する。上方側の開口部分を覆うようにカバー部材3が被せられることで、ハウジング2は、後方側にのみ開口した状態となり、この開口部でカード挿入口4が構成される。上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、カバー部材3は、電子機器の基板に実装されたハウジング2に被せられた状態で固定され、その一部が電子機器のグランドに接続される。第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203は、下面部208にインサート成形される。なお、第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203の半田付け部202a、203aは、ハウジング2の前面部から前方側に突出して設けられている。第1コンタクト端子202、第2コンタクト端子203の接触部202b、203bは、それぞれハウジング2に形成された開口部201b、201aに対応する位置に配置されている。
【0085】
第2コンタクト端子203は、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206(206a、206b)及びグランド端子207(207a、207b)で構成される。また、上記実施の形態と同様に、ハウジング2の内側に配置される差動端子206aの半田付け部203aから接触部203bまでの線路長が、差動端子206bの線路長よりも長く構成されている。
【0086】
第5の変形例に係るコネクタ14においては、ハウジング2の下面部208に差動端子206aに対応する箇所に凹部201dが形成されている。また、差動端子206bの幅寸法は、差動端子206aの幅寸法よりも狭幅に構成されている。このように線路長の長い差動端子206aに対応する箇所に凹部201dを形成していることから、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206aの周囲に配置された物質の誘電率を小さくでき、差動端子206aの信号伝送速度を速めることができる。このため、差動端子206a、206b間の信号伝送遅延差を低減できる。この結果、差動信号が伝送される一対の差動端子206a、206bの長さが異なる場合においても、信号伝送の誤り率を低減でき、データ伝送速度を高速化できる。
【0087】
特に、第5の変形例に係るコネクタ14においては、差動端子206bの幅寸法を、差動端子206aの幅寸法よりも狭幅に構成していることから、上記実施の形態に係るコネクタ1と同様に、差動端子206bにおけるインダクタンスLを大きくでき、その特性インピーダンスを大きくできる。このため、差動端子206a、206bの特性インピーダンスを近似値に設定できる。
【0088】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0089】
上記実施の形態に係るコネクタ1において、凹部201dが形成される長さ寸法は、差動端子206a、206b間の線路長の差分の所定倍(例えば、4〜5倍)に設定する場合について説明している。しかしながら、凹部201dが形成される長さ寸法は、差動端子206を伝送される差動信号の信号伝送速度を調整可能な様々な要素に応じて、或いは、これらのパラメータの組合せに応じて設定することができる。
【0090】
例えば、凹部201dが形成される長さ寸法を、差動端子206aの板面の幅方向に沿った凹部201dの寸法に反比例して変化させることが考えられる。また、凹部201dが形成される樹脂の誘電率の大きさに反比例して変化させるようにしてもよい。さらに、差動端子206aの厚さ方向の寸法に反比例して変化させるようにしてもよい。これらのように様々な要素に応じて柔軟に凹部201dの長さ寸法を変化させることにより、各種のカード用コネクタに最適な寸法で凹部201dを形成することができる。
【符号の説明】
【0091】
1、10〜14 カード用コネクタ(コネクタ)
2 ハウジング
201 上面部
201d、201e、201f 凹部
202 第1コンタクト端子
202a 半田付け部
202b 接触部
202c 連結部
203 第2コンタクト端子
203a 半田付け部
203b 接触部
203c 連結部
206a、206b 差動端子
207a、207b グランド端子
3 カバー部材
4 カード挿入口
5 メモリカード
501 第1電極
502 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードを収容可能な収容部と、前記カードの電極との間で差動信号を伝送するための一対のコンタクト端子とを有する樹脂製のハウジングを備えたカード用コネクタであって、
前記一対のコンタクト端子は、半田付け部から前記カードの電極との接触部までの線路長が異なっており、
前記ハウジングには、前記一対のコンタクト端子間の線路長の差分に応じて一方のコンタクト端子の周囲に配置された樹脂量を調整する凹部が形成されることを特徴とするカード用コネクタ。
【請求項2】
前記凹部は、前記一対のコンタクト端子間の線路長の差分の所定倍の長さに相当する樹脂量を調整することを特徴とする請求項1記載のカード用コネクタ。
【請求項3】
前記凹部は、前記一対のコンタクト端子のうち線路長が長い一方のコンタクト端子の周囲に形成されることを特徴とする請求項2記載のカード用コネクタ。
【請求項4】
前記凹部は、板状に構成される前記一方のコンタクト端子の板面上に形成されることを特徴とする請求項3記載のカード用コネクタ。
【請求項5】
前記凹部は、前記一方のコンタクト端子に沿って不連続に形成されることを特徴とする請求項4記載のカード用コネクタ。
【請求項6】
前記凹部は、前記一方のコンタクト端子の板面の一部を露出させるように形成されることを特徴とする請求項4又は請求項5記載のカード用コネクタ。
【請求項7】
前記凹部が形成される長さ寸法を、前記凹部の内底部と前記一方のコンタクト端子の板面との間の樹脂の厚さ寸法に反比例して変化させたことを特徴とする請求項4又は請求項5記載のカード用コネクタ。
【請求項8】
前記凹部が形成される長さ寸法を、前記一方のコンタクト端子の板面の幅方向に沿った前記凹部の寸法に反比例して変化させたことを特徴とする請求項4又は請求項5記載のカード用コネクタ。
【請求項9】
前記凹部が形成される長さを、前記凹部が形成される樹脂の誘電率の大きさに反比例して変化させたことを特徴とする請求項4又は請求項5記載のカード用コネクタ。
【請求項10】
前記凹部が形成される長さを、前記一方のコンタクト端子の厚さ方向の寸法に反比例して変化させたことを特徴とする請求項4又は請求項5記載のカード用コネクタ。
【請求項11】
前記一方のコンタクト端子よりも前記一対のコンタクト端子のうち線路長が短く板状に構成される他方のコンタクト端子の幅方向の寸法を小さくしたことを特徴とする請求項3記載のカード用コネクタ。
【請求項12】
前記一方のコンタクト端子よりも前記一対のコンタクト端子のうち線路長が短く板状に構成される他方のコンタクト端子の厚さ方向の寸法を小さくしたことを特徴とする請求項3記載のカード用コネクタ。
【請求項13】
前記凹部は、前記一対のコンタクト端子のうち線路長が長い一方のコンタクト端子の周囲において、前記一対のコンタクト端子間の線路長の差分の所定倍の長さに相当する樹脂量を調整するように、前記一対のコンタクト端子の双方のコンタクト端子の周囲に形成されることを特徴とする請求項2記載のカード用コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−252904(P2012−252904A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125347(P2011−125347)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】