説明

カード用シートおよびカード

【課題】結晶性樹脂をコア材料の主成分に用いたカード用シートであっても好適にお互いを熱融着することの出来るカード用シートを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、コア層と、前記コア層の上層部位に積層された上部表面樹脂層と、前記コア層の下層部位に積層された下部表面樹脂層と、を備え、前記コア層は、結晶性樹脂を含み、前記上部表面樹脂層および前記下部表面樹脂層は、非結晶性樹脂を含むことを特徴とするカード用シートである。本発明のカード用シートは、結晶性樹脂を含むコア層に非結晶樹脂を含む表面樹脂層を積層することにより、カード用シートの表面に非結晶樹脂を存在させることが出来る。このため、コア層の材料に非結晶樹脂を用いたカード用シートであっても、好適にカード用シート同士を好適に熱融着することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード用シートと、該カード用シートを用いて製造されたカードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カードは広範な分野に広く利用されている。例えば、クレジットカード、キャッシュカード、個人識別カード、などが挙げられる。このような用途のカードとして、磁気ストライプカード、ICカード等のプラスチックカードが用いられている。
【0003】
一般に、上述したようなプラスチックカードは、複数枚のカード用シートを重ねて熱プレスで各カード用シート間を熱融着し、カード形状に切断し、製造される。特に、非接触式ICカードの製造では、ICデバイスを2枚のカード用シートで挟んだ状態で熱プレスし、カード用シート同士を熱融着させて熱ラミネートすることにより製造が行われている。
【0004】
例えば、コア部位の材料にポリカーボネート系樹脂を主成分とした組成物を用いたカード用シートが提案されている(特許文献1参照)。ここで、一般的に、ポリカーボネートは、高分子鎖に存在するメチル基の立体障害により高分子鎖の配列が阻害されることから、非結晶性を示す材料である。
【0005】
一方、種々の分野で熱可塑性樹脂が用いられている。熱可塑性樹脂は高分子鎖の配向度合いから、結晶性樹脂・非結晶性樹脂の2分類に分類される。結晶性樹脂は、融点以下の温度において、高分子鎖が規則正しく配列する性質を示す熱可塑性樹脂の総称である。また、非結晶性樹脂は、ガラス転移温度以下の固化した状態において、高分子鎖が規則正しく配列しない性質を示す熱可塑性樹脂の総称である。
【0006】
一般的に、結晶性樹脂からなるシート同士はお互いに熱融着することが困難である。よって、熱プレス工程を経て製造されるカードに用いるカード用シートの材料では、熱融着が困難であることから、結晶性樹脂を材料として選択することは意識的に除外されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−283175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、結晶性樹脂をコア材料の主成分に用いたカード用シートであっても好適にお互いを熱融着することの出来るカード用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、コア層と、前記コア層の上層部位に積層された上部表面樹脂層と、前記コア層の下層部位に積層された下部表面樹脂層とを備え、前記コア層は、結晶性樹脂を含み、前記上部表面樹脂層および前記下部表面樹脂層は、非結晶性樹脂を含むことを特徴とするカード用シートである。
【0010】
また、前記結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル系樹脂、生分解性樹脂のいずれかを含む結晶性樹脂であってもよい。
【0011】
また、前記非結晶性樹脂は、非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂のいずれかを含む樹脂であってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態は、上述に記載のカード用シート同士を積層させ、該カード用シート同士の間にICデバイスを配置したカードである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカード用シートは、結晶性樹脂を含むコア層に非結晶樹脂を含む表面樹脂層を積層することにより、カード用シートの表面に非結晶樹脂を存在させることが出来る。このため、コア層の材料に非結晶樹脂を用いたカード用シートであっても、好適にカード用シート同士を好適に熱融着することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のカード用シートを示す概略図である。
【図2】本発明のカードを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のカード用シートの説明を行う。
本発明のカード用シートは、コア層と、前記コア層の上層部位に積層された上部表面樹脂層と、前記コア層の下層部位に積層された下部表面樹脂層と、を備え、前記コア層は、結晶性樹脂を含み、前記上部表面樹脂層および前記下部表面樹脂層は、非結晶性樹脂を含むことを特徴とするカード用シートである。
なお、本明細書において、「コア層は、結晶性樹脂を含み、」とは、コア層全体の重量において結晶性樹脂の占める重量の割合が、65%以上であることをいう。
また、本明細書において、「前記上部表面樹脂層および前記下部表面樹脂層は、非結晶性樹脂を含む」とは、上部表面樹脂層または下部表面樹脂層の重量において非結晶性樹脂の占める重量の割合が、80%以上であることをいう。
【0016】
本発明のカード用シートによれば、結晶性樹脂を含むコア層を非結晶樹脂を含む表面樹脂層で挟み込むことにより、カード用シートの表面を非結晶樹脂とすることが出来る。このため、コア材料に非結晶樹脂を用いたカード用シートであっても、カード用シート同士を好適に熱融着することが出来る。
【0017】
図1に、本発明のカード用シートの一例を示す。
図1は、上部表面樹脂層および下部表面樹脂層の2つの表面樹脂層1に挟まれた部位にコア層2を配置した本発明のカード用シート3である。
【0018】
コア層は、本発明のカード用シートの中心部位に配置される。また、コア層は、結晶性樹脂を含む樹脂組成物よりなる。コア層に結晶性樹脂を選択することにより、カード製造時の熱プレス工程において、カード用シート自体の変形を抑制することが出来る。ここで、結晶性樹脂は、融点以下の温度において、高分子鎖が規則正しく配列する性質を示す熱可塑性樹脂をいう。
【0019】
また、結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル系樹脂、結晶性生分解性樹脂のいずれかを含む結晶性樹脂であることが好ましい。結晶性ポリエステル系樹脂は、リサイクルにより再生利用されることが知られており(例えば、リサイクルPETなど)、資源を循環的に利用することで環境負荷を低減することが出来る。また、結晶性生分解性樹脂は、外環境にて自然に分解されることから、廃棄における環境負荷を低減することが出来る。
【0020】
結晶性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、およびこれらの類似誘導体、などが挙げられる。
【0021】
結晶性生分解性樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、およびこれらの類似誘導体、などが挙げられる。
【0022】
表面樹脂層は、コア層に積層されて配置される。表面樹脂層は熱融着性に優れた非結晶樹脂を含む樹脂組成物よりなり、カード製造時における熱プレス工程において、カード用シート同士を熱融着させることができる。ここで、非結晶性樹脂は、ガラス転移温度以下の固化した状態において、高分子鎖が規則正しく配列しない性質を示す熱可塑性樹脂をいう。
【0023】
また、非結晶性樹脂は、非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂のいずれかを含む樹脂であることが好ましい。非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物は、フィルム状の薄層であっても熱融着性に優れていることから、コア層が結晶性樹脂であってもカード用シート同士を好適に熱融着することが出来る。よって、本発明のカード用シートの表面樹脂層に用いる材料として好ましい。
【0024】
非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば、芳香族ジカルボン酸とジオールとの脱水縮合体が挙げられる。本発明のカード用シートの表面樹脂層に非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂を用いる場合、熱プレス融着などの実用上頻繁に行われる熱加工を行っても結晶化による白濁や融着不良を起こさない程度に結晶性が低いものを用いることが好ましい。具体的には、結晶化度が10%以下程度の非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
また、表面樹脂層はコア層を挟んで、上部表面樹脂層および下部表面樹脂層の2層を形成してもよい。上部表面樹脂層および下部表面樹脂層を形成する場合、上部表面樹脂層および下部表面樹脂層は同一の樹脂組成物により形成してもよいし、異なる樹脂組成物により形成してもよい。また、上部表面樹脂層および下部表面樹脂層を形成する場合、一方を印刷適性に優れた非結晶性樹脂組成物により形成し、他方を熱融着性に優れた非結晶性樹脂組成物により形成してもよい。また、上部表面樹脂層および下部表面樹脂層を形成する場合、上部表面樹脂層と下部表面樹脂層との厚みは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
また、コア層は、単層であっても、2層以上の多層の構成であってよい。また、表面樹脂層は、単層であっても、2層以上の多層の構成であってよい。
【0027】
また、コア層および表面樹脂層に用いる樹脂組成物には、(1)着色剤、滑剤、フィラー、衝撃改良剤等の添加材、(2)物性を改良するための異種のポリマー、などが混合されていてもよい。特に、クレジットカードのようにエンボス文字が刻印されるカードに用いられるカード用シートの場合、コア層に用いる樹脂組成物には、(1)板状フィラー(タルクなど)、(2)異種ポリマー(ポリブチレンテレフタレートなど)が混合されていることが望ましい。
【0028】
本発明のカード用シートを製造するにあたり、適宜公知の積層体形成方法を用いて製造してよい。例えば、積層体形成方法として、(1)各層の樹脂組成物を共押出して積層する共押出法、(2)各層をフィルム状に形成し、各層をラミネートするラミネート法、(3)2層を共押出法で形成し、別途形成したフィルムを更にラミネートする方法、(4)熱圧着法、(5)コーティング方法、などが挙げられる。特に、共押出法は異なる物性を有する材料が積層された積層体を連続して成形することが出来ることから、本発明のカード用シートを製造する方法として好ましい。
【0029】
また、本発明のカード用シートは、コア層に結晶性樹脂を用いたとしても好適に熱融着を行うことが出来ることから、製造工程において熱プレスを行うICデバイスを組み込んだカードを好適に製造することが出来る。本発明のカード用シートを用いて、ICデバイスを組み込んだICカードを製造する場合、本発明のカード用シート同士を積層させ、該カード用シート同士の間にICデバイスを配置する。
【0030】
ここで、ICデバイスは、使用する用途、求められる仕様に応じて、適宜公知のデバイスを組み込んでよい。例えば、非接触型ICカードのために、ICデバイスはICチップとアンテナとを有するデバイスであってもよい。
【0031】
図2に、本発明のカード用シートを積層して製造されたカードの模式概略図を示す。
図2では、カード用シート3を互いに積層しカード4を形成している。カード用シート3同士に挟まれた部位にICデバイス等(図示せず)を配置してもよい。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
まず、表面樹脂層に用いる非結晶性樹脂をペレット状に成形した。
このとき、非結晶性樹脂として、非結晶性ポリエステル(イーストマンケミカル社製、「PETG6763」)を用いた。「PETG6763」は、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコール成分の約30モル%を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂である。
【0033】
次に、コア層に用いる結晶性樹脂を含む樹脂組成物をペレット状に成形した。
このとき、結晶性樹脂としてリサイクルPET(エーペックスジャパン社製、「PETCARBO」)を用いた。また、コア層に用いる樹脂組成物には、酸化チタンを15重量%添加した。
【0034】
次に、Tダイを共有連結した3層Tダイ押出機の各ホッパーに上述のペレットを投入し、温度200℃〜280℃の範囲で溶融して3層Tダイ共押出し、冷却ロールで冷却固化し、上部表面樹脂層/コア層/下部表面樹脂層からなる3層積層体を形成し、本発明のカード用シートを得た。
このとき、カード用シートの総厚み:0.8mm、上部表面樹脂層の厚み:0.1mm、コア層の厚み:0.6mm、下部表面樹脂層の厚み:0.1mmであり、上部表面樹脂層と下部表面樹脂層の厚みは同じであり、総厚みに対するコア層の厚み比率は75%であった。
【0035】
(実施例1:評価)
実施例1で得られた本発明のカード用シートを、540×850mm角にカットし、クロムメッキ板の間にカード用シート/ICデバイス/カード用シートの順に重ねて配置し、クロムメッキ板を挟んで熱プレスし、冷却した。
このとき、熱プレスの条件は、プレス温度:130℃、シート面圧:10kgf/cm、プレス時間:5分間とした。
【0036】
熱プレスにより、対向して配置されたカード用シート同士は熱融着し、カード用シート同士の間にICデバイスが配置された本発明のカードを得ることが出来た。
以上より、本発明のカード用シートを用いて熱加工を行い、ICデバイスを組み込んだカードを製造することが出来た。
【0037】
<参考例1>
まず、実施例1でコア層に用いた樹脂組成物を同様にペレット状に成形し、該ペレットを用いて押出し成形し、単層よりなる1層のカード用シートを得た。
このとき、カード用シートの総厚み:0.8mmであった。
【0038】
(参考例1:評価)
参考例1で得られた本発明のカード用シートを、実施例1の評価と同様に、カットし、カード用シート同士の間にICデバイスが配置し、熱プレスを行った。
【0039】
実施例1と同様の条件下で熱プレスを行っても、参考例1にて得られたカード用シートは熱融着せず、一体化することが出来なかった。これは、参考例1のカード用シートは、結晶性樹脂により表面が結晶化しているためとおもわれる。
【符号の説明】
【0040】
1……表面樹脂層
2……コア層
3……カード用シート
4……カード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と、
前記コア層の上層部位に積層された上部表面樹脂層と、
前記コア層の下層部位に積層された下部表面樹脂層と、を備え、
前記コア層は、結晶性樹脂を含み、
前記上部表面樹脂層および前記下部表面樹脂層は、非結晶性樹脂を含むこと
を特徴とするカード用シート。
【請求項2】
前記結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル系樹脂、結晶性生分解性樹脂のいずれかを含む結晶性樹脂であること
を特徴とする請求項1に記載のカード用シート。
【請求項3】
前記非結晶性樹脂は、非結晶性芳香族ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂のいずれかを含む樹脂であること
を特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のカード用シート。
【請求項4】
請求項1に記載のカード用シート同士を積層させ、該カード用シート同士の間にICデバイスを配置したカード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−247828(P2012−247828A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116790(P2011−116790)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】