説明

カード

【課題】ポリ塩化ビニル系樹脂をカードの構成要素として用いないで、高温中で保存する可能性のある車載用やコンピュータ等の家電製品内で使用された場合でも変形せず、更には、これらが使用後に廃棄された時により廃棄しやすいようにしたカードを提供することを課題とする。
【解決手段】カード基材と、カード基材上に形成された印刷層を有するカードであって、該カード基材が非晶性ポリエステルからなる単層または複数層からなり、該印刷層がポリエステル、ポリウレタンまたはこれらの共重合体からなるバインダー樹脂と、エステル系溶剤からなる溶剤を含む蒸発乾燥型インキを用いて形成されていることを特徴とするカード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気カード、ICカードなどのプラスチックカードに関し、たとえば、識別カード、外部端子付きICカード、磁気ストライプ付きクレジットカード、プリペイドカード、用途でいえば、運転免許証用カード、銀行カード、百貨店等の顧客認識カード、保険医療用カード等の個人識別カードまたは情報用カードや電子マネー用ICカード等の各種ICカード、電話用カード、乗物用カード、買物用カード等のプリペイドカード等のカードに関する。
【0002】
より詳しくは、高温中で保存する可能性のある車載用やコンピュータ等の家電製品内で使用された場合でも変形せず、更には、これらが使用後に廃棄された時により廃棄しやすいようにしたカードに関するものである。
【背景技術】
【0003】
識別カード、外部端子付きICカード、磁気ストライプ付きクレジットカード、プリペイドカード等は、個人識別、情報読み書き、現金の出し入れ、現金代替等の機能をもつカードとして、携帯性、便利さ等の利点があることから普及している。
【0004】
これらのカードの素材としては、従来から、主にポリ塩化ビニル(PVC)樹脂や塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体が用いられており、特にポリ塩化ビニル樹脂が一般的である。ポリ塩化ビニル樹脂は物理的な機械特性や文字部のエンボス適性などが優れており、カード素材としては最適な素材として現在も広く用いられている。
【0005】
上記のようなポリ塩化ビニル樹脂を素材とする一般的な磁気ストライプ付きカードの製造方法としては、白色のポリ塩化ビニル(PVC)樹脂基材にオフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷等公知の印刷方法で印刷を施し、その両面に透明性の高いPVCシート(オーバーシート)を積層した後磁気テープを転写し、加熱プレス機で熱融着によって一体化させ、所定サイズの金型で打ち抜いてカード形状にする方法が広く行われている。
【0006】
熱転写タイプの磁気テープは転写後にはカード表面より浮き出て段差を生じているが、加熱プレス機での熱融着時にはカード表面に埋め込まれて段差のない平面となる。
【0007】
ところで、ポリ塩化ビニル樹脂の持つ物性の欠点としては耐熱性の低いことがあげられる。一般的にはポリ塩化ビニル樹脂は約60℃で軟化して変形するため、高温域でのアプリケーション、例えば家電用、車載用などには適していなかった。
【0008】
最近、磁気記録媒体はキャッシュカードやクレジットカード、IDカード等の分野に留まらず、接触式のICチップを埋め込んだ磁気ストライプ付きICカードやアンテナとICモジュールを組み込んだ磁気ストライプ付き非接触ICカード、又はそれら全てを持ち合わせたカードなど種々あり、アプリケーションとしては、電子財布や定期券、テレホンカード、免許証、車載カードなどがあげられ、こういったカードに用いる素材には従来のカード以上に屈曲性、スクラッチ強度、引っ張り強度などの強度や、保存特性、耐熱性、耐薬品性等の耐性を含めた高い信頼性が求められている。
【0009】
また、ポリ塩化ビニル樹脂は物性や加工性、経済性が優れる反面、使用後廃棄する際、特に焼却時に塩化水素ガスを発生させることによって、焼却炉を傷めて寿命を縮めたり、塩化水素ガスによる健康被害への懸念などから各国で脱PVCの動きが活発になってきて
おり、日本国内でも例外ではない。建材分野や産業資材分野だけではなく、日用品を含めた広い範囲でその流れは加速されている。
【0010】
カードでの塩ビ使用での上記の問題点を解消するための努力は主にポリ塩化ビニル樹脂の優れた加工性や物性を代替する材料の検討とカード廃棄時の塩化水素ガスの発生を抑制するという2つの方向で行われてきた。
【0011】
カード基材を構成する樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル等のハロゲンを含まない熱可塑性樹脂を使用することも考えられているが、これらの樹脂は単体でカード状のものを作製することができるが、物性がポリ塩化ビニル樹脂とはかなり異なる為、カード化に際しては種々の工夫が必要となってくる。
【0012】
その中で、ポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸とエチレングリコールを重縮合してできるもので、シート製造工程中での延伸配向・熱固定によって結晶性が増したり、延伸の代わりに結晶核剤を添加することで結晶性の高い、高強度のシートとすることができる。
【0013】
逆に、未延伸の状態やテレフタル酸に加えてイソフタル酸を使った系では結晶性の低い低結晶性シートができ、また、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールとの共重合体から作られるシートも低結晶性のシートである。
【0014】
これらの低結晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂のシートの物性や磁気テープの埋め込み適性はポリ塩化ビニルに近い物性を持っているものの、カードとしての耐熱性に課題があった。従って、これまではポリカーボネートなどの耐熱性のある樹脂を混合したシートをカード基材として用いることによってカードとしての耐熱性を持たせるようにしてきた。
【0015】
しかし、このカード基材を使用し、PVC系カードの製造に際して従来から用いてきた塩酢ビ樹脂系バインダー、ケトン系溶剤等からなるスクリーンインキで印刷を施し、カード化した場合、その耐熱性は満足しうるものではなかった。
【0016】
例えば、高耐熱性が求められる車載用のカードのカード基材として適用すると、耐熱性が不足するが故にカードリーダーのつかみ部分でカードの熱変形が起きてしまうことがあった。従って、このような高温に曝されての使用においても熱変形を生じない、より高い耐熱性を有するカードの開発が課題となっていた。
【0017】
また、耐熱性を有する非晶性ポリエステル系のシートをカード基材として用い、その一部に磁気記録部を設けた磁気カードもあるが、このようなカードは通常その磁気記録部を隠蔽する目的で、その上に銀色のインキで印刷を施している。
【0018】
この隠蔽銀色インキには従来、銀色系の色料と塩酢ビ系樹脂バインダーならびにケトン系あるいは芳香族系の溶剤を主体とするインキを用いてきた。
【0019】
しかし、そのインキで印刷すると、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)が低いため、またインキに使用している溶剤が非塩ビ系樹脂からなるカード基材から抜けにくいため、得られるカードの耐熱性が低くなるという問題点があった。
【0020】
特に車載用のカードとして使う場合は、夏などに高温となるとカードリーダーのおさえ部分による圧で熱変形が起きやすくなるといった問題点があった。
【0021】
カード基材とオーバーシートに非塩ビ材料を使う構成の例を、特許文献3〜7に,塩化水素ガス発生を抑制する構成の例を特許文献1,2に見ることが出来る。
【0022】
特許文献3では、高温時の使用に際しても変形や材質の変性が発生せず、高温になった車中で使用もしくは保管する可能性のある車載用カードやコンピュータ等の家電製品内等で高温に曝されての使用の可能性があるカード等として支障のない利用が期待でき、さらには、使用後に焼却廃棄した場合に塩化水素ガスが発生することがないカードの提供を目的として、カードの一部を構成するカード基体を、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主材料として用いた耐熱コア層の両面に、熱変形温度が100℃以上の熱可塑性エラストマーを主材料として用いた耐熱シート層を積層してなる積層体とすることが提案されている。
【0023】
特許文献4では、低印可エネルギーにおいても昇華性染料および熱溶融性インクの染着が容易であり、耐融着性に優れた強光沢を有する熱転写記録受像シートを提供すること、中でも非塩ビ系のカード基材を用いた市販の昇華/溶融型ICカードプリンター特性に優れた熱転写記録用シートを提供することを目的として、支持体の少なくとも片面に活性エネルギー線硬化性有機化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物からなる塗布層を設け、該塗布層を活性エネルギー線により硬化させた昇華転写記録と溶融熱転写記録との併用記録用受像シートが提案されている。
【0024】
特許文献5では、非晶性ポリエステルの一種であるPET−Gを使用する非塩ビカードにおいて、エンボスカールの低減を図れるカードを提供するために、表面に文字エンボスを行う非塩ビ系カードにおいて、カードのコア材料として、非結晶性ポリエステル系樹脂材料または非結晶性ポリエステル系樹脂に疎水系フィラーを添加した材料を使用し、コア材料の両面に、PET−G/ポリカーボネート/PET−Gの3層構成からなるオーバーシートを積層したことを特徴とする非塩ビカードが提案されている。
【0025】
特許文献6では、PET−Gを使用する非塩ビカードにおいて、エンボスカールの低減を図り、CP受像層を形成できるカードを提供するために、表面に文字エンボスを行う非塩ビ系カードにおいて、カードのコア材料として、非結晶性ポリエステル系樹脂材料または非結晶性ポリエステル系樹脂とこれより耐熱性の高い樹脂との共重合体またはポリマーアロイ樹脂を使用し、コア材料の両面に、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートのポリマーアロイ樹脂からなるオーバーシートを積層したことを特徴とする非塩ビカードが提案されている。
【0026】
特許文献7では、高温に曝された状況での使用に際しても熱変形が発生せず、さらには、使用後の廃棄に際して環境問題が発生しないように配慮した、磁気記録部をその一部に有し、さらにはこの磁気記録部を少なくとも覆うように隠蔽インキからなる隠蔽印刷層が設けてあるカードとして、カード基材を、テレフタル酸と、シクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸及びエチレングリコールとの共重合体、またはその共重合体とポリカーボネート及び、またはポリアリレートとのポリマーアロイからなる非晶性ポリエステル樹脂で構成し、グリコール系またはアルコール系溶剤とアクリル樹脂をビヒクルとし隠蔽性色料を少なくとも含有する隠蔽インキからなる隠蔽印刷層で磁気記録部を覆うようにした非塩ビカードが提案されている。
【0027】
この提案では、この非晶性ポリエステル系樹脂を含むカード基材を使用し、PVC系カードの製造に際して従来から用いてきた塩酢ビ樹脂系バインダー、ケトン系溶剤等からなるスクリーンインキで印刷を施し、カード化した場合、その耐熱性は満足しうるものではなかったので、カードのコア材料として非晶性ポリエステル系樹脂を使用した場合の隠蔽インキのビヒクルと溶剤をそれぞれアクリル樹脂とグリコール系またはアルコール系溶剤とすることによって保存性と接着性の問題を解決しようとしたものである。
【0028】
グリコール系溶剤はケトン系溶剤と比較してカード基材を構成する非晶性ポリエステルに対して溶解度が低く、乾燥性が良い。
【0029】
よって印刷後、カード基材中にこれらが残る量が少ないため、カード基材に与える影響が少なくなる。
【0030】
そしてこのアクリル系インキによって形成された印刷層は塩酢ビ樹脂系インキで構成された印刷層と比較して、その耐熱性は高く、しかも硬度も高いものとなる。
【0031】
しかしながら、基材に対する溶解性が少ない溶剤と高硬度のアクリル樹脂の組み合わせによって達成される印刷被膜では温度変化による膨張収縮を繰り返す環境下での接着保存性に関しては必ずしも適切でない場合があった。
【0032】
特許文献1には、塩化水素ガス発生を抑制する構成の例として、カード基材に非晶性ポリエステル等を用いても、印刷層に用いるインキ中のバインダー樹脂にポリ塩化ビニルを用いた場合、印刷後の印刷物の燃焼時に塩化水素ガスが生じることを防ぐことが可能なインキとして、バインダーに用いる樹脂と該樹脂を溶かす溶剤を少なくとも含んでおり、焼却時に焼却炉中で発生する塩化水素ガスと効率良く反応し、無害である塩化カルシウムを生じる消石灰が混合されているインキで印刷されてあるカードが提案されている。
【0033】
このカードの構成ではカード基材に非塩ビの材料を用いているが、インキ中のバインダー樹脂にポリ塩化ビニルを用いているため、焼却時の塩化水素ガス等の有害ガスの発生を完全に防止することは難しかった。
【0034】
特許文献2では、焼却時に塩化水素ガスの発生を防ぐために、カードに用いる基材シートは、ポリ塩化ビニル、またはテレフタル酸と、シクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸及びエチレングリコールとの共重合体、又はその共重合体とポリカーボネート及び、またはポリアリレートとのポリマーアロイからなる非晶性ポリエステルのいずれかが主成分に用いてあり、水酸化カルシウムが添加されているカードが提案されている。
【0035】
特許文献1及び特許文献2で提案されている方法はポリ塩化ビニル系樹脂をカードの構成要素として用いた場合の廃棄処理時の有害ガス発生の問題を軽減するものではあるが、ポリ塩化ビニル系樹脂を構成要素から排除するという、より根本的な解決には対応していなかった。
【0036】
そのために、ポリ塩化ビニル系樹脂をカードの構成要素として用いないで、高温中で保存する可能性のある車載用やコンピュータ等の家電製品内で使用された場合でも変形せず、更には、これらが使用後に廃棄された時により廃棄しやすいようにしたカードが求められていたが、基材への印刷を行うためのインキとしては一般的に非塩ビ系の基材とも密着性のよい塩ビ系の樹脂を含んだインキが用いられており、非塩ビ系の樹脂を用いたインキでは基材との密着性の保持に限界があった。
【0037】
したがって、上記の問題を解決したポリ塩化ビニル系樹脂をカードの構成要素として含まない、非塩ビ材料により印刷層を含む各層を構成したカードが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特開2005−126632号公報
【特許文献2】特開2005−097342号公報
【特許文献3】特開2004−009564号公報
【特許文献4】特開2001−171241号公報
【特許文献5】特開2004−130742号公報
【特許文献6】特開2004−130741号公報
【特許文献7】特開2004−025648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂をカードの構成要素として用いないで、高温中で保存する可能性のある車載用やコンピュータ等の家電製品内で使用された場合でも変形せず、更には、これらが使用後に廃棄された時により廃棄しやすいようにしたカードを提供することを課題とする。
【0040】
このために、非塩ビ基材との密着性も良い塩ビ系の樹脂を含んだインキに代わってインキ中に塩ビ系樹脂を使用せずかつ非塩ビ基材との密着性の良い非塩ビ系のみの樹脂を用いたインキが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明の請求項1に係る発明は、カード基体と、カード基体上に形成された印刷層を有するカードであって、該カード基体が非晶性ポリエステル樹脂層を含む単層または複数層からなり、該印刷層がポリエステル、ポリウレタンまたはこれらの共重合体からなるバインダー樹脂と、エステル系溶剤からなる溶剤を含む蒸発乾燥型インキを用いて形成されていることを特徴とするカードである。
【0042】
本発明の請求項2に係る発明は、前記印刷層上に他の印刷層を有することを特徴とする請求項1に記載のカードである。
【発明の効果】
【0043】
本発明の請求項1に係るカードによれば、カード基体と、カード基体上に形成された印刷層を有するカードであって、該カード基体が非晶性ポリエステル樹脂層を含む単層または複数層からなり、該印刷層がポリエステル、ポリウレタンまたはこれらの共重合体からなるバインダー樹脂と、エステル系溶剤からなる溶剤を含む蒸発乾燥型インキを用いて形成されていることによって、ポリ塩化ビニル系樹脂をカードの構成要素として用いないで、高温中で保存する可能性のある車載用やコンピュータ等の家電製品内で使用された場合でも変形せず、更には、これらが使用後に廃棄された時により廃棄しやすいようにしたカードを提供することが出来る。
【0044】
すなわち、焼却廃棄時に塩化水素等の有害ガスを発生しないカード基体を形成する基材(コアシートまたは/およびオーバーシート)として、テレフタル酸と、シクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸及びエチレングリコールとの共重合体、又はその共重合体とポリカーボネート及び、またはポリアリレートとのポリマーアロイ等からなる非晶性ポリエステルのいずれかを主成分とする非晶性ポリエステル樹脂層を用いた場合に、上記コアシートまたはオーバーシートの絵柄(隠蔽)印刷層に用いる蒸発乾燥型スクリーンインキとしてバインダー樹脂がポリエステル、ポリウレタンまたはこれらの共重合体からなりバインダー樹脂と各基材を溶かす溶剤としてエステル系の溶剤を含むインキを用いることによって、高温条件の下でも基体と印刷層の間の接着を保持することが出来るようなカードとすることが出来る。
【0045】
本発明の請求項2に係るカードによれば、前記印刷層上に他の印刷層を有する構成のカードの場合に基体の非晶性ポリエステル樹脂層の表面に印刷する場合に比べて、前記印刷層の表面に印刷することによって印刷層と基体の間の接着とその保持性が改善されて他の印刷層の印刷方式とインキ構成についてより多くの選択肢を提供できる。
【0046】
たとえば、カード基体上の印刷層として隠蔽性のあるインキで印刷を行い、その上から絵柄印刷を行う場合に、最初の印刷は厚塗りに適したスクリーン印刷で行い、その上の絵柄印刷は緻密な表現の可能なオフセット印刷で行うという順序で行っても厚塗りしたスクリーン印刷層が非晶性ポリエステル樹脂層の表面から剥離してしまうことが避けられ、かつ、オフセット印刷層とスクリーン印刷層の間の接着性も強固なものとすることが可能になる。
【0047】
以上のように、本発明のカードによれば、基材となるコアシート、およびオーバーシートに非塩ビ材料を用い、さらに、コアシートの絵柄印刷層とオーバーシートの絵柄印刷層に用いる蒸発乾燥型スクリーンインキにも非塩ビ材料を用いたカードとすることにより、焼却時の塩化水素及びダイオキシンの発生のない環境に優しいカードを提供することが出来る。
【0048】
さらに、本発明のカードによれば、バインダー樹脂をポリエステル、ポリウレタン、またはこれらの共重合体とし、各基材を溶解する溶剤としてエステル系の溶剤を含んでいる非塩ビ系の蒸発乾燥型スクリーンインキを用いることで基材との相溶性を向上させ、塩ビ系インキを用いたカード以上の保存接着性を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】磁気カードの層構成の一例の概略断面図。
【図2】磁気カードの製造工程の一例。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0051】
図1には磁気カードの場合の本発明のカードの構成の一例を概略断面図で示している。図2には磁気カードの場合の本発明のカードの製造工程の一例を示している。
【0052】
図1に示すカードは、磁気記録部(3)を有するカードであって、基体部分が白色のカード基材(1)(コアシート)と透明なカード基材(4)(オーバーシート)が積層された構成となっており、各カード基材は非晶性ポリエステルからなると共に、エステル系溶剤とポリエステル、ポリウレタン、又はそれらの共重合体樹脂をバインダーとし隠蔽性色料を含有する隠蔽インキから形成された隠蔽印刷層(2)が前記磁気記録部(3)を覆うように設けてある。図中(7)は文字等の絵柄印刷層、(8)は保護層(オーバーコート層)をそれぞれ示している。隠蔽印刷層(2)および絵柄印刷層(7)はコアシート上に直接設けても良い。
【0053】
各カード基材(1)、(4)を構成する非晶性ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、またはポリエチレンテレフタレートとポリカーボネート及び/またはポリアリレートとのポリマーアロイである。ポリエチレンテレフタレートにはテレフタル酸と、シクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸及びエチレングリコールとの共重合体を含む。
【0054】
上記ポリエチレンテレフタレートは、例えばエチレングリコールとシクロヘキサンジメ
タノールをテレフタル酸と共重合させて製造されるが、この際、エチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールの配合比を変えることで、結晶性及びガラス転移温度を制御することが可能になる。
【0055】
そして、このポリエチレンテレフタレートは、ポリカーボネートやポリアリレートを混合することにより耐熱性を向上させることができる。
【0056】
このような組成の非晶性ポリエステルからなるカード基材(1)、(4)のそれぞれは、白色または透明な非晶性ポリエステルを使用し、通常の押し出し法により得ることができる。
【0057】
カード基材(1)の厚みは通常100〜700μm程度であり、カード基材(4)の厚みは通常10〜100μm程度である。
【0058】
そして、本発明のカードは、上述のようなカード基材を用い、例えば加熱プレス機による溶融ラミネート方式により製造することができる。製造工程の一例を図2に示した。
【0059】
溶融ラミネート方式により図1に示すような構成のカードを製造するに当たっては、まず白色のカード基材(1)の片面に磁気記録層(3)を仮貼りした透明なカード基材(4)を仮貼りしてから、それをそれより一回り大きい鏡面板で挟み込み、加熱溶融プレスをして積層処理をおこなって一体化し、表面に磁気記録層が埋め込まれたオーバーシート(4)を備えたカード用積層体を得る。
【0060】
この時に用いる鏡面板としては、ニッケル−クロムメッキした銅板、表面を研磨したステンレス板、表面を研磨したアルミ板等を用いることができる。
【0061】
また、カード用積層体への隠蔽印刷層(2)の印刷は、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等の公知の印刷法により行うことができるが、隠蔽性を確保するという目的からは膜厚の厚い層の印刷に適したスクリーン印刷法が多用される。
【0062】
そして溶融ラミネートによりカード用積層体を得た後は、カード用積層体を鏡面板から剥がし、片刃またはオス−メスの金型による打ち抜きでカード形状に打ち抜き、カード状積層体とする。
【0063】
図2ではカード状積層体の打ち抜き前にスクリーン印刷により隠蔽印刷層(2)を、オフセット印刷により絵柄印刷層(7)を設け、オーバーコート転写箔を用いて保護層(8)を熱転写により形成すると同時に積層処理を行い、その後に打ち抜きによってカードの外形加工をする場合を示した。このカード形状への打ち抜きの順序は上記の積層処理の前でもよいが、オーバーコート等で塗工工程がある場合は打ち抜き後では困難なことが多いので適宜選択すればよい。
【0064】
カード状積層体に設ける磁気記録部(3)は、上述のようにして得られたカード状積層体の片面に、従来から用いられている熱転写タイプの磁気テープを転写することにより、或いは、カード状積層体に直接磁気記録層を印刷することにより設けてもよい。
【0065】
通常、カード状積層体には、エンボッサーにより浮き文字をエンボスし、そのエンボス部の頂部に熱転写箔によりティッピングをして色付けしたり、磁気記録部に磁気情報をエンコードしたり、場合によっては顔写真やバーコード等を転写しカードとして仕上げる。
【0066】
各種ICカードでは、さらに、ICカードの機能を付加するためにICモジュール等を
搭載した構成となっている。
【0067】
図中、保護層(8)はカード状積層体上に設けた隠蔽印刷層(2)や絵柄印刷層(7)の摩耗等に対する耐性を向上させる目的で設けたものであり、オフセット印刷法等の直接印刷法により設けてもよく、あるいはオーバーコート転写箔を使用した熱転写法のいずれを用いて設けてもよい。
【0068】
また、必要に応じてICモジュールあるいは可逆性感熱記録層等の情報記録手段をカード基材(4)の一部に設けておいてもよい。
【0069】
上記のカード基材(1)、(4)を構成する非晶性ポリエステル樹脂にはカードとして要求される種々の物性を満足させるため、各種フィラーや添加剤を予め添加、混練しておくことができる。
【0070】
添加するフィラーとしては、例えば、無定型フィラーである重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、天然シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化マグネシウム等、また、板状フィラーであるタルク、マイカガラスフレーク等、さらには針状フィラーであるウォラストナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム等を使用することができる。
【0071】
中でも樹脂に入れる白色顔料としては酸化チタンが、またエンボス加工性などをあげるためにはタルクがよく利用される。
【0072】
前記フィラーを添加させることにより、剛度をはじめとして、耐久性、耐熱変形性、成形加工性、耐衝撃強度、寸法安定性等の特性が改良できる。フィラーの添加は単体でも、あるいは数種同時でもよく、目標とする物性値によって必要なフィラーを適宜選択して混練してやればよい。
【0073】
カード中の隠蔽印刷層(2)を印刷するインキとしては、これまでシクロヘキサノン、γ―ブチロラクトン、イソホロン等のケトン系溶剤または、1,3,5−トリメチルベンゼン等の芳香族系溶剤と塩酢ビ樹脂をバインダーとする一液型スクリーンインキが主に用いられてきた。
【0074】
このような塩酢ビ樹脂系スクリーンインキは従来から広く使用されている塩ビ樹脂系カード向けに広く用いられてきているが、本発明ではこのような塩ビ樹脂系インキではなく、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル等のエステル系溶剤と、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、またはそれらの共重合体をバインダーとして用いたインキを用いる。
【0075】
ここで用いられるポリエステル樹脂としてはたとえば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの共重合体であるポリブチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸と1,3−プロパンジオールとの共重合体であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂、2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールとの共重合体であるポリエチレンナフタレート樹脂、2,6−ナフタレンジカルボン酸と1,4−ブタンジオールとの共重合体であるポリブチレンナフタレート樹脂等が挙げられ、なかでもポリエチレンテレフタレート樹脂が好適に利用される。
【0076】
ここで用いられるポリウレタン樹脂としてはたとえば、酸化硬化性ポリウレタン樹脂、湿気硬化性ポリウレタン樹脂、ブロック型ポリウレタン樹脂、ラッカー型ポリウレタン樹
脂、水分散型ポリウレタン樹脂等の1液型ポリウレタン樹脂やポリオール硬化性ポリウレタン樹脂等の2液硬化性ポリウレタン樹脂等が挙げられ、なかでもラッカー型ポリウレタン樹脂が好適に利用される。
【0077】
このインキの固形分は20〜30%が適当である。
【0078】
エステル系溶剤はアルコール系溶剤と比較してカード基材を構成する非晶性ポリエステルに対して親和性が高く、乾燥性が良い。よって印刷後、カード基材との界面での密着が向上し、カード基材にかかる応力の繰り返しに耐える接着性が保持される。
【0079】
そしてこのポリエステル、ポリウレタン系インキによって形成された印刷層はアクリル系インキで構成された印刷層と比較して、柔軟性は高く、応力の繰り返しに対する追従性が大きいので高温でも剥離しない接着性が得られる。
【0080】
本発明に用いられるインキは、他のインキと同様、耐摩耗性、耐ブロッキング性等を付与するための添加剤や消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、等が必要に応じて配合され得る。例えば、スクリーンインキでは最も特徴的な補助剤であり、レオロジー改質剤としての揺変性(チキソトロピー)付与剤である。
【0081】
この揺変性付与剤には塗料に用いられる植物油系、界面活性剤、ワックス膨潤体、体質顔料等が適用される。また被印刷面から版が離れる際に生じる発泡を抑制ないし消泡し、速やかに平滑な印刷表面を与えるための表面調整剤も配合することが好ましい。
【0082】
以上のように、本発明のカードにおいては、非晶性ポリエステル樹脂層のカード基材に隠蔽印刷層(2)を構成する隠蔽インキとしてポリエステル、ポリウレタンまたはこれらの共重合体からなるバインダー樹脂と、エステル系溶剤からなる溶剤を含む蒸発乾燥型インキを使用することで、耐熱性の向上が図れ、高い耐熱保存性を有するカードを提供することが可能となる。
【0083】
本発明のカードの製造方法の一例を示す。
【0084】
厚み188μmの非晶性ポリエステル樹脂(PET−G)の白色カード基材(1)の表面に磁気記録層(3)を埋め込んだ非晶性ポリエステル樹脂(PET−G)の透明カード基材(4)のオーバーシート層をラミネートして、スクリーン印刷法により隠蔽印刷層(2)およびオフセット印刷法によって可視情報と絵柄を刷り重ねて絵柄印刷層(7)を形成する。隠蔽印刷層(2)と絵柄印刷層(7)の印刷前後に必要に応じてコロナ処理、アンカー処理等の密着向上処理をすることも出来る。
【0085】
次にロールコータを用いてアクリル樹脂を主成分とする塗工剤を印刷絵柄層(7)の上から塗工、乾燥してオーバーコート層(8)を形成する。コーティングの方式としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、カーテンフローコータ等の公知の塗工方法も可能であるが、透明保護層表面の平滑性を出すためにはナチュラル−リバース方式のロールコータが好適である。
【0086】
ロールコータによる塗工の場合は塗工厚は塗工剤の粘度とロールクリアランスで調整することが出来るので膜厚制御が簡単であり、さらにリバースロールによって表面平滑性が確保できる。
【0087】
オーバーコート層(8)の塗工剤の乾燥は熱風乾燥でもよく、基材の耐熱性に不安がある場合には紫外線等の放射線による硬化方式が用いられる。
【0088】
紫外線硬化樹脂としては、アクリロイル基、アリル基、ビニル基等のビニル系官能基を一個または数個持つオリゴマーを主成分とするもので、ポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレート、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレート、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルメタクリレート等に、目的に応じて接着付与剤としてリンを含むアクリレートまたはその誘導体、あるいはカルボキシル基を含むアクリレートまたはその誘導体を適量添加したもの等を用いることができる。
【0089】
中でも膜物性が優れていることからウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂が好ましい。
【0090】
乾燥方式によって塗工剤の組成が異なり、アクリル系塗工剤の場合にはコーティング溶剤として一般的に使われているトルエン等の溶剤が用いられることが多い。アクリル系塗工剤の熱風乾燥の場合には、たとえば、乾燥炉の槽内温度40℃から60℃、乾燥時間15分から40分程度でトルエン等の溶剤を揮散させて乾燥してオーバーコート層(8)を形成する。
【0091】
また、必要であれば、絵柄印刷層(7)を施したカード基材にオーバーコート層(8)を形成した後に平滑性を向上させるためにステンレス板などの適当な平板を用いて透明保護層表面をプレスする工程を付加することが出来る。
【0092】
オーバーコート層(8)の形成方法としては、上記の直接塗工のほかに転写方式も用いることが可能である。転写方式においては、通常ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのベースフィルムに直接あるいは離型層を介してオーバーコート層を形成し、さらに接着剤層を設けた転写箔を印刷絵柄層(7)の上から密着させて熱圧を加えることによって、カード表面に透明な保護層であるオーバーコート層(8)を転写して設けることが出来る。
【実施例】
【0093】
以下本発明の実施形態の一例を実施例により説明する。
<実施例1>
【0094】
厚み0.6mmの白色非晶性ポリエステルからなるコアシートの表裏面に磁気テープを転写した厚み0.1mmの透明非晶性ポリエステルからなるオーバーシートを積層処理した後、表面に絵柄となるスクリーン印刷およびオフセット印刷を施しオーバーコート層を積層処理した。その後、カードの形に加工することでカードを作成した。
【0095】
この際、スクリーン印刷に用いたインキは、初めにポリエステル−ポリウレタン共重合樹脂ペレットを酢酸イソブチルを溶剤として固形分が25%になるように溶解させてスクリーンインキのワニスを作成した。
【0096】
この作成したスクリーンインキのワニス100重量部に対して銀顔料としてアルミニウムペーストを8重量部添加混合して隠蔽印刷用銀インキとして用いた。また、コアシートおよびオーバーシートは非晶性ポリエステルを押出し法によりシート化したものを用いた。
<比較例1>
【0097】
スクリーン印刷に用いたインキとして、アクリル/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体ペレットを溶剤となるシクロヘキサノン−トリメチルベンゼン−γ−ブチロラクトンの1:
1:1の混合物に固形分が25%になるように溶解させてスクリーンインキのワニスを作成した他は実施例1と同様にしてカードを作成した。
<比較評価>
【0098】
実施例と比較例のカードの構成は、両方とも主要部分はポリエステルの基材からなっているが、インキバインダーの樹脂系はそれぞれポリエステル−ポリウレタンとアクリル/塩化ビニル−酢酸ビニルから構成されていて、アクリル/塩化ビニル−酢酸ビニルをバインダーとするインキによる印刷層からは焼却時に塩化水素ガスが発生する。このガスをもとにダイオキシンが発生する可能性が高く環境に大きな負荷がかかってしまう。
【0099】
また、比較例のカードに用いたアクリル/塩化ビニル−酢酸ビニルをバインダーとするインキは塩化ビニル−酢酸ビニルのポリエステル樹脂との相溶性が良くなく印刷時のインキと基材の密着性や印刷後の溶剤の乾燥性等に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0100】
特に印刷層と基材の密着性に関しては、剥離強度の指標としてJIS−K5600に規定された付着性(クロスカット法)の剥離強度の分類で見ると、比較例のアクリル/塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂をバインダーとするインキを用いた場合はクロスカット部分の5%未満で剥がれが生じる0〜1のランクに分類される。
【0101】
これに対して実施例で用いたポリエステル−ポリウレタン系のバインダーを用いたインキでは基材との相溶性もよく、上記分類は剥離が生じないことを意味する0に属し、付着性は格段に改善された。
【0102】
さらに、カード廃棄の焼却時にも塩化水素ガスやダイオキシンの発生をなくすことが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のカードは、各種IDカード、クレジットカード等の磁気カード、あるいは接触型/非接触型ICカードに利用できる。
【0104】
とくに、コアシートに直接絵柄を印刷する各種カード、オーバーシートに絵柄を印刷するオーバープリントカードやICチップを内蔵したコアシートと印刷シートを同時に貼り合わせ熱融着させたカード等に適している。
【符号の説明】
【0105】
1…カード基材(コアシート)
2…隠蔽印刷層
3…磁気記録部
4…カード基材(オーバーシート)
7…絵柄印刷層
8…オーバーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カード基材と、カード基材上に形成された印刷層を有するカードであって、該カード基材が非晶性ポリエステル樹脂層を含む単層または複数層からなり、該印刷層がポリエステル、ポリウレタンまたはこれらの共重合体からなるバインダー樹脂と、エステル系溶剤からなる溶剤を含む蒸発乾燥型インキを用いて形成されていることを特徴とするカード。
【請求項2】
前記印刷層上に他の印刷層を有することを特徴とする請求項1に記載のカード。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−208281(P2010−208281A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59594(P2009−59594)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】